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関連審決 不服2003-7735
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成18行ケ10167審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術分野の関連性 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10053号 審決取消請求事件
原告 大王製紙株式会社
訴訟代理人弁理士 永井義久
同復代理人弁理士 加藤和孝
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 種子浩明
同 寺本光生
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2003−7735号事件について平成17年12月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成6年9月28日,発明の名称を「ティッシュペーパー収納箱」とする特許出願(特願平6-232673号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年3月27日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月6日,これに対する不服の審判を請求し,同年6月5日付け手続補正書により,明細書全文について手続補正(以下「本件手続補正」という。)をした。
特許庁は,これを不服2003-7735号事件として審理した結果,平成17年12月12日,本件手続補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成18年1月6日,原告に送達された。
2 本件手続補正により補正された明細書(甲6,以下,願書に添付した図面〔甲2参照〕と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)の要旨共通の裂開用ミシン目によって相接し,これに連なる非共通の裂開用ミシン目を有し,基端に形成された底面長辺に平行で相互に平行な起立折目線部分を残して,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の屈折片を箱の底部に形成した収納箱において,前記共通の裂開用ミシン目は,前記起立折目線内側端にそれぞれ端を発し,それぞれ相手側の屈折片の方向に張り出す上側係止片と,それぞれ前記上側係止片と同じ方向に張り出す下側係止片と,が形成されるように構成することにより,前記上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部が形成されるように構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°である,ことを特徴とするティシュペーパー収納箱。
3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願補正発明は,実公平2-4 12621号公報(甲7,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例1発明」という。)及び実願昭55-010130号(実開昭56-113677号)のマイクロフィルム(甲8,以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用例2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件手続補正を却下すべきであるとし,本件手続補正前の請求項1に係る発明も,同様に,引用例1発明及び引用例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないとした。
( ) 審決が認定した,本願補正発明と引用例1発明の一致点及び相違点はそれ 2ぞれ次のとおりである。
ア一致点共通の裂開用ミシン目によって相接し,これに連なる非共通の裂開用ミシン目を有し,基端に形成された相互に平行な起立折目線部分を残して,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の屈折片を箱の底部に形成した収納箱において,前記共通の裂開用ミシン目は,前記起立折目線内側端にそれぞれ端を発し,それぞれ相手側の屈折片の方向に張り出す上側係止片と,それぞれ前記上側係止片と同じ方向に張り出す下側係止片と,が形成されるように構成することにより,前記上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に係止部が形成されるように構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成した,ことを特徴とするティシュペーパー収納箱。
イ相違点(ア) 相違点1本願補正発明は,底面長辺に平行で相互に平行な起立折目線部分を構成しているのに対して,引用例1発明は,相互に平行な起立折目線部分を構成しているが,それが底面長辺に平行かどうか明らかでない点。
(イ) 相違点2本願補正発明は,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部(係止部の最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるように構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°であるのに対して,引用例1発明は,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込まない係止部(係止部の最奥部で相互に押し合わないもの)が形成されるように構成され,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まないで,前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成され,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°ではなく,90°である点。
