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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ16832補償金請求事件 平成12ワ5572補償金請求事件 判例 特許
平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 判例 特許
平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成15ワ29850職務発明等に対する相当対価等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  改良発明 /  業務範囲 /  無償の通常実施権 /  相当の対価(相当な対価) /  自然法則 /  技術的思想 /  有用性 /  創作性(創作) /  物の発明 /  共同発明 /  進歩性(29条2項) /  出願公開 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  権利移転 /  着想 /  実施料相当額 /  ライセンス /  存続期間 /  優先日 /  均等 /  置き換え /  置換 /  不存在 /  禁反言 /  業として実施 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  業として /  侵害 /  算定方法 /  実施料 /  共同発明者 /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  発明の範囲 /  対価 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 26283号 職務発明対価請求事件
横浜市青葉区(以下略)
原告x
同訴訟代理人弁護士 津山齊
同訴訟復代理人弁護士 吉田誠
同菊地将人 東京都中央区(以下略)
被告 JSR株式会社
同訴訟代理人弁護士 新保克芳
同松村昌人
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金239万6250円及びこれに対する平成16年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,金3億円並びに内金1億円に対する平成16年12月16日(訴状送達の日の翌日)から及び内金2億円に対する平成18年4月25日(請求拡張の申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合に2よる金員を支払え。
事案の概要等
1 前提となる事実(証拠を掲げた以外の事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア 被告は,合成ゴム,合成樹脂等の化学工業製品の製造販売等のほか,昭和63年3月から液晶ディスプレイ等の製造に用いられる材料(表示材料)を製造販売している株式会社である。
イ 原告は,昭和36年3月に岐阜県立岐阜工業高校を卒業し,同年4月に被告に入社して四日市研究所に配属され,合成ゴムの研究開発に従事した後,昭和59年ころから東京研究所などで,液晶ディスプレイ等の製造に用いられる材料(表示材料)の研究に取り組み,昭和62年4月に管理職である主査(主任研究員)となり,平成12年6月に退職した。
(2) 被告の特許権被告は,別紙特許権目録記載の特許権(以下,同目録の番号に従って「本件特許権1」などといい,併せて「本件各特許権」という。また,その特許発明を同目録の番号に従って「本件発明1」などといい,本件発明1,2,4,6及び8を併せて「本件各発明」という。)を有している。
本件各発明は,それぞれ特許請求の範囲記載のとおりのものであり,いずれも,液晶ディスプレイの材料用の透明な塗膜を形成するための組成物に関するものである。
本件各発明は,いずれも,被告の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為が従業者の職務に属する職務発明であり,発明者は被告に対し,本件各発明に係る特許を受ける権利を譲渡した。
なお,本件特許権1,2,4,6及び8の特許公報(甲1,2,4,6,8)中の発明者欄には,それぞれ別紙特許権目録の発明者欄のとおりその順序で氏名が記載されているところ,原告以外に発明者として記載されている3a,b'(旧姓「b」。),c,d,e,f,g及びhは,いずれも,原告の被告在勤中,原告の従事する研究開発と同一又は関連の部署において,管理職や研究員として,被告に勤務していた者である。(乙8ないし10,12)(3) 従業員の発明に関する被告の定め被告は,昭和54年1月1日から「発明考案取扱規程」(甲34)を実施し,昭和63年1月1日に職務発明発明者である従業員に対する補償規定(6条)を新設して,次のとおり規定している。
ア(権利の帰属又は承継)(ア) 従業員の職務発明に係る工業所有権を受ける権利又は工業所有権は,会社に帰属するものとする(5条1項)。
(イ) 会社は,職務発明以外の発明に係る工業所有権を受ける権利又は工業所有権を承継しようとするときは,当該発明等をなした従業員と譲受契約を締結する(5条2項)。
イ(補償)(ア) 5条1項の規定により会社に帰属した発明等を出願したとき,及びこれを登録したときは,その発明等をなした従業員に対し,特許の場合,出願時に5000円,登録時に1万円の補償金を会社が相当と認める方法で支払う(6条1項)。
(イ) 6条1項の補償を受ける権利は,当該権利にかかわる発明者が転職し又は退職した後も存続する(6条2項)。
(4) 本件各発明の実施の状況本件各発明は,被告において次のとおり実施されている(これらの実施品を,以下「本件製品」という。)。
ア 本件発明1及び2二液型のカラーフィルター用熱硬化性保護膜(被告の製品名「JSS」,4「SS」,「AH」シリーズ)イ 本件発明4一液型のカラーフィルター用熱硬化性保護膜(同「SS」,「AH」シリーズ)ウ 本件発明6ネガ型のカラーフィルター用感光性保護膜,感光性スペーサー(同「JNPC」,「NN」シリーズ)エ 本件発明8ポジ型のカラーフィルター用感光性保護膜,層間絶縁膜(同「HRC」,「JAS」,「PC」,「MFR」シリーズ)(5) 被告の原告に対する補償金の支払これまで,原告は,被告から,本件特許権1,2,4,6及び8につき,いずれも1件4名の発明であるとして,前記(3)イの金額の4分の1である出願時補償金各1250円及び登録時補償金各2500円を受領した。
2 事案の概要本件は,原告において,本件各発明が原告が他の研究員と共同で発明した職務発明であり,被告に特許を受ける権利承継したと主張して,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項に基づき,その相当の対価36億3767万5000円の一部請求として,3億円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
3争点(1) 本件各発明について,原告が共同発明者か否か(2) 相当の対価の額はいくらかア 被告が受けるべき利益の額イ 被告が貢献した程度ウ 共同発明者における原告の寄与の程度5エ 相当の対価の額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(共同発明者性)について〔原告の主張〕原告は,本件各発明について,他の研究員と共同でこれらを発明した真の共同発明者である。
(1) 本件各発明への原告による関与ア 本件各発明について,原告が被告により発明者の1人として特許出願された結果,原告の氏名が他の発明者とともに特許公報に記載され,また,被告から原告に対し,特許を受ける権利の譲渡対価の一部として,出願時補償金及び登録時補償金が支払われた。
このように,原告が真の共同発明者の1人として事実上推定されるべきところ,実際に被告においても,特許出願時から登録後に至るまで,一貫して原告を発明者として扱っていた。よって,これに反する主張は,禁反言により許されない。
イ 原告は,本件各発明について,その研究開発の当時,管理職ではあったが,部下の研究者に対して一般的な管理を行う職責を担っていたcやfと異なり,テーマリーダーであったことはない。原告が初めて保護膜のテーマリーダーになったのは,平成7年9月ころである。
原告は,少なくとも,@ 本件発明1及び2に係るアクリル系熱硬化性保護膜のベースポリマーの合成及び評価用サンプルの調製・評価,A 本件発明4に係る一液型熱硬化性保護膜のベースポリマーの合成及び評価用サンプルの調製・評価,B 本件発明6及び8に係る感光性保護膜の評価用サンプルに用いるベースポリマーの合成及び感光性評価結果の検討等を行って,保護膜担当の主任研究員として,他の研究者に対する指示・指導を行ったのみならず,自ら本件各発明の研究開発に従事した。
6そして,原告は,自ら主任研究員として,数多くの実験を行い,本件各発明の特許出願に先駆けて,組成物のベースポリマーの合成,評価用サンプルの調製や評価をして,これらの発明を遂げたのであって,こうした原告の関与は,原告の4冊に及ぶ実験日誌(甲49ないし52),重合ログシート(乙6)等の記載によって明らかである。
なお,被告は,原告の行った実験につき発明完成後の顧客に対するグレード開発や製品の最適化作業にすぎない旨を主張するが,本件各発明については,いずれも,相当数のサンプルを顧客に提出してその評価を受けた後,被告の特許部(知的財産部)に対する特許出願依頼がされており,発明の完成のためには,顧客によるサンプルの評価が不可欠であった。
(2) 本件発明1についてア 発明の契機と完成原告は,昭和62年当時,アクリル系保護膜の耐熱性の向上を研究し,同年末ころ,PGMA(ポリグリシジルメタクリレート)に多価カルボン酸硬化剤(TAAH〔トリメリット酸無水物〕)を極めて多量に添加した系であれば,耐熱性を格段に向上できることを見出した。しかし,耐アルカリ性向上の課題が残り,東京研究所を離れて四日市研究所に勤務した昭和63年7月から平成元年9月までの間も研究を継続して,被告の表示材料事業会議に出席して研究成果を報告し,東京研究所に所属するa,bらと耐アルカリ性低下の原因と対応方法につき議論した。
その後,aとbは,硬化剤としてビスフェノールA ,硬化促進剤としてベンゾイミダゾールを用いて,アクリル系保護膜の耐アルカリ性をある程度向上できることを見出したが,aらの研究はそれ以上に進展しなかった。
原告は,このaらの研究成果も参考にして,独自にTAAHとイミダゾール化合物の組合せを検討し,最終的に本件発明1を完成するに至った。
7すなわち,原告は,平成元年10月に東京研究所に戻って保護膜の研究に復帰し,同年12月12日から平成2年1月29日までの間,STN方式の液晶パネルメーカーであったA社向けに研究開発を行い,サンプルの調製と提出,顧客による評価後の再調製を繰り返して,順次,JSS-***ないしJSS-***,JSS-***ないしJSS-***,JSS-***ないしJSS-*****,JSS-***ないしJSS-***を調製した結果,これらのサンプルのうち,A社によって,JSS-***が耐熱性,硬度,耐アルカリ性等の性能で最も優れており,STN方式の液晶ディスプレイ用の保護膜として使用可能であると評価された。
本件発明1は,原告によるA社向けのJSS-***の開発に至る研究成果を特許化したものであり,被告の特許部(知的財産部)に対して平成2年3月22日に特許出願依頼がされた。
イ 被告の主張に対する反論原告は,平成元年12月15日,aからアクリル系保護膜の耐アルカリ性向上に関する研究の報告を受けたが,TAAHやキュアゾールを用いた実験の報告はされていないし,キュアゾールC17Zを用いて耐アルカリ性を向上できる目処がついたとも報告されていない。硬化剤としてビスフェノールA,硬化促進剤としてベンゾイミダゾールを用いた系が最有力であるとして報告がされたものであって,同日以前に,現実にTAAHやベンゾイミダゾール以外のイミダゾール化合物を用いて実験を行って,非常に良好な結果を得ていたのであれば,aから研究を引き継ぐ際に,全く触れないはずがない。
ウ サンプル調製等の意味原告の行ったA社へのサンプルの調製や提出は,被告が主張するように,既に完成した本件発明1に基づいて,化合物(イ),化合物(ロ)及び化合物(ハ)の組合せや量的割合を検討したにとどまるものではない。添加するイミダゾール化合物の種類や量によっては,塗布溶液に白濁や析出物が生じ8て,液晶表示用素子における保護膜形成用材料として使い物にならず,具体的な組合せや量的割合の検討の前に完成したとはいえない。
また,本件発明1を例にとれば,透明電極の密着性や配向膜の塗れ性の問題は,耐熱性や耐アルカリ性とともに,保護膜が必ず備えるべき基本的な性能であると同時に,解決すべき課題である。このため,顧客にサンプルを提出して評価を受けることが必要不可欠であって,顧客の研究部門の評価を受けない限り,本件発明1が完成することはない。
(3) 本件発明2についてア 発明の契機と完成原告は,平成2年1月ころ,B社から,高温,高湿下におけるアクリル系保護膜と基板との密着性の向上を求められ,同年2月27日から同年4月19日まで,B社向けに,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤の配合量等をさまざまに組み合わせながら,1番から158番まで158種類のサンプルを調製し,保護膜と基板との密着性等を評価した。そして,これらのサンプルのうち,評価結果が良好であったものを3回に分けてB社に提出し,3回目の送付に含まれていたベースポリマーにDCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)を組み込んだ147番以降のサンプルが特に良好であるとの評価を受けた。
その後,ベースポリマーにDCMを組み込んだ評価用サンプルの調製と提出,その評価結果を受けての調製を繰り返し,B社等の顧客向けに,平成2年4月19日から同年8月13日までの間,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***,JSS-***の評価用サンプルを調製し,B社以外には,C社,D社,E社,F社等向けに,ベースポリマーにDCMを含む評価用サンプルを調製して,保護膜の密着性を研究した。
このように,原告は,自ら各種アクリルモノマーを入手して膨大な組合9せのサンプルを調製,評価する実験を行い,GMAとDCMとの共重合体が密着性向上に適していることを見出し,当時の部下であったb及びdとともに,より密着性の高いアクリル系熱硬化性保護膜を完成させた。本件発明2は,本件発明1に係るアクリル系熱硬化性保護膜のベースポリマーにDCMを組み込むことによって,保護膜と基板との密着性が顧客の要求する水準まで向上できることを見出して完成したものであり,被告の特許部(知的財産部)に対して平成2年9月25日に特許出願依頼がされた。
保護膜に関する社長表彰申請書(甲32)中の「さらにジシクロペンタニールメタクリレート(DCM)との共重合で基板との密着性も十分なレベルに至る事を見いだした」旨の記載は,この研究成果を指している。
イ 被告の主張に対する反論被告は,本件発明2を完成させたのは,b及びdであり,dがDCM系ポリマーを重合して,bが評価をしたと主張するが,bらが原告に先立ってさまざまな組合せの実験を行ったことを示す客観的な証拠は一切提出されていない。dによる重合は,原告の具体的な組成の指示や指導によるものであり,原告の実験日誌の記載からすれば,bではなく,原告自身がDCMを用いた147番ないし158番のサンプルの密着性を評価し,DCMの効果を見出したことは明らかである。原告の部下がDCMの効果を見出したのであれば,DCMを用いていない1番ないし146番のサンプルにつき詳細に記載する必要もない。
bは,原告の行った実験結果に基づいて,特許明細書を作成したとしか考えられない。
(4) MAGポリマーの開発についてア 開発の契機原告は,平成3年ころ,G社が液晶駆動用の半導体チップをガラス基板上に直接装着するCOG(Chip on Glass)技術を採用した液晶パネルの10開発を進めていたことから,感光性保護膜の研究開発に着手した。
感光性保護膜には,フォトリソグラフィに用いられる現像液のアルカリ水溶液に可溶である一方で,フォトリソグラフィを経て硬化した後は耐アルカリ性を有する性質が求められ,当時,カルボン酸基(アルカリ可溶成分)とエポキシ基(加熱することによってカルボン酸基と反応してアルカリ可溶性を失わせる成分)とを含有する組成物がこの性質を有することは知られていたが,これらの混合物や変性化合物には,硬化後の塗膜表面に微細な凹凸の荒れが生じるなどの課題があり,感光性保護膜として用いるには,透明電極の断線などの不具合を生じさせないために,現像性を改良して現像後の保護膜表面を滑らかにし,パターンエッジ部分の段差をなくすことが重要であった。
イ MAGポリマーの完成原告は,1本のポリマー鎖の中にカルボン酸基とエポキシ基を両方導入できれば現像性に優れたポリマーを開発できるのではないかと考え,当時の部下であったd及びiに対して組成を指示して重合実験を行わせ,平成3年3月ないし4月ころ,本件発明2で開発したアクリル系熱硬化性保護膜のベースポリマー(エポキシ基の1種であるグリシジル基を含むもの)にカルボン酸基を含むMA(メタクリル酸)を導入した。そして,ST(スチレン),DCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)及びMAにごく微量のGMA(グリシジルメタクリレート)を加えて,ST/DCM/MA/GMAの4元ラジカル共重合を試みたところ,ゲル化せずに重合することができ,このポリマーを「MAGポリマー」と命名した。
eがブレンド系の検討に用いたカルボキシル基含有ポリマーは,原告が平成3年3月8日から同月11日までにiに指示して重合させたCF-899ないしCF-903であり,これらは,GMA/DCM/STの3元共重合体(DSポリマー)のGMAの代わりにMAを導入したもので,同月13日及び1115日にも,dに指示して,ST/MA/DCMの構成割合を変更した3元共重合体(CF-905,CF-906,CF-909,CF-910)を重合させている。そして,平成3年3月15日にdに指示してST/MA/DCMの3元共重合体に少量のエポキシ基を導入することを試みたものが最初のMAGポリマーとなるCF-911(ST/MA/GMA/DCMの4元共重合体)であり,同月22日にはdに指示してMAの量を増やしたCF-922を重合させた。
ウ ジグライム系溶媒の作用原告は,平成3年11月5日と同月7日にH社向けにMAGポリマーを重合した際に溶媒の変更を試みたことを契機として,GMAとMAを直接モノマー同士でラジカル共重合させているのにMAGポリマーがゲル化しない理由を確認するための実験を行った。この結果,原告は,ジグライム系溶媒を用いた場合にのみ,GMAとMAを直接ラジカル共重合してもゲル化しないことを発見し,ジグライム系溶媒がカルボン酸基とグリシジル基が反応するのを抑制する保護基として作用すると考えられることを突き止めた。
平成3年当時,原告の知る限りでこのような知見を指摘した文献,特許等は見当たらず,化学的に重要な発見と考えたが,原告は,被告が表示材料事業において優位に立つために,これをノウハウとするに止めて外部に公表しないこととし,MAGポリマーの特許を出願しなかった。原告の被告退職後から現在まで,被告の社外でこの知見の内容が公式に報告されたことはなく,原告がこのようなノウハウを知っているのも,自身がMAGポリマーの開発者であるからにほかならない。そして,原告が作成して被告に提出した層間絶縁膜の功労表彰申請書(甲33)には,上記ノウハウの概要が記されている。
エ 被告の主張に対する反論eの特許賞発表会資料(乙3の4)では,MAとGMAとを直接共重合12させたところ重合反応中にゲル化したので,第3成分としてDCMを添加したとしているが,MAGポリマーの開発前から,ゲル化の危険性が極めて高いと考えられていたにもかかわらず,予想どおりゲル化したのでDCMの導入を試みたとする経緯はいかにも不自然である。また,MAGポリマーがゲル化しないのは,DCM等の第3成分ではなく,ジグライム系等の特定の溶媒の作用によるものであり,ジグライム系溶媒を用いたのに,MAとGMAの重合中にゲル化したのであれば事実と異なる(ゲル化しない重合条件が存在する。また,ジグライム系溶媒を用いたMA/GMA/STの3元共重合では,CF-931のような非常に良好なポリマーが得られる。)し,eの説明する開発経緯は,功労表彰申請書(甲33)に記載された「熱硬化型保護膜のベースポリマーであるST/GMA/DCM共重合物にメタクリル酸(MA)を挿入する検討を行った」との開発経緯とも食い違う。
また,被告は,原告がMAGポリマーを開発する際,最初から4元ラジカル共重合を試みたことが不自然である旨主張するが,原告は,MAGポリマーを開発する以前に,保護膜のベースポリマーとして,GMAの1元単独重合体(Hポリマー),GMA/STの2元共重合体(SHポリマー),DCM/GMAの2元共重合体(DCポリマー),ST/DCM/GMAの3元共重合体(DSポリマー)などを開発しており,この経験と知識を踏まえて,ST/MA/DCMのアルカリ可溶性3元共重合体を開発し,4元共重合体であるMAGポリマーの開発に至っているのであって,唐突に4元ラジカル共重合を試みたものではない。
(5) 本件発明4,6及び8の開発経緯についてア 研究課題と開発方針平成3年4月当時,液晶ディスプレイの貼り合わせた2枚のガラス基板間の隙間(液晶層の厚み)の精度を高めるため,カラーフィルター基板表13面の凹凸に塗布された保護膜の平坦化性が重要な研究課題であった。
原告は,このころから,MAGポリマーを用いて,保護膜の平坦化性を改良する研究と感光性保護膜の研究とを並行して進め,より優先度が高い平坦化性向上の研究については,自ら概ね単独で取り組み,比較的優先度の低い感光性保護膜の開発については,当時の部下であったe及びgとの間で作業分担して取り組み,かつ,感光性保護膜のネガ型とポジ型のいずれが優れた性能を有するか予想できなかったため,ネガ型とポジ型の両者の開発を並行させた。
この当時,eは,平成元年4月に被告に入社して同年5月に試用配属され,同年10月から配向膜の研究を担当した後,保護膜担当チームへ異動して間もない若手研究者であり,gも,平成3年4月に被告に入社した新入社員であったので,ともに保護膜や感光性材料の研究開発に関する知識や経験が十分でなかった。そこで,原告は,eらに対し,保護膜の研究開発方法について指導するとともに,当時の部下であったhに対し,eらに感光性の評価方法を指導するよう依頼した。
イ 原告らの実験原告は,MAGポリマーの組成を細かく変更して重合し,重合したMAGポリマーをベースポリマーとして用いて一液型の熱硬化性保護膜やネガ型の感光性保護膜のサンプルを調製し,平坦化性を評価した。原告がeらに担当させていた感光性保護膜の開発とは別に,自ら感光性保護膜のサンプルを調製した理由は,保護膜全面に光を照射して固めることで保護膜の平坦化性が改良できないかと考えたことにあった。
