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関連審決 不服2001-19584
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  同意 /  対価 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10425号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士湯川二朗
同道端慶二郎
訴訟代理人弁理士 石橋佳之夫
同 粕川敏夫
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人中村和夫
同塩崎進
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-19584号事件について平成17年2月28日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「パチンコホールで得た景品の換金システム」とする発明につき,平成12年10月20日,特許を出願(以下「本願」という。)し,その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,平成13年9月19日付けの拒絶査定を受けた。これに対し,原告が拒絶査定不服の審判請求(不服2001-19584号)をしたところ,平成14年10月25日付けで,本件審判の請求は成り立たない旨の審決がされた。原告(請求人)はこれを不服として東京高等裁判所に当該審決の取消しを求める訴え(平成14年(行ケ)第603号)を提起し,平成15年9月8日,前記審決を取り消す判決が言い渡された。
そこで,特許庁は,更に審理の上,平成16年6月14日付けで特許法36条4項及び6項並びに29条2項の拒絶理由を通知した。これに対し,原告は,平成16年8月6日,手続補正書を提出したが,平成17年2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決がされ,同年3月22日,審決の謄本が原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成16年8月6日付け手続補正書による補正後の本願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)における特許請求の範囲(請求項は全部で11項ある。)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】 パチンコホールのホール端末と,換場業者の換場業者端末と,これらの端末と通信網を介して必要な情報を授受できるサーバーと,を有してなるシステムであって,通信網を介して注文を受け商品を販売する電子商取引サイトが提供する景品に関する情報を格納する記憶部を有し,通信網を介してホール端末に対し上記記憶部に格納されている景品情報を提供し,パチンコホールにおいて客が獲得した玉の玉数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶し,換場業者端末から送信され換場業者が買い取った注文済目録の景品データを上記記憶部に記憶し,または客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には上記電子商取引サイトに対して当該景品を客に届ける旨の指示を通知して上記記憶部に記憶するサーバーと,パチンコホールに設置され,通信網を介して前記サーバより提供される景品情報に含まれる景品を注文するための情報入力手段と,該情報入力手段により入力して注文した景品及び注文に関する情報を記録した情報記録媒体である注文済目録を発行する目録発行手段及び注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシートを発行するレシート発行手段を備えたホール端末と,客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シートを買い上げる換場業者に設置され,前記注文済目録と注文明細レシートに記載された景品情報を読み取る注文済目録読取手段と,注文された景品に対応する金額を表示する表示手段と,該注文済目録表示手段により読み取ったデータとパチンコホールより送信される注文済目録と注文明細レシートに関するデータとを照合する照合手段を有し,買い取った注文済目録の景品データを上記サーバーに送信する換場業者端末と,からなるパチンコホールで得た景品の換金システム」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明に係る「発明の詳細な説明」の記載は,特許法36条4項(ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。特許法36条につき,以下同じ。)に適合せず,本願明細書の「特許請求の範囲」の請求項1の記載も同条6項に適合しないし,かつ,特開平11-57178号公報(甲第6号証。以下「刊行物1」という。)及び「パチンコ業界用語辞典」(甲第7号証。株式会社プレイグラフ社平成7年9月20日発行,以下「刊行物2」という。)の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法29条2項の規定に該当するから,特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,特許法36条4項及び6項に適合しない点,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1) 特許法36条4項に適合しない点ア 換金を目的とする場合としない場合で景品注文データの送信先が相違するのは,端末20から注文する景品として,換金を目的とする場合は,「特殊景品」等のように「景品」が特定されているのか,または,注文明細レシートR及び注文済目録tから成る引換券のみを要し,景品自体を不必要としたものであるのか不明瞭である。
イ 「注文明細レシートRと注文済目録t」の性格が不明である。
ウ 買い取った,引換券である注文済目録tを管理会社Aが保管する意義(作用・効果)が不明である。
(2) 特許法36条6項に適合しない点ア 特許請求の範囲の請求項1には,サーバー,ホール端末,買い上げる注文済目録と注文レシートの景品に対応する金額表示手段,及びデータ照合手段を備えた換場業者端末等,個々の装置の存在は記載されているが,換場業者が客に払い出した金銭をホールがどのように支払うのかそのシステムが不明瞭であるから,換金システムとしての発明が明確ではない。
イ 特許請求の範囲の請求項1に記載されている「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」の意味が明確でない。
ウ 特許請求の範囲の請求項1に,「注文済目録」の記載事項である「景品及び注文に関する情報」は,注文明細レシートに記録された「注文された景品の品目と個数」を文言上含むと認められ,すると,注文済目録と注文明細レシートの相違が不明瞭である。
(3) 引用発明の内容客がカタログで景品を選択して,選択された景品を指定された配達先に宅配する景品宅配システムでは,配送センターに在庫が必要であり,配達の手間もかかり,在庫や配送のコストがかかるという問題を解決するために,遊戯場の店頭で客が景品を選択すると,ネットワークを介して景品を扱っている商店に通知して景品の引渡を依頼するとともに,商店では,客が来店すると本人であることを確認して景品を引き渡すシステムであって,具体的には,景品のカタログが表示された遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,遊戯場端末1から通信回線2を経由してセンターサーバ3に伝送され,センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込むと同時に遊戯場端末1において,景品を引き渡す商店と識別符号を書いた個人認証票を発行して客に渡し,客は個人認証票を持って指定された商店に出向いて景品の引渡しを請求すると,商店では,個人認証票のバーコードを読み取って確認し,商店端末5を使ってセンターサーバ3をアクセスし,景品引渡情報をメールボックス4で確認して,客に景品を引き渡した後,センターサーバ3に,景品引渡しが完了したことを通知すると,センターサーバ3では,景品引渡し完了を受信し,取引を記録してメールボックス4の当該データを消去する景品引渡システム。
(4) 本願発明と引用発明との一致点パチンコホールのホール端末と,これらの端末と通信網を介して必要な情報を授受できるサーバーと,を有してなるシステムであって,通信網を介して注文を受け商品を販売する電子商取引サイトが提供する景品に関する情報を格納する記憶部を有し,ホール端末に対し記憶手段に記憶されている景品情報を提供し,パチンコホールにおいて客が獲得した玉の玉数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶し,景品引渡情報を上記記憶部に記憶するサーバーと,パチンコホールに設置され,通信網を介して景品を注文するための情報入力手段と,該情報入力手段により入力して注文した景品及び注文に関する情報を記録した情報記録媒体である引換券を発行する発行手段を備えたホール端末と,からなるパチンコホールで得た景品の換金システム(5) 本願発明と引用発明との相違点ア 本願発明においては,ホール端末に提供する景品情報の記憶部がサーバーに存在するのに対し,刊行物1では景品情報記憶手段が存在するが,当該記憶手段が何処に配置されているかは記載されていない点(以下,審決と同様に「相違点(あ)」という。)イ 本願発明においては,引換券の構成が,「注文した景品及び注文に関する情報を記録した注文済目録」及び「注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシート」から構成されているのに対し,刊行物1においては,「景品を引き渡す商店と識別符号を書いた個人認識票」である点(以下,審決と同様に「相違点(い)」という。)ウ 本願発明においては,「景品としての注文済目録と注文レシート」が買い上げられて換金されるのに対し,引用発明においては,景品の換金については記載されていない点,したがって,引用発明には電子商取引における換金に関する情報である,買い取った注文済目録の景品データをサーバに送信する点,さらには,換金対象である注文済目録及び注文レシート,及びその読取,表示,照合等の手段については記載されていない点(以下,審決と同様に「相違点(う)」という。)エ 客が注文した景品の引渡手段として,本願発明は,配送引渡手段によるのに対し引用発明は店頭引渡手段である点(以下,審決と同様に「相違点(え)」という。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,本願明細書の記載について特許法36条4項の要件に適合するか否かの判断を誤り(取消事由1),本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載について特許法36条6項の要件に適合するか否かの判断を誤り(取消事由2),さらに,本願発明が引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に行うことができたか否かの判断を誤った(取消事由3)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許法36条4項の要件適合性)ア 審決は,「換金を目的とする場合としない場合で景品注文データの送信先が相違するのは,端末20から注文する景品として,換金を目的とする場合は,『特殊景品』等のように『景品』が特定されているのか,または,注文明細レシートR及び注文済目録tから成る引換券のみを要し,景品自体を不必要としたものであるのか不明瞭である。」(審決書3頁5行〜9行)としている。
