関連審決 | 不服2003-18348 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10444審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10167審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10452審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 慣用技術 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 審理範囲 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10490号
審決取消請求事件
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原告 サンデン株式会社 訴訟代理人弁理士 池田憲保 同 福田修一 同 山本格介 訴訟復代理人弁理士 佐々木敬 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 今井義男 同 水谷万司 同 岡田孝博 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/06/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が不服2003−18348号事件について平成17年4月12日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成6年12月26日,発明の名称を「紙葉類識別装置の光学検出部」とする発明について特許出願(特願平6-322201号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年8月14日に拒絶の査定を受けたので,同年9月19日,拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は,同請求を不服2003-18348号事件として審理した結果,平成17年4月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。 2 平成14年11月15日付け手続補正書によって補正された明細書(甲2,3,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含み,前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路近傍の異なる位置に配置されて成ることを特徴とする紙葉類識別装置の光学検出部。 3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,実願昭60-14 11873号(実開昭62-51461号)のマイクロフィルム(甲4,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 ( ) 審決が本願発明と引用発明とを対比して認定した一致点及び相違点は,そ 2れぞれ次のとおりである。 (一致点)「所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含み,前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路の異なる位置に配置されて成る光学検出部。」(審決謄本3頁下から第3段落)(相違点)「相違点1:本願発明が,『前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射される』なる事項を有しているのに対し,引用例に記載の発明(注,引用発明)では,紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるものの,透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射される事項については明示されていない点。 相違点2:本願発明が,『前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路近傍』に配置される事項を有しているのに対し,引用例に記載の発明では,そのような事項が明示されていない点。 相違点3:光学検出部が,本願発明では『紙葉類識別装置』用なのに対し,引用例に記載の発明では,紙葉類の積層状態検知用である点。」(同頁下から第2段落〜4頁第2段落) |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1〜3),その結果,本願発明が引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論を導き出したもので,違法であるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)( ) 審決は,相違点1について,「一般に,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類 1の特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,引用例に記載の発明において,紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるようにする際に,前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるようにすることは,単なる設計変更である。」(審決謄本4頁第3段落)と判断するが,誤りである。 ( ) 本願発明は,識別対象が紙幣,証券,債券等の紙葉類であり,技術的課題 2が,限られたスペースに設置することができ,搬送中の紙葉類から効率良く光学的データをサンプリングし得る,検出精度の高い紙葉類識別装置の光学検出部を提供することにある。