例えば,原告は,平成3年4月8日にI社向けに,MAGポリマーの1種であるSMAG(ST/MA/DCM/GMAの4元共重合体)をベースポリマーとして用いてサンプルを調製して密着性や平坦化性を評価し,同月19日にJ社向けに,MAG31(■■■■■■■■■■■■■■■■■14■■■■■■■■■)やMAG24(■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■)等のMAGポリマーを用いてサンプルを調製し,同年5月8日にK社向けに,同月13日,同月23日ないし同月29日にI社向けに,MAGポリマーを用いて,一液型の熱硬化性保護膜及びネガ型の感光性保護膜のサンプルを調製しているが,このうち,光重合開始剤CGI-■■■を含むものがネガ型の感光性保護膜であり,これを含まないものが熱硬化性保護膜である。なお,感光性保護膜を露光,現像して保護膜の一部を取り除く実験は,eらに担当させていた。
そして,これらの作業と並行して,原告は,重合した各種MAGポリマーをeとgに提供し,eらは,これをベースポリマーとし,各種添加剤を加えてネガ型及びポジ型の感光性保護膜のサンプルを調製し,露光,現像して保護膜に一定パターンを形成するパターニングを行い,感光性や現像性を評価した。原告とeらは,感光性等の評価結果につき議論し,これを踏まえて原告が新たなMAGポリマーを重合して提供し,さらにeらが再度感光性等の評価を行う手順で感光性保護膜の開発を進めた。
ウ eの関与の意味eは,被告に入社して一時的に保護膜担当チームに所属した際,新入社員向けの練習として,CF-689からCF-692までの重合をしたが,その後,平成4年1月21日にCF-1160を重合するまで,一度もMAGポリマーを重合したことがなかったから,eにおいて,平成3年3月15日のdによるCF-911の重合に先立って平成2年12月ころまでにMAGポリマーを開発し,原告のMAGポリマーを用いた実験に着手する以前に本件発明6及び8を完成させていたとは考えられない。
また,eによって平成3年4月23日に調製されたHRC-***のベースポリマーCF-963の組成は,原告が同月17日にI社向けに評価したCF-956の組成と同じであり,同年5月14日に調製されたJNPC-**のベースポリマ15ーCF-975の組成も,原告が同年4月18日にJ社向けに評価したCF-957及び同年5月13日にI社向けに評価したCF-964の組成と同一である。このように,原告が調製したサンプルのベースポリマーの組成とeが調製したサンプルのベースポリマーの組成とが同一であるのは,感光性保護膜のサンプル評価が手間のかかる作業であるため,原告は,予め,一液型の熱硬化性保護膜用に耐熱性や密着性などの基本性能が優れたMAGポリマーを選定し,eやhに対し,感光性保護膜用にも評価するよう指示したからである。
(6) 本件発明8についてア 発明の契機と完成原告は,平成3年5月13日にI社向けのサンプルを調製する際に用いたMAG20をベースポリマーとして,これに,半導体用フォトレジストに使用されていた市販のナフトキノンジアジドスルホン酸エステル型の光酸生成化合物trisP-■■■■■と市販の多官能アクリルモノマー■■■■■とを組み合わせ,eと部分的に共同して,L社,M社等に提供したポジ型感光性保護膜の評価用サンプルHRC-***を最初に開発した。
その後,顧客からは,ネガ型の感光性保護膜の方がパターンエッジ部分の形状が滑らかであって良好であるとの評価を受けたが,原告は,ネガ型が顧客に採用された後も,ポジ型に添加する光酸生成化合物(ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル)の骨格から,ポジ型には高耐熱性が期待できると判断して,ポジ型感光性保護膜の開発を継続し,平成3年11月6日,ポジ型感光性保護膜(「HRCシリーズ」)のベースポリマー用にMAGポリマーを重合した。
原告は,eと部分的に共同して,ベースポリマーや添加剤の種類の変更,新たな添加剤の追加等を行って改良したポジ型のサンプルHRC-***ないしHRC-***を調製し,N社,J社,K社等に提供した。
16本件発明8は,ポジ型感光性保護膜HRC-***ないしHRC-***の開発に至る研究成果を特許化したものであり,被告の知的財産部に対して平成3年8月29日に特許出願依頼がされた。
イ なお,原告らは,平成4年ころ,液晶プロジェクションに用いるTFT方式の液晶ディスプレイを開発中のO社から要請を受けて,層間絶縁膜の研究開発に着手した。本件発明8に係るポジ型感光性保護膜を基に開発した材料HRCシリーズは,O社の担当者から,解像度(感度),耐熱性,透明性,耐薬品性,電気的な絶縁性,硬度などの要求性能の点で,極めて高い評価を受け,感光性や層間絶縁膜上への透明電極の成膜性,パターニング特性などの向上に尽力した結果,平成6年ころに原告らが開発した層間絶縁膜製品名「オプトマーPC-***」がO社に正式採用された。
ウ 被告の主張に対する反論原告の実験日誌の平成3年4月8日や同月19日の欄には,原告がMAGポリマーを用いてサンプルを調製したことが記載されており,eによるHRC-***の調製が原告がMAGポリマーを用いた実験を始めた後であることは明らかである。
また,HRC-***が本件発明8の完成後に調製されたこともなく,サンプルに対する顧客の評価結果を踏まえて,特許明細書が作成されたものである。
(7) 本件発明6についてア 発明の契機と完成原告は,自ら重合したMAGポリマーであるSMAG1234をベースポリマーとして,これに,平成3年5月13日にI社向けに自ら調製したネガ型感光性保護膜と同じ市販の添加剤である光重合開始剤CGI-■■■,多官能アクリルモノマー■■■■■,官能性シランカップリング剤GPS-Mを組み合わせ,e及びgと部分的に共同して,L社等に提供した17ネガ型感光性保護膜の評価用サンプルJNPC-**を最初に開発した。そして,原告は,e及びgと役割を分担して,この改良に取り組み,ベースポリマーをMAG15に変更し,添加する光重合開始剤の種類を変更するなどしたネガ型のサンプルJNPC-**ないしJNPC-**を調製し,N社,C社,I社等に提供した。
本件特許発明6は,ベースポリマーとしてMAGポリマーのうちのMAG又はSMAGを用いたJNPC-**ないしJNPC-**の開発に至る研究成果を特許化したものであり,被告の特許部(知的財産部)に対して平成4年3月26日に特許出願依頼がされた。
イ なお,原告らは,平成5年ころ,P社からの要請を受けて,タッチパネル用感光性スペーサーの研究開発に着手し,MAGポリマーを含む本件発明6のネガ型感光性保護膜を基に開発を進めた結果,基板との密着性,現像性,強度などに関する同社の要求性能を満たす製品JNPC-*******を完成させた。感光性スペーサーの販売量は,平成8年ころになって,Q社が大型液晶ディスプレイ用の感光性スペーサーとして被告製品「JNPC」シリーズを採用したことをきっかけに販売量が増加し,現在では,多くの高性能液晶ディスプレイに被告が製造販売する感光性スペーサーが採用されている。
ウ 被告の主張に対する反論eがL社向けにJNPC-**を調製したのは,平成3年5月14日であって,原告がI社向けにネガ型感光性保護膜のサンプルを調製した同月13日の翌日であるから,上司である原告から指示を受けてJNPC-**を調製したと考えるのが自然である。
また,JNPC-**が本件発明6の完成後に調製されたこともなく,サンプルに対する顧客の評価結果を踏まえて,特許明細書が作成されたものである。
18(8) 本件発明4についてア 発明の契機と完成原告は,平成3年4月ころから,MAGポリマーを用いて,保護膜の平坦化性を改良する研究と感光性保護膜の研究とを並行して進め,平坦化性向上の研究については,自ら概ね単独で取り組み,感光性保護膜の開発については,e及びgと作業分担して取り組み,かつ,感光性保護膜のネガ型とポジ型の両者の開発を並行させていた。
原告は,平成3年5月ころまで一液型の熱硬化性保護膜を研究した後,平坦化性の向上に限界があると判断して一液型の研究を一時的に中断したが,その後,CCD用の一液型保護膜の研究開発を経て,平成4年10月8日及び同年11月18日にはR社向けに液晶ディスプレイ用の一液型熱硬化性保護膜のサンプルを調製した。
本件発明4は,一液型の熱硬化性保護膜に関する発明であり,その内容は,原告が平成3年5月ころまでに保護膜の平坦化性を改良するために行った研究の成果であり,被告の特許部(知的財産部)に対して平成4年9月1日に特許出願依頼がされた。
イ 被告の主張に対する反論原告の実験日誌の平成3年4月8日,同月19日,同年5月8日,同月13日,同月23日ないし29日の欄には,原告がMAGポリマーを用いて一液型の熱硬化性保護膜のサンプルを調製して評価していることが記載されており,これが本件発明4に関する研究内容である。
〔被告の主張〕本件発明1の発明者はaとb,本件発明2の発明者はbとd,本件発明4,6及び8の発明者はeである。
(1) 本件各発明への原告による関与ア 被告の社内では,特許明細書の発明者欄について,実際に研究開発を行19った者が発明者の筆頭となり,補助的な発明者がいれば次順となり,このほかは1名ないし2名の管理職を記載して,筆頭の発明者が特許明細書を作成する慣例であった。本件各発明についても,いずれも各発明者欄の筆頭者が発明者であるとともに特許明細書の作成者であるが,原告は,出願依頼書も特許明細書も一切書いていないし,管理職として,部下がこれらを作成していることを知りながら,その内容をチェックしたり,加筆,訂正したりしたこともない。
このように,原告の氏名が特許公報に発明者として記載されているだけでは,発明者とすることはできず,原告についても,被告の社内の習慣に従い,c,fと同様,管理職(主査)の立場で氏名が記載されているにすぎない。被告が原告と同様にc,fに対しても出願時補償金及び登録時補償金を支払っているのは,発明者として記載されているという形式的な判断に基づくものであって,実質的に発明に関与したか否かは考慮していない。原告においても,本件発明1,2,4及び8につき氏名の記載のあるc,本件発明4及び6につき氏名の記載のあるfの両名に関し,これらの発明にほとんど関与していないことを自認しており,原告の主張はそれ自体矛盾している。
イ 原告は,主査という管理職の地位にあり,顧客の要望を踏まえてチームメンバーに開発を指示する立場にあったが,本件各発明の着想から完成に至るまで,管理職たるテーマリーダーとして関わったもので,当該発明における創作的行為に何ら関与していない。
そして,原告の行ったとする実験は,既に完成している発明を前提として,顧客に提出するサンプルを調製し,最終的に製品として出荷するに際して成分量の微調整をするなどのグレード開発を行ったにすぎず,原告の実験日誌は,このような最適化作業の内容を記載したものである。
(2) 本件発明1について20ア 発明の要点本件発明1は,分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有する化合物(イ),グリシジル基と反応し得る置換基を有する化合物(ロ)及び2級窒素原子及び/又は3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物(ハ)を含有することを特徴とする保護膜形成用材料であるが,化合物(イ)及び化合物(ロ)からなる組成物は公知(特開昭60-217230号公報)であって,そこに化合物(ハ)を加えることで,「高濃度のアルカリ水溶液に対する耐性」を改善したものであり,化合物(ハ)の具体例として各種イミダゾールが示されている。
このように,本件発明1は,ポリグリシジルメタクリレートと芳香族多価カルボン酸の公知の組合せにイミダゾール化合物を加えて耐アルカリ性が改善したことで完成しており,これは,原告の自認するとおり,aがbの協力を得て見出したものであって,原告の関与は全くない。
イ 発明の経緯aとbは,アクリル系保護膜の耐アルカリ性が不足する科学的原因が未反応の硬化剤(TAAH)に由来する残存カルボン酸であることを突き止め,平成元年8月以降,各種硬化促進剤を検討し,同年9月,ベンゾイミダゾールを使用して耐アルカリ性改善の効果が確認できたため,その後,置換基を有するイミダゾール類を検討して,良好な結果が得られた。そして,同年10月から,商品化のためにキュアゾールC17Zやキュアゾール2P4MZを中心に検討し,同年12月中旬,原告に対し,キュアゾールC17Zを用いて耐アルカリ性の向上できる目処がついた旨を報告して研究を引き継いだ。
原告は,着想から完成までの期間研究所を離れており,発明に関与する余地はなかった。
ウ 原告の主張に対する反論21原告は,顧客向けのサンプルの調製を通じて,化合物(ハ)のイミダゾール化合物の種類や量が特定されなければ,本件発明1は完成しない旨主張する。
しかし,本件発明1は,特許請求の範囲で,化合物(ハ)につき「2級窒素原子および/または3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物」として,特に種類や量を限定していないし,発明の詳細な説明でも,種類や量を限定していない。また,実際,特定のイミダゾール化合物の特定量に限定しなければ,耐アルカリ性が向上しないものでもない。
原告がJSS-***を完成させた行為は,aらによって完成された本件発明1に基づき,化合物(イ),化合物(ロ)及び化合物(ハ)の具体的な組合せと量的割合を検討し,顧客のA社向けに最適化されたグレード開発を行って,評価サンプルを作成したものにすぎず,本件発明1の発明とは全くレベルの異なることである。
また,原告は,aらがTAAHと各種イミダゾール化合物の組合せにつき実験を行って,非常に良好な結果を得ていたのであれば,aから研究を引き継ぐ際に,全く触れないはずがない旨主張するが,平成元年12月15日付け連絡文書(甲65)は,その冒頭の記載のとおり,特定の改良グレードの引継ぎに関するものであって,包括的な研究引継ぎの文書ではない。既に本件発明1が完成していたからこそ,顧客向けの最適化を目的として「新硬化剤系」と称して報告されている。
エ 原告が主張する透明電極の密着性や配向膜の塗れ性の問題は,本件発明1の解決課題でないし,その構成要素でもない。これも,既に完成していた本件発明1を前提として,顧客特有の事情への対応として行われた個別具体的なグレード開発にすぎない。
仮に,このような最適化の結果,本件発明1が完成したのであれば,本22件明細書1の作成においても,透明電極への密着性に優れた性能を有する点で進歩性がある旨の記載を加えることができたし,実施例も同様であるが,そのような記載はなく,原告の実験日誌中の実験例と一致するものもない。
(3) 本件発明2についてア 発明の要点本件発明2は,ベースポリマーにDCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)を加えたことに特徴を有する組成物の発明であるが,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤につきさまざまな組合せの実験を行って初めて見出されるものであり,この発明の完成には評価が必要不可欠である。
この開発作業に従事したのは,原告の部下であったbとdであり,主として,dがDCM系ポリマーを重合して,bが評価をした。そして,bが出願依頼書と明細書を書いて筆頭発明者となり,dが補助発明者となっているものであって,原告は発明者ではない。
イ 原告の主張に対する反論原告は,自ら各種アクリルモノマーを入手して膨大な組合せの重合実験を行った結果,GMA(グリシジルメタクリレート)とDCMとの共重合体が密着性向上に適していることを見出し,自らベースポリマーの合成,サンプルの調製評価を行って,部下のb及びdとともに完成させた旨主張する。
しかし,実験用のモノマーを手配するのは,チームリーダーの仕事であって,その入手と発明者性とは無関係である。そして,重合ログシートによれば,専らdが膨大な組合せの実験を行っており,原告については,その6分の1程度でしかなく,DCMを用いた初めての重合は,dによるCF-771であって,原告のdに対する指示もなく,dに命じたからといって,23原告の成果になるものではない。しかも,DCMを用いたポリマーからなる組成物の調製や評価が発明完成に必要不可欠であるが,これはbが行っている。
原告の指摘するサンプル147番ないし158番のうち,初めて使用されたDCM系ポリマーは,CF-771ないしCF-773であるが,重合ログシートは,dが記載しており,原告の実験日誌に記載があるとしても,性能評価まで原告が行ったとは考えられない。
さらに,原告の実験日誌については,原告以外の者の行った実験データの転記箇所や他人の行った実験結果を含むものであり,また,DCMを用いたものだけに記載の意味があるのでないから,実験の履歴として1番ないし146番のサンプル組成や評価結果を残さない理由はない。
結局,原告の実験日誌にも重合ログシートにも,原告が自ら実験を行ってDCMの使用で密着性が改善されることを見出したことを示す記載はない。
ウ 原告の実験日誌の中で,サンプル147番ないし158番に関し,L社,A社,B社などの顧客名の記載があるのは,既に完成していた本件発明2を基にしてされた顧客向けの最適化の作業にすぎない。
(4) MAGポリマーの開発についてア 開発の方針原告は,研究の当時,カルボキシル基含有重合体とエポキシ基含有重合体のブレンド割合を工夫する方法を推奨していたが,ブレンド系では実験がうまくいかなかったことから,eは,一分子鎖中にカルボキシル基とエポキシ基を含有する共重合体の方法を着想して提案した。これに対し,原告は,この方法では,カルボキシル基とエポキシ基が反応してゲル化を起こすとして,さらにブレンド系の検討を進めるようにeに指示した。しかし,eは,平成2年10月ないし同年12月ころ,ゲル化を防止する方法24としてDCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)を用いることを単独で見い出した。実際の実験作業も,当時,原告が熱硬化性保護膜の開発に注力していたため,eは1人でこれを行った。
イ MAGポリマーの完成eの研究では,当初,MA(メタクリル酸,カルボキシル基を有するモノマー)とGMA(グリシジルメタクリレート,エポキシ基を有するモノマー)の2元系共重合を試したが,重合反応中にゲル化が起こり,共重合は成功しなかった。そこで,上記2種のモノマーに,嵩高い置換基を有するモノマーを第3のモノマーとして加えれば,ゲル化させないで共重合できるのではないかと考え,まず,第3のモノマーとして,スチレンを使用して共重合を試みたが,結局,スチレンの添加割合が少ないとゲル化は防げず,逆に添加割合が多いと重合度が上がらなかった。この結果から,当時,被告の社内で使用され始めていた嵩高い置換基を有するDCMを第3のモノマーとして加えることを着想し,細かく共重合割合を変化させて検討を進め,一分子鎖中にカルボキシル基とエポキシ基を含有する共重合体であるMAGポリマーの完成に至った。
eは,本件発明6及び8の功労により,特許賞を被告の社内で受賞し,そのときに行った発表会での資料(乙3の4)には,MAGポリマーの開発について,ポリマーブレンドと共重合体という2つのアプローチのうち,ポリマーブレンドでは,アルカリ可溶性と耐熱性の両方を満足できなかったこと,MAとGMA系の共重合では,重合反応中にゲル化する問題があったが,これをMA/DCM/GMAという第3成分DCMを加えて解決したことが記載されている。MAGポリマーの開発の概略は,この資料のとおりであり,「MAGポリマー」と命名したのは,開発者たるeであって,原告ではない。
ウ ジグライム系溶媒の作用25被告としても,ジグライム系溶媒の使用がMAGポリマーのゲル化を防ぐ1つの要因であることは否定しないが,ゲル化しない主たる要因は,DCM等の第3成分が存在しているためであり,ジグライム系溶媒はあくまで副次的なものである。なお,ジグライム系溶媒に関するこのような知見が得られたのは,平成5年5月ころにS社から塗布性改良の要望があって,被告の社内で溶剤変更の検討をした際のことである。
重合のための溶媒としてジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)を用いることは,本件特許権4,6及び8の発明明細書に実施例や合成例として各所に記載されて公表されている事項であるから,被告の社内でノウハウとして秘密に維持されていることは全くない。そして,原告は,層間絶縁膜の功労表彰申請書(甲33)作成時点の平成11年当時,被告の研究員であったから,このような知見を知っているのは当然であり,また,この申請書には,原告の成果ではなく,チーム全体の成果が記載されたものである。開発経緯の説明がeの特許賞発表会資料(乙3の4)と異なるのは,eの発表がMAGポリマーの開発後間もない平成4年であるのに対し,原告の功労表彰申請がジグライム系溶媒の有用性の明らかになった後である平成11年であって,何より原告がMAGポリマーの開発に関与しておらず,経緯を誤解しているためである。
エ 原告の主張に対する反論原告の主張するように最初から4元系ラジカル共重合を試みるということは,およそ考えられない。カルボキシル基とエポキシ基の2成分が感光性保護膜に用いるポリマー成分として必須であることは確立していたから,その2成分の配合割合を変えてゲル化問題の解決を図ることがスタートになるはずであり,これが奏功しない場合に,新たに1つの成分を追加して,3元系で課題解決を図り,なお奏功しない場合にさらに1つの成分を追加して,4元系で課題解決を図るのが研究の常道であって,最初から4元系26として,4つもパラメータを操作するような状況で研究をスタートすることはない。
eは,MAGポリマーの開発時,重合ログシートに記載を残していないが,被告の組織として記載が義務づけられていたものではなく,別のチームから異動してきたeには,重合ログシートに記載する習慣がなく,原告からの指示もなかった。平成2年下期のeに関する「職能開発・目標管理カード」(乙15)には,上司であった原告の評価が記載されており,MAGポリマーを含む感光性保護膜の組成物の開発について,これを高く評価している。
eがブレンド系の検討をしていた際に原告からCF-899ないしCF-903の提供を受けたことはない。eは,平成2年10月から研究を開始しており,ブレンド系の検討は初期の段階であって,平成3年3月になってからブレンド系ポリマーの提供を受ける必要はなく,ブレンド系の感光性保護膜の検討が平成3年3月8日以降に実施されて,同月15日にブレンド系でないMAGポリマーが重合されたとすれば,余りに短期間であって,感光性保護膜の発明に至る検討として時間が不足している。
また,eによる開発の経緯として,ジグライム溶媒を用いながら,MAとGMAとが例外的にゲル化しない重合条件を見い出せず,嵩高いDCMを加えることを考えるに至ったものであり,何らの矛盾もない。そして,ST/MA/GMAの3元共重合体の場合,3成分系となれば,その組合せは何百にもなるから,CF-931がゲル化しなかったとしても,eの実験でゲル化した事実を否定することにはならない。
もとより,重合ログシートにも,原告の実験日誌にも,原告がMAGポリマーを開発したことを示す証拠はない。原告が最初のMAGポリマーと主張するCF-911の以前に,ST/GMA/DCMポリマーにMAを入れることを検討した形跡はなく,ジグライム系溶媒の選択が重要であったにもか27かわらず,MAGポリマーの完成に際して溶媒による違いを検討した形跡もない。原告の実験日誌には,CF-911についての記載もなく,GMA,MAの量や感光剤の配合量,溶解性等について検討した記載もない。
原告の実験日誌で初めてMAGポリマーが登場するのは,平成3年4月8日であり,そこでのMAGポリマーの検討は,I社向けのグレード開発であって,MAGポリマーの開発ではない。原告が自らがMAGポリマーを重合したのは,同年5月8日のCF-971である。
