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関連審決 不服2004-3971
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10111審決取消請求事件 判例 特許
平成16行ケ83審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10470審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10185審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10196審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  物の発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  化学構造 /  優先権 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  特許協力条約 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10132号 審決取消請求事件
原告協 和化学工業株式会社
訴訟代理人弁理 士大島正孝
同 白石泰三
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人高原慎太郎
同 井出隆一
同 徳永英男
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-3971号事件について平成18年2月10日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたので,その審決の取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因 特許庁における手続の経緯原告は,平成10年(1998年)7月2日,名称を「耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物および成形品」とする発明について,平成9年7月4日に日本国内においてした特許出願に基づく優先権を主張して,特許協力条約に基づく国際特許出願をし(以下「本願」という。),平成11年2月22日に特許庁に対し「特許法184条の5第1項の規定による書面」を提出した(特願平11-506876号)が,平成16年1月23日拒絶査定を受けたので,平成16年2月27日付けで不服の審判請求を行なった。
特許庁は,上記請求を不服2004-3971号事件として審理し,その中で原告は,平成16年3月25日付けで特許請求の範囲変更する補正(以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁は,平成18年2月10日「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決を行い,その審決謄本は平成18年2月27日原告に送達された。
 発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜13から成り,そのうち,請求項1(以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)は,次のとおりである(以下,次の化学構造式(1)を「化学構造式(1)」,(i)〜(iv)を「要件(i)〜(iv)」ということがある。)。
「(A)合成樹脂100重量部に対し,(B)下記(i)〜(iv)により定義付けられたハイドロタルサイト粒子0.001〜10重量部を配合した耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物。
(i)ハイドロタルサイト粒子は下記化学構造式(1)で表される。
{(Mg) (Zn) }(Al) (OH) (A)・mH Oyz1-xx x/n 2 2n-(1)但し,式中,Aは,n価のアニオンを示し,x,y,zおよびmは下記n-条件を満足する値を示す。
0.1≦x≦0.5,y+z=1,0.5≦y≦10≦z≦0.5,0≦m<1(ii)ハイドロタルサイト粒子は,レーザー回折散乱法により測定された平均2次粒子径が2μm以下であり,(iii)ハイドロタルサイト粒子は,BET法により測定された比表面積が1〜30m /gであり,かつ2(iv)ハイドロタルサイト粒子は,鉄化合物およびマンガン化合物を合計で金属(Fe+Mn)に換算して,0.02重量%以下含有している。」 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は,下記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたから,特許法29条2項により特許を受けることができないというものである。
記 特開昭55-80447号公報(甲2。以下「刊行物2」という。) 「高分子論文集」Vol.42,No.5,351頁〜354頁(1985年5月。甲6。以下「刊行物6」という。) 高木謙行・佐々木平三編著「プラスチック材料講座[7]ポリプロピレン樹脂」日刊工業新聞社112頁〜117頁(昭和44年11月30日初版発行。甲7。以下「刊行物7」という。)イなお,審決が認定した刊行物2に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)の内容,並びに本願発明と刊行物2発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
 刊行物2発明の内容「重合用触媒及び/又は後ハロゲン化に由来するハロゲン含有ポリプロピレン100重量部当り,BET比表面積が30m /g以下で平均22次粒子径が1μ以下の,下記式で表わされるハイドロタルサイト類を約0.01〜約5重量部含有してなる発錆性ないし劣化もしくは着色性の防止されたポリプロピレン組成物式: MgAl (OH) A・mH O1-xx x/n 2 2n-(但し式中,0<x≦0.5(…),Aはn価のアニオン示し,mはn-正の数である)」 本願発明と刊行物2発明との一致点及び相違点【一致点】「(A)合成樹脂100重量部に対し,(B)下記(ii)(iii)により定義付けられたハイドロタルサイト粒子0.01〜5重量部を配合した合成樹脂組成物。
(ii)ハイドロタルサイト粒子は,平均2次粒子径が1μm以下であり,(iii)ハイドロタルサイト粒子は,BET法により測定された比表面積が1〜30m /gである」点で一致し,そのハイドロタルサイト2粒子の組成式においても,刊行物2のハイドロタルサイト類は,本願発明の化学構造式(1)においても重複している。
【】相違点1本願発明の平均2次粒子径はレーザー回折散乱法により測定されたものであるのに対し,刊行物2には測定方法について記載はない点。