すなわち,本願発明は,一対の発光素子と受光素子を具備し,紙葉類の搬送される「所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部」,すなわち,紙葉類の搬送方向に対して平行に想定される線(以下「検出ライン」という。)ごとに異なる2か所の位置の,互いに異なる絵柄,模様等のある部分を透過した透過光を受光し,光学的情報が合成された透過光データを検出し,この合成された透過光データを分析することにより,紙葉類の識別を行う構成である。このような構成を採用することによって,精度の高い紙葉類の真贋等の識別を行うものである。 これに対して,引用発明は,紙葉類の積層の検知は,紙葉類の搬送方向の1本の検出ライン上の2か所で行われる。引用発明は,紙葉類の積層状態の検知感度を高くするために測定光が紙葉類の搬送方向の1本の検出ライン上で複数回紙葉類を透過するものである。引用例は,紙葉類の絵柄,模様等を識別することについて何らの記載をもしていない上,紙葉類の絵柄,模様等をより的確に識別するために,検出ラインを増加する必要性についても何ら記載していない。 被告は,引用例には,「測定光が複数回紙葉類を透過する」との記載があるのみで,検出ラインの概念がないだけでなく,引用発明の目的を達成するために,必ずしも2点以上の測定点が検出ラインの上になければならないわけではなく,したがって,引用発明の測定点が1本の検出ライン上の2か所に限定されるとはいえない旨主張する。 しかし,引用例(甲4)の第1図によれば,紙幣を搬送方向に沿った2か所において貫通するような光路が形成されている。また,引用発明においては,1本の検出ライン上で紙葉類の積層を検出するという構成によって,紙葉類の積層を検出するという目的を達成することができるのであるから,搬送方向と交叉する方向で測定するとの技術について示唆しているとはいえない。 ( ) 被告は,特開昭60-191378号公報(乙1,以下「乙1公報」とい 3う。),特開昭52-42194号公報(乙2,以下「乙2公報」という。),本件明細書(甲2)の【従来の技術】欄を例に挙げて,照射光を紙葉類に透過させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類を識別する偶数組の発光・受光素子を備えた紙葉類識別装置の光学検出部(以下「本件周知装置」という。)は,本件出願時に周知であるとし,この本件周知装置及び引用発明は,いずれも,照射光を紙葉類に透過させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類の正常・異常を判別する点で一致しているから,引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置に適用できることは,当業者にとって明らかなことである旨主張する。 しかし,本件周知装置は,紙葉類の正常,異常を識別するのに対して,引用発明は,紙葉類が1枚か2枚以上かを検知するものなので,本件周知装置と引用発明とを組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,被告の主張は,明らかに失当である。 また,乙1公報記載の技術は,二対の光源及び光センサにより2本の走査線上を各別に透過した光の出力信号を得て,その比を算出するものであり,乙2公報記載の技術は,二対の発光体及びセンサーを用い,2本の軌跡上を各別に透過した光量を比較するものである。したがって,引用発明,乙1公報及び乙2公報を参照しても,搬送方向に交叉する方向に位置する2つの部分を透過した透過光を合成することによって,紙葉類の模様,絵柄の識別を行うことができるという事実についての開示を見いだすことはできず,相違点1に係る本願発明の構成に想到することはできない。 ( ) 被告は,検出ラインが1本の場合と2本の場合とで作用効果に格別の差が 4ないから,検出ラインを2本とすることは単なる設計変更にすぎない旨主張する。 しかし,本願発明は,上記( )のとおり,搬送中の紙葉類から効率良く光 2学的データをサンプリングして検出精度の高い紙葉類の真贋等の識別を行うという作用効果を奏するものであり,検出ラインが2本であることによって,例えば,紙幣の真券を長手方向に半分に切り取り,切り取った部分に白紙を貼り付けた変造紙幣の場合,検出ラインが1本の場合では変造であることを認識できないのに対し,検出ラインが2本の場合では変造であることを認識することができる。このように,本願発明は,一対のセンサで2か所の透過光データを得るために的確に識別判定を行うことができ,引用発明と対比して,照射光が透過する紙葉類の搬送方向の検出ライン数が2倍であるから,紙葉類の識別を2倍的確に行う作用効果を奏することができる。したがって,検出ラインが1本の場合と2本の場合とで作用効果に格別の差がないとはいえない。 そもそも,「単なる設計変更」とは,構成,手段が周知慣用技術等の変更であり,しかも,目的及び作用効果に格別の相違が生じないことをいうのであり,本願発明がこれに該当しないことは,明らかである。 さらに,本願発明は,表裏があり,かつ,設定された方向とは逆方向に搬入される可能性のある紙葉類を,表裏に関係なく,かつ,搬入方向によらず紙葉類を精度良く識別できる光学検出部を開示しているのである。具体的にいえば,紙葉類の表裏を透過する1本の透過光を用いることによって紙葉類の表裏に関係なく,紙葉類の識別ができるとともに,1本の透過光を紙葉類の搬送方向の2か所を透過させることにより,2本の検出ラインに二対のセンサを設けたのと同様な効果を得ている。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)( ) 審決は,「一般に,光を用いて検知する場合に,外光や塵埃の影響を避け 1るために,検出装置を被検出装置の近傍に配置させることは,当業者なら普通に採用しうる手段であり,発光素子,導光部材,及び受光素子を,紙葉類を搬送するための搬送通路近傍に配置させることは,当業者が適宜なし得ることと認められる。」(審決謄本4頁下から第2段落)と判断する。 