関連審決 | 訂正2005-39108 異議2002-73007 |
---|
関連ワード | 製造方法 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 明細書の記載要件 / 援用権(援用) / 技術的意義 / 実施 / 加工 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
18年
(行ケ)
10035号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 東洋紡績株式会社 訴訟代理人弁理士 鈴木崇生 同尾崎雄三 同梶崎弘一 同光吉利之 同今木隆雄 同福井賢一 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 松井佳章 同野村康秀 同 唐木 以知良 同小林和男 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が訂正2005-39108号事件について平成17年12月14日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
原告は,後記特許の特許権者であるところ,特許庁が東レ株式会社からの特許異議の申立てに基づき特許取消決定をしたので,その取消訴訟を提起するとともに,特許庁に対し訂正審判請求をした。しかるに,特許庁が,請求不成立の審決をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。 なお,前記特許取消決定の取消しを求める訴訟は,平成17年(行ケ)第10442号事件として当庁に係属中であり,本件訴訟と並行して審理が進められている。 |
|
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,名称を「自動車安全装置用織物の製造方法」とする発明につき,平成5年2月4日に特許出願をし,平成14年4月5日に特許第3293216号として設定登録を受けた(請求項の数は1。甲22〔特許公報〕。以下「本件特許」という。)。 その後本件特許に対し,東レ株式会社から特許異議の申立てがなされ,同事件は異議2002-73007号事件として特許庁で審理された。そして同庁は,平成17年3月11日,「特許第3293216号の請求項1に係る特許を取り消す。」旨の決定をしたので,原告は,同決定の取消しを求める訴えを当庁に提起した(平成17年(行ケ)第10442号)。 同訴訟係属中の平成17年6月22日,原告は本件特許につき訂正審判請求(甲23。以下「本件訂正審判請求」という。)を行い,同請求は訂正2005-39108号事件として特許庁に係属した。特許庁は,同事件について審理した上,平成17年12月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成17年12月27日原告に送達された。 (2) 本件訂正審判請求の内容原告のなした本件訂正審判請求(甲23)の詳細は,別添審決写し2頁の訂正事項aないしdのとおりである。 これを要するに,特許請求の範囲の請求項1の「合成繊維」を「ナイロン66」に,「0.06重量%以上」を「0.06重量%以上5重量%以下」に各改め,発明の詳細な説明の【0005】も同様に変更しようとするものである。 なお,本件訂正前の請求項1と訂正後の請求項1の内容は,下記のとおりである。 記ア 訂正前の請求項1「450デニール以下の合成繊維マルチフィラメントから構成され,カバーファクターが1700以上の織物に水系の油剤(シリコン樹脂を水に乳化したものを除く)を付与し,前記織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上となるようにすることを特徴とする自動車安全装置用織物の製造方法。」(以下「訂正前発明」という。)イ 訂正後の請求項1「450デニール以下のナイロン66マルチフィラメントから構成され,カバーファクターが1700以上の織物に水系の油剤(シリコン樹脂を水に乳化したものを除く)を付与し,前記織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上5重量%以下となるようにすることを特徴とする自動車安全装置用織物の製造方法。」(下線は訂正部分。以下「訂正発明」という。)(3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,訂正事項aないしdはいずれも減縮等を内容とするものであるが,明細書全体の記載をみても,訂正後の発明である「織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上5重量%以下」の範囲が結局は不明であり,特許法36条5項及び6項に規定する要件を満たしていないから,独立特許要件を欠く等としたものである。 (4) 審決の取消事由しかしながら,本件訂正発明に係る特許出願は,以下に述べるように,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから,審決の判断は誤りであり,審決は違法として取消しを免れない。 ア 「油剤量」の意味についての判断の誤り(取消事由1)審決が,「油剤量」がいかなる材料の量を意味するのかが不明確であると判断したことは,以下のとおり誤りである。 (ア) 本件訂正請求に係る明細書(甲24。以下「訂正明細書」という。)の以下の記載によれば,本件訂正発明にいう「油剤量」は,油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量として規定されていることは明らかである。 「実施例1 ………。得られた織物の油剤量は有機溶剤a 段落【0022】には,と記載されており,これによ抽出法で測定し結果,0.08重量%であった。」れば,本件訂正発明において,「油剤量」は,有機溶剤で抽出され,計量される量であることが明確に記載されている。 「これより,油剤量が0.06重量%以上にすることが必要b 段落【0025】には,との記載があり,実施例1記載の測定方法により測なことがわかる。」定された油剤量0.06重量%という値が本件訂正発明の油剤量の下限として規定されている。 「実施例3 油剤の種類を下記のものに変更した以外は実c 段落【0026】にはと記載され,当該施例1と同様にして織物を得た。織物の特性を表3に示す。」【表3】には4種類の油剤が表示されているのであり,同一の測定方法で測定したと解すべき油剤量が記載されている。 (イ)「油剤量」が,油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量を意味することは,技術常識である。 a 下記の各文献には,それぞれ下記のとおりの記載がある。 記(a) 日本工業規格「化学繊維タイヤコード試験方法 JIS L1017‐1963」(甲1。以下「甲1規格」という。)溶剤抽出分(油剤量に相当する)の測定方法として,「5.14 溶剤抽出分」(7頁下6行〜9頁13行)の項目において,「5.14.1 アルコール・ベンゾール抽出分(レーヨンおよびビニロンの場合)」,「5.14.2 エーテル抽出分(ナイロンの場合)」,「5.14.3四塩化炭素抽出分(ナイロンの場合)」「5.14.4 メチルアルコール抽出分(ポリエステル繊維の場合)」の4種類の測定方法が記載されている。いずれの測定方法においても,有機溶剤抽出液の有機溶剤を揮発させて残ったものの重量を測定して百分率で表すことが記載されている。計量対象の成分などについては,何の記載もない。 (b) 日本工業規格「一般織物試験方法 JIS L1096‐1990」(甲2。以下「甲2規格」という。)「6.36 溶剤抽出分」(46頁14行〜47頁15行)の項目において,「6.36.1A法(アルコール・ベンゼン抽出法)」,「6.36.2 B法(四塩化炭素抽出法),「6.36.3 C法(メチルアルコール抽出法)」の3種類の油剤量の測定方法が記載されている。いずれの測定方法においても,有機溶剤抽出液の有機溶剤を揮発させて残ったものの重量を測定して百分率で表すことが記載されている。甲1規格と同様に計量対象の成分などについては,何の記載もない。 (c) 昭和50年3月10日発行・日本繊維機械学会繊維特性評価研究委員会編「繊維計測便覧」〔日本繊維機械学会発行〕(甲3。以下「甲3便覧」という。)T「人造繊維の糸は工程上必要な油剤が表面に付着していることが多い。繊維が布の段階になると,糊,油剤,樹脂加工剤などが付着している場合が多い。そのうち油剤は動植物からの油脂,ロウ(ワックス),またはそれらの成分,鉱油,および界面活性剤などから構成されている。………したがって繊維表面付着物を便宜上,ロウおよび油剤成分の油脂分と加工用樹脂の樹脂分とにわけて考える。油脂分は溶剤に溶解しやすいが,樹脂分は溶解しにくいものが多い。」(138頁下1行〜139頁6行)U「油脂分は適当な溶剤により繊維から溶出,分離され,その重量から付着量が決定される。溶剤としては繊維を損傷することなく,目的とする油脂分のみ溶出させ,しかも溶出物と溶剤との分離が容易なものが選ばれる。 ………以上の観点から現在もっとも妥当と考えられる油脂分定量法の一つはJISに定められている一連の方法であり,第3・5-1表に例示した溶剤でソクスレー抽出により油脂分が定量される。」(139頁11〜19行)V 第3・5-1表(139頁)には,自動車安全装置用基布(エアバッグ用基布)として一般的に使用される合成繊維であるナイロンについて,溶剤としてエーテル又は四塩化炭素が,JIS番号としてL1017-1963(甲1規格)が例示されている。 (d) 平成6年3月25日発行・社団法人繊維学会編「第2版繊維便覧」(丸善株式会社発行)(甲19。以下「甲19便覧」という。)T「オイリングの形態には次に示す三つがあり,目的に沿って使い分けている。 エマルション型:油剤を水でエマルション化し,オイリング液とする。………ストレート型:油剤を低粘度パラフィンなどの溶剤に溶解して,オイリング液とする。………ニート型:油剤をそのまま,または加温してオイリング液として使用する。………」(81頁左欄19〜36行)U「油剤の付着量[%]は繊維の重量に対する付着油剤の重量の割合で表される。」(81頁右欄22〜23行)V「油剤は潤滑性を付与する“潤滑剤”と乳化性および集束性,制電性,ぬれ性を付与する“界面活性剤”とから成る。………その他必要に応じて,乳化調整剤および酸化防止剤,防腐剤,消泡剤,防錆剤などを少量添加する。」(81頁右欄下1行〜82頁左欄6行)(e) 特開平2-68363号公報(甲16)T「本発明はナイロン66糸条に関する。」