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関連審決 不服2003-6285
関連ワード インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  上位概念 /  技術常識 /  パリ条約 /  優先権 /  参酌 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  国際公開 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10790号 審決取消請求事件
原告 サムスンエレクトロニクス カンパニー リミテッド
代理人弁理士 伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介,伊東忠重
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 長島孝志,山本春樹,小池正彦,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-6285号事件について平成17年6月28日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 原告は,1998(平成10年)6月24日(パリ条約に基づく優先権主張1997年(平成9年)6月25日,同年9月22日,米国),発明の名称を「ホームネットワーク自動ツリー生成器に対する方法及び装置」とする特許出願(請求項の数8)をし,平成13年12月14日付け手続補正書により,明細書を補正した(甲1,2)。
(2) 原告は,平成14年12月27日付けの拒絶査定を受けたので,平成15年4月14日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2003-6285号事件として係属),さらに,同年5月14日付け手続補正書により,明細書を補正した(甲3,以下「本件補正」という。)。
(3) 特許庁は,平成17年6月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月12日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載(1) 本件補正前のもの(平成13年12月14日付けの補正後のもの)「1.ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方法において,(a) ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する段階と,(b) 前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する家電機器リンクページを生成する段階と,(c) 家電機器の表現に関連される家電機器に含まれているウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階と,(d) 家電機器に基づくブラウザー上に前記家電機器リンクページをディスプレーする段階とを含むことを特徴とする方法。
2.機器リンクファイルを発生する段階は, ホームネットワークに連結された家電機器を検出する段階と,論理的機器名を前記家電機器と関連付ける段階と,前記論理的機器名を機器リンクファイルに貯蔵する段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
3.機器リンクページを生成する段階は, 前記機器リンクファイルから論理的機器名を検索する段階と,その論理的機器名を機器リンクページに貯蔵する段階と,その論理的機器名を機器ボタンに変換する段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
4.機器リンクページを生成する段階は, 家電機器から機器アイコンイメージを検索する段階と, 機器アイコンイメージに基づいて機器ボタンを生成する段階と,その機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
5.機器リンクページを生成する段階は, 家電機器から機器ロゴイメージを検索する段階と, 機器ロゴイメージに基づいて製造者機器ボタンを生成する段階と, その製造者機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
6.ハイパー-テキストリンクを各機器ボタンと関連付ける段階は, 家電機器と関連された所有ファイルで管理されるURLをその家電機器から検索する段階と, そのURLをその家電機器と関連された機器ボタンと関連付ける段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
7.製造者機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階は,製造者機器ボタンを機器リンクページの使用者定義可能領域に貯蔵する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
8.家電機器からURLを検索する段階は,家電機器に貯蔵された所有ファイルからURLを検索する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。」(2) 本件補正後のもの本件補正は,請求項1を下線部のとおり変更するものである(請求項2以下の記載は省略)。
