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関連審決 無効2005-80176
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  当業者に自明な事項 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10803号 審決取消請求事件
原告 ミサワホーム株式会社
訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 小杉丈夫
同 西村光治
同 鈴木広文
訴訟代理人弁理士土井清暢
被告 住友林業株式会社
訴訟代理人弁理士 羽鳥修
同岩池満
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が無効2005-80176号事件について平成17年9月29日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文同旨
当事者間に争いのない事実
1 手続の経緯原告は,発明の名称を「蔵型収納付き建物」とする特許第2517833号の特許(平成5年5月19日出願,平成8年5月17日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
被告は,平成17年6月7日,本件特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2005-80176号事件として審理した上,同年9月29日,「特許第2517833号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,同年10月20日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(以下,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1,2の各記載は,次のとおりである(以下,請求項1,2に係る各発明を「本件発明1」,「本件発明2」といい,これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】上下階に亘って複数の室を配置した建物において,天井高に差を設けた室を下階に配置し,前記天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置し,高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間としたことを特徴とする蔵型収納付き建物。」「【請求項2】低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け,該出入口に至る階段を前記低床面室に設けたことを特徴とする請求項1に記載の蔵型収納付き建物。」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明1は,「ディテール96」(株式会社彰国社,昭和63年4月1日発行,1988-4春季号)の84頁〜85頁(以下「刊行物1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2は,引用発明,「ディテール 81」(株式会社彰国社,昭和59年7月1日発行,1984-7夏季号)の103頁〜110頁(以下「刊行物2」という。甲2)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した引用発明の内容,本件発明1及び2と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(1) 引用発明の内容下階に居間,アトリエを,上階に2階ホール・寝室,屋根裏部屋を配置した建物において,天井高に差を設けた居間と,アトリエと,を下階に配置し,アトリエの床の高さが居間よりも低い位置に形成され,居間の天井の位置に応じた2階ホール・寝室の床面と,居間の天井よりも高い位置に形成したアトリエの天井の位置に応じた屋根裏部屋の床面とが形成され,屋根裏部屋の床面は,2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で,2階ホール・寝室の床面よりも高く形成され,床面に高低差を設けた2階ホール・寝室,屋根裏部屋を上階に配置し,屋根裏部屋の床面から屋根裏までの空間を屋根裏部屋とした建物(2) 本件発明1と引用発明との一致点「上下階に亘って複数の室を配置した建物において,天井高に差を設けた室を下階に配置し,室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置した建物」である点。
(3) 本件発明1と引用発明との相違点ア 本件発明1は,上階の室間の床面の高低差が下階の室の天井高の差に応じたものであるのに対し,引用発明は,そのような構成になっていない点(以下「相違点1」という。)。