【相違点2】本願発明のハイドロタルサイト粒子は鉄化合物およびマンガン化合物を合計で金属(Fe+Mn)に換算して,0.02重量%以下含有しており,かつ,本願発明の合成樹脂組成物は耐熱劣化性を有するのに対して,刊行物2には対応する記載はない点。
 審決の取消事由しかしながら,審決の判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願発明と刊行物2発明とを対比判断したことの誤り)刊行物2発明は,発錆性ないし劣化もしくは着色性の防止されたポリプロピレン組成物に関する発明である。これに対し,本願発明は,刊行物2発明とは異なり,耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物に関する発明である。耐熱劣化性は,本願発明の合成樹脂組成物の単なる効果の一つではなく,特許請求の範囲に記載された必須構成要件であり,使用されるハイドロタルサイト粒子を定義付けする要件(i)〜(iv)のすべてを充足することによって達成される性能である。このことは,本願明細書(甲1の1)の5頁8行〜17行に,「ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が多い程,配合した樹脂の熱安定性を著しく低下させる原因となる。しかし,鉄化合物およびマンガン化合物の合計量が前記範囲を満足するのみで樹脂の熱安定性が優れ,樹脂の物性低下が損なわれないというわけではなく,その上に,前記平均2次粒子径および比表面積の値が前記範囲を満足することが必要である。ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径が前記値よりも大きくなる程,分散が不十分となり樹脂中の遊離,ハロゲンとの中和能力が劣り,熱安定性が悪く,機械的強度が低下したり,外観不良という問題が生じてくる。またハイドロタルサイト粒子のBET法により測定された比表面積が30m /gを越えると樹2脂に対する分散性が低下し,熱安定性も低くなる。」と記載されていることから明らかである。このように,耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物と,使用するハイドロタルサイト粒子が要件(i)〜(iv)のすべてを充足することとは切り離して考えられないのである。
本願明細書の比較例5の樹脂組成物は,参考例7のハイドロタルサイト粒子を用いたものである。このハイドロタルサイト粒子は,本願明細書19頁の表に記載されているとおり,(Fe+Mn)含有量が0.0029重量%であって,本願発明の要件(iv)を満足しているが,BET比表面積及び平均二次粒子径がそれぞれ60.0m /g及び4.7μmであ2って,本願発明の要件(ii),(iii)を満足していない。このハイドロタルサイト粒子を用いた比較例5の樹脂組成物は,本願明細書21頁の上の表に示されているように,耐熱劣化性及び耐衝撃性が,本願明細書の要件(i)〜(iv)を充足するハイドロタルサイト粒子を用いた実施例1,2の樹脂組成物よりも明らかに劣っている。このことは,耐熱劣化性と,使用するハイドロタルサイト粒子が要件(i)〜(iv)のすべてを充足することが密接不可分の関係にあることを示している。
してみれば,審決において,本願発明で用いられるハイドロタルサイト粒子を定義付けする要件(i)〜(iv)のうち要件(i)〜(iii)のみを充足する,耐熱劣化性とは無縁の発錆性ないし劣化もしくは着色性を防止した刊行物2発明のポリプロピレン組成物を,本願発明の合成樹脂組成物と対比しているのは,本願発明を誤認し,耐熱劣化性と要件(i)〜(iv)との密接不可分の関係を分断しているに等しく,対比判断として許されるものではない。このような形式的な対比は,本願発明の技術的思想を無視したものであるから,形式的に,【相違点1】及び【相違点2】が存在しても,そのような相違点は本願発明と刊行物2発明との実質的な相違点とはいえない。したがって,審決は,本願発明を誤認し,刊行物2発明との誤った対比判断をしたものである。
なお,被告は,本願明細書に,本願発明の合成樹脂組成物の性能の1つとしてハイドロタルサイト粒子の高分散性が記載され,また,刊行物2にも,ハイドロタルサイトの均一分散性が記載されていることを取り上げて,本願発明と刊行物2発明とは解決すべき技術的課題が根本的に相違するものでないと主張する。しかし,本願発明で解決しようとする技術的課題は本願発明により初めて解決される新規な技術的課題であるから,刊行物2において既に解決された技術的課題である(均一)分散性は,本願発明の解決しようとする技術的課題とはいえない。同様に,ハロゲンに基づく樹脂の劣化についても,刊行物2で既に解決されており,本願発明で解決しようとする技術的課題ではない。本願発明で解決しようとする技術的課題は,上記のとおり,ハイドロタルサイト粒子が要件(i)〜(iv)を満足することによって耐熱劣化性を有することであり,これは,上記のとおり,刊行物2発明の技術的課題とは全く異なっている。
イ取消事由2(本願発明と刊行物2発明との相違点についての判断の誤り) 【相違点1】につき審決は,【相違点1】について,「粒子の平均2次粒子径の測定方法として,レーザー回折散乱法は当業界において慣用されているものであるから,…刊行物2に記載された発明において,平均2次粒子径をレーザー回折散乱法を用いて測定した値とすることは,当業者が適宜なし得る事項にすぎない」と判断している(4頁下6行〜5頁1行)。
しかし,粒子の平均2次粒子径の測定方法としては,レーザー回折散乱法の他に種々の測定方法が当業界で慣用されていたことは,例えば,日本顔料技術協会編「最新顔料便覧」(昭和52年1月10日発行)本文73頁及び付表8頁(甲8)に記載されているとおり,明らかであるから,慣用されているというだけで,本願発明における平均2次粒子径をレーザー回折散乱法を用いて測定した値とすることが当業者が適宜なし得る事項とはいえない。
本願発明では,レーザー回折散乱法という特定の方法で測定した平均2次粒子径が2μm以下であることが,熱安定性の悪化,機械的強度の低下,外観不良を防止するために重要なのであって,慣用されている方法であればどの方法で測定した平均2次粒子径であってもよいというわけではない。同じ粒子を測定しても,測定法によって平均粒子径が異なることは上記甲8に記載されているとおり,よく知られている。
以上のとおり,審決には,【相違点1】についての判断に誤りがある。
 【相違点2】につき審決は,【相違点2】について,刊行物7及び刊行物6を引用して,「樹脂の熱劣化が少ない方が良いことは当然であるから,無機フィラーの一種であるハイドロタルサイト類を添加したポリプロピレン樹脂組成物である刊行物2に記載された発明において,当該樹脂の熱劣化を低減させるためにハイドロタルサイト類として鉄とマンガンの含有量がなるべく少ないものを用いることは,当業者が容易に想到することができたものである。」と判断している(5頁10行〜14行)。