「【請求項1】ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方法において,(a) ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する段階と,(b) 前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する家電機器リンクページを生成する段階と,(c) 家電機器の表現に関連される家電機器によって提供される家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階と,(d) 家電機器に基づくブラウザー上に前記家電機器リンクページをディスプレーする段階とを含むことを特徴とする方法。」3 審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,引用例1,2に記載の発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,本件補正は,特許法(平成15年法律第47号による改正前のもの,以下同じ。)17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反し,特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきであり,本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
( ) 本件補正についての補正却下の決定 1[補正却下の決定の結論]平成15年5月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]ア 本件補正は,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に適合するか)について,以下に検討する。
イ 特開平7-44477号公報(本訴甲4,以下「引用例1」という。)には,次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用例1記載の発明」という。)。
「LANに現在連結されたマルチメディア機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方法において,( ) LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階と, a( ) 前記リンクファイルで識別された対応するマルチメディア機器に対して,少なくとも一つのグ bラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報を生成する段階と,( ) 前記情報をディスプレーする段階とを含む方法。」 d特開平9-146973号公報(本訴甲5,以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されているものと認められる。
「分散ハイパーテキストビューワを備えた複数の装置をネットワークに接続して,各装置においてウェブページへのリンクを行い,リンクページの表示を行うこと。」ウ対比補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると,まず,引用例1記載の発明における「マルチメディア機器」は,「デジタルVTR機器」や「デジタルカメラ機器」等の家電機器であるので,補正発明における「家電機器」に相当する。
また,引用例1記載の発明における「LAN」は,上記「マルチメディア機器」,すなわち「デジタルVTR機器」や「デジタルカメラ機器」等の家電機器を接続するネットワークであるので,補正発明における「ホームネットワーク」に相当するということができ,引用例1記載の発明における「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイル」は,補正発明における「ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイル」に相当するということができる。
そして,補正発明における「家電機器リンクページ」も,家電機器に関連する「情報」であることには変わりない。
よって,補正発明と引用例1記載の発明とは,ともに,「ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方法において,( ) ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する a段階と,( ) 前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少なくとも一つのグラ bフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報を生成する段階と,( ) 前記情報をディスプレーする段階とを含む方法。」 dである点で一致し,次の点で相違する。
相違点:補正発明は,「( ) 家電機器の表現に関連される家電機器によって提供される家電機器 cの機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を有し,「家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して生成する,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報」が「家電機器リンクページ」であり,「情報をディスプレーする段階」が「家電機器に基づくブラウザー上に家電機器リンクページをディスプレーする段階」であるのに対し,引用例1記載の発明は,上記( )の段階を有しておらず,「家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に c対して生成する,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報」は「家電機器リンクページ」ではなく,「情報をディスプレーする段階」は「家電機器に基づくブラウザー上に家電機器リンクページをディスプレーする段階」ではない点。
エ判断そこで,上記相違点について検討する。
引用例2に見られるように,一般に,ネットワークに接続した装置において,各装置にハイパーテキストビューワを備えるようにし,各装置においてウェブページへのリンクを行い,リンクページの表示を行うようにすることは,広く行われていることである。
