関連審決 | 無効2004-80073 |
---|
関連ワード | 発明者 / 自然法則 / 方法の発明 / 製造方法 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 技術的手段 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 特許出願日 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 侵害 / 設定登録 / 請求の範囲 / 一事不再理 / 異議申立 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(行ケ)
10493号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 大日本印刷株式会社 訴訟代理人弁護士 椙山敬士,吉田正夫,赤尾太郎,市川穣,松田美和 同 弁理士 牛久健司,井上正,高城貞晶,金山聡,後藤直樹 被告 凸版印刷株式会社 訴訟代理人弁護士 竹田稔,川田篤,服部誠 同 弁理士 小栗久典,志賀正武,船山武,高橋詔男,青山正和,柳井 則子 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/10/04 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2004-80073号事件について平成17年4月19日にした審決を取り消す 」との判決。。 |
|
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告の無効審判請求を受けた特許庁により,本件特許を無効とする旨の審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯( ) 本件特許(甲第2号証) 1特許権者:大日本印刷株式会社(原告)発明の名称: 透過形スクリーン」「特許出願日:昭和62年12月29日(特願昭62-333089)設定登録日:平成9年1月29日特許番号:特許第2599945号( ) 本件手続2審判請求日:平成16年6月9日(無効2004-80073号)訂正請求日:平成16年9月24日審決日:平成17年4月19日審決の結論: 訂正を認める。特許第2599945号の特許請求の範囲に記載 「された発明についての特許を無効とする 」。 審決謄本送達日:平成17年4月26日(原告に対し )。 2 本件発明の要旨審決が対象とした発明(平成16年9月24日付け訂正請求後の請求項1に記載された発明であり,下線部分が上記訂正に係る部分である。以下「本件特許発明」という )の要旨は,以下のとおりである。なお,本件特許の請求項の個数は4個 。 であるが,請求項2〜4は請求項1項の従属項であるので,昭和62年法律第27号による改正前の特許法123条1項により,請求項1に係る発明が無効原因を有すれば,本件特許は全体として無効となるべきものである。 「フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,前記レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形スクリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されており,前記レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせたことを特徴とするプロジェクションTV用透過形スクリーン 」。 3 審決の理由の要点審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件特許発明は,特開昭61-164807号公報(本訴甲第11号証,審決甲第1号証。以下,審決の理由説示を含めて「引用例1」という )に記載された発明(ただし,従来技術として記 。 載されたもの。以下「引用発明1」という)及び特開昭51-89419号公報 。 (本訴甲第15号証の1,審決甲第5号証。以下,前同様「引用例2」という )。 に記載された発明(以下「引用発明2」という )に基づいて,当業者が容易に発 。 明することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 1 引用例1記載の発明請求人が甲第1号証として提示した特開昭61-164807号公報には,従来技術として第2図が示され,「一般的な透過形ビデオプロジェクターのスクリーンは第2図に示されるように構成され,図において,1は光源,2は光源1よりの光線を平行にするためのフレネルレンズ,3はそのレンズ面,4は視角を広くするためのレンチキュラーレンズ,5はレンチキュラーレンズ4を構成する光拡散性物質を示している (第1頁左下欄第19行〜同頁右下欄第5行,および第2 。」図参照)と記載されるとともに,「次に,フレネルレンズ2の製造方法であるが,最も一般的な方法としては,熱可塑性のアクリル樹脂等を加熱プレスして製造する方法である。この方法はフレネルレンズ用金型を加熱した後,充分に変形可能なまでに加熱された透明なアクリル板を金型に挿入して加圧成形を行な, 。, い 定時間経過後金型温度が約70℃前後まで冷却した時点で脱型するものであった しかしこの冷却については,冷却の際に歪を発生させない為に徐冷が必要で一工程に30分〜60分。, , 。, 以上要していた この結果 金型の専有時間が長く 生産性が悪いという欠点があった 更に加熱プレスによる宿命である冷却時の樹脂の収縮に起因する脱型不良(収縮によって金型に樹脂型が喰いつく現象)が生ずるという問題が多発していた。 そこで,加熱収縮あるいは徐冷等の問題点を解決する方法として紫外線硬化性樹脂を使用して成型する方法が提案されている (第1頁右下第20行〜第2頁左上欄第17行)と記載さ 。」れている。 したがって,これらの記載および第2図を参照すると,引用例1には,「フレネルレンズより光源の反対側に配置され光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズと,前記レンチキュラーレンズより光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズと,からなる透過形ビデオプロジェクターのスクリーンにおいて,前記フレネルレンズが紫外線硬化性樹脂により成型されたことを特徴とする透過形ビデオプロジェクターのスクリーン 」。 の発明が記載されている。 2 本件特許発明と引用発明1との一致点および相違点「」,「」,「」 , 引用発明1における フレネルレンズ 光源の反対側 光拡散性物質で構成された「レンチキュラーレンズ 「紫外線硬化性樹脂 「成型 「透過形ビデオプロジェクターのス 」,」,」,クリーン」はそれぞれ,本件発明1における「フレネルレンズ基板 「観察側 「光拡散作用 」,」,をもつ 「レンチキュラーレンズ基板 「紫外線硬化樹脂 「成形 「プロジェクションTV 」,」 ,」,」,用透過形スクリーン」にそれぞれ相当するので,引用発明1と本件特許発明は,「フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,前記レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形スクリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されたことを特徴とするプロジェクションTV用透過形スクリーン 」の点で一致し,本件特許発明が「レンチキュラーレンズ基板 。 に紫外線吸収作用をもたせた」構成を有するのに対して,引用発明1はそのような構成を有しない点で相違する。 本件特許発明と引用発明1との一致点および相違点について,請求人は平成16年6月9日付けの審判請求書第15頁「 a-2)甲第1号証(判決注:引用例1)発明と本件特許発明 (との一致点と相違点」の項において,上記一致点および相違点を認めているし,被請求人は平成16年9月24日付けの審判事件答弁書第12〜13頁「 5)甲1〜甲3の記載」におい (て,本件特許発明を特許請求の範囲に記載されたものとは異なった表現でα〜δと分節した上で,α(構成要件A,Dに相当 ,β(構成要件Aの(a1 (a2)に相当 ,γ(構成要件 )) ,)Bに相当)までは甲第1〜3号証(本訴甲第11〜第13号証)には記載されていることを認めており,上記一致点および相違点について両者の間で異なった主張は見いだせない。 3 相違点について引用例2には,「 , ワックスと結晶性ポリマーから選ばれる光散乱物質の少なくとも一つを含有する拡散板の少なくとも一つの面に直接凹凸を生ぜしめることを特徴とする後面投影型スクリーン (特許」請求の範囲)なる記載とともに,その第2図に,投影光学系1からの光を受けるレンチキュラーレンズ8の面を有する拡散板3が示され,「第2図は,円筒レンズを多数個並べたレンチキュラーレンズ8より成る構造をマイクロ光学素子構造として用いたものである。