• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2004-80082
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  創作性(創作) /  製造方法 /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  発明が不明確 /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10614号 審決取消請求事件
原告 株式会社森本製作所
訴訟代理人弁理士鈴江正二
同 木村俊之
被告 ヤマトミシン製造株式会社
訴訟代理人弁理士藤本英夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告( ) 特許庁が無効2004-80082号事件について平成17年6月27日 1にした審決のうち 「本件審判の請求は,成り立たない 」とした部分を取 ,。
り消す。
( ) 訴訟費用は被告の負担とする。 22被告主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「シリンダー型ミシン」とする特許第3401657号(平成6年10月15日出願(以下「本件出願」という ,平成15年2。)月28日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である )に係。
る特許権の特許権者である。
原告は,平成16年6月23日,特許庁に対し,被告を被請求人として,本件特許を無効とすることについて審判の請求をしたところ,被告は平成17年(「 」 。) 2月18日付け訂正請求書による明細書の訂正請求 以下 本件訂正 というをした。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2004-80082号事件として審理した上,平成17年6月27日 「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立 ,たない 」との審決をし,その謄本は同年7月7日に原告に送達された。 。
2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(本件訂正後のもの。以下「本件明細書」という )。
の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし3に係る発明を総称して「本件発明」という 。。)「 請求項1】ほぼ矩形箱状のベッド部主部とこのベッド部主部から側方へ突 【出し,その上面には針板が設けられている筒状のシリンダー部とからなるベッド部を備え,上記シリンダー部に,上記針板の針落ち孔前後に形成された送り歯用溝に対して出没する前送り歯および後送り歯を設け,この前送り歯および後送り歯を取り付けた前送り台および後送り台をそれぞれ送り方向の前後において上下方向に駆動移動させる上下方向駆動機構と前後方向駆動機構との合成により前送り歯および後送り歯を楕円状に循環運動させるように構成してなるシリンダー型ミシンであって,主軸と,この主軸と平行状に配置されて該主軸の一方向回転運動を運動変換機構を介して所定角度範囲内の往復回転運動に変換された第1送り上下軸および第1送り前後軸とが上記ベッド部におけるベッド部主部内の配置に止められる構成で設けられているとともに,上記第1送り上下軸の往復回転運動を上記上下方向駆動機構に伝達する第2送り上下軸と上記第1送り前後軸の往復回転運動を上記前後方向駆動機構に伝達する第2送り前後軸のみが上記ベッド部におけるシリンダー部内に挿通配置される構成で設けられていることを特徴とするシリンダー型ミシン。
【請求項2】ほぼ矩形箱状のベッド部主部とこのベッド部主部から側方へ突出し,その上面には針板が設けられている筒状のシリンダー部とからなるベッド部を備え,上記シリンダー部に,上記針板の針落ち孔前後に形成された送り歯用溝に対して出没する前送り歯および後送り歯を設け,この前送り歯および後送り歯を取り付けた前送り台および後送り台をそれぞれその前後において上下方向に駆動移動させる上下方向駆動機構と前後方向駆動機構との合成により前送り歯および後送り歯を楕円状に循環運動させるように構成してなるシリンダー型ミシンであって,上記ベッド部におけるベッド部主部内に設けた主軸及びこの主軸と平行状に配置されて該主軸の一方向回転運動をベッド部主部内の運動変換機構を介して所定角度範囲内の往復回転運動に変換された第1送り上下軸および第1送り前後軸を上記ベッド部におけるベッド部主部内の配置に止めて設けるとともに,上記第1送り上下軸に連動してその往復回転運動を上記前送り歯および後送り歯の上下方向駆動機構に伝達する第2送り上下軸と,上記第1送り前後軸に連動してその往復回転を上記前送り歯および後送り歯の前後方向駆動機構に伝達する第2送り前後軸のみを,上記ベッド部におけるシリンダー部内に挿通配置して設けていることを特徴とするシリンダー型ミシン。
【請求項3】上記第2送り上下軸が縫製部の送り方向の前後に2本配置され,これら2本の第2送り上下軸を介して上記上下方向駆動機構を上下に駆動することで,前送り歯と後送り歯の上下運動量が同一になるように構成している請求項2に記載のシリンダー型ミシン 」。
3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,原告は,下記のとおり,本件特許につき無効理由1ないし3を主張したが,いずれも認められないとして,本件審判請求は,成り立たないとしたものである。