しかしながら,本願発明において,客が換金を目的とする場合でも獲得した玉数に見合った金額を確定する必要があるから,客は特定の景品を指定し,換金を目的とする場合でも換金を目的としない場合でも,景品注文データはサーバに送信され,客が景品そのものの入手を希望するときにのみ,サーバから電子商取引サイトに景品注文データが送信されることは,本願明細書の段落【0032】及び段落【0091】の記載から明らかである。客が換金目的の場合にされる景品の品目と数の特定は,いわば便宜上されるものであるが,景品が特定されていることに変わりはない。また,景品の注文に伴って,注文明細レシートR及び注文済目録tが発行されることは,上記の記載から明らかである。
本願発明においては,注文を構成する要素として特定された品目・数量の景品は必要であるが,現物としての景品は必要でなく,景品とその数によって交換することのできる金額を証明する注文明細レシート及び注文済目録が存在することは,本願明細書の段落【0063】以下及び段落【0091】の記載から明らかである。
イ 審決は,特許請求の範囲の請求項1に記載されている「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」の意味が明確でないとする(審決書5頁5行〜6行)。
しかしながら,本願明細書の段落【0035】の記載から,客が換場業者のもとで換金する場合には,注文明細レシートと注文済目録が一体でないと現金化することができないことを説明している。また,段落【0038】,【0042】及び【0071】の記載は,換場業者と景品業者との間の取引及びホールと景品業者との取引について説明したものである。この場合には,目視で注文内容を確認するための注文明細レシートは不要であることから,注文済目録のみで流通することとしている。客が景品そのものの入手を希望するときには,注文明細レシートは,景品の品目と数量を証明するものであり,注文明細レシートを提示して,店頭の景品を受け取り又はショッピングモールへの配送依頼をすることになるから,引換券としての性格を有している。したがって,注文明細レシートと注文済目録の性格が不明確であるとはいえない。
ウ 審決は,買い取った,引換券である注文済目録tを管理会社Aが保管する意義(作用・効果)が不明であるとする(審決書6頁16行〜17行)。
しかしながら,本願明細書の段落【0086】の記載にあるように,管理会社Aは,景品業者MのホールHに対する債権と,換場業者Eの景品業者Mに対する債権を買い取るから,管理会社がホールで客に発券した注文済目録のデータと換場業者から景品業者への資金の流れを個々に把握して明確にするために,流通した注文済目録を,最終的にファクタリングを行う管理会社に蓄積させる構成としたのである。したがって,引換券である注文済目録tを管理会社Aが保管する意義(作用・効果)は,上記のとおり明確である。
2 取消事由2(特許法36条6項の要件適合性)ア 審決は,「特許請求の範囲の請求項1には,サーバー,ホール端末,買い上げる注文済目録と注文レシートの景品に対応する金額表示手段,及びデータ照合手段を備えた換場業者端末等,個々の装置の存在は記載されているが,換場業者が客に払い出した金銭をホールがどのように支払うのかそのシステムが不明瞭であるから,換金システムとしての発明が明確ではない。」(審決書7頁7行〜11行)としている。
しかしながら,本願発明においては,換場業者が客に払い出した金銭をホールがどのように支払うのかは当事者間の清算の問題であって,本願発明の本質的部分ではなく,本願発明を実施する際の設計事項に属するものである。
よって,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1で,「換場業者が客に払い出した金銭を,ホールがどのように支払うのか」が不明であったとしても,特許法36条6項の要件を満たしていないことにはならない。
イ 審決は,「特許請求の範囲の請求項1に記載されている『客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート』の意味が明確でない。」(審決書7頁22行〜23行)としている。
しかしながら,本願明細書の特許請求の範囲請求項1に記載されている「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」については,本願明細書の段落【0036】にあるように,注文明細レシートと注文済目録は,注文内容と景品の内容を示し,景品と同視することのできるものである。
また,注文された特定の景品のみと交換することができるという意味では,引換券としての性質を有していることは,明らかである。注文明細レシートと注文済目録が景品と同視できるとともに,引換券としての性質を有していても,これらの意味が不明確であることにはならない。
ウ 審決は,「特許請求の範囲の請求項1に,『注文済目録』の記載事項である『景品及び注文に関する情報』は,注文明細レシートに記録された『注文された景品の品目と個数』を文言上含むと認められ,すると,注文済目録と注文明細レシートの相違が不明瞭である。」(審決書7頁28行〜31行)としている。
しかしながら,本願明細書の段落【0017】に「注文済目録は磁気記録媒体を有する磁気カードである」とあるように,「注文済目録」は,注文した景品及び注文に関する情報を記録した記録媒体であり,換場業者端末の「注文済目録読取手段」により読み取りが可能なものと構成されている。
「注文明細レシート」は,景品の品目と個数を記録したレシート,すなわち,印字され,目視が可能なものであって,両者は異なる構成となっており,注文済目録と注文明細レシートの相違が不明瞭であることはない。
3 取消事由3(容易推考性の判断の誤り)(1) 本願発明と引用発明の一致点認定の誤りア 商店と電子商取引サイト引用発明の「商店」は現実にかつ物理的に存在する店舗であるが,本願発明の「電子商取引サイト」は,ネットワーク上に仮想的な店舗が存在するだけであり,引用発明の「商店」が本願発明の「電子商取引サイト」に相当するとした審決の認定は誤りである。
イ センターサーバとサーバ引用発明の「センターサーバ3」はホール端末から受けた景品注文データを直ちに商店に通知するものであるが,本願発明の「サーバ」は,客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合に初めて,電子商取引サイトに対して当該景品を客に届ける旨の指示を通知するものである。よって,引用発明の「遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,‥‥‥センターサーバ3に伝達」され,「センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込む。」点は,本願発明の「ホール端末に対し‥‥‥景品情報を提供し,‥‥‥景品注文データを上記記憶部に記憶」する点に相当するとした審決の認定は誤りである。
ウ 個人認証票と注文済目録及び注文明細レシート引用発明の「個人認証票」の記載事項は商品を引き渡す商店と識別符号のみである(刊行物1の段落【0015】)が,本願発明では,「注文済目録」には景品及び注文に関する情報が,「注文明細レシート」には注文された景品の品目と個数が記録されている。したがって,本願発明の「注文明細レシート」に対応するものは,引用発明において存在しない。本願発明では,「注文済目録」のほかに,「注文明細レシート」を発行し,両者が揃うことによって,客が換金することができるようにし,換場業者と景品業者との間の取引及びホールと景品業者との取引ないしは清算を注文済目録のみで行っている。これに対して,専ら景品との交換のみを目的としている引用発明では,客が獲得した玉を計数したその場で交換する商品を指定するので,客が商店に出向いて指定した商品を受け取るための個人認証票を発行するのみで足り,本願発明の注文済目録及び注文明細レシートを発行するという発想そのものがあり得ない。よって,引用発明の「個人認証票」が本願発明の「注文済目録」及び「注文明細レシート」と,景品引換券において共通するとした認定は,誤りである。
エ 景品引渡手段と引渡手段上記のとおり,本願発明における「電子商取引サイト」と引用発明における「商店」とは相違するし,本願発明の「ホール端末」と引用発明の「センターサーバ3」の機能も異なるから,本願発明と引用発明とでは,景品の引渡形態が異なる。したがって,引用発明における景品引渡手段と本願発明における引渡手段とは,パチンコ店から送信されてサーバーに記憶された景品引渡情報に基づいて引き渡す点において共通するとの審決の認定も誤りである。
(2) 相違点の看過審決は,本願発明と引用発明との次の相違点を看過している。
本願発明のサーバは,換場業者端末から送信され,換場業者が買い取った注文済目録の景品データを記憶部に記憶し,又は客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には,電子商取引サイトに対して当該景品を客に届ける旨の指示を通知して,記憶部に記憶するのに対して,引用発明のサーバは,このような構成を備えていない点(3) 相違点(い)の判断の誤り審決は,「‥‥‥当該記載事項を,複数片に分けて記載することによる格別の作用効果は認められないから,当該引換券のサイズ,及び,記載事項の多寡に応じて複数片に分けて記載することは,当業者ならば必要に応じて適宜為し得る程度の事項である。」(審決書13頁16行〜19行)と判断している。
本願発明において,注文済目録は注文した景品及び注文に関する情報を記録した記録媒体であり(本願明細書の段落【0017】),これは,換場業者端末の注文済目録読取手段により読み取ることができるものである。一方,注文明細レシートは,レシートプリンタから打ち出された,注文番号に対応した景品品目,個数,交換した玉数等が印字記録されたレシートである(同段落【0033】,段落【0061】)。注文済目録と注文明細レシートを発行する理由は,注文済目録及び注文明細レシートのいずれにも景品の品目等の景品情報が記憶されていることから,両者を照合することができるという効果を奏し(同段落【0066】等),客が景品自体を希望する場合は,それを入手することができ,景品自体の入手を希望しない場合は,景品とその数に対応した金額に換金することのできる仕組みを実現するためで,単に,サイズや記載事項の多寡に応じて複数片に分けたものではない。
