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関連審決 不服2003-1342
関連ワード 特許を受ける権利 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の判断 /  周知技術 /  出願公開 /  共有 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  同意 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 273号 審決取消請求事件
原告 X1
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁理士 A
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 一色貞好,増山剛,小曳満昭,大橋信彦,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2003-1342号事件について平成16年4月27日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,原告らが,特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明(甲6) 出願人:X1(原告),A(その後,原告X2に特許を受ける権利共有持分を譲渡した。) 発明の名称:「乳幼児用おしゃぶりおよびキシリトール入り乳幼児用おしゃぶり」 出願番号:特願2002-230777号 出願日:平成14年8月8日 (2) 本件手続 手続補正:平成14年11月26日(甲7) 拒絶査定日:平成14年12月25日 審判請求日:平成15年1月23日(不服2003-1342号) 手続補正:平成15年1月28日(甲8,以下「本件補正」という。) 審決日:平成16年4月27日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成16年5月19日(原告らに対し) 2 本願発明の要旨 (1) 本件補正前の特許請求の範囲(請求項2以下の記載は省略。以下「本願発明」という。)【請求項1】 体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で乳首部に分散して含有されていることを特徴とする乳幼児用おしゃぶり。
(2) 本件補正後の特許請求の範囲(下線部が補正部分である。請求項2以下の記載は省略。以下「本願補正発明」という。)【請求項1】 体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で乳首部 の構成材料中又 は乳首部表面 に分散して含有されていることを特徴とする乳幼児用おしゃぶり。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,本件補正は,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当するが,本願補正発明は,以下のとおり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下した。
ア 引用例 (ア) 引用例1 審決は,特表2001―511664号公報(甲1,以下「引用例1」という。)には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているとした。
「活性剤が,マウスピース10の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14へ挿入されている小児用のおしゃぶり。」 (イ) 引用例2 審決は,特開2001―190676号公報(甲2,以下「引用例2」という。)には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているとした。
「キシリトールが,合成樹脂材に含有あるいは付着されている上下の歯の外周部を覆うように取付けることができる前庭プレート4等からなる口呼吸防止具1」 イ 一致点 審決は,本願補正発明と引用発明1とを対比すると,以下の点で一致するとした。「体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部に有ることを特徴とする乳幼児用おしゃぶり」 ウ 相違点 審決は,本願補正発明と引用発明1は,以下の点で相違するとした。
「体内又は口内に摂取可能な成分が,前者においては,他の成分に包含された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されているのに対し,後者においては,前者の乳首部に相当するマウスピース10の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14に挿入されている点。」 エ 相違点についての判断 審決は,上記相違点について,以下のとおり,判断した。 「本願補正発明と引用発明2とを対比すると,それらの機能及び構成からみて,後者の「キシリトール」は,前者の「体内又は口内に摂取可能な成分」に,後者の「合成樹脂材に含有あるいは付着されている」は,前者の「他の成分に包含された状態」にそれぞれ相当することから,引用発明2は,上記相違点における,体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されている点を備えているものと認められる。
また,引用発明2の「前庭プレート4」は,「上下の歯の外周部を覆うように取付けることができる」ものであるから,該「前庭プレート4」と本願補正発明の「乳首部」とは,口内に入れて使用するものである点で共通している。 ところで,本願明細書の【0001】には,「本発明は,・・・鼻呼吸を促進させることが可能であり,」と記載されているが,引用発明2の「口呼吸防止具1」における口呼吸防止の意味は,上記該「鼻呼吸を促進させること」と同意であることは明らかである。
してみると,引用発明2の「口呼吸防止具1」と本願補正発明の「おしゃぶり」は,体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを,口内に入れて使用するものである点で共通するとともに,「鼻呼吸を促進させる」という発明の機能においても共通点を有するものといえる。 そして,体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させることは,本願出願前に周知の技術(要すれば,特開2001-335470号公報(判決注:本訴甲3),特開2001-322928号公報(判決注:本件甲4)及び特開2000-69913号公報(判決注:本件甲5)を参照のこと。)である。 上記のことから,引用発明1における,体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14に挿入されている点に替え,上記引用発明2の含有を分散なる態様として本願補正発明のような発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。また,そうしたことによる作用効果についても当業者の予測し得る範囲内のものといえる。
したがって,本願補正発明は,上記引用例1及び2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」 「以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであり,特許法159条1項で準用する特許法53条1項の規定により却下されるべきものである。」 (2) 審決は,本件補正を却下したことから,次に本願発明と引用例1,2とを対比し,以下のとおり,本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
「本願発明は,・・・本願補正発明から「乳首部」の限定事項である,乳首部の「構成材料中又は乳首部表面」との構成を省いたものである。 そうしてみると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに一部の発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が,上記「2.(3)」(判決注:本判決の上記エ)に記載したとおり,引用例1及び2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1及び2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。」 「以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1及び2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
原告らの主張の要点
本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点についての審決の認定は認めるが,審決は,相違点の判断を誤った結果,本願補正発明の進歩性を否定したものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
(1) 審決は,「本願補正発明と引用発明2とを対比すると,それらの機能及び構成からみて,後者の「キシリトール」は,前者の「体内又は口内に摂取可能な成分」に,後者の「合成樹脂材に含有あるいは付着されている」は,前者の「他の成分に包含された状態」にそれぞれ相当することから,引用発明2は,上記相違点における,体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されている点を備えているものと認められる。」と認定したが,誤りである。
本願補正発明における「他の成分」とは,本願明細書に記載されているように,「乳首部本体を構成する材料や経口摂取成分以外の成分又は材料」(段落【0043】)のことを意味している。これに対して,引用例2に記載されたキシリトール等の経口摂取成分は,前庭プレートの構成材料中又はその表面に含有されているにすぎず,その構成材料や経口摂取成分以外の成分又は材料に包含されてはいない。
