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関連審決 不服2003-12259
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  汎用品 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10160号 審決取消請求事件
原告株式会社東京アールアンドデー
訴訟代理人弁理 士山名正彦
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人藤井俊明
同 柴沼雅樹
同 岡田孝博
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2003-12259号事件について平成18年2月20日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成4年10月9日,名称を「電動スクータの電源装置」とする発明について特許出願を行い(以下「本願」という。特願平4-271482号。公開特許公報は特開平6-115479号[甲1]),平成15年3月14日付けで明細書の補正(以下「本件補正」という。甲6)をしたが,平成15年5月30日拒絶査定を受けた。
そこで,原告は,平成15年6月30日付けで不服の審判請求を行い,特許庁は,この請求を不服2003-12259号事件として審理したが,平成18年2月20日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決を行い,その謄本は平成18年3月13日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1,2から成り,請求項1は,次のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】「電動スクータの駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する直流安定化電源から成る補助電源との組み合せから成り,前記主電源と駆動装置が直接接続され,前記低電圧で動作する電動スクータの灯火装置,制御装置などは前記補助電源と接続され,主電源が駆動装置の回転,走行が不能な電圧まで下がっても制御装置などへ安定な給電が行われることを特徴とする,電動スクータの電源装置。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は,特開平4-257783号公報(公開日平成4年9月11日。甲2。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)及び実願昭63-110538号(実開平2-30748号)のマイクロフィルム(甲3。以下「刊行物2」という。)に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができないというものである。
イなお,審決が認定した刊行物1発明の内容並びに本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 刊行物1発明の内容「電動二輪車の駆動回路および電動モータ52,コントローラなどへ所望の電圧を供給するバッテリから成り,少なくとも,前記バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され,かつ,コントローラなどへ給電が行われる電動二輪車の電源装置。」(イ) 本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点【一致点】「電動スクータの駆動装置,制御装置などへ所望の電圧を供給する蓄電池から成る電源と,前記電源と駆動装置が直接接続され,制御装置なども電源と接続され,制御装置などへ給電が行われる電動スクータの電源装置」である点【相違点】本願発明は,電動スクータの駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する直流安定化電源から成る補助電源との組み合せから成り,前記低電圧で動作する電動スクータの灯火装置,制御装置などは前記補助電源と接続され,主電源が駆動装置の回転,走行が不能な電圧まで下がっても制御装置などへ安定な給電が行われる構成としているのに対し,刊行物1発明では,このような構成については明らかでない点(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあり,その結果,審決は,本願は刊行物1発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本願発明と刊行物1発明との一致点についての認定の誤り)審決は,刊行物1発明は,「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」た構成であると認め(2頁26行〜27行),これを前提に,本願発明との一致点を認定している。
しかし,刊行物1(甲2)には,「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ているとの記載又は示唆は皆無である。刊行物1には,「バッテリボックス22には内部に複数のバッテリが収容され,これらバッテリが並列あるいは直列に結線されて駆動回路および前述のコントローラ等に接続されている。」との記載があり(段落【0014】),また,「上述の駆動回路は,バッテリのプラス,マイナス電極間に上述の6つのFETをブリッジ状に結線して構成され,各FETがゲートにコントローラから入力する信号に基づきコイル62に交番磁界を生じさせる電流を通電する。そして,コンデンサ68はバッテリのプラス,マイナス電極間で駆動回路64と並列に接続される。」との記載がある(段落【0023】)が,これらの記載は,「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ていると認定するべき根拠となるものではない。
また,刊行物1に「バッテリと駆動回路および電動モータ52」の記載があるからといって,直ちに「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ていると認定するべき根拠は,当業者の技術常識,技術水準を考慮しても認められない。
刊行物1は,せいぜい,電動モータ52はバッテリ及び駆動回路と結線されて電源回路を構成しているのであろうと当業者に推定させるにとどまる。
したがって,「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ている構成は,本願発明に独自の構成であって,刊行物1発明との相違点として認定されるべきである。