(4) 相違点(う)の判断の誤りア特殊景品審決は,「引用発明の景品引渡システムを特殊景品による周知の換金手段を含むシステムとすることは,周知の換金手段も景品の引渡を介在させるものであるから当業者ならば適宜なし得る程度の事項である。」(審決書13頁27行〜29行)と判断しているが,本願発明は特殊景品を必要としない発明であるから,この判断は誤りである。また,引用発明は換金を考慮せず,専ら景品と交換する場合のシステムであるから,刊行物1には,換金のために引換券を利用することに関する記載がないし,示唆もない。
イ 換場業者の買上げ対象審決は,「本願発明の換金手段では,換場業者の買い上げ対象が,注文済目録及び注文レシートである」(審決書14頁1行〜2行)としているが,本願発明における換場業者の買い上げ対象は,注文済目録及び注文レシートではなく,注文済目録及び注文レシートに記録されている数の特定の商品である。現象面のみを観察すると,換場業者は,客が持参した注文済目録と注文明細レシートを買い上げるように見えるし,「換場業者が注文済目録と注文明細レシートを買い取り」(例えば,本願明細書の段落【0066】)とあるのは,現象面から観察した記載である。しかし,その趣旨は,「換場業者は客の持参した明細レシートと注文済目録を‥‥‥現金と交換することにより,客より景品を買い取った状態となる」(同段落【0037】)ということである。本願発明の注文済目録と注文明細レシートは,換場業者において照合されるから,これらが一体となって初めて換場で換金することができ,照合の後,換場業者と景品業者との間の取引ないしは清算及びホールと景品業者との取引ないしは清算の際には,注文済目録のみが移転する。換場業者以降の注文済目録の移転は,関係者間の取引の確認ないしは清算に供されるものであって,注文済目録の移転によって,景品の所有権が転々と移転されるものではない。
ウ 注文済目録及び注文シート審決は,「当該換金の流れの中において特殊景品を不介在として,特殊景品引換券,すなわち,注文済目録及び注文シートを特殊景品に代えて換金用の買い上げ対象とすることは,当業者ならば容易に為し得ることである。」(審決書14頁29行〜31行)と判断している。
しかし,審決は,本願発明の注文済目録及び注文明細レシートが従来の換金システムの特殊景品に代わるものとしている点において,判断を誤っている。本願発明の注文済目録及び注文明細レシートは,一般の商品流通経路に載る商品と交換可能であることを証明するものであり,客がその商品自体の入手を希望する場合は電子商取引サイトから入手することができ,換金を希望する場合は注文済目録及び注文明細レシートに記録されている商品とその個数に応じた金額と交換することができるものである。従来の換金システムの特殊景品は,換金することだけが可能なものであって,一般の商品流通経路に乗る商品と交換可能であることを証明するものではなく,本願発明の注文済目録及び注文明細レシートと,同じ機能を果たすことはできない。また,仮に,従来の換金システムにおいて,特殊景品に代えて本願発明の注文済目録及び注文明細レシートを換金用の買い上げ対象としたとしても,本願発明のシステムに生まれ変わるわけではないから,審決の判断は誤っている。
この点に関して,被告は,「換金を目的としない場合は,ホール端末で景品を注文する時点で,換金目的であるか,景品自体の入手目的であるかが区分けされることとなる」旨をいうが,これも誤りである。客が,ホール端末で景品を注文する時点で,必ずしも,換金目的であるか,景品自体の入手目的であるかを区分けする必要はないし,その時点で区分けする構成にもなっていない。ホールでは,客が獲得した玉の数に応じて交換する景品の注文を受け付け,ホール端末は,受け付けた景品に関する景品注文データを,サーバに送信する。サーバは,その記憶部に景品注文データを記憶する。この景品注文データは,少なくとも,客が景品の受け取りを希望する旨の通知を受けるか,又は換場において換金されることによって,換場業者端末から買い取った注文済目録の景品データが送信されてくるまでは記憶されている。したがって,客が景品の受け取りを希望する場合は,例えばホール端末からサーバに,景品を客に届ける旨の指示を通知する。サーバは,この通知を受けて初めて,所定の電子商取引サイトに景品注文データを送信する。客が換金を希望する場合は,換場に出向いて,注文済目録と注文明細レシートを提示すればよい。
被告の反論の骨子
審決の認定判断は正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(特許法36条4項の要件適合性)についてア 本願明細書の段落【0032】及び段落【0091】の記載に基づけば,端末20からショッピングモール上の景品を注文した場合において,客が換金を目的とするときは,その景品注文データは換場業者と景品業者,管理会社に送信され,換金を希望しないときは,管理会社がその旨をショッピングモールサイトに伝達送信することになる。審決は,この場合の送信先が異なる点の説明を,景品とデータの流れとの関係,すなわち景品を不要とする場合が存在するのか否かが不明であると指摘したものである。
サーバが電子商取引サイトに景品注文データを送信するか否かの判断根拠である「客が景品そのものの入手を希望」するか否かは,どのようにして判断されるのか,すなわち,換金を希望する場合も希望しない場合も,景品注文データは換場業者及びサーバに送信されるものであり,景品注文データからサーバは,どのように判断して,電子商取引サイトに景品注文データを送信するのかが段落【0032】及び段落【0091】には記載されていない。
本願明細書の段落【0091】の「景品を購入する旨のデータ」の文言は,段落【0091】以外に記載されていないし,本願の図面,すなわち,図3に,ホールHから管理会社に送信されるデータは,景品(注文)データ(S8)のみ示され,景品を購入する旨のデータは記載されていない。したがって,「景品を購入する旨のデータ」は,不明瞭である。
仮に,景品注文データと景品を購入する旨のデータとが同一とした場合は,本願明細書の段落【0063】及び段落【0065】の記載から,景品を希望する場合のみならず,換金を希望する場合も共に,景品注文データはサーバに送信されることが記載されており,さらに,「ここでは換金を目的とする場合であるため,端末20の操作によりインターネットのショッピングモール上の景品を注文する(S4)。」(段落【0032】)と記載され,しかも,「判断」との文言も記載されていないから,管理会社がどのようにして「ショッピングモールサイトへの発注を行うか否かを判断」するかは,本願明細書には記載されていない。また,景品注文データと景品を購入する旨のデータとが相違する場合は,景品を希望する場合と換金を希望する場合とで,ホール端末からサーバに送信される信号は,どのような操作により相違が生じるのか,記載されていない。
イ 本願の図3並びに本願明細書の段落【0035】,段落【0038】,段落【0042】及び段落【0071】の記載を参照しても,ホールと景品業者との取引において,注文済目録のみで流通する旨の記載及び目視で注文内容を確認するための注文明細レシートは不要である旨の記載は,認められない。
また,本願明細書の段落【0036】の記載事項は,段落【0038】,段落【0042】,段落【0071】と同一の実施例についての説明であるにもかかわわらず,注文明細レシートと注文済目録の定義は,「注文された特定の景品のみと交換できる引き換え券」(段落【0036】),「買い取った景品」(段落【0038】),「事実上の景品」(段落【0042】),「景品,即ち注文済目録t」(段落【0071】)などと実施例によって異なっている。注文明細レシートと注文済目録の定義が同一実施例の説明において一義的に定まらないものであるから,当該事項が不明瞭であることは,明らかである。
ウ パチンコ遊戯において,換金を目的とする景品は,本願の図1の三店方式における特殊景品代金支払いのように,最終的には景品を供与したホールが当該景品を買い取って負担するものと考えられ,本願発明においても,本願明細書の【発明が解決しようとする課題】の記載に照らせば,同様であると認められる。しかし,最終的負担者であるホールに,事実上の景品である換金用景品が蓄積されずに,管理会社に保管される意義(作用・効果)が不明である。すなわち,獲得した玉を換金する際の金銭上の負担者は誰かが明瞭にされていない。
2 取消事由2(特許法36条6項の要件適合性)についてア 原告のいう本願発明の本質的部分が何であるかが不明であり,本質的部分と特許法36条6項の要件とがどのように関わるかも記載されていない。原告は,景品の金額の負担は,いわゆる三店方式で換金していることは明らかであると主張するが,本願発明は,「パチンコホールで得た景品の換金システム」の発明であり,本願発明のパチンコホール,換場業者,景品業者,管理会社が三店方式とどのように対応するかについては記載されていない。
イ 前記1イのように,注文済目録と注文明細シートを,ある時は引き換え券と称し,また,ある時は景品と称し,しかも引き換え券と景品が同意義とも認められないから,「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」の意味が明確でない。引換券は,当該引換券が指示するものと交換できることを示すもので,景品自体とはその定義が相違することから,定義の相違する景品自体と引き換え券を混在させた記載は,その意味が不明瞭である。
ウ 原告は,「注文済目録は磁気記録媒体を有する磁気カード」であって,換場業者端末の「注文済目録読取手段」により読み取りが可能なものであるのに対し,「注文明細レシートは,景品の品目と個数を記録したレシート,すなわち,印字され,目視が可能なもの」であって,両者は異なる構成となっていると主張する。
しかし,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,「情報記録媒体」が磁気カードであるとの限定はない。また,注文明細レシートが印字され,目視できるものであって,情報を記録して機械的に読取可能な記録媒体とは異なるものに限定される旨も記載されていない。請求項1において,「注文済目録読取手段」の読み取り対象は,注文済目録及び注文明細レシートであると記載されている。したがって,原告の上記主張は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張であり,注文済目録と注文明細レシートの相違が不明瞭である。
3 取消事由3(容易推考性の判断の誤り)について(1) 本願発明と引用発明の一致点認定の誤りについてア 商店と電子商取引サイト審決は,引用発明の「商店」が本願発明の「電子商取引サイト」に相当すると認定していない。
イ センターサーバとサーバ審決は,引用発明における景品引渡情報が,メールボックスのような記憶装置に記憶されていることを認定したものであり,本願発明の「サーバ」と引用発明の「センターサーバ」の比較による認定事項ではない。
ウ 個人認証票と注文済目録及び注文明細レシート審決は,引用発明の「個人認証票」が商品との引換券の機能を有すると認定しているが,その記載事項については一切認定していないから,記載事項に関する原告の主張は,失当である。
換場業者と景品業者との間の取引及びホールと景品業者との取引ないしは清算を,注文済目録のみで行っているとの原告の主張は,本願明細書の特許請求の範囲に基づかない主張であって,失当である。
引用発明の「個人認証票」が商品との引換券の機能を有し,本願発明の注文済目録及び注文明細レシートも引換券の機能を備えているから,この点を一致点とした審決の認定に誤りはない。
エ 景品引渡手段と引渡手段原告の主張する事由は,「景品引渡情報に基づいて引き渡す点において共通する」という審決の認定に対するものではない。
(2) 相違点の看過について買い取った注文済目録の景品データの送信,景品を客に届ける旨の指示に関しては,相違点(う)及び相違点(え)として認定し,検討しているものであるから,審決に相違点の看過はない。
(3) 相違点(い)の判断の誤りについて本願発明において,注文明細レシートが,機械的に読み取り可能な記録媒体とは異なり,印字され,目視することのできるものであることをいう点は,請求項1及び本願明細書の記載に基づかない主張であるから,理由がない。
(4) 相違点(う)の判断の誤りについてア特殊景品審決は,刊行物2記載の「特殊景品による周知の換金手段」と本願発明における換金手段との相違点として,「景品交換所,すなわち,換場業者が買い上げる対象品が,周知の換金手段では,ライター石,ペンダント等の景品であるのに対し,本願発明の換金手段では,景品及び注文に関する情報を記録した注文済目録,及び注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシートである点」を認定しており(審決書13頁36〜39行),本願発明が特殊景品を必要としない発明であることを前提にしている。
また,審決は,引用発明の「個人認識票」を引換券であると認定しており,刊行物1に引換券に関する記載があることは,明らかである。
イ 換場業者の買上げ対象本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細レシートを買い上げる換場業者」と記載されており,換場業者の買い上げ対象は,景品としての注文済目録と注文明細レシートであることが記載されている。また,注文済目録と注文明細レシートは,「引き換え券であり,有価証券には該当しないもの」と定義される(本願明細書の段落【0036】)ものであるから,注文済目録と注文明細レシートを買い上げることにより,注文済目録及び注文済レシートに記録されている数の特定の商品の所有権が転々と移転される旨の主張は,この定義に反する。
ウ 注文済目録及び注文シート原告は,換金を目的としない場合は,例えばホール端末からその旨の指令が入力されることによって,サーバが電子商取引サイトにデータを送信し,客が景品そのものの入手を希望しない限り,サーバは電子商取引サイトに景品注文データを送信しないと主張する。この主張によれば,ホール端末で景品を注文する時点で,客が選択すれば,換金を目的としないことに確定する。
この場合は,注文済目録と注文明細レシートを所持していても,換金目的の場合に所持する注文済目録と注文明細レシートとは性質が異なることになる。
なお,原告は,サーバは,景品注文データを記憶し,この景品注文データは,少なくとも,客が景品の受け取りを希望する旨の通知を受け取るか,換場業者において換金されることによって,換場業者端末から買い取った注文済のデータが送信するまで記憶されていると主張する。
しかしながら,原告の主張は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び発明の詳細な説明には,記載されていないから,本願明細書の記載に基づかないものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法36条4項の要件適合性)についてア 審決は,「換金を目的とする場合としない場合で景品注文データの送信先が相違するのは,端末20から注文する景品として,換金を目的とする場合は,『特殊景品』等のように『景品』が特定されているのか,または,注文明細レシートR及び注文済目録tから成る引換券のみを要し,景品自体を不必要としたものであるのか依然として不明瞭である。」(審決書3頁5行〜9行)としている。
そこで検討するに,本願明細書(甲2)には,次の記載がある。
「客Pは,ホールHで獲得した玉をホールに備え付けのジェットカウンタにより計数し(S1),その計数結果を示すレシートrを得る(S2)。そして,次に,そのレシートrを持ってホールのカウンタに行く(S3)。カウンタでは,玉数に見合う景品と交換することができるが,景品を現金に交換することを希望する場合,又はインターネットのショッピングモール上の景品を希望する場合は,端末20を操作して,景品を注文する。ここでは換金を目的とする場合であるため,端末20の操作によりインターネットのショッピングモール上の景品を注文する(S4)。なお,端末20により景品を注文すると,注文明細レシートR及び注文済目録tが発行され,客はそれらの注文明細レシートR及び注文済目録(磁気カード)tを持って換場業者Eに行く(S5)。端末20により注文された景品注文データは換場業者の専用端末(パソコン)30に送信され(S6),同時に景品業者Mの端末50及び管理会社Aのサーバ40にも送信される(S7,S8)。」(段落【0032】)「以上,本発明の第1の実施例として図3に示された景品交換システムの景品取引き,システムの構成要素について説明した。ここで,再び,図3に戻り説明する。図3は,これまで説明してきたように,客がホールで玉と交換した景品を換場業者で換金する場合の取引きと景品の流れを説明するものである。ところで,客が注文した景品の換金を希望しない場合,即ち,注文した景品を受け取ることを希望する場合も想定される。この場合,ホールHで景品をホール端末20を介して注文する場合に景品を購入する旨のデータを管理会社に送信することとなる。そして,この場合,例えば,自宅への配送,あるいはホールHでの受け取り等,受け取り場所も併せて送信する。この場合,管理会社Aは,その旨をショッピングモールサイトSMに伝達し,商品を客に届ける(図3,S200)。」(段落【0091】)「さらに,注文済目録は,取引きにより移動することがあっても,商品自体は,最終的に客が購入する以外は移動することがなく,景品の流通に伴う商品の破損,汚損といったことが防止できる。景品の注文をショッピングモールサイトを活用することができるため,換金のための景品としての従来のような特殊景品が存在しない。」(段落【0112】)これらの記載を総合すると,@換金目的の場合には,端末20を操作して景品を注文し,端末20により注文された景品注文データは換場業者の専用端末(パソコン)30に送信され,同時に景品業者の端末50及び管理会社のサーバ40にも送信されること,A景品目的の場合には,ホールで,景品をホール端末20を介して注文するときに,景品を購入する旨のデータを管理会社に送信し,管理会社は,その旨をショッピングモールサイトに伝達し,商品を客に届けることが本願明細書に記載されていると認められる。また,景品目的の場合において最終的に客が景品を受領するとき以外は,商品自体は移動しないことも開示されている。
本願明細書においては,客がホールにある景品と交換する場合を除き,換金目的の場合でも景品目的の場合でも,客は,景品の注文を行い,景品注文データは,換場業者,景品業者,管理会社に送信されることが示唆されている。そして,換金目的の場合と景品目的の場合とで異なるのは,客が景品の受取りを希望したとき(この段階で換金目的と景品目的とが峻別される),これを受けたホールは管理会社に景品を購入する旨のデータを送信し,これを受けた管理会社がショッピングモールサイトに景品を購入する旨を伝達し,客に景品が引き渡されるように取り計らうことである。なお,景品を購入する旨のデータは,景品注文データとは別のものであり,景品注文データがあるだけでは,景品目的であるということはできず,景品を購入する旨のデータがあって初めて景品目的に確定することになる。
被告のいう景品注文データの送信先との見地からみれば,換金目的か景品目的かが峻別されない間(景品目的が明確になるまで)は,景品注文データを換場業者,景品業者,管理会社に送信するが,管理会社からショッピングモールサイトへの送信を留保しておき,景品目的が明確になってから,ショッピングモールサイトに景品を購入する旨のデータが送信されることが示唆されている。また,現物としての景品の必要性の見地からみれば,ホール,換場業者,景品業者,管理会社のいずれにも景品を備え置く必要はなく,ショッピングモールサイトが取り扱う商品を管理下に置いておき,景品目的であることが明確になったときだけ商品を客に届け,それ以外は,商品を移動させる必要がないことも,上記の記載によって示唆されている。
上記によれば,本願明細書の記載には,審決の指摘するような不備はないというべきである。
イ 審決は,特許請求の範囲の請求項1に記載されている「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」の意味が明確でないとする(審決書5頁5行〜6行)。
この点に関する本願明細書(甲2)の記載は,次のとおりである。
「換場業者Eにおいては,客が持参した注文明細レシートR及び注文済目録tが現金と交換される(S9)。」(段落【0035】)「以上により,客が獲得した玉は景品と交換され,その景品は換場業者において買い取られたこととなり換金された状態となる。なお,ここで,注文明細レシートRと注文済目録tは注文内容と景品の内容を示すものであり,注文された特定の景品のみと交換できる引き換え券であり,有価証券には該当しないものである。」(段落【0036】)「次に,換場業者Eは,買い取った景品を景品業者Mに売却する(S11)。
この場合,景品の売却は注文済目録tを譲渡することにより行う。換場業者Eは,また,管理会社A及び景品業者Mに対して景品注文データを参考情報として送信する(S12,S12’)。なお,注文明細レシートRは換場業者Eが保管する。景品業者Mは,換場業者Eから買い上げた注文済目録tを管理会社Aに対して売却する(S13)。これにより,換場業者から買い上げた景品を事実上管理会社Aに売却したこととなる。また,同時に換場業者Eから送られた景品注文データを管理会社Aに送る(S13’)。」(段落【0038】〜段落【0039】)「客がホールHにおいて景品を注文すると,ホールにおいては注文済目録tが発行され,その注文済目録が事実上の景品となって,以後流通するが,ホールは注文に見合う景品,すなわち,発行した注文済目録tに見合う景品を仕入れる必要がある。したがって,客が端末20により注文した景品は,管理会社Aより景品業者Mに卸される(S21)(景品業者Mは管理会社より景品を仕入れる)。ここで,景品の卸し(仕入れ)は,実際の品物としての景品が移動するわけでなく,景品データが送られる。ホールHで客に渡される注文済目録tに対応する景品データが管理会社Aから景品業者に卸しデータとして送信される。なお,景品業者Mの端末50には景品仕入データとして受信されることとなる。」(段落【0042】)「[各種システム構成における装置]次に本実施例の景品交換システムを構成する各業者の装置及びその操作について説明する。ここで,本システムで使用される各種端末,サーバなどのコンピュータシステムの基本的構成について説明する。コンピュータシステム100は,例えば,図4に示すような構成となっている。‥‥‥なお,以上のコンピュータシステム100は,本景品交換システムで使用されるホール端末20,換場業者Eにおける専用端末30,景品業者Mの端末50,管理会社Aの管理サーバ40についても同様の機能を有し,これらの基本的構成の説明となり得るものである。」(段落【0048】〜段落【0055】)「客はこの注文済目録t及び注文明細レシートRをもって,換場業者Eに行くこととなる。[換場業者Eの装置及び操作]図6は換場業者Eが備える装置および換場業者Eにおける操作を説明する図である。換場業者Eは,前述のように専用端末30と,これに接続される目録読取り機31を備えている。
目録読取り機31は,ホールで発行した注文済目録tのデータを読み取る機能を有し,注文済目録tのデータを読み取ると専用端末30に出力する。専用端末30の表示部30aには,景品買取りの確認画面が表示され,ホールより送られた玉数,景品品目,個数などの景品注文データの内容が表示されるとともに,景品に対応する金額が表示されるようにしてある。専用端末30の入力操作部30bを通じて画面に従い買取り確認の操作を行うと,ホールHより送られた景品注文データの照合が行われ,ホールHで発行した注文済目録であることが確認される。そして,注文明細レシートRと注文済目録との照合結果が確認されると,換場業者Eは注文済目録t注文明細レシートRを買い取り,客に現金を渡す。これにより,客はホールで獲得した景品を現金で交換したこととなる。専用端末30の表示部30aに示さる表示内容は,注文済目録tの買取り確認画面を示し,「景品の買取り,よろしいか」の表示に対し,「はい」をクリックすると,交換金額が表示される。なお,換場業者Eは,客が持参した注文明細レシートRを受け取り保管する。」(段落【0066】〜段落【0068】)「[景品業者Mの装置および操作]景品業者Mは専用端末50を備えており,この専用端末50はインターネットと接続機能を有する通常のパソコンの機能を有するものであればよい。図3に基づいて説明したように,ホールHにおいて,ホール端末20を用いて景品の注文がなされると,注文した景品に関するデータである景品注文データが景品業者Mの端末50に送信されるようになっている。したがって,景品業者は,ホールHにおいて景品が注文され,注文された景品の品目,数量を示すデータである景品注文データを保持することができる。また,景品業者Mは換場業者Eより景品,即ち注文済目録tを買い取ることとなるが,そのデータとホールHより送信された景品注文データ及び景品業者がホールHに対して景品として卸した景品データとの照合を行うことにより,注文済目録の信頼性を確認することができる。」(段落【0071】)「[管理会社の装置及び業務処理]‥‥‥また,景品業者Mが換場業者Eより買い上げた景品,即ち注文済目録tを買い上げ,注文済目録tを保管管理する。なお,ホールHで発行される注文済目録tの磁気カードの製造,配布の管理も管理会社Aが行う。」(段落【0073】〜段落【0076】)「ホールHにおいては,既に説明したように,ホール端末による景品の注文がなされると,生カードCに景品に関する情報が記録された注文済目録tが目録発行機により発行され,客Pの手に注文明細レシートRとともに渡る(S53)。客Pは換場業者Eに注文済目録tをもって行き,ここで,注文済目録tは現金と交換される(S54)。なお,注文明細レシートRも同時に換場業者Eに渡り,換場業者Eにおいて保管される。次に,注文済目録tは景品業者Mにより買い上げられ(S55),次いで,景品業者Mより管理会社Aによって買い取られる(S56)。」(段落【0082】)「‥‥‥ところで,客が注文した景品の換金を希望しない場合,即ち,注文した景品を受け取ることを希望する場合も想定される。この場合,ホールHで景品をホール端末20を介して注文する場合に景品を購入する旨のデータを管理会社に送信することとなる。そして,この場合,例えば,自宅への配送,あるいはホールHでの受け取り等,受け取り場所も併せて送信する。この場合,管理会社Aは,その旨をショッピングモールサイトSMに伝達し,商品を客に届ける(図3,S200)。」(段落【0091】)「さらに,注文済目録は,取引きにより移動することがあっても,商品自体は,最終的に客が購入する以外は移動することがなく,景品の流通に伴う商品の破損,汚損といったことが防止できる。‥‥‥」(段落【0112】)これらの記載によれば,本願明細書には,ホール,換場業者,景品業者,管理会社は磁気カードからなる注文済目録のデータを読み取ることができる端末を有し,これらの業者間では注文済目録に基づいて取引が行われ,このような端末を有していない客との取引である景品の受け取り,換金の場合には印字記録された注文明細レシートも併せて用いることが開示されている。
したがって,端末を有していない客との取引の場合には注文明細レシートと注文済目録が一体となって,景品の受け取り,換金における証明又は確認の機能を奏し,端末を有する業者間の取引の場合には注文済目録のみで景品の売買における証明又は確認の機能を奏しているから,本願明細書の記載には,審決の指摘するような不備はない。
被告は,本願明細書には,ホールと景品業者との取引において注文済目録のみで流通する記載がなく,目視で注文内容を確認するための注文明細レシートは不要である旨の記載も認められないと主張する。
しかし,上記のとおり,本願明細書には,ホール,換場業者,景品業者,管理会社の間では注文済目録に基づいて取引が行われ,注文済目録のデータを読み取ることができる端末を有していない客との取引である景品の受け取り,換金の場合には印字記録された注文明細レシートも併せて用いることが開示されているのであるから,被告の主張は,採用することができない。
ウ 審決は,買い取った,引換券である注文済目録tを管理会社Aが保管する意義(作用・効果)が不明であるとする(審決書6頁16行〜17行)。
そこで検討するに,本願明細書(甲2)には,次の記載がある。
「[管理会社の装置及び業務処理]管理会社Aの業務は,基本的には景品の流れ全体を管理することにある。そして,これらは,後述するようにインターネットに接続される管理サーバ40により実行される。図3に基づき説明したように,ホールHより景品注文データを受けると(S8),注文された景品品目を景品業者Mを介してホールHにデータとして送信する。また,換場業者Eから送信される景品注文データの整合性をホールHから送られた景品注文データと照合し,データの整合性を確認する。また,景品業者Mが換場業者Eより買い上げた景品,即ち注文済目録tを買い上げ,注文済目録tを保管管理する。なお,ホールHで発行される注文済目録tの磁気カードの製造,配布の管理も管理会社Aが行う。」(段落【0073】〜段落【0076】)「[注文済目録(磁気カード)の流れ]次に,ホールHで発行される注文済目録tの流れについて説明する。注文済目録tは,磁気カードが使用され,景品に関する必要情報がホールの目録発行機により発行される。この注文済目録となる生の磁気カード(以後,生カードCという。)は,管理会社Aの管理のもとに供給される。図9は,生カードC及び注文済目録tの流れを説明する図である。先ず,ホールHにより,管理会社Aに対して生カードの発注がなされる(S50)。管理会社Aはホールからの要求を受けてカード製造会社Fに対し,生カードCの発注を行う(S51)。カード製造会社Fは発注を受けて生カードを製造し,生カードCをホールに納品する(S52)。
ホールHにおいては,既に説明したように,ホール端末による景品の注文がなされると,生カードCに景品に関する情報が記録された注文済目録tが目録発行機により発行され,客Pの手に注文明細レシートRとともに渡る(S53)。客Pは換場業者Eに注文済目録tをもって行き,ここで,注文済目録tは現金と交換される(S54)。なお,注文明細レシートRも同時に換場業者Eに渡り,換場業者Eにおいて保管される。次に,注文済目録tは景品業者Mにより買い上げられ(S55),次いで,景品業者Mより管理会社Aによって買い取られる(S56)。」(段落【0080】〜段落【0082】)「[景品の発注に伴う債権債務の関係]次に,ホールHからの景品の発注に伴い発行される景品となるべき注文済目録の取引きに伴って発生する債権,債務について,図10を参照して説明する。先ず,景品は景品業者MによってホールHに対して販売されることにより,ホールHは景品業者に対し,景品代の債務を負う。また,換場業者Eは景品業者Mに景品を販売するため,景品業者に対して債権を持つ。景品業者Mは,ホールに対して景品販売による債権を持ち,換場業者Eに対して景品買取りに対する債務を持つ。管理会社Aは,景品業者MのホールHに対する債権と,換場業者Eの景品業者Mに対する債権を買い取る。本来,景品販売取引きにおけるホールの債権者は景品業者Mであり,景品業者Mの債権者は換場業者Eであるが,管理会社による上記債権の買取りにより,ホールHは管理会社Aに支払い,管理会社Aは景品業者M及び換場業者Eに支払の義務が発生することとなる。このように,管理会社Aによる債権買取り(ファクタリング)により,景品取引きの資金の流れをクリーンに保つことができる。
[資金(景品代)の流れ]本実施形態の景品の取引きに伴う資金の流れについて図11を参照して説明する。先ず,客PはホールHが提供する遊戯サービスに対してホールHに現金の支払がなされる。換場業者Eは客Pに対し,景品(注文済目録t,注文明細レシートR)を現金と交換して支払う。管理会社Aは,換場業者Eに対し,景品代金を支払う。これは,前述のように,ファクタリングにより,換場業者Eの景品業者Mへの債権を管理会社が買い取ったためである。また,管理会社Aは,景品業者Mに対し,ファクタリングにより,換場業者Eへの債務とホールHへの債権との差額を支払う。また,ホールHは景品支払い代金として管理会社Aに支払う。これは,前述のとおり,ファクタリングにより,景品業者MのホールHへの債権を管理会社が買い取ったことによるものである。」(段落【0083】〜段落【0089】)これらの記載からすれば,本願明細書に,管理会社が景品業者のホールへの債権をファクタリングにより買い取り,ホールが景品の代金を管理会社に支払うことが開示されている。したがって,本願発明において,獲得した玉を換金する際の金銭上の負担者がホールであり,ホールが発券した引換券に関する債務は,景品の代金として,ホールが負担することになる。
また,上記の記載によると,注文済目録は,まず,新しい生カードとして管理会社からホールに供給され,景品に関する情報を記録した上で,注文済目録として取引に利用され,最終的には,管理会社により回収,保管されるものである。
以上によれば,注文済目録を管理会社が保管する意義(作用・効果)は,最終的にホールが負担することとなる資金の流れ等を管理するためであるということができ,その意義は明確である。したがって,本願明細書に審決の指摘する不備はない。
エ 以上によれば,本願明細書に審決の指摘するような特許法36条4項の要件に適合しない不備があるということはできないから,審決の判断は誤りといわざると得ない。
2 取消事由2(特許法36条6項の要件適合性)についてア 審決は,「特許請求の範囲の請求項1には,サーバー,ホール端末,買い上げる注文済目録と注文レシートの景品に対応する金額表示手段,及びデータ照合手段を備えた換場業者端末等,個々の装置の存在は記載されているが,換場業者が客に払い出した金銭をホールがどのように支払うのかそのシステムが不明瞭であるから,換金システムとしての発明が明確ではない。」(審決書7頁7行〜11行)としている。
しかしながら,前記1ウに判示したとおり,管理会社が景品業者のホールへの債権をファクタリングにより買い取り,ホールが景品の代金を管理会社に支払うことは,本願明細書に開示されている。本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,サーバが「パチンコホールにおいて客が獲得した玉の玉数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶し」,また,ホール端末が通信網を介してサーバより提供される景品情報に含まれる景品を注文するための「情報入力手段により入力して注文した景品及び注文に関する情報を記録した情報記録媒体である注文済目録を発行」し,「注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシートを発行する」と記載されている。さらに,発明の名称及び請求項1の末尾に「パチンコホールで得た景品の換金システム」と記載しているように,本願発明は「パチンコホールで得た景品の換金システム」の発明であって,本願発明では,客が獲得した玉を換金した金銭の負担者がホールであり,また,ホールで景品の注文を受け付けて入力され,サーバに記憶された景品注文データに基づいて,ホールが,景品支払い代金を管理会社に支払うことは,明らかである。
上記によれば,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載には,審決の指摘するような不備はない。
イ 審決は,「特許請求の範囲の請求項1に記載されている『客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート』の意味が明確でない。」(審決書7頁22行〜23行)としている。そして,この点に関し,被告は,本願明細書中で,注文済目録と注文明細シートの性質が引換券とされたり,景品とされたりしており,しかも引換券と景品が同意義とも認められないから,請求項1の「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」の意味が明確でないと主張する。
しかしながら,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1においては,「引換券」又は「引き換えに」などの文言は使われていない。そして,本願明細書(甲2)には,「以上により,客が獲得した玉は景品と交換され,その景品は換場業者において買い取られたこととなり換金された状態となる。なお,ここで,注文明細レシートRと注文済目録tは注文内容と景品の内容を示すものであり,注文された特定の景品のみと交換できる引き換え券であり,有価証券には該当しないものである。ここで,換場業者Eは,客の持参した注文明細レシートRと注文済目録tを景品として現金と交換することにより,客より景品を買い取った状態となっている。」(段落【0036】〜段落【0037】)との記載がある。
本願明細書の上記記載では,注文明細レシートと注文済目録は,「引き換え券」であり,換場業者は,客の持参した引き換え券である注文明細レシートと注文済目録を,「景品として現金と交換」していると認められる。したがって,本願請求項1の「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シート」は,換場業者が注文明細レシートと注文済目録を景品として現金と交換するという本願明細書の記載に基づくものである。
上記によれば,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載には,審決の指摘するような不備はないというべきである。
ウ 審決は,「特許請求の範囲の請求項1に,『注文済目録』の記載事項である『景品及び注文に関する情報』は,注文明細レシートに記録された『注文された景品の品目と個数』を文言上含むと認められ,すると,注文済目録と注文明細レシートの相違が不明瞭である。」(審決書7頁28行〜31行)としている。
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,注文済目録と注文明細レシートについて,「情報入力手段により入力して注文した景品及び注文に関する情報を記録した情報記録媒体である注文済目録を発行する目録発行手段及び注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシートを発行するレシート発行手段」と記載されている。この記載からは,注文済目録が情報記録媒体であることは明確であり,注文明細レシートについては,媒体が特定されていないが,注文済目録とは別の発行手段で発行されていることは明確である。また,「レシート」の文言は,一般的には紙媒体を意味すると解される。したがって,少なくとも,本願請求項1において,注文済目録と注文明細レシートとが,異なる媒体であることは,明らかである。
また,本願明細書(甲2)には,次のとおり,注文済目録が磁気カードであり,注文明細レシートがレシートプリンタによりプリントアウトされたものであると記載されているから,請求項1の記載と整合する。
「‥‥‥なお,端末20により景品を注文すると,注文明細レシートR及び注文済目録tが発行され,客はそれらの注文明細レシートR及び注文済目録(磁気カード)tを持って換場業者Eに行く(S5)。端末20により注文された景品注文データは換場業者の専用端末(パソコン)30に送信され(S6),同時に景品業者Mの端末50及び管理会社Aのサーバ40にも送信される(S7,S8)。なお,注文済目録tにはホール名,注文番号(注文No.),注文日時等が記録される。また,注文明細レシートRには,注文番号に対応した景品品目,個数,交換した玉数等が印字記録される。ここでは,注文明細レシートRと注文済目録とを対として注文内容を特定できるようにしている。」(段落【0032】〜段落【0033】)「また,ホール端末20にはレシートプリンタ22及び目録発行機23が接続されている。ホール端末20により景品の注文がなされると,レシートプリンタ22に,玉数,景品の品目,個数などの注文の明細レシートRが打ち出される。また,目録発行機23からは,ホール名,注文番号,注文日時などのデータが磁気カードに記録された注文済目録tが発行される。」(段落【0061】)「景品注文画面は,POSレジ21に入力された玉数に見合う注文可能な景品を示す景品情報が表示される。客は希望する景品を指定して注文ボタンをクリックすることにより景品の注文が実行されたこととなる。景品の注文が完了すると,レシートプリンタ22より注文の明細を示す注文明細レシートRがプリントアウトされ,同時に目録発行機23より注文済目録(磁気カード)tが発行される。」(段落【0065】)「上記の各実施例においては,ホールにおいて端末によりインターネット等の通信網を通じて景品の注文内容は,注文済目録と注文明細レシートにより記録され,換場業者において,注文済目録と注文明細レシートとの対を現金と交換するようにしているが,必ずしもこの形態にすることなく,磁気カードに注文内容,景品の品目,個数等,注文及び景品に関するデータを全て記録した注文済目録とすることも可能である。」(段落【0109】)(イ) 被告は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,「前記注文済目録と注文明細レシートに記載された景品情報を読み取る注文済目録読取手段」との記載があり,本願請求項1において,注文済目録読取手段の読取対象が,注文済目録及び注文明細レシートの両方であることが記載されているから,両者が媒体を異にするとはいえない旨主張する。
しかし,「前記注文済目録と注文明細レシートに記載された景品情報を読み取る読取手段」とせず,「注文済目録読取手段」とあることから,景品情報は注文済目録及び注文明細レシートの双方に記載されていても,読取手段の読取対象は注文済目録だけであると解することも可能である。また,紙媒体については,特に読取手段を使わずに目視で文字等を読む場合もあれば,文字等の読取手段(例えば,スキャナ)を使って読む場合も想定されるから,注文済目録読取手段が,情報記録媒体である注文済目録に記録された景品情報を読み取る機能のほかに,紙媒体である注文明細レシートに記録された景品情報を読み取る機能(例えば,スキャナ)を有することも,想定することができる。
上記のとおり,「前記注文済目録と注文明細レシートに記載された景品情報を読み取る注文済目録読取手段」との記載から,注文済目録と注文明細レシートの両者が媒体を同じくするということはできず,注文済目録と注文明細レシートとが媒体として相違するものであるとの解釈に影響を与えるものではない。
エ 以上によれば,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に審決の指摘するような特許法36条6項の要件に適合しない不備があるということはできないから,審決の判断は誤りといわざるを得ない。
3 取消事由3(容易推考性の判断の誤り)について(1) 本願発明と引用発明の一致点認定の誤りについてア 商店と電子商取引サイト原告は,引用発明の「商店」が本願発明の「電子商取引サイト」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
審決が引用発明を「具体的には,景品のカタログが表示された遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,遊戯場端末1から通信回線2を経由してセンターサーバ3に伝送され,センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込むと同時に遊戯場端末1において,景品を引き渡す商店と識別符号を書いた個人認証票を発行して客に渡し,客は個人認証票を持って指定された商店に出向いて景品の引渡しを請求すると,商店では,個人認証票のバーコードを読み取って確認し,商店端末5を使ってセンターサーバ3をアクセスし,景品引渡情報をメールボックス4で確認して,客に景品を引き渡した後,センターサーバ3に,景品引渡しが完了したことを通知すると,センターサーバ3では,景品引渡し完了を受信し,取引を記録してメールボックス4の当該データを消去する景品引渡システム。」と認定した点については,原告は争っていない。引用発明はセンターサーバ3,メールボックス4及び商店端末5からなる上記の構成であるから,メールボックスを介して遊技場と商店の間の取引を仲介しているものであり,電子商取引サイトの一形態をなすものと認められる。