(5) 本件発明4,6及び8の開発経緯についてア 発明の順序と特徴本件発明6及び8は,同時に並行的に研究が進められ,ポジ型の本件発明8の方が先に完成し,その後,本件発明4の研究開発が進められて,本件発明8,本件発明6,本件発明4の順番で特許出願された。
本件発明6及び8は,MAGポリマーを含む感光性の組成物の発明であって,感光剤等との組合せが発明の要素であり,本件発明4は,MAGポリマーと溶剤を組み合わせたものである。
イ 原告らの実験の意味本件発明6及び8は,感光剤を必須の要件としているが,重合ログシートには,当然ながら感光剤との組合せの記載はない。原告の実験日誌において,感光剤の入った組成物にタッチしたと窺われるものは,E-240ないしE-243のサンプルについて,感光剤のCGI-■■■を入れる組成のみである。原告は,もともと,熱硬化性組成物に従事していたから,当然でもあるが,感光性組成物である本件発明6及び8を原告が発明した証拠は,全く存在していない。
これらにつき自ら発明者と原告の主張する根拠は,本件発明1と同じく,顧客向けの最適化を行ったことを窺わせる実験日誌の部分的な記載にすぎず,およそ発明に至る検討とはかけ離れている。
28ウeの功績eは,MAGポリマーの開発や本件発明6及び8の功労により,被告の社内で特許賞を受賞している。eが真の発明者でなければ,このような表彰を受け,技術者の前で発明内容を発表する機会を与えられるはずがないし,eが表彰を受けて被告の社内で発表をしたとき,被告に在職中であった原告からは何らの異議も出ていない。被告社内の特許賞も,出願自体が表彰されるものではなく,研究が表彰されるものであることはいうまでもない。
(6) 本件発明8についてア 発明の契機本件発明8は,ポジ型の感光性保護膜用組成物の発明であり,熱硬化性保護膜用組成物が加熱によって塗布膜全面が硬化するのに対し,本件発明8は,光を照射した部分だけが現像液に対して可溶性となり,マスクパターンを通した光の照射後,現像工程を経て,任意の保護膜パターンを得ることができる。
保護膜として利用可能となるには,通常,アルカリ性の現像液に溶解性を有するポリマーのほか,光照射によりアルカリ溶解性が高くなる性質を有する感放射線性酸生成化合物が必要であり,開発されたMAGポリマーは,アルカリ可溶であるので,後は感放射線性酸生成化合物と組み合わせて検討がされた。すなわち,ポジ型感光性保護膜用組成物としては,感光特性(感度,解像度,残膜率,現像性)と保護膜特性(耐熱性,透明性等)の両方の性能が求められ,保護膜特性には,ポリマー中のGMA量がある程度必要であることが分かったものの,感光特性との両立が困難であり,MA/GMA/DCMの3種のモノマー組成比を変更したものを重合して,得られたMAGポリマーに感放射線性酸生成化合物を混合した組成物が紫外線照射によってパターンを形成できるような現像性を保持するよう29にポリマーの溶解性を最適化する必要があった。
イ 発明の完成eは,ポリマー重合,現像性評価の検討を繰り返し行った結果,特定の共重合組成を有するMAGポリマーとある感放射線性酸生成化合物を特定の配合比率で混合した組成物が感光特性のほか,硬化後の保護膜特性に優れることを確認して,本件発明8が完成し,原告がMAGポリマーを用いた実験を行った平成3年5月13日以前の同年4月23日にHRC-***を調製した。原告の実験日誌に記載のある平成3年11月6日より前にHRC-***ないしHRC-***は調製済みである。
原告は,完成した発明に基づくサンプル提供作業を行っただけであるが,eは,その後の顧客向けの最適化作業も行っている。
ウ 原告の主張に対する反論原告は,原告の実験日誌の平成3年4月8日や同月19日などを根拠に,eがHRC-***を調製したのは原告がMAGポリマーを用いた実験を開始した後であるとするが,原告の実験日誌における記載は,いずれも「JSS」という熱硬化型であって,本件発明8の感光性保護膜ではない。また,原告が本件発明8を発明したのであれば,感光剤とのマッチングなどを検討しなければならないのに,その記載は原告の実験日誌に全くない。
(7) 本件発明6についてア 発明の完成本件発明6は,光の照射された部分が現像液に不溶性となる性質を有するネガ型感光性保護膜用組成物に関するものである。
eは,MAGポリマーを用いたネガ型感光性保護膜用組成物の開発のため,光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤のほか,発生したラジカルにより重合する性質を有するエチレン性不飽和二重結合を有するラジカル重合性化合物(エチレン性化合物)の検討を行い,従来から知られて30いたラジカル重合性ネガ型感光性組成物では,酸素存在下での感度低下が避けられなかった。当初は,酸素存在下での実用感度を満たす組合せが見つからず,また実用感度が得られても透明性とのバランスがうまくとれなかったが,特定の光重合開始剤と特定のエチレン性化合物の組合せにより,感光特性(感度,解像度,残膜率,現像性)と保護膜特性(耐熱性,透明性等)が優れていることを見い出し,本件発明6が完成した。
イ 原告の主張に対する反論L社等に対するJNPC-**については,eが調製したものであり,原告がその構成要素を選択したことはなく,eの組成検討結果を参考として,平成3年5月13日の検討を行ったにすぎない。光重合開始剤の種類を変更したJNPC-**ないしJNPC-**についても,原告が行ったのは,その調製ではなく,完成した発明に基づくサンプル提供作業である。
ウeの功績eは,その後の顧客向けの最適化作業も,すべて行っており,この間,原告は,熱硬化性保護膜の検討に注力していて,eの検討結果の報告を受けるにすぎず,ネガ型感光性保護膜用組成物の完成に至る助言もなく,本件発明6には,全く関与していない。eが調製したJNPC-**は,原告の実験日誌に記載のあるものと同一ではなく,敢えていえば,組成的には,E-240から■■■■■を抜いたものに相当するが,実験日誌によればE-240に用いたポリマーはCF-964であり,重合ログシートでは,その重合をしているのは原告ではない。
また,原告は,I社向けの一液型保護膜の開発をしていたものであって,特定顧客向けの一液型保護膜のグレード開発にすぎず,ネガ型感光性保護膜一般にMAGポリマーを使用することを検討したものではない。そして,ネガ型感光性保護膜の本件発明6は,空気中の酸素下での性能が求められるものであるが,原告の実験日誌のどこにも,これを検討した形跡がない。
31(8) 本件発明4についてア 発明の経緯eは,感光性組成物につき本件特許権6及び8の出願を行ったが,MAGポリマーが組成的に熱硬化性を有することが明らかであったから,熱硬化性保護膜にも有用と考えて,出願依頼書と特許明細書を作成した。その際,熱硬化性保護膜の検討をしていた原告の実験結果を聞いたことはなく,特許明細書にも原告の実験結果は記載されていない。
本件発明4は,本件発明6及び8のいわば副産物であり,第2(補助)発明者がいなかったので,原告,cのほか,出願時にcに代わってテーマリーダーとなっていたfが発明者に加えられている。
イ 原告の実験本件発明4に関して原告の行ったとする実験は,「耐熱性or平坦化性の点で限界あり」として,それ以上進んでいない。原告の実験日誌にも,本件発明4に関わる研究の完成を窺わせるような記載はなく,耐熱性や密着性などの基本性能の優れた組成のMAGポリマーを選定したことを示す記載もない。
原告は,完成した本件発明4に基づいて,顧客であるR社向けのサンプル調製をしたにすぎない。
2 争点(2)ア(被告が受けるべき利益の額)について〔原告の主張〕被告の受けるべき独占利益は,145億5070万円である。
(1) 本件製品の過去分の売上高ア 特許出願人は,出願公開があった後に特許出願に係る発明を業として実施した者に対し,実施料相当額の補償金の支払を請求でき(特許法65条1項),出願公開後は,登録特許前であっても,特許権に基づいて発明を独占的に実施した場合と同程度の利益を得ることができるから,登録時の32特許請求の範囲に属する製品について,この間の売上げの中に独占利益が含まれる。
イ 本件特許権1,2,4,6及び8の出願公開日(本件特許権1が平成4年2月21日,本件特許権2が同年7月23日,本件特許権4が平成6年6月7日,本件特許権6が同年2月18日,本件特許権8が平成5年7月2日)から平成16年度末日(平成17年3月31日)までの本件製品の売上高は,別表1-1記載のとおり,578億2600万円となる。
(2) 本件製品の将来分の売上高ア 多数の競合他社が算入したとして,本件製品のように優れた特性を有する保護膜や感光性スペーサーを開発することは容易ではないし,本件製品は他社製品と比べて高価であるが,被告の感光性スペーサーは平成15年で■■■■%もの市場占有率があるのであって,韓国メーカー数社が算入しているとしても,本件製品の売上げが継続的かつ急速に減少するとは考えられない。
そして,液晶ディスプレイメーカーは,今後の需要拡大を見越して,大増産をする方針であって,本件製品の市場占有率が多少低下しても,売上げ及び利益は,大幅に増加する蓋然性が高い。
また,MAGポリマーを用いた感光性スペーサーのすべてがMAGポリマーを用いないグレードに置き換えられる可能性が高いとは決していえず,さらには,感光性スペーサーの新製品開発と熱硬化性保護膜や層間絶縁膜とは無関係であり,MAGポリマーを使用していない層間絶縁膜は未だ開発されていない。
イ このように本件各発明の実施品である保護膜,感光性スペーサー及び層間絶縁膜の売上げが一転して急減することはなく,本件製品の売上高が近年急増し,市場占有率が圧倒的に高く,今後,液晶ディスプレイが増産されることが確実であることに照らせば,平成17年度の予想売上高と同程33度の売上げが本件各特許権の満了まで継続的に計上されるものと考えられる。これを計算すると,別表1-2記載のとおり,平成17年度以降に得るであろう将来分の売上高は,876億8100万円となる。
(3) 被告の受けるべき独占利益ア 本件製品が競合他社製品より高価であるにもかかわらず,圧倒的な市場占有率を獲得できているのは,顧客対応やきめ細かなマイナーチェンジをしているからではなく,本件各発明の実施品として,性能が決定的に優れているからである。すなわち,被告が本件各特許権によって競合他社が本件製品と同じような高い性能を有する製品を製造販売することを禁じて,自社で排他的独占的に製造して利益を上げているから,本件製品の売上高の中に,本件各発明を実施することで得られる独占利益が含まれることは明らかである。
イ 本件各特許権については,被告がこれを他社に実施許諾していないため,実施許諾がされた場合を想定した上,得られるであろう実施料収入を算出して独占利益を算定する。
本件製品の潜在的実施許諾先として,保護膜,感光性スペーサー,配向膜や従来型の球状スペーサーを製造している国内の化学会社7社程度,カラー液晶ディスプレイの製造拠点に近い大韓民国,中国及び台湾の化学会社が考えられ,これらの競合他社のすべてにライセンスを許諾した場合,本件製品の売上高は,50%を下らない範囲で減少することが見込まれる。
また,液晶ディスプレイ用の材料等の有機化学製品の実施料率は,通常,売上高の2ないし4%と考えられるが,本件製品がファイン化学製品の中で例外的な高い市場占有率や利益率を有していることから,本件各発明の実施料率は,20%を下らない。
ウ 被告において,本件各発明の特許を受ける権利を譲り受けたことによって被告が受けるべき独占利益は,以下のとおり,145億5070万円に34及ぶ。
(578億2600万円+876億8100万円)×0.5×0.2=145億5070万円〔被告の主張〕被告の独占利益は存在しない。
(1) 過去分の売上高についてア 特許登録前には,第三者の実施行為を差し止めることはできないから,出願公開後から特許登録前までの期間中の被告の実施は,本件各特許権の排他権に基づく独占実施ではない。
職務発明がされた場合,被告には通常実施権が与えられるから,いかに優れた発明がされて被告がその実施をしたとしても,職務発明者はその実施について,使用者に対し,何らの請求もできない。特許法35条による請求権は,特許権の移転によって,使用者が独占実施できる状況になったことを根拠とするものである。移転対価の計上をする際,単に,出願や公開がされただけでは,独占権取得前の実施は,通常実施権による実施と異なるところがなく,以後の使用者の売上げを計算の対象とすることはできない。
そもそも,特許法35条対価請求について,権利移転後の使用者の売上げを検討の対象とするのは,一種の擬制であり,排他的実施ができない場合にまで,このような擬制を及ぼす必要もない。
仮に,補償金を問題とするとしても,20%もの高額な実施料が認められることはなく,排他力のない登録前の実施料相当額は,登録後の半分程度であり,率として無視すべきである。
イ 平成16年度までの過去分の売上高は,出願公開前の分は含むべきでないから,別表2の平成16年度までの欄に記載のとおりである。
(2) 将来分の売上高についてア 本件製品の単価は減少を継続しており,平成12年度には被告がほぼ市35場を独占していたが,平成17年度末には保護膜のシェアが■■%程度,スペーサーのシェアが■■%程度にまで低下して,競合他社が本格的に参入しているから,過去10年間の売上高の増加は今後10年間の予測の前提とならない。
また,本件製品は,MAGポリマーを用いるものが多く,ジグライム系溶媒が必須であるが,顧客はジグライム系溶媒の使用中止を求めており,今後,MAGポリマーを使用しない製品への移行が急速に進むから,本件製品のMAGポリマーを使用したものの売上げは激減する。
さらに,絶縁膜については,液晶パネルの生産性向上のため,これを使用しない技術が開発されて,有力メーカーでは,大型のパネルから不使用を進めており,この数年でほとんど売れなくなると予想される。
イ このように競合他社の存在,価格の下落等の要素をも含め,今後5年間で徐々に減少すると予測することが合理的であり,将来の売上高は,別表2の平成17年度以降の欄に記載のとおりとなる。
(3) 独占利益の不存在ア 特許法35条対価請求の根拠は,当該発明が特許出願されて,その特許権の効果として,他の競合者を排除する効力を持つことにあるのであって,その算定に使用者の自己実施を含めることができるとして,本件製品の性能が優れているか,顧客の目にかなったかは意味を持たない。
本件製品は,液晶パネルを製造する際の素材を提供するものにすぎず,材料として要求される性能が年々高くなっていき,大手各メーカーの技術力をもってすれば,別個の解決手段によって,容易に所望の性能の達成が可能であるから,本件各特許権の存在が市場の参入障壁になっていることはない。実際に,本件製品が顧客に受け入れられているのは,被告が顧客の要望にきめ細かく対応しているからである。被告が本件製品を納入している顧客は,いずれも価格重視ではないメーカーであり,フォロー能力が36なくて安定供給力に不安のある材料メーカーは,参入が困難であるのが実態であり,先行者の被告を打ち負かすには,顧客に対し,本件製品より優れた物を安定供給でき,しかも製造ラインへのマッチングを含む細かなフォローができる態勢にあることが必要不可欠なのであって,本件各特許権は何ら参入障壁になっていない。
イ 本件製品が属する表示材料ビジネスでは,当該製品でしか所定の性能の保護膜やスペーサーが提供できないことはなく,被告が他社からライセンスの求めを受けたこともない。特許のライセンスがあったとしても,顧客のニーズにあった製品を提供できるものではなく,製品が採用されないのであり,また,他社製品にシェアを奪われている被告において,他社製品が本件各特許権の侵害品であるかを検討したこともない。
このように,被告は,本件各特許権の排他力によって独占利益を得てはいない。
ライセンスをしていた場合に売上げが50%減少するとして,実施料率は,本件各特許権が参入障壁になっておらず,早い段階から競合他社がいること,その後も参入が続いていることを考慮して,せいぜい通常の実施料率2ないし4%程度でしかなく,売上規模が大きいことから,実施料率が2%を上回ることはない。
3 争点(2)イ(被告が貢献した程度)について〔原告の主張〕被告が本件各発明に貢献した程度は,50%を上回ることはない。
(1) 研究テーマの設定,研究の前提となる技術ノウハウの提供本件各発明の当時,被告の社内では,従来から販売していた合成ゴム,合成樹脂,ラテックス等の基礎化学製品や半導体用フォトレジストなどの事業と異なり,液晶ディスプレイ用の材料の販売が単独で事業採算の合う見込みは乏しいと考えられていた。保護膜チームは,非常に特異な存在であり,同37一チーム内で種々雑多な材料を開発し,顧客との間で信頼関係を結んで,早期に情報を入手して,要望に素早く対応する必要があった。原告を含む発明者らは,被告が正式なテーマとして指示しない表示材料についても幅広く研究を進め,成果が出た段階で研究者,研究補助者等の増員を要求するなどの形を採らざるを得なかったが,研究要員の数や予算額は,容易に増加しなかった。
被告は,本件各発明の契機となった製品開発を企画して,その母体となる技術,ノウハウ等を提供したものでないから,その貢献度は低い。
(2) 研究人員,施設,設備,機材等の提供被告は,本件各発明に関し,研究費用や発明補助者等の人員を投入して施設,設備,機材を提供し,本件各特許権の出願,登録,維持に関する費用を負担した。しかし,昭和59年当時,液晶ディスプレイの市場性の予測が困難であったため,被告が提供する人員や設備等は十分でなく,原告を含む発明者らは,被告の社内の不要機材や他の研究部門から借用した機材などを用いて本件各発明に至った。
被告のこれらの負担は,特許法35条1項に基づく通常実施権の無償取得と対価関係に立つものであり,職務発明特許を受ける権利を譲渡した相当対価の算定における貢献度としては考慮されるべきでない。
(3) 製造技術の開発本件各発明では,原告を含む発明者らは,顧客にフラスコサンプルを提供し,その時点から,ある程度量産可能なサンプルを設計することを求められ,研究者自らがかなりの量のサンプルを製造し,品質を検査して顧客に提供する必要があった。そして,研究部門から製造部門に移管する時点では,製造技術及び試験評価技術がほぼ確立された状態になっていた。
被告の製造技術,試験評価技術の開発や製品の量産化に関する貢献度も低い。
38(4) 販売契約の締結被告は,本件各発明に関する技術流出を防ぐため,他社にライセンス許諾をして実施料収入を得るのではなく,自ら製品を製造して販売しているが,被告の製品の圧倒的な市場占有率,高い利益率は,競合他社には容易に真似できない高性能材料であることに起因している。
顧客との間の販売契約締結に関する被告の尽力は,職務発明特許を受ける権利を譲渡した相当対価の算定における貢献度としては考慮されるべきではない。
(5) 本件各発明に関する補償金,報奨金被告は,本件各発明に関して,原告を含む発明者らに対し,発明考案取扱規程に基づく補償金を支払った。
また,被告は,原告を含む発明者らがカラーフィルター用熱硬化性保護膜と層間絶縁膜の商品化に貢献したことを評価して,これまでに発明者らを含む関係社員を2度表彰し,その表彰対象者には商品化に貢献した全社員が含まれ,報奨金は合計30万円程度であった。
(6) 原告の待遇原告は,本件各発明の功績によって昇格昇給することは一切なく,早期退職優遇制度に応募して被告を退職するまで「主査2級B」であった。
(7) まとめ被告の貢献度は,原告を含む共同発明者らに対する関係で,50%を上回ることはない。
〔被告の主張〕被告が本件各発明に貢献した程度は,95%を下回ることはない。
(1) テーマの設定と開発費用被告は,顧客からの保護膜開発打診を受けて,昭和59年4月,事業提案会議において,カラーフィルター材料の事業化を了承し,カラーフィルター39用染色基質材料開発,カラーフィルター用防染保護膜開発,LCD用配向膜開発をそれぞれ正式にテーマ化し,昭和62年7月に研究開発部門の組織を再編成して,テーマも,CCD用とLCD用染色基質材料開発,CCD用保護膜開発,LCD用保護膜開発,LCD用配向膜開発として,組織的な開発の効率化を図った。
このように,被告は,顧客との信頼関係により,カラーフィルター材料要求に関する情報を入手し,将来性を検討して,カラーフィルター材料開発のテーマ化を決定しており,被告の主導で開発のテーマ設定及び研究開始の決定をした。
また,被告は,ファイン事業と名付ける分野の開拓を図り,利益が大きくない時期から研究開発費を積極的に投入し,概ね,当期利益を上回る規模の研究開発費を計上して,当期利益がマイナスの年度(平成5年度)でも,100億円程度の研究開発費を投じている。そして,すべての研究開発が成功するとは限らないことから,多数の研究を同時並行的に進め,失敗のリスクを分散させて,成功に至った分野の製品で残りの成功に至らなかった製品に係る研究開発費用を賄う構造になっており,MAG関連製品のような成功した分野だけの研究開発費用を抽出することは,実際には困難であり,また,成功した製品にかけた貢献費用のみを取り出して対価を算定することは,失敗リスク分散の観点からも妥当でない。
(2) 研究開発の物的設備及び人的体制被告は,本件各発明の研究に必要な機材,設備として,クリーンルームのほか,研究開発の初期段階から,顧客のLCDメーカーと同様の評価のできる機器の導入を行い,ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)やEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)のような1台5000万円を超える微細領域の組成分析装置を設置して,材料の特性や品質の向上を図ってきた。
40さらに,被告では,大量に消費される各種モノマー,感光性化合物,界面活性剤等が常に備えられ,フォトレジストなどの研究開発の結果,それらの特性に関する知識と経験により技術基盤が形成されて,研究部門内部の共通財産として維持されている。
このような万全の研究体制の維持拡充は,すべて被告の負担において完備されている。
被告では,昭和62年7月に研究開発部門の組織を再編し,常時,十数名ないし20名の人員態勢を維持した。そして,ファイン事業分野での重要な要素技術の1つである感光性材料によるリソグラフィ技術を身につけた技術者が育っていた。
(3) 出願の処理本件各発明の権利化にあたっては,被告の社内の特許部(知的財産部)が出願のための明細書作成に関する助言,権利化に至るまでの諸手続,先例検索等のバックアップ作業を行っている。
(4) まとめ本件各発明の完成には,この種の材料を研究開発できる技術基盤,設備,人材等のアセットを備えたことなど,被告の具体的な努力が必要であったし,日々のビジネスも,被告の構築したビジネスモデルに従い,技術的にきめ細かな対応を実施するという被告の負担によっているから,被告の貢献度は極めて高い。
発明や出願に至る被告の貢献は明らかであり,被告しか実施をしていない本件製品にあっては,製造販売に際しての被告貢献も考慮すべきであって,全体として,これが95%を下回ることはない。
4 争点(2)ウ(共同発明者間の寄与度)について〔原告の主張〕(1) 本件各発明は,いずれも原告を含む発明者らの着想によるものであり,41他社の特許発明の改良でもない。また,発明者らは,製造部門への移管前に本件製品の製造技術や試験評価技術もほぼ確立していた。
(2) 原告を含む発明者らは,カラーフィルター用熱硬化性保護膜と層間絶縁膜に関する本件各発明の評価により,被告社内で2度表彰を受けている。
