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関連審決 不服2004-21211
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的手段 /  技術常識 /  優先日 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10753号 審決取消請求事件
原告 X
訴訟代理人弁理士高田武志
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 青山敏
同 大元修二
同高木彰
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-21211号事件について平成17年8月18日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記特許出願の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,名称を「鋼構造物の柱梁接合構造」とする発明につき,平成13年5月7日(優先日:平成12年6月21日)に特許出願(特願2001-136754号,以下「本件出願」という。甲1)をし,平成16年6月25日付け手続補正書(甲2)により特許請求の範囲等を変更する手続補正をしたが,特許庁は,平成16年8月20日付けで拒絶査定をした。
原告は,平成16年10月13日に拒絶査定不服審判を請求し,同請求は不服2004-21211号事件として特許庁に係属し,原告は,平成16年11月12日付け手続補正書(甲3)により特許請求の範囲等を変更する手続補正をした。
特許庁は,同事件について審理した上,平成17年8月18日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成17年9月28日原告に送達された。
(2) 発明の内容平成16年11月12日付け手続補正書(甲3)により補正された明細書の特許請求の範囲中,請求項1に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」という。)。
記【請求項1】柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において,鉛直面をなして柱面に接合されると共に,梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し,補強プレートは柱面から離れた位置に切欠きを有しており,補強プレート断面は,切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加している柱梁接合構造。
(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,本件出願の前に頒布された特開平11-61994号公報(甲4。以下「引用例」という。)に記載された発明及び本件出願時の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。
イ 上記判断をするに当たり,審決は,引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点について,次のとおり認定した。
[引用発明]「柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において,鉛直面をなして柱面に接合されると共に,梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し,補強プレート断面積は,その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は,断面積を低減する断面積変化を急激にされ,それより先のスパン中央よりの範囲は,断面積変化を緩慢とされ,かつ,梁端部からスパン中央へ向かって次第に低減されている柱梁接合構造」[一致点]「柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において,鉛直面をなして柱面に接合されると共に,梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し,補強プレートは柱面から離れた位置に梁端部に先んじて降伏ヒンジが形成されるようになされており,補強プレート断面は,柱面に向かって次第に増加している柱梁接合構造」である点。
[相違点]本願発明は,補強プレートが柱面から離れた位置に切欠きを有しており,補強プレート断面が,切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加しているものであるのに対し,引用例記載の発明は,補強プレート断面が,その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は,断面を低減する断面変化を急激にされ,それより先のスパン中央よりの範囲は,断面変化を緩慢とされ,かつ,柱面に向かって次第に増加しているものである点。
(4) 審決の取消事由審決の上記イの認定は認める。しかし,審決は,以下の理由により,相違点に係る進歩性の判断を誤った違法なものとして取消しを免れない。
