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関連審決 異議2003-70344
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 296号 特許取消決定取消請求事件
原告 三洋電機株式会社
訴訟代理人弁理士 角田芳末
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 安池一貴
同 高木 進
同 小曳満昭
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2003-70344号事件について平成16年5月26日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,名称を「太陽光発電システムの電力制御方法および電力制御装置」とする特許第3311424号発明(平成5年5月24日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成14年5月24日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許について,特許異議の申立てがされ,特許庁は,異議2003-70344号事件として審理した上,平成16年5月26日に「特許第3311424号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年6月14日,原告に送達された。
2 願書に添付した明細書(以下,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲記載の発明の要旨 【請求項1】太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて, 前記インバータと商用電力系統との連系点での連系点電圧が,規定の上限電圧より低い所定の抑制開始電圧以下のときには,太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する最大電力点追尾制御を行い, 前記連系点電圧が,前記抑制開始電圧を越えたときには,前記動作点が前記最大電力点と異なるようにインバータ出力を設定して出力電力を最大電力よりも小さくすると共に,前記連系点電圧が,前記上限電圧を越えたときには,前記開閉手段を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御方法。
【請求項2】太陽電池と,該太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータと,該インバータと連系して負荷に電力を供給する商用電力系統と,前記インバータと商用電力系統との連系点での電圧を検出する電圧検出手段と,前記インバータと商用電力系統との間に設けられた開閉手段と,前記インバータの出力制御および前記開閉手段の開閉制御を行う制御手段と,を備えた太陽光発電システムの電力制御装置であって, 前記制御手段は,前記電圧検出手段により検出された前記連系点電圧が,規定の上限電圧より低い所定の抑制開始電圧以下のときには,太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する最大電力点追尾制御を行う第1制御モードと,前記連系点電圧が,前記抑制開始電圧を越えたときには,前記動作点が前記最大電力点と異なるようにインバータ出力を設定して出力電力を最大電力よりも小さくする第2制御モードと,前記連系点電圧が,前記上限電圧を越えたときには,前記開閉手段を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させる第3制御モードとを有していることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御装置。
(以下,【請求項1】,【請求項2】の発明を「本件発明1」,「本件発明2」という。) 3 決定の理由 決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,@本件発明1は,特開昭58-43018号公報(審判甲1・本訴甲3,以下「引用例」という。)記載の,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,負荷電圧VLが,規定の上限電圧(VLmax)より低い所定の抑制開始電圧(VLmax-ε)以下のときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行い,前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧(VLmax-ε)を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定すると共に,前記負荷電圧VLが,前記上限電圧になったときには,前記出力電流指令値IGP**を零にさせることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御方法」(決定謄本5頁最終段落〜6頁第1段落,以下「引用発明1」