(1頁右欄1行)U「油剤成分にはアルケニルコハク酸,オレイルオレートスルホン酸Na塩,……等が該当するがこの他に高級脂肪酸及びそのNa,K塩でも良い。乳化剤でありながら制電効果を示すものや,制電剤でありながら乳化の働きをするので乳化剤と制電剤の区別がむずかしく乳化剤+制電剤を乳化剤及び制電剤という表現にした。」(3頁左上欄2〜10行)V「油剤付着量とはナイロン66マルチフィラメント2.06gをジクロルメタン3ccにて4回の量で東海計器株式会社製の迅速残脂抽出装置で(加熱部110℃)抽出し次の計算式で求めた値をいう。 (残脂量g/2g)×100〔%〕」(3頁左下欄3〜7行)W 実施例において「配合油剤」として5〜8種の成分を含む油剤が記載されている(3頁右下欄〜4頁左下欄)。 (f) 特開平2-84552号公報(甲17),特開平4-146270号公報(甲18)上記(e)と同じ出願人による特許出願の公開公報であり,上記(e)のT,Vと同じ記載がある。 b 上記aの(a)(b)(c)の各記載によれば,油剤の成分,組成にかかわらず有機溶剤で抽出され,計量される量が「油剤量」であることは技術常識であることが示されている。 上記aの(d)の記載においては,油剤の付着量の定義と油剤の組成が記載されており,油剤の構成成分として潤滑剤,界面活性剤に加えて酸化防止剤,防錆剤なども記載されており,これらを含む組成物を「油剤」と呼び,その付着量を「油剤の付着量」とすることが技術常識であることが示されている。 上記aの(e)(f)の各記載においても,油剤は多種の成分から構成されており,上記aの(d)Vによれば酸化防止剤などの添加剤が含まれているが,その組成にかかわらず有機溶剤で抽出され,計量される量が「残脂量」であり,この値から計算で「油剤量」を求めることが公知であることが示されている。この点は上記aの(c)(甲3便覧)の記載と同じであり,訂正明細書(甲24)記載の測定方法もこれと同じである。 (ウ) したがって,審決が,計量の対象が不明であるから「油剤量」の意味が不明確であると判断したことは,訂正明細書の記載の認定,判断を誤り,技術常識の認定,判断を誤ったものであって失当である。 イ 油剤量の測定方法が不明とした判断の誤り(取消事由2)審決は,「織物上の油剤量」の測定方法が不明であると判断したが,本件訂正発明における油剤量の測定方法が,JIS L1017-1963(甲1規格)の「5.14.2 エーテル抽出分」に規定された方法であることは当業者にとって一義的に明らかであり,審決の判断は誤りである。 (ア) 訂正明細書(甲24)の上記記載(ア(ア)のa〜c)によれば,油剤量の測定方法が有機溶剤抽出法であることが明確にされている。 (イ) 甲1規格,甲2規格,甲3便覧の上記各記載(ア(イ)aの(a)〜(c))によれば,油剤の付着量が,有機溶剤にてソックスレー抽出器により抽出して重量測定法により測定した値であることは,当業者の技術常識である。 本件訂正発明において繊維の種類はナイロンであるから,甲3便覧の記載(ア(イ)a(c)V)に従って,JIS L1017-1963(甲1規格)に示された方法により測定することになる。抽出のために使用する有機溶剤の種類について,甲3便覧では「エーテルまたは四塩化炭素」が挙げられているが,甲3便覧の発行の後に,四塩化炭素は,毒性等の問題から,モントリオール議定書によって原則として使用が禁止され,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下「化審法」という。)による規制対象ともなったことに照らし,本件出願当時(平成5年2月4日)の技術常識としては,エーテルを選択すべきことが明らかである。 (ウ) 昭和43年11月30日発行・繊維学会編「繊維便覧 原料編」(甲12。以下「甲12便覧」という。)には,下記の記載がある。 記「2.2.7 繊維油剤(仕上剤)繊維に対して整経,紡績,製編,染色その他の工程を円滑に行ないうるような性質を与えるために付与するものである。従って柔軟性,平滑性,適当なる摩擦性,帯電防止性など,幾多の要求が目的別に存在し,おのおの目的に適合した仕上剤が使用されている。………いずれも処方を明らかにされない場合が多いので,つぎのような項目について試験し間接的にその性質をチェックしている。 JIS K 3361によれば,………,付着量〔判決注:「付着料」は誤記〕,油焼け度などについて試験方法が規定されている。」(411頁1行〜12行)甲12便覧の上記記載によれば,繊維の油剤付着量はその特性に重要な影響があること,並びに付着量の測定方法はJISに規定されることが,古くから当業者に一般的に知られていたことが示されている。 そして,甲12便覧に引用されている日本工業規格「化学繊維用高級アルコール系仕上剤試験方法 JIS K 3361-1979」(甲21。以下「甲21規格」という。)には,甲1規格と使用する有機溶剤は異なるものの,同様の測定方法が記載されている。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認める。同(4)は争う。 3 被告の反論原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。 (1) 取消事由1に対しア 訂正明細書には「油剤量」の定義はなされていない。