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関連審決 異議2003-73204
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10373審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10197審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10124審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10328審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  先願発明との同一性 /  上位概念 /  下位概念 /  出願公開 /  明確性 /  着想 /  均等 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10632号 特許取消決定取消請求事件
原告株 式会社日野樹脂
訴訟代理人弁理士足立英一
被告特 許庁長 官中嶋誠
指定代理 人南澤弘明
同 大元修二
同 高木彰
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が異議2003-73204号事件について平成17年7月1日にした決定を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「室内用建材」とする特許第3429469号(平成12年2月23日出願,平成15年5月16日設定登録。以下,同出願を「本件出願」といい,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
大建工業株式会社及び美濃顔料化学株式会社が本件特許に対する異議を申し立てたところ,特許庁は,この特許異議の申立てを異議2003-73204号事件として審理し,原告に取消理由通知をした。原告は,平成16年10月7日付け訂正請求書を提出して,別紙対照表「本件発明(本件訂正請求前)」欄の各記載を同表「本件訂正請求」欄のとおりに訂正することを求める訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をしたが,「訂正された段落【0009】の【表1】,同【0013】の【表2】,同【0015】の【表3】の内容は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項とはいえず,また,自明な事項ともいえない。さらに,表の内容と,それに関連する記載とが整合していない。」との訂正拒絶理由が通知された。そこで,原告は,上記の訂正請求書を補正する平成17年5月16日付け手続補正書を提出し,別紙対照表「本件訂正請求」欄の各記載を同表「本件補正」欄の記載に補正した(以下「本件補正」という。)。
審理の結果,特許庁は,平成17年7月1日,本件訂正請求は認められないとした上で,「特許第3429469号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月20日,決定の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲本件訂正請求前の本件特許の請求項1には,次の記載がある。
「【請求項1】木質材,土質材,紙材,コルク材,モルタル材,樹脂シ-トに,静電気に帯電しにくい高分子化合物から選ばれた水性アクリルエマルジョン,並びに希有元素類を含む鉱物,及び少なくともトルマリン若しくは遠赤外線セラミックスのいずれか一方を含有した樹脂組成物を一部分或いは全面に塗布又は層着したマイナスイオンを放出すると同時に,遠赤外線を放射することを特徴とする室内用建材。」(以下,この請求項に係る発明を「本件発明」という。)3決定の理由別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件補正は,本件訂正請求に係る訂正請求書の要旨を変更するものであり,平成15年法律47号による改正前の特許法120条の4第3項で準用する同法131条2項に違反するから,採用することができず,本件訂正請求は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたものではなく,同法120条の4第3項で準用する同法126条2項の規定に適合しないので本件訂正請求は認められないものであるところ,@本件発明は,請求項1における「層着」という事項が不明確であって,詳細な説明においても何ら説明されておらず,樹脂組成物をどのような状態とするのか不明であるから,特許法36条6項1号及び2号に違反し,A本件出願の日前の出願であって,その出願後に出願公開された特願平11-193620号(特開2001-19420号公報)の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるから,特許法29条の2に違反し,B本件発明は,特開平11-279422号公報(甲第4号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明に特開平11-279445号公報(甲第5号証。以下「刊行物2」という。)記載の発明を適用することによって,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項に違反するものであり,本件特許は,平成15年法律47号による改正前の特許法113条2項に該当するものとして取り消されるべきものである,とするものである。
