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関連審決 不服2002-19148
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  優先権 /  名義変更 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  特許協力条約 /  国際出願 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10740号 審決取消請求事件
原告 スパンションエルエルシー
訴訟代理人弁理士 片山修平
同 横山照夫
同 高林芳孝
同 八田俊之
同 菊池挙人
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 辻徹二
同 末政清滋
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-19148号事件について平成17年6月7日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯訴外アドバンスト・マイクロ・ディバイシズ・インコーポレイテッド及び訴外富士通株式会社(以下,両者をあわせて,「当初出願人」という。)は,平成11年(1999年)3月2日(優先権主張:1998年3月18日,米国),発明の名称を「二重フィールド酸化プロセスにおけるステッパー・アライメントマークの形成」とする特許協力条約に基づく国際特許出願(特願2000-537261(国際出願番号PCT/US99/04616,指定国に日本国を含む。),以下「本願」という。)をしたところ,平成14年7月18日付の拒絶査定を受けたので,これを不服として審判を請求し,同請求は不服2002-19148号事件として特許庁に係属した。
その後,原告は,当初出願人から本願に関し特許を受ける権利の譲渡を受け,平成16年6月25日,出願人名義変更届を特許庁長官に提出して出願人の地位を承継したが,平成16年10月22日付けの拒絶理由通知(同年11月16日発送)を受けたので,平成17年2月16日付けで手続補正(以下「本件補正」といい,この補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をした。
特許庁は,審理の結果,平成17年6月7日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(附加期間90日)をし,同月21日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件補正後の請求項4。以下「本願請求項4」といい,この発明を「本願発明」という。)「【請求項4】少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域をパターニングするために主要な第1マスク部を構成する工程と,少なくとも1つのアライメント・マーク領域をパターニングするために副の第1マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第1マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第1マスク部は,半導体基板のコア領域の上の少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記副の第1マスク部は,少なくとも1つのアライメント・マーカの形成を促進する工程と,少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域をパターニングするために相当する主要な第2マスク部を構成する工程と,前記少なくとも1つで形成されたアライメント・マーカを被覆して保持するために相当する副の第2マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第2マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第2マスク部は半導体基板の周辺領域の上の前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記相当する副の第2マスク部は,前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有し,前記第1マスク部材と前記第2マスク部材は,2つのフォトマスクセットからなることを特徴とする,半導体装置の製造におけるアライメント・マーカを完全な状態に保持するための方法。」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,本件優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平3-49212号公報(甲5。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,としたものである。
審決が,上記判断をするに当たり認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点・相違点は,それぞれ次のとおりである。
(引用発明)「半導体基板の上面全域に保護酸化膜およびSi N 膜を形成し,この上に34レジストを塗布し,露光を行い,素子領域および位置合わせマーク領域のレジストパターンを形成し,レジストパターンをSi N 膜に転写し,これに34より保護酸化膜の上にSi N 膜のパターンを形成し,Si N 膜のパター 34 34ンをマスクとして選択酸化を行い,素子領域および露光パターン用位置合わせマークを形成し,さらに,位置合わせマーク領域のみにカバーパターンを作成し,再び選択酸化を行い,素子領域に十分な厚さの選択酸化膜を形成し,カバーパターン及びSi N 膜パターンを除去することによって素子領域お34よび露光パターン用位置合わせマークを形成する方法」(一致点)「少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域をパターニングするために主要な第1マスク部を構成する工程と,少なくとも1つのアライメント・マーク領域をパターニングするために副の第1マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第1マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第1マスク部は,半導体基板のコア領域の上の少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記副の第1マスク部は,少なくとも1つのアライメント・マーカの形成を促進する工程と,酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する,半導体装置の製造におけるアライメント・マーカを完全な状態に保持するための方法」である点。