また,油剤を構成する成分には,甲1規格,甲2規格及び甲3便覧に記載された有機溶剤に溶解しないものがあるから,ナイロン繊維に付着した油剤の量と有機溶剤で抽出された「有機溶剤抽出量」とは必ずしも一致しない。したがって,繊維に付着した油剤量と有機溶剤抽出量とが等しいとする根拠はない。 イ 甲1規格,甲2規格においては「溶剤抽出分」と,甲3便覧においては「油脂分」と,それぞれ記載されており,これらが「油剤量」であるとはされていない。そして,甲1規格,甲2規格,甲3便覧,甲19便覧の記載を検討しても,本件訂正発明にいう「油剤量」の意義が明確であるとはいえない。 (2) 取消事由2に対しア 本件訂正発明は「自動車安全装置用織物の製造方法」に係るものであるから,「油剤量」の測定方法として,「化学繊維タイヤコード試験方法」に係る甲1規格に記載された方法を適用することが技術常識であるとはいえない。また,ソックスレー抽出器の使用も,技術常識とはいえない。 イ 甲1規格に記載された有機溶剤抽出法により測定することが技術常識であるとしても,甲1規格にはナイロン繊維に使用する有機溶剤として四塩化炭素とエチルエーテルの2種が記載されており,いずれを使用するかによって測定結果は異なるはずであるから,測定方法が明確であるとはいえない。本件出願の当時,四塩化炭素の使用が安全上の問題のため一般に規制されていたとしても,本件訂正発明における油剤のような微量成分の計量という目的に使用することまで禁止されていたわけではないから,使用する有機溶剤がエチルエーテルに特定されるとはいえない。 |
|
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件訂正審判請求の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,以下,原告主張の取消事由について判断する。 2 取消事由1について原告は,審決が,本件訂正発明における「油剤量」の意味が不明確であると判断したのは誤りであると主張するので,検討する。 (1) 原告は,訂正明細書(甲24)の段落【0022】【0025】【0026】の記載に照らせば,本件訂正発明にいう「油剤量」は,油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量として規定されていることは明らかであると主張する。 ア 原告が指摘する訂正明細書の上記各段落は,本件訂正発明の実施例についての記載である。 しかるに,訂正明細書(甲24)の発明の詳細な説明には,下記の記載がある。 記【0003】従来の自動車用エアバッグには………クロロプレーンゴムやシリコーンゴムを塗布した織物が使用されている。しかし,これらの織物はゴムが塗布されているため,………等の問題点があった。近年,これらの問題を解消する手段として,ゴムの塗布を要しない,低通気性のナイロン66,ポリエステル繊維からなる高密度織物が提案されている。しかし,これらの高密度織物は,その織物に残存する紡糸油剤や製織のための糊剤や油剤,無糊製織用油剤を除去するために精練をすると,バッグの信頼性を保証する上で,極めて重要な引裂強度が著しく低下する問題があった。 【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は,上述の問題点に鑑み,引裂強度に優れ,かつ熱裂化を防止し,ゴム引きすることを要しない自動安全装置用織物,即ち,エアバッグ用織物を安価に製造する製造方法を提供しようとするものである。 【0005】【課題を解決するための手段】即ち,本発明は,450デニール以下のナイロン66マルチフィラメントから構成され,カバーファクターが1700以上の織物に水系の油剤を付与し,前記の織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上5重量%以下となるようにすることを特徴とする自動車安全装置用織物の製造である。 【0012】本発明で使用する織物は一般にマルチフィラメント糸製造時に付与された紡糸油剤,製織工程で付与された糊剤を除去等のため,精練される。精練は熱水による方法や精練剤を用いる方法などが挙げられる。 【0013】本発明の特徴はこのようにして得た織物に水系の油剤を付与し,織物上の全油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上にすることにある。 【0014】水系の油剤とは,油剤が水中に分散しているもの,エマルジョン化しているもの,水に溶けているもの,およびその混合物からなる油剤を意味する。本発明に用いられる油剤は水系で使用できることに特徴がある。有機溶剤系の油剤を用いると油剤処理工程として特別の工程が必要となり,経済性が悪くなる。 【0016】油剤の種類は親水性の成分を保有して水中に分散可能なものや水性エマルジョンタイプのもので,かつ基布の引裂強力の改善効果のあるものであれば特に限定するものではなく,アニオン系,カチオン系,ノニオン系のいずれのタイプの油剤でもよい。これらの中で分子中に親水性の成分を保有し,自己乳化性のある油剤が好ましく用いられる。また,耐熱性に優れる高級アルコールイオウ含有エステル,油膜強度に優れるアマイド高分子,摩擦係数低下に効果的なPO/EOポリエーテル,ポリエステル系成分等を主成分とする油剤やこれらの混合物が好ましいものとしてあげられる。