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関連審決 不服2002-22656
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10325審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10075審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10704審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10403審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10332審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  審判制度 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  前置審査 /  拒絶理由通知 /  審判の係属中 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10030号 審決取消請求事件
原告 エルジーフィリップス エルシーディ ー カンパニーリミテッド
訴訟代理人弁理士岡部正夫
同 加藤伸晃
同 朝日伸光
同 三山勝巳
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人竹井文雄
同藤内光武
同工藤一光
同立川功
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-22656号事件について平成17年9月13日にした審決を取り消す。
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成11年10月20日,発明の名称を「携帯用コンピュータ用平板表示装置」とする発明について特許出願(特願平11-298916号,優先権主張1998年〔平成10年〕10月23日,同月27日・大韓民国,以下「本件出願」という。)をしたが,平成14年8月21日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月22日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年12月20日付けで特許請求の範囲等について手続補正(以下「本件手続補正」という。)をした。
特許庁は,これを不服2002-22656号事件として審理し,平成17年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 本件手続補正により補正された明細書(甲6,以下,願書に添付した明細書〔甲1〕及び平成14年7月23日付けの手続補正書により補正された明細書〔甲5〕と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨ハウジングに装着できる平板表示装置であって,背面に固定部を有する第1フレームを含む背光ユニットと,前記背光ユニットの近くに配置した平板表示パネルと,第2フレームとを含んでおり,前記平板表示パネルは,前記第1フレームと第2フレームの間に位置し,前記背光ユニットの前記第1フレームは,該第1フレームの背面の固定部を通して前記ハウジングに固定されることを特徴とする平板表示装置。
3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平10-13 13181号公報(甲2,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 審決が認定した,本願発明と引用例発明との一致点及び相違点は,それぞ 2れ次のとおりである(審決謄本5頁第2段落)。
ア一致点他の装置に装着できる平板表示装置であって,背面に固定部を有する第1フレームを含む背光ユニットと,前記背光ユニットの近くに配置した平板表示パネルと,第2フレームとを含んでおり,前記平板表示パネルは,前記第1フレームと第2フレームの間に位置し,前記背光ユニットの前記第1フレームは,該第1フレームの背面の固定部を通して前記他の装置に固定されることを特徴とする平板表示装置。
イ相違点本願発明においては,平板表示装置が他の装置のハウジングに固定されるのに対して,引用例発明においては他の装置の何に固定するのか明らかでない点。
原告主張の審決取消事由
審決は,査定の理由と異なる理由で本件審判の請求が成り立たないと判断したにもかかわらず,本願発明についての新たな拒絶理由を原告に対して通知せず(取消事由1),また,審査段階で追加され審査結果が示されていない請求項に記載された発明に対して拒絶理由を通知することなくされた(取消事由2)もので,その手続には瑕疵があり,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(拒絶理由の未通知1-本願発明について)( ) 本件出願の審査及び審判の経緯は,以下のとおりである。 1ア 平成14年2月7日付けの拒絶理由通知(甲3)は,拒絶の理由として,理由1(特許法29条2項),同2(同法29条の2),同3(同法36条4項)及び同4(同法36条6項2号)を示し,引用文献1ないし7,先願8及び9を引用した。