しかし,本願発明の耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物は,取消理由1で述べたとおり,使用するハイドロタルサイト粒子が要件(i)〜(iv)をすべて充足することと密接不可分の関係にあるから,要件(iv)のみを切り離して【相違点2】としてその容易想到性を判断することは,本願発明の技術的思想を無視したも同然で,その手法は根本的に誤っている。
しかも,刊行物6及び刊行物7には,本願発明で使用するハイドロタルサイト粒子を定義付ける要件(i)〜(iv)のうち要件(i)〜(iii)が要件(iv)と一緒になって,耐熱劣化性に影響することは何ら記載も示唆もされていないから,刊行物6及び刊行物7に基づいて上記審決のような判断をすることはできない。
また,刊行物6は,重質炭酸カルシウム中の鉄やマンガン等の重金属がポリプロピレン樹脂の熱劣化の原因であることを開示しているものの,熱劣化は,100℃,120℃及び140℃での引張破断伸び(Fig.1)並びに140℃での流出量(Fig.2)による評価であり(甲6の352頁,Fig.1,Fig.2),刊行物7は,重金属のポリプロピレンに対する熱劣化に対する影響を開示しているものの,熱劣化は,100℃〜約155℃における折曲げによる劣化検出法で50%破壊するまでの寿命(時間)による評価である(甲7の113頁8行〜10行,図5・21,5・22及び表5・9)。これに対し,本願発明の耐熱劣化性は,5回押出しMFR(g/10min)及びノッチ付IDOD(kg-cm/cm)により,260℃で評価している。したがって,耐熱劣化性のみを取り上げても,刊行物6,7の記載は,ハイドロタルサイト粒子の(Fe+Mn)含有量を0.02重量%以下とすることにより260℃という高温度において耐熱劣化性が臨界的に優れることを何ら教示するものではない。
以上のとおり,審決には,【相違点2】についての判断に誤りがある。
ウ 取消事由3(本願発明が奏する効果についての判断の誤り)審決は,「本願発明において(Fe+Mn)の量を0.02重量%以下としたことにより合成樹脂の耐熱劣化性が向上するという効果は,刊行物6,7の記載から当業者が予測可能な範囲内のものであり,その数値に臨界的な意義も見出せない。」と判断している(5頁19行〜22行)。
しかし,本願発明の合成樹脂組成物の実施態様である本願明細書(甲1の1)の実施例1,2及び比較例1〜4には,別紙「表A」に示した(Fe+Mn)含有量のハイドロタルサイト粒子及びそれを用いて得られた合成樹脂組成物の耐熱劣化性が「表A」に示した値であることが記載されている。
この「表A」のハイドロタルサイト粒子の(Fe+Mn)含有量と,耐熱劣化性(5回押出しMFR,g/10min)の値及び耐衝撃性(ノッチ付IZOD,kg-cm/cm)の値との関係を図示したのが別紙「図A」である(各点を結ぶ線は原告が加筆した。)。なお,「表A」中のすべてのハイドロタルサイト粒子は,要件(i)〜(iii)を満足しており,実施例1,2では(Fe+Mn)含有量が要件(iv)を満足しており,比較例1〜4では(Fe+Mn)含有量が要件(iv)を満足していない。
「図A」からよく理解できるように,耐熱劣化性の指標であるMFRの値(値が小さいほど耐熱劣化性が良好である)とノッチ付IZODの値(値が大きいほど耐熱劣化性が良好である)とは,いずれも(Fe+Mn)含有量がほぼ0.02重量%の点を急勾配のほぼ中間値(図中,×印で表示)として急激に変化していることがわかる。したがって,(Fe+Mn)含有量がほぼ0.02重量%を境にして優れた効果が達成できることは明らかであり,0.02重量%という値に臨界的な意義がないとはいえない。
審決は,本願発明における(Fe+Mn)含有量を0.02重量%以下としたことによる,以上のような優れた効果を見落としている。
仮に,本願発明が審決の判断どおり刊行物2発明との対比で【相違点1】及び【相違点2】があり,【相違点1】は当業者が適宜なし得る事項であり,また,【相違点2】は,刊行物6,7から当業者が容易に想到することができたとしても,本願発明には,以上のような優れた効果があるから,本願発明は,刊行物2,6及び7から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,刊行物6,7は,前記イで述べたとおり,本願発明の組成物の耐熱劣化性を判断できるものではないから,刊行物6,7に記載された一般論がすべて否定されないとしても,本願発明の組成物の優れた耐熱劣化性を予測させるものではない。このように審決には,本願発明が奏する効,果についての判断に誤りがある。
なお,被告は,「図A」の各点を結ぶ曲線は原告が恣意的に付加したものであって,0.0076と0.0275の間には測定値がなく,この間の各測定値が,原告の作成した曲線のようになるとはいえないと主張するが,「図A」の曲線は,隣り合う実際の測定値間を,結合した全体の形が不自然な曲線とならないように順次結合したものであって,原告が恣意的に付加したものではないし,0.0076と0.0275と結ぶ曲線は他の測定値との関係から「図A」に示した曲線とするのが自然である。被告は,「図A」に示した曲線と異なる曲線を示しているわけでもない。
また,被告は,「図A」に示された測定値のハイドロタルサイト粒子(実施例1,2,比較例1〜4に用いられた参考例1〜6のハイドロタルサイト粒子)に関し,「このような臨界的意義を示すためには,他の条件を同じか同程度として,要件(iv)のみの値による差異を明確にする等の手法によるのが相当というべきである」と主張している。しかしながら,参考例1〜6のハイドロタルサイト粒子は,別紙「表B」のとおり,化学構造式は明らかに類似しており,平均二次粒子径も比表面積も,要件(ii),(iii)で特定する範囲内で大幅に異なるほどのものでもない。このような参考例1〜6のハイドロタルサイト粒子により要件(iv)についての臨界的意義が明らかにされたということは,このような化学構造式や二次粒子径や比表面積の若干の違いが,臨界的意義の評価に不当なものでないことを示しているといえる。
さらに,被告は,比較例7で用いられた参考例9のハイドロタルサイト粒子は,要件(i)〜(iv)を満たしているにもかかわらず,ノッチ付きIZODで劣っていると主張しているが,このハイドロタルサイト粒子についての記載不備は,本願明細書(甲1の1)の記載(4頁22行)に2基づいて,要件(iii)のBET法による比表面積の上限値を20m/gに訂正すれば解消できるから,比較例7の存在は本願発明の優れた効果を否定するようなものではない。
2 請求原因に対する認否請求原因 ないし  の各事実は認めるが,  は争う。
3被告の反論 取消事由1に対し審決は,刊行物2には,前記第3の1 イ  の発明が記載されていると認定して,これと本願発明とを対比しているのであり,このような判断手法については何らの誤りもない。そして,発明の課題を異にするものは対比すべきでないなどとする原告の主張は全く妥当性を欠くものであるが,本願発明と刊行物2発明とが課題においても根本的に相違するものではないことを,以下に述べる。