決定は,上記A及びBの結論を導くに当たり,先願発明及び刊行物1記載の各発明の内容並びに本件発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)先願発明の内容「紙に,ポリアクリル系樹脂や一般に用いられる塗料,並びにモナズ石等の放射線を放出する天然鉱石,及びトルマリンを含有した樹脂組成物を塗布したマイナスイオンを放出する,応用素材。」(2)刊行物1記載の発明の内容静電気に帯電しにくい高分子化合物,並びに希有元素類を含む鉱物,及び少なくともトルマリン若しくは遠赤外線放射セラミックスのいずれか一方を含有したマイナスイオンを放出すると同時に遠赤外線を放射する樹脂組成物を用いた内装建材(3)本件発明と刊行物1記載の発明の一致点刊行物1記載の発明における「内装建材」が本件発明における「室内用建材」に相当するほか,後記(4)の点を除くその余の点(4)本件発明と刊行物1記載の発明の相違点@室内用建材が,本件発明では,木質材,土質材,紙材,コルク材,モルタル材,樹脂シートに塗料を塗布した建材であるのに対して,刊行物1に記載された発明では,試料の作成に際し,基材である布に塗布してはいるが,上記のように限定されていない点(以下,決定と同様に「相違点1」という。)A静電気に帯電しにくい高分子化合物が,本件発明では,水性アクリルエマルジョンであるのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのように限定されていない点(以下,決定と同様に「相違点2」という。)第3原告主張の取消事由の要点決定は,本件訂正請求の適否に関する判断を誤り(取消事由1),本件発明と先願発明との同一性の判断を誤り(取消事由2),特開平11-279445号公報(甲第5号証)記載の発明の認定を誤り,刊行物1記載の発明との組合せについての判断を誤ったため,本件発明の進歩性についての判断を誤り(取消事由3),本件発明の「層着」という文言の明確性についての判断を誤った(取消事由4)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(本件訂正請求の適否に関する判断の誤り)(1)決定は,本件補正が訂正請求書の要旨を変更するものであるから,本件補正は採用することができないとしている。
しかし,本件補正は,「プラスイオンを抑制し,マイナスイオンの放出増大」を訂正内容とした「訂正明細書等の補正」(平成15年法律47号による改正前の特許法第17条の4第1項)であり,いったん申し立てた訂正事項を削除する補正が許される範囲に該当することは明らかであり,訂正請求書の要旨を変更する補正に当たらず,いわんや新たに訂正事項を加えたり訂正事項を変更する補正ではない。
本件補正に至ったのは,異議申立人が先願発明として挙げていた特開2001-19420号公報(甲第6号証)を事実上撤回し,これに代えて追加の公知文献である特公昭62-32948号公報(甲第8号証)を挙げたという後発的な事情によるのであって,いったん申し立てた訂正事項を削除する補正にすぎず,訂正事項を変更する補正でなく,制限的に許される訂正明細書の補正可能な範囲における補正である。
(2)決定は,本件訂正請求が願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正ではなく,当該訂正は認められないとしている。
しかし,「プラスイオンを抑制し,マイナスイオンの放出増大」は,出願当初の明細書に開示されている。すなわち,このことは,本件発明の選択の基礎となった出願人の先行基本特許の明細書に記載された技術事項と軌を一にする,本件発明の課題を達成するために必要かつ最も重要な共通の技術事項であって,本件発明の出願時に記載されているに等しい自明の事項であり,訂正を許すべきか否かの問題とはいえない。
したがって,本件訂正は,出願当初の明細書に記載された事項の範囲を超えて特許請求の範囲変更する訂正ではなく,明細書の要旨を変更するものではないから,これを認められないとした異議の決定は,取り消されるべきである。
2取消事由2(特許法29条の2違反の点に関して,本件発明と先願発明との同一性の判断の誤り)決定は,本件発明と先願発明とを対比判断するに当たり,本件発明の技術的思想の解釈を誤ったため,本件発明は先願発明と同一であるとの誤った結論に至った違法がある。
(1)先願発明には,「静電気に帯電しにくい高分子化合物」の技術思想が欠如している。決定においては,先願発明を「紙に,ポリアクリル系樹脂や一般に用いられる塗料,並びにモナズ石等の放射線を放出する天然鉱石,及びトルマリンを含有した樹脂組成物を塗布したマイナスイオンを放出する,応用素材」と認定しているが,「ポリアクリル系樹脂」は,マイナス静電気に帯電する樹脂であり,マイナスイオンを放出しない。
(2)先願明細書には,プラスイオンの記載及び測定は皆無である。本件発明の作用効果は,「プラスイオンを抑制し,一方マイナスイオンの放出を増大する」点にある。特に,室内用建材の用途では,プラスイオンの挙動を離れては,マイナスイオン放出現象を論ずることはできないとの知見を得て,マイナスイオンとプラスイオンの測定値を記載し対比している。
3取消事由3(特許法29条2項違反の点に関して,本件発明の進歩性の判断の誤り)(1)本件発明と刊行物1記載の発明との一致点認定の誤り決定は,刊行物1記載の発明の内容の認定を誤り,本件発明が特許第3035279号公報(甲第3号証。なお,刊行物1(甲第4号証)はこの特許の公開公報である。)記載の特許発明(以下「先行基本特許発明」という。)のうち,特定の用途のみを規定する選択発明である意義を判断しておらず,誤りである。
先行基本特許発明は「樹脂組成物」についての発明であるところ,本件発明は,「樹脂組成物」の下位概念に当たる「室内用建材」について,特定の用途を限定した選択発明として特許性を有する。すなわち,@刊行物1には,本件発明の「室内用建材」について具体的に記載されておらず,A選択行為自体が発明的であり,B選択が技術を豊富化するものであり,C選択されたものは特有で特殊な質的特徴をもっている。
ところが,決定は,刊行物1の「内装建材の分野で有用である」との記載のみに基づいて「室内用建材」として一致すると認定したもので,本件発明が特定の用途のみを規定する選択発明である意義を判断しておらず,誤りである。