また,家電機器に関連する情報をウェブページ上で表現することも,例えば,国際公開第97/18636号パンフレット(本訴甲6)等に見られるような周知の事項にすぎず,家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」とすることも,ごく普通に考えられることにすぎない。
さらに,テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようすることも,例えば,特開平9-9160号公報(本訴甲7)に見られるような周知の事項にすぎない。
してみると,引用例1記載の発明において,「( ) 家電機器の表現に関連される家電機器によっ cて提供される家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を有するようなものとし,「家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して生成する,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報」を「家電機器リンクページ」とし,「情報をディスプレーする段階」を「家電機器に基づくブラウザー上に家電機器リンクページをディスプレーする段階」とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。
そして,補正発明の構成によってもたらされる効果も,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない。
したがって,補正発明は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ むすびよって,本件手続補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであり,特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
( ) 補正却下の決定を踏まえた検討 2ア 対比・判断本願発明は,上記( )で検討した補正発明における「( ) 家電機器の表現に関連される家電機器に 1cよって提供される家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を上位概念の「( ) 家電機c器の表現に関連される家電機器に含まれているウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」としたもの(下線部が補正箇所)である。
そうすると,本願発明の構成要件に限定を施したものに相当する補正発明が,上記( )エに記載し1たとおり,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も,同様に,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ むすび以上のとおり,本願発明は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(1) 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)審決は,引用例1記載の発明が「(a)LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を有すると認定し,補正発明と引用例1記載の発明とが,「(a) ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する段階」を含む点で一致すると認定したが,誤りである。
ア 引用例1に,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」は記載されていない。すなわち,補正発明の「リンクファイル」は,特開平4-170134号公報(乙1)等に開示されているような,「端末の情報を管理するための」単なるファイルではなく,請求項2に記載されているようにして発生され,請求項3に記載されているように機器リンクページの生成の基礎データとなるものであるから,「端末の情報を管理するための」単なるファイルが周知又は技術常識であるとしても,万全な管理を行うには,その管理ファイルには,端末の動作のいかんにかかわらず,管理対象のすべての端末に係るファイルが生成されると解するのが自然であるから,引用例1には,補正発明の「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載されているとはいえない。
イ 被告は,リンクに係るID及びアドレス情報等のファイルをリンクファイルと称することができると反論するが,何の客観的な根拠もないのに,ID及びアドレス情報等のファイルをリンクファイルと称することはできない。
ウ したがって,引用例1記載の発明が「(a) LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を含むとした審決の認定は誤りであり,これに基づく補正発明と引用例1記載の発明との一致点の認定も誤りであって,審決は,補正発明と引用例1記載の発明との相違点を看過し,これについて判断をしなかったものである。
(2) 取消事由2(相違点の判断の誤り)審決は,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないと認定判断したが,誤りである。
ア 家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」とすることについて引用例1記載の発明は,ネットワークを介して,複数のマルチメディア機器及び制御装置が,互いにオブジェクト指向に基づいたメッセージ及びデータの送受信をすることができるシステムであるところ,引用例1には,「マルチメディア機器コントロールパネルオブジェクト記述部はマルチメディア機器2の操作をGUIで行うためのコントロールパネルを記述するGUI記述言語の機能を実現している。」(段落【0046】)との記載があるものの,ウェブページ上で表現することについては記載も示唆もない。そうであれば,引用例1記載の発明や国際公開第97/18636号パンフレット(甲6)の記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることは,当業者がごく普通に考えられるものではない。