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,A本件発明2は,引用例記載の,「太陽電池と,該太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータと,該インバータと連系して負荷に電力を供給する商用電力系統と,負荷電圧VLを検出する電圧検出手段(電圧検出器18)と,前記インバータの出力制御を行う制御手段(16,17,30,31等)と,を備えた太陽光発電システムの電力制御装置であって,前記制御手段は,前記電圧検出手段により検出された前記負荷電圧VLが,規定の上限電圧(VLmax)より低い所定の抑制開始電圧(VLmax-ε)以下のときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行う第1制御モードと,前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定する第2制御モードと,前記負荷電圧VLが,前記上限電圧に達したときには,前記インバータ出力電流指令値IGP**を零にさせる第3制御モードとを有していることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御装置」(同頁第2段落,以下「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,B本件発明1,2に係る本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものであるとした。
原告主張の決定取消事由
決定は,引用発明1,2の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と引用発明1の一致点の認定を誤り(取消事由2),本件発明1と引用発明1との相違点についての判断を誤り(取消事由3),その結果,本件発明2の進歩性についての判断を誤った(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明1,2の認定の誤り) (1) 決定は,引用発明1,2について,上記第2の3@,A記載のとおり認定した(決定謄本5頁最終段落〜6頁第2段落)が,誤りである。
(2) 引用例(甲3)には,「本発明(注,引用発明1,2)は,配電系統に連系運転される発電装置の制御方式に関し,その目的とするところは既存の系統構成の見直しを要することなく,許容される電圧変動幅を守りつつ発電装置の連系運転を可能ならしめるにある」(1頁左下欄下から第2段落),「本発明の目的は,既存配電系統の見直しを要することなくそのまゝ利用しながらも,発電装置接続により負荷電圧が許容変動幅を超過するようなことがなく,変圧器容量の許す範囲内においてできるだけ多くの発電装置の設置を可能にすることにある」(2頁左下欄下から第2段落),「この目的は,本発明によれば,配電系統に連系運転される発電装置において,電圧が設定上限電圧に接近した段階より発電装置出力電流有効分の低減を開始し,負荷電圧がその設定上限電圧に達したときに発電装置出力電流有効分が零になるように,発電装置出力電流を制御することによって達成される」(同頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),「なお,第4図の実施例において,1次指令値IGP*は,エネルギー有効利用の見地から,例えば図示の如く,発電素子11の電圧,電流を計測し,これらにもとづいて発電素子11がその都度最大出力点で動作するように,その最大出力点に対応したインバータ出力電流を算出する最大出力点演算回路31によって与えるようにするとよい」(3頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落)との記載があり,これらの記載によれば,引用発明1,2は,既存の配電系統の見直しを要することなくそのまま利用しながらも,発電装置接続により負荷電圧が許容変動幅を超過するようなことがなく,変圧器容量の許す範囲内において,できるだけ多くの発電装置の設置を可能にすることを目的とし,配電系統と連系運転する発電装置からの負荷に対して,安定的に電力を供給するため,負荷に供給する電圧がその設定の上限電圧近くになると,発電装置の出力電流の有効分を低減させ,上限電圧に達すると上記出力電流の有効分を零にする電力を供給するシステムないし装置であると認められる。
最大電力点追尾制御が,本件特許出願前,当業者に周知の技術であったことは争わないが,これを引用発明1について具体的に見ると,引用例(甲3)の「最大出力点」とは,発電素子11のV-I特性(電圧-電流特性)に対応した「最大出力」をあらかじめ算出しておき,発電素子11の電圧・電流を計測し,その結果に基づいて設定される「予想最大出力点」を意味していると考えられ,第5図に示されるとおり,最終的な電流指令値IGP**(電流1次指令値IGP*と同じ。)が一定であるということは,最大電力点追尾制御になっていないことを意味し,「最大電力点追尾」と同じものと認定することはできないから,決定の引用発明1,2の認定は誤りである。原告作成の参考図(甲11,以下「甲11参考図」という。)記載のように,太陽電池の出力特性は,日射量変化のみならず,温度変化によっても変化するため,太陽電池の出力電圧及び出力電流を検出したとしても,それに対応した現在の太陽電池の出力特性を特定することは,事実上不可能であるから,引用発明1は,最大電力点追尾制御を行うものではなく,発電素子11のV-I特性に対応した「予想最大出力」に基づき設定される電流に等しくなるような定電流制御を行っていると考えるべきである。