なお,被告は,本願明細書(甲1)の段落【0002】の記載を根拠として,刊行物1発明も「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ているものといえると主張する。しかし,本願明細書の段落【0002】の記載全体を精査すれば,ここには,従来は電源装置に補助電源を設けることは行われず,制御装置,灯火装置等に共通する直接配線が行われていた旨の記載があるにすぎない。本願発明は,電源装置を「主電源と,…補助電源との組み合わせ」から成るものとし,その上で「主電源が駆動装置と直接接続され」たものであるから,本願発明と上記段落【0002】記載の従来技術との技術的な意味内容は全く異なる。
また,被告は,乙1(特開昭54-38043号公報)を挙示して,本願発明の「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ている構成は,本願出願前に周知であると主張する。しかし,乙1は,審判の手続において顕在化していなかったから,本訴の段階で審決を維持する理由とすることはできないし,乙1の記載を精査しても,本願発明のように,電源装置を「主電源と,…補助電源との組み合わせ」から成るものとし,その「主電源を駆動装置と直接接続」した構成を,開示又は示唆する記載は一切ないから,やはり被告の主張は理由がない。
イ取消事由2(刊行物1発明と刊行物2に記載された技術事項との間における技術分野の共通性についての認定の誤り)審決は,「刊行物2に記載された電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等は車両に係るものである点で,刊行物1の発明と共通の技術分野に属するものである」(4頁13行〜15行)と認定している。
しかし,刊行物1発明(甲2)は,「車両」に係るものとはいえ,「バッテリと駆動回路および電動モータ52」を備えた「電動二輪車」に関するものである。更に具体的にいえば,「電動モータと伝動機構等を組み付けてパワーユニットを構成し,このパワーユニットの電動モータにバッテリから給電して走行する」(段落【0002】)電動二輪車用パワーユニットに関するものである。
一方,刊行物2(甲3)に記載されているのは,考案の名称「車両のバッテリ保護装置」,「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」(4頁6行〜7行)との記載,「この考案…に係る車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成したものを表し」(6頁1行〜4行)との記載から認められるとおり,いわゆる「車両の補助的装備品」に関する考案である。
そして,刊行物2には「パワーステアリング装置等に電動機が多用され,バッテリおよび発電機に大きな負担が課せられる。」(3頁8行〜10行)との記載があることを勘案すると,刊行物2の「車両」は,「エンジン駆動で走行する車両」と認めるのが,当業者の自然な理解である。
刊行物2の6頁13行〜14行及び15頁19行で引用されている実願昭62-61887号明細書(実開昭63-168161号公報[甲5])の第9図及びこれに関連する明細書の記載(例えば,13頁5行〜15頁19行)を参照すると,刊行物2に記載されているのは,「二輪車」の「パワーステアリング装置」ではなく,四輪車用のものであることを,当業者は容易に理解することができる。
したがって,「刊行物2に記載された電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等は車両に係るものである点で,刊行物1の発明と共通の技術分野に属するものである」との審決の認定は,誤っている。
なお,被告は,刊行物2に記載された技術事項は,「バッテリを電源とする電動機一般に適用可能な技術事項である」と主張する。しかし,発明が生まれるには,「解決課題」の存在が不可欠であり,それがいかなる手段で解決され,その結果,いかなる効果を奏するかが,発明の本質的部分である。
刊行物1発明と刊行物2に記載された技術事項について,上記の「解決課題」及び「解決手段」並びに「奏する効果」を議論することなく,技術の一般論ともいうべき広い概念に立って,刊行物2に記載された技術事項は,「バッテリを電源とする電動機一般に適用可能な技術事項である」として,刊行物1発明と「共通の技術分野」であると結論づけることは誤りである。
刊行物1発明は,「電動二輪車のパワーユニットのケース内部に塵や水が侵入することがなく,正常な冷却風が得られるようにすること」を解決課題とした発明であるのに対し,刊行物2に記載された技術事項は,「従来,一つの設定電圧を基準としてバッテリ電圧が設定電圧以下の場合に電動機への給電を停止し,設定電圧を超えた場合に電動機への給電を行っていたため,バッテリ電圧が設定電圧に近い電圧値の場合は,バッテリ電圧が設定電圧を上下して変化すると,電動機への給電が断接されて使用感が損なわれること」を解決課題としているのであるから,「共通の技術分野に属する」というには相当な根拠を欠く。
ウ取消事由3(刊行物1発明に刊行物2に記載された技術事項を適用することの誤り)審決は「刊行物1の発明における電動スクータの電源装置に刊行物2に記載の前記電源装置に関する技術事項を適用することにより,前記相違点でいう本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたというべきものである。」(4頁15行〜18行)と判断している。
しかし,この判断の前提となる「刊行物2に記載された電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等は車両に係るものである点で,刊行物1の発明と共通の技術分野に属するものである」との認定が誤っていることは,上記イのとおりである。
また,刊行物1発明における「電動スクータの電源装置」は,「電動二輪車の走行駆動装置」に適用されるものであるのに対し,刊行物2に記載された「電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等」は,「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」に適用されるものであるから,「電動機」とはいっても,「電動機」の能力,性能,大きさ,使用態様,設置場所などが全く異なっている。そうすると,必然的に,バッテリ,定電圧回路,制御回路等の構成,能力,性能,使用態様なども全く異なるから,当業者といえども,刊行物2に記載された技術事項を刊行物1発明に適用するという発想,動機付けが生まれる余地はない。
刊行物2に記載された技術事項が上記のようなものであることは,審決認定の記載事項(へ)〜(チ)(2頁30行〜3頁3行)のほか,刊行物2(甲3)の以下の記載から明らかである。