原告主張の審決取消事由
審決は,引用例2発明の認定を誤り(取消事由1),相違点2についての判断を誤り(取消事由2),その結果,本願補正発明が引用例1発明及び引用例2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができると誤って判断したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)( ) 審決は,引用例2には,引用例2発明,すなわち,「共通の中央のミシン 1目によって相接し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に形成した収納箱において,各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるように構成し,前記両押し上げ片を起立させたときに,前記各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されるように構成した,ティシュペーパー収納箱。」(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)が記載されていると認定したが,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されていないので,審決の同部分の認定は,誤りである。
( ) 本願補正発明において,「各屈折片側に食い込む係止部」とは,「係止部 2同士が,各係止部の最奥部で,相互に押し合う」(審決謄本2頁第2段落)関係にある係止部をいう。そして,本願補正発明において,屈折片の起立時に係止部同士が各係止部の最奥部で相互に押し合うのは,屈折片のたわみとその復元力によるものであり,そのことにより,両屈折片が係止点において強固に係止されることとなる。
( ) 審決は,引用例2発明について,「ここで,引用例2には,係止用凹みが, 3各押し上げ片側に食い込む(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)ように構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されることについて,明示的記載はない。しかし,ティシュペーパー収納箱が,紙製であることは,引用例2の出願時における技術常識であるから,両押し上げ片を起立させると,それぞれが撓みを生じることになり,その撓みの復元力で,各係止用凹みは,それぞれの最奥部で相互に押し合うことになるので,『係止用凹みが,各押し上げ片側に食い込むように構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されること』は,e及びfの記載と,上記技術常識参酌することにより導き出せるものであり,引用例2に記載されているに等しい事項である。」(審決謄本5頁第2段落〜第3段落)とする。
しかし,審決が理由とする引用例2の「e及びfの記載」中に,「係止用凹みが,各押し上げ片側に食い込む(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)ように構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されること」の開示や示唆はない。「eの記載」中には,「両押し上げ片8,8同志がよく係合し,かつ係止用凹み9,9でうまくかみ合って係止することができる」(引用例2の5頁第2段落)との記載があるが,これは,これに先立つ「かみ合わないように考えられるが」の記載を受けているだけであり,本願補正発明のように「最奥部で相互に押し合う」形態で係止することを意味する記載ではない。
また,引用例2発明において,両押し上げ片を起立させると,押し上げの過程においては,押し上げ片はたわみを生じるが,係止用くぼみ相互の係止が完了した時点においては,押し上げ片のたわみは解放されるから,それぞれの最奥部で相互に押し合うことにならない。
そして,引用例2の公告公報である実公昭57-57025号公報(甲9)の記載に照らせば,引用例2のものにおいて,「係止用凹み」でうまくかみ合って係止するのは,同公報の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり,係止くぼみ用切取線を「基部がわを中央の切取線とほぼ直角方向にし,頂部がわを中央の切取線に対して斜めにした」ことにあるのであって,「係止用凹み9,9」(係止部)の最奥部相互を繋ぐ仮想線と「折り線10,10」との交差角度θに起因するものではない。
したがって,引用例2には,「係止用凹みが,各押し上げ片側に食い込む(係止用凹みの最奥部で相互に押し合う)」ことの開示や示唆はなく,「係止用凹み9,9」(係止部)の最奥部相互を繋ぐ仮想線と「折り線10,10」との交差角度θは,不明で,鋭角若しくはせいぜい90°であり,仮に,本件明細書の【図8】の形態と同様に,「係止用凹み9,9」の最奥部相互を繋ぐ仮想線と「折り線10,10」との交差角度が90°であっても,「係止用凹み9,9」は,それぞれの最奥部で力が作用しない状態で接触しているにすぎず,「最奥部で相互に押し合う」ことになるとは到底いえない。
( ) 被告は,引用例2において,「係止用凹み9,9」の深さと位置により, 4交差角度が変化するものであるところ,引用例2にはその深さと位置を限定する記載はなく,しかも,第3図等に示されているような位置で深さが浅ければ,引用例2発明の交差角度が鈍角となり得るとして,引用例2には,引用例2発明の交差角度が鈍角であることも示され,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものが記載されている旨主張するが,引用例2には,被告が主張する「係止用凹み9,9」の深さと位置とを変化させることについて,開示や示唆はないから,被告の主張は,前提を欠くものである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)( ) 審決は,「引用例1発明に,引用例2発明を適用して,引用例1発明にお 1いても,その係止部が各屈折片側に食い込むように形成し,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにして,前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成すると,引用例1発明における相互に接触する両係止部の最奥部が,互いに手前に位置するようになるので,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,90°より大きくなることは,自明なことである。そして,この交差角度の範囲を特定することは,単なる設計上の数値の特定である。故に,引用例1発明におけるティッシュペーパー収納箱に,ティッシュペーパー収納箱の技術分野の点で,技術分野の関連性を有する引用例2発明のティシュペーパー収納箱を適用して,引用例1発明において,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部が形成されるように構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を,90°より大きくし,その際に,この交差角度を,92°〜120°に設計上の数値の特定をなし,相違点2に係る本願補正発明のような構成をとろうとすることは,当業者ならば容易に想到し得たことである。」(審決謄本7頁第2段落〜第3段落)と判断したが,誤りである。
( ) 引用例2発明の係止部も,引用例1発明のものと同様に,「各屈折片側に 2食い込まない係止部(係止部の最奥部で相互に押し合わないもの)」であり,交差角度θは不明で,鋭角若しくはせいぜい90°であるから,そもそも引用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けがないし,仮に,引用例2発明を適用したとしても,交差角度θを90°より大きくする動機付けがなく,「両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を,90°より大きくし,その際に,この交差角度を,92°〜120°に設計上の数値の特定をな(す)」ことを容易に想到することはできない。
また,本願補正発明において,交差角度が92°〜120°とする構成は,「屈折片を切り起こして使用する時,互いに係止し合う屈折片同士が,双方で折目方向に沿って押し合う形となる。したがって,折目方向に沿った外側の方向に力がかかった場合,たとえばティシュペーパー収容箱の底部が鉛直上側方向に撓んだ場合であっても,屈折片同士の係止関係は崩壊し難い。」(本件明細書の段落【0009】),「係止点34A,34Bを結んだ仮想線Lと折目線32A,32Bとが形成する角度θが大きすぎると,S字部,逆S字部が引っ掛かり,ゆがみが大きくなることで指で押し成形することが困難となる。」(同段落【0017】)ことを回避するという特有の作用効果をもたらすことに関する構成であるから,当業者ならば容易に想到し得たとすることはできない。このような本件件明細書に記載された作用効果は,大宮製紙株式会社商品開発部A作成の実験報告書(甲10)からも明らかである。
( ) 被告は,実願昭54-144481号(実開昭56-62981号)のマ 3イクロフィルム(乙1,以下「乙1マイクロフィルム」という。)によれば,「ティシュペーパー収納箱において,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすること」という技術(以下「乙1技術」という。)は,本件出願時に当該技術分野において広く知られていた技術であるとして,引用例1発明において,引用例2発明又は本件出願時に当該技術分野において広く知られていた乙1技術を参考として,両屈折片を起立させたときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすることは,当業者ならば,容易に想到し得たということができる旨主張する。
しかし,乙1技術は,「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」が「相互に押し合う」ものであるとしても,その「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」を,本願補正発明の「係止部」に相当するものとすることは誤りである。
すなわち,本願補正発明の「係止部」は,特許請求の範囲の記載からも,「最奥部」を有するものであることは明らかであるのに対し,乙1マイクロフィルムの「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」は,「最奥部」を有するものでないから,乙1技術は,本願補正発明の係止部の「最奥部が相互に接触し」「各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込」むものではない。そして,「係止部」を有しない乙1技術を,係止部を有する引用例1発明に適用する動機付けは存在しない。
また,乙1マイクロフィルムにおいては,被告が指摘する,「相互に押し合う」という,共辺部の全域がおおむね直線をなしているという第1図に示された形態の係止のレベルは,強固なものでなく,わん曲部分または折り曲がり部分上の肩において,相互にもたれ合う形態で接触するという第2図及び第3図の形態で接触するものの方が,舌片の掛止が一層強固となることを示している。したがって,被告が指摘する乙1マイクロフィルムの第1図の形態は,最適なものではないことが明らかにされているのであるから,そのような「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」が「相互に押し合う」技術を引用例1発明に適用することには,動機付けがないし,阻害要因があるといえる。
さらに,引用例1発明は,S字状部17に沿っている途中の過程で,押し合うという過程を経過しながら,そこでは掛止することなく,「基点15,15’が対面する位置で張出部b’,c’およびb,cの谷間で交叉するように掛止する」ものであり,また,「基点15,15’が対面する位置で張出部b’,c’およびb,cの谷間で交叉するように掛止する」もので足りるのであるから,これをあえて,谷間の「最奥部」を「食い込む」(押し合う)ようにする動機付けがない。
そして,本願補正発明の構成による特有の作用効果は,屈折片のたわみとその復元力によってもたらされるものであるところ,作用効果の点から構成をみれば,引用例1,引用例2及び乙1マイクロフィルムをどのような形態で組み合わせても,当業者が,係止部(谷間)の「最奥部」で「食い込む」(押し合う)ようにする構成を想到することはできない。
被告の反論
審決の認定及び判断には誤りはなく,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)について( ) 原告は,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用 1凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されていない旨主張するが,失当である。
( ) 引用例2には,「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押 2し上げ片の基部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’と外側のミシン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設けて,この折り線10,10より押し上げ片8,8を折り曲げると,押し上げ片8,8は互いに外側方向へと屈曲して互いに係止用凹み9,9でかみ合わないように考えられるが,実際に試作品を造つて実験してみると紙箱の底壁に設けた両押し上げ片8,8同志がよく係合し,かつ係止用凹み9,9でうまくかみ合つて係止することができる。」(5頁第2段落),「この考案のティシュぺーパー用箱の底壁に設けた押し上げ片形成用切取線に沿つて切取ることにより形成した押し上げ片の基部がわを実施例のように傾斜した折り線にしたことにより両押し上げ片を箱の中へと折り線に沿つて折り曲げると押し上げ片同志が互いによく係合することができるし,更に押し上げ片の頂部近くにそれぞれ係止用凹みを設けたことにより両押し上げ片は係止用凹みで互いによくかみ合うためによく係止して押し上げ片が倒れることがないから,箱に収容した残りのティシュペーパーを常に確実に押し上げていることができる。」(6頁第2段落)と記載され,第3図には底面図が示され,第5図には要部の拡大底面図が示され,第7図には別の実施例の要部の拡大底面図が示されている。
そして,上記の「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押し上げ片の基部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’と外側のミシン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設けて」の記載からみて,「折り線10,10」と「中央のミシン目6’」との成す角度が90°以上の鈍角になることは明らかであって,「折り線10,10」と両「係止用凹み9,9」の最奥部相互を繋ぐ仮想線との成す角度(以下「引用例2発明の交差角度」という。)は,「係止用凹み9,9」の深さと位置により変化することとなるが,引用例2にはその深さと位置を限定する記載はない。したがって,第3図,第5図あるいは第7図に示されているような位置で係止用くぼみの深さが浅ければ,引用例2発明の交差角度が,「折り線10,10」と「中央のミシン目6’」との成す角度よりも小さくなるものの,鈍角となり得ることは,幾何学的に明らかである。
そうすると,引用例2には,引用例2発明の交差角度が鈍角であることも示されているということができ,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものも記載されているのであり,審決の引用例2発明の認定には誤りはない。
原告は,引用例2発明の交差角度は,不明であり,鋭角若しくはせいぜい90°であると主張しているが,引用例2全体の記載からみて,そのようにのみ解釈する技術的必然性ないし合理的な理由は見当たらない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について( ) 原告は,審決が引用例2発明の認定を誤っていることを前提として,審決 1の相違点2についての容易想到性判断を誤りであると主張するが,前記1のとおり,審決の引用例2発明の認定に誤りはないから,原告の主張は前提を欠き,失当である。
( ) 乙1マイクロフィルムによれば,「ティシュペーパー収納箱において,両 2屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすること」(乙1技術)は,本件出願時に当該技術分野において広く知られていた技術である。
他方,引用例1発明の課題は,「本考案は,上記したような隣接する一対の揚支片を押し込んで係止する際に生じる押し込み困難性,揚支片の変形,不安定で不確実を係止などの問題点を解決するもの」(引用例1の2頁第3欄最終段落)であるから,不確実な係止という問題点を解決するために,引用例1発明における最奥部で相互に接触させた係止部同士の接触の度合いを,少し強くするか,少し弱くするか検討することは,当業者であれば,設計上当然行うことである。