(3) 原告は,保護膜研究チームの中心的研究者として,共同発明者の中でただ1人,本件各発明に至る研究のすべてに関与し,本件各発明のすべてについて,共同発明者の中で主導的な役割を果たした。
ア c及びfの寄与度cにつき本件発明1,2,4及び8,fにつき本件発明4及び6の関与が問題となり得るが,両名は当時のチームリーダーないしテーマリーダー(課長クラス)であり,被告の社内の慣例で特許出願に載せたものであって,実質的な関与がなく,共同発明者としての寄与度は零又は零に近いものと評価すべきである。
イ 本件発明1に関する各共同発明者の寄与度本件発明1の完成に至る経緯からすれば,aらの寄与度が合計50%を超えることはあり得ないから,本件発明1に関する原告の寄与度は,少なくとも全共同発明者の寄与度の50%以上と評価される。
ウ 本件発明2に関する各共同発明者の寄与度b及びdは,原告の指示下で,dがベースポリマーの重合,bが一部のサンプルの調製,評価をそれぞれ担当して本件発明2に貢献した。
発明に至る経緯を総合的に考慮すれば,本件発明2に関するb及びdの寄与度が合計50%を超えることはないから,本件発明2に関する原告の寄与も,少なくとも全共同発明者の50%以上と評価される。
エ 本件特許発明4,6及び8に関する各共同発明者の寄与度e及びhは,原告の指示下で,原告と密接に連携してポジ型感光性保護膜のサンプル調製,評価を行い,本件発明8に貢献した。また,e及びg42は,原告の指示下で,原告と密接に連携してネガ型感光性保護膜のサンプル調製,評価を行い,本件発明6に貢献した。これに対して,本件発明4については,eがサンプル調製や評価等を担当した形跡がなく,eの寄与度は低い。
本件発明6及び8に係る組成物の構成のうち,発明者らが独自に開発した物質はベースポリマーであるMAGポリマーのみであり,その他の構成(感光性モノマー,光重合開始剤等)はすべて公知の市販品等の物質である。MAGポリマーこそが本件発明4,6及び8の最大の特徴であり,他社に容易に真似のできない性能を生んでいる最大の原因であるから,MAGポリマーを開発した原告の寄与度は,少なくとも全共同発明者の50%以上と評価される。
〔被告の主張〕原告は,前記1のとおり,本件各発明についての発明者でないから,発明に寄与した貢献について,寄与度を議論する余地はない。
仮に,何らかの貢献を認めるとしても,10%を上回ることはない。
5 争点(2)エ(対価額)について〔原告の主張〕被告の得る独占利益145億5070万円に対する被告の貢献度は,50%を上回ることはなく,このうち原告の寄与度も,50%を下回ることはないから,原告が被告に対して請求可能である対価額は,36億3767万5000円である。原告は,その一部請求として,3億円を請求する。
145億5070万円×(1-0.5)×0.5=36億3767万5000円〔被告の主張〕争う。
当裁判所の判断
1 証拠によって認められる事実43前記第2の1記載の前提となる事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1) 本件各発明の内容ア 本件各発明の技術分野(弁論の全趣旨)液晶ディスプレイは,ごく薄く透明な金属膜を蒸着させた2枚のガラス基板の間に液晶物質を挟み込み,金属膜(透明電極)に微弱な電圧をかけることによって液晶分子の向きを一斉に変え,光の透過率を増減させることにより画像を表示する仕組みの表示装置であり,その表示部分が液晶パネルである。現在の主流となっているアクティブマトリクス型(TFT方式)のカラー液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の場合,画面上の表示点(画素)ごとの明滅を制御するスイッチ役を果たすアクティブ素子(TFT=薄膜トランジスタ)が形成されたガラス基板(TFTアレイ基板)と,赤(R)・緑(G)・青(B)の透明カラーフィルターを積層したガラス基板(カラーフィルター基板)とが,液晶層を挟み込む構造になっている。2枚のガラス基板の間には,ガラス基板間の隙間(液晶層の厚み)を均等に保つための部品(スペーサー)が挟み込まれる。
「カラーフィルター用保護膜」とは,液晶ディスプレイのパネルを製造する際,カラーフィルターの上に被せられる透明な塗膜である。カラーフィルター基板の製造工程では,ガラス基板上に形成されたカラーフィルターは,後工程において高熱,溶剤,酸又はアルカリ溶液などに曝される。
そこで,カラーフィルターが損傷・劣化することを防止するため,カラーフィルターの表面に耐熱性,耐溶剤性,耐酸性及び耐アルカリ性等を有する保護膜を設けることが必要になる。
「感光性スペーサー」とは,フォトリソグラフィによって形成されるスペーサーである。従来は,プラスチック製などの球状スペーサーをガラス基板上に散布していたが,この手法によると,均一な密度でスペーサーを44散布することが難しく,部分的に表示品位が低下したりする場合がある。
そこで,特に高性能液晶ディスプレイの場合,感光性物質を一定の厚さで塗布して透明な塗膜を作成した後,フォトリソグラフィ技術によって柱状の部品を形成する(柱状部品以外の部分の塗膜を取り除く)ことにより,所定の位置に正確にスペーサー(感光性スペーサー)を設ける手法が採用されている。
「TFTアレイ用層間絶縁膜」(以下「層間絶縁膜」という。)とは,TFTアレイ基板上の画素電極(各表示点(画素)上の液晶物質を駆動するための電極)と,画素電極に信号を送る配線とを基板に対して垂直方向に階層化し,その間を電気的に絶縁するために,画素電極(層)と配線(層)との間に設けられる透明な塗膜である。層間絶縁膜を用いると,従来の画素電極と配線とを同一平面上に設ける構造よりも,画面を高精細化(高開口率化)することができる。層間絶縁膜は,高性能液晶ディスプレイの多くに採用されている。
イ 本件各発明の特徴(ア) 本件発明1について(甲1)本件発明1は,別紙特許請求の範囲目録@記載のとおりのものであり,要するに,二液型熱硬化性樹脂組成物であって,分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有する化合物(イ)なる一般式(T)で表されるベースポリマー成分(代表例,GMA(グリシジルメタクリレート)),グリシジル基と反応し得る置換基を有する化合物(ロ)なる多価化合物である硬化剤成分(代表例,TAAH(トリメリット酸無水物)),及び,2級窒素原子及び/又は3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物(ハ)なる硬化促進剤(代表例,イミダゾール化合物)を含有する液晶表示用素子における保護膜形成用材料である。本件発明1は,化合物(イ)及び化合物(ロ)を含む組成物に係る特開昭60-217230号公45報(乙32)の技術で残された高濃度のアルカリ性水溶液に対する耐性不足の課題に対し,さらに化合物(ハ)を含有する組成物を用いることにより,この耐性不足を改善した。
本件発明1では,化合物(ハ)のイミダゾール化合物の種類や量を特に細かく特定しておらず,化合物(イ)及び化合物(ロ)についても,その種類や量を特定していない。
(イ) 本件発明2について(甲2)本件発明2は,別紙特許請求の範囲目録A記載のとおりのものであり,要するに,二液型熱硬化性樹脂組成物であって,本件発明1の改良発明として位置付けられ,本件発明1の化合物(イ)に相当する構成単位及び追加の構成単位(代表例,DCM(ジシクロペンタニルメタクリレート))から合成される重合体と本件発明1の化合物(ロ)に相当する硬化剤を含有する保護膜形成用材料であり,液晶表示素子の製造工程における高温処理に伴う保護膜の密着性低下の問題を解決した。実施例では,本件発明1の化合物(ハ)に相当するイミダゾール硬化促進剤成分も用いられている。
本件発明2では,保護膜と基板の密着性を求めて,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤につきさまざまな組合せの実験が行われた結果,GMAとDCMとの共重合体が密着性の高いアクリル系熱硬化性保護膜を形成することが見出された。
(ウ) 本件発明4,6及び8について(弁論の全趣旨)本件発明4,6及び8は,いずれも,被告の社内において,「MAGポリマー」と呼称されるベースポリマーを用いた発明である。MAGポリマーとは,狭義では,MA(メタクリル酸),DCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)及びGMA(グリシジルメタクリレート)をラジカル共重合によって硬化させ,1本鎖中にエポキシ基とカルボン酸基46を有する構造のベースポリマーであり,カルボン酸基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物とのブレンド系ではなく,これらの共重合法で製造されることに特徴がある。広義のMAGポリマーとしては,さらに,ST(スチレン)を添加して重合された「SMAG」と呼称される4元系ベースポリマー,BD(ブタジエン)を添加して重合された「BMAG」と呼称される4元系ベースポリマー,SMAGにBDを添加して重合された「BSMAG」と呼称される5元系ベースポリマーなどがある。
(エ) 本件発明8について(甲8)本件発明8は,別紙特許請求の範囲目録D記載のとおりのものであり,要するに,露光膜がアルカリ性現像液に溶解するポジ型感光性樹脂組成物であって,MAGポリマー(A)と感放射線性酸生成化合物(B)とを含有する感放射線性樹脂組成物であり,従来の保護膜に要求されてきた特性を維持しつつ,表示素子のパネル作製の際に露光と現像によって不要な部分(露光部分)の保護膜を容易に除去することを可能にした。
(オ) 本件発明6について(甲6)本件発明6は,別紙特許請求の範囲目録C記載のとおりのものであり,要するに,露光前膜がアルカリ性現像液に溶解するネガ型感光性樹脂組成物であって,MAGポリマー(A)とエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と光重合開始剤(C)とを含有する耐熱性感放射線性樹脂組成物であり,従来の保護膜に要求されてきた特性を維持しつつ,表示素子のパネル作製の際に露光と現像によって不要な部分(未露光部分)の保護膜を容易に除去することを可能にした。
(カ) 本件発明4について(甲4)本件発明4は,別紙特許請求の範囲目録B記載のとおりのものであり,要するに,一液型熱硬化性樹脂組成物であって,MAGポリマー(A)47が有機溶媒(B)に溶解されてなることを特徴とする保護膜形成用材料であり,特定の硬化剤を併用したり,樹脂を変性させたりすることなく,加熱によって容易に硬化し,耐熱性,平坦化性等に優れた特性を有するものである。
(2) 被告の組織・研究者等ア 被告の事業内容被告は,従来からの合成ゴム,合成樹脂等の化学工業製品の製造販売等のほか,昭和45年以降,社内でファイン事業と呼称される高機能スペシャリティ品に係る事業分野へのシフトを図り,昭和59年ころから,液晶ディスプレイ等の製造に用いられる材料(表示材料)の研究開発をスタートし,昭和63年3月からこれを製造販売している(弁論の全趣旨)。
イ 被告の組織被告の東京研究所は,研究開発部門であり,研究開発本部の下で,表示材料担当グループ(当初の部署名「R243」)が置かれて,配向膜,保護膜,耐熱保護膜,材料開発等につきチームに分かれて研究がされ,これが昭和63年10月1日に研究開発本部DC開発センター・第4開発グループ(「R240」)として改組され,平成元年10月1日からは,同グループ下に,表示材料チーム(「R240-11」)のほか,光硬化材料を担当するチーム(「R240-01」),分析・評価を担当するチーム(「R240-16」)が配置されて,研究開発が進められた。
また,被告には,製造部門の四日市工場に併設して,四日市研究所がある。(乙8,乙13の1,乙13の4ないし28,弁論の全趣旨)ウ 原告の担当職務・経歴原告は,昭和36年3月に岐阜県立岐阜工業高校を卒業し,同年4月に被告に入社して四日市研究所に配属され,合成ゴムの研究開発に従事した後,昭和59年ころから東京研究所などで,液晶ディスプレイ等の製造に48用いられる材料(表示材料)の研究に取り組み,CCD(Charge Coupled Device)用の熱硬化性保護膜に関する研究開発などを行った。
そして,原告は,昭和62年4月に管理職である主査(主任研究員)となって,保護膜担当チームに所属し,遅くともそのころまでに液晶ディスプレイのカラーフィルター用熱硬化性保護膜の研究に着手した。その後,原告は,昭和63年7月1日に,四日市研究所の生産移管のためのチームリーダーとして異動したが,平成元年10月1日に東京研究所に復帰し,以降,少なくとも平成4年10月19日まで,表示材料チームの中で,2番目の管理職として,同チームにおける研究開発に従事した。なお,原告は,この間,被告の社内の職制上のテーマリーダーではなかった。(乙13の1,乙13の4ないし27,弁論の全趣旨)エ 他の研究員の経歴等(ア) aは,昭和58年4月に被告に入社して東京研究所に配属され,耐熱樹脂,液晶用配向膜,カラーフィルター用保護膜等の開発に従事し,平成5年5月に特許部(知的財産部)の所属となり,現在,ディスプレイ材料事業部に所属している(乙8)。
(イ) bは,昭和59年4月に被告に入社し,昭和63年夏ころから東京研究所で保護膜形成用材料の開発にかかわり,その後,厚膜加工用レジスト組成物の研究を経て,平成6年から知的財産部に所属している(乙9,弁論の全趣旨)。
(ウ) dは,昭和62年4月に被告に入社して東京研究所の表示材料担当グループに配属され,配向膜用組成物,保護膜用組成物の開発に従事し,平成3年9月に電子材料事業部の所属となり,その後の異動を経て,平成13年3月に被告を退社した(乙12)。
(エ) eは,北海道大学大学院修士課程で合成化学工学を専攻して平成元年3月に修了した後,同年4月に被告に入社して東京研究所の表示材料49チームに配属され,配向膜用組成物の開発に従事し,同年8月ころ,業務応援として,保護膜用組成物の開発に従事し,aの下で,アクリル系モノマーの重合などの指導を受けた。同年12月には,組織上,cの部下となり,平成2年夏ころから,保護膜用組成物の開発チームの一員として,感光性保護膜等の開発に従事し,染色用基質用組成物とCCD用マイクロレンズ用組成物の開発を担当して,hから,溶剤現像型のネガ型感光材料の評価とアルカリ現像型のポジ型感光材料の評価を経験した。
そして,平成3年5月1日に正式に原告の直接の部下として配属された。
その後,半導体材料開発室,ディスプレイ材料開発室等を経て,現在,光・電材事業企画台湾事務所に異動している(乙10,乙13の12)。
(オ) 被告社内の組織図によると,表示材料チームにおいて,原告は,管理職として,平成元年10月1日から平成4年2月ころまで,テーマリーダーのcの下に配置され,同年3月ころから同年10月ころまで,テーマリーダーのfの下に配置された。
この間,原告は,平成元年10月1日には,a及びbを含む12名の部下を有し,その後,平成2年2月ころから同年9月ころまで,b,d及びiを含む6名ないし7名の部下を有し,また,平成2年10月ころから平成4年10月ころまで,5名ないし7名の部下を有していた。e及びgについては平成3年5月ころから,hについては平成3年4月ころまでと平成4年5月ころから,それぞれ原告の部下であった。(乙13の4ないし27)(3) 本件発明1についてア 背景事情等昭和62年当時,液晶ディスプレイメーカーでは,STN(Super Twisted Nematic)方式のカラー液晶ディスプレイの開発を進めており,カラーフィルターを形成した後の工程で行われる透明電極の蒸着,配向膜の塗50布,焼成などの処理の際の高熱からカラーフィルターを保護するため,250℃を超える熱に対する耐性を有するカラーフィルター用保護膜が求められていた(弁論の全趣旨)。
被告の社内では,原告らの研究により,PGMA(ポリグリシジルメタクリレート)と芳香族多価カルボン酸(無水トリメリット酸(TAAH)等)を含む塗膜形成用材料(特開昭60-217230号公報)が開発されたが,これによる塗膜は,高濃度のアルカリ性水溶液に対する耐性が未だ不十分であることが課題であった(甲1,乙32)。
イ 被告社内の研究開発原告は,昭和63年7月1日から平成元年9月30日まで四日市研究所に勤務し,同年10月に東京研究所に復帰するまでの間,アクリル系保護膜の研究に直接従事することはなかった(弁論の全趣旨)。
原告が四日市研究所に勤務していた間,東京研究所では,aとbにより,アクリル系熱硬化性保護膜の研究が継続されていた。その中で,塗膜の耐アルカリ性の不足する化学的原因は,樹脂に含まれるエポキシ基と化学量論的に等量混合する硬化剤TAAHが100%反応せず,未反応の硬化剤TAAHが無水カルボン酸の状態で塗膜中に残存するためであり,その結果,アルカリ処理過程で反応してアルカリ溶解性を発現し,塗膜のひび割れや膨潤が起こることが分かった(乙8,弁論の全趣旨)。
そこで,aとbは,議論を重ねた結果,残存するカルボン酸を何らかの方法で完全に反応させれば,この課題が解決できると考え,硬化のための助剤添加による効果促進を検討した。そして,aは,平成元年6月後半ころ,@ 無機系酸触媒(塩酸,硝酸,硫酸等,これらの無機塩)の添加,A 有機系酸触媒(ルイス酸,ブレンステッド酸等の有機酸)の添加,B無機系塩基性触媒(苛性ソーダ,苛性カリ等の無機塩基)の添加,C有機系塩基性触媒(アンモニア,ジエチルアミン,ピリジン等の有機塩51基)の添加の順で,実験をする計画を立案した。平成元年7月に人事異動があったため,aらにより,実質的に同年8月から実験が開始され,上記のうち,@とAでは,効果がなく,Bでは,若干の効果が認められる程度であったが,同年9月から検討したCでは,非常に良好な効果が認められた。このうち,アンモニアやアルキルアミン類は,揮発性が高く,塗膜の形成の熱で蒸発して異臭を発し,同様にピリジン類(ピリジン,コリン等)も臭気の問題が解決できなかった。そこで,揮発性の少ないアミン類として,試薬のベンゾイミダゾールを使用したところ,効果が確認でき,さらに置換基を有するイミダゾール類でも検討したところ,非常に良好な結果が得られた。
これにより,aらは,平成元年9月の時点で,イミダゾール化合物を添加することにより,アクリル系保護膜の耐アルカリ性が向上することを見出した。
その後,aらは,引き続き,2級窒素原子又は3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する代表的な代表化合物である各種イミダゾール類の最適化をするため,化合物調査を行い,四国化成株式会社製の「キュアゾール」という商品名の各種イミダゾール類を入手して,平成元年10月中旬ころから,サンプルを用いた実験を継続し,その結果,被告の四日市工場での取扱いを考慮して,室温でフレーク状のイミダゾール化合物として,2-ヘプタデシルイミダゾール(商品名キュアゾールC17Z,融点約90℃),2-フェニル-4-メチルイミダゾール(商品名キュアゾール2P4MZ,融点約180℃)を中心に検討を進めた。
その後,原告が保護膜担当として着任し,平成元年11月にaが保護膜担当から着色レジスト製品の開発担当に異動することになったが,商品化のための最適化の検討が終了していなかったことから,同月中旬,aのほか,c,原告及びbが集まって引継ぎの方法が話し合われた。その結果,52aの着色レジスト開発担当を平成2年1月からとし,保護膜担当を平成元年12月まで延長し,bには,化学的な検討のため,東京工業大学の担当教授に指導を仰がせることが決められた。そして,aは,耐熱性,耐酸性及び耐アルカリ性があって,赤外吸収スペクトルによる確認でも問題がなかったことから,平成元年12月中旬,原告に対し,2-ヘプタデシルイミダゾール(商品名キュアゾールC17Z)を用いることで目処がついたことを報告し,業務を引き継いだ。(甲60,乙8)ウ 原告の実験原告は,東京研究所に復帰し,平成元年11月以降しばらくは,CCD用のアクリル系保護膜であるオプトマーSS-1151の改良等の研究に注力した(甲49〔59頁ないし69頁〕)。
その後,原告は,平成元年12月ころ,A社向けに,液晶ディスプレイ用のアクリル系保護膜について,耐アルカリ性向上の研究を再開した。すなわち,平成元年12月12日にサンプルJSS-***ないしJSS-***を調製し,同月14日にA社に提出した(甲55)。このうちJSS-***は,当初の2液の混合では白濁することが判明したため,添加する硬化促進剤のイミダゾール化合物の種類を他と同じキュアゾールC17Zに変更した。また,JSS-***ないしJSS-***は,いずれも2液を混合して一晩置くと析出物が生じたことから,同月17日,キュアゾールC17Zの配合量を減少させたJSS-***ないしJSS-***を調製し,同日,A社に提出した(甲56)。その後,同月19日,新たなサンプルJSS-***,JSS-*****ないしJSS-*****を調製し,A社に提出した。JSS-***及びJSS-*****は,従前と同様にキュアゾールC17Zを用いたが,JSS-*****ないしJSS-*****は,イミダゾール化合物の種類を変更しキュアゾール1B2MZ(1-ベンジル-2-メチルイミダゾール)を用いた。さらに,平成2年1月29日,キュアゾール1B2MZを用いて,JSS-***ないしJSS-***を調製し,A社に提出した53(甲49〔72頁ないし74頁,76頁ないし77頁,88頁ないし90頁〕,55,56,60)。
A社に提出したサンプルのうち,JSS-***が耐熱性,硬度,耐アルカリ性等の性能において最も優れていた。
また,この間,原告は,平成元年12月21日,S社向けにキュアゾール1B2MZを用いたサンプルJSS-***を調製し,平成2年1月6日,キュアゾール1B2MZを用いたJSS-***ないしJSS-***をB社用サンプルとして調製した。(甲49〔77頁,82頁〕,54,弁論の全趣旨)エ a作成の報告書aは,平成2年1月,着色レジスト担当チームに異動するにあたり,その前の平成元年12月15日,原告に宛てて,研究引継ぎのための報告書(甲65)を作成した。この報告書は,冒頭に,「耐アルカリ性改良グレード(S社・・・向け),平坦化ポットライフ改良グレード(T社・・・向け)の開発状況は,以下のとおりです」として,前者について,耐アルカリ性改良グレードの項目の下に「新硬化剤系」と記載した上,硬化剤種を6通り使用し,ベースポリマーとしてHポリマー,硬化剤としてビスフェノールA,硬化助剤(硬化促進剤)としてBIZ(ベンゾイミダゾール),接着助剤としてGPS-M(官能性シランカップリング剤)を用いた系の最適化によって目的を達成するのが最短と考えられる旨が記載されている(甲65,弁論の全趣旨)。
オ 本件発明1の特許出願aは,平成2年3月22日,本件発明1について,特許出願依頼書(乙1の1)を作成して被告の特許部(知的財産部)に提出した。その発明者欄には,順に,a,b,原告,cの氏名が記載されている。
被告は,平成2年6月20日,本件発明1を特許出願し,平成11年3月5日登録されたが,その特許公報(甲1)の発明者欄には,順に,a,54b,原告,cの氏名が記載されている。
なお,本件特許権1の明細書の実施例には,a及びbが合成したポリマーや評価結果が記載されており,その具体例についても,aが調査して作成した(甲1,乙8)。
(4) 本件発明2についてア 背景事情等被告では,耐アルカリ性の向上を目的としたアクリル系保護膜の評価用サンプルをA社以外の顧客にも提供していたが,平成2年1月ころ,B社から,液晶ディスプレイの製造工程で高温高湿に曝される際,保護膜が基板から剥離することがあり,アクリル系保護膜と基板との密着性を向上させる必要があるとの評価を受けた(弁論の全趣旨)。