審決のいう「被検出装置」が本願発明の何を指すのか必ずしも明らかではないが,本願発明は,外光や塵埃の影響を避けることを否定しないが,紙葉類識別装置の光学検出部を限られた設置スペースに設置できることを技術的課題としているのであって,審決のように,レイアウトの一般論によって,当業者であれば,本願発明の技術的課題を予測することができるとするのは,失当である。 ( ) 被告は,実願昭57-11569号(実開昭58-117568号公報) 2のマイクロフィルム(乙3,以下「乙3公報」という。),実願昭60-81796号(実開昭61-201177号公報)のマイクロフィルム(乙4,以下「乙4公報」という。),特開平5-101248号公報(乙5,以下「乙5公報」という。),実願昭62-31509号(実開昭63-139518号公報)のマイクロフィルム(乙6,以下「乙6公報」という。)によれば,一般に光学検出部の設置スペースをできるだけ小さくすること,そのために,それに組み込まれる部材をできるだけコンパクトにすることは,従来周知の技術課題である旨主張する。 しかし,乙3〜5公報には,複数の光センサを設けた紙幣鑑別装置,識別センサ等が記載されているところ,これらを小型にするため,あるいは,コンパクトにするために,紙幣等の識別の精度を低下させることなく,光センサを構成する発光素子,受光素子の数を減少させることについての記載が全くない。乙6公報は,引用例と同様に,紙幣等の存在を検出する検出機構を開示しているだけである。 したがって,被告の上記主張は,前提において誤りである。 3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)( ) 審決は,「発光素子で紙葉類の一部に照射させ,透過光を受光素子で受光 1してなる,紙葉類識別装置の光学検出部は,本願出願前周知な技術事項であり,引用例に記載の発明も紙葉類を扱うものであり,発光素子,受光素子により紙葉類の透過光を検出するものであるから,引用例に記載の発明を上記周知事項に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすることは,当業者が必要に応じ容易になし得ることと認められる。」(審決謄本4頁最終段落)と判断する。 しかし,本願発明は,搬送中の紙葉類の絵柄,模様等に係る光学的データをサンプリングして紙葉類を識別するものであるのに対し,引用発明は,検知対象が紙葉類の積層状態で,搬送中の紙葉類から感度の高い積層状態検知装置を提供することにある。したがって,本願発明と引用発明とは,発明の課題及び目的が相違し,検知対象が紙葉類である点で一致するのみであり,このことは,本件周知装置と引用発明でも同様である。 本件周知装置と引用発明とは,発明の課題及び目的が相違するので,引用発明を本件周知装置に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすることが,当業者において必要に応じ容易になし得ることということはできない。 ( ) 被告は,引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させ 2た構成を,本件周知装置に適用する上において,阻害要因がないことは,当業者にとって明らかなことである旨主張する。 しかし,審査,審判において当該特許出願を拒絶するためには,阻害要因がないという否定的消極的理由だけでは不十分であり,発明が進歩性を欠如するという肯定的積極的理由を示すことが必要である。 |
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被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について( ) 確かに,本願発明と引用発明とは,本願発明が紙葉類識別装置に関するも 1のであり,引用発明が紙葉類の積層状態検知装置に関するものである点で,発明の課題及び目的が相違する。 しかし,乙1,乙2公報に記載された2組の発光,受光素子をもつ各紙葉類識別装置,及び,本件明細書(甲2)の【従来の技術】欄に記載された4組の発光,受光素子をもつ紙葉類識別装置によれば,照射光を紙葉類に透過させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類を識別する偶数組の発光・受光素子を備えた紙葉類識別装置の光学検出部,すなわち,本件周知装置は,本件出願時に周知である。本件周知装置及び引用発明は,いずれも,照射光を紙葉類に透過させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類の正常・異常を判別する点で一致しているから,引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置に適用できることは,当業者にとって明らかなことである。その際,検出ラインが1本の場合と2本の場合とで作用効果に格別の差がないから,検出ラインを2本とすることは単なる設計変更にすぎないことは,後記( )のとおりであ3る。 ( ) 原告は,引用発明では,紙葉類の積層の検知が,紙葉類の搬送方向の1本 2の検出ライン上の2か所で行われる旨主張する。 しかし,引用例には,「測定光が複数回紙葉類を透過する」との記載があるのみで,「検出ライン」の概念がないだけでなく,引用発明の目的を達成するために,必ずしも2点以上の測定点が紙葉類の搬送方向に平行な線(検出ライン)の上になければならないわけではなく,したがって,引用発明の測定点が1本の検出ライン上の2か所に限定されるとはいえない。 ( ) 原告は,本願発明は,搬送中の紙葉類から効率良く光学的データをサンプ 3リングして検出精度の高い紙葉類の真贋等の識別を行うという作用効果を奏する旨主張する。 仮に,原告主張のとおり,引用発明の検出ラインが1本であるとしても,引用発明を紙葉類識別装置の光学検出部に適用した発明においても,紙葉類の一部を透過した測定光は,この一部とは異なる他部に照射されることから,紙葉類の識別は,紙葉類の搬送方向の2か所を測定光が透過することにより行われることになる。また,最初に測定光が照射された紙葉類の一部が,紙葉類の搬送により,受光素子の位置にまで来る間は,この一部と他部は,たとえ検出ラインが1本であっても,同じ場所になることはなく,このため,測定光は,検出ラインが2本の場合と同様に,常に異なった2か所を透過することになる。更に,最初に測定光が照射された紙葉類の一部が受光素子の位置を通過した後であっても,この一部は常に測定光が透過したことのない新しい場所であることから,この一部と他部の場所の組合せが,これまでに測定光の透過した場所と一致することはない。したがって,検出ラインが1本の場合と2本の場合とで作用効果に格別の差がないから,検出ラインを2本とすることは単なる設計変更にすぎない。 ( ) また,原告は,本願発明は,紙葉類の表裏を透過する1本の透過光を用い 4ることによって紙葉類の表裏に関係なく,紙葉類の識別ができるとともに,1本の透過光を紙葉類の搬送方向の2か所を透過させることにより,2本の検出ラインに二対のセンサを設けたのと同様な効果を得ている旨主張する。 しかし,本願発明において原告主張の効果を得るためには,2本の検出ラインが,紙幣の表と裏とで一致する必要があるところ,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,そのような事項は記載されていないから,原告主張の効果は,特許請求の範囲の記載に基づくもの,すなわち,本願発明の効果ではない。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について原告は,本願発明は,外光や塵埃の影響を避けることを否定しないが,紙葉類識別装置の光学検出部を限られた設置スペースに設置できることを技術的課題としているのであるから,レイアウトの一般論によって,当業者であれば,本願発明の技術的課題を予測することができるとすることはできない旨主張する。 しかし,乙3〜乙6公報によれば,一般に光学検出部の設置スペースをできるだけ小さくすること,そのために,それに組み込まれる部材をできるだけコンパクトにすることは,従来より周知の技術課題であるから,外光や塵埃の影響を避けるため,また,紙葉類識別装置に組み込まれる光学検出部をできるだけコンパクトにするために,発光素子等を搬送通路近傍の異なる位置に配置することは,当業者が適宜なし得たことである。 3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について原告は,本件周知装置と引用発明とは,発明の課題,目的が相違するから,「引用例に記載の発明を上記周知事項に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすること」は,当業者が必要に応じ容易になし得ることとはいえない旨主張する。 しかし,本件周知装置と引用発明は,いずれも,照射光を紙葉類に透過させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類の正常・異常を判別する点で一致する。また,両者は,検知信号処理において相違するのみであって,光学検出部の構成自体に差異がない。そして,引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置に適用する上において,阻害要因がないことは,当業者にとって明らかである。 したがって,引用発明において,紙葉類の積層状態の検知感度を高めるために,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置の精度を高めるために,その光学検出部に適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1及び3(相違点1及び3についての判断の誤り)について( ) 本願発明と引用発明とは,本願発明が,「前記紙葉類の一部を透過した透 1過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射される」という構成を有しているのに対して,引用発明においては,この構成を有していない点(相違点1)で相違することにつき当事者間に争いがない。 しかし,そもそも,本願発明の相違点1ないし3は,正確にいうと,相違点1及び2であることを特徴とする相違点3に係る光学検出部と言い換えることもでき,相違点1及び2は,相違点3に係る光学検出部であることを前提としている。しかも,審決が相違点3として摘示するとおり,本願発明は「紙葉類識別装置」に係る発明であるのに対し,引用発明は,紙葉類の積層状態検知用装置に係る技術であって,発明の課題及び目的が相違しており,このことは被告も認めるところである。したがって,本願発明の構成を把握する上で,相違点1及び2と相違点3とを分説するのはよいとしても,相違点1ないし3の相互の関係を考慮しながら,本願発明の進歩性について検討しなければならない。 そこで,相違点1と3とを併せた構成についての進歩性についてみると,相違点1及び3に係る本願発明の構成は,「紙葉類識別装置」において,「所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含」む構成を有しているのに対して,引用発明では,紙葉類の積層状態検知用装置において,上記構成を有していない点で相違するものである。 ( ) まず,本願発明の上記構成について検討する。 2ア 本願発明にいう「紙葉類識別装置」は,上記のとおり,紙葉類の積層状態検知用装置に係る引用発明とは,発明の課題及び目的が相違しているが,専門用語であり,「紙葉類識別装置」として所定の技術的意義があるとも考えられる。審決自体も,相違点1の検討において,「一般に,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類の特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことである。」(審決謄本4頁第3段落)と,相違点3の検討において,「発光素子で紙葉類の一部に照射させ,透過光を受光素子で受光してなる,紙葉類識別装置の光学検出部は,本願出願前周知な技術事項」(同頁最終段落)であるとしており,「紙葉類識別装置」が周知の技術であることをうかがわせる記載をしている。そこで,一般的に「紙葉類識別装置」の記載がいかなる技術的意義を有するのか,言い換えれば,本件出願当時,上記記載に接した当業者が,これによりいかなる技術を把握し,認識するかについて検討する。 イ 乙1公報(昭和60年9月28日公開)には,「本発明(注,乙1公報の特許請求の範囲記載の発明)は紙幣等特異な印刷パターン,彩色等を有する紙葉につき,その真偽を識別するための装置に関する。既知の通り紙幣の識別には,その大きさを検知したり,また印刷模様や色などを検出し,その結果と,真正なもののそれとを比較するなど,各種の手段が提案または実施されている。そして,そのための具体的手段として,紙葉類を走行させるなどして光源と相対変位させ,当該光源の光を受けた当該被試紙葉からの反射光か透過光を,光センサにより受け,このときの光センサから発せられる出力信号を用いることも,既に実用化されている。」(1頁右下欄第3段落〜2頁左上欄第1段落),「予め当該被試紙葉Pに1箇所以上の検出ポイントA,B,C,Dを定めておき,当該各ポイントを走査する時点・・・の各出力信号値・・・を測知し,これらの値を予め真正な紙幣につき測知してある上記検出ポイント走査時点の基準データとを比較し,これらが互いに合致するか否かにより判断を下すようにしている。」(同2頁左上欄第3段落)との記載がある。 乙2公報(昭和52年4月1日公開)には,「この発明(注,乙2公報の特許請求の範囲記載の発明)は紙幣面の特徴ある線上の光の透過光量の差を時間的に検出することによりその紙幣の真偽を判断する紙幣検出方法に関するものである。従来一般に慣用されていた紙幣検出装置は検定紙幣の所定の点のみに光を照射し,その反射光または透過光を検知して,その検定紙幣の真偽を判定していた。・・・この発明は・・・紙幣の特定の独立した2軌跡上にそれぞれ光を照射して各透過光を検知し,その各透過光の差を検出することによって所定の位置に配設されている一対の発光体によって,一定速度で通過する紙幣の面の特定の軌跡に照射して行き,その発光体の透過光量の差を時間的に検出することによって検定紙幣の真偽の判定を行なうことのできる紙幣検出方法を提供する」(1頁左下欄第3段落〜右下欄第2段落)との記載がある。 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の【従来の技術】欄には,「従来,紙葉類識別装置の一例である紙幣識別装置では,これが搭載される自動販売機等が屋外に設置されるため,悪戯に対する対策が必要となっている。この紙幣識別装置における光学検出部は,発光部と受光部とを含んでいるが,これらの構成としては,例えば図23に示すように,発光部として発光素子L を装備した基板と受光部として受光素子L を装備した基板S Rとを紙幣1を挟んで対向するように配置した透過光量検出型のものや,或いは図24に示すように受発光部として発光素子L ,受光素子L を並設SRさせて装備した基板を紙幣1の一面側に配置した反射光量検出型のものが一般的に用られている。因みに,透過光量検出型の光学検出部には,図25に示すように発光部として複数(4個)の発光素子L ,L ,L ,S1 S2 S3L を装備した大型の基板と,受光部として複数(4個)の受光素子L , S4 R1L ,L ,L を装備した大型の基板とをそれぞれ紙幣1を挟んで対向 R2 R3 R4するように設けたタイプのものもある。」(段落【0002】)との記載がある。 ウ 上記各記載に,乙1,乙2各公報の公開日をも考え併せると,照射光を紙葉類の所定の検出箇所に透過させ,当該検出箇所に固有の印刷模様や色等の情報を含んだその透過光を基準値と比較することにより,紙葉類を識別する1組あるいは複数組の発光・受光素子を備えた紙葉類識別装置の光学検出部,すなわち,本件周知装置は,本件出願時,あえて定義するまでもないほどに極く周知の技術となっていたことが認められ,そして,このような光学検出部は,その構成から必然的に,紙葉類の検出箇所を透過し,当該検出箇所に固有の印刷模様や色等の情報を含んだ透過光を基準値と比較することにより,紙葉類の真偽を識別するという機能,作用を有するものと認めることができる。 そうすると,本願発明の「紙葉類識別装置」は,その通常の意味として,紙葉類を識別する一対又は偶数対の発光・受光素子を備えたもので,紙葉類の検出箇所を透過し,当該検出箇所に固有の印刷模様や色等の情報を含んだ透過光を,基準値と比較することにより紙葉類の真偽を識別するという機能,作用を有するものであり,本件出願当時,上記記載に接した当業者においても,そのように把握し,認識するものというべきである。 エ なお,本願発明が,上記のような機能,作用を有する「紙葉類識別装置」であることは,本件明細書の発明の詳細な説明において,【作用】欄に,「このような光学検出部で反射検出部に含まれるもの以外に発光素子や受光素子を用いて発光素子の発光波長特性や受光素子の分光感度特性を異なるものとすると,紙幣からサンプリングされる光学的データが異なった状態となり,効率良く高精度な検出を行うことができる。尚,反射検出部を発光素子及び受光素子を一体化した反射センサに代えて構成した光学検出部においても全く同様な性能が得られる。」(段落【0011】)との記載があること,【実施例】欄に,「従って,この光学検出部では,各受光素子L ,L によって紙幣1の2箇所を透過して減衰された透過光R1 R2量を検出することになるが,搬送中の紙幣1における印刷の濃淡に応じて光エネルギーの吸収量も変化するので,この光エネルギーの変化を検出することによって紙幣1を識別判定するためのデータが得られる。」(段落【0016】)との記載があることからも裏付けられる。 オ 一方,相違点1に係る本願発明の構成において,少なくとも一対の発光素子と受光素子を具備していること,また,同構成中,紙葉類の搬送される「所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射される」とは,搬送方向と交叉する方向の検出箇所で測定するという技術,すなわち,紙葉類上,搬送方向に対して平行に想定される線(検出ライン)ごとに異なった2か所の位置(検出箇所)に照射され,紙葉類を透過する意味であること(以下,便宜上,上記検出ラインに係る考え方を「複数本の検出ラインの技術的思想」という。)が,上記記載自体から明らかであり,さらに,これが相違点3に係る本願発明の構成,すなわち,上記ウ判示の「紙葉類識別装置」の光学検出部なのである。 そうすると,本願発明の「所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含」む構成は,一対の発光・受光素子により,検出ラインごとに異なった複数の検出箇所に照射され,互いに異なる印刷模様,色彩等のある検出箇所を透過した透過光を得て,当該検出箇所に固有の印刷模様,色彩等の情報を含んだ透過光を分析し,基準値と比較することにより,紙葉類の識別を行うという機能を有するもの,すなわち,紙葉類識別装置において,複数本の検出ラインの技術的思想の下で,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うものと当業者に認識されるのである。 ( ) 次に,引用発明についてみる。 3ア 引用例(甲4)には,次の記載がある。 (ア) 「〔考案の属する技術分野〕本考案(注,引用発明)は,自動販売機における紙幣鑑別装置等において,たとえば紙幣が積層状態となっているかどうかを検知する積層状態検知装置,特に検知感度を高くする装置構成に関する。」(1頁下から第2段落)(イ) 「上述のような紙葉類の積層状態検知装置としては従来第2図に示した構成のものが知られている。すなわち第2図は紙幣鑑別装置における紙幣の積層状態検知装置の構成図で,図において,1は紙幣が2が搬送される搬送路,Pは紙幣1の搬送方向,3は紙幣1を搭載してP方向に搬送する搬送ベルト,4は搬送ベルト駆動用プーリーである。・・・受光素子の出力信号7aの大きさによって紙幣2が一枚であるか積層状態であるかを検出することができるが,通常紙幣2が一枚である場合に受光素子7に到達する光量と紙幣2が二枚重なっている場合に受光素子7に到達する光量との差は非常に小さい」(1頁最終段落〜2頁)(ウ) 「〔考案の要点〕本考案は,上記目的達成のため,紙葉類が導入される導入部と,この導入部に導入された紙葉類を測定光が該紙葉類の厚さ方向に複数回透過するように該測定光の光路を形成する導光手段と,光路に測定光を投射する発光手段と,光路を介して導かれた測定光を受光する受光手段とで紙葉類の積層状態検知装置を構成し,受光手段が受光する測定光の光量にもとづいて紙葉類の積層状態を検知するようにしたもので,このように構成することによって,発光手段から出射されて前記光路を進行する測定光が複数回紙葉類を透過する結果,該紙葉類がたとえば一枚である場合とこの紙葉類が複数枚重なっている場合との受光手段で受光される測定光量の差が,測定光が一回だけ紙葉類を透過するように構成された従来の検知装置の場合よりも大きくなるようにして,もって紙葉類の積層状態を容易に検知することができる検知感度の高い積層状態検知装置が得られるようにしたものである。」(3頁最終段落〜4頁第1段落)(エ) 「第1図は本考案の一実施例の構成図で,本図の第2図と異なる主な所は第1および第2反射鏡8,9が設けられていることと,発光素子6と受光素子7とが搬送路1の同じ側に設けられていることである。すなわちこの場合,発光素子6から発せられた測定光を受光素子7に導く光路10は,発光素子6から出射された測定光がまず紙幣2を透過した後反射鏡8に入射し,反射鏡8に入射した測定光がここで反射されて反射鏡9に達して再び反射鏡で反射され,反射鏡9で反射された測定光が再度紙幣2を透過して受光素子7に入射するように構成されている。11は,紙幣2が導入される導入部としての搬送路1と:搬送路1に導入された紙幣2を測定光が該紙幣の厚さ方向に2回透過するように該測定光の光路10を形成する,反射鏡8と9とからなる導光手段12と:発光素子6と:受光素子7と:からなる積層状態検知装置である。」(4頁最終段落〜5頁第1段落)イ 上記記載によれば,引用発明は,発光手段から出射されて前記光路を進行する測定光が複数回紙葉類を透過する結果,当該紙葉類がたとえば1枚である場合とこの紙葉類が複数枚重なっている場合との受光手段で受光される測定光量の差が,測定光が1回だけ紙葉類を透過するように構成された従来の検知装置の場合よりも大きくなるので,紙葉類の積層状態を容易に検知することができるというものであり,複数本の検出ライン上で紙葉類の積層を検出しているのでないことはもちろんのこと,そもそも,照射光を紙葉類に透過させ,紙葉類の枚数を検知するというのであって,紙葉類のいずれを検出箇所にしてもかまわないのであるから,上記( )オのよ2うな複数本の検出ラインの技術的思想はない。したがって,引用例には,相違点1及び3に係る本願発明の構成の開示も示唆もないというべきである。 ウ なお,被告は,引用例には,「測定光が複数回紙葉類を透過する」との記載があるのみで,検出ラインの概念がないだけでなく,引用発明の目的を達成するために,必ずしも2点以上の検出ライン上になければならないわけではないとして,相違点1に係る本願発明の「前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する」との構成部分が,引用発明と一致するかのような主張をしているが,審決においては,この構成部分を相違点として取り扱っているのであるから,主張自体失当である。加えて,引用例には,複数本の検出ラインの技術的思想がなく,相違点1及び3に係る本願発明の構成が開示も示唆もされていないことは,上記イのとおりである。 ( ) そこで,相違点1及び3に係る本願発明の構成が本件周知装置に開示され 4ているかについて検討する。 乙1公報には,「予め当該被試紙葉Pに1箇所以上の検出ポイントA,B,C,Dを定めておき,当該各ポイントを走査する時点・・・の各出力信号値・・・を測知し,これらの値を予め真正な紙幣につき測知してある上記検出ポイント走査時点の基準データとを比較し,これらが互いに合致するか否かにより判断を下すようにしている。」(同2頁左上欄第3段落)といった記載があるなど,二対の光源及び光センサにより2か所の検出ポイント(2本の検出ライン上の点)を各別に透過した光の出力信号を得て,その比を算出する技術が開示されているのみであって,上記( )オに判示した,複数本の 2検出ラインの技術的思想の下で,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うという相違点1及び3に係る本願発明の構成は,開示も示唆もされていない。 また,乙2公報には,「この発明は・・・紙幣の特定の独立した2軌跡上にそれぞれ光を照射して各透過光を検知し,その各透過光の差を検出することによって所定の位置に配設されている一対の発光体によって,一定速度で通過する紙幣の面の特定の軌跡に照射して行き,その発光体の透過光量の差を時間的に検出する」(1頁右下欄第2段落)などといった記載があるなど,二対の発光体及びセンサーを用い,2本の軌跡(検出ライン)上を各別に透過した光量の時間的な差を検出し,比較する技術が開示されているのみであって,上記( )オに判示した相違点1及び3に係る本願発明の構成は,開示 2も示唆もされていない。 念のため,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明中の【従来の技術】欄をみると,「透過光量検出型の光学検出部には,図25に示すように発光部として複数(4個)の発光素子L ,L ,L ,L を装備した大型の基S1 S2 S3 S4板と,受光部として複数(4個)の受光素子L ,L ,L ,L を装備 R1 R2 R3 R4した大型の基板とをそれぞれ紙幣1を挟んで対向するように設けたタイプのものもある。図25に示すような光学検出部において,搬送された紙幣1を光学的に検出すると,例えば受光素子Lによる時間経過に伴う紙幣1の移R1動量Mに対する透過光量C は図26に示すような特性C1となり,受光素 T子L による時間経過に伴う紙幣1の移動量Mに対する透過光量C は図2 R2 T7に示すような特性C2となって若干の相違が現われる。」(段落【0002】及び【0003】)などといった記載があり,四対の発光体及びセンサーを用い,4本の検出ライン上を各別に透過した光量の時間的な差を検出する技術が開示されているのみであって,上記( )オに判示した相違点1及び 23に係る本願発明の構成が示唆されていないことは,明らかである。 このように,相違点1及び3に係る本願発明の構成は,引用発明にも,本件周知装置にも存在しない新規の技術事項であり,上記( )オのとおり,一2対の発光・受光素子により,検出ラインごとに異なった複数の検出箇所に照射され,互いに異なる印刷模様,色彩等のある検出箇所を透過した透過光を得て,当該検出箇所に固有の印刷模様,色彩等の情報を含んだ透過光を分析し,基準値と比較することにより,紙葉類の識別を行うという機能を有するもの,すなわち,紙葉類識別装置において,複数本の検出ラインの技術的思想の下で,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うというものである。 ( ) この点について,審決は,「一般に,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類の 5特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,引用例に記載の発明において,紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるようにする際に,前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるようにすることは,単なる設計変更である。」(審決謄本4頁第3段落)とする。 確かに,本件周知装置においては,上記( )ウのとおり,紙葉類の識別を 2行う際に,紙葉類の特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。しかし,このことから,上記( )のような,3複数本の検出ラインの技術的思想のない引用発明について,複数本の検出ラインの技術的思想を前提とし,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うという相違点1及び3に係る本願発明の構成を付加することが容易であるとか,あるいは,単なる設計変更であるということは困難である。すなわち,引用発明において,本願発明と引用発明との一致点である「所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含み,前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路の異なる位置に配置されて成る光学検出部」という構成を有するとしても,紙葉類の積層状態検知装置である限り,上記( )イのとおり,単に照射光を紙葉類に透過させ, 3紙葉類の枚数を検知するものであって,紙葉類のいずれを検出箇所にしてもかまわないのであるから,複数本の検出ラインの技術的思想が入り込む余地はないのである。 審決の上記判断は,おそらく,紙葉類の積層状態検知装置と紙葉類識別装置を共通あるいは密接に関連した技術分野のものであるとの考えを前提にするものと思われる。 しかし,前者は,複数回紙葉類を透過することによって受光手段で受光される測定光量の差が大きくなることを利用し,紙葉類の枚数を検知するのに対し,後者においては,紙葉類の検出箇所を透過して得られる印刷模様や色等の情報を含んだ透過光を利用し,紙葉類の識別を行うのであり,「所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と,前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と,前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含み,前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路の異なる位置に配置されて成る光学検出部」という構成において一致しているといっても,その機能,作用,その他具体的技術において少なからぬ差異があるものというべきである。したがって,紙葉類の積層状態検知装置及び紙葉類識別装置は,近接した技術分野であるとしても,その差異を無視し得るようなものではなく,構成において,紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには,それなりの動機付けを必要とするものであって,単なる設計変更であるということで済ませられるものではない。 しかも,本件においては,複数本の検出ラインの技術的思想が,紙葉類の積層状態検知装置にとって不要であるのに,紙葉類識別装置においては重要な技術的意義を有することになるのであるから,なおさら,紙葉類の積層状態検知装置と紙葉類識別装置とは同視できないものというべきである。 以上のとおりであるから,複数本の検出ラインの技術的思想のない引用発明について,その技術的思想を前提とする相違点1及び3に係る本願発明の構成を付加することが単なる設計変更であるとした審決の判断は,誤りである。 ( ) 被告は,本件周知装置及び引用発明は,いずれも,照射光を紙葉類に透過 6させ,その透過光を基準値と比較することにより,紙葉類の正常・異常を判別する点で一致しているから,引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置に適用できることは,当業者にとって明らかなことであり,その際,検出ラインが1本の場合と2本の場合とで作用効果に格別の差がないから,検出ラインを2本とすることは単なる設計変更にすぎないと主張する。 しかし,本件周知装置及び引用発明が,いずれも,被告主張のとおり,紙葉類の正常・異常を判別する点で一致しているとしても,上記( )のとおり,5引用発明が紙葉類の積層状態検知装置である限り,単に照射光を紙葉類に透過させ,紙葉類の枚数を検知するものであって,紙葉類のいずれを検出箇所にしてもかまわないのであるから,複数本の検出ラインの技術的思想が入り込む余地はなく,本件周知装置と引用発明とを組み合わせて相違点1及び3に係る本願発明の構成に導くような動機付けを見いだすことはできないのである。そして,本願発明は,従来の紙葉類識別装置が一対の発光・受光素子により紙葉類の所定位置の光学的情報を有する透過光データを検出して識別を行っていたところ,相違点1に係る本願発明の構成により,発光・受光素子の配設数を増やすことなく,一対の発光・受光素子により紙葉類の検出ラインごとの異なる複数箇所に係る光学的情報を混在させた透過光データを検出して識別を行い,識別の精度を上げようとするものであって,単に,一対の発光・受光素子による識別を二対の発光・受光素子によって行うなどといった量的な追加とは質的に異なる発想の転換があるものというべきであり,1本の検出ラインが2本になっている点のみをとらえて単なる設計変更にすぎないということはできないものというべきである。したがって,被告の上記主張は,失当である。 ( ) 審決は,相違点3について,「発光素子で紙葉類の一部に照射させ,透過 7光を受光素子で受光してなる,紙葉類識別装置の光学検出部は,本願出願前周知な技術事項であり,引用例に記載の発明も紙葉類を扱うものであり,発光素子,受光素子により紙葉類の透過光を検出するものであるから,引用例に記載の発明を上記周知事項に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすることは,当業者が必要に応じ容易になし得ることと認められる。」(審決謄本4頁最終段落)とする。 しかし,上記( )のとおり,紙葉類の積層状態検知装置及び紙葉類識別装 5置は,近接した技術分野であるとしても,その差異を無視し得るようなものではなく,構成において,紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには,それなりの動機付けを必要とするものであって,引用発明及び本件周知装置ともに「紙葉類を扱うもの」,「発光素子,受光素子により紙葉類の透過光を検出するもの」であるということで,直ちに,紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えることが当業者において容易であるとすることはできない。 ( ) 被告は,本件周知装置と引用発明は,光学検出部の構成自体に差異がなく, 8引用発明において,測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を,本件周知装置に適用する上において阻害要因がない旨主張する。 被告の上記主張は,主引用例を引用発明から本件周知装置に差し替え,主引用例とした本件周知装置に阻害要因がないとしているものと思われるが,審決の理由において,「発光素子で紙葉類の一部に照射させ,透過光を受光素子で受光してなる,紙葉類識別装置の光学検出部は,本願出願前周知な技術事項」(審決謄本4頁最終段落)と説示しているとおり,本件周知装置は,審判段階においては,飽くまでも「本願出願前周知な技術事項」であって,本願発明と対比されるべき引用例とされていたのではなく,まして,本願発明との対比判断に係る検討を経ていたわけでもないところ,このような事情の下で,訴訟段階に至って,主引用例の差替えの主張を許すことは,最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁の判示する審決取消訴訟の審理範囲を逸脱するものというべきであって許されないものというべきである。のみならず,既に判示したとおり,本願発明と引用発明とは,そもそも発明の課題及び目的が相違し,相違点1及び3に係る本願発明の構成が,引用発明及び本件周知装置に開示も示唆もされておらず,これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い。 いずれにせよ,被告の上記主張は,失当である。 ( ) そうすると,相違点1及び3に係る本願発明の構成について,当業者が容 9易に想到し得たとする審決の判断は,誤りであり,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 2 以上検討したところによれば,原告主張の取消事由1及び3は理由があり,その余につき判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるから,これを認容し,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |