関連ワード | 外国の特許 / パリ条約 / 特許料(維持年金) / 追納 / 業として / 73条2項 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 変更 / 異議申立 / 追完 / 再審請求 / |
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事件 |
平成
18年
(行ウ)
186号
特許料納付書却下処分取消請求事件
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グレートブリテン及び北アイルランド連合王国ケンブリッジ<以下略> 原告バイエルクロップサイエンスリミテド 訴訟代理人弁護士菊池秀 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号 被告国 代表者法務大臣長勢甚遠 処分行政庁特許庁長官中嶋誠 指定代理人工藤敏隆 同竹本智子 同山内孝夫 同五十嵐伸司 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/09/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許番号第2017484号の特許権に係る第10年分特許料納付書に関し,特許庁長官がした平成17年3月14日付け手続却下処分を取り消す。 第2事案の概要原告が後記本件特許権の第10年分の追納期間の経過後に特許料及び割増特許料の納付手続をしたところ,特許庁長官は,同特許料納付書を却下する手続却下の処分(以下「本件却下処分」という。)をした。本件は,原告が被告に対し,前記追納期間を徒過したことについて,特許法(以下「法」という。)112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとして,本件却下処分の取消しを求めた事案である。 1前提事実( ) 原告の有していた特許権1原告は,次のとおりの特許権(以下「本件特許権」という。)を有していたが,平成16年6月5日第10年分特許料不納を原因として,平成17年3月23日付けで,その登録が抹消された。 特許番号第2017484号発明の名称殺虫剤組成物出願年月日昭和61年10月15日出願公告年月日平成7年6月5日登録年月日平成8年2月19日(争いのない事実)( ) 本件却下処分等2ア平成6年法律116号による改正前の特許法(以下「改正前法」という。)107条1項及び108条2項によると,本件特許権の第10年分の特許料の納付期限は,平成16年6月5日であり,改正前法112条1項によると,その期間の経過後6か月以内は,特許料の追納が認められていて,その追納期間の満了日は,同年12月5日が日曜日であるため,同月6日であった。 イ原告は,同月7日,本件特許権の第10年分の特許料及び割増特許料(以下本件特許料等という)の特許料納付書(以下本件特許料納付書という) 「」。「」。 を提出した。 ウこれに対し,特許庁長官は,同月20日付け却下理由通知書により,本件特許権は,第10年分の特許料を納付することができる期間(追納期間を含む。)内に納付されていないため,同年6月5日までをもって消滅したとして,本件特許料納付書に係る手続については,特許料追納期間の満了後の納付であることを理由として却下すべきものと認められる旨通知した。これに対し,原告は,平成17年2月3日,弁明書を提出した。 しかし,特許庁長官は,同年3月14日,同却下理由通知書に記載した理由が解消されていないとして,本件特許料納付書について手続を却下する旨の処分(本件却下処分)をした。 エ原告は,同年5月20日,行政不服審査法に基づき,本件却下処分について,異議申立てをした。 特許庁長官は,同年10月24日,本件特許料納付書が追納期間経過後に提出されたことについて,法112条の2第1項の定める「その責めに帰することができ」, ,, ない理由 は認められないとして 異議申立てを棄却する旨の決定をし 同決定は翌25日,原告の代理人であった日本技術貿易株式会社(以下「日本技術貿易」という。)に送達された。 (以上,争いのない事実)2争点本件特許料等を追納期間内に納付しなかったことについて,原告に法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」が認められるか。 3争点に関する当事者の主張(原告の主張)( )「その責めに帰することができない理由」の意義1法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」は,以下の理由から,単に天災地変その他通常の注意力を有する者が万全の注意を払っても追納期間内に特許料を納付できなかった場合のみならず,追納期間の徒過が「故意ではない場合 「避け難かった場合 「相当の注意を払っていた場合」を広く含む 」」ものと解するのが相当である。 ア法112条の2は,特許法の国際的調和を図るため,欧米諸国からの要請に応えて,平成6年の特許法改正の際に設けられた条項である。 本来,技術に民族性や国境はないものであるから,特許法の分野は国際的統一ないし調和が要求される分野である。 