関連審決 | 無効2005-80100 |
---|
関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 実施 / 加工 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(行ケ)
10835号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 長瀬産業株式会社 原告 株式会社平間理化研究所 原告 ナガセケムテックス株式会社 原告ら訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同宮嶋学 同 高田泰彦 同訴訟代理人弁理士 永井浩之 同 勝沼宏仁 同 岡田淳平 被告 株式会社ケミテック 訴訟代理人弁理士 廣江武典 同 武川隆宣 同 高荒新一 同 中村繁元 同西尾務 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告ら(1) 特許庁が無効2005-80100号事件について平成17年10月31日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2被告主文同旨 |
|
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告らは,発明の名称を「現像原液の希釈装置」とする特許第2090366号の特許(昭和62年2月10日出願,平成8年9月18日設定登録。以下「本件特許」という。発明の数は1である。)の特許権者である。 被告は,平成17年3月31日,本件特許を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2005-80100号事件として審理し,平成17年10月31日,「特許第2090366号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年11月10日,その謄本は原告らに送達された。 2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,特許請求の範囲第1項に係る発明を「本件発明」という。)。 「1 ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備に管路を介して所望濃度の現像液を送給するための現像原液の希釈装置であって,アルカリ系現像原液と純水とを混合する混合手段と,この混合手段からの混合液を受け入れ,所定時間強制攪拌する攪拌槽と,この攪拌槽内の混合液の一部を連続的に抜き出しその導電率を測定したのち攪拌槽内に戻す導電率測定手段と,前記導電率測定手段で測定した導電率に対して温度補償を行って基準温度における前記混合液の導電率を演算する温度補償手段と,前記温度補償手段からの出力信号にもとづき前記混合手段に供給されるアルカリ系現像原液または純水のいずれか一方の流量を制御する制御手段と,前記攪拌槽からの混合液を前記加工用設備に前記管路を介して送給する前に受け入れ貯留する貯留槽と,を備えたことを特徴とする現像原液の希釈装置。 2 前記混合手段がラインミキサである特許請求の範囲第1項に記載の現像原液の希釈装置。 3 前記攪拌槽は外筒と内筒とを備え,槽内の混合液を内外筒間に強制循環させるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の現像原液の希釈装置。 4 前記導電率測定手段には被測定液を一定温度にする温度調整手段が付設されたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の現像原液の希釈装置。」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,本件特許の出願前(以下「本件出願前」という。)に頒布された刊行物である特開昭62-11520号公報(甲1〔審決における「甲1」〕。以下「引用例」という。),実願昭59-182709号(実開昭61-98527号)のマイクロフィルム(甲3〔審決における「甲3」〕),実公昭59-29940号公報(甲4〔審決における「甲4」〕),内藤正編「工業計測法ハンドブック」株式会社朝倉書店昭和51年9月30日発行(甲5〔審決における「甲5」〕)の480頁〜481頁,工業計測技術大系編集委員会「工業計測技術大系7 工業分析(下)」日刊工業新聞社昭和40年1月30日発行(甲6(乙8も同じ。以下,甲6のみを摘示する。)〔審決における「甲6」〕)の45頁〜53頁に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,というものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用例記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。 (1) 引用発明「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の処理槽に管路を介して所定濃度の薬液を送給するための薬液調合装置であって,半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の薬品原液と純水とを導入して調合を行う調合槽と,該調合槽の中の薬液を循環ろ過する薬液循環ろ過手段と,該薬液循環ろ過手段のろ過部を通過した薬液またはその各成分の濃度をモニタする導電率濃度計と,該導電率濃度計による測定結果に基づき,薬液濃度が所定濃度の薬液になるように薬品原液または純水のいずれか一方を調合槽に補充する手段と,を備えた薬液調合装置」(2) 一致点「槽と,この槽内の混合液の一部を抜き出しその導電率を測定したのち槽内に戻す導電率測定手段と,を備えたことを特徴とする原液の希釈装置」である点。 (3) 相違点(イ) 本件発明では,原液が「アルカリ系現像原液」であり,希釈装置が「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備に管路を介して所望濃度の現像液を送給するための現像原液の希釈装置」であるのに対して,引用発明では,原液が「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の薬品原液」であり,希釈装置が「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の処理槽に管路を介して所定濃度の薬液を送給するための薬液調合装置」である点(以下「相違点(イ)」という。)。 (ロ) 本件発明では,「アルカリ系現像原液と純水とを混合する混合手段」を備え,槽が「混合手段からの混合液を受け入れ,所定時間強制攪拌する攪拌槽」であるのに対して,引用発明では,「混合手段」については開示されておらず,槽が「原液と純水とを導入して調合を行う調合槽」である点(以下「相違点(ロ)」という。)。 (ハ) 本件発明では,「導電率測定手段で測定した導電率に対して温度補償を行って基準温度における混合液の導電率を演算する温度補償手段」を備え,制御手段が「温度補償手段からの出力信号にもとづき混合手段に供給されるアルカリ系現像原液または純水のいずれか一方の流量を制御する制御手段」であるのに対して,引用発明では,温度補償手段が開示されておらず,制御手段が「導電率濃度計による測定結果に基づき,薬液濃度が所定濃度の薬液になるように薬品原液または純水のいずれか一方を調合槽に補充する手段」である点(以下「相違点(ハ)」という。)。 (ニ) 本件発明では,「攪拌槽からの混合液を加工用設備に管路を介して送給する前に受け入れ貯留する貯留槽」を備えているのに対して,引用発明では,その点が開示されていない点(以下「相違点(ニ)」という。)。 |
|
原告ら主張の取消事由の要点
審決は,本件発明と引用発明との相違点(イ)及び(ニ)についての各判断を誤り,その結果,本件発明の進歩性を誤って否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。なお,引用発明の内容及び本件発明と引用発明との一致点・相違点の各認定並びに相違点(ロ)及び(ハ)の各判断は認める。 1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)審決は,相違点(イ)に関し,引用例に開示されている湿式処理工程における技術思想を本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備」に転用し,ホトレジスト用アルカリ系現像原液を使用側で希釈して使用することは当業者なら誰しも推考し得るものである旨判断したが,誤りである。 (1) 転用の困難性ア 引用発明における湿式処理工程は,具体的には,半導体素子製造工程におけるエッチングやウエハ表面洗浄であり,用いられるエッチング液の薬液やウエハ洗浄液の成分は小数点以下1桁で濃度管理される(例えば,ウエハ洗浄液として用いられるSC-1(アンモニア/過酸化水素水溶液)は,アンモニア1±0.15%,過酸化水素5±0.30%,水94±1.5%の組成であり,エッチング液として用いられるBHF(フッ酸/フッ化アンモニウム水溶液)は,フッ化アンモニウム25±0.3%,フッ酸3±0.3%,水72±1%の組成であると一般的にはいわれている。)。 これに対し,本件発明によりアルカリ系現像原液を希釈することにより製造されるアルカリ系現像液(以下「ホトレジスト現像液」という。)は,半導体素子製造工程におけるポジレジスト現像に供されるものであるが,小数点以下3桁の濃度管理が必要であり(例えば,ホトレジスト現像液として多用されるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液の濃度は,2.380±0.005%レベルの精度で管理することが要求される。),ウエハ洗浄液やエッチング液より10倍以上精確な濃度管理を要求されるものである。 上記のレベルでの濃度管理が要求されるのは,下記(ア)〜(ウ)の理由により,ホトレジスト現像液の濃度が,半導体素子製品の良否にきわめて緊密な関係を有するからである。 (ア) 一般にパターン幅が小さいほど露光量を多く必要とし,大きいほど露光量が少なくて済むので,細いパターンは露光不足のため所望のパターンが得られなかったり,太いパターンは露光過剰のため必要以上にパターンが除去されたりすることがある。また,ホトレジストの膜厚が厚い部分は膜厚の薄い部分よりも形成したパターンが太くなるという問題がある。これらパターン幅,膜厚によるパターン寸法への影響は,ホトレジスト現像液の濃度によって敏感に左右される。 (イ) 縮小投影露光法では,露光部と未露光部の明暗のコントラストが低くなるため,低いコントラストの露光部でも十分に選択的に露光される必要がある(露光選択性)が,この露光選択性は,ホトレジスト現像液の濃度の極めて微少な変化によって変化する。 (ウ) レジストパターンは側面がほぼ垂直に切り立った形状のものが要求されるが,このレジストパターンの側面形状は,ホトレジスト現像液の濃度の極めて微少な変化によって変化するイ 本件出願前は,導電率測定手段は,粗い濃度の測定にしか用いられておらず,濃度を小数点以下3桁まで管理しなければならないホトレジスト現像液に適用するには,下記(ア)〜(ウ)のとおり,十分な信頼性がないと考えられていた。このため,本件出願前は,ホトレジスト現像液の濃度管理は,導電率測定手段ではなく,時間と手間がかかるが,信頼性が高いと考えられていた中和滴定により行われていた。 (ア) 目標の溶質以外に電離した溶質があれば,目標以外の溶質の濃度が加わった濃度が測定されてしまい,逆に,目標の溶質が100%電離しなければ,実際の溶質の濃度より少なく測定されてしまう。 (イ) ホトレジスト現像液の濡れ性を得るために,従来から現像液に界面活性剤などの添加剤が加えられる場合があったが,これら界面活性剤がわずかでも電離すれば,導電率による濃度の測定は不正確な結果を生ずる。 (ウ) レジストの水溶性化のメカニズムは,現在でも完全には解明されておらず,経験的に導電率によってホトレジスト現像液の濃度管理を行うことにより,結果として所期の寸法パターンを得ることが知られている程度であるから,上記メカニズムが現在以上に不明であった本件出願前には,ホトレジスト現像の寸法精度と現像液の導電率とを結びつけることができなかった。 (2) 本件発明を実現した実験に基づく知見本件発明は,ホトレジスト現像液の技術分野における従来技術である中和滴定を改良すべく案出されたものであり,実験によって確認した下記@〜Cの点が組み合わされて,ホトレジスト現像液の濃度管理に導電率測定手段を適用することができるという知見を得て,実現されたものである。 @ ホトレジスト現像液の濡れ性を向上させるために通常加えられる添加剤は,溶液中では電離しない。 A ホトレジスト現像液の溶媒(水)中には,溶液の導電率に影響を与えるイオンがほとんど存在しない。 B ホトレジスト現像液の実用の濃度帯域では,ホトレジスト現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり,導電率から現像液の濃度を容易に算出することができる。 C ホトレジスト現像液の濃度測定の温度帯域では,現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり,導電率から現像液の濃度を容易に算出することができる。 上記の点は,実験してみなければ判明しなかったことであり,上記@〜Cのすべてが都合よく組み合わされて,ホトレジスト現像液の濃度管理に導電率測定手段を適用することができるということは,当業者が予測できなかったことである。 (3) 本件発明の効果本件発明によって,導電率でホトレジスト現像液の濃度を所定値に管理することにより,成分濃度で濃度管理するよりも,高品質な現像を行えるという,予測することができなかった効果を得ることができた。 本件発明によれば,従来の中和滴定の方法よりも,正確にホトレジスト現像液の濃度の有効成分の濃度を測定することができる。すなわち,TMAH水溶液や水酸化カリウム(KOH)水溶液などは,空気中の炭酸ガスを吸収すると,ホトレジスト現像液としては作用しない炭酸塩を生成することから,従来の中和滴定の方法では,滴定に用いる標準液(塩酸)と炭酸塩が反応してしまうため,ホトレジスト現像液として作用しない炭酸塩の濃度を含む濃度を測定してしまい,ホトレジスト現像液の活性濃度(現像液として実際に作用することができる成分の濃度)を測定することができなかった。これに対し,導電率測定手段を用いる本件発明によれば,炭酸塩は溶解してもほとんど電離しないので,ホトレジスト現像液として作用しない炭酸塩の濃度を除いた活性濃度を測定することができるものである。 また,本件発明によれば,煩雑な作業を要する従来の中和滴定の方法よりも,効率よくホトレジスト現像液の濃度を測定できる。 (4) まとめ以上のとおり,引用例にエッチング液やウエハ洗浄液の測定用に導電率測定手段を使用することが開示されているからといって,これをホトレジスト現像液に適用し,本件発明に到達することが容易であるということはできない。 2 取消事由2(相違点(ニ)の判断の誤り)審決は,相違点(ニ)に関し,薬液を希釈した後,貯蔵しておく希釈薬液貯蔵タンクを設けることは,本件出願前の周知事項であるから,貯留槽を設けることに格別のことはない旨判断したが,誤りである。 本件発明において,貯留槽は,撹拌槽における溶液濃度のハンチングを平準化するという技術的意義を有する。 すなわち,本件発明における貯留槽は,呼称が「貯留」槽になっているが,単に使用前に薬液を貯蔵するものではなく,ホトレジスト現像液の濃度の平準化を行うものである。例えば,アルカリ系現像液として多用されるTMAH現像液において,撹拌槽では,2.380±0.010%程度のハンチング(濃度のばらつき)を示す場合があるが,貯留槽によって,2.380±0.003%程度の微小なハンチングに平準化することができる。 撹拌槽で撹拌を行った後に,別の槽で貯留静置することにより,溶液の濃度がある程度平準化されることは当業者が予測できることであるが,撹拌槽における濃度のハンチングの幅が貯留槽が存在していない場合の30分の1にも抑制されるという効果は,当業者が予測することができない顕著な効果である。 本件発明の貯留槽は,撹拌槽からホトレジスト加工設備に現像液が供給される間に現像液の濃度のばらつきを吸収して平準化するものである。 このように,本件発明の貯留槽は,撹拌槽における濃度のハンチングを平準化するものであり,その平準化の効果は小数点以下4桁のレベルという当業者が予測し得なかった効果を奏するという技術的意義を有するものであるところ,審決はこれを看過したものである。 |
|
被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)について(1) 転用の困難性についてア 原告らは,ポジレジスト現像液の濃度誤差の許容範囲が引用発明のエッチング液等の濃度誤差の許容範囲に比べて格段に小さく,引用発明の導電率測定手段を本件発明に用いることは容易想到ではないと主張し,具体的な濃度管理の値として,2.380±0.005%レベルの精度を挙げる。 しかし,本件明細書にはもともとかかる濃度誤差の許容範囲の具体的な記載はなく,その他原告らの上記主張を裏付ける根拠はない。 イ 原告らは,中和滴定に比べて導電率測定手段に十分な信頼性がないと考えられていた旨主張するが,具体的な信頼性の対比がなく,その主張を認めることはできない。 また,原告らは,導電率測定手段に十分な信頼性がないと考えられていた理由として,溶液中の他の電離溶質や添加物の影響等を挙げるが,かかる主張は,本件明細書における「純水の導電率は周知のようにきわめて小さく,また,必要に応じて添加される各種添加剤の量も現像原液の量に比べて無視できる程度に少ないので,現像液の濃度と導電率との関係は,純水の性状や添加剤の種類,添加量には実用上無関係に一義的に定まる。このため,本実施例装置によって製造した現像液の濃度は信頼性が高い。」(甲10の1,3頁6欄20行〜26行)との記載と矛盾するものであって,失当である。 なお,原告らは,ポジレジスト現像液がレジストと反応して水溶性にするメカニズムについても述べているが,かかる主張を裏付ける根拠は示されていない。 (2) 本件発明を実現した実験に基づく知見について原告らは,実験によって得た@〜Cの知見について述べるが,これらの知見は,本件明細書に記載されておらず,また,被告が無効審判において立証した公知技術にすぎない。 例えば,西野治著「工業電子計測」株式会社コロナ社昭和41年6月30日発行(乙1〔審決における「甲11」〕)の148頁〜149頁には,「9・2 電気抵抗濃度計」と題して,本件明細書にいう導電率測定手段で測定可能な溶液の濃度と導電率の関係を示す「図9・1 濃度と導電率の関係」,また,温度補償が必要な点が記載されている。この図9・1によれば,導電率測定手段によって,本件明細書で現像液として記載されているNaOH,KOHの濃度測定が可能であることが理解できる。また,同図では,特に濃度の小さい部分では,導電率と濃度との間に直線関係があり,導電率から希望する現像液の濃度が正確に測定できることが理解できる。 したがって,原告ら主張の@〜Cの知見をもって,原告らの実験によって得られたものということはできない。 (3) 本件発明の効果について原告らは,TMAH現像液と炭酸ガスとの反応の結果,中和滴定の方法に比べ,導電率測定手段が優れている旨主張する。 しかし,平野四蔵編「化学分析法ハンドブック」産業図書株式会社昭和36年9月15日発行の84頁〜85頁(乙2〔審決における「甲10」〕)には,「10・4 Na CO およびNaOH混合物の両者の定量」と題し23て,NaOH水溶液に含まれるNaOH(ポジレジストの現像液の一つとして本件明細書に記載されている。),NaCO (炭酸塩)を中和滴定で定23量する方法が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は誤りである。 (4) まとめ以上のとおり,原告らの主張はいずれも失当であり,審決の相違点(イ)の判断に誤りはない。 2 取消事由2(相違点(ニ)の判断の誤り)について原告らは,本件発明における貯留槽の格別の効果を主張するが,本件明細書には,この貯留槽について,もともと以下の記載があったのみである。 「撹拝槽18内の混合液は管路58からポンプ60によって,現像液タンク22に送られ,この現像液タンク内で一旦,貯留されたのち,管路62から半導体製造工程などの使用側に送給される。」(甲10の1,2頁4欄41行〜45行)「この濃度を一定にした混合液は現像液タンク22に貯留されたのち,現像液として使用される。」(甲10の1,3頁5欄43行〜45行)本件明細書の上記記載から原告らの上記主張の効果を読み取ることはできないから,原告らの上記主張は失当である。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)について(1) 転用の困難性についてア 原告らは,本件発明に用いられるホトレジスト現像液はエッチング液や洗浄液と異なり,小数点以下3桁の濃度管理が要求される旨主張する。 (ア) 本件明細書(甲10の1,2)の記載について,検討する。 特許請求の範囲(甲10の2,左欄2行〜27行)には,「アルカリ系現像原液」との記載があるが,その具体的な成分や濃度について,独立項である第1項はもとより,実施態様項である第2項ないし第4項を含めても,何らこれを特定する記載はない。 発明の詳細な説明には,「従来の技術」の項に,「ポジレジストの現像液材料としてはリン酸ソーダ,カ性ソーダ〔判決注:水酸化ナトリウム(NaOH)のこと。〕,ケイ酸ソーダ,またはその他の無機アルカリ等との混合物から成る無機アルカリ水溶液や,アルカリメタルの汚染が心配される場合にはメタルを含まないアミン系の有機アルカリ水溶液,テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)〔判決注:以下「TMAH」という。〕水溶液,トリメチルモノエタノールアンモニウムハイドロオキサイド(コリン)〔判決注:以下「THAH」という。〕水溶液等が用いられる。これら現像液は使用するポジレジストに合わせ,最高の解像力,画像のきれ,安定性を得るためにその組成及び濃度を厳密に管理しなければならない。特に,近年の半導体の高集積化に伴い,パターン幅の微細化が要求され,ホトレジストの実効感度のばらつきを小さくするために,現像液濃度の精度向上が強く望まれている。 ところで,従来においては,現像液は半導体製造工場で組成や濃度を調整した上で用いることは設備,運転コストの面ばかりでなく,組成及び濃度を十分に管理することがきわめて困難であるという基本的問題があるため,まったく行われていないのが実情であった。」(甲10の1,2頁3欄2行〜21行)との記載,「従来,液体の濃度管理を行う技術としては,例えば,装置の腐食防止のためにボイラプラント等の水質のPH値を一定にするために注入するアンモニアの自動希釈装置がある(実公昭61-7786)。このアンモニア自動希釈装置は,攪拌装置を有するアンモニア希釈タンクからアンモニア水循環系により一部のアンモニアを抜き出して電気伝導率測定装置でその導電率を測定し,測定結果に基づいて純水供給系及びアンモニア供給系を制御器で制御するものである。しかしながら,ホトレジスト微細加工の場合,現像により形成されるレジストパターンの寸法は小さいものでは0.35μm程度,大きなものでも10μm程度であり,現像に使用される現像液の微小な濃度変化による現像過多或いは現像不足は,レジストパターンの寸法に大きな影響を与える。このことから,アンモニアの自動希釈装置のような従来の液体の濃度管理の技術は,装置の腐食防止のために水質のPHをアルカリ側に管理すれば良い程度のラフなものであり,半導体製造工程でのホトレジストを用いた微細加工用の現像液の濃度管理には適用できなかった。」(甲10の2,左欄28行〜右欄13行)との記載〔判決注:出願公告後の補正で加入されたもの。〕,及び,「従って,半導体製造工場などの使用側(以下,使用側という。)では,もっぱら現像液メーカ(以下,供給側という。)で組成及び濃度を調整した現像液を使用せざるを得なかった。供給側では所定の組成に調合した現像原液を純水で希釈し,所望の濃度に調整した現像液を容器に充填し,使用側に供給する。現像原液の希釈倍率は,液組成及び原液濃度,ポジレジストの種類,使用目的によて区々に異なることは当然であるが,通常は5〜10倍前後である。このため,供給側で調整した現像液の量は希釈倍率に応じて大幅に増大し,この現像液を使用側へ運搬するための容器の準備,容器への充填作業,運搬コストは膨大となり,これらの諸経費が結果として現像液コストの相当な割合を占めるという問題点があった。」(甲10の1,2頁3欄22行〜34行)との記載があることが認められるが,ホトレジスト現像液の濃度について,小数点以下3桁の精度が要求される旨の記載は存在しない。 (イ) 本件出願前の技術水準について,検討する。 @ 特開昭59-219743号公報(乙3)には,次の記載がある。 「(1)テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド,トリアルキル(ヒドロキシアルキル)アンモニウムヒドロキシド及び水とを含有するポジ型レジスト現像液」(1頁左下欄5行〜8行)「(2)テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド〔判決注:TMAH〕及びトリアルキル(ヒドロキシアルキル)アンモニウムヒドロキシドがそれぞれテトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びトリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド〔判決注:THAH〕であり,現像液中にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが0.5〜3.0重量%,トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドが1.0〜4.0重量%含有されている特許請求の範囲第(1)項記載のポジ型レジスト現像液」(1頁左下欄9行〜18行)「本発明の現像液は,現像液として特性の異なったTMAH水溶液とTHAH水溶液とを混合することによって,全く新しい特性,すなわちレジスト感度及び未露光部分に対する溶解量の現像液温度依存性をなくしたポジ型レジスト現像液である。」(2頁右下欄17行〜3頁左上欄2行)「実施例1 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド〔判決注:TMAH〕1.4重量%,トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド〔判決注:THAH〕2.1重量%を含有する水溶液を調製し,現像液とした。」(3頁右下欄14行〜18行)A 特開昭61-232453号公報(乙4)には,次の記載がある。 「1 (A)金属イオンを含まないアルカリ,(B)第四級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤及び(C)一価アルコールを含有して成るポジ型ホトレジスト用現像液」(1頁左下欄5行〜8行)「2 金属イオンを含まないアルカリ化合物がテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(判決注:TMAH)及びトリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(判決注:THAH)の中から選ばれた少なくとも1種である特許請求の範囲第1項記載の現像液。」(1頁左下欄9行〜13行)「(A)成分の金属イオンを含まないアルカリを溶質として水媒体中に1〜10重量%……となるように溶解」(4頁右上欄1行〜4行)「本発明の現像液は,……露光部と非露光部に対する溶解選択性が著しく優れており,……薄膜残りやスカム残りを抑制する特性を有している。」(4頁右上欄20行〜左下欄13行)また,実施例について,「TMAH2.8」,「TMAH 2.65」,「THAH 5.0」,「TMAH 2.0+THAH 2.5」,「THAH 2.80」,「TMAH 3.00」(いずれも重量%)との記載がある。(5頁下欄〜6頁上欄の表)B 特開昭62-35349号公報(乙5,昭和60年8月9日出願,昭和62年2月16日公開)には,次の記載がある。 「現像液,例えば2〜5重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(判決注:TMAH)やコリン(判決注:THAH)の水溶液を用いて現像する」(4頁左上欄15行〜18行)「テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(判決注:TMAH)2.38重量%水溶液により23℃で30秒間現像した。」(4頁左下欄14行〜16行)C 特開昭62-32451号公報(乙6,昭和60年8月6日出願,昭和62年2月12日公開)には,次の記載がある。 「(1)金属イオンを含まない有機塩基を主剤とするポジ型ホトレジスト用現像液に,非イオン性のフッ素系界面活性剤を50〜5000ppm添加することを特徴とするポジ型ホトレジスト用現像液」(1頁左下欄5行〜8行)「(3)金属イオンを含まない有機塩基がテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(判決注:TMAH)およびコリン(判決注:THAH)から選ばれた少なくとも1種である特許請求の範囲第(1)項〜第(2)項記載のポジ型ホトレジスト用現像液」(1頁右下欄5行〜9行)「実施例1〜7……金属イオンを含まない有機塩基としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38%およびコリン4.2%をそれぞれ水に溶解してポジ型ホトレジスト用現像液とし,このそれぞれに第1表に示す非イオン性フッ素系界面活性剤を添加して本発明のポジ型ホトレジスト用現像液とした。」(4頁左下欄18行〜右下欄5行,5頁下欄の第1表)「実施例8 金属イオンを含まない有機塩基としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38%を水に溶解してポジ型ホトレジスト用現像液とし,これに非イオン性のフッ素系界面活性剤……を500ppm添加した。」(6頁左上欄1行〜9行)「本発明の現像液はポジ型ホトレジスト膜の現像の均一性が良好であり,……現像時間も非イオン性のフッ素系界面活性剤を添加しない従来のものに比べて半分の時間……でも良好なレジスト画像が得られた。さらに現像液の温度依存性は,特にテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド水溶液の場合には界面活性剤を添加しない従来のものに比べて著しく減少し……た。」(6頁左上欄18行〜右上欄9行)D 特開昭62-35452号公報(乙7,昭和60年8月6日出願,昭和62年2月12日公開)には,次の記載がある。 「(1) 金属イオンを含まない有機塩基を主剤とするポジ型ホトレジスト用現像液に陰イオン性のフッ素系界面活性剤を50〜5000ppm添加することを特徴とするポジ型ホトレジスト用現像液」(1頁左下欄5行〜8行)「(3) 金属イオンを含まない有機塩基がテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(判決注:TMAH)およびコリン(判決注:THAH)から選ばれた少なくとも1種である特許請求の範囲第(1)〜第(2)項記載のポジ型ホトレジスト用現像液」(1頁左下欄20行〜右下欄4行)「実施例1〜12……金属イオンを含まない有機塩基としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38%およびコリン4.2%をそれぞれ水に溶解してポジ型ホトレジスト用現像液とし,このそれぞれに第1表に示す陰イオン性フッ素系界面活性剤を添加して本発明のポジ型ホトレジスト用現像液とした。」(4頁左下欄8行〜15行,5頁上欄の第1表)」「実施例13 金属イオンを含まない有機塩基としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38%を水に溶解してポジ型ホトレジスト用現像液とし,これに陰イオン性フッ素系界面活性剤……を……添加した。」(5頁下左欄1行〜7行)「本発明の現像液はポジ型ホトレジスト膜の現像の均一性が良好であり,……現像時間も陰イオン性フッ素系界面活性剤を添加しない従来のものに比べて半分の時間……でも良好なレジスト画像が得られた。 さらに現像液の温度依存性は特にテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド水溶液の場合には界面活性剤を添加しない従来のものに比べて著しく減少し……た。」(5頁左下欄15行〜右上欄6行)乙3〜7(なお,乙5〜7は,本件出願前に頒布された刊行物ではないが,本件出願前に出願された特許出願が本件出願後に公開された公開特許公報であり,本件出願前の技術水準を認定するための資料として参酌することはできる。)の上記@〜Dの各記載によれば,ホトレジスト現像液としてTMAH水溶液やTHAH水溶液などが周知であり,濃度管理が必要なことが認められるが,濃度精度の要求水準について格別の記載はない。そして,乙3,4,6,7に「実施例」として具体的に記載されているものには,TMAHやTHAHの濃度が小数点以下1桁までの表示がされているものがあり,このようなものについて小数点以下3桁の濃度管理が必要であったとは認められない。 (ウ) 以上によれば,本件発明に用いられるホトレジスト現像液について小数点以下3桁の濃度管理が要求されるという原告らの主張は,その根拠を欠くものというべきであって,採用することができない。 イ 原告らは,導電率測定手段は,濃度%が小数点以下3桁まで管理しなければならないホトレジスト現像液に適用するには十分な信頼性がないと考えられていたと主張し,具体的な事情として,前記第3,1(1)ア(ア)〜(ウ)のとおり主張する。 しかし,原告らの主張は,ホトレジスト現像液がその濃度を小数点以下3桁まで管理しなければならないものであるという,その前提において誤っていることは,上記アにおいて説示したとおりであるから,採用することができない。 なお,念のため,原告らの前記第3,1(1)ア(ア)〜(ウ)の主張について検討してみても,次のとおり,いずれも失当である。 (ア) 原告らは,目標の溶質以外に電離した溶質があれば,目標以外の溶質の濃度が加わった濃度が測定されてしまい,逆に,目標の溶質が100%電離しなければ,実際の溶質の濃度より少なく測定されてしまう旨主張する。 しかし,本件明細書には,「ポジレジスト用の現像液を必要とする半導体製造工場などにおいては多量の純水を必要とするので,純水製造装置は必置とされる。従って,本発明において必要な希釈用の純水は,比較的容易に入手できる。」(甲10の1,3頁6欄17行〜20行)との記載があり,乙3〜7及び弁論の全趣旨によれば,ホトレジスト現像液は,半導体素子製造工程におけるポジレジスト現像に供されるものであって,ポジレジストを用いて微細加工を行う際に,ポジレジストの露光部分を選択的に溶解除去するために用いるアルカリ性水溶液であるから,ホトレジスト現像液の溶媒としての水には,極力,不純物やイオンを含まない純水を用いることは,当業者が当然に考慮する事項であるというべきであり,本件記録中にこれに反する証拠は認められない。 また,前記ア(ア)で検討した本件明細書の記載によれば,本件発明により調製されるホトレジスト現像液は,TMAH水溶液や水酸化ナトリウム水溶液であってもよいところ,TMAHや水酸化ナトリウムが強アルカリであって,ほぼ完全に電離することは,当裁判所に顕著な事実である(当庁平成17年(行ケ)第10558号・平成18年4月25日判決参照)。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 原告らは,ホトレジスト現像液の濡れ性を得るために,従来から現像液に界面活性剤などの添加剤が加えられる場合があったが,これら界面活性剤がわずかでも電離すれば,導電率による濃度の測定は不正確な結果を生ずる旨主張する。 しかし,本件明細書(甲10の1,2)によれば,特許請求の範囲に添加剤の記載はなく(甲10の2,左欄2行〜27行),本件発明は添加剤を用いない場合をも含むことは明らかである上,発明の詳細な説明には,「必要に応じて添加される各種添加剤」(甲10の1,3頁6欄21行〜22行)との記載があり,これによれば,添加剤がホトレジスト現像液の必須成分ではないことも明らかである。 さらに,乙4,6〜7によれば,ホトレジスト現像液に界面活性剤などの添加剤を加えている例があることが認められるが,他方,乙3,5によれば,添加剤を加えない例もあり,本件出願前に,ホトレジスト現像液には必ず添加剤を加えるという認識が当業者の間に存在したものでないと認められる。 そうすると,添加剤が導電率の測定に影響を与えるか否かは,直ちに,導電率測定手段をホトレジスト現像液の濃度管理に適用することを妨げる理由とはならないものというべきである(本件記録を検討しても,本件出願前,添加剤の影響により導電率ではホトレジスト現像液の濃度を精確に測定することができないと認識されていたことを裏付ける証拠は見いだせない。)。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (ウ) 原告らは,レジストの水溶性化のメカニズムは,現在でも完全には解明されておらず,経験的に導電率によってホトレジスト現像液の濃度管理を行うことにより,結果として所期の寸法パターンを得ることが知られている程度であるから,上記メカニズムが現在以上に不明であった本件出願前には,ホトレジスト現像の寸法精度と現像液の導電率とを結びつけることができなかった旨主張する。 しかし,レジストの水溶性化のメカニズムが解明されていないことは,導電率測定手段をホトレジスト現像液の濃度管理に適用することを妨げる理由とはならないものというべきである(本件記録を検討しても,原告らの主張を裏付ける証拠は見いだせない。)。 なお,導電率によってホトレジスト現像液の濃度管理を行うことに格別の支障があるとは認められないことは,下記(エ)及び(オ)に説示するとおりである。 (エ) 乙1には,「特定の溶液については濃度と導電率の間に一定の関係がある。図9・1にその例を示す。したがって液を一定の容器に入れて電気抵抗を測定すれば濃度を求めることができる。」(148頁3行〜5行)との記載,「温度補償 溶液の抵抗は0.02/度程度の大きな温度係数を持っているので濃度で目盛るためには温度補償が必要である.図9・4はその補償回路の例である。」(149頁15〜18行)との記載があり,また,「図9・1 濃度と導電率の関係」(148頁)には,塩化カリウム(KCl),水酸化ナトリウム(NaOH),水酸化カリウム(KOH),塩酸(HCl),硫酸(H SO ),硝酸(HN24O )について,横軸に濃度〔%〕,縦軸に導電率〔Ω/cm〕(判決注 3:ΩはΩ の誤記と認める。)をとったグラフが示され,水酸化ナトリ-1ウム(NaOH)は,濃度5〜10%では,濃度と導電率がほぼ比例することが示されている。 甲6には,「現在もっとも広い応用分野としては,溶液の濃度と導電率の関係が,温度が一定であれば精密に対応することを利用した工業的溶液濃度の測定,あるいは成分の検出方法として用いられている。たとえば化学工業におけるH SO ,HCl,NaOHなどの濃度の測定,24発電所,工場におけるボイラの給水,復水の水質測定,純水製造装置の純水の純度測定などのように導電率測定は現在pH測定と同様に広く普及し,プロセスの計装上必要欠くべからざるものとなっている。」(45頁下から3行〜46頁3行)との記載,「一般に電解質溶液は希薄な濃度においては,濃度が増しても電解質のイオンへの解離度がかわらないので,したがってイオンの数も濃度に比例して増加するから,導電率は直線的に増加する。」(49頁下から11行〜下から9行)との記載,「図3.3は工業的に導電率測定が行われている代表的な溶液の18℃における濃度と導電率の関係を示したものである。低濃度においてはいずれも導電率が濃度に対し比例して増加している」(50頁1行〜4行)との記載,「導電率は溶液の濃度が一定であっても,その温度の上昇に伴って,一般に約2%の温度係数をもって増加する。」(51頁下から8行〜下から7行)との記載,「同じ種類の電解質であっても,その濃度によって温度係数は多少異なり,表3.1に示したような値となっている。」(51頁下から6行〜下から4行)との記載があり,また,「図3.3 溶液の濃度と導電率の関係(ただしNaOHは15℃における値を示す)」(50頁)には,炭酸ナトリウム(Na CO ),塩23化ナトリウム(NaCl),水酸化ナトリウム(NaOH),塩酸(HCl),硫酸(H SO ),硝酸(HNO )について,横軸に溶液濃度24 3(重量%),縦軸に導電率(Ω /cm)(判決注:甲6に用いられて-1いる逆Ωの代わりに,同義のΩ で表示した。)をとったグラフが示さ-1れ,水酸化ナトリウム(NaOH)は,濃度0〜10%では,濃度と導電率がほぼ比例することが示され,「表3.1 各種溶液の導電率とその温度係数(%/℃)」(50〜51頁)には,Δκ(判決注:温度係数)が,水酸化ナトリウム(NaOH)(15℃)では,濃度5%で2.01%/℃,濃度10%で2.17%/℃であることが示されている。 前記ア(ア)で認定した本件明細書の記載によれば,本件発明により調製されるホトレジスト現像液は,水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液であってもよいところ,乙1,甲6の上記記載によれば,水酸化ナトリウム水溶液は,室温,濃度0〜10%において,濃度と導電率にほぼ線形の対応関係があることが認められる。 そうすると,本件出願前に,ホトレジスト現像液の実用濃度領域において,導電率と濃度が検出可能な傾きで線形的に対応している例が知られていたというべきである(なお,本件記録を検討しても,本件出願前,ホトレジスト現像液の実用濃度領域で,導電率と濃度が検出可能な傾きで線形的に対応すると考えられていなかったことを裏付ける証拠は見いだせない。)。 (オ) 上記のとおり,本件発明により調製されるホトレジスト現像液は,水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液であってもよいところ,乙1,甲6の上記記載によれば,水酸化ナトリウム水溶液は,水溶液では,室温,濃度0〜10%において,濃度と導電率にほぼ線形の対応関係があり,導電率の温度係数が約2%/℃であることが認められる。 そして,ホトレジスト現像液の調製を室温から相当に離れた高温または低温で行うものとは考えられないから,ホトレジスト現像液の実用温度帯域において,導電率によって濃度測定をすることができなかったということはできない(なお,本件記録を検討しても,本件出願前,ホトレジスト現像液の実用温度帯域で導電率によってホトレジスト現像液の濃度を精確に測定することができないと認識されていたことを裏付ける証拠は見いだせない。)。 (2) 本件発明を実現した実験に基づく知見について原告らは,本件発明は,当業者の予想に反して実験によって前記第3,1(2)@〜Cを確認することにより,発明されたものであると主張するが,上記(1)1イの認定に照らせば,上記@〜Cが当業者の予測に反する新たな知見ということはできない。 したがって,原告らの主張は採用することができない。 (3) 本件発明の効果について原告らは,本件発明によれば,従来の中和滴定の方法よりも,正確にホトレジスト現像液の濃度の有効成分の濃度を測定することができる旨主張するが,その趣旨は,要するに,ホトレジスト現像液としてTMAH水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いる場合に,空気中の炭酸ガスを吸収してホトレジスト現像液として作用しない炭酸塩が生成するところ,この炭酸塩は溶解してもほとんど電離しないから,ホトレジスト現像液として作用しない炭酸塩を除いた活性濃度を測定することができるというものである。しかし,そもそも本件発明におけるホトレジスト用アルカリ系現像原液がTMAH水溶液や水酸化カリウム水溶液に限定されているわけではないし,この点をひとまず措くとしても,導電率測定手段を用いる場合に,電離しない成分の濃度が測定されないことは,当業者にとって自明の事項であるから,結局,原告らの主張する効果は,導電率測定手段を用いたことによる当然の効果にすぎず,格別顕著なものとは認められない。 なお,原告らは,本件発明によれば,煩雑な作業を要する従来の中和滴定の方法よりも,効率よくホトレジスト現像液の濃度を測定できるとも主張するが,導電率測定手段をホトレジスト現像液の濃度管理に適用することが容易であることはすでに説示したとおりであり,中和滴定の方法と比較した効率のよさは,導電率測定手段を用いたことによる当然の効果にすぎず,格別顕著なものとは認められない。 (4) 小括引用発明と本件発明は,半導体ウエハに液体で働きかけ,また半導体素子製造工程のうちの一工程であるという点で共通していることは明らかであり,引用例に開示されている湿式処理工程における技術思想を,本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備」に転用することは,これを妨げる特段の事情がない限り,当業者であれば容易になし得たものというべきであるところ,以上検討したところによれば,転用を妨げるべき事情として原告らが主張するところはいずれも失当であり,原告らが実験により確認したという点も当業者の予測に反する新たな知見ということはできず,本件発明の効果が格別顕著なものということもできない。 したがって,審決の相違点(イ)の判断に原告ら主張の誤りがあるとはいえず,原告ら主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点(ニ)の判断の誤り)について原告らは,本件発明の貯留槽は,単に使用前に薬液を貯蔵するものではなく,撹拌槽における濃度のハンチングを平準化するものであり,その平準化の効果は小数点以下4桁のレベルという当業者が予測し得なかった効果を奏するという技術的意義を有するものである旨主張する。 しかし,甲3及び弁論の全趣旨によれば,使用前に希釈した薬液を貯留する貯留槽を設けることは周知の事項であり,また,撹拌槽で撹拌を行った後に,別の槽で貯留静置することにより,溶液の濃度がある程度平準化されることを当業者が予測できることは,原告らも認めるところである。 そして,本件明細書(甲10の1,2)には,貯留槽に関し,「前記攪拌槽からの混合液を前記加工用設備に前記管路を介して送給する前に受け入れ貯留する貯留槽」(甲10の2,左欄16行〜17行(特許請求の範囲),右欄27行〜28行)との記載,「撹拌槽18内の混合液は管路58からポンプ60によって,現像液タンク22に送られ,この現像液タンク内で一旦,貯留されたのち,管路62から半導体製造工程などの使用側に送給される。」(甲10の1,2頁4欄41行〜45行)との記載,及び,「混合液の導電率を一定(目標値)に維持することによって,混合液の濃度を一定にすることができる。 この濃度を一定にした混合液は現像液タンク22に貯留されたのち,現像液として使用される。」(甲10の1,3頁5欄41行〜45行)との記載があるにとどまり,貯留槽がホトレジスト現像液の濃度の平準化を行う旨の記載はなく,また,本件記録を精査しても,本件発明の貯留槽が撹拌槽における濃度のハンチングを平準化するものであり,その平準化の効果は小数点以下4桁のレベルであるという原告らの主張を裏付ける証拠は見当たらない。 したがって,審決の相違点(ニ)の判断に原告ら主張の誤りがあるということはできず,原告ら主張の取消事由2は理由がない。 3結論以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。 したがって,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 なお,原告らは,本訴提起の日から90日以内である平成17年12月20日,本件特許の特許請求の範囲の記載における「アルカリ系現像原液」及び「現像原液」を「テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド現像原液」と,「現像液」を「テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド現像液」と,それぞれ訂正すること等を要旨とする訂正審判を請求し,平成18年1月17日,当裁判所に対し,事件を審判官に差し戻すため特許法181条2項の規定により審決を取り消すよう求めた。当裁判所は,被告の意見を聴いた上,上記訂正審判請求の内容を検討したが,テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液はホトレジスト現像液として多用されるものであり,現像液の希釈装置の発明である本件発明の構成を実質的に限定するものとは認められないから,前記説示したところに照らし,本件特許を無効とすることについて特許無効審判においてさらに審理させることが相当であるということはできない。 |