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関連審決 無効2003-35088
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事件 平成 16年 (行ケ) 10号 審決取消請求事件
原告 カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士 中村友之
同 小西恵
被告 株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦
同 加藤大登
同 伊藤高順
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2003−35088号事件について平成15年12月2日にした審決中「特許第3289705号の請求項6に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨。
2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「自動車用空調装置」とする特許第3289705号の特許(平成6年9月22日に出願された特願平6-227592号及び平成7年8月29日に出願された特願平7-220903号を先の出願とする特許法41条に基づく優先権主張を伴って,平成7年9月13日に出願された特願平7-235505号の一部を平成10年6月12日に新たな特許出願とした特願平10-165734号の一部を更に新たな特許出願として平成11年6月18日に出願(優先権主張日平成6年9月22日又は平成7年8月29日),平成14年3月22日設定登録。以下「本件特許」という。後記訂正後の請求項の数は6である。)の特許権者である。
原告は,本件特許をすべての請求項について無効とするとの審判を請求し,特許庁は,これを無効2003-35088号事件として審理した。被告は,審理の過程で,平成15年5月30日,特許請求の範囲の訂正を含む訂正を請求した(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成15年12月2日,本件訂正を認めた上で,「特許第3289705号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。特許第3289705号の請求項6に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同月12日,その謄本を原告に送達した。
2 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(別紙1ないし5参照) (1) 請求項1 車室内とエンジンルームとが仕切り板にて区画されている自動車に用いられ, 前記車室内に,空気を送風する送風機ユニットと,その空気下流側に設けられて冷却用熱交換器,加熱用熱交換器および吹出モード切替部を有するエアコンユニットとを設けた自動車用空調装置において, 前記エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており, 前記冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記送風機による送風空気を冷却し, 前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記送風空気を加熱し, 前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の上方側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,車室内乗員の頭部に吹き出す上方吹出口と車室内乗員の足元に吹き出す下方吹出口との間で切り替え, 更に前記冷却用熱交換器は,前記仕切り板に隣接して設けられ, 前記冷却用熱交換器の熱交換媒体の入出用配管が前記エンジンルーム側に配置され, この入出用配管は,前記冷却用熱交換器の側面のうち,前記仕切り板と対向する面から,前記エンジンルームの方向へ突出して設けられており, この入出用配管が車両搭載状態にて前記仕切り板を貫通して前記エンジンルーム内に突出していることを特徴とする自動車用空調装置。
(2) 請求項2 前記冷却用熱交換器の側面のうち,前記仕切り板と対向する面には,前記熱交換媒体を前記冷却用熱交換器内に流入させる媒体入口と,前記熱交換媒体を前記冷却用熱交換器から流出する媒体出口とが形成され, 前記入出用配管は,前記媒体入口および前記媒体出口から前記エンジンルームの方向へ突出して設けられていることを特徴とする請求項1記載の自動車用空調装置。
(3) 請求項3 前記冷却用熱交換器は,複数のチューブ間にコルゲートフィンを介在させてなるコア部と,このコア部の一端側に設けられ,前記複数のチューブへの冷媒の分配および前記複数のチューブからの冷媒の集合を行うタンク部とを備えるコルゲートフィンタイプにて構成され, 前記媒体入口および媒体出口は,前記タンク部に形成されていることを特徴とする請求項2記載の自動車用空調装置。
(4) 請求項4 前記仕切り板に形成された前記入出用配管貫通用の穴は,弾性材で形成されたシール部材にてシールされていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の自動車用空調装置。
(5) 請求項5 前記冷却用熱交換器と前記入出用配管との間には,冷媒を減圧し膨張させる減圧手段が配置されていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載の自動車等空調装置(判決注・「自動車用空調装置」の誤記と認める。)。
(6) 請求項6 前記送風機ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されていることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載の自動車用空調装置。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。このうち本件に係る部分は,要するに,請求項6に係る発明は,特開平6-156049号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)並びに特開平2-227317号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び「トヨタウィンダム 新型車解説書」(1991年9月30日発行,以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)からは,当業者が容易に発明をすることができたとは認められない,というものである。
4 審決が認定した,引用発明1の内容,請求項6に係る発明との一致点,相違点 (1) 引用発明1の内容(別紙6参照) 「自動車の車室内とエンジン室とが分離隔壁にて区画されている自動車に用いられ, 車室内に,空気を送風する空気ブロワを有するケースと,その空気下流側に設けられて蒸発器,熱交換器および吹出モード切り替える部分を有するハウジングとを設け,空気ブロワを有するケースは,蒸発器,熱交換器の下方に設けた暖房・換気・空調装置において, ハウジングは,自動車の計器板の中央部に設けられており, 蒸発器は,ハウジング内において略水平に配置され,空気ブロワによる送風空気を冷却し, 熱交換器は,蒸発器の上方側に略水平に配置され,送風空気を加熱し, 吹出モードを切り替える部分は,熱交換器の上方側に配置され,この熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,制御弁の設定に基づいて,と,車室の低所に向けて開口する吹出し口との間で切り替え, 更に蒸発器と分離隔壁との間に外気吸入管が介在するように設けられている暖房・換気・空調装置」(審決書14頁) (2) 一致点 「車室内とエンジンルームとが仕切り板にて区画されている自動車に用いられ, 前記車室内に,空気を送風する送風機ユニットと,その空気下流側に設けられて冷却用熱交換器,加熱用熱交換器および吹出モード切替部を有するエアコンユニットとを設けた自動車用空調装置において, 前記エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており, 前記冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記送風機による送風空気を冷却し, 前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記送風空気を加熱し, 前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の上方側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,車室内乗員の頭部に吹き出す上方吹出口と車室内乗員の足元に吹き出す下方吹出口との間で切り替えられる, 自動車用空調装置。」の発明である点(同27頁) (3) 相違点 「相違点7 冷却用熱交換器が,本件請求項6に係る発明においては送風機ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されて,エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており,冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の上方側に配置され,更に前記冷却用熱交換器は,前記仕切り板に隣接して設けられているのに対し,甲第1号証記載の発明においては,ハウジングは,自動車の計器板の中央部に設けられており,蒸発器は,ハウジング内において略水平に配置され,熱交換器は,蒸発器の上方側に略水平に配置され,吹出モードを切り替える部分は,熱交換器の上方側に配置されるものの,空気ブロワを有するケースは,蒸発器,熱交換器の下方に設けられており,蒸発器と分離隔壁との間に外気吸入管を介在させて設けられている点。
相違点2 本件請求項6に係る発明の冷却用熱交換器の熱交換媒体の入出用配管は,前記エンジンルーム側に配置され,この入出用配管は,前記冷却用熱交換器の側面のうち,前記仕切り板と対向する面から,前記エンジンルームの方向へ突出して設けられているのに対し,甲第1号証の発明においては何処に配置され,エンジン室内に突出しているか否か不明である点。」(同27頁〜28頁)
原告主張の取消事由
1 【相違点7の認定の誤り】 審決が相違点7として認定した構成のうち,「エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており,冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の上方側に配置され」た構成は,両者の一致点として認定されているものである。
一致点として認定した事項を,相違点として認定することは,論理的に矛盾している。
2 【相違点7についての判断の誤り】 (1) 請求項6に係る発明は,請求項1ないし5に係る発明を引用するものであり,請求項6に特有の「送風ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されている」という構成は,引用例3にも記載されているように周知の技術的事項である。審決は,請求項1ないし5に係る発明については,いずれも当業者が容易に発明をすることができたと判断しているのであるから,これらに周知の技術的事項を付加した請求項6に係る発明も,同様に容易に発明をすることができたと判断されるべきである。
(2) 審決は,請求項6に係る発明のオフセット配置の解釈を誤っている。
審決は,「・・・相違点7は,送風機ユニットのオフセットを特定していることから,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置するにあたり,送風機ユニットが冷却用熱交換器等の下方から外れ,送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができるものである。」(審決書29頁)としている。
しかし,本件明細書には,オフセットについて,「また,図26のように,クーラ用エバポレータ21とヒータコア22を車両前後方向に配置して一体化したエアコンユニット2を車両中央部に設置し,送風機1のみを車両中央部から幅方向にオフセットして配置したセンタ置きタイプの構造も考えられている。」(段落【0005】),「(第1実施形態)図1〜図5は・・・。そして,空調装置の送風機ユニット1は車室B内のインストルメントパネルPの中央部から車両幅方向にオフセット(右ハンドル車では車両幅方向の左側にオフセット)して配置されている。」(段落【0015】)と記載されているだけである。また,外気の導入に係る部材についても,「この内外気切替箱11には外気導入口12と」(段落【0016】)と記載されているだけであり,「送風機ユニットのオフセット配置により,送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができる」とは記載されていない(別紙1,2及び5参照)。
審決のしたオフセット配置の解釈は,本件明細書に基づかないものである。
3 【相違点2についての判断の誤り】 (1) 審決は,「そして,相違点7のオフセットの構成を有する発明を前提に相違点2をみれば,送風機ユニットをオフセットさせることにより,外気を導入する部材を仕切壁に隣接させたままでも,冷却用熱交換器を仕切壁に隣接配置することが配置上の干渉を発生させないものとなり,この前提のもとに,相違点2の構成の採用が可能となるものであるから,相違点7を前提とする相違点2は,甲第2号証に記載または示唆されるとすることはできない。」(審決書29頁)としている。
(2) この相違点2は,請求項1に係る発明と引用発明1とを対比したときの相違点2と同じであり,審決は,請求項1に係る発明の容易推考性の判断において,相違点2に係る構成は,引用例2に記載された構成を引用発明1に適用することにより容易に推考できるとしている。
したがって,「相違点7を前提とする相違点2は,甲第2号証に記載または示唆されるとすることはできない。」と判断したのは誤りである。
4 【顕著な作用効果の認定の誤り】 (1) 審決は,「・・・相違点7,2に係る個別の構成が,甲第1〜3号証(判決注・引用例1ないし3)に個々に示されるとしても,それらを組み合わせたことにより,それら個々の構成からは到底予測し得ない上記効果を奏する上記相違点7,2は,それらの開示とは別異の技術というべきものであって,それらに基づいて容易になし得たとすることはできない。」(審決書30頁)としている。
(2) 本件明細書には,(イ)「従来のセンタ置きユニットよりも高さ寸法を充分小さくすることができる」(段落【0010】),(ロ)「空調装置全体としての上下方向寸法を小さく抑えることができる」(段落【0011】),(ハ)「インストルメントパネル(P)部分の特に狭隘なスペースで配管結合作業を行う必要がなくなるため,配管結合の作業性を向上できる。また,車室(B)内でのサブ配管が不要となり,大幅なコストダウン,配管結合作業の簡略化を実現できる」(段落【0013】)と記載されているだけであり,(イ)及び(ロ)の効果は,引用発明1が奏する「従来の水平型の装置と異なって,垂直型に構成してあるため,計器板の下方に設置することができ,車室内の占有容積を小さくしうる」(甲第4号証段落【0050】)との効果と実質的に差異はなく,また,(ハ)の効果は,引用発明2が奏する「・・・クーラユニットの組立作業が容易となり,しかも当該ユニットを容易に車体に装着することができる」(甲第5号証6頁右上欄)との効果と実質的に差異はない。
(3) 被告は,「オフセット」の効果を主張するが,本件明細書には,「右ハンドル車では車両幅方向の左側にオフセット」(段落【0015】)と記載されているだけである。被告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものであり失当である。
被告の主張
1 【相違点7の認定の誤り】に対して 請求項6に係る発明は,エアコンユニットをインストルメントパネルの中央部に設け,冷却用熱交換器をエアコンユニット内において略水平に配置し,加熱用熱交換器を冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置し,吹出モード切替部を加熱用熱交換器の上方に配置した空調装置に対して送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置させるという一連の構成が有機的に結合して初めて,「冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設けることが可能となる」という独自の作用効果を奏するものである。
請求項6に係る発明におけるこれらの構成要素は一体不可分のものであり,「送風機ユニットのオフセット配置」のみを単独で取り出して発明の異同を判断すべきではない。審決はこの点を正確に理解して,相違点7の認定を行ったものであり,それに誤りはない。
2 【相違点7についての判断の誤り】に対して (1) 原告は,請求項6に係る発明は,当業者が容易に推考できる請求項1ないし5に係る発明に,周知の,送風ユニットのオフセット配置の構成を付加したものに過ぎないから,同様に容易に発明することができると判断されるべきであると主張する。
審決は,「・・・本件請求項1に係る発明は,「送風機ユニット」の位置を特定する格別の構成を有するものではないので,甲第1号証の発明(判決注・引用発明1)の「空気ブロワを有するケース」は,本件請求項1に係る発明の「送風機ユニット」に相当するものと認められる。」(審決書20頁)と認定している。
このことは,換言すれば,「送風機ユニット」の位置を特定する構成を備えれば,引用例1の「空気ブロワを有するケース」は請求項6に係る発明の「送風機ユニット」には該当しないということになる。
その上で,審決は,「送風機ユニットが冷却用熱交換器等の下方にあるものを排除しない本件請求項1に係る発明においては,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置するにあたり,送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けるために送風機ユニットへの外気の導入に係る部材を冷却用熱交換器の他の面へ移動することが必要となるものを含み,その点においては,その移動は,甲第2号証の発明(判決注・引用発明2)に動機づけられて当業者が容易になし得る・・・が,相違点7は,送風機ユニットのオフセットを特定していることから,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置するにあたり,送風機ユニットが冷却用熱交換器等の下方から外れ,送風機ユニットヘの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができるものである。」(審決書29頁)と判断したのであるから,本件請求項1〜5に係る発明の容易推考性が肯定されるとしても,請求項6に係る発明の容易推考性が肯定されることにはならない。
原告の主張は,審決内容を正しく理解しないものである。
(2) 原告は,審決の「上記相違点7に係る構成は,送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができる」との認定判断は,本件明細書の記載に基づかない事項を根拠としたものであると主張する。
しかし,審決は,請求項6に係る発明の送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置する構成に基づけば,引用発明1のように外気の導入に係る部材を冷却用熱交換器と仕切り板との間の部位に設ける必要性はなくなるという,上記構成から一義的に導き出される明白な構成を認定したのである。この構成は客観的に認められるものであるから,審決の認定判断に誤りはない。
(3) 請求項6に係る発明における,送風機ユニットの「オフセット」配置の意義とは,エアコンユニットの冷却用熱交換器と加熱用熱交換器を略水平にして上下に並べて配置するとともに,この冷却用熱交換器と仕切り板との間に「送風ダクト部」その他の空気通路を介在させないように配置した構成に対して,送風機ユニットを,インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にずれて配置したものと定義される(特に,外気の導入に係る部材を冷却用熱交換器と仕切り板との間の部位に設けないようにするものとして解釈すべきである。)。
ア 本件明細書には,発明が解決しようとする課題として,図26(別紙5参照)の,従来型のレイアウト(引用例3のもの。つまり,送風機のみを車両中央部から幅方向にオフセットさせ,冷却用熱交換器と加熱用熱交換器を車両前後方向に立てて配置したレイアウト)では,冷却用熱交換器の車両前方側に送風機からの送風空気を導入する送風ダクト部が必要となるから,車両前後方向の寸法が大きくなってしまうことが記載されており(段落【0005】〜【0008】),請求項6に係る発明は,この課題を解決するために,冷却用熱交換器と加熱用熱交換器を略水平にして上下に並べて配置するとともに,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設けるようにしたものであり,@「車室内とエンジンルームとが仕切り板にて区画されている自動車に用いられ,」,A「前記エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており,」,B「前記冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記送風機による送風空気を冷却し,」,C「前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記送風空気を加熱し,」,D「前記冷却用熱交換器は,前記仕切り板に隣接して設けられ,」という構成を採用するものである(請求項1の記載,段落【0010】ないし【0012】)。
イ 「隣接」とは「となりあってつづくこと。近隣関係にあること。」(広辞苑)であり,また,本件明細書には,「上記エバポレータ21とヒータコア22は,図6に示すように,車室B側で仕切り板Cに隣接して配置され,」(段落【0022】)と記載されている。
そうすると,「冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設ける」(上記D)とは,「冷却用熱交換器と仕切り板との間に「送風ダクト部」その他の空気通路を介在させることなく,両者を近隣関係の形態にする」という意味となる。そして,このDの構成を採ることにより,車両前後方向の寸法減少を達成するという課題の解決に資することになるのである。
ウ また,請求項6に係る発明は,「前記送風機ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されている」との構成を有しており,本件明細書には,「オフセット」について,「空調装置の送風機ユニット1は車室B内のインストルメントパネルPの中央部から車両幅方向にオフセット(右ハンドル車では車両幅方向の左側にオフセット)して配置されている。」(段落【0015】)と記載されている。すなわち,請求項6に係る発明において,送風機ユニットは,インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にずれて配置されるから,そこからの風は,冷却用熱交換器と仕切り板との間に送風ダクトを介在させることなく,車両幅方向に送風されて冷却用熱交換器に導入されることが一義的に導き出される。
エ 以上のとおりであるから,請求項6の特許請求の範囲には,「冷却用熱交換器の車両前方側に送風ダクト部を設けない」とは記載されていないものの,本件明細書の記載から,請求項6に係る発明における「オフセット」とは,上記のとおりに定義される。
原告の,審決は明細書の記載の基づかない事項を根拠とした認定であるとの主張は誤っている。
3 【相違点2についての判断の誤り】に対して (1) 原告は,請求項1に係る発明の容易推考性の判断において,相違点2に係る構成が引用例2に記載された構成を引用発明1に適用することにより容易に推考できるとされた以上,請求項6に係る発明においても,同じ判断がされるべきである旨主張する。
(2) 2(1)で述べたとおり,審決は,「本件請求項1に係る発明は,「送風機ユニット」の位置を特定する格別の構成を有するものではないので,甲第1号証の発明の「空気ブロワを有するケース」は,本件請求項1に係る発明の「送風機ユニット」に相当するものと認められる。」(審決書20頁)という前提の下で,請求項1に係る発明と引用発明1との相違点2を判断している。
請求項6に係る発明においては,上記前提を欠いているのであるから,相違点2について,請求項1に係る発明の容易推考性の判断でなしたと同様の判断をすべきであるとの原告の主張は誤っている。
(3) 引用発明3は,冷却用熱交換器と加熱用熱交換器の並べ方が請求項6に係る発明とは全く異なり,送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置させたとしても,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置させる構成は採用できない。したがって,引用発明1に引用発明3を適用しても,請求項6に係る発明の構成にはならない。
4 【顕著な作用効果の認定の誤り】に対して (1) 請求項6に係る発明は,エアコンユニットをインストルメントパネルの中央部に設け,冷却用熱交換器をエアコンユニット内において略水平に配置し,加熱用熱交換器を冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置し,吹出モード切替部を加熱用熱交換器の上方に配置した空調装置に対して,送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置させるという構成が全体として有機的に作用しあって初めて「冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設けることが可能となる」という効果を奏するものである。この効果は,各構成要素がそれぞれ別々に作用して達成されるものではない。
(2) 2で述べたとおり,請求項6に係る発明の「オフセット」は,単に送風機ユニットをインストルメントパネルの中央部から車両幅方向にずれた位置に配置するという構成ではなく,冷却用熱交換器と仕切り板との間に,送風ダクトを設けないという構成を含むものである。この「オフセット」により,本件明細書に記載されているとおり,@空調装置全体としての上下方向寸法の小型化,A車両用空調装置全体としての車両前後方向寸法の小型化,B配管結合作業性の向上,という効果を奏するものである。
当裁判所の判断
1 【相違点7の認定の誤り】について 相違点7は,「冷却用熱交換器が,本件請求項6に係る発明においては送風機ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されて,エアコンユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部に設けられており,冷却用熱交換器は,前記エアコンユニット内において略水平に配置され,前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の上方側に配置され,更に前記冷却用熱交換器は,前記仕切り板に隣接して設けられているのに対し,甲第1号証記載の発明においては,ハウジングは,自動車の計器板の中央部に設けられており,蒸発器は,ハウジング内において略水平に配置され,熱交換器は,蒸発器の上方側に略水平に配置され,吹出モードを切り替える部分は,熱交換器の上方側に配置されるものの,空気ブロワを有するケースは,蒸発器,熱交換器の下方に設けられており,蒸発器と分離隔壁との間に外気吸入管を介在させて設けられている点」というものであり,原告の主張するとおり,そこには,請求項6に係る発明の構成として,それと引用発明1との一致点として挙げられたものが含まれている。
しかし,この相違点7の認定を全体としてみれば,それは,引用発明1が「空気ブロワを有するケースは,蒸発器,熱交換器の下方に設けられており,蒸発器と分離隔壁との間に外気吸入管を介在させて設けられている」構成を備えており,この点においてだけ請求項6に係る発明と相違することを指摘している趣旨であることは明らかであるから,その表現に適切さを欠くとしても,審決のなした相違点7の認定は,結論において正しいと認められる。
2 【相違点7についての判断の誤り】について (1) 審決は,「相違点7は,送風機ユニットのオフセットを特定していることから,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置するにあたり,送風機ユニットが冷却用熱交換器等の下方から外れ,送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることもできるのである。」と認定判断している。
(2) 請求項6に係る発明は,請求項1ないし5に係る発明を引用するものであり,送風機ユニットに関して,「送風機ユニットは,前記インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されている」(請求項6)との構成を付加するものである。他方,請求項1ないし6の特許請求の範囲のいずれにも,送風機ユニットへの外気導入のための部材の位置について,何も記載されていない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明中には,「オフセット」に関して,「送風機1のみを車両中央部から幅方向にオフセットして配置したセンタ置きタイプの構造も考えられている。」(段落【0005】),「空調装置の送風機ユニット1は・・・車両幅方向にオフセット(右ハンドル車では・・・左側にオフセット)して配置されている。」(段落【0015】)と記載され,他方,「外気の導入に係る部材」に関しては,「この内外気切替箱11には外気導入口12・・・開口しており」(段落【0016】)と記載されている。
この本件明細書の発明の詳細な説明中の記載からすると,請求項6に係る発明は,送風機ユニットが外気導入口を有することを当然の前提としていると認められるものの,本件明細書の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明中にも,送風ダクト等外気の導入に係る部材については何の記載もなされておらず,外気がどこからいかなる部材を通って送風機ユニット(外気導入口)へ導入されるかは何ら特定されてはいない。
(3) 被告が指摘するように,「隣接」とは,隣にあって接していること,すなわち間に何も存在しないことばかりでなく,近隣関係にあることをも意味するものである以上,「隣接」という言葉が使用されていることをもって,冷却用熱交換器と仕切り板の間に送風ダクト等が介在することを否定することはできない。
なお,請求項1ないし5に係る発明も「更に前記冷却用熱交換器は,前記仕切り板に隣接して設けられ,」との構成を備えているから,仮に被告の「隣接」の解釈に係る主張を採用するなら,これらの発明は,送風機ユニットのオフセット配置をするか否かにかかわらず,もともと冷却用熱交換器と仕切り板との間にはいかなる部材も存在しないと解すべきことになる。そうすると,請求項1ないし5に係る発明を引用する請求項6に係る発明においても,そのオフセット配置は,配置上の干渉を避けるという効果を持たらすものとはいえなくなる。
(4) 本件発明の解決しようとする課題の観点からは,次のようにいうことができる。
本件明細書には,次のとおりの記載がある(甲第2号証)。
ア「【0005】また,図26のように,クーラ用エバポレータ21とヒータコア22を車両前後方向に配置して一体化したエアコンユニット2を車両中央部に設置し,送風機1のみを車両中央部から幅方向にオフセットして配置したセンタ置きタイプの構造も考えられている。このセンタ置きタイプのレイアウトによれば,クーラ用エバポレータ21とヒータコア22を車両中央部に集中して設置しているので,インストルメントパネルP内でのスペース確保が容易となるが,その反面,車両前後方向の狭いスペース内に空調用熱交換器(エバポレータ21,ヒータコア22)をほぼ垂直に立てて配置しているため,エバポレータ21の車両前方側に送風機1からの送風空気を導入する送風ダクト部を設置する必要が生じる。同様に,ヒータコア22の車両後方側にも,ヒータコア22を通過した送風空気が流れる送風ダクト部が必要となる。
【0006】このように,エバポレータ21とヒータコア22の前後に送風ダクト部が必要となるため,車両前後方向の寸法が大きくなってしまうという問題がある。また,車両前後方向の寸法が大きくなってしまうため,ヒータコア22の車両後方側に,吹出モードを切り替える吹出モード切替部を設置することがスペース的に困難となることが多い。そのため,吹出モード切替部をヒータコア22の上方部に設置するという配置を採用する場合があるが,この場合には,垂直に立てたヒータコア22の上方部へさらに吹出モード切替部を設置しているので,高さ方向の寸法が大になってしまうという問題がある。
【0007】以上のことから,センタ置きタイプのレイアウトにおいても,車両への搭載が困難となり,汎用性に欠けるという問題がある。
【0008】そこで,本発明は上記点に鑑み,スペース効率を追求した熱交換器レイアウトとすることにより,狭隘な車室内スペースに対しても搭載が容易となる自動車用空調装置を提供することを目的とするものである。
【0009】また,本発明は,冷却用熱交換器および加熱用熱交換器の熱交換媒体の入出用配管の結合作業性を向上させることを別の目的とする。
【0010】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,請求項1〜6記載の発明では,冷却用熱交換器(21)および加熱用熱交換器(22)をともに略水平方向に配置して,上下方向に重ねるレイアウトにしているため,上下方向の熱交換器部スペースを非常に小さくでき,その結果,従来のセンタ置きユニットよりも高さ寸法を充分小さくすることができる。
【0011】しかも,上記のごとく上下方向の熱交換器部スペースを非常に小さくできるため,加熱用熱交換器(22)の上方に,この加熱用熱交換器(22)で加熱されて温度調整された空気の吹出方向を切り替える吹出モード切替部(23)を配置しても,空調装置全体としての上下方向寸法を小さく抑えることができる。」 イ「【0013】更に本発明では,冷却用熱交換器(21)および加熱用熱交換器(22)の熱交換媒体の入出用配管(21a,22a)がエンジンルーム(A)側に配置され,この入出用配管(21a,22a)は,前記冷却用熱交換器(21)の側面のうち,前記仕切り板(C)と対向する面から,前記エンジンルーム(A)の方向へ突出して設けられており,この入出用配管(21a,22a)が車両搭載状態にて仕切り板(C)を貫通してエンジンルーム(A)内へ突出しているから,自動車用空調装置を車両に搭載する際に,入出用配管(21a,22a)への配管結合作業はともにエンジンルーム(A)で行うだけで良く,車室(B)で行う必要はない。従って,インストルメントパネル(P)部分の特に狭隘なスペースで配管結合作業を行う必要がなくなるため,配管結合の作業性を向上できる。また,車室(B)内でのサブ配管が不要となり,大幅なコストダウン,配管結合作業の簡略化を実現できる。」 以上の記載からは,請求項1ないし6に係る発明は,その目的であるスペース効率を,冷却用熱交換器(21)及び加熱用熱交換器(22)を共に略水平方向に配置して,上下方向に重ねるレイアウトにしていることにより達成するものと認められ,送風機ユニットへの外気導入に係る部材の位置関係はそれに関係していないのである(なお,上記【0005】及び【0006】の記載において,送風機ユニットから冷却用熱交換器へ送風空気を導入する送風ダクト部が車両の前方に,加熱用熱交換器から送風空気を導出する送風ダクト部が車両の後方にあると,自動車用空調装置の車両前後方向の寸法が大きくなるというセンタ置きタイプのレイアウトの問題点が指摘されていることから,本件明細書においては,明示はされていないものの,上記各送風ダクト部を自動車用空調装置の車両前後方向には設けないという位置の特定(構成)が示唆されているという余地があるとしても,上記各送風ダクト部と,送風機ユニットへの外気導入に係る部材は別の物であるから,前者の位置が特定されているとしても,そのことは,後者の位置の特定を意味するものではなく,また,その位置が本件発明の課題の解決に関係しているとは認められない前記認定に影響するものではない。)。
(5) 被告は,請求項6に係る発明の「オフセット」配置を,冷却用熱交換器と仕切り板との間に「送風ダクト部」その他の空気通路を介在させないように配置した構成に対して,送風機ユニットを,インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にずれて配置したもの,と定義する。この定義が正しいものであるとしても,上記のとおり,もともと,請求項6に係る発明において,送風機ユニットがオフセット配置される前の,それへの外気導入に係る部材の位置が特定されていないのであるから,送風機をオフセット配置することがそれに外気を導入する部材の移動を自然にもたらすものであっても,そのことは,冷却用熱交換器と仕切り板との間から,それ以外の場所に移すことを必然的に意味するものではないことになる。
審決が,請求項6に係る発明において,送風機ユニットのオフセット配置の構成を採用することにより,「・・・送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができる」とした認定判断は,前提において誤っているといわざるを得ない。
(6) そこで,以下,上記のような配置上の干渉を避けるという構成・効果がない前提での,相違点7に係る構成の容易推考性について検討する。
ア 引用例1には,次のとおりの記載がある(甲第4号証) (ア) 「【産業上の利用分野】本発明は,自動車の車室用の暖房・換気・空調装置に関する。」(段落【0001】) (イ) 「【従来の技術】この種の装置としては,空気の吸入口及び吐出口を有するブロワと,ブロワの吐出口に接続された,もう1つの吸入口を有する分配器とを備え,かつこの分配器に吸入された空気を加熱する熱交換器と,冷却又は加熱された空気を自動車の車室の各部に送風する空気吹出し口を備える装置が知られている。このような公知のものでは,車室の外から吸入された空気を,ブロワによって圧縮して分配器に送りこみ,必要に応じて加熱した後,適宜の制御用フラップ弁により調節して,吹出し口から車室内に送風する。この種の公知の装置では,ブロワの空気吸入口は,一般に,エンジン室を覆うフードの上部で風防窓の下端部に配置された,空気吸入口又は空気取入れ孔に近接した位置に設けられている。分配器は,ブロワの直後に設けられ,装置は,全体としてほぼ水平に配置されている。」(段落【0002】〜【0005】) (ウ) 「【発明が解決しようとする課題】上記公知の装置は,ほぼ水平に配置された構成であるために,計器板の車室側の下方,あるいはエンジン室の中のいずれに設置しても,占有容積が大きくなっている。」(段落【0006】) (エ) 「【作用】従来の水平型と異なり,垂直方向に構成してあるため,自動車の車体内の占有容積は減少し,運転席と計器板との間に設置できる。」(段落【0025】), (オ) 「【発明の効果】(a) 従来の水平型の装置と異なって,垂直型に構成してあるため,計器板の下方に設置することができ,車室内の占有容積を小さくしうる。(b) エンジン室側には,まつたくはみださないので,自動車の車体を改造する必要がない。(c) 自動車の中心線上に設置可能な,左右対称形に構成されているので,自動車が右ハンドル式でも左ハンドル式でも,変更なしに設置することができる。(d) 外気吸入管を横幅方向に扁平な断面形に形成してあるので,分離隔壁と装置の空気分配器との間に設置したときに,占有容積が増加せず,かつ,必要な量の外気を取り入れることができる。(e) 装置の奥行寸法が小さく,運転席の直前の計器板の下方に設置してあるので,保守や修理作業が容易である。」(段落【0050】〜【0054】) これらの記載からすると,従来の水平型の装置と異なり,引用発明1は,垂直型に構成してあるため,計器板の下方に空調装置を設置することができ,車室内の占有容積を小さくし得ること,装置の奥行寸法が小さく,運転席の直前の計器板の下方に設置してあるので,保守や修理作業が容易であるという利点を有することが認められる。
イ 引用例3には,空調部品配置図が記載されており,この記載から,ブロワーファン18は,エバポレーター20およびヒーターコア17の側方に配置されていることが認められるから,審決が認定するとおり「車室内に,ブロワーファン18と,その空気下流側に設けられて自動車の前方にエバポレーター20および自動車の後方にヒーターコア17を前後方向に並べて有するエアコンユニットとを設けた自動車用空調装置において,エアコンユニットは,車室内のインストルメントパネルの中央部に設けられており,ブロワーファン18は,車室内の中央部から車両幅方向にオフセット配置されている自動車用空調装置。」の発明(引用発明3)が記載されている。
引用例3には,ブロワーファン18を,車室内の中央部から車両幅方向にオフセット配置した技術的意味について明記されているわけではない。しかし,この種の空調装置においては,空気流れが,送風機,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器の順となることは,当業者の技術常識であり,通常は,引用発明1のような,これらを一列に配置する態様が検討されるはずである。しかるに,引用発明3において,ブロワーファン18,エバポレーター20,および,ヒーターコア17を一列に配置せず,ブロワーファン18をオフセット配置しているのは,収容スペースとの関係で,エアコンユニットとブロワーファン18とを前後方向に配置できないためであると認められる。
そうすると,引用例3からは,エバポレーター20及びヒーターコア17(エアコンユニット)とブロワーファン18(送風機)とを,直線状に配置する必要はなく,また,エバポレーター20及びヒーターコア17(エアコンユニット)とブロワーファン18(送風機)との配置は,収容スペースとの関係で適宜定め得るという技術常識を読み取ることができる。
ウ 引用発明1においても,自動車用空調装置の各部品の大きさ,搭載する車両の大きさの諸元,計器板の高さ位置等により,上下方向のスペースが不足し,同装置全体を垂直に配置できない場合があることは当然あり得る。その場合,収容スペースが不足する場合の対策を教示する引用発明3に従い,ブロワ(送風機)をオフセット配置することは,当業者が容易に想起できることである。そして,引用発明1は,装置を垂直に配置することで,装置の奥行寸法(車両前後方向の寸法)を小さくできる利点を追求したのであるから,ブロワ(送風機ユニット)をオフセット配置する場合,同じ利点を追求するため,幅方向にオフセット配置して装置の奥行寸法を小さくすることは,当業者が容易に推考し得ることというべきである。
引用発明1は,垂直型の装置であることから左右対称となり,左,右いずれのハンドル車にも対応できるという利点を有しており,ブロワ(送風機)をオフセット配置すればこの利点を失うことになるものの,装置全体を垂直に配置できない場合において,この利点を放棄して,自動車用空調装置の車両前後方向の寸法を小さくすることは,当業者が適宜選択し得る設計事項に過ぎない。
エ 以上のとおりであるから,相違点7に係る構成を推考するのは容易であるといえる。引用発明1及び引用例3から,相違点7に係る構成を推考することが容易ではないとした審決の判断は誤っている。
なお,仮に相違点7に係る構成が,上記配置上の干渉を避けるという効果を奏するとしても,上記で述べたとおり,そのことが引用例1ないし3に開示されていなくても,当該構成は容易に推考できるのである。そして,容易推考性を肯定する場合,引用例が,特許性が問題となっている発明と同一の課題の解決を開示していることが不可欠の要件ではないことはいうまでもない。
3 【相違点2についての判断の誤り】について 次に,上記配置上の干渉を避けるという構成・効果がない前提での,相違点2に係る構成の容易推考性について検討する。
(1) 引用例2には,審決が認定するとおり「車室とエンジンルームとがダッシュパネルにて区画されている自動車に用いられる自動車用空気調和装置であって,エバポレータは,ダッシュパネルに隣接して設けられ,前記エバポレータの冷媒の供給配管と帰還配管が前記エンジンルーム側に配置され,エバポレータに設けられた冷媒入口用ブロックと膨張弁とが一体となって,エバポレータの熱交換媒体の入出用通路を構成し,冷媒入口用ブロックに取り付けた膨張弁が車両搭載状態にて前記ダッシュパネルを貫通して前記エンジンルーム内に突出し,この冷媒入口用ブロックと膨張弁とからなる入出用通路は,エバポレータの側面のうち,ダッシュパネルと対向する面から,エンジンルームの方向へ突出して設けられており,エバポレータの側壁のうち,前記ダッシュパネルと対向する壁には,前記冷媒を前記エバポレータ内に流入させる開口と,前記冷媒を前記エバポレータから流出する開口とが形成され,エバポレータは,複数のチューブ間の空気流通空間に熱交換性能を向上せしめるためのフィンを介在させてなるコア部と,このコア部の一端側に設けられ,前記複数のチューブへの冷媒の分配および前記複数のチューブからの冷媒の集合を行うタンク構成部とを備えるコルゲートフィンタイプにて構成され,前記媒体の入口開口部と出口開口部は,前記タンクを構成する部分に形成されており,前記ダッシュパネルに形成された前記冷媒配管導入孔の穴は,弾性力に富む材質のものにより形成した緩衝材cにてシールされ,前記エバポレータに,冷媒を圧縮し膨張させる膨張弁が配置され,供給配管・帰還配管は,膨張弁の冷媒流入孔と冷媒流出孔とに気密状に接続された自動車用空気調和装置。」の発明(引用発明2)が記載されている(甲第5号証)。
また,引用例2には,「このようにして組み立てられたクーラユニットケース4全体を,車室1内側からダッシュパネルDPに開設した冷媒配管導入孔20に緩衝材cを介して挿入した状態で,エンジンルーム2側から供給配管5と帰還配管6とを膨張弁12に気密状に取付ければ,当該クーラユニットの組立及び車体への組付が完成する。このように本実施例によれば,クーラユニットの組立作業が容易となり,しかも当該ユニットを容易に車体に装着することができる。」(甲第5号証6頁右上欄)と記載されている。
これらの記載からすると,引用発明2は,エバポレータを,ダッシュパネルに隣接して設けたものにおいて,冷媒入口用ブロックと膨張弁とからなる入出用通路を,エバポレータの側面のうち,ダッシュパネルと対向する面から,エンジンルームの方向へ突出させ,これにより,クーラユニットの組立作業を容易とし,しかも当該ユニットを容易に車体に装着することができるようにしたものと認められる。
(2) 引用発明1において,蒸発器28と分離隔壁14との間に外気吸入管が介在するように設けられているとしても,蒸発器28は,分離隔壁14に近接配置されているのであるから,組み立て作業等を容易とするために,引用発明2における配管構造を採用することは当業者ならば容易に試みることといえる。
この点,引用例1には,「外気吸入管(32)は,分離隔壁(14)側の前面壁(72)と,それに平行な後面壁(74)とで仕切られている。前後の壁(72)及び(74)の横幅は,分配器(22)の全幅よりも広く,たとえば約300mmである。」(段落【0043】)と記載されており(甲第4号証),この記載からすると,蒸発器28の前面側には,分配器(22)の全幅よりも広い(したがって,蒸発器28の全幅よりも広い)外気吸入管が位置しているため,引用発明1においては,蒸発器28から分離隔壁14の方向において,引用例2の膨張弁12等を配設することはできないと推測できる。しかし,ブロワ(送風機)を車両幅方向にオフセットすることを当業者が容易に推考できることは2において述べたとおりであり,そうすると,外気吸入管も,中央部からオフセット配置された送風機に伴い,ずれるように配置するのが自然であり,その結果,蒸発器と分離隔壁との間に,自ずと外気吸入管が存在しない空間が形成されることになる。この空間部分において,膨張弁12等を配設することができないとはいえないから,結局,引用発明1において,引用発明2における配管構造を採用することは当業者が容易に推考できると認められる。
なお,被告は,引用発明1に引用発明3を適用しても,相違点2に係る構成にはならないと主張する。しかし,引用発明3から抽出し引用発明1に適用するのは送風機ユニットのオフセット配置という構成であって,冷却用熱交換器と加熱用熱交換器の並べ方ではない。引用発明3が,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接配置することができないものであっても,そのことは,引用発明1に相違点2に係る構成を備えさせることを何ら阻害するものではない。
以上のとおりであるから,相違点2に係る構成は,当業者が容易に推考できることである。引用発明1並びに引用例2及び3によっても,相違点2に係る構成が容易に推考できないとした審決の判断は誤りである。
4 【顕著な作用効果の認定の誤り】について 審決は,「送風機ユニットへの外気の導入に係る部材と冷媒の入出用配管との配置上の干渉を避けることができる」(審決書29頁),とした上で,「本件請求項6に係る発明は,相違点7,2の構成を有することにより,上述の効果を奏するものであって,これら相違点を設計上の事項とすることはできない。」としている(同30頁〜31頁)。前記配置上の干渉を避けるという構成・効果がない前提での,その判断の適否について検討する。
(1) 請求項6に係る発明の効果(@空調装置全体としての上下方向寸法の小型化,A車両用空調装置全体としての車両前後方向寸法の小型化,B配管結合作業性の向上)は,いずれも,引用発明1及び引用発明2の構成並びに引用例1の「【0012】本発明の別の目的は,自動車の車室内における占有容積が小さい上記装置を提供することである。」(甲第4号証)及び引用例2の「[発明の効果]・・・本第1,第2発明にあっては,エバポレータ,クーラユニットケース及び当該ケースの水抜き管,膨張弁の組付けを容易に,かつ精度良く行ない得るという効果を有している。」との各記載(甲第5号証6頁下左欄)から,容易に予測できる。
(2) 被告は,請求項6に係る発明は,各構成要素が全体として有機的に作用しあって初めて「冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設けることが可能となる」という効果を奏するものであり,当該効果は,各構成要素がそれぞれ別々に作用して達成されるものではないと主張する。
まず,自動車用空調装置の冷却用熱交換器の位置と,送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置することとの間に直接の関係はなく,オフセット配置しない構造においても,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して設けることは可能であると認められる。
そして,送風機ユニットを車両幅方向にオフセット配置することが容易に推考できることは前記のとおりであり,その場合,送風機ユニットから冷却用熱交換器への送風ダクトは,冷却用熱交換器における空気流れが最短距離になるようにするのが自然であって,そうすると,前記送風ダクトを,仕切り板に隣接して設ける必要などないから,冷却用熱交換器を仕切り板に隣接して配置し易くなることは,当業者ならば容易に予測できることである。すなわち,原告主張の上記効果は,送風機ユニットのオフセット配置から容易に推測できるものにすぎない(請求項6に係る発明において,外気導入に係る部材の位置が特定されておらず,同発明の構成とりわけ送風機ユニットのオフセット配置の構成が,前記位置を冷却用熱交換器と仕切り板の間以外の場所に変更するものでないことは,2で述べたとおりである。)。
5 以上のとおり,審決が,相違点7及び2に係る構成について,当業者が容易に推考することができないと判断したのは誤りである。審決が認定した,請求項6に係る発明と引用発明との相違点は,これら相違点7及び2に尽きるから,それらについての判断の誤りが,請求項6に係る発明についての審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。
6 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がある。よって,審決のうち請求項6に係る無効審判請求を不成立とした部分の取消を求める原告の請求は理由があるから,これを認容し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久