本願発明は,出願時の請求項35に記載された発明に対応するものであり,拒絶理由通知においては,理由1(特許法29条2項)により,引用文献6(特開平04-134900号公報),同7(引用例,特開平10-133181号公報,甲2)に基づく拒絶理由があるとされた。
イ 原告は,上記拒絶理由通知に対し,同年7月23日に意見書とともに手続補正書(甲5)を提出して,出願時の請求項1ないし55を補正し,かつ,請求項56ないし68を追加した(以下,追加された請求項56ないし68を「本件追加請求項」という。)。
ウ 同年8月21日付け拒絶査定(甲4)は,本件出願について,「平成14年2月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をすべきものである。」とし,その備考において,請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32は,先願8及び9の当初明細書に記載された発明と実質同一であるので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとした。
エ 原告は,拒絶査定不服審判の請求をした後,同年12月20日付け手続補正書(甲6)により,拒絶査定の備考に掲げられた請求項すべてと他の複数の請求項を削除し,請求項35,36,38ないし46及び55ないし68のみを抜き出して,これらをそれぞれ新たに請求項1ないし25とする補正を行った(本願発明は,新しい請求項1に記載された発明である。)。
オ 審決は,本願発明を,引用例発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,特許法29条2項により,特許を受けることができないとした。
( ) 本願発明は,出願時の請求項35に記載された発明に対応し,平成14年 22月7日付け拒絶理由通知書では,理由1(特許法29条2項)により,引用文献6,7に基づく拒絶理由があるとされていたが,拒絶査定においては,拒絶理由として理由2(同法29条の2)のみが明示され,理由1については明示されず,上記請求項35への言及がなかった。
拒絶査定において,拒絶理由通知で示した拒絶理由の一部を明示的に撤回していなくとも,拒絶査定に示された理由こそが査定の理由である以上,そこに記載されていない拒絶の理由である特許法29条2項が,査定の理由となっているとは,直ちにいえない。
平成12年特許・実用新案審査基準の第\部の「9.拒絶査定」の項には,「(2) 拒絶査定を行う際には,先に通知した拒絶理由が依然として解消されていないすべての請求項を指摘する。
(3) 拒絶査定を行う際には,意見書における出願人の主張及び補正内容に対する審査官の判断とともに,解消されていないすべての拒絶理由を明確に記載する。記載にあたっては,可能な限り請求項ごとに行うことが望ましい。」と記載されており,上記審査基準に照らせば,本願発明について,拒絶査定において触れられなかった理由1は解消され,特許法29条2項に基づく拒絶の理由は,査定の理由にならないものと理解され得る。
ところが,審決は,本願発明が,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとして特許法29条2項に基づいて拒絶したものであるから,本願発明につき,査定の理由と異なる拒絶の理由によって,特許を受けられないとするものであるのに,本願発明について,同項に基づく新たな拒絶理由を通知せずにされたものであり,特許法159条2項,50条に違反してされた違法なものとして,取り消されるべきである。
なお,被告は,特許・実用新案審査基準が法規範でない旨主張するが,そうであるとしても,単に審査における判断基準としてではなく,出願人による特許管理等の指標としても広く利用されるものであるから,特許法159条2項等の規定の解釈の基礎となり得るものであり,特許・実用新案審査基準による法の解釈は,法律の枠組みを超えるものでない。そして,少なくとも本件の場合は,特許・実用新案審査基準を踏まえた解釈によれば,拒絶査定の理由は,理由2(特許法29条の2)の対象となった請求項に係るものであるとすることが妥当である。
( ) 改善多項制の下では,単に一部の請求項についてのみ審査結果を示し,そ 3れでよしとするのでは,出願人側としての対応が取れないのであり,前記特許・実用新案審査基準は,現行制度の下での拒絶査定の在り方を示している。
そして,審査前置制度の趣旨は,審査官の拒絶査定の内容に応じ,出願人が請求項を補正した出願に対しては,審査を担当した該当審査官が拒絶査定を取り消して,特許査定する機会を与え,審判部の負担を減らすことにある。
このような制度においては,審査官が,出願人に対して拒絶査定の内容を明確に示し,出願人が,審査官の意図を正確に把握でき,どのように補正しなければならないのかを完全に理解できることが重要である。それに対し,本件出願の拒絶査定の内容からは,本願発明について,拒絶されたままであるとは理解することができず,上記趣旨が没却されることとなる。
さらに,前記特許・実用新案審査基準において,拒絶査定に記載すべきものとされているところは,平成5年の特許法改正の趣旨の一つである審判制度の簡素化につながる拒絶査定不服審判請求時の補正の制限(同法17条の2)と関係する。すなわち,同改正により,審判で審理される内容は,拒絶査定時に係属していた請求項の範囲内に限られることになり,改善多項制の下で出願の公平性と審理の迅速性・的確性を確保できることになった。他方,拒絶査定の記載を通じて,出願人に対して,請求項のすべてについて,拒絶理由の存否を指摘することで,出願人が審判請求をする際に,請求項の削除又は限定を的確にさせ,審判の迅速審理に,より寄与することを意図しているものであり,これにより,審判は,審査の一からのやり直しということではなく,行政処分である拒絶査定自体の瑕疵の是正を行うという性格を持ったとされる。