原告が指摘した本願明細書(甲1の1)5頁12行〜17行には,「ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径が前記値よりも大きくなる程,分散が不十分となり,樹脂中の遊離,ハロゲンとの中和能力が劣り,熱安定性が悪く,機械的強度が低下したり,外観不良という問題が生じてくる。また,ハイドロタルサイト粒子のBET法により測定された比表面積が30m /g2を越えると樹脂に対する分散性が低下し,熱安定性も低くなる。」と記載されている。この記載は,本願発明の要件(ii)の粒子径及び要件(iii)のBET比表面積はいずれも主として分散性に関連しており,これらの値が範囲外のものとなると,分散性が不十分あるいは低下し,結果的に熱安定性を含めた他の特性に影響が生じることを述べたものである。原告が主張する比較例5についても,要件(ii),(iii)を満たさないため,分散性の悪いものとなっており(本願明細書21頁の上の表),その結果として耐熱劣化性が劣るものとなっていると解すべきである。
さらに,本願明細書1頁4行〜9行に,「本発明は…に関する。さらに詳しくは,合成樹脂の加熱成形加工時における熱劣化が殆ど無く,樹脂に対して卓越した耐熱劣化性および高分散性,非凝集性,成形適正,耐衝撃強度の如き優れた物理的性質を付与できる特定性状のハイドロタルサイト粒子よりなる耐熱劣化剤並びにそれを一定割合配合した樹脂組成物に関する。」との記載があることや,実施例や比較例の評価として耐熱劣化性の他に分散性を検討していることからみても,本願発明において耐熱劣化性だけではなく,分散性もハイドロタルサイトの性能を評価する指標となっていることは明らかである。
また,本願明細書10頁1行〜14行に「これらの熱可塑性樹脂のうち,好ましい例としては,ハイドロタルサイト粒子による熱劣化防止効果および機械的強度保持特性の優れたポリオレフィンまたはその共重合体またはハロゲン含有樹脂であり,…。これらポリオレフィンは,重合触媒に由来するハロゲンを含有しているが,そのハロゲンに起因する熱劣化に対して本発明の組成物はきわめて効果的である。」との記載があり,本願発明はハロゲンに起因する熱劣化についても課題としている。
原告は,審決は耐熱劣化性とは無縁の発錆性ないし劣化もしくは着色性を防止した刊行物2発明のポリプロピレン組成物を本願発明と対比しており,このような対比判断は本願発明の誤認に基づくものである旨の主張をしている。しかし,刊行物2(甲2)には,「市場で容易に入手されるハイドロタルサイト類は,少量の配合であっても,ハロゲン含有ポリオレフィン類の発錆性ないし劣化もしくは着色性防止量で配合すると,防止効果の再現性が悪く,実用的に利用し難いこと,更に,ポリオレフィン類中への均一分散不良性,配合された組成物の成形時加熱流動性の悪化,成形品外観の悪化などの点でトラブルを生じ,発錆性ないし劣化もしくは着色性防止効果の点でも,上記防止効果の再現性の悪さと共に,なお改善すべきものであることがわかった。」(3頁右下欄7行〜17行),「本発明の目的は重合用触媒及び/又は後ハロゲン化に由来するハロゲン含有ポリオレフィン類の発錆性ないし劣化もしくは着色性を防止すると共に,該防止効果を再現性良く,且つ均一分散不良性,成形時熱流動性の悪さ,成形品外観の悪化などのトラブルを伴うことなしに達成できる防止方法ならびに組成物を提供するにある。」(4頁左下欄10行〜16行)との記載があり,刊行物2発明は,ハロゲンによる樹脂の劣化防止とともに,ハイドロタルサイトの均一分散性をも解決課題とするものである。そして,樹脂中の配合剤の分散性が悪ければ,樹脂組成物における他の特性にも好ましくない影響が及ぶことは当業者であれば容易に予測しうるところである。
審決においては,本願発明と刊行物2発明とを,ともにハロゲンに基づく樹脂の劣化防止及び均一分散性を目的とするハイドロタルサイト含有合成樹脂組成物であるとして対比しているのであり,本願発明と刊行物2発明のいずれをも誤認して対比しているものではない。
 取消事由2に対しア 【相違点1】につき甲8には,粒子径の測定法には種々の方法があることが記載されているが,平均2次粒子径の測定方法に限られた記載がなされているわけではない。
測定する粒子径の大きさに応じて適切な測定方法を選択することは技術常識であり,適切な測定方法であっても方法により多少の測定値の差が生ずることは当業者に認識されているところである。
そして,本願発明に係るハイドロタルサイトの2次粒子径程度の粒子径の測定方法として,レーザー回折散乱法は,甲3〜5を例として提示したように,慣用されている手段であり,また,本願明細書をみても適切な測定方法のうちレーザー回折散乱法で測定しなければならない特段の事情が存するとも解せないから,この方法を本願発明に係るハイドロタルサイトの粒子径の測定方法として用いることは,当業者が適宜なし得る範囲のものにすぎない。
イ 【相違点2】につき前記 で述べたように,本願発明の要件(i)〜(iv)のうち(ii),(iii)は,主として樹脂への分散性に関するものであり,比較例5は分散性が好ましくない結果,樹脂組成物の他の特性(耐熱劣化性)に悪影響が生じているものである。
一方,要件(iv)は,本願明細書(甲1の1)3頁3行〜8行の「原料から混入し,また製造工程から混入するハイドロタイサイトに含まれる多くの種類の不純物において,樹脂の成形加工時の熱劣化,物性低下および成形品の熱劣化に影響を及ぼす成分およびその量について研究を進めたところ,種々の不純物中,鉄化合物およびマンガン化合物が微量に存在すると,それらが夾雑物としてばかりでなく,固溶体として含有されている場合でさえも,樹脂の熱劣化に影響を与えることが見出された。」との記載,5頁8行〜9行の「ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が多い程,配合した樹脂の熱安定性を著しく低下させる原因となる。」との記載,並びに19頁上の表及び21頁上の表の結果によると,要件(iv)を満たさない比較例1〜4(参考例2〜3,5〜6)は,耐熱劣化性に劣ることからすると,要件(iv)は,主として耐熱劣化性に関連したものである。
原告は,要件(i)〜(iv)は耐熱劣化性について密接不可分な要件と主張しているが,耐熱劣化性の効果への各要件の関連を主張しているだけであり,各要件間に不可分で連動した関連があるわけでもない。審決は,各要件ごとに目的や達成される効果の観点から新規性容易想到性の判断するとの通常の判断手法に基づいて,要件(ii),(iii)については主として分散性の観点から,一方,要件(iv)については耐熱劣化性の観点から判断したものであり,その判断手法に誤りはない。
さらに,審決は,上記判断手法に基づいて,要件(iv)を耐熱劣化性の観点から検討し,刊行物6に,無機フィラーの1種である重質炭酸カルシウム中の鉄やマンガンの重金属がポリプロピレン樹脂の熱劣化の原因となることが記載されていること,刊行物7に,鉄やマンガン等の重金属がポリプロピレン樹脂の熱酸化劣化に影響する因子であることが記載されていることに基づいて,無機フィラーの1種であるハイドロタルサイトに関する鉄やマンガンの因子を低くすることについての容易想到性の判断をしており,この判断が誤りとはいえない。
 取消事由3に対し別紙「図A」について,(Fe+Mn)の含有量に対して,耐熱劣化性の指標とされるMFRの値(図中●)及びノッチ付きIZODの値(図中▲)が,各点の測定値をとることは理解できるが,各点を結ぶ曲線は原告が恣意的に付加したものであって,特に(Fe+Mn)の含有量が0.0076と0.0275の間には測定値がなく,この間の各測定値が,原告の作成した曲線のようになるとはいえないから,原告が主張するように0.02重量%に臨界的な意義があるということはできない。
また,実施例1,2,比較例1〜4のハイドロタルサイトは,本願発明の要件(i)のハイドロタルサイトの組成も,要件(ii),(iii)の値も異なるものであるから,これらの条件の違いを無視して,(Fe+Mn)の含有量の数値のみを指標として耐熱劣化性を判断することが適切とはいえないし,耐熱劣化性において要件(i)〜(iv)が密接不可分な要件であるとの原告の主張にも反するものである。このような臨界的意義を示すためには,他の条件を同じか同程度として,要件(iv)のみの値による差異を明確にする等の手法によるのが相当というべきである。
さらに,本願明細書(甲1の1)19頁の参考例9は,要件(i)〜(iv)を満たしているハイドロタルサイトであるにもかかわらず,それを用いた比較例7の結果(21頁の上の表)をみると,耐熱劣化性の指標であるノッチ付きIZODが劣るから,本願発明の要件を満たすハイドロタルサイトが優れた効果を有しているとはいえない。
その他に,本願明細書中に,(Fe+Mn)の含有量が0.02重量%であることに臨界的意義があることを認めるに足りる記載はない。
したがって,(Fe+Mn)の含有量が0.02重量%であることに臨界的な意義があり,刊行物6,7は本願発明の耐熱劣化性を予測させないという原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断1請求原因 (特許庁における手続の経緯),  (発明の内容),  (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2審決の判断手法について各取消事由について判断するに先立ち,審決の判断手法の当否について,まず検討する。
 本願明細書(甲1の1)の記載につきア 本願明細書(甲1の1)には,次の記載がある。
 「本発明は,特定の性状を有するハイドロタルサイト粒子よりなる耐熱劣化剤およびそれを一定割合配合した耐熱劣化性を有する合成樹脂組成物に関する。さらに詳しくは,合成樹脂の加熱成形加工時における熱劣化が殆ど無く,樹脂に対して卓越した耐熱劣化性および高分散性,非凝集性,成形適正,耐衝撃強度の如き優れた物理的性質を付与できる特定性状のハイドロタルサイト粒子よりなる耐熱劣化剤並びにそれを一定割合配合した樹脂組成物に関する。
さらに具体的には,本発明は,耐熱劣化剤すなわち熱安定剤または受酸剤としてハイドロタルサイト粒子を配合した樹脂組成物および成形品において,成形時または使用時に熱に対して樹脂の分解による物理的強度の低下が極めて少ない樹脂組成物および成形品に関する。」(1頁4行〜13行) 「触媒成分および/または担体成分としてハロゲン含有化合物を用いたチーグラー型重合用触媒により製造されたオレフィン類の重合体や共重合体あるいは後塩素化ポリエチレン等の如く,重合用触媒および/または後ハロゲン化に由来するハロゲンを含有するポリオレフィン類(本発明においてはホモポリマーのほかに各種共重合体類を包含する呼称である),および硫酸,三フッ化ホウ素,四塩化スズ,塩酸の如きハロゲンおよび/または酸性物質を含有する触媒を用いて製造されたAS,ABS,ポリアクリレート,ポリメタクリレート等のハロゲンおよび/または酸性物質含有熱可塑性樹脂,塩化ビニリデン重合体もしくは共重合体,塩化ビニル樹脂を含有するポリマーブレンドなどの如きハロゲン含有熱可塑性樹脂,後塩素化塩化ビニル重合体もしくは共重合体の如きハロゲン含有熱可塑性樹脂,これらを含有するブレンド樹脂等の触媒および/または単量体および/または後ハロゲン化に由来するハロゲンおよび/または酸性物質含有の熱可塑性樹脂が,その含有するハロゲンおよび/または酸性物質のために,成形時に成形機や成形用金型の金属部分に腐食ないし発錆を起こしたり,特に熱あるいは紫外線によって得られた樹脂あるいはその成形品に劣化を生じたりする熱および紫外線劣化性のトラブルを防止するためにハイドロタルサイト粒子が安定剤として開発された(例えば米国特許第4347353号および特公昭58-46146号公報参照)。
しかし,前記ハイドロタルサイト粒子は,樹脂に配合して耐熱劣化が優れた成形品として適した性質を有しているが,最近の要求特性の増大と共に,ハイドロタルサイト粒子の樹脂への配合量が少ないにもかかわらず,なお解決すべき問題があることが判明してきた。
すなわち,ハイドロタルサイト粒子の樹脂に対する熱や紫外線による優れた安定性が激しく要求されるようになってきた。
そこで本発明者らは,この要求を満足させるため,さらに研究を進めたところ,ハイドロタルサイト粒子中の不純物としての特定の金属化合物量および粒子の形状が相互に熱劣化および物性に影響を与えることが判明し,これらを特定の値とすることによって,優れた耐熱劣化剤となりうることがわかった。
樹脂添加物としてのハイドロタルサイト粒子は,工業的規模で大量に生産されているが,その製造過程において,主としてその原料中に存在する種々の不純物に起因して,その不純物がハイドロタルサイト粒子中に固溶体あるいは夾雑物として混入している。
すなわち,ハイドロタルサイト粒子は,工業的にはマグネシウム原料,アルミニウム原料およびアルカリ原料を主原料として製造され,これら原料は大部分天然資源もしくはその加工処理物に依存している。そのため,これら原料中は,多くの種類の金属化合物や非金属化合物を含有しており,これら原料はコストが許容する範囲で精製して使用されるが,それでも多くの種類の不純物の混入は避けることができない。
また,その製造工程において,反応装置,貯蔵容器,輪送配管,晶折器および粉砕機などの各種装置の材質に起因する金属の溶出および混入は少なからず起こる。
発明者らは,原料から混入し,また製造工程から混入するハイドロタルサイトに含まれる多くの種類の不純物において,樹脂の成形加工時の熱劣化,物性低下および成形品の熱劣化に影響を及ぼす成分およびその量について研究を進めたところ,種々の不純物中,鉄化合物およびマンガン化合物が微量存在すると,それらが夾雑物としてばかりでなく,固溶体として含有されている場合でさえも,樹脂の熱劣化に影響を与えることが見出された。
その上ハイドロタルサイト粒子は,これら特定の不純物が熱劣化に顕著な作用を発現するには,その含有量を一定以下とすることの他に,粒子径および比表面積も影響していること,従って樹脂に配合して極めて熱劣化の少ない組成物を得るためのハイドロタルサイト粒子は,(i)特定金属化合物の量を一定以下とすること,(ii)平均2次粒子径を一定以下とすること(つまりほとんどの粒子が2次凝集していない粒子であること)および(iii)一定の比表面積を有すること(結晶形態がよいこと)が必要であることが見出された。」(1頁15行〜3頁15行) 「ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が多い程,配合した樹脂の熱安定性を著しく低下させる原因となる。