ア(取消事由1)「断面が柱面に向かっ(ア) 審決は,本願発明の「切欠き」の意義について,て,次第に増加している補強プレートの,柱面から離れた位置から梁中央側端までを切り欠いたものも含んでいる。これは,梁のフランジに切欠きを設けた場合に生じる,柱面に向かって断面が低減する部分を,上記補強プレートにおいては有さないものを含んでいることを意味し,結局,本願発明は,補強プレートの切欠き部分の断面としたが,以下について格別の限定をしているものではない」(5頁第2段落)のとおり誤りである。
(イ) 「切欠き」という用語の通常の意味は,「応力集中を生じさせるべく物体に局部的に急変するへこみ部」である。そして,柱梁接合構造における技術分野においては,「切欠き」とは,梁等の母材に塑性ヒンジを形成すべく,母材に局部的に急変するへこみ部としてその両端部が当該両端部間の部分よりも立ち上げられて形成されるものを意味する。
そして,本件明細書(甲1〜3)には,「切欠き」を特別の意味に解すべき記載は一切ない。むしろ,本件図面(本件出願の願書〔甲1〕に添付した図面をいう。)において,符号6を用いて示される「切欠き」は,符号5を用いて示される補強プレートに局部的に急変するへこみ部としてその両端部が当該両端部間の部位よりも立ち上げられて形成されたものとして示されており,かかる「切欠き」の柱側の端部は,材軸方向に関して柱面から離れており,当該「切欠き」の梁中央側の端部は,材軸方向に関して補強プレートの梁中央側の端部から離れて示されているのである。
したがって,本願発明の「切欠き」とは,補強プレートに局部的な塑性域を設けて降伏ヒンジを形成すべく,補強プレートに局部的に急変するへこみ部としてその両端部が当該両端部間の部分よりも立ち上げられて形成されたものをいうと解するべきである。
イ(取消事由2)「柱梁接合部が降伏する前に,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒン(ア) 審決は,ジを生じるようにする手段として,梁フランジ断面を梁端から離れた部分から梁端まで急激に増大させて,断面が大きく変化する箇所を設ける手段(以下,「周知技術1」という。),……は……,従来周知である。(たとえば,……特開平11-158999としたが,以下のとおり誤りであ号公報,……等参照。)」(5頁第3段落)る。
(イ) 梁フランジ断面を,梁端から離れた部分から梁端まで急激に増大させて,断面が大きく変化する箇所を設ける手段が知られていることは一応認められる。しかし,かかる手段は,単に梁端を補強する手段として知られているだけである。
審決が引用する上記特開平11-158999号公報(甲5。以下「周知例1」という。)には,図5の(a)〜(c)に示される台形状のハンチプレートの短辺部分を単に延長したような平行部を有した,図1,図2の各(a),(b)に示されるハンチプレートを形成し,当該ハンチプレートの平行部を用いて溶接部の応力集中を抑制しようとする手段が記載されているだけである。周知例1には,台形状のハンチプレートにおいて,柱梁接合部が降伏する前に,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段については一切記載されていない。
したがって,審決の上記周知技術の認定は,誤りである。
ウ(取消事由3)「柱梁接合部が降伏する前に,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒン(ア) 審決は,ジを生じるようにする手段として,……梁フランジの梁端から離れた部分に切欠きを設けて断面を減じるようにする手段(以下「周知技術2」という。)は……従来周知とである。(たとえば,……特開平8-4112号公報等参照。)」(5頁第3段落)「相違点に係る本願発明の構成は,引用例記載の発明に,上記の引用例にした上,示唆された点を勘案しながら上記周知技術2を適用して,当業者が容易に想到しえたと判断したが,以下のとおりものというべきである」(5頁下から第3段落)誤りである。
(イ) 引用例に記載された補強プレート11,21は,梁端部からスパン中央部へ向かって次第に断面積が低減されており(以下「(a)の構成」という。),その断面積の低減の仕方は,梁端部から,梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置Xまでの範囲は,断面積の変化(低減)を急激にされ,位置Xから先のスパン中央寄りの範囲は,断面積の変化(低減)を緩慢とされている(以下「(b)の構成」という。),というものである。そして,かかる構成を有する補強プレート11,21は,柱梁接合部のスカラップ7,裏当金6,エンドタブ等が存在する溶接箇所では梁に作用する外力によって生じる応力を最大とさせないという効果(以下「@の効果」という。)と,梁のフランジの端部で大きな塑性化領域を形成するという効果(以下「Aの効果」という。)とを奏するものである。
そして,引用発明の補強プレートが奏する上記@及びAの効果は,いずれも,上記(a)の構成によってもたらされているものである。そうすると,上記(b)の構成は,上記(a)の構成による上記@及びAの効果を奏し得なくさせるような構成ではないものであるという条件下において採用されたものと解すべきである。