米国や欧州特許庁においては,パリ条約5条の2第2項に基づき,特許料不納により失効した特許権の回復について,それぞれ「故意ではなかった場合 「避け難」かった場合」又は「状況によって必要とされる相当な注意をした場合」の要件が設けられ,幅広く特許権の回復が認められている。 したがって,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の解釈も,特許権の回復に関して欧米諸国で定められている要件,基準との均衡を図るように解釈すべきである。 イ仮に,法112条の2第1項の意義を前述のとおり広く解したとしても,回復の期間が追納期間経過後6か月という短期間に制限されていること,法112条の3において,回復した特許権の効力を制限していることからすると,第三者に過大な負担や損害を与えることはない。 また,このような第三者保護規定を設けていること自体,特許法が法112条の2第1項による特許権の回復を広範に認める趣旨であることを表していると考えられる。 ウ法律の規定は,法令ごと,条項ごとに具体的事情は異なるので,それぞれの事情に応じて異なった解釈がされることは当然である。特に法112条の2に関しては,前記のとおり,特許権失効後最長6か月という短期かつ動くことのない絶対的時間制限が設けられていること,特許権回復後の第三者保護規定が設けられていること等の特殊事情があるのであるから,法121条2項(拒絶査定不服審判の追完),法173条2項(再審請求の追完)及び民事訴訟法97条1項(訴訟行為の追完)の規定と同様の解釈をする必要性はない。 ( )追納期間内に納付することができなかった具体的事情2本件において,原告が本件特許料等を追納期間内に納付できなかった事情は,以下のとおりである。 ア原告は,本件特許権の特許料の納付事務を年金管理及び納付事務を専門としているチャンネル諸島ジャージー島所在のコンピュータパテントアニュイティーズリミテッドパートナーシップ(以下「CPA」という。)に委任していた。 CPAは,我が国における特許料の納付を日本技術貿易に依頼し,日本技術貿易は,CPAからの指示に基づいて,本件特許権の第4年分から第9年分までの特許料の納付事務を行った。 イ原告は,平成15年9月,本件特許権を放棄する旨の決定をし,そのことをCPAに連絡した。 当時,本件特許権の管理責任は,ドイツのバイエルクロップサイエンスに移されていたことから,この連絡はドイツ連邦共和国ミュンヘンに所在するCPAドイツオフィスに対してされた。 CPAドイツオフィスは,本件特許権を特許料支払の対象外として登録し,原告は,本件特許権に関する第10年分の特許料の納付期限である平成16年6月5日までに,第10年分の特許料の納付を行わなかった。 ウその後,原告は,本件特許権を割増特許料を納付した上で回復することを決めた。 原告担当者は,平成16年11月18日,電子メールにより,CPAの担当者であるAに対し,本件特許料等を納付するよう指示をした。 これに対して,Aは,同日中に,上記指示を受領したこと,後日,請求書を送付する旨返信した。 エところが,同日,Aは,CPAドイツオフィスを事実上解雇される形で退職することが決まり,法律上の問題から,即日,退職することとなった。 オCPAドイツオフィスにおいては,従業員が退職する際の仕事の引継ぎに, , 関して 一つ一つの仕事について作成されたファイルを後任者にそのまま引き継ぎ進行中の仕事のうち重要な案件,緊急の案件についてリストを作成する等の標準的手順が決められていた。しかし,Aは,即日,退職せざるを得なかったため,標準的な手順による引継ぎをすることができなかった。 また,CPAの担当の責任者が,退職前に,Aに対して,緊急の案件の有無を確認したが,Aは「ない 」と回答した。。 Aが残していった案件は,B及びAが所属していた顧客サービス管理チームの他,,,, 。 の担当者に割り振られ 彼らは Aの机 ロッカー ファイルのすべてを調査した調査の結果,Aの未処理案件は,当初予想していたよりもはるかに多いことが判明した。 , , , さらに 顧客サービス管理チームには Aを除くと4人の従業員が属していたが当時,このうちの2人が,病気のために欠勤していた。 カ原告担当者は,追納期間満了日当日である平成16年12月6日午後に,Aに対して,本件特許料等の納付手続について確認する旨の電子メールを送った。 Bがこの電子メールを開封し,調査を行ったが,本件特許料等の納付事務について,引継ぎが行われておらず,納付手続がされていないことが判明した。 そこで,直ちに,CPAドイツオフィスから,ジャージー島のCPA本部を通じて,日本技術貿易に対して,本件特許料等の支払の指示をしたが,ドイツと日本の時差の関係で,我が国における納付は,翌日の同月7日となった。 ( )「その責めに帰することができない理由」の存在3ア上記のとおり,CPAが本件特許料等を追納期間の満了日までに納付できなかったのは,Aが法律上の理由から即日退職せざるを得なかったため,通常の手順による引継ぎができなかったこと,Aが緊急の案件の有無を問い質されたにもかかわらず,本件特許料等の納付について伝えなかったこと,当時,CPAドイツオフィスのスタッフが2人も病気のために欠勤しており人数が不足していたなどの偶発的事情がいくつも重なったためであり,CPAの行為が故意でないことはもちろん,CPAとしては,できる限りの相当な注意をもって事態の処理をしていたものであり,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるというべきである。 