(3) 甲11参考図記載のように,太陽電池の最大電力は温度が上昇するにつれて減少し,そのときの電圧も低くなり,日射量が上昇するにつれて最大電力は増大するが,そのときの電圧も変動する。ここで,最大電力の追尾制御とは,「山登り法」(以下「山登り法」という。)といわれ,温度や日射量が変化すると,最大電力になる電圧が変化するため,太陽電池の出力電力を最大にするために,電圧を最大電力となる電圧の方向へシフトさせる制御,すなわち,あたかも最大電力点という頂上を目指して山を登るように電圧を変化させる制御をいう。原告作成の説明図(甲12,以下「甲12説明図」という。)(1)〜(3)は,日射量と温度を一定として,最大電力を追尾制御したときの電圧-電流特性を図示したものであり,電流指令値を一定としている範囲では,電圧が上昇するにつれて出力電力が増大していることを示し,仮に,日射量と温度が一定で変化しない場合に最大電力点の追尾が行われるとするならば,甲12説明図(2)に示すように,出力電力が一定で,電流指令値が電圧増大に対して減少していくはずである。さらに,甲12説明図(3)に示すように,最大電力1000Wの電力を得るための電流指令値は減少していくのであるが,電圧が抑制開始電圧,すなわち,設定上限電圧VLmaxの近傍の値(VLmax-ε,同図では106V)を越えたときには,電流-電圧特性を示す直線が右肩下がりになっているため,仮に,「最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定」(決定謄本6頁第1段落,第2段落)したとしても,図の点線@に示すような傾向を取ることもあり得るから,出力電力が最大電力より小さくなるとは限らない。したがって,引用発明1,2において,「前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧(VLmax-ε)を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定する」(同)点は,単に出力電流指令値を低減させることになったとしても,それが出力電力を最大電力よりも小さくすることにならないから,引用例(甲3)には,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行うという技術的思想自体がない。
被告は,「山登り法」を,太陽電池の出力電圧及び出力電流から算出した出力電力を最大化する追尾であるとするが,誤りである。例えば,特開昭60-234468号(甲13,以下「甲13公報」という。)や特開昭56-91633号(甲14,以下「甲14公報」という。)には,インバータの出力端で最大電力に制御する最大電力点追尾が示されており,これも「山登り法」による最大電力点追尾方式の一例である。
さらに,原告作成の説明図(甲15,以下「甲15説明図」という。)の記載から明らかなように,引用発明1,2では,出力電流指令値によりインバータの出力電流を制御しているのであるから,太陽電池の出力特性が変わっても負荷電圧に変化がなければインバータの出力電圧に変化はなく,出力電圧に変化がなければ出力電流指令値も変化しないから,結局,インバータの交流出力電力は一定になり,最大電力点追尾は行われない。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一致点の認定の誤り) (1) 決定は,本件発明1と引用発明1の一致点として,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,前記インバータと商用電力系統との連系点での連系点電圧が,規定の上限電圧より低い所定の抑制開始電圧以下のときには,太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する最大電力点追尾制御を行い,前記連系点電圧が,前記抑制開始電圧を越えたときには,前記動作点が前記最大電力点と異なるようにインバータ出力を設定して出力電力を最大電力よりも小さくすることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御方法」(決定謄本9頁下から第2段落)である点を認定したが,誤りである。