(2)相違点2の判断の誤りア刊行物2記載の発明の認定の誤り決定は,刊行物2記載の発明の認定を誤り,本件発明の進歩性に関する判断を誤ったものである。すなわち,@刊行物2には,帯電しにくい高分子化合物から選定される水性アクリルエマルジョンについて記載されていない。
また,A刊行物2記載の発明において,「電気石」がマイナスイオンを生成することはなく,極性基をもった樹脂に粉体混合物を配合しても,静電気に大きく帯電するためマイナスイオンを放出しない。
イ水性アクリルエマルジョン選択の容易性判断の誤り決定が,刊行物1に記載の静電気に帯電しにくい高分子化合物として水性アクリルエマルジョンを選ぶことは設計的事項であるとしたことは,誤りである。
本件発明の構成は,@木質材等に,特定の高分子化合物,静電気に帯電しにくい高分子化合物から選ばれた水性アクリルエマルジョンを用いる,A上記静電気に帯電しにくい高分子化合物から選ばれた水性アクリルエマルジョンを含有し,稀有元素類を含む鉱物及び少なくともトルマリン又は遠赤外線セラミックの何れか一方を含有した樹脂組成物である,B上記樹脂組成物を一部分或いは全面に塗布又は層着した室内用建材である,の三点である。
しかし,決定は,水性アクリルエマルジョンが室内用建材塗料の代表的なものであることのみをもって,本件発明の静電気に帯電しにくい高分子化合物として選ぶことは設計的事項であると判断したものである。
建築塗料の用途は多岐広範にわたり,用途によってもかなり多くの種類の塗料があり,例えば木質系材料では,ウレタン塗料や紫外線硬化塗料が主に使用されているところ,本件発明では,漠然とした広範なものではなく,明確に特定されている。また,水性エマルジョンであっても,極性基を持たない水性エマルジョン及び極性基の弱い水性エマルジョンは,マイナスイオンを放出しない。
先行基本特許発明においては,「樹脂組成物」であって静電気に帯電しにくい高分子化合物の用途を「室内用建材」に限定した場合について全く実験も検証もしておらず,少なくとも水性エマルジョンについては具体的に記載されていない。本件発明では,「静電気に帯電しにくい‥‥‥」で均等なことが明らかな下位概念の「水性アクリルエマルジョン」を実証検討の結果,これが極性基を持つものであって,マイナスイオン放出の効果を奏するものであるとの知見を得て,刊行物1記載の「静電気に帯電しにくい高分子化合物」,いわゆる難帯電性高分子化合物という上位概念の中から,これを選択し,このように選択したものを組み合わせて構成要件とした「後の発明」である。
本件発明は選択発明であるところ,室内用建材の特定用途における実験結果は刊行物1に記載されていない。
4取消事由4(特許法36条6項1号,2号違反の点に関して,「層着」という用語の明確性についての判断の誤り)決定は,請求項1の「層着」という事項が樹脂組成物をどのような状態とするのか不明であり,不明確であると判断している。
しかし,「塗布」が建材塗装における1回程度の塗りであるのに対して,「層着」は「多数塗膜層厚塗り塗着」のことであり,これは,当業者に周知の事項である。
したがって,「層着」すなわち「多数塗膜層厚塗り塗着」は当業者にとって日常的ともいえる周知慣用技術であるから,その定義までを明細書に記載する必要はなく,本件発明の原明細書にその定義ないし意味が記載されていないからといって,「層着」が何を意味しているのか不明であるとはいえない。
第4被告の反論の骨子決定の認定判断はいずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(本件訂正請求の適否についての判断の誤り)について(1)本件補正は,次の点において訂正請求書の要旨を変更するものである。
ア請求項1に対する訂正事項「‥‥‥一部分或いは全面に塗布により,プラスイオンを抑制し,マイナスイオンの放出を増大すると同時に,」の下線部分を削除し,「‥‥‥一部分或いは全面に塗布したマイナスイオンを放出すると同時に,」と補正する補正は,「プラスイオンを抑制」する訂正事項及びマイナスイオン放出を「増大する」訂正事項を削除するものであるから,訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものである。
イ本件明細書の段落【0005】について,本件訂正請求による訂正事項に,「本発明においては,上記希有元素類を含む鉱物から選ばれたモナズ石を使用することができる。」を追加することは,訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものである。
(2)平成15年法律47号による改正前の特許法126条1項によれば,訂正審判の請求の対象は,「願書に添付した明細書又は図面」であり,これは,特許権の設定の登録時のものであって,「願書に最初に添付した明細書又は図面」ではない。したがって,本件補正が認められない場合において,「願書に添付した明細書又は図面」(甲第2号証。以下「本件明細書」という。)を基準にすると,以下のとおり,本件訂正請求は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされた訂正ではなく,同法120条の4第3項で準用する同法126条第2項の規定に適合しないので,訂正は認められないとした決定の判断に誤りはない。