(無効理由1)本件発明には,課題達成のために,必須構成として,縫い調子の良い位置に配置した構成,シリンダー部が小径化された構成が含まれるべきであるが,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,これらの構成に欠けるので特許法36条(。, 5項2号 平成6年法律第116号による改正前の規定 特許法36条につき以下同じ )に規定する要件を満たしていない。 。
(無効理由2)本件明細書記載のミシンは,筒状のシリンダー部14がベッド部主部13から「一体に突出する」構成とされているため,第1送り上下軸22及び第1送,, , り前後軸23をベッド部主部13内に配置させられず また 第2送り上下軸,「 」 第2送り前後軸についても同様であるから 本件明細書の 発明の詳細な説明は,当業者が容易に発明実施をすることができる程度に記載されていないので,特許法36条4項に規定する要件を満たしておらず,また,本件発明は,各々「ベッド部主部から側方へ突出」するシリンダー部を,その構成に含むところ,シリンダー部がベッド部主部から一体に側方へ突出するミシンについては,実施不能であるので,本件発明は,特許法29条1項柱書(平成11年法律第41号による改正前の規定。特許法29条1項につき,以下同じ )に規。
定する産業上利用することができる発明ではないから,特許を受けることができないものであり,特許請求の範囲は,実施のための要件に欠ける発明を記載していることから,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないので,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない。
(無効理由3)本件特許は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正をした特許出願に対してなされたものではなく,特許法17条の2第2項(平成6年法律第116号による改正前の規定)で準用する特許法17条2項(平成6年法律第116号による改正前の規定)に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり,さらに,新たに対象として加わった,例えば主軸が往復回転運動をするような,一方向回転運動以外の回転運動をするミシンが実施不能であるならば,本件特許は,特許法36条5項2号及び同条4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
原告主張の取消事由の要点
審決は,無効理由1の判断において,技術常識でないものを誤って技術常識と認定判断し,また,無効理由2の判断において,特許法36条5項2号の解釈適用を誤って,特許請求の範囲に記載されていない事項を付加して要件を判断したものであり,これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は違法なものとして取り消されるべきである(原告は,無効理由2のその余の点及び無効理由3についての審決の判断に対しては,取消事由を主張していない 。。)1 取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)( ) 審決は 「シリンダー型ミシンにおける主軸と針板との縫い調子の良い位 1,置関係がどのようなものであるかは,本件明細書の記載を待つまでもなく,本件出願時当業者にとり技術常識であったと認められるので,縫い調子の良い位置関係を特定するための構成を,殊更特許請求の範囲に記載する必要があるとは言えない (審決書12頁7行〜11行)として,無効理由1は 。」認められないとしたが,審決の判断は誤りである。
( ) すなわち,本件発明は,単にシリンダー部を小型化することを目的とする 2,「, ものではなく 主軸を針板に対して縫い調子のよい位置に配置しながらもシリンダー部を小径化して,手首部のような小径縫製物の縫製にも適用することができるシリンダー型ミシンを提供することを目的とする (本件明細」書の段落【0006 )ものであるから,良好な縫い調子を担保する主軸と 】針板との位置関係は,本件発明の目的を達成するために必要不可欠な事項というべきところ,本件明細書の特許請求の範囲にはかかる位置関係は特定されていないため,なぜ本件発明により良好な縫い調子が担保されるのか不明といわざるを得ない。したがって,本件明細書の特許請求の範囲の記載は発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとはいえない。
( ) 審決は 「シリンダー型ミシンにおける主軸と針板との縫い調子の良い位 3,置関係がどのようなものであるかは,本件明細書の記載を待つまでもなく,本件出願時当業者にとり技術常識であった (審決書12頁7行〜9行)と 」認定したが,主軸と針板との縫い調子の良い位置関係が技術常識であったという事実はないから,審決の判断はその前提において誤っている。
被告は,主軸の軸心と針板との間隔が従来から「39mm前後」であったと主張して,乙1〜乙8を提出するが,なぜ「39mm前後」にすれば縫い調子を良好に保てるのか明らかでないし,良好に保てるとする理由が技術常識であるともいえない。そもそも,工業用ミシンの分野においてはコンマ1ミリ(0.1mm)の差は大きな違いを意味するから 「39mm前後」と,大雑把に特定することは到底許されない。また,たとえ実測したとしても,縫い調子に大きな影響を与える要因となるか否かは,製品だけでは判明しない。したがって,主軸の軸心と針板との間隔が「39mm前後」であるからといって,この長さとすることの技術的意義が明らかになるわけではないから,縫い調子の良好な配置関係が技術常識であったとは到底いえない。