イ 研究の経過原告は,部下であるb,d及びiらとともに,平成2年2月27日,B社向けに,アクリル系保護膜と基板との密着性を改良する研究に着手した。
原告らは,少なくとも週1回の頻度で,さらに必要に応じて検討会議を開催し,それぞれの実験データを持ち寄り,チーム全員で議論し,データの解析を行って,検討方向を定めて研究開発を進めた。具体的には,検討会議において密着性が良好となる組成につき仮説を立て,その組成に必要な重合体が手元になければこれを合成し,組成物を調製し,組成物を塗膜として密着性を評価するという手順を繰り返して行った(乙9)。
原告の実験日誌(甲49)によると,平成2年2月27日にサンプル12番まで〔111頁〕,同年3月1日にサンプル34番まで〔113頁ないし115頁〕,同月8日にサンプル42番まで〔119頁〕,同月9日にサンプル52番まで〔120頁〕,同月13日にサンプル58番まで〔122頁〕,同月19日にサンプル72番まで〔124頁〕,同月22日にサンプル78番まで〔125頁〕,同月26日にサンプル85番まで55〔128頁〕,同月27日にサンプル89番まで〔128頁,129頁〕,同月28日にサンプル98番まで〔131頁〕,同年4月5日にサンプル110番まで〔132頁ないし134頁〕,同月9日にサンプル129番まで〔135頁,136頁〕,同月13日及び14日にサンプル134番まで〔137頁,138頁〕,同月16日にサンプル139番まで〔138頁〕,同月17日にサンプル149番まで〔138頁,139頁〕,同月18日及び19日にサンプル158番まで〔140頁,141頁〕,それぞれ,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤の配合量等をさまざまに組み合わせて,これら158種類のサンプルが調製されている。すなわち,硬化剤(TAAH),イミダゾール系硬化促進剤(1B2MZ),■■■■■(界面活性剤),GPS-M(接着助剤・官能性シランカップリング剤)などのベースポリマー以外の成分はほぼ固定した上で,ベースポリマーを中心にさまざまな種類を用い,用いる種類を固定した成分については配合量を変えながら,158種類のサンプルを調製したものである。
そして,これらのサンプルから形成される保護膜と基板との密着性を沸水テストによって評価した結果のほか,エンピツ硬度や耐熱性などの評価結果が詳細に記載されている。
これらのサンプルのうち,平成2年4月5日ころから同月19日ころにかけて,B社に対し,3回に分けて(「第1回基板」,「第2回送付B社基板」,「第3回送付B社基板」,「第3次送付基板」,「B社第3次基板」等),評価結果の良好であったものが提出された。3回目に送付したサンプルの中に含まれていた147番以降については,「ここでDCM系は始めて使用」と原告の実験日誌に記載されており,ベースポリマーにDCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)が組み込まれたサンプルが提供されている(甲49〔133頁,137頁ないし141頁〕)。
147番から149番までのサンプルに用いられたベースポリマーは,56それぞれ,CF-771ないしCF-773であって,対応してDCM50,DCM60及びDCM70と原告の実験日誌(甲49〔139頁〕)に記載され,被告の管理する重合ログシート(乙6)をみても,これらのポリマーの具体的組成として,GMAのほかにDCMが含まれており,また,いずれも,平成2年4月17日にdによって重合されたものであることが分かる。
サンプル147番ないし149番は,特定の温度で熱処理をした後と3時間半沸騰水に浸漬した後にする密着性試験において,熱処理が220℃でも,240℃でも良好な結果であった(甲49〔140頁〕)。
その後,原告らは,B社等の顧客に対し,ベースポリマーにDCMを組み込んだサンプルを調製,提出して,改良を繰り返し,平成2年4月19日及び同月24日にJSS-***ないしJSS-***,同年5月10日にJSS-***,同年6月22日にJSS-***及びJSS-***,同月25日にJSS-***,同年7月12日にJSS-***,同年8月13日にJSS-***及びJSS-***を調製した(甲49〔142頁,150頁,171頁,184頁,192頁〕)。
また,平成2年9月4日以降も,C社,D社,E社,F社等向けに,ベースポリマーにDCMを含む評価用サンプルが調製され,密着性の評価が継続して行われた(甲50〔1頁,17頁,30頁,34頁ないし36頁,44頁ないし48頁等〕)。
ウ 本件発明2の特許出願bは,平成2年9月25日,本件発明2について,特許出願依頼書(乙1の2)を作成して被告の特許部(知的財産部)に提出した。その発明者欄には,順に,b,d,原告,cの氏名が記載されている。
被告は,平成2年11月30日,本件発明2を特許出願し,平成11年7月23日登録されたが,その特許公報(甲2)の発明者欄には,順に,b,d,原告,cの氏名が記載されている。
(5) MAGポリマーについて57ア 本件発明4,6及び8との関係本件発明4,6及び8は,いずれも,MAG又はSMAGからなるMAGポリマーをベースポリマーとして用いた発明であり,本件発明8は,MAGポリマーに感放射線性酸生成化合物を含むポジ型の感放射線性樹脂組成物であり,本件発明6は,MAGポリマーにラジカル重合性化合物,光重合開始剤を添加して用いるネガ型の感光性樹脂組成物であり,本件発明4は,MAGポリマーを有機溶媒に溶解して用いる熱硬化性樹脂組成物である(弁論の全趣旨)。
イ 背景事情等被告の社内では,平成3年ころ,G社が液晶駆動用の半導体チップをガラス基板上に直接装着するCOG(Chip on Glass)技術を採用した液晶ディスプレイのパネルの開発を進めていたことから,原告らが感光性保護膜の研究開発に着手した。
感光性保護膜には,フォトリソグラフィに用いられる現像液のアルカリ水溶液に可溶である一方で,フォトリソグラフィを経て硬化した後は耐アルカリ性を有する性質が求められ,当時,カルボン酸基(アルカリ可溶成分)とエポキシ基(加熱することによってカルボン酸基と反応してアルカリ可溶性を失わせる成分)とを含有する組成物がこの性質を有することは知られていたが,この組成物は,従来,エポキシ基を含む化合物とカルボン酸基(無水物となっているものを含む。)を含む化合物との混合物であるか又は両化合物の高分子反応による変性化合物であった。混合物の場合には,その2種類の化合物の相溶性や組成物の保存安定性,塗膜の荒れ等に問題があり,また,変性化合物の場合には,合成の煩雑化のほか,ゲル化による反応の定量化の困難さによる再現性に問題があった。そして,感光性保護膜として用いるには,塗膜の荒れとの関係で,透明電極の断線などの不具合を生じさせないために,現像性を改良して現像後の保護膜表面58を滑らかにし,パターンエッジ部分の段差をなくすことが重要であった。
(甲6,弁論の全趣旨)ウ MAGポリマーの開発経緯(ア) MAGポリマーの開発は,平成2年10月後半ころ,当時のテーマリーダーであったcが,eに対し,感光性保護膜開発の指示をしたことにより,始められた。その際,原告も同席しており,原告は,eに対し,カルボキシル基含有重合体とエポキシ基含有重合体のブレンド割合を工夫するように助言した。eは,その後1ないし2か月間ブレンドの割合の実験を繰り返したが,アルカリ可溶性と耐熱性の両方を満足させることができず,成果が上がらなかったことから,原告に対し,一分子鎖中にカルボキシル基とエポキシ基を含有する重合体を使用することにより解決できないかとの意見を述べた。しかし,原告からは,カルボキシル基とエポキシ基が反応してゲル化を起こしてうまくいかないから,さらにブレンドの検討を進めるようにとの指示を受けたため,一方でブレンド系(複数の重合体を混合させて目的物を得る手法)の実験を継続しつつ,他方で共重合体の検討を始めた。
eは,当初,MAとGMAの2元系共重合を試したが,重合反応中にゲル化が起こって成功しなかったことから,この2つのモノマーに嵩高い置換基を有する第3のモノマーを加えれば,反応しやすい2つの基を空間的に離すことができ,ゲル化させないで共重合できるのでないかと考えた。まず,ST(スチレン)を第3のモノマーとして添加したが,少量ではゲル化が防げず,多量では重合度が上がらなかったため,STを適切でないと判断し,次に,被告の社内で使用が始まっていた嵩高い置換基であるDCMを第3のモノマーとして添加することを着想した。
そして,eは,DCMを用いた検討を重ねた結果,一分子鎖中にカルボキシル基とエポキシ基を含有する共重合体MAGポリマーをゲル化さ59せることなく合成できることを見出し,遅くとも平成3年3月前半までに,MAGポリマーの完成に至った。(乙3の4,10)(イ) 重合ログシート被告の管理する重合ログシート(乙6)上,MAGポリマーとして最初に重合組成とその結果が記載されたのは,平成3年3月15日のCF-911であり,これは,GMA/ST/MA/DCMからなる4元系のSMAGであって,dの重合によるものである。次のMAGポリマーは,同月22日のCF-922であり,これもGMA/ST/MA/DCMの4元系であって,dの重合によるものである。その後,MAGポリマーの重合は,同月26日にCF-927ないしCF-929(重合者はd),同月27日にCF-930ないしCF-932(同d),同年4月1日にCF-934ないしCF-936(同d),同月2日にCF-937ないしCF-939(同d),同月3日にCF-942及びCF-943(同d),同月4日にCF-945ないしCF-950(同d),同月8日にCF-951ないしCF-954(同d),同月9日にCF-955及びCF-956(同i),同月10日にCF-959(同d),同月12日にCF-960ないしCF-962(同d),同月19日にCF-963ないしCF-965(同i),同月25日にCF-966ないしCF-969(同d),同月26日にCF-970(同d)と続いている。
重合ログシート(乙6)上,原告自身による最初の記録は,平成3年5月8日に重合されたCF-971であり,他方,eによる最初の記録は,平成4年1月21日に重合されたCF-1160であり,また,hによる最初の記録は,同年4月20日に重合されたCF-1214であって,この間,ほとんどのMAGポリマーがdによって重合されている。
(ウ) 原告の実験日誌原告の実験日誌(甲50)に,最初にMAGポリマーについて記載された箇所は,平成3年4月8日であり,「ST/MA/DCM/GMA4MC系」,「I社 印刷CF」などとした後,当該サンプルの耐熱性,60密着性,平坦化性の評価結果が記載されている。ここで使用されているCF-927以下の16種類のMAGポリマーは,すべてdの重合したものである(甲50〔118頁〕,乙6,弁論の全趣旨)。
そして,平成3年4月19日には,J社向けに,CF-922からなるMAG31(■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■),CF-956からなるMAG24,CF-921からなるMAG40を用いて調製されたサンプルの組成とこれを用いた膜の耐熱性,膜厚変化等の評価結果が記載されている(甲50〔122頁〕)。
また,平成3年5月8日には,K社向け一液型保護膜として,CF-971(MAG1540)を用いて調製されたサンプルの組成と評価結果が記載されている。同月13日,23日ないし25日及び29日には,I社向け一液型保護膜の開発として,CF-964,CF-967, CF-969,CF-970,CF-971,CF-976,CF-977,CF-986,CF-987,CF-989,CF-990又はCF-991のMAGポリマー又はSMAGポリマーを用いて調製された一液型の熱硬化性保護膜(E-236ないしE-239,E-255ないしE-309)のほか,CGI-■■■(光重合開始剤)を含むネガ型感光性保護膜となり得る保護膜(E-240ないしE-243)について,その組成と密着性,耐熱性,塗布性などの評価結果が記載されている(甲50〔126頁,127頁,130頁ないし134頁〕)。
なお,原告の実験日誌には,平成3年5月29日の中で,「一液型の検討は一時ストップする。耐熱性or平坦化性の点で限界あり。」と記載されている(甲50〔134頁〕)。
その後は,平成4年10月8日及び同年11月18日に,R社等向けとして,一液型熱硬化性保護膜のサンプルを調製したことが記載されている(甲51〔105頁,115頁,116頁〕)。
エ表彰等61(ア) eの特許賞(乙3の1ないし4)平成4年7月8日,原告の部下であったeは,本件発明6及び8に係るMAGポリマーを用いた感放射線性樹脂組成物の開発に功労があったとして,被告の社内で特許賞を受賞した。
そして,eが受賞時に開催された発表会に用意した資料(乙3の4)には,MAGポリマーの開発には,ポリマーブレンドと共重合の2つのアプローチがあり,前者では,「アルカリ可溶性と耐熱性の両方を満足させることが出来なかった」とされ,他方,後者では,MA/GMA系の共重合体は,「重合反応中にゲル化」する問題があり,これを第3成分のDCMを用いた共重合により,MA/DCM/GMA系として解決したことが記載されている。
(イ) 原告作成の功労表彰申請書原告は,平成11年10月29日付け功労表彰申請書(甲33)で,被告に対し,「液晶ディスプレー用層間膜の開発」の件名でメンバー計31名につき功労表彰を申請し,その中で,研究開発のポイントとして,「自己架橋型アルカリ可溶特殊アクリル樹脂の開発」について,「熱硬化型保護膜のベースポリマーであるST/GMA/DCM共重合物にメタクリル酸(MA)を挿入する検討を行った結果,特別な溶媒(ジグライム系)のみゲル化しないことを見出した。ジグライム系溶媒で重合したポリマー溶液を他の溶媒で置換するとゲル化することから,ジグライム系溶媒がカルボン酸基かグリシジル基の保護基として働いていることが推察された。この自己架橋型アルカリ可溶性特殊アクリル樹脂(MAGポリマーと称す)を開発できたことが,他社にまねできないポジ型耐熱透明レジスト(HRC)を完成させたと言っても過言ではない。」旨説明している。
(6) 本件発明8について62ア 発明に至る経過(乙10)被告の保護膜チームで従来開発してきた熱硬化性保護膜用組成物は,加熱によって塗布膜全面が硬化するものであったが,ポジ型感光性保護膜組成物は,任意のマスクパターンを通した光照射後の現像工程を経て,任意の保護膜パターンが得られるものであり,通常は,アルカリ性の現像液に溶解するポリマーと,光照射によりアルカリ溶解性が大きくなる性質を有する感放射線性酸生成物とを組み合わせることが多い。eは,開発されたMAGポリマー(アルカリ水溶液に可溶である。)と感放射線性酸生成化合物の組合せによって,このようなポジ型感光性保護膜用組成物の開発検討を始めた。
ポジ型感光性保護膜用組成物としては,感光特性(感度,解像度,残膜率,現像性)と保護膜特性(耐熱性,透明性等)の両者が必要であるところ,検討の結果,eは,保護膜特性を得るためには,ポリマー中のGMA量がある程度必要であることが分かったが,感光特性との両立が困難であった。感光特性の評価は,組成物を基板に塗布し,プレベークして溶剤を除去した後,紫外線を照射する部分と照射しない部分を作ってパターンを形成し,アルカリ性水溶液の現像液に浸して,紫外線照射した部分が溶解して基板から除去できるか否かを実験して行った。被告において,当時,マイクロレンズ用感光性組成物についての知見しかなかったため,eは,MA/GMA/DCMの3種類のモノマー組成比を変更したものを重合しながら,ポリマーの溶解性を最適化する作業を行なった。具体的には,各成分の組成比を変化させながらポリマーを重合し,液晶表示素子向け感光性材料に係る当時の被告社内の評価基準に照らし,照射した部分が1分以内に現像液で溶解して基板からきれいに除去できるか否かという基準で現像性の評価をする作業を繰り返した。この中で,例えば,MAの量を増やせば,溶解性の上がることが分かったが,最適量でないと,パターン形成が63うまくいかず,詳細な最適化の必要があり,また,顧客の使用する露光装置の紫外線の波長で検討を進めた結果,現像液濃度も変更する必要があった。
eによるこれらのような検討の結果,特定の共重合組成を有するMAGポリマーと■■■■■■■(U社製のエステル型感放射線性酸生成化合物の被告社内における呼称)を特定の配合比率で混合した組成物が,感光特性のほか,硬化後の保護膜特性に優れることが見出された。
イ 原告の実験日誌本件発明8につき被告の特許部(知的財産部)に特許出願が依頼された平成3年8月29日以前において,原告の実験日誌(甲50)の中には,ポジ型感光性樹脂組成物に関する記載はない。
原告の実験日誌(甲51〔4頁〕)には,平成3年11月6日に,ポジ型HRC用ベースポリマーの重合に関する記載があり,CF-1101,CF-1102及びCF-1103の組成につき言及されている。
ウ 調製ログシート被告の特許部(知的財産部)に対する特許出願依頼書(乙1の6)には,実施中の「関連グレード名 サンプル名」として,「HRC-***〜***」と記載されている。
顧客に出荷した製品の名称,調製日,組成・分量のレシピ等を記載した調製ログシート(乙4)によれば,HRC-***ないしHRC-***は,いずれもeやgらが担当者であって,原告の関与はなく,CF-963(重合者はi),CF-970(同d),CF-992(同i),CF-986(同d),CF-1001(同d)などのMAGポリマーを用い,これに感光剤のTris等と硬化剤■■■■■等を添加し,溶媒として主にジグライム系を用いて調製されている。(乙4〔29頁ないし32頁,34頁ないし44頁〕,6,弁論の全趣旨)エ 本件発明8の特許出願64eは,平成3年8月29日,本件発明8について,特許出願依頼書(乙1の6)を作成して被告の特許部(知的財産部)に提出した。その発明者欄には,順に,e,h,原告,cの氏名が記載されている。
被告は,平成3年12月11日,本件発明8を特許出願し,平成11年8月6日登録されたが,その特許公報(甲8)の発明者欄には,順に,e,h,原告,cの氏名が記載されている。
(7) 本件発明6についてア 発明に至る経過(乙10)ネガ型感光性保護膜用組成物は,光が照射された部分が現像液に不溶性となる性質を有し,本件発明8のポジ型と同じく,任意の保護膜パターンが得られるものである。このような組成物を合成するには,アルカリ現像液に可溶なポリマー,光照射によりラジカルを発生させる性質を有する化合物等(光重合開始剤)及び発生したラジカルにより架橋反応を起こしてアルカリ現像液に不溶となる性質を有するラジカル重合性化合物の3つを組み合わせることが多い。
eは,開発したMAGポリマー(アルカリ水溶液に可溶である。)を用いたネガ型感光性保護膜用組成物の開発のため,光重合開始剤及びエチレン性不飽和二重結合を有するラジカル重合性化合物(エチレン性化合物)の探索を開始した。当時,被告の東京研究所における他のチームで,エチレン性化合物を光重合開始剤で光重合させる研究が進んでおり,これらの情報が比較的容易に得られたことから,光重合開始剤をチバガイギー社及びメルク社等,エチレン性化合物を日本化薬工業株式会社,大阪有機化学工業株式会社及び東亞合成化学工業株式会社等から,市販品のみならず,試作品も含めて入手し,エチレン性化合物,光重合開始剤,MAGポリマーの組合せについて,種類と量を変化させて組成物を調製しながら,その特性を評価した。従来から知られていたラジカル重合ネガ型感光性組成物65では,酸素存在下での感度が低いため,脱酸素状態にして作業がされたが,半導体のような小さな基板であればこのような状態にして作業することが容易であっても,表示素子用の基板は大きくて困難であり,通常の空気中で照射作業ができる必要があった。そこで,ネガ型感光性保護膜用組成物は,酸素存在下で実用的な感度を有することが重要であった。
eは,これを満たす組合せを検討する中で,酸素存在下での実用的な感度を上げるために光重合開始剤の配合量を増やすと塗膜が着色して透過率が低下し,透明性とのバランスに難儀したが,MAGポリマーの組成,光重合開始剤とエチレン性化合物の組合せ及び配合比を変更して評価する実験作業に取り組みながら,光重合開始剤としてチバガイギー社製のCGI-■■■又はCGI-■■■,エチレン性化合物として東亞合成化学工業株式会社製の■■■■■を選択する組合せが感光特性(感度,解像度,残膜率,現像性)と保護膜特性(耐熱性,透明性等)で優れていることを見出した。
イ 原告の実験日誌原告の実験日誌(甲50)では,平成3年5月13日に,I社向け一液型保護膜の開発として,CGI-■■■(光重合開始剤)を含むネガ型感光性保護膜となり得る保護膜(E-240ないしE-243)について,その組成等が検討され(前記(5)ウ(ウ)認定のとおり),このうちE-242とE-243のベースポリマーがCF-970であり,MAG20と略称されている(甲50〔127頁〕)。
なお,このほか,本件発明6が被告の特許部(知的財産部)に特許出願を依頼された平成4年3月26日以前に,原告の実験日誌の中には,ネガ型感光性樹脂組成物に関する記載はない(甲50,51)。
ウ 調製ログシート被告の特許部(知的財産部)に対する特許出願依頼書(乙1の4)には,66実施中の「関連グレード名 サンプル名」として,「JNPC-**〜**」と記載されている。
JNPC-**ないしJNPC-**は,調製ログシート(乙4)によれば,いずれもeが担当者として調製したものであって,原告の関与はなく,CF-975(重合者はd),CF-1001(同d),CF-1002(同d),CF-1055(同i),CF-1157(同原告)などのMAGポリマーを用い,これに感光剤のCGI-■■■等と硬化剤■■■■■,GPS-M等を添加し,溶媒として主にジグライム系を用いて調製されている。
なお,JNPC-**はL社向け,JNPC-**はN社向け,JNPC-**はV社向けにそれぞれ調製されたものである。(乙4〔1頁ないし5頁,7頁ないし10頁,12頁,19頁ないし22頁〕,6,10,弁論の全趣旨)エ 本件発明6の特許出願eは,平成4年3月26日,本件発明6について,特許出願依頼書(乙1の4)を作成して被告の特許部(知的財産部)に提出した。その発明者欄には,順に,e,g,原告,fの氏名が記載されている。
被告は,平成4年7月24日,本件発明6を特許出願し,平成12年8月25日登録されたが,その特許公報(甲6)の発明者欄には,順に,e,g,原告,fの氏名が記載されている。
(8) 本件発明4についてア MAGポリマーの特性(乙10)eは,アルカリ可溶性樹脂のMAGポリマーを用いた感光性組成物として,本件発明6及び8を特許出願したが,既にMAGポリマーの開発過程において,組成的に明らかに熱硬化性を有していたことから,一液型の熱硬化性保護膜用組成物としても有用であることが分かっていた。
イ 原告の実験日誌前記(5)ウ(ウ)認定のとおり,原告は,平成3年4月8日から同年5月6729日までの間,MAGポリマーの種類,成分の配合量をさまざまに変えた一液型の熱硬化性保護膜サンプルを調製したが,耐熱性又は平坦化性の点で限界があるとして,検討を一時ストップした。その後,原告は,平成4年10月8日と同年11月18日に顧客向けにサンプルを調製している。
ウ 本件発明4の特許出願eは,平成4年9月1日,本件発明4について,特許出願依頼書(乙1の3)を作成して被告の特許部(知的財産部)に提出した。その発明者欄には,順に,e,原告,c,fの氏名が記載されている。
