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関連審決 無効2001-35520
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 295号 審決取消請求事件
原告 大弘産業株式会社
訴訟代理人弁理士 菅原正倫
同 高野俊彦
被告 有限会社美杉
訴訟代理人弁理士 松原等
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35520号事件について平成15年5月23日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「分割金型の製造方法」(後記訂正により「靴底成形の分割金型の製造方法」と訂正)とする特許第2696125号発明(平成7年6月28日出願,平成9年9月19日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成13年12月2日,本件特許について無効審判を請求し,無効2001-35520号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成14年2月26日,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の訂正等を求める訂正請求をした。特許庁は,平成15年5月23日,「訂正を認める。特許第2696125号の請求項1〜8に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年6月4日,原告に送達された。
2 願書に添付した明細書(上記訂正後のもの,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された発明の要旨(以下の各項の発明を「本件発明1」〜「本件発明8」という。) 【請求項1】靴底成形のために形成されるべき金型空間に対応する形状を有するモデル本体と,そのモデル本体の表面から突出して形成され,該表面を少なくとも2以上の部分に分割する分割突出部とを備えた,ウレタンゴム又はシリコンゴムから成形される型モデルを作製する型モデル作製工程と, 前記モデル本体及び前記分割突出部の全体を一体の金属層で被覆する被覆工程と, 前記分割突出部を,前記金属層とともにその突出方向と交差する向きに切断することにより,前記モデル本体の表面を覆う金属層を2以上の部分に分割して,その金属層の内側空間を型空間とした分割金型を得る分割工程と, を含むことを特徴とする靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項2】前記型モデル作製工程は, 前記モデル本体に対応する形状のモデル予備体の表面を,第一の注型材料により予め2以上の部分に分割して型取りすることにより,型合わせ状態において前記モデル予備体に対応する形状のキャビティ部が形成される分割予備成形型を得る予備成形型作製工程と, その分割予備成形型を,その合わせ面において前記キャビティ部に連通する隙間を,該合わせ面にスペーサを配置することにより形成した状態で型合わせする型合わせ工程と, その型合わせされた分割予備成形型の前記キャビティ部と,前記合わせ面に形成された隙間とに対し,第二の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムを注型することにより,前記キャビティ部に注型された部分が前記モデル本体とされ,前記隙間に注型された部分が前記分割突出部とされた前記型モデルを得る型モデル注型工程と, を含む請求項1記載の靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項3】前記型合わせ工程において前記隙間は,前記合わせ面にスペーサを配置することにより形成されるとともに,そのスペーサは柔軟部材により形成され,前記分割予備成形型の各部の間で圧縮されることにより,それら各部同士を前記隙間においてシールするものとされている請求項2に記載の靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項4】前記スペーサは柔軟弾性材料により形成され,前記分割予備成形型の各部の間で圧縮されることにより,それら各部同士を前記隙間においてシールするものとされ,さらにそのスペーサより剛性の高い材質により構成される補助スペーサにより,該柔軟材料から形成される前記スペーサの変形量を規定し,前記合わせ面の間に所定の高さが作られる請求項3記載の靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項5】靴底形成のために形成されるべき金型空間に対応する形状を有するモデル本体と,そのモデル本体の表面から突出して形成され,該表面を少なくとも2以上の部分に分割する分割突出部とを備えた型モデルを作製する型モデル作製工程と, 前記モデル本体及び前記分割突出部の全面を一体の金属層で被覆する被覆工程と, 前記分割突出部を,前記金属層とともにその突出方向と交差する向きに切断することにより,前記モデル本体の表面を覆う金属層を2以上の部分に分割して,その金属層の内側空間を型空間とした分割金型を得る分割工程と, を含み, 前記型モデル作製工程は, 