関連審決 | 無効2003-35087 |
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関連ワード | 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
141号
審決取消請求事件
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原告 株式会社デンソー 訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦 同 加藤大登 同 伊藤高順 被告 カルソニックカンセイ株式会社 訴訟代理人弁理士 中村友之 同 小西恵 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/03/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2003-35087号事件について平成16年3月2日にした審決中「特許第3137189号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「自動車用空調装置」とする特許第3137189号の特許(平成6年9月22日に出願された特願平6-227592号及び平成7年8月29日に出願された特願平7-220903号を先の出願とする特許法41条に基づく優先権主張を伴って,平成7年9月13日に出願された特願平7-235505号の一部を平成10年6月12日に新たな出願とした特願平10-165734号の一部を,新たな出願として平成12年2月17日に出願(優先権主張日平成6年9月22日又は平成7年8月29日),平成12年12月8日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の特許権者である。 被告は,本件特許をすべての請求項について無効とすることの審判を請求し,特許庁は,これを無効2003-35087号事件として審理した。被告は,審理の過程で,平成15年12月19日,特許請求の範囲の訂正を含む訂正を請求した(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成16年3月2日,本件訂正を認めた上で,「特許第3137189号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同月11日,その謄本を原告に送達した。 2 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(別紙1ないし3参照) (1) 請求項1 空気を送風する送風機ユニットの空気下流側に,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器および吹出モード切替部を有するエアコンユニットを設けた自動車用空調装置において, 前記送風機ユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置され, 前記エアコンユニットは,前記車室内インストルメントパネルの中央部に配置されるとともに,前記冷却用熱交換器,前記加熱用熱交換器および前記吹出モード切替部を収納するケースを備え, 前記冷却用熱交換器は,前記ケース内において,前記冷却用熱交換器の下側に空間が形成されるようにして略水平に配置され,前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に略水平方向に導入され,その送風空気を冷却して上方へ導出し, 前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,この冷却用熱交換器からの冷風を加熱し, 前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の空気下流側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,車室内乗員の頭部に吹き出す上方吹出口と車室内乗員の足元に吹き出す下方吹出口との間で切り替え, 前記冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け, 前記冷却用熱交換器は,水平面に対して若干傾斜するようにして配置されており, 前記凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり, 前記冷却用熱交換器は,複数のチューブ間にコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプにて構成されていることを特徴とする自動車用空調装置。 (2) 請求項2 空気を送風する送風機ユニットの空気下流側に,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器および吹出モード切替部を有するエアコンユニットを設けた自動車用空調装置において, 前記送風機ユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置され, 前記エアコンユニットは,前記車室内インストルメントパネルの中央部に配置されるとともに,前記冷却用熱交換器,前記加熱用熱交換器および前記吹出モード切替部を収納するケースを備え, 前記冷却用熱交換器は,前記ケース内において,前記冷却用熱交換器の下側に空間が形成されるようにして略水平に配置され,前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に略水平方向に導入され,この送風空気を冷却して上方へ導出し, 前記加熱用交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置され,この冷却用熱交換器からの冷風を加熱し, 前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の空気下流側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,車室内乗員の頭部に吹き出す上方吹出口と車室内乗員の足元に吹き出す下方吹出口との間で切り替え, 前記冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け, 前記冷却用熱交換器は,水平面に対して若干傾斜するようにして配置されており, 前記凝縮水排出パイプは,前記ケースの最底部に設けられているとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり, 前記冷却用熱交換器は,複数のチューブ間にコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプにて構成されていることを特徴とする自動車用空調装置。 (3) 請求項3 前記冷却用熱交換器は,水平面に対して10°〜30°の微少角度の傾斜をもって斜め配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用空調装置。 (4) 請求項4 前記冷却用熱交換器におけるチューブが,前記送風機ユニットにより送風される空気の送風方向と同一方向に延びるように配置されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の自動車用空調装置。 (以下,請求項1ないし4に係る発明を合わせて「本件発明」ともいう。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件請求項1ないし4に係る発明は,英国特許第1490336号明細書(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1の発明」という。)と,実願昭55-48681号(実開昭56-149819号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2の発明」という。)及び周知技術により,当業者が容易に発明をすることができた,するものである。 4 審決が認定した,刊行物1の発明の内容,請求項1に係る発明との一致点・相違点 (1) 刊行物1の発明の内容(別紙4参照) 「空気を送風するファンの空気下流側に,蒸発器,ヒータおよび排出モードを切り替える部分を有する空気調節手段)(判決注・「)」は誤記と認める。)を設けた車両のための空気調節制御装置において, 前記ファンが,中心取付ケーシングの側方の入口からケーシングに空気を吹き出させるように設けられ, 前記空気調節手段のケーシングは,中心取付されており,蒸発器,ヒータおよび排出モードを切り替える部分を収納しており, 蒸発器は,前記ケーシング内において,前記蒸発器の下側に空間が形成されるようにして約45度の傾きで配置され,前記ファンによる送風空気が前記空間に導入する入口が,ケーシングの略垂直な部分に開口され,この送風空気を冷却して導出し, ヒータは,前記蒸発器の空気流れ下流に45度より立った状態に傾いて配置され,この蒸発器からの冷風を加熱し, 排出モードを切り替える部分は,前記ヒータを迂回しない流においてヒータ空気下流側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,上方レベルの出口と下方レベルの出口との間で切り替え, 蒸発器はフィン付き前記冷却用熱交換器から構成されている車両のための空気調節制御装置」(審決書17頁) (2) 一致点 「空気を送風する送風機ユニットの空気下流側に,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器および吹出モード切替部を有するエアコンユニットを設けた自動車用空調装置において 前記送風機ユニットが配置され, 前記エアコンユニットは,前記車室内インストルメントパネルの中央部に配置されるとともに,前記冷却用熱交換器,前記加熱用熱交換器および前記吹出モード切替部を収納するケースを備え, 前記冷却用熱交換器は,前記ケース内において,前記冷却用熱交換器の下側に空間が形成されるようにして配置され,前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に導入され,この送風空気を冷却して導出し, 前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に配置され,この冷却用熱交換器からの冷風を加熱し, 前記吹出モード切替部は,前記加熱用熱交換器の空気下流側に配置され,この加熱用熱交換器で加熱されて温度調整された空気の吹出を,車室内乗員の頭部に吹き出す上方吹出口と車室内乗員の足元に吹き出す下方吹出口との間で切り替え, 前記冷却用熱交換器は,傾斜して配置されており, 前記冷却用熱交換器は,フィンタイプにて構成されている 自動車用空調装置」(同19頁) (3) 相違点 「相違点1 本件請求項1に係る発明の送風機ユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置されるのに対して,刊行物1の発明は,ファンの位置について直接の記載はなく,中央取付されるケーシングの側方にファンからケーシングに空気を吹き出させる入口を有するものである点 相違点2 本件請求項1に係る発明の冷却用熱交換器は,略水平に配置され,前記送風機ユニットによる送風空気が冷却用熱交換器の下側の空間に略水平方向に導入され,この送風空気を上方へ導出し,加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置されるのに対して,刊行物1の発明の蒸発器は,約45度傾いて配置され,蒸発器の下側の空間に空間があり,入口はケーシングの垂直な部分にファンからの空気が導入される入口があり,この空気は蒸発器へ導出するが,導入・導出の方向は明らかではなく,ヒータは蒸発器の下流に傾いて配置される点 相違点3 本件請求項1に係る発明は,冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け,前記冷却用熱交換器は,水平面に対して若干傾斜するようにして配置されており,前記凝縮水排出用パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあるのに対して,刊行物1の発明の蒸発器は,45度傾斜するものの凝縮水およびその排出に係る格別の構成が記載されていない点 相違点4 本件請求項1に係る発明の冷却用熱交換器は,複数のチューブ間にコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプにて構成されているのに対して,刊行物1の発明では,フィンタイプではあるもののコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプの開示はない点」(同19頁〜20頁) 5 請求項2に係る発明と刊行物1の発明との一致点・相違点 (1) 一致点 請求項1に係る発明と刊行物1の発明とのそれと同じ。 (2) 相違点は,上記相違点1,2及び4に加え, 「相違点5 本件請求項1に係る発明は,冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け,前記冷却用熱交換器は,水平面に対して若干傾斜するようにして配置されており,前記凝縮水排出パイプは,前記ケースの最底部に設けられているとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあの(判決注・「ある」の誤記と認める。)