運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議2003-71806
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10338号 特許取消決定取消請求事件
原告 セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁理士 阿部龍吉,蛭川昌信,内田亘彦,菅井英雄,青木健二,韮 澤弘,米澤明
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 井出和水,山下喜代治,立川功,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-71806号事件について平成16年8月24日にした決定を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯( ) 本件特許(甲第2号証) 1特許権者:セイコーエプソン株式会社(原告)発明の名称: 画像形成装置」「特許出願日:平成5年10月14日(特願平5-257285号)設定登録日:平成14年11月8日特許番号:特許第3367533号( ) 本件手続2特許異議事件番号:異議2003-71806号訂正請求日:平成16年7月29日(甲第4号証)異議の決定日:平成16年8月24日決定の結論: 訂正を認める。特許第3367533号の請求項1に係る特許を 「取り消す 」。
決定謄本送達日:平成16年9月13日(原告に対し)2 本件発明の要旨決定が対象とした発明(平成16年7月29日付け訂正請求後の請求項1に記載された発明であって 下線部分が上記訂正に係る部分である 以下 この発明を 本 ,。,「件発明」という。なお,請求項の数は1個である )の要旨は,以下のとおりであ 。
る。
「転写後の支持体上のトナー画像を少なくとも熱により定着を行う定着器を備えた画像形成装置において,前記定着器は,回転しながら熱による定着を行う定着部材とこの定着部材のまわりに接触する接触部材とを有する定着器からなり,現像器によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系,前記トナー循環系および前記定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系,および前記定着部材を加熱した後に前記駆動モータの駆動を開始する制御装置を備えており,前記駆動モータは,スローアップ,スローダウン及び定速回転に駆動制御されるステップモータであり,前記制御装置は,前記定着部材の温度がトナー固着解除温度になったときに前記駆動モータの駆動を開始することを特徴とする画像形成装置 」。
3 決定の理由の要点決定の理由は,以下のとおりであり,要するに,本件発明は,下記刊行物1に記載された発明(以下「引用発明1」という)及び刊行物2〜4に記載された周知 。
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
刊行物1:特開平5-35148号公報(甲第5号証)刊行物2:特開昭54-89742号公報(甲第6号証)刊行物3:特公平1-40351号公報(甲第7号証)刊行物4:特開昭63-26674号公報(甲第8号証)( ) 刊行物に記載された発明 1刊行物1には,以下に列挙する事項が記載されている。
(a)【0001】「本発明は,電子写真装置等において,加熱ローラ及び加圧ローラからなる一対の定着ローラを用いて像担持体上のトナー像を定着する画像形成装置における定着装置に関する 」。
(b)【0012】〜【0014】「そして定着ローラ27は,加熱手段であるヒータ27aを内蔵し,アルミニウム素管表,( ) , 面に PTFE ポリテトラ・フルオロエチレン をコーティングした加熱ローラ27b及び金属製ローラ芯29aの外周に耐熱性シリコンゴム29bを形成し,表面にPTFEからなるチューブを被せた加圧ローラ27cとから成り,いずれも直径約50[mm]とされている。
この加圧ローラ27cは,加圧スプリング(図示せず)により加熱ローラ27bに加圧接触されている。又,加熱ローラ27bは駆動手段である装置本体1のメインモータ70によりメインベルト71,サブメインベルト72,第1乃至第3のギア73a〜73cを介し回転され,加圧ローラ27cもこれに圧接し従動回転される様になっている。更にメインモータ70は第2のギア73bからドラムベルト74,ドラムドライブギア75を介し感光体ドラム10を駆動する一方,サブメインベルト72から現像ユニットドライブギア76,スリーブギア77を介し現像装置13の現像スリーブ13aやミキサ13b,13c等を駆動し,更に第3のギア73cから第4のギア73d,搬送ベルトギア78を介し搬送ベルト26を駆動可能としている。又,加熱ローラ27bのリア側表面には加熱ローラ27b表面の温度を検知し,検知温度を電圧に変換しヒータ制御装置32に入力する検知手段であるサーミスタ33が接触されている。更に,34は剥離爪,36はクリーニングフェルトである 」。
(c)【0018】〜【0021】「次に図7を参照して作用について説明する。室温が18〜25[℃]の常温の範囲である場合には,装置本体1の設置時等サービスマンコードにおいて,プレラン選択キー51をオン状態に設定し,更に,テンキー47より,プレラン開始時間60[sec ,プレラン終了]時間90[sec]を入力しておく。尚,この設定時間の調整は,例えば外気が低温である場合には,プレラン開始時の加熱ローラ27b温度が常温時と同程度になるよう,プレラン開始時間を常温時より多少長く設定する一方,外気が高温である場合には,逆にプレラン開始時間を常温時より短く設定等すれば良い。更に高温時プレランが不要であれば,プレラン選択キー51をオフ状態に設定しておき,プレランを行なわない様にしても良い。この様な状態で電源を投入すると,制御装置38の起動によりウォーミングアップが開始される。即ち,制御装置38を介しヒータ制御装置32によりヒータ27aがオンされ,加熱ローラ27bの表面温度は室温例えば25[℃]から図6に示す様な温度勾配で温度上昇される事となる。これと同時にカウンタパルス発振装置44が作動される。そして制御装置38が,カウタパルス発振装置44からのパルスをカウントし,ヒータ27aオン後,一定時間である60[sec]を経過した旨を検知し,サーミスタ33からの入力が230[℃]に達していない旨を検知すると,制御装置38は,メインモータ70を駆動し,メインベルト71,サブメインベルト72,第1乃至第3のギア73a〜73cを介し加熱ローラ27bを矢印r方向に回転する。これにより加圧ローラ27cは,加熱ローラ27bに従動し矢印s方向に回転され,既に約85[℃],。 に温度上昇された加熱ローラ27b表面からの熱伝導により 表面全体が加熱される事となる尚,この定着ローラ27のプレランの間,コピー操作中では無いものの,各ベルトやギアを介し感光体ドラム10,現像装置13,搬送ベルト26がメインモータ70により駆動されている」。