(ウ) 審決が引用する上記特開平8-4112号公報(甲6。以下「周知例2」という。)には,梁フランジ自身に塑性ヒンジを形成すべく,梁フランジ自身に局部的に急変するへこみ部として,その両端部が当該両端部間の部分よりも立ち上げられて形成される「切欠き」が記載されている。
このような「切欠き」が形成された梁フランジは,当該「切欠き」の両端部が当該両端部間の部位よりも立ち上げられているから,梁フランジ断面が柱面に向かうにしたがって一旦「低減する部分」を当然に有していることになる。また,局部的に急変するへこみ部としての「切欠き」が形成されているのであるから,その断面積が「局部的に急変(減増)する部分」をも有することになる。
(エ) ここで,引用発明の(b)の構成に代えて周知技術2の「切欠き」を適用すれば,補強プレートには,断面積がスパン中央部から梁端部(柱面)に向かうにしたがって一旦低減する部分が形成され,当該部分において,断面積が局部的に急変(減増)することになる。このように断面積が局部的に急変するへこみ部は,局部的な狭い塑性化領域を形成することになる。その結果,引用発明の(a)の構成による上記@及びAの効果,特に,大きな塑性化領域を形成するというAの効果に係る技術的思想を放棄することになる。
このように,引用発明の(b)の構成に代えて周知技術2の「切欠き」を適用することには阻害要因があるから,当業者にとって,本願発明の構成に想到することが容易であるとはいえない。
エ(取消事由4)「本願発明の作用効果も当業者が予測できる範囲のものである」(5頁(ア) 審決は,としたが,以下のとおり誤りである。
下第2段落)(イ) 本願発明は,引用発明及び周知技術2から容易に想到し得ない新規な構成,特に「梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し,補強プレートは柱面から離れた位置に切欠きを有しており,補強プレート断面は,切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加している」という新規な構成を具備しているために,補強プレートにより梁端部を補強するとともに,柱面から離れた位置に存在する「切欠き」において応力集中を局部的に生じさせて降伏ヒンジを形成する,という格別顕著な効果を奏し得るのである。また,本願発明は,柱面から離れた位置の「切欠き」において応力集中を局部的に生じさせ得ることから,補強プレートの柱面側の部分に当該切欠きにおける応力集中による影響を与えることなく,補強プレートにより梁端部を補強することができるのである。
したがって,本願発明の作用効果も当業者が予測できる範囲のものではない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。
(1) 取消事由1に対しア 「切欠き」の意義に関する審決の認定は,梁の本体であるフランジ自身に「切欠き」を設ける技術と,それを応用した,梁の補助部材である補強プレートに「切欠き」を設ける技術とを,区別することを前提にしたものである。
そして,梁の本体であるフランジ自身に「切欠き」を設ける場合は,梁端近傍で,フランジをV型,U型等に切り取って「切欠き」を設けると,おのずから「柱面に向かってフランジ幅を低減する部分」を有することとなるが,フランジ自身の補助部材である補強プレートに「切欠き」を設ける場合は,必ずしも当該補強プレートが梁の中央側にまで存在するとは限らず,また,その必要もないのであるから,断面が柱面に向かって次第に増加している補強プレートの,梁端から離れた位置から梁中央側端部まで切り欠いているものであっても,何も問題はない。したがって,審決が,本願発明の「切欠き」には「断面が柱面に向かって次第に増加している補助プレートの,柱面から離れた位置から梁中央側端までを切り欠いたものも含んでいる」とし,「本願発明は,補強プレートの切欠き部分の断面について格別の限定をしているものではない」と述べたことに,誤りはない。
イ 仮に,「切欠き」の意義が原告主張のとおりであるとしても,後記(3)のとおり,相違点に係る本願発明の構成は,引用発明に周知技術2を適用して,当業者が容易に想到し得たものであるから,審決の結論に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し審決が,周知技術1が記載されているものとして挙げた周知例1(甲5)には,「梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにすること」についての直接的な記載はないが,特開平11-280147号公報(乙1)を参照すれば,上記事項は記載されているに等しい事項といえる。したがって,審決の周知技術1の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3に対し引用発明の(a)の構成はそのままで(すなわち,梁のフランジの端部で大きな塑性化領域を形成する技術的思想を放棄することなく),(b)の構成に代えて周知技術2の「切欠き」という構成を採用することに,原告の主張する阻害事由はない。地震時に,梁端部に先んじて梁端部から離れた位置に降伏ヒンジが形成されるようにするため補強プレートに設ける手段として,本願発明は「切欠き」であるのに対し,引用発明は「断面急変部」である点で相違するが,「断面急変部」を「切欠き」に置き換えることは,当業者であれば容易になし得ることである。