( ) また,本件発明は,従来技術よりも往復運動部材を多く備えているから, 4縫い速度の増加(6000spm)に伴う布送り量の変動が大きくなり(甲12,13 ,布送り量の速度依存性ないし往復運動部材の慣性力の影響と )いう技術常識に従えば,従来技術よりも縫い調子の面で劣ると考えるのが合理的である。
,「」,, しかし 主軸の軸心と針板との位置関係は従来技術と変わらず なぜ同じ良好な縫い調子を担保し得るのか不明であり,むしろ,従来技術と同じ良好な縫い調子を担保し得ることは技術常識に反するというべきである。
そもそも,本件明細書の段落【0004 ( 発明が解決しようとする課 】【題 )における「もし,主軸の軸心と針板との配置関係が所定の関係にない 】と,主軸から動力分配されている針棒,ルーパー,送り歯などの動作タイミングに微妙なずれが生じて良好な縫い調子が保てなくなる 」との記載自体。
技術常識に反する。主軸の軸心と針板との配置関係が特定の関係になくても,針棒,ルーパー,送り歯などの動作タイミングを合わせることは,いかようにも可能である。
本件発明では,主軸はベッド部主部内の配置に止められ,従来技術のように送り歯を直接駆動するものではないから,主軸と送り歯との関係は従来技術の場合よりもより間接的になっている。それにもかかわらず,本件発明においても 「主軸の軸心と針板との配置関係」が「所定の関係」にあれば良 ,好な縫い調子が担保されるというのであるすなわち 従来技術における 主 。, 「軸と針板との間隔」は,本件発明では「第2送り上下軸と針板との間隔」に相当すると考えるのが合理的であるところ,本件発明において縫い調子の良好性を担保するのは 「第2送り上下軸と針板との間隔」ではなく 「主軸 ,,と針板との間隔」とされているのである。これは技術常識に反するというべきである。
上記によれば,縫い調子の良好性の担保に関する技術課題を把握することができないため,かかる課題ないし発明の目的に対応する構成が本件明細書の特許請求の範囲に記載されているのか否かを把握することができず,ひいては,本件明細書の特許請求の範囲には,発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない( ) また,本件発明の上記目的からすれば,そもそも主軸と針板との縫い調子 5の良い位置関係というものがどのような構成を指しているのかが明らかでなければならないが,前述のとおり,かかる位置関係が技術常識であったという事実はなく,また,かかる位置関係が具体的にどのような位置関係を意味しているのかについても,特許請求の範囲はもちろん本件明細書において,具体的に記載されていない。
したがって,結果的に,上記目的を達成するための手段も不明というほかなく,本件明細書の特許請求の範囲に記載されている構成を採用すれば上記目的が達成されるということもできないため,この点においても,本件明細書の特許請求の範囲の記載は発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとはいえない。
2 取消事由2(無効理由2の特許法36条5項2号についての判断の誤り)( ) 審決は,無効理由2のうち本件明細書の「特許請求の範囲は,実施のため 1の要件に欠ける発明を記載していることから,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないので,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない」との点について 「ミ,シンフレームを分割成形すること」又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設けること」が技術常識であることを勘案すると,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,必須要件に欠けるとはいえず,特許法36条5項2号,。 に規定する要件を満たしていると判断しているが 審決の判断は誤りである( ) 審決の上記判断によれば,発明の構成に不可欠の事項であってもそれが技 2術常識であれば特許請求の範囲に全く記載する必要はないということになるが,ある事項を特許請求の範囲に記載すべきか否かは,あくまでも発明の目的との関係で決まり,ある事項それ自体が技術常識か否かによって決まるものではない。発明の目的を達成する上で必要不可欠の事項であれば,公知技術周知技術,技術常識であっても特許請求の範囲に記載しなければならないのは当然である。審決は,明らかに特許法36条5項2号の解釈適用を誤ったものである。
( ) 本件発明の目的は 「主軸を針板に対して縫い調子のよい位置に配置しな 3,がらも,シリンダー部を小径化して,手首部のような小径縫製物の縫製にも適用することができるシリンダー型ミシンを提供すること」にあるから(本件明細書の段落【0006 ,そのような縫製が可能となる程度に小型化 】)されたシリンダー部に第2送り上下軸及び第2送り前後軸等を挿通配置することを可能とするベッド部の構成(シリンダー部の構成及びシリンダー部とベッド部主部との関係)は,発明の構成に欠くことができない事項というべきである。
特に,本件発明の対象は「ミシンの下送り機構」ではなく「シリンダー型ミシン」自体なのであるから,特許請求の範囲についても 「ミシンの下送,り機構」ではなく「シリンダー型ミシン」の構成として,発明の目的を達成するために必要かつ十分に記載されているか否かという観点から判断しなければならない。そして,本件発明においては 「シリンダー部」と「ベッド ,部主部」とを別体に構成しなければ「小型化されたシリンダー部」を有するベッド部に第1送り上下軸,第1送り前後軸,第2送り上下軸及び第2送り前後軸を挿通配置することができないから 「シリンダー部」と「ベッド部 ,主部」とを別体に構成することは,本件発明の「シリンダー型ミシン」の構成に欠くことができない事項である。