(d)【0032】「尚,ウォームアップ開始からプレラン開始迄60[sec]を経過しており,加熱ローラ27b表面は,約80〜90[℃]に加熱されており,前の定着時にオフセットされたトナーも溶融され,クリーニングフェルト38に拭き取られる事から,プレラン時に,固化したトナーにより定着ローラ27表面が損傷されるおそれも無い 」。
したがって,上記記載事項および第3図の記載からみて,刊行物1には,以下のとおりの事項(以下 「引用発明1」という )が記載されていると認める。 ,。
「転写後の支持体上のトナー画像を少なくとも熱により定着を行う定着器を備えた画像形成装置において,前記定着器は,回転しながら熱による定着を行う加熱ローラ27bとこの定着部材のまわりに接触する剥離爪34およびクリーニングフェルト36とを有する定着器からなり,トナー画像を形成する部位に設けられた現像装置および前記定着器をともに駆動する1つのメインモータ70を少なくとも有する駆動系,および前記加熱ローラ27bを加熱した後に前記メインモータ70の駆動を開始する制御装置を備えており,前記制御装置は,前記加熱ローラ27bの温度がトナーが溶融するに足る温度になるよう設定された時期に前記メインモータ70の駆動を開始することを特徴とする画像形成装置 」。
刊行物2には,以下に列挙する事項が記載されている。
(e) 公報1ページ右下欄1〜3行目「本発明は…被現像体の潜像を現像する工程を有した像形成装置に関し 」,(f) 公報3ページ右上欄7行目〜左下欄8行目「…現像に寄与された現像剤は…戻しスクリュー15により搬送され…上記搬送された現像剤の一部をクリーニング手段への送りスクリュー17に落下させる。…送りスクリュー14に受け渡された現像剤は,…スリーブ8上に吸引されて現像に寄与する。また,…送りスクリュー17上に落下した現像剤は,該スクリュー17によりクリーニング手段9の送りスクリュー18の下部まで導かれる 」。
(g) 公報3ページ右下欄10行目〜4ページ左上欄6行目「…クリーニング手段9においてクリーニングに寄与した現像剤は…クリーニング手段9の長手方向に沿って搬送され,クリーニング手段容器の略端部で…その一部を現像手段4への送りスクリュー25上に落下させる。上記送りスクリュー25は…現像手段の送りスクリュー14の下部まで現像剤を搬送する 」。
(h) 公報4ページ左上欄16行目〜右上欄7行目「…トナー補充手段26…は送りスクリュー25の途中に設けられており,現像装置に送られて来る現像剤中に十分なトナーを供給する。…スクリュー14又は25により十分攪拌混合された後に,スリーブ8上に引き上げられるようにする 」。
これらの記載より 刊行物2には以下のとおりの事項が開示されているものと認める 現 ,。 「像剤を用いて被現像体の潜像を現像する現像装置を有する像形成装置において,現像剤をスクリューを介して搬送するとともに,スクリューの途中に設けられたトナー補充手段によってトナーが補充されるように構成された系を有する像形成装置 」。
刊行物3には,以下に列挙する事項が記載されている。
(i) 公報1ページ1段16〜18行目「本発明は,電子写真複写機における複写紙上のトナー像を定着ローラに導いて加熱定着するようにした加熱定着装置に関する 」。
(j) 公報3ページ5段20〜24行目「メインモータ56からの動力は,前述のように直接に熱ローラ34および感光ドラム21の回転のために与えられる… 」。
(k) 公報3ページ6段15〜21行目「メインモータ56は,熱ローラ34の温度Hがトナーの軟化点H1以上になって初めて駆動されて熱ローラ34と圧ローラ35とが回転する。このとき,熱ローラ34と圧ローラ35とに付着していることのあるトナーは軟化しているので,熱ローラ34と圧ローラ35とが損傷することはなく,また剥がし板52が損傷することはない 」。
刊行物4には,以下に列挙する事項が記載されている。
(l) 公報1ページ左下欄15〜18行目「前記定着ローラの表面温度が前記軟化温度に対応した温度に到達した後は前記定着ローラの予備回転を開始せしめる制御手段を備えたことを特徴とする定着装置 」。
公報2ページ右上欄12〜19行目(m) 「…トナーの成分で決まる軟化点が,設定されている定着ローラの予備回転開始温度よりも高いときには定着ローラに接触配置されている複写用紙の分離爪により定着ローラ上に残留していたトナーが十分に軟化しないまま削られ,定着ローラや分離爪を損傷することになる 」。
() 対比2本件発明と引用発明1とを対比する。
定着器における回転しながら熱を発生し定着を行う手段である点で,引用発明1における加熱ローラ27bは本件発明における定着部材に相当する。
定着器における定着部材のまわりに接触する部材である点で,引用発明1における剥離爪34およびクリーニングフェルト36は本件発明における接触部材に相当する。
電子写真プロセスにおける現像を行う手段である点で,引用発明1における現像装置は本件発明における現像器に相当する。
したがって,両者は以下のとおりのものである点で一致する。
「転写後の支持体上のトナー画像を少なくとも熱により定着を行う定着器を備えた画像形成装置において,前記定着器は,回転しながら熱による定着を行う定着部材とこの定着部材のまわりに接触する接触部材とを有する定着器からなり,現像器によりトナー画像を形成するプロセス部および前記定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系,および前記定着部材を加熱した後に前記駆動モータの駆動を開始する制御装置を備えることを特徴とする画像形成装置 」。
そして,以下に列挙する点で相違している。