このような事情からすれば,本件において,拒絶査定において指摘された請求項を審判請求時に削除すれば,特許法159条2項拒絶査定の理由については除去されていると出願人が理解することに誤認があったとはいえず,もし,審判に係属している請求項が拒絶査定の理由として指摘されていなかったが,なお,特許査定ができないとすれば,改めて拒絶理由を通知することが適切な審理手法である。
( ) 原告は,本件審判手続において,平成16年7月29日付け審尋書(甲 48)を受領したところ,同審尋書には,本願発明につき,先の拒絶理由通知で示した理由1が,引用文献4(特開平08-076886号)により解消されていない旨の「前置報告書」が添付されており,審尋書は,同前置報告書の内容に対して,原告に意見を求めるものである。これに対し,原告は,同年9月13日付け回答書(甲9)を提出し,前置報告書の拒絶理由は,拒絶査定に明示されていない理由1(特許法29条2項)であって,原告が解消された拒絶理由と理解したものであり,審査官と出願人との間で拒絶査定の理由の解釈について齟齬があるから,補正書(案)の提出の機会を与えてくれるよう申し出た。
本件で審尋をしたのは,前置報告書に拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶の理由が記載されているためであり,原告の上記回答書により,拒絶査定の理由又は拒絶査定の対象としなかった請求項の解釈について,審判官と原告との間の解釈の齟齬が明らかとなったのであるから,出願人である原告に補正の機会を与えることが,審理手続上公正を欠くことになるとは考えられないにもかかわらず,原告の意思を全く無視して審決がされたものである。したがって,同手続は,平成5年改正法の趣旨及びそれに適合する特許・実用新案審査基準を尊重しているとはいえず,少なくとも,本件の場合,新たな拒絶理由を通知し,補正の機会を与えることが合理的であったといわなければならない。
2 取消事由2(拒絶理由の未通知2-本件追加請求項に記載された発明について)( ) 原告は,上記1の( )のとおり,拒絶理由通知に対し,平成14年7月2 113日に意見書とともに手続補正書(甲5)を提出して,請求項1ないし55を補正し,かつ,本件追加請求項(請求項56ないし68)を追加した。
これに対し,拒絶査定は,本件出願について,「平成14年2月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって拒絶すべきものである」とし,その備考において,(出願当初の)請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32は,先願8及び9の当初明細書に記載された発明と実質同一であるとした。
すなわち,本件出願の審査において,拒絶理由通知後に,新たに本件追加請求項が追加されたにもかかわらず,第2回目,すなわち,最後の拒絶理由通知がされることなく拒絶査定がされ,その内容は出願当初の請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32のみに言及し,本件追加請求項については何ら触れていないものであった。
( ) 被告主張のように拒絶査定で拒絶すべきものとして言及されていない請求 2項(請求項5,6,11ないし14,33ないし64)が必ずしも特許査定をすべき請求項を意味するわけではないというのであれば,本件追加請求項は,拒絶査定において何ら言及されていないのであるから,審査段階においては,審査結果が示されていないことになる。したがって,本件審判において,本件追加請求項(審判請求後の請求項13ないし25)のそれぞれについて,その拒絶理由の存否について拒絶理由を通知すべきところ,それを通知しなかったのであるから,審決は,特許法159条2項,50条に反し違法であり,取り消されるべきである。
また,拒絶査定が,特許・実用新案審査基準に則していないのであれば,審判手続においてその不足が補われてしかるべきであり,特許法159条2項,50条によって,本件審判の係属中に新たに追加された本件追加請求項のそれぞれについてその拒絶理由の存否を示すべきところ,それをせずにされた審決は,同規定に違反している。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(拒絶理由の未通知1-本願発明について)について( ) 原告は,審決が,本願発明について,引用例発明に基づく容易想到性を理 1由に特許法29条2項により特許を受けることができないとしたことについて,新たな拒絶理由通知をせずに,査定と異なる理由によって,本件審判の請求が成り立たないとしたものであり,特許法159条2項,50条に違反している旨主張するが,失当である。
( ) 特許法50条は,審査官が特許出願に対し拒絶査定をしようとするときは, 2出願人に対し拒絶理由を通知し,意見陳述の機会を与えるべきことを定めている。その趣旨は,審査官が拒絶理由があるとの心証を得た場合においても,何らの弁明の機会を与えずに直ちに拒絶査定をすることは出願人に酷であり,また,審査官も過誤を犯すおそれがないわけでもないから,このようなときには,まず出願人に意見書を提出して意見を述べる機会を与える一方で,願書に添付した明細書又は図面を補正して拒絶理由を解消する機会を与え,同時に,出願人から提出された意見書を資料として審査官に再度の考案をするきっかけを与えて審査の公正を担保しようとすることにある。同法159条2項は,拒絶査定不服審判に同法50条の規定を準用する旨定めているが,その趣旨は上述したところと全く同様であると解される。そして,同法158条は,審査においてした手続は拒絶査定不服審判においても効力を有することを定めており,審査官がした拒絶理由通知は審判手続においても効力がある。
そうすると,審査官による拒絶査定の理由とその結果を維持した審決の理由とが異なっている場合において,審判手続で改めて拒絶理由が通知されていないときであっても,審査手続において審決が採用した拒絶理由が通知されていれば,審判手続に違法はない。なぜなら,上記の同法158条により,拒絶査定不服審判手続において,審査官がした拒絶理由通知並びに出願人が提出した意見書及び補正書も効力を生じるから,既に出願人の意見陳述と拒絶理由解消の機会は与えられ,審判の公正も担保されているからである。そして,このことは,拒絶理由通知後に補正がされたか否かで影響を受けない。
( ) 本件において,平成14年2月7日付けの拒絶理由通知書において,本願 3発明に対応する請求項35に係る発明につき,引用文献6,7に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとする拒絶理由が理由1として通知されているが,この引用文献7は,特開平10-133181号公報であり,審決における引用例である。
原告は,拒絶理由通知に対して,意見書(乙1)と手続補正書(甲5)を提出して意見を陳述するとともに特許請求の範囲の記載を補正し,さらに,平成15年2月13日付け手続補正書(乙2)により補正された審判請求書の請求の理由においても,「上記の説明から明らかなように,前記平成14年12月20日付けの手続補正書により本願の請求項から前記拒絶理由と拒絶査定の対象となった請求項が削除されたため,もはや本願に係る発明は前記拒絶理由の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえず,特許されてしかるべきである。」として,特許法29条2項の拒絶理由についても意見を述べているのであって,意見陳述の機会があったことは明らかである。
そして,審決は,本願発明が,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
そうすると,審決は,平成14年2月7日付け拒絶理由通知書の理由1に基づいたものであるところ,特許法158条の規定により,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても効力を有する以上,同法159条2項,50条に規定される拒絶理由の通知を要しないものであることは当然のことであり,審査官が通知した拒絶理由を,審判において再度通知することなく審決をすることが,同規定に違反するものではない。
( ) 原告は,特許・実用新案審査基準に照らして,拒絶査定においては,解消 4されていない拒絶理由として理由2だけが明示されていることから,他の拒絶理由は解消されていると理解した旨主張する。
しかし,特許・実用新案審査基準は,審査官が特許法に基づいた的確な判断を効率的に行うことを補助するためのものであり,特許法の枠組みを超えた新たな法規範を定めるものではないことは当然であり,拒絶査定に記載された理由が理由2だけであるからといって,審査官が拒絶理由通知書に記載した理由1が解消されていると理解すべき法律上の根拠はない。したがって,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(拒絶理由の未通知2-本件追加請求項に記載された発明について)について( ) 原告は,審決は,審査段階で審査結果が示されていない本件追加請求項に 1ついて,審理結果を示すことなくされたものであり,特許法159条2項,50条に違反している旨主張するが,失当である。
( ) 特許法49条(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同 2じ。)は,柱書において,「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合であっても,そのうちのいずれか一つの発明でも特許法29条等の規定に基づき特許をすることができないものであるときには,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定している。
本件について,新たな拒絶理由の通知が不要なことは,取消事由1に対して主張したとおりであり,審決が,本件追加請求項に係る発明についての審理結果を示さなかったことは,上記特許法49条の規定に従ってされたもので,何ら違法な点はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(拒絶理由の未通知1-本願発明について)について( ) 原告は,審決が,本願発明について,引用例発明に基づく容易想到性を理 1由に特許法29条2項により特許を受けることができないとしたことについて,新たな拒絶理由通知をせずに,査定と異なる理由によって,本件審判の請求が成り立たないとしたものであり,特許法159条2項,50条に違反している旨主張する。
( ) そこで,本件出願の審査及び審判の経過についてみると,以下の事実が認 2められる。
ア 原告は,平成11年10月20日,発明の名称を「携帯用コンピュータ用平板表示装置」とする本件出願をした。本件出願は,特許請求の範囲に記載された請求項1ないし55に記載された発明に係るものであるが,本願発明に対応するのは,請求項35に記載された発明であり,願書に添付した明細書(甲1)の請求項35には,「ハウジングに装着できる平板表示装置として,背面に固定部を有する第1フレームを含む背光ユニットと,前記背光ユニット近くにいる平板表示パネルと,第2フレームとを含んでおり前記平板表示パネルは,前記第1フレームと第2フレーム間に位置し,前記背光ユニットの前記第1フレームは,前記第1フレームの背面の固定部を通して前記ハウジングに固定されることを特徴とする平板表示装置。」と記載されていた(以下,同請求項に記載された発明を「本願補正前発明1」という。)。
イ 本件出願に対し,平成14年2月7日付け拒絶理由通知(甲3)により拒絶の理由が通知された。
拒絶理由は,本件出願の請求項1ないし55に係る発明は,引用文献1ないし7(注,引用文献7は,引用例)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(理由1),請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32に係る発明は,先願8,9に記載された発明と同一であり,同法29条の2の規定により特許を受けることができない(理由2),本件出願に係る発明の詳細な説明の記載が同法36条4項に規定する要件を満たしていない(理由3),本件出願の特許請求の範囲の記載が同法36条6項2号に規定する要件を満たしていない(理由4)との四つの理由からなっていた。
理由1につき,本願補正前発明1について,引用文献6及び同7(引用例)が掲げられており,拒絶理由通知書の該当欄には,備考として「文献6ないし文献7に記載の平面表示板は,背面に固定部を有する第1フレームを含む背光ユニットと,平板表示パネルと,第2フレームとからなり,平板表示パネルは第1フレームと第2フレーム間に位置し,前記第1フレームは背面の固定部を通してハウジングに固定されるものであり,上記各請求項に係る発明と格別相違しない。」と記載されていた。
ウ 原告は,拒絶理由通知に対し,平成14年7月23日,特許請求の範囲の記載を補正する手続補正書(甲5)を提出し,請求項35等の記載を変更するとともに,本件追加請求項(請求項56ないし68)を追加した。
また,同日,意見書(乙1)を提出して,本件出願が,拒絶理由の理由1ないし4により拒絶されるべきでない旨の意見を述べた。
上記手続補正により,請求項35は,「ハウジングに装着できる平板表示装置であって,背面に固定部を有する第1フレームを含む背光ユニットと,前記背光ユニットの近くに配置した平板表示パネルと,第2フレームとを含んでおり,前記平板表示パネルは,前記第1フレームと第2フレームの間に位置し,前記背光ユニットの前記第1フレームは,該第1フレームの背面の固定部を通して前記ハウジングに固定されることを特徴とする平板表示装置。」(下線部が補正箇所)と補正された(以下,同項に記載された発明を「本願補正前発明2」という。)。また,上記意見書において,本願補正前発明1が,引用例発明と格別相違しないとされた拒絶理由通知の記載に対し,「また,引用文献7(注,引用例)に記載された構造は,図3の記載から明らかなように,前記請求項の発明と対比した場合,金属製シールドケースSHDが第2フレームに該当し,液晶表示パネルPNLがディスプレーパネルに該当し,下側ケースMCAが第1フレームに該当するところ,前記下側ケースMCAの背面には固定部がなく,側部に固定部が設けてあることは明らかであります。」と述べた。
エ 平成14年8月21日付けで,本件出願については,拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法29条の2)によって,拒絶をすべきであるとして,拒絶査定(甲4)がされた。
拒絶査定書の備考欄においては,請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32が掲げられ,これらが,先願8,9に記載された発明と同一である旨が記載されている。
オ 原告は,平成14年11月22日,拒絶査定不服審判を請求し,同年12月20日,手続補正書(甲6)を提出して特許請求の範囲を補正し,請求項1ないし34等の請求項を削除し,残りの,請求項35,36,38ないし46及び55ないし68をそれぞれ新たに請求項1ないし25とした。同補正は,請求項を削除して,請求項の項数及び項番号を変更しただけであり,残された請求項について,その記載内容は変更していない。本願補正前発明2は,これにより,請求項1に記載されることとなり(本願発明),本件追加請求項は,請求項13ないし25となった。
カ 原告は,平成15年2月13日,手続補正書(乙2)を提出して,審判請求の理由を補充し,請求項を削除する補正を行ったものであるとして,「もはや本願に係る発明は前記拒絶理由の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえず,特許されてしかるべきである。」と述べた。
キ 審決は,平成17年9月13日,改めて拒絶理由を通知することなく,本願発明は,引用例発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 特許法159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒 3絶の理由を発見した場合には,同法50条の規定を準用し,拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないと規定している。この規定の趣旨は,審査手続において通知した拒絶理由によって出願を拒絶することは相当でないが,拒絶理由とは異なる理由によって拒絶するのが相当と認められる場合には,出願人が当該異なる理由については意見書を提出していないか又は補正の機会を与えられていないことが通常であることにかんがみ,出願人に対し改めて意見書の提出及び補正の機会を与えることにあるものと解される。
また,同法158条により,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有し,審査官がした拒絶理由通知は,審判手続においても効力があり,出願人が提出した意見書及び補正書も審判手続において効力を有する。
これらのことを併せ考えると,拒絶査定と異なる理由による審決をする場合であっても,審決の理由が既に通知してある拒絶理由と同趣旨のものであり,出願人に対し意見書の提出及び補正の機会が実質的に与えられていたときは,改めて拒絶理由が通知されなかったことをもって,特許法159条2項において準用する同法50条の規定に違反する違法があるとまではいえないと解するのが相当である。
( ) 本件において,上記( )の事実によれば,審決の理由とした本願発明(本 42願補正前発明2)の引用例発明に基づく容易想到性(特許法29条2項)は,拒絶査定の理由に掲げられていないから,その限りにおいて,拒絶査定の理由と審決の理由とは異なっている。しかしながら,審査段階における拒絶理由通知において,出願時の請求項35に記載された本願補正前発明1については,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨の拒絶理由が示されており,原告は,同理由に対し,補正の機会及び意見書の提出の機会があったといえるし,現に,上記請求項35について,補正手続書を提出して補正する(本願補正前発明2)とともに,引用例の記載を具体的に指摘した上で,本願補正前発明2が引用例発明に基づいて容易に発明をすることができたものでない旨の意見書を提出している。そして,拒絶査定に本願補正前発明2に対する拒絶理由が解消されたことが記載されているわけではない。さらに,原告は,拒絶査定に対する不服審判請求後の補正において,上記請求項35をそのまま新請求項1(本願発明)とした上,審判請求の理由において,本願発明を含む本件出願に係る発明が,拒絶理由に掲げられた文献に記載された発明(これには,引用例発明を含む。)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない旨主張しているとおり,審判の段階において,本願発明について,引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶理由がないことを明確に述べている。
以上の事実関係に照らすと,審決の理由とした本願発明の引用例発明に基づく容易想到性は,審査段階において既に原告に通知してある本願補正前発明1の進歩性の判断と同趣旨のものであり,原告に対し意見書の提出及び補正の機会が実質的に与えられていたということができる。現に,原告は,拒絶理由通知を受けた後,本願発明に対応する請求項の補正をし,本願発明が引用例発明に基づいて容易に発明することができない旨の意見書を提出し,審判の段階においても,本願発明が引用例発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない旨の意見を明確に述べている。そうすると,審判段階において,本願発明について,引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶の理由が通知されなかったことをもって,本件の審判手続に特許法159条2項において準用する同法50条の規定に違反する違法があるとまでいうことはできない。
( ) 原告は,特許・実用新案審査基準第W部の「9.拒絶査定」の項に, 5「(2) 拒絶査定を行う際には,先に通知した拒絶理由が依然として解消されていないすべての請求項を指摘する。(3) 拒絶査定を行う際には,意見書における出願人の主張及び補正内容に対する審査官の判断とともに,解消されていないすべての拒絶理由を明確に記載する。記載にあたっては,可能な限り請求項ごとに行うことが望ましい。」との記載があることを挙げ,上記審査基準に照らせば,本願発明について,拒絶査定において触れられなかった拒絶理由1は解消され,特許法29条2項に基づく拒絶の理由は,査定の理由にならないものと理解され得るとして,審決には,新たに引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶理由を通知しなかった同法159条2項,50条違反の違法がある旨主張する。
確かに,審決の理由とした本願発明(本願補正前発明2)の引用例発明に基づく容易想到性(特許法29条2項)が拒絶査定の理由に掲げられていないことは上記( )のとおりであり,拒絶査定の記載は,上記審査基準に必ずし 4も則ったものでないといわざるを得ない。
しかし,特許・実用新案審査基準は,特許要件の審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり,出願人にとっては出願管理等の指標としても広く利用されているものではあるが,飽くまでも特許庁内において特許出願が特許法の規定する特許要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成されたものであるから,尊重されるべきではあるが,法規範性を有するものでないことは明らかであり,本件の審判手続が特許法159条2項,50条に違反しているといえないことは,上記( )のとおりである。4原告は,上記特許・実用新案審査基準を根拠に,本願発明について,拒絶査定において触れられなかった拒絶理由1は解消され,特許法29条2項に基づく拒絶の理由は,査定の理由にならないものと理解され得ると主張するが,原告は,前記( )カのとおり,審判請求の理由において,「もはや本願 2に係る発明は前記拒絶理由の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえず」として,本願発明には引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶理由がないことを明確に述べているのであって,原告の上記主張は,失当というほかなく,本件においては,上記特許・実用新案審査基準に必ずしも則ったものでない手続がされたことをもって,審決を取り消すべき手続上の瑕疵があるとまでいうことはできない。
( ) 原告は,改善多項制の下での拒絶査定の在り方等に言及し,本件において, 6審判段階において,改めて引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶理由を示すべきであった旨主張するが,特許法159条2項において準用する同法50条の規定の趣旨は,前記( )のとおりであって,上記( )の判断を左右す 34るものではなく,採用することができない。
また,原告は,審判手続において,前置報告書が添付された審尋書に対する回答書によって,審査官と出願人である原告との間で拒絶査定の理由等の解釈について齟齬があることが判明していたとして,それを無視することは,平成5年改正法の趣旨及びそれに適合する特許・実用新案審査基準を尊重しているとはいえず,少なくとも本件の場合,新たな拒絶理由を通知し,補正の機会を与えることが合理的であった旨主張する。
しかし,拒絶理由の通知に係る法の趣旨に照らし,本件手続に違法の点はないこと,特許・実用新案審査基準の記載もその結論を左右するものではないことは,上記のとおりであり,いわゆる前置審査の手続(特許法162条参照)も上記法の趣旨を超える手続保障を出願人に与えるものとは解されない。原告の主張は,法の趣旨等について独自の解釈を前提とするものであり,採用の限りではない。
( ) したがって,原告の取消事由1の主張は,理由がない。 72 取消事由2(拒絶理由の未通知2-追加請求項に記載された発明について)について(1) 原告は,本件追加請求項は,拒絶理由通知後に追加されたものであり,最後の拒絶理由通知がされることなく,拒絶査定がされ,本件追加請求項については何ら触れられておらず,審査段階においてその審査結果が示されていないにもかかわらず,審判において,本件追加請求項に関し,新たな拒絶理由通知を発することなく,本件出願を拒絶したものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する旨主張する。この主張は,要するに,本件追加請求項に対する拒絶の理由が示されていないこと自体を問題とするものであり,そもそも,複数の請求項からなる特許出願を拒絶するためには,すべての請求項に記載された発明について,審査審判の段階において,それぞれ拒絶の理由を通知しなければならないことを前提とするものであると解される。
しかし,特許法49条は,柱書において,「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,2号において「その特許出願に係る発明が第25条,第29条,第29条の2,第32条,第38条又は第39条第1項から第4項までの規定により特許をすることができないものであるとき。」と規定しているとおり,複数の請求項からなる特許出願について,特許出願に係る発明のうちの一つについて上記拒絶の理由があれば,当該特許出願を拒絶査定しなければならないことは明らかである。そして,同法50条により,審査官は,拒絶査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知することが必要であるが,特許出願に係る発明のうちの一つについて上記拒絶の理由があれば,当該特許出願は拒絶査定されるのであるから,特許法の規定上は,審査官は,特許出願に係る発明のうちの一つについて拒絶の理由を通知すれば足りるというべきであり,それぞれの請求項について拒絶の理由を通知しなければ違法であるとする原告主張の上記前提は失当というほかはない。
そうすると,本件において,拒絶査定において,出願時の請求項1ないし4,7ないし10,15ないし32に記載された発明に拒絶の理由があったことから,本件追加請求項についての拒絶の理由について触れずに,本件特許出願全体を拒絶したことに違法の点はない。また,審判においても,特許出願に係る複数の請求項に記載された発明のうちの一つである本願発明に対して拒絶の理由があり,本願発明について,新たな拒絶理由通知をせずに審判請求が成り立たない旨の審決をすることが許されることは,前記1のとおりであって,ここでも本件追加請求項の拒絶の理由に触れる必要はないから,本件の審判手続に原告主張の違法はない。
( ) したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。 23 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明
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