特許請求の範囲に記載された用語や語句の意味を技術常識参酌して解釈することが許される場合があるとしても 「ミシンフレームを分割成形する ,こと」又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設けること」という,特許請求の範囲に記載されていない事項を付加して初めて特許請求の範囲が必須要件に不足のない十分な記載となるのであれば,その付加された技術事項はそもそも必須要件であったというべきであり,発明の構成に欠くことができない事項というべきである。
なお,審決が技術常識として勘案した甲4〜10(審判における乙4〜6及び乙8〜11)は,従来のミシンの構成を示すにすぎず,本件発明によって達成された「小型化されたシリンダー部」の構成としては,上記証拠は何ら参考にならない。
また,被告は 「ミシンフレームを分割成形すること」又は「ベッド部主 ,部やシリンダー部に開口部を設けること」は当業者にとっては技術常識以外のなにものでもない旨を主張するが 「発明の構成に欠くことができない事 ,項」か否かは発明の目的との関連で決まり,当該事項が技術常識であれば当然に特許請求の範囲に記載する必要がなくなるわけではない。被告の上記主張自体 「ミシンフレームを分割成形すること」又は「ベッド部主部やシリ ,ンダー部に開口部を設けること」等の措置が不可欠であることを前提としており,これらの事項が発明の構成に欠くことができない事項であることを自認するものである。
( ) 被告は,本件発明は「製造方法」に係る発明ではないから 「ミシンフレ 4 ,」「 」 ームを分割成形する 又は ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設けるという事項は本件発明の構成に欠くことができない事項ではない旨を主張する。しかし,審決は,本件発明が「物」の発明であって「製造方法」に係る発明ではないという事実に基づいて,それらの事項が発明の構成に欠くことができない事項ではないと認定判断したものではないから,被告の主張は審決に基づかないものである。
また,本件発明の目的に鑑みれば「物」の発明であっても 「ミシンフ ,,レームを分割成形する」又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設ける」という事項は発明の構成に欠くことができない事項であるというべきである。単に「物」の発明であれば前記事項は必須要件ではないとする被告の主張は,失当というほかない。
なお 「ミシンフレームを分割成形する」ことに関する構成(別体に構成 ,されたベッド部主部とシリンダー部とを備えること)又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設ける」ことを特許請求の範囲に記載することが直ちに本件発明の「物」の発明としての本質を失わせることにはならない。
被告は,内部機構の組込み手段やミシンベッド部の製作手段は,付随的,二次的な技術項目である旨を主張する。しかし,従来技術では達成できなかった程度に小径化されたシリンダー部に第2送り上下軸及び第2送り前後軸等を挿通配置することを可能とするベッド部の構成(特にシリンダー部の構成)は発明の構成に欠くことができない事項に該当するものであって,付随的ないし二次的な技術事項ということはできない。
被告の主張の骨子
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について( ) 本件発明の目的は,主軸と針板との位置関係の配置を改良して縫い調子を 1向上させることではなく,主軸と針板とを従来と同様な縫い調子の良い位置関係に担保しながらも 「シリンダー部を小型化すること」である(本件明 ,細書の段落【0004 【0005 。】,】)すなわち,従来のシリンダー型ミシンにおいて,主軸を送り歯の駆動に適した位置に配置してシリンダー部にまで延出する場合は,良好な縫い調子が得られず,また,主軸を縫い調子の良い位置に配置してシリンダー部まで延出する場合は,該シリンダー部内に設置すべき運動変換機構の配置に制約が生じてシリンダー部を小型化し得ないという二律背反的な課題があり,このような課題を解消すること,すなわち,主軸と針板との縫い調子の良い位置関係を担保しながら 「シリンダー部を小型化すること」を目的とするので ,あって,縫い調子を向上させるために主軸と針板との位置関係を特に改良したのではなく,あくまでも従来の技術常識を勘案して,主軸とこれに連動する第1,第2送り上下軸及び送り前後軸との配置構成に工夫を施したものである。
主軸と針板との縫い調子の良い位置関係がどのような構成を指しているかが明らかでなければならないとするのは,本件発明についての原告の誤認に基づくものである。
( ) シリンダー型ミシンにおいて,主軸と針板との縫い調子の良い位置関係と 2して 主軸の軸心と針板 特に 針落ち孔 とを上下方向に一定の間隔 距 ,「(,) (離寸法)を隔てて配置する」ことは,本件出願時から当業者にとって技術常識であり,現在でもミシンメーカー各社におけるシリンダー型ミシンの設計,() 。 製作に当たって この位置関係は最優先事項として採用されている 乙1ちなみに,縫い調子が良いとされる上記間隔(距離寸法)は,39mm前後である。
すなわち,乙2〜乙4に記載の「中筒タイプのシリンダー型ミシン」においては,いずれも,主軸と針板との上下方向の間隔が,実測値において39mm前後に設定(設計)されており(乙1 「シリンダー型ミシンにおい ),て主軸と針板との縫い調子の良い位置関係」という意味合いはもとより,その構成も当業者が本件出願前から認識しており,そのような位置関係は技術常識である。