ア訂正拒絶理由通知書(甲第16号証)記載のとおり,本件訂正請求のうち,訂正された段落【0009】の【表1】,同【0013】の【表2】及び同【0015】の【表3】の内容は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項とはいえず,自明な事項ともいえない。さらに,表の内容と,それに関連する記載とが整合していない。したがって,上記訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされた訂正ではなく(いわゆる「新規事項」であり),本件訂正は平成15年法律47号による改正前の特許法120条の4第3項で準用する同法126条第2項の規定に適合しないので,当該訂正は認められない。(なお,上記訂正については訂正請求書に訂正事項として列記されていない。)イ訂正請求書(乙第1号証)には,【書類名】訂正明細書の段落【0009】の【表1】に,「樹脂組成物の配合処方」として,樹脂組成物AがシリコンKM-2002を含むこと,樹脂組成物BがシリコンKM-2002を含むことが記載されている。しかし,特許権設定登録時の願書に添付した明細書又は図面には上記事項は記載されていないし,同明細書又は図面から自明な事項ともいえない。
ウ段落【0013】の【表2】をみると,実施例1ないし8が記載されている。実施例1は「経過時間10分間後」の「マイナスイオン」が「185」で,プラスイオンが「143」であり,「経過時間60分間後」の「マイナスイオン」が「225」で,プラスイオンが「152」であり,「経過時間120分間後」の「マイナスイオン」が「288」であり,「プラスイオン」が「180」であることが示されている。しかし,特許権設定登録時の願書に添付した明細書又は図面にはそのような事項は記載されていないし,同明細書又は図面から自明な事項ともいえない。
エ同様に,訂正明細書の【表2】の実施例2,5,6に示されている事項は,願書に添付した明細書又は図面に記載されていないし,同明細書又は図面から自明な事項ともいえない。
オ段落【0015】の【表3】をみると,実施例1ないし8が記載されている。そして,【表3】の実施例1ないし8の記載は,【表1】及び【表2】の実施例1ないし8に対応するものである。そうすると,実施例2の「静電気+V」が「115」,実施例5の「静電気+V」が「110」,実施例6の「静電気+V」が「150」であることが示されているが,この内容は特許権設定登録時の願書に添付した明細書又は図面に記載されていないし,同明細書又は図面から自明な事項ともいえない。
2取消事由2(本件発明と先願発明との同一性の判断の誤り)について(1)本件発明の「静電気に帯電しにくい高分子化合物から選ばれた水性アクリルエマルジョン」は乾燥した状態のものであり,決定の「水性アクリルエマルジョン塗料は静電気に帯電しにくい高分子化合物であること」は,「乾燥した水性アクリルエマルジョン塗料は静電気に帯電しにくい高分子化合物であること」を説示したものである。本件明細書においては,水性アクリルエマルジョンを用いることのみが記載されており,何らかの材料成分を付加して静電気に帯電しにくい水性アクリルエマルジョンにしたという具体的な記載はなく,「乾燥したアクリルエマルジョン」は静電気に帯電しにくい高分子化合物といえる。
乙第2ないし4号証記載のものは,帯電防止や高い導電性を示すものであって静電気に帯電しにくいといえるから,乾燥した水性アクリルエマルジョン塗料に静電気に帯電しにくい高分子化合物があることは周知であるし,乾燥した状態で静電気に帯電しにくい水性アクリルエマルジョン塗料も周知である。
先願発明は「ポリアクリル系樹脂」を含有した樹脂組成物であり,静電気に帯電しにくい水性アクリルエマルジョンは建材用塗料において周知であるといえるから,先願発明の「ポリアクリル系樹脂」において帯電しにくい水性アクリルエマルジョンを選択することは,課題を解決するための具体化手段における周知技術の選択にすぎない。
(2)本件明細書の表2をみると,実施例1のプラスイオンは140から170に,実施例2のプラスイオンは155から180に増加しており,さらに「室内ブランク」をみるとプラスイオンは120から118に減少しており,マイナスイオンは180から290に増加しているから,本件発明の作用効果であるプラスイオンを抑制し,一方マイナスイオンの放出を増大する」は,室内ブランクと実施例1において大差がなく,原告の主張は失当である。
3取消事由3(本件発明の進歩性の判断の誤り)について(1)本件発明と刊行物1記載の発明との一致点認定の誤りについて原告は,刊行物1記載の発明が「静電気に帯電しにくい高分子化合物,並びに希有元素類を含む鉱物,及び少なくともトルマリン若しくは遠赤外線放射セラミックスのいずれか一方を含有したマイナスイオンを放出すると同時に遠赤外線を放射する樹脂組成物を用いた内装建材。」であることを争っておらず,刊行物1記載の発明の「内装建材」が本件発明の「室内用建材」と一致することは明らかである。
原告は,本件発明が先行基本特許発明のうち,特定の用途のみを規定する選択発明である意義を判断していないと主張するが,この点と一致点の認定との間に関係はなく,刊行物1の「内装建材の分野で有用である」との記載から用途が「室内用建材」である点において一致すると認定した決定に誤りはない。
(2)相違点2の判断の誤りについてア刊行物2記載の発明の認定の誤りについて原告は,@刊行物2には帯電しにくい高分子化合物から選定される水性アクリルエマルジョンについて記載されていないと主張するが,決定では,相違点2として示しているように,「静電気に帯電しにくい高分子化合物」は刊行物1に開示されている技術思想であり,刊行物2に記載がないことは,相違点2についての判断に影響しない。
また,原告は,A刊行物2記載の発明においてはマイナスイオンを放出しないと主張するが,マイナスイオンがどの程度生成されるか,効果を裏付ける記載があるかどうかについて記載がなくても,刊行物2記載の発明が「マイナスイオンを放出する塗料を建築材料の表面に塗布した室内建材」であり,刊行物2に「合成樹脂塗料にトルマリンと分散剤を配合してなるマイナスイオンを生成する塗料において,合成樹脂塗料として水性アクリルエマルジョン樹脂を用いる」という技術思想が開示されていることは,明らかである。
イ水性アクリルエマルジョン選択の容易性判断の誤りについて刊行物1はマイナスイオンを放出する樹脂組成物を用いた内装建材であり,刊行物2はマイナスイオンを放出する塗料を建築材料(板材,壁材等)の表面に塗布した室内建材についての発明であり,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明は同一技術分野に属するから,刊行物1記載の発明において刊行物2記載の発明のような水性アクリル樹脂エマルジョンを選ぶことに何ら困難性はない。
4取消事由4(「層着」という用語の明確性についての判断の誤り)について「層着」は,原告も自認するように一般的用語ではない。また,塗布は,多数塗装膜厚塗り塗着の上位概念に当たるものであるから,通常「塗布又は」と用いたときに,「又は」の後には,塗布以外の行為が記載されると解される。
一方,水性アクリルエマルジョンを含む樹脂組成物は,乾燥し固体にしたものを接着して取り付けることも可能であり,「層着」を「層にしたものを着けた」との意味に解することもできるため,「層着」の意義は明確でない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件訂正請求の適否についての判断の誤り)について(1)決定は,本件補正の適否について,平成17年5月16日付けで行われた訂正請求書の補正は,訂正事項を変更しており,訂正請求書の要旨を変更するものと認められるので,訂正請求書の補正は,平成15年法律47号による改正前の特許法120条の4第3項で準用する同法131条第2項の規定に違反するものであり,採用できないとして,本件補正を却下している。この決定では,本件補正のいかなる事項が訂正事項の変更となり,訂正請求書の要旨を変更するものであるものかについて,具体的に記載されていない。
被告は,本件訴訟において,前記第4,1(1)のとおり,本件補正のうち,次の点が訂正請求書の要旨を変更するものであると主張する。
ア本件特許の特許請求の範囲の請求項1について,本件訂正請求における@「プラスイオンを抑制」する訂正事項,及び,Aマイナスイオン放出を「増大する」訂正事項を削除する(以下「本件補正ア」という。)ものであるから,本件補正は,訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものである。
イ本件明細書の段落【0005】について,本件訂正請求による訂正事項に,「本発明においては,上記希有元素類を含む鉱物から選ばれたモナズ石を使用することができる。」を追加すること(以下「本件補正イ」という。)は,訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものである。
これに対し,原告は,本件補正は,いったん申し立てた訂正事項を削除する補正であり,訂正請求書の要旨を変更する補正に当たらず,訂正事項を加え又は変更する補正でもないと主張している。
(2)平成15年法律47号による改正前の特許法120条の4第3項において準用する同法131条の規定により,訂正請求書の補正は,その要旨を変更するものであってはならないとされている。訂正請求書の補正に制限を設けた趣旨は,補正に制限を設けないことによって訂正請求に対する審判手続が煩雑となり遅延すること及び訂正請求の時期的な制限(同法120条の4第2項)が請求書の補正によって潜脱されることを防ぐためであると解される。
したがって,訂正請求事項の範囲を拡張する場合が要旨の変更に当たるほか,特許請求の範囲についていったんこれを減縮する訂正をした後にこれを再度拡張する補正をする場合は,たとえ補正後の特許請求の範囲が訂正(減縮)前の特許請求の範囲内にとどまるものであっても,上記の趣旨に照らせば,要旨の変更に当たり,補正は許されないというべきである。
(3)本件特許の特許公報(甲第2号証),本件訂正請求の訂正請求書(乙第1号証)及び本件補正の補正手続書(甲第15号証)によれば,原告は,本件特許の請求項1等を別紙対照表「本件発明(本件訂正請求前)」欄記載のものから,本件訂正請求により,同表「本件訂正請求」欄記載のもの(以下「本件訂正請求発明」という。)に訂正することを請求したが,本件補正により,本件訂正請求発明に代えて同表「本件補正」欄記載のもの(以下「本件補正発明」という。)に訂正するよう求めたことが認められる。
ア本件補正アは,請求項1に対する訂正事項「‥‥‥一部分或いは全面に塗布により,プラスイオンを抑制し,マイナスイオンの放出を増大すると同時に,」の下線部分を削除し,「‥‥‥一部分或いは全面に塗布したマイナスイオンを放出すると同時に,」と補正するものである。したがって,本件補正アは,本件訂正請求においていったん特許請求の範囲減縮する訂正をした後に,「プラスイオンを抑制」する訂正事項及びマイナスイオン放出を「増大する」訂正事項を削除して,再度特許請求の範囲拡張する補正をする場合に該当する。
本件補正アは特許請求の範囲についていったん減縮した後再度拡張するものであるから,たとえ補正後の特許請求の範囲が訂正(減縮)前の特許請求の範囲内にとどまるものであっても,要旨の変更に当たり,補正は許されない。
イ本件補正イは,本件明細書の段落【0005】に「本発明において,高分子化合物として,静電気に帯電しにくい高分子化合物の中から選ばれた水性アクリルエマルジョンを使用することができる。また,希有元素類を含む鉱物としては,フェルグソン石,モナズ石,バストネス石,コルンブ石等を使用することができ,最も好ましくはモナズ石,バストネス石である。」との記載を追加する本件訂正請求の訂正事項の後に,更に「本発明においては,上記希有元素類を含む鉱物から選ばれたモナズ石を使用することができる。」との記載を追加することを求めるものである。したがって,本件補正イは,本件訂正請求になかった訂正事項を追加する補正であり,訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものである。
ウ以上によれば,本件補正は,本件訂正請求の訂正請求書の要旨を変更するものである。したがって,本件補正が認められないとした決定の判断に誤りはない。
(4)前記(1)ないし(3)のとおり,本件補正は訂正請求書の要旨を変更するものとして認められないから,これを前提に,本件訂正請求の適否を検討する。