(相違点)(1) 本願発明は,少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域をパターニングするために相当する主要な第2マスク部を構成する工程と,前記少なくとも1つで形成されたアライメント・マーカを被覆して保持するために相当する副の第2マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第2マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第2マスク部は半導体基板の周辺領域の上の前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記相当する副の第2マスク部は,前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有するのに対し,引用発明は,酸化物領域の形成の間に,少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有するものの,上記第2フィールド酸化物領域を形成する工程を有していない点(以下「相違点1」という。)。
(2) 本願発明は,第1マスク部材と前記第2マスク部材は,2つのフォトマスクセットからなる構成を有するのに対し,引用発明は,その旨の記載がない点(以下「相違点2」という。)。
原告主張の取消事由の要点
審決は,一致点の認定を誤って相違点を看過し,周知手段の認定を誤り,相違点1の判断を誤り,本願発明の顕著な作用効果を看過した結果,本願発明が引用発明及び周知手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
なお,審決における引用発明の認定並びに相違点2の認定及び判断については,認める。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)審決は,「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」との点を一致点としたが,誤りである。本願発明と引用発明とは,下記(1)のとおり課題を異にすることから,下記(2),(3)のとおりその構成を異にするものである。
(1) 引用発明は,半導体基板上の保護酸化膜上に形成されたSi N 膜パター34ンをマスクに厚い選択酸化膜を形成する場合に,位置合わせマークである酸化膜が横方向に大きく食い込むこと(この現象は「バーズビーク」と呼ばれる。)により,鮮明な位置合わせマークの形成が難しくなるという課題を解決しようとするものである。
これに対し,本願発明は,第1フィールド酸化物領域とは異なる第2フィールド酸化物領域を形成する場合に,アライメント・マークが認識し難くなという課題を解決しようとするものである。
(2) 本願発明と引用発明とは,審決が認定した一致点のうち「酸化物領域の形成の間に」との点に対応するのが,本願発明では「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する間に」であるのに対し,引用発明では「1回目の選択酸化と同じマスクを用い同じ領域に酸化物領域を形成する間に」である点(以下「相違点B」という。)で相違する。
審決が,「酸化物領域の形成の間に」との点を一致点としたのは,相違点Bを看過したものであり,誤りである。
(3) 本願発明と引用発明とは,審決が認定した一致点のうち「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」との点に対応するのが,本願発明では「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」であるのに対し,引用発明では「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークのみを被覆して保持する工程」である点(以下「相違点C」という。)で相違する。
審決が,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」との点を一致点としたのは,相違点Cを看過したものであり,誤りである。
2 取消事由2(周知手段認定の誤り)審決は,特開平3-187224号公報(甲6)を例示し,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成することは,半導体装置における周知手段」であると認定したが,誤りである。
(1)ア 甲7(半導体用語大辞典,日刊工業新聞社1999年3月20日発行)に,「バーズビークの発生は,半導体素子の活性領域の面積を小さくし,トランジスタのドレイン電流を減少させるために微細化を妨げる要因の一つとなる。LSIの高集積化に伴い分離幅は,比例縮小則に従ってスケーリングされるが,バーズビーク長は,スケーリング則からはずれるために,バーズビークの素子占有率は大きくなり,バーズビークの低減は重要な課題である。」(851頁13行〜22行)と記載されているように,フィールド酸化膜領域を形成する場合には,集積化のためバーズビークを小さくすることが課題である。
イ このため,審決が周知手段を示すものとして例示した甲6では,「集積化が要求されるメモリ部では,バーズビーク4a,4bの横方向への延びを低減することができるポリバッファLOCOS法による酸化膜4が形成され,寄生トランジスタ発生防止のため厚い酸化膜が要求される周辺回路部200では,LOCOS法により厚い酸化膜14が形成される。したがって,メモリ回路部100では集積化をさらに促進することができ,その一方周辺回路部200では,寄生トランジスタの発生防止を強化することができる。」(3頁左下欄15行〜右下欄4行)と記載されているように,メモリ部(コア領域)の酸化膜4(第1フィールド酸化物領域の酸化膜)の膜厚が周辺回路部(周辺領域)の酸化膜14(第2フィールド酸化物領域の酸化膜)の膜厚より小さくなるように,二重フィールド酸化膜領域を形成している。
ウ なお,本願明細書においては,「メモリ製品の製造において,ダイの中心部は,メモリ回路素子の製造に使用され,周辺部は,論理回路に使用される。……周辺部では高い電圧が使用されるため,ダイの中心部よりも厚いFOX(フィールド酸化物)を使用しなければならない」(段落【0002】)と記載されているように,周辺部(周辺領域)はダイの中心部(コア領域)よりもフィールド酸化膜を厚くしている。
エ 上記アないしウのとおり,コア領域および周辺領域を有する半導体装置においては,周辺領域では高い電圧に耐え又は寄生トランジスタの発生を防止するためフィールド酸化膜の膜厚を厚くし,コア領域では集積化のため酸化膜の膜厚を小さくするように,二重フィールド酸化膜領域が形成される。
そうすると,周知手段ということができるのは「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」にとどまるというべきであり,これを上位概念化して「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成することは,半導体装置における周知手段」であるとすることは,誤りである。
(2)ア 被告は,コア及び周辺領域の酸化膜の厚さの大小については,本願明細書の特許請求の範囲には記載されておらず,本願発明の構成ではない事項であるから,そもそも本願発明と引用発明の対比との対象外であると主張する。
しかし,原告は,引用発明に周知手段である「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜を形成すること」を付加することは不可能であることを指摘している(後記3)のであるから,被告の主張は当を得ないものである。
イ 被告は,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が半導体装置における周知手段であることは,甲6の記載から自明であり,また,乙1(特開平1-274457号公報)及び乙2(特開平3-220766号公報)の各記載からも明らかである旨主張するが,いずれも誤りである。
(ア) 被告は,甲6の「それぞれの素子に要求される分離特性に応じた酸化膜が形成される。」(3頁左上欄12行〜14行)との記載から,その上位概念として「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が含まれていることは自明である旨主張する。
しかし,甲6に前記(1)イで引用した記載及び「半導体装置の周辺回路部200では,寄生トランジスタの発生防止のために厚い酸化膜が要求される。」(2頁左下欄17行〜19行)との記載があることに照らせば,被告の指摘する上記記載は,「周辺領域の第2フィールド酸化膜の膜厚をコア領域の第1フィールド酸化膜の膜厚より厚く形成すること」を意味するにすぎず,その上位概念である「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成すること」を含んでいるということはできない。
(イ) 甲8(半導体用語大辞典,日刊工業新聞社1999年3月20日発行)における「フィールド酸化膜とは,図に示すように素子間領域の結晶表面に形成された数千Åの酸化膜のことである。」(936頁右欄下から4行〜下から2行)との記載及び「フィールド酸化膜」の説明図(937頁左上)に示されるように,フィールド酸化膜は,ゲートの下の酸化膜(すなわちゲート酸化膜)とは異なり,厚い酸化膜である。
そして,乙2における「前述のアクセス・トランジスタのゲート電極は素子分離領域3(フィールド酸化膜)で囲まれた,半導体基板1表面部に設けられた基板と反対導電型の拡散層(n+拡散層5)上に前述のアクセス・トランジスタのゲート酸化膜9より薄いゲート酸化膜10」(2頁左下欄15行〜20行)との記載,及びアクセス・トランジスタのゲート酸化膜9が素子分離領域3(フィールド酸化膜)の間に設けられていることを示す図1(b)に示されるように,ゲート酸化膜はフィールド酸化膜とは異なるものである。
なお,本願発明は,フィールド酸化膜が数千Åと厚いために生じるアライメント・マークが不鮮明になるという課題を解決するものである。
したがって,乙2の「本発明は,メモリセル部のアクセス・トランジスタのゲート絶縁膜厚を周辺回路部のMOSトランジスタのそれより厚くする」(3頁左下欄7行〜9行)との記載における「絶縁膜」がフィールド酸化物の酸化膜に相当するから,メモリセル部の絶縁膜厚が周辺回路の絶縁膜厚より厚くなるようにしたことが開示されているとの被告の主張は,誤りである。
(ウ) 甲6及び乙2がいずれも審決が認定した周知手段の根拠とならないことは,上記のとおりであり,乙1のみをもって,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成することは,半導体装置における周知手段」とすることはできない。
(エ) 乙1における「まず,半導体基板1を熱酸化し,PAD酸化膜2を形成する(第1図(a))。次にCVD法により窒化膜3を堆積し,フォトリソグラフ工程によりLOCOSパターンを形成する(第1図(b))。これを1000℃程度の高温アンモニアガス雰囲気中でアニールを行い,PAD酸化膜表面を熱窒化シリコン酸化膜4に組成変換させる(第1図(c))。さらに膜厚の厚いフィールド酸化膜を必要とする領域の熱窒化シリコン酸化膜4をフォトリソグラフ工程によりエッチングして取り除く(第1図(d))。最後にこれを熱酸化して厚い膜厚のフィールド酸化膜5と薄い膜厚のフィールド酸化膜6を同時に形成する(第1図(e))」(2頁右上欄13行〜左下欄7行)との記載及び図1(b),(e)によれば,乙1記載のものは,フィールド酸化膜を形成する選択酸化のためのマスク(CVD窒化膜3)をメモリセルと周辺回路とで同時に形成するものであり,フィールド酸化膜を形成するための選択酸化をメモリセルと周辺回路とで同時に行っているものである。
そうすると,乙1には,2種類の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を同じマスクを用い同時に形成することが記載されているにとどまるから,2つの異なるマスクを用い異なる領域に2回の選択酸化を行い酸化物領域を形成する場合の課題を解決しようとする本願発明と対比の対象となるものではない。
また,乙1記載のものは,選択酸化を1回しか行わないから,これを引用発明に適用することは不可能である。
ウ 被告は,甲6の記載から,二重フィールド酸化膜領域を形成する方法として,「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成し,第2のマスク部材により周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」も周知であることが明らかであると主張する。