(2) 上記一致点の認定のうち,@「連系点電圧が,規定の上限電圧より低い所定の抑制開始電圧以下のときには,太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する最大電力点追尾制御を行」う点及びA「前記連系点電圧が,前記抑制開始電圧を越えたときには,前記動作点が前記最大電力点と異なるようにインバータ出力を設定して出力電力を最大電力より小さくする」点は,本件発明1の構成であっても,引用発明1の構成ではない。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り) (1) 決定は,本件発明1と引用発明1の相違点1として認定した,「本件発明1は,前記連系点電圧が,前記上限電圧を越えたときには,前記開閉手段を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させるのに対し,引用発明1は,前記連系点電圧(負荷電圧VL)が,前記上限電圧(VLmax)になったときには,前記インバータ出力(出力電流指令値IGP**)を零にさせる点」(決定謄本9頁最終段落〜10頁第1段落)について,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,前記インバータと商用電力系統との連系点での連系点電圧が,規定の上限電圧を越えたときには,前記インバータと商用電力系統との間に設けられた開閉手段(過電圧継電器)を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させて系統連係の保護を図ることは本願出願前周知の技術であると認められ,この周知技術を引用発明1の,連系点電圧(負荷電圧VL)が前記上限電圧(VLmax)になったときには,前記インバータ出力(出力電流指令値IGP**)を零にさせるという技術に換えて適用することにより,本件発明の上記相違点1に係る構成を想到することは,前記の適用を阻害すべき特段の事情も見出せない以上,当業者が適宜容易になし得た程度のもの」(同頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2) 決定の上記判断のうち,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,前記インバータと商用電力系統との連系点での連系点電圧が,規定の上限電圧を越えたときには,前記インバータと商用電力系統との間に設けられた開閉手段(過電圧継電器)を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させる」技術が本願特許出願前に周知の技術であることは認めるが,この周知技術を引用発明1に適用することには,特段の阻害要因がある。引用例(甲3)に,「これから判るように,発電装置Gが並存しないときには,末端負荷電圧変動幅を20%に抑えるのに許容される配線長は約112mである。これに対して,発電装置が並存すると無負荷時に逆送電力による負荷電圧突き上げが起こり,20%の変動幅を維持するのに許容される配線長は発電装置50%の場合は64mに,発電装置100%の場合には約47mに短縮されてしまう」(2頁右上欄第2段落)との記載があるように,配電系統に発電装置を接続する場合には,配電系統の見直しが必要になり,場合によっては系統構成ないしは運用制御の変更のための費用が発生する。そして,引用例には,更に,「この解決策として過電圧継電器で発電装置を解列する方式が考えられるが,この方式はポンピング現象をひき起こし,エネルギー利用率も悪い」(同頁左下欄第2段落)と記載されているから,引用例は,「解決策として過電圧継電器で発電装置を解列する方式が考えられるが,この方式はポンピング現象を引き起こし,エネルギー利用率も悪い」としているのであり,引用例記載の技術の代わりに,このポンピング現象を起こし,エネルギー効率が悪い技術である「過電圧継電器で発電装置を解列する方式」を適用することには,明らかに阻害要因があるというべきである。すなわち,引用発明1は,「過電圧継電器で発電装置を解列する方式」には上記のとおりの問題があるから,負荷電圧VLが限界値に達したときに有効電流を零にするような制御を行う制御方式を開発したのであり,これに,「過電圧継電器で発電装置を解列する方式」を適用することは,その目的からしてあり得ないことである。
4 取消事由4(本件発明2の進歩性についての判断の誤り) 決定の本件発明2と引用発明2の一致点の認定(決定謄本10頁最終段落〜11頁第1段落)及び本件発明2と引用発明2との相違点2についての判断(同頁第3段落)は,上記2,3と同様の誤りがあるから,本件発明2の進歩性についての決定の判断は,誤りである。
被告の反論
決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用発明1,2の認定の誤り) (1) 一般に,太陽電池の出力特性変化が,定性的に甲11参考図のようになることは,本件特許出願前に周知の事項であり,「山登り法」自体も,本件特許出願前に,周知・慣用の技術であり,最大電力点追尾制御といえば,本件明細書(甲2)の【従来の技術】の段落【0005】に記載されているとおり,MPPT(Maximum Power Point Tracking)制御と呼ばれ,当業者において,一般に,「山登り法」がその典型と理解されることに,異論はない。「山登り法」とは,太陽電池の出力特性が常に変動し,ある時点での最大電力点のポイントが分からないので,制御により徐々に現在の運転ポイントをずらしていき,その都度最大電力点となるポイントを探し出すもので,出力特性がどのように変化した場合でも,あたかも当該最大電力点のポイントを追尾しているかのような制御をいい,詳述すると,太陽電池の出力電圧と出力電流とを検出してそのときの出力電力(出力電圧と出力電流との積)を演算し,太陽電池の出力電流若しくは出力電圧又は出力電流及び出力電圧をインバータ等の制御により微小に変化させ,変化させたときの電力の変化が正であるか負であるかを判別して,太陽電池の出力点が最大電力出力点に近づける方向へシフトさせていく制御をいう。