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関連審決 不服2002-17364
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  技術常識 /  化学構造 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10715号 審決取消請求事件
原告 シェーリング・プラウコーポレイション (旧名称・シェーリング コーポレイション)
訴訟代理人弁護士 深井俊至
同佐久間幸司
訴訟代理人弁理士 社本一夫
同中田隆
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 森田 ひとみ
同 吉住和之
同 唐木 以知良
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-17364号事件について平成17年5月24日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成4年6月8日,発明の名称を「クロロフルオロカーボン不含エーロゾル製剤」とする発明につき,特許出願(パリ条約による優先権主張,優先日平成3年6月10日,米国。特願平5-500906号。以下「本願」という。)をしたが,特許庁が平成14年6月3日に拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,これを不服2002-17364号事件として審理し,その係属中,原告は,平成14年10月9日付け手続補正書をもって,本願に係る明細書について特許請求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書を「本願明細書」という。)。
そして,特許庁は,審理の結果,平成17年5月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年6月3日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成14年10月9日付け手続補正書による補正後の本願の特許請求の範囲は,請求項1ないし9から成り,その請求項5の記載は次のとおりである。
「【請求項5】 吸入用エアゾール組成物であって:A.モメタゾンフロエート;B.1,1,1,2-テトラフルオロエタン;およびC.賦形剤;界面活性剤;保存剤;バッファー;酸化防止剤;甘味料;および風味マスキング剤から選択される,場合により存在してもよい一つあるいは複数の成分から本質的に成る組成物。」(以下,請求項5に係る発明を「本願発明」という。なお,後述の「HFC-134a」,「プロペラント134a」及び「P134a」は,いずれも請求項5のB成分である「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」と同義であり,同じ化合物を意味する。)3 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,引用例1(特開平2-200627号公報。甲4),引用例2(特開昭57-146800号公報。甲5)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
本件審決は,本願発明と引用例1記載の発明(以下「引用例1発明」という。)との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)吸入用エアゾール組成物であって,医薬,1,1,1,2-テトラフルオロエタン,賦形剤及び界面活性剤から本質的に成る組成物である点。
(相違点)含有する医薬が,本願発明ではモメタゾンフロエートであるのに対し,引用例1ではモメタゾンフロエートに特定されていない点。
当事者の主張
1 原告主張の本件審決の取消事由本件審決が認定した本願発明と引用例1発明の一致点及び相違点は認める。
しかし,本件審決は,相違点の判断を誤り(取消事由1),本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由2)結果,本願発明について,引用例1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,違法として取消しを免れない。
(1) 取消事由1(相違点の判断の誤り)ア 本件審決は,「引用例1のエアゾール製剤には各種の医薬を含有しうることが記載されており(2.(A4)),この製剤は特定の薬理作用や構造を有する薬効成分に限定されるものでないことは明らかである。
