関連審決 | 無効2002-35452 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成18行ケ10444審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ314審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10452審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10490審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10105審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 周知技術 / 技術常識 / 実質的に同一 / 着想 / クレーム / 抵触 / 参酌 / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 設定登録 / 訂正審判 / 釈明 / 訂正要件 / 取消判決 / 判決の拘束力 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(行ケ)
10736号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 富田製薬株式会社 訴訟代理人弁護士 岩坪哲 訴訟代理人弁理士 三枝英二 同藤井淳 被告 ニプロ株式会社 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 同丸山隆 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2002−35452号事件について平成17年9月8日にした審決のうち,特許第2769592号の請求項9,10に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が無効2002-35452号事件について平成17年9月8日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
原告は請求項1ないし10から成る後記特許の特許権者であるところ,被告は,特許庁に対し,上記特許のうち請求項7ないし10につき無効審判請求をした。 これにつき特許庁は,平成16年1月26日付けで,請求不成立の審決(第1次審決)をしたが,これに不服の被告が審決取消訴訟を提起し,東京高等裁判所は平成16年12月21日上記審決を取り消す旨の判決をし(第1次判決 ,同判決は確定した。 )そこで特許庁がさらに審理し,平成17年9月8日付けで,後記特許の請求項7〜10に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(第2次審決)をした。本件訴訟は,これに不服の原告が上記審決の取消しを求めた事案である。 なお,原告は,上記特許権に基づき被告外1名に対して特許権侵害差止等請求訴訟を提起し,同訴訟は大阪高等裁判所に係属中である(平成16年(ネ)第2035号 。) |
|
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア 原告は,平成4年12月14日,名称を「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする発明について特許出願をし,平成10年4月17日,特許庁から特許第2769592号として設定登録を受けた(請求項1〜10。甲1。以下「本件特許」という 。。)これに対し被告から,本件特許のうち請求項7ないし10につき特許無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2002-35452号事件として審理した上,平成16年1月26日 「本件審判の請求は,成 ,り立たない 」との審決(甲2。第1次審決)をした。 。 イ これに対し被告から審決取消訴訟が提起され,東京高等裁判所はこれを平成16年(行ケ)第78号事件として審理した上,平成16年12月21日,第1次審決を取り消す旨の判決(甲3。第1次判決)をした。 ウ そこで,特許庁は,上記無効2002-35452号事件につきさらに審理した上,平成17年9月8日「特許第2769592号の請求項7 ,〜10に係る発明についての特許を無効とする 」との審決(甲4。以下 。 「本件審決」という )をし,その謄本は平成17年9月12日原告に送 。 達された。 (2) 発明の内容本件特許の請求項7ないし10に係る発明の内容は,下記のとおりである(以下,請求項7に係る発明を「本件発明1 ,請求項8に係る発明を「本 」件発明2 ,請求項9に係る発明を「本件発明3 ,請求項10に係る発明 」」を「本件発明4」という 。。)記【 , 「 請求項7】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。 「判決注,本件発明1の構成要件を次のように分節して 「構成要件A」の,ようにいうことがある。 A 塩化ナトリウム粒子の表面にB 塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,C 複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合したD 造粒物からなる顆粒状乃至細粒状のE 重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 【請求項8】さらに酢酸を含有してなる請求項7に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。 【請求項9】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。 【請求項10】さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 (3) 第1次審決及び第1次判決の内容平成16年1月26日になされた第1次審決(甲2)は,前記のとおり無効審判請求不成立としたものであるが,その理由の要点は,@本件発明1は,特開平2-311418号公報(甲5。以下「刊行物1」という )に記載。 された発明であるということはできない,A本件発明1は,特公平4-75017号公報に記載された発明であるとも,同公報に基づいて当業者が容易に発明することができたともいえない,B本件発明1は,前記特公平4-75017号公報及び特開平2-145522号公報に基づいて当業者が容易に発明することができたということはできない,C本件発明2は,前記特開平2-311418号公報又は前記刊行物1に記載された発明ということはできないし,前記特公平4-75017号公報及び前記特開平2-145522号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない,D本件発明3は,特開平3-275626号公報に記載された発明であるとも,同公報に基づいて当業者が容易に発明することができたともいえない,E本件発明3は,特開平2-311419号公報(甲12。以下「刊行物2」という )に基づいて当業者が容易に発明す 。 ることができたとはいえない,F本件発明4は,前記特開平3-275626号公報に記載された発明ということはできないし,前記特開平3-275626号公報及び前記刊行物2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない,としたものである。 