に対して,刊行物1の発明の蒸発器は,45度傾斜するものであり,凝縮水およびその排出に係る格別の構成が記載されていない点」(審決書23頁) 6 請求項3に係る発明と刊行物1の発明との一致点・相違点 (1) 一致点は,請求項1に係る発明と刊行物1の発明とのそれと同じ。 (2) 相違点は,上記相違点1,2,4及び5に加え, 「相違点6 本件請求項3に係る発明の冷却用熱交換器は,水平面に対して10°〜30°の微少角度の傾斜をもって斜め配置されるのに対して,刊行物1の発明では約45度傾いて配置される点」(審決書24頁) 7 請求項4に係る発明と刊行物1の発明との一致点・相違点 (1) 一致点は,請求項1に係る発明と刊行物1の発明とのそれと同じ。 (2) 相違点は,上記相違点1,2及び5に加え, 「相違点7 本件請求項4に係る発明の冷却用熱交換器は,複数のチューブ間にコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプにて構成され,冷却用熱交換器におけるチューブが,送風機ユニットにより送風される空気の送風方向と同一方向に延びるように配置されているのに対して,刊行物1の発明では,フィンタイプではあるもののコルゲートフィンを介在させてなるコルゲートフィンタイプの開示はなく,送風の方向と,チューブの方向との関係は示されていない点」(審決書24頁〜25頁) |
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原告の主張
1 請求項1ないし4に係る発明についての共通の取消事由 【刊行物1の発明の認定の誤り・一致点認定の誤り】(取消事由1) (1) 審決は,刊行物1の発明における蒸発器の配置について,「蒸発器は,前記ケーシング内において,前記蒸発器の下側に空間が形成されるようにして約45度の傾きで配置され」(審決書17頁)と認定している。しかし,これは誤りである。 刊行物1の図2(別紙4参照)には,蒸発器が約45度傾くように配置されることが記載されており,この記載によれば,入口3aからの送風空気の流れに,車両の下から上に向かう成分があることは確かである。しかし,蒸発器の下流側に凝縮水トラップ5が存在すること,ヒータ4が,ほぼ立った状態で配置されていることからすると,むしろ,ユニット全体としては,送風空気の流れは,車両前後方向の成分が主となっていると解すべきである。 そうすると,刊行物1の発明において,空間は,蒸発器の下側というよりも,車両前方側(図2において蒸発器の左側)に形成されていると認定するのが妥当である。 (2) また,審決は,本件発明と刊行物1の発明とにおける,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器の配置について,「前記冷却用熱交換器は,前記ケース内において,前記冷却用熱交換器の下側に空間が形成されるようにして配置され」,「前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に配置され」る点で一致すると認定している。 しかし,前記のとおり,刊行物1の発明において,送風空気の流れは,車両上下方向というよりも,むしろ車両前後方向である。従って,空間は,蒸発器の下側というよりも,蒸発器の車両前方側(刊行物1の図2において蒸発器の左側,別紙4参照)に形成されており,ヒータは,蒸発器の上方側というよりも,蒸発器の車両後方側(同図2において蒸発器の右側)に配置されている。 (3) 本件発明は,空気流れを工夫する(冷却用熱交換器の下側空間に送風空気を略水平方向に導入するとともに,冷却後の空気を上方へ導出する)ことで,スペース効率を達成したものである。しかし,刊行物1の発明のレイアウトには,そのような特長はない。 審決の上記一致点の認定は,本件発明と刊行物1の発明とにおける,全体のレイアウト及びそれに起因する空気流れの意義・相違を正確に理解せず,空間における車両上下方向の空気流れ成分があり,蒸発器からヒータへの空気流れに車両上下方向成分があるとの理由だけでなされたものであり,誤っている。 【相違点1の認定の誤り】(取消事由2) 相違点1は,送風機ユニットのオフセット配置の有無のみではなく,送風機ユニットからの送風の態様(冷却用熱交換器の下側空間に対して送風空気を略水平方向に導入するという構成)まで一体的に捉えてなされるべきである。 【相違点1についての判断の誤り】(取消事由3) 審決は,相違点1について,「単に車幅方向にオフセットをいう相違点1は,当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎなものと認められ,格別の事項とは認められない。」(審決書20頁)と判断しているが,これは誤りである。 確かに,刊行物1には,ケーシングの側方に空気入口を設けることが記載されており,この記載からすれば,その入口のある方向にファンを設けることは容易に考えつくかもしれず,それは,送風機ユニットのオフセット配置の構成を容易に考えつくことを示すものではある。 しかし,【相違点1の認定の誤り】において述べたとおり,この配置と冷却用熱交換器の下側空間に対して送風空気を略水平方向に導入するという構成は一体的に捉えられるべきである。そして,刊行物1の発明において,冷却用熱交換器の空気入口側空間への「空気導入方向」は不明である。 請求項1に係る発明における,冷却用熱交換器の下側空間に対して送風空気を略水平方向に導入するという構成は,空調装置全体としての高さ及び前後方向の寸法を小さくするという技術的課題があって初めて推考されるものである。これに対し,刊行物1には,そのような技術的課題について開示も示唆もされていない。 したがって,上記構成を推考することはできない。 【相違点2の認定の誤り】(取消事由4) 【刊行物1の発明の認定・一致点認定の誤り】において述べたとおり,刊行物1の発明の送風空気の流れは,車両上下方向というよりもむしろ車両前後方向となる。したがって,蒸発器(冷却用熱交換器)の下側に空間があるとはいえないから,このことを前提にして空気の導入方向を認定している相違点2は誤っている。 【相違点2についての判断の誤り】(取消事由5) 審決は,刊行物1の発明が,蒸発器の下方の空間に空気を導入して,冷却加熱を行うものであると認定したうえで,相違点2は,周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものと認められるので格別の事項とは認められないと判断しているが,誤りである。 (1) 審決は,蒸発器における空気の導入,導出の方向は明らかでないとしつつも,刊行物1の発明においては,「蒸発器の下側に空間」があると認定し,「送風空気が蒸発器の下側の空間に略水平方向に導入され,この送風空気を上方へ導出」することを前提として,相違点2は,刊行物2の発明及び特開平6-156049号公報(以下「甲5公報」という。)記載の発明(以下「甲5発明」という。)より容易想到と判断している。 