イ 本件発明1は,高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間としたのに対して,引用発明は,その点について不明である点(以下「相違点2」という。)。
(4) 本件発明2と引用発明とは,本件発明1の場合と同様に,上記(2)の点で一致し,上記(3)ア及びイの各点(相違点1,2)で相違するほか,次の点でも相違する。
本件発明2は,低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け,該出入口に至る階段を前記低床面室に設けたのに対し,引用発明は,その点について不明である点(以下「相違点3」という。)。
原告主張の取消事由の要点
審決は,本件発明の要旨の認定,引用発明の認定,本件発明と引用発明との相違点の認定を誤り,本件発明の進歩性の判断を誤ったものである(審決における引用発明の認定(審決書3頁16行〜26行),本件発明と引用発明との一致点・相違点の認定及び相違点の判断(審決書4頁1行〜5頁20行)は,争う。)。
本件発明の「天井高に差を設けた室を下階に配置し」との構成は,下階に配置された複数の室の床高が同一であることを当然の前提とし,これを必須要件とするものであるから,引用発明の下階に配置された「居間」,「アトリエ」(アトリエの床の高さが居間よりも低い位置に形成されている。)とは,全く異なるものである。
審決は,本件発明の上記前提を無視し,単純に「複数の室」として,引用発明における「居間」,「アトリエ」と対比したものであって,上記相違を看過することにより,本件発明の進歩性を誤って否定したものである。
審決は,特に,「下階の天井の位置が上階の床面の位置に影響する点では,本件発明も刊行物1記載の発明(判決注:引用発明)も共通するものである以上,本件発明のように,『天井高』を基準とするか,『天井の位置』を基準とするかに,技術的な意義はなく,また,天井と床面の間の高さが若干異なるとしても単なる設計事項にすぎない」(審決書5頁下から13行〜下から9行)とするが,これは本件発明の上記前提を理解しないものであり,誤りである。
被告の反論の要点
審決における引用発明の認定,本件発明と引用発明との一致点・相違点の認定,相違点の判断に誤りはなく,また,本件明細書(甲4)の特許請求の範囲には,下階に配置された複数の室の床高が同一であることは記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。
当裁判所の判断
1 原告は,本件発明は下階に配置された複数の室の床高が同一であることを当然の前提とし,これを必須要件とするにもかかわらず,審決は,この点を無視したため,本件発明と引用発明との相違点を看過し,本件発明の進歩性を誤って否定した旨主張するので,検討する。
(1) 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号・平成3年3月8日第二小法廷判決,民集第45巻3号123頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,本件特許の特許請求の範囲には,本件発明において下階に配置された室に関し,「上下階に亘って複数の室を配置した建物において,天井高に差を設けた室を下階に配置し」との記載が請求項1にあるにとどまり,下階に配置された複数の室の床高が同一であることを示す記載は見当たらず,上記床高が同一である場合に限られないことは,一義的に明確であり,また,誤記であることが一見して明らかであるとも認められないから,本件発明の下階に配置された複数の室の床高が同一であると限定して理解することはできない(なお,本件明細書(甲4)において,第2図,第4図の記載は,下階に配置された複数の室の床高が同一である場合を示していることがうかがわれるものの,発明の詳細な説明には,下階に配置された室について,段落【0010】,【0011】,【0028】,【0029】などの記載があるにとどまり,本件発明において,下階に配置された複数の室の床高が同一であることは当然の前提であり,必須要件であるという原告の主張を裏付ける記載は,見当たらない。)。
(3) そうすると,審決が,本件発明において下階に配置された複数の室の床高が同一であることを必須要件とするものとして,引用発明と対比しなかったことに誤りはなく,したがって,審決が本件発明と引用発明との相違点を看過することにより,本件発明の進歩性を誤って否定したとの原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
2 原告は,審決が本件発明の進歩性の判断を誤ったと主張し,審決における引用発明の認定,本件発明と引用発明との一致点・相違点の認定及び相違点の判断を争うとしているが,上記1で検討した点のほかには,審決が誤りであるとする具体的事由を主張するものではなく,上記主張は採用することができない。
念のため,審決の認定・判断について,以下検討する。