しかし,甲6記載のものは,前記イ(ア)で検討した点のほか,「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成し,第2のマスク部材により,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を被覆し,周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」(3頁左下欄3行〜13行)との構成を含むから,その上位概念である「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成し,第2のマスク部材により周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」とする被告の主張は誤りである。
エ 被告は,引用発明に周知手段を適用して本願発明とすることに何ら困難性がなく,その際,アライメント・マークを被覆するマスクと周辺領域のフィールド酸化物の形成を促進するマスクを一体に作ることは,単なる設計事項にすぎないと主張する。
しかし,引用発明においては「同じマスク部材」を用い2回目の選択酸化を行うのであって,甲6記載のもののように「第1のマスク部材」と異なる「第2のマスク部材」を用いることは不可能である。
また,仮に「第2のマスク部材」を用いたとしても,引用発明に対して,甲6記載のものの構成に含まれる「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が,周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように形成する方法」を適用することは不可能である。
さらに,引用発明においては,第2のマスク部材が,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を被覆せず,第2のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜上に酸化膜が形成される。甲6記載のものは「第2のマスク部材により,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を被覆し,周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」であり,引用発明に甲6記載のものを適用することは不可能である。
加えて,引用発明における2回目の選択酸化は,「位置合わせマークのみを被覆」することである。よって,そもそも,引用発明に「2回目の選択酸化において周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成すること」を適用することは不可能である。
3 取消事由3(相違点1の判断の誤り)審決は,引用発明に周知手段を付加し,半導体基板の周辺領域の上の少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域を形成することに困難性は認められず,また,その際に,アライメント・マークを被覆して保持する工程に用いるマスクを,二重フィールド酸化物領域を形成する工程に用いるマスクと一つのマスクとする程度のことは当業者が容易に想到できたことにすぎないと判断したが,誤りである。
(1) 前記1のとおり,本願発明と引用発明とは,相違点B及びCにおいても相違する。したがって,引用発明に周知技術を組み合わせても,カバーパターンは,位置合わせマーク(アライメント・マーク)のみを被覆することとなり,カバーパターン(第2マスク部)として周辺領域の第2フィールド酸化物領域の形成を促進するマスクを形成することはできない。
(2) 仮に,相違点B,Cがそれぞれ一致点とされ,周知技術の認定が審決のとおりであったとしても,相違点B,Cに係る本願発明の構成を同時に備える構成は得られない。
相違点Cに係る構成を含む引用発明に,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成する」という周知手段を付加しても,カバーパターンは,位置合わせマーク(アライメント・マーク)のみを被覆することとなるから,カバーパターン(第2マスク部)として周辺領域の第2フィールド酸化物領域の形成を促進するマスクを形成することはできない。
相違点Bに係る構成を含む引用発明に,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成する」技術を付加しても,コア領域の選択酸化膜(第1フィールド酸化物領域)は1回目と2回目の選択酸化で形成され,周辺領域の第2フィールド酸化物領域は2回目の選択酸化のみで形成される結果,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜は周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より厚くなるから,周知手段である「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」にはならない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)(1) 本願発明は,「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」を行うことで,「2枚のマスクを用い異なる領域に異なるフィールド酸化膜を形成することができ,かつアライメント・マークおよびアライメント・マーク周辺の障壁酸化物層に酸化物が成長し一体となることを防止する」という作用効果を有する。これに対して,引用発明は,「1回目の選択酸化と同じマスクを用い同じ領域に酸化物領域を形成する間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークのみを被覆して保持する工程」を行うことで,「バーズビークに起因し位置合わせマークが横方向に広がることを防止し,鮮明な位置合わせマークを形成することができる」という作用効果を有する。
このように,本願発明作用効果は,引用発明のそれとは異なるものであり,引用発明及び周知手段から当業者が予想できる範囲のものではない。
