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関連審決 不服2002-21829
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  登録実用新案 /  優先日 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10761号 審決取消請求事件
原告 ユニ・チャーム株式会社
代理人弁理士 正林真之,藤田和子,林一好
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 國田正久,津田俊明,高木彰,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-21829号事件について平成17年9月13日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 原告は,平成13年9月17日(国内優先権主張同年1月9日),発明の名称を「着用対象者案内用表示及びそれを使用した陳列用包装体」とする特許出願(請求項の数15)をした。
(2) 原告は,平成14年10月8日付けの拒絶査定を受けたので,同年11月11日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2002-21829号事件として係属),さらに,同年12月4日付け手続補正書及び平成17年8月3日付け手続補正書(甲9)により,明細書を補正した。
(3) 特許庁は,平成17年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日,その謄本を原告に送達した。
2 請求項1及び15に係る発明の要旨(平成17年8月3日付け補正後のもの。請求項2ないし14に係る発明は省略)「【請求項1】着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群を識別表示する着用対象者案内用表示体であって,日常活動の象徴的な動作の前記着用対象者の図を示した複数の着用対象者図柄のセットからなり,当該セットの中の所定の着用対象者図柄が他の着用対象者図柄よりも大きいものである着用対象者案内用表示部分を備えていることを特徴とする着用対象者案内用表示体。」「【請求項15】着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群を識別表示し,前記着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群が陳列される陳列棚付近の床面に敷設される色案内マットであって,前記着用対象者の中の所定の着用対象者を象徴的に図示した着用対象者図柄を備えており,前記陳列棚が商品群を識別表示する色と同調の色を用いて構成されている色案内マット。」3 審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,後記引用発明1,後記引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項15に係る発明(以下「本願発明15」という。)は,後記引用発明6及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
( ) 引用刊行物に記載された事項及び引用発明 1ア 引用発明1本願の国内優先日前に日本国内において頒布された刊行物である「エリエール の大人用紙おむつ()Rテークケア 商品のご案内」(大王製紙株式会社,特許庁意匠課平成12年1月26日受入,1ページ〜10ページ。以下「引用例1」という。)には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「着用対象者が異なる複数のタイプを設けた大人用紙おむつテークケアを包装するパッケージであって,当該パッケージには,着用対象者が日常活動において行える動作の中で象徴的な動作を示すことにより,包装された大人用紙おむつテークケアの着用対象者を識別表示するイラストであって,少なくとも3種類あるイラストの中から2種類のイラストが同じ大きさで表示されているパッケージ。」イ 引用発明6本願の国内優先日前に日本国内において頒布された刊行物である登録実用新案第3062545号公報(以下「引用例6」という。)には,以下の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されているものと認める。
「複数種類の商品が陳列される商品陳列部の前方側の床面スペース上に,前記商品陳列部における広告対象商品の陳列区画の正面に配置して広告対象商品を識別表示する広告シートであって,当該広告シートの表面には,前記広告対象商品のパッケージに表示された図案の少なくとも一部を反映した広告図案が表示されており,ベージュやグレー系統のやや明るい色調で内装されていることが多い売り場の床面とは異なり,暗い色調の色にてデザインされた広告シート。」( ) 本願発明1について 2ア 本願発明1と引用発明1の対比本願発明1と引用発明1とを対比する。
まず,引用発明1における「大人用紙おむつテークケア」は,着用対象者が異なる複数のタイプが設けられた商品であるから,本願発明1における「同種類もしくは類似する商品群」に相当する。
次いで,引用発明1における「着用対象者が日常活動において行える動作の中で象徴的な動作」は,本願発明1における「日常活動の象徴的な動作」に相当する。それ故,引用発明1における「イラスト」は,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示したものということができ,本願発明1における「着用対象者図柄」に相当する。また,引用発明1における2種類のイラストは,いずれも着用対象者を識別表示するものであるから,これら2種類のイラストを合わせたものは,着用対象者を識別表示するという限りにおいて本願発明1における「複数の着用対象者図柄のセットからなる着用対象者案内用表示部分」に相当する。
そして,引用発明1における「パッケージ」は,大人用紙おむつテークケアを包装するものであり,「イラスト」を表示する表示体と解することもできる。イラストを「表示する」ということは,イラストを「備えている」ことに他ならないのであるから,引用発明1におけるイラストを表示した「パッケージ」は,本願発明1における着用対象者案内用表示を備えた「着用対象者案内用表示体」に相当する。
したがって,両者は「着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群を識別表示する着用対象者案内用表示体であって,日常活動の象徴的な動作の前記着用対象者の図を示した複数の着用対象者図柄のセットからなる着用対象者案内用表示部分を備えている着用対象者案内用表示体。」において一致し,次の点で相違する。
[相違点1]本願発明1では,複数の着用対象者図柄のセットの中の所定の着用対象者図柄が他の着用対象者図柄よりも大きいものであるのに対して,引用発明1では,少なくとも3種類ある,着用対象者が日常活動において行える動作の中で象徴的な動作を示すイラストのうち,2種類のイラストが同じ大きさでパッケージに表示されている点。
イ判断上記相違点1について検討する。
まず,本願の国内優先日前に日本国内において頒布された刊行物である「2000 SPRING NEW PRODUCTelleair 2000年春新商品カタログ」(大王製紙株式会社,特許庁意匠課平成12年1月26()R日受入,19ページ〜26ページ。以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
「大人用紙おむつには,テープ止めタイプ,パンツタイプ又は尿とりパッドといった複数のタイプが設けられており,これら各商品がどのような着用対象者を対象としているかを示す表示として,「ベッドでの生活が長い」,「座ることができる」,「手すりなどの補助があれば立てる」,「杖や歩行器を使えば歩ける」及び「一人で歩ける」といった,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を用いること。」(20ページ)上記の「テープ止めタイプ,パンツタイプ又は尿とりパッドといった複数のタイプ」が設けられた大人用紙おむつは,本願発明1における「同種類もしくは類似する商品群」に相当する。また,上記の「一覧表示」とは,複数のイラスト全てを一つのセットとして表示したものということができ,複数のタイプが設けられた商品のそれぞれが,どのような着用対象者を対象としているかを示すものでもある。それ故,上記の「日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示」は,本願発明1における「複数の着用対象者図柄のセットからなる着用対象者案内用表示部分」に相当する。
そして,引用例2記載の発明のように,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を用いたならば,大人用紙おむつがどのような基準で着用対象者を区分けしているのかが一目瞭然であること,そして,これら着用対象者の区分けを比較することによって自分がどの着用対象者の区分に該当するか,どのタイプの商品が自分に適切であるかを容易に判断し得ることは当業者にとって自明のことである。例えば,大人用紙おむつではないが,毛布の性能を複数段階にランク付けするための区分欄を複数表示した毛布品質表示票を用意し,該当するランクの区分欄を他欄と異なる着色に施した上で前記毛布品質表示票をパッケージに表示することにより,毛布の基本的性能を一目で把握でき,店頭において消費者が容易に自分にあった毛布を選択できることが実願平5-19600号(実開平6-78967号,本訴甲3)のCD-ROM(実用新案登録請求の範囲,段落番号0011及び0012,図1)に記載されている。
そうすると,引用発明1のパッケージにおいて,パッケージ内の商品が対象とする着用対象者だけではなく,引用例2記載の発明のように,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示をパッケージに表示することは,当業者であれば容易に想到できることである。
その際,包装された商品が対象としていない,着用対象者の象徴的な動作のイラストまでもパッケージに表示されることになるので,消費者が誤った商品を購入しないように,包装された商品が対象とする着用対象者図柄を,他の着用対象者図柄よりも目立たせることは当然のことである。そして,ある着用対象者図柄を他の着用対象者図柄より目立たせるためには,他の図柄よりも大きく表示したり(引用例1に記載された「テークケア尿とりパッドレギュラー」,「テークケア夜一枚安心パッド」,「テークケアフラットタイプ」参照。),他の図柄とは異なる色を着色すること(前述の実願平5-19600号(実開平6-78967号)のCD-ROMに記載された実用新案登録請求の範囲及び図1参照。)が通常想定され,これら手段の中から,パッケージ全体のレイアウトや消費者に与える印象を考慮して決定される設計事項にすぎない。
よって,引用発明1のパッケージにおいて,引用例2記載の発明のように,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を表示するとともに,当該一覧表示の中の所定の着用対象者図柄を他の着用対象者図柄よりも大きく表示することは,当業者であれば容易に想到できることである。
そして,本願発明1の作用効果も引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
よって,本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
( ) 本願発明15について 3ア 本願発明15と引用発明6の対比まず,引用発明6における「複数種類の商品」及び「商品陳列部」は,それぞれ本願発明15における「商品群」及び「陳列棚」に相当する。
次いで,引用発明6における「陳列区画の正面」は,商品陳列部の付近ということもできるのであるから,引用発明6における「商品陳列部における・・・陳列区画の正面に配置」は,本願発明15における「陳列棚付近に敷設」に相当する。
また,引用発明6における「広告シート」は,商品陳列部に陳列された複数の商品の中から広告対象商品を識別表示するものであり,広告対象商品がどの商品陳列部に陳列されているかを案内するものということができるから,本願発明15における「案内マット」に相当する。