被告は,平成4年11月25日,本件発明4を特許出願し,平成14年6月28日登録されたが,その特許公報(甲4)の発明者欄には,順に,e,原告,c,fの氏名が記載されている。
なお,本件特許権4の明細書(甲4)中には,9つの実施例が記載されているが,原告の実験日誌(甲50,51)中に記載された具体的な実験結果がそのまま採用されたものはない。eは,原告が一液型の熱硬化性保護膜用組成物についての実験を行っていることを知っていたが,原告からその結果を聞いたことはなく,自ら明細書を作成した(乙10)。
2 争点(1)(共同発明者性)について(1) 共同発明者の認定についてア 「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいう」(特許法2条1項)から,真の共同発明者といえるためには,当該発明における技術的思想創作行為に現実に加担したことが必要である。
したがって,@ 発明者に対して一般的管理をしたにすぎない者(単なる管理者),例えば,具体的着想を示さずに,単に通常の研究テーマを与えたり,発明の過程において単に一般的な指導を与えたり,課題の解決のための抽象的助言を与えたにすぎない者,A 発明者の指示に従い,補助したにすぎない者(単なる補助者),例えば,単にデータをまとめたり,文68書を作成したり,実験を行ったにすぎない者,B発明者による発明の完成を援助したにすぎない者(単なる後援者),例えば,発明者に資金を提供したり,設備利用の便宜を与えたにすぎない者等は,技術的思想創作行為に現実に加担したとはいえないから,共同発明者ということはできないものと解される。
イ 原告の主張について原告は,被告がこれまで一貫して原告を発明者として扱っており,真の共同発明者の1人として事実上推定される旨主張する。
確かに,前記第2の1(2)のとおり,本件特許権1,2,4,6及び8の特許公報中の発明者欄には,それぞれ原告の氏名が記載され,これまでに,被告から原告に対し,発明考案取扱規程中の補償規定に基づく出願時補償金及び登録時補償金のほか,表彰に伴う報奨金が支払われている(弁論の全趣旨)。
しかしながら,本件特許権1,2,4及び8につき特許公報中の発明者欄に氏名が記載され,出願時補償金及び登録時補償金の支払を受けたc,本件特許権4及び6につき同様のfの両名については,原告自身,それぞれ当該発明の共同発明者でない旨主張しているところである。
さらに,本件特許権1,2,4,6及び8の各特許出願の当時,被告の社内では,実際に研究開発を行った者が発明者の筆頭となって,特許出願依頼書を作成し,補助的な発明者がいるときは次順位の発明者となり,このほか,同じ研究チームの上司の管理職について,発明者としての寄与がなくても,発明者として記載する慣行があったものと認められる(乙8ないし10,乙11の1及び2,乙14の1及び2,乙20,弁論の全趣旨)。
そうすると,管理職である原告の氏名が特許公報中の発明者欄に記載されているだけでは,発明者とすることができないことは明らかであり,本69件各発明における原告その他の関係者の関わり方を個別的具体的に認定した上で,原告の共同発明者性を検討すべきことになる。
ウ 被告の主張について他方,被告は,まず,被告の社内において,原告が主査という管理職の地位にあり,顧客の要望を踏まえてチームメンバーに開発を指示する立場にあったが,本件各発明の着想から完成に至るまで,管理職たるテーマリーダーとして関わったもので,当該発明における創作的行為に何ら関与していない旨主張する。
しかし,管理職の立場であったとしても,部下に対し,その行う実験について,発明に至る創作的行為に不可欠の具体的着想を示していることもあり得るところである。また,原告において,管理職でありながら,本件各発明に関連して,自ら実験を行っていることは,前記1(3)ないし(8)認定のとおりであり,管理職であること自体によって,当該発明における創作的行為に全く関与していないとすることはできない。なお,原告は,平成元年10月1日ころから平成4年10月19日ころまでの間,被告社内の職制上のテーマリーダーではなかったものである。
次に,被告は,原告の行った実験について,既に完成している発明を前提として,顧客に提出するサンプルを調製し,最終的に製品として出荷するに際して成分量の微調整をするなどのグレード開発を行ったにすぎず,原告の実験日誌は,このような最適化作業の内容を記載したものである旨主張する。
確かに,一般的には,特許発明に至るような発明は,基礎研究の過程から生じ,グレード開発では,当該基礎研究によって見出され,選択されたものを顧客に最適化させる作業がされることが多いことが推測できる。しかしながら,これらは並行してされることもあり,また,グレード開発が顧客たるユーザーからの直接の要請に応じて工夫されるものであることか70らすると,グレード開発の過程で初めて見出される知見がないとも限らない。そして,その知見が当初の基礎研究で想定されていた発明の範囲を広げたり,選択発明を構成するような顕著な効果を奏するものを提供したりすることがないとはいえず,そのような広がった部分や選択発明については,グレード開発を行った者の発明と認められる場合もあり得る。
そうすると,単に,当該担当者の行った実験が基礎研究であったか,グレード開発であったかの切り分けだけで,前者は,発明に至る研究であって実験者が発明者であり,後者は,発明とは無関係であって実験者が発明者でないということは適切ではない。
エ したがって,本件各発明について,原告が真の発明者であるか否かは,当該発明における技術的思想創作行為に現実に加担した原告の具体的行為の内容を精査した上で,これを判断する必要がある。
(2) 本件発明1についてア 発明の課題と解決手段前記1(1)イ(ア)認定のとおり,本件発明1は,液晶表示用素子における保護膜形成用材料として,従来技術における課題であった高濃度のアルカリ性水溶液に対する耐性不足を改善した組成物の発明であり,化合物(イ)なる一般式(T)で表されるベースポリマー成分及び化合物(ロ)なる多価化合物である硬化剤成分に加えて,化合物(ハ)なる2級窒素原子及び/又は3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物である硬化促進剤を含有するものであるが,特に,化合物(ハ)のイミダゾール化合物の種類や量を細かく特定していないし,化合物(イ)及び化合物(ロ)についても,その種類や量を特定していない。
そして,a及びbは,前記1(3)イ認定のとおり,残存するカルボン酸を反応させる方法としてさまざまな硬化促進剤によって実験を行い,硬化促進剤として有機系塩基性触媒を使用することによって良好な結果が得ら71れること,その中でも揮発性の少ないアミン類として試薬のベンゾイミダゾールを使用して効果が得られることを見出し,さらにイミダゾール化合物の最適化を行って,本件発明1に至ったものである。
よって,本件発明1に至るには,硬化促進剤としてイミダゾール化合物を加えることでアクリル系保護膜の耐アルカリ性を向上させることができるとする知見で十分であり,この知見は,原告が四日市研究所に勤務していた間の平成元年9月の時点で,東京研究所において,a及びbの行った実験によって得られたものである。
イ 原告の関与について原告は,A社向けのサンプルの調製や提出を行ったものであるところ,このような保護膜形成用材料としての具体的な組合せや量的割合の検討によって本件発明1が完成したものであり,これは既に完成した本件発明1に基づく化合物(イ),化合物(ロ)及び化合物(ハ)の組合せや量的割合の検討ではない旨主張する。
なるほど,前記1(3)ウ認定のとおり,原告において,A社向けに耐アルカリ性のアクリル系保護膜組成物を調製し,添加物の種類や量を変えて,JSS-***ないしJSS-***を開発し,また,S社やB社に対しても,JSS-***やJSS-***ないしJSS-***を調製している。
しかし,上記のとおり,本件発明1は,成分の種類や配合量比を細かく特定したものではないし,硬化促進剤としてイミダゾール化合物を加えることでアクリル系保護膜の耐アルカリ性を向上させることができるとするa及びbの行った実験によって得られた知見の範囲内でその作用効果が十分尽くされているから,原告の行った実験の内容は,発明の完成後にされたグレード開発として,A社向けの最適化を行った作業であるというほかない。
ウ 原告の主張について72(ア) 原告は,四日市研究所に勤務した昭和63年7月から平成元年9月までの間も研究を継続して,被告の表示材料事業会議に出席して研究成果を報告し,東京研究所に所属するa,bらと耐アルカリ性低下の原因と対応方法につき議論した旨主張する。
しかしながら,その議論の内容について,これを認定するに足りる証拠はない。また,原告とaらとの間の議論の内容が不明である以上,原告からaらに対して,本件発明1に至るために不可欠な助言やアイデアの提供があったということはできない。
(イ) 原告は,aの報告書に照らし,平成元年12月15日以前に,現実にTAAHやベンゾイミダゾール以外のイミダゾール化合物を用いて実験を行っていたとは考えられない旨主張する。
しかしながら,a作成の報告書(甲65)は,特定の改良グレードについての引継連絡文書にすぎないから,この記載がaの行っていた研究のすべてを示すものではなく,aがビスフェノールAとBIZの組合せしか研究していなかったことにはならない。また,ビスフェノールAとBIZは,それぞれ,本件発明1の化合物(ロ)及び化合物(ハ)の成分として,明細書の発明の詳細な説明に具体的に例示されているものであり(甲1),aの行っていた実験が本件発明1に至るものであったことを示している。
aの陳述書(乙8)は,報告書(甲65)と矛盾するものではなく,その内容を措信することができる。
(ウ) 原告は,透明電極の密着性や配向膜の塗れ性の問題は,耐熱性や耐アルカリ性とともに,保護膜が必ず備えるべき基本的な性能であると同時に,解決すべき課題であるから,顧客にサンプルを提出して評価を受けることが必要不可欠であって,顧客の研究部門の評価を受けない限り,本件発明1が完成することはない旨主張する。
73しかしながら,本件発明1は,液晶表示用素子における保護膜形成用材料として耐アルカリ性以外の点では,当該用途に用いることができると理解されていた材料について,さらに耐アルカリ性を付与する目的で改良したものであるから,必ずしも顧客へのサンプル提供が必要であったと解することはできない。実際に,本件発明1は,明細書の実施例に記載されたとおり,実施可能なものであり(甲1),当該組成の組合せによって商品になっているものである。また,原告の指摘する問題は,基本的に液晶ディスプレイとして組み立てた後の性質であって,本件特許権1の特許請求の範囲に記載されたものではなく,本件発明1の解決課題でもないから,仮に,これらの性質に劣ることがあったとしても,本件発明1に至ることを妨げるものではない。そもそも,原告の実験日誌(甲49)によっても,顧客に対するサンプル提供数は限られており,液晶ディスプレイ等に組み込んだ後の性質まで確認したり,そのための試行錯誤がされたと評価するに足りる実験の種類や数がされているものとは認め難い。
エ小括前記1(3)イ認定のとおり,aらは,耐アルカリ性向上という課題の解決のために残存カルボン酸を完全に反応させればよいと考え,@ 無機系酸触媒,A 有機系酸触媒,B 無機系塩基性触媒,C 有機系塩基性触媒の順に実験を行う計画を立て,@とAでは効果がなく,Bでは若干の効果が認められ,Cでは良好な効果を示したものの,アンモニアやアルキルアミン類,ピリジン類は揮発性が高く異臭があるため使用できず,結局,揮発性の少ないアミン類としてテストしたイミダゾール類が非常に良好であり,その最適化のために化学物調査を行い,四国化成株式会社製のキュアゾール製品を入手して検討したとするものであって,化学分野で頻繁に用いられる手法に従って,計画的,理論的に研究を進めた結果,原告が四74日市研究所に勤務していた平成元年9月の時点で本件発明1に至ったものと認められる。
以上によれば,本件発明1については,原告において,その技術的思想創作行為に現実に加担したと認めるに足りず,その共同発明者の1人であるということはできない。
(3) 本件発明2についてア 発明の課題と解決手段前記1(1)イ(イ)認定のとおり,本件発明2は,液晶表示素子の製造工程における高温処理に伴う保護膜の密着性の低下を解決する組成物の発明である。
そして,本件発明2にあっては,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤につきさまざまな組合せの実験を行って初めて見出されるものである。
イ 原告の関与について前記1(4)イ認定のとおり,原告の実験日誌には,平成2年2月27日から同年4月19日にかけて,アクリル系保護膜とB社用基板との密着性を改良するため,ベースポリマーの組成,硬化剤及び硬化促進剤の種類や配合量等をさまざまに組み合わせた158種類のサンプルについて,当該サンプルによって形成される保護膜と基板との密着性を沸水テストにより評価した結果のほか,エンピツ硬度や耐熱性などを評価した結果が詳細に記されている。
ここで記載された保護膜の調製例でみると,硬化剤(TAAH),イミダゾール系硬化促進剤(1B2MZ),■■■■■(界面活性剤),GPS-M(接着助剤・官能性シランカップリング剤)などのベースポリマー以外の成分はほぼ固定されており,主にベースポリマーの種類を変え,固定された成分については配合量を変えながら,158種類のサンプルを調75製したものである。
そして,サンプル147番ないし149番において,沸水テストがすべて良好であったことから,その後,ベースポリマーにDCMを含むものに特化してサンプル調製が行われているものである。
そうすると,これは,原告において,基板密着性のよい保護膜を得るために,最適なベースポリマーを試行錯誤で見出す実験を行い,その結果,本件発明2に到達する過程があらわれているものということができる。
ウ 被告の主張について(ア) 被告は,本件発明2に至る開発作業に従事したのは,原告の部下であったbとdであり,dが膨大な組合せのDCM系ポリマーを重合して,bがこの発明の完成に必要不可欠な評価をしたから,原告は発明者ではない旨を主張する。
まず,原告においても,本件発明2については,単独ではなくb及びdとともにこれを完成させた旨主張しているところ,DCM系のポリマーのベースポリマー(CF-771ないしCF-773)を重合したのはdであり,また,当該検討チームの中で,bの存在も欠かせなかったものと窺えることから,両者の果たした役割を軽視することができないことはもちろんである。しかしながら,原告の実験日誌(甲49)の記載についてみれば,前記1(4)イ認定のとおり,当該158種類のサンプルの評価結果について,それぞれの調製をその配合量も含めて記載するだけでなく,耐熱性,耐アルカリ性,エンピツ硬度,硬化具合,沸水テストなどに関し,項目によっては,その温度や時間を変えた場合における保護膜の物性値を小数点以下2,3桁の数値を用いて,併せて30頁前後にわたって記載したものである。このような内容に照らせば,これらは,およそ原告がbやdから伝え聞いた実験結果を記載したという域にあるものではない。そもそも,仮に部下が自らの実験によってDCMの成績がよい76ことを見出したのであれば,DCMを用いていない1番ないし146番の146個のサンプル調製や評価結果の全体を実験日誌に詳細に記載することも,通常は考え難い。
この点に関し,bは,保護膜の密着性改良の検討には,原告のほか,部下のb,d,iらが関わり,@ 検討会議で密着性が良好となる組成につき仮説を立て,A その組成に必要な重合体が手元になければこれを合成し,B 組成物を調製し,C 組成物を塗膜として密着性を評価する工程で行い,Aは主としてd,B及びCは主としてbが行ったこと,検討会議は,週1回の頻度で,必要に応じて開催し,それぞれの実験データを持ち寄り,チーム全員で議論し,データの解析を行って,検討方向を定めて研究開発を進めたことを陳述する(乙9)。それによれば,原告,部下のb,d,iらから成る密着性改良のためのチームにおいては,週1回皆がデータを持ち寄って報告し,仮説を立てて検討方向を決めるための検討会議を開いたものであるから,上司である原告の保護膜における技術的知見や経験がその立論や決定において反映されたものと推認できる。とりわけ,原告においては,自らベースポリマーを変えた158種類のサンプルにつき調製し,その組成と評価結果を実験日誌に詳細に記載していたから,たとえ,ベースポリマーの重合やサンプルの調製評価を自ら行わなかったとしても,原告は,チームにおける研究の方向性の決定に,単なる管理者の域を超えて,相当程度の役割を担っていたものと認められる。
また,bは,密着性の性能評価は,塗膜付き基板を高温処理してから沸騰水に数時間浸漬した後の剥離の程度で判断し,密着性低下の現象を観察した結果,「熱処理により膜が硬化収縮し,この時に発生する力が基板との界面にかかって剥がれやすくなる」という第1の仮説を検討会議で議論して全員で立てたこと,密着性の改良には,新しい重合体の開77発が必要と考え,当時入手可能であった多くのモノマーを入手し,極めて多くの重合実験をし,その重合体を用いて組成物を試作して評価し,検討会議での議論の結果,「耐熱性がよく,また高熱処理での硬化収縮が少なく,かつ,吸湿または加水分解しにくいモノマーを適当な割合でGMAと共重合させたらよいのではないか」との第2の仮説を立て,第2の仮説に合うDCM(ジシクロペンタニルメタクリレート)などの脂肪族環状のアクリルレートを用いた重合体で評価すると,これまでにない良い結果が得られた旨陳述する(乙9)。このように,DCMの有効性の発見に至るには,少なくとも,第1の仮説の定立,第2の仮説の定立及び第2の仮説を充たすベースポリマーの適用という3つの段階があったことを考えると,仮に,原告の実際の実験量がdやbに比べて少なかったとしても,チームの中心となる原告が,各段階ごとの仮説の立論や方向性の決定において一定の影響力を有していたものと推認できる。
(イ) 被告は,原告の実験日誌の中で,サンプル147番ないし158番に関し,L社,A社,B社などの顧客名の記載があるのは,既に完成していた本件発明2を基にしてされた顧客向けの最適化の作業にすぎない旨を主張する。
しかしながら,本件発明2にとって,サンプル147番ないし158番の研究実験は,発明に至る過程そのものであって,上記の顧客向けにされた最適化の作業にすぎないとはいえないことは明らかである。
エ小括本件発明2については,原告において,その技術的思想創作行為に加担したものということができ,b及びdらとともに,その共同発明者の1人であると認めることができる。
(4) MAGポリマーについてア MAGポリマーの開発者78本件発明4,6及び8については,被告の社内でいうMAGポリマーの存在が欠かせないものであり,これらの発明者性の認定にも関連性があるから,まず,MAGポリマーの開発者が誰であるかについて検討する。
前記1(5)ウ(ア)認定のとおり,eは,平成2年10月後半ころ,当時のテーマリーダーであったcから,感光性保護膜の開発の指示を受け,MAとGMAの2つのモノマーに嵩高い置換基を有する第3のモノマーを加えれば,反応しやすい2つの基を空間的に離すことができ,ゲル化させないで共重合できること,DCMを第3のモノマーとして添加することを着想し,DCMを用いた検討を重ねた結果,一分子鎖中にカルボキシル基とエポキシ基を含有する共重合体MAGポリマーをゲル化させることなく合成できることを見出し,MAGの完成に至ったものである。
他方,前記1(5)ウ(ア)認定のとおり,原告は,eに対して共重合とは別のアプローチであるポリマーブレンドについて助言したものの,この方法ではアルカリ可溶性と耐熱性の両方を満足させることはできなかったものであり,MAGポリマーの開発に貢献していない。
よって,MAGポリマーの開発者は,eであり,eはその功績により特許賞を受賞したものである。
イ 原告の主張について(ア) 原告は,平成3年3月15日,部下であったdに指示して,CF-911なる4元系のSMAG(ST/MA/DCM/GMA)を重合させたから,原告がMAGポリマーの開発者である旨主張し,前記1(5)ウ(ウ)認定のとおり,原告の実験日誌には,同年4月8日,I社向けにSMAG(ST/MA/DCM/GMA)を調製し,耐熱性,密着性,平坦化性を評価した記載がある。
一般に,樹脂組成物の研究においては,最初に一定程度の理論や方針は定めるものの,最後は,種々の成分を実際に組み合わせて試行錯誤の79実験を行うほかなく,また,実際にこうして所望の性質を有する組成物の得られることが大半であるといえよう。
原告は,実験日誌中に丁寧に記載をする習慣があるものと窺われ,原告の実験日誌を全体的にみれば,極めて詳細に記載がされている。しかし,上記SMAGの記載については,前後の脈絡なく突然に登場しており,この近辺にMAGポリマーを見出すための試行錯誤の実験などをみることはできないし,このような状況は,重合ログシート(乙6)においても同様である。
もとより,化学の分野においても,理論的な考察を主として行い,限られた実験結果だけから好適なものを提供できることがないとはいえないが,上記SMAGの記載に関しては,原告の実験日誌に,このような4元系の開発に至るまでの理論や方向性について,何ら具体的な記載がないから,原告の実験日誌や重合ログシートの記載は,好適であることが既に知られているポリマーを用いて,I社向けのサンプルを調製したという域を出ないものといわざるを得ない。
(イ) また,平成3年4月8日にI社向けに調製されたSMAGは,本件発明2のポリマーを構成する2成分のモノマーに,さらに2成分を添加して4成分としたものである。
しかし,まず2成分にさまざまな種類の第3の成分を添加し,その中で最適なものを選択した上,それでも満足できない場合に,さまざまな種類の第4の成分を添加して,最適なものを選択するという手法を採るのが通常であり,いきなり2成分を追加して4成分とすることは,通常の化学の実験手法とは異質なものと解される。そうすると,当該4成分系がよいことを原告が予め知っていたというのでもない限り,これだけをピンポイントで合成した上で,顧客に対してサンプルを送るということは考えられない。
80この点,原告は,MAGポリマーを開発する以前に,保護膜のベースポリマーとして,GMAの1元単独重合体(Hポリマー),GMA/STの2元共重合体(SHポリマー),DCM/GMAの2元共重合体(DCポリマー),ST/DCM/GMAの3元共重合体(DSポリマー)などを開発しており,この経験と知識を踏まえて,ST/MA/DCMのアルカリ可溶性3元共重合体を開発し,4元共重合体であるMAGポリマーの開発に至っているのであって,唐突に4元ラジカル共重合を試みたものではない旨主張する。
しかしながら,3成分系に第4の成分だけを添加することが目的である場合であっても,未知のポリマーを作るときに1つの組合せについてのみ重合し,他の組合せを検討することもなく,顧客に提供するなどということは,通常はあり得ないものと解され,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) 原告は,MAGポリマーがGMAとMAを直接ラジカル共重合してもゲル化しない理由について,ジグライム系溶媒がカルボン酸基とグリシジル基が反応するのを抑制する保護基として作用すると考えられることを突き止め,これをノウハウとして押さえて公表しないこととし,MAGポリマーの特許を出願しなかった旨主張する。
しかし,原告の実験日誌(甲51)によると,平成3年11月5日に「溶媒DG→MMP」とする記載があること,同月7日に溶媒として「CAC DG」とする記載のあることが認められ(甲51〔3頁,4頁〕),これらの記載は,それぞれ,DG(ジグライム)からMMP(3-メトキシジプロピオン酸メチル)に溶媒を変更し,また,DG(ジグライム)とCAC(セルソルブアセテート)の混合溶液を用いたということであって,むしろジグライム以外の溶媒を好適なものとして用いることを示すものである。
81このほか,原告の実験日誌(甲50,51)を詳細に検討しても,MAGポリマーのゲル化防止にジグライム系溶媒が特に好適であるとか,必須であることを原告が見出したことを窺わせる記載はない。また,原告作成の功労表彰申請書(甲33)は,平成11年10月29日付けのものであり,その後に得られた被告社内における知見を踏まえた記載内容であることが窺われ,MAGポリマーが完成した平成3年当時から得られていた知見であったとも認め難い。
なお,本件発明4,6及び8の明細書の実施例には,ジグライム系溶媒を使用したものが開示されており,当該事項はノウハウとはいえないものである。
ウ小括以上によれば,MAGポリマーの開発者はeであり,原告において,その創作的な開発行為に何ら加担したものということはできない。
(5) 本件発明8についてア 発明の課題と解決手段前記1(1)イ(ウ)及び(エ)認定のとおり,本件発明8は,MAG又はSMAGからなるMAGポリマーをベースポリマーとし,感放射線性酸生成化合物を含むポジ型の感放射線性樹脂組成物であり,表示素子のパネル作製時に不要となった部分の保護膜を従来より容易に除去することを可能にした発明である。
この発明では,フォトリソグラフィに用いられる現像液のアルカリ水溶液に可溶であり,かつ,フォトリソグラフィを経て硬化した後には耐アルカリ性を有する性質が求められるため,これを解決したポリマーであるMAGポリマーの存在が不可欠である。
そして,MAGポリマーを開発したeは,その後,前記1(6)ア認定のとおり,実験を繰り返して,ポジ型感光性保護膜用組成物として,感光特82性と保護膜特性の両立を図るため,MA/GMA/DCMの3種類のモノマー組成比を変更したものを重合しながら,最適な組成を求めて,ポリマー重合と現像性評価を繰り返して検討を行った結果,特定の共重合組成を有するMAGポリマーと特定のエステル型感放射線性酸生成化合物を一定の配合比率で混合した組成物について,感光特性のほか,硬化後の保護膜特性に優れることを見出したものと認められる。
イ 原告の関与について本件発明8に関連する原告の実験日誌(甲50)の記載は,前記1(6)イ認定のとおりであり,特に着目すべき記載がない。
また,原告は,eやhらを部下とする管理職の立場にあったが,eらに対して,本件発明8に到達するのに必要な事項について,具体的な着想を示したり,実験手法を助言したりしたことを示す証拠はない。
もとより,MAGポリマーについては,原告が発明者に相当する開発者とすることができないことは,前記(4)認定のとおりであって,MAGポリマーの重合による関与も考えることができない。
よって,本件発明8について原告の関与を認めるに足りない。
ウ 原告の主張について原告は,実験日誌(甲50)における平成3年4月8日〔117頁〕及び同月19日〔122頁〕の記載をもとに,原告がMAGポリマーを用いてサンプルを調製しており,eによるHRC-***の調製が原告の実験の後であること,このHRC-***が本件発明8の完成後に調製されたことはなく,サンプルに対する顧客の評価結果を踏まえて特許出願依頼書が作成された旨を主張する。
しかしながら,実験日誌中の上記両日の記載については,感光剤との組合せや現像性の評価などの検討が認められず,熱硬化型に関する実験と窺われることから,感光性保護膜関係の実験とは関連の薄いものというほか83なく,また,原告の実験日誌には,本件発明8に関連して着目すべき記載がない。そして,本件発明8に関連する原告の実験が不明である以上,HRC-***の調製との前後関係は問題にする余地がない。
さらに,前記1(6)ウ認定のとおり,被告の特許部(知的財産部)に対する特許出願依頼書には,eやgらが担当したサンプル名が記載され,原告の関与はないものと認められる。
エ小括前記ア認定のとおり,eは,MAGポリマーを開発した後,実験を繰り返し,ポジ型感光性保護膜用組成物として,感光特性と保護膜特性に優れたMAGポリマーの組成や感放射線性酸生成物の配合比率等を見出して,本件発明8に至ったものと認められる。
以上によれば,本件発明8については,原告において,その技術的思想創作行為に何ら加担したものということはできず,その共同発明者の1人であると認めることはできない。
(6) 本件発明6についてア 発明の課題と解決手段前記1(1)イ(ウ)及び(オ)認定のとおり,本件発明6は,本件発明8と同様,MAG又はSMAGからなるMAGポリマーをベースポリマーとする感光性樹脂組成物であり,表示素子のパネル作製時に不要となった部分の保護膜を従来より容易に除去することを可能にした発明であるが,光重合開始剤を含むネガ型のタイプである。
この発明においても,フォトリソグラフィに適した性質を有するMAGポリマーの存在が不可欠であり,MAGポリマーを開発したeは,その後,前記1(7)ア認定のとおり,実験を通じて,ネガ型感光性保護膜用組成物として,酸素存在下での最適な光重合開始剤,エチレン性化合物,MAGポリマーの組合せや配合比を見出したものと認められる。なお,eは,本84件発明6のサンプルとしてL社等向けにJNPC-**ないしJNPC-**を調製した。
イ 原告の関与について前記1(7)イ認定のとおり,原告の実験日誌(甲50)には,平成3年5月13日にE-240ないしE-243の4つのサンプルにつき記載がされているところ,原告は,本件発明6がMAG又はSMAGを用いたJNPC-**ないしJNPC-**の開発に至る研究成果を特許化したものであり,eがJNPC-**を調製したのが平成3年5月14日であって,原告がI社向けにネガ型感光性保護膜のサンプル(E-240ないしE-243)を調製した同月13日の翌日であるなどと主張する。
しかしながら,詳細に記録をつける原告の実験日誌において,感光性樹脂組成物について言及があるのは,上記の平成3年5月13日の4つのサンプルについてのわずかな記載だけであり,特に,現像液による除去能を確認するなどの感光性樹脂組成物としての性能に係る試験結果の記載や,空気中の酸素下における性能の検討過程の記載もない。そして,前記1(5)ウ(ウ)認定のとおり,原告の実験日誌には,4つのサンプル以外に,さまざまなMAGポリマーを用いた実験結果が多数記載されているが,これらには感光剤が含まれておらず,すべてI社向けに調製された一液型の熱硬化性樹脂組成物のサンプルであるから,感光性樹脂組成物について原告が主体的に取り組んだと解することは困難である。さらに,その実験日誌に記載されたE-240ないしE-243の4つのサンプルのうち,E-240がJNPC-**(乙4〔1頁〕)と最も組成的に類似するが,JNPC-**は,L社向けのサンプルであり,E-240には■■■■■が必須成分として含まれているのに対し,JNPC-**にはこれが含まれておらず,相違がある。なお,JNPC-**ないしJNPC-**(乙4〔3頁ないし5頁,7頁ないし10頁,12頁,19頁ないし22頁〕)は,E-240ないしE-243と組成が異なり,また,JNPC-**は,本件発明6とは無関係である。
85他方,前記1(7)ア及びウ認定のとおり,eは,自身による試行錯誤の結果を踏まえてL社向けにJNPC-**を調製したものであるところ,その調製日が原告の実験日誌に突如あらわれたE-240ないしE-243の調製日と近接するとしても,上記によれば,そのことに特段の意味があるとはいえない。
なお,MAGポリマーについては,原告が発明者に相当する開発者とできないことは,前記(4)認定のとおりであって,MAGポリマーの重合による関与を考えることはできない。
ウ 原告の主張について原告は,e及びgと役割を分担して,サンプルの調製と評価を行った旨主張する。
確かに,原告は,当時,eやgらを部下とする管理職の立場にあったものの,eらに対して,本件発明6に到達するのに必要な事項について,具体的な着想を示したり,実験手法を助言したりことを示す証拠はない。
そして,原告の実験日誌は,全体として詳細であり,他者に指示した実験内容やその結果を記載することも厭わないという原告の習慣にもかかわらず,感光性評価試験の結果が何ら記載されておらず,感光性樹脂組成物の調製や評価に関する記載がほとんどないことは,原告の実質的な検討や考察が行われていないことを自ずと示すものというほかない。
エ小括前記ア認定のとおり,eは,MAGポリマーを開発した後,ネガ型感光性保護膜用組成物として,最適なMAGポリマーの組成,光重合開始剤とエチレン性化合物の組合せ及び配合比を求めて評価する実験作業の中で,酸素存在下での実用的な感度を満たす特定の組合せに至り,本件発明6に至ったものと認められる。
以上によれば,本件発明6については,原告において,その技術的思想創作行為に何ら加担したものということはできず,その共同発明者の186人であると認めることはできない。
(7) 本件発明4についてア 発明の課題と解決手段前記1(1)イ(ウ)及び(カ)認定のとおり,本件発明4は,従来の熱硬化性組成物とは異なり,硬化剤で硬化させたり,変性させて硬化させたりすることなく,加熱によって容易に硬化し,しかも,耐熱性,平坦化性等に優れたMAGポリマーの特性に着目して,一液型の熱硬化性樹脂組成物として,これを特許出願したものである。
前記(4)認定のとおり,MAGポリマーの開発者はeであるから,その特性自体に着目した本件発明4についても,eがMAGポリマー開発の時点で見出したものと認められる。
イ 原告の関与について前記1(5)ウ(ウ)認定のとおり,原告は,平成3年4月から,MAGポリマーを用いて,耐熱性,平坦化性等の実験を継続していたものの,同年5月29日の時点で,この一液型熱硬化性保護膜の研究を中断したことが明らかである。
よって,本件発明4について原告の関与を認めるに足りない。
ウ 原告の主張について原告は,本件発明4について,平成3年5月までの原告による実験の成果である旨主張する。
しかしながら,原告の実験は,eによるMAGポリマーの開発後であって,かつ,原告の実験中断からeによる被告の特許部(知的財産部)への特許出願依頼がされた平成4年9月1日まで1年3か月以上の隔たりがあり,しかも,本件特許権4の明細書に記載された実施例に,原告の実験日誌に記載された実験結果がそのまま採用されたものは見当たらないものである。
87他方,eは,MAGポリマーの開発過程と本件発明6及び8の特許出願を通じて,その組成的な特質を把握しており,原告の実験に頼ることなく,本件発明4の特許出願に至っている。
エ小括以上のとおり,eは,MAGポリマーの開発過程において,一液型の熱硬化性樹脂組成物としての特質を理解して,本件発明4に至ったものと認められ,原告の行った実験は,発明完成後の追試の意味しかもち得ないものというべきである。
よって,本件発明4については,原告において,その技術的思想創作行為に何ら加担したものということはできず,その共同発明者の1人であると認めることはできない。
(8) まとめ原告は,本件発明2の共同発明者の1人ということができるが,その余の本件発明1,4,6及び8並びにこれらの発明を優先権主張の基礎とした本件特許権11ないし18に係る発明について,共同発明者ということはできない。
3 争点(2)ア(被告が受けるべき利益の額)について(1) 「相当の対価」の算定方法について勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下「法」という。)35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
88法35条4項は,同条3項所定の「相当の対価」の額について「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」旨規定している。したがって,特許を受ける権利承継についての相当の対価を定めるに当たっては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素を考慮すべきであるが,使用者等が特許を受ける権利承継して特許を受けた結果,現実に利益を受けた場合には,使用者等が現実に受けた利益の額及び上記利益を受けたことについて使用者等が貢献した程度,すなわち,具体的には発明を権利化し,独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して,相当の対価を算定することができるものというべきである。
(2) 「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」についてア 法35条1項によれば,従業者等の職務発明について使用者等は無償の通常実施権を取得するのであるから,特許を受ける権利承継対価の算定に当たって考慮すべき「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利承継して特許を受けた場合には,特許発明実施を排他的に独占することによって得られる利益をいうものである。
使用者は,特許を受ける権利承継しない場合であっても通常実施権を有することとの対比からすれば,上記使用者が特許を受ける権利承継して特許を受け特許発明を自ら実施している場合は,これにより上げた利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られたと認められる利益の額をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである。
すなわち,自社実施の場合,当該発明の実施品の売上高のうち,同発明89につき第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られたと認められる利益の額,すなわち法定の通常実施権に基づく実施を超える部分(以下「超過実施分」という。)について,第三者に発明の実施を許諾した場合に得られる実施料を算定することにより,「その発明により使用者等が受けるべき利益」と認めるのが相当である。
イ 被告においては,本件発明2を実施して二液型のカラーフィルター用熱硬化性保護膜を製造販売しており,これを第三者に実施許諾して実施料を得ているわけではない。このような自社実施により被告が受けるべき利益の額は,第三者の実施を排除して独占的に実施したと認められる超過実施分を,第三者に許諾して実施させた場合に得られる実施料であり,超過実施分に実施料率を乗じることにより算定することができる。
ウ なお,使用者が職務発明について特許を受ける権利承継した場合は,特許を受ける前においても実施する権利を黙示に許諾されているということができる。この場合において,実施により上げた利益が通常実施権によるものを超えるときには,当該発明が貢献した程度を勘案して「その発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができる。すなわち,法35条職務発明は,特許発明(特許法2条2項)に限定されてはいないから,発明であれば特許登録されるか否かにかかわらず法35条が適用され,特許を受ける権利を使用者に譲渡することにより相当の対価の請求権を取得するのである。
もっとも,特許権の設定登録前においては,使用者の排他的独占権はなく(特許法66条,68条),使用者が通常実施権に基づいて実施していると認められる場合には,その範囲内で実施している限り,特許を受ける権利承継により使用者が受けるべき利益はないことになる。他方,特許権の設定登録の前であっても,特許出願人は,出願公開後は,発明を実施した第三者に対し一定の要件の下に補償金を請求することができるから90(同法65条),出願公開後に事実上当該発明を独占し,第三者の実施を排除して独占的に実施したことにより通常実施権に基づくものを超える利益を上げたときは,当該発明が貢献した程度を勘案して「その発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができる。
よって,本件発明2につき,出願公開日から存続期間の満了まで,すなわち,平成4年7月23日から平成22年11月30日までの間を対象として,「その発明により使用者等が受けるべき利益」を算定すべきことになる(なお,本件各特許権中に本件発明2に対応する外国特許はない。)。
(3) 本件製品の過去の売上高本件発明2に係る本件製品について,出願公開日の属する平成4年度から平成17年度まで(平成4年7月から平成18年3月まで)の売上高(ただし,出願公開年は月割りとし,出願公開日の属する月は公開後として計算する。なお,各年度は,4月から翌年3月までである。)は,別表3-1記載のとおり合計45億8600万円である(乙27,弁論の全趣旨)。
(4) 本件製品の将来の売上高ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 保護膜形成用材料は,液晶ディスプレイ等の表示装置の製造に用いられる表示材料の中では比較的歴史が古く,国内では,被告以外に,チッソ,新日鐵化学,日立化成などの競合メーカーが存在する。
保護膜の顧客となるのは,カラーフィルター専業メーカー及びカラーフィルターを内製する液晶ディスプレイ(パネル)メーカーである。
(乙28)(イ) 株式会社富士キメラ総研の「2004液晶関連市場の現状と将来展望(下巻)」(甲70)では,液晶ディスプレイの関連部材について,平成14年と平成15年の実績に基づき,平成16年の見込みと平成17年から平成21年までの予測を立てているところ,これによれば,毎91年,前年比126%ないし106%の伸びで成長が継続するとされている。
また,株式会社シーエムシー出版「2005年液晶ディスプレイ構成材料の市場」(甲69)による予測として,保護膜形成用材料(カラーフィルターオーバーコート剤)の市場推移について,平成14年の市場規模が250億円であったものが,平成15年には300億円とみられ,さらに,平成16年には370億円と予測されている。そして,平成15年における被告の市場占有率を85%としている。
さらに,平成18年に入ってからも,液晶ディスプレイの需要が拡大し,ソニーが液晶パネルの増産を発表するなどの報道がされている(甲81)。
(ウ) 他方,近年,保護膜の顧客となる企業が使用するコーター(ガラス基板等に被告の製造する保護膜形成用材料などの組成物を塗布する装置)について,技術革新による省液型の普及が進み,顧客となる企業での保護膜の消費量が減少しつつある(乙19)。
また,最近の市場動向として,保護膜が不要なVA(Vertical Alignment)方式やTN(Twisted Nematic)方式の液晶ディスプレイの生産量が増加傾向にあり,保護膜を要するIPS(In Plane Switching)方式の液晶ディスプレイの生産量が横ばいとなり,同じく保護膜を要するSTN(Super Twisted Nematic)方式については,生産量が減少する傾向にある。もともと,STN方式は,動画表示に適さず,視野角が狭いという欠点があるため,小型の静止画像表示が主となる時計用途やゲーム用途,パチンコ台の表示等の用途に限定されていたが,TN方式の価格が低下してSTN方式との価格差が小さくなっており,STN方式の市場は,さらに減少すると予測される(乙19)。
保護膜のうち,二液型は,顧客に対し,その使用直前に2種類の液を92混合させる負担を強いるため,保管,管理及び工程等を簡単にする上で,敬遠される傾向にあり,顧客における環境配慮の高まりからも,ジグライム系溶媒を用いていない一液型の非MAG製品が求められている(乙19)。
(エ) 被告においては,保護膜形成用材料の含まれる情報電子材料事業を中心とする部門の売上構成比が,平成11年3月期の20%から平成16年3月期には41%に拡大しており,今後も,市場拡大の主役である液晶ディスプレイ市場に最注力し,日本とともに成長エリアである韓国,台湾を軸にした事業展開を推進するとしている(甲36,37)。
(オ) 現在,被告の製造する保護膜形成用材料の最大顧客は,韓国のW社とX社となっている。しかし,W社は,平成15年以降,LG化学及びKOLONという同じ韓国内のメーカーの保護膜形成用材料の使用を開始し,平成17年4月に本格採用したため,被告の販売量が極端に減少している。また,X社については,チッソが製造工程における透明電極形成プロセスに優れているとして売込みを図り,被告のシェアを奪っている(乙28)。
被告の平成17年12月の保護膜の前年同月比売上高は■■%,平成18年1月は同■■%,同年2月は同■■%と,最近の販売実績は減少傾向にある(乙27)。
(カ) 他社による類似製品の市場への流入や顧客の液晶テレビ自体の価格下落の影響は,素材メーカーである被告にも及んでおり,平成15年下期に対する平成16年下期の単価は,下落率が■■%となっており,平成17年以降も,この下落傾向が続いている(乙19,30)。
イ 上記ア認定のとおり,液晶ディスプレイの関連部材全体の市場の将来展望として,少なくとも平成21年まで成長が継続すると予測されており,保護膜形成用材料の市場推移についても,平成14年から平成16年まで,93実際に市場規模が拡大してきている。もっとも,平成16年から平成17年の被告の販売状況からは,競合他社の出現や単価の下落傾向ともあいまって,本件発明2に係る本件製品の売上げが減少傾向にあることが認められる。
この点,被告は,保護膜需要の減退や一液型への移行を主たる理由として,別表2の平成18年度以降の欄に記載のとおり,将来分の売上げが年々減少すると主張する。
しかしながら,上記認定中にあらわれたSTN方式等の液晶ディスプレイの減少傾向や一液型保護膜への需要の変遷等の個別要因に関しても,平成22年度までに,保護膜を要する方式の液晶ディスプレイが生産されなくなったり,一液型の非MAG製品に完全に移行することの的確な裏付けまではないものというべきである。
他方,原告は,平成17年度の売上げが特許権の存続期間満了時まで継続するものとして主張するが,過去の売上げも年度ごとにばらつきがある上,上記認定中にあらわれた上記の個別要因に照らして,この主張も直ちに採用することはできない。
ウ このように,本件発明2に係る本件製品の将来の売上げを予測することは極めて困難である。
職務発明対価の算定の基礎となる使用者等が受けるべき利益の額の算定をするにあたって,現に使用者等が受けた利益の額を参考として,将来受けるであろう利益の額を予測することも許されるものと解されるところ,本件発明2に係る本件製品の直近の過去3年度の年平均売上高は,別表3-2記載のとおり,約1億7700万円となる。
以上の事情を総合的に考慮すると,保護膜市場は全体として拡大するものの,被告の本件発明2に係る本件製品の売上げは,競合他社の出現や単価の下落傾向とあいまって,増加することは見込めず,せいぜい直近の過94去3年度の年平均である1億7700万円程度であり,これを基本として,当面のところ,その程度の売上げがあるものとして,別表3-2記載のとおり,推定することとする(ただし,存続期間満了年は月割りとし,満了日の属する月は満了前として計算する。)。
エ小括そうすると,本件発明2に係る本件製品の将来の売上高については,別表3-2記載のとおり,合計8億2600万円と認める。
(5) 超過実施分ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告と同じように保護膜を製造している企業は,国内では,チッソ,新日鐵化学,日立化成等であり,海外では韓国のLG化学等である。