(2) 被告は,本願発明と引用発明において,酸化膜で形成されたアライメント・マークをカバーで保護し,アライメント・マークを次の酸化膜形成工程においてアライメント・マークに酸化膜が形成されないようにするという発明の骨子において軌を一にするものであると主張するが,本願発明と引用発明とは,解決しようとする課題,具体的な構成が異なるから,両者は発明の骨子において軌を一とするものではない。
被告の反論の要点
審決の事実認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
本願発明は,引用発明及び周知手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,と判断した審決に誤りはない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について(1) 引用発明は,選択酸化により形成した位置合わせマークが,再び選択酸化を行って位置合わせマーク以外の素子領域に選択酸化膜を形成する際に選択酸化されると不鮮明になることから,これを防止するために,再び選択酸化を行う際には,位置合わせマークが選択酸化されないようにカバーパターンを設けたというものである。
引用発明において選択酸化により選択酸化膜を形成することは,本願発明においてフィールド酸化物領域の形成を促進することに相当し,位置合わせマークにカバーパターンを設けることは,アライメント・マークを被覆することに相当する。
引用発明は酸化物領域形成の促進を2回行うものであるところ,本願発明も酸化物領域は異なるが(審決は,本願発明において酸化物領域形成の促進を2回行う際,酸化物領域が異なる点を,相違点1としている。),酸化物領域形成の促進を2回行うものである点は同じであり,審決のいう「酸化物領域の形成の間に」とは,1回目と2回目の両酸化物領域形成の促進の間を意味する。
したがって,審決が「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」との点を一致点としたことに,誤りはない。
(2) 審決は,原告の主張する相違点B,Cを相違点1において実質的に認定,判断しているから,相違点の看過があるとはいえない。
(3) 原告は,本願発明と引用発明とは課題を異にする旨主張するが,本願発明と引用発明とは,選択酸化により形成したアライメント・マークが更に選択酸化されて不鮮明になることを防止するため,さらに選択酸化を行う際にアライメント・マークが選択酸化されないようにカバーパターンを設ける点において共通するものであって,課題に格別の差異はなく,構成上の相違にもなっていない。
2 取消事由2(周知手段認定の誤り)について(1) コア及び周辺領域の酸化膜の厚さの大小については,特許請求の範囲に記載されておらず,本願発明の構成に含まれる事項ではないから,そもそも,本願発明と引用発明の対比との対象外である。コア及び周辺領域の酸化膜の厚さの大小に係る原告の主張は,失当である。
(2) 甲6における「本実施例では,集積化が要求されるメモリ部では,バーズビーク4a,4bの横方向への延びを低減することができるポリバッファLOCOS法による酸化膜4が形成され,寄生トランジスタ発生防止のため厚い酸化膜が要求される周辺回路部200では,LOCOS法により厚い酸化膜14が形成される。」(3頁左下欄15行〜右下欄1行)との記載は,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成することを意味する。
また,甲6には,「それぞれの素子に要求される分離特性に応じた酸化膜が形成される」(3頁左上欄12行〜同欄14行)との記載がある。
そうすると,その上位概念として,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が含まれていることは,自明である。
(3) 「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が半導体装置における周知手段であることは,乙1,2の各記載からも明らかであり,この点からも審決の認定には誤りはないというべきである。
ア 乙1には,「本発明は,たとえば低電圧系のメモリ素子駆動用周辺回路の中に高電圧系のメモリアレイを組み込むことができるようにしたものであり,メモリセルとしては素子分離用酸化物(フィールド酸化膜)を厚くして高電圧に対処する必要がある一方,周辺回路では集積化のためフィールド酸化膜を薄くした方が望ましい高集積半導体不揮発性メモリに関する。」(1頁右欄2行〜9行)との記載があり,周辺回路の中に組み込まれたメモリセル(当該「周辺回路の中に組み込まれたメモリセル」とは,メモリセルが周辺回路に囲まれた形態であることは第1図(e)から明らかである。)のフィールド酸化膜が,周辺回路のフィールド酸化膜より厚くなるようにしたことが開示されている。
イ 乙2には,「本発明は,メモリセル部のアクセス・トランジスタのゲート絶縁膜厚を周辺回路部のMOSトランジスタのそれより厚くする」(3頁左下欄7行〜9行)との記載があり,当該絶縁膜はフィールド酸化物の酸化膜に相当するから,メモリセル部の絶縁膜厚が周辺回路の絶縁膜厚より厚くなるようにしたことが開示されている。
(4) 甲6の記載から,「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成し,第2のマスク部材により周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」も周知であることが明らかである。
すなわち,甲6には,「第1図ないし第2G図を参照して,製造プロセスについて説明する。まず,第2A図に示すように,シリコン基板1上のメモリ部100および周辺回路部200に下敷酸化膜2を形成する。下敷酸化膜2上にポリシリコン5を形成する。ポリシリコン5上に窒化膜3を形成する。
次に,第2B図に示すように,窒化膜3上にパターニングし,メモリ部100の酸化膜が形成される領域の窒化膜3をエッチングする。その後,第2C図に示すように,熱酸化を行ないメモリ部100に酸化膜4を形成する。第2D図に示すように,窒化膜3およびポリシリコン5ならびに下敷酸化膜2を除去して酸化膜4が形成される。このフィールド酸化膜4を形成する方法は従来のポリバッファLOCOS法と同様である。したがってメモリ部100には,幅の狭い酸化膜4が形成される。次に,第2E図に示すように,酸化膜4が形成されたメモリ部100および周辺回路部200のシリコン基板1上に下敷酸化膜12を形成する。下敷酸化膜12上に窒化膜13を形成する。第2F図に示すように,窒化膜13上にパターニングし,周辺回路部200の酸化膜が形成される領域の窒化膜13をエッチングする。第2G図に示すように,熱酸化を行ない酸化膜14が形成される。この後,最終的に下敷酸化膜12および窒化膜13が除去されて第1図に示すような酸化膜14が完成される。この酸化膜14を形成する方法は従来のLOCOS法と同様である。」(3頁右上欄7行〜左下欄14行)との記載がある。