本件特許の特許公報(甲第2号証)及び本件訂正請求の訂正請求書(乙第1号証)によれば,原告は,本件特許の請求項1等を別紙対照表「本件発明(本件訂正請求前)」欄記載のものから,本件訂正請求により,同表「本件訂正請求」欄記載のものに訂正することを請求したことが認められる。
甲第16号証によれば,本件訂正請求のうち,「訂正された段落【0009】の【表1】,同【0013】の【表2】,同【0015】の【表3】の内容は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項とはいえず,また,自明な事項ともいえない。さらに,表の内容と,それに関連する記載とが整合していない。」との訂正拒絶理由が通知されたことが認められる。訂正された段落【0009】の【表1】,同【0013】の【表2】,同【0015】の【表3】の内容は,別紙2記載のとおりであり,別紙1に記載されていなかった実施例等を追加するものである。
甲第15号証によれば,原告は,段落【0009】の【表1】,同【0013】の【表2】,同【0015】の【表3】の内容を別紙1のものから別紙2のものとする本件訂正請求における訂正事項を本件補正によって削除し,別紙1のものとしようとしていたことが認められるが,前記のとおり,本件補正が認められないから,通知された訂正拒絶理由は解消されていないことになる。
したがって,本件訂正請求は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でされたものとはいえず,平成15年法律47号による改正前の特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項の規定に適合しないから,決定がした本件訂正請求の適否についての判断に誤りはない。
2取消事由2ないし4について前記1のとおり,本件訂正請求が認められないから,本件訂正請求前の特許請求の範囲(別紙対照表「本件発明(本件訂正請求前)」欄記載のもの)について,取消事由2ないし4を判断すると,仮に「層着」という文言が不明確でない(取消事由4関係)としても,以下のとおり,本件発明に進歩性が認められない(取消事由3関係)から,本件発明と先願発明との同一性(取消事由2関係)について判断するまでもなく,原告の請求には理由がない。
(1)本件発明と刊行物1記載の発明との一致点認定の誤りをいう点についてア刊行物1(甲第4号証)には,次の記載がある。
(ア)「【請求項1】静電気に帯電しにくい高分子化合物,並びに希有元素類を含む鉱物よりなるマイナスイオンを放出すると同時に遠赤外線を放射することを特徴とする樹脂組成物。‥‥‥・【請求項5】前記樹脂組成物が少なくともトルマリン若しくは遠赤外線放射セラミックスのいずれか一方を含む請求項1〜4記載の樹脂組成物。」(特許請求の範囲)(イ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は樹脂組成物に関し,マイナスイオンの増幅と持続性維持並びに同時放射する遠赤外線の利用を図った土壌改良材,飼料改良材等,及び健康治療用具,工業用品等に有用な樹脂組成物及び発泡樹脂組成物に関する。」(ウ)「【0006】ところで,マイナスイオンを作り出すには,人工的に電圧の放電によってマイナス空気イオンをつくる発生装置が知られている。しかし素材そのものがマイナスイオンを大量に放出するという物質は知られておらず,極微弱なマイナスイオンを放出しているといわれているトルマリン石や備長炭があるが,マイナスイオン測定値では検出できない。このため,本発明者は,希有元素類を含む鉱物に着目し,その鉱物の中でも,極微弱な放射線を放射する希有元素類天然鉱石が,イオンを放出している物質であることを確認したが,イオンを大量に放出しているものの,プラスイとマイナスイオンが同時に放出され,しかもプラスイオンの方が多く放出しているものであることが判った。この様にプラスイオンが多く放出されるのであれば,環境,生命体に悪影響を及ぼす虞れがあるとの知見を得た。」(エ)「【0007】【課題を解決するための手段】上記問題点に鑑み,極微弱な放射線を放射する希有類天然鉱石が放出するプラスイオンを減少するための手段について種々検討を重ねた結果,特定の高分子基材または特定の高分子基材とトルマリン或いは遠赤外線セラミックを混合することにより,プラスイオンの放出量を抑制し減少せしめるばかりか,一方,マイナスイオンを多量に放出するという前者の抑制作用と併せ,後者の励起促進作用の共存状態を維持可能な高分子樹脂組成物を見いだし,これによって上記難点を解消できるとの知見を得た。また,特定の樹脂組成物によっては,プラスイオンのみを選択的に殆ど完全に集束することができ,マイナスイオン環境の整備に繋がると共に,遠赤外線も多量に放射するダブル効果のある樹脂組成物並びに発泡体樹組成物に到達した。」(オ)「【0008】本発明において,前者の高分子基材として,難帯電性高分子基材,すなわち,少なくとも静電気に帯電しにくい高分子を使用することができる。例えば,シリコンゴム,シリコンゴム変性体,シリコン樹脂,シリコン樹脂変性体等,フッソゴム,フッソゴム変性体,フッソ樹脂,フッソ樹脂変性体等を挙げることができる。また,ラテックスゴム組成物として,スチレンブタジエンラテックス,天然ゴムラテックス,スチレンブタジエンラテックスと天然ゴムラテックス混合物,スチレンブタジエンラテックスと合成ゴムラテックス混合物,合成ゴムラテックスとして,イソプレンラテックス,クロロプレンラテックス,アクリロニトリルラテックス,ポリウレタンラテックス,エチレンプロピレンジエン共重合ラテックス等を用いることができる。上記のうち,最も静電気に帯電し難い高分子基材として,最も好ましくは,シリコンゴム,スチレンブタジエンラテックス及び発泡させたフォ-ムラバ-である。」(カ)「【0010】本発明で,希有元素類を含む鉱物,及び希有元素類を含む鉱物とその他粉体混合物として,フェルグソン石,モナズ石,バストネス石,ゼノタイム,コルンブ石,ベタホ石,フェルグソン石,サマルスキ-石,ユ-クセン石,タンタル石,閃ウラン鉱,方トリウム石,ゴム石,カルノ-石,ガドリン石等がある。この鉱石のうち,極微弱な放射線を放射し,人体等に悪影響を及ぼさないとされる1.0μSv/hr以下の放射線を放射し,マイナスイオン放出を励起している鉱石として,最も好ましくは,モナズ石,バストネス石である。‥‥‥・【0011】次に,本発明において,遠赤外線セラミックとして,次のとおりである。‥‥‥・上記成分を含有された市販品の遠赤外線セラミックとして,「商品名セラジット,OKトレ-ディング製」があり,イオンを増幅し,同時に遠赤外線を高放射するうえで有利である。‥‥‥・【0012】本発明において,トルマリンは,次のとおりである。