保護膜の販売先は,カラーフィルター専業メーカー及びカラーフィルターを内製する液晶ディスプレイメーカーであり,被告の場合,韓国のW社とX社が最大の顧客となっている。(乙28)(イ) 平成7年当時,他社との関係では,被告が安定した突出リーダーであり,技術的に被告が先行しており,代替技術はあるが,被告の発明が優れており,事業競争を優位に進められる状況であった(甲58)。
そして,平成12年ころまでは,被告の製品全体は,ほぼ市場を独占する状態であった。それは,被告の本件製品が耐熱性,密着性,平坦化性及び成膜後の信頼性など総合的に優れていることが評価されているからであった(甲69)。
(ウ) 被告の市場占有率は,製品全体では平成15年に■■%になり,保護膜形成用材料については,平成16年9月当時で■■%を超えていたものの,次第に低下して,平成17年6月時点で■■%程度になり,平成18年3月時点では■■%を下回っている(乙19,28)。
(エ) 本件特許権2の存在は,業界で知られているが,本件発明2が課題95としているような性能は,現在では他のメーカーでも克服しており,顧客にとって,顧客の生産ラインの条件などの要望にいかに応えられるかが重要な要素となっている(乙28)。
(オ) 被告は,従前から,顧客の細かな要望に応える態勢を整えてきたが,単に性能だけで材料が評価されて売れるわけでなく,特に韓国では,同国内の系列企業のつながりで,左右される状況になりつつある(乙19,28)。
イ 上記ア認定のとおり,保護膜の分野において,被告は,少なくとも平成12年以前は,先発メーカーとして圧倒的な市場占有率を有していたものと認められる。この背景には,被告が顧客の要望に細やかに対応できる態勢であったことがあるとしても,その大きな理由は,他のメーカーには追いつけない被告における技術的優位性にあったというべきである。
そうしてみると,近年では状況の変化がみられるとはいえ,被告が本件特許権2を有することにより,これまで,市場における他社の新規参入を困難にしていた効果を否定することはできないところであり,これらの事情を総合的に判断すると,本件発明2に係る本件製品の過去の売上高のうち,超過実施分の占める割合は,40%と認めるのが相当である。
ウ 他方,将来分については,当面,前記(4)認定のとおり,直近の過去3年度の平均値の売上げがあるとしても,近時,競合他社との競争もあって,保護膜形成用材料についての被告の市場占有率がこの2年間弱のうちに急速に低下してきていることなど,前記アの事実から分かるとおり,本件発明2は陳腐化してきており,本件特許権2を有することによる,他社の新規参入を阻止する効果は,将来においては現在より小さくなっていくといわざるを得ない。
よって,これらの事情を総合的に判断すると,本件発明2に係る本件製品の将来の売上高のうち,超過実施分の占める割合は,20%と認めるの96が相当である。
エ 上記イ及びウによれば,本件発明2に係る本件製品の売上高のうち,第三者の実施を排除して独占的に実施した部分(超過実施分)は,それぞれ売上高に上記超過実施分の占める割合を乗じることにより,次の計算式のとおり,合計約20億円(百万円未満四捨五入)と認められる。
45億8600万円×0.4+8億2600万円×0.2≒20億円(6) 実施料実施料率について,原告は,これを20%は下らないと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
社団法人発明協会「実施料率」(第5版,甲82)によれば,有機化学製品の分野において,平成4年度から平成10年度までの実施料率は,イニシャル・ペイメントなしの条件で,15%あるいは45%という高率の契約も各1件ずつ認められるものの,最頻値は3%,中央値は4%である。また,イニシャルありの条件では,17%という高率の契約も1件あるが,最頻値は2%,中央値は3%とされている。
よって,3%をもって相当な実施料率と認める。
(7) 小括以上によれば,被告が受けるべき利益の額は,第三者の実施を排除して独占的に実施したと認められる超過実施分を,第三者に許諾して実施させた場合に得られる実施料であり,次の計算式のとおり,前記(5)認定の超過実施分に前記(6)認定の実施料率を乗じることにより,6000万円と認められる。
20億円×0.03=6000万円4 争点(2)イ(被告が貢献した程度)について(1) 「使用者等が貢献した程度」について法35条4項には「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」97を考慮すべきである旨規定されているが,前記3(1)のとおり,特許を受ける権利承継後に使用者が現実に得た利益をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合においては,考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,「その発明がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。すなわち,「使用者等が貢献した程度」として,具体的には,その発明がされるについての貢献度のほか,その発明を出願し権利化し,さらに特許を維持するについての貢献度,実施品の売上げを得る原因となった販売体制についての貢献度,発明者への処遇その他諸般の事情が含まれるものと解するのが相当である。
(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告においては,従来からの合成ゴム,合成樹脂等の化学工業製品の製造販売等のほか,昭和45年以降,社内でファイン事業と呼称される高機能スペシャリティ品に係る事業分野へのシフトを図り,昭和59年ころから,液晶ディスプレイ等の製造に用いられる材料(表示材料)の研究開発をスタートした。ファイン事業の分野においては,とりわけ,研究開発部門と事業部門のコミュニケーションを良好にし,事業戦略のもとで効率よく新製品開発ができ,かつ,顧客の需要に応じてスムーズに商品供給ができる仕組みが重要であることから,この20年間,当期利益が落ち込んだ時期にあっても,研究開発費の大幅な削減を行わず,全事業部門の研究開発に力を入れてきた(甲35ないし37,乙20)。
イ 被告において,研究開発のテーマ決定は,従来から培ってきた顧客との信頼関係により,情報を入手して将来性を検討した上で行われる。液晶ディスプレイのカラーフィルター材料開発についても,顧客から要求に関する情報を入手し,将来性を検討して,テーマ化が決定された。
このように,被告の主導で開発のテーマ設定及び研究開始の決定をする98ものであって,原告ら研究員一個人が決めるものではなく,本件発明2についても同様である。(乙20)原告らは,昭和59年ころから,被告の東京研究所などで液晶ディスプレイ用の材料の研究にあたっており,原告及びその部下らによって見出された本件発明2は,被告における研究開発の一環として取り組まれたものである。
また,本件発明2は,原告以外の研究員が発明して被告が特許権を取得した本件発明1の改良発明である。
ウ 被告は,研究に必要な機材,設備として,クリーンルームのほか,研究開発の初期段階から,顧客のLCDメーカーと同様の評価のできる機器の導入を行い,ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)やEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)のような1台5000万円を超える微細領域の組成分析装置を設置して,材料の特性や品質の向上を図ってきた。
そして,大量に消費される各種モノマー,感光性化合物,界面活性剤等が常に備えられ,フォトレジストなどの研究開発の結果,それらの特性に関する知識と経験により技術基盤が形成されて,研究部門内部の共通財産として維持されている。(乙20)エ また,被告では,昭和62年7月に研究開発部門の組織を再編し,常時,十数名ないし20名の人員態勢を維持した。そして,ファイン事業分野での重要な要素技術の1つである感光性材料によるリソグラフィ技術を身につけた技術者が育っていた(乙13の1ないし28,乙20)。
オ さらに,特許発明等の権利化にあたっては,被告社内の特許部(知的財産部)が出願のための明細書作成に関する助言,権利化に至るまでの諸手続,先例検索等のバックアップ作業を行っている(弁論の全趣旨)。
また,被告においては,平成9年当時,担当者や出願スケジュールを決99め,特許を計画的に出願し,他社の問題ある特許に対しては異議申立てを行うなどの取組みをしていた(甲80)。
カ 他方,商品のグレード開発や個別のトラブル解決は,被告の顧客との間におけるきめ細かな対応を示すものであり,日常の研究活動の実践における研究員の努力のあらわれである。すなわち,顧客向けに開発して採用された商品であっても,顧客の工場で発生する予期せぬトラブルに対し,担当の研究員が迅速かつ的確に対応することが不可欠であり,トラブルの原因を分析し,対策を施し,改めて最適化に取り組み,技術データを提供することにより,顧客との信頼関係が維持され,開発商品の使用が継続される(乙21)。
キ 原告は,研究開発を担当する東京研究所に所属し,表示材料の研究がその担当職務であり,他の研究員とともに,その職務として本件発明2を発明し,他方,管理職である主査(主任研究員)として処遇され,また,原告は,関係者全員に対する2度の表彰による報奨金として合計2万円前後を受領した(弁論の全趣旨)。
(3) 上記(2)認定の被告の事業内容,被告の研究に関する人的物的体制,原告の職務内容,本件発明2がされた経緯,本件発明2の実施にあたっての被告の対応及び原告の処遇等の諸事情を総合的に勘案すると,本件発明2に関し被告が貢献した程度は,90%を下回ることはないものと認められる。
5 争点(2)ウ(共同発明者間の寄与度)について(1) 職務発明共同発明である場合には,各共同発明者が発明がされるに当たりいかなる寄与をしたのか,また上記発明により被告が利益を得た場合は,その利益獲得に当たっていかなる寄与をしたのかについて,客観的な事実関係に基づき諸般の事情を考慮して,裁判所がその寄与度を認定することができるものというべきである。
(2) 本件発明2については,b,d及び原告の3名によってなされたもので100あるところ,前記2(3)認定の事情を総合的に考慮して,原告の共同発明者間における貢献度は,これを40%と認めるのが相当である。
6 争点(2)エ(対価額)について以上によれば,原告の取得すべき相当の対価の額は,以下の計算式のとおり,前記3認定の被告が受けるべき利益の額から前記4認定の被告が貢献した程度を控除し,前記5認定の寄与度を乗じることにより,240万円となる。そして,前記第2の1(5)のとおり,原告は,被告から,これまで既に,本件発明2の出願時補償金として1250円及び登録時補償金として2500円の合計3750円を受領していることから,これを控除すると,不足する額は239万6250円となる。
6000万円×(1-0.9)×0.4=240万円240万円-3750円=239万6250円7結論したがって,原告の請求は,被告に対し,239万6250円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がないことに帰する。
よって,主文のとおり判決する。
追加
部眞規子裁判長裁判官高平田直人裁判官101田邉実裁判官102(別紙)特許権目録1(本件特許権1)出願国日本国特許番号第2893875号登録日平成11年3月5日出願番号特願平2-162083出願日平成2年6月20日公開日平成4年2月21日発明の名称保護膜形成用材料特許請求の範囲別紙特許請求の範囲目録@のとおり発明者a/b/x/c2(本件特許権2)出願国日本国特許番号第2956210号登録日平成11年7月23日出願番号特願平2-334664出願日平成2年11月30日公開日平成4年7月23日発明の名称熱硬化性樹脂組成物特許請求の範囲別紙特許請求の範囲目録Aのとおり発明者b/d/x/c1033(欠番)4(本件特許権4)出願国日本国特許番号第3321858号登録日平成14年6月28日出願番号特願平4-315406出願日平成4年11月25日公開日平成6年6月7日発明の名称熱硬化性樹脂組成物特許請求の範囲別紙特許請求の範囲目録Bのとおり発明者e/x/c/f5(欠番)6(本件特許権6)出願国日本国特許番号第3101986号登録日平成12年8月25日出願番号特願平4-198741出願日平成4年7月24日公開日平成6年2月18日発明の名称耐熱性感放射線性樹脂組成物特許請求の範囲別紙特許請求の範囲目録Cのとおり発明者e/g/x/f1047(欠番)8(本件特許権8)出願国日本国特許番号第2961722号登録日平成11年8月6日出願番号特願平3-350470出願日平成3年12月11日公開日平成5年7月2日発明の名称感放射線性樹脂組成物特許請求の範囲別紙特許請求の範囲目録Dのとおり発明者e/h/x/c9(欠番)10(欠番)11(本件特許権11)出願国大韓民国特許番号0186810登録日1998年12月30日出願番号1991-010179出願日1991年6月19日優先日1990年6月20日優先権主張日本国特願平2-162083〔=本件特許権1〕発明の名称塗膜形成用材料10512(本件特許権12)出願先欧州特許庁指定国ドイツ連邦共和国,フランス共和国,グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国,オランダ王国特許番号0462840登録日1995年2月15日出願番号91305612.3出願日1991年6月20日優先日1990年6月20日優先権主張日本国特願平2-162083〔=本件特許権1〕発明の名称保護膜形成用材料(Materialforformingcoatingfilm.)13(本件特許権13)出願国アメリカ合衆国特許番号5,364,910登録日1994年11月15日出願番号998,657出願日1992年12月29日優先日1990年6月20日優先権主張日本国特願平2-162083〔=本件特許権1〕発明の名称保護膜形成用材料(MATERIALFORFORMINGCOATINGFILM)14(本件特許権14)106出願国アメリカ合衆国特許番号5,362,597登録日1994年11月8日出願番号888,635出願日1992年5月27日優先日1991年5月30日優先権主張日本国特願平3-153729優先日1991年12月11日優先権主張日本国特願平3-350470〔=本件特許権8〕発明の名称エポキシ基を含有するアルカリ水溶液に可溶な樹脂及びナフトキノンジアジドスルホン酸エステルからなる感放射線性樹脂組成物(RADIATION-SENSITIVERESINCOMPOSITIONCOMPRISINGANEPOXY-CONTAININGALKALI-SOLUBLERESINANDANAPHTHOQUINONEDIAZIDESULFONICACIDESTER)15(本件特許権15)出願国大韓民国特許番号10-0232372登録日1999年9月4日出願番号10-1992-0009256出願日1992年5月29日優先日1991年5月30日優先権主張日本国特願平3-153729優先日1991年12月11日優先権主張日本国特願平3-350470〔=本件特許権8〕107発明の名称感放射線性樹脂組成物16(本件特許権16)出願先欧州特許庁指定国ドイツ連邦共和国,グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国,オランダ王国特許番号0520626登録日1999年3月10日出願番号92304963.9出願日1992年5月29日優先日1991年5月30日優先権主張日本国特願平3-153729優先日1991年12月11日優先権主張日本国特願平3-350470〔=本件特許権8〕発明の名称感放射線性樹脂組成物(Radiation-sensitiveresincomposition)17(本件特許権17)出願国アメリカ合衆国特許番号5,399,604登録日1995年3月21日出願番号94,436出願日1993年7月21日優先日1992年7月24日優先権主張日本国特願平4-198741〔=本件特許権6〕優先日1992年11月25日108優先権主張日本国特願平4-315406〔=本件特許権4〕発明の名称エポキシ基含有樹脂組成物(EPOXYGROUP-CONTAININGRESINCOMPOSITIONS)18(本件特許権18)出願先欧州特許庁指定国ドイツ連邦共和国,フランス共和国,グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国,オランダ王国特許番号0897938登録日2003年12月3日出願番号98121347.3出願日1993年7月23日優先日1992年7月24日優先権主張日本国特願平4-198741〔=本件特許権6〕優先日1992年11月25日優先権主張日本国特願平4-315406〔=本件特許権4〕発明の名称エポキシ基含有樹脂組成物(Epoxygroup-containingresincompositions)109(別紙)特許請求の範囲目録@本件特許権1【請求項1】下記一般式(I)〔式中,R,R,RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を示し,R,Rおよ124735びRはそれぞれ水素原子,炭素原子数1〜12のアルキル基またはアリール基を示6し,Rはフェニル基またはピロリドン残基を示し,lは1以上の整数であり,m,8nおよびkはそれぞれ0または1以上の整数である。〕で表される化合物(イ),芳香族多価カルボン酸,芳香族多価カルボン酸無水物,芳香族多価フェノールおよび芳香族多価アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の多価化合物(ロ),並びに,2級窒素原子および/または3級窒素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物(ハ),を含有することを特徴とする液晶表示用素子における保護膜形成用材料。
110【請求項2】上記化合物(イ),化合物(ロ)及び化合物(ハ)を含有することを特徴とする固体撮影素子における保護膜形成用材料。
【請求項3】上記化合物(イ),化合物(ロ)及び化合物(ハ)を含有することを特徴とするカラーフィルターにおける保護膜形成用材料。
A本件特許権2【請求項1】(a)下記一般式(I),式中,Rは,水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し,1Rは,-COOR-(ここで,Rは,-CH-で表されるアルキレン基であり,ここで233m2mmは1〜8の整数である)で表される2価の基を示す,で表される構成単位と,下記一般式(U)〜(W),111式中,Rは,水素原子またはメチル基,Rは-COO-(R)-(ここで,Rは,炭素4566n数1〜8のアルキレン基または炭素数1〜8のオキシアルキレン基,nは0または1である)で表わされる2価の基を示す,で表される構成単位の群から選択された少なくとも1種の構成単位とを含有する重合体と,(b)多価カルボン酸無水物および多価カルボン酸から選択された少なくとも1種の化合物とを含有してなる熱硬化性樹脂組成物。
B本件特許権4【請求項1】[A-1](a-1)30重量%以下(0重量%を含まない)の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸無水物と,(a-2)20〜50重量%のエポキシ基含有ラジカル重合性化合物と,(a-3)20〜50重量%のモノオレフィン系不飽和化合物との共重合体であり,モノオレフィン系不飽和化合物(a-3)から誘導される構成単位が下記一般式(4)または下記一般式(5)である共重合体が,[B]有機溶媒に溶解されてなることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物:【化1】112【化2】(ここで,式(4)中,Rは水素原子または低級アルキル基であり,1また式(5)中,Rは水素原子または低級アルキル基であり,Rは炭素数1〜612のアルキル基または炭素数5〜12のシクロアルキル基であり,このシクロアルキル基は置換基を有していてもよい。)。
【請求項2】[A-2](a-1)30重量%以下(0重量%を含まない)の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸無水物と,(a-2)20〜50重量%のエポキシ基含有ラジカル重合性化合物と,(a-3)20〜50重量%のモノオレフィン系不飽和化合物と(a-4)5〜15重量%の共役ジオレフィン系不飽和化合物との共重合体であり,該モノオレフィン系不飽和化合物(a-3)から誘導される構成単位が下記一般式(4)または下記一般式(5)である共重合体が,[B]有機溶媒に溶解されてなることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物:113【化3】【化4】(ここで,式(4)中,Rは水素原子または低級アルキル基であり,1また式(5)中,Rは水素原子または低級アルキル基であり,Rは炭素数1〜612のアルキル基または炭素数5〜12のシクロアルキル基であり,このシクロアルキル基は置換基を有していてもよい。)。
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成された硬化膜。
C本件特許権6【請求項1】(A)(a)不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸無水物,(b)エポキシ基を有するラジカル重合性化合物および(c)メタクリル酸アルキルエステル,アクリル酸アルキルエステル,メタクリル酸環状アルキル114エステル,アクリル酸環状アルキルエステル,メタクリル酸アリールエステル,アクリル酸アリールエステル,ジカルボン酸のジエステル,メタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル,スチレン,α-メチルスチレン,ビニルトルエン,p-メトキシスチレン,アクリロニトリル,メタクリロニトリル,塩化ビニル,塩化ビニリデン,アクリルアミド,メタクリルアミドおよび酢酸ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の他のラジカル重合性化合物の共重合体であるアルカリ水溶液に可溶な樹脂であって,該共重合体中の(a)成分の共重合割合が5〜40重量%,(b)成分の共重合割合が10〜70重量%および(c)成分の共重合割合が10〜70重量%である樹脂,(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物および(C)光重合開始剤,を含有することを特徴とする耐熱性感放射線性樹脂組成物。
D本件特許権8【請求項1】(A)(a)不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物,(b)エポキシ基を有するラジカル重合性化合物および(c)他のラジカル重合性化合物(但し,ω-アミノアルキル(メタ)アクリレートを除く)の共重合体であるアルカリ水溶液に可溶な樹脂および(B)感放射線性酸生成化合物を有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物。
115別表1-1別表1-2116別表2117別表3-1別表3-2
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