しかし,鉄化合物およびマンガン化合物の合計量が前記範囲を満足するのみで樹脂の熱安定性が優れ,樹脂の物性低下が損なわれないというわけではなく,その上に,前記平均2次粒子径および比表面積の値が前記範囲を満足することが必要である。ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径が前記値よりも大きくなる程,分散が不十分となり樹脂中の遊離,ハロゲンとの中和能力が劣り,熱安定性が悪く,機械的強度が低下したり,外観不良という問題が生じてくる。またハイドロタルサイト粒子のBET法により測定された比表面積が30m /gを越えると樹脂2に対する分散性が低下し,熱安定性も低くなる。
前記したように,ハイドロタルサイト粒子は,(i)化学構造式,(ii)平均2次粒子径,(iii)比表面積および(iv)鉄化合物およびマンガン化合物の合計含有量(またはさらに他の金属化合物の合計量)が,前記条件を満足すれば,樹脂との相溶性,分散性,非凝集性,成形および加工性,成形品の外観,機械的強度および耐熱劣化性等の諸特性を満足する高性能の樹脂組成物が得られる。」(5頁8行〜22行)イ本願明細書(甲1の1)には,参考例1〜9のハイドロタルサイト粒子を製造し,それらを用いた樹脂組成物について,耐熱劣化性の試験(メルトフローレート)と耐衝撃性の試験(ノッチ付きIZOD)を行い,分散性の観察をしたことが記載されている。その結果によると,本願発明の要件をすべて満たす参考例1,4を使用した実施例1〜3は,上記試験及び観察による総合評価は「良」であるが,本願発明の要件を満たさない点がある参考例2,3,5〜8を使用した比較例1〜6,9の総合評価は比較例1〜3が「劣」,比較例4〜6,9が「悪」であった。このうち,比較例1〜4,6,9に使用されている参考例2,3,5,6,8は,(Fe+Mn)含有量が0.02重量%を超えていて,本願発明の要件を満たさないものであり,比較例5に使用されている参考例7は,(Fe+Mn)含有量は0.02重量%以下であるが,BET法により測定された比表面積が60m /g,平均2次粒子径が4.7μmで,本願発明の要件を満2たさないものであった。なお,本願発明の要件をすべて満たす参考例9を使用した比較例7の総合評価は「劣」であった。
 前記第3の1  の本願発明の「特許請求の範囲」の記載に上記  の事実を総合すると, ハイドロタルサイト粒子は,それを樹脂に配合することによって,耐熱劣化が優れた成形品が得られることが以前から知られていたこと, ハイドロタルサイトには,原料から混入し又は製造工程から混入する不純物が含まれているが,不純物中に鉄化合物及びマンガン化合物が存在すると,それらが樹脂の熱劣化に影響を与えること, ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物及びマンガン化合物の含有量が多い程,配合した樹脂の熱安定性を著しく低下させる原因となること, そこで,ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物及びマンガン化合物の含有量を一定値以下にする必要があること, 一方,ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径及び比表面積の値が一定値を超えると,樹脂に対する分散性が低下するため,樹脂の熱安定性を低下させることになること, そこで,樹脂の熱安定性を低下させないためには,ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径及び比表面積の値が一定値以下であることも必要であること, 本願発明は,耐熱劣化性に優れた合成樹脂組成物を得るために,化学構造式(1)で表わされるハイドロタルサイト粒子について, ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物及びマンガン化合物の含有量, ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径,  ハイドロタルサイト粒子の比表面積の各値を規定するものであること(要件(i)〜(iv)),以上の事実が認められる。
 このように本願発明は,要件(i)〜(iv)から成っているから,これらの要件を満たすことによって耐熱劣化性に優れた合成樹脂組成物が得られる発明であるということができる。
しかし,上記 の事実によると,本願発明の要件のうち,要件(i)は,ハイドロタルサイト粒子の化学構造式を示すものであり,要件(ii),(iii)は,ハイドロタルサイト粒子の平均2次粒子径及びハイドロタルサイト粒子の比表面積がそれぞれ一定値を超えると,樹脂に対する分散性が低下し,樹脂の熱安定性を低下させることになるので,一定値以下にする必要があることから設けられたものであり,要件(iv)は,ハイドロタルサイト粒子中の鉄化合物及びマンガン化合物がハイドロタルサイト粒子に含まれていると,樹脂の熱安定性を低下させるので,それらを一定値以下にする必要があることから設けられたものであるから,これらの要件は,耐熱劣化性に優れた合成樹脂組成物を得るための要件として,それぞれ技術的意義が異なるものである。したがって,それらが一体として開示されていなければ,本願発明の進歩性が認められるというものではなく,要件(i)〜(iii)と要件(iv)が別々に開示されていても,それらを組み合わせることができれば,本願発明の進歩性は否定されるものというべきである。
 一方,刊行物2(甲2)には,次の記載がある。
ア「重合用触媒及び/又は後ハロゲン化に由来するハロゲン含有ポリプロピレン100重量部当り,BET比表面積が30m /g以下のハイドロタ2ルサイト類を約0.01〜約5重量部含有してなる発錆性ないし劣化もしくは着色性の防止されたポリオレフイン類組成物」(「特許請求の範囲」請求項4)イ「市場で容易に入手されるハイドロタルサイト類は,少量の配合であっても,ハロゲン含有ポリオレフイン類の発錆性ないし劣化もしくは着色性防止量で配合すると,防止効果の再現性が悪く,実用的に利用し難いこと,更に,ポリオレフイン類中への均一分散不良性,配合された組成物の成形時加熱流動性の悪化,成形品外観の悪化などの点でトラブルを生じ,発錆性ないし劣化もしくは着色性防止効果の点でも,上記防止効果の再現性の悪さと共に,なお改善すべきものであることがわかった。」(3頁右下欄7行〜17行),ウ「本発明の目的は重合用触媒及び/又は後ハロゲン化に由来するハロゲン含有ポリオレフイン類の発錆性ないし劣化もしくは着色性を防止すると共に,該防止効果を再現性良く,且つ均一分散不良性,成形時熱流動性の悪さ,成形品外観の悪化などのトラブルを伴うことなしに達成できる防止方法ならびに組成物を提供するにある。」(4頁左下欄10行〜16行)エ「本発明で用いるハイドロタルサイト類は,そのBET比表面積が30m /g以下,好ましくは20m /g以下,特に好ましくは15m /g以2 2 2下である。このようなハイドロタルサイト類は結晶粒子型が充分に発達しており且つ結晶歪が小さく,凝巣層が極めて低減しており,本発明においては,このようなハイドロタルサイト類の利用が必須である。更に,上記BET比表面積条件を満足し且つ平均2次粒子径が5μ以下,より好ましくは1μ以下のハイドロタルサイト類の利用が好適である。」(4頁右下欄3行〜13行)オ「本発明で用いるハイドロタルサイト類としては,…下記式で表わされる化合物の利用が好適である。
MgAl (OH) A・mH O1-xx x/n 2 2n-但し式中,0<x≦0.5(より好ましくは0.2≦x≦0.4)Aはn価のアニオン…を示し,mは正の数である,n-で表されるハイドロタルサイト類。」(5頁左上欄6行〜16行)カ「本発明の防止方法の適用されるハロゲン含有ポリオレフイン類は,…例えば,ハロゲン含有チーグラー型触媒を用いて製造されたポリエチレン,ポリプロピレン…を挙げることができる。」(5頁左上欄17行〜右上欄12行)0.750.25230.1250.キ 実施例1には,MgAl(OH) (CO )・H Oを使用したことが記載されている。
632 上記  の事実からすると,刊行物2には,前記第3の1  イ  の審決が認定した発明,すなわち,BET比表面積が30m /g以下で平均2次粒子径2が1μ以下であり化学構造式(1)が本願発明と重複するハイドロタルサイト類を含有するポリプロピレン組成物の発明(刊行物2発明)が記載されているものと認められる。そして,この発明が,ハイドロタルサイト粒子の分散性の向上をも目的とし,それを解決したものであることは,上記 イウの記載から明らかである。
確かに,上記  の事実からすると,刊行物2発明は,耐熱劣化性の向上を目的とするものではないが,上記のとおりハイドロタルサイト粒子の分散性の向上という点では,本願発明と課題が一致している。
 また,刊行物6(甲6)には,「表面処理並びに未処理炭酸カルシウム(CaCO )を充てんしたポリプロピレン(PP)の熱劣化特性について3検討した。未処理系CaCO (工業用)充てんPPの熱劣化の程度は,試3薬用に比べて著しく大きかった。これらの熱劣化の原因は,工業用CaCOに含まれる微量の重金属Fe,Mnによると思われる。」(351頁「要3旨」1行〜4行),「無機フィラーを大量に充てんした熱可塑性材料は,フィラー/マトリックス間の熱膨張率,収縮率の差による内部応力の不均一性やフィラー中に含まれる微量の重金属の酸化劣化の触媒作用のため,熱劣化による機械的特性の低下が大きいとされている。Aらは,重質炭酸カルシウム充てんポリプロピレンの熱劣化の一因としてFe,Cu,Mnなどの重金属の影響を指摘している。」(351頁左欄1行〜7行),「ポリプロピレンの熱酸化劣化の原因としては,触媒残査及び重金属不純物の影響が考えられており,その中で金属不純物としては,Co,Mn,Fe,Niが挙げられている。それらの金属は,酸化反応における触媒としての効能があるとされている。」(352頁右欄17行〜21行)との記載があり,刊行物7(甲7)には,「ポリプロピレンの熱酸性劣化に影響する因子は各種あるが…触媒残査など各種の不純物の影響も重要である。…重金属の自動酸化におよぼす全体的影響は複雑である。重金属イオンで2価またはそれ以上の価数を持ち,それらの間に適当な酸化還元電位をもつもの(たとえばFe,Co,Cu,Mnなど)はハイドロパーオキサイドと反応してフリーラジカルを生ずる。…ポリプロピレンの熱酸化における金属の接触作用の順位として大沢らはCo>Mn>Cu>Fe…Morrisは真鍮>Cu>Fe…ChaudhriはCu>Mn>Mn>Fe…を報告している。」(12+ 2+ 3+ 2+12頁18行〜113頁8行)との記載がある。これらは,ポリプロピレンについて述べられたものであるから,ポリプロピレン組成物に関する刊行物2発明と組み合わせる動機付けは十分にあるものということができる。したがって,耐熱劣化性を高めるために,刊行物2発明において,ハイドロタルサイト類の鉄化合物及びマンガン化合物の含有量をできるだけ少なくすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到することができたものということができる。
前記のとおり,刊行物2発明は,ハイドロタルサイト粒子の分散性の向上をも目的とし,それを解決したものであるところ,分散性が悪ければ,樹脂中でハイドロタルサイト粒子が十分に作用しないから,耐熱劣化性を高めるためには,分散性を良くすることが必要であることも,当業者が容易に想到することができたものということができる。
 以上で検討したとおり,本願発明を刊行物2,6及び7に記載された各発明と対比し,それらから容易に発明することができたと判断した審決の判断手法に誤りがあるということはできない。
3取消事由1(本願発明と刊行物2発明とを対比判断したことの誤り)について前記2で説示したとおり,審決の判断手法に誤りはなく,審決が本願発明と刊行物2発明とを対比判断したことに誤りがあるということはできない。
原告は,耐熱劣化性と,使用するハイドロタルサイト粒子が要件(i)〜(iv)のすべてを充足することは密接不可分の関係にあり,審決において,要件(i)〜(iv)のうち要件(i)〜(iii)のみを充足する,耐熱劣化性とは無縁の発錆性ないし劣化もしくは着色性を防止した刊行物2発明のポリプロピレン組成物を,本願発明の合成樹脂組成物と対比したことは,本願発明を誤認し,許されない対比判断をしたものであると主張する。
確かに,本願発明は,要件(i)〜(iv)を満たすことによって耐熱劣化性に優れた合成樹脂組成物が得られる発明であるということができるが,前記2で説示したとおり,別々に開示されている要件(i)〜(iii)と要件(iv)を組み合わせて本願発明の進歩性を否定することができるものである。この場合,要件(i)〜(iii)の開示されている発明が耐熱劣化性の向上を目的としないものであったとしても,他の発明と組み合わせて,耐熱劣化性の向上を目的とする本願発明を容易に想到することができるのであれば,本願発明の進歩性は否定されるのであって,本件については,前記2で説示したとおり,そのようにいうことができるのである。
したがって,審決が本願発明を誤認し,許されない対比判断をしたものということはできず,取消事由1は理由がない。
4取消事由2(本願発明と刊行物2発明との相違点についての判断の誤り)について 【相違点1】につき甲3(特開平3-28121号公報),甲4(特開平6-74892号公報),甲5(特開平7-138006号公報)によると,レーザー回折散乱法は,粒子の平均2次粒子径の測定方法として,本願の出願前から慣用されている手段であると認められる。また,本願明細書(甲1の1)をみても,本願発明において平均2次粒子径の測定方法をレーザー回折散乱法としなければならない特段の事情が存するとは認められない。そうすると,レーザー回折散乱法を本願発明に係るハイドロタルサイトの平均2次粒子径の測定方法として用いることは,当業者が適宜なし得た範囲のものにすぎないというべきであって,その旨の審決の判断に誤りはない。
原告は, 粒子の平均2次粒子径の測定方法としては,レーザー回折散乱法の他に種々の測定方法が当業界で慣用されていたことは明らかであるから,レーザー回折散乱法が慣用されているというだけで,本願発明における平均2次粒子径をレーザー回折散乱法を用いて測定した値とすることが当業者が適宜なし得る事項とはいえない,  本願発明では,レーザー回折散乱法という特定の方法で測定した平均2次粒子径が2μm以下であることが,熱安定性の悪化,機械的強度の低下,外観不良を防止するために重要なのであって,慣用されている方法であればどの方法で測定した平均2次粒子径であってもよいというわけではなく,同じ粒子を測定しても,測定法によって平均粒子径が異なることはよく知られている,と主張する。
確かに,甲8(日本顔料技術協会編「最新顔料便覧」[昭和52年1月10日発行])本文73頁及び付表8頁によると,粒子の平均2次粒子径の測定方法としては,本願の出願前から,レーザー回折散乱法の他に種々の測定方法が存在したこと,測定方法によって同じ粒子を測定してもその結果が異なることが認められる。しかし,このような事情は,特許出願に当たり,測定方法を特定して明示する必要があることを示しているにとどまり,本願発明の進歩性を根拠付けるものとはいえない。また,本願発明では,レーザー回折散乱法という特定の方法で測定した平均2次粒子径が2μm以下であることが,熱安定性の悪化,機械的強度の低下,外観不良を防止するために重要であるとしても,本願発明において平均2次粒子径の測定方法をレーザー回折散乱法としなければならない特段の事情があるとは認められない以上,レーザー回折散乱法という慣用されている方法に測定方法を特定したことに進歩性を認めることはできない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 【相違点2】につき前記2で説示したとおり,【相違点2】についての審決の判断手法に誤りはない。
原告は, 要件(iv)のみを切り離して【相違点2】としてその容易想到性を判断することができない, 刊行物6,7には,要件(i)〜(iii)が要件(iv)と一緒になって,耐熱劣化性に影響することは何ら記載も示唆もされていない,と主張するが,前記2で説示したとおり,別々に開示されている要件(i)〜(iii)と要件(iv)を組み合わせて本願発明の進歩性を判断することができるのであるから,原告の主張は採用することができない。
また,原告は,刊行物6,7は,本願発明とは耐熱劣化性の評価方法が異なると主張するが,本願発明の「特許請求の範囲」請求項1には「耐熱劣化性を有する」という記載しかなく,その評価方法が特定されているわけではないから,評価方法の違いを理由に,刊行物6,7に基づいて本願発明を容易に想到することができないということはできない。
 したがって,取消事由2は理由がない。
5取消事由3(本願発明の効果は予測可能であるという判断の誤り)について 本願明細書(甲1の1)によると,本願明細書の実施例及び比較例の記載(前記2 イ)に基づいて,実施例1,2及び比較例1〜4を表にすると,別紙「表A」のようになること,このMFRの値を「●」で,ノッチ付きIZODの値を「▲」で記載すると,別紙「図A」の「●」及び「▲」のようになることが認められる。そして前記のとおり,「図A」の各点を結ぶ線は,本訴に証拠として提出するに当たり原告において加筆したものである。
「図A」のMFR値及びノッチ付IZOD値の全体的変化をみると,(Fe+Mn)含有量が減少するにつれて,MFR値は減少し,ノッチ付IZOD値は増加し,耐熱劣化性が向上する傾向を示していることが認められる。
しかし,各点の測定値をみると,「図A」及び本願明細書には,「0.02重量%」近傍における(Fe+Mn)含有量での測定値が記載されていない。また,実施例1,2の各点間の変化と比較例1〜4の各点間の変化とを対比すると,前者の変化は,(Fe+Mn)含有量の低減にともない耐熱劣化性の指標が低下しており,全体の変化及び後者の変化と相反する傾向を示している。さらに,本願明細書(甲1の1)によると,実施例1,2及び比較例1〜4のハイドロタルサイト粒子である参考例1〜6の化学構造式,平均2次粒子径,BET比表面積は,別紙「表B」記載のとおりであると認められるから,これらは,化学構造式,平均2次粒子径,BET比表面積が同一ではなく,「図A」に示された耐熱性劣化の指標は,(Fe+Mn)含有量以外の要因による影響を内包しているといえる。なお,原告は,参考例1〜6のハイドロタルサイト粒子により要件(iv)についての臨界的意義が明らかにされたということは,化学構造式や二次粒子径や比表面積の若干の違いが,臨界的意義の評価に不当なものでないことを示しているといえると主張するが,この主張は,臨界的意義が明らかにされたという,証明されていない結論を先取りするものであって,採用することができない。
したがって,「図A」に記載された各点からは,(Fe+Mn)含有量の低減により耐熱劣化性が連続的に向上する傾向にあることは理解できるが,(Fe+Mn)含有量だけを指標とした場合に,耐熱劣化性の指標が「図A」の曲線に沿って変化すると断定することは困難である。特に,実施例2の0.0076重量%と比較例1の0.0275重量%の間に測定値が示されていないから,その間でどのような変化を呈するかは推測の域を出ないものである。そうすると,(Fe+Mn)含有量がほぼ0.02重量%の点を急勾配のほぼ中間値として急激に変化しているということはできず,本願発明の0.02重量%という値の内外で生じる耐熱劣化性に係る効果について予測できない程の顕著な差があるとは認められないから,この数値限定に臨界的意義があるということはできない。
よって,本願発明の0.02重量%という値に臨界的な意義があることを理由として審決の「本願発明の効果は予測可能である」との判断には誤りがあるという原告の主張は採用することができない。
 また,原告は,刊行物6,7は,本願発明の組成物の耐熱劣化性を判断できるものではないから,本願発明の組成物の優れた耐熱劣化性を予測させるものではないと主張する。しかし,前記4  のとおり,刊行物6,7と本願発明とで耐熱劣化性の評価方法が異なることは,本願発明の進歩性の判断に当たって考慮すべきでない。前記2 で説示したとおり,刊行物6,7には,鉄,マンガン等の金属不純物によって熱劣化が生じることが記載されているから,刊行物2,6及び7に記載された発明に基づいて当業者は本願発明を容易に想到することができたということができるのであり,その効果も,予測可能な範囲を超えるものということはできない。
 よって,取消事由3は理由がない。
6以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願は,特許法29条2項に反し特許を受けることができないから,その旨の審決の判断に誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一