(4) 取消事由4に対し上記(3)のとおり,本願発明と引用発明とは,梁のフランジ本体について周知の技術を補強プレートに応用したものとして共通するから,本願発明の作用効果が,引用発明の作用効果よりも格別顕著なものとはいえず,当業者が予測できる範囲のものであるとする審決の作用効果の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,原告主張の取消事由に沿って審決の当否について判断する。
2 取消事由1について「本願発明は,…(1) 原告は,本願発明の「切欠き」の意味について,審決が,…切欠きの梁中央側の端部について何も限定するものではないから,……補強プレートの,柱面から離れた位置から梁中央端部まで切り欠いたものも含んでいる。これは,……柱面に向かって断面が低減する部分を,上記補強プレートにおいては有さないものを含んでいることを意味し,結局,本願発明は,補強プレートの切欠き部分の断面について格別としたことは,誤りである旨主の限定をしているものではない」(5頁第2段落)張する。
(2) まず,本願明細書(甲1〜3)を検討すると,本願明細書には「切欠き」の意味を特に定義した記載はない。
そこで,各種辞典類を検討すると,下記の各記載がみられる。
記@「材料力学において,材料の縁に局部的にできたへこみ部。ノッチ。」(広辞苑第四版,甲7)A「物体の表面あるいは内部に,局所的に設けたV型とかU型形状の切り込み。このような局部的に形状が急変する箇所では,応力が他の箇所に比し高くなる。切欠きを設けたことにより応力分布の状態に変化の表れることを切欠き効果とよぶ。」(昭和60年3月5日発行財団法人国際科学振興財団編「科学大辞典」(丸善株式会社刊),甲8)B「構造物の形状の急変する不連続部や,溶接金属と母材との材質的不連続および溶接欠陥など,応力集中の原因となるもの。」(1993年(平成5年)6月10日発行「建築大辞典第2版」(株式会社彰国社刊),甲9)C「構造部材の断面形状の急変部などの応力集中を生じやすい部分をいう。」(1995年(平成7年)4月10日発行「建築用語辞典第二版」(技報堂出版株式会社刊),甲10)上記によれば,表現は多少異なるものの,「切欠き」の一般的な意味は,形状としては,材料の表面あるいは内部に,局所的に設けたV型とかU型形状のへこみ部であって(@,A),作用からみると,局部的に形状が急変することによって応力集中を生じやすい部分を意味する(A〜C)ものである。
そして,本願発明においても,「切欠き」の意味を,このような一般的な意味に解することは,本件明細書及び本件図面の記載にも符合する。すなわち,本件図面(甲1)中の図1,図4,図10及び図13において,切欠き6は,やや横方向に広がった略V型形状のへこみ部として示されており,本件「柱面から明細書(甲1)に,請求項1の発明(本願発明)の効果として,と記離れた位置に切欠きによる降伏ヒンジを形成することができる。」(段落【0036】)載されている。
(3) これに対して,審決は上記(1)のとおり説示するが,そもそも,柱面から離れた位置から梁中央端部まで切り欠いたものが,V型ないしU型形状のへこみ部であるということはできないし,柱面に向かって断面が低減する部分が存在しないとすれば,切り欠いた部分で応力集中が生じやすいとは必ずしもいえないから,「切欠き」の意味についての上記理解にそぐわないものであって,相当とはいえない。
さらに,本願発明は「……補強プレートは柱面から離れた位置に切欠きを有しており,補強プレート断面は,切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加している……」という構成によって特定されるものであるところ,「切欠き」についての上記理解を踏まえれば,柱面に向かって次第に断面が増加する補強プレートにおいて,柱面から離れた位置に「切欠き」を形成した構成の技術的意義は,へこみ部を形成して局部的に形状が急変し応力集中を生じやすくした点にあると認められる。そうすると,本願発明の補強プレートに,「柱面に向かって断面が低減する部分」が存在するかどうかはさておき,応力集中が生じやすいようにするために,少なくとも,切欠き位置においては「柱面に向かって断面が増加しない部分」が存在し,その両側よりも相対的にへこんだ形状となると解すべきであって,この限度では,切欠き部「本願発明は,補強プレート分の断面は特定されているというべきであるから,とした審決の説示の切欠き部分の断面について格別の限定をしているものではない。」も,相当とはいえない。
(4) しかし,上記の点が審決の結論に影響を及ぼさないことは,後記4のとおりである。
3 取消事由2について(1) 原告は,周知例1(甲5)には,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする周知技術1は記載されていないから,審決が,周知例1を例示して周知技術1を認定したことは誤りである,と主張する。
(2) 周知例1(甲5)には,下記の各記載がある。
記@「【請求項1】 鉄骨構造の柱とH型鋼梁のフランジとに溶接されて,これらの柱とH型鋼梁とを連結するハンチプレートであって,上記フランジとの接合部分に,このフランジの幅とほぼ同一幅を有する平行部を設け,この平行部に,その端部から上記柱へ向けて漸次その幅が拡大するハンチ部を一体に連設したことを特徴とする鉄骨構造の柱・梁接合用ハンチプレート。」A「【0002】【従来の技術】一般に,鉄骨構造における梁は,図3の(a)に符号1で示すようなH型鋼が広く用いられており,図3の(b)および(c)に示すように,上記梁1の一対のフランジ1aを,それぞれの端部において柱2へ溶接することにより(溶接部分を符号Wで示す。),上記鉄骨構造を構成するようにしている。」「【0003】一方,このような鉄骨構造においては,上記梁1の端部における塑性変形能力を保証するために,最大耐力時に梁1の端部にある程度の長さの塑性変形領域を確保する必要がある。」「【0004】そして,このような塑性変形領域Zを確保するために,図5の(a)〜(c)に示すように,上記梁1のフランジ1aの端部を,上記柱2へ向けて漸次幅広となる台形状のハンチプレート3に置き換え,このハンチプレート3の短辺部分を上記フランジ1aの端縁に溶接(W)するとともに,長辺部分を上記柱2へ溶接(W)し,さらに梁2の内側に位置する面を上記梁1のウエブ1bに溶接することにより,このハンチプレート3を介して上記梁1と柱2とを連結して,上記梁1と柱2との連結部分の断面積を大きくし,上記梁1の端部の耐力を高めることが行なわれている。
……」B「【0005】【発明が解決しようとする課題】ところで,このような台形状のハンチプレート3を用いて塑性変形領域Zを確保するようにした構成を採った場合には,上記ハンチプレート3とフランジ1aとを,ハンチプレート3の短辺部分において溶接することになるが,当該短辺部分は,梁1の長さ方向において断面積が大きく変化する箇所であって応力が集中する箇所であり,加えて溶接時における熱影響により,溶接箇所近傍の母材が脆くなっていることから,これらの複合作用によってハンチプレート3とフランジ1aとの溶接部分に亀裂が生じたり,あるいはこの溶接部分において脆性的破断を生じることが考えられる。」「【0006】本発明は,このような従来の鉄骨構造の柱・梁接合用ハンチプレートが有する課題を有効に解決すべくなされたもので,ハンチプレートとフランジとの接続部における応力集中を回避して,亀裂や脆性的破断の発生を抑制することのできる鉄骨構造の柱・梁接合用ハンチプレートを提供することを目的とするものである。」C「【0011】本実施形態においては,上記ハンチ部10bの幅方向両側縁が直線状に形成されて,その断面積が単一の変化率で増加するような形状となされている。」D「【0014】なお,上記実施形態においては,上記ハンチ部10bの幅方向の両側縁を直線状に形成し,このハンチ部10bの応力伝達面の面積の変化率を一定にした例について示したが,これに代えて,たとえば,図2の(a)に示すように,上記ハンチ部10bと上記平行部10aとの境界部分を滑らかな曲線形状とすることも可能であり,また,図2の(b)に示すように,上記ハンチ部10bの両側縁を,ほぼ全長に亘って上記平行部10aから連続した滑らかな曲線形状とすることも可能である。このような構成とすることにより,上記平行部10aからハンチ部10bへかけて,応力伝達面の面積変化を緩やかにして,これらの境界部分における応力集中を抑制して,梁1の端部耐力を一層高めることができる。」E「【0015】【発明の効果】以上説明したように,請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明によれば,ハンチプレートと梁のフランジとの溶接を,上記ハンチプレートに設けたフランジとほぼ同一の幅を有する平行部を介して行なうことにより,上記溶接部への作用応力を低減化して,この溶接部における亀裂や脆性破断の発生を抑制することができる。また,上記平行部とハンチ部との境界部分から溶接部をなくすことにより,この境界部分における亀裂や脆性破断の発生をも抑制することができる。」(3) 周知例1(甲5)の上記各記載によれば,従来,鉄骨構造の端部に一定程度の長さの塑性変形領域を確保するために,台形状のハンチプレートを用いて,このハンチプレートの短辺部分,長辺部分,梁の内側に位置する面を,それぞれ,梁のフランジの端縁,柱,梁のウエブに溶接する構成が採られていた(記載A)が,このような構成では,ハンチプレートの短辺部分と梁のフランジ1aとを溶接する部分は,梁の長さ方向において断面積が大きく変化する箇所であって応力が集中する,更には溶接時における熱影響により,溶接箇所近傍の母材がもろくなるとの問題が考えられる(記載B)ところ,請求項1記載の発明(記載@)は,ハンチプレートに設けたフランジとほぼ同一の幅を有する平行部を介して,ハンチプレートと梁のフランジとの溶接を行なうことにより,溶接部への作用応力を低減化して,この溶接部における亀裂や脆性破断の発生を抑制するとともに,平行部とハンチ部との境界部分から溶接部をなくすことにより,この境界部分における亀裂や脆性破断の発生をも抑制するようにした(記載E)ものと認められる。
すなわち,周知例1の請求項1記載の発明は,従来の技術において,台形ハンチプレートと梁フランジとの溶接部分が断面急変部に当たることに起因する問題を解決するため,台形ハンチプレートの短辺側に設けた「平行部」を介して梁フランジとの溶接を行う構成を採ることによって,溶接部分と断面積急変部との位置が異なるようにしたものである。そうすると,周知例1(「柱梁接合部が降の請求項1記載の発明自体は,審決の認定した周知技術1伏する前に,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段として,梁フランジ断面を梁端から離れた部分から梁端まで急激に増大させて,断面が大きく変化を明示するものとはいえない。
する箇所を設ける手段」)(4) しかし,周知例1(甲5)には,発明の実施形態として,(i)ハンチ部10bの幅方向両側縁が直線状に形成されて,その断面積が単一の変化率で増加するような形状となされたもの(図1(a)(b),記載C)に加えて,(ii)ハンチ部10bと平行部10aとの境界部分を滑らかな曲線形状とするもの(図2(a),記載D),(iii)ハンチ部10bの両側縁を,ほぼ全長に亘って上記平行部10aから連続した滑らかな曲線形状とするもの(図2(b),記載D)が記載されており,(ii)又は(iii)の構成とすることにより,平行部10aからハンチ部10bにかけて,応力伝達面の面積変化を緩やかにして,境界部分における応力集中を抑制することが開示されている(記載D)。
そして,構造物の断面急変部には応力集中が生じやすいことは技術常識であること(甲8〜10の前記2(2)の各記載)や,周知例1にも,従来の技術の問題点として,溶接部分は断面積が大きく変化する箇所であって応力が集中する旨の記載がある(Bの段落【0005】の記載)ことを踏まえると,(ii)又は(iii)の構成とすることにより応力集中を抑制するとは,平行部とハンチ部との境界部分で断面積が急変する(i)の構成では,当該境界部分に応力が集中して降伏ヒンジを生じ得ることを,当然の前提として述べたものといえる。このことは,周知例1に明示の記載がなくとも,当業者が自明のこととして理解できるというべきである。
そうすると,周知例1には,梁端から離れた,平行部とハンチ部との境界部分から梁端まで断面積を急激に増大させ,境界部分において断面積を大きく変化させて応力集中が生じるようにし,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにした技術(周知技術1)が,実質的に記載されているといって差し支えない。
したがって,審決が,周知例1を例示して周知技術1を認定したことに誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
4 取消事由3について(1) 原告は,引用発明において補強プレートに「断面急変部」を設ける構成に代えて,周知技術2の「切欠き」の構成を採用することは当業者にとって容易でないと主張する。
(2) そこで,まず引用発明における補強プレートの「断面急変部」の技術的意義について検討する。
「柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁引用例(甲4)に記載された引用発明が,接合部において,鉛直面をなして柱面に接合されると共に,梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し,補強プレート断面積は,その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は,断面積を低減する断面積変化を急激にされ,それより先のスパン中央よりの範囲は,断面積変化を緩慢とされ,かつ,梁端部からスパン中央へ向かって次第に低減されている柱梁接合構造」であることは,当事者間に争いがない。
(審決4頁第2段落)そして,引用例には,下記記載がある。
記「以上のようにして構成された鉄骨柱梁接合部は,H型鋼梁1に作用する外力によって生じる応力σの分布が,図11Aに示したように,スカラップ7や裏当金6等が存在する溶接箇所αでは最大とならず,それよりも少しスパン中央へ寄った位置Xで最大となる。……もちろん,スカラップ部に生じる応力集中の大きさも,H形鋼梁1に生じる最大応力点より小さくなるので,スカラップ部からの破断が生じなくなる。」(段落【0020】)上記記載は,引用発明においては,梁端部の溶接部分αに生じる応力に比べて,梁端部からスパン中央に寄った位置Xで生じる応力の方が大きく,「最大応力点」である当該位置Xに降伏ヒンジが形成されることを示唆するものといえる。また,柱梁接合部が降伏する前に,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段として,梁フランジ断面を梁端から離れた部分から梁端まで急激に増大させて,断面が大きく変化する箇所を設ける手段(周知技術1。その認定に誤りがないことは,前記2で検討したとおりである。)が従来周知であることにもかんがみると,引用発明の構成(「補強プレート断面積は,その端部からのうち,本願発明との相違点に係る構成梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は,断面積を低減する断面積変化を急激にされ,それより先のスパン中央よりの範囲は,は,補強プレートの設計に当たり,梁端から断面積変化を緩慢とされ」との点)離れたスパン中央へ寄った位置Xで応力集中が生じるようにすることによって,位置Xで先行して降伏ヒンジを生じるようにしたものとして理解することができる。
他方,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段として,梁フランジの梁端から離れた部分に切欠きを設けて断面積を減じる技術(審決の認定した「周知技術2」)が,本件出願時に周知であったこと「柱梁接合部は,本件明細書(甲1)の段落【0002】に【従来の技術】としての損傷を防止するため,梁端から離れた位置に降伏点を設ける『ドッグボーンタイプ』という架構形式がある。これは,梁端近傍で梁フランジをV型にカットして小さくすることにより,柱梁接合部が降伏する前に,梁端から離れた部分で塑性ヒンジが先行して生じると記載されていることからも明らかである。
ようにするものである」そうすると,補強プレート断面が柱面に向かって次第に増加している引用発明における,梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段である「断面急変部」に代えて,同じく梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする技術的手段である「切欠き」(周知技術2)を適用し,その結果,補強プレート断面が,「切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加する」ような構成のものとすることに何ら困難はなく,相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものというべきである。
これと同旨の審決の判断に誤りはなく,「切欠き」の意味についての審決の説示に相当とはいえない点(上記2)があるが,この点は,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) 原告は,引用例(甲4)に周知技術2の「切欠き」を適用すれば,補強プレートに「局部的に急変するへこみ部」が形成されるために,補強プレートに局部的な塑性化領域(狭い塑性化領域)が形成されてしまう結果,大きな塑性化領域を形成するという引用発明の技術的思想を放棄することになるとして,引用例に記載の技術に周知技術2の「切欠き」を適用することには阻害要因がある,と主張するので,以下検討する。
ア まず,引用発明の技術的思想として「大きな塑性化領域を形成する」というときの,「大きな」という言葉の意味について検討する。
(ア) 引用例(甲4)には,下記の記載がある。
記(a)「【0003】しかしながら,前記柱梁接合部及び柱梁接合構法には下記するような幾つかの問題点があり,鉄骨梁の靱性値を低減させている。
@ ……。図11Bに示したように,H形鋼梁aに作用する外力によって梁フランジa’の材軸方向に生じる応力σの分布が最大となる位置(範囲)αに溶接線fが存在することになる。よって,応力が最大となる溶接部(接合部)は母材に比べて溶接欠陥の発生率が高くなり,母材が破断強度に達する以前に溶接部が破断する可能性が大きい。……A 一般に,柱梁接合部の材質が劣化することを避ける目的で梁ウエブa”にスカラップeを設けるスカラップ工法が採用される。しかし,該スカラップeを設けることより梁ウエブa”に断面欠損が生じ,スカラップ部の梁フランジa’に軸歪が集中して当該部位が早期に破断強度に至り,破断が生じ易いという問題がある。また,スカラップ部における溶接線fの溶接欠陥やスカラップ底における応力集中により更に早期に破断する可能性がある。
(b)「【0004】【本発明が解決しようとする課題】上記@及びAの問題点を踏まえ,梁の靱性値を向上させて鉄骨梁の早期の破断を防止する構法として,図14A,Bに示したような,梁ウエブa”におけるスカラップeの形状を改良する構法や,図15A,Bに示したような,スカラップを用いないノンスカラップ構法が提案される。
(c)「【0005】しかしながら,図14A,Bに示したスカラップeの形状を改良する構法では,スカラップ部の梁フランジa’に生じる応力集中を低減させることは不可能であり,塑性域はほとんど広がらずに早期に破断強度に至るので,鉄骨梁は小さい靱性値で破断する。よって,上記問題点@及びAは解消され得ない。また,図15A,Bに示したノンスカラップ構法は,H形鋼梁の梁フランジa’端部の応力集中をなくすことより塑性域が拡大して塑性を向上させるので,確かに上記問題点Aは解消されたと云える。しかし,梁フランジa’の材軸方向に生じる応力が最大となる位置に溶接線fが存在することに変わりはなく(図11B),依然として上記問題点@は解消されないままである。
(d)「【0006】したがって,本発明の目的は,H形鋼梁のフランジに補強プレートを一体的に接合したりH形鋼梁自体の幅厚を変化させ,もって梁端部から梁スパン中央に向かって断面積を次第に低減させることにより,該梁に作用する外力によって生じる応力分布が,柱梁接合部のスカラップ,裏当金,エンドタブ等が存在する溶接箇所で最大とならないようにし,梁フランジの早期破断を極力抑えることが可能な鉄骨柱梁接合部及び柱梁接合構法を提供することである。」(イ) 引用例(甲4)の上記記載(a)及び図11(B)によれば,従来技術の柱梁接合構造においては,スカラップeの存在する梁端部の範囲αは梁ウェブに断面欠損があるため断面積が小さくなり,この範囲αにおいて,応力σの分布が最大となり,応力集中が生じる。このため,範囲αという「狭い」領域において,他の部分に先行して梁の塑性化が進行することにならざるを得ない。すなわち,従来技術における「狭い」塑性化領域というのは,範囲αのことにほかならない。そして,上記記載(c)中「……ノンスカラップ構法は,H形鋼梁の梁フランジa’端部の応力集中をなくすのことより塑性域が拡大して塑性を向上させるので,確かに上記問題点Aは解消されたとの部分は,スカラップeをなくすことによって,断面積と云える。」が梁端部の範囲αにおいて小さくなるのを避けることだけでも,図11(B)の応力曲線が範囲αにおいて上側に突出することがなくなるので,塑性化領域が大きくなる,との趣旨をいうものと解される。
(ウ) 一方,引用例(甲4)には,引用例に記載された各発明に共通する効果について下記の記載がある。
記(e)「【0032】【本発明が奏する効果】本発明に係る鉄骨柱梁接合部及び柱梁接合構法によれば,H形鋼梁のフランジに補強プレートを溶接接合したり,同フランジ自体の厚さを変えて,梁端部から梁スパン中央に向かって断面積を次第に低減させることにより,梁に作用する外力によって生じる応力が柱梁接合部のスカラップ,裏当金,エンドタブ等が存在する溶接箇所で最大とならず,また同フランジの端部で大きな塑性化領域を形成することができる」(エ) 引用例(甲4)の上記記載(e)によれば,引用例に記載された各発明は,梁フランジに補強プレートを溶接する等の手段によって,「梁端部からスパン中央へ向かって断面積を次第に低減させ」,「フランジの端部で大きな塑性化領域を形成する」ものである。そして,従来技術における「狭い」塑性化領域が上記(イ)のとおり図11(B)等にいう「範囲α」のことであることとの対比でいえば,引用例に記載された各発明が有する「大きな」塑性化領域とは,範囲αに比べて広い,という相対的な意味を有するものというべきである。
イ 審決が認定した引用発明は,引用例(甲4)に記載された各発明のうち,補強プレートの形状を,単に「梁端部からからスパン中央部に向かって断面積が次第に低減する」ものにした【請求項2】の発明ではなく,さらに形状を限定し,「端部からスパン中央部へ向かって該鉄骨梁に作用する外力によって生じる応力が最大となる位置まで断面積変化を急激にされ,それより先は断面積変化を緩慢とされている」ことを特徴とする【請求項9】の発明である。
かかる引用発明においては,図11(A)に示されているように,「断面急変部」である位置Xが最大応力点となり,応力集中が生じる。そして,塑性化領域を大きくするという引用例記載の発明全体の目的は,端部(スカラップ部)の範囲αにおいて生じる応力よりも大きな応力が生じる領域が,位置Xの左右両側にわたって,範囲αよりも広く存在していることによって達成されている。
そうすると,引用発明において,断面急変部を設けるという構成を付加したことの意義は,引用例記載の各発明に共通する効果(大きな塑性化領域を形成すること)を奏することを前提としつつ,その大きな塑性化領域の中で,応力集中の生じる場所を位置Xとして特定し,位置Xにおいて降伏ヒンジが形成されるようにしたところにあるというべきである。
ウ 梁断面に切欠きを設ける周知技術2は,梁端から離れた位置に応力集中を生じさせ,当該位置に降伏ヒンジが形成されるようにする技術である点においては,引用発明における「断面急変部」と共通する。そうすると,大きな塑性化領域を確保するという効果を奏することを前提としつつ,梁端部から離れた位置Xを応力集中の生じる場所として特定するべく,引用発明の「断面急変部」に代えて,周知技術である「切欠き」を採用することは,当業者であれば当然に試みることである。
この場合,切欠き位置の周辺における応力の分布は図11(B)のものとは多少異なるものになる可能性があるが,大きな塑性化領域を確保するという引用例記載の発明全体の目的(範囲αに生じる応力よりも大きな応力が生じる領域を,範囲αよりもスパン中央側に,範囲αよりも広く確保すること。)を損なわないように,補強プレート全体の形状も考慮しつつ,切欠きの大きさ及び形状を定めることは,当業者にとって,設計上当然考慮し得る程度の事項というべきである。
エ 上記ア〜ウのとおり,引用発明の「断面急変部」に代えて周知技術2の「切欠き」を適用することに,格別の妨げがあるとはいえない。原告が主張するように,引用例に周知技術2の「切欠き」を適用することに阻害要因がある,ということはできない。
5 取消事由4について原告は,本願発明は,補強プレートにより梁端部を補強しながら,柱面から離れた位置に切欠きによる降伏ヒンジを形成することができ,また,補強プレートの柱面側の部分に当該切欠きにおける応力集中による影響を与えることなく,補強プレートにより梁端部を補強することができるという,格別顕著な効果を奏する旨主張する。
しかし,引用発明においても,補強プレートにより梁端部が補強されていることは明らかであり,柱面から離れた位置Xに最大応力点が生じるようにして降伏ヒンジを形成することは,前記4で検討したとおりである。また,柱面から離れた位置に最大応力点が生じるようにしたものであるから,補強プレートの柱面側の部分に応力集中による影響を与えることなく,補強プレートにより梁端部を補強することができることも,本願発明と変わるところはない。
そして,本願発明が,降伏ヒンジを形成する手段として,引用発明の「断面急変部」に代えて周知技術2の「切欠き」を採用したことにより,上記以上の格別の効果を奏するものともいえない。
したがって,本願発明の効果が,当業者の予測の域を超える格別のものということはできず,原告の主張は,採用することができない。
6結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
裁判官 田中孝一
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