イ 「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によって提供する点について「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」が公知であったとしても,このことと補正発明の「家電機器の機能又は状態情報」を見ることとは何の関係もないから,「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」が記載されている特開平9-9160号公報(甲7)の記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページは,家電機器によって提供されるということにはならない。
ウ 家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階について引用例1記載の発明は,引用例1の段落【0054】及び【0057】に記載されているように,オブジェクトリンク情報自体を授受するものであり,補正発明のように,ハイパーテキストリンクにして,リンクを張る必要のないものであるから,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクではない。
エ 家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について上記(1)アのとおり,引用例1に,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」は記載されていない。
オ したがって,審決には,上記アないしエの誤りがあるから,これに基づき,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにすることは当業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判断は,誤りである。
(3) 取消事由3(発明の認定の誤り)審決は,本件補正却下の決定を前提にして,本願発明について,「引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断した。
上記(1),(2)のとおり,本件補正を却下した決定は誤りであるから,審決で判断しなければならない発明は,補正発明である。しかるに,審決は,本願発明について判断をしているから,審決のした発明の認定は誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)に対してア 引用例1では,マルチメディア機器及びそのオブジェクトにIDが付与され,これらのIDによって,マルチメディア機器を識別している。そして,引用例1の「マルチメディアコントローラ」は,このIDを利用して情報の受渡しをしていると解されるから,ファイルとの明記はないものの,「マルチメディアコントローラ」には,「マルチメディア機器を識別する」ためのID及び具体的にマルチメディア機器がどこに接続されているかを示すアドレス情報等が存在する。
イ そして,特開平4-170134号公報(乙1),特開平6-104902号公報(乙2)及び特開平9-134297号公報(乙3)に記載されているように,LAN等で端末の情報を管理する場合には,一般的に,ファイルの形式を取ることが常識であることからすれば,「マルチメディア機器を識別する」ためのID及びアドレス情報等はファイルの形式を取るものと解されるから,そのようなファイルを発生する段階は当然に存在する。
ウ そうすると,リンクに係るID及びアドレス情報等のファイルをリンクファイルと称し,引用例1記載の発明が「LANに現在接続されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を有するとした審決の認定に誤りはなく,これに基づく補正発明と引用例1記載の発明との一致点の認定にも誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対してア 家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」とすることについてディスプレー上に家電機器の機能又は状態情報を表現するようにすることは,引用例1の図30に見られるような事項にすぎない。引用例1の図30の表示例は,ウェブページ上の表現ではないが,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることは,引用例2及び国際公開第97/18636号パンフレット(甲6)の記載を参酌すれば,当業者がごく普通に考えることにすぎない。
イ 「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によって提供する点についてウェブページを家電機器によって提供することも,「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」が記載されている特開平9-9160号公報(甲7)を参酌すれば,当業者が適宜に設計することができるものである。
ウ 家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階についてディスプレー上に家電機器の機能又は状態情報を表現し,家電機器の表現のそれぞれをリンクさせることは,引用例1の図30に見られるような事項にすぎない。