そして,引用例1の実施例10-12には,ジプロピオン酸ベクロメタゾン,界面活性剤,エタノール,P134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)を含むエアゾール製剤の処方も具体的に示されている(2.(A5))。一方,引用例2には,9α,21-ジクロロ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン-11β,17α-ジオール-3,20-ジオン 17-(2’-フロエート)が抗炎症剤として使用でき,エーロゾル(エアゾール)等の剤形にすることができることが記載されている(2.(B1))(2.(B2))。当該化合物はモメタゾンフロエートに相当し( 第 THE MERCH INDEX ELEVENTH EDITION982頁 6151の化合物の項参照)(判決注・甲6。なお,「」は「 K」の誤記である。),ジプロピオン酸ベクロメタ MERCH MERCゾンと同じ薬理作用を有し,その化学構造も引用例1で例示のベクロメタゾンに極めて近似していることは当業者が容易に理解しうるところである。そうすると,引用例1記載の発明において医薬成分としてモメタゾンフロエートを用い,エアゾール組成物とすることは当業者が容易に想到し得たものである。」(審決書5頁1行〜19行)と判断しているが,次に述べるとおり誤りである。
(ア) 本願発明のモメタゾンフロエートとベクロメタゾン・ジプロピオン酸(引用例1の実施例記載のジプロピオン酸ベクロメタゾンと同じ化合物)との化学構造を比較すると,三つの6員環と一つの5員環から構成される主骨格自体とその主骨格の三つの6員環に結合した置換基を有する点では両者に相違がないものの,主骨格の5員環に結合した置換基が,モメタゾンフロエートではCl-CH -CO-(クロロアセチル225 2基)であるの対し,ベクロメタゾン・ジプロピオン酸ではC H COO-CH-CO-(プロピオニルオキシ-アセチル基)である点で相違する(甲6,7)。
(イ) ところで,甲8(化学大辞典)には,クロロアセチル基を有する化合物であるα-クロロアセトフェノン及びクロロアセトンの用途として,これらの化合物がいずれも医薬品等の合成中間体として用いられることが記載されているところ(667頁),当業者は,上記用途が,クロロアセチル基が有する塩素原子の反応性の高さに起因することを理解するものである。
また,甲8には,クロロアセチル基を主要構成部分とするクロロ酢酸が,アミノ酢酸やグリコール酸の合成原料として重要であること,クロロ酢酸がCl-CH -CO-OH,アミノ酢酸がNH-CH -CO-OH,グリ222コール酸がHO-CH -CO-OHの各化学構造を有することが記載されてお 2り(635頁,636頁,671頁),これらの化学構造から,クロロ酢酸を使用するアミノ酢酸やグリコール酸の合成においては,クロロアセチル基の塩素原子が置換反応を受けることが明らかである。
(ウ) 一方,ジプロピオン酸ベクロメタゾンが有するプロピオニルオキシ-アセチル基は,反応性が低い。このことは,プロピオニルオキシ基(C H COO-)が,反応性ヒドロキシ基を不活性にするために「保護25基」として広く使用されるアセチル基が当該反応性ヒドロキシ基を保護した結果生成するアセチルオキシ基(CH COO-)と極めて近似した3構造であることから,当業者にとって疑いのないところである。
また,甲8中の「保護」の項(2219頁)には,保護基が「化合物のある官能基のみに反応させたいときは,それ以外のより反応しやすい官能基を,その反応中には反応しない」ようにするとの記載があり,また,例として,水酸基はアセチル化などで保護されるとの記載がある。そして,水酸基がヒドロキシ基と同義であり,アセチル化がアセチル基を導入する反応であることは当業者にとって周知である。
さらに,甲9(理化学辞典(第5版))には,保護基が官能基を不活性化するものであることが記載され,ヒドロキシ基の保護基としてアセチル基が例示されている。
(エ) こうしたことから,当業者は,高い反応性のクロロアセチル基を有するモメタゾンフロエートは,化合物全体としても,引用例1記載のジプロピオン酸ベクロメタゾンよりも,かなり高い反応性を有し,他の化合物の共存下では,相対的に不安定であると考えるのが通常であるため,当業者は,ジプロピオン酸ベクロメタゾン及びP134aを含むエアゾール製剤の処方が引用例1に具体的に示されているからといって,その製剤のジプロピオン酸ベクロメタゾンをモメタゾンフロエートに置き換えようと考えるものではない。
このことは,引用例2にモメタゾンフロエートを含む不特定多数の式Tの化合物をエーロゾル等の剤形にすることが記載されていることによっても影響されものではない。引用例2は,モメタゾンフロエートという特定の化合物の安定性を考慮することなしに,引用例2の式Iの化合物全般について,エーロゾルへの製剤化の可能性に言及したにすぎないからである。
イ 以上のように,引用例1発明において,当業者が医薬として引用例2記載のモメタゾンフロエートを使用することに容易に想到し得たものではないから,本件審決が,相違点に係る本願発明の構成を容易想到と判断したことは誤りである。