前記モデル本体に対応する形状のモデル予備体の表面を,第一の注型材料により予め2以上の部分に分割して型取りすることにより,型合わせ状態において前記モデル予備体に対応する形状のキャビティ部が形成される分割予備成形型を得る予備形成型作製工程と, その分割予備成形型の合わせ面に対応する形状の板部材を予め作製しておき,その合わせ面にその板部材を,内縁側が前記キャビティ部内に突出した状態で挟み込んで,前記分割予備成形型を型合わせする型合わせ工程と, その型合わせされた分割予備成形型の前記キャビティ部に対し,第二の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムを注型して固化させることにより,前記キャビティ部に注型された前記第二の注型材料部分が前記モデル本体とされ,これと一体化された前記板部材が前記分割突出部とされた前記型モデルを得る型モデル注型工程と, を含むことを特徴とする靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項6】前記第一の注型材料はシリコンゴムであり,前記第二の注型材料はウレタンゴムである請求項2ないし5のいずれかに記載の靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項7】靴底を成形するために形成されるべき金型空間に対応する形状を有するモデル本体と,そのモデル本体の表面から突出して形成され,該表面を少なくとも2以上の部分に分割する分割突出部とを備えた型モデルを作製する型モデル作製工程と, 前記モデル本体及び前記分割突出部の全面を一体の金属層で被覆する被覆工程と, 前記分割突出部を,前記金属層とともにその突出方向と交差する向きに切断することにより,前記モデル本体の表面を覆う金属層を2以上の部分に分割して,その金属層の内側空間を型空間とした分割金型を得る分割工程と, を含み, 前記型モデル作製工程において,前記型モデル本体に相当する部分と,前記分割突出部に相当する部分とが予め別体に形成され,前記モデル本体に相当する部分に該分割突出部に相当する部分を接着してこれらを一体化することにより,前記型モデルが作製されることを特徴とする靴底成形の分割金型の製造方法
【請求項8】前記被覆工程は, 前記型モデルの全面に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と, その導電性被膜が形成された型モデルを陰極側とし,該型モデルの両側に配置されたNi電極部を陽極側として該型モデルの全面にNiメッキを施すことにより,前記金属層をNiメッキ層として得るNiメッキ工程と, を含む請求項1ないし7のいずれかに記載の靴底成形の分割金型の製造方法
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1ないし8についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本件発明1〜8の容易想到性の判断を誤った(取消事由1〜8)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明1と米国特許第3723585号明細書(審判甲1・本訴甲11,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例1発明」という。)とを対比し,両者は,「(イ)分割金型の用途について,本件請求項1に係る発明(注,本件発明1)は,靴底成形に限定しているのに対し,甲第1号証の発明(注,引用例1発明)は,分割金型の用途をプラスチック製品成形としているものの,靴底成形については明記していない点(相違点1),(ロ)型モデルに用いる材料について,本件請求項1に係る発明は,ウレタンゴム又はシリコンゴムに限定しているのに対して,甲第1号証の発明は,型モデルに当たる模型22について『模型22は,木,石こう,または金属のような,どのような適当な材料によっても形成されることができる』(摘示記載a-1参照)としているものの,ウレタンゴム又はシリコンゴムについては明記していない点(相違点2)で相違している」(審決謄本15頁下から第3段落)とした上,相違点1につき,「甲第1号証(注,引用例1)のプラスチック製品成型の分割金型について,その用途を,甲第10号証(注,米国特許第3846533号明細書,本訴甲20,以下「引用例10」という。)により周知の靴底成形用の分割金型とすることは,当業者が困難なく容易になし得たことと認められる」(同16頁第2段落)と,相違点2につき,「甲第1号証の発明(注,引用例1発明)を周知の靴底成形の分割金型の製造に適用する際に,・・・型割り枠(プレート)付き模型22の材料として,甲第10号証(注,引用例10)により示唆されている弾性材であるゴム材料に基づいて,モデル体形成のゴム材料として周知のウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることは,当業者が容易になし得たことにすぎない」(同頁第4段落)として,本件発明1は,引用例1,10及び周知事項に基づいて容易に想到し得たと判断した。
しかしながら,審決は,(2)に述べるとおり,本件発明1とは技術分野及び技術内容が全く異なる,ボートの成形に係る引用例1と,単に靴底の成形型の製造技術という点で共通性があるにすぎない引用例10とを組み合わせることによって本件発明1が容易に想到し得たとする誤った判断をしたものである。
(2) 引用例1発明は,ボートの成形にかかわるものであり,本件発明1とは技術分野及び技術内容が全く異なる。引用例1発明は,靴底成形のような小型製品を全く想定していない上,本件発明1の型モデルに相当する型割り枠(プレート)付き模型22に使用することのできる材料も,引用例1(甲11)の「模型22は,木,石こう,または金属のような,どのような適当な材料によっても形成される」(2欄最終段落,訳文2頁最終段落。以下,原文の「plaster」の訳語は「石こう」に統一する。)との記載に示されるように,「木,石こう,または金属」のような硬い材料に限られる。
他方,引用例10(甲20)に記載されたものは,分割金型の製造にかかわるものではなく,靴底の片側(下側)を板18を使って作製するといういう技術(Fig.2参照)にすぎず,本件発明1のように全体を包み込んだ金属層の分割突出部を切断して分割型を作るという思想は,引用例10には存在しない。
このように,引用例1は,大型製品のための,硬い材料で形成された模型を作る技術を開示するのみであり,他方,引用例10は,靴底の片側の電鋳型を作製することを示すのみであって,両者とも,本件発明1のような型モデルの全体を金属で被覆し,分割突出部を切断して分割型を製造する技術とは全く異なるから,引用例1発明と引用例10に記載された事項を有機的に結合することは不可能である。仮に,両者を組み合わせても,靴底成形のための,分割突出部を備えたウレタンゴム又はシリコンゴムから形成される型モデルの全体を金属層で被覆し,その分割突出部を切断して靴底成形の分割金型を得るという本件発明1の技術思想には到達し得ない。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明2は,本件発明1における「型モデル作製工程」について限定したものであり,「この『型モデル作製工程』により作製される,モデル本体と分割突出部を有する型モデルは,型技術からみれば,鋳造におけるマッチプレートに相当するものである」(審決謄本17頁第2段落)とした上,「マッチプレートの一種である甲第1号証(注,引用例1)の型割り枠付き模型22の作製において,甲第2号証(注,昭和53年6月15日丸善(改訂3版第2刷)発行「鋳物便覧」1548〜1554頁,本訴甲12,以下「引用例2」という。)のマッチプレートの作製方法を参酌することは,当業者が容易になし得たこと」(同)であり,その際,モデル体用の注型材料として周知の材料であるウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることも,当業者が容易にし得たことである(同18頁第2段落〜第3段落)として,本件発明2は,引用例1,2,10及び周知事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと判断した(同頁第4段落)。
(2) しかしながら,審決の上記判断は,@マッチプレートは鋳造技術に属し,本件発明1の靴底成形とは異なる分野であって,当業者の共通性はなく,転用容易性は認められないこと,Aそもそも金属のマッチプレートを金属層で被覆して後で分割するという発想はあり得ないこと,Bしたがって,マッチプレートの分割のために分割突出部を形成してそこを分断するという発想も当然あり得ないこと,Cマッチプレートの板状部分(見切り板部)は上下の型部分を保持する支持本体そのものであり,この見切り板部が本体から突出させた分割突出部に相当するとは到底いえないこと,Dマッチプレートを鋳造する枠は,引用例2の図23・39に「製作するマッチプレートの寸法を決定する鋼製の金わく」との説明が付されているとおり,本件発明1のスペーサとは到底いえないことを誤認・看過し,本件発明2における「型モデル」がマッチプレートに相当するとの誤った認識に基づいて,本件発明2が容易想到であるとする判断をしたものであるから,誤りである。
3 取消事由3(本件発明3の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明3は,本件発明2の型合わせ工程において,「前記隙間は,前記合わせ面にスペーサを配置することにより形成されるとともに,そのスペーサは柔軟部材により形成され,前記分割予備成形型の各部の間で圧縮されることにより,それら各部同士を前記隙間においてシールするものとされている」ことを限定したものであるとした上,「注型材料としてのアルミニウム(Al)合金に代え,モデル体用の注型材料として周知の材料であるウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることが可能であるから,これに伴い,スペーサの材料も,『鋼製』から周知の柔軟な材料(成形型において,柔軟な材料により形成されたスペーサは甲第6号証〔注,特開昭63-283910号公報,本訴甲16,以下「引用例6」という。〕,甲第7号証〔注,特開平2-198808号公報,本訴甲17,以下「引用例7」という。〕等により周知であると認められる。)に変更し,『鋼製の金わく』を『柔軟部材』に変更することも当業者が容易になし得た程度の材料選定である」とした(以上,審決謄本19頁第1,2段落)。
(2) しかし,審決が,モデル体用の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることを「容易になし得た程度の材料選定である」とした点は誤りである。
まず,引用例2に記載された「鋼製の金わく」は,本件発明3のスペーサに相当するものではないから,「鋼製の金わく」を「柔軟部材」に変更するという点についての審決がした上記判断は,その前提において誤っている。また,引用例2において,キャビティに高温の溶融金属を鋳込むとき,「鋼製の金わく」をウレタンゴムやシリコンゴムに置き換えれば,柔軟材料は簡単に溶融してしまうから,マッチプレートの鋳込みができず,Al合金の溶湯の注入もできないから,マッチプレートの寸法決定が困難となることは明らかである。
なお,審決は,成形型において,柔軟な材料により形成されたスペーサは引用例6,7等により周知であるとするが,引用例6は浴槽の成形を,引用例7は情報記憶媒体用の基板の成形を,それぞれ示すにすぎないから,引用例2のマッチプレートの技術に引用例6,7の発明を組み合わせることはできない。したがって,本件発明3を容易想到とした審決の判断は,誤りである。
4 取消事由4(本件発明4の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明4は,本件発明3の型合わせにおける隙間を形成するスペーサについて,「そのスペーサは柔軟部材により形成され,前記分割予備成形型の各部の間で圧縮されることにより,それら各部同士を前記隙間においてシールするものとされ,さらに,そのスペーサより剛性の高い材質により構成される補助スペーサにより,該柔軟材料から形成される前記スペーサの変形量を規定し,前記合わせ面の間に所定の高さが作られる」ことを限定したものであるとした上,スペーサの材料に「柔軟部材」を選定することは,当業者が容易になし得た程度の材料選定である以上,型技術において,スペーサに過度の圧力が加わらないように規制用の制御部材を併用することは,引用例6,7等により周知のことにすぎないから,柔軟部材のスペーサに加えて,柔軟材料より剛性の高い材質により形成されたスペーサを併用することは,当業者が容易に推考し得たことであり,本件発明4は,引用例1,2及び10並びに周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた旨判断した(審決謄本19頁「(4)本件請求項4に係る発明について」の項)。