したがって,引用例1発明において,引用例2発明又は本件出願時に当該技術分野において広く知られていた乙1技術を参考として,両屈折片を起立させたときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まない点を,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすることは,当業者ならば,容易に想到し得たということができる。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)について( ) 審決は,引用例2には,引用例2発明,すなわち,「共通の中央のミシン 1目によって相接し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に形成した収納箱において,各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるように構成し,前記両押し上げ片を起立させたときに,前記各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されるように構成した,ティシュペーパー収納箱。」(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)が記載されていると認定したところ,原告は,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されていないとして,審決の同部分の認定は誤りである旨主張する。
( ) まず,原告主張の点に関する本願補正発明の構成について検討する。 2ア 本願補正発明は,前記第2の2の本願補正発明の要旨によれば,収納箱の底部に形成された相対向する2個の屈折片を起立させたとき,相互に「各屈折片側に食い込む係止部」を形成して,当該係止部の「最奥部」において屈折片が相互に接触して係止し,当該最奥部相互をつなぐ仮想線と基端に形成された相互に平行な起立折目線との交差角度が「92°〜120°」であるという構成を有するものである。ここで,「各屈折片側に食い込む係止部」,「最奥部」の技術的意義が必ずしも明らかとはいえない。
イ そこで,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,以下の記載がある。
(ア) 「【作用】本発明に係るティシュペーパー収納箱においては,実質的な係止関係を形成する係止点を繋ぐ線と,起立折目線との交差角度が鈍角とされている。このため,屈折片を切り起こして使用する時,互いに係止し合う屈折片同士が,双方で折目方向に沿って押し合う形となる。
したがって,折目方向に沿った外側の方向に力がかかった場合,たとえばティッシュペーパー収容箱の底部が鉛直上側方向に撓んだ場合であっても,屈折片同士の係止関係は崩壊し難い。」(段落【0009】)(イ) 「中央ミシン目31は,折目線内側端33D,33Cにそれぞれ端を発し,屈折片40A,40Bに,それぞれ相手側の屈折片の方向に張り出す上側係止片41A,41Bを形成するように,係止点34A,34Bまで延在する上側張出部31A,31Bと,屈折片40A,40Bにそれぞれ上側張出部31A,31Bと同じ方向に張り出す下側係止片42A,42Bを形成するように,係止点34A,34Bと,対称点35とを繋いでなる下側張出部31C(S字,逆S字部に相当する。)とによって構成されている。また,上側係止片41,下側係止片42によって係止部が構成されており,屈折片40A,40Bを起立させたときに,この係止部が相手の屈折片40B,40Aに食い込む。係止点34は係止部の最奥部にあたる。この中央ミシン目31は,切り起こして使用する際に係止される関係上,対称点35を対称点とした点対称形状とされている。そして,係止点34A,34Bを結んだ仮想線Lと折目線32A,32Bとが形成する角度θは95°とされている。切り起こして使用される屈折片40A,40Bは,図3および図4に示すように,係止点34でそれぞれが接触して係止されるが,仮想線Lが傾斜を有しているため,係止されている屈折片40A,40Bには,矢印で示す方向と反対方向に若干の撓みを生じる。撓んでいる屈折片40A,40Bには復元力が発生し,その復元力によって上側係止片41A,41Bがそれぞれ矢印で示す方向に付勢され,屈折片40A,40Bは係止点34において強固に係止される。したがって,たとえば底面20がティシュペーパー収納箱10の内面方向に向けて撓んだ場合でも,切り起こされた屈折片40A,40Bの係止関係が崩れることはほとんどなくなる。」(段落【0012】〜【0014】)(ウ) 「たとえば図6に示すように,切込み部分を除いて,中央線が同一直線上に存在するようにしてもよい。また,図7に示すように,各折目線が裂開用ミシン目と繋がれていない態様とすることもできる。また,係止点34A,34Bを結んだ仮想線Lと折目線32A,32Bとが形成する角度θが大きすぎると,S字部,逆S字部が引っ掛かり,ゆがみが大きくなることで指で押し成形することが困難となる。この点に鑑み,本発明者等が実験を行った結果,角度θは,屈折片の大きさや材質等にも影響されるが,92°〜120°の範囲に設定するのが望ましく,その範囲内で最も好ましい角度が95°であることも判明した。」(段落【0016】,【0017】)(エ) 「【発明の効果】以上の説明から明らかなとおり,本発明によれば,切り起し時に係止状態とされている両屈折片の係止力が大きくなり,もって両屈折片の係止関係が容易に崩壊することのないティシュペーパー収納箱を提供することが可能となる。」(段落【0018】)ウ 上記記載によれば,本願補正発明において,係止部は,屈折片に形成された上側係止片及び下側係止片で構成され,係止部の最奥部に当たる点が係止点となり,各屈折片が係止する。
そして,本願補正発明は,「前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°」という構成を有するものであり,特許請求の範囲の「前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止される」との記載を併せ考えると,本願補正発明は,係止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,それぞれ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止するのみならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせる構成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,より強固な係止力を発揮させるという作用効果を奏するものであることが認められる。
( ) 他方,引用例2(甲8)には,以下の記載がある。 3ア 「上面に取出口用切取線を設けたティシュペーパーの紙箱において,該箱の底壁に2個の押し上げ片が相対向するとともに互いに側部が相接し,かつ互いに押し上げ片の頂部と基部とがほぼ同じ位置になるように押し上げ片形成用切取線を設け,該切取線の中央の切取線に沿って押し上げ片の頂部近くにそれぞれ係止用凹み用切取線を設けるとともに外側の切取線を押し上げ片の基部がわで中央の切取線よりやや長くして押し上げ片の基部がわの中央の切取線端部と外側の切取線端部との間にそれぞれ傾斜した折り線を設けてなるティシュペーパー用箱。」(実用新案登録請求の範囲)イ 「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押し上げ片の基部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’と外側のミシン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設けて,この折り線10,10より押し上げ片8,8を折り曲げると,押し上げ片8,8は互いに外側方向へと屈曲して互いに係止用凹み9,9でかみ合わないように考えられるが,実際に試作品を造つて実験してみると紙箱の底壁に設けた両押し上げ片8,8同志がよく係合し,かつ係止用凹み9,9でうまくかみ合つて係止することができる。」(5頁第2段落)ウ 「この考案のティシュぺーパー用箱の底壁に設けた押し上げ片形成用切取線に沿つて切取ることにより形成した押し上げ片の基部がわを実施例のように傾斜した折り線にしたことにより両押し上げ片を箱の中へと折り線に沿つて折り曲げると押し上げ片同志が互いによく係合することができるし,更に押し上げ片の頂部近くにそれぞれ係止用凹みを設けたことにより両押し上げ片は係止用凹みで互いによくかみ合うためによく係止して押し上げ片が倒れることがないから,箱に収容した残りのティシュペーパーを常に確実に押し上げていることができる。」(6頁第2段落)( ) 上記( )によれば,引用例2には,「共通の中央のミシン目によって相接 43し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に形成した収納箱において,各押し上げ片に係止用くぼみが形成されるように構成し,前記両押し上げ片を起立させたときに,前記各係止用くぼみがそれぞれ相手側の係止用くぼみとかみ合って係止されるように構成した,ティシュペーパー収納箱。」が記載されている。
そうすると,引用例2には,ティッシュペーパー収納箱の底部に形成された2個の押し上げ片を起立させたとき,各係止用くぼみが,それぞれ相手方の係止用くぼみとかみ合って係止されることが記載されており,その点で,本願補正発明と同様に,上側及び下側係止片で構成される係止部を有することにより係止するものであるが,引用例2発明の「係止用凹み」は,本願補正発明の「前記両係止部の最奥部相互をつなぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°」となる構成を有していないため,単に,係止部において,相互に接触して係止するのみであり,本願補正発明と異なって,係止時に屈折片にたわみが生じないので,係止部の「最奥部」が押し合わず,「各係止部が相手方の係止部に食い込(む)」という構成を有するものではない。
確かに,引用例2の上記記載によれば,引用例2発明においては,「外側の切取線を押し上げ片の基部がわで中央の切取線よりやや長くして押し上げ片の基部がわの中央の切取線端部と外側の切取線端部との間にそれぞれ傾斜した折り線」が設けられているため,その押し上げ片を起立させる際,当初は,各押し上げ片は共辺部において相互に押し合う関係になる。しかし,各押し上げ片は,頂部近くに設けられた係止用くぼみが相互にかみ合うことにより係止されるのであり,その係止の際,なお,係止用くぼみが相互に押し合うことについては,引用例2には何ら記載もないし,示唆もない。引用例発明2には,本願補正発明のような,係止時における屈折片のたわみにより,係止部の「最奥部」において,相互に押し合う状態を生じさせるようにし,その結果,強固な係止力を発揮させるという技術的思想がないものといわざるを得ない。
したがって,引用例2には,本願補正発明の「前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込(む)」という構成が記載されていないので,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されていないといわざるを得ず,これが記載されているとして引用例2発明を認定した審決は誤りである。
( ) 被告は,引用例2において,「折り線10,10」と「係止用凹み9, 59」の最奥部相互をつなぐ仮想線とのなす角度(引用例2発明の交差角度)は,「係止用凹み9,9」の深さと位置により変化することとなるが,引用例2には,その深さと位置を限定する記載はなく,引用例2の第3図,第5図あるいは第7図に示されているような位置で深さが浅ければ,引用例2発明の交差角度が鈍角となるのであるから,引用例2には,引用例2発明の交差角度が鈍角であることも示されており,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものが記載されていると主張する。