「山登り法」に類似する,太陽電池の出力電力を最大電力出力点に制御する技術として,太陽電池の出力電圧を常に略一定にするようにインバータ装置の制御を行い,微小に変化させるインバータの制御は行わずに出力特性の変動を許容して最大電力出力点に制御する技術(特開昭62-93719号公報〔甲8,以下「甲8公報」という。〕,特開昭63-140668号公報〔甲9,以下「甲9公報」という。〕参照),及び微小に変化させるインバータの制御は行わずに,日照量に対応した電流値により運転して最大電力を取り出すようにした技術(特開昭56-141733号公報〔乙1,以下「乙1公報」という。〕参照)も,本件特許出願前に周知・慣用の技術である(以下,「山登り法」ではなく,それに類似した最大電力を取り出す制御を,「類似の最大電力点制御」という。)。本件発明1,2の「最大電力点追尾制御」について,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】は,「太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する」と規定するにとどまり,他に何らの限定もなく,その「最大電力点追尾制御」は,「山登り法」のみならず,「類似の最大電力点制御」を含むものと解するほかない。
(2) 他方,引用例(甲3)には,負荷電圧VLが,0〜VLmax-εの間は,「山登り法」又は「類似の最大電力点制御」を行い,VLmax-εに達したときは,出力電流有効分の低減を開始し,VLmaxに達したとき出力電流有効分を零にする制御を行うことが開示されている。したがって,決定に原告主張の認定の誤りがないことは明らかである。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一致点の認定の誤り)について 決定には,本件発明1と引用発明1の一致点の認定について,原告主張の誤りはない。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り)について 原告が指摘する引用例(甲3)の記載は,配電系統に単に過電圧継電器を介するだけで発電装置を接続した場合の問題を示したものであって,引用発明1のように負荷電圧が抑制開始電圧を越えた場合に発電装置の出力を低減するという,過電圧の発生を抑制する仕組みを具備したものにおいてまで,上記周知技術を採用することができないとしたものではない。
4 取消事由4(本件発明2の進歩性についての判断の誤り)について 決定の本件発明1と引用発明1の一致点の認定及び本件発明1と引用発明1との相違点についての判断に誤りがないことは,上記2,3のとおりであるから,本件発明2の進歩性についての決定の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1,2の認定の誤り)について (1) 原告は,引用例(甲3)の「最大出力点」とは,発電素子11のV-I特性(電圧-電流特性)に対応した「最大出力」をあらかじめ算出しておき,発電素子11の電圧・電流を計測し,その結果に基づいて設定される「予想最大出力点」を意味していると考えられ,第5図に示されるとおり,最終的な電流指令値IGP**(電流1次指令値IGP*と同じ。)が一定であるということは,最大電力点追尾制御になっていないことを意味し,「最大電力点追尾」と同じものと認定することはできないから,決定の引用発明1,2の認定は誤りであると主張するので,検討する。
(2) 甲8公報及び甲9公報に記載された最大電力点追尾制御が,本件特許出願前,当業者に周知の技術であったことは,当事者間に争いがなく,また,甲8公報には,「上記太陽電池の最大電力点追尾制御を行なう技術の従来例として,例えば特開昭58-69469号公報に記載されたものがある。第2図は該最大電力点追尾制御装置の構成を示すブロック図である。同図において,1は太陽電池,2は主インバータ,3はポンプに連結された誘導電動機等の負荷,4は補助インバータ,5は制御回路である。上記最大電力点追尾制御装置において,制御回路5は,太陽電池の出力電力P-出力電流I特性が第4図に示すようになることから,太陽電池の出力電圧Vと出力電流Iとを検出してその時の出力電力P=V×Iを演算すると共に,負荷電流を微小変化させた時の電力Pの変化が正であるか負であるかを判別することにより,太陽電池の出力点が最大電力出力点Pmaxのどちら側にあるかを判別し,太陽電池の出力点を最大電力出力点Pmaxに近づく向きに主インバータ2の出力を制御するように構成している」(2頁左上欄第2段落)との記載があり,甲9公報にも同様の記載(1頁右下欄最終段落〜2頁左上欄第1段落)がある。そうすると,太陽電池の出力電圧Vと出力電流Iとを検出してその時の出力電力P=V×Iを演算し,太陽電池の出力点が最大電力出力点に近づく向きにインバータの出力を制御することは,最大電力点追尾制御として,本件特許出願前,当業者に周知の技術であったということができる。
他方,引用例(甲3)には,太陽光発電システムの制御について,「本発明は,配電系統に連系運転される発電装置の制御方式に関し,その目的とするところは既存の系統構成の見直しを要することなく,許容される電圧変動幅を守りつつ発電装置の連系運転を可能ならしめるにある」(1頁左下欄下から第2段落),「本発明の目的は,既存配電系統の見直しを要することなくそのまゝ利用しながらも,発電装置接続により負荷電圧が許容変動幅を超過するようなことがなく,変圧器容量の許す範囲内においてできるだけ多くの発電装置の設置を可能にすることにある。この目的は,本発明によれば,配電系統に連系運転される発電装置において,電圧が設定上限電圧に接近した段階より発電装置出力電流有効分の低減を開始し,負荷電圧がその設定上限電圧に達したときに発電装置出力電流有効分が零になるように,発電装置出力電流を制御することによって達成される。以下,第4図に示す本発明一実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。第4図において,1は配電系統8に連系運転される発電装置であり,2は負荷である。発電装置1は例えば太陽電池である直流電源11と,平滑リアクトル12およびコンデンサ13からなる直流フィルタと,インバータ14とから構成することができる」(2頁左下欄下から第2段落〜右下欄最終段落),「電流指令演算部30は,電圧検出器18によって検出される負荷電圧瞬時値VLをそれの大きさVL に相当する信号に変換してその大きさVLを監視しながら,インバータ出力電流1次指令値IGP*を最終的な指令値IGP**に変換する。第5図に電流指令演算部30の出力信号IGP**と負荷電圧VL との関係を,2つの異なる1次指令値IGP*=IGP1*(注,「IGP**=IGP1**」とあるのは誤記と認める。),IGP*=IGP2* について示す。すなわち,電流指令演算部30は負荷電圧VL が設定上限電圧VLmaxに接近していないときには1次指令値IGP*をそのまゝ出力電流(有効分)指令値IGP**として出力する。しかし,VL がVLmaxに接近した段階より,すなわちVL がVLmax-εを上回る範囲に入ると,出力電流指令値IGP**の低減が開始され,VL=VLmaxとなったときにはIGP**=0となるような関数特性を持たせてある。かゝるインバータの出力電流低減により,発電装置1の負荷電圧突上げ効果に関する自己責任要因を消すことができるので,既存の配電系統をそのまゝ利用しながらも負荷電圧の許容変動幅の超過を防ぐことができる」(3頁右上欄最終段落〜同左下欄第1段落),「なお,第4図の実施例において,1次指令値IGP*はエネルギー有効利用の見地から,例えば図示の如く,発電素子11の電圧,電流を計測し,これらにもとづいて発電素子11がその都度最大出力点で動作するように,その最大出力点に対応したインバータ出力電流を算出する最大出力点演算回路31によって与えるようにするとよい」(同欄最終段落〜右下欄第1段落)との記載がある。
上記記載によれば,引用例においても,発電素子(太陽電池)11の電圧と電流を検出し,これらに基づいて発電素子11の出力点が最大電力出力点になるような1次指令値IGP*を算出し,電流指令演算部30は,負荷電圧VL が設定上限電圧VLmaxに接近していないときは,1次指令値IGP*をそのまま出力電流(有効分)指令値IGP**として出力し,これが最終的な電流指令値としてインバータに与えられるから,出力電流指令値IGP**は,最大電力点追尾制御を行う指令値となることが明らかである。したがって,引用例においても,最大電力点追尾制御を行っていると認めることができる。
(3) これに対し,原告は,甲11参考図記載のように,太陽電池の出力特性は,日射量変化のみならず,温度変化によっても変化するため,太陽電池の出力電圧及び出力電流を検出したとしても,それに対応した現在の太陽電池の出力特性を特定することは,事実上不可能であるから,引用発明1は,最大電力点追尾制御を行うものではなく,発電素子11のV-I特性に対応した「予想最大出力」に基づき設定される電流に等しくなるような定電流制御を行っていると考えるべきであると主張する。しかしながら,甲8公報,甲9公報及び乙1公報によれば,一般に,太陽電池の出力特性が変動しても,大きさ自体は変わるものの出力特性の本質的な形は変わることなく,本件明細書(甲2)の【図4】のようになることは,本件特許出願時,当業者の技術常識であったと認められるところ,上記のとおり周知の最大電力点追尾制御においても,太陽電池の出力電圧Vと出力電流Iとを検出してその時の出力電力P=V×Iを演算し,太陽電池の出力点が最大電力出力点に近づく向きにインバータの出力を制御することが行われていることは,上記(2)のとおりであるから,これが事実上不可能であることを前提とする原告の上記主張は,誤りというほかない。