上記「メモリ部100の酸化膜が形成される領域の窒化膜3をエッチングする。その後,第2C図に示すように,熱酸化を行ないメモリ部100に酸化膜4を形成する」ことは,「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成」することに相当し,また,「窒化膜13上にパターニングし,周辺回路部200の酸化膜が形成される領域の窒化膜13をエッチングする。第2G図に示すように,熱酸化を行ない酸化膜14が形成される」ことは,「第2のマスク部材により周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する」ことに相当する。
したがって,上記二重フィールド酸化膜領域を形成する方法として,「第1のマスク部材によりコア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜を形成し,第2のマスク部材により周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜を形成する方法」が周知であることは明らかである。
(5) 引用発明に対し上記検討した周知手段を適用して,本願発明とすることに何ら困難性がないものであり,その際,アライメント・マークを被覆するマスクと周辺領域のフィールド酸化物の形成を促進するマスクを一体に作ることは,単なる設計事項にすぎない。
3 取消事由4(相違点1の判断の誤り)について原告は,相違点B,Cに係る構成を含む引用発明に周知手段を付加したときの本願発明に対する想到困難性,相違点B又はCが一致点であるときの本願発明に対する想到困難性を予備的に主張しているが,前記1のとおり,原告が主張する相違点B,Cは,審決において相違点1として認定,判断されているから,原告の主張はその前提を欠く。
また,コア及び周辺領域の酸化膜の厚さの大小に係る原告の主張は,前記2(1)のとおり,本願発明の構成ではない事項であるから,失当である。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について原告は,本願発明の作用効果と引用発明の作用効果が異なるものである旨主張するが,両者は,酸化膜で形成されたアライメント・マークをカバーで保護し,アライメント・マークに次の酸化膜形成工程において酸化膜が形成されないようにするという発明の骨子において軌を一にするものであり,本願発明の作用効果についても,引用発明から予測し得るものにすぎない。原告の主張は失当であり,審決に誤りはない。
そもそも,本願発明は,本願明細書に記載されているように,従来技術からみれば,アライメント・マークを2回酸化させないため,2回目の酸化膜形成工程においてアライメント・マークにカバーを設けたにすぎず,その発明思想は,引用発明および周知手段から十分予測可能なものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について原告は,審決が「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」との点を一致点としたことは誤りであり,相違点を看過したものである旨主張する。
(1) 原告の主張は,審決が認定した一致点のうち「酸化物領域の形成の間に」,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」との点に対応する構成が,本願発明及び引用発明にそれぞれ存在すること自体を争うものではなく,当該構成が,具体的には,本願発明では「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する間に」,「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」であるのに対し,引用発明では「1回目の選択酸化と同じマスクを用い同じ領域に酸化物領域を形成する間に」,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークのみを被覆して保持する工程」であることを主張し,審決がこれらの点を相違点として認定することなく,一致点を認定したことが,誤りであるというものと解される。
審決が,本願発明と引用発明の各構成に共通する事項について,「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」という上位概念をもって表現したことそれ自体を誤りということはできないから,審決における一致点の認定それ自体に誤りがあるとはいえない。
そこで,審決が相違点を看過したものであるか否か検討する。
(2) 原告は,審決が認定した一致点のうち「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」との点に対応する本願発明の具体的構成が,「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する間に」,「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」である旨主張する。
ア 審決が認定した相違点1に係る本願発明の構成は,「少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域をパターニングするために相当する主要な第2マスク部を構成する工程と,前記少なくとも1つで形成されたアライメント・マーカを被覆して保持するために相当する副の第2マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第2マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第2マスク部は半導体基板の周辺領域の上の前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記相当する副の第2マスク部は,前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」というものである。
上記構成が,原告が相違点Cに係る本願発明の構成である旨主張する「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程」を含むものであることは,明らかである。
イ 上記相違点1に係る本願発明の構成は「第2マスク部材」を用いるものであるから,上記構成中の「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に」との点についても,「第2マスク部材」が用いられていることは明らかである。
原告は,本願発明の構成のうち,「少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域をパターニングするために主要な第1マスク部を構成する工程と,少なくとも1つのアライメント・マーク領域をパターニングするために副の第1マスク部を構成する工程とを含む,半導体基板の上に配置される第1マスク部材を構成する工程であって,前記主要な第1マスク部は,半導体基板のコア領域の上の少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域の形成を促進し,前記副の第1マスク部は,少なくとも1つのアライメント・マーカの形成を促進する工程」を「1回目の選択酸化」と呼んでいるものと解されるから,原告のいう「1回目の選択酸化」とは,「第1マスク部材」を用い,「少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域を形成」するものであるということになる。そして,本願明細書の特許請求の範囲の請求項4には,「前記第1マスク部材と前記第2マスク部材は,2つのフォトマスクセットからなる」との記載がある(甲4)から,「第1マスク部材」と「第2マスク部材」とは,異なるマスクであることが明らかである。
また,本願明細書の特許請求の範囲の請求項4には,「半導体基板のコア領域の上の少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域」,「半導体基板の周辺領域の上の前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域」との記載があり,「コア領域」と「周辺領域」とが異なる領域であることは明かであるから,「第1フィールド酸化物領域」と「第2フィールド酸化物領域」が異なる領域であることも明らかである。そうすると,相違点1に係る本願発明の構成中の「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に」との点は,「1回目の選択酸化」が行われる領域である「前記少なくとも1つの第1フィールド酸化物領域」とは異なる領域である「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域」に酸化物領域を形成する間であるということになる。
したがって,審決が認定した相違点1に係る本願発明の構成中の「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成の間に」との点は,原告がいう「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する間に」との意味を有するものというべきである。
ウ 上記検討したところによれば,本願発明についての原告の主張を前提とする限り,原告の主張する相違点B,Cに係る本願発明の構成は,審決が認定した相違点1において,実質的に認定されているものというべきである。
(3) 原告は,審決が認定した一致点のうち「酸化物領域の形成の間に,前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有する」との点に対応する引用発明の具体的構成が,「1回目の選択酸化と同じマスクを用い同じ領域に酸化物領域を形成する間に」,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークのみを被覆して保持する工程」である旨主張する。
審決が認定した相違点1に係る引用発明の構成は,「酸化物領域の形成の間に,少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する工程とを有するものの,上記第2フィールド酸化物領域を形成する工程を有していない」というものであり,「上記第2フィールド酸化物領域を形成する工程」とは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,上記(2)において検討した「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進」ないしは「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成」する工程のことであることは,審決の説示から明らかである。
そうすると,審決が認定した相違点1に係る引用発明の構成は,「1回目の選択酸化と異なるマスクを用い異なる領域に酸化物領域を形成する」ものではなく,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークを被覆して保持する」ものではあるが,「前記少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域の形成を促進」するものではないということになるから,結局,「1回目の選択酸化と同じマスクを用い同じ領域に酸化物領域を形成する」ものであって,「前記少なくとも1つの形成されたアライメント・マークのみを被覆して保持する工程」であるということになる。
したがって,原告の主張する相違点B,Cに係る引用発明の構成についても,審決が認定した相違点1において,実質的に認定されているものというべきである。
(4) 以上によれば,審決の一致点の認定に誤りはなく,また,原告の主張する相違点B,Cを看過したということもできない。原告主張の取消事由1は理由がない。
なお,原告は本願発明と引用発明とは課題が異なる旨主張する。上記のとおり,審決の一致点の認定は誤りがなく,相違点を看過したということもできないから,仮に課題が相違していたとしても審決の結論に影響しないというべきであるが,念のためこの点についての判断を示す。引用例(甲5)の記載によれば,引用発明は1回目の選択酸化により形成された位置合わせマークが再び選択酸化されて不鮮明になることを防止するために,2回目の選択酸化を行う前に位置合わせマークをカバーパターンで覆うものである。一方,本願明細書(甲2,4)の記載によれば,本願発明は第1のマスキング工程で形成されたアライメント・マークの上に第2のマスキング工程で第2の酸化物材料層を作成しないようにして,その可視性を高めることを目的とするものであるから,両者は選択酸化により形成したアライメント・マークが更に選択酸化されて不鮮明になることを防止することを課題としている点において共通しているというべきである。
2 取消事由2(周知手段認定の誤り)について原告は,周知手段ということができるのは「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」にとどまり,これを上位概念化して「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成することは,半導体装置における周知手段」であるとすることは,誤りである旨主張する。
しかし,「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が行われている場合には,とりもなおさず,「2種の酸化物領域からなる二重フィールド酸化物領域を形成すること」が当然に行われているというべきである。前者が周知手段であることについては原告も認めるところであるから,後者を周知手段であるとした審決の認定に誤りがあるということはできない。原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点1の判断の誤り)について審決は,引用発明に周知手段を付加し,半導体基板の周辺領域の上の少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域を形成することに困難性は認められず,また,その際に,アライメント・マークを被覆して保持する工程に用いるマスクを,二重フィールド酸化物領域を形成する工程に用いるマスクと一つのマスクとする程度のことは当業者が容易に想到できたことにすぎないとしたが,原告は,審決の上記判断は誤りである旨主張する。
(1)ア 引用発明は,半導体基板の周辺領域の上の少なくとも1つの第2フィールド酸化物領域を形成するものではない。
しかし,前記のとおり,「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が半導体装置における周知手段であることは,原告も認めるところである。
そうすると,引用発明に上記周知手段を適用することにより,選択酸化を行って半導体基板のコア領域に素子領域を形成するとともに露光パターン用位置合わせマークを形成した後,「位置合わせマーク領域のみにカバーパターンを作成し,再び選択酸化を行い,素子領域に十分な厚さの選択酸化膜を形成」することに代えて,半導体基板の周辺領域に酸化物領域を形成することとし,その際,位置合わせマーク領域を被覆して保持するようにすることは,当業者であれば容易に想到することができたというべきである。
イ 製造工程を減らすことはこの種の製造方法において普遍的な課題であるから,引用発明に上記周知手段を適用するに際して,位置合わせマーク領域を被覆するマスクと,半導体基板の周辺領域に酸化物領域の形成を促進するマスクとを一体に作ることは,当業者であれば容易に想到し得ることというべきである。
(2) 原告は,引用発明に上記周知手段を適用しても,@カバーパターンは,位置合わせマーク(アライメント・マーク)のみを被覆することとなり,カバーパターン(第2マスク部)として周辺領域の第2フィールド酸化物領域の形成を促進するマスクを形成することはできない,Aコア領域の選択酸化膜(第1フィールド酸化物領域)は1回目と2回目の選択酸化で形成され,周辺領域の第2フィールド酸化物領域は2回目の選択酸化のみで形成される結果,コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜は周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より厚くなるから,周知手段である「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」にはならないなどと主張する。
しかし,引用発明に上記周知手段を適用するに際して,位置合わせマーク領域を被覆するマスクと半導体基板の周辺領域に酸化物領域の形成を促進するマスクとを一体に作ることが,当業者であれば容易に想到し得るものであることは,上記(1)イにおいて検討したとおりであり,原告の上記@の主張は採用することができない。
また,原告の上記Aの主張は,要するに,引用発明では,厚い選択酸化膜を形成する一方,位置合わせマーク領域は薄い選択酸化膜を形成するにとどめるため,選択酸化を2段階で行うこととし,前者は2回,後者は1回の選択酸化をしており,上記周知技術を適用するに当たり,引用発明の上記構成をそのまま維持することを念頭に置いたものと解される。
しかし,「コア領域の第1フィールド酸化物の酸化膜が周辺領域の第2フィールド酸化物の酸化膜より薄くなるように二重フィールド酸化膜領域を形成すること」が周知手段であることは,原告も認めるとおりである。これを引用発明に適用し,コア領域に薄い選択酸化膜を形成することとする場合には,コア領域に2回の選択酸化をする必要はなく,2回目の選択酸化を周辺領域についてのみ行うこととすることは妨げられないというべきであるから,原告の上記Aの主張も採用することができない。
(3) 以上検討したとおり,審決における相違点1の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について原告は,本願発明は「2枚のマスクを用い異なる領域に異なるフィールド酸化膜を形成することができ,かつアライメント・マークおよびアライメント・マーク周辺の障壁酸化物層に酸化物が成長し一体となることを防止する」という顕著な作用効果を奏するところ,本願発明と引用発明とは,解決しようとする課題,具体的な構成,作用効果が異なるから,本願発明の作用効果は,引用発明及び周知手段から当業者が予想できる範囲のものではない旨主張する。
しかし,2枚のマスクを用い異なる領域に異なるフィールド酸化膜を形成することができるとの点は,周知手段を適用することにより構成上当然に奏される効果にすぎないし,アライメント・マークおよびアライメント・マーク周辺の障壁酸化物層に酸化物が成長し一体となることを防止するとの点は,引用発明の構成から当然に予測される効果にすぎない。
したがって,本願発明の作用効果が,引用発明及び周知手段から当業者が予想できるものであるとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は理由がない。
5結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