しかし,引用例2の記載及び図面において,係止用くぼみの位置及び深さを変えることについては,記載もなく,また示唆もされていない。前記のとおり,引用例2には,本願補正発明のような,係止時において,屈折片のたわみにより,係止部の「最奥部」において,相互に押し合う状態を生じさせるようにし,その結果,強固な係止力を発揮させるという技術的思想がなく,係止用くぼみがかみ合うことにより係止するという構成の発明が記載されていると解するほかないのであり,被告の上記主張は,前提を欠くものである。
( ) したがって,審決の引用例2発明の認定は誤りであり,この誤りが審決の 6結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について( ) 審決は,「引用例1発明におけるティッシュペーパー収納箱に,ティッシ 1ュペーパー収納箱の技術分野の点で,技術分野の関連性を有する引用例2発明のティシュペーパー収納箱を適用して,引用例1発明において,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部が形成されるように構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を,90°より大きくし,その際に,この交差角度を,92°〜120°に設計上の数値の特定をなし,相違点2に係る本願補正発明のような構成をとろうとすることは,当業者ならば容易に想到し得たことである。」(審決謄本7頁第4段落)と判断したが,原告は,その判断の誤りを主張する。
( ) 審決の上記判断は,引用例2発明が,両屈折片を起立させたときに,係止 2用くぼみの最奥部で,相互に押し合うという構成を有することを前提として,両屈折片を起立させたときに,係止用くぼみの最奥部が相互に押し合うという構成を有さない引用例1発明に引用例2発明を適用すれば,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み,両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を92°〜120°に特定するという,相違点2に係る本願補正発明の構成をとることが,当業者ならば容易に想到し得たとするものである。
しかし,上記1のとおり,引用例2発明は,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものではなく,係止用くぼみの最奥部で,相互に押し合い,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むという構成を有しないものであって,この点は引用例1発明と同様である(前記第2の3()イ(イ)の相違点2の認定参照) 2から,そもそも引用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けを欠くというほかない。
したがって,引用例2発明の誤った認定を前提としてされた,相違点2についての審決の判断は,誤りであるといわざるを得ない。
( ) 被告は,乙1マイクロフィルムをあげて,ティシュペーパー収納箱におい 3て,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすることは,本件出願時に当該技術分野において広く知られていた技術であること,不確実な係止という引用例1発明の課題点を解決するために,引用例1発明における,最奥部で相互に接触させた係止部同士の接触の度合いを,少し強くするか,少し弱くするか検討することは,当業者であれば,設計上当然行うことであるとして,引用例1発明において,引用例2発明や本件出願時に当該技術分野において広く知られていた技術を参考にして,両屈折片を起立させたときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まない点を,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすることは,当業者ならば,容易に想到し得た旨主張する。
ア そこで,検討すると,乙1マイクロフィルムには以下の記載がある。
(ア) 「本考案は,ティシュペーパー収納箱の底部に略S字形(又は略逆S字形)の裂開可能部を設け,該裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開して形成される二つの舌片を互いに掛止させることによって,収納されているペーパーの持ち上げ及び支持を効果的にしたティシュペーパー収納箱を提供するものである。」(2頁最終段落〜3頁第1段落)(イ) 「第1〜3図に示すように本考案に従ってティシュペーパー収納箱の底部に設けられる裂開可能部は,端辺部1,1’,側辺部2,2’,及び該側辺部に挟まれた共辺部3とから成る略S字形又は略逆S字形を成す。・・・しかして,本考案に従えば,共辺部3は,少なくともその中央部分が側辺部2,2’と鋭角を成していることが必要である。」(3頁第2段落)(ウ) 「箱の底部に上記のごとき形状の裂開可能部を形成しておけば,第4図のように該裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開することによって二つの舌片が形成され,該舌片は共辺部上の一点で掛止し合うことによって箱内部に収納されているティシュペーパーを持ち上げ,支持することができる(第5図参照)。このときミシン目等の裂開によって生じた共辺部上の凸状部の存在によって舌片の掛止が一層容易になる。本考案に従い収納箱の底部に設けられる略S字形または略逆S字形の裂開可能部は,第1図に示すように,その共辺部の全域が概ね直線を成していてもよい。しかしながら,本考案の好ましい態様においては,共辺部は,その中央部分が側辺部と鋭角を成すと共に,その両端にわん曲部分4,4’(第2図参照),あるいは,側辺部と鈍角を成す折れ曲がり部分5,5’を有するようにしておく(第3図参照)。このような形状の裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開した場合は,生じる二つの舌片は,共辺上のわん曲部分または折り曲がり部分上においても互いに接触することができ,両舌片の掛止が一層強固になる。」(3頁最終段落〜5頁第1段落)イ これによれば,乙1マイクロフィルムには,ティシュペーパー収納箱の底部に,端辺部1,1’,側辺部2,2’,及び,該側辺部に挟まれ,少なくともその中央部分が側辺部2,2’と鋭角を成す共辺部3とから成る略S字形又は略逆S字形の裂開可能部を設け,該裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開して形成される二つの舌片を互いに共辺部上の一点で掛止させることによって,収納されているペーパーを持ち上げ,支持することができるようにした技術が記載され,共辺部の全域が直線であってもよいが,両端にわん曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成すると,両舌片の掛止が一層強固になることが記載されている。
したがって,乙1マイクロフィルムには,「ティッシュペーパー収納箱において,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手方の係止部に食い込むようにする技術」(乙1技術)が開示されており,乙1マイクロフィルムが本件出願の13年前である昭和56年に公開されたものであることからすると,本件出願時,本願補正発明に係る技術分野において広く知られていた技術であるといえないこともない。
しかし,乙1技術は,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにするというものであるが,そもそも,乙1技術は,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによってはじめて掛止させるものであり,このことは,共辺部の全域が直接である場合に限らず,両端に湾曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成する場合も同様であって,乙1技術において,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うようにすることは,二つの舌片を掛止させるための必須の構成であり,不安定な掛止をより確実なものとするようなものではない。
これに対し,本願補正発明は,上側係止片及び下側係止片で構成される係止部を有する構成において,その係止部の「最奥部」を係止点として係止し,係止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,それぞれ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止するのみならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせる構成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,より強固な係止力を発揮させるというものであって,係止のための技術的思想が異なるものであり,係止方法につき,乙1技術においては,本願補正発明のような技術的思想はない。
加えて,引用例1発明の認定には争いがないところ,引用例1(甲7)の「揚支片a,a’は主に張出部c,c’を弾性的に変形しながらS字状部17沿いに相対変位し,基点15,15’が対面する位置で張出部b’,c’およびb,cの谷間で交叉するように掛止することができる(第3,4図)。」(2頁4欄30行目〜35行目)との記載によれば,引用例1発明は,揚支片の基点が対面する位置において張出部の谷間で揚支片が交叉することにより二つの揚支片を掛止させるものと認められる。
そうすると,引用例1発明と,乙1技術とは,揚支片ないし舌片を掛止させるための作用においてそもそも異なるのであり,仮に,乙1技術のような,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによって掛止させる技術が本件出願時に周知のものであったとしても,この技術をいかにして引用例1発明に適用するのかということ自体,想定することが困難であり,動機付けを欠くというべきである。
以上によれば,乙1技術を参酌して,当業者が,引用例1発明及び引用例2発明から,本願補正発明の「前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°〜120°」との構成に想到することが容易であるとはいえない。
ウ また,被告は,不確実な係止という引用例1発明の課題点を解決するために,引用例1発明における,最奥部で相互に接触させた係止部同士の接触の度合いを,少し強くするか,少し弱くするか検討することは,当業者であれば,設計上当然行うことであるとも主張する。
しかし,引用例1発明も引用例2発明も,上記のとおり,本願補正発明のような,係止部の「最奥部」において,屈折片のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせるという技術的思想は開示していないのであって,そのような技術的思想の前提もないところで,被告の主張する試行錯誤をすることが,当業者の通常の創作能力の発揮として設計上当然行うことであるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
( ) 以上のとおり,引用例1発明において,相違点2に係る本願補正発明の構 4成に想到することが,当業者にとって容易であるとした審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって,原告の取消事由2も理由がある。
3 以上によれば,原告主張の取消事由1及び2は理由があるから,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明