(あ) 本件発明ではプロセス部にトナー循環系を設け,駆動モータによりトナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点。
(い) 本件発明では定着部材の温度がトナー固着解除温度になったときに駆動モータの駆動を開始するのに対して,引用発明1では加熱ローラ27bの温度がトナーが溶融するに足る温度になるよう設定された時期にメインモータ70の駆動を開始する点。
(う) 本件発明では駆動モータが,スローアップ,スローダウンおよび定速回転に駆動制御されるステップモータであるのに対して,引用発明1におけるメインモータはどの様なものであるか記載されていない点。
() 判断3上記相違点(あ)〜(う)について検討する。
相違点(あ)については,現像装置に付加して,現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設けることは,たとえば刊行物2に記載されているように当業者に周知である。
引用発明1は上記摘記事項(b)にあるように,メインモータ70が加熱ローラ27bと,感光体ドラム10と,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と搬送ベルト26とを駆動するものであるから,上記周知技術を引用発明1に付加するにあたり,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と同様に現像剤を循環搬送する手段(刊行物2におけるスクリュー)をメインモータで駆動するよう構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る単なる設計変更程度のものに過ぎない。
相違点(い)については,定着装置において,熱源となるローラの表面温度を測定し,トナーの軟化点以上に表面が加熱された後にメインモータから前記ローラを駆動するよう構成し,固化したトナーによるローラおよび剥がし板,分離爪等の損傷を防ぐことは,たとえば刊行物3および4に記載されている様に当業者に周知の技術思想に過ぎない。また,周知技術により設定された時間に代えてローラの温度によりメインモータの駆動を制御するよう構成したところで,新規の作用効果を奏するものでもない。
,, , 相違点(う)については 電子写真装置において 駆動にステッピングモータを用いること及び,ステッピングモータでスローアップ,スローダウン及び定速回転を行わせるよう制御することは,たとえば特開平4-333451号公報及び特開平5-3700号公報に記載されているように当業者に周知の技術事項に過ぎず,引用発明1におけるメインモータをステッピングモータで構成することは,当業者が必要に応じて適宜行う単なる設計変更程度の微差に過ぎない。
文献の記載および本件出願の明細書および図面の記載からみて,この周知技術におけるステッピングモータは本件発明におけるステップモータと等価である。また,これら文献の記載からみて,トナー循環系および定着器をステッピングモータで駆動することにより,格別の作用効果を奏するものでもない。
したがって,本件発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお,平成16年7月29日付特許異議意見書において,特許権者は上記刊行物1〜4のいずれにも本件発明のうちC.現像器によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系,前記トナー循環系および前記定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系,および前記定着部材を加熱した後に前記駆動モータの駆動を開始する制御装置を備えている点D.前記駆動モータは,スローアップ,スローダウン及び定速回転に駆動制御されるステップモータである点の構成が記載されておらず,その結果,(T) トナー画像を形成するプロセス部の現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系および定着器をともに駆動する1つの駆動モータを,制御装置により定着部材を加熱した後に駆動開始しているので,トナーが溶融または軟化して定着部材とそれに接触する接触部材との間で生じた固着を解消あるいは脆弱化した状態で,駆動モータの駆動を開始できる。これにより,定着器の駆動開始時に定着器の損傷を防止しつつ,トナー搬送動作が行われてトナー循環路内に滞留したトナーの溶融や凝集を防止できるようになる。
(U) また,駆動モータを1つにすることで,廃熱効率が向上する。
という格別の効果を奏することができない旨主張している。
しかしながら,上記Cについては,上記相違点(あ)に対して述べた様に引用発明1に周知技術を適宜付加することにより当業者が容易に想到しうるものである。
上記Dについては,上記相違点(う)に対して述べた様に,トナー循環系および定着器を駆動する駆動モータを,スローアップ,スローダウン及び定速回転に駆動制御されるステップモータとすることは,周知技術に基づき当業者が必要に応じて適宜行う単なる設計変更程度の微差に過ぎない。
特許権者の主張する作用効果(T)は,上記相違点(あ)に対して述べた様にトナー循環系を加熱ローラとともにメインモータ70で駆動することにより,結果として導き出されるものであり,格別のものではない。
また,画像形成装置内の複数の装置を1つのモータで駆動することは上述のとおり周知の技術事項に過ぎず,また,新規の作用効果を奏するものでもないから,特許権者の主張する作用効果(U)は新規のものではない。
したがって,特許権者の主張を採用することはできない。
() むすび4以上のとおりであるから,本件発明は,上記引用文献に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
原告の主張(決定取消事由)の要点
決定は,本件発明と引用発明1との相違点(あ)の認定を誤るとともに,同相違点についての判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(あ)の認定の誤り)決定は 「本件発明ではプロセス部にトナー循環系を設け,駆動モータによりト ,ナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点」を,本件発明と引用発明1との相違点(あ)として認定したが,誤りである。