そして,引用発明6における「広告シート」の表面に表示された「広告図案」は,広告対象商品のパッケージに表示された図案の少なくとも一部を反映したものであり,図柄ということもできるのであるから,本願発明15及び引用発明6は共に「図柄を備えた案内マット」という点で一致する。
したがって,両者は「商品群を識別表示し,前記商品群が陳列される陳列棚付近の床面に敷設される,図柄を備えた案内マット。」において一致し,次の点で相違する。
[相違点2]本願発明15の色案内マットは,着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群を識別表示するために,着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群が陳列される陳列棚付近の床面に施設されているのに対して,引用発明6の広告シートは,商品陳列部に陳列された広告対象商品を識別表示するために,当該広告対象商品の陳列区画の正面に配置されており,同種類もしくは類似する商品群を識別表示しているのか否かが不明な点。
[相違点3]本願発明15の色案内マットが備えた図柄は,着用対象者の中の所定の着用対象者を象徴的に図示した着用対象者図柄であるのに対して,引用発明6の広告シートが備えた図柄は,広告対象商品のパッケージに表示された図案の少なくとも一部を反映した広告図案である点。
[相違点4]本願発明15の色案内マットは,陳列棚が商品群を識別表示する色と同調の色を用いて構成され,それ故に色案内マットと称しているのに対して,引用発明6では,商品陳列部が複数種類の商品を色によって識別表示しているのか否かが不明であり,それ故,広告シートの色も商品陳列部の色と同調の色を用いているか否かが不明な点。
イ判断(ア) 相違点2について着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群としては,例えば,引用例1及び引用例2に記載された大人用紙おむつがある。この大人用紙おむつは陳列棚に陳列して販売されることが一般的であるから,引用発明6の広告対象商品を大人用紙おむつのような,着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群とし,これら商品群を広告シートによって識別表示することは設計事項である。
(イ) 相違点3について着用対象者が異なる,同種類もしくは類似する商品群を広告シートによって識別表示することが設計事項であることは前述のとおりである。
そして,引用発明6における広告シートは,広告対象商品のパッケージに表示された図案の少なくとも一部を反映した広告図案を表示するものであり,これによって広告対象商品が識別され得るのであるから,着用対象者が異なる,大人用紙おむつの商品群が引用発明6の広告シートの広告対象商品となれば,当該広告シートに表示された図柄も,大人用紙おむつの着用対象者を識別できる図柄とする必要がある。
いま,引用例1記載の大人用紙おむつのパッケージには,大人用紙おむつの着用対象者を識別表示する,着用対象者が日常活動において行える動作の中で象徴的な動作を示したイラスト(本願発明15における「着用対象者図柄」に相当。)が表示されているのであるから(上記( )ア参照。),広1告対象商品の着用対象者に該当するイラストを引用発明6の広告シートに表示して,大人用紙おむつの着用対象者を識別表示することは,当業者であれば容易に想到できることである。
(ウ) 相違点4について陳列棚が色を用いて商品群を識別表示することは,例えば特開昭63-92312号公報(3ページ左上欄14行〜同ページ右下欄2行参照。),実願平5-7049号(実開平6-64564号)のCD-ROM(段落番号0010及び0011参照。)等にみられるよう従来周知である。そして,消費者が誤った商品を購入しないように識別表示を充実させることは当業者にとって自明の課題であるから,引用発明6の商品陳列部において,色を用いた商品群の識別表示を採用することは当業者であれば容易に想到できることである。
また,本願の国内優先日前に日本国内において頒布された刊行物である「サンスター新トニックシャンプー」(サンスター株式会社,特許庁意匠課平成12年1月26日受入,9ページ。)には,「トニックの持つ爽快感を前面に出した販促ツールで,売り場での注目度を高め,店頭での販売をバックアップします。」との記載とともに,トニックのボトルの色(青色及び緑色)と同調の色(青色及び緑色)を用いた「定番POP」を陳列棚に取り付け,陳列棚の横には,同じ同調の色(青色及び緑色)を用いた「エアPOP」を設置することが記載されている(9ページの販促ツール参照。)。
つまり,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることは従来から適宜行われており,設計事項である。
したがって,引用発明6において周知技術を採用し,複数種類の商品が陳列される商品陳列部が色を用いて商品の識別表示を行うとともに,その正面に配置される広告シートの色を当該商品陳列部の色と同調の色を用いて構成することは,当業者であれば容易に想到できることである。
(エ) まとめ上記相違点は,いずれも設計事項であるかあるいは想到容易であり,本願発明15の作用効果も引用発明6及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであるから,本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
( ) 審決のむすび4以上のとおり,本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明1及び本願発明15が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶を免れない。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(1) 取消事由1(相違点1の判断の誤り)審決は,「本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断した。
容易想到性について(ア) 引用例2(甲2,乙2)の20頁は,カタログに記載された表示の一部分であって,「テークケア」シリーズのラインナップを説明するために,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を個別に示したものにすぎず,引用例2には,セットとして「一覧表示」を形成することも,また,パッケージに「セット」として「一覧表示」として並べて「表示」することも,記載されていない。
そうであれば,引用例2に「日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を用いること」が記載されているとした審決の認定は誤りであり,また,これに基づく,「上記の「日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示」は,本願発明1における「複数の着用対象者図柄のセットからなる着用対象者案内用表示部分」に相当する。」,「引用例2記載の発明のように,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を用いたならば,大人用紙おむつがどのような基準で着用対象者を区分けしているのかが一目瞭然であること,そして,これら着用対象者の区分けを比較することによって自分がどの着用対象者の区分に該当するか,どのタイプの商品が自分に適切であるかを容易に判断し得ることは当業者にとって自明のことである。」との審決の認定も誤りである。
なお,審決が例示した実願平5-19600号のCD-ROM(甲3)の「毛布品質表示票」は,毛布というひとつの形態でしかありえない物品の品質を色と文字により表示するものであって,着用対象者の日常活動の象徴的な動作を示す人のイラストを複数並べて「セット」として表示する本願発明1とは,物品の品質を表示する点及び表示として色と文字の両者を採用する点で明らかに異なる。
(イ) 特定の図柄を他の図柄より目立たせるために,単に他の図柄よりも大きく表示することは,審決が説示するように,パッケージ全体のレイアウトや消費者に与える印象を考慮して決定される設計事項であるといえる。
しかし,本願発明1は,「日常活動の象徴的な動作の前記着用対象者の図を示した複数の着用対象者図柄のセットからなり,当該セットの中の所定の着用対象者図柄が他の着用対象者図柄よりも大きい」というものであって,単に他の図柄よりも大きく表示するというだけでなく,同時に,複数の着用対象者図柄をセットとして表示するのである。このように,複数の着用対象者図柄をセットとして表示するのみならず,その中で目立たせたい図柄を大きく表示することを組み合わせることは,単なる設計事項であるとはいえない。
(ウ) 引用発明1のパッケージは,「2種類のイラストが同じ大きさで表示されている」のであって,2種類のイラストを合わせたものは,単に商品の対象者となるべき者の図柄を並べて付設しているにすぎず,引用発明1のパッケージ(本願発明1の「着用対象者案内用表示体」に相当する。)には,同時に表示されている図柄の中で,取り立てて強調したい図柄を明らかにする意思がないから,引用発明1のパッケージにおいて,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を表示するとともに,当該一覧表示の中の所定の着用対象者図柄を他の着用対象者図柄よりも大きく表示することは,当業者であっても容易に想到することができない。
イ 顕著な作用効果について本願発明1は,「複数の着用対象者図柄のセット」が表示され,かつ,「当該セットの中の所定の着用対象者図柄が他の着用対象者図柄よりも大きい」という構成を採用し,これにより,着用対象者が異なる同種類又は類似する商品群がある場合に,この中から所望の商品を購入しようとする者(本人や介助者)に対し,商品がそれぞれどのように区分されているかを一つのパターンとして認識させるとともに,商品群全体の中でその商品の着用対象者を一見して把握させ,誤認識による購入ミスを解消するという顕著な作用効果を発現するものであって,この作用効果は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものではない。
ウ したがって,「本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断は,誤りである。
(2) 取消事由2(相違点4の判断の誤り)審決は,「本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断した。
容易想到性について引用発明6の広告シートは,審決が認定するように,「ベージュやグレー系統のやや明るい色調で内装されていることが多い売り場の床面とは異なり,暗い色調の色にてデザインされた広告シート」であって,これに対応する陳列棚の同調色は,暗い色調となる必要があるから,引用発明6に基づけば,「陳列棚が商品群を識別表示する色」は,暗い色調の色となることが前提である。これに対し,審決が引用する「サンスター新トニックシャンプー」のカタログ(甲7,乙3)で用いられている青色及び緑色は,明るい色調の色であるから,暗い色調の色の広告シートである引用発明6に,明るい色調の色を用いる「サンスター新トニックシャンプー」のカタログを周知技術として組み合わせることには,阻害要因がある。
また,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログは,マットの色が商品の色と同調していないから,同調した色によって購入者を適切な商品に「案内する」という本願発明15の持つ機能を果たすことができないのであって,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることが従来から行われているものであるとしても,同一商品内の異なるタイプにマットの色を合わせる本願発明15の「色案内マット」を想到することはできない。
そうであれば,引用発明6において,複数種類の商品が陳列される商品陳列部が色を用いて商品の識別表示を行うとともに,その正面に配置される広告シートの色を当該商品陳列部の色と同調した色を用いて構成することは,当業者であっても容易に想到することができない。
イ 顕著な作用効果について本願発明15は,請求項15に記載された構成を採用し,これにより,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明に記載されたように,「一般消費者としては,色調を頼りにして,すんなりと商品が選べることになり,一般消費者の便宜が図られることになる。また,色調の統一が図られることから,陳列場所の雰囲気が統一されたものとなり,雑然とした雰囲気の陳列場所と比較して,「買いやすい」という印象を一般消費者に与え(陳列場所環境の改善),購買意欲の増大を通じて店舗の売上向上にも寄与することが期待できる。」(段落【0041】),「そして,例えば,一般消費者たる購入者の中でも,他者からの介助が必要なぐらいのハンディを身体に背負っている者にとっては,現在の自分の状態に合う商品を一見して判別することができ,商品購入の際の便宜が図られる。」(段落【0084】)という顕著な作用効果を奏するものであって,この作用効果は,引用発明6及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものではない。
ウ したがって,「本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断は,誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1(相違点1の判断の誤り)に対してア 容易想到性について(ア) 引用例2の20頁には,「日常生活の状態」という項目に,「ベッドでの生活が長い」,「座ることができる」,「手すりなどの補助があれば立てる」,「杖や歩行器を使えば歩ける」及び「一人で歩ける」といった,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラストが,横に並べて表示されている。
このように,同一の頁に表示されているだけではなく,すべて「日常生活の状態」という項目名のところに並んで示されているから,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラストが「一覧表示」といえることは明らかである。
また,審決は,引用例2に,パッケージに「セット」として「一覧表示」として並べて「表示」することが記載されていることまでは認定していない。
なお,実願平5-19600号のCD-ROM(甲3)の「毛布品質表示票」は,「同種類もしくは類似する商品群を識別表示する案内用表示体」といえる点で本願発明1と共通しているから,表示として,文字を使用しようが,図を使用しようが,同種類もしくは類似する商品群を識別表示する機能自体に,何ら変わるところはない。
(イ) 特定の図柄を他の図柄より目立たせるために,他の図柄よりも大きく表示するか,他の図柄と異なる色を着色するかは,当業者にとって単なる設計事項にすぎないから,実願平5-19600号のCD-ROM(甲3)の記載からみても,引用発明1のパッケージにおいて,引用例2記載の発明のように,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を表示するとともに,当該一覧表示の中の所定の着用対象者図柄を他の着用対象者図柄よりも大きく表示することは,当業者であれば容易に想到することができるものである。
イ 顕著な作用効果について同一の構成からは同一の作用効果が奏されるはずであるから,上記アのとおり,相違点1について,当業者が容易に想到することができる構成を採用したものにあっては,本願発明1と同様の作用効果が奏されることは明らかである。
ウ したがって,「本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点4の判断の誤り)に対してア 「サンスター新トニックシャンプー」のカタログには,審決が認定するように,「トニックの持つ爽快感を前面に出した販促ツールで,売り場での注目度を高め,店頭での販売をバックアップします。」との記載とともに,トニックのボトルの色(青色及び緑色)と同調した色(青色及び緑色)を用いた「定番POP」を陳列棚に取り付け,陳列棚の横には,同じ同調した色(青色及び緑色)を用いた「エアPOP」を設置することが記載されているから,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることは,従来から行われている設計事項である。
そして,審決は,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログの記載から,「陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させる」という技術思想のみを抽出したのであって,青色及び緑色のような特定の色を用いて陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることまでをも抽出したわけではないから,引用発明6に,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログから抽出した周知技術を組み合わせることに困難はない。また,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログが青色及び緑色のような明るい色調の色を用いているのは,トニックの持つ爽快感を打ち出すためであると解されるところ,他の商品であれば,当然に他の色を用いることが考えられるから,「陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させる」という技術事項が,明るい色調の色に限られるわけでもない。
そうであれば,引用発明6において,周知技術を採用し,複数種類の商品が陳列される商品陳列部が色を用いて商品の識別表示を行うとともに,その正面に配置される広告シートの色を当該商品陳列部の色と同調した色を用いて構成することは,当業者であれば容易に想到することができるものである。
イ したがって,「本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断に,誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について(1) 容易想到性についてア 引用例2(甲2,乙2)の19頁には,「テークケア らくらくパンツうす型すっきりタイプ」の男性用及び女性用,「テークケア らくらくパンツ長時間しっかりタイプ」の男性用及び女性用並びに「テークケア テープ止めタイプ」の写真が掲載され,その左上に「エリエールの大人用紙おむつ テークケア」と記載されている。
引用例2の20頁は表であり,その縦欄には,「日常生活の状態」,「尿量 少ない・・・多い」との欄が設けられている。「日常生活の状態」の欄は上下2つの欄に区分され,上欄には,「一人で歩ける」,「杖や歩行器を使えば歩ける」,「手すりなどの補助があれば立てる」,「座ることができる」,「ベッドでの生活が長い」との横欄が区分して設けられ,下欄には,上欄の区分に対応して,一人で歩いている人間のイラスト,杖をついて歩いている人間のイラスト,手すりをつかんで立っている人間のイラスト,椅子に座っている人間のイラスト,ベッドに寝ている人間のイラストが記載されている。また,「尿量 少ない・・・多い」の欄には,「らくらくパンツうす型すっきりタイプ」(男性用,女性用)及び「らくらくパンツ長時間しっかりタイプ」(男性用及び女性用),「テープ止めタイプ」及び「テープ止めタイプレギュラー」,「尿とりパッドレギュラー」,「尿とりパッドスーパー」及び「夜一枚安心パッド」の商品タイプが,それぞれの商品タイプに用いられている色の楕円により,対象とする日常生活の状態及び尿量に対応する範囲を表示している。
イ 上記アによれば,引用例2は,「日常生活の状態」の「一人で歩ける」,「杖や歩行器を使えば歩ける」,「手すりなどの補助があれば立てる」,「座ることができる」,「ベッドでの生活が長い」との文字とそれぞれの象徴的な動作を示す人間のイラストにより,各種の大人用の紙おむつ商品が,どのような日常生活の状態及び尿量の人間を着用の対象としているかを一覧表示しているものであると認められる。そうすると,引用例2に記載された「一覧表示」は,これにより,複数のタイプの大人用紙おむつがそれぞれ着用対象者を区分けしている基準及び着用対象者を明瞭に把握することができるものであるから,引用例2記載の「一覧表示」を用いれば,複数のタイプの大人用紙おむつがどのような基準で着用対象者を区分けしているのかが一目瞭然となり,これら着用対象者の区分けを比較することによって自分がどの着用対象者の区分に該当するか,どのタイプの商品が自分に適切であるかを容易に判断することができるようになるのであって,このことは,当業者であれば自明のことである。
そして,実願平5-19600号のCD-ROM(甲3)の毛布品質表示票は,審決が認定するように,「毛布の性能を複数段階にランク付けするための区分欄を複数表示した毛布品質表示票」で,「該当するランクの区分欄を他欄と異なる着色に施した上でパッケージに表示する」ものであり,これにより,毛布の基本的性質を一目で把握でき,店頭において消費者が容易に自分にあった毛布を選択することができるという効果を有するものであるから,本願発明の特許出願時において,複数の種類の商品の特性を示す表示をセットとして表示し,当該商品の特性を示す表示を他の表示より目立たせておくことで,商品の特性を一目で把握することができ,店頭において消費者が容易に自分にあった商品を選択することができるようにする商品特性表示は,周知の技術事項であったということができる。
ウ そうすると,引用例1(甲1)のパッケージにおいて,引用例2に記載された「一覧表示」を用いて,その着用対象者を表示するようにすることは,当業者であれば容易に想到することができるというべきである。
そして,引用例1の着用対象者案内表示に代えて,引用例2に記載された「一覧表示」を用いる場合には,着用対象者以外の表示も同時に表示することとなるが,上記イのとおり,複数の種類の商品の特性を示すセットの表示のうち,当該商品の特性を示す表示を他の表示より目立たせることは従来周知の技術事項であるし,そもそも,このような場合に,着用対象者の表示を着用対象者以外の表示より目立たせるようにするのは当然である。また,複数の図柄等の表示を備えたものにおいて,目立たせる図柄等の表示を他の表示に比べて大きくすることは,慣用されている態様であるから,商品が対象とする着用対象者の表示を着用対象者以外の表示よりも目立たせるために,着用対象者の表示を大きくする程度のことは,当業者が適宜なし得ることというべきである。
エ 原告の主張について(ア) 原告は,引用例2の20頁は,カタログに記載された表示の一部分であって,「テークケア」シリーズのラインナップを説明するために,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を個別に示したものにすぎず,引用例2には,セットとして「一覧表示」を形成することも,また,パッケージに「セット」として「一覧表示」として並べて「表示」することも,記載されていないと主張する。
確かに,引用例2は,「2000 SPRING NEW PRODUCTelleair2000年春新商(R)品カタログ」であり,引用例2に記載された「一覧表示」は,カタログに記載された表の一部分であるが,上記イのとおり,引用例2の20頁の表は,「日常生活の状態」の文字と象徴的な動作を示す人間のイラストにより,各種の大人用の紙おむつ商品が,どのような日常生活の状態及び尿量の人間を着用の対象としているかを一覧表示しているものであって,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を個別に示したものではなく,人間のイラストを「セット」として「一覧表示」として並べて「表示」しているものである。
なお,原告は,実願平5-19600号のCD-ROM(甲3)の「毛布品質表示票」は,毛布というひとつの形態でしかありえない物品の品質を色と文字により表示するものであって,着用対象者の日常活動の象徴的な動作を示す人のイラストを複数並べて「セット」として表示する本願発明1とは,物品の品質を表示する点及び表示として色と文字の両者を採用する点で明らかに異なると主張するが,上記イで述べたと同様,審決が実願平5-19600号のCD-ROMを引用したのは,商品の特性を示す複数の表示をセットとして表示し,かつ,商品の特性を示す表示を他の表示より目立たせておくことで,当該商品の特性を一目で把握することができ,店頭において消費者が容易に自分にあった商品を選択することができるようにする商品特性表示が,本願発明の特許出願当時,周知の技術事項であったことを示すためであると考えられるから上記CD-ROMに記載されたものが本願発明1と上記の点で異なるとしても,結論に影響を及ぼすものではない。
(イ) また,原告は,本願発明1は,単に他の図柄よりも大きく表示するというだけでなく,同時に,複数の着用対象者図柄をセットとして表示するものであるところ,複数の着用対象者図柄をセットとして表示するのみならず,その中で目立たせたい図柄を大きく表示することを組み合わせることは,単なる設計事項であるとはいえないと主張する。
しかしながら,上記ウのとおり,引用例1の着用対象者案内表示に代えて,引用例2に記載された「一覧表示」を用いる場合には,着用対象者の表示を着用対象者以外の表示より目立たせるようにするのは当然であり,かつ,商品が対象とする着用対象者の表示を着用対象者以外の表示よりも目立たせるために,着用対象者の表示を大きくする程度のことは,当業者が適宜なし得ることであるから,単なる設計事項にすぎないというべきである。
(ウ) 原告は,引用発明1のパッケージには,同時に表示されている図柄の中で,取り立てて強調したい図柄を明らかにする意思がないから,引用発明1のパッケージにおいて,日常活動の象徴的な動作の着用対象者の図を示した複数のイラスト全てからなる一覧表示を表示するとともに,当該一覧表示の中の所定の着用対象者図柄を他の着用対象者図柄よりも大きく表示することは,当業者であっても容易に想到することができないと主張する。
しかしながら,引用発明1のパッケージは,着用対象者のみを図柄で表示しているものであって,着用対象者の図柄は,購入者が商品の着用対象者を明瞭に認識することができるようにするために表示されているから,図柄を同じ大きさで並べて付設しているとしても,これは,購入者が商品の着用対象者を同等に認識することができるようにするためにすぎない。そうであれば,引用発明1のパッケージにおいて,同時に表示されている図柄の中で強調したい図柄を明らかにする意思がないということはできないから,一覧表示の中の所定の着用対象者図柄を他の着用対象者図柄よりも大きく表示することは,当業者であれば容易に想到することができるものである。
(2) 顕著な作用効果について上記(1)イのとおり,引用例2記載の「一覧表示」を用いれば,複数のタイプの大人用紙おむつがどのような基準で着用対象者を区分けしているのかが一目瞭然となり,これら着用対象者の区分けを比較することによって自分がどの着用対象者の区分に該当するか,どのタイプの商品が自分に適切であるかを容易に判断することができるようになるのであるから,引用例1の着用対象者案内表示に代えて,引用例2に記載された「一覧表示」を用い,かつ,着用対象者の表示を大きくした場合には,商品がそれぞれどのように区分されているかを一つのパターンとして認識させるとともに,商品群全体の中でその商品の着用対象者を一見して把握させ,誤認識による購入ミスを解消するという作用効果を発現することは,当業者であれば予測することができる範囲のものである。
(3) したがって,「本願発明1は,引用発明1,引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点4の判断の誤り)について(1) 容易想到性についてア 審決がした本願発明15と引用発明6との一致点及び相違点2ないし4の認定並びに相違点2及び3についての判断は,当事者間に争いがない。
イ そして,特開昭63-92312号公報(甲4)には,コーヒー販売を例として,「前記表示板(3)は,その表面の地(3a)が前記味覚要素毎に色彩によつて色分けされ,もつて味覚要素によつて分けられた複数群の各群が視認識別可能に区別されている。例えば,前記具体例に準じて説明すれば,「ハイグレードで上品な口あたりのタイプ」をレッドとし,「マイルドな口当たりのタイプ」をグリーンとし,「まろやかな苦みと豊かなコクのタイプ」をブラウンとし,「上品な酸味のきいたタイプ」をイエローとすることによつて色彩による色分けが行われて区別されている。」(3頁右上欄8ないし18行)との記載があり,また,実願平5-7049号(実開平6-64564号)のCD-ROM(甲5)には,ビデオソフト又はオーディオソフト等の販売を例として,「商品陳列棚1の最上部に設けた表示板12が色分け区分してあるので,その色彩区分に応じて,その下方に該当ジャンルの商品を陳列することで,商品のジャンル別の識別あるいは検索が容易となる。」(【0011】)との記載があるところ,これらの記載によれば,複数の商品種別を持つ商品を陳列棚に陳列するに当たって,複数の商品種別を色により区別して,購入者が容易に求める商品を認識区別できるようにすることは,本願発明の特許出願時において,周知であったことが認められる。
ウ 他方,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログ(甲7,乙3)には,審決が認定するように,トニックのボトルの色(青色及び緑色)と同調した色(青色及び緑色)を用いた「定番POP」を陳列棚に取り付け,陳列棚の横には,同じ同調した色(青色及び緑色)を用いた「エアPOP」を設置することが記載されており,これによれば,陳列棚と陳列棚付近の広告用部材の色調を統一することも,従来周知の事項であったと認められる。そして,色調を統一すると,陳列棚の商品配置部分を目立たせることができることは明らかであるから,引用発明6の広告シートを,特開昭63-92312号公報や実願平5-7049号(実開平6-64564号)のCD-ROMに記載されているような,複数の商品種別を色により区別して陳列棚に陳列した商品に適用する場合において,商品種別が認識区別できるように,引用発明6の広告シートの色調を各商品種別に係る色に対応した色調とする程度のことは,当業者が適宜なし得ることである。
エ 原告の主張について(ア) 原告は,引用発明6に基づけば,「陳列棚が商品群を識別表示する色」は,暗い色調の色となるのに対し,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログで用いられている青色及び緑色は,明るい色調の色であるから,暗い色調の色の広告シートである引用発明6に,明るい色調の色を用いる「サンスター新トニックシャンプー」のカタログを周知技術として組み合わせることには阻害要因があると主張する。
しかしながら,引用例6には,「図4(a)は,広告シート3のデザイン例を示している。ここで,一般の店舗の多くにおいては,売り場の床面が,ベージュやグレー系統のやや明るい色調で内装されていることが多い。・・・この場合,広告シート3の全体が明るい色調の色にてデザインされていると,広告シート3の表示内容が周囲の床色中に埋没してしまい,少し離れたところ,例えば5m以上の距離からは,通常採用されている照明強度では広告シート3の存在を識別しにくくなってしまう問題を生ずる。そこで,鋭意実験を繰り返した結果,広告シート3の表面全体面積の30%以上を・・・暗い色調の色にてデザインするか,あるいは広告シート3の周縁から1cmまでの外周領域に関して,その60%以上を・・・暗い色調の色にてデザインすることにより,5m以上離れた位置からも明確に広告シート3の識別が可能となり,歩行者等の注意を十分に惹き付けられることが判明した。」(段落【0021】)との記載があるから,引用発明6の広告シートは,その表面の一部(全体面積の30%以上,あるいは,広告シート3の周縁から1cmまでの外周領域に関してその60%以上)が暗い色調の色とされるのであるが,その他の表面表示に用いる色が特に制限されるものではないから,引用発明6の広告シートの暗い色調の色とされる部分以外の表面表示を,明るい色調の色を用いて構成することは阻害されないし,商品棚の識別表示に用いる色と同調させる構成とすることも阻害されない。
審決の説示によれば,審決が「サンスター新トニックシャンプー」のカタログを例示したのは,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることが従来から行われていることを示すためであると認められる。そして,例えば,特開昭63-92312号公報に,「・・・前記具体例に準じて説明すれば,「ハイグレードで上品な口あたりのタイプ」をレッドとし,「マイルドな口当たりのタイプ」をグリーンとし,「まろやかな苦みと豊かなコクのタイプ」をブラウンとし,「上品な酸味のきいたタイプ」をイエローとすることによつて色彩による色分けが行われて区別されている。」(3頁右上欄12ないし18行)との記載があるように,商品棚の識別表示にはさまざまな色が用いられているのであって,どの色を用いるかについては,陳列棚の周囲の環境に応じて適宜選択することができるのであって,特段の制限があるとは認められない。
そうであれば,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログに記載のものが明るい色調の色であるとしても,陳列棚付近に設置する広告用部材の色と陳列棚の色が明るい色調に限定されるものでもないし,陳列棚の色と陳列棚付近に設置する広告用部材の色とを同調させるに当たり,暗い色調の色にすることを困難とする事情もないから,引用発明6に「サンスター新トニックシャンプー」のカタログに記載されている周知技術を組み合わせることに阻害要因があるとは認められない。
(イ) 原告は,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログは,マットの色が商品の色と同調していないから,同調した色によって購入者を適切な商品に「案内する」という本願発明15の持つ機能を果たすことができないのであって,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることが従来から行われているものであるとしても,同一商品内の異なるタイプにマットの色を合わせる本願発明15の「色案内マット」を想到することはできないと主張する。
しかしながら,上記(ア)のとおり,審決が「サンスター新トニックシャンプー」のカタログを例示したのは,陳列棚付近に設置する広告用部材の色を陳列棚の色と同調させることが従来から行われていることを示すためであるから,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログ自体によって,同調した色により購入者を適切な商品に「案内する」という本願発明15の効果を奏するに至ることができないとしても,結論に影響を及ぼすものではない。
しかも,「サンスター新トニックシャンプー」のカタログが,マットの色を商品の色と同調した色にしていないとしても,マットの色をどのようにするのかについては,目的に応じて適宜なし得る程度のことにすぎないから,引用発明6の広告シートの色を陳列棚の色と同じにすることを阻害するものともいえない。そして,引用発明6の広告シートを,上記イのとおり,従来周知の陳列手法である複数の商品種別を持つ商品を色表示により区別して購入者が求める商品を容易に認識区別できるようにしたものに用いる場合には,広告シートの色表示も,これに対応させて商品種別を容易に識別可能なようにすること,すなわち,同一商品内の異なるタイプにマットの色を合わせることは,当業者であれば当然考慮すべき設計的要素である。
(2) 顕著な作用効果について原告は,本願明細書に記載された本願発明15の作用効果が,引用発明6及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものではないと主張する。
しかしながら,審決が説示するように,「引用発明6における「広告シート」は,商品陳列部に陳列された複数の商品の中から広告対象商品を識別表示するものであり,広告対象商品がどの商品陳列部に陳列されているかを案内するものということができる」ことは当事者間に争いがなく,このことに上記(1)イ,ウで認定した各周知事項を併せ考えれば,引用発明6の広告シートに上記各周知事項を適用して本願発明15の構成とした場合に奏する作用効果が,引用発明6及び上記各周知事項によって当業者が予測し得る範囲内のものであることは明白である。
(3) したがって,「本願発明15は,引用発明6及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は,理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 石原直樹
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文