したがって,引用発明2は,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されている点を備えている」との認定は誤りである。
(2) 審決は,引用発明2の口呼吸防止具と本願補正発明のおしゃぶりは,体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを,口内に入れて使用するものである点で共通するとともに,鼻呼吸を促進させるという発明の機能でも共通点を有すると認定した。
この認定は形式的には正しいが,両発明の相違点を十分に考慮していないものであり,発明の本質を把握したものとはいえない。すなわち,引用発明2の前庭プレートは,@上下の歯の外側に位置し,A歯の内側にある舌では触れられないように配されており,B形状はプレート状であり,C口の開口部を塞ぐ機能を有しているのに対し,本願補正発明の乳首部は,@上下の歯の内側に位置し,A舌と口腔内壁とを使って吸ったり遊んだりできる状態にあり,B形状は略乳首形状であり,C母親の乳首の感触と同様の感触を発揮させる機能を有する。
このような引用発明2の前庭プレートと本願補正発明の乳首部の配置場所,配置形態,形状及び機能における差異は,発明の効果に重大な差をもたらす。すなわち,引用発明2の前庭プレートは,歯の外側に固定され,舌では触れられないような位置及び形態であるため,前庭プレートに含有又は付着されたキシリトールは,口呼吸防止具を装着している人間の意思とは無関係に自動的に口内に溶出し,キシリトールの前庭プレートへの含有又は付着は,口呼吸防止や鼻呼吸の促進と何ら関連性を有しない。これに対し,本願補正発明の乳首部は,乳幼児が舌と口腔内壁とを使って吸ったり遊んだりできる位置にあり,かつ母親の乳首と類似した形状を有する乳首部の構成材料中又はその表面にキシリトール等の経口摂取成分があらかじめ他の成分に包含された状態で分散して含有されているので,おしゃぶりをすれば味や臭いを知覚できる。このため,乳幼児が自ら進んで舌と口腔内壁とを使っておしゃぶりをするようになり,このおしゃぶりによって口が閉じられることから,鼻呼吸が促進される。つまり,本願補正発明では,キシリトール等の経口摂取成分が乳幼児の鼻呼吸促進に大きく寄与している点で引用発明2とは異なる。審決は,このような相違点を十分に考慮していない。
(3) 審決は,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させること」は,本願出願前に周知の技術であるとして,特開2001-335470号公報(甲3。
以下,同公報に記載された発明を「甲3発明」という。),特開2001-322928号公報(甲4。以下,同様に「甲4発明」という。)及び特開2000-69913号公報(甲5。以下,同様に「甲5発明」という。)を挙げている。
しかし,本願補正発明は,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されている」点を構成要件として含むものであって,審決が認定した周知技術,すなわち「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させること」とは異なるのであるから,上記周知技術が認められるとしても,本願補正発明とは異なる。
また,甲3ないし5発明は,歯牙又は歯茎用貼付剤,又はチューインガム組成物に関する技術であって,おしゃぶりに関する技術ではないのであるから,本願補正発明や引用発明1とは技術分野が異なる。しかも,甲3ないし5には,乳幼児が用いるおしゃぶりの乳首部の構成材料中又は乳首部表面に,体内又は口内に摂取可能な成分を他の成分に包含された状態で分散して含有させることを示唆する記載は一切ない。
なお,被告は,本訴において,乙1ないし3を証拠として提出し,経口摂取成分が,同成分や本体の構成材料とは異なる成分に包含された状態で,同構成材料中又はその表面に分散して含有されるという態様は,周知技術であると主張する。しかしながら,これは,審決取消訴訟において,審決の認定判断から離れて周知例の新証拠を提出することであり,新たな拒絶理由の提示に等しい。
(4) 審決は,「上記のことから,引用発明1における,体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14に挿入されている点に替え,上記引用発明2の含有を分散なる態様として本願補正発明のような発明特定事項とすることは,当業者が容易に成し得ることである。」と認定している。
しかしながら,この認定は,本願補正発明と引用発明1との対比,及び本願補正発明と引用発明2との対比にのみ基づくものであり,引用発明1に引用発明2及び甲3ないし5記載の技術を適用することの動機づけの考察を欠いている。