第2図の場合,微細なレンチキュラーレンズ8の1個1個が光を広げる作用を持ち,これに拡散板3の拡散作用が重なり合って,スクリーン全体としての拡散特性が向上せしめられる (第10頁左下欄第5行〜第11行,および第2図参照) 。」「例えば,ワックス或いは結晶性ポリマーの経時性を改良する目的で,酸化防止剤および紫外線吸収剤を添加することができる (第8頁右上欄第5行〜第7行) 。」なる記載があり,拡散作用をもつレンチキュラーレンズの経時性を改良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュラーレンズの発明(以下 「引用発,明2」という )が記載されている。 。 とするならば,引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ」の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである。 なお,紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫外線により劣化することは本件出願時に当業者において知られていた課題であり,引用発明1におけるレンチキュラーレンズに引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを適用して得た構成によって,紫外線硬化樹脂で成形されたフレネルレンズへの紫外線も減少して劣化が防止されることも,当業者が容易に予測できたものである。 4 被請求人の主張について( ) 本件特許発明については異議申立事件において既に審理が終了していると主張する 1が,特許異議申立と無効審判請求とは異なる事件であり,両者の間に一事不再理はないので,被請求人の主張は採用できない。 なお,本件審判事件での証拠方法として提示された文献は,被請求人の主張する異議申立事件において提示されていない新たな文献を含むものであり,上記相違点の検討は異議申立事件においては提示されていなかったものである。 .. ( ( ) ( ) 進歩性判断について請求人が引用した東京高判平15 2 27 平成14 行ケ 258特許権行政訴訟事件)の判示内容について 「趣旨を違えて自己に有利に援用 (答弁書第 ,」9頁第12行)しているものであるとの主張をするが,該判示内容では 「本件においても, ,引用発明1を出発点にして,これに引用発明2及び周知事項を適用して本願発明と同一の構成に至る動機・課題の有無は問題となり得るものの,その動機・課題が本願発明におけるものと同一であるか否かは,問題となり得ないのである (下線部分は被請求人の引用箇所)とされ 。」ており,引用発明1に対する引用発明2及び周知事項の適用において動機・課題の有無を問題とするものであって,本願発明との動機・課題の有無を問題とするものではなく,被請求人の主張は判示内容の一部を取出しての主張であるので,採用できない。 ,, ( ) 本件特許発明は フレネルレンズ基板の劣化を防止する課題を解決するものであり 3甲第1号証ないし甲第3号証(本訴甲第11〜第13号証)には,外光に含まれる紫外線が紫外線硬化性樹脂により成形されるフレネルレンズ基板に悪影響を与えるのでこれを防止するという課題は全く記載されていないし,引用例2には,それ自体の紫外線,熱線耐性,経時性,耐候性を改善するために,それ自体に紫外線吸収剤を混入させるという技術思想しか教示されていないので,引用例1記載の発明に対して,外光に含まれる紫外線がフレネルレンズを劣化させるのを防止するために引用例2記載の発明を適用する動機づけがない,と主張する。 しかしながら,課題・動機が本件特許発明と異なるとしても,引用発明1における「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ」の劣化という課題解決のため,引用発明1と同じ後面投影型スクリーンに使用する引用発明2の「紫外線吸収剤を添加した拡散作用をもつレンチキュラーレンズ」に代えることには何ら困難性はなく,その結果として同一の構成にいたるものであるので,被請求人の主張は採用できない。 なお,被請求人は,平成16年9月24日付けの答弁書第13〜14頁において,甲第1〜3号証(本訴甲第11〜第13号証)記載の(第1図の)レンチキュラーレンズはその製造方法からして紫外線吸収作用を持たせることができないので,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用を持たせるとする技術思想に至るのを阻害している,と主張するが,引用発明1は引用例1の第2図に従来例として記載された発明であるので被請求人の主張は無意味な主張である。 5 むすび以上のとおりであるから,本件特許発明は,引用例1,引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本件特許第2599945号の特許請求項に記載された発明についての特許を無効とする。 |
|
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 審決の本件特許発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定は相当であるが,審決は,相違点についての判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)( ) 進歩性の判断手法の誤り 1ア 本件特許発明は,フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基板とからなる2枚型の透過形スクリ,, ーンにおいて フレネルレンズ基板を紫外線硬化樹脂により成形した場合における「外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ基板が劣化するという問題点 (本件明細書(甲第2号証)2頁左欄8〜10行)を課題とし,この課題の解 」決のため 「レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせ」るという構成 ,を採用した結果 「フレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる (本件明細書2 ,」頁右欄45〜46行)という効果を奏するものである。 このような課題は,本件特許出願前には存在せず,引用例1にも引用例2にも記載されていないし,示唆すらない。 しかるに,審決は 「引用例2には ・・・拡散作用をもつレンチキュラーレンズ ,,の経時性を改良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュラーレンズの発明が記載されている。とするならば,引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである。 なお,紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫外線により劣化することは本件出願時に当業者において知られていた課題であり,引用発明1におけるレンチキュラーレンズに引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを適用して得た構成によって,紫外線硬化樹脂で成形されたフレネルレンズへの紫外線も減少して劣化が防止されることも,当業者が容易に予測できたものである (審決書11頁末行〜12頁27行 「課題・動機が本件特許発明と異 。」) ,なるとしても,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の劣化という課題解決のため,引用発明1と同じ後面投影型スクリーンに使用する引用発明2の『紫外線吸収剤を添加した拡散作用をもつレンチキュラーレンズ』に代えることには何ら困難性はなく,その結果として同一の構成にいたるものである (同13頁20〜25行)と判断した。 」審決の上記判断における個々の誤りについては,( )で主張するが,それらの点 2を措くとしても,審決の上記のような進歩性判断における,発明の構成のみを重視し,本件特許発明がその構成を採用するに至る動機となった課題が何であるかは問題ではないとする判断手法自体が誤りである。 イ すなわち,発明の進歩性の判断においては,当業者のレベルで,その出願時を時的基準として,当該発明が解決することを意図した課題,その目的を達成するために採択された技術的手段(構成 ,その構成によって奏することのできる特有 )の作用効果の各点につき,その予測性及び困難性を考察すべきであり,そのいずれかの段階において予測性がない(困難性がある)と認められるときは,当該発明に進歩性があると解すべきであり,それが一般的な考え方でもある。 このように,発明の構成が,目的(課題)や作用効果とともに把握されねばならないことは,次のような事情による。すなわち,技術とは,自然法則を意図的に利用して所定の効果の発生を操作するものであるから,現実的に技術を利用する場合には,目的に照らして,その採否が決定される(例えば,目指す効果が他の効果とのバーターとして採用されないこともある。また,目指す効果に照らして費用が高。)。,, , ければ採用しないことがあり得る また通常 構成を現実に実現するためには材質,形状,加工,分量,その他の微妙な工夫などの調整を行わざるを得ない。技,,,, 術は 目的や効果を包摂する構成でありその現実的適用に当たっては その目的効果に即して採否,調整が行われることになり,異なった目的,効果が意識されている場合には,異なった扱いがなされることが一般である。このように採否,調整は目的,効果に即して行われるのであり,ある目的のためのものとして理解された技術は,その目的のために現実的に採用され,その目的に即して調整されるものであるから,別の目的のためのものとして理解された技術と採否の基準が異なるし,別の目的に即して調整されるものでもないから,別の目的に応じた効果が達成されるという保障は全くない。技術を特定して把握するためには,目的や効果も包摂して理解しなければならないという現実的な意味はこのような点にあるのである。 この点につき,新規性の判断や侵害の有無を判断する場合であれば,構成のみで判断し,動機や課題の有無は問題としなくてもよい。新規性の判断の場合には現に文言上同一の構成が,侵害の有無の判断の場合には現に製品上同一の構成がそれぞ,。 れ存在しており その現に特定された構成により効果は当然に発生するからであるしかしながら,同一の構成をもつ先行技術が存在せず,当業者が組合せにより当該発明と同一の構成を容易に採用し得ると観念的に想定できるか否かが問題となる進歩性の判断においては,引用例の課題や目指す方向を含む技術思想を考慮に入れざるを得ない。なぜなら,三木清がその著作「技術哲学 (株式会社岩波書店発行 」「三木清全集第7巻」所収)において説くように 「目的は技術の中にあるところ ,から,技術的なものは目的論的構造をもつてゐる。目的論といふのは全體と部分との關係における論理的構造であり,そこではつねに全體が部分を規定し,一つの部分は他の部分と,そして各々の部分は全體と,相互に依存し,いづれの部分のうちにも全體の意味が表現されてゐる (甲第6号証218頁2〜5行)からである。 」進歩性判断における技術の把握において,構成のみを偏重すれば,事の本質を見誤り,後知恵に陥る危険がある。進歩性の判断では,欧州特許庁で採用されている課題解決アプローチに倣い,通常の発明過程と同様に,最も近い従来技術を基礎として,時間的に前向きに進歩性の有無を検討しなくてはならず,後知恵による判断をできるだけ防止する必要がある。 そこで,進歩性判断においては,課題の予測性,構成の予測性,組合せの動機付け,効果の予測性の各要素を考慮する必要があり,審決の上記判断手法は誤りである。 ( ) 本件審決の進歩性判断における個別の誤り 2ア 上記( )のアのとおり,審決は,引用例2に「拡散作用をもつレンチキュラ 1ーレンズの経時性を改良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュラーレンズの発明」である引用発明2が記載されていると認定した。しかしながら,引用例2に記載されているのは,レンチキュラーレンズに限定された発明ではなく,レンチキュラーレンズを使用することは,選択肢の一つとして記載されているにすぎないし,紫外線吸収剤の添加は任意事項であるとされているのであるから,審決が「紫外線吸収剤を添加した・・・レンチキュラーレンズの発明」が引用例2に記載されていると認定したのは強引にすぎる。また,審決は,引用例2において,紫外線吸収剤を任意に添加する対象が「ワックス或いは結晶性ポリマー」に限定されていること(8頁右上欄1〜7行)を看過している。 したがって,審決の引用例2の認定には誤りがあるというべきである。 イ 上記( )のアのとおり,審決は 「引用発明2に係る後面投影型スクリーンも 1,プロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである 」と判断した。 が,以下のとおり,誤りである。 (ア) すなわち,@上記アのとおり,引用例2に記載されているのは,レンチキュラーレンズに限定された発明ではないこと,A引用発明1は分散系スクリーンであるのに対し,引用例2に 「分散系スクリーンにおいては,ギラツキの減少と解 ,像力,拡散特性及び画像再生域の向上とは互いに相反する関係にあり,光学特性を全体として向上せしめ光学特性のすぐれたRPSを得ることは不可能である (3。」頁左下欄2〜6行)との記載があり,他方,引用例2記載の発明に関しては 「か,かる知見に基き,本発明者等は更に研究を重ねた結果,ワックス系スクリーン或いは結晶性ポリマー系スクリーンとマイクロ光学素子系スクリーンとを直接組合わせることにより,マイクロ光学素子系スクリーンの有するすぐれた光再分布特性を賦与することが出来る一方,ワックス拡散体層或いは結晶性ポリマー拡散体層がマイクロ光学素子構造が本質的に有するギラツキを抑え,ワックス或いは結晶性ポリマー単体により拡散体制を構成したのと同様な少ないギラツキに抑えることが出来,ワックス系スクリーン或いは結晶性ポリマー系スクリーンのもつすぐれた光学特性を実質的に変化させることなく,光再分布特性を向上せしめることが出来ることを見出した (5頁右上欄3〜16行)との,分散系スクリーン以外のスクリーンに 。」,, ついての記載はあるが 分散系スクリーンについての記載はないこと等に照らして引用例2は分散系スクリーンを排除しているものと考えられること,B引用発明1のスクリーンは2枚構成であるのに対し,引用発明2は,優れた光学特性を維持するために1枚構成として,2枚構成のスクリーンを避けていることにかんがみて,引用発明1と引用発明2とを融合させることには矛盾があり,したがって,両者を結びつける動機付けに欠けるものである。 (イ) また,最小でも36インチの大画面でありながら,光源からスクリーンまでの距離が短いプロジェクションTV用のスクリーンと,引用発明2の後面投影型スクリーンとでは,求められるスクリーンとしての機能に自ずから違いがあり,後面投影型スクリーンがプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するとするのは誤りであるし,後面投影型スクリーンとプロジェクションTVとが単純に技術分野を同じくするということもできない。 (ウ) 上記アのとおり,引用例2において,紫外線吸収剤を任意に添加する対象は「ワックス或いは結晶性ポリマー」に限定されているが,現実には,ワックス系スクリーンは,機械的強度がない上,融点が47〜69℃と熱に弱く,他方,結晶性ポリマー系スクリーンは,結晶/非晶質の構造を均一に保つことが,特に大型スクリーンにおいて難しいために,ともに実施可能性はない。したがって,両者とも実用性に欠け,プロジェクションTV用透過形スクリーンにこれらを使用しようとする発想は生じ得ない。 (エ) さらに,引用発明2の1枚構成のレンズに紫外線吸収剤を添加するのは,当該レンズそのものを紫外線による劣化から防ぐためのものであるから,本件特許発明の2枚構成のスクリーンにおける 「外光等に含まれている紫外線により,フ ,レネルレンズ基板が劣化するという」課題や 「フレネルレンズ基板よりも観察側 ,に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板」に紫外線吸収作用を持たせる構成に想到するきっかけには到底なり得ない。 (オ) 加えて,引用発明1のレンチキュラーレンズは紫外線吸収剤を含まないものである。すなわち,引用例1には,レンチキュラーレンズのレンズ面をフレネルレンズ用金型のレンズ面に対向させて位置させ,その間に紫外線硬化性樹脂を注入し,レンチキュラーレンズを通して紫外線を照射して硬化させた後,脱型するスクリーンの製造方法の発明(図面第1図のもの)が記載されており,この発明のレンチキュラーレンズは,紫外線透過性を備えることが必要であるから,紫外線吸収剤を含ませることはあり得ない。しかるところ,引用発明1は,引用例1の図面第2図のもの(引用例1における従来技術)であり,そのレンチキュラーレンズは,紫,, 外線透過性を備えることが必然的に要請されているとはいえないが 引用例1には図面第1図のレンチキュラーレンズにつき「従来方法であらかじめ製作しておい ,たレンチキュラーレンズ (2頁右下欄4〜5行)と記載されており,これは,従 」来技術のレンチキュラーレンズ,つまり引用発明1(図面第2図)のレンチキュラーレンズのことであるから,引用発明1のレンチキュラーレンズは,図面第1図のレンチキュラーレンズと同様,紫外線吸収剤を含まないものである。そして,このように紫外線吸収剤を含まないレンチキュラーレンズを,紫外線吸収剤を含む引用例2のレンチキュラーレンズに置き換えるという発想は,当業者に生じ難い。 ウ 上記( )のアのとおり,審決は 「引用発明1におけるレンチキュラーレンズ 1,に引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを適用して得た構成によって,紫外線硬化樹脂で成形されたフレネルレンズへの紫外線も減少して劣化が防止されることも,当業者が容易に予測できたものである 」と判断したが,誤。 りである。 すなわち,審決は 「引用発明1におけるレンチキュラーレンズに引用発明2の ,紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを適用して得た構成」に関し,上記( )のアのとおり 「引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラ 1,ーレンズ』の劣化という課題解決のため,引用発明1と同じ後面投影型スクリーンに使用する引用発明2の『紫外線吸収剤を添加した拡散作用をもつレンチキュラーレンズ』に代えることには何ら困難性はなく,その結果として同一の構成にいたるものである」とするものであるが,引用例1には,引用発明1につき,フレネルレンズとレンチキュラーレンズとの密着部の一部がフレネルレンズの反りによって隙間を生じさせ,レンチキュラーレンズ上の再生画像はぼけを生じて画質が低下する等の問題点を有する従来技術として記載されているが(2頁右上欄17行〜左下欄15行 ,引用発明1につき「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズの )劣化」という課題があることは,引用例1に記載されておらず,示唆されてもいない。また,引用例1には,外光等に含まれる紫外線によるフレネルレンズ基板の劣化の防止という本件特許発明の課題についても,記載又は示唆がされていない。 ( ) 本件特許発明の進歩性 3ア 上記のとおり,フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基板とからなる2枚型の透過形スクリーンにおいて,フレネルレンズ基板を紫外線硬化樹脂により成形した場合における,外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ基板が劣化するという,本件特許発明の課題は,本件特許出願前には存在せず,引用例1にも引用例2にも記載又は示唆されていない。審決は 「紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫 ,外線により劣化することは本件出願時に当業者において知られていた課題であ(る 」とするが,本件特許発明は,プロジェクションTV用透過形スクリーンに )関し,外光に含まれる紫外線による紫外線硬化樹脂成形フレネルレンズ基板の劣化の問題に着目しているのであるから,一般論としての耐光性の議論によって本件特許発明の課題を予測することはできない。 したがって,本件特許発明の課題には予測性がない。 イ 引用例1に従来技術として記載された引用発明1は,2枚構成のスクリーンであるが,引用例1は,全体として,2枚構成のスクリーンには欠点があるので否定すべきものと位置付けている。引用例2に記載された引用発明2が2枚構成のスクリーンを避けていることは,上記( )のイのとおりである。このように2枚構成 2のスクリーンを否定する方向の思考からは,2枚構成の特徴を最大限に活用して,紫外線硬化樹脂により成形したフレネルレンズ基板の劣化防止のため,レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用を備えるという本件特許発明の技術思想が生まれることはない。 また,紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫外線により劣化するという問題点が,たとえ本件特許出願時に当業者に知られていたとしても,この問題に対しては,通常,当該紫外線硬化樹脂に紫外線吸収剤を含ませるという解決方法が考えられるものである。しかしながら,紫外線吸収剤を含有した紫外線硬化樹脂(光硬化性樹脂)組成物は,硬化速度が著しく抑制され,硬化した樹脂組成物の特性が損なわれるなど重大な欠点を有している(甲第17号証1頁右下欄13行〜2頁左上欄2行 。引用発明2は,ワックス又は結晶性ポリマーの経時性を改良するもの )にすぎず,上記のように,紫外線吸収剤を添加することが困難な紫外線硬化性樹脂の紫外線による(又は経時的な)劣化を防止する手段を開示するものではない。本件特許発明は,紫外線硬化樹脂組成物それ自体に何らかの操作を加えるという従来の発想を脱却し,紫外線硬化樹脂組成物であるフレネルレンズ基板よりも観察側に配置されたレンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせるという,2枚構成の透過形スクリーンの特徴を最大限に活かした形で解決しているのである。このような解決手段は,1枚構成のスクリーンである引用発明2の構成からは思いもつかないものである。 したがって,本件特許発明には,組合せの動機付け及び構成の予測性がない。 ウ 本件特許発明において 「レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をも ,たせたので,UV硬化樹脂で成形したフレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる (本件明細書2頁右欄43〜46行,なお,審決が訂正請求を認めたことによ 」,, 「」「 」 り 審決の容易想到性の判断は 光拡散性基板が レンチキュラーレンズ基板と訂正されたものとして行われることになる )ことは,当該構成の直接的効果と 。 して当然に自覚されている。そして,このように技術思想が的確に把握されている場合には,記載された効果の当然の系として,フレネルレンズを成形するためのUV硬化樹脂の耐光性を考慮する必要がなくなり,樹脂の種類の選択の範囲が増大して,量産が可能となり,生産性が飛躍的に向上することになる。引用発明1と引用発明2とを組み合わせることにより,構成が本件特許発明と偶々一致し得るとしても,効果とともに技術思想として的確に把握されていないのであれば,このような系としての効果は当然把握されず,予測されざるものというべきである。 したがって,本件特許発明には,効果の予測性がない。 |
|
被告の反論の要点
1 審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)に対して( ) 「進歩性の判断手法の誤り」との主張に対して 1原告は,新規性の判断や侵害の有無を判断する場合であれば,構成のみで判断,,, し 動機や課題の有無は問題としなくてもよいのに対し 進歩性の判断においては引用例の課題や目指す方向を考慮に入れざるを得ないと主張するが,誤りである。 新規性の判断と進歩性の判断とは,ともに発明の核心ともいうべき請求項に記載された構成と,引用文献に記載された発明の構成とを対比し,その間に有意の差異が存在するか否かが判断される点では同じであり,その間に基本的な考え方の違いはない。ただ,進歩性の判断の場合には,複数の発明を組み合わせる際の「論理付け」についての検討がなされるにすぎない。したがって,本件特許発明の進歩性の有無の判断において,引用例1,2に,本件特許発明の課題が記載,又は示唆され,, ているか否かは問題ではなく 引用発明1に引用発明2を組み合わせることにつき「論理付け」があるかどうか,また,組み合わせることにより本件特許発明と同じ構成に至るか否かによって,本件特許発明の進歩性の有無が判断されるのである。 発明の効果は,特殊な場合に限って考慮されるにすぎない。このような考え方は,,。 裁判所においてほぼ確定した考え方であり特許庁の審査基準も同じ考え方であるしたがって,原告の上記主張は誤りである。 ( ) 「本件審決の進歩性判断における個別の誤り」との主張に対し 2ア 原告は,引用例2には,レンチキュラーレンズを使用することが選択肢の一つとして記載されていること,紫外線吸収剤の添加は任意事項であるとされていること,紫外線吸収剤を任意に添加する対象が「ワックス或いは結晶性ポリマー」に限定されていることを挙げて,引用例2に「拡散作用をもつレンチキュラーレンズの経時性を改良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュラーレンズの発明」である引用発明2が記載されているとした審決の認定に誤りがあると主張する。 しかしながら,引用例2に記載された数種のレンズのうちから,レンチキュラーレンズだけを抽出することは,当業者であれば普通にできることであり,何ら恣意的なものではない。文献から発明を抽出する際の,このような抽出手法は,特許庁における審査プラクティスとして確立しており,裁判所によって是認されているところである。また,引用例2に紫外線吸収剤の添加について記載がある以上,当業者は,当然に紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズという構成を認識できるのであって,紫外線吸収剤の添加が任意事項とされているかどうかは問題ではない。