イ仮に,CPAに何らかの帰責事由が認められるとしても,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」における「その」とは特許権者自身を指すものであり,代理人又はその履行補助者の過失を本人の過失と同視すべきではない。 ,, , ウまた 本件のように 外国の特許権者が我が国で特許料の納付を行うには事実上CPAのような専門機関を利用する以外に方法はなく,納付のために利用が強制されるという意味では,CPAのような特許料納付を代行する者は,郵便事業者や交通機関に比すべきものである。 エ本件において,原告自身に帰責事由がないことは明らかである。 被告は,原告担当者が特許料等の追納期間の満了日の午後までCPAに対して特許料納付の有無を確認していないから,原告の責めに帰すべき理由がある旨主張する。 しかし,CPAは,現在,日本の特許1万6000件を含めて,全世界で約100万件の年金管理,納付事務を扱っている世界最大の年金管理の専門機関であり,極めて信頼できる機関である。原告は,このようなCPAに対して,特許料の納付を依頼し,かつ,CPAから依頼を受領した旨の返信も得ていたものであるから,納付の有無を確認しなくとも,原告担当者に過失があったということはできない。 (被告の主張)( )「その責めに帰することができない理由」の意義1ア法112条の2は,法112条4項の規定によって消滅したものとみなされた特許権についても 「その責めに帰することができない理由」により,特許料 ,の追納期間内に特許料等を納付することができなかったときは,その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては2か月)以内で,かつ,追納期間の経過後6か月以内の期間に限り,特許料等の追納を認めることにより,当該特許権が回復される場合があることを規定している。 特許権の回復についてこのような条件が付された理由は,既に特許法上設けられている拒絶査定不服審判(法121条2項)や再審(法173条2項)の請求期間を徒過した場合の救済の条件及び民事訴訟法等の他の法律との整合性を考慮するとともに,@そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであること,及びA失効した特許権の回復を無期限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることを考慮したことにある。 よって,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,天災地変のような客観的な理由又は通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により特許料を納付することができなかった場合を意味するものと解するのが相当である(東京高裁平成16年8月4日判決(乙8) 。)イ特許に関する法制度はあくまで各国が個別に定めるものであるから,他国の立法例,裁判例及び運用例が,我が国の特許法の解釈の際,参考とされるべきものではないことはいうまでもない。また,国際的調和を理由に,我が国特許法の明文の規定に反する解釈を採り得ないことも当然である。 ( )追納期間内に納付することができなかった具体的事情2原告の主張(2)のうち,本件特許権の第10年分の本件特許料等の納付が平成16年12月7日にされたこと(カの一部)は認め,その余は不知。 ( )「その責めに帰することができない理由」の存在3アCPAの過失(ア)特許料の納付に関する管理は,特許権者が自ら行うか,外部に委託するか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて特許権者の自己責任の下に行われるものである。よって,特許権者から委託を受けて特許管理を行っていた独立の外部事業者の過失は,特許権者の過失と同視されるべきものである。 (イ)CPAは,業として年金管理,納付事務を受任した者として,一部の従業員の退職や欠勤によって業務に停滞を来さないような組織態勢をあらかじめ構築すべき善管注意義務を有していた。したがって,担当者の退職や欠勤があったことを理由に 「その責めに帰することができない理由」があったということはできな ,い。 (ウ)また,CPAは,担当者の退職に際し,特許料納付事務の引継ぎに十分な注意を払い,特許料納付を遅滞ないし失念するという過誤を防止すべき義務を有していた。 Aの退職日から本件特許料等の追納期間の満了日までには,2週間以上の期間があった。CPAとしては,Aの退職時に,同人の電子メールの着信及び発信情報を確認することによって,平成16年11月18日に原告が電子メールで行ったとされる本件特許料等の納付指示を確認することは,極めて容易なことであった。 さらに,Aの勤務状態に問題があることは,そのころから顕在化したというのであるから(乙5の1 ,同人の業務の引継ぎについて,CPAとしては通常の従業 )員の退職の場合以上に細心の注意を払うべきであったものであり,CPAドイツオフィスの責任者がAに対して,緊急の案件がないか問い質したことをもって,CPAが十分な注意を払っていたとはいい難い。 したがって,CPAには,この点においても過失があったことは明らかである。 (エ)原告は,外国の特許権者が我が国で特許料の納付を行うには,事実上CPAのような専門機関を利用することを強制され,そのような業者は郵便事業者や交通機関に比すべきものである旨主張するが,交通機関や郵便事業者と,本件のCPAのように任意に選任された代理人とは,その公共性や役務の代替性が全く異なるものであり,同列に論じることはできない。 イ原告の過失保有する特許権につき特許料の納付を遺漏なく行うことは,特許権者にとって最も基本的かつ重要な事項であるところ,原告所在地と特許料の納付を行う日本との時差の存在は公知の事柄であることに加え,CPA側の手違いの発生の可能性等を考慮すれば,原告としては,特許料追納期間が満了する数日前までに特許料納付の有無を確認すべきであった。 しかも,原告は,本件特許権を一旦放棄することを決定し,その旨をCPAに連絡した後,特許料追納期間に入ってから,本件特許権を維持することに急きょ方針を変更したというのであるから,本件特許料等の納付について,適時にCPAに確認するなどして万全の注意を払うべきであった。 ところが,原告担当者は,平成16年11月18日,CPAの担当者に対して,本件特許料等の納付指示を出した後,特許料追納期間の末日である同年12月6日まで,何ら確認を行っていなかったというのであるから,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っていたものとは認められない。 第3当裁判所の判断1「その責めに帰することができない理由」の意義について( )ア法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」1とは,次の理由から,これと同一の文言である法121条2項(拒絶査定不服審判の追完),法173条2項(再審請求の追完)所定の「その責めに帰することができない理由」と同様,天災地変又は通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期間内に納付できなかった場合を意味するものと解するのが相当である。 イ法112条の2は,特許料の本来の納付期間の経過後,さらに6か月間の追納期間(法112条1項)が経過し,特許料の不納により一旦失効した特許権の特許権者に対し,@追納期間内に特許料等を納付できなかった理由が特許権者の責めに帰することができないものであること,A追納期間経過後6か月以内であって,かつ,その理由の消滅から14日(在外者にあっては2か月)以内に,納付すべきであった特許料等を納付することを条件に,特許権の回復を認めた例外的な救済の制度である。 また,訴訟行為の追完を定めた民訴法97条1項の「その責めに帰することができない理由」については,過失がある場合を含まないとの解釈が採られている。 さらに 「その責めに帰することができない理由」という文言の通常の意味から ,すると,過失がある場合を含まないと解釈するのが自然である。 ( )ア原告は,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができな2い理由」とは,その立法経緯や特許法の分野における国際的調和の必要性を考慮すれば,欧米諸国の特許法の規定と同様に,追納期間の徒過が「故意ではない場合」「避け難かった場合 「相当の注意を払っていた場合」を広く含むものと解釈すべ 」きである旨主張するが,パリ条約5条の2第2項の規定は,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかを各締結国の判断にゆだねており,欧米の特許法の規定と我が国の特許法の規定とを同一に解釈しなければならない理由はないし,法112条の2の立法経緯中にも,原告主張のとおりに解釈すべきことを示唆するものを見いだすことができないから,原告の上記主張は,採用することができない。 イさらに,原告は,法112条の2に関しては,特許権失効後最長6か月の時間制限が設けられていること,特許権回復後の第三者保護規定が設けられていること等を理由に,法121条2項(拒絶査定不服審判の追完)等の規定と同様の解釈をする必要性はない旨主張するが,法112条の3に第三者保護規定が設けられ,法112条の2に期間制限が設けられているからといって,特許法が法112条の2の特許権の回復を広範に認める趣旨であると解することはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。 2本件における「その責めに帰することができない理由」の存否について( )各項に掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。 1ア原告は,本件特許権の特許料の納付事務を年金管理及び納付事務を専門としているチャンネル諸島ジャージー島所在のCPAに委任していた。 (乙5の1,2)イ原告は,平成15年9月,本件特許権を放棄する旨CPAドイツオフィスに連絡した。