また,乙5〜乙8(乙6が本件発明の実施品)に記載の「細筒タイプのシリンダー型ミシン」においても,主軸と針板との上下方向の間隔が,実測値において39mm前後に設定(設計)されており 「シリンダー型ミシンに ,おいて主軸と針板とを,縫い調子の良い位置関係に配置」するに当たって,現在においても,従来より周知の技術常識が踏襲されている。
,, ,「. なお 乙2〜乙8では 主軸の軸心と針板との間隔値において 最大で 08mm」の差異があるが,ミシンにおいて少数点以下のmm単位での寸法差異は生産技術の上からも,またミシンメーカー各社が独自色を出すための設計変更などによっても往々に発生していることであり,製品性能が致命的に低下しない範囲で実施される設計事項である。
原告は,本件発明において縫い調子の良好性を担保するのは「主軸の軸心と針板との間隔」ではなく 「第2送り上下軸と針板との間隔」であると考 ,えるのが合理的である旨を主張するが 「第2送り上下軸と針板との間隔」 ,は,ミシンにおいて縫目を形成する上で必要不可欠な針,ルーパー,針板の関係が満たされれば,前・後送り台のコンパクト化を図るという目的に則す,, るように 両送り歯の作動に適した任意の位置に配置することができるから設計的事項にすぎない(本件明細書の段落【0022 。】)( ) 原告は,布の送り量に変動がないことが良好な縫い調子を担保するための 3唯一無二のファクターであるかのようにいうが,本件発明において 「良好,な縫い調子を保つ」上での必要事項は,主軸とこの主軸から動力分配されている針棒,ルーパー,送り歯などの動作タイミングであり(本件明細書の段落【0004 ,なかでも,針棒(詳しくは該針棒の下端部に取り付けら 】)れている針 ,ルーパーの動作タイミングが最も重要であって,送り歯の動 )作タイミングは縫目形成に支障を来たさないものであればよい。また,布送り量の変動は,縫い調子に影響を与えるとしても悪影響を与えると断定するほどのものではない。縫目形成に問題がなく,仕上がり具合が総合的にみて極端に悪化する以外は容認される。
また,原告は,布送り量の速度依存性ないし往復運動部材の慣性力の影響により,本件発明においては,縫い調子が劣ることになる旨を主張するが,「シリンダー部を小型化する」ため,その内部に配置される部材が小型化,小径化され,それに伴って各部材の重量も小さくなるから,部材数が多少増えるとしても,それらに作用する慣性力が増大し,その影響で布送り量が増大するということはほとんど考えられない。
なお,原告は,本件発明の縫い速度が,6000spm前後と述べるが,本件明細書には,そのような縫い速度及び数値の記載はなく,本件発明の実施品は,最高回転速度が4500spmである(乙10 。)2 取消事由2(無効理由2の特許法36条5項2号についての判断の誤り)について( ) 本件発明は,シリンダー型ミシンという「物」の発明であって,シリンダ 1ー型ミシンの「製造方法」に係る発明ではないから 「ミシンフレームを分 ,割成形する」又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設ける」という事項は 「物」の発明に関する本件発明の構成に欠くことができない事項で ,はない。
これらが,本件発明の構成に欠くことができない事項だとすると 「製造,方法」の場合に要求される経時的な要件(構成)をも特許請求の範囲に記載されていなければならないということになり,そうすると 「物」の発明に,関する特許請求の範囲の記載が不明確になることは避けられないことになる。特許法36条5項2号は 「発明の構成に欠くことができない事項」以 ,外のものを記載してはならないことを規定しているのであって 「物」の発,明において,その「物の製造方法」までを記載することを要求しているものではない。
( ) また,本件発明においては,主軸とこれに連動する第1送り上下軸及び第 21送り前後軸とがベッド部主部内に配置されているとともに,第2送り上下軸及び第2送り前後軸のみがシリンダー部内に挿通配置されているという内部機構の配置構造自体が「物」としての本件発明の本質であり,内部機構の組込み手段やミシンベッド部の製作手段は,目的とする内部機構の配置構造が完成した段階で,経済性や生産性などを念頭に置いてどのようにするのが最良であろうかと検討し試作し完成へと至る付随的,二次的な技術項目である。そして,そのとき,まず念頭に浮かぶのが「ミシンフレームを分割成形すること」又は「ベッド部主部やシリンダー部に開口部を設けること」であるが,それ以外にも,その内部機構の配置構造に対応して当業者がそれに合った各種の手段を創作することも当然に考えられる。これらはいずれも当該技術分野における通常一般的な生産技術の範囲に属するものであって,当業者にとっては技術常識以外のなにものでもない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について( ) 原告は,審決が,シリンダー型ミシンにおける主軸と針板との縫い調子の 1良い位置関係は技術常識であって,殊更特許請求の範囲に記載する必要はないとして無効理由1を排斥したのは誤りであると主張する。
原告が,審決の上記判断を誤りとする理由は,本件発明は,単にシリンダー部を小型化することを目的とするものではなく 「主軸を針板に対して縫 ,い調子のよい位置に配置しながらも,シリンダー部を小径化して,手首部のような小径縫製物の縫製にも適用することができるシリンダー型ミシンを提供することを目的とする (本件明細書の段落【0006 )ものであるか 」】ら,良好な縫い調子を担保する主軸と針板との位置関係は本件発明の目的を達成するために必要不可欠な事項というべきところ,本件明細書の特許請求の範囲にはこのような位置関係は特定されておらず,しかも,シリンダー型ミシンにおける主軸と針板との縫い調子の良い位置関係は技術常識でないから,なぜ本件発明のように構成すれば良好な縫い調子が担保されるのかが不明であり,本件明細書の特許請求の範囲の記載は発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとはいえないというものである。
( ) 特許法36条5項1号,2号には,特許請求の範囲の各請求項には,発明 2の詳細な説明に記載された発明であって,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨規定されている。しかし,特許を受けようとする発明の内容自体は,特許請求の範囲の請求項の記載に基づいて確定すべきであって,請求項の記載を離れて,発明の詳細な説明に記載された発明の目的,構成,効果から,特許を受けようとする発明を特定することは許されず,また,請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が明確に把握できるのであれば,請求項にそれ以上の事項を記載することは求められないと解するのが相当である。
( ) そこで,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の記載をみるに,前記第2 3の2のとおり,その各請求項には,次のように記載されている。
「 請求項1】ほぼ矩形箱状のベッド部主部とこのベッド部主部から側方へ 【突出し,その上面には針板が設けられている筒状のシリンダー部とからなるベッド部を備え,上記シリンダー部に,上記針板の針落ち孔前後に形成された送り歯用溝に対して出没する前送り歯および後送り歯を設け,この前送り歯および後送り歯を取り付けた前送り台および後送り台をそれぞれ送り方向の前後において上下方向に駆動移動させる上下方向駆動機構と前後方向駆動機構との合成により前送り歯および後送り歯を楕円状に循環運動させるように構成してなるシリンダー型ミシンであって,主軸と,この主軸と平行状に配置されて該主軸の一方向回転運動を運動変換機構を介して所定角度範囲内の往復回転運動に変換された第1送り上下軸および第1送り前後軸とが上記ベッド部におけるベッド部主部内の配置に止められる構成で設けられているとともに,上記第1送り上下軸の往復回転運動を上記上下方向駆動機構に伝達する第2送り上下軸と上記第1送り前後軸の往復回転運動を上記前後方向駆動機構に伝達する第2送り前後軸のみが上記ベッド部におけるシリンダー部内に挿通配置される構成で設けられていることを特徴とするシリンダー型ミシン。
【請求項2】ほぼ矩形箱状のベッド部主部とこのベッド部主部から側方へ突出し,その上面には針板が設けられている筒状のシリンダー部とからなるベッド部を備え,上記シリンダー部に,上記針板の針落ち孔前後に形成された送り歯用溝に対して出没する前送り歯および後送り歯を設け,この前送り歯および後送り歯を取り付けた前送り台および後送り台をそれぞれその前後において上下方向に駆動移動させる上下方向駆動機構と前後方向駆動機構との合成により前送り歯および後送り歯を楕円状に循環運動させるように構成してなるシリンダー型ミシンであって,上記ベッド部におけるベッド部主部内に設けた主軸及びこの主軸と平行状に配置されて該主軸の一方向回転運動をベッド部主部内の運動変換機構を介して所定角度範囲内の往復回転運動に変換された第1送り上下軸および第1送り前後軸を上記ベッド部におけるベッド部主部内の配置に止めて設けるとともに,上記第1送り上下軸に連動してその往復回転運動を上記前送り歯および後送り歯の上下方向駆動機構に伝達する第2送り上下軸と,上記第1送り前後軸に連動してその往復回転を上記前送り歯および後送り歯の前後方向駆動機構に伝達する第2送り前後軸のみを,上記ベッド部におけるシリンダー部内に挿通配置して設けていることを特徴とするシリンダー型ミシン。
【】 , 請求項3 上記第2送り上下軸が縫製部の送り方向の前後に2本配置されこれら2本の第2送り上下軸を介して上記上下方向駆動機構を上下に駆動することで,前送り歯と後送り歯の上下運動量が同一になるように構成している請求項2に記載のシリンダー型ミシン 」。
( ) 本件明細書の上記各請求項の記載によれば 「針板」はベッド部を構成す 4 ,る筒状のシリンダー部の上面に設けられ 「主軸」はベッド部を構成するベ ,ッド部主部内に当該ベッド主部内の配置に止めて設けられるものであることが,また 「針板」の送り歯用溝に対して前送り歯及び後送り歯が出没し, ,この前送り歯及び後送り歯は 「主軸」の一方向回転運動がベッド部主部内 ,に配置された「第1送り上下軸および第1送り前後軸」の往復回転運動に変換され 「第1送り上下軸の往復回転運動」がシリンダー部内に配置された ,「第2送り上下軸」により「前送り歯および後送り歯の上下方向駆動機構」に 「第1送り前後軸の往復回転(運動」がシリンダー部内に配置された ,)「第2送り前後軸」により「前送り歯および後送り歯の前後方向駆動機構」に伝達されることにより,楕円状に循環運動させるようにされていることが認められる。
上記認定によれば,本件発明における「針板」と「主軸」とは,それぞれがベッド部における「シリンダー部の上面 「ベッド部主部内」に配設さ 」,れており 「主軸」の運動が「針板」の送り歯用溝に対して出没する前送り ,歯及び後送り歯の楕円状の循環運動に変換伝達されるという関係を有するこ(, とが明確に理解できものであり 請求項に記載されていない事項を付加してこれらをより技術的に限定して解釈することは許されない ,特許を受け。)ようとする発明の構成として欠けるところがあるということはできない。
( ) したがって,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明に 「 0004 【発 5 ,【 】明が解決しようとする課題】ところで,シリンダー型ミシンにあっては,主軸の軸心と針板との関係を,縫い調子を良好にすることから,一定の配置関係,特に上下方向に一定の間隔を隔てて配置することが望ましい。もし,主軸の軸心と針板との配置関係が所定の関係にないと,主軸から動力分配されている針棒,ルーパー,送り歯などの動作タイミングに微妙なずれが生じて良好な縫い調子が保てなくなる 【0005】ところが,従来のシリンダー 。
型ミシンにおいては,上記送り歯を駆動するための動力伝達機構の一部としてシリンダー部にまで延出されている主軸を送り歯の駆動に適した位置に配置する場合は,該主軸と針板とが縫い調子の良好な位置関係に配置されないために,縫い調子のよい作動状態が得られず,また,逆に上記主軸を針板に対して縫い調子の最もよい位置関係に配置する場合は,主軸と送り歯の駆動装置との間の運動変換機構を,主軸の端部や送り台の周辺に設置する必要があり,それにともなって,シリンダー部を小さくしようとしても,それには自ずと制約があり,手首部のように径の小さい縫製物はシリンダー部に嵌めることができず,縫製物の適用範囲が限定されるという課題があった 【0。
006】この発明は上記の実情に鑑みてなされたもので,主軸を針板に対して縫い調子のよい位置に配置しながらも,シリンダー部を小径化して,手首部のような小径縫製物の縫製にも適用することができるシリンダー型ミシンを提供することを目的とする 」と記載され,主軸を針板に対して縫い調子 。
の良い位置に配置することが目的の一つである旨の説明がされているとしても,特許請求の範囲に,この目的に沿った構成として,主軸と針板との特定の位置関係を記載する必要はないというべきである。
( ) 原告は,シリンダー型ミシンにおける主軸と針板との縫い調子の良い位置 6関係は技術常識ではないから,審決が,かかる技術常識を前提に,その位置関係を特許請求の範囲に記載する必要がないと判断したのは誤りである旨を主張する。
確かに,本件明細書(甲2)には,主軸の軸心と針板との関係を,一定の配置関係,特に上下方向に一定の間隔を隔てて配置することが望ましい旨が記載されているものの(段落【0004,望ましいとされているだけで 】)あり,この配置関係と,針棒などの動作タイミングのずれとの関係は明らかでないから,上記記載から,上記配置関係が技術常識であると認めることはできない。また,乙2〜乙8には,多くの機種における上記一定の間隔が39o前後であることが記載されているものの,この間隔が縫い調子を良くするために採用されているものであるかどうかは明らかでないし,他にこの一定の配置関係が技術常識であると認めるに足る証拠はない。
したがって,審決が,上記縫い調子の良い位置関係が技術常識であることを根拠として,特許請求の範囲に当該位置関係を記載する必要がないと説示したことは誤りといわざるを得ない。
,, () しかし 上述したとおり 本件発明に係る特許請求の範囲 請求項1〜3の記載において,本件発明における主軸と針板について不明確な点は存在しないのであるから,それ以上に主軸と針板との位置関係を特定する必要はないのであるし,そもそも,本件明細書の各請求項に記載された発明との関係において,主軸と針板との縫い調子の良い位置関係が問題とされる余地はなく,かかる位置関係が技術常識であるかどうかは,各請求項の記載とは無関係である。したがって,上記位置関係が技術常識であるかどうかを問うまでもなく,本件明細書の特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないということはできないものであるから,審決の上記説示の誤りは審決の結論に影響しないものである。
( ) 原告は 「縫い調子」の良い位置関係というものがどのような構成を指し 7,ているのかが不明である上,技術常識でもなく,また,本件発明においては技術常識に照らして「縫い調子」が劣るものとなるはずであるから,本件明細書の特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない旨縷々主張する。しかし 「縫い調子」の良い構成について,特許 ,。, 請求の範囲に記載する必要がないことは上述したとおりである したがって原告の上記主張は,本件明細書の特許請求の範囲に発明の構成に欠くことができない事項が記載されているか否かという無効理由1とは,無関係であるが,念のため原告の上記主張について付言しておくこととする。
弁論の全趣旨によれば 「縫い調子」とは 「布地の縫い上がりの総称で, ,,糸調子 布縮み 縫い目の配列などのでき上がりをいう ものと解され J ,, 」 (「IS用語辞典 繊維編 (1978年11月1日)621頁 ,縫い上が VI」)り品の品質に関する定性的な判断基準であると認められるところ,ミシンにおいては,その維持,向上が要請されるものであることは明らかである。したがって,本件発明を実施するに当たっても,当然に「縫い調子」の良いものが設計,製造されることになるが,仮に「縫い調子」を維持,向上させるための技術常識が存在するなら,当業者はその技術常識を考慮するはずであるし,技術常識というものが存在しないとしても,製品化の段階において,「」 。 縫い調子 を良くするように試行錯誤しつつ具体的設計を図るものであるすなわち 「縫い調子」は,あくまでも定性的な判断基準にすぎず,本件発 ,明を実施化する段階において主軸と針板との位置関係を含めて,適宜設計できるものというべきであるから 「縫い調子」の良い構成が不明であり,本 ,件発明においては「縫い調子」が劣るものとなるはずである旨の原告の主張は,にわかに採用することのできないものである。
2 取消事由2(無効理由2の特許法36条5項2号についての判断の誤り)について( ) 原告は,ある事項を特許請求の範囲に記載すべきか否かは,あくまで発明 1の目的との関係で決まり,ある事項それ自体が技術常識か否かによって決ま,, るものではないから 発明の目的を達成する上で必要不可欠の事項であれば公知技術周知技術,技術常識であっても特許請求の範囲に記載しなければならないのは当然であり,審決は特許法36条5項2号の解釈適用を誤っている旨を主張する。
しかし,特許を受けようとする発明の内容自体は,特許請求の範囲の請求項の記載に基づいて確定すべきであって,請求項の記載を離れて,発明の詳細な説明に記載された発明の目的,構成,効果から,特許を受けようとする発明を特定することが許されないことは,既に説示したとおりである。原告の上記主張は,独自の見解を前提としたものであって,採用できない。
( ) 原告は,本件発明において 「シリンダー部」と「ベッド部主部」とを別 2 ,体に構成しなければ「小型化されたシリンダー部」を有するベッド部に第1送り上下軸,第1送り前後軸,第2送り上下軸及び第2送り前後軸を挿通配置することができないから 「シリンダー部」と「ベッド部主部」とを別体 ,に構成することは,本件発明の「シリンダー型ミシン」の構成に欠くことができない事項であると主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明において 「針板」はベッド部を構成す ,る筒状のシリンダー部の上面に設けられ 「主軸」はベッド部を構成するベ ,ッド部主部内に当該ベッド主部内の配置に止めて設けられるものであることが,また 「針板」の送り歯用溝に対して前送り歯及び後送り歯が出没し, ,この前送り歯及び後送り歯は 「主軸」の一方向回転運動がベッド部主部内 ,に配置された「第1送り上下軸および第1送り前後軸」の往復回転運動に変換され 「第1送り上下軸の往復回転運動」がシリンダー部内に配置された ,「第2送り上下軸」により「前送り歯および後送り歯の上下方向駆動機構」に 「第1送り前後軸の往復回転(運動」がシリンダー部内に配置された ,)「第2送り前後軸」により「前送り歯および後送り歯の前後方向駆動機構」に伝達されることにより,楕円状に循環運動させるようにされていることが認められる。そして,特許請求の範囲の各請求項には 「第2送り上下軸」,と「第2送り前後軸」のみがシリンダー部内に挿通配置される構成とすることが記載されているところ,上記の構成により 「第2送り上下軸および第 ,2送り前後軸を収納するシリンダー部をできるだけコンパクトかつ小径化することが可能となり,このシリンダー部に嵌め込んで縫製される筒状縫製物の最小径を小さくすることができる(甲2。本件明細書の段落【001 。」0 )ものと認められる。 】上記認定によれば,本件発明において 「シリンダー部」と「ベッド部主 ,部」とは「ベッド部」を構成しており 「ベッド部主部」には「主軸」及び ,「第1送り上下軸および第1送り前後軸」が設けられ 「シリンダー部」に,「」「 」 , は 第2送り上下軸 及び 前送り歯および後送り歯の上下方向駆動機構並びに「第2送り前後軸」及び「前送り歯および後送り歯の前後方向駆動機構」が設けられていると解され,それ以上に「シリンダー部」と「ベッド部主部」とを特徴づける記載は見当たらない。
すなわち,請求項に係る発明は,請求項に記載された事項に基づいて把握すべきであるところ,本件発明に係る各請求項には 「主軸」等の組み付け ,工程が構成に欠くことができない事項とされているわけではなく また 主,,「軸」等の空間的な配置が特定されているわけでもない。
そうであれば,本件発明において,主軸等が組み付けられるかどうかが問題となることはなく,その請求項に「シリンダー部」と「ベッド部主部」とを別体とすることが記載されていなくとも,本件発明が不明確となることは,「」「」 , ないから シリンダー部 と ベッド部主部 とを別体に構成することは本件発明の「シリンダー型ミシン」の構成に欠くことができない事項であるとはいえない。
( ) 審決は,ミシンフレームを適宜複数のパーツに分割して成形し,内部機構 3を組み込んだ後,これらを溶接やボルト締結手段等により一体に組み立て,結合すること,及び,ベッド部主部やシリンダー部に,内部機構組み込みのための開口部を適宜設けて成形することが技術常識であることを勘案すると,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項に欠けるとはいえないから,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしている旨判(,,) 。 断している 審決書13頁9行〜15行20行〜24行 35行〜38行しかし,上述のとおり 「シリンダー部」と「ベッド部主部」とを別体に ,構成することは,本件発明の「シリンダー型ミシン」の構成に欠くことができない事項であるとはいえないから,これらを別体に構成するための手段としての上記各事項が技術常識であるか否かは,特許請求の範囲に必要な事項が記載されているか否かの判断とは本来無関係なものであり,それらが技術常識であるかどうかを勘案するまでもなく,本件明細書の特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないということはできないものである。
そうすると,審決の上記説示は必ずしも適切とはいえないが,本件明細書の特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項に欠けるとはいえないとした審決の判断は,結論において相当,。 であり 審決の上記説示の不適切な点は審決の結論に影響しないものであるなお,付言するに,甲4〜10(審判における乙4〜6,乙8〜11)の記載によれば,上記各事項が技術常識であるとした審決の判断自体に誤りはない。
3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
  • この表をプリントする