すなわち,引用発明1と引用発明2とを対比すると,発明の課題及び構成が全く相違する。引用発明1の課題は,「う食予防剤又は他の活性剤を含有する錠剤又は投与ユニットの連携的挿入を可能にするおしゃぶりを提供すること」及び「構造的に簡単であり,活性剤含有ユニットの装填が容易であり,かつ洗浄が容易なおしゃぶりを提供する」ことにある(3頁下から4行〜1行)。他方,引用発明2の課題は,「口呼吸できないようにして,本来の鼻呼吸をさせることにより,免疫病等の発症を未然に防止することができる口呼吸防止具を提供すること」(段落【0004】)にある。引用発明1と引用発明2の課題が全く異なることは上記記載から明らかである。構成についていえば,引用発明1は小児の口に含ませて小児をあやす又は小児に栄養補給するためのおしゃぶりであるのに対し,引用発明2は上下の歯の外周部を覆うように取り付けて,口呼吸できないようにして,鼻呼吸を促進させる口呼吸防止具であり,両者は,共に口に入れて使用するものである点で共通するものの,対象者,道具の目的,装着位置,装着形態,形状が大きく異なる。また,前者では,装填及び洗浄が容易となるように,活性剤含有ユニットをマウスピースの壁の内部に形成された1空間内(空所)に存在させるのに対し,後者では,キシリトールを上下の歯の外側に位置する前庭プレートの構成材料に含有させるか付着させる点で相違する。
次に,引用例1及び2と,甲3ないし5発明とを対比する。
甲3発明は,歯牙又は歯茎への保持,固定力に優れ,長時間の適用を可能にした歯牙又は歯茎用貼付剤を提供することを目的とするものであり,特定の形状をした歯牙又は歯茎に貼付されるシート状貼付剤に関するものである。甲4発明は,簡便性,適用部位の自由度,噛み合わせ不要,違和感のなさに優れ,長時間快適に着用できて,薬剤を効果的に適用することができる歯牙又は歯茎用貼付剤を提供することを目的とするものであり,特定の構造をした歯牙又は歯茎に貼付されるシート状貼付剤に関するものである。甲5発明は,噛み心地がよく,かつ効果的に歯垢を除去するチューインガム組成物を提供することを目的とするものであり,セルロース粉末と水溶性物質とからなる粒状顆粒を特定量配合したチューインガム組成物に関するものである。前記のとおり,引用発明1はおしゃぶりに係る発明であるから,引用発明1と甲3ないし5発明とは,技術分野が相違するだけでなく,課題,形状・形態が大きく異なる。また,引用発明2は口呼吸防止具に係る発明であるから,引用発明2と甲3ないし5発明とは,技術分野が相違するだけでなく,課題も全く異なる。
このように,引用発明1と引用発明2とは課題が全く異なるだけでなく,対象者や道具の目的,装着位置,装着形態,形状も相違するので,これらを組み合わせることは困難である。また,甲3ないし5発明は,引用発明1及び2のいずれとも技術分野及び課題が相違するので,引用発明1に引用発明2を組み合わせた上,さらに甲3ないし5発明を組み合わせるのは容易ではない。
仮に,引用発明1に,引用発明2及び甲3ないし5発明を適用し,活性剤をおしゃぶりの構成材料中や表面に存在させたり,活性剤を配合,塗布,含浸,吸着,噴霧等の方法でおしゃぶりの構成材料中や表面に定着させたりすると,空所に活性剤含有ユニットが存在する構成ではなくなるから,活性剤含有ユニットの連携的挿入や装填,洗浄の容易なおしゃぶりの提供という引用発明1本来の課題を解決することが不可能となる。
したがって,引用発明1に引用発明2及び甲3ないし5発明を適用するという発想は生じ得ない。
(5) 本願補正発明は,引用発明1,2からは予期し得ない顕著な作用効果を奏する。
本願補正発明では,経口摂取成分があらかじめ他の成分に包含された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されているので,乳幼児がおしゃぶりをする際に,母親等が乳幼児用おしゃぶりの内室(空間)に経口摂取成分を入れる必要がなく,何ら手間をかけることなく容易におしゃぶりを乳幼児に与えることができる。
また,経口摂取成分が単に乳首部中に分散しているのではなく,他の成分に包含された状態(例えば,マイクロカプセルに内包された状態,多孔質体に含浸された状態,コーティング成分で被覆された状態等)で分散しているので,経口摂取成分を摂取する構成として種々の機能や作用を有するもの(例えば,おしゃぶりすればするほど味や臭いを知覚することができる構成,濃度勾配を有する構成,断続的に味や臭いを知覚できる構成等)を採用することができ,従来のおしゃぶりでは到底達成できないような機能や作用(乳幼児の噛む力や吸い付く力の向上(顎の発達),遊び的要素の付加によるおしゃぶり行為の促進等)を付与することが可能となり,乳幼児の鼻呼吸の促進,発育や虫歯予防等に大きく貢献することができる。
このような効果は,舌と口腔内壁とを使って吸ったり遊んだりできる位置にあり,かつ母親の乳首と類似した形状を有する乳首部の構成材料中又はその表面に,キシリトール等の経口摂取成分があらかじめ他の成分に包含された状態で分散して含有されている本願補正発明によって,初めて奏されるものである。
(6) 以上によれば,引用発明1及び2,周知技術に基づいて本願補正発明を想到するのは容易ではないというべきであり,本願補正発明の進歩性を否定した審決は違法であり,取り消されるべきである。
被告の主張の要点
本願補正発明が引用発明1及び2,周知技術から容易に想到できるとした審決の判断には何ら誤りはない。
(1) 原告らは,本願補正発明の「他の成分」とは,乳首部本体を構成する材料以外の成分又は材料のことを意味しているのであるから,審決が,引用発明2について,体内又は口内に摂取可能な成分が,「他の成分に包含された状態で」前庭プレートの構成材料中又はその表面に含有されていると認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら,本願補正発明にいう「他の成分」が,乳首部の構成材料や経口摂取成分以外の材料であるとの主張は,本願補正発明の特許請求の範囲の記載に基づくものではない。原告らは,本願補正明細書の段落【0043】の記載を主張の根拠としているが,当該段落の記載は【発明の実施の態様】の項の記載であり,本願発明を定義づけるものではない。本願補正明細書の【課題を解決するための手段】の項には,「他の成分」が乳首部の構成材料と異なる材料でなければならない旨の記載はなく,「他の成分」が乳首部の構成材料と異なる場合の例が好ましい例として挙げられているにすぎない(段落【0010】)のであり,同明細書の記載を参酌しても,原告らの主張は失当というべきである。
原告らは,「他の成分」が乳首本体の構成材料と同じ成分であったら,「他の成分」と乳首部の構成材料との区別がつかず,「他の成分」に包含された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されているという形態とはなり得ないとも主張する。しかし,本願補正発明の【特許請求の範囲】全体の文脈からすると,【請求項1】にいう「他の成分」は,「体内又は口内に摂取可能な成分」に対する「他の成分」と解するのが自然であり,「他の成分」と「乳首部の構成材料」との異同については何ら限定されていないと理解するのが自然である。
仮に「他の成分」が「乳首部本体を構成する材料や経口摂取成分以外の成分又は材料のこと」を意味しているとしても,特開2002-363098号公報(乙1),特開平7-39312号公報(乙2),特開平2-238857号公報(乙3)によれば,そのような含有態様は慣用手段であると認められる。 (2) 原告らは,引用発明2における前庭プレートは,その配置場所,配置形態,作用効果において,本願補正発明の乳首部と大きく異なると主張する。
しかし,本願補正発明と引用発明1との相違点は,結局,体内又は口内に摂取可能な成分をどのような形態でおしゃぶりに付着,含有させるかにあり,引用発明2は,この相違点を埋めるために引用したものである。本願補正発明の乳首部と引用発明2の前庭プレートが,体内又は口内に摂取可能な成分の機能,配置場所等についてまで共通していなければならないという理由はない。また,原告らは,本願補正発明と引用発明2の作用効果の違いとして,キシリトールが鼻呼吸促進に大きく寄与するかどうかという点を挙げているが,本願補正発明は,体内又は口内に摂取可能な成分をキシリトールに限定しているものではないから,キシリトールに則した作用効果についての主張がそのまま本願補正発明の効果となるものではない。
(3) 審決は,甲3ないし5に基づき,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させること」は周知技術であると認定したが,これが本願補正発明の「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されている」構成と同義であることは,その文脈から明らかである。原告らの主張は,審決を正解していないものであり,失当である。
(4) 原告らは,引用発明1と引用発明2とは課題が全く異なるだけでなく,対象者や道具の目的,装着位置,装着形態,形状も相違し,甲3ないし5発明は,引用発明1及び2のいずれとも技術分野及び課題が相違するので,引用発明1に引用発明2を組み合わせた上,さらに甲3ないし5発明を組み合わせるのは容易ではないと主張する。
しかしながら,審決は,引用発明1に引用発明2の技術を適用した上で,さらに甲3ないし5記載の技術を適用することが容易であると判断しているわけではない。審決は,甲3ないし5に示される周知技術に照らせば,引用発明2の「含有」には当然に「分散」の態様も含まれると判断し,それを前提として,引用発明1に引用発明2を適用すれば,本願発明と引用発明1との相違点は克服されると判断したものである。
原告らは,引用発明1と引用発明2の課題,対象者,道具の目的,装着位置,装着形態,形状等が相違するから引用発明2の引用発明1への適用が容易でないとも主張するが,失当である。一般に,近接した技術分野の技術を採用することは当業者の通常の創作能力の範囲内であるところ,引用発明1及び2は技術分野と機能について共通性を有することを考慮すれば,引用発明2の技術を引用発明1に適用することは当業者にとって容易である。引用発明1及び2が原告らの主張する点において異なることは,引用発明2の技術を引用発明1に適用することを何ら困難にするものではない。
原告らは,引用発明1に引用発明2を適用すると,引用発明1の目的が阻害されると主張する。しかしながら,引用発明1は,係止装置を介しておしゃぶりの内側に錠剤を挿入することは煩瑣であるという従来技術の問題を解決しようとしたものであり,引用発明2の技術がその目的に逆行しないことは明らかである。引用発明2は,活性剤を挿入する空所を設けるという引用発明1が採用した手段とは異なる手段を提供するものではあるが,そのことは,引用発明1に引用発明2の技術を適用することの阻害要因にはならない。 (5) 原告らは,本願補正発明は,引用発明1及び2からは予想もできない顕著な効果を奏すると主張する。
しかしながら,原告らが主張する本願発明の効果のうち,母親等が乳幼児用おしゃぶりの空間に経口摂取成分を入れる必要がないとの点は,あらかじめ経口摂取成分を含有させておくことで当然に得られる効果であり,本願補正発明が当然に有する効果にすぎない。
また,「おしゃぶりすればするほど味や臭いを知覚することができる」,「濃度勾配を有する」,「断続的に味や臭いを知覚できる」,「乳幼児の噛む力や吸い付く力の向上(顎の発達)」,「遊び的要素の付加によるおしゃぶり行為の促進」といった具体的効果は,本願補正発明の構成のみから得られる効果ではないし,仮にそのような効果が得られるとしても,それは引用発明1に引用発明2を適用する結果として当然に有する効果にすぎない。
(6) 以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとの審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の判断の誤り)について (1) 本願補正発明と引用発明1は,いずれもおしゃぶりに関する発明である。審決は,前記のとおり,両発明の相違点を「体内又は口内に摂取可能な成分が,前者(判決注:本願補正発明)においては,他の成分に包含された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されているのに対し,後者(判決注:引用発明1)においては,前者の乳首部に相当するマウスピース10の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14に挿入されている点」と認定した。これを敷衍すれば,本願補正発明と引用発明1は,体内又は口内に摂取可能な成分が,おしゃぶりの乳首部において,@他の成分に包含された状態で,Aその構成材料中又はその表面に,B分散して含有されているかどうか,において相違するということができる。
審決は,上記相違点のうち@及びAに関し,引用発明2の「合成樹脂材に含有あるいは付着されている」は,本願補正発明の「他の成分に包含された状態」に相当するなどとして,引用発明2は,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されている」との構成を備えていると認定した。
これに対し,原告らは,本願補正発明の「その他の成分」とは,「乳首部本体を構成する材料や経口摂取成分以外の成分又は材料」(段落【0043】)を意味するところ,引用発明2の「体内又は口内に摂取可能な成分」は,前庭プレートの「構成材料中又はその表面に含有されている」にすぎず,その構成材料や経口摂取成分以外の成分又は材料に包含されてはいないのであるから,審決が,引用発明2について,体内又は口内に摂取可能な成分が,「他の成分に包含された状態で」前庭プレートの構成材料中又はその表面に含有されていると認定したのは誤りであると主張する。他方,被告は,本願補正発明の特許請求の範囲や【発明の実施の態様】の項の記載に照らせば,本願補正発明にいう「他の成分」が乳首部の構成材料と異なる材料であるとは認められないと主張する。
前記のとおり,本願補正発明の【特許請求の範囲】の【請求項1】には「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されていることを特徴とする乳幼児用おしゃぶり。」と記載されている。同項が,単に「体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されている」とせず,わざわざ「他の成分に包含された状態で」との文言を付加していることによれば,「他の成分」とは「乳首部の構成材料」や「体内又は口内に摂取可能な成分」とは異なる材料や成分を意味すると解するのが自然である。また,本願補正明細書の段落【0010】には,「体内又は口内に摂取可能な成分は,マイクロカプセルに内包された状態,多孔質体に含浸された状態,又はコーティング成分で被覆された状態で乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されていることが好ましく」と記載されているが,ここで「他の成分」として例示されている「マイクロカプセル」「多孔質体」「コーティング成分」はいずれも「乳首部の構成材料」や「体内又は口内に摂取可能な成分」とは異なる材料又は成分であり,この記載からも「他の成分」は「乳首部の構成材料」や「体内又は口内に摂取可能な成分」とは異なる材料や成分であると認められる。さらに,原告らも指摘するように,本願補正明細書の段落【0043】には「経口摂取成分を包含する他の成分(材料)とは,乳首部本体を構成する材料や経口摂取成分以外の成分又は材料のことを意味している。」と明記されており,この記載は上記【特許請求の範囲】の【請求項1】や段落【0010】の記載に沿うものである。以上によれば,本願補正発明の「他の成分」とは,「乳首部の構成材料」や「体内又は口内に摂取可能な成分」以外の材料や成分を意味すると解すべきである。
他方,引用例2(甲2)には,「前記本発明の各実施の形態では前庭プレートを人体に無害の可撓性合成樹脂材で形成したものについて説明したが,本発明はこれに限らず,抗菌性合成樹脂材やキシリトールを含有あるいは付着させた合成樹脂材を用いてもよい。」(段落【0019】)との記載がなされているのみで,キシリトール等の成分を前庭プレートに含有あるいは付着させるための具体的な態様は特定されていない。しかしながら,証拠(乙2,3)によれば,引用発明2の出願日(優先日は平成11年11月5日)よりかなり前から,経口摂取成分を「他の成分に包含された状態で」前庭プレート等の本体の構成材料中又はその表面に含有させることは,当業者にとって周知な技術であったものと認められる。すなわち,引用発明2の出願前に出願公開された乙2,3には,「昨今マイクロカプセルが入ったチューインガムが開発され,市場に出回っている。」(乙2の段落【0003】),「チューインガムの中に精油及びオレオレジン群のいずれか又はそれらの組合せ及びタイム抽出物を分けてマイクロカプセルを使って分けて入れることにより,口臭除去効果が相加,相乗されると推察される。」(乙2の段落【0014】),「本発明では,ミラクリンを内包するマイクロカプセル,コーティングあるいは包接化合物を飲食品中に分散させた状態にしてもよいし,特定部位に偏在させてもよいし,飲食品に応じ適宜選ぶことができる。」(乙3の2頁右上の下から3行から同頁左下の2行まで)との記載があり,これらの記載によれば,体内又は口内に摂取可能な成分を,マイクロカプセル等の成分に包含された状態で,本体となる物の構成材料に含有させることは,本願補正発明の出願当時,周知な技術であったと認めることができる。
上記のような周知技術の存在に照らすと,引用発明2において経口摂取成分を「含有」させる態様には,経口摂取成分を本体の構成材料とは異なる成分に包含させた状態で当該本体の構成材料に含有させる態様も含まれるというべきである。そうすると,審決が,引用発明2は,「体内又は口内に摂取可能な成分が,他の成分に包含された状態で,その構成材料中又はその表面に含有されている点を備えている」と認定したことは,説示として不十分な点があるとしても,誤りとまではいえない。
仮に,審決の上記認定が誤りであるとしても,前記のとおり,体内又は口内に摂取可能な成分を,他の成分に包含された状態で,本体部分の構成材料中又はその表面に含有されることは,引用発明2の出願当時には周知技術であったと認められるのであるから,審決の誤りは進歩性の判断に影響を及ぼすものではない(なお,原告らは,乙1ないし3は,審決取消訴訟において初めて提出されたものであり,審決の認定判断とは異なる周知例の新証拠であるから,新たな拒絶理由の提示に等しいと主張する。しかしながら,乙1ないし3は,本願補正発明の進歩性の判断に当たり,本願補正発明あるいは引用発明2の出願当時に周知であった技術を立証するための証拠にすぎないのであるから,新たな拒絶理由の提示に等しいということはできない。)。
(2) 審決は,上記(1)で検討した説示に引き続き,本願補正発明と引用発明2の用途及び機能等を対比し,引用発明2の「口呼吸防止具」と本願補正発明の「おしゃぶり」は,体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを口内に入れて使用するものである点で共通するとともに,鼻呼吸を促進させるという発明の機能においても共通点を有すると認定している。審決がかかる認定を行ったのは,いずれもおしゃぶりに関する発明である本願補正発明と引用発明1の相違点について,口呼吸防止具である引用発明2を適用することができるかどうかを検討するためであり,審決は,本願補正発明に係る「おしゃぶり」と引用発明2に係る「口呼吸防止具」の上記共通点に照らし,引用発明2を引用発明1に適用して,本願補正発明に係る構成を想到することを妨げる要因はないと判断したものと考えられる。
これに対し,原告らは,審決の上記認定を形式的には正しいとするものの,引用発明2の前庭プレートと本願補正発明の乳首部は,配置場所,配置形態,形状及び機能が異なり,また,本願補正発明と引用発明2とでは,キシリトール等の経口摂取成分が鼻呼吸促進に果たす役割が異なるなどの相違点があると主張する。
しかしながら,本願補正発明に係る「おしゃぶり」と引用発明2に係る「口呼吸防止具」の技術分野の近接性,基本的な機能や使用態様の共通性に照らすと,原告らが主張する両発明の相違点は,いずれも部分的又は些細な差異にすぎないというべきであり,引用発明2を引用発明1に適用して,本願補正発明に係る構成を想到することを妨げるに足るものとはいえない。
(3) 審決は,「分散して」との構成(上記B)に関し,甲3ないし5を根拠に,「体内又は口内に摂取可能な成分が,…その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させることは,本願出願前に周知の技術…である」と認定した。甲3ないし5によれば,審決の認定は是認することができる。
これに対し,原告らは,審決は「体内又は口内に摂取可能な成分が,その構成材料中又はその表面に含有されているものを分散させること」が周知であると認定したにすぎず,本願補正発明の「体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部の構成材料中又は乳首部表面に分散して含有されていること」が周知であると認定したものではないと主張する。原告らの主張は,審決の文言を形式的・表面的に解釈しようとするものであるが,審決全体の文脈に照らせば,審決は,甲3ないし5に基づき,体内又は口内に摂取可能な成分が本体部分の構成材料中又はその表面に分散して含有されていること,すなわち本願補正発明と同様の構成を周知技術と認定したことは明らかである。
また,原告らは,甲3ないし5発明は,本願補正発明や引用発明1とは技術分野が異なり,甲3ないし5に記載された技術をおしゃぶりに適用できることを示唆する記載は一切ないと主張する。しかしながら,甲3ないし5発明は,おしゃぶりと同様,体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを口内に入れて使用するものであるから,甲3ないし5から認定できる周知技術に照らして引用発明2を理解し,あるいはこの周知技術を引用発明1及び2に適用することに何ら支障はないというべきである。
(4) 審決は,「引用発明1における,体内又は口内に摂取可能な成分が,乳首部の外面を形成する弾性壁13に形成された空所14に挿入されている点に替え,上記引用発明2の含有を分散なる態様として本願補正発明のような発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得る」とした上で,「本願補正発明は,上記引用例1及び2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」と判断した。
これに対し,原告らは,@引用発明1と引用発明2とを対比すると,発明の課題及び構成が異なる,A引用発明1と甲3ないし5発明とは,技術分野,課題,形状・形態が大きく異なる,B引用発明2と甲3ないし5発明とは,技術分野,課題が異なるなどとして,引用発明1,2,甲3ないし5発明を組み合わせるのは容易ではなく,仮に,引用発明1に,引用発明2及び甲3ないし5発明を適用すると引用発明1本来の課題を解決することが不可能となると主張する。
しかしながら,引用発明1のおしゃぶりと引用発明2の口呼吸防止具は,いずれも体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを口内に入れて使用する点で共通し,その技術分野は近接しているといえる上,引用発明1の明細書には明示的な記載はないものの,おしゃぶりはその性質上当然に鼻呼吸を促進する機能を有するのであるから,両発明は機能も共通にするということができる。したがって,引用発明2を引用発明1に適用することに阻害要因はないというべきである。
また,前記のとおり,甲3ないし5発明は,おしゃぶりと同様,体内又は口内に摂取可能な成分を含有するものを口内に入れて使用するものであるから,甲3ないし5から認定できる周知技術を引用発明1及び2に適用することについても何ら支障はないというべきである。
さらに,原告らは,引用発明1に,引用発明2及び甲3ないし5発明を適用すると,引用発明1の本来の課題を解決することが不可能になるなどと主張するが,引用発明1に引用発明2等を適用したものが引用発明1の本来の課題解決が可能かどうかは,本願補正発明の進歩性の判断に影響を及ぼすものではなく,原告らの主張は失当である。
(5) 原告らは,本願補正発明は,@母親等が乳幼児用おしゃぶりの内室(空間)に経口摂取成分を入れる必要がなく,何ら手間をかけることなく容易におしゃぶりを乳幼児に与えることができる,A経口摂取成分が他の成分に包含された状態で分散しているので,経口摂取成分を摂取する構成として種々の機能や作用を有する構成(おしゃぶりすればするほど味や臭いを知覚することができる構成,濃度勾配を有する構成,断続的に味や臭いを知覚できる構成等)を採用することができ,従来のおしゃぶりでは到底達成できないような機能や作用(乳幼児の噛む力や吸い付く力の向上(顎の発達),遊び的要素の付加によるおしゃぶり行為の促進等)を付与することが可能となり,乳幼児の鼻呼吸の促進,発育や虫歯予防等に大きく貢献する,などの予期し得ない顕著な作用効果を奏すると主張する。
しかしながら,上記@の作用効果は,経口摂取成分をその構成材料中又は表面に分散して含有させることにより当然奏される効果であり,当業者の予期し得ない格別の作用効果とはいえない。また上記Aの構成(おしゃぶりすればするほど味や臭いを知覚することができる構成,濃度勾配を有する構成,断続的に味や臭いを知覚できる構成等)は,経口摂取成分を他の成分に包含された状態で分散させた場合に可能となる構成を列挙したものにすぎず,その結果生じると原告らが主張する作用効果も当業者の予期し得ない格別なものとは認められない。
(6) 以上によれば,本願補正発明は,引用例1及び2発明及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,その進歩性を否定して本件補正を却下した審決の判断に誤りはないと認められる。そして,本件補正を却下した上で,本願発明と引用発明1,2及び前記周知技術とを対比し,本願発明は当業者が容易に想到することができるとした審決の判断も是認できる。
2 結論 以上のとおり,原告らの主張する審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文