一方,平成16年12月21日になされた第1次判決(甲3)は,前記のとおり第1次審決を取り消したものであるが,その理由の要点は,本件発明1の潅流用剤は前記刊行物1の実施例2(引用実施例)が開示する潅流用剤と同一であると認定し,本件発明1に関する判断に誤りがあるから,これを前提とする本件発明2ないし4についての判断にも誤りがある,としたものである。 (4) 本件審決の内容ア 平成17年9月8日になされた本件審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,@本件発明1及び2は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号により特許を受けることができない。 A本件発明3は,刊行物2に記載の発明(以下「刊行物2発明」という )に基づき,周知技術を参酌して,当業者が容易に発明をすることが 。 できたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,B本件発明4も,刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものであった。 イ なお本件審決は,原告が平成17年5月20日付け上申書及び平成17年7月19日付け回答書において,請求項7及び9についての訂正案を提示したことに対し,請求項7の訂正案は明細書に記載された範囲内の訂正でないことにより,請求項9の訂正案は刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことにより,いずれも訂正の機会を設ける必要性は認められない,とした。 ウ さらに本件審決は,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物とを比較した場合の一致点,相違点は,次のとおりであるとした。 <一致点>塩化ナトリウムと塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含む造粒物であって,塩化ナトリウムが電解質化合物を含むコーティング層を介して結合した顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤である点。 <相違点>前者(本件発明3)ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者(刊行物2)では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電解質溶液で被覆して得られたものである点。 (5) 本件審決の取消事由しかしながら,本件審決は,訂正についての裁量権を逸脱濫用し(取消事由1 ,第1次判決の拘束力が及ぶ範囲を誤り(取消事由2 ,本件発明 ))3,4の進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法)(ア) 本件の手続は,下記の経緯を辿っている。 @ 平成4年12月14日 出願(特願平4-353965)A 平成10年4月17日 登録(特許第2769592号)B 平成14年10月21日 無効審判請求C 平成16年1月26日 第1次審決(不成立)D 平成16年3月1日 審決取消訴訟提起(東京高等裁判所平成16年(行ケ)第78号)E 平成16年12月21日第1次判決(第1次審決取消し)F 平成17年9月8日 本件審決(無効)(イ) 原告には,平成15年法律第47号による改正前の特許法(以下「平成15年改正前の特許法」といい,同様に,改正後の特許法を「平成15年改正法」という )126条1項本文の帰結として,第1次判 。 決後直ちに,訂正審判請求の機会が付与されるはずであった。 しかし,平成15年改正法附則2条13項によると,平成15年改正法による訂正審判請求の時期的制限に服さないケースは,同改正法施行時である平成16年1月1日に審決取消訴訟が係属している場合に限局されている。したがって,平成16年1月26日に第1次審決(不成立)がなされ,その後,被告により提起された東京高等裁判所平成16年(行ケ)第78号事件が審理される段階においては,平成15年改正法126条2項により,同事件の判決(第1次判決)による差戻審の審決に対する審決取消訴訟が提起されるまで,原告には訂正審判請求の機会が付与されないという極めて不利な状況にあった。 第1次審決は,請求不成立の審決であったので,その審決取消訴訟の提起に伴って訂正審判請求をする必然性も必要性も原告にはなかった。 (ウ) しかして,第1次審決に対する審決取消訴訟が平成15年改正法の施行(平成16年1月1日)の直後に係属したという原告にとって関与不能の事由により,原告は,平成15年改正前の特許法に基づく訂正審判請求の機会を奪われた。したがって,この不利益を回避するための訂正請求の機会を付与する職権発動(153条2項,134条の2第1項)は,第1次判決後の審理において特許庁がなすべき覊束裁量行為であったというべきである。しかも,第1次判決は,本件特許のうち請求項9,10については特許庁審判官を拘束する何らの認定判断も示さなかったのであるから,同請求項についての訂正請求の機会が,第1次判決後の訂正審判請求権を剥奪された代償として,原告に付与されるべきであった。 ところが,特許庁は,適切な職権発動をなさずに審理を行い,本件審決をなした。この誤りがなければ,特許庁が,訂正を許可し,かつ本件無効審判請求を不成立とする審決がなされたことは明らかである。 したがって,第1次判決後の特許庁の職権発動に関する判断の誤りには,本件審決の結論に影響を及ぼす違法がある。 (エ) また,第1次判決による差戻し後の審理において,特許庁は,原告が訂正要件を備える訂正クレーム案を審判指揮に従って提出したにもか), かわらず(甲6,7,9 ,これを訂正要件に違反すると誤って判断しその理由に基づき,原告に訂正の機会を付与しなかったものであり,かかる措置は違法である。 イ 取消事由2(本件発明1,2に係る第1次判決の拘束力の範囲についての判断の誤り)第1次判決が行った判断は,刊行物1の実施例2が,本件発明1の構成要件B及びCを充足するという判断であり,本件発明1が刊行物1に記載されているか或いは特許出願時の技術常識に照らして記載されているに等しいとの認定は全く行っていない。かえって,第1次判決は 「流動層造,粒において原料粒子の表面の全部ないし相当部分が噴霧液によって濡れる旨の記載が見出せないことは被告(判決注,本件訴訟における原告のこと )の主張のとおりである (37頁5〜7行)とまで認定している。 。。 」したがって,第1次判決は,特許法29条1項3号の要件事実である,本件発明1,2が「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」であるか否かについては明示的な判断を行っていない。 しかるに,本件審決は,第1次判決を引用した上で 「引用実施例で得,られる造粒物は本件発明1の構成要件をすべて充足するものであるから,本件発明1は甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項」, 第3号に該当する (7頁1行〜3行)との説示に及んだものであるから本件審決には論理の飛躍があり,この誤りには,結論に影響を及ぼす違法があることが明らかである。 ウ 取消事由3(本件発明3,4の進歩性の判断の誤り等)(ア) 第1次判決は,争点を請求項7(本件発明1)に集約するために,本件発明1についての認定判断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りがあることに帰する,このことについては,当事者間に, 争いがない,と事実摘示をしたに止まり,本件発明3,4独自の新規性進歩性について何ら拘束力ある判断をしたものではない。 なお,被告は,原告は本件発明3,4独自の進歩性に関する主張を第1次審決に対する取消訴訟の審理において提出しえたのであるから,本件訴訟においてこれを主張することは信義則上許されないと主張する。 しかし,第1次審決に対する取消事由として被告が争点化しなかった本件発明3,4独自の進歩性についての訴訟資料を,原告が提示すべきであったという主張は,原告に無理を強いる非現実的な主張である。 (イ) 本件審決は,本件発明3と刊行物2とを対比し,本件発明3の進歩性。 を否定し,本件発明4の進歩性も否定したが,かかる判断は誤りである@ 本件審決は,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,酢酸ナトリウム及びブドウ糖を含むコーティング層を,塩化ナトリウム粒子表面に有することを特徴とする本件発明3について,刊行物2から容易想到とするが,刊行物2には,塩化カリウム等の微量電解質化合物を水溶液とし,塩化ナトリウム及びブドウ糖を攪拌混合した混合粉末に対して水溶液を噴霧して増量する流動層造粒法が記載されているに過ぎず,本件発明3の特定事項である「コーティング層にブドウ糖を含む」という事項は,何らの開示もなければ,その示唆も存在しない。 さらに,本件においては,甲15(特開平2-145522号公報 ,甲16(特開平3-275626号公報)を含めて,ブドウ糖 )をコーティング層の成分とするという,刊行物2に開示されていない事項を補うための何らの副引用例も示されていない。重炭酸透析用人, 工腎臓潅流用剤において,ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合やブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることが周知であるということは,刊行物2における,ブドウ糖を流動層造粒法の核とする構成に代えて,ブドウ糖を被覆層に含有させる構成に想到することが容易であるとの結論を,何ら導きうるものではない。 A また,塩化ナトリウム及びブドウ糖を核粒子としてこれに対し電解質溶液を噴霧する流動層造粒法によっても,偏析の解消には限度がある。なぜなら,塩化ナトリウムとブドウ糖が流動層中に浮遊懸濁して激しく運動する状態において,これらの粒子に噴霧液が噴霧されてなる造粒物は,塩化ナトリウムを核とする造流物と,ブドウ糖を核とする造粒物とが,1次凝集粒子として別個に生成されると考えられ,結局,比重の大きな塩化ナトリウムを核とする造粒物と,比重の小さな。 ブドウ糖を核とする造粒物が混在することは避けられないからであるこれに対し,本件発明3は,塩化ナトリウム粒子を核粒子とし,他の電解質化合物及びブドウ糖をすべてコーティング層の成分として用いるものであるため,所定の組成比にほぼ沿った高度な含有均一性を実現し,偏析の問題をほぼ完全に解消できるものであるから,刊行物2発明とは質的に異なる顕著な効果を有する。 B ブドウ糖の水溶液は,弱酸性に対しては比較的安定であるが,アルカリ性では不安定であり,炭素鎖の開裂等を伴う分解が起こり,異性化することが知られており(甲17〜19 ,医薬品として定められ )た成分処方を保ち得ない(他物質への変性)ということは,医薬品として重大な禁忌である。しかるに,流動層造粒法における噴霧液にブドウ糖を混入して用いようとする場合,塩化カリウム,酢酸ナトリウムを含有する電解質化合物水溶液は,pH8.53程度の弱アルカリ性を有する(甲20 。したがって,当業者にとって,人工透析剤を )製造する流動層造粒工程において,噴霧液としてブドウ糖の水溶液を用いることについては,禁忌というべき技術的阻害要因が存在する。 C 本件発明3について進歩性が否定されない以上,本件発明4についても進歩性は否定されない。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(4)の各事実は認めるが,同(5)は争う。 3 被告の反論本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1に対しア 原告は,本件審判手続において訂正の機会が付与されなかったのが違法であると主張するが,その法律上の根拠は不明であり,取消事由たり得ない。 すなわち,本件無効審判は,平成14年10月21日に請求されているから,平成15年改正法附則2条7項により,従前の特許法が適用され,現行法である134条の3第1項は適用されない。また,平成15年改正前の特許法において,無効審判請求の被請求人である特許権者が訂正請求の機会を与えられるのは,答弁書提出時と職権審理の通知時に限られる。 本件において,原告が答弁書提出時に訂正請求の機会を与えられなかった事実は存在しない。原告がその機会を利用しなかっただけである。また,本件において職権審理の通知は行われていないから,その意味でも訂正請求の機会が与えられなかったことは当然である。 イ 原告は,第1次審決に対する審決取消訴訟が平成15年改正法の施行(平成16年1月1日)の直後に係属したという,原告にとって関与不能の事由により,平成15年改正前の特許法に基づく訂正審判請求の機会を奪われた,この不利益を回避するための訂正請求の機会を付与する職権発動(153条2項,134条の2第1項)は,第1次判決による差戻し後の審理において特許庁がなすべき覊束裁量行為であった,と主張する。 しかし,原告自身,第1次審決は,請求不成立の審決であったので,その審決取消訴訟の提起に伴って訂正審判請求をする必然性も必要性も原告にはなかった,としているから,事実上,原告が平成15年改正前の特許法に基づく訂正審判請求の機会を奪われたことはない。 ウ また,原告は,平成15年改正法134条の3第1項の規定と比較して原告が不利益を受けたと主張しているが,そもそも,この規定の適用がないのは,無効審判請求が平成15年改正法の施行前であったことが理由であって,第1次審決に対する審決取消訴訟の提起時とは無関係である(附則2条7項 。)エ 一方,平成15年改正前の特許法において,請求不成立の審決が取り消されて無効審判請求事件が特許庁に差し戻された場合は,平成15年改正前の特許法126条1項本文の「第123条第1項の審判(特許の無効の審判)が特許庁に係属している場合」に該当し,審決が出るまでは訂正の機会はなかったのである。このような場合に,前記の実務慣行によって訂正の機会が与えられることがあり得たことは否定しないが,無効審判事件の係属中に訂正請求の機会を与えなくても,審決が出されることによって,上記の場合に該当しなくなることから,訂正審判請求が許されることになる。すなわち,無効審判事件の中で訂正請求の機会が与えられなくても,被請求人にとって不利益になるわけではない。したがって,職権審理の通知をするか否かは,訴訟経済の見地から特許庁が自由裁量で決めることができたのであり,裁量権の逸脱濫用による違法性を生ずることはない。 (2) 取消事由2に対し本件発明1,2の新規性の判断に対しては,第1次判決の拘束力が及ぶから,これに従って,本件審決が,本件発明1,2は刊行物1に記載された発明であり特許法29条1項3号に該当すると判断したことに何の誤りもない。 すなわち,第1次審決に対する審決取消訴訟における双方当事者の主張を踏まえると,第1次判決は,単に刊行物1の実施例2の造粒物が本件発明1の構成要件を充足するという点のみを判断したのではなく,本件特許出願前の技術常識から,同実施例で得られる造粒物と本件発明1の造粒物が同一であれば,そのことをもって,本件発明1は刊行物1に記載された発明ということができると判断したものであり,この点について拘束力が及ぶことは当然である。 (3) 取消事由3に対しア 本件発明3,4の進歩性の判断に対しても,第1次判決の拘束力が及ぶ。 すなわち,第1次判決は,前提となる事実として 「本件発明2ないし,4についての本件審決(第1次審決)の判断は,本件発明1についての上記認定判断を前提として行われたものである。したがって,本件発明1についての認定判断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りであることに帰する。このことについては,当事者間に争いがない 」。 (9頁16行〜20行)と認定した。つまり,第1次判決は,本件発明1の造粒物が刊行物1の実施例2の造粒物と同一であることが認められれば,本件発明2ないし4に記載された発明についても,新規性,進歩性はなく,そのことは,当事者間においても争いがなかったことを認定し 「原告主,張の取消事由2について判断するまでもなく,本件審決(第1次審決)はその全部について取消しを免れない (48頁下1行〜49頁1行)と 。」判断した。したがって,第1次判決の「本件発明1についての認定判断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りであることに帰する 」との部分は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律 。 判断として,拘束力を有するものである。 そうすると,本件発明3,4が進歩性を欠くことは,本件発明3と刊行物2を対比するまでもなく,第1次判決の拘束力から直接導くことができる。 なお,原告が本件訴訟において本件発明3の独自の困難性を主張することは,信義則上許されない。なぜなら,原告は,第1次審決に対する取消訴訟の審理において,上記の主張をすることに何らの妨げもなかったし,「本件発明1についての認定判断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りであることに帰する 」ことを認めるか否かについて, 。 明示的に裁判所の求釈明を受けた際に,この点を争わないとの意思表示をしたからである。 イ 本件審決は,本件発明3と刊行物2とを対比し,本件発明3の進歩性を否定し,本件発明4の進歩性も否定したが,かかる判断に誤りはない。 (ア) すなわち,刊行物2の実施例2に記載された製造方法を実施し,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子を流動層造粒機内で流動させると,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の周囲に噴霧液の成分である電解質化合物を含むコーティング層が形成され,該コーティング層を介して複数の粒子が結合した構造が得られる。これに対して,本件発明3は,ブドウ糖がコーティング層に含まれていて,複数の塩化ナトリウム粒子がコーティング層を介して結合しているものである。 したがって,刊行物2発明と本件発明3とは,ブドウ糖が造粒物の核を形成する粒子(核粒子)となっているか,コーティング層に含まれているかという点において相違する。 しかし,両者とも,粉末を溶解して水溶液にして透析液とするための発明であり,均一な組成の粉末粒子を得ることを目的とする点で共通する。したがって,ブドウ糖が核粒子として存在するか,コーティング層の中に存在するかによってその効果は変わらない。また,流動層造粒法を行うに当たって,ブドウ糖を噴霧液に含有させてコーティング層とすることを着想することが困難であったような事情は何ら存在しない。すなわち,刊行物2の実施例2に記載されているような流動層造粒法を行うに際して,ブドウ糖粒子を塩化ナトリウム粒子とともに流動させて核粒子とするか,ブドウ糖を噴霧液の成分として溶解させて流動層に噴霧するかは,当業者が適宜採用できた設計事項である。 (イ) 原告は,刊行物2発明においては,比重の大きな塩化ナトリウムを核とする造粒物と,比重の小さなブドウ糖を核とする造粒物が混在することは避けられず,偏析の問題が回避できないと主張する。しかし,かかる主張は,流動層造粒により作られる造粒物のほとんどが,単核コーティングされた造粒物であることを前提にしており,そもそもこの前提自体が誤りである。流動層造粒法により作られる造粒物の形状は,凝集造粒であり,そのほとんどがコーティング成分を介して複数の核粒子が凝集した造粒物であるから,透析液を製造する際の塩化ナトリウムとブドウ糖単体の比重差による成分のばらつきは無視し得る程度まで解消されている。 (ウ) 原告は,当業者が人工透析剤を製造する流動層造粒工程において噴霧液としてブドウ糖の水溶液を用いることは,禁忌というべき技術的阻害要因があると主張するが,本件のようなpH8.53程度の弱アルカリ性水溶液でブドウ糖が短時間に異性化し分解するようなことはない。 (エ) 本件発明3について進歩性が否定される以上,本件発明4についても進歩性は否定される。 |
|
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(第 ))1次審決及び第1次判決の内容,(4)(本件審決の内容)の各事実は,いず )れも当事者間に争いがない。 そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。 2 取消事由1(訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法)について(1) 原告は,原告が平成15年特許法改正により極めて不利益な立場に置かれていたことや,第1次判決も本件発明3,4については審判官を拘束する認定判断を示していないことに鑑みると,第1次判決による差戻し後の審理において,審判官は,訂正請求の機会を付与する職権発動(特許法153条2項,134条の2第1項)をなさなければならなかったのに,裁量権を逸脱濫用し,適切な職権発動をなさずに審理を行った違法がある旨の主張をする。 (2) 証拠(甲4,6,7,9)によれば,原告は,第1次判決による差戻し後の審理において,本件発明1〜4につき訂正を希望し,これに対し,本件審決は,そのうち主な内容である請求項7(本件発明1)及び請求項9(本件発明3)の訂正について,同訂正は本件明細書に記載された範囲内における訂正ではないなどの理由により,訂正案のとおり訂正する機会を設ける必要性は認められない旨述べたことが認められる。なお,本件発明1,3につき原告が希望した訂正案は,以下のとおりである。 ア 請求項7(本件発明1)「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤」。 を「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物が付着した均一な組成のコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した,各電解質のイオン濃度の相対標準偏差が2.42%以下である造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 と訂正するもの。 イ 請求項9(本件発明3)「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 を「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖が付着した均一な組成のコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 と訂正するもの。 (3) そこで検討するに,平成15年改正前の特許法126条1項本文には,特許権者が訂正審判の請求ができないのは,特許無効審判が「特許庁に係属している場合」と規定されていたから,原告が,平成15年改正前の特許法の下においては,審決取消判決の言い渡し後,審判官が同判決の確定を受けてさらに審理を開始するまでの間,訂正審判請求をする余地があったものである。 もっとも,第1次訴訟が,平成15年改正法の施行(平成16年1月1日)の際現に裁判所に係属していなかった本件においては,平成15年改正法附則2条13項により平成15年改正法126条2項が適用される結果,訂正審判請求ができる時期が審決取消訴訟の提起後90日以内に制限されることとなる。そのため,原告は,第1次判決による差戻し後の審決に対して審決取消訴訟を提起するまで,訂正審判請求ができなくなるが,これは,すべての特許権者が平成15年法改正に伴い甘受しなければならないやむを得ない結果である。したがって,原告が主張するように,原告が平成15年法改正により置かれた立場や第1次判決が本件発明3,4については審判官を拘束する認定判断を示していないことを前提としたとしても,第1次判決後の特許庁の審理において,訂正請求の機会を付与する職権発動(153条2項,134条の2第1項)をなすことが,審判官の覊束裁量行為であったとまでいうことはできず,上記職権発動について,審判官が裁量権を逸脱濫用した違法があるということはできない。 (4) なお,原告は,第1次判決による差戻し後の審理において,特許庁は,原告が訂正要件を備える訂正クレーム案を審判指揮に従って提出したにもかかわらず(甲6,7,9 ,これを訂正要件に違反すると誤って判断し,そ )の理由に基づき,原告に訂正の機会を付与しなかったものであり,かかる措置は違法である,と主張する。しかし,第1次判決による差戻し後の審理において,審判官が,平成17年7月11日付けで,原告の訂正の希望について詳しい説明を求める「無効2002-35452号についての審尋書」」, (甲6)を発し,原告に「審尋回答書(甲7)を提出させるなどした上で本件審決において,念のため,本件発明1,3につき原告の提示した訂正案のとおり訂正する機会を設ける必要があるかどうかにつきあえて検討を加え,上記の必要は認められないという特許庁の見解を示している(9頁下9行〜11頁15行)のである。このように,審判官が,原告に対して訂正請求の機会を与えなかったとしても,そのことをもって裁量権の逸脱濫用となると解することはできない。 (5) 以上によれば,取消事由1の主張は理由がない。 3 取消事由2(本件発明1,2に係る第1次判決の拘束力の範囲についての判断の誤り)について(1) 審決取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条5項の規定に従い当該審判事件について,さらに審理を行い審決をすることになるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照 。)そして,前記のとおり,平成16年1月26日になされた第1次審決は,平成16年12月21日の第1次判決により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の有する拘束力の下で判断しなければならないことになる。 以上の見解に基づき,以下検討する。 (2) ところで平成16年1月26日になされた第1次審決(甲2)は,本件発明1〜4につき,次のア〜キの内容を含む認定判断をした。 ア 「…本件特許発明1の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤は通常A剤と称されるものであり,甲第1号証(判決注,刊行物1のこと。以下同じ )の。 第1の組成物に対応するものではあるが,甲第1号証には,本件特許発明1の構成に欠くことのできない事項である『塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状』という構成については何も記載されていない (7頁下2。」行〜8頁6行 。)イ 「…親水性材料である塩化ナトリウムを核粒子としている甲第1号証の実施例2においては,噴霧した電解質溶液により塩化ナトリウム粒子同士が液体架橋を形成し,部分的に塩化ナトリウム粒子が溶融して凝集造粒するということを繰り返し,造粒物が得られるものと解するのが自然であり,請求人(判決注,被告のこと。以下同じ )の主張するように,塩化ナト 。 リウム粒子全表面に電解質のコーティング層が形成され,その後当該粒子がコーティング層を介して複数個結合した造粒物が得られる,とは必ずしもいえない (9頁13行〜19行 。 。」)ウ 「…結合剤が最終的にコーティングのみに寄与するとしても,当該コーティングは,主に原料粒子が凝集してできた造粒物の外部表面に対するコーティングであると考えられ,単に結合剤噴霧液を噴霧するのみでは凝集造粒物の内部に入り込んだ粒子表面まで完全にコーティングすることは通常困難であると考えられ,特に,塩化ナトリウム粒子の全表面を電解質でコーティングするということを意図していない甲第1号証の実施例2において,最終的に,凝集造粒物の内部に入り込んだ塩化ナトリウム粒子表面を含め,塩化ナトリウム粒子全体が電解質成分で覆われた凝集粒状物が得られていると解することはできない (9頁28行〜下2行 。 。」)エ 「…甲第2号証の追試試験では,原料の塩化ナトリウム粒子の粒子径の設定をはじめとする諸条件について,通常の凝集造粒の条件というより,むしろ,コーティングが形成されやすいような条件を選択してなされたものと考えられ…,塩化ナトリウム粒子の表面にコーティングを形成するために流動層造粒法を使用することについては何らの記載も示唆もない甲第1号証の実施例2の追試試験としては,甲第2号証が適切なものであるとは認められない (10頁22行〜下7行 。 。」)オ 「したがって,本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるということはできない (10頁下6行〜下5行 。 。」)カ 「本件特許発明2は,本件特許発明1の構成に欠くことのできない事項の全てを含み,さらに,酢酸を含むものであるから,…上記…に記載したと同様の理由で,本件特許発明2が,甲第1号証…に記載された発明である…と…いうことができない (12頁下1行〜13頁4行 。 。」)キ 「…請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項7ないし10に係る発明の特許を無効とすることはできない (14頁下1行〜。」15頁1行 。), (3) これに対し,平成16年12月21日になされた第1次判決(甲3)は前提となる事実として次のアの内容を記載し,原告主張の取消事由1として次のイの内容を摘示した上,取消事由1に関する判断としてウの内容を説示して,第1次審決の全部を取り消した。 ア 前提となる事実(ア) 「…本件発明1の構成要件を次のように分節して 「構成要件A」,のようにいうことがある。 A 塩化ナトリウム粒子の表面にB 塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,C 複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合したD 造粒物からなる顆粒状乃至細粒状のE 重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤(2頁下2行〜3頁6行 。 