(1)トルマリンとして,ショ-ルトルマリン,リチウムトルマリン,ドラバイトトルマリン,ルベライトトルマリン,ピンクトルマリン,インデコライト,バライバトルマリン,ウォ-タ-メロン等を用いることができ,特に黒トルマリンと呼ばれるショ-ルトルマリンが好ましい。‥‥‥・」(キ)「【0018】【発明の効果】本発明は上記のような構成からなり,プラスイオンよりもマイナスイオンの方が大量に放出し,プラスイオンの抑制作用と該マイナスイオンの励起促進作用の共存状態を維持でき,マイナスイオンの増幅と持続性維持並びに同時放射する遠赤外線の利用を図ることができる。また,プラスイオンのみを選択的に集束することができ,マイナスイオン環境の整備と併せて,遠赤外線も多量に放射する二重効果を奏する。この為,土壌改良材,飼料改良材,水質改良材,被服,下着,サポ-タ-,ソックス,靴,寝具類,内装建材,および健康治療用具,工業用品等の広範な分野で有用である。」イ刊行物1には,「静電気に帯電しにくい高分子化合物,並びに希有元素類を含む鉱物よりなるマイナスイオンを放出すると同時に遠赤外線を放射することを特徴とする樹脂組成物であって,前記樹脂組成物が少なくともトルマリン若しくは遠赤外線放射セラミックスのいずれか一方を含む樹脂組成物」が記載されている(上記(ア))。また,この「樹脂組成物」は,「プラスイオンよりもマイナスイオンの方が大量に放出し,プラスイオンの抑制作用と該マイナスイオンの励起促進作用の共存状態を維持でき,同時放射する遠赤外線の利用を図ることができる。」ものであり(上記(エ),(キ)),「土壌改良材,飼料改良材,水質改良材,被服,下着,サポ-タ-,ソックス,靴,寝具類,内装建材,および健康治療用具,工業用品等の広範な分野で有用である。」(上記(キ))との記載がある。したがって,刊行物1記載の「樹脂組成物」が「内装建材」の分野で有用であることが開示されており,「樹脂組成物」を内装建材に用いるに当たって,これを困難とする事情も見受けられない。
また,「内装」が建物等の内部の設備,装飾を意味することは明らかであるから,刊行物1記載発明の「内装建材」は,本件発明の「室内用建材」に相当するとの決定の認定にも誤りはない。
ウ原告は,本件発明が先行基本特許発明又は刊行物1記載の発明のうち,特定の用途のみを規定する選択発明である意義を判断していないと主張する。
しかし,刊行物1には,「樹脂組成物」の用途として「内装建材」が挙げられており,「内装建材」は本件発明の「室内用建材」に相当するものであるから,本件発明によって,刊行物1記載の「樹脂組成物」の未知の用途が明らかにされたことにならない。また,「室内用建材」との限定を付したとしても,上記「樹脂組成物」を「室内用建材」という用途に用いるときに特に適した形状,構造,組成等を示したことにはならない。
原告は,本件発明が「静電気に帯電しにくい高分子化合物」のうちから「水性アクリルエマルジョン樹脂」を選択した選択発明であるとも主張する。
しかし,決定は,相違点2においてこの点を認定しているから,この点は,本件発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定の当否に影響するものではない。
エ以上のとおり,刊行物1記載の発明を「静電気に帯電しにくい高分子化合物,並びに希有元素類を含む鉱物,及び少なくともトルマリン若しくは遠赤外線放射セラミックスのいずれか一方を含有したマイナスイオンを放出すると同時に遠赤外線を放射する樹脂組成物を用いた内装建材」と認定し,刊行物1記載の発明における「内装建材」が本件発明における「室内用建材」に相当するとした決定の判断に誤りはない。
(2)相違点2の判断の誤りをいう点についてア刊行物2記載の発明の認定の誤りをいう点について刊行物2には,次の記載がある。
(ア)「【0001】……本発明は,表面を保護する目的等で被装物表面に塗布する塗料に係り,特に,マイナスイオンを生成する塗料に関する。」(イ)「【0030】このように合成樹脂塗料に粒径0.5μ〜50μの電気石粉と分散剤を配合して構成した塗料は,建築材料(板材,壁材等)の表面,製品を構成する材料の表面,既成の製品の外面に塗布するものである」(ウ)「【0053】本発明に係る塗料の第12の実施の形態は,合成樹脂塗料を,アクリル樹脂塗料で構成したものである。アクリル樹脂塗料は,アクリル酸,メタクリル酸の誘導体を主成分とする重合樹脂で,アクリルモノマー,スチレンモノマーの反応性,二重結合をラジカル触媒で活性化し,高分子化するものである。このラジカル触媒には,過酸化物,アゾビス化合物が用いられる。アクリルモノマーには,アクリル酸n-ブチル,メタクリル酸メチル,メタクリル酸n-ブチル等多くの種類がある。このアクリル樹脂塗料は,本来は熱可塑性樹脂(自然乾燥用)であるが,メラミン樹脂などで補強することにより熱硬化性樹脂(焼付用)としても使われ,アクリル樹脂塗料の形態には,水溶性樹脂・エマルジョン樹脂・非水エマルション(N・A・D)・粉体樹脂などさまざまなものがある。」(エ)「【0054】このようにアクリル樹脂には,溶剤型と水溶型があり,溶剤型には熱可塑性樹脂(自然乾燥アクリル,アクリルラッカー)と熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル,アクリル粉体)がある。