すなわち,本件発明は,画像形成装置の駆動制御の簡略化等のために定着器とトナー循環系の駆動を1つの駆動モータで同期させた場合,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を解決したものであって(平成16年7月29日付け訂正請求に係る訂正明細書(甲第4号証,以下単に「本件明細書」という )の「発明。
」【 】【 】),, の詳細な説明 段落 〜 そのような課題を有する画像形成装置が 0005 0006本件発明の前提となるから,本件発明の構成要件のうち 「現像器によりトナー画 ,像を形成するプロセス部に設けられ前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」の部分と「前記トナー循環系および前記定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系」の部分とは,密接に関連する不離一体のものであり,本件発明のトナー循環系は 「現像器によりトナー画像 ,を形成するプロセス部に設けられて,かつ定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」と把握されるものである。
したがって,本件発明と引用発明1との相違点(あ)は 「本件発明では現像器に ,よりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系を設け,駆動モータによりトナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点」と認定されるべきものであって,決定のした相違点(あ)の認定は,誤りである。
2 取消事由2(相違点(あ)についての判断の誤り)( ) 決定は,その認定に係る相違点(あ)につき,刊行物2を引用して「現像装 1,」 置に付加して 現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設けることが周知であるとした上 「引用発明1は・・・メインモータ70が加熱ローラ27 ,bと,感光体ドラム10と,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と搬送ベルト26とを駆動するものであるから,上記周知技術を引用発明1に付加するにあたり,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と同様に現像剤を循環搬送する手段(刊行物2におけるスクリュー)をメインモータで駆動するよう構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る単なる設計変更程度のものに過ぎない 」と判断した。また,被告は,さらに,特開昭5 。
8-107572号公報(乙第1号証,以下「周知例1」という ,特開昭62-。)218977号公報(乙第2号証,以下「周知例2」という )及び特開昭63-。
83746号公報(乙第3号証,以下「周知例3」という )に基づき,本件発明 。
における「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が本件出願前に周知の技術事項であったと主張する。しかしながら,決定の上記判断及び被告の上記主張は,誤りである。
( ) すなわち,上記1のとおり,本件発明は,画像形成装置の駆動制御の簡略 2化等のために定着器とトナー循環系の駆動を1つの駆動モータで同期させた場合,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を解決したものである。
他方,刊行物2記載の現像剤循環系において,スクリュー17,25によって搬送される現像剤は,現像後及び転写後の回収トナーであり,これらの回収トナーの量は,本件発明のトナー循環系において搬送され,現像器に補給されるトナーの量,。, , に比べ 極めてわずかである もっとも刊行物2記載の現像剤循環系においてもスクリュー25の途中で,トナー補充手段26から,トナーが補給され,現像手段4に搬送されることがあるが,この補給トナーは比較的短い搬送路を搬送されるのみで,長い搬送循環路を循環されるものではないのみならず,現像手段4内のトナー濃度が所定値以下となったときに補給されるものであって,その頻度は少なく,補給トナーが常時スクリュー25に滞留することはほとんどない。したがって,刊行物2記載の現像剤循環系は,上記の本件発明と同様の課題が生ずる程度に,実質的にトナーを循環させるものではなく,本件発明のようなトナーが搬送されて補給されるトナー循環系であるということはできない。
次に,周知例1に記載された現像剤循環装置においては,現像剤を現像装置4とクリーニング装置5との間で単に循環させているだけであり,また,現像剤供給装。, 置8が現像装置4にトナーを補給するトナー補給路に設けられていない すなわち周知例1に記載された現像剤循環装置は,現像装置にトナーを補給するものではないから,本件発明のようなトナーが搬送されて補給されるトナー循環系であるということはできない。
さらに,周知例2記載の静電潜像現像装置におけるトナー補給装置30及び搬送パイプ45は,単にトナーをトナー補給装置30から現像装置20に搬送しているのみで,トナー補給装置30と現像装置20との間で循環させるものではなく,周知例3記載の現像剤搬送駆動装置においても,単にトナーをトナーホッパ21から現像器22のサブトナーホッパ32に搬送しているのみで,トナーホッパ21とサブトナーホッパ32との間で循環させるものではないから,いずれも本件発明のようなトナーが搬送されて補給されるトナー循環系であるということはできない。
加えて,刊行物2記載の現像剤循環系,並びに周知例1記載の現像剤循環装置,周知例2記載の静電潜像現像装置及び周知例3記載の現像剤搬送駆動装置の各搬送装置(スクリュー)は,いずれも定着装置の駆動に同期して駆動されるものではない。
したがって,仮に,刊行物2記載の現像剤循環系,並びに周知例1記載の現像剤循環装置,周知例2記載の静電潜像現像装置及び周知例3記載の現像剤搬送駆動装置が周知であるとしても,本件発明の「定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が周知であるとすることはできない。
( ) 上記1のとおり,本件発明は,画像形成装置の駆動制御の簡略化等のため 3に定着器とトナー循環系の駆動を1つの駆動モータで同期させた場合,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を解決したものである。
これに対し,刊行物1,2及び周知例1〜3には,トナー循環系と定着器とを1つの駆動モータで同期させて駆動させた場合の,トナー循環系が有する上記課題を解決しようとする技術思想については,開示も示唆も全くない。
このように,上記技術思想が開示又は示唆されていない刊行物1記載の発明(引用発明1)に,同様に上記技術思想が開示又は示唆されていない刊行物2や周知例1〜3を組み合わせて,上記課題を解決しようとする技術思想を有する本件発明に至ることは,当業者といえども容易になし得ることではない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点(あ)の認定の誤り)に対して原告は,本件発明のトナー循環系は 「現像器によりトナー画像を形成するプロ ,セス部に設けられて,かつ定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」と把握されるものであるから,本件発明と引用発明1との相違点(あ)は 「本件発明では現像器によりト ,ナー画像を形成するプロセス部に設けられ現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系を設け,駆動モータによりトナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点」と認定されるべきものであり,決定のした相違点(あ)の認定が誤りであると主張する。
しかしながら,決定は,相違点(あ)の判断において,刊行物1に「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」を備えること,及びこのトナー循環系を定着器とともに1つの駆動モータで駆動することについて,その容易想到性の判断を示している(決定書11頁14〜24行 。すなわち,決定は,本 )件発明のトナー循環系を,原告主張のように把握した上で,上記判断をしているのであるから,決定の相違点(あ)の認定が文言上,原告の主張と異なるとしても,その認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点(あ)についての判断の誤り)に対して( ) 刊行物2には,クリーニング手段と現像装置との間を循環する現像剤に, 1。, クリーニング手段で回収されたトナーが含まれていることが記載されている また刊行物2の記載によれば,現像によって,スリーブ上に存在するトナーの全部が感光体に移行するものではないこと,スリーブから掻き落とされた現像剤は,送りスクリュー17で送られる前に現像装置4内を搬送され,その際,現像手段4内の現像剤が混入するので,相当量のトナーを含むものであること,クリーニング手段では回収したトナーが付与されることが認められ,したがって,刊行物2に記載された現像剤循環系においては,常時トナーを含む現像剤が循環していることは明らかである。
したがって,刊行物2により 「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給 ,されるトナー循環系 (換言すれば「現像装置に付加して,現像剤を循環搬送する 」,とともにトナーを補給する手段を設けること )が周知の技術事項であることが認 」められる。
原告は,刊行物2記載の現像剤循環系について,トナー補充手段26から補給されるトナーは長い搬送循環路を循環されるものではないとか,その補給の頻度が少ない等と主張するが,本件発明の「トナー循環系」は,その構造や循環頻度等を何ら限定するものではなく,循環されるトナーがトナー補充手段26からの補給トナーのみに限定されるものではないから,原告の上記主張は失当である。
また,周知例1には,現像剤供給装置から現像装置内に供給された現像剤が,現像装置4とクリーニング装置5との間を,搬送路24を介して循環しつつ現像に使用されること,すなわち搬送路24から送り込まれた現像剤により,使用された現像剤が現像装置に補給されることが記載されている。
周知例2には,現像装置,感光体ドラム,クリーニング装置及び搬送路パイプからなる系を残留トナーが循環し,かつ,この系の少なくとも一部を利用して,現像装置にトナーを補給することが記載されている。
さらに,周知例3には,トナーを循環する方式におけるトナー搬送路を,トナー補給路とすることが記載されている。
したがって,周知例1〜3には,いずれも「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が示されているということができ,上記刊行物2の記載と併せ,このようなトナー循環系が周知の技術事項であったことが明らかである。
,() 原告は 刊行物2記載の現像剤循環系並びに周知例1〜3記載の現像剤 トナー循環系について,定着装置の駆動に同期して駆動されるものではないとか,刊行物2及び周知例1〜3により「定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が周知であるとすることはできない等と主張するが,決定は,上記のとおり,刊行物2により「現像装,」 置に付加して 現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設けることが周知であると認定したのであって,現像剤循環系が,定着器を駆動する駆動モータにより定着器の駆動と同期して駆動されることを含めて周知であると認定したも,,, のではないし 被告が周知例1〜3により立証しようとする事項も 上記のとおり「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が周知であることであって,定着器を駆動する駆動モータにより定着器の駆動と同期して駆動されることを含めて周知であると主張するものではない。
( ) そして,引用発明1に,上記( )の周知事項を付加することは当業者が適宜 21なし得ることであり,その際,引用発明1において,メインモータが定着器(加熱ローラ ,現像装置(現像スリープ及びミキサ)等を駆動するように構成されてい )ることにかんがみて,現像剤の循環搬送手段を引用発明1のメインモータで駆動するようにすることは,設計変更程度のものにすぎない。
原告は,刊行物1,2及び周知例1〜3には,トナー循環系と定着器とを1つの駆動モータで同期させて駆動させた場合の,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を解決しようとする技術思想が,開示も示唆もされていないから,引用発明1に刊行物2や周知例1〜3を組み合わせて本件発明に至ることは容易でないと主張する。
しかしながら 「定着器の駆動開始時にトナーの固化による定着部材と接触部材 ,との固着を防止して,定着器の損傷を防止する」ことは,刊行物1に記載された作用効果であって,定着器とともに駆動する構成の有無で左右されるものではない。
また 「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系及び定 ,着器を,1つの駆動モータでともに駆動するとともに,加熱定着を行う画像形成装置において,固着によるトナーの滞留及びトナー循環路を含めた装置内部の温度上昇に基づく,トナー搬送路内でのトナーの溶融や凝集を防止する」ことは,刊行物1及び上記周知技術に接した当業者が当然に予測し得るものである。したがって,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(あ)の認定の誤り)について原告は,本件発明のトナー循環系が「現像器によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられて,かつ定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」と把握されるものであるから,本件発明と引用発明1との相違点(あ)は 「本件発明では現像器によりトナ ,ー画像を形成するプロセス部に設けられ現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系を設け,駆動モータによりトナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点」と認定されるべきものであって,決定のした「本件発明ではプロセス部にトナー循環系を設け,駆動モータによりトナー循環系を定着器とともに駆動するのに対して,引用発明1ではメインモータ70で現像装置を加熱ローラとともに駆動している点」との相違点(あ)の認定は誤りであると主張する。
本件発明が 「現像器によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ前記現 ,像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」を構成要件とすることは,上記第2の2のとおりであるから,本件発明のトナー循環系が「前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給される」ものであることが欠けている決定の相違点(あ)の認定が,この点で不備であることは否めないところである。
しかしながら,決定は,相違点(あ)についての判断において 「現像装置に付加,して,現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設けることは,たとえば刊行物2に記載されているように当業者に周知である (決定書11頁14〜 。」16行)と説示し,本件発明のトナー循環系が「前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給される」ものであること,そして,それが本件発明と引用発明1との相違点であることを前提として容易想到性の判断を行っているのであるから,決定の相違点(あ)の認定が上記の点で誤りであるとしても,その誤りは,それ自体としては決定の結論に影響を及ぼさない(上記の容易想到性の判断の当否は,取消事由2に属する問題である)というべきである。。
したがって,取消事由1に係る原告の主張を採用することはできない。
2 取消事由2(相違点(あ)についての判断の誤り)について( ) 原告は,刊行物2により「現像装置に付加して,現像剤を循環搬送すると 1ともにトナーを補給する手段を設けること」が周知であるとした決定の判断及び周知例1〜3により本件発明における「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が周知の技術事項であったとする被告の主張が誤りであると主張する。
しかしながら,まず,刊行物2には 「現像に寄与された現像剤はスリーブ8上 ,から掻き落し板13により掻き取られる ・・・上記掻き取られた現像剤は戻しス 。
クリュー15により搬送され・・・上記搬送された現像剤の一部をクリーニング手段9への送りスクリュー17に落下させる・・・送りスクリュー17上に落下し 。
た現像剤は,該スクリュー17によりクリーニング手段9の送りスクリュー18の。, 下部まで導かれる この送りスクリュー18は軸部に固定磁石を有するものでありスクリュー17により運ばれた現像剤は,その軸部の磁力によりスクリュー18上に汲み上げられてクリーニング手段に至る。このようにしてクリーニング手段内に導かれたトナー濃度の低い現像剤は,該手段9内の固定磁石20の磁力によりスリーブ19上に汲み上げられ保持搬送される・・・残留トナーは容易に感光体1か 。
らクリーニングブラシ側に吸着される。このようにしてクリーニング手段9においてクリーニングに寄与した現像剤は,上記スリーブ19上を更に移動して掻き落し板23によりスリーブ19表面から掻き落される。そして,掻き落された現像剤は戻しスクリュー24によりクリーニング手段9の長手方向に沿って搬送され ・・,・その一部を現像手段4への送りスクリュー25上に落下させる。上記送りスクリュー25はクリーニング手段9からの現像剤を現像手段4へ送るためのスクリューであり,現像手段の送りスクリュー14の下部まで現像剤を搬送する ・・・現像。
手段内には現像剤のトナー濃度検知用の検知素子16が配設されている ・・・そ。
して,上記素子16の検知信号に基づいてトナー補充手段26を作動させる。この補充手段26は送りスクリュー25の途中に設けられており,現像手段に送られてくる現像剤中に十分なトナーを供給する(3頁右上欄7行〜4頁右上欄3行)と 。」の記載がある。