(リ)「電動機への給電を再開するバッテリ電圧を給電を停止するバッテリ電圧より高く設定してチャタリングを防止する。」(3頁3行〜5行)(ヌ)「この考案は,上記欠点に鑑みてなされたもので,バッテリの保護のみならず電動機を安定して駆動することができるバッテリ保護装置を提供することを目的とする。」(4頁11行〜14行)(ル)「電動機への給電はバッテリ電圧が第1の所定値以下に低下すると停止されるが,電動機への給電はバッテリ電圧が第2の所定値を超えなければ再開されず,安定動作領域を拡大でき,電動機を用いた装置の使用感を向上できる。」(5頁13行〜17行)(ヲ)「電動機22は,上述した公報等に記載されているように,操舵力の伝達系に付設され,通電される電流のデューティファクタに応じた操舵補助力を発生して該補助力を伝達系に付与する。」(9頁3行〜6行)(ワ)「すなわち,電動機22の通常制御への移行はバッテリ電圧S が5より高い電圧V を所定時間持続したことを条件として行うため,チャHタリングが防止でき,また,瞬間的なバッテリ電圧の影響も排除できる。」(14頁12行〜16行)(カ)「バッテリ電圧が低い場合の電動機22の消費電力が減少されてバッテリ21の保護が図れる。」(18頁2行〜4行)(ヨ)「上述のように,この実施例では,操舵トルクTおよび操舵速度Nに基き決定された電動機22に通電される電流値(デューティファクSタ)を補正係数aにより補正し,バッテリ電圧が設定電圧V 以下になLると電動機22への給電を停止し,バッテリ電圧がより大きな設定電圧V を超えると電動機22への給電を再開するため,バッテリ電圧の変H動等によるチャタリングが防止されて操舵感の低下が防止できる。」(18頁16行〜19頁4行)したがって,「刊行物1の発明における電動スクータの電源装置に,刊行物2に記載の前記電源装置に関する技術事項を適用することにより,前記相違点でいう本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができた」との審決の判断は,根拠のないものであり,誤っている。
エ 取消事由4(本願発明の効果は予測可能であるという判断の誤り)審決は,「本願発明の効果も,刊行物1の発明及び刊行物2に記載の技術的事項から当業者であれば予測することができる範囲を超えるものではない。」と判断している(4頁19行〜20行)。
しかし,刊行物1に記載された「電動二輪車用パワーユニット」の場合は,電動モータ52とバッテリ及び駆動回路とが結線されて電源回路を構成しているであろうと当業者に推定させるにとどまり,それ以上に能力や性能に関する作用効果の記載はない。
一方,刊行物2に記載された「電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等」は,「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」に適用される技術事項でしかなく,その性能や能力に関しては,上記ウの(ヨ)のような作用効果が記載されているにすぎない。
こうした記載をいかに勘案しても,本願発明が目的とする「内燃機関スクータに比較して見劣りしない高い動力性能を発揮させる」(本願明細書[甲1]の段落【0005】,【0012】),「主電源が駆動装置の走行が不能な電圧にまで下がっても,灯火装置の照度確保と制御装置の安定的動作による暴走事故などの防止が可能」(本願明細書[甲1]の段落【0008】,【0010】,【0012】)という作用効果との関連性がないことは,明白である。本願発明の構成によれば,例えば,夜間に灯火装置が照度を確保しておれば,道路交通上の安全性の確保にすこぶる有益であるし,また,暴走事故の防止などが達成されることは当業者に明白である。
したがって,「本願発明の効果も,刊行物1の発明及び刊行物2に記載の技術的事項から当業者であれば予測することができる範囲を超えるものではない。」との審決の判断は,誤っている。
なお,被告は,乙2〜4(順に,特開平4-165901号公報,特開平4-21326号公報,特開昭62-131703号公報)の記載に基づいて,「駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する補助電源との組み合わせから成り,前記主電源と駆動装置が直接接続され,前記低電圧で動作する灯火装置は前記補助電源と接続され」る構成は,本願出願前に周知の技術であると主張するが,乙2〜4は,審判の手続において顕在化していなかったから,本訴の段階で審決を維持する理由とすることはできない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し本願明細書(甲1)の段落【0002】の従来技術の説明の中で,「電源装置に補助電源を設けることは行なわれず,一箇所に設置した蓄電池から駆動装置等へ直接配線が行われている。」と記載されていることからも明らかなように,「直接接続され」の意味は,「補助電源を介することなく一箇所に設置した蓄電池に接続されること」である。そして,刊行物1(甲2)には補助電源を設ける旨の記載はなく,一箇所に設置した蓄電池に駆動装置が接続されることが記載されているから,刊行物1発明も「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ているものといえる。
してみると,刊行物1発明について「前記バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」と認定している審決に,誤りはない。
仮に,原告主張のとおり「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」ていることが,本願発明と刊行物1発明との相違点であるとしても,電動スクータにおいて駆動装置が補助電源を介することなく一箇所に設置した蓄電池に直接接続されることは,本願出願前に周知である(例えば,特開昭54-38043号公報[乙1]に記載されている「電気モータで駆動する自転車」では,電池E[電源]と電動モータ20[駆動装置]がスイッチ15のみを介して直接接続されている。)から,上記相違点は,当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎないといえる。したがって,上記相違点の看過は,審決の結論に影響を与えるものではない。
(2) 取消事由2及び取消事由3に対し刊行物2(甲3)の「実用新案登録請求の範囲」(1頁5行〜2頁18行),「産業上の利用分野」(2頁20行〜3頁6行),「考案が解決しようとする課題」(3頁17行〜4頁14行),「作用」(5頁11行〜17行),「考案の効果」(19頁15行〜20頁3行)の各記載からみて,刊行物2に記載された技術事項は,「電動パワーステアリング装置」用に限定される技術事項ではなく,また,バッテリへの充電に関する記載も見当たらないから,内燃機関で駆動する四輪車に特有の技術事項ではない。刊行物2に記載された技術事項は,能力,性能,大きさ,使用態様,設置場所などに関係なく,バッテリを電源とする電動機一般に適用可能な技術事項である。
したがって,刊行物2からは,バッテリを電源とする電動機一般に係る技術事項が把握可能であるということができる。
そして,刊行物1発明はバッテリを電源とする電動モータで駆動する二輪車の給電系統に関する技術であり,刊行物2に記載された技術事項もバッテリを電源とする電動モータの給電系統の制御技術として共通の技術分野に属するものであるから,審決の「そうすると,刊行物2に記載された電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等は車両に係るものである点で,刊行物1の発明と共通の技術分野に属するものであることを勘案すると,刊行物1の発明における電動スクータの電源装置に刊行物2に記載の前記電源装置に関する技術事項を適用することにより,前記相違点でいう本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたというべきものである。」(4頁13行〜18行)との判断に誤りはない。
(3) 取消事由4に対し原告が主張する「灯火装置」に関する本願発明の効果は,「駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する補助電源との組み合せから成り,前記主電源と駆動装置が直接接続され,前記低電圧で動作する灯火装置は前記補助電源と接続され」る構成により奏されるものである。
電動スクータの技術分野と同一の技術分野あるいは極めて近接した技術分野といえる電気自動車の技術分野において,「駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する補助電源との組み合せから成り,前記主電源と駆動装置が直接接続され,前記低電圧で動作する灯火装置は前記補助電源と接続され」る構成は,本願出願前周知の技術である(例えば,特開平4-165901号公報[乙2]の2頁左上欄4行〜右下欄13行,特開平4-21326号公報[乙3]の1頁右欄1行〜17行,特開昭62-131703号公報[乙4]の2頁左下欄16行〜右下欄8行参照)。
してみると,刊行物1発明において,その電源装置として,高圧の主電源と低圧の補助電源とを組み合わせることは,ごく普通に採用される技術常識にすぎず,これにより,「灯火装置」に関する本願発明の効果も自ずと生ずるといえる。また,「制御装置」に関する本願発明の効果も,刊行物2に記載された技術的事項の適用により生ずることが明らかである。したがって,審決の「本願発明の効果も,刊行物1の発明及び刊行物2に記載の技術事項から当業者であれば予測することができる範囲を超えるものではない。」(4頁19行〜20行)との判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本願発明と刊行物1発明との一致点についての認定の誤り)について(1)特開平6-115479号公報(甲1),手続補正書(甲6)によると,本件補正後の本願明細書には,前記第3の1(2)のとおり「特許請求の範囲」【請求項1】の記載があるほか,次の記載があることが認められる。
ア 従来の技術「電動スクータに装備される電気装置は,駆動装置(モータ),制御装置,及び灯火装置の3つに大別できる。これらに対する電源装置は,従来,駆動装置,制御装置,灯火装置等に全て共通とされ,各電気装置に対して同じ電圧を供給するのが一般的であった。即ち,電源装置に補助電源を設けることは行なわれず,一箇所に設置した蓄電池から駆動装置等へ直接配線が行われている。」(段落【0002】)イ 発明が解決しようとする課題「従来の電動スクータは,内燃機関スクータと比較して動力性能面で著しく劣っている。その一つの原因は,電源装置の制約である。何故なら,上述のように電動スクータの電気装置は電源を共通に使用している。ところが,市販の電球,リレー等の灯火装置部品などは,公称12V又は24Vの製品が多く,これらの市販汎用部品を採用するためには,スク-タの電源電圧も公称12V又は24Vに制限されてしまう。そうすると,駆動装置(モ-タ)の出力までも制約されてしまい,動力性能の点で内燃機関スクータの動力性能を得られず,電動スクータの普及を妨げている。」(段落【0003】)「電動スクータは,同じく蓄電池を電源とするフォークリフトやゴルフカート等の構内電動車両に比較して高率放電が要求され,電源電圧の変動が激しいのが特徴となっており,蓄電池の放電末期や加速時・登坂時等に大電流を放電するときに電圧が低下してしまう。この電圧低下のために,灯火装置の照度が落ちたり,電圧低下が著しい場合には,制御装置の動作不良を起こして駆動装置の動作が害されるなど種々の問題がある。」(段落【0004】)「従って,本発明の目的は,高い電圧を要求される駆動装置には主電源から公称48Vを供給して充分な動力性能を発揮せしめ,その他の電気装置には補助電源から公称12Vを供給することによって市販汎用部品の採用を可能にし,電圧変動の大きな場合でも制御装置等に安定的に給電できる電動スクータの電源装置を提供することである。」(段落【0005】)ウ 課題を解決するための手段「上記の課題を解決するための手段として,請求項1に記載した発明に係る電動スクータの電源装置は,電動スクータの駆動装置2へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源1と,前記主電源1と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する直流安定化電源から成る補助電源5との組み合せから成り,前記主電源1と駆動装置2が直接接続され,前記低電圧で動作する電動スクータの灯火装置3,制御装置4などは前記補助電源5と接続され,主電源1が駆動装置2の回転,走行が不能な電圧まで下がっても制御装置4などへ安定な給電が行われることを特徴とする。」(段落【0006】)エ 作用「高電圧の主電源1は,駆動装置2へ直接公称48Vを給電して充分な動力性能を発揮させる。他方,補助電源5は,主電源1の電源電圧の変動が激しくても,その影響を受けることなく,灯火装置3,制御装置4などに必要な公称12Vを安定に供給し,灯火装置3には充分な光量を維持させ,制御装置4を安定に動作させる。特に,主電源1が駆動装置2の回転,走行が不能な電圧(許容電圧38Vよりも低い電圧25V)まで下がっても,灯火装置3などへは補助電源5によって安定的に給電が行なわれ,照度の確保あるいは暴走事故の防止などが達成される。しかも,駆動装置以外の電気装置へは,市販汎用部品の公称電圧12Vが供給されるので,市販部品を容易に使用できる。」(段落【0008】)オ 実施例「以下に,本発明の実施例を図1と図2に基づいて説明する。図1は本発明の電源装置を用いた電動スクータの電気装置を示したブロック図であり,図2は電動スクータの側面図である。主電源1は公称48Vの蓄電池であり,公称12Vの蓄電池を4個直列に接続した構成である。主電源1は駆動装置2と直接に接続され,駆動装置2には公称48V仕様のモータが使用されている。従って,このモ-タの大きな駆動力により,この電動スク-タは内燃機関スクータに近い優れた動力性能が得られる。」(段落【0009】)「補助電源としての直流安定化電源5は,主電源1から公称48Vを入力して,安定的に公称12Vに降圧させ,制御装置4及び灯火装置3等の補機類に給電する。このため,走行によって主電源1の電圧変動が大きくても,直流安定化電源5からは安定的に公称12Vが供給されるため,灯火装置3は充分な光量を維持し,制御装置4は安定に動作する。