引用例1の図30の表示例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクではないが,引用例2に見られるように,ネットワークに接続した装置において,各装置にハイパーテキストビューワを備えるようにし,各装置においてウェブページへのリンクを行い,リンクページの表示を行うようにすることは,広く行われていることである。そうであれば,家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページに,リンクを提供するハイパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付けるようにすることは,当業者が適宜に設計することができるものである。
エ 家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について引用例1には,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別する」構成,すなわち,補正発明の「家電機器リンクファイル」に対応する構成が実質的に記載されているから,家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応するものであることは,当然のことにすぎない。
オ そうすると,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにすることは当業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(発明の認定の誤り)に対して上記(1),(2)のとおり,本件補正却下の決定には何の誤りもないから,審決が,本件補正却下の決定を前提に,本願発明について,「引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断したことに誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について(1) 引用例1(甲4)には,次の記載がある。
「そして本発明ではオーディオビジュアル機器及び,コントローラをネットワーク上に接続し,それらオーディオビジュアル機器を,個々にオブジェクトとしてとらえ,コントローラはそれらのオブジェクトを統合的に管理するという手法を用いている。オーディオビジュアル機器はネットワーク上に接続されるとオブジェクト指向に基づいたメッセージ及びデータを送信する際に送信の宛て先として用いられるオブジェクトIDが与えられ,このオブジェクトIDに基づいてデータの送受信を行うことにより,論理的にデータの送信先が決定される為,オーディオビジュアル機器間でのデータ送受信関係を構築・修正する際に物理的結線をつなぎかえる必要はなく,データ送受信関係の構築・修正にかかわるオブジェクトの内部データを変更するのみでよいことになる。」(段落【0018】)「図11はシステムディレクターオブジェクト205の構造を示す図である。・・・1076は内部データ部であり,オブジェクトID,344は複数のマルチメディア機器を用いてある動作を行わせる際の機器間リンク情報管理データ,1078は接続されたマルチメディア機器,生成したオブジェクトに関するオブジェクト登録情報である。システムディレクターオブジェクト205はマルチメディア機器代理オブジェクト生成手段1047を用いてマルチメディア機器2がLAN4に接続されるとマルチメディア機器代理オブジェクト記述ファイル1061を読み込み,マルチメディア機器代理オブジェクト記述ファイル1061に記述された情報から生成すべきオブジェクトの属するクラスを選択し,クラスライブラリー1081中,該当するクラスのクラス定義部1080に基づきマルチメディア機器代理オブジェクト1068を生成する。」(段落【0052】,【0053】)「コネクションコンストラクターウィンドウ表示手段(図39の391)は,まずS1で,システムディレクターオブジェクト( 図11の205)に対して現在ネットワーク上に接続されている機器のオブジェクトID一覧表を要求する。S2のステップにて,メッセージに対応するデータが送られて来るまで待ち状態となる。
システムディレクターオブジェクトが自身の内部データ部内のオブジェクト登録情報( 図11の1078)を参照して,登録されている機器オブジェクトの一覧を返答してくると,このデータは内部データ部に格納され,S3へと処理を進める。S3では,内部データ部を参照し,この中に格納されている接続機器オブジェクトID一覧表に記載されている全てのオブジェクトIDに対して,アイコンのグラフィクスデータ送信要求メッセージを送る。S4にてデータ送信待ちとなり,全てのオブジェクトIDより,グラフィクスデータが送られると,これを内部データ部に格納した後,S5へと処理を進める。S5では,データ入出力管理オブジェクトに対して,どのオブジェクトIDからどのオブジェクトIDへとどのようなデータ属性のリンクが張られているのかと言った,機器間リンク情報送信要求メッセージを送る。・・・」(段落【0161】,【0162】)(2) 上記(1)には,オーディオビジュアル機器は,LANに接続されると,オブジェクトIDが与えられ,このオブジェクトIDに基づいてデータの送受信を行うこと,システムディレクターオブジェクトは,内部データ部に,接続されたマルチメディア機器,生成したオブジェクトに関するオブジェクト登録情報を有すること,システムディレクターオブジェクトは,自身の内部データ部内のオブジェクト登録情報を参照して,登録されている機器オブジェクトの一覧を返答するが,この一覧が,現在ネットワーク上に接続されている機器のオブジェクトID一覧表であること,オブジェクトID一覧表のオブジェクトIDは,張られているリンクの機器間リンク情報として利用されることが開示されているから,引用例1には,マルチメディア機器が,LANに接続されると,機器間リンク情報として利用されるオブジェクトIDが与えられ,これにより,接続されたマルチメディア機器,生成されたオブジェクトに関するオブジェクト登録情報を参照して,現在ネットワーク上に接続されている機器のオブジェクトID一覧表を作成することが記載されていると認められる。そして,一つのまとまったデータである一覧表は,これをファイルとして管理することが最も一般的であるから,引用例1には,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載されているということができる。
(3) 原告の主張についてア 原告は,補正発明の「リンクファイル」は,請求項2に記載されているようにして発生され,請求項3に記載されているように機器リンクページの生成の基礎データとなるものであって,「端末の情報を管理するための」単なるファイルが周知又は技術常識であるとしても,万全な管理を行うには,端末の動作のいかんにかかわらず,その管理ファイルには管理対象のすべての端末に係るファイルが生成されると解するのが自然であるから,引用例1には,補正発明の「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載されているとはいえないと主張する。
しかしながら,補正発明の「リンクファイル」は,請求項1に記載されているように,「ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイル」というものであり,請求項2に記載されているようにして発生されるとか,請求項3に記載されているような機器リンクページの生成の基礎データとなるとは規定していないし,また,端末の動作のいかんにかかわらず,管理対象のすべての端末に係るファイルが生成されるとも規定していない。
そうであれば,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるといわざるを得ない。
イ また,原告は,何の客観的な根拠もないのに,ID及びアドレス情報等のファイルをリンクファイルと称することはできないと主張する。
しかしながら,上記(2)のとおり,引用例1には,オブジェクトID一覧表のオブジェクトIDが,張られているリンクの機器間リンク情報として利用されることが開示されているから,張られているリンクの機器間リンク情報として利用されるオブジェクトIDを含むオブジェクトID一覧表をもって,リンクファイルと称することに格別の問題はない。
(4) したがって,引用例1記載の発明が「(a) LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を有するとした審決の認定に誤りはなく,補正発明と引用例1記載の発明とが,「(a) ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する段階」を含む点で一致するとした審決の認定にも誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について(1) 家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」とすることについてア 引用例1には,次の記載がある。
「一般的なマルチメディア機器のハードウェア面での内部ブロック図を図3に示す。複数のマルチメデイア機器はそれぞれ4のLANを介して,コントローラと接続されている。今LANはEthernetであるので,その通信プロトコル(TCP/IP)を処理するインターフェース部20が設けられている。これは専用LSI等の利用で実現出来る。」(段落【0029】,【0030】)「マルチメディアコントローラのハードウェア面での内部ブロック図を図4に示す。同図において4のLANを介して,マルチメディア機器と接続されている。今LANはEthernetであるので,その通信プロトコル(TCP/IP)を処理するインターフェース部31がある。これは専用LSI等の利用で実現出来る。ここで送られてきたメッセージそのものが取り出されたり,逆にマルチメディア機器へメッセージが送りだされる。」(段落【0034】)「以上の様に,本発明によれば,複数のマルチメディア機器が接続されたシステム全体の制御を行なう際に,今までの様にあらかじめコントローラ側にその制御を行なう為のデバイスドライバやアプリケーションソフトウェアなどをインストールして準備する必要がなくなり,マルチメディア機器をLAN上に接続するだけで自動的にコントロールパネル及び機器状態がコントローラの画面上に表示され,電源のON/OFF・本体の制御・入出力の切り替えを画面において行い易くなる等の大きな効果がある。」(段落【0102】)イ 上記アには,マルチメディア機器をLAN上に接続すると,自動的に,コントロールパネル及び機器状態をコントローラの画面上に表示し,電源のON/OFF,本体の制御,入出力の切替えを画面において行うことが開示されているから,引用例1には,家電機器の機能又は状態情報を表現することが記載されていると認められる。そして,上記アには,通信プロトコルとしてTCP/IPを用いることも開示されているところ,TCP/IPはインターネットで使われている標準プロトコルであり,また,ウェブページは一般にインターネットで提供される情報ページを意味するから,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はない。
なお,国際公開第97/18636号パンフレット(甲6)には,「本ファームウェア機器はhttpリクエストをhttpクライアント(ウェブブラウザ)から受信し,html(Hypertext Markup Language)ドキュメントを返信する。このhtml内では,ドキュメントはボタン,テキスト入力ボックス,その他のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)要素であり,ユーザはそれらを使用してhttpクライアントの画面上で遠隔的に操作を行い,出来事を発生させる。リモートコントローラは,テレビ,エアコン,ビデオデッキ等のリモート機器を制御,監視する。」(2頁4ないし12行),「図1において,イーサネットネットワーク接続NC1はユーザコンピュータUC1を,電子的,電磁的,及び/又は赤外線のインターフェースSI1を持ち,ファームウェアFI1からなるコントローラCO1に接続する。インターフェースはファームウェアFI1を多数のターゲットTAlに器具・装置の形態で接続する。ターゲットTA1は,例えばビデオデッキ,テレビ,及び/又はエアコンである。」(3頁4ないし10行),「本発明は,コントローラによる赤外線及び/又は電磁的伝送を使用することを伴う。コントローラは,近接した他の機器と通信するため,赤外線及び/又は電磁的な送受信機を持つ。httpクライアント(ウェブブラウザ)からのコマンドを受信すると,コントローラは赤外線又は電磁的な信号をターゲットTA1に送信する。実施の形態によれば,ビデオデッキ,テレビ,エアコン等のターゲットによりコントローラCO1に対して返信やステータス情報の送信が行われ,受信される。コントローラはテレビなどの一般的な機器を制御するためのいくつかのデフォルトのhtmlページを備えているが,このシステムはエンドユーザが自分のhtmlドキュメントをネットワークを通じてコントローラCO1にアップロードして,好みの制御環境を持つことができるように構成されている。また,制御されたターゲット機器からのステータス情報に基づいて動作するように,コントローラにプログラムをアップロードすることもできる。コントローラCO1のアプリケーションは拡張可能であり,実施の形態の1つではビデオデッキ,テレビ,エアコン等の家電を制御する。」(5頁12行ないし6頁3行),「コントローラCO1は企業への適用やサービスプロバイダーに適しており,簡易な操作が可能であり,実施の形態においてはセットアップや設置が簡単である。ユーザは,単にユニットをイーサネットのハブに接続し,IPアドレス/ネットマスクを製品の内蔵型液晶表示パネルで設定すれば,ユニットはネットワークにウェブページを供給するように構成される。」(7頁3ないし9行)との記載があり,ウェブページに家電機器のステータス情報(すなわち,機能又は状態情報)を表示し,制御することが開示されている。そうであれば,このことからみても,上記のとおり,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はないというべきである。
ウ 原告は,引用例1には,ウェブページ上で表現することについて記載も示唆もないから,引用例1に記載の発明や国際公開第97/18636号パンフレットの記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることは,当業者がごく普通に考えるものではないと主張する。
しかしながら,上記イのとおり,引用例1には,家電機器の機能又は状態情報を表現することが記載されており,また,通信プロトコルとしてTCP/IPを用いることも開示されているから,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はないのであって,このことは,国際公開第97/18636号パンフレットに,ウェブページに家電機器のステータス情報(すなわち,機能又は状態情報)を表示し,制御することが開示されていることからみても,明らかである。
(2) 「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によって提供する点についてア 特開平9-9160号公報(甲7)には,「【産業上の利用分野】本発明は,表示制御装置および表示制御方法に関する。特に,例えばテレビジョン放送による映像を表示するテレビジョン受像機などの解像度を検出し,その解像度に応じて,インターネットなどにより提供されるHTMLなどで記述されたデータを間引くようにすることにより,そのデータを,テレビジョン受像機で表示することができるようにした表示制御装置および表示制御方法に関する。」(段落【0001】)との記載があり,インターネットにより提供されるHTMLで記述されたデータをテレビジョン受像機で表示することが開示されている。インターネットにより提供されるHTMLで記述されたデータがウェブページを含むことは,当業者にとって明らかであるから,特開平9-9160号公報には,家電機器であるテレビでウェブページを表示することが記載されているということができる。そうであれば,テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすることも,容易であるといわなければならない。
イ 原告は,「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」と補正発明の「家電機器の機能又は状態情報」を見ることとは何の関係もないから,特開平9-9160号公報(甲7)の記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページが家電機器によって提供されるということにはならないと主張する。
しかしながら,上記アのとおり,特開平9-9160号公報には,家電機器であるテレビでウェブページを表示することが記載されているのであるから,家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページが家電機器によって提供されることも,当業者が適宜に設計することができるものである。
(3) 家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階についてア 引用例1には,次の記載がある。