(2) 取消事由2(顕著な効果の看過)Report 2 Preformulation Screening Study of ア 甲10(原告作成の「HFC-134a: An Alternate Propellant For Metered Dose Inhalation Aerosols」と題する書面の「表8」)は,アルブテロール,モメタゾンフ (MDI's)ロエート,ベクロメタゾンジプロピオネート(引用例1記載のジプロピオン酸ベクロメタゾンと同じ)及びベクロメタゾンジプロピオネートP-11包接体をそれぞれ医薬とし,HFC-134aを噴射剤として,賦形剤や界面活性剤とともに,又はそれらなしで調製されたエアゾール組成物の性能スクリーニングの研究結果のうち,上記各医薬(表8でいう薬剤)と噴射剤であるHFC-134aだけからなるエアゾール製剤における医薬成分の安定性を,一定温度で一定期間保管した後のエアゾール製剤からの薬剤回収率で示したものである。ここに,薬剤回収率とは,表8記載の各薬剤と噴射剤であるHFC-134aとの混合物を容器に充填してから表8に示された所定温度で所定期間保管した後,その内容物を取り出し,噴射剤を気化させ,その残存物の一部を試料とし,その中に含まれる未劣化薬剤の含有量を測定し,次いで,その測定値を使用した試料の全重量を基準としてパーセントで表示したものである。
表8のうち「バッチ#26406-118D」は,医薬に本願発明のモメタゾンフロエートを使用し,「バッチ#26406-118E」は,医薬にベクロメタゾンジプロピオネートを使用したものであるが,両者を比較すると,モメタゾンフロエート(「バッチ#26406-118D」)の薬剤回収率が,実験開始直後を除き,ベクロメタゾンジプロピオネート(バッチ#「26406-118E」)よりも高いことがわかる。このことは,モメタゾンフロエートが,他の化合物の共存下では,ジプロピオン酸ベクロメタゾンよりも相対的に不安定であると考えられることからすると意外なことである。
イ したがって,医薬にモメタゾンフロエートを使用した本願発明は,医薬にベクロメタゾンジプロピオネートを使用した引用例1の実施例記載のエアゾール製剤と比較し,薬剤回収率が高くなるという顕著な効果が認められるから,本件審決が,「本願発明に格別顕著な効果も認められない。」(審決書5頁34行)と判断したのは誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア モメタゾンフロエートは,甲6に「メタノール溶液から結晶 融点218-220°[α]26D+58.3°(ジオキサン)UVmax(メタノール)247nm(ε26300) 治療:局部の抗炎症作用」と記載されているとおり,物質として純粋に単離され,その構造も薬理作用も確定されている化合物であるから,そのような分析や実験を行うに足りる十分な安定性を有する化合物であることは,当業者であれば当然に理解されるものである。
そして,化合物の安定性は,単に反応性の置換基を有するか否かによって論じることはできず,構造の一部に反応性に富むと考えられる基が存在しても,化学反応が起こる条件下におかれなければ化学反応は進行しない(したがって,安定に存在する)というのが当業界の常識であり,通常化学反応の開始には活性化エネルギーが必要とされ,そのようなエネルギーが供給されない状態では化学反応は起こらないと考えられている(乙1)。すなわち,化合物がその構造の一部に反応性の置換基を有していても,その基を活性状態にするエネルギー(熱や紫外線エネルギーなど)が供給されなければ反応は開始しないのである。
また,医薬の製剤化に当たっては,通常,有効成分の安定性に極力影響を与えない賦形剤が選択される上,有効成分が有効量を維持する条件(有効成分が変化しない条件;即ち反応に必要な活性化エネルギーが供給されない条件)で保管されることもまた常識であるから,反応性の高い基が存在することが直ちに医薬製剤としたときの安定性を否定することにはならない。実際,ジプロピオン酸ベクロメタゾンもモメタゾンフロエートも製剤化した後も共に室温保存が可能な程度の安定性を有しており(乙2,3),両者の安定性に大差がない。
イ 原告自身の特許出願に係る公開特許公報である引用例2(甲5)には,「(1) 次の一般式(I)で示される3,20-ジオキソ-1,4-プレグナジエン-17α-オール17-芳香族複素環式カルボキシレート類またはその6-デヒドロあるいは1,2-ジヒドロ誘導体類。・・・」(特許請求の範囲第1項),「(6) 前記化合物は・・・9α,21-ジクロロ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン-11β,17α-ジオール-3,20-ジオン 17-(2’-フロエート);・・・からなる群から選択される特許請求の範囲第1項に記載の化合物。」(特許請求の範囲第6項),「(14) 薬剤として使用する,特に抗炎症剤として使用する特許請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載の化合物。」(特許請求の範囲第14項),「(15) 製剤用担体と共に活性成分として特許請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載の化合物を含有することからなる特に抗炎症剤として使用する薬学組成物。」(特許請求の範囲第15項),「・・・式Iの化合物は・・・エーロゾル・・・などの剤形にすることができる。・・・あるいは点鼻用噴霧剤の剤形にすることもできる。」(27頁左下欄16行〜右下欄3行)との記載がある。
そして,引用例2の特許請求の範囲第1項の一般式(I)や第6項の「9α,21-ジクロロ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン-11β,17α-ジオール-3,20-ジオン 17-(2’-フロエート)」(本願発明のモメタゾンフロエートに相当する化合物)の名称から,モメタゾンフロエートの構造中にクロロアセチル基が存在することは十分に明らかであり,しかも,引用例2では,クロロアセチル基を含む化合物を,本来製剤化して使用されることを前提とする医薬組成物(特許請求の範囲第15項)になりうると認識し,式(I)の化合物全般につきエーロゾルを含む各種剤形が可能と記載しているのであるから,クロロアセチル基が製剤化後の化合物の不安定性の原因になることが常識ではなく,かえって,当業者にとってクロロアセチル基の存在が医薬製剤としての利用を何ら妨げるものでないことを示すものである。
また,乙2が示すように,1987年(昭和62年)にはモメタゾンフロエートが軟膏製剤として実用化もされている。
したがって,製剤の安定性に関しては,「クロロアセチル基の存在が,化合物としても,引用例1のプロピオン酸ベクロメタゾンよりも,かなり高い反応性を有し,当業者であれば他の化合物の共存下では,相対的に不安定であると考える」との原告の主張は,その前提において誤りがあり,本件審決が,相違点に係る本願発明の構成を容易想到と判断したことに誤りはない。
(2) 取消事由2に対し前述のとおり,モメタゾンフロエートが,他の化合物の共存下では,ジプロピオン酸ベクロメタゾンよりも相対的に不安定であるとの原告の主張は誤りであるから,モメタゾンフロエートの薬剤回収率が高いことは格別意外なことではない。また,両者は共にエアゾール剤形での使用が可能であることが知られた薬物であり,しかも,引用例1のプロピオン酸ベクロメタゾンに使用されるエアゾール基剤は構造の異なる各種薬剤についても広く適用可能なものであるから,モメタゾンフロエートに適用した場合にも薬物の安定性が損なわれずにエアゾール性能が発揮されることは当業者が当然に予測し期待するものである。
次に,甲10の表8によれば,例えば,ベクロメタゾンジプロピオネート(バッチ#26406-118E)の薬剤回収率は,5週間/30℃で82.1±6.3(70.9-85.3),10週間/30℃で93.2±5.4(85.7-100)であり,期間が経過した方が回収率が高い結果が示されているのに対し,5週間/40℃と10週間/40℃の薬剤回収率は,90.5±2.6(87.3-94.6)と90.1±3.5(83.6-99.2)であって,上記数値と比べると保存中の変化はないことになる。また,モメタゾンフロエート(バッチ#26406-118D)の薬剤回収率でも同様に,例えば5週間/30℃,5週間/40℃,10週間/40℃の平均値は単純に数値を比較するならば,いずれも開始/室温の薬剤回収率より高いことになる。通常,保存期間中に活性が上昇することは想定できないのであるから,表8における数値での単純な比較に意味はなく,この程度の回収率の差は測定誤差というべきである。
さらに,甲10の表8は,単にHFC-134aと上記化合物のみでエアゾール剤を製造し,特定温度で一定期間おいた場合の薬剤回収率を示したものであるが,本願発明はC成分(賦形剤;界面活性剤;保存剤;・・・から選択される・・場合により存在してよい)が存在する場合も含むのであるから,仮に表8の実験結果が正しいとしても,C成分が存在する場合についての顕著な効果の立証がない以上,本願発明に顕著な効果があるとの原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について(1)ア 引用例1(甲4)には,以下の記載がある。
(ア) 「特許請求の範囲」として,「(1) 医薬,1,1,1,2-テトラフルオロエタン,界面活性剤,及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンより極性が高い少なくとも1種の化合物を含むエアゾール製剤。」(請求項(1)),「(2)10ミクロン以下のメジアン粒子径を有する医薬粒子の溶液又は懸濁液の形態である製剤であって,経口又は鼻からの吸入により患者へ投与するのに適する請求項(1)に記載のエアゾール製剤。」(請求項(2))(イ) 「本発明は医薬エアゾール製剤に関するものであり,特に,クロロフルオロカーボンをほとんど含まない,肺,鼻,口腔又は局所投与に適する製剤に関するものである。」(1頁右欄2行〜5行),「計量投与量吸入器は,製造に用いられる噴射剤系の推進力に依存する。
噴射剤は,一般に,液化クロロフルオロカーボン(以下,単に「CFC」という)の混合物を含むものであり,このCFCは製剤に望ましい蒸気圧や安定性を与えるべく選ばれたものである。・・・しかし,CFCのオゾン層への悪影響を考慮すると,吸入エアゾール中の使用に適する別の噴射剤システムの探索が望まれる。」(1頁右欄15行〜2頁左上欄13行)(ウ) 「本発明のエアゾール製剤は,製剤を安定化させるためまたバルブ部材を滑りやすくするため,界面活性剤を含む。」(4頁右下欄13〜15行),「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(以下,単に「プロペラント134a」という)より極性が高い化合物(以下,単に「アジュバント」という)と併用された場合,プロペラント134aは,吸入治療に適するエアゾール製剤の噴射剤として用いられることが見出された。アジュバントはその使用量においてプロペラント134aと混和するものでなければならない。適切なアジュバントは,エチルアルコール,イソプロピルアルコール,プロピレングリコールのようなアルコール,・・・・やジメチルエーテルを含む。単独又は複数のこのようなアジュバントとプロペラント134aとの併用によって,CFCに基づく噴射剤系に匹敵する性能を有する噴射剤系が得られ,また,通常のバルブ部材や医薬製剤において公知の界面活性剤や添加剤を用いることができ・・・特に有利である。」(2頁左下欄10行〜右下欄10行),「プロペラント134aに,プロペラント134aより極性の高い化合物を添加することにより,プロペラント134a単独中に溶解する場合に比べてより多量の界面活性剤が溶解し得る混合物が得られる。溶解した多量の界面活性剤の存在により,安定で均一な医薬粒子の懸濁液が調製できる。溶解した界面活性剤の多量の存在はまた特定の医薬の安定な溶液製剤を得ることに役立っている。」(3頁右上欄6行〜13行)(エ) 「望ましい固体医薬は,たとえば,・・・アミン,酵素,アルカロイド又はステロイドのような,抗アレルギー剤,鎮痛剤,気管支拡張剤,抗ヒスタミン剤,治療用たん白質や・・・抗炎症製剤・・・,又はこれらの複数の組み合わせを含む。」(5頁左下欄2行〜8行)(オ) 「使用可能な医薬の例として次の医薬が挙げられる。イソプロテレノール〔アルファ-(イソプロピルアミノメチル)プロテカテキュイルアルコール〕,フェニレフリン,フェニルプロパノールアミン,グルカゴン,アドレノクロム( ),トリプシン,エピネフ adrenochromeリン,エフェドリン,ナルコチン,コデイン,アトロピン,ヘパリン,モルフィン,ジヒドロモルフィノン,エルゴタミン,スコポラミン,メタピリレン,シアノコバラミン,テルブタリン,リミテロール( ),サルブタモール,フルニゾリド( )・・・, rimiterol flunisolideベクロメタゾン,・・・及びジアモルフィン。他に,ネオマイシン,ストレプトマイシン,ペニシリン,プロカインペニシリン,テトラサイクリン,クロロテトラサイクリンやヒドロキシテトラサイクリンのような抗生物質,コルチゾン,ヒドロコルチゾン,酢酸ヒドロコルチゾンやプレドニゾロンのような副腎皮質刺激ホルモンや副腎皮質ホルモン,インシュリン,クロモリンナトリウム( )のよ cromolyn sodiumうな抗アレルギー化合物も挙げられる。前記列挙された医薬は遊離の塩基又は公知の単独あるいは複数の塩のいずれかの形態で用いられる。」(5頁左下欄9行〜右下欄14行)(カ) 「実施例7〜12」として,「ジプロピオン酸ベクロメタゾンを含む製剤 各々の製剤を下記の表のとおりに調整した。・・・実施例10〜12では,溶液製剤が得られた。」(7頁右上欄3行〜左下欄5行),実施例10〜12の各製剤の「成分(g)」は,実施例10につき「BPD(ジプロピオン酸ベクロメタゾン。以下同じ。)が0.005g,スパン 85が0.006g,エタノールが1.350g,P134aが4.040g」,実施例11につき「BPDが0.005g,オレイン酸が0.006g,エタノールが1.350g,P134aが4.040g」,実施例12につき「BPDが0.005g,リポイド S100が0.006g,エタノールが1.350g,P134aが4.040g」(7頁左下欄の表)イ 上記記載に加えて,甲7(薬科学大辞典(第2版))に,「ベクロメタゾン・ジプロピオン酸」につき,「抗炎症薬.副腎皮質ホルモン.・・・抗炎症,抗アレルギー作用をもつ.・・・また吸入剤として気管支喘息,アレルギー鼻炎に使用する。」の記載及びその化学構造式の記載があることを総合すれば,引用例1には,@吸入用エアゾール製剤において,噴射剤としてオゾン層への悪影響のあるクロロフルオロカーボンの代りに,「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」(「プロペラント134a」と同義)を使用し,これに「1,1,1,2-テトラフルオロエタンより極性が高い少なくとも1種の化合物」を添加することにより,多量の界面活性剤を溶解し得るようにし,その結果,安定で均一な医薬粒子の懸濁液が調製できるようにし,Aその吸入用エアゾール製剤に使用する医薬について,ステロイド等のような,抗アレルギー剤,抗炎症製剤,化合物名としてはベクロメタゾン,コルチゾン,ヒドロコルチゾン,酢酸ヒドロコルチゾンやプレドニゾロンのような副腎皮質ホルモンとする発明が記載されているものと認められる。
(2)ア 次に,引用例2(甲5)には,以下の記載がある。
(ア) 「特許請求の範囲」として,「(1) 次の一般式(I)で示される3,20-ジオキソ-1,4-プレグナジエン-17α-オール17-芳香族複素環式カルボキシレート類またはその6-デヒドロあるいは1,2-ジヒドロ誘導体類。
・・・」(第1項),「(6) 前記化合物は・・・9α,21-ジクロロ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン-11β,17α-ジオール-3,20-ジオン 17-(2’-フロエート);・・・からなる群から選択される特許請求の範囲第1項に記載の化合物。」(第6項),「(14)薬剤として使用する,特に抗炎症剤として使用する特許請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載の化合物。」(第14項),「(15) 製剤用担体と共に活性成分として特許請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載の化合物を含有することからなる特に抗炎症剤として使用する薬学組成物。」(第15項)(イ) 「本発明はステロイドの新規な芳香族複素環式エステル類,その製造方法および該化合物を含有する薬学組成物に関する。」(4頁左下欄13行〜15行)(ウ) 「実施例14」として,「9α-21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン 3,20-ジオン17-(2'-フロエート)」(22頁右上欄10行〜13行)(エ) 「局所または外用投与の場合は,式Iの化合物はクリーム,ローション,エーロゾル,軟膏または散剤などの剤形にすることができる。これらの製剤は接触性およびアレルギー性皮膚炎,湿疹および乾癬のようなコルチコステロイドに対して反応性の全ての皮膚病の治療に使用できる。あるいは,点眼用懸濁液あるいは点鼻用噴霧剤の剤形にすることもできる。」(27頁左下欄16行〜右下欄3行)THE MERCK INDEX ELEVENTH EDITION イ 上記記載に加えて,甲6(982頁の「6151.」)に,モメタゾンフロエートにつき,「(11β,16α)-9,21-ジクロロ-17-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11-ヒドロキシ-16-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン;9,21-ジクロロ-11β,17-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン 17-(2-フロエート)・・・局所的コルチコステロイド・・・治療カテゴリー:局所抗炎症」の記載及びその化学構造式の記載があることによれば,引用例2には,@式Iで表されるステロイド化合物を抗炎症剤として使用することができ,これをエーロゾル又は点鼻用噴霧剤の剤形にすることができること,A上記化合物の一つとして,モメタゾンフロエートに相当する「9α-21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン 3,20-ジオン 17-(2'-フロエート)」を使用する発明が記載されていることが認められる。
(3) 以上の認定事実を総合すれば,引用例1発明の吸入用エアゾール製剤に使用する医薬として,ステロイド系の副腎皮質ホルモンで,抗炎症剤として使用することのできる,引用例1記載のベクロメタゾン等に代えて,ステロイド化合物で,抗炎症剤として使用することのできる,引用例2記載の「9α-21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン 3,20-ジオン 17-(2'-フロエート)」(モメタゾンフロエートに相当)を用いることは,本願優先日当時,当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
そうすると,本件審決が,「当該化合物(判決注・引用例2記載の化合物)はモメタゾンフロエートに相当し(・・・),ジプロピオン酸ベクロメタゾンと同じ薬理作用を有し,その化学構造も引用例1で例示のベクロメタゾンに極めて近似していることは当業者が容易に理解しうるところである。そうすると,引用例1記載の発明において医薬成分としてモメタゾンフロエートを用い,エアゾール組成物とすることは当業者が容易に想到し得たものである。」(審決書5頁12行〜19行)と判断したことに誤りはなく,本願発明について,引用例1,2記載の発明に基づいて容易想到とした本件審決の判断は是認できるというべきである。
(4) これに対し原告は,高い反応性のクロロアセチル基を有するモメタゾンフロエートは,化合物全体としても,引用例1記載のジプロピオン酸ベクロメタゾンよりも,かなり高い反応性を有し,他の化合物の共存下では,相対的に不安定であると考えるのが通常であり,また,引用例2は,モメタゾンフロエートという特定の化合物の安定性を考慮することなしに,引用例2の式Iの化合物全般についてエーロゾルへの製剤化の可能性に言及したにすぎないから,当業者は,引用例1記載のエアゾール製剤のジプロピオン酸ベクロメタゾンを引用例2記載のモメタゾンフロエートに置き換えようと考えるものではないから,引用例1発明において医薬成分としてモメタゾンフロエートを用い,エアゾール組成物とすることは当業者が容易に想到し得たとの本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。
ア(ア) しかし,甲6中には,モメタゾンフロエートが吸入用エアゾール組成物における医薬として使用することに適さないことをうかがわせる記載はない。
(イ) もっとも,モメタゾンフロエートとベクロメタゾン・ジプロピオン酸の化学構造(甲6,7)を対比すると,主骨格の5員環に結合した置換基が,モメタゾンフロエートではCl-CH -CO-(クロロアセチル225 2基)であるの対し,ベクロメタゾン・ジプロピオン酸ではC H COO-CH-CO-(プロピオニルオキシ-アセチル基)である点で両者は相違するところ,甲8(化学大辞典)には,@クロロアセチル基を有する化合物であるα-クロロアセトフェノン(C H COCH Cl)及びクロロアセ65 2トン(CH ClCOCH )が医薬品等の合成中間体として用いられること(6 2367頁の「α-クロロアセトフェノン」及び「クロロアセトン」の項),Aクロロアセチル基を有する化合物であるクロロ酢酸(ClCH CO2OH)がアミノ酢酸(H NCH COOH)やグリコール酸(HOCH COOH)の合成 22 2原料として用いられ,この合成ではクロロアセチル基の塩素原子が置換反応を受けること(671頁の「クロロ酢酸」の項,636頁の「グリシン=アミノ酢酸」の項,635頁の「グリコール酸」の項)の記載がある。
しかし,上記@,Aの記載から,α-クロロアセトフェノン,クロロアセトン及びクロロ酢酸がいずれもクロロアセチル基を有する化合物であり,そのクロロアセチル基の塩素原子が置換反応が可能な程度に反応性が高いものであることを理解することができても,それ以上に,置換反応が生じる具体的な条件や,クロロアセチル基の反応性及び不安定性の程度までは理解することはできず,ましてや吸入用エアゾール組成物に用いる薬剤がクロロアセチル基や塩素原子を有していては反応性が高く不安定で使用することができないとの技術常識があるものと認めることはできない。
また,B甲8の「保護」の項には,「官能基などを二つ以上含む有機化合物の反応ではその官能基のところで反応が起こる場合が多い。
このような化合物のある官能基のみに反応させたいときは,それ以外のより反応しやすい官能基を,その反応中には反応しないが,反応後簡単にもとに戻せるように変換することが必要である。これを保護という。変換するのは官能基とは限らず,・・・保護といっている。例として,・・・水酸基はアセチル化・・・で保護される。」(2219頁)との記載があり,また,C甲9(理化学辞典(第5版))の「保護基」の項には,「ヒドロキシ基の保護基にはアセチル基・・・などが使われる。」(1300頁右欄)との記載がある。
上記B,Cの記載から,ヒドロキシ基(水酸基と同義)を不活性化する保護基としてアセチル基が例示されていることが認められるものの,このことから引用例1記載のジプロピオン酸ベクロメタゾンが有するプロピオニルオキシ-アセチル基(C H COO-CH -CO-)の反応25 2性が,モメタゾンフロエートのクロロアセチル基(Cl-CH -CO-)よ 2りもどの程度低いのか明らかになるものではない(仮に原告が主張するようにプロピオニルオキシ基(C H COO-)が,反応性ヒドロキシ基25を不活性にするために「保護基」として広く使用されるアセチル基が当該反応性ヒドロキシ基を保護した結果生成するアセチルオキシ基(CH COO-)と極めて近似した構造であることを考慮しても,同様であ3る。)。
他に吸入用エアゾール組成物に用いる薬剤として,モメタゾンフロエートのようにクロロアセチル基や塩素原子を有していては,反応性が高く不安定で使用することができないとの技術常識があるものと認めるに足りる証拠はない(かえって,引用例2には,式I(特許請求の範囲第1項)で表されるステロイド化合物の一つとしてモメタゾンフロエートに相当する「9α-21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-1,4-プレグナジエン3,20-ジオン 17-(2'-フロエート)」が実施例として記載され(前記(2)ア(ア)ないし(ウ)),上記式Iの化合物はエーロゾルの剤形にすることができること(同(エ))が明記されている。)。
イ 加えて,甲6,7及び弁論の全趣旨によれば,ジプロピオン酸ベクロメタゾンとモメタゾンフロエートは,三つの6員環と一つの5員環から構成される主骨格を有し,その主骨格の三つの6員環に結合した置換基を有する点で共通する化合物であることが認められ,また,両化合物は,いずれもステロイド系の薬剤で,抗炎症剤として使用することができることは,前記(1)及び(2)の各イで認定したとおりであるから,引用例1発明の吸入用エアゾール組成物における医薬として,引用例1に実施例の一つとして挙げられているジプロピオン酸ベクロメタゾンに代えて,引用例2記載のモメタゾンフロエートを用いることは,当業者であれば容易になし得るものということができるのであって,相違点に係る本願発明の構成は容易に想到し得たものではない旨の原告の上記主張は採用することはできない。
(5) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(顕著な効果の看過)について(1) 原告は,医薬にモメタゾンフロエートを使用した本願発明は,医薬にベクロメタゾンジプロピオネート(ジプロピオン酸ベクロメタゾン)を使用した引用例1の実施例記載のエアゾール製剤と比較し,薬剤回収率が高くなるという顕著な効果が認められるから,本件審決が,「本願発明に格別顕著な効果も認められない。」(審決書5頁34行)と判断したのは誤りである旨主張する。
ア 本願明細書(甲2)には,@「本発明は,改良された安定性並びに薬剤およびバルブ成分との適合性を有し且つ比較的容易に製造される,CFCを実質的に含まない無毒性製剤に関する。本発明は,更に,比較的少ない修正のみを伴い且つ薬剤を予備被覆することなく装置に充填されている既存のエーロゾル中で用いることができる製剤に関する。」(3頁右下欄下から3行〜4頁左上欄1行),A「本発明の製剤はいずれも,噴射剤134aを,薬剤,場合により液状賦形剤および場合により界面活性剤と一緒に用いる。」(4頁右下欄5〜6行),B「本発明の薬剤は,経口吸入または点鼻によって送達される何等かの薬学的活性化合物を含むことができる。化合物の典型的な種類としては,気管支拡張薬,抗炎症性化合物,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬,鎮痛薬,鎮咳薬,抗狭心症薬,ステロイド,コルチコステロイド,血管収縮薬および抗生物質がある。化合物のこれらの種類の範囲内の具体的な化合物は,・・・モメタゾンフロエート,ベクロメタゾンジプロピオネート・・・である。これらの化合物は,具体的な製剤中の活性化合物の安定性および溶解性に応じて遊離塩基として,塩としてかまたは包接体として用いることができる。」(5頁右上欄下から7行〜左下欄4行),C「モメタゾンフロエート」を含む製剤の実施例として「実施例XIV〜XVIII,XXII,XXIV,XXVI,XXVII」が,「ベクロメタゾンジプロピオネート」を含む製剤の実施例として「実施例XIX,XXIX,XXXI」が,「ベクロメタゾンジプロピオネートP-11包接体」を含む製剤の実施例として「実施例XX,XXIII,XXV,XXVIII,XXX,XXXII」(6頁左下欄〜7頁左下欄)が記載されている。
しかし,「モメタゾンフロエート」を含む製剤の上記実施例には,製剤の配合(成分・重量%)が記載されているだけで,原告が主張するような薬剤回収率に関する記載はなく,また,本願明細書には,薬剤として「モメタゾンフロエート」を使用した場合に,他の薬剤を使用した場合と比べて,顕著な効果を奏する旨の記載もない。
Report 2 Preformulation Screening Study イ 原告は,甲10(原告作成の「of HFC-134a: An Alternate Propellant For Metered Dose Inhalation Aerosols」と題する書面の「表8」)は,アルブテロール,モメタゾンフ (MDI's)ロエート,ベクロメタゾンジプロピオネート及びベクロメタゾンジプロピオネートP-11包接体をそれぞれ医薬とし,HFC-134aを噴射剤として,賦形剤や界面活性剤とともに,又はそれらなしで調製されたエアゾール組成物の性能スクリーニングの研究結果のうち,上記各医薬(表8でいう薬剤)と噴射剤であるHFC-134aだけからなるエアゾール製剤における医薬成分の安定性を,一定温度で一定期間保管した後のエアゾール製剤からの薬剤回収率で示したものであり,甲10によれば,モメタゾンフロエート(「バッチ#26406-118D」)の薬剤回収率が,実験開始直後を除き,ベクロメタゾンジプロピオネート(バッチ#「26406-118E」)よりも高いことがわかる旨主張する。
しかし,@甲10記載の実験に使用された各薬剤の純度,粒径,濃度等の実験条件が一切不明であること,A引用例1には,製剤の安定化のために界面活性剤を配合し,更にプロペラント134aより極性が高い化合物を添加することにより多量の界面活性剤が溶解し得る混合物が得られることが記載されており(前記1(1)ア(ウ)),引用例1においても,界面活性剤の配合及び上記化合物の添加により製剤の安定化を図ることができることに照らすと,甲10記載の上記薬剤回収率の比較から直ちにモメタゾンフロエートを使用した場合にベクロメタゾンジプロピオネートを使用した場合と比べて製剤の安定化につき顕著な効果が奏されるものと断ずることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) したがって,「本願発明に格別顕著な効果も認められない。」とした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2も理由がない。
3結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