油剤特性の改良剤のために,改良目的に応じてPOE硬化ヒマシ油,POEアルキルホスフェート塩,グリセリン誘導体などを混合してもよい。 【0017】また,油剤に車内における長期保存中の耐熱性を付与するために酸化防止剤を混合する方法や油剤に防黴剤を混合し,織物の黴の発生を防止する方法や難燃剤を混合する等の方法も好ましく採用し得る。 【0018】本発明の油剤付与後の織物上の油剤量は織物重量に対し0.06重量%以上にする必要があり,より好ましくは,0.08重量%以上で5重量%以下とすることが望ましい。 【0019】油剤量は精練後の残存油剤および本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤との総量を意味する。油剤量が0.06重量%未満では十分な引裂強度が得られず,5重量%を越えて付着させると燃焼性が高くなるので好ましくない。 【0020】熱水あるいは精練剤による洗浄後の織物に油剤を付与す方法として,これら洗浄に続くの湯洗工程で油剤成分を溶解,分散させた処理液に該織物をパッディングする方法,湯洗後に処理液中にパッディングあるいは処理液を噴霧する方法等が上げられるが,これらの方法に限定するものではない。 イ 訂正明細書の上記記載によれば,本件訂正発明における「油剤量」の定義は, 精練後の残存油剤および本発明に従って新たに精練布に付着した「上述の油剤との総量 であることが明確にされている(段落【0019】)。 」そして,「精練後の残存油剤」の意義については,紡糸及び製織の工程で付加される「紡糸油剤,製織のための糊剤や油剤,無糊製織用油剤」(段落【0003】)のうち,製織工程の後に行なわれる洗浄(精練)の工程(段落【0012】)において除去されず残存するものをいうとされている。 また,「本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤」とは,特許請求の範囲の記載では「水系の油剤(シリコン樹脂を水に乳化したもの「……ア を除く)」と規定されているものである。そして,段落【0016】のニオン系,カチオン系,ノニオン系のいずれのタイプの油剤でもよい。これらの中で分子中に親水性の成分を保有し,自己乳化性のある油剤が好ましく用いられる。また,耐熱性に優れる高級アルコールイオウ含有エステル,油膜強度に優れるアマイド高分子,摩擦係数低下に効果的なPO/EOポリエーテル,ポリエステル系成分等を主成分とすとの記載や,段落 る油剤やこれらの混合物が好ましいものとしてあげられる。」【0016】【0017】における「改良剤」「酸化防止剤」「防黴剤」「難燃剤」の混合を許容・推奨する記載に照らすと,具体的な化合物としては種々のものが想定され,また複数の化合物の混合物である場合も含まれているものと認められる。 平成6年3月25日発行・社団法人繊維学会編「第2版繊維便覧」 ウ 一方,甲19便覧()には,下記の記載がある。 〔丸善株式会社刊〕記「e.油剤の付着量油剤の付着量[%]は繊維の重量に対する付着油剤の重量の割合で表される。」(81頁右欄22〜23行)「f.油剤の組成油剤は潤滑性を付与する“潤滑剤”と乳化性および集束性,制電性,ぬれ性を付与する“界面活性剤”とから成る。………その他必要に応じて,乳化調整剤および酸化防止剤,防腐剤,消泡剤,防錆剤などを少量添加する。」(81頁右欄下1行〜82頁左欄6行)エ 甲19便覧の上記記載に照らすと,「油剤量」の定義として,上記イのとおり「精練後の残存油剤および本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤との総量 (段落【0019】)とすることは,技術常識にも合致す」るものと認められる。 そして,原告が主張する「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」と,訂正明細書の発明の詳細な説明にいう「精練後の残存油剤および本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤との総量 とが一致することを明らかにする証拠はない。むしろ,上記イ」のとおり,「精練後の残存油剤」には「紡糸油剤,製織のための糊剤や油剤,無糊製織用油剤」が含まれ,「本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤」にも多種多様な化合物又はその混合物が含まれており,そのすべてが「有機溶剤で抽出され,計量される」とは限らない。 そうすると,本件訂正発明にいう「油剤量」は,「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」を意味するとする原告の主張は,訂正明細書(甲24)の記載に基づくものではなく,採用することができない。 (2) 原告は,各種の技術文献に照らせば,「油剤量」が「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」を意味することは技術常識であると主張するが,以下のとおり,採用することができない。 ア 甲1規格及び甲2規格につき日本工業規格「化学繊維タイヤコード試験方法 JISL1017‐ 原告は,甲1規格(及び甲2規格 にお1963」) (日本工業規格「一般織物試験方法 JIS L1096‐1990」)いて,有機溶剤抽出液の有機溶剤を揮発させて残ったものの重量を測定して百分率で表す測定方法が規定されていると主張する。 しかし,原告の指摘する測定方法についての記載は,「溶剤抽出分」の測定方法についてのものであって,「油剤量」の測定方法を規定したものではない。原告は,甲1規格,甲2規格にいう「溶剤抽出分」は「油剤量」に相当すると主張するが,かかる主張は,「油剤量」とは「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」をいうとする原告の主張が認められることを前提とするものであって,循環論法にすぎないといわざるを得ない。 イ 甲3便覧につき(昭和50年3月10日発行・日本 (ア) 原告は,上記主張の根拠として甲3便覧繊維機械学会繊維特性評価研究委員会編「繊維計測便覧」〔日本繊維機械学会発の記載を援用するので,甲3便覧の当該箇所を検討すると,以下 行〕)の記載がある。 @「人造繊維の糸は工程上必要な油剤が表面に付着していることが多い。繊維が布の段階になると,糊,油剤,樹脂加工剤などが付着している場合が多い。そのうち油剤は動植物からの油脂,ロウ(ワックス),またはそれらの成分,鉱油,および界面活性剤などから構成されている。………したがって繊維表面付着物を便宜上,ロウおよび油剤成分の油脂分と加工用樹脂の樹脂分とにわけて考える。油脂分は溶剤に溶解しやすいが,樹脂分は溶解しにくいものが多い。」(138頁下1行〜139頁6行)A「油脂分は適当な溶剤により繊維から溶出,分離され,その重量から付着量が決定される。溶剤としては繊維を損傷することなく,目的とする油脂分のみを溶出させ,しかも溶出物と溶剤との分離が容易なものが選ばれる。………以上の観点から現在もっとも妥当と考えられる油脂分定量法の一つはJISに定められている一連の方法であり,第3・5-1表に例示した溶剤でソクスレー抽出により油脂分が定量される。」(139頁11〜19行)B 「第3・5-1表 油脂分定量溶剤の例」 (139頁)繊 維 溶 剤 JIS番号綿 四塩化炭素 L 1019(1972)……… ……… ………ポリエステル メチルアルコール L 1017(1963)ナイロン エーテルまたは四塩化炭素 同 上なお,JIS L 1017-1963(甲1規格)には,下記のとおり記載されている(甲1の8頁)。 記「5.14.2エーテル抽出分(ナイロンの場合)水分既知の試料約5gを正確にはかり,ソックスレー抽出器に円筒ロ紙を用いずに軽く入れたのち,付属フラスコにエチルエーテル……約150mlを入れ,……濃縮したのち……に移す。……水浴上で溶剤を揮発したのち,……重サをはかる。2回の平均値を求め…百分率で表わす(小数点以下2ケタまで)。」)「油剤は動植物からの油脂,ロウ(ワックス),またはそ (イ) 上記記載@のうち,との記載によれれらの成分,鉱油,および界面活性剤などから構成されている。」ば「ロウ」と「油脂」が油剤の構成要素であるとされている一方で,「繊維表面付着物を便宜上,ロウおよび油剤成分の油脂分と加工用樹脂の樹脂分ととの記載によれば,「油脂分」は「ロウ」と「油剤成 にわけて考える」分」とから成るとされている。このように,「油脂分」と「油剤」との関係は,甲3便覧においても必ずしも明確ではない。 「現在もっとも妥当と考えられる油脂 そして,甲3便覧は,記載Aにおいてにつき記述し,例えばナイロン繊維については,記載B分定量法の一つ」において,エーテル又は四塩化炭素を溶剤として用いたJIS L 1017-1963の方法を挙げているが,「油剤」と「油脂分」との関係が明確でない以上,甲3便覧のこれらの記載をもって,「油剤量」の意味が明確にされているということはできない。 甲3便覧と同一の文献であるが,甲3では証拠として提出さ (ウ) もっとも,乙1(には,れていない頁も含む。以下,両者を併せて「甲3・乙1便覧」という。)甲3の記載として上記2(2)イに@〜Bとして引用したところに加えて,下記の記載がある。 記C「油脂分は動植物油脂,ロウ,それらの成分,鉱物油,界面活性剤などと分類されるきわめて多くの種類の化合物の混合物である。人造繊維製品製造工程をとりあげてみても,紡糸油剤,紡績油剤,編織油剤,糊付油剤,各種精錬時の洗浄剤,均染剤などの染色助剤,あるいは柔軟剤,撥水剤,帯電防止剤などの仕上油剤等々目的に応じて種々の化合物を種々の割合で混合して使用するものであるから油脂分の組成の組み合わせは無限にあるものと考えねばならない。」(140頁7行〜12行)上記記載によれば,甲3・乙1便覧にいう「油脂分」は,紡糸油剤・製織油剤等と「仕上油剤」との両方が含まれるとされている。「仕上油剤」を本件訂正発明における「本発明に従って新たに精練布に付着した油剤」と同じものであると考えれば,甲3・乙1便覧の「油脂分」は,これら種々の化合物の混合物であるという点においても,本件訂正発明の「油剤」と類似した概念であるということができる。そして,上記「油脂分は適当な溶剤により繊維から溶出,分離され,その重量から付着 (ア)Aのとの記載と併せ考えれば,これらの記載は,「油剤量が決定される。」量」が「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」を意味することは技術常識である,との原告の主張に沿うものではある。 しかし,甲3・乙1便覧の上記各記載は,あくまでも油脂分の定量方法について述べたものであり,このようにして定量されるもののみをもって油脂分の量とみなす,としているわけではない。このことは,甲3・乙1便覧の下記記載において,油脂分の定量方法の意義について一定の留保を置いていることからも明らかである。 記D「油脂分は通常繊維に対して0.1から1wt%のオーダーの量しかないので,上記のごとく天秤の秤量精度を利用する以外にはあまり精度のよい,しかも簡便な方法はないようである。上記測定に当たり注意すべき点は,繊維中のごく微量の成分は未だその適当な分離,分析法がなくて,それが本測定法において,どのように挙動するかが不明のままであるため,測定データの再現性があれば,その成分が抽出されたのか,されずに残っているのかに拘らず測定法としての妥当性が認められることである。」(139頁下1行〜140頁5行)そして,本件訂正発明が,その効果との関連において,「油剤量」の(「0.06% 数値範囲を特定したことにこそ発明としての価値を有すること以上5%以下」という油剤量の数値範囲の特定は訂正明細書における実施例と比較例との対照に一応基づいてなされているのに対し,「450デニール以下」「カバーファクターが1700以上」という数値範囲は実施例と比較例との対照に基づく特定ではなをも併せ考えると,「油剤量」の意義は一義的に確定されるもの い。)でなければならず,甲3・乙1便覧における「油脂分」と「油剤」との関係についての記載に上記(イ)のとおり曖昧な点が残ることに照らせばなおさら,甲3・乙1便覧の記載によって,「油剤量」とは「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」を意味することが明確であるということはできない。 ウ 甲19便覧につき原告は,甲19便覧を,油剤量とは「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」を意味するとする主張の根拠として援用するが,上記(1)ウ,エのとおり,むしろ,甲19便覧の記載は,油剤量が「精練後の残存油剤および本発明に従って新たに精練布に付着した上述の油剤との総量 であるとする,訂正明細書の発明の詳細な説明における」定義に沿うものである。 エ 原告は,甲16公報〜甲18公報においても,油剤は多種の成分から構成されているが,その組成にかかわらず有機溶剤で抽出され,計量される量が「残脂量」であり,この値から計算で「油剤量」を求めることが示されており,この方法は,本件訂正発明における「油剤量」の測定方法と同じである,と主張している。 しかし,甲16公報 には,(特開平2-68363号公報)「油剤付着量とはナイロン66マルチフィラメント2.06gをジクロルメタン3ccにて4回の量で東海計器株式会社製の迅速残脂抽出装置で(加熱部110℃)抽出し次の計算式で求めた値をいう。 (残脂量g/2g)×100〔%〕」(3頁左下欄3行〜7行)と記載されており,当該発明における油剤付着量の測定方法について,使用する有機溶剤の種類を含めた具体的な記載がなされている。また,甲17公報 ,甲18公報 にも,(3頁右上欄2行〜6行) (3頁左下欄下5行〜右下欄3行)同様に「油剤付着量」を定義する記載がある。 かかる記載があることは,原告の主張に反して,「油剤量」についての具体的定義がなければその技術的意義が明確にならないことを前提とするものと考えられる。したがって,甲16公報〜甲18公報は,原告の主張を裏付けるものとはいえない。 (3) 上記(1)(2)のとおり,「油剤量」の意味が「油剤の成分,組成にかかわらず,有機溶剤で抽出され,計量される量」であって不明確な点はない,との原告の主張は採用することができない。 3 取消事由2について(1) 原告は,油剤量の測定方法は,甲3便覧に「油脂分」の定量法として示されているところと同義であると考えるのが当業者の技術常識であり,本件訂正発明の繊維の種類がナイロンであることに照らすと,甲3便覧の第3.5-1表の記載に従い JIS L 1017-1963(甲1規格)の定める「5.14.2 エーテル抽出分」によるべきことは明確であると主張する。 本件訂正発明にいう「油剤」と甲3便覧にいう「油脂分」が必ずしも同義であると認められないことは上記2(2)イのとおりであるが,仮に両者が同義であるとしても,油剤量の測定方法が明確であるということはできない。 その理由は以下のとおりである。 (2) 油脂分の測定方法に関する技術常識につき甲3・乙1便覧には,上記2(2)イに@〜Dとして引用したとおりの記載がある。 これらの記載によれば,油剤中の油脂分について,(1)適当な溶剤により繊維から溶出,分離され,その重量から付着量が決定されること,(2)溶剤としては,繊維を損傷することなく,目的とする成分のみを溶出させ,しかも溶出物と溶剤との分離が容易なものが選ばれること,(3)油脂分は,通常,繊維に対して0.1から1wt%のオーダーの量でしか存在しないので,天秤の秤量精度を利用する以外には,あまり精度のよい,しかも簡便な定量手段がないこと,(4)繊維中のごく微量の成分はいまだその適当な分離,分析方法がないこと,が,本件出願の時点における技術常識であったと認められる。 (3) 油剤の測定方法につきア 甲3・乙1便覧には,上記2(2)イのDのとおり,油剤の定量法が必ずしも確立していないことを踏まえ,「再現性」があることを条件に,測定法としての「妥当性」が認められることが,注意すべき点として記載されている。 イ したがって,甲3・乙1便覧のうち前記2(2)イ(ア)にAとして引用した「現在もっとも妥当と考えられる油脂分定量法の一つはJISに定められている 記載中一連の方法であり,第3・5-1表に例示した溶剤でソクスレー抽出法により油脂分が定量との記載についても,上記アのような背景の下で,測定方法の一 される。」例として記載されていると解するのが相当である。 そうすると,油剤量の測定方法に関するJISが存在しないエアバッグ用織物の分野において,油剤量を測定しようとする場合,本件訂正発明の織物の原糸の種類がナイロンであることを手がかりに,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が甲1規格を参照する可能性は高いということはできるとしても,この記載をもって,直ちに,微量成分までが明らかではない油剤について,その油剤の総量を測定する方法として,甲1規格に示されたものを用いることが一義的に明らかであるとまではいうことができない。 ウ また,測定方法として甲1規格に定められたものを用いるとしても,甲1規格は,ナイロンの場合の有機溶剤として四塩化炭素とエチルエーテルを挙げており,いずれの有機溶剤を選択するかが重要であるところ,いずれを選択すべきかは本件訂正発明においては特定されていないから,この点においても,本件訂正発明における油剤量の測定方法は不明確であるといわざるを得ない。 この点につき,原告は,四塩化炭素は環境及び健康に悪影響を与えることが周知であり,その使用は法令による規制の対象ともなっているものであるから,当業者は当然に四塩化炭素の使用の可能性を排除すると主張する。 しかし,本件訂正発明は,織物上の油剤量を織物重量に対し「0.06重量%以上5重量%以下」となるようにすることによって課題の解決を図るものであり,特に,0.06重量%という微量の油剤量によって,課題の解決が可能であるという臨界的意義を見出したというものであるところ,かかる臨界的意義を確認しようとするときに,最も適切な溶剤を選定することは,当業者が当然行うことである。 (「化学物質ファクトシート2004年度 そして,四塩化炭素について,甲15文献には,下記の記載がある。 版」〔環境省環境保険部環境安全課〕)記「四塩化炭素はオゾン層を破壊することがわかり,モントリオール議定書に基づいて,生産や消費,貿易の規制などの国際的な取り組みが進められてきました。日本では,「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(オゾン層保護法)」によって,1996年1月1日以降は原則として製造が禁止されています。しかし,試験研究や分析用などの特別な用途,………として使用するための四塩化炭素の製造は認められています。また,製造が禁止される以前に製造されたものは,現在でも使用されています。」(142頁)上記記載によれば,四塩化炭素の製造が原則として禁止されたのは本件出願(平成5年2月4日)の後であること,分析用などの特別な用途に当たるものについては製造禁止の対象となっていないこと,製造の禁止の後も使用については特段の制限がないことが認められる。そうすると,本件訂正発明における油剤量の測定は,まさに分析のための使用に当たるのであるから,当業者が最も適切な溶剤として四塩化炭素を選択する可能性が排除されるということはできない。 4付言審決は,本件訂正発明に係る特許出願は特許法36条5項及び6項の規定に違反するとしているが,本件特許は平成5年2月4日に出願されたものであるから,本件訂正審判請求の審理において,明細書の記載要件適合性を判断するに当たっては,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条(以下「旧36条」という。)が適用される。そして,旧36条5項2号には「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求「訂項」という。)に区分してあること。」と規定されているところ,審決が正請求項1記載事項は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記と説示しているところから載したものであると認めることができず」(15頁下5〜4行)すると,審決は,訂正明細書の特許請求の範囲の記載が旧36条5項2号の規定に違反すると判断したことが明らかである。したがって,審決が単に「特許法第36条第5及び第6項」と表現したことは誤りである(正確には「平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号」)が,このことが審決の結論に影響を及ぼすものではない。 5結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がなく,審決の判断には誤りはない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
---|---|
裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |