• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2003-14440
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  技術的特徴 /  抵触 /  参酌 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10683号 審決取消請求事件
原告 ソニー株式会社
原告 財団法人鉄道総合技術研究所
両名訴訟代理人弁理士 稲本義雄
同西川孝
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人橋本正弘
同立川功
同井関守三
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2003−14440号事件について平成17年8月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
本件は,原告らが後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
なお,上記審判請求については,特許庁が平成16年4月1日に請求不成立の審決をし,これに対し知的財産高等裁判所が平成17年5月12日に上記審決を取り消す判決をしたことから,特許庁で再び審理されていたものである。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア 原告らは,平成5年12月16日,名称を「情報記憶カード」とする発明について特許出願(特願平5-343517号。以下「本願」という。)をし(公開特許公報は,特開平7ー175901号,甲1),平成12年12月12日付けで発明の名称を「情報記憶カードおよびその処理方法」とするなどの補正を行ったが,平成15年6月27日,拒絶査定を受けた。
イ そこで,原告らは,平成15年7月28日,不服の審判請求を行い,平成15年8月26日付けで,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明変更する補正を行った(以下「本件補正」という。甲3)。特許庁は,この請求を不服2003-14440号事件として審理し,平成16年4月1日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決(甲4。以下「第1次審決」という。)をした。
ウ 原告らは,平成16年5月11日,東京高等裁判所に,第1次審決の取消しを求める訴えを提起した(平成16年(行ケ)第205号)。同事件は,知的財産高等裁判所に回付されて平成17年(行ケ)第10300号事件となり,同裁判所は,平成17年5月12日,第1次審決を取り消す旨の判決(甲6。以下「第1次判決」という。)をし,確定した。
エ そこで,特許庁は,再び不服2003-14440号事件について審理し,平成17年8月1日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その審決謄本は平成17年8月10日原告らに送達された。
(2) 発明の内容平成15年8月26日の本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1及び請求項2から成り,その請求項2の内容は,次のとおりである(以下,請求項2の発明を「本願発明」という。)。
「カード識別装置と無線で情報を授受することによって情報記憶カードを処理する方法であって,前記情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた前記固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と,前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報と同一あるいは少なくとも所定の部分を抽出した情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程とを有することを特徴とする情報記憶カードの処理方法。」(3) 審決の内容本件審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次のとおりである。
ア 判断その1本願発明は,特開昭62-249295号公報(以下「刊行物1」という。甲2)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
なお,本願発明と刊行物1発明との一致点,相違点の認定は,次のとおりである。
〈一致点〉(ア) 刊行物1発明は,自動取引装置との間で情報を処理し,かつ,履歴情報をICカードに記憶させるようにしており,一方,本願発明は,カード識別装置と情報を授受することによって情報記憶カードを処理する点(イ) 刊行物1発明は,入力されたPINとICカードに記憶されたPIN情報を読み出して照合するようにしており,一方,本願発明は,情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた前記固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程を有する点(ウ) 本願発明は,その第4の工程において,履歴情報を情報記憶カードに記憶し,履歴情報は無限ループ状に記憶させる点(以下「一致点(ア)〜(ウ)」という。)〈相違点1〉カード識別装置と情報記憶カードとの間の通信に関し,本願発明が無線で通信を行うものであるのに対し,刊行物1発明は接点接触により通信を行うものである点〈相違点2〉本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点イ 判断その2本願発明は,特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載された周知技術(以下「周知技術1」という。)とは,「情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と,前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させる」とする点で一致し,@「カード識別装置と情報記憶カードとの間の通信に関し,本願発明が無線で通信を行うものであるのに対し,周知技術1においては接点接触により通信を行う」点及びA「本願発明が,履歴情報を無限ループ状に記憶させるとしているのに対し,周知技術1にはその点についての記載がない」点で相違するが,@の点は,当業者が容易になし得ることであり,Aの点も,刊行物1に記載の技術に基づいて,当業者が容易になし得ることであるから,本願発明は,特許法29条2項により特許を受けることができない。
ウ 判断その3本願発明が,「情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と,前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させる」とする点は,周知の技術(下記の文献参照)に属し,「カード識別装置と情報記憶カードとの間の通信を無線で行う」点及び「カードに履歴情報を記憶するとし,履歴情報は無限ループ状に記憶させる」点も,周知技術及び刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易に導き出せることにすぎないから,本願発明は,特許法29条2項により,特許を受けることができない。
記特開平2-297297号公報(甲7の2)特開平2-280292号公報(甲7の3)特開平4-205093号公報(甲7の4)特開平4-692号公報(甲7の5)(4) 審決の取消事由しかしながら,本件審決の認定判断には,次に述べるとおり,誤りがあり,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り)-判断その1について(ア) 本件審決は,本願発明の第4の工程は,履歴情報を一旦書込読出領域に書き込む工程がなく,使用履歴記憶領域に記憶させる一つの工程のみから成ると解釈している(4頁下から11行〜5頁8行)。
しかし,本願発明の第4の工程は,「前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報」を「前記情報記憶カード」に記憶させる「とともに」,「前記履歴情報(後記(イ)のとおり『前記新たな情報』の誤記である)と同一あるいは少なくとも所定の部分を抽出した情報」を無限ループ状に記憶させるものであるから,履歴情報を含む新たな情報を一旦書込読出領域に書き込む工程と,書込読出領域に書き込まれた情報を使用履歴記憶領域に無限ループ状に記憶させる工程という二つの工程からなるものである。このことは,本願明細書(甲1)の実施例の記載(段落【0019】〜【0021】,【0026】〜【0028】)から裏付けられる。
また,本件審決は,本願発明の第4工程は「…前記履歴情報と同一あるいは少なくとも所定の部分を抽出した情報を無限ループ状に記憶させる…」とするものであるから,本願発明は,「…前記履歴情報そのものを記憶させる…」発明(以下「全部情報記憶状態発明」という。)と「…前記履歴情報の少なくとも所定の部分を抽出した情報を記憶させる…」発明(以下「抽出情報記憶状態発明」という。)のいずれかの発明から成るものであるとした上で,前者の全部情報記憶状態発明のみを他の発明と対比している(3頁下から5行〜5頁15行)。ここでいう「全部情報記憶状態発明」と後者の「抽出情報記憶状態発明」は,無限ループ状に記憶させる情報の範囲が異なるのみであるから,他の点では一致しているものと解される。「抽出情報記憶状態発明」では,抽出する所定の部分よりも広い範囲の新たな情報の記憶が存在するからこそ,その新たな情報から所定の部分を抽出することができるのであるから,書込読出領域に新たな情報を一旦記憶することを前提としているといえる。「全部情報記憶状態発明」は,無限ループ状に記憶させる情報の範囲以外の点では,「抽出情報記憶状態発明」と一致しているから,「全部情報記憶状態発明」でも,書込読出領域に新たな情報を一旦記憶することを前提としているといえる。
したがって,本願発明の第4工程は,上記のとおり二つの工程が成るものでなければならない。
(イ) また,本願発明の第4工程に「前記履歴情報」とあるのは「前記新たな情報」の誤記である。なぜなら,使用履歴記憶領域に記憶される情報は,書込読出領域に記憶される情報と同一の情報又はその情報の所定の部分のみを抽出した情報である(本願明細書(甲1)の段落【0020】)ところ,書込読出領域に記憶される情報は,履歴情報を含む新たな情報であるから,使用履歴記憶領域に記憶される情報も,「前記履歴情報」ではなく,「前記新たな情報」でなければならないからである。
もっとも,本願発明の第4工程の「前記履歴情報」が,「前記新たな情報」でなく,文言どおり「前記履歴情報」であるとしても,上記(ア)で述べたとおり本件審決の解釈に誤りがあることに変わりはない。
イ 取消事由2(一致点の認定の誤り1)-判断その1について本願発明は,上記アのとおり,履歴情報を含む新たな情報を一旦書込読出領域に書き込む工程と,書込読出領域に書き込まれた情報を使用履歴記憶領域に無限ループ状に記憶させる工程という二つの工程から成るものであるが,刊行物1発明は,情報を無限ループ状に記憶させる一つの工程から成るものであるから,この違いを無視して,「履歴情報を情報記憶カードに記憶し,履歴情報は無限ループ状に記憶させる点」(一致点(ウ))を一致点として認定することはできない。本件審決が,本来一致しないものを一致点(ウ)と認定したのは誤りである。
ウ 取消事由3(一致点の認定の誤り2)-判断その1について刊行物1発明のICカードは,ATMを用いて回線を介して銀行センターと接続されていて,銀行センターに備えられた元帳によって集中管理されるものであるのに対し,本願発明は,カード識別装置と情報を授受するのであり,センターとの情報の授受を行うものではないから,これを無視して「カード識別装置と情報を授受することによって情報記憶カードを処理する点」(一致点(ア))を一致点と認定したのは誤りである。
刊行物1発明のICカードでは,使用者が入力したPIN(個人識別情報)とICカードに記憶されたPINとを照合して,ICカードにおいて,カードの使用者が正当な所持者であることを判定しているのに対し,本願発明は,情報記憶カードを識別するIDを読み出し,そのIDを用いて,情報記憶カードが真正なものであることを,IDを読み出したカード識別装置において判定するものであり,本件審決が,このような違いを無視して,「情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた前記固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程を有する点」(一致点(イ))を,一致点と認定したのは誤りである。
エ 取消事由4(相違点の認定の誤り)-判断その1について上記アのとおり,本願発明は,履歴情報を含む新たな情報を一旦書込読出領域に書き込む工程と,書込読出領域に書き込まれた情報を使用履歴記憶領域に無限ループ状に記憶させる工程という二つの工程から成るものであって,使用履歴記憶領域に記憶させる情報は,書込読出領域に書き込まれた情報と同一又はそれから所定の部分を抽出した情報である。しかし,刊行物1発明は,情報を無限ループ状に記憶させる一つの工程から成るものであるから,本願発明は,刊行物1発明とは,@二つの工程によって二重の記憶を行う点とA無限ループ状に記憶する情報を書込読出領域に書き込まれた情報と同一の情報又はそれから所定の部分を抽出した情報のいずれにもすることができる点が異なっている。これらの点を相違点として認定していない本件審決は,相違点の認定を誤っている。
オ 取消事由5(進歩性の判断の誤り1)-判断その1について本件審決は,「銀行のICカードにおいて,残高を読みとり,処理した後,ICカードに書き戻すといったことは,本件出願前普通に知られていることである(周知技術1。甲7の1)から,…ICカードに記憶されている情報を読み出し,その読み出された情報を処理して,ICカードに記憶させるとすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない」旨の判断をしている(6頁下から11行〜4行)。
しかし,第1次判決においても認定されたように,銀行カードの処理は,銀行センターで集中管理する口座残高を読み取ってなされる。銀行のICカードにおいて,ICカードから残高を読みとり,処理した後,ICカードに書き戻すことはない。銀行センターとの通信を行うことなく処理している周知技術1の処理は,銀行カードとしての処理ではなく,「現金と同一価値を有する金額情報」を対象として行われるプリぺイドカードとしての処理である。
このように,本件審決は,銀行のICカードにおいて,ICカードから残高を読みとり,処理した後,ICカードに書き戻すことはないにもかかわらず,これを周知技術と誤って認定し,その結果,相違点2についての進歩性の判断を誤ったものである。
カ 取消事由6(進歩性の判断の誤り2)-判断その1について本件審決は,予備的な判断において,本願発明の第4の工程が二つの工程から成るものとしても,「本件明細書の【0043】の記載を参酌すると,書込読出領域に書き込まなくてもよいのに,わざわざ1工程を費やして,書込読出領域に書き込むということであるから,増やさなくてもよい工程を増やしたからといって,そのことに格別な進歩性があるということにはならない」(7頁4行〜7行)旨の判断及び「履歴情報を一旦記憶エリアに記憶し,その後履歴情報を別の記憶エリアに転送するといったことは,本件出願前に普通に知られていたことである(…特開昭63-201746号公報…)から,上記刊行物1記載発明においてもそのようにすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。」(7頁8行〜12行)旨の判断をしている。
しかし,本願明細書(甲1)の段落【0043】の実施例は,使用履歴記憶領域でのみ情報を記憶するものであって,使用履歴記憶領域に記憶する情報を書込読出領域に書き込まれた情報と同一の情報又はそれから所定の部分を抽出した情報のいずれにもすることができるというものではないから,本願発明とは異なるものであり,その記載を参酌することはできない。また,本件審決が周知技術として挙げる特開昭63-201746号公報(甲7の11)記載の技術は,「スクラッチパッドメモリを有する情報処理システム」に関するものであって,本願発明とは,産業上の利用分野が全く異なる上,特開昭63-201746号公報記載の技術は,本願発明のように,次回の読出し対象となる情報(書込読出領域の情報)と読出し対象とならない情報(使用履歴記憶領域の情報)を分けて記憶するというものではないから,本願発明とは異なる。
したがって,本件審決の上記判断は誤っている。
キ 取消事由7(第1次判決の拘束力違反)-判断その1について第1次審決(甲4)は,刊行物1には「残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある」(4頁5行〜6行)と判断したが,これに対して,第1次判決(甲6)は,@「銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において,口座残高は,銀行預金の取引の性質上,ATMが銀行カードのみに情報源を依存しこれから読み取ることはできず,銀行センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り,取引に関する処理を行った後,処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。…そうすると,刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから「残額」を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。したがって,審決が,『残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。
』と推断したことは誤りである。」(14頁19行〜15頁3行),A「プリペイドカードの使用形態は,銀行カードとしてのICカードの使用形態と異なるから,プリペイドカードについての処理を,銀行カードとしてのICカードについての処理に適用することはできないといわなければならない。」(20頁25行〜21頁2行),B「したがって,審決が,『情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程を有するとする点と格別な差異はない』と認定したことも誤りである。」(21頁22行〜22頁1行)と判断して,第1次審決を取り消している。
しかるに,本件審決は,「銀行のICカードにおいて,残高を読み取り,処理した後,ICカードに書き戻すといったことは,本件出願前普通に知られていることである…から,…ICカードに記憶されている情報を読み出し,その読み出された情報を処理して,ICカードに記憶させるとすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない」旨の判断をしている(6頁下から11行〜4行)。この判断は,第1次判決の上記@の判断に反する。また,前記オのとおり,周知技術1の処理は,プリぺイドカードとしての処理であるから,周知技術1を銀行カードに適用している本件審決の上記判断は,第1次判決の上記Aの判断にも反する。
ク 取消事由8(意見を述べる機会の不付与)-判断その1について本件審決は,一つの公知文献にすぎない特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載の技術を「周知技術1」と呼んで引用しているが,これは周知技術ではなく,新たな拒絶理由であるまた,第1次判決は,「本件発明が,第3の工程において,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出し,かつ,第4の工程において,読み出された前記情報を処理して,情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を情報記憶カードに記憶させるのに対し,刊行物1記載の発明が,このような工程を有していない点が相違しているにもかかわらず,これを相違点として認定せず,その結果,その容易想到性についての判断をしていない。」と判断している(22頁2行〜7行)。この第1次審決で判断されていないとされた点についても新たな拒絶理由となる。
ところが,本件審決は,以上のような点について,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされたから,本件審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する。
ケ 取消事由9(本願発明の要旨認定の誤り)-判断その2について上記アで述べたとおりである。
コ 取消事由10(相違点の認定の誤り1)-判断その2について周知技術1は,金額情報をデータメモリに記憶するだけであるから,本願発明は,周知技術1とは,@二つの工程によって二重の記憶を行う点とA無限ループ状に記憶する情報を書込読出領域に書き込まれた情報と同一の情報又はそれから所定の部分を抽出した情報のいずれにもすることができる点が異なっている。これらの点を相違点として認定していない本件審決は,相違点の認定を誤っている。
なお,本件審決は,本願発明の第4の工程が二つの工程から成る場合についての予備的な判断を行っているが,これについては,上記カで述べたとおりである。
サ 取消事由11(相違点の認定の誤り2)-判断その2について周知技術1は,中央処理装置と回線接続していないオフラインの処理であるから,暗証番号を読み取って,中央処理装置において照合するということはない。したがって,周知技術1は,本願発明の第1の工程と第2の工程を有することはない。この点を相違点として認定しなかった本件審決の認定は誤りである。
シ 取消事由12(意見を述べる機会の不付与)-判断その2について本件審決は,審査,審判の手続で引用されていなかった「周知技術1」と呼ぶ技術(甲7の1)を主引用例として,本願発明との一致点,相違点の認定をし,相違点2の判断においては,判断その1で主引用例とされた刊行物1を補助引用例として,容易想到の結論を導いている。これは新たな拒絶理由についての判断であるから,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する。
ス 取消事由13(本願発明の要旨認定の誤り)-判断その3について上記アで述べたとおりである。
セ 取消事由14(相違点の認定の誤り)-判断その3について本件審決が引用している周知技術の文献及び刊行物1には,@二つの工程によって二重の記憶を行う点,A無限ループ状に記憶する情報を書込読出領域に書き込まれた情報と同一の情報又はそれから所定の部分を抽出した情報のいずれにもすることができる点についての記載はない。したがって,これらの点を相違点として認定していない本件審決は,相違点の認定を誤っている。
なお,本件審決は,本願発明の第4の工程が二つの工程から成る場合についての予備的な判断を行っているが,これについては,上記カで述べたとおりである。
ソ 取消事由15(意見を述べる機会の不付与)-判断その3について本件審決は,審査,審判の手続で引用されなかった文献を引用して周知技術と称し,これを主引用例として,本願発明との一致点,相違点を認定し,相違点の判断においても,新たな文献を周知例として引用して判断している。これは,新たな拒絶理由についての判断であり,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反している。
タ 取消事由16(審決の理由不備)-判断その3について本件審決は,プリペイドカードに関する四つの文献(特開平2-297297号公報[甲7の2],特開平2-280292号公報[甲7の3],特開平4-205093号公報[甲7の4],特開平4-692号公報[甲7の5])を挙げておきながら,本願発明の構成要件が四つの文献のどこに記載されているのかを指摘していない。これでは,審決に理由を付したとはいえず,特許法157条2項4号に違反する。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論本件審決には,原告ら主張の認定判断の誤りはなく,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し本願明細書(甲1)の特許請求の範囲請求項2の記載を素直に読めば,本願発明の第4の工程は一つの工程から成るものと解釈できる。一つの工程からなる実施例は,本願明細書の段落【0043】に記載されている。
本願明細書の特許請求の範囲請求項2の「前記履歴情報」の意味は請求項の記載から一義的に明らかであるから,「前記履歴情報」が「前記新たな情報」の誤記であるとすることはできない。
(2) 取消事由2に対し原告らの主張は,本件審決における本願発明の要旨認定が誤りであることを前提とするものであり,理由がない。
(3) 取消事由3に対し刊行物1発明のICカードは,銀行センターに備えられた元帳によって集中管理されるものではない。刊行物1発明では,ATMがシステム全体を制御しており,銀行センターは,元帳のファイルを管理する役割しかない。したがって,本件審決の一致点(ア)の認定に誤りはない。
また,本願発明においては,情報カードに記憶された固定情報が具体的にどのようなものであるかについて特定されているわけではなく,刊行物1のICカードに記憶されたPIN情報と異なるということはない。したがって,本件審決の一致点(イ)の認定に誤りはない。
(4) 取消事由4に対し原告らの主張は,本件審決の一致点の認定に誤りがあることを前提とするところ,審決の一致点の認定に誤りはないことは上記のとおりであるから,原告らの主張は理由がない。
(5) 取消事由5に対し第1次判決は,従来の銀行カード(磁気カード)を用いたATMによる自動取引処理について述べているだけで,ICカードを用いたATMによる自動取引処理について述べているわけではない。ICカードは磁気カードに比べ,処理能力等が各段と優れたものであり,また,自立的な処理も可能なものであるから,ICカードを採用した場合には,従来とは異なる処理システムとすること,あるいは新たなサービスを行えるようにするといったことは十分考えられることである。
銀行カードでもオフライン処理があることは,周知技術1(甲7の1)の4頁左下欄11行〜右下欄7行の記載から明らかである。周知技術1は,プリぺードカードの技術ではない。
(6) 取消事由6に対し本件審決に記載したとおりであり,本件審決に誤りはない。
(7) 取消事由7に対し第1次判決は,従来の銀行カード(磁気カード)を用いたATMによる自動取引処理について述べているだけで,ICカードを用いたATMによる自動取引処理について述べているわけではない。
また,本件審決では,第1次判決において,第1次審決の「残高を読取り,出金後にそれを交信するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。」との判断が誤りであるとされたことを受けて,「本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点」を相違点として抽出している。
さらに,本件審決では,銀行カードの使用に関し,周知技術1(甲7の1)を例示して判断している。
したがって,本件審決は,第1次判決の拘束力に違反しない。
(8) 取消事由8に対し本件審決は,特許法29条2項違反を理由とするものであるから,拒絶査定と根拠法条が同じであること,出願時の技術常識周知技術を認定するに当たって,原告らに意見を述べる機会を与える必要はないことからすると,本件において原告らに意見を述べる機会を与えなかったからといって,違法ではない。
(9) 取消事由9に対し上記(1)で述べたとおりである。
(10) 取消事由10に対し本件審決における本願発明の要旨認定に誤りがないから,本件審決の相違点の認定に誤りはない。
また,本件審決の予備的判断にも誤りはない。
(11) 取消事由11に対し上記(5)で述べたとおりである。
(12) 取消事由12に対し上記(8)で述べたとおりである。
本願明細書(甲1)の段落【0049】【0050】【0051】【0052】の記載からわかるように,本願発明の技術的特徴は,情報記憶カードに履歴情報を無限ループ状に記憶する点にある。
そこで,本件審決では,まず,周知技術から,「情報記憶カードに履歴情報を無限ループ状に記憶する」点以外の事項が,本願発明の技術的特徴ではないことを示し,次に,本件発明の技術的特徴である上記の点については,先行技術(刊行物1)があるので,本願発明は,周知技術及び先行技術により当業者が容易に発明できたものであると結論付けたものであり,審判の手続に違法性はない。
(13) 取消事由13に対し上記(1)で述べたとおりである。
(14) 取消事由14に対し本件審決における本願発明の要旨認定に誤りがないから,本件審決の相違点の認定に誤りはない。
また,本件審決の予備的判断にも誤りはない。
(15) 取消事由15に対し上記(8)及び(12)で述べたとおりである。
(16) 取消事由16に対し本件審決には,結論と理由が記載されており,特許法157条2項4号の要件を満たしている。
当裁判所の判断
1(1) 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(本 件審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
(2) そこで,原告ら主張の各取消事由の有無について検討することとするが,事案にかんがみ,取消事由7(第1次判決の拘束力違反)及び取消事由12,15(意見を述べる機会の不付与)について先に判断する。
2 取消事由7(第1次判決の拘束力違反)について(1) 特許に関する審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理・審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
そして,前記のとおり,平成16年4月1日になされた第1次審決は,平成17年5月12日の知財高裁による第1次判決により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は第1次判決の有する拘束力の下で判断しなければならないこととなる。
以上の見解に基づき,以下検討を進める。
(2) 第1次審決(甲4)は,本願発明と刊行物1発明との相違点について,次のように認定した。
「上記刊行物1記載の発明においては,取引者が自動取引装置で出金額を指定すると,出金後,取引内容をICカードのメモリに書き込むようにしており,その際,残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。そして,上記刊行物1記載の発明においては,ファイル領域ZTが一杯になると,レコード数1に戻って再度書き込まれるようにしているから,本件発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程を有するとする点と格別な差異はない。」(4頁3行〜12行)第1次審決の上記認定に対し,第1次判決(甲6)は,次のように判断して,審決を取り消した。
ア 「銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において,口座残高は,銀行預金の取引の性質上,ATMが銀行カードのみに情報源を依存しこれから読み取ることはできず,銀行センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り,取引に関する処理を行った後,処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。
そうすると,刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから『残額』を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。
したがって,審決が,『残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。』と推断したことは誤りである。」(14頁19行〜15頁3行)イ 「被告は,銀行口座の真の残高をどこに持つかということは,様々な形態が考えられるのであって,必ずしも一義的に決まっているわけでなく,残高をICカードに記憶させることは,乙1ないし乙4に記載されているように,本件出願前にごく普通に行われていると主張する。」(15頁5行〜8行)「乙1ないし乙4のプリペイドカードの使用形態は,銀行カードとしてのICカードの使用形態と異なるから,プリペイドカードについての処理を,銀行カードとしてのICカードについての処理に適用することはできないといわなければならない。そうすると,乙1ないし乙4に,残高をICカードに記憶させることが記載されているとしても,これによって,銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると推認することはできない。」(20頁25行〜21頁4行)「したがって,銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。」(21頁5行〜6行)ウ 「以上のとおりであって,審決が,『残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。』と推断したことは誤りであり,したがって,審決が,『情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程を有するとする点と格別な差異はない。』と認定したことも誤りである。
そして,審決は,…本件発明が,第3の工程において,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出し,かつ,第4の工程において,読み出された前記情報を処理して,情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を情報記憶カードに記憶させるのに対し,刊行物1記載の発明が,このような工程を有していない点が相違しているにもかかわらず,これを相違点として認定せず,その結果,その容易想到性についての判断をしていない。
したがって,審決には,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点を看過し,これについての容易想到性の判断をしなかった誤りがあるところ,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものと認められるから,原告ら主張の取消事由1は,理由がある。」(21頁20行〜22頁11行)(3) 第1次判決の上記認定判断は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断であるから,前記のとおり,行政事件訴訟法33条1項にいう拘束力が生じ,再度の審決たる本件審決において,審判官はこれらの認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないことになる。
(4) そこで,次に,本件審決の認定判断が第1次判決の上記認定判断と抵触するものであるか否かについて判断する。
ア 本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて,次のように認定している。
「知財高裁判決によれば,従来技術(特開昭50-62098号公報,特開昭61-249170号公報,特開昭62-117067号公報)から判断して,刊行物1に記載されている元帳には「残高」が記録されおり,それが真の残高であると認定されている。
ただ,これら従来技術はすべて磁気カードを用いたシステムであり,システム全体を制御する役割はセンタが果たすものである。一方,刊行物1記載の発明はICカードを用いたシステムであり,システム全体を制御するのは,刊行物1に記載されているように,自動取引装置(ATM)である。つまり,システム構成が刊行物1記載の発明と従来技術とは基本的に異なるものである。そして,例えば,暗証番号は,本件出願当時においてはセンタが記憶しているのに対し,刊行物1記載の発明では,ICカードに記憶されており,その照合をどこでするかも異なる。また,取引情報も,磁気カードを用いたシステムではセンタが作成し元帳に保存するに留まるのに対し,刊行物1記載の発明では,自動取引装置(ATM)が取引情報を作成し,ICカードに記憶するとともにセンタの元帳にも記憶するというように,異なるものである。さらに,残高についていえば,磁気カードを用いたシステムにおいては,センタが作成する履歴情報の一部(残高欄)として元帳に記憶されており,取引に際しては,その残高を用いて処理を行い,その処理結果を,また,履歴情報として元帳に記憶(その一部として残高を記憶)するようにしているのに対し,刊行物1記載の発明においては,履歴情報には残高欄がなく,したがって,履歴情報の一部を用いて取引処理を行うということにはならない。
また,刊行物1の元帳に残高ファイルがあるとしても,残高ファイルがどこにあるかが問題ではなく,上記刊行物1記載の発明において,ICカードの残高(例えば,センタに記録された残高がA円であったものが,自動引き去り等により,B円になっていたとすると,ICカードの残高はA円のままであるので,センタとICカードでは残高が相違することになるが,ICカードによる取引(従来の通帳とカードとを一緒にATMに入れた取引形態と同じ)をすると,従来技術からの推測でいえば,ICカードの残高(通帳の残高)はA円からB円となり,センタに記録された残高とICカードの残高とは一致する。その後,取引に応じてC円となるが,その残高は,センタの残高にもC円,ICカードの残高(通帳の残高)もC円となる。つまり,ICカードによる取引の場合,センタに記録された残高とICカードの残高は一致する。)を読み取り,センタで記憶している残高と一致するかどうかとか,一致しない場合には,読み出した残高を書き換える処理をするとか,現在の取り引きに応じた残高処理をするとか,の処理をし,その後,ICカード及びセンタのそれぞれ残高に書き戻しするのか,それとも,センタの残高ファイルから,(全体を制御する)自動取引装置(あるいはセンタ)が残高を読み込み,(全体を制御する)自動取引装置(あるいはセンタ)が処理した後にICカードに書込むか,のいずれであるかということである。
前者であれば,残高の読み出し,処理をし,書き戻しを行うという点(本件発明の第3行程及び第4行程の一部)に関し,上記刊行物1記載の発明と本件発明とに格別な差異がないということになるが,上記刊行物1にはどちらであるかという点が記載されていない。
しかるに,銀行のICカードにおいて,残高を読みとり,処理した後,ICカードに書き戻すといったことは,本件出願前普通に知られていることである(必要ならば,例えば,特開昭63-79170号公報(特に第4頁左下欄第11行〜右下欄第7行)を参照されたい。以下,周知技術1という。)から,上記刊行物1記載の発明に適用して,本件発明のように,ICカードに記載されている情報を読み出し,その読み出された情報を処理して,ICカードに記憶させるとすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。」(5頁24行〜6頁下から4行)イ 以上のとおり,本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて,@ICカードの残高を読み取り,処理をした後に,ICカードに残高に書き戻すか,Aセンターの残高ファイルから残高を読み込み,処理をした後に,ICカードに残高を書き込むか,のいずれであるかであると認定している。
しかし,第1次判決は,前記のとおり,「刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから『残額』を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。」,「銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできない。」と認定しており,刊行物1のICカードから「残高」を読み取ったり,「(真の)残高」をICカードに記載することはない旨の認定をしているということができるから,本件審決の上記認定は,@はもとより,Aも,第1次判決の認定に反するものといわざるを得ない。
したがって,本件審決における刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定は,第1次判決の上記認定と抵触し,同判決の拘束力に反するものであって,許されないものである。
そして,本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明との「本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点」という相違点(相違点2)について容易に発明することができたとの判断をしているのであるから,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(5) この点に対し,被告は,第1次判決は,従来の銀行カード(磁気カード)を用いたATMによる自動取引処理について述べているだけで,ICカードを用いたATMによる自動取引処理について述べているわけではないと主張する。しかし,第1次判決は,ICカードを用いた刊行物1発明について上記のとおり認定しているのであって,第1次判決は,従来の銀行カード(磁気カード)を用いた自動取引処理についてのみ認定しているということはない。
また,被告は,本件審決では,第1次判決を受けて,「本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点」を相違点として抽出していると主張する。確かに,本件審決において,この点は,相違点とされている。しかし,上記(4)のとおり,その相違点についての進歩性の判断において,第1次判決の拘束力に違反する判断がなされている。
さらに,被告は,本件審決では,銀行カードの使用に関し,周知技術1(甲7の1)を例示して判断していると主張する。しかし,この点は,上記の拘束力違反の有無の判断を左右するものではない。
したがって,被告の主張は採用できない。
(6) 以上のとおり,本件審決の「判断その1」における認定は,第1次判決判決の拘束力に反し,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,原告ら主張の取消事由7は理由がある。
3 取消事由12(意見を述べる機会の不付与)について(1) 原告らは,本件審決の「判断その2」は,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされたから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張するので,以下,検討する。
(2) 審判官は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項で準用する同法50条)。
(3) 本件審決の「判断その2」は,特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載された技術は,周知技術であるとして,これを本願発明を対比して,一致点,相違点を認定し,相違点については,刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易になし得たなどと判断したものである(前記第3の1(3)イ参照)。
この判断は,本件審決書の記載によれば,特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載された技術を「周知技術」と称しているものの,その実質は,特開昭63-79170号公報(甲7の1)を主引用例とし,刊行物1を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものと解される。そして,甲10,11及び弁論の全趣旨によると,主引用例に当たる特開昭63-79170号公報(甲7の1)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまで,審査,審判において,原告らに示されたことがなかったものであることが認められる。
そうすると,審判官は,本件審決の「判断その2」をするに当たっては,原告らに対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その2」は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである。
(4)ア これに対し,被告は,本件審決は,特許法29条2項違反を理由とするものであるから,拒絶査定と根拠法条が同じであること,出願時の技術常識周知技術を認定するに当たって,原告らに意見を述べる機会を与える必要はないことからすると,原告らに意見を述べる機会を与えなかったとしても違法ではないと主張する。
しかし,本件審決の「判断その2」は,上記のとおり拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである。
このように主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず,拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで,原告らに意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。もっとも,発明の持つ技術的な意義を明らかにするなどのために出願時の技術常識周知技術参酌した場合には,それらについて特許出願人に意見を述べる機会を与える必要がないが,本件審決の「判断その2」は,そのような場合に当たらないことは明らかである。
イ また,被告は,本件審決では,まず,周知技術から,「情報記憶カードに履歴情報を無限ループ状に記憶する」点以外の事項が,本願発明の技術的特徴ではないことを示し,次に,本件発明の技術的特徴である上記の点については,先行技術(刊行物1)があるので,本願発明は,周知技術及び先行技術により当業者が容易に発明できるたものであると結論付けたものであるとも主張する。しかし,本願発明の技術的特徴がどこにあるにせよ,本件審決の「判断その2」が,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしていることには変わりはない。
ウ したがって,被告の主張は採用できない。
(5) 以上のとおり取消事由12は理由がある。
4 取消事由15(意見を述べる機会の不付与)について(1) 原告らは,本件審決の「判断その3」は,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされたから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張するので,以下,検討する。
(2) 本件審決の「判断その3」は,特開平2-297297号公報(甲7の2),特開平2-280292号公報(甲7の3),特開平4-205093号公報(甲7の4),特開平4-692号公報(甲7の5)を掲げて,本願発明が,「情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と,読み取られた固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と,前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させる」とする点は,周知の技術に属するとした上,「カード識別装置と情報記憶カードとの間の通信を無線で行う」点及び「カードに履歴情報を記憶するとし,履歴情報は無限ループ状に記憶させる」点も,周知技術及び刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易に導き出せることにすぎないと判断したものである(前記第3の1(3)参照)。
この判断は,本件審決書の記載によれば,特開平2-297297号公報(甲7の2),特開平2-280292号公報(甲7の3),特開平4-205093号公報(甲7の4),特開平4-692号公報(甲7の5)に記載された技術を「周知技術」と称しているものの,その実質は,これらの文献を主引用例とし,刊行物1等を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものと解される。そして,甲10,11及び弁論の全趣旨によると,主引用例としされた特開平2-297297号公報(甲7の2),特開平2-280292号公報(甲7の3),特開平4-205093号公報(甲7の4),特開平4-692号公報(甲7の5)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまで,審査,審判において,原告らに示されたことがなかったものであると認められる。
そうすると,審判官は,本件審決の「判断その3」をするに当たっては,原告らに対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その3」は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである。
(3) これに対する被告の主張については,前記3(4)で判断したとおりである。
(4) 以上のとおり取消事由15も理由がある。
5 なお,本判決は,前記のとおり,主として本件審決の手続上の違法を理由に取り消したものであり,本願発明の要旨認定の誤りの有無(取消事由1)等の実体上の事由については何ら判断しておらず,今後特許庁において適切な手続運営の下で,他の引用例の有無も含め,改めて審理されるべきものと考える。
6 よって,その余について判断するまでもなく,原告らの請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一
  • この表をプリントする