CPAは,本件特許権を特許料支払の対象外として登録し,本件特許権に関する第10年分の特許料の納付期限である平成16年6月5日までに,第10年分の特許料の納付をしなかった。 (争いのない事実,乙5の1,2,弁論の全趣旨)ウその後,原告は,本件特許権を割増特許料を納付した上で回復することを決め,平成16年11月18日,電子メールにより,CPAドイツオフィスの担当者であるAに対し,本件特許料等を納付するよう指示した。 これに対して,Aは,同日中に,上記指示を受領したこと,後日,請求書を送付する旨返信した。 (乙5の1,2,弁論の全趣旨)エところが,Aの勤務状態に問題があることがそのころから顕在化し,同人は,同日,上記指示に基づく本件特許権のデータの回復や本件特許料等の納付事務の引継ぎをしないまま,CPAを退職した。 CPAドイツオフィスの責任者は,退職前に,Aに対して,緊急の案件の有無を確認したが,同人は,本件特許料等の納付指示を受けていることを伝えなかった。 Aの仕事の引継ぎに関する職務は Bと Aが所属していた顧客サービス管理チー ,,ムの他の4人の担当者らに割り振られた。 ,,,。,, 同人らは Aの机 ロッカー ファイルを調べた その結果 Aの未処理案件は当初予想していたよりもはるかに多いことが判明した。 しかも,当時,顧客サービス管理チームの担当者のうち2人が,病気のために欠勤していたため,未処理案件の処理は著しく遅れた。 (甲5,乙5の1,2)オ原告担当者は,追納期間満了日当日である平成16年12月6日午後,Aに対し,本件特許料等の納付手続が完了したかを確認する電子メールを送った。 Bがこの電子メールを開封し,調査の結果,本件特許料等の納付手続が行われていないことが判明した。 そこで,CPAは,日本技術貿易に対し,本件特許料等の支払を指示したが,日本技術貿易は,時差の関係で,日本時間の同月7日に,本件特許料納付書による手続をした。 (争いのない事実,乙5の1,2,弁論の全趣旨)( )ア上記認定の事実によれば,CPAの担当者であるAは,原告から追納2期間の満了日が近づいていた時期に本件特許料等の納付指示を受けていたにもかかわらず,CPAを退職するに当たり,ドイツオフィスの責任者から緊急の案件の有無を問い質された際にもこれを伝えなかったものであるから,CPAの担当者であるAに過失があったことは明らかである。 イさらに,上記認定の事実によれば,CPAは,年金管理及び納付事務を専門としている機関であり,我が国における特許料の納付についての事務を受任したのであるから,一部の従業員の退職や欠勤によって業務に停滞を来さないような組織態勢をあらかじめ構築すべき善管注意義務を有していたである。 また,CPAは,担当者の退職に際し,特許料納付事務の引継ぎに漏れがないか否かについて十分確認すべき義務を有してたものである。 ところが,CPAドイツオフィスの責任者は,Aの勤務状態に問題があることが顕在化し,事務の引継ぎをしないまま退職し,後任者の調査によりAの未処理案件は当初予想していたよりもはるかに多いことが判明したにもかかわらず,特許料納付事務の引継ぎに漏れがないか否かについて十分確認せず,しかも,十分な人員の補充をしないまま,顧客サービス管理チームにAから引き継いだ業務の処理をさせていたものであるから,CPAに過失があったことは明らかである。 そして,Aの退職の日から特許料追納期間の満了日までに18日程度あったものであるから,CPAが上記に説示した義務に従い,適切に組織態勢を構築し,特許料納付事務の引継ぎに漏れがないか否かについて十分確認していれば,特許料追納期間の満了日を徒過することはなかったものと認められる。 これに反する原告の主張は,到底採用することができない。 ( )アそして,特許料の納付に関する管理は,特許権者が自ら行うのか,外部 3に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて特許権者の自己責任の下に行われることであるから,特許権者から委託を受けて特許管理を行っていた独立の外部事業者であるCPAの過失は,特許権者である原告の過失と同視されるものである。 これに反する原告の主張も,採用することができない。 イ原告は,外国の特許権者が我が国で特許料の納付を行うには,事実上CPAのような専門機関を利用することを強制され,そのような業者は郵便事業者や交通機関に比すべきものである旨主張するが,交通機関や郵便事業者と,本件のCPAのように任意に選任された代理人とを同列に論じることはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。 3結論, , 以上のとおり 法定の追納期間内に本件特許料等を納付をしなかったことにつき原告に法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」が存在しないから,本件却下処分に違法はない。 よって,原告の請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 市川正巳 |
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裁判官 | 大竹優子 |
裁判官 | 杉浦正樹 |