審決は,「引用発明の『遊技場の店頭で客が景品を選択すると,ネットワークを介して景品を扱っている商店に通知して,景品の引渡を依頼する』記載は,要するに,遊技場からネットワークを介して客が選択した景品の注文を行い,商店はネットワークを介して受けた注文を販売することであるから,本願発明における『通信網を介して注文を受け商品を販売する電子商取引サイト』に相当」するとして,「‥‥‥通信網を介して注文を受け商品を販売する電子商取引サイトが提供する景品に関する情報を格納する記憶部を有し,‥‥‥パチンコホールにおいて客が獲得した玉の玉数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶し,景品引渡情報を上記記憶部に記憶するサーバと,‥‥‥からなるパチンコホールで得た景品の換金システム」と,一致点を認定したのであって,引用発明の「商店」が本件発明の「電子商取引サイト」に相当することを一致点として認定したものではない。また,審決は,本願発明の「客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には上記電子商取引サイトに対して当該景品を客に届ける旨の指示を通知して上記記憶部に記憶するサーバ」の機能については,相違点(え)として認定している。したがって,本願発明の「通信網を介して注文を受け商品を販売する電子商取引サイト」に関する審決の一致点の認定に誤りはなく,原告の主張を採用することはできない。
イ センターサーバとサーバ原告は,引用発明の「センターサーバ3」と本願発明の「サーバ」とでは,景品注文データを商店又は電子商取引サイトに通知するタイミングが異なるから,引用発明の「遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,‥‥‥センターサーバ3に伝達」され,「センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込む。」点が本願発明の「ホール端末に対し‥‥‥景品情報を提供し,‥‥‥景品注文データを上記記憶部に記憶」する点に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,審決が認定したのは,引用発明における「景品のカタログが表示された遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,遊戯場端末1から通信回線2を経由してセンターサーバ3に伝送」され,「センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込む。」点は,本願発明における「ホール端末に対し記憶部に格納されている景品情報を提供し,パチンコホールにおいて客が獲得した玉の球数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶」する点に相当するというものであって,本願発明のサーバが「客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合に初めて,電子商取引サイトに対して,当該景品を客に届ける旨の指示を通知する」ことに相当するとは,認定していない。原告の主張は,審決を正解しないものであり,採用することができない。
ウ 個人認証票と注文済目録及び注文明細レシート原告は,本願発明の「注文明細レシート」に対応するものが引用発明において存在しないから,審決には一致点の認定の誤りがあると主張する。
刊行物1には,「【0016】客は,個人認証票を持って指定された商店に出向き,景品の引渡しを請求する。商店では,個人認証票のバーコードを読み取って確認し,商店端末5を使ってセンターサーバ3をアクセスし,景品引渡情報をメールボックス4で確認して,客に景品を引き渡す。その後,センターサーバ3に,景品引渡しが完了したことを通知する。センターサーバ3では,景品引渡し完了を受信すると,取引を記録してメールボックス4の当該データを消去する。」(第4欄第12〜20行)との記載があるから,「個人認証票」が引換券の機能を有することは明らかである。また,本願明細書には,「なお,ここで,注文明細レシートRと注文済目録tは注文内容と景品の内容を示すものであり,注文された特定の景品のみと交換できる引換券であり,有価証券には該当しないものである。」(段落【0036】)との記載がある。したがって,審決が,引用発明における「個人認証票」は,本願発明の「注文済目録,注文明細レシート」と景品引換券において共通するとして,「‥‥‥該情報入力手段により入力して注文した景品及び注文に関する情報を記録した情報記録媒体である引換券を発行する発行手段‥‥‥」と一致点を認定した点に誤りはない。
エ 景品引渡手段と引渡手段原告は,引用発明における景品引渡手段と本願発明における引渡手段とが,パチンコ店から送信されてサーバーに記憶された景品引渡情報に基づいて引き渡す点において共通するとの審決の認定は誤りであると主張する。
まず,引用発明が「景品のカタログが表示された遊戯場端末1にて景品を選択すると,景品の種類と数量のデータが,遊戯場端末1から通信回線2を経由してセンターサーバ3に伝送され,センターサーバ3では,その景品を扱っている商店のメールボックスに,景品の種類と数量と取引識別符号などからなる景品引渡依頼を書き込」み,「客は個人認証票を持って指定された商店に出向いて景品の引渡しを請求すると,商店では,個人認証票のバーコードを読み取って確認し,商店端末5を使ってセンターサーバ3をアクセスし,景品引渡情報をメールボックス4で確認して,客に景品を引き渡」すものであるとの認定を,原告は争っていない。そうすると,引用発明では,遊戯場端末から伝送され,センターサーバで選択された景品を扱っている商店のメールボックスに景品引渡情報を書き込み,商店ではこの景品引渡情報を確認して客に景品を引き渡すのであるから,引用発明の景品引渡手段は,パチンコ店から送信されて,サーバに記憶された景品引渡情報に基づいて,客に景品を引き渡すものと解される。
また,本願発明は,「パチンコホールにおいて客が獲得した玉の玉数に応じて玉と交換する景品の注文を受け付け,注文を受けた景品に関する景品注文データを上記記憶部に記憶し,‥‥‥客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には上記電子商取引サイトに対して当該景品を客に届ける旨の指示を通知して上記記憶部に記憶するサーバ」を有するのであるから,本願発明でも,パチンコ店から送信されてサーバに記憶された景品の引渡情報に基づいて客に景品を引き渡すものと認められる。
審決は,具体的な引渡手段について,相違点(え)として,「客が注文した景品の引渡手段として,本願発明は,配送引渡手段によるのに対し引用発明は店頭引渡手段である点」と認定し,「商品の引渡手段として,店頭引渡手段,配達による引渡手段は周知の引渡手段であるから,どちらの引渡手段を採用するかは単なる設計的事項であり,しかも,後者を採用した場合には当該商品を客に届ける旨の指示を商店に示すことは当然の事項であり,当該指示をサーバに行うこ(と)も,電子商取引においてはサーバが取引を管理するものであることを勘案すれば,当業者が電子商取引などの取引形態に応じて適宜なし得る程度の事項である。」と判断している。したがって,審決が,「引用発明における,景品引渡手段と,本願発明における引渡手段は,パチンコ店から送信されてサーバに記憶された景品引渡情報に基づいて引き渡す点において共通する。」とした点に,誤りはない。
(2) 相違点の看過について原告は,審決においては,「本願発明のサーバは,換場業者端末から送信され,換場業者が買い取った注文済目録の景品データを,記憶部に記憶し,又は客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には,電子商取引サイトに対して,当該景品を客に届ける旨の指示を通知して,記憶部に記憶するのに対して,引用発明のサーバは,このような構成を備えていない点」という本願発明と引用発明との相違点が看過されていると主張する。
本願発明のサーバが「換場業者端末から送信され,換場業者が買い取った注文済目録の景品データを,記憶部に記憶」する点について,審決は,相違点(う)として,「本願発明においては,『景品としての注文済目録と注文レシート』が買い上げられて換金されるのに対し,引用発明においては,景品の換金については記載されていない点,したがって,引用発明には電子商取引における換金に関する情報である,買い取った注文済目録の景品データをサーバに送信する点」と認定し,「換場業者端末から送信された換場業者が買い取った注文済目録の景品データを単にサーバに記憶することによる格別の作用効果は認められないばかりでなく,取引履歴等,取引に関する事項を記憶させておくことは,前記(A-4)のように周知事項であるから,当該事項は単なる設計的事項である。」と判断している。
また,本願発明のサーバが「客が注文した景品の受け取りを希望する旨の通知を受けた場合には,電子商取引サイトに対して,当該景品を客に届ける旨の指示を通知して,記憶部に記憶する」点について,審決は,相違点(え)として,「客が注文した景品の引渡手段として,本願発明は,配送引渡手段によるのに対し引用発明は店頭引渡手段である点」と認定し,「商品の引渡手段として,店頭引渡手段,配達による引渡手段は周知の引渡手段であるから,どちらの引渡手段を採用するかは単なる設計的事項であり,しかも,後者を採用した場合には当該商品を客に届ける旨の指示を商店に示すことは当然の事項であり,当該指示をサーバに行うこ(と)も,電子商取引においてはサーバが取引を管理するものであることを勘案すれば,当業者が電子商取引などの取引形態に応じて適宜なし得る程度の事項である。」と判断している。
以上のとおり,原告の主張する構成は,審決では,相違点(う)及び相違点(え)として認定し,判断している。原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(3) 相違点(い)の判断の誤りについて原告は,複数片(注文済目録と注文明細レシート)を発行する理由は,両者を照合することができるという効果を奏し(段落【0066】等),客が景品目的の場合にも換金目的の場合にも対処することのできる仕組みを実現するためで,単に,サイズや記載事項の多寡に応じて複数片に分けたものではないから,相違点(い)について,審決が「当業者ならば必要に応じて適宜なし得る程度の事項である。」と判断したことは誤りであると主張する。
本願明細書には,「上記の各実施例においては,ホールにおいて端末によりインターネット等の通信網を通じて景品の注文内容は,注文済目録と注文明細レシートにより記録され,換場業者において,注文済目録と注文明細レシートとの対を現金と交換するようにしているが,必ずしもこの形態にすることなく,磁気カードに注文内容,景品の品目,個数等,注文及び景品に関するデータを全て記録した注文済目録とすることも可能である。」(段落【0109】)との記載がある。
この記載によれば,本願発明において,注文済目録と注文明細レシートを用いることは,必ずしも不可欠な構成ではなく,注文済目録のみとすることも可能なのであるから,「記載事項を,複数片に分けて記載することによる格別の作用効果は認められないから,当該引換券のサイズ,及び,記載事項の多寡に応じて複数片に分けて記載することは,当業者ならば必要に応じて適宜為し得る程度の事項である。」とした審決の判断に誤りはない。
(4) 相違点(う)の判断の誤りについてア特殊景品原告は,本願発明が特殊景品を必要としない発明であることを理由に,審決が「引用発明の景品引渡システムを特殊景品による周知の換金手段を含むシステムとすることは,周知の換金手段も景品の引渡を介在させるものであるから当業者ならば適宜なし得る程度の事項である。」とした判断は,誤りであると主張する。
審決が相違点(う)の判断において対比した特殊景品による「周知の換金手段」とは,刊行物2記載の「三店方式」のことであり,「周知の換金手段は,前記(B-5)に記載されるように,客が獲得したパチンコ店の特殊景品を景品交換所が買い上げ,さらに当該特殊景品問屋を通じてパチンコ店に還流されるものであ」ると認定した上で,「周知の換金手段」と本願発明における換金手段との相違点を認定している。審決が「特殊景品による周知の換金手段」と本願発明の換金手段との相違点(a)としたのは,「景品交換所,すなわち,換場業者が買い上げる対象品が,周知の換金手段では,ライター石,ペンダント等の景品であるのに対し,本願発明の換金手段では,景品及び注文に関する情報を記録した注文済目録,及び注文された景品の品目と個数を記録した注文明細レシートである点」であり,これについて,「引用発明の景品交換システムにおいても引換券を利用しているものであるから,当該換金に際しても引換券を利用すること,すなわち,当該換金の流れの中において特殊景品を不介在として,特殊景品引換券,すなわち,注文済目録及び注文シートを特殊景品に代えて換金用の買い上げ対象とすることは,当業者ならば容易に為し得ることである。」と判断している。したがって,審決では,本願発明を,特殊景品による周知の換金手段を含むシステムではなく,引換券である注文済目録及び注文シートによる換金手段を含むシステムと認定していることは明らかである。本願発明が特殊景品を必要としない発明であることによって,上記判断が左右されるものではないから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,引用発明が換金を考慮せず,専ら景品と交換する場合のシステムであるから,刊行物1に,換金のために引換券を利用することに関する記載がないし,示唆もないと主張する。
審決は,相違点(う)を「本願発明においては,『景品としての注文済目録と注文レシート』が買い上げられて換金されるのに対し,引用発明においては,景品の換金については記載されていない点」と認定し,「本願発明は,引用発明の景品引渡システムを特殊景品による周知の換金手段を含むシステムとすること,その際に必然的に生じる構成,すなわち,電子商取引に適合する構成とすることは,上記のように当業者が容易に発明できるものである」と判断している。そして,この判断の前提として,具体的システムの「特殊景品による周知の換金手段」と本願発明の換金手段との相違点(a)についての「引用発明の景品交換システムにおいても引換券を利用しているものであるから,当該換金に際しても引換券を利用すること,すなわち,当該換金の流れの中において特殊景品を不介在として,特殊景品引換券,すなわち,注文済目録及び注文シートを特殊景品に代えて換金用の買い上げ対象とすることは,当業者ならば容易に為し得ることである。」と判断している。
したがって,審決は,引用発明において特殊景品による周知の換金手段を採用した場合には,換金に際して引換券を利用すると判断していることは,明らかである。原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,採用することはできない。
イ 換場業者の買上げ対象原告は,「本願発明では,換場業者の買い上げ対象は,注文済目録及び注文レシートではない。注文済目録及び注文レシートに記録されている数の特定の商品である。」と主張する。
しかし,法的見地からは,換場業者の買い上げ対象が「特定の商品」であることはあり得ない。客が注文済目録及び注文レシートを換場業者に持ち込むのは換金目的の場合であり,本願発明の換金システムにおいて,客が換金目的のときには,「ホールは管理会社に景品を購入する旨のデータを送信し,これを受けた管理会社がショッピングモールサイトに景品を購入する」処理が行われない。したがって,電子商取引サイトが商品について有する所有権が移転されることがなく,客が注文済目録及び注文レシートを換場業者に換金目的で持ち込んだ時点で,客は注文済目録及び注文レシートに記載された商品の所有権を取得していない。また,上記の処理が行われない間は,電子商取引サイトにおいて商品を取り分けるなどすることが本願明細書に記載されていないから,商品の特定が行われることもない。
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の「客が持参する景品としての注文済目録と注文明細シートを買い上げる」とは,客がパチンコ遊戯の結果ホールに対して取得した景品引渡請求権を有償で取得したとの意味に解するほかはない。換場業者の買上げ対象に関する審決の認定に誤りはない。
ウ 注文済目録及び注文シート原告は,審決が「当該換金の流れの中において特殊景品を不介在として,特殊景品引換券,すなわち,注文済目録及び注文シートを特殊景品に代えて換金用の買い上げ対象とすることは,当業者ならば容易に為し得ることである。」と判断したことについて,本願発明の注文済目録及び注文明細レシートが従来の換金システムの特殊景品に代わるものとしている点において判断を誤っていると主張する。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)23条1項により,ホールが客に「現金又は有価証券を賞品として提供すること」(同項1号)及びホールが「客に提供した賞品を買い取ること」(同項2号)が禁止されている(本願明細書の段落【0003】)。この立法趣旨は,現金を賞品とすると,著しく射幸心をそそるだけでなく,パチンコによる遊戯が賭博罪に該当するおそれがあるからであると解され,現金を賞品として提供したのと同じ効果を有する有価証券の提供やホールによる賞品の買取りも,同じ趣旨で禁止されていると解される。立法趣旨が上記のとおりであるから,風営法23条1項1号の「有価証券」は,財産上の権利を表章する証券であって,その権利の行使・処分のためにその証券の占有を必要とするものをいうと解される。
本願発明の注文済目録及び注文シートは,「換場業者Eにおいては,客が持参した注文明細レシートR及び注文済目録tが現金と交換される(S9)」(本願明細書の段落【0035】)ものであるところ,換場業者においては,注文済目録と注文シートとを照合し,「同一のデータ」(段落【0034】)が含まれていれば,後に景品業者が更に注文済目録及び注文シートと現金の交換に応ずる(段落【0038】〜段落【0039】)との期待の下に,客から有償で注文済目録及び注文シートを取得する。本願明細書においては,換場業者が注文済目録及び注文シートを持参した者とパチンコ遊戯を現に行い,ホールに対して景品引渡請求権を取得した客との同一性を確認する構成はないから,換場業者が注文済目録及び注文シートと現金の交換に応ずる場合には,注文済目録と注文シートとを照合して「同一のデータ」が含まれていれば,交換に応ずることになる。したがって,本願発明の換金システムにおいては,換場業者は,有効な注文済目録及び注文シートを持参した者ならば,誰であっても現金との交換に応ずる仕組みであると解される。
また,換場業者が注文済目録及び注文シートと現金を交換した後,注文済目録は,さらに,景品業者,管理会社へと売却(現金と交換)されるが,その際,換場業者及び景品業者は,注文済目録がないと現金を回収することができない(段落【0038】〜段落【0039】)。本願発明の注文済目録及び注文シートは,上記のような機能を有するものであるから,注文済目録及び注文シートは,客がホールに対して有する景品引渡請求権を表章し,この権利の行使(景品の引渡請求)又は処分(換金)のために,注文済目録及び注文シートの占有を必要とするものであり,風営法23条1項1号の「有価証券」に該当するものである。
本願明細書には,「‥‥‥(中略)‥‥‥注文明細レシートRと注文済目録tは注文内容と景品の内容を示すものであり,注文された特定の景品のみと交換できる引き換え券であり,有価証券には該当しないものである。」(段落【0036】)との記載があるが,引換証券性は有価証券であることと矛盾する性質ではないから,上記の結論を左右するものではない。
刊行物2には,「特殊景品による周知の換金手段」として「三店方式」が挙げられ,三店方式は,特殊景品を介在させ,ホールとは無関係の景品買取りが行われるから,風営法に抵触しない旨の記載がある(11,42,173頁)し,本願明細書においても,【従来の技術】として挙げられている(段落【0003】〜【0004】,図1)。本願発明においては,遊戯終了後に客が注文した注文データは,換場業者にも送信される(本願明細書の段落【0032】)し,注文済目録にはホール名が記載される(段落【0033】)から,換場業者がホールとは無関係の第三者であるとは認め難い。
換場業者は,後に景品業者が更に注文済目録と現金の交換に応ずる(段落【0038】〜段落【0039】)との期待があるからこそ,それ自体には財産的価値がない注文済目録及び注文シートを,客から有償で取得すると推認される。本願発明の換金システムは,換場業者から景品業者,管理会社へと注文済目録が有償で譲渡されるが,この対価の最終的負担者はホールであり,ホールとは無関係の景品買取りが行われるシステムであるとはいえない。
(なお,特殊景品を用いた三店方式では,換場業者は,客が持参した特殊景品自体の価値に着目して買い取っている。)以上によれば,風営法において規制対象とされ,犯罪の構成要件とされている行為は,風営法の立法当時(昭和23年)において当業者に周知であったものと解されるから,特殊景品を介在させずに,有価証券である注文済目録及び注文シートを用いることは,当業者が容易に想到し得るものである。
したがって,審決の「当該換金の流れの中において特殊景品を不介在として,特殊景品引換券,すなわち,注文済目録及び注文シートを特殊景品に代えて換金用の買い上げ対象とすることは,当業者ならば容易‥‥‥」との判断に誤りはない。
なお,刊行物2記載の三店方式が仮に風営法に抵触しないとしても,上記のとおり,本願発明は,現行風営法に抵触するおそれのあるものであって,公の秩序ないし善良な風俗を害するおそれのある発明(特許法32条)に該当するおそれなしとしない。
4結論以上に検討したところによれば,審決が本願発明につき特許法36条4項及び6項の要件に適合しないとした点は誤りといわざるを得ないが,これらの要件に適合するとしても,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,審決は,結論において誤りはなく,他に審決を取り消すべき事由は認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