(1) 引用発明についてア 刊行物1(甲1)には,「2階に上がる1段目のステップに腰をかけ,反対側の造り付けのベンチと暖炉を挟んで向かいあえるコーナーを捻出し居間とした。」(85頁右下5行〜7行)との記載がある(原告も争っていない。)。
イ 刊行物1(甲1)の84頁の配置・1階平面図及び矩計図,85頁の玄関・居間平面詳細図,B-B断面図からは,刊行物1には,「1階に居間が配置され,居間の隣に,アトリエが配置され,アトリエの床面は,居間の床面よりも低い位置(360mm)に形成されている。アトリエの天井(天井高は4000mm)は,居間の天井(天井高は2340mm)よりも高い位置に天井を形成してある。居間の上階に床面の高さが等しい2階ホール,及び寝室を配置し,アトリエの上階に屋根裏部屋を配置してある。
2階ホール・寝室の床面が,居間の天井の位置に応じた位置(居間天井高+450mm)にある。屋根裏部屋の床面が,アトリエの天井の位置に応じた位置(アトリエ天井高+360mm)にある。屋根裏部屋の床面は,2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で,2階ホール・寝室の床面より高い位置にある。屋根裏部屋の床面から屋根裏までの空間を屋根裏部屋とした建物である。」(審決書3頁2行〜12行)ことが記載されていると認められる(原告も争っていない。)。
ウ 刊行物1(甲1)の84頁の矩計図によれば,「建物全体からみると,居間とアトリエは下階であること,及び2階ホール,寝室,屋根裏部屋が上階であることは当業者に自明な事項である」(審決書3頁13行〜14行)ということができる。
エ 上記アないしウによれば,刊行物1には前記第2,3(1)のとおりの発明(引用発明)が記載されているものと認定することができるから,審決における引用発明の認定に誤りはない。
(2) 本件発明1と引用発明との一致点・相違点について本件発明1の構成は前記第2,2のとおりであるところ,本件発明が下階に配置された複数の室の床高が同一であることを必須要件としていないことは,前記1において検討したとおりであり,また,審決の引用発明の認定に誤りがないことは上記(1)のとおりであるから,引用発明の「下階に居間,アトリエを,上階に……寝室,屋根裏部屋を配置した」との構成が,本件発明1の「上下階に亘って複数の室を配置した」に相当し,引用発明の「居間」,「アトリエ」,「寝室」,「屋根裏部屋」が,それぞれ本件発明1の「室」に,引用発明の「屋根裏部屋」が本件発明の「高床面室」に相当するとした審決の認定(審決書4頁3行〜7行)はいずれも是認することができ,審決が,前記第2,3(2),(3)のとおり,本件発明1と引用発明との一致点・相違点を認定したことに,誤りはない。
(3) 相違点1についてア 本件明細書(甲4)には,次の記載がある。
「【0005】……本発明はこのようなデッドスペースを積極的に利用し,円滑かつ効率的に家具等を収納することができる大きな収納空間を備えた建物を提供することを目的とする。」「【0006】【課題を解決するための手段】……天井高に差を設けた室を下階に配置し,前記天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置し,高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間として構成した。」「【0008】【作用】……高床面が従来の吹抜け上部空間を仕切ることになり,前記高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間として有効に利用することができる。」「【0011】……1階部分に居室2a,居室2b,居室2cを配置し,これらの居室の内,居室2cの天井高は他の居室よりも高くなっており吹抜け状に構成されている。従来の住居の吹抜け上部は2階の屋根裏であったり,2階の天井であったりしていたが,この実施例にかかる蔵型収納付き建物1では吹抜け上部を蔵型収納空間7として構成し,デッドスペースであった吹抜けの上部空間を収納空間に利用している。」「【0013】該高床面4は居室2c(以下,吹抜け居室2cともいう)の上方の空間を仕切るものであり,吹抜け居室2cの天井高が他の居室2a,2bよりも高いことに応じて,居室3aの床面(低床面5)より高く設けられている床面である。
【0014】該低床面5から高床面4までの高さは,前記吹抜け居室2cの居住性や前記高床面室70への物品の搬入搬出の容易性等で決定される。低床面5から高床面4までの高さが高すぎると,物品の出し入れが困難になり,前記蔵型収納空間7の役割が薄れることになる。一方,低床面5から高床面4までの高さが低すぎると吹抜居室2cの天井の開放感を満足させることができなくなってしまう。
【0015】そこでこの実施例では前記低床面5から約1.2mの高さに前記高床面4を設けている。このような高さであれば,平均的な大人が前記低床面5から生活用品を上げ下げするのにそれほど困難ではないし,前記吹抜け居室2cの天井高を通常の居室の天井高よりも約1m以上高くすることができて居室2cの天井の開放感を満足させることもできる。
【0016】なお,低床面5から高床面4までの高さの下限と上限は,吹抜け居室2cの居住性,前記高床面室70への物品の搬入搬出の容易性等を考慮して1m以上1.5m以下であることが望ましい。
【0017】前記前壁部72は……その高さは前記高床面4の前端部4bから前記屋根裏6までの高さに対応して約2mである。……該出入口73は前記前壁部72の高さの範囲内で約1.8mの高さに構成されており,平均的な身長の大人が生活物品を円滑に搬出したり搬入できるようになっている。
【0018】なお,出入口73の高さは前記前壁部72の高さに応じて2m程度の高さに構成することもできる。これは平均的な身長の大人が生活物品を搬入搬出する際にその生活物品を持ち上げている状態でその高さをコントロールすることができることによる。一方,出入口73の高さの下限は1.4m程度以上であることが望ましい。これは平均的な身長の大人が生活物品を搬入搬出する際に,腰や頭を下げれば物品を搬入したり搬出することができる高さだからである。」「【0020】前記低床面5上には前記高床面室70に至る階段74が設けられており,前記高床面4と前記低床面5との高低差に等しく,該階段74の高さは約1.2mに構成されている。従来の屋根裏利用の収納部の高さが約2.4mであり,屋根裏まで伸縮式階段等を使って昇り降りする構成であったのに比較して,本実施例に係る建物では前記階段74を使って円滑にかつ効率的に物品を保管,収容することができるようになっている。
【0021】前記後壁部71は,蔵型収納空間7の後方を覆うもので,その幅は前記高床面4の幅に対応した幅であり,その高さは平均的な身長の大人が屈んだ状態で活動することができる高さ,例えば1.2mの高さを具えている。また前記側壁部は蔵型収納空間7の側方を覆うもので前記前壁部72,前記後壁部71,屋根裏6の傾斜にそれぞれ整合するように台形状に構成されている。」「【0029】このような構成では前記高床面室70の下階に例えば台所や便所や浴室等の水まわり70Aを配置し,その上層に高い天井高を必要としない室70Bを配置することができ,また前記低床面室30aの下階に天井高の高さを活かした居室70C等を配設することができ,しかも前記高床面室70の床面から天井裏までの空間を蔵型収納空間7にすることができる。」請求項1記載のとおり,本件発明1における「蔵型収納空間」は,「天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置」するものであり,「高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間とした」ものであるが,本件明細書の上記記載に照らせば,「蔵型収納空間」を形成するための高床面の位置は,主に下記@〜Cの点を考慮して決定することになるものということができる。
@ 上階のデッドスペースを積極的に利用し,円滑かつ効率的に家具等を収納することができる大きな収納空間(蔵型収納空間)を備える。
そのためには高床面はできるだけ低い方がよい。
A 下階に配置した室の機能(吹抜居室2cの天井の開放感等)に悪影響が出ないようにする。そのためには高床面は高いほうがよい。
B 低床面から高床面4までの高さは,高すぎると,物品の出し入れが困難になる。
C 蔵型収納空間への出入口73の高さは,平均的な身長の大人が生活物品を搬入搬出する際にその生活物品を持ち上げている状態でその高さをコントロールすることができることが望ましい。
イ 引用発明の屋根裏部屋の床面の位置について,上記@〜Cの点を検討するに,刊行物1(甲1)の84頁の矩形図に照らせば,次のとおりいうことができる。
@の点に関しては,屋根裏部屋の室内高さ(床面から屋根裏部屋の天井までの距離)は,2階ホールや寝室のそれ(各床面から各室の天井までの距離)より多少低い程度(各床面から天井までの距離の差が小さい)であり,また,屋根裏部屋の奥行き(室内幅)は,その下階のアトリエのそれと同じであるから,大きな収納空間を備えているということができる。
Aの点に関しては,前記認定のとおり,下階のアトリエの天井は,居間の天井高さよりも高くなっており,下階に配置した室(アトリエ)の機能を損なわないようにしているということができる。
Bの点に関しては,屋根裏部屋の床面が,2階ホール・寝室の天井高(2350mm)の中間より若干低い位置であるので,低床面から物品の出し入れが可能な位置にあるということができる。
Cの点に関しては,刊行物1には屋根裏部屋への出入り口を何処に設けてあるのかは明記されていない。しかし,引用発明の屋根裏部屋への入口が必要なことは明らかであり,その入口の高さは,大人が生活物品を搬入搬出する際にその生活物品を持ち上げている状態でコントロールすることができる高さにすることは当業者が普通に行うことである。例えば,刊行物2(甲2)には,納戸に入口を設けることが記載されており,その高さは1200mmとすることが記載されている。
ウ 上記ア及びイで検討したところによれば,引用発明の屋根裏部屋の床面は,本件発明1の蔵型収納空間の床面と同様にして配置されているものということができる。
そうすると,審決が,相違点1について,「本件発明1のように,天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置するか,刊行物1記載の発明(判決注:引用発明)のように,下階の天井の位置に応じて上階の床面を形成し,室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置するかについて,その相違するところに,格別な技術的意義はないから,刊行物1記載の発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,単なる設計事項にすぎない。」(審決書4頁19行〜24行)と判断したことに誤りはないというべきである。
(4) 相違点2について引用発明の屋根裏部屋の床面は,本件発明と同様の機能を有するように配置されているものであるから,審決において「屋根裏部屋を,物品の収納空間として用いることは,例示するまでもなく従来周知の事項であるから,刊行物1記載の発明(判決注:引用発明)の屋根裏部屋を,物品の収納空間として用いることは,当業者であれば当然になしうる程度のことであり,また,刊行物1記載の発明の屋根裏部屋の床面は,2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で,2階ホール・寝室の床面よりも高く形成され,床面に高低差を設けたものであるから,蔵のような大型の収納空間となりうることは当業者にとって明らかであり,刊行物1記載の発明の屋根裏部屋を蔵型収納空間とし,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。」(審決書4頁26行〜34行)と判断したことに誤りはないというべきである。
(5) 本件発明1についてのまとめ以上検討したところによれば,本件発明1は,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に,誤りはないというべきである。
(6) 本件発明2についてア 本件発明2の構成は前記第2,2のとおりであるから,本件発明2は,本件発明1の構成を有し,更に「低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け,該出入口に至る階段を前記低床面室に設けた」ものであって,これと引用発明とを対比すると,前記第2,3(4)のとおり,一致点・相違点を認定することができ,この点のついての審決の認定に誤りはない。
イ 相違点1,2の容易想到性は,前記(3)及び(4)ですでに検討したとおりである。
ウ 相違点3について検討する。
審決が認定した刊行物2(甲2)の記載事項については原告も争わないところ,刊行物2のかかる記載事項及び105頁の矩形詳細図によれば,刊行物2には,高床面室となっている納戸が記載されており,この納戸は,引用発明の屋根裏部屋と同様に,本件発明における「蔵型収納空間」としての前記@〜Cの点を満足するものということができ,また,刊行物2記載の納戸の出入口は,低床面室である子供室に面して設け,該出入口に昇降手段となるハシゴを低床面室と高床面室の間に設けられていることが認められる。
ところで,建物の分野において,昇降手段として階段を設けることが周知慣用技術であることは,明らかである。
そうすると,引用発明及び刊行物2に記載された発明がともに,床面に高低差を設けた室を配置した建物であることに照らせば,引用発明において,低床面室に面して高床面室の出入口を設け,該出入口に至る昇降手段を低床面室に設ける点を適用し,昇降手段として階段を設けることにより,相違点3に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものというべきであり,相違点3に関する審決の判断に誤りはない。
エ 以上検討したところによれば,本件発明2は,引用発明,刊行物2記載の発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に,誤りはないというべきである。
3結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,原告は,本訴提起の日から起算して90日以内である平成18年2月13日,本件特許の請求項1を削除し,請求項2を減縮して新たな請求項1とすること等を要旨とする訂正審判を請求し,当裁判所に対し,事件を審判官に差し戻すため,特許法181条2項の規定により,審決を取り消すよう求めた。
しかしながら,上記訂正審判請求の主たる内容は,要するに,本件発明2において,下階に配置された複数の室の床高が同一であることを,新たに規定する趣旨と解されるところ,建物においてごく一般的な上記構成を付加したことによって,蔵型収納空間の構成や作用効果に差異が生じるものではないことは明らかであり,また,引用発明においてそのように構成することに格別の困難も認められないから,前記説示したところに照らせば,本件特許を無効とすることについて特許無効審判においてさらに審理させることが相当であるとは認められない。