また,水溶型にはエマルション型と水溶性型とがあり,エマルション型には熱可塑性樹脂(壁用エマルション)と熱硬化性樹脂(瓦・壁材など)が,水溶性型には熱硬化性樹脂(焼付下地)と熱可塑性樹脂(一部家庭用)がある。」(オ)「【0069】本願請求項12に記載の発明によれば,電気製品・建材・自動車などの工業用から屋内(室内)塗装などの建築用に塗布することができ,室内製品・室内建材・内装に用いることにより室内に大量のマイナスイオンを生成することができる。」上記のとおり,刊行物2には,「室内建材に用いることにより室内に大量のマイナスイオンを生成することができる」合成樹脂塗料であって,その合成樹脂がアクリル樹脂で形成されており,アクリル樹脂として「水溶型」の「エマルジョン型」のものが記載されている(上記(エ),(オ))。したがって,決定が刊行物2に「合成樹脂塗料にトルマリンと分散剤を配合してなるマイナスイオンを生成する塗料において,合成樹脂塗料として,水性アクリルエマルジョン樹脂(非水エマルションに対し,エマルジョン樹脂は水性と解される)を用いることが記載され」ていると認定した点には誤りはない。
原告は,刊行物2に合成樹脂塗料全般にわたって用いることができると記載されているが,マイナスイオン放出についての実証すら全く認められず,いわゆる極性基を持たない水性エマルジョン及び極性基の弱い水性エマルジョンは,静電気に大きく帯電しているため,マイナスイオンは放出しないものであるから,本件決定の認定は誤りであると主張する。
しかし,刊行物2記載の合成樹脂塗料の中に,マイナスイオンが発生しない場合があるとしても,刊行物2記載の発明が「マイナスイオンを放出する塗料を建築材料の表面に塗布した室内建材」であり,刊行物2に「合成樹脂塗料にトルマリンと分散剤を配合してなるマイナスイオンを生成する塗料において,合成樹脂塗料として,水性アクリルエマルジョン樹脂を用いる」という技術思想が開示されていることは,上記のとおり明らかである。また,少なくとも,原告は,水性アクリルエマルジョン樹脂が静電気に帯電しにくく,マイナスイオンの放出を妨げないものであることは争っていないから,刊行物2記載の合成樹脂塗料がマイナスイオンを放出しないものであるとはいえない。
以上のとおり,原告の主張を採用することはできない。
イ水性アクリルエマルジョン選択の容易性判断の誤りをいう点について上記認定のとおり,刊行物2には,「室内建材に用いることにより室内に大量のマイナスイオンを生成することができる合成樹脂塗料において,水性アクリルエマルジョン樹脂を用いる」ことが記載されており,刊行物2には,マイナスイオンを生成する室内建材用の合成樹脂塗料として,水性アクリルエマルジョン樹脂を用いることが示唆されている。また,本願出願時において水性アクリルエマルジョン樹脂が室内用建材塗料の代表的なものであったことを,原告は争っていない。そうすると,刊行物1記載の発明の樹脂組成物を用いた室内用建材に用いる「高分子化合物」として,「水性アクリルエマルジョン樹脂」を採用することを着想するには,格別の困難性は認められないというべきである。
刊行物1記載の発明は,樹脂組成物を静電気に帯電しにくい高分子化合物により構成するものであるから,水性アクリルエマルジョン樹脂を用いるに際して,同様に静電気に帯電しにくいものを選ぶようにすることは,当然考慮すべき事項である。
そして,刊行物1には,「【0017】さらに,このことは,本発明における樹脂組成物の構成によれば,静電気測定では,静電気測定値0で,静電気に帯電しない素材であることが判明しており,とりもなおさず,イオンを放出するに際し妨害とならない素材であることを示す証左である。また,同時に遠赤外線をも高放射するものであることも判明しており,これらイオン放出効果と遠赤外線効果のいわゆるダブル効果を充足する複合素材として機能するように働く。」,「【0047】試験方法1.静電電位測定:静電電位測定器スタチロンDZ〔シシド-電気(株)製〕により測定。測定温度25℃静置した状態の織布付きゴム弾性体,或いはゴム発泡弾性体についての静電電位の測定値を静電状態の測定値とし,各弾性体面を手で5回摩擦した後の静電電位の測定値を動的状態の測定値とした。尚,トルマリン粉体については,粉体を手で混合した後の静電電位を動的状態の測定値とした。」と記載されているから,特定の「静電気に帯電しにくい高分子化合物」を選定する方法が刊行物1に記載されているものと認められる。したがって,「水性アクリルエマルジョン樹脂」が「静電気に帯電しにくい高分子化合物」か否かを確認することにも格別の困難性は認められない。
さらに,本件明細書の実施例において,「静電気に帯電しにくい高分子化合物より選ばれた水性アクリルエマルジョン」として「モービルDM-772」という市販品が例示されていることからすれば,本件発明において用いられている水性アクリルエマルジョンである「静電気に帯電しにくい高分子化合物より選ばれた水性アクリルエマルジョン」が本件特許出願時において入手が困難であるとも認められない。本件明細書には,水性アクリルエマルジョン以外の「静電気に帯電しにくい高分子化合物」からなる樹脂組成物を用いた室内用建材についての比較例等は記載されておらず,本件発明がその他の樹脂組成物を用いたものに比べて,室内用建材として格別顕著な効果があるとも認められない。
以上によれば,刊行物1記載の発明の「静電気に帯電しにくい高分子化合物」として,「水性アクリルエマルジョン樹脂」を採用することは,当業者が容易になし得る程度のものであり,決定が相違点2について当業者が適宜なし得ることにすぎないとしたことに誤りはない。
3結論以上に検討したところによれば,決定を取り消すべき事由は認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀
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