上記記載によれば,刊行物2には,現像寄与後の現像剤が,トナー濃度は低いものの,スクリュー15,17,18によりクリーニング手段9に搬送され,感光体1からクリーニングブラシ側に吸着された残留トナーと併せて,スクリュー24,25,14により再び現像手段に搬送されること,すなわち 「現像器にトナーを,搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が開示されているものと認められる。
原告は,刊行物2記載の上記現像剤循環系において搬送されるのは現像剤の回収トナーであって,その量は,本件発明のトナー循環系において搬送されるトナーの量に比べ,極めてわずかであるとか,トナー補充手段26からトナーが補充される頻度は少ないから,本件発明と同様の課題(定着器とトナー循環系の駆動を1つの駆動モータで同期させた場合,定着器の固着によりトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題)が生ずる程度に,実質的にトナーを循環させるものではなく,本件発明のような,トナーが搬送されて補給されるトナー循環系であるということはできない等と主張する。
しかしながら,本件発明の要旨は,トナー循環系において搬送されるトナーが回収トナーであるか,補給トナーであるかの別や,循環するトナーの量を規定するも,, , のではないから 上記主張は 本件発明の要旨に基づかないものといわざるを得ず採用することはできない。
次に,周知例1には 「予め,現像装置4及びクリーニング装置5内に現像剤3 ,を・・・夫々供給しておく。このような状態で,電子複写機を始動すると,現像装置4及びクリーニング装置5内の各搬送装置8,13が各々同時に動作し,各装置,。,, 4 5内の余分な現像剤3を次のように循環する 即ち 上記搬送装置8が動作し・・・現像装置4内の必要レベルA以上の余分な現像剤3が搬出口20を通り,パイプ14内に送り込まれる。この送り込まれた現像剤3は ・・・送出口21から ,搬送路23内に送り込まれ,この搬送路23を通り,クリーニング装置5内に配設された搬送装置13の注入口18から搬入部側のパイプ14内に送り込まれる。このように搬送装置13に送り込まれた現像剤3は ・・・搬入部側のパイプ14内 ,を通り,搬入口19からクリーニング装置5内に供給される。 また,クリーニング装置5内に配設された搬送装置13は ・・・クリーニング装置5内の必要レベ ,ルA以上の余分な現像剤3を搬出口20からパイプ14内に送り込み ・・・送出,口21から搬送路24に送り込む。このように,搬送路24に現像剤3が送り込まれると,搬送路24を通り,現像装置4内に配設された搬送装置8の注入口18からパイプ14内に送り込まれ,この送り込まれた現像剤3が現像装置4内に供給される。 このように上記現像剤循環装置にあっては,現像装置4及びクリーニング装置5内に必要レベルA以上供給されている余分な現像剤3が,各搬送装置8,13及び各搬送路23,24により,現像装置4とクリーニング装置5との間を相互に循環するので,各装置4,5内の現像剤3を常に一定量に確保することができ,このため,感光層2の表面にトナーを良好に付与することができ,また,転写後,感光層2の表面に残存したトナーを良好に除去することができる。 なお,上記現像装置4及びクリーニング装置5内の各現像剤3が必要レベルAになった場合には,現像装置4の上部に配設された現像剤供給装置9から現像装置4内に供給される (2頁右下欄16行〜3頁左下欄2行)との記載がある。 。」上記記載によれば,周知例1には,現像剤が現像装置4とクリーニング装置5との間を相互に循環すること,すなわち 「現像器にトナーを搬送することでトナー ,が補給されるトナー循環系」が開示されているものと認めることができる。
原告は,周知例1に記載された現像剤循環装置につき,現像剤を現像装置4とクリーニング装置5との間で単に循環させているだけであるとか,現像剤供給装置8が現像装置4にトナーを補給するトナー補給路に設けられていない等として,同循環装置が,本件発明のようなトナーが搬送されて補給されるトナー循環系であるということはできないと主張するが,周知例1に記載された現像剤循環装置では,必要レベルAに至るまでの間は,現像装置4とクリーニング装置5との間を相互に循環搬送される現像剤が,現像装置4において使用消費されていることは明らかであるから,上記主張を採用することはできない。
そして,これら刊行物2及び周知例1によれば,周知例2,3につき検討するまでもなく 「現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」 ,(換言すれば 「現像装置に付加して,現像剤を循環搬送するとともにトナーを補 ,給する手段を設けること )が,周知の技術事項であることが認められる。 」したがって,決定が,刊行物2を引用して「現像装置に付加して,現像剤を循環」, 搬送するとともにトナーを補給する手段を設けること が周知であるとしたことに誤りはない。
( ) 原告は,刊行物2記載の現像剤循環系並びに周知例1記載の現像剤循環装 2置について,定着装置の駆動に同期して駆動されるものではないとか,刊行物2及び周知例1により「定着器を駆動する駆動モータで駆動されて前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」が周知であるとすることはできないとも主張する。
しかしながら,決定の判断及び被告の主張は 「現像器にトナーを搬送すること ,」, でトナーが補給されるトナー循環系 が周知の技術事項であるとするものであって当該循環系を,定着器を駆動する駆動モータにより定着器の駆動と同期して駆動することまで含めて周知であるとするものではないことは明らかである。原告の上記主張は,決定の説示及び被告の主張を正解しないものであって,失当というほかはない。