(4) また,原告は,甲12説明図は,電流指令値を一定としている範囲では,電圧が上昇するにつれて出力電力が増大していることを示し,仮に,日射量と温度が一定で変化しない場合に最大電力点の追尾が行われるとするならば,出力電力が一定で,電流指令値が電圧増大に対して減少していくはずであり,引用発明1,2において,「前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧(VLmax-ε)を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定する」(決定謄本6頁第1段落,第2段落)点は,単に出力電流指令値を低減させることになったとしても,それが出力電力を最大電力よりも小さくすることにならないから,引用例(甲3)には,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行うという技術的思想自体がないと主張し,甲12説明図を引用する。甲12説明図は,原告が,引用例(甲3)の第5図の矛盾を説明するための図として作成したものであり,原告の上記主張は,電流指令演算部30の出力信号IGP**と負荷電圧VLとの関係を示す引用例の第5図において,負荷電圧VL がVLmax-ε以下の範囲では,電流指令値IGP**が一定として図示されているというものである。しかしながら,引用例の第5図は,「電流指令演算部30の出力信号IGP**と負荷電圧VLとの関係を,2つの異なる1次指令値IGP*=IGP1*,IGP*=IGP2* について示す。すなわち,電流指令演算部30は負荷電圧VL が設定上限電圧VLmaxに接近していないときには1次指令値IGP*をそのまゝ出力電流(有効分)指令値IGP**として出力する」(3頁右上欄最終段落)という電流指令演算部30の機能を図示したものにすぎない。
電流指令演算部30は,上記機能に加えて,「VL がVLmaxに接近した段階より,すなわちVL がVLmax-εを上回る範囲に入ると,出力電流指令値IGP**の低減が開始され,VL=VLmaxとなったときにはIGP**=0となるような関数特性を持たせてある」(同頁左下欄第1段落)という機能を備えることにより,「かゝるインバータの出力電流低減により,発電装置1の負荷電圧突上げ効果に関する自己責任要因を消すことができるので,既存の配電系統をそのまゝ利用しながらも負荷電圧の許容変動幅の超過を防ぐことができる」(同)という作用を奏するものであり,これは,太陽電池の最大電力点追尾制御とは異なる,負荷電圧の変動防止(突上げ防止)制御に関するものである。引用例において,最大電力点追尾制御は,上記記載に示されるように,最大出力点演算回路31によって行われるものである。したがって,原告の上記主張は,引用発明1における最大電力点追尾制御にかかわらない,負荷電圧変動防止制御を行う電流指令演算部30が最大電力点追尾制御を行っていないというものであるから,その主張が誤りであることは明らかである。加えて,引用例の最大電力点追尾制御において,発電素子(太陽電池)11の電圧と電流を検出し,これらに基づいて発電素子11の出力点が最大電力出力点になるような1次指令値IGP*を算出し,電流指令演算部30は,負荷電圧VLが設定上限電圧VLmaxに接近していないときは,1次指令値IGP*をそのまま出力電流(有効分)指令値IGP**として出力し,これが最終的な電流指令値としてインバータに与えられ,出力電流指令値IGP**が,最大電力点追尾制御を行う指令値となるものであるところ,甲12説明図は,太陽電池の出力電圧とは異なる,系統電圧と電流指令値との関係を論じるものであるから,これに基づく主張は,何ら根拠のないものというほかない。
(5) さらに,原告は,「山登り法」について,太陽電池の出力電圧及び出力電流から算出した出力電力を最大化する追尾であるとすることは誤りであるとして,甲13公報及び甲14公報には,インバータの出力端で最大電力に制御する最大電力点追尾が示されていると主張する。しかしながら,甲13公報及び甲14公報には,最大電力点追尾制御として,インバータの出力端での出力電圧と出力電流とから算出した出力電力を最大化することが記載されているが,引用発明1,2も,最大電力点追尾制御ということができることは,上記(2)のとおりであるから,甲13公報及び甲14公報の上記記載は,引用発明1,2に係る上記認定を何ら左右しない。
原告は,引用発明1,2では,出力電流指令値によりインバータの出力電流を制御しているのであるから,太陽電池の出力特性が変わっても,負荷電圧に変化がなければインバータの出力電圧に変化はなく,出力電圧に変化がなければ出力電流指令値も変化しないから,結局,インバータの交流出力電力は一定になり,最大電力点追尾は行われないと主張して,甲15説明図を引用する。しかしながら,太陽電池の出力特性が変わっても,負荷電圧に変化がなければインバータの出力電圧が変化しないとの主張には,何らの根拠も認められない。引用例において,一定の出力電流指令値で太陽電池が負荷に電力を供給している場合,日照量や温度に応じて太陽電池の出力特性が変化すれば,当然,その出力電圧が変化し,これに伴ってインバータの出力電圧も変化することは明らかである。
(6) 以上のとおり,決定の引用発明1,2の認定に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は,理由がない。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,@「連系点電圧が,規定の上限電圧より低い所定の抑制開始電圧以下のときには,太陽電池の動作点が最大電力点となるようにインバータ出力を設定する最大電力点追尾制御を行」う点及びA「前記連系点電圧が,前記抑制開始電圧を越えたときには,前記動作点が前記最大電力点と異なるようにインバータ出力を設定して出力電力を最大電力より小さくする」点が,本件発明1の構成であっても,引用発明1の構成ではないから,決定の本件発明1と引用発明1の一致点の認定は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,引用発明1として,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,負荷電圧VLが,規定の上限電圧(VLmax)より低い所定の抑制開始電圧(VLmax-ε)以下のときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行い,前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧(VLmax-ε)を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定すると共に,前記負荷電圧VLが,前記上限電圧になったときには,前記出力電流指令値IGP**を零にさせることを特徴とする太陽光発電システムの電力制御方法」(決定謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)を認定した決定に誤りがないことは,上記1のとおりである。そして,引用発明1の「負荷電圧VLが,規定の上限電圧(VLmax)より低い所定の抑制開始電圧(VLmax-ε)以下のときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するように,その最大電力点に対応して出力電流指令値IGP**を設定する制御を行」う点は,上記(1)@の構成に,同「前記負荷電圧VLが,前記抑制開始電圧(VLmax-ε)を越えたときには,太陽電池がその都度最大電力点で動作するようにその最大電力点に対応して設定した出力電流指令値IGP**より低減された前記出力電流指令値IGP**を設定する」点は,上記(1)Aの構成に相当するものと認められるから,決定の本件発明1と引用発明1の一致点の認定に原告主張の誤りはない。
(3) したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例(甲3)の,「この解決策として過電圧継電器で発電装置を解列する方式が考えられるが,この方式はポンピング現象をひき起こし,エネルギー利用率も悪い」(2頁左下欄第2段落)との記載を引用し,「太陽電池から発生する直流出力を交流出力に変換して出力するインバータを備え,商用電力系統と連系して負荷に電力を供給する太陽光発電システムにおいて,前記インバータと商用電力系統との連系点での連系点電圧が,規定の上限電圧を越えたときには,前記インバータと商用電力系統との間に設けられた開閉手段(過電圧継電器)を開放させ前記インバータを商用電力系統から解列させる」周知技術を,引用発明1に適用することは,ポンピング現象を引き起こし,エネルギー効率の悪い技術を適用することになり,特段の阻害要因があると主張する。
(2) しかしながら,引用例(甲3)の上記記載は,配電系統に単に過電圧継電器を介するだけで発電装置を接続した場合の問題を示したものであって,引用発明1のように,負荷電圧が抑制開始電圧を越えた場合に発電装置の出力を低減するという,過電圧の発生を抑制する仕組みを具備したものにおいてまで,上記周知技術を採用することができないとしたものであるということはできない。引用例には,上記記載に続いて,「本発明(注,引用発明1)の目的は,既存配電系統の見直しを要することなくそのまゝ利用しながらも,発電装置接続により負荷電圧が許容変動幅を超過するようなことがなく,変圧器容量の許す範囲内においてできるだけ多くの発電装置の設置を可能にすることにある。この目的は,本発明によれば,配電系統に連系運転される発電装置において,電圧が設定上限電圧に接近した段階より発電装置出力電流有効分の低減を開始し,負荷電圧がその設定上限電圧に達したときに発電装置出力電流有効分が零になるように,発電装置出力電流を制御することによって達成される」(2頁左下欄下から第2段落〜右下欄第1段落)との記載があり,更に,「かゝるインバータの出力電流低減により,発電装置1の負荷電圧突上げ効果に関する自己責任要因を消すことができるので,既存の配電系統をそのまゝ利用しながらも負荷電圧の許容変動幅の超過を防ぐことができる」(3頁左下欄第1段落)と記載されているのであるから,引用例に接した当業者は,これらの記載から,原告主張に係る上記問題点は,「電圧が設定上限電圧に接近した段階より発電装置出力電流有効分の低減を開始し,・・・発電装置出力電流を制御すること」によって解決できると認識,理解するものというべきであり,上記周知技術を引用発明1に適用することに,原告主張の特段の阻害要因があるとは認められない。
(3) したがって,原告の取消事由3の主張も理由がない。
4 取消事由4(本件発明2の進歩性についての判断の誤り)について 本件発明2は,本件発明1とその主な構成を共通にするものであり,決定の本件発明2と引用発明2の一致点の認定及び本件発明2と引用発明2との相違点についての判断に誤りがないことは,上記2,3の判示に照らして明らかであるから,原告の取消事由4の主張も理由がない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