さらに,当業者が技術常識を斟酌して引用例2の記載全体に接すれば,そこに記載されている紫外線吸収剤による紫外線劣化防止技術は,ワックス系や結晶性ポリマー系のものに限らず,マイク光学系や分散系スクリーンなど種々の合成樹脂を母材とするスクリーン(レンズ)に共通して適用できる技術であると認識できるものである。したがって,審決の上記認定に誤りはない。 イ 原告は 「引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV ,用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである 」とした審決の判断が誤りであると 。 主張するが,以下のとおり,理由がない。 (ア) 原告は,引用例2に記載されているのは,レンチキュラーレンズに限定された発明ではないこと,引用発明1のスクリーンは2枚構成であるのに対し,引用発明2は1枚構成としたものであることを挙げ,また,引用発明1は分散系スクリーンであるのに対し,引用例2は分散系スクリーンを排除しているとした上,引用発明1と引用発明2とを融合させることには矛盾があり,両者を結びつける動機付けに欠けると主張する。 しかしながら,引用例2に記載された数種のレンズのうちからレンチキュラーレンズだけを抽出することが,何ら恣意的なものではないことは,上記アのとおりである。 また,引用例2は,引用発明1のような分散系スクリーンを排除するものではない すなわち 引用例1においては 従来技術に係るレンチキュラーレンズが ア 。, , , 「クリル樹脂のような透明性と熱可塑性のある樹脂にシリカ,アルミナ,粘度,ガラス粉等の光拡散性物質5を混練し,金型を使用し…成形される (1頁右欄12〜」15行)ものと記載され,その光拡散性物質には特段の限定はないのに対し,引用例2には 「ワックスをアクリル板等の透明樹脂中に分散させ,専らワックスに光 ,散乱を担当させるもの 「結晶性ポリマーをアクリル板等の透明樹脂中に分散せし 」,めた場合」及び「ワックス及び結晶性ポリマーを共に分散せしめた場合」が,いずれも引用発明2に当たることが記載されているが(6頁右上欄8〜19行 ,これ)らは,ワックス若しくは結晶性ポリマー又はその双方を光拡散性物質とした,引用例1における従来技術,つまり引用発明1にも当たるからである。 さらに,引用例2には,実施態様の一つである図面第4図のレンズが,拡散板の一方の面にフレネルレンズ構造を,他方の面にレンチキュラーレンズ構造を施したものであって,このような構造を採用することにより拡散特性が向上することが記載されていること(12頁左上欄4〜9行,本件特許出願当時,ビデオプロジェ )クタにおいて2枚構成のスクリーンは周知であり,引用例2の図面第2図のレンチキュラーレンズ(引用発明2)に接した当業者は,これを他のレンズと組み合わせ得るものと認識することは明らかであること等を考慮すれば,引用発明2自体は1枚構成を前提としているとしても,これをフレネルレンズと組み合わせて,2枚構成のスクリーンの一方として適用することが排除されているものとはいえない。 (イ) 原告は,プロジェクションTVが最小でも36インチの大画面でありながら,光源からスクリーンまでの距離が短いことを理由として,引用発明2の後面投影型スクリーンがプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するとするのは誤りであるし,後面投影型スクリーンとプロジェクションTVとが単純に技術分野を同じくするということはできないとも主張する。 しかしながら,本件特許発明において,プロジェクションTVの画面の大きさは限定されておらず 「プロジェクションTV用スクリーン」と限定したことにより ,一義的にその画面の大きさが36インチ以上と限定されるものではない。本件特許出願当時には,6〜7インチや2〜50インチのものなど種々のスクリーンサイズのものがプロジェクションTVとして認識されていた。したがって 「引用発明2,に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくする」とした審決の認定に誤りはない。 ,, , , , (ウ) また 原告は ワックス系スクリーンは 機械的強度がない上 熱に弱く他方,結晶性ポリマー系スクリーンは,結晶/非晶質の構造を均一に保つことが難しいために,共に実施可能性がなく,プロジェクションTV用透過形スクリーンにこれらを使用しようとする発想は生じ得ないと主張する。 しかしながら,引用例2には,ワックス系スクリーンを透明支持板に貼り合わせて用いることが記載されているほか,本件特許出願当時は,機械的強度が優れ,透明支持体を用いずに単独で後面投影型スクリーンとして用いることができるワックス系スクリーン及び結晶性ポリマー系スクリーンも開発されていたから,機械的強度は問題とはならない。仮に,引用発明2のスクリーンに原告主張のような欠点や製造上の困難があるとしても,引用例2から,紫外線吸収作用をもたせたレンチキュラーレンズの技術思想を把握することは十分に可能であり,それを引用発明1のレンチキュラーレンズに置き換えることは,当業者にとって格別困難なことではない。 (エ) さらに,原告は,引用発明2の1枚構成のレンズに紫外線吸収剤を添加するのは,当該レンズそのものを紫外線による劣化から防ぐためのものであるから,本件特許発明の2枚構成のスクリーンにおける 「外光等に含まれている紫外線に ,より,フレネルレンズ基板が劣化するという」課題や 「フレネルレンズ基板より ,も観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板」に紫外線吸収作用を持たせる構成に想到するきっかけにはなり得ないと主張する。 しかしながら,引用発明2のレンチキュラーレンズ自体は,それ自身のために紫,, 外線吸収剤が添加されたものであっても紫外線吸収作用を有するものであるからそれを引用発明1のレンチキュラーレンズ基板に代えて用いれば,本件特許発明と構成を同じくするものとなることは明らかである。 (オ) 原告は,引用例1の図面第1図のレンチキュラーレンズが紫外線吸収剤を含まないものであるから,図面第2図(引用発明1)のレンチキュラーレンズも紫外線吸収剤を含まないものであって,これを紫外線吸収剤を含む引用例2のレンチキュラーレンズに置き換えるという発想は,当業者に生じ難いと主張するが,引用発明1のレンチキュラーレンズが図面第1図のレンチキュラーレンズと同じであるとする理由はない。 ウ 原告は,引用例1には,引用発明1につき「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズの劣化」という課題があることは記載又は示唆がされておらず,外光等に含まれる紫外線によるフレネルレンズ基板の劣化の防止という本件特許発明の課題についても,記載又は示唆がされていないと主張する。 しかしながら,引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであって,引用発明1と技術分野を同じくするものであり,また,引用発明2のレンチキュラーレンズが,1枚構成のスクリーンと使用するだけでなく,フレネルレンズと組み合わせても用いられ得るものであることは,上記のとおりであるから,引用発明1のレンチキュラーレンズについて,引用発明2で開示された,紫外線吸収剤の添加により経時性が向上したレンチキュラーレンズを用いることは,当業者が容易になし得るところである。 ( ) 本件特許発明が進歩性を有するとの主張に対し 3原告は,本件特許発明の課題には予測性がなく,組合せの動機付け及び構成の予測性がなく,さらに,効果の予測性がないから,本件特許発明は進歩性を有していると主張する。 しかしながら,本件特許発明に課題の予測性並びに組合せの動機付け及び構成の予測性が無いとの主張が失当であることは,上記のとおりである。 また,引用発明1のフレネルレンズは紫外線硬化樹脂で形成されているところ,本件特許出願当時,紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫外線により劣化することは当業者において周知であった。そして,フレネルレンズに達する紫外線の量が少なくなれば,それに応じて,フレネルレンズの紫外線による劣化の度合いが減少することは明らかであるところ,観察者側から見て,レンチキュラーレンズの後方にフレネルレンズが配置されている引用発明1のスクリーンにおいて,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用があれば,フレネルレンズに達する紫外線は,レンチキュラーレンズで吸収された分だけ減少することも明らかである。そうすると,本件特許発明における「フレネルレンズの劣化を有効に防止できる」という効果は,引用発明1における「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ」の経時性を改良する目的で,引用発明2の,レンチキュラーレンズに紫外線吸収剤を添加するという構成を採用することによって,当業者において当然に予測できる効果にすぎない。したがって,本件特許発明に効果の予測性がないとの主張も誤りである。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について原告は,本件特許発明と引用発明1との相違点についての審決の判断が,発明の構成のみを重視し,本件特許発明がその構成を採用するに至る動機となった課題が何であるかは問題ではないとするものであって,その判断手法自体が誤りであると主張するが,この主張の当否についてはしばらく措き,まず,原告が主張する,本件審決の進歩性判断における個別の誤りについて検討する。 ( ) 審決は,引用例2に「拡散作用をもつレンチキュラーレンズの経時性を改 1良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュ」,, ラーレンズの発明 である引用発明2が記載されていると認定したところ 原告は引用例2には,レンチキュラーレンズを使用することは,選択肢の一つとして記載されているにすぎないし,紫外線吸収剤の添加は任意事項であるとされているので,,, あるから 審決の引用発明2の認定は強引にすぎるだけでなく 引用例2において紫外線吸収剤を任意に添加する対象が「ワックス或いは結晶性ポリマー」に限定されていることを看過している旨主張する。 しかるところ,引用例2には 「ワックスと結晶性ポリマーから選ばれる光散乱 ,物質の少なくとも一つを含有する拡散板の,少なくとも一つの面に直接凹凸を生ぜしめることを特徴とする後面投影型スクリーン (特許請求の範囲 「ワックス 。」),をアクリル板等の透明樹脂中に分散させ,専らワックスに光散乱を担当させるものも,ワックスが光散乱物質として機能しているものである以上,本発明に包含されることはいうまでもない。更にワックスではなく結晶性ポリマーをアクリル板等の透明樹脂中に分散せしめた場合,ワックス及び結晶性ポリマーを共に分散せしめた場合も同様である。これらの場合には,ワックス或いは結晶性ポリマーの少なくとも一方が分散されている透明樹脂が本発明にいう拡散板に相当することもまた明らかであろう (6頁右上欄9〜19行 「本発明において,拡散板表面に直接凹 。」) ,凸を生ぜしめるとは,該拡散板表面にマイクロ光学素子構造を直接設けることである (6頁左下欄11〜13行 「本発明に於てワックス或いは結晶性ポリマー 。」) ,の添加物としては・・・ワックス或いは結晶性ポリマーを用いる業界で一般に使用する添加物を併用することが出来る。 例えば,ワックス或いは結晶性ポリマーの経時性を改良する目的で,酸化防止剤および紫外線吸収剤を添加することができる (8頁右上欄1〜7行 「第1図乃至第5図は本発明の実施態様を示す概略 。」),図である。第1図はマイクロ光学素子構造としてフレネルレンズを,第2図はレンチキュラーレンズ構造を,第3図はV型溝構造をそれぞれ用いた場合を示す。また第4図はフレネルレンズ構造とレンチキュラーレンズ構造とを拡散板の異なる面に施した場合を,第5図は,フレネルレンズ構造を変形した場合を示す (16頁左。」上欄7〜14行 「第2図は,円筒レンズを多数個並べたレンチキュラーレンズ8 ),より成る構造をマイクロ光学素子構造として用いたものである。第2図の場合,微細なレンチキュラーレンズ8の1個1個が光を広げる作用を持ち,これに拡散板3の拡散作用が重なり合って,スクリーン全体としての拡散特性が向上せしめられる (10頁左下欄5〜11行 「第4図は拡散板3の一方の面にフレネルレン 。」) ,ズ構造を,他方の面にレンチキュラーレンズ構造をそれぞれ施した場合を示している。このような構造を採用することにより拡散特性が向上,すなわち観測範囲が広がり,同時に均一な輝度分布を有するスクリーンを得ることが出来る (12頁左。」上欄4〜9行)との各記載がある。 上記記載によれば,引用例2には,後面投影型スクリーンに使用するレンズをレンチキュラーレンズとすることは選択肢の一つとして記載されていること,また,紫外線吸収剤の添加は任意事項とされていることは,いずれも原告主張のとおりである しかしながら 引用例2は 特許法29条2項が引用する同条1項3号の 刊 。,, 「行物」として引用されているものであるところ,このような「刊行物」として,偶々,特許請求の範囲を含む特許明細書及び図面等が掲載された特許公報が引用された場合において,同号の「刊行物に記載された発明」は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な説明や図面等を含めた全体の記載によって,当該明細書に記載されているものと認められれば足りることはいうまでもないところである。そして,上記の各記載により 「拡散作用をもつレンチキュ ,ラーレンズの経時性を改良するために紫外線吸収剤を添加した後面投影型スクリーンに使用するレンチキュラーレンズの発明」が,引用例2に,その特許請求の範囲に記載された発明の1態様として記載されているものと認定し得ることは明らかである。もっとも,上記の各記載によれば,紫外線吸収剤は「ワックス或いは結晶性ポリマーの添加物として」添加されるものとされているところ,審決の引用発明2の認定には,その点及びその前提として,引用発明2が「ワックスと結晶性ポリマーから選ばれる光散乱物質の少なくとも一つを含有する」ことが欠けていることは。, , 否めない しかしながら これらの点を含めて引用発明2の認定を行ったとしても引用発明2を引用発明1のレンチキュラーレンズに使用することが当業者に容易になし得たものであるとする審決の理由に何ら変わるところはないから(ワックス系スクリーンは機械的強度がない上,熱に弱く,他方,結晶性ポリマー系スクリーンは,結晶/非晶質の構造を均一に保つことが,特に大型スクリーンにおいて難しいために,両者とも実用性に欠け,プロジェクションTV用透過形スクリーンにこれらを使用しようとする発想は生じ得ないとの原告の主張が失当であることは,後記( )のウのとおりである ,これらの不備は,審決の結論に影響を及ぼすものでは 2。)ない。 ( ) 次に,原告は,以下のとおり主張して 「引用発明2に係る後面投影型スク 2 ,リーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである 」と。 した審決の判断が誤りであると主張するので,順次検討する。 ア まず,原告は,@引用例2に記載されているのは,レンチキュラーレンズに限定された発明ではない旨,A引用発明1は分散系スクリーンであるのに対し,引用例2は分散系スクリーンを排除している旨,B引用発明1のスクリーンは2枚構成であるのに対し,引用発明2は1枚構成として,2枚構成のスクリーンを避けている旨主張し,これらを前提として,引用発明1と引用発明2とを結びつける動機付けに欠けると主張する。 しかしながら,上記( )のとおり,審決が引用発明2として認定したのは,引用 1例2に記載されているレンチキュラーレンズの発明であるから,@の主張は失当である。また,Aの主張は,その主張に係る「分散系スクリーン」が「光散乱粒子をバインダーに分散した光拡散層よりなるスクリーン (引用例2第1頁左欄19〜 」20行)と定義されることを前提とするものと解されるところ,上記( )の引用例12の各記載によれば,引用例2記載の発明は 「ワックスと結晶性ポリマーから選 ,ばれる光散乱物質の少なくとも一つを含有する拡散板」を構成要件とするスクリーンであり,当該構成要件には,アクリル板のような透明樹脂を拡散板として,その中にワックス又は結晶性ポリマーの一方又は双方を分散させ,これらを光散乱物質としたものも含まれることが認められ,他方,引用発明1(引用例1記載の従来技術)は「アクリル樹脂のような透明性と熱可塑性のある樹脂にシリカ,アルミナ,粘度(判決注: 粘土」の誤記と解される ,ガラス粉等の光拡散性物質5を混練 「。 )し,金型を使用し…成形される (1頁右欄12〜15行)ものであるから,引用 」発明1が分散系スクリーンに当たるのであれば,引用例2に記載された上記のような態様のものも分散系スクリーンに当たるものというべく,したがって,Aの主張も採用することができない。さらに,Bの主張に関しては,引用例2に記載された発明が1枚構成のスクリーンであるとしても,本件明細書に「従来,この種の透過型スクリーンとして,観察側にレンチキュラーレンズ基板等の光拡散性基板を,光源側にフレネルレンズ基板を重ね合わせて配置したものが知られている (1頁右。」欄11〜14行)との記載があるとおり,レンチキュラーレンズを2枚構成のスクリーンのうちの1枚として使用することは,本件特許出願当時,周知の技術であっ,,, たと認められるのみならず 上記( )の引用例2の各記載によれば 引用例2には 1スクリーン自体は1枚構成であるものの,フレネルレンズ構造とレンチキュラーレンズ構造を組み合わせることにより,拡散特性の向上,すなわち観測範囲が広がるとともに輝度分布を均一とすることを可能としたものが記載されており,この記載によって,審決が認定した引用発明2のレンチキュラーレンズをフレネルレンズ構,,, 造と組み合わせることが 引用例2自体に示唆されているということができ 他方審決が認定した引用発明2のレンチキュラーレンズが2枚構成のスクリーンに使用できないとする理由もないから,当業者が,これを引用発明1と組み合わせて使用することは容易であったと認めることができる。したがって,Bの主張も失当である。 イ また,原告は,36インチ以上の大画面でありながら,光源からスクリーンまでの距離が短いプロジェクションTV用のスクリーンと,引用発明2の後面投影型スクリーンとでは,求められるスクリーンとしての機能に自ずから違いがあり,審決が,後面投影型スクリーンがプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するし,後面投影型スクリーンとプロジェクションTVとが技術分野を同じくするとしたことが誤りであると主張する。 しかしながら,本件特許発明及び引用発明1は画面の大きさや光源からスクリーンまでの距離を特定するものではなく,プロジェクションTV(透過型ビデオプロジェクター)用のスクリーンであるからといって,当然に画面が36インチ以上であり,光源からスクリーンまでの距離が短いという特定がなされるものと認めるに足りる証拠もないから,スクリーンの大きさや光源からスクリーンまでの距離を理由として,後面投影型スクリーンとプロジェクションTVとが技術分野を同じくするとしたことが誤りであるとする主張を採用することはできない。そして,本件明細書の「本発明は,背面透過形のプロジェクションTVに使用される透過形スクリーンに関し (1頁右欄7〜8行)との記載及び図面第2図によれば,本件特許発 」明が,また,引用例1の図面第2図によれば,引用発明1が,いずれも後面投影型スクリーンの範疇に含まれることは明らかであるから,審決が「引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションTV用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものである」としたことに誤りはない。 ウ さらに,原告は,ワックス系スクリーンは機械的強度がない上,熱に弱く,他方,結晶性ポリマー系スクリーンは,結晶/非晶質の構造を均一に保つことが,特に大型スクリーンにおいて難しいために,両者とも実用性に欠け,プロジェクションTV用透過形スクリーンにこれらを使用しようとする発想は生じ得ないと主張する。 しかしながら,本件特許発明及び引用発明1が画面の大きさを特定するものでな,。,,, いことは 上記イのとおりである また引用例2記載の発明は 上記アのとおり「ワックスと結晶性ポリマーから選ばれる光散乱物質の少なくとも一つを含有する拡散板」を構成要件とするスクリーンであって,アクリル板のような透明樹脂を拡散板として,その中にワックス又は結晶性ポリマーの一方又は双方を分散させ,こ,,, れらを光散乱物質としたものも含まれるのであるから ワックス自体は 熱に弱く強度を保たせ難いものであるとしても,これを光散乱物質として含有させた拡散板から成る引用発明2が,プロジェクションTV用透過形スクリーンに使用できない程,熱に弱く,強度を保たせ難いと認めることはできない。したがって,上記主張も失当である。 エ 原告は,引用発明2のレンズに紫外線吸収剤を添加するのは,当該レンズそのものを紫外線による劣化から防ぐためのものであるから,本件特許発明の2枚構成のスクリーンにおける 「外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ ,基板が劣化するという」課題や 「フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光 ,拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板」に紫外線吸収作用を持たせる構成に想到するきっかけにはなり得ないと主張する。 しかしながら,上記のとおり,審決は 「引用発明1における『光拡散性物質で ,構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである 」とするも。 のであって 「外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ基板が劣化す ,るという」課題を解決するために,引用発明1のレンチキュラーレンズ(フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光拡散作用をもつものである )として,紫外。 線吸収作用を有する引用発明2のレンチキュラーレンズを用いることが容易であると判断したものではないから,原告の上記主張は,審決のこの判断を誤りとする論拠としては,主張自体失当である。 オ 原告は,引用例1の図面第1図のレンチキュラーレンズが紫外線吸収剤を含まないものであるから,図面第2図(引用発明1)のレンチキュラーレンズも紫外線吸収剤を含まないものであって,これを紫外線吸収剤を含む引用例2のレンチキュラーレンズに置き換えるという発想は,当業者に生じ難いと主張する。 しかるところ,引用例1の図面第1図に記載されたものは,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であり,同発明は,レンチキュラーレンズとフレネルレンズを個別に製作した上,密着させてビデオプロジェクターに組み込んでいた従来技術における,フレネルレンズの反り,密着部の湿気の付着等の課題を解決するため,レンチキュラーレンズのレンズ面をフレネルレンズ用金型のレンズ面に対向させて位置させ,その間に紫外線硬化性樹脂を注入し,レンチキュラーレンズを通して紫外線を照射して硬化させた後,脱型する(このような方法でフレネルレンズを製作する)という構成を採用したビデオプロジェクター用スクリーンの製造方法の発明であって,そのレンチキュラーレンズは紫外線を透過しなければならないから,紫外線吸収剤を含ませることはできないものと認められることは,原告主張のとおりである。しかしながら,図面第1図のレンチキュラーレンズに紫外線吸収剤を含ませることができないのは,上記のような構成上の必然性があるためであるのに対し,引用例1の図面第2図(従来例)に記載された引用発明1のレンチキュラーレンズに関しては,そのような必然性はなく,紫外線吸収剤を含まないものである必要性が全くないことは明らかである。そうすると,たとえ,引用例1の発明の詳細な説明に,特許請求の範囲に記載された発明に係るレンチキュラーレンズにつき 「従来方法であらかじめ製作しておいたレンチキュラーレンズ (2頁右下 ,」), , 欄4〜5行 と記載されているからといって この記載と図面第2図とを結び付け図面第2図に記載されたレンチキュラーレンズについても紫外線吸収剤を含まないものであることが引用例1に記載されていると考える理由はなく,もとより引用例1にそのようなことが明記されているわけでもない。したがって,原告の上記主張は,その前提において誤りであり,採用することができない。 カ 以上のとおり,上記ア〜オに係る原告の主張はいずれも失当であって,これらを論拠として 「引用発明2に係る後面投影型スクリーンもプロジェクションT ,V用透過形スクリーンの概念に属するものであり,引用発明1と技術分野を同じくするものであるので,引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラーレンズを使用することは当業者が容易になし得たものである 」とした審決の判断が誤りである 。 とすることはできない。 ( ) 原告は,審決の「引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチ 3キュラーレンズ』の劣化という課題解決のため,引用発明1と同じ後面投影型スクリーンに使用する引用発明2の『紫外線吸収剤を添加した拡散作用をもつレンチキュラーレンズ』に代えることには何ら困難性はなく,その結果として同一の構成にいたるものである」との判断に関し,引用例1には,引用発明1につき「光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズの劣化」という課題があることは,記載又は示唆されていないと主張する。 しかしながら,上記( )のイのとおり,引用発明1は,後面投影型スクリーンに 2属し,引用発明2と技術分野を同一とするものであるところ,上記( )の引用例21の各記載によれば,引用例2には 「光散乱物質としてワックス又は結晶性ポリマ ,ーの少なくとも一つを含有し,後面投影型スクリーンとして用いられるレンチキュラーレンズにおいて,ワックス又は結晶性ポリマーの経時性を改良するために一般に使用される紫外線吸収剤を添加する」ことが記載されていると認められるから,この記載に接した当業者が,引用発明1のレンチキュラーレンズとして,引用例2に開示された紫外線吸収剤の添加により経時性が向上したレンチキュラーレンズ() , 。, 引用発明2 を用いることは 容易になし得るところというべきである そして審決の「引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の劣化という課題解決のため,引用発明1と同じ後面投影型スクリーンに使用する引用発明2の『紫外線吸収剤を添加した拡散作用をもつレンチキュラーレンズ』に代えることには何ら困難性はな(い 」との説示は上記趣旨をいうものと解される ),「 」 から 引用発明1につき 光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズの劣化という課題があることが引用例1に記載又は示唆されていないとしても,審決の上記判断に誤りはない。 ( )ア ところで,引用発明1のレンチキュラーレンズとして,引用発明2のレ 4ンチキュラーレンズを用いた場合には,本件特許発明の相違点に係る構成である,「レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせた」構成が得られることは明らかであり,審決は,これによって,本件特許発明が,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したものである。 しかるところ,上記( )のとおり,原告は,審決のこの判断が誤りであると主張 1するが,当該主張は,要するに,本件特許発明が「レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせた」構成を採用したのは,フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基板とからなる2枚型の透過形スクリーンにおいて,フレネルレンズ基板を紫外線硬化樹脂により成形した場合における 「外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ ,基板が劣化するという」課題を解決するためであるのに,審決が,本件特許発明のこの課題とは異なる「引用発明1における『光拡散性物質で構成されたレンチキュラーレンズ』の劣化という課題解決のため(その趣旨が「引用発明1のレンチキ 」ュラーレンズの経時性の向上のため」というものであることは,上記( )のとおり3である ,上記構成を採用することが容易であるとして,本件特許発明の進歩性を 。)否定したことは誤りであるというものである。 イ そして,原告は,その根拠として,まず,フレネルレンズ基板よりも観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基板とからなる2枚型の透過形スクリーンにおいて,フレネルレンズ基板を紫外線硬化樹脂により成形した場合における 「外光等に含まれている紫外線により,フレネルレンズ ,基板が劣化するという」課題が,本件特許出願以前には知られていなかったと主張するが,特開昭53-45345号公報(甲第17号証)には,発明の課題の説明の前提事項として「光硬化触媒で硬化した樹脂組成物は耐光性が劣り,長時間光に曝露されると黄変を呈してくる欠点を有している (1頁右欄8〜10行)との記 。」載があることにかんがみれば,紫外線硬化樹脂成形物の紫外線による劣化という課題は,本件特許出願以前から周知であったものと認められる。原告は,本件特許発明は,プロジェクションTV用透過形スクリーンに関し,外光に含まれる紫外線による紫外線硬化樹脂成形フレネルレンズ基板の劣化の問題に着目しているのであるから,一般論としての耐光性の議論によって本件特許発明の課題を予測することは,, できないとも主張するが 当該フレネルレンズ基板が紫外線硬化成形物である以上紫外線を含む外光の照射を受ければ劣化を免れ得ないことは明白であり,フレネルレンズ基板が外光の照射を受けることがあり得ないということもできないから,紫外線硬化樹脂成形フレネルレンズ基板の紫外線による劣化という課題も,上記紫外線硬化樹脂成形物の紫外線による劣化という課題の1適用場面として,本件特許出願以前から周知であったものというべきである。 ウ また,原告は,発明の構成は,目的(課題)や作用効果とともに把握されねばならないとして 引用発明1に引用発明2を組み合わせることによって 上記 レ ,,「ンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせた」構成が得られるとしても,それが,本件特許発明と同一の課題の解決として導かれたものでなければ,本件特許発明の進歩性を否定できない旨を主張する。しかしながら,引用発明1に引用発,, 明2を組み合わせることによって 本件特許発明の構成と同一の構成が導かれればたとえ,それらを組み合わせる目的が,本件特許発明の課題と同一の課題を解決するためでなかったとしても,本件特許発明の課題も併せて解決されることは明らかである。もっとも,この点に関し,原告は,技術の採否や調整は目的(課題)に即して行われ,ある目的のための採用の基準は,別の目的のための採用の基準と異なるし,ある目的に即して調整されても,別の目的に応じた効果が達成されるという保障は全くないと主張する。しかしながら,発明がある効果を奏するかどうかという点は,その発明が採用されるかどうかということによって左右される問題ではないし,また,調整とは,要するに発明の実施態様をどのように設定するかということであるから,ある目的に即して調整されたとしても,発明の構成の範囲内でなされる限り,その構成に応じた他の効果も奏するはずのものである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 そして,そうであれば,引用発明1に引用発明2を組み合わせて,本件特許発明と同一の構成を導いたことが,本件特許発明と同一の課題の解決を直接の目的とするものでなかったとしても,引用発明1に引用発明2を組み合わせること自体に,他の課題によるものであれ,動機等のいわゆる論理付けがあり,かつ,これを組み合わせることにより,本件特許発明が課題とした点の解決に係る効果を奏することが,当業者において予測可能である限り,本件特許発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。 エ しかるところ,引用発明1のレンチキュラーレンズとして,引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを使用することに,いわゆる論理付けがあることは,上記( )及び( )のとおりである。 23また,紫外線硬化樹脂成形物の紫外線による劣化という課題が従来周知のものであったことは上記イのとおりであり,さらに,審決の一致点の認定のとおり,引用発明1は 「フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキ ,ュラーレンズ基板と,前記レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形スクリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されたことを特徴とするプロジェクションTV用透過形スクリーン」という構成を有するものであるから,紫外線を含む外光はスクリーンの外側から,すなわち,レンチキュラーレンズ基板を透過してフレネルレンズ基板に達するものであることは明らかである。そうすると,この引用発明1のレンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせれば,レンチキュラーレンズ基板を透過してフレネルレンズ基板に達する紫外線が減少することは必然というべきであるから,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件特許発明の課題に係る効果も,当業者が十分予測し得るものである。この点に関し,原告は,フレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できることの系としての,量産の可能,生産性の向上等の効果は,本件特許発明の効果を技術思想として的確に把握していなければ把握されないと主張するが,量産の可能,生産性の向上等の効果は,本件明細書に記載されているものではなく,また,本件明細書に記載された「UV硬化樹脂で成形したフレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる (2頁右欄44〜46行)との記載から 」派生的に導けるというのであれば,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件特許発明の課題に係る効果を十分予測し得る当業者の,予測の範囲内でもあるというべきであり,いずれにせよ,上記主張を採用することはできない。 そうすると,本件特許発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであって,審決の判断に誤りはない。 2結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 高野輝久 |