「第2オブジェクト描画情報605は第1オブジェクト描画情報601と同様の方法で押されたときのボタンの描画情報626を記述している。第1オブジェクト描画情報601と第2オブジェクト描画情報605をもとにして描画パラメータ623が決定される。リンクデータ624はオブジェクトリンク情報609にもとづいて設定され,送出メッセージとして’play’が,リンク先オブジェクトIDとしてリンク先オブジェクトIDが設定されるが,メッセージを送出する際に受取先のオブジェクトがシステム全体で一意に決定される目的で,デジタルVTR203をLAN4に接続した際にシステムディレクターオブジェクト205がデジタルVTRに割り当てたデバイスIDをリンク先オブジェクトIDに付加した形で設定される。」(段落【0082】)「図23と図29にしたがってデジタルVTR203のコントロールパネル表示動作と再生動作の指示方法を説明する。図16で説明した動作においてシステムディレクターオブジェクト205がデジタルVTR代理オブジェクト220を生成した時点でデジタルVTR代理オブジェクト220はアイコン表示229をアイコン画像1426に基づいて表示するが,利用者がデジタルVTRのアイコン229をカーソル230で指示してダブルクリックすると(643),デジタルVTR代理オブジェクト220のコントロールパネルオブジェクト221はコントロールパネルオブジェクト221を構成するすべてのオブジェクトにたいして描画を指示するメッセージを送出する。該メッセージにしたがって図21に示したすべてのオブジェクトが描画手段を実行し,コントロールパネルオブジェクトはその際,第2オブジェクト描画情報に基づいてデジタルVTRのコントロールパネルのフレームを描画する。その結果,デジタルVTR203を操作するためのデジタルVTRコントロールパネル表示231が図24のように表示され(644),利用者の指示を待つ(645)。この状態で利用者が該コントロールパネル231の再生ボタン272をカーソル230で指示してクリックすると(646),コントロールパネルオブジェクト221はデジタルVTR203のコントローラオブジェクト214にメッセージ’PLAY’を送出する(647)。これによつてデジタルVTR203のコントローラオブジェクト214は該メッセージに反応して再生実行手段を起動する(648)。再生実行手段の起動によってデジタルVTR203の再生動作が開始される。以上説明したように本発明によればマルチメディア機器をマルチメディアコントローラにLANを介して接続するだけでマルチメディア機器の操作に必要なマルチメディア機器代理オブジェクトがマルチメディアコントローラに自動的に生成され,さらにマルチメディア機器の操作に必要なコントロールパネルがマルチメディアコントローラのディスプレーに自動的に表示され,該コントロールパネルに対して利用者が操作を行うとマルチメディア機器のコントローラオブジェクトに適切なメッセージが送出され所望の操作を行うことができる。マルチメディア機器の操作に必要なマルチメディア機器代理オブジェクトを生成するために必要な情報はマルチメディア機器から読み込んだマルチメディア機器代理オブジェクト記述ファイルから取得するため,マルチメディアコントローラには基本的なクラスライブラリーがあるだけでよく,特定のマルチメディア機器に関する情報をあらかじめ持っている必要はない。」(段落【0088】,【0089】)イ 上記アには,リンク先オブジェクトIDに設定されたデバイスID(例えば,デジタルVTRのコントローラオブジェクトのID)により,そのデバイスIDが割り当てたマルチメディア機器(例えば,デジタルVTR)の操作を行うこと,具体例として,利用者がコントロールパネルの再生ボタンをカーソルで指示してクリックすると,コントロールパネルオブジェクトは,デジタルVTRのコントローラオブジェクトにメッセージ’PLAY’を送出し,これにより,デジタルVTRのコントローラオブジェクトは,メッセージに反応して再生実行手段を起動し,デジタルVTRの再生動作が開始されることが開示されているから,引用例1記載の発明は,少なくともリンク先オブジェクトIDによって,マルチメディア機器の操作を行っているのであって,マルチメディア機器との間にリンクを張っていると認められる。そして,上記(1)イのとおり,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はないところ,ハイパーテキストリンクは,一般にウェブページにリンクを提供するためのものであるから,引用例1記載の発明において,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とする場合には,当然に,リンクを張るためのものとしてハイパーテキストリンクを採用するものであると認められる。
そうであれば,引用例1記載の発明においても,ウェブページ上で家電機器の機能又は状態情報を表現する場合には,ウェブページを提供するハイパーテキストリンクとし,リンクを張るものと理解するのが相当である。
ウ 原告は,引用例1記載の発明は,オブジェクトリンク情報自体を授受するものであり,補正発明のように,ハイパーテキストリンクにして,リンクを張る必要のないものであるから,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクではないと主張する。
確かに,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクではない。しかし,上記イのとおり,引用例1記載の発明においても,ウェブページ上で家電機器の機能又は状態情報を表現する場合には,ウェブページを提供するハイパーテキストリンクとし,リンクを張るのである。
(4) 家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について上記1(2)のとおり,引用例1には,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載されているから,家電機器は,家電機器リンクファイルで識別されたものに対応するということができる。
(5) したがって,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにすることは当業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(発明の認定の誤り)について取消事由3は,取消事由1又は2のいずれかに理由があることを前提とするものであるが,上記1,2のとおり,取消事由1及び2は,いずれも理由がない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文