なお,原告が上記のような主張をあえてすることや,取消事由1に関し,定着器とトナー循環系の駆動を1つの駆動モータで同期させた場合,定着器の固着によりトナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を有する画像形成装置が,本件発明の前提となるから,本件発明の構成要件のうち 「現像器,によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ前記現像器にトナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」の部分と「前記トナー循環系および前記」, 定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系 の部分とは密接に関連する不離一体のものであるとの主張をすることにかんがみて,原告は,決定が 「現像器によりトナー画像を形成するプロセス部に設けられ前記現像器に ,トナーを搬送することでトナーが補給されるトナー循環系」の部分と「前記トナー循環系および前記定着器をともに駆動する1つの駆動モータを少なくとも有する駆動系」の部分とを分離して,本件発明の進歩性判断をした点を非難しているように窺われる。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には 「近年,省資源やごみの減 ,量化が社会問題となり,消耗品であるトナー以外の部品もトナーとともに廃棄するというカートリッジ方式に代わる消耗品補給方式が検討されてきた。その際,装置を大型化しなくともトナーを収容したトナータンクだけを交換してトナー補給することのできる,トナーホッパ方式が特公平3-60433に,トナー循環方式が特願平4-246771(特開平06-317984)に提案されている (段落。」【 「一方,このような小型の装置では,駆動系の省スペースのため駆動モ 0003】),ータを1つとし,トナー循環系,画像形成系,定着系を同時に駆動すると良い 」。
(【】), , , 段落 との記載があり これらの記載によれば トナー循環系の構成は 0005省資源化やごみの減量化といった社会的要請により,従来技術であったカートリッジ方式に代わるものとして採用されるようになったものであり,他方,トナー循環系,定着系を1つの駆動モータで駆動する構成は,駆動系の省スペースの要請から採用されるに至ったものであることが認められる。
そうすると,トナー循環系の構成と,トナー循環系及び定着系を1つの駆動モータで駆動する構成とは,元来,異なった課題の解決手段であり,例えば,駆動系の省スペースを顧慮する必要がなければ,トナー循環系の構成を採用しながら,トナー循環系と定着系とを別々のモータで駆動する構成も考えられるように,両者が,必然的に一体として採用されなければならないというものではない。
もっとも,トナー循環系の構成と,トナー循環系及び定着系を1つの駆動モータで駆動する構成とを同時に採用した結果として,原告の主張する,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集が生起するという課題が生じ,本件発明は,その課題を,定着部材の温度がトナー固着解除温度になったときに駆動モータの駆動を開始するという構成によって解決しようとするものであるが,そうであるからといって,本件発明の進歩性判断の際に,元来一体であるとはいえない,トナー循環系の構成とトナー循環系及び定着系を1つの駆動モータで駆動する構成とを,必ず一体として判断しなければならないということはできない。
( ) 上記( )のとおり 「現像装置に付加して,現像剤を循環搬送するとともに 31,トナーを補給する手段を設けること」は周知の技術事項であるから,当業者が,この技術事項を引用発明1に備えることに格別の困難性は見当たらない。
また,引用発明1が,メインモータ70で,現像装置を加熱ローラ(定着器)とともに駆動していることは,当事者間に争いがない。
そうすると,引用発明1に上記「現像装置に付加して,現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設ける」技術事項を備える際に,当該循環搬送手段を定着器とともにメインモータで駆動する構成を採用することは,当業者であれば極めて容易に想到し得ることであるから,決定が「引用発明1は・・・メインモータ70が加熱ローラ27bと,感光体ドラム10と,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と・・・を駆動するものであるから,上記周知技術を引用発明1に付加するにあたり,現像装置13の現像スリーブ13a,ミキサ13b,13c等と同様に現像剤を循環搬送する手段(刊行物2におけるスクリュー)をメインモータで駆動するよう構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る単なる設計変更程度のものに過ぎない 」と判断したことに,誤りはない。 。
原告は,刊行物1,2及び周知例1には,トナー循環系と定着器とを1つの駆動モータで同期させて駆動させた場合の,定着器の固着により駆動モータがロックした状態で画像形成を行うと,定着器や駆動モータが発熱することで温度上昇したトナー循環路内に,トナーが滞留してトナーの溶融や凝集といった問題が生ずるという課題を解決しようとする技術思想が,開示も示唆もされていないから,引用発明1に刊行物2や周知例1を組み合わせて本件発明に至ることは容易でないと主張する。
しかしながら,引用発明1が「トナー画像を形成する部位に設けられた現像装置および前記定着器をともに駆動する1つのメインモータ70を少なくとも有する駆動系,および前記加熱ローラ27bを加熱した後に前記メインモータ70の駆動を開始する制御装置を備えており,前記制御装置は,前記加熱ローラ27bの温度がトナーが溶融するに足る温度になるよう設定された時期に前記メインモータ70の駆動を開始すること (決定書8頁末行〜9頁5行)という構成を備えることは当 」事者間に争いがなく,引用発明1が,この構成によって 「定着器の駆動開始時に ,トナーの固化による定着部材と接触部材との固着を防止して,定着器の損傷を防止する」効果を奏することは明らかである。また,上記のとおり,引用発明1に「現,」 像装置に付加して 現像剤を循環搬送するとともにトナーを補給する手段を設けることという周知の技術事項を備える際に,当該循環搬送手段を定着器とともにメインモータで駆動する構成を採用することは,当業者であれば極めて容易に想到し得ることであるところ,このように構成されたものが 「トナー搬送路内でのトナー ,」, 。 の溶融や凝集を防止できる ことも当業者が当然に予測し得る程度のものであるしたがって,原告の上記主張を採用することはできない。
3結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 高野輝久