」)(イ) 「…本件発明2ないし4についての…審決の判断は,本件発明1についての…認定判断を前提として行われたものである。したがって,本件発明1についての認定判断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りであることに帰する。このことについては,当事者間に争いがない (9頁下11行〜下7行 。 。」)「…甲1に記載された発明が,上記…のとおり分節した本件発明1の構成要件AないしEのうち,A,D及びEを充足することについては,当事者間に争いがない (9頁下6行〜下4行 。 。」)イ 取消事由1(本件発明1と引用実施例(判決注,刊行物1の実施例2のこと。以下同じ )との同一性判断の誤り) 。 「本件発明1の潅流用剤は,引用実施例が開示する潅流用剤と同一のものである。 …審決は,流動層造粒法の原理を誤解し,また…追試実験結果の評価を誤ったために,引用実施例で得られる造粒物は本件発明1の構成要件B及びCを充足しないと判断したものであり,いずれも誤りである (9頁。」下2行〜10頁10行 。)ウ 取消事由1に関する当裁判所の判断「原告は,取消事由1として,引用実施例で得られる造粒物は本件発明1の構成要件を全て充足し,両者は実質的に同一のものであると主張する。 本件発明1の構成要件は,…構成要件AないしEに分節されるところ,引用実施例で得られる造粒物が構成要件A,D及びEを充足することについては,当事者間に争いがない。したがって,以下においては,構成要件B及びCを充足するか否かを検討する(26頁下10行〜下5行 。 。」)「本件発明1の構成要件Bにいう『電解質化合物を含むコーティング層』とは,塩化ナトリウム粒子に対する被覆層であって,…当該被覆層中の電解質化合物ごとの塩化ナトリウムに対する割合も一定かつ特定のものとなっている,という条件を満たす被覆層をいうものと解される。そして,…造粒物を構成する個々の塩化ナトリウム粒子の全表面を完全に被覆するものである必要はないというべきである。 …また,本件発明1の構成要件Cのうち,該コーティング層を「介して結合した」という文言については,…造粒物を構成する塩化ナトリウム粒子の間に,上記…のような電解質化合物を含む層が存在する,という性状を意味しているに過ぎないと解釈するのが相当である (28頁4行〜。」下7行 。)「…引用実施例においては,流動層造粒機STREA-15が用いられている以上,塩化ナトリウム粒子の凝集のみならず,凝集前及び凝集後の塩化ナトリウム粒子に対する電解質成分による被覆が進行したものと認められる (34頁5行〜8行 。 。」)「…結合した塩化ナトリウム粒子の間には電解質成分を含む層が存在しているということができる (35頁14行〜16行 。 。」)「…よって,引用実施例で得られる造粒物は,本件発明1の構成要件B及びCの両方を満たすものと認められる(35頁下3行〜下2行 。 。」)「…取消事由1は理由があり,本件発明1に関する…審決の認定判断には誤りがある。そして,本件発明1に関する判断に誤りがある以上,これを前提とする本件発明2ないし4についての判断にも誤りがあるに帰することについては当事者間に争いがないから,原告主張の取消事由2(判決注,本件発明1と刊行物2発明との相違点の判断誤り)について判断するまでもなく,…審決はその全部について取消しを免れない (48頁下4行。」〜49頁1行 。)(4) 以上の(2),(3)に照らせば,第1次判決は,本件発明1が刊行物1に記載された発明であるということはできないとした第1次審決を誤りとし,これを前提とする本件発明2ないし4についての第1次審決の判断にも誤りがあると判断して,本件特許に対する無効審判請求を不成立とした第1次審決の全部を取り消したものである。したがって,主文を導き出すのに不可欠な事実認定及び法律判断は,本件発明1が刊行物1に記載された発明であるとの事実認定である。したがって,審判官は,行政事件訴訟法33条1項に規定する第1次判決の拘束力により,かかる事実認定と抵触する認定をすることが許されないこととなる。 そうすると,差戻し後の審判官が,上記事実認定を踏まえて,本件審決(甲4)において「本件発明1に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであるから特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効にすべきものである (7頁4行〜6行 「…本件発明2も甲第1号 。」),証に記載された発明である。したがって,…本件発明2に係る特許は特許法29条の規定に違反してされたものであるから特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものである(7頁14行〜17行)と判断 。」したことに誤りはない。 (5) 原告は,第1次判決が行った判断は,刊行物1の実施例2が,本件発明1の構成要件B及びCを充足するという判断であり,本件発明1が刊行物1に記載されているかなどの認定はまったく行っていない,と主張する。 しかし,前記のとおり第1次判決による上記拘束力は,本件発明1が刊行物1に記載された発明であるとの事実認定の点に及ぶものであるから,原告の上記の主張は,採用することができない。 4 取消事由3(本件発明3,4の進歩性の判断の誤り等)について(1) 第1次判決の内容は,前記3(3)のとおりであって,本件発明3,4については,本件発明1が刊行物1に記載された発明であるということはできない,とした上で,この理由により本件発明3,4に係る特許につき無効審判請求不成立とする判断が誤りであるとしたものに過ぎず,本件発明3につき,刊行物2と対比して本件発明3,4の進歩性につき判断を示したものではない。したがって,本件発明3,4の進歩性に係る判断につき,第1次判決が差戻し後の審判官を拘束することはないというべきであるから,被告の主張は,採用することができない。 なお,被告は,第1次審決に対する取消訴訟における原告の態度を理由として,原告が本件訴訟において本件発明3,4の独自の困難性を主張することは,信義則上許されないと述べる。しかし,第1次審決に対する取消訴訟において被告の立場にあった原告が,被告が取消理由として争点化していなかった事項についてまで主張すべきであったとはいえず,また,たとえ原告が,第1次審決に対する取消訴訟において 「本件発明1についての認定判 ,断が誤りであれば本件発明2ないし4についての判断も誤りであることに帰する 」ことを認めていたとしても,これはあくまで本件発明1についての 。 認定判断を前提とする事項についてのものであり,これを前提としない本件発明3,4の独自の困難性という事項について意思表示をしたものと解することはできない。したがって,被告の上記の主張は,採用することができない。 (2) 本件発明3と刊行物2との対比ア 本件審決は,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物とを比較すると,前者ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電解質溶液で被覆して得られたものである点で相違する,と認定した上,かかる相違点の評価として,本件発明3は刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,と判断するので,以下検討する。 イ 本件発明3の特許明細書(甲1)には,以下の記載がある。 (ア) 従来の技術…A剤については,多数の成分からなる混合物であるため均一な組成の粉剤を得ることが困難である。…水溶液としたA剤は,重量及び容積が大きいため輸送コスト及び病院等での保管スペースの点から望ましくない。…( 0003 )【】…A剤の粉剤化技術としては,各電解質化合物を混合・粉砕して造粒する乾式造粒法及び各電解質化合物をスラリーとして造粒・乾燥する湿式造粒法が知られている。しかし,これらの物理的な粉砕・造粒方法には,粉砕工程や造粒工程において装置の摩擦によって異物が混入し,電解質化合物を汚染しやすいという問題がある ( 000。【4)】…また,公知の乾式造粒法により得られる粉剤は,各々の電解質化合物の硬度が異なり,混合・粉砕の際に,それぞれ,粉砕されやすいものとされにくいもの,造粒物になりやすいものとなりにくいものがあるため,造粒物として回収されるものの成分と造粒されずに粉末として残存するものの成分との間に大きなバラツキが生じやすい。すなわち,各電解質化合物の原料としての添加割合と,造粒物の成分組成とが一致しにくく,場合によっては,造粒後に,各電解質化合物の組成を補正するため特定の電解質化合物を添加混合する必要がある。…電解質化合物を微粉末化するためには面倒な操作を必要とするし,粉末として残存するものの量を低減するためには繰り返し造粒する必要があり,粉砕・造粒装置の摩擦などによる異物の混入で電解質化合物が汚染されやすくなるという問題がある ( 0005 )。【 】(イ) 発明が解決しようとする課題本発明の目的は,重炭酸透析液(重炭酸透析用人工腎臓灌流剤)に使用する粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤(人工腎臓灌流用剤)の新たな製造方法を提供することにある。また,成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供することにある ( 000。【7)】(ウ) 課題を解決するための手段…本発明のA剤においては,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成しており,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成している。 本発明のA剤においては,各造粒物を形成する各成分の割合はほぼ一定で特定の値にある。そのため,特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴がある。従って,本発明の粉末状のA剤を使用する際即ち水溶液にする際に,特定の電解質化合物の濃度を改めて補正する必要がない ( 0013 )。【 】(エ) 発明の効果…本発明の製造方法によれば,乾式造粒機,湿式造粒機,コーティング装置を必要とせず,…しかも均一性に優れた製品を…生産することができる。…( 0026 )【】本発明のA剤は,重量,容積とも小さい粉末製剤であり且つその組成が均一である…( 0027 )【】ウ また,刊行物2(甲12)には,以下の記載があると認められる。 (ア)(作用)本発明による血液透析用製剤は,透析用固体電解質,ブドウ糖および液体酸よりなる粉末状の第1の組成物と,炭酸水素ナトリウムよりなる粉末状の第2の組成物との二つの組成物よりなる…(3頁左下欄 。)第1の組成物は…流動層法においては,塩化ナトリウム以外の透析用固体電解質の0.8〜20倍…の水に溶解させ,得られる水溶液を,塩化ナトリウムおよびブドウ糖の混合粉末を流動層造粒機内で流動させ,その流動層内に噴霧しながら造粒…することにより得られる (4。 頁左上欄〜右上欄 。)(イ)(実施例)実施例2 塩化カリウム52.2部,塩化カルシウム…77.2部,塩化マグネシウム…35.6部および酢酸ナトリウム…357.2部を5倍量の水に溶解させて水溶液を得た。一方,塩化ナトリウム2188.7部およびブドウ糖525部をバーチカルグラニュレータに供給して攪拌混合して得られた粒状物を流動層造粒機(富士産業株式会社製STREA-15)内で流動させ,この流動層中に前記水溶液を噴霧させて増量した。このようにして得られた造粒物をバーチカルグラニュレータに供給し,更に酢酸41.5部を加えて攪拌混合した (5頁左上欄 。。)(ウ)(発明の効果)…本発明による血液透析用製剤は,乾式法または流動層法により製造されるので,従来潮解性が高いため均一粉砕が困難であった塩化カルシウムや塩化マグネシウムを使用しているにもかかわらず,粉末製造が均一化でき,また,各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が…解決で(き)るものである (6頁。 左上欄〜右上欄 。)エ 本件審決は,刊行物2(甲12)には,ブドウ糖を塩化ナトリウムとの混合粉末として流動層造粒機内で造粒することも記載されており(4頁左上欄〜右上欄 ,ブドウ糖を塩化ナトリウム及び他の電解質と均一 )。 に混合,粉砕したものを乾式造粒装置によって造粒する方法(実施例14頁左下欄〜右下欄)も記載されていることからみて,刊行物2における造粒物においてブドウ糖は必ずしもコーティングされた粒子の内部に存在していなくてもよいものであることは明らかである,と述べる。 しかし,刊行物2においては,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく,本件訴訟で提出された全ての証拠中にも,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく,かかる内容の周知技術が存在したことも認められない。 また,刊行物2には,発明の効果として,前記のとおり「…各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が…解決で(き)る」と記載されていることから,前記ウのように,刊行物2発明の,ブドウ糖が固体のまま粉末化される方法によっても,各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が解決できることが記載されていると認めることができる。しかし,本件発明3が目的とする技術的効果という観点から検討すると,刊行物2発明においては,ブドウ糖はあくまで固体のまま粉末化されるものであり,本件発明3のように,塩, 化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることが開示されているわけではないから,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても,本件発明3の技術的効果とは実質的な相違があるものというべきである。このことは,被告自身(ただし,名義は旧商号である株式会社ニッショー)が,甲25(特開2001-149466号公報,平成11年11月25日出願)において,刊行物2発明(特許第2751933号と記載)を従来技術として引用した上で 「上記方法により得られる透析用製剤は,含量均 ,一性を得ることが困難である 」と記載し,刊行物2発明によっても含 。 量均一性を得ることがいまだ不十分であり,技術的課題であったとの認識を示していることからも裏付けられる。 オ また,本件審決は,透析用人工腎臓潅流用剤において,ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合や,ブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることも周知であるから(刊行物2の実施例1,甲16の4頁左上欄,甲15の2頁左上欄 ,ブドウ糖を含む顆粒状乃至 )細粒状の重炭酸透析剤を製造するにあたり,刊行物2の実施例2においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて,塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜なる形態で流動層造粒機に導入して造粒し,コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物を得ることは当業者が容易に行いうることであるといえる,と述べる。 そこで,審決が引用する甲16(公開特許公報平3-275626号)を見ると,その4頁左上欄に「実施例1 それぞれ平均粒径50μm程度に粉砕された塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を下記の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合した。 NaCl 74.7110重量%KCl 1.7943 〃CaCl ・2H O 2.2839 〃22MgCl ・6H O 1.2408 〃 22CH COONa 7.9295 〃3ブドウ糖 12.0404 〃該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5o,長さ1〜10oの円柱状の粒子を100s得た。次に,温度50℃に調整された回分式箱型乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤とした」と記載されており,これによ 。 ると,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を特定の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合し,押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5o,長さ1〜10oの円柱状の粒子を100s得,温度50℃に調整された回分式箱形乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥し,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤としたことが記載されていることが認められる。また甲15(公開特許公報平2-145522号)を見ると,その3頁左上欄に「本発明のペースト状潅流用剤において,アセテート透析剤にあってはグルコースを,バイカーボネート透析剤にあっては炭酸水素ナトリウムを別剤として添付し,使用時に調製する 」と記載されており,これによると,ブドウ糖を別剤として添付し, 。 使用時に調製することが記載されていることが認められる。 しかしながら,上記の記載内容は,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることを記載したものではない。そして,上記のように,そもそも本件訴訟で提出されている全ての証拠を見ても,従来技術で解決できなかった,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むとする本件発明3の構成が記載ないし示唆されたものはない。 カ また,本件審決は 「塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜な形態で ,流動層造粒機に導入して造粒する 」と述べる。しかし 「適宜な形態」 。,として指向すべき,ブドウ糖をコーティング層中に含ませるという技術的構成自体が開示されていたと認めることはできない。さらに 「引用実施,例2(判決注,刊行物2の実施例2)においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて」と説示するところの代わりの方法についても,具体的な開示がないといわざるを得ない。 キ 以上によれば,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は 「コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物」を容易 ,に想到し得ると解すべき根拠がないということになるから,被告が主張するように,刊行物2の実施例2に記載されているような流動層造粒法を行うに際して,ブドウ糖粒子を塩化ナトリウム粒子とともに流動させて核粒子とするか,ブドウ糖を噴霧液の成分として溶解させて流動層に噴霧するかは,当業者が適宜採用できた設計事項であるとすることはできない。 なお,被告は,刊行物2発明において,流動層造粒法により作られる造粒物の形状は,凝集造粒であり,そのほとんどがコーティング成分を介して複数の核粒子が凝集した造粒物であるから,透析液を製造する際の塩化ナトリウムとブドウ糖単体の比重差による成分のばらつきは無視し得る程度まで解消されている,と主張する。 しかし,刊行物2発明を,本件発明3のようにコーティング層中にブドウ糖が含まれる場合と比べれば,たとえ凝集造粒であることを前提にしても,コーティング成分を介して凝集する複数の核粒子中,比重差がある塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の割合にバラツキが生じることは否定することができない。しかし,このような刊行物2発明によって,成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供するという本件発明3が解決しようとする課題を,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても達成できるものと考える具体的根拠は,本件訴訟で提出された全ての証拠によっても,見出すことが困難である。このことは,前記のように被告自身が甲25(特開2001-149466号公報,平成11年11月25日出願)において,刊行物2発明(特許第2751933号と記載)を従来技術として引用した上で 「上記方法により得られ ,る透析用製剤は,含量均一性を得ることが困難である 」と記載し,含量。 均一性の点が依然として技術的課題であったとの認識を示していることからも裏付けられる。 (3) 以上によれば,本件審決のうち,本件発明3の進歩性を否定した判断には誤りがあり,したがって,本件発明3を引用して本件発明4の進歩性を否定した判断にも,同様の理由により,誤りがあることになり,取消事由3は理由がある。 5小括そうすると,原告主張の取消事由1及び2は理由がないが,取消事由3は理由があることになるが,取消事由1及び2は本件発明1及び2(請求項7及び8)に関するものであり,取消事由3は本件発明3及び4(請求項9及び10)に関するものであるから,本件審決のうち請求項7及び8につき無効とした部分は正当として是認することができるが,請求項9及び10につき無効とした部分は違法として取消しを免れない。 6結語よって,原告の本訴請求中,本件審決のうち請求項9及び10(本件発明3及び4)についての特許を無効とするとの部分の取消しを求める部分を認容し,その余は失当として棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
---|---|
裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 田中孝一 |