直流安定化電源5には,例えばチョッパ形のスイッチングレギュレータを用いることができ,主電源1からの供給電圧が駆動装置2の許容電圧38Vより低い電圧25Vに下がっても充分に動作する。灯火装置3の照度確保と制御装置4の安定的動作による暴走事故などの防止が可能となる。なお,直流安定化電源5としては,前記のチョッパ形に限定されず,絶縁形のスイッチングレギュレータ,又は電圧降下量を制御するドロッパ形など他の方式の安定化電源回路も採用できる。」(段落【0010】)「直流安定化電源5から定電圧を供給される制御装置4,灯火装置3等の補機類は,公称12V仕様であり,多品種で多数量の自動車用の市販汎用品を有効に使用できる。制御装置4は,主に駆動装置2の制御を行う。」(段落【0011】)カ 発明が奏する効果「本発明に係る電動スクータの電源装置は,主電源1が高い駆動電圧を駆動装置2へ供給し,補助電源5は市販汎用部品に多い低電圧を灯火装置3及び制御装置4などに供給するので,電動スクータであっても内燃機関スクータに近い優れた動力性能が得られ普及に寄与する。しかも灯火装置3等の補機類には公称12V等の市販部品を使用でき,コスト及び製造工程に有利である。そして,灯火装置3,制御装置4などは,主電源1の電圧変動に関係無く,安定した電圧供給をうけるから照度の確保と安定動作による暴走事故の防止などが達成される。」(段落【0012】)(2)以上の本願明細書の記載によると,本願発明は,電動スクータの電源装置に関する発明で,@電動スクータの駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,A主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する直流安定化電源から成る補助電源とを組み合わせ,(a)駆動装置は主電源と直接接続し,(b)灯火装置,制御装置などは補助電源と接続することにより,主電源が駆動装置の回転,走行が不能な電圧まで下がっても制御装置などへ安定な給電が行われることを特徴とするものであることが認められる。
そうすると,本願発明において,「前記主電源と駆動装置が直接接続され」の「直接」の文言は,灯火装置,制御装置などは補助電源を介して主電源と接続されているのに対し,駆動装置は,これらとは異なり,補助電源を介することなく主電源と接続されていることを表すものということができる。
(3) 一方,刊行物1(甲2)には,次の記載がある。
ア 産業上の利用分野「この発明は電動二輪車用パワーユニットの冷却構造に関する。」(段落【0001】)イ 実施例「ヘッドチューブ12には前部にコントロールボックス16が取り付けられ,…コントロールボックス16内にはECU等からなるコントローラが収容され,このコントローラに後述する充電回路,駆動回路,バッテリ等が接続する。」(段落【0012】)「バッテリボックス22には内部に複数のバッテリが収容され,これらバッテリが並列あるいは直列に結線されて駆動回路および前述のコントローラ等に接続されている。」(段落【0014】)「パワースィングユニット50は,図2に示すように,ケース51内に直流電動モータ52…を組み付けて構成される。」(段落【0018】)「電動モータ52は,略有底円筒状のステータハウジング60がケース51の凹部51aに開口を一致させてボルトで固定され,このステータハウジング60と凹部51aの底壁との間で回転軸61が回転自在に支持される。」(段落【0019】)「ステータハウジング60には,凹部51a側(図2中左側)にステータを構成する3つのステータコイル62が固設され,…ステータコイル62は,回転軸61に対し同心状に回転方向等間隔に配置され,駆動回路と接続されている。」(段落【0020】)「上述の駆動回路は,バッテリのプラス,マイナス電極間に上述の6つのFETをブリッジ状に結線して構成され,各FETがゲートにコントローラから入力する信号に基づきコイル62に交番磁界を生じさせる電流を通電する。そして,コンデンサ68はバッテリのプラス,マイナス電極間で駆動回路64と並列に接続される。」(段落【0023】)(4)以上の刊行物1の記載並びに刊行物1の図1及び2によると,刊行物1に記載されている電動二輪車の電源装置は,バッテリ,駆動回路,電動モータ52が接続されたものと認められ,刊行物1には,その間に補助電源を介する旨の記載はないから,刊行物1発明は,「バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され」た構成を有すると認められる。その旨の審決の認定に誤りはない。
したがって,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(刊行物1発明と刊行物2に記載された技術事項との間における技術分野の共通性についての認定の誤り),3(刊行物1発明に刊行物2に記載された技術事項を適用することの誤り)について(1) 刊行物2(甲3)には,次の記載がある。
ア 実用新案登録請求の範囲「(1)車載機器駆動用の電動機を搭載し,該電動機に車載バッテリから給電する車両において,車載のバッテリのバッテリ電圧を検出する電圧検知手段と,該電圧検知手段により検出されたバッテリ電圧が第1の所定値以下か否かを判別する第1の判断手段と,前記電圧検知手段により検出されたバッテリ電圧が前記第1の所定値より大きい第2の所定値を超えているか否かを判別する第2の判断手段と,前記第1の判断手段によりバッテリ電圧が第1の所定値以下と判別されると前記電動機への給電を停止し,前記第2の判断手段によりバッテリ電圧が第2の所定値を超えたと判別されると前記電動機への給電を再開する給電制限手段と,を有することを特徴とする車両のバッテリ保護装置。
(2)前記給電制限手段は,前記バッテリ電圧が第1の所定値以下の状態が所定時間継続した場合に前記電動機への給電を停止することを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保護装置。
(3)前記給電制限手段は,前記電動機への給電を停止する場合に電動機への通電電流を漸減させることを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保護装置。
(4)前記給電制限手段は,前記バッテリ電圧が第2の所定値を超える状態が所定時間継続した場合に前記電動機への給電を再開することを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保護装置。
(5)前記給電制限手段は,前記電動機への給電を再開する場合に電動機への通電電流を漸増させることを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保護装置。」(1頁5行〜2頁18行)イ 産業上の利用分野「この考案は大負荷である電動機への給電をバッテリ電圧に応じ制御する車両のバッテリ保護装置,詳しくは,電動機への給電を再開するバッテリ電圧を給電を停止するバッテリ電圧より高く設定してチャタリングを防止するバッテリ保護装置に関する。」(2頁20行〜3頁6行)ウ 従来の技術「近年の車両においては,パワーステアリング装置等に電動機が多用され,バッテリおよび発電機に大きな負担が課せられる。このため,このような車両では,バッテリ上がりのおそれも大きく,バッテリ保護装置でバッテリの保護が図られる。」(3頁8行〜12行)エ 考案が解決しようとする課題「しかしながら,上述したバッテリ保護装置にあっては,1つの設定電圧を基準としてバッテリ電圧が設定電圧以下の場合に電動機への給電を停止,設定電圧を超える場合に電動機への給電を行うため,バッテリ電圧が設定電圧に近い電圧値の場合他の電装品の作動等の影響を受けてバッテリ電圧が設定電圧を上下して変化すると電動機への給電も断接されて使用感が損なわれるという欠点があった。特に,電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置では,電動機への給電の有無で操舵力が大きく変化し,操舵感の低下のみならずさらに安全上も好ましくない影響が及ぶため,その欠点の解決が不可欠であった。
この考案は,上記欠点に鑑みてなされたもので,バッテリの保護のみならず電動機を安定して駆動することができるバッテリ保護装置を提供することを目的とする。」(3頁17行〜4頁14行)オ 作用「この考案の車両のバッテリ保護装置によれば,電動機への給電はバッテリ電圧が第1の所定値以下に低下すると停止されるが,電動機への給電はバッテリ電圧が第2の所定値を超えなければ再開されず,安定動作領域を拡大でき,電動機を用いた装置の使用感を向上できる。」(5頁11行〜17行)カ 実施例「第1図から第3図はこの考案の一実施例にかかる車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成したものを表し,…」(6頁1行〜4行)「本出願人が先に提出した実願昭62-61887号明細書等にも記載されているように,操舵トルクセセンサ11は差動トランス等で構成されてインターフェイス回路14から信号S ,S を制御回路17に出力し,12同様に,操舵回転センサ12もインタフェイス回路15を介して信号S,S を出力し,また,電圧センサ13は分圧回路等で構成されてインタ34ーフェイス回路16から信号S を制御回路17に出力する。」(6頁153行〜7頁2行)「制御回路17は,A/Dコンバータ回路18およびマイクロコンピュータユニット(MCU)19等から構成され,これら回路18およびユニット19が電源回路20を介してバッテリ21に接続されている。」(7頁3行〜7行)「電動機22は,上述した公報等に記載されているように,操舵力の伝達系に付設され,通電される電流のデューティファクタに応じた操舵補助力を発生して該補助力を伝達系に付与する。」(9頁3行〜6行)「電源回路20は,…定電圧回路31等を有し,…定電圧回路31を介して制御回路17をバッテリ21に接続し,また,ヒューズ回路28,29およびキースイッチ30を介して駆動回路25をバッテリ21に接続する。…定電圧回路31は制御回路17への印加電圧を一定に保持する。」(9頁10行〜20行)「すなわち,電動機22の通常制御への移行はバッテリ電圧S がより5高い電圧V を所定時間持続したことを条件として行うため,チャタリンHグが防止でき,また,瞬間的なバッテリ電圧の影響も排除できる。」(14頁12行〜16行)「なお,操舵トルクセンサ11および操舵回転センサ12の出力特性は本出願人による既提出の明細書で明らかであるため説明を省略する。」(15頁17行〜20行)「バッテリ電圧が低い場合の電動機22の消費電力が減少されてバッテリ21の保護が図れる。」(18頁2行〜4行)「上述のように,この実施例では,操舵トルクTおよび操舵速度N にS基き決定された電動機22に通電される電流値(デューティファクタ)を補正係数aにより補正し,バッテリ電圧が設定電圧V 以下になると電動L機22への給電を停止し,バッテリ電圧がより大きな設定電圧V を超えHると電動機22への給電を再開するため,バッテリ電圧の変動等によるチャタリングが防止されて操舵感の低下が防止できる。」(18頁16行〜19頁4行)キ 考案の効果「以上説明したように,この考案にかかる車両のバッテリ保護装置によれば,大きさが異なる2つの設定電圧を設定し,バッテリ電圧が小さい設定電圧以下になると電動機への給電を停止してバッテリ電圧が大きい設定電圧を超えると電動機への給電を再開するため,バッテリを保護でき,また,チャタリングが防止されて電動機を安全的に運転できる。」(19頁15行〜20頁3行)(2)以上の刊行物2の記載によると,刊行物2においては,@電動機へ駆動電圧を供給するバッテリ21と,Aバッテリ21と接続され,その電源電圧から降下した低電圧を発生する定電圧回路31との組合せから成り,低電圧で動作する制御回路17などは定電圧回路31と接続され,制御回路17などへ安定した給電が行われる構成の電源装置が開示されていると認められる。
(3)そして,刊行物2の記載によると,上記(2)の電源装置は,実施例において開示されているところ,実施例は,車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成したものである。しかし,刊行物2記載の考案が,車両におけるバッテリ保護装置一般を対象としたものであることは,上記(1)のアないしキの記載から明らかであって,上記(2)の電源装置を,電動パワーステアリング装置の制御装置と一体に構成したもの以外の「バッテリを電源とする車両の電動機一般」に用いることができるのであるから,上記(2)の電源装置が用いられる車両と刊行物1発明に係る電動二輪車との技術分野が異なるということはできず,上記(2)の電源装置を刊行物1発明の構成を有する電動スクータに適用することは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想起することができたものというべきである。その旨の審決の判断に誤りはない。
(4)原告は,刊行物2(甲3)に記載されているのは,考案の名称「車両のバッテリ保護装置」,「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」(4頁6行〜7行)との記載,「この考案…に係る車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成したものを表し」(6頁1行〜4行)との記載から認められるとおり,いわゆる「車両の補助的装備品」に関する考案であると主張する。しかし,この主張が認められないことは上記のとおりである。上記の「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」の記載は,上記(1)エのとおり,刊行物2記載の考案が適用される装置の例示として記載されたものにすぎず,刊行物2記載の考案が「パワーステアリング装置」に限られる旨の記載ではない。また,上記の「この考案…に係る車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成したものを表し」の記載は,上記(1)カのとおり,実施例の記載にすぎず,刊行物2記載の考案が「パワーステアリング装置」に限られる旨の記載ではない。
原告は,刊行物2(甲3)には「パワーステアリング装置等に電動機が多用され,バッテリおよび発電機に大きな負担が課せられる。」(3頁8行〜10行)との記載があることを勘案すると,刊行物2の「車両」は,「エンジン駆動で走行する車両」と認めるのが,当業者の自然な理解であると主張する。しかし,上記(1)ウのとおり,「パワーステアリング装置等に電動機が多用され,バッテリおよび発電機に大きな負担が課せられる。」との記載は,従来の技術について記載されたものにすぎず,刊行物2に,同考案が「エンジン駆動で走行する車両」に限られる旨の記載があるとは認められないから,刊行物2の「車両」は「エンジン駆動で走行する車両」に限られると認めることはできず,原告の上記主張は採用することができない。
原告は,刊行物2(甲3)の6頁13行〜14行及び15頁19行で引用されている実願昭62-61887号明細書(実開昭63-168161号公報[甲5])の第9図及びこれに関連する明細書の記載(例えば,13頁5行〜15頁19行)を参照すると,刊行物2に記載されているのは,「二輪車」の「パワーステアリング装置」ではなく,四輪車用のものであることを,当業者は容易に理解することができると主張する。しかし,上記(1)カのとおり,実願昭62-61887号明細書は,車両のバッテリ保護装置を電動パワーステアリング装置の制御装置と一体的に構成した実施例の説明において引用されているにすぎず,刊行物2に,同考案が四輪車用のものである旨の記載があるとは認められないから,刊行物2記載の考案が四輪車用のものに限られると認めることはできず,原告の上記主張は採用することができない。
原告は,刊行物1発明は,「電動二輪車のパワーユニットのケース内部に塵や水が侵入することがなく,正常な冷却風が得られるようにすること」を解決課題とした発明であるのに対し,刊行物2に記載された技術事項は,「従来,一つの設定電圧を基準としてバッテリ電圧が設定電圧以下の場合に電動機への給電を停止し,設定電圧を超えた場合に電動機への給電を行っていたため,バッテリ電圧が設定電圧に近い電圧値の場合は,バッテリ電圧が設定電圧を上下して変化すると,電動機への給電が断接されて使用感が損なわれること」を解決課題としているのであるから,「共通の技術分野に属する」というに相当な根拠を欠くと主張する。確かに,刊行物1(甲2)の「発明が解決しようとする課題」には,「しかしながら,上述の先願にかかる電動二輪車のパワーユニットにあっては,ケースが導風口から直接に外部に開放されるため,冷却風とともに塵や水がケース内に侵入するおそれがあるという問題がある。この発明は,上記問題に鑑みてなされたもので,ケース内部に塵や水が侵入することなく,清浄な冷却風を得られるパワーユニットの冷却構造を提供することを目的としている。」(段落【0005】)と記載されている。しかし,審決は,刊行物1に記載されている冷却構造に関する発明に基づいて本願発明をすることができたと認定しているのではなく,刊行物1に記載されている「電動二輪車の駆動回路および電動モータ52,コントローラなどへ所望の電圧を供給するバッテリから成り,少なくとも,前記バッテリと駆動回路および電動モータ52とが直接接続され,かつ,コントローラなどへ給電が行われる電動二輪車の電源装置。」という発明(刊行物1の発明。審決2頁25行〜28行)に基づいて本願発明をすることができたと認定している。また,刊行物2(甲3)の「考案が解決しようとする課題」には,上記(1)エのとおり,「上述したバッテリ保護装置にあっては,1つの設定電圧を基準としてバッテリ電圧が設定電圧以下の場合に電動機への給電を停止,設定電圧を超える場合に電動機への給電を行うため,バッテリ電圧が設定電圧に近い電圧値の場合他の電装品の作動等の影響を受けてバッテリ電圧が設定電圧を上下して変化すると電動機への給電も断接されて使用感が損なわれるという欠点があった。…この考案は,上記欠点に鑑みてなされたもので,バッテリの保護のみならず電動機を安定して駆動することができるバッテリ保護装置を提供することを目的とする。」との記載がある。しかし,審決は,刊行物2の実施例に記載されている上記(2)の電源装置を刊行物1発明と組み合わせることにより,本願発明を容易に想起することができたと判断している。そして,上記(2)の電源装置と刊行物1発明の技術分野が異なるということができないことは,上記で判断したとおりであって,原告が主張するように刊行物1及び刊行物2に記載された「解決課題」が異なるとしても,上記(2)の電源装置と刊行物1発明の技術分野が異なるということができないとの判断が左右されることはない。
原告は,刊行物1発明における「電動スクータの電源装置」は,「電動二輪車の走行駆動装置」に適用されるものであるのに対し,刊行物2に記載された「電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等」は,「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」に適用されるものであるから,「電動機」とはいっても,「電動機」の能力,性能,大きさ,使用態様,設置場所などが全く異なっており,そうすると,必然的に,バッテリ,定電圧回路,制御回路等の構成,能力,性能,使用態様なども全く異なるから,刊行物2に記載された技術事項を刊行物1発明に適用するという発想,動機付けが生まれる余地はないと主張する。しかし,既に述べたとおり,刊行物2に記載された「電動機,バッテリ,定電圧回路,制御回路等」は「電動機が操舵補助力を発生するパワーステアリング装置」のみならず,「バッテリを電源とする車両の電動機一般」に適用することができるから,原告の上記主張は前提を欠き,採用することかできない。
(5) したがって,取消事由2及び3はいずれも理由がない。
4取消事由4(本願発明の効果は予測可能であるという判断の誤り)について(1)前記3(2)の電源装置を前記刊行物1発明の構成を有する電動スクータに適用した装置は,これまで述べてきた各要素を併せ考慮すると,「電動スクータの駆動装置へ駆動電圧を供給するバッテリと,当該バッテリと接続され,その電源電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する定電圧回路との組み合せから成り,前記バッテリと駆動装置が直接接続され,前記低電圧で動作する制御回路などは前記定電圧回路と接続されたもの」であると認められる。
(2)上記(1)の装置においては,電動スクータの駆動装置へは,定電圧回路から供給されるものより高い,電動スクータを駆動させるに足りる電圧が,バッテリから直接供給されるから,本願発明の「電動スクータの駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源」が存し,電動スクータの駆動装置へは高い駆動電圧が供給されているということができる。
原告は,刊行物1及び2の記載をいかに勘案しても,本願発明が目的とする「内燃機関スクータに比較して見劣りしない高い動力性能を発揮させる」という作用効果との関連性がないことは,明白であると主張する。確かに,前記2(1)カのとおり,本願明細書(甲1)には,「電動スクータであっても内燃機関スクータに近い優れた動力性能が得られ」との記載がある。しかし,本願明細書の「特許請求の範囲」【請求項1】においては,駆動装置へ供給される電圧について,「高い駆動電圧」という記載しかなく,それが「内燃機関スクータに近い」ものであるとの限定はないから,本願発明につき,そのような限定されたものと理解することはできない。上記のとおり,電動スクータの駆動装置へ,定電圧回路から供給されるものよりは高い,電動スクータを駆動させるに足りる電圧が,バッテリから供給されるのであれば,本願発明の「電動スクータの駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源」が存し,電動スクータの駆動装置へは高い駆動電圧が供給されているということができる。
(3)上記(1)の装置においては,「バッテリと接続され,その電源電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する定電圧回路」が存し,「低電圧で動作する制御回路などは定電圧回路と接続され」ているから,本願発明の「前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する直流安定化電源から成る補助電源」が存し,「前記低電圧で動作する電動スクータの制御装置などは前記補助電源と接続され」ているということができる。そして,そのような構成を有することから,必然的に,「主電源が駆動装置の回転,走行が不能な電圧まで下がっても制御装置などへ安定な給電が行われること」になるものということができる。
(4)原告は,本願発明について,「灯火装置の照度確保」に関する効果を主張している。
しかし,本願発明は「前記低電圧で動作する電動スクータの灯火装置,制御装置などは前記補助電源と接続され,」と規定し,「灯火装置」は,「制御装置など」とともに,「低電圧で動作するもの」の例示とされているにすぎないので,「灯火装置」に固有の効果は本願発明の効果ということはできない。
当業者にとってその効果が予測可能であるか否かが問題とされる構成は,「灯火装置」についてではなく,「低電圧で動作する電動スクータの灯火装置,制御装置など」が補助電源と接続されることであるところ,上記(3)で検討したように,上記(1)の装置においては,「灯火装置」と同じく「低電圧で動作するもの」として例示された「制御装置など」が補助電源と接続されているという構成を有することから,「主電源が駆動装置の回転,走行が不能な電圧まで下がっても安定な給電が行われること」になるという効果を奏するのであるから,本願発明の効果は,刊行物1発明及び刊行物2記載の前記3(2)の電源装置を組み合わせてなる上記(1)の構成から当業者が予測可能なものであるということができる。
(5)また,特開平4-165901号公報(乙2)には,電気自動車用電力変換器に関する発明として,「第5図…に示される装置は,所定電圧,例えば200Vの直流電圧を出力する主バッテリ10を備えている。…電気的補機は18で示されており,例えば,…前方照明に係るランプ等がこれに該当する。この電気的補機を駆動するための電圧は例えば14Vであり,主バッテリ10の出力する電圧とは異なっているため,駆動のために補機バッテリ20が用いられる。…主バッテリ10は,DC/DCコンバータ22の入力端に接続されており,DC/DCコンバータ22の出力端には補機バッテリ20及び電気的補機18が並列に接続されている。…DC/DCコンバータ22は,主バッテリ10から出力される電圧を変換して補機バッテリ20を充電しつつ電気的補機18を駆動する。」(2頁左上欄6行〜左下欄14行)との記載があり,特開昭62-131703号公報(乙4)には,電気自動車等の電動車の飛出し防止装置に関する発明として,「この内,前記駆動部2において,8は車載されている電源部を示す。この電源部8は,メインバッテリ10とこのメインバッテリ10の端子電圧を所定電圧に変換するDC/DC変換器12と,このDC/DC変換器12の出力を受けて充電される補助バッテリ14とにより図示の如く構成されている。そして,ここでは,上記メインバッテリ10が前記駆動用モータ4の電源として用いられ,補助バッテリ14がランプ,ホーン等の電装系負荷16の電源として用いられるようになっている。ここで,前記DC/DC変換器12は,その内部のトランスによって1次側と2次側とが絶縁されている。」(2頁左下欄16行〜右下欄8行)との記載があり,これらの記載からすると,電気自動車において,「駆動装置へ高い駆動電圧を供給する蓄電池から成る主電源と,前記主電源と接続されその電圧から降圧した低電圧を安定的に発生する補助電源との組み合せから成り,前記低電圧で動作する灯火装置は前記補助電源と接続され」る構成は,本願出願前に周知の技術であると認められる。以上のような周知技術が存することを勘案すれば,本願発明の「灯火装置の照度確保」に関する効果は,当業者が予測可能なものであるということができる。
なお,原告は,乙2,4は,審判の手続において顕在化していなかったから,本訴の段階で審決を維持する理由とすることはできないと主張する。しかし,乙2,4は,本願出願前の周知技術を立証するために提出されたものである。周知技術は,その技術分野において一般的に知られている技術であるから,審査,審判の手続において提出されていない証拠であっても,訴訟において,それを立証するための証拠を提出することができるというべきであって(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照),原告の上記主張は採用できない。
(6)原告は,刊行物1及び2の記載をいかに勘案しても,本願発明が目的とする「主電源が駆動装置の走行が不能な電圧にまで下がっても,灯火装置の照度確保と制御装置の安定的動作による暴走事故などの防止が可能」という作用効果との関連性がないことは,明白であると主張する。しかし,この主張を採用することができないことは,上記(3)〜(5)で述べたところから明らかである。
(7)したがって,「本願発明の効果も,刊行物1の発明及び刊行物2に記載の技術的事項から当業者であれば予測することができる範囲を超えるものではない。」との審決の判断に誤りはなく,取消事由4は理由がない。
5以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願は,特許法29条2項に反し特許を受けることができないから,その旨の審決の判断に誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一
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