(2) しかしながら,上記3で述べたとおり,引用例6,7は,浴槽や情報記憶媒体用基板の成形にすぎず,切断を予定する分割突出部を,柔軟なスペーサとこれより剛性の高いスペーサを用いて成形することは,引用例1,2,10はもとより,引用例6,7にも示唆されていない。そして,上記2のとおり,引用例2におけるマッチプレートと,引用例1及び10を組み合わせることが困難である以上,本件発明4は,引用例1,2,10及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
5 取消事由5(本件発明5の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明5は,実質的には,本件発明1において型モデル作製工程を限定したものであり,「分割突出物となる予め作製された板部材をキャビティ部内に突出した状態で挟み込み,キャビティ内にウレタンゴム又はシリコンゴムを注型して型モデル本体と板部材を一体化して成形した型モデル作製工程に特徴があるものである」(審決謄本20頁第1段落)とした上,引用例1の型割り枠付き模型は,「型技術からみれば,マッチプレートの一種に相当する・・・から,その作製にあたり,甲第3号証(注,実公昭39-10316号公報,本訴甲13,以下「引用例3」という。)及び甲第4号証(注,特公昭48-32052号公報,本訴甲14,以下「引用例4」という。)に記載されているような,型モデルの作製法(・・・)によること,また,モデル体用の注型材料として,周知の材料であると認められる,ウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることは,当業者が容易になし得たことにすぎない」(同頁下から第2段落)として,本件発明5は,引用例1,3,4,10及び周知事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると判断した。
(2) しかしながら,砂型の上型,下型を見切るマッチプレートと,分割突出部を有してこれを一体に金属被覆し,さらに,ここを切断することにより分割成形型を得る型技術とは異質のものであるから,引用例1の型割り枠付き模型が「マッチプレートの一種に相当する」との前提に立ってされた審決の上記判断は,誤りである。また,審決は,引用例3,4に型モデルの作製方法が記載されているとするが,引用例3,4は単にマッチプレートの製法を示すのみであり,マッチプレートの板部が,本件発明5の金属被覆が予定される分割突出部に相当すると考えること自体が誤りである。
6 取消事由6(本件発明6の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明6は,型モデル作製工程のおける第一の注型材料及び第二の注型材料を,それぞれシリコンゴム,ウレタンゴムと限定したものであるとした上,昭和46年7月15日工業調査会発行「プラスチック技術全書 17 シリコーン樹脂」120〜129頁(審判甲8・本訴甲18,以下「引用例8」という。)を引用して,第1の注型材料としてシリコンゴム,第2の注型材料としてウレタンゴムを採用することは当業者であれば容易であるとし,本件発明6は,引用例1〜4,8〜10に記載された発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たと判断した(審決謄本21頁「(6)本件請求項6に係る発明について」の項)。
(2) しかし,本件発明6は,審決がいうような一般的な技術ではなく,本件発明2〜5を更に限定したものであり,上記2〜5で述べたとおり,本件発明2〜5が当業者の容易に想到し得るものではない以上,本件発明6も,当業者が容易に想到し得るものではなく,本件発明6を容易想到とした審決の判断は誤りである。
7 取消事由7(本件発明7の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明7は,実質的には,本件発明1において,型モデル作製工程を限定したものであり,「型モデル本体に相当する部分と分割突出部とに相当する部分とが予め別体に形成され,両者を接着してこれらを一体化する型モデル作製工程に特徴がある」(審決謄本21頁第5段落)とした上,「甲第1号証(注,引用例1)には,型割り枠付き模型の作製に関して,『所望の成形品と同一形状のマスターを作製し,該マスターを型割り線に沿って切断し,切断された2つの部品を型割り枠の働きをするパネルの対峙面に接着して模型22を作製してもよい』・・・とされているから,予め形成されたマスター(模型)の本体部分と,予め形成された型割り枠の働きをするパネルとを接着して一体化することは,当業者が困難なく容易になし得たこと」(同頁下から第3段落)であって,本件発明7は,引用例1,10に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると判断した。
(2) しかしながら,本件発明7における,分割予備成形型の合わせ面に板部材を,内縁側がキャビティ部内に突出した状態で挟み込み,この板部材をウレタンゴム又はシリコンゴムと一体化して,この部分を分割突出部とした型モデルとする構成は,パネルの対峙面に二つの部品を接着するものではなく,あくまでも板部材とウレタンゴム又はシリコンゴムとをゴムの注型により一体化させるものであり,引用例1にはそうした記載も示唆もない。したがって,本件発明7が引用例1,10に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たとする審決の判断は誤りである。
8 取消事由8(本件発明8の容易想到性の判断の誤り) 審決は,本件発明8は,引用例1,10及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると判断した(審決謄本21頁〜22頁「(8)本件請求項8に係る説明について」の項)。しかしながら,本件発明8は,電鋳の手法として一般的なNiメッキの工法を規定したものではなく,本件発明1ないし7のいずれかの構成を前提として,更に限定を加えたものであり,上記1〜7で述べたとおり,本件発明1〜7が当業者の容易に想到し得るものでない以上,本件発明8も,当業者が容易に想到し得るものではなく,本件発明8を容易想到とした審決の判断は誤りである。
被告の反論
審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明1と引用例1発明とは,ともに金型製造の技術分野に係るものである上,審決における両発明の一致点の認定(審決謄本15頁第3段落)のとおり,技術内容が基本的に共通している。また,引用例1発明は,小型製品の成形技術を大型製品の成形に適するように改良した技術であるから,小型製品の成形に適用し得ることを当然の前提としている。さらに,引用例1発明において,模型材料が「硬い材料」に限定されると解すべき理由はない。一方,引用例10に記載されたものは,審決の認定(審決謄本13頁「j 甲第10号証」の項)のとおりの内容であって,靴底の成形型の製造技術であるという点に加えて,プレート付き模型を用いること及びその模型に電鋳して分割金型の一方を形成することについても,本件発明1と共通性を有するから,引用例1発明と引用例10発明とを組み合わせることには,十分な動機付けがあり,かつ,組み合わせることに何ら障害はない。
そうすると,引用例1発明と引用例10発明とを組み合わせれば,引用例1発明の分割金型の用途を靴底成形用とすることは,当業者が容易に想到し得たことであり,また,引用例10の「プロトタイプ10は柔軟で弾性のあるプラスチック材で作られることが多く」(訳文1頁第1段落)との記載に基づいて,引用例1発明の型モデル(模型)の材料として,柔軟で弾性のあるプラスチック材料として周知のウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることも,当業者が容易に想到し得たことというべきである。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について 原告が審決の判断の誤りとして主張する点は,いずれも失当である。引用例1発明の型割り枠つき模型22は,型技術から見れば,マッチプレートに相当するものであるから,その作製について,引用例2のマッチプレートの作製方法を参照することは,当業者が容易にし得たことである。そして,引用例1発明において,引用例2のマッチプレートの作製方法を採用した上,引用例1の型割り枠(プレート)付き模型の形成材料として,モデル体用の注型材料として周知のウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることも,当業者が容易にし得たことであるというべきである。
3 取消事由3(本件発明3の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,「鋼製の金わく」を「柔軟材料」に変更すると,高温のアルミニウム(Al)合金が鋳込まれたときに柔軟部材は溶融してしまうから,「鋼製の金わく」を柔軟材料に変更することが当業者が容易になし得た材料変更であるとした審決の判断は誤りであると主張するが,審決は,引用例2において注型材料をアルミニウム(Al)合金のままで,スペーサ材料のみを鋼製から柔軟材料に変更することの容易性を述べているわけではなく,注型材料としてアルミニウム(Al)合金に代えて周知のウレタンゴムを用いることに伴い,スペーサ材料も鋼製からスペーサ材料として周知の柔軟材料に変更することの容易性を判断しているものであるから,原告の主張は,審決を正解しないものであって,失当である。また,引用例6,7は,いずれも成形に関する型技術を開示するものであって,そこに開示された周知事項をマッチプレートを作製する際のスペーサに用いることは,当業者が容易にし得ることである。
4 取消事由4(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について 引用例6,7には,型の周縁間に柔軟なスペーサとこれより剛性の高いスペーサを配置することが記載されているから,これら周知事項を引用例1において切断を予定する分割突出部を有するマッチプレートの作製時に用いることは,当業者が容易に想到し得ることである。
5 取消事由5(本件発明5の容易想到性の判断の誤り)について 引用例1の型割り枠付き模型22が,型技術からみればマッチプレートに相当することは,明らかであり,引用例1ではその型割り枠を一体に金属被覆し,切断して分割成形型を得ている。このような型割り枠付き模型22の作製に当たり,引用例3,4のマッチプレートの作製方法を参照することは容易である。また,マッチプレートの板部は,本件発明5の金属被覆が予定される分割突出物に相当するとした点についても,審決に誤りはない。
6 取消事由6(本件発明6の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2〜5は,上記2〜5のとおり,いずれも当業者が容易に想到し得たものであるから,原告の主張は,前提を欠くものであって,理由がない。
7 取消事由7(本件発明7の容易想到性の判断の誤り)について 原告の主張する,分割予備成形型の合わせ面に板部材を,内縁側がキャビティ部内に突出した状態で挟み込み,この板部材をウレタンゴム又はシリコンゴムと一体化して,この部分を分割突出部とした型モデルとする構成は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項7に記載されていないから,原告の主張は失当である。
8 取消事由8(本件発明8の容易想到性の判断の誤り)について 上記のとおり,本件発明1〜7はいずれも当業者が容易に想到し得たものであるから,原告の主張は,前提を欠くものであって,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 引用例1発明が,審決において本件発明1との一致点として認定(審決謄本15頁第3段落)されたとおりの分割金型の製造方法に係るものであることについては,当事者間に争いがなく,引用例1(甲11)に具体的に開示されたものがボートの成形に用いる金型であっても,「METHOD OF ELECTROFORMED MOLDS」(電鋳金型成形方法)という発明の名称に示されるとおり,引用例1発明の技術分野が金型の製造方法に係るものであることは明らかというべきである。そして,引用例1の【一般的なバックグラウンド】の項の「・・・石膏や電鋳金型などの比較的薄くこわれやすい型は,常温でポリウレタンフォームを成形するのには適しているが,高圧射出成形に際しては,高圧高温に耐えうるより強固な型が必要であった。このような金型を作製するにはコストが高くつき,特に数オンス以上の重さの成形品を製造するのは難しかった。従来の高圧射出成形は2キログラム以上の重さがある大きな製品の製造には適さなかった」(訳文1頁)との記載によれば,引用例1発明は,元々小型製品に用いられていた電鋳金型を改良して,大型製品にも適用できるようにすることを課題としているものであるから,その技術を小型製品にも適用し得ることは,引用例1発明における当然の前提であるということができる。
そうすると,引用例1発明に係る分割金型について,その用途を,例えば引用例10のように,プラスチック製品成形の分割金型の用途として周知の靴底成形用とすることは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。 そこで,引用例1発明を,靴底成形の分割金型の製造に適用することを考えた場合,引用例1には,本件発明1の型モデルに相当する模型22について,「模型22は,木,石こう,または金属のような,どのような適当な材料によっても形成される」(訳文2頁最終段落)と記載されているから,「適当な材料」であれば,どのような材料でも,型モデルの作製に使用し得ることが示唆されているということができる。一方,引用例10(甲20)には,電鋳する靴底のプロトタイプ10(本件発明の型モデルにおけるモデル本体に相当)について,「プロトタイプ10は柔軟で弾性のあるプラスチック材で作られることが多く」(訳文1頁第1段落)と記載され,型モデルの材料として「柔軟で弾性のあるプラスチック材」が示唆されているから,「柔軟で弾性のあるプラスチック材」であり,モデル体形成用の材料としても周知(例えば,引用例8の,ウレタンゴム又はシリコンゴムを,引用例1発明における型モデルの材料として用いることは,当業者が容易に想到し得たことというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2) これに対し,原告は,本件発明1とは技術分野及び技術内容が全く異なるボートの成形に係る引用例1と,単に靴底の成形型の製造技術という点で共通性があるにすぎない引用例10とを組み合わせることによって,本件発明1が容易に想到し得たとする審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,引用例1発明が金型の技術分野に属することは,上記(1)のとおりであり,本件発明1も,金型で成形される製品を「靴底」に限定してはいるが,靴底成形の分割金型の製造方法という金型の製造方法であることに変わりはない。また,引用例10(甲20)も,審決が指摘するとおり,「靴底のプロトタイプ10を柔軟で弾性のあるプラスチック材で作り,これに面プレート18を固定してフランジ24をプロトタイプ10の表面から突出させ,プロトタイプ10の下面とフランジ24の下面とに電鋳して分割金型の一方である殻30を形成する方法」(審決謄本15頁最終段落〜16頁第1段落)という,金型の製造技術に関するものである。そうすると,本件発明1と,引用例1及び引用例10は,いずれも「金型の製造」という点で,技術分野が共通するものであり,しかも,引用例10は,靴底成形用の金型に係り,プレート付き模型(面プレートを固定してフランジを形成したプロトタイプ)を用いて,これに電鋳により分割金型の一方を形成することにおいても共通性を有するものであるから,引用例1と引用例10を組み合わせることには十分な動機付けがあるというべきであり,これを阻害する事由があるとは認められない。
また,原告は,引用例1(甲11)の「模型22は,木,石こう,または金属のような,どのような適当な材料によっても形成される」との記載において,例示された「木,石こう,金属」は,いずれも硬いものばかりであるから,「適当な材料」とは,「硬い」材料に限定されると主張する。しかし,引用例1の上記記載は,ボート等の大きな型を念頭に置いて「木,石こう,金属」を例示したものであると解することが相当であり,小型の型についてまで,材料を「硬い」ものに限定する趣旨であるとは解することができない。そうであれば,引用例1において,型モデル(模型)の材料として,周知のウレタンゴム又はシリコンゴムを用いるとの点に想到することを阻害する事情はないというべきである。
(3) 以上のとおり,本件発明1は引用例1,10及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,本件発明1における「型モデル作製工程」を限定した本件発明2の構成(審決謄本17頁第1段落の「前記モデル本体・・・型モデル注型工程」との摘示部分参照)について,引用例2のマッチプレートの作製方法を参酌し,かつ,「第二の注型材料」としてウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることは,当業者が容易に想到し得たことである旨判断したのに対し,@マッチプレートは鋳造技術に属し,本件発明1の靴底成形とは異なる分野であって,当業者の共通性はなく,転用容易性は認められないこと,A金属のマッチプレートを金属層で被覆して後で分割するという発想はあり得ないこと,Bしたがって,マッチプレートの分割のために分割突出部を形成してそこを分断するという発想も当然あり得ないこと,Cマッチプレートの板状部分(見切り板部)は上下の型部分を保持する支持本体そのものであり,この見切り板部が本体から突出させた分割突出部に相当するとは到底いえないこと,Dマッチプレートを鋳造する枠は,「製作するマッチプレートの寸法を決定する鋼製の金わく」であることなどを挙げて,審決の上記判断は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,マッチプレートとは,引用例4(甲14)に,「マッチプレートは例えばアルミニュームのような軽量でかつ頑丈な平板の両側の合致する位置に,見切り面で切断した模型を平板の厚みだけの間隔を以てはりつけた形状をなし,かつ鋳わくとの相対位置を定める手段を設けてなるものである」(1欄下から第2段落)と記載されているとおり,プレート(平板)付きの模型であるから,引用例1発明の型割り枠付き模型22は,マッチプレートの一種であるということができ,その作製において,引用例2に記載されたマッチプレートの作製方法を参酌することは,当業者が容易にし得たことと認められる。そして,引用例2に「第二の注型材料」として記載されたものはアルミニウム(Al)合金であるが,モデル体用の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムが周知であることは,上記1(1)のとおりであるから,引用例1発明において,型割り枠付き模型22の作製に引用例2に記載されたマッチプレートの作製方法を参酌し,さらに,モデル体用の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムを採用して,本件発明2の構成に至ることは,当業者が容易にし得たことであるというべきである。
なお,原告が上記(1)で@〜Dとして主張する点について補足すると,まず,@の点については,本件発明2が「靴底成形の」という限定を伴っていても,依然として「分割金型の製造方法」に係る発明であることは前示のとおりであるから,この点に関する原告の主張は,採用できない。A及びBの点については,引用例1に,型割り枠付き模型22を金属層で被覆した後,分割突出部を切断して,分割金型を得ることが記載されているから,これらの点が引用例2に記載されていないことは,上記容易想到性の判断を何ら左右するものではない。Cの点については,マッチプレートの見切り板部も,模型本体の表面から突出し,該表面を少なくとも2以上の部分に分割するものであり,一方,本件発明2におけるモデル本体から突出させた分割突出部もその両面側に形成される二つの分割金型の見切りとして機能するものであるから,マッチプレートの見切り板と本件発明2の分割突出部とは実質的に同等のものというべきである。Dの点については,引用例2(甲12)に,図23・39として,上型と下型を合わせ面においてキャビティに連通する隙間を形成した状態で型合わせをすることが示されており,その隙間は,「製作するマッチプレートの寸法を決定する鋼製の金わく」を合わせ面に配置することにより形成しているから,「鋼製の金わく」が上型と下型との間の間隔を定める「スペーサ」として機能していることは自明のことというべきである。したがって,原告の@〜Dの主張は,いずれも失当であって,上記の判断を左右するものではない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明3の容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は,引用例2のマッチプレートの作製方法には,シール機能を備えた「鋼製の金わく」のスペーサしか示されていないが,注型材料としてのアルミニウム(Al)合金に代え,モデル体用の注型材料として周知の材料であるウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることが可能であるから,これに伴い,スペーサの材料も,「鋼製」から周知の柔軟な材料に変更し,「鋼製の金わく」を「柔軟部材」に変更することも当業者が「容易になし得た程度の材料選定」であると判断しているところ,モデル体用の注型材料としてウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることを当業者が容易に想到することは前示のとおりであり,その際に,注型材料に合わせてスペーサの材料を「柔軟部材」とすることも,当業者が容易にし得る程度の材料変更であるというべきであって,審決の上記判断に誤りは認められない。
(2) これに対し,原告は,引用例2に記載された「鋼製の金わく」は,本件発明3のスペーサに相当するものではないと主張するが,この主張を採用できないことは,上記2(2)のとおりである。
また,原告は,「鋼製の金わく」を「柔軟部材」に変更すると,高温のアルミニウム(Al)合金が鋳込まれたときに柔軟な材料は溶融してしまうから,審決が「容易になし得た程度の材料選定」と判断した点は誤りであると主張するが,審決は,「スペーサ」だけを柔軟な材料に変更するとしているのではなく,モデル用の注型材料をアルミニウム(Al)合金からモデル用の注型材料として周知のウレタンゴム又はシリコンゴムに変更するとともに,「鋼製の金わく」の材料を,スペーサ材料として周知の柔軟な材料に変更し,「構成の金わく」を「柔軟部材」に変更することの容易性を判断しているのであるから,原告の主張は,審決を正解しないものであって,失当というほかない。
さらに,原告は,引用例6は浴槽の成形を,引用例7は情報記憶媒体用基板の成形をそれぞれ示すにすぎないから,引用例2のマッチプレートの技術に引用例6,7の発明を組み合わせることはできないと主張する。しかし,引用例6は,浴槽の形成に関して,型技術として,下型1と上型3との端部周縁にわたってゴムパッキンのような弾性材8を配置する技術を開示しており,また,引用例7は,情報記憶媒体用基板の成形に関して,型技術として,基板1と鏡面型2との間の内周部に変形可能で密着性に優れた材料からなるスペーサ3を配置する技術を開示しているのであり,当業者である型技術者にとって,これらに示された周知の「柔軟な材料により形成されたスペーサ」を引用例2のマッチプレートを作製する際のスペーサに用いることは容易に想到し得ることというべきである。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 取消事由4(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は,切断を予定する分割突出部を,柔軟部材のスペーサとこれより剛性の高い材料により構成される補助スペーサを用いて成形することは,いずれの引用例にも記載や示唆がないから,当業者が容易に想到し得たことではないと主張する。
(2) しかしながら,スペーサに柔軟部材を使用することが当業者が容易にし得た程度の材料選定であることは,上記3判示のとおりである上,型技術においてスペーサに過度の圧力が加わらないように規制用の制御部材を併用することは,周知技術(例えば,引用例6,7には,周縁間に柔軟なスペーサとこれより剛性の高いスペーサとを配置することが示されている。)と認められるから,柔軟部材のスペーサに加えて,柔軟材料部材より剛性の高い材料により形成されたスペーサを併用することは,当業者が容易に想到し得たことというべきであって,この点に関する審決の判断に誤りはない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は理由がない。
5 取消事由5(本件発明5の容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は,審決の「型割り枠付き模型は,型技術からみれば,マッチプレートの一種に相当するものであると認められるから,その作製にあたり,甲第3号証(注,引用例3)及び甲第4号証(注,引用例4)に記載されているような,型モデルの作製法(上型及び下型である,上下石膏体型又は中間型と共に,既成のプレートを用いて,成形空間を形成し,そこに造形用樹脂を注型して,既成のプレートと鋳造用模型とが一体となったマッチプレートとすること)によること,また,モデル体用の注型材料として,周知の材料であると認められる,ウレタンゴム又はシリコンゴムを用いることは,当業者が容易になし得たことにすぎないと認められる。(なお,既成のプレート6の内縁側がキャビティ内に突出するようにするかどうかは設計的事項にすぎないと認められる。)」(審決謄本20頁下から第2段落)との判断に対し,この判断は,引用例1の型割り枠付き模型が「マッチプレートの一種に相当する」とする誤った前提に立ったものである上,マッチプレートの板部は本件発明5の「分割突出部」に相当するものではないから,誤りであると主張する。
(2) しかしながら,引用例1の型割り枠付き模型が「マッチプレート」の一種であること,また,マッチプレートの板部が「分割突出部」に相当することは,上記2(2)判示のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由5の主張は理由がない。
6 取消事由6(本件発明6の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明6は,本件発明2〜5を更に限定したものであり,本件発明2〜5が当業者の容易に想到し得るものではない以上,本件発明6も当業者の容易に想到し得るものではなく,本件発明6を容易想到とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本件発明2〜5の容易想到性が肯定されることは上記2〜5の判示のとおりであるから,本件発明6についても,これを容易想到とした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由6の主張は理由がない。
7 取消事由7(本件発明7の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明7における,分割予備成形型の合わせ面に板部材を,内縁側が前記キャビティ部内に突出した状態で挟み込み,この板部材をウレタンゴム又はシリコンゴムと一体化して,この部分を分割突出部とした型モデルとする構成は,パネルの対峙面に二つの部品を接着するものではなく,板部材とウレタンゴム又はシリコンゴムとをゴムの注型により一体化させるものであり,引用例1にはそうした記載も示唆もない,と主張する。
しかしながら,原告が主張するような構成は,本件発明7に係る特許請求の範囲の請求項7には記載されていないから,原告の主張は,失当というほかない。
そして,引用例1(甲11)には,本件発明7における「モデル本体」及び「分割突出部」に相当する「型割り枠付き模型」の作製に関して,「所望の成形品と同一形状のマスターを作成し,該マスターを型割り線に沿って切断し,切断された2つの部品を型割り枠の働きをするパネルの対峙面に接着して模型22を作成してもよい」(2欄下から第2段落,審決謄本9頁「a-1」の項)と記載されているから,あらかじめ形成されたマスター(模型)の本体部分と,あらかじめ形成され型割り枠の働きをするパネルとを,接着して一体化することは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。
8 取消事由8(本件発明8の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件発明8は,本件発明1〜7のいずれかの構成を前提として,更に限定を加えたものであり,本件発明1〜7が当業者の容易に想到し得るものでない以上,本件発明8も当業者の容易に想到し得るものではなく,本件発明8を容易想到とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本件発明1〜7の容易想到性が肯定されることは上記1〜7の判示のとおりであるから,本件発明8についても,これを容易想到とした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由8の主張は理由がない。
9 以上のとおり,原告主張の取消事由1〜8はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 岡本岳