しかし,【刊行物1の発明の認定の誤り・一致点認定の誤り】において述べたとおり,刊行物1の発明には,蒸発器(冷却用熱交換器)の下側に空間があるとはいえない。次に,刊行物1の発明では,冷却用熱交換器の空気入口側空間への「空気導入方向」は不明である。さらに,その空気導出方向は,車両前後方向である。 審決は,前提において誤っている。 (2) 刊行物2及び甲5公報には,冷却用熱交換器を略水平方向に配置し,その下方側に送風機を配置する構成が記載されているものの,この構成からすると,刊行物2の発明及び甲5発明においては,冷却用熱交換器の空気入口側空間への「空気導入方向」が,下から上へ向かう方向となるため,全体としてユニットの上下方向の高さが必然的に高くなり,本件発明の狙いとするスペース効率に反するものとなってしまう。 また,(1)で述べたとおり,刊行物1の発明では,(A)冷却用熱交換器の上流側空間(下方空間ではない)へ導入される空気流の「空気導入方向」は不明であり,(B)冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器より導出される空気流の「空気導出方向」は,車両上下方向というよりはむしろ車両前後方向であるのに対し,刊行物2の発明及び甲5発明では,(A)下方空間の「空気導入方向」は上下方向であり,(B)「空気導出方向」も上下方向である。空気導入方向も空気導出方向もそれぞれ全く異なる刊行物1の発明と,刊行物2の発明及び甲5発明とを組み合わせることは困難である。 仮に組み合わせたとしても,冷却用熱交換器の上流側空間から,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器を流れる空気流を直線状にするというレイアウトとなるだけであり,本件発明のように,@送風機ユニットをオフセット配置して,A冷却用熱交換器の下側空間に対する送風空気の略水平方向に導入するとともに,B冷却後の送風空気を上方へ導出させるという構成,即ち,略水平方向に導入した空気流を略垂直方向へ導出させる構成を推考することはできない。 2 請求項1に係る発明についての取消事由 【相違点3の認定の誤り】(請求項1についての取消事由6) 刊行物1には,「冷却された空気は凝縮液トラップ5を通って蒸発器を離れるが」(甲3の2,3頁)と記載されており,また,刊行物1の図2には,蒸発器の下流側に凝縮液トラップを設けることが図示されている。審決の,「刊行物1の発明の蒸発器は,45度傾斜するものの凝縮水およびその排出に係る格別の構成が記載されていない」との認定は,明らかに誤っている。 【相違点3についての判断の誤り】(請求項1についての取消事由7) (1) 審決は,相違点3につき,「刊行物1の発明は,蒸発器を有するものであり,蒸発器が凝縮水を発生しそれを排出することは,その記載の有無に係わらず当然の事項であり,冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け,凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにすることは,刊行物2の発明に基づいて当業者が容易になし得たものと認められる」(審決書22頁)と判断している。しかし,これは誤りである。 (2) 【相違点3の認定の誤り】において述べたとおり,刊行物1の発明において,凝縮水及びその排出の構成は明らかであり,それは,凝縮液トラップが蒸発器の下流側に配置され,蒸発器の下流側にて凝縮水を処理するというものである。 これに対し,刊行物2の発明では,蒸発器の上流側にドレインパイプ13を設け,蒸発器の上流側にて凝縮水の処理をする構成となっている。 刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは,凝縮水の処理において,前者がこれを蒸発器の下流側で行うのに対し,後者は上流側で処理するという,全く相反する構成を採用しており,両者を組み合わせることには阻害要因がある。 仮に,阻害要因を全く無視して,凝縮液トラップが蒸発器の下流側に配置されている刊行物1の発明に,ドリップパンの最底部にドレインパイプを設ける刊行物2の発明を適用しても,せいぜい蒸発器の下流側の最底部にドレインパイプを設ける構成になるだけであり,請求項1に係る発明の「前記凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり,」という構成には到底なり得ない。なお,上記「傾斜前進端」とは,傾斜した冷却用熱交換器のうち空気流れの最も奥の部位を意味する。 3 請求項2に係る発明についての取消事由 【相違点5の認定の誤り】(請求項2についての取消事由6) 【相違点3の認定の誤り】において述べたとおり,刊行物1には,凝縮水に関する構成が明記されている。 【相違点5についての判断の誤り】(請求項2についての取消事由7) 【相違点3についての判断の誤り】において述べたとおり,刊行物1の発明と刊行物2の発明とは,凝縮水の処理形態を異にしており,これらを組み合わせることは,到底無理であり,また,仮に,両者を組み合わせたとしても,相違点5に係る構成にはなり得ない。 したがって,審決の「相違点5は,刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用して,当業者が容易になし得たものであって,格別の事項とは認められない」(審決書24頁)との判断は,誤りである。 |
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被告の主張
1【刊行物1の発明の認定の誤り・一致点認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由1)に対して 請求項1において,空気流れに関連する構成は,「前記送風機ユニットによる送風空気が略水平に導入され,この送風空気を冷却して上方に導出し,」と規定されているだけであり,車両前後方向側の成分が排除されているわけではない。 そうすると,請求項1に係る発明と対比すべき刊行物1の発明の認定に際して,空気流れの車両前後方向側の成分につき考慮する必要がないことは明らかであり,原告の主張は,請求項1に係る発明の要旨に基づかないものである。刊行物1の発明において,空気の流れに車両前後方向側の成分も入っていたとしても,空間が,冷却用熱交換器(蒸発器)の下側に形成され,加熱用熱交換器が冷却用熱交換器の上方側に配置されていると認定することに何ら妨げはない。 2【相違点1の認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由2)に対して 「送風機ユニットをオフセット配置すること」と「送風機ユニットによる送風空気が冷却用熱交換器の下方空間に略水平に導入されること」とは,技術的に何ら関係のないことであり,一体的に捉える必要は全くない。 仮に,一体的なものであるならば,送風機ユニットをオフセット配置すれば送風空気が冷却用熱交換器の下方空間に略水平に導入されることになるはずである。しかし,請求項1に係る発明においては,「前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に略水平方向に導入され,」を必須の構成要件としているのであるから,両者が技術的に関係がなく,一体的に捉える必要が全くないことは明らかである。 なお,審決は,前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に略水平方向に導入されるとの構成を採用することの容易推考性については,相違点2として判断している。 3【相違点1についての判断の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由3)に対して 2で述べたとおり,「送風機ユニットをオフセット配置すること」と「送風機ユニットによる送風空気が冷却用熱交換器の下方空間に略水平に導入されること」とを一体的に捉える必要はないから,それらを一体としたものの容易推考性を検討する必要はない。 4【相違点2の認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由4)に対して 相違点2の認定の誤りは,刊行物1の認定・一致点の認定に誤りがあることを前提としている。そのような誤りがないことは,1において述べたとおりである。 5【相違点2についての判断の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由5)に対して (1) 刊行物1の発明において,冷却用熱交換器からの「空気導出方向」は,上下方向というよりはむしろ車両前後方向となることを前提とする原告の主張は,前提において誤っている。 (2) 原告は,刊行物2の発明及び甲5発明は,いずれも空気が下方より冷却用熱交換器下方空間に導入されるため,ユニットの上下方向の高さが高いものとなり,スペース効率を達成できない,と主張する。 審決は,冷却用熱交換器の下部にある空間に空気を導入し,冷却した空気を加熱用熱交換器で加熱する自動車の空調装置において,冷却用熱交換器を略水平に配置し,この送風空気を上方へ導出し,加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置されることは,周知の配置に係る一型式と認められる,と判断しており,その周知技術を開示するものとして,刊行物2及び甲第5号証を例示しているのである。 原告の主張は,審決の理由を誤解したか曲解したものに過ぎない。 (3) また,原告は,刊行物1の発明と,刊行物2の発明及び甲5発明とは,空気の導入・導出の構成が異なるから,これらを組合わせること自体困難であり,また仮に組み合せたとしても,略水平方向に導入した空気流を上方へ導出させる構成を推考することはできないと主張する。しかし,前記のとおり,審決は,刊行物1の発明と,刊行物2及び甲5公報記載の周知の技術との組合わせが容易であると判断したのである。これらを組み合せることに何ら阻害理由はなく,組み合せれば,上記構成を容易に推考することができる。 6【相違点3の認定の誤り】(請求項1についての取消事由6)に対して (1) 確かに,刊行物1には,「冷却された空気は凝縮液トラップ5を通って蒸発器を離れる」と記載されている。しかし,刊行物1には,凝縮液トラップ5が記載されているだけであり,該トラップにより凝縮液ないし凝縮水がどのように凝集し捕集されるか,さらに,それが,どこをどのように案内されあるいは流れていかなる構成によって排出されるのか等に関する処理については記載されていない。すなわち,「凝縮水およびその排出に係る格別の構成」は記載されていない,といえる。 (2) 原告は,刊行物1の発明では,凝縮液トラップが蒸発器の下流側に配置されているため,蒸発器の下流側にて凝縮水を処理する構成となっていると主張する。しかし,前記のとおり,刊行物1には,凝縮液トラップ5(の断面)のみが記載されているに過ぎず(図2),「蒸発器の下流側にて凝縮水を処理する」旨の具体的な記載はないし,そのような事項が当業者にとって自明であるともいえない。 7【相違点3についての判断の誤り】(請求項1についての取消事由7)に対して (1) 原告は,刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは,凝縮水の処理を蒸発器の下流側で行うか,上流側で行うかで相反しているから,それらの組み合わせには阻害要因があると主張する。しかし,原告のこの主張は,刊行物1に「蒸発器の下流側にて凝縮水を処理する」ことが記載されているとの前提に立つものであり,その前提が成り立たないことは6で述べたとおりである。 (2) 審決は,刊行物1の発明において,蒸発器において発生する凝縮水を排出しなければならないことは,その記載の有無に関わらず当然の事項であるとし,刊行物1の発明における凝縮水を排出する構成として,刊行物2の発明の凝縮水排出に係る種々の構成を組合わせて,相違点3における構成とすることは,当業者が容易になし得たものであり,組合わせの阻害要因はないと,正しく認定判断している。 8【相違点5の認定の誤り】(請求項2についての取消事由6) 6で述べたところと同旨。 9【相違点5についての判断の誤り】(請求項2についての取消事由7) 7で述べたところと同旨。 |
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当裁判所の判断
1【刊行物1の発明の認定の誤り・一致点認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由1)について (1) 刊行物1には, 「図面を参照すると,図示した構造は,たとえば,蒸気圧縮サイクルで動作する冷凍装置の部分を形成する蒸発器2が入っているケーシング1(図1および図2)を備えており,前記冷凍装置は一般に公知の形態のものであり,したがってこれについて詳細な説明または図解は不要である。空気は2台のファン3(図4)からケーシング1の入口3aを通って吹き出し,蒸発器のフィン付き管系に接して流れるにつれて冷却される。冷却された空気は凝縮液トラップ5を通って蒸発器を離れるが,トラップ5の向こうにはヒータ4がケーシング1の内部に設置されている。ヒータは,車両エンジンの冷却水回路のような便宜の手段によって動作するが,この手段は,冷凍装置と同様に,通常の構成のものであり,したがってこれについては詳細な図解または説明を行なわない。」(甲3の2の3頁)と記載されており,図2(別紙4)には,蒸発器を約45度の傾きで配置すること,蒸発器の上流側に空間を形成すること,蒸発器の下流側にヒータ4を45度より立った状態に傾けて配置することが示されている。 上記記載及び各図からは,空間,蒸発器2,ヒータ7は,この順に,概ね斜め上方に向かうように配置されていると認められるから,審決が,刊行物1の発明においては,「蒸発器は,前記ケーシング内において,前記蒸発器の下側に空間が形成されるようにして約45度の傾きで配置され」ていると認定した上で,本件発明と刊行物1の発明とは,「前記冷却用熱交換器は,前記ケース内において,前記冷却用熱交換器の下側に空間が形成されるようにして配置され」,「前記加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に配置され」る点で一致すると認定したことが誤りであるとまではいえない。 (2) 原告は,刊行物1の発明において,送風空気の流れは全体として車両前後方向の成分が主となっており,このことを根拠に,冷却用熱交換器の下側空間や加熱用熱交換器の配置のレイアウトについての,同発明の認定の誤り・一致点認定の誤りを主張している。 しかし,審決は,相違点2において,刊行物1の発明では,蒸発器が約45度傾いて配置されていること,同発明のケーシングの垂直な部分にファンからの空気が導入される入口があり,この空気は蒸発器へ導入されるが,導入・導出の方向は明らかではないことを挙げて,冷却用熱交換機(蒸発器)の物理的配置のみならず,送風空気の導入,導出方向についても相違点として認定し,検討している。 なお,審決は,刊行物1の発明に刊行物2の発明や周知技術を適用して,冷却用熱交換器等の物理的レイアウト等を含めて,その容易推考性を検討しているのであり,刊行物1の発明のレイアウトそのものが,原告が主張する本件発明のスペース効率を持たないとしても,そのことは,一致点の認定及びその前提となる刊行物1の発明の認定の誤りにはつながらない。 以上に照らせば,審決の刊行物1の発明の認定,本件発明との一致点の認定に誤りがあるとはいえない。 2【相違点1の認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由2)について 原告は「送風機ユニットをオフセット配置すること」と「送風機ユニットによる送風空気が冷却用熱交換器の下側空間に略水平方向に導入されること」とを一体的に捉えるべきであると主張する。 しかし,上記の各構成の間には,送風空気が冷却用熱交換器の下側空間に略水平方向に導入されるようにするためには,送風機ユニットをオフセット配置する必要があるとか,また,逆に,後者を実現するためには,前者の構成を採用せざるを得ないというような関係があるとは認められないし,本件発明の構成要件上も,例えば,送風機ユニットと冷却用熱交換器の下方空間との接続(送風管の取り回し等)の態様が特定されているなどの特段の事情も存在しないのであって,本件において,上記の各構成が装置の構成として一体不可分のものであると把握すべき根拠はなく,両者を一体的に把握する必要はない。 なお,原告の主張が,上記の各構成が相まって,本件発明が目的とする,自動車用空調装置の(自動車前後方向及び幅方向における)小型化がより追求できるという趣旨であるとしても,そのことは,両者の容易推考性を個別に検討することの妨げとなるものではなく,両者を一体的に把握すべき根拠とはなり得ない。 したがって,送風機ユニットのオフセット構成と上記空気の導入の構成を一体的に捉えるべきであるとの原告の主張は理由がない。 3【相違点1についての判断の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由3)について 前記のとおり,「前記送風機ユニットは,車室内インストルメントパネルの中央部から車両幅方向にオフセット配置され」,「前記送風機ユニットによる送風空気が前記空間に略水平方向に導入され」との両構成を一体的に判断する必要はないから,後者の容易推考性がないことを理由に,相違点1についての判断の誤りをいう原告の主張は,前提において失当である。 4【相違点2の認定の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由4)について 刊行物1の発明において,冷却用熱交換器の下側に空間があるといえることは前記のとおりである。その下側空間に導入された空気の流れが車両前後方向の成分を含む点で,請求項1に係る発明のそれと異なるとしても,それは,45度に傾いて配置された冷却用熱交換器を略水平に配置することにより解消されるものであり,そのことは,まさにこの相違点2において摘示され,その容易推考性が検討されるものである。 審決のなした相違点2の認定に,何ら誤りはない。 5【相違点2についての判断の誤り】(請求項1ないし4についての取消事由5)について (1) 原告は,刊行物1の発明において,@冷却用熱交換器の下側に空間はなく,A冷却用熱交換器の上流側空間(下方空間ではない)へ導入される空気流の「空気導入方向」は不明であり,また,B冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器より導出される空気流の「空気導出方向」は,車両前後方向であるにもかかわらず,審決は,刊行物1の発明が,「蒸発器の下側に空間」を有し,「送風空気が蒸発器の下側の空間に略水平方向に導入され,この送風空気を上方へ導出」するものであることを前提として,相違点2の容易想到性を判断しており,審決の判断は,前提において誤ったものであると主張する。 @の点について,冷却用熱交換器の下側に空間があるといえることは,1で述べたとおりである。Aの点について,確かに,刊行物1には,冷却用熱交換器の上流側空間への空気導入方向は明記されていない。しかし,刊行物1には,ケーシング1の二つの入口3aが,ケーシング1を形成している幅方向の垂直壁に開口していることが示されており(甲3の1の図2・別紙4参照),この図示内容からすると,空気導入方向は,該入口3aから上流側空間に向かう略水平方向(図2における紙面裏から表に向かう方向)と解することができる。 Bの点について,審決は,相違点2として,刊行物1の発明における蒸発器からの空気の導出の方向は明らかではない点を認定し,「冷却用熱交換器の下部にある空間に空気を導入し,冷却した空気を加熱用熱交換器で加熱する自動車の空調装置において,冷却用熱交換器を略水平に配置し,この送風空気を上方へ導出し,加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置されることは,・・・周知の配置に係る一型式と認められる」(審決書20頁〜21頁)とした上で,「相違点2は,周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものと認められるので,格別の事項とは認められない。」(同21頁)と判断している。すなわち,審決は,刊行物1の発明において,冷却用熱交換器を略水平に配置し,この送風空気を上方へ導出し,加熱用熱交換器は,前記冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置するという周知の構成を採用することが容易に推考できると判断しているのであって,刊行物1の発明が,送風空気を冷却用熱交換器から上方へ導出するものであることを前提にしているものでないことは明らかである。 したがって,審決が,刊行物1の発明を「蒸発器の下側に空間」を有するものであり,「送風空気が蒸発器の下側の空間に略水平方向に導入」するものであると認定したことに誤りはなく,その誤りをいう原告の主張は失当である。また,審決が,刊行物1の発明を「送風空気を上方へ導出」すると認定したことを前提とする原告の主張は,そのような前提はなく理由がない。 (2) 原告は,刊行物2の発明及び甲5発明では,@下方空間の「空気導入方向」が上下方向であり,「空気導出方向」も上下方向であって,「空気導入方向」も「空気導出方向」もそれぞれ全く異なる刊行物1の発明と刊行物2の発明及び甲5発明とを組み合わせることは困難であり,仮に組み合わせたとしても,冷却用熱交換器の上流側空間から,冷却用熱交換器,加熱用熱交換器を流れる空気流を直線状にするというレイアウトとなるだけである,と主張する。 刊行物1の発明においても,周知技術(刊行物2の発明及び甲5発明)においても,送風機により空気が圧送されて移動するのであり,空気流れの方向の違いが,刊行物1の発明において,上記周知技術のような冷却用熱交換器,加熱用熱交換器の配置を採用することを阻害する要因になるとは認められない。また,刊行物2の発明及び甲5発明における冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器を略水平にして,上下方向に重ねて配置する構成だけを周知技術として,刊行物1の発明に適用するのであるから,原告の主張するようなレイアウトになるわけではない。そのようなレイアウトにしないと,刊行物1の発明が動作しなくなるとは認められない。 また,甲5発明では,空調装置全体を垂直配置にすると,車室内の占有容積が少なく,エンジン室にはみ出すこともないため有利であることが開示されている(甲第5号証の【構成】,【0016】〜【0025】の項参照)。その開示からは,冷却用熱交換器及び加熱用交換器の配置(吹出モード切替部)のみの構成を採用しても,上記のような利点を部分的にしろ発揮し得るものと認められるから,当業者が上記構成を抽出して刊行物1の発明に適用することは容易に推考できる。 (3) そして,上記構成を適用すれば,刊行物1の発明は,@冷却用熱交換器を略水平に配置し,その下側に空間を設け,加熱用熱交換器を冷却用熱交換器の上方側に略水平に配置するという構成(レイアウト),A冷却用熱交換器の下側空間に送風空気を略水平方向に導入すると共に,冷却後の送風空気を上方へ導出させるという構成(すなわち,略水平方向に導入した空気流を略垂直方向へ導出させる構成)を備えることは明らかである。 したがって,相違点2は,周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものと認められる。 6【相違点3の認定の誤り】(請求項1についての取消事由6)について 原告は,刊行物1には,「冷却された空気は凝縮液トラップ5を通って蒸発器を離れるが」(甲3の2,3頁5〜6行)と記載され,また,その図2には,蒸発器の下流側に凝縮液トラップを設けることが図示されているから,審決が,「刊行物1の発明の蒸発器は,45度傾斜するものの凝縮水およびその排出に係る格別の構成が記載されていない」と認定したのは誤りである,と主張する。 刊行物1には,上記原告が指摘するとおりの記載が認められるから,刊行物1に,凝縮水及びその排出に係る格別の構成が記載されていないとする審決の認定は誤りである。しかし,審決は,「刊行物1の発明は,蒸発器を有するものであり,蒸発器が凝縮水を発生しそれを排出することは,その記載の有無に係わらず当然の事項であり」と説示し,刊行物1の発明が,凝縮水排出手段を備えていることを前提に相違点3について判断している。 そして,後記7のとおり,刊行物1の発明が上記のような凝縮水の捕集・排出手段を設けていることは,同発明において相違点3に係る構成を備えることの容易推考性を否定するものではないのであるから,結局,上記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。 7【相違点3についての判断の誤り】(請求項1についての取消事由7)について (1) 原告は,刊行物1の発明では,凝縮液トラップが蒸発器の下流側に配置され,蒸発器の下流側にて凝縮水を処理する構成となっているのに対し,刊行物2の発明では,蒸発器の上流側にドレインパイプ13を設け,蒸発器の上流側にて凝縮水の処理をする構成となっており,刊行物1の発明と刊行物2の発明とは,凝縮水の処理において全く相反する構成を採用しているから,両者を組み合わせることには阻害要因があると主張する。 しかし,刊行物1には,蒸発器の構造についても,蒸発器に設けた凝縮液トラップ5の構造についても具体的な説明はなされておらず,「前記冷凍装置は一般に公知の形態のもの」(甲3の2,3頁)と記載されているだけであり,刊行物1の発明は,特定の蒸発器及び凝縮液トラップ5を採用しなけれはならないとは認められない。すなわち,刊行物1の発明においては,蒸発器及びその排出の構成には特段制限はなく,当該技術分野において,周知の構造のものが採用できると認められる。 刊行物2には,「エバポレータ3より滴下する凝縮水はそのほとんどがドレーンパイプ13を介して外部に放出される。」(甲4,4頁)と記載されており,この記載及び第1図ないし第3図(別紙5参照)からすると,凝縮水は蒸発器から自然に落下してドレーンパイプ13から放出されることが明らかである。すなわち,刊行物2には,審決が認定するとおり,冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側におけるケースの最底部に,冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け,凝縮水を凝縮水排出パイプから抜き出すようにする」凝縮水の排出構造が記載されており,蒸発器の空気上流側におけるケース最底部にドレインパイプ13を設け,蒸発器の上流側にて凝縮水の処理をする構成は周知であるといえる。 刊行物1の発明において,周知の凝縮水排出構造が採用できることは上述のとおりである。しかも,5において述べたとおり,刊行物1の発明において,冷却用熱交換器を,略水平(すなわち,若干傾斜させたものを含まれる。)に配置することは,周知の冷却用熱交換器の配置に基づいて,当業者が容易に想到できることであり,刊行物2の発明は,まさしく,この周知の冷却用熱交換器の配置の一例であるから,刊行物1の発明において,この周知の配置において採用されている,凝縮水排出構造を採用することも,当業者が容易に推考できる,何ら困難のないことというべきである。 そうすると,刊行物1の発明において,凝縮液トラップ5を用いることなく,刊行物2の発明のような凝縮水を自由落下させる公知の凝縮水排出構造によって,凝縮水を放出させるようにすることは,当業者ならば容易に推考できることである。 (2) 原告は,凝縮液トラップが蒸発器の下流側に配置されている刊行物1の発明に,ドリップパンの最底部にドレインパイプを設ける刊行物2の発明を適用しても,せいぜい蒸発器の下流側の最底部にドレインパイプを設ける構成になるだけであり,請求項1に係る発明の「前記凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり,」という構成にはなり得ないと主張する。 しかし,刊行物1の発明において,凝縮液トラップ5を用いることなく,刊行物2の発明のような凝縮水を自由落下させる公知の凝縮水排出構造によって,凝縮水を放出させるようにする構成をとれば,蒸発器の下流側の最底部にドレインパイプを設ける構成にならないことは当然である。 (3) ところで,請求項1に係る発明の「傾斜前進端」の意味については,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,「前記冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側における前記ケースに,前記冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け」,「前記凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり」と規定されているだけであり,この規定からは,凝縮水の排出パイプの位置が特定されるだけで,傾斜前進端の意味は必ずしも明瞭ではなく,凝縮水の処理がどこで,どのように行われ,また,凝縮水がどのようにして排出パイプに導かれるかは何ら特定されていない。 本件明細書の発明の詳細な説明には,「エバポレータ21をその下方へ送風されてくる送風空気の送風方向の前方側へ向かって下方に傾斜しており,またエバポレータ21のチューブ21fも前記送風方向(図2,5の左右方向)に配列してあるので,このチューブ21fの表面上を凝縮水が送風空気に押圧されてスムーズにエバポレータ21の傾斜前進端(図2,5の右側端)に集まり,落下する。」(甲6,段落【0036】)と記載されており,また,図15(b)に凝縮水が滴下することが図示されていること(甲2)からすると,請求項1に係る発明は,凝縮水を自由落下により放出することを前提とするものであることは明らかである(別紙3参照)。 請求項1の特許請求の範囲の記載において,「傾斜前進端」がどの位置をいうのか明らかであるとはいえないものの,請求項1に係る発明においては,冷却用熱交換器が傾斜配置され,凝縮水を自由落下により「傾斜前進端」から滴下するのであるから,常識的にみて,「傾斜前進端」とは,冷却用熱交換器の下側表面のうち,車両上下方向でみて最も低い部分(なお,冷却用熱交換器の傾斜のさせ方によっては一点には定まらないから,その意味でも「凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられる」なる記載は不明瞭である。)を指すものと解される。 原告は,空気流れの最も奥の部位を意味すると主張するが,採用できない。なぜなら,特許請求の範囲の記載においてそのように読めないだけでなく,本件明細書には,「・・・凝縮水がチューブ21fの表面上を送風空気に押圧されて,スムーズに傾斜前進端(図2,5の右側端部)へ移行する・・・」(甲6,【0027】)と記載されているものの,送風空気は,空間に略水平に導入された後は,エバポレータ21を上方に向けて通過するのであるから,すべての凝縮水が送風空気に押圧されて傾斜前進端(図2,5の右側端部)に集まるとは必ずしも認められないし,本件明細書の前記図15(b)にも,傾斜前進端以外の箇所から滴下することが図示されており(別紙3参照),空気の流れの奥側に集まるようには理解されていないからである。したがって,請求項1に係る発明において,冷却用熱交換器により凝縮した凝縮水は,空気の流れとは必ずしも関係なく,傾斜配置された熱交換器を伝って下方に流下し,多くは,冷却用熱交換器において,最も低い部分である「傾斜前進端」から落下するものと解するのが妥当である。 そうすると,請求項1に係る発明において,「前記凝縮水排出パイプは,前記冷却用熱交換器の傾斜前進端の下方部位に設けられるとともに,前記凝縮水を前記凝縮水排出パイプから抜き出すようにしてあり,」との構成を採用する技術的意義は,凝縮水が多く落下する部分に排出パイプを設けることにあるということができる。 (4) 刊行物1の発明において,凝縮水を自由落下させる公知の凝縮水排出構造を採用すること,冷却用熱交換器を略水平に配置(傾斜配置)させることが容易に推考できることは,前記のとおりである。そして,凝縮水を自由落下させる場合,凝縮水が傾斜配置した冷却用熱交換器(蒸発器)を伝って最も低い部分へと流下し,この部分から多く滴下することは,当業者が容易に理解できることであるから,その下方部に排出口を設けることは,当業者が容易に推考できることにすぎない(なお,冷却用熱交換器(蒸発器)の周知の配置の一例を示す甲5公報には,冷却用熱交換器(蒸発器)の下側表面のうち,上下方向でみて最も低い部分から凝縮水を排出することが記載されている(甲5,段落【0041】,図1)(別紙6参照)。甲5公報には,凝縮水を自由落下させることについて明記はされていないが,少なくとも,冷却用熱交換器(蒸発器)を傾斜配置し,冷却用熱交換器(蒸発器)の下側表面のうち,上下方向でみて最も低い部分に凝縮水を集めてから排出することが開示されている。) (5) 以上のとおり,冷却用熱交換器の下側表面よりも下方の空気上流側におけるケースに,冷却用熱交換器で発生した凝縮水を排出する凝縮水排出パイプを設け,凝縮水を凝縮水排出パイプから抜き出すようにすることは,当業者が容易に想到できるから,相違点3は,刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用して,当業者が容易になし得たものであって,格別の事項とは認められない,とした審決の判断に誤りはない。 8 【相違点5の認定の誤り】(請求項2についての取消事由6)について 6において述べたとおりである。相違点5の認定に誤りはあるものの,その誤りは審決の結論に影響しない。 9 【相違点5についての判断の誤り】(請求項2についての取消事由7)について 7において述べたとおりである。 10 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,審決にこれを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |