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関連審決 不服2003-2668
関連ワード 特許を受ける権利 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10738号 審決取消請求事件
原告 富士ゼロックス株式会社
代理人弁理士 中島淳,加藤和詳,西元勝一,福田浩志,美濃好美,山本隆雄
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 津田俊明,藤井勲,岡田孝博,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-2668号事件について平成17年8月29日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 日本電気株式会社は,平成11年7月15日,発明の名称を「インクジェット記録ヘッドの駆動方法及び駆動装置」とする特許出願をし,平成14年3月11日付け手続補正書により,明細書を補正した(甲2,7)。
(2) 日本電気株式会社は,平成14年4月1日,原告に対し,上記特許を受ける権利を譲渡し,原告は,その旨を特許庁長官に届け出た。
(3) 原告は,平成15年1月10日付けの拒絶査定を受けたので,同年2月20日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2003-2668号事件として係属),さらに,同年3月24日付け手続補正書により,明細書を補正した(甲3,以下「本件補正」という。)。
(4) 特許庁は,平成17年8月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月13日,その謄本を原告に送達した。
2 請求項3の発明の要旨(請求項1,2,4の記載は省略)(1) 本件補正前(平成14年3月11日付けの補正後)のもの(以下「本願発明」という。)「インクが充填された複数の圧力発生室と,この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと,前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための振動発生手段とを有し,記録媒体に対して走査させながら前記記録媒体に印刷を行うインクジェット記録ヘッドの駆動装置において,一印字周期を複数の区分に分割する分割手段と,インク滴の大きさに応じて複数設けられ,前記分割手段によって分割された各区分ごとに前記駆動波形を発生させる波形発生手段と,各前記波形発生手段と前記振動発生手段とを接続する信号線に設けられ,前記波形発生手段から供給される駆動波形のON/OFFを切り換えるスイッチと,前記一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択して前記振動発生手段に供給するか,又はいずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える切換手段と,を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」(2) 本件補正後のもの(下線部が訂正箇所である。以下「補正発明」という。)「インクが充填された複数の圧力発生室と,この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと,前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための圧電振動子とを有し,記録媒体に対して走査させながら前記記録媒体に印刷を行うインクジェット記録ヘッドの駆動装置において,一印字周期を複数の区分に分割する分割手段と,インク滴の大きさに応じて複数設けられ,前記分割手段によって分割された各区分ごとに前記駆動波形を発生させる波形発生手段と,各前記波形発生手段と前記圧電振動子とを接続する信号線に設けられ,前記波形発生手段から供給される駆動波形のON/OFFを切り換えるスイッチと,前記一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択して前記圧電振動子に供給するか,又はいずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える切換手段と,を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」3 審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないもので,本件補正は却下されなければならない,そして,本願発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
( ) 補正却下の決定 1ア 引用例1記載の発明の認定特開平9-174883号公報(本訴甲4,以下「引用例1」という。)には次の発明が記載されていると認めることができる。
「圧電体に電圧を印加し,該圧電体の伸縮によりインク室の体積を変化させ室枠に設けたノズル孔からインクを吐出させ,記録媒体に対して走査させながら前記記録媒体に印刷を行うインクジェット記録ヘッドの駆動装置において,インク吐出量を制御する波形の異なる複数の駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段と,多値のプリントデータを1つの肯定出力に変換し記憶するプリントデータ記憶手段とを備え,前記プリントデータ記憶手段の出力に基づき,前記共通波形発生手段の各々と圧電体とを接続する信号線に設けられた複数のトランスファゲートの1つだけを導通させることにより,前記駆動電圧波形の1つを選択して前記圧電体に供給するインクジェットヘッドの駆動装置。」(以下「引用発明1」という。)イ 補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定引用発明1の「インク室」及び「ノズル孔」は補正発明の「圧力発生室」及び「ノズル」にそれぞれ相当し,引用発明1の「圧電体」は,振動板をたわませるものであるから,「圧電振動子」ということができ,補正発明の「圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための圧電振動子」と異ならない。
引用発明1の「駆動電圧波形」及び「共通波形発生手段」は補正発明の「駆動波形」及び「波形発生手段」と異ならず,「共通波形発生手段」は「インク滴の大きさに応じて複数設けられ」た「波形発生手段」に相当し,引用発明1の「トランスファゲート」は,導通することにより駆動電圧波形を圧電体に供給し,導通しないことにより駆動電圧波形を圧電体に供給しないものであるから,補正発明の「波形発生手段から供給される駆動波形のON/OFFを切り換えるスイッチ」と異ならない。
そして,引用発明1ではどのトランスファゲートを導通させるかは,多値のプリントデータを1つの肯定出力に変換し,その出力をトランスファゲートの入力としているのだから,「プリントデータ記憶手段」は補正発明の「スイッチのON/OFFを切り換える切換手段」に相当する。
したがって,補正発明と引用発明1とは,「インクが充填された複数の圧力発生室と,この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと,前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための圧電振動子とを有し,記録媒体に対して走査させながら前記記録媒体に印刷を行うインクジェット記録ヘッドの駆動装置において,インク滴の大きさに応じて複数設けられ,駆動波形を発生させる波形発生手段と,各前記波形発生手段と前記圧電振動子とを接続する信号線に設けられ,前記波形発生手段から供給される前記駆動波形のON/OFFを切り換えるスイッチと,前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択して前記圧電振動子に供給するために前記スイッチのON/OFFを切り換える切換手段と,を有するインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」である点で一致し,次の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明の「切換手段」は「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える」場合があるのに対し,引用発明1のそれは駆動波形の1つを選択するようにスイッチのON/OFFを切り換える,すなわちいずれの駆動波形も選択しないようにスイッチのON/OFFを切り換えるものではない点。
〈相違点2〉補正発明が「一印字周期を複数の区分に分割する分割手段」を有し,「波形発生手段」は「分割された各区分ごとに前記駆動波形を発生させる」ものであり,「切換手段」も複数の区分に分割されていることを前提として「一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から・・・スイッチのON/OFFを切り換える」のに対し,引用発明1はそもそも「一印字周期を複数の区分に分割する分割手段」を有さず,その余の補正発明の上記構成も当然有さない点。
ウ 相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断(ア) 相違点1について引用発明1では,インクを吐出しない場合にも駆動波形の1つを選択しているが,引用例1の記載によれば,「ノズル開口部近傍に形成されるメニスカスが外気に触れて表面が膜化するのをインクが吐出しない程度の微振動を与えて防止するため」にあえて駆動波形の1つ(実施例ではS0)として,インクを吐出しない駆動波形を採用したものである。
しかし,圧電振動子を用いた「インクジェット記録ヘッドの駆動装置」にあっては,一印字周期の間駆動波形の供給を断つことにより,インクを吐出させないことは周知であるばかりか,原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-81012号公報(本訴甲5,以下「引用例2」という。)に,「第4パルスは・・・ノズル穴22Aからインク滴を吐出させずにメニスカス40を微振動させることができる。これにより,インクの粘度増大等を防止することができる。なお,プリントヘッド10がホームポジションにある場合等の限定された状態のときに微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりすること等によってもノズル穴22Aの詰まりを防止することができる。従って,第4パルスは必ずしも必要ではなく,省略することも可能である。」(段落【0053】)と記載があり,引用例2記載の「第4パルス」と引用発明1実施例の波形S0とは,微振動を与える波形である点で一致し,引用例2にはそれが省略可能である旨記載されているのだから,引用発明1においても微振動を与える波形を省略することは当業者にとって想到容易である。
そして,微振動を与える波形を省略した場合には,インクを吐出しない場合の駆動として,一印字周期の間すべてのトランスファゲートを非導通(スイッチをOFF)とすることは必然的結果である。
したがって,相違点1に係る補正発明の構成は,引用発明1に上記引用例2記載の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できた構成である。
(イ) 相違点2について本願出願当時,すべての圧電振動子への駆動波形を共通の信号線により供給することを前提として,一印字周期を複数の区分に分割し,各分割期間における駆動波形を同一としないことは,引用例2又は特開平9-1798号公報(本訴甲6)にみられるとおり周知である(以下,この技術を「周知技術」という。)。引用例2には,「目的は,印刷速度を低下させることなく同一ノズルからインク重量の異なる複数のインク滴を吐出できるようにしたインクジェット式プリントヘッドの駆動装置」(段落【0008】)と記載があるけれども,「印刷速度を低下させることなく」との意味が上記記載に先立つ「記録ドット径が小さくなれば,・・・印刷速度が大幅に低下する。」(段落【0004】)との,小さな記録ドット径のみを用いた記録との対比における記載であること,及び階調表現のために一印字周期を複数の区分に分割すれば,分割しない場合よりも印刷速度が低下することは明らかである。引用発明1は階調表現を行うに当たり一印字周期を複数の区分に分割しないのだから,印刷速度の点では引用発明1が周知技術に優っている。
他方,引用発明1が本願明細書の段落【0012】に「従来技術6」として紹介された技術である(文献番号は異なるが,階調表現技術として実質的に同一の技術である。)が,引用発明1では,駆動波形数をNとしたとき,記録ヘッドに供給する駆動信号線がN個必要であるし,トランスファゲート(スイッチ)はノズル数のN倍必要である。本願明細書(本訴甲2)の「従来技術6は,・・・階調数が大きくなるとその分発生させる駆動波形信号も多数必要となり,トランスファゲートを階調数に応じて設ける必要があることから,インクジェット記録ヘッドの構成が複雑,大型化して価格も高くなるという問題がある。」(段落【0015】)との記載はこのことを指摘したものであるほか,本願出願前に本件とは異なる出願人によって出願された特願平10-223474号(特開2000-52750号公報)にも「特開平9-174883号公報(審決注;引用例1)に記載の駆動方式で一層の多値階調化を行うには,増やした階調数分だけ,共通信号線の数(共通の駆動信号の種類)も増やさなければならないので,回路構成などが複雑になるという問題点がある。」(段落【0004】)と記載があることをも考慮すると,本願出願当時に引用例1に接した当業者にとっては,引用発明1が記録ヘッドの回路構成を複雑にするとの欠点を有することが自明である。すなわち,回路構成を複雑にしない点では,周知技術が引用発明1に優っている。
このように,引用発明1と周知技術とは,インク滴の大きさを異ならせることにより階調表現を行う技術である点で共通しているものの,採用した具体的手段が異なるため,引用発明1の長所は周知技術の欠点であり,引用発明1の欠点は周知技術の長所という関係にある。
そうである以上,引用発明1又は周知技術のどちらかだけを階調表現技術として採用した場合には,階調数を増加することをあきらめるか,それともそれぞれの欠点(引用発明1にあっては回路構成の複雑性,周知技術にあっては印刷速度)を甘受しなければならず,その欠点は階調数を増加すればするほど深刻となる。
ところで,共通の課題に対して,長所・欠点が対立する2つの手段が併存する場合,両手段を併用することにより,それぞれの欠点を深刻とならない程度にとどめながら,共通の課題を達成することは,常套的に採用されている手法であり,引用発明1と周知技術を併用することを妨げる理由もない。
そうすると,引用発明1を出発点として,信号線数やトランスファゲート数を減少させ回路構成を簡略するために,一印字周期を分割し,例えば実施例における4つの駆動波形(微振動波形S0を省略すれば3つで奇数になるが,代わりに階調数を増やすため別波形を用意すればよい。)を2つずつの区分に分ける(信号線及びノズル毎のトランスファゲート数を2とする。)か,あるいは階調数を増加するために,一印字周期を分割し,例えば実施例におけるように各区分の駆動波形を4つ(微振動波形S0を省略すれば3つ)としたまま2区分に分割し,全駆動波形を8種類(微振動波形S0を省略すれば6種類)とすることは当業者にとって想到容易というべきである。そして,そのように一印字周期を分割した場合には,相違点2に係る補正発明の構成を採用しなければならないことは自明の理である。
したがって,相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。
(ウ) 補正発明の独立特許要件の判断相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり,これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって,補正発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
エ 補正の却下の決定のむすび補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない以上,平成14年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反しているから,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により本件補正は却下されなければならない。
( ) 本件審判請求についての判断(本願発明の進歩性の判断) 2本願発明と引用発明1とは,「インクが充填された複数の圧力発生室と,この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと,前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための振動発生手段とを有し,記録媒体に対して走査させながら前記記録媒体に印刷を行うインクジェット記録ヘッドの駆動装置において,インク滴の大きさに応じて複数設けられ,駆動波形を発生させる波形発生手段と,各前記波形発生手段と前記圧電振動子とを接続する信号線に設けられ,前記波形発生手段から供給される前記駆動波形のON/OFFを切り換えるスイッチと,前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択して前記振動発生手段に供給するために前記スイッチのON/OFFを切り換える切換手段と,を有するインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」である点で一致し,上記( )イで認定した相違1点1,2で相違する(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そして,相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって想到容易であること,及びこれら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることができないことは上記( )ウ1で述べたとおりである(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
したがって,本願発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(1) 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)審決は,「引用発明1の・・・「共通波形発生手段」は「インク滴の大きさに応じて複数設けられ」た「波形発生手段」に相当」すると認定し,補正発明と引用発明1とが,「インク滴の大きさに応じて複数設けられ,駆動波形を発生させる波形発生手段」を有している点で一致すると認定した。
ア 引用例1の特許請求の範囲には,「インク吐出量を制御する波形の異なる複数の駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段」(請求項1)と記載され,発明の詳細な説明には,「図4に本発明に適用する駆動回路のブロック構成と,部分的な回路を示す。符号20は所定の複数のドットの大きさに対応した駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段で,具体的には図5に示す(a),(b),(c),(d)のような波形信号S3,S2,S1,S0を発生する。」(段落【0018】,【0019】)と記載されているから,引用発明1の「共通波形発生手段」は,複数設けられたものではなく,単一である。
イ 被告は,引用発明1は,複数ある個々の駆動電圧波形を発生する手段が「共通波形発生手段」に内在していると反論する。
被告の反論によれば,引用発明1は,共通波形発生手段20が4つの波形信号S3,S2,S1,S0を発生するから,4つの駆動電圧波形を発生する手段を内在することになる。これに対し,補正発明は,実施の形態でみると,波形発生部33が6種類の駆動電圧波形SD1ないしSD6を発生するから,6つの駆動電圧波形を発生する手段を内在することになるが,補正明細書(甲2,3)の発明の詳細な説明には,「波形発生部33は,複数種類(この実施形態では6種類)の駆動電圧波形を発生させるために,3つの波形発生回路35a,35b,35cを有している。」(段落【0032】)と記載されているから,補正発明は,波形発生部33が駆動電圧波形の数より少ない数の波形発生回路を有しているのである。そうであるから,複数ある個々の駆動電圧波形を発生する手段が「共通波形発生手段」に内在しているとの被告の反論は,誤りである。
なお,被告が援用する特開平11-58704号公報(乙1)は,複数の駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段を有する引用発明1が記載された引用例1とは別個独立のものであって,引用例1の補強的な関係にはないから,これを提出することは許されない。
ウ したがって,審決が「引用発明1の・・・「共通波形発生手段」は「インク滴の大きさに応じて複数設けられ」た「波形発生手段」に相当」すると認定したのは誤りであり,このような誤った認定に基づく補正発明と引用発明1との一致点の認定も誤りである。
(2) 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)審決は,「引用例2記載の「第4パルス」と引用発明1実施例の波形S0とは,微振動を与える波形である点で一致し,引用例2にはそれが省略可能である旨記載されているのだから,引用発明1においても微振動を与える波形を省略することは当業者にとって想到容易である。」と判断した。
ア 引用例2の発明の詳細な説明には,「プリントヘッド10がホームポジションにある場合等の限定された状態のときに微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりすること等によってもノズル穴22Aの詰まりを防止することができる。従って,第4パルスは必ずしも必要ではなく,省略することも可能である。」(段落【0053】)との記載があるが,ここにいう限定された状態とは,プリントヘッド10がホームポジションにある場合であって,微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりする等,プリントヘッドを駆動する必要がなく印字を完全に停止している状態であり,このような状態のときに第4パルスを省略するのは,至極当然である。
これに対し,補正発明は,印字を停止している場合でなく,一印字周期内で「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換え」ることにより,一印字周期中の階調値0のときに駆動波形を選択しないようにしたものであり,これにより,階調値0専用の微振動を与える波形発生回路を不要にして,回路構成が複雑になることを回避している。
このように,引用例2記載の技術と補正発明とは前提条件が異なるから,相違点1に対して引用例2記載の技術を適用することはできない。
イ 被告は,引用例2の段落【0053】は,インクの粘度増大等を防止するためには,プリントヘッドがホームポジションにある場合等に微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりする等の手段を採用したときは,印刷中の波形から第4パルスを省略することができることを述べていると反論する。
しかし,補正発明において,「切換手段」が「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える」のは,階調値0専用の微振動を与える波形発生回路を不要にして,回路構成が複雑になることを回避するという課題を解決するためであるから,引用例2の第4パルスを省略することと補正発明の「切換手段」が「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える」こととは,課題が全く異なる,ウ したがって,相違点1に対して引用例2記載の技術を適用することはできないから,「引用発明1においても微振動を与える波形を省略することは当業者にとって想到容易である。」とした審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)審決は,「引用発明1を出発点として,信号線数やトランスファゲート数を減少させ回路構成を簡略するために,一印字周期を分割し,・・・全駆動波形を8種類(微振動波形S0を省略すれば6種類)とすることは当業者にとって想到容易というべきである。そして,そのように一印字周期を分割した場合には,相違点2に係る補正発明の構成を採用しなければならないことは自明の理である。」と判断した。
ア 引用発明1を出発点としてこれに周知技術を併用した技術(併用技術)は,例えば,第1区分である信号線の駆動波形を選択した後は,第2区分では第1区分と同じ信号線上の駆動波形しか選択することができず,他の信号線上の駆動波形を含む「全ての駆動波形」の中から階調値に応じた駆動波形を選択することはできない。
これに対し,補正発明は,「一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択」するものであって,一印字周期中の全ての駆動波形の中から,ある信号線上の駆動波形であるか否かを問わず,階調値に応じた駆動波形をランダムに選択することができる(又は,いずれの駆動波形をも選択しないこともできる)ものであり,これにより,併用技術では表現できない高階調を表現することができる。
イ したがって,引用発明1を出発点としてこれに周知技術を併用したとしても,一印字周期を分割した場合に,相違点2に係る補正発明の構成を採用しなければならないことにはならないから,審決の判断は誤りである。
(4) 取消事由4(本願発明の進歩性の判断の誤り)審決は,「本願発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断した。
本願発明と補正発明とを対比すると,「振動発生手段」と「圧電振動子」との差異があるものの,その余は同一であるから,作用効果が同じである。
したがって,本願発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであって,審決の判断は誤りである。
2 被告の主張(1) 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)に対して審決は,引用発明1の「共通波形発生手段」が複数設けられたものであるとの認定はしていない。引用発明1は,「複数の駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段」を備えているところ,複数の駆動電圧波形を発生し出力する以上,複数ある個々の駆動電圧波形を発生する手段が「共通波形発生手段」に内在していることは明らかである。なお,特開平11-58704号公報(乙1)には,複数の駆動波形を個別の信号線上に供給するに当たり,波形発生手段を複数としていることが記載されている。
したがって,審決が「引用発明1の・・・「共通波形発生手段」は「インク滴の大きさに応じて複数設けられ」た「波形発生手段」に相当」すると認定したことに誤りはなく,補正発明と引用発明1との一致点の認定にも誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して原告が引用する引用例2の段落【0053】は,インクの粘度増大等を防止するためには,印刷中に第4パルスを印加するか,プリントヘッドがホームポジションにある場合等に微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりする等の手段を任意に採用することができることを記載したのであって,後者を採用したときは,印刷中の波形から第4パルスを省略することができることを述べているのである。
したがって,プリントヘッドを駆動する必要がなく印字を完全に停止している状態のときに第4パルスを省略するのが至極当然であるとの原告の主張は,引用例2を曲解したものであり,引用例2に記載された事項を適用して,「引用発明1においても微振動を与える波形を省略することは当業者にとって想到容易である。」とした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対してア 補正発明には,「一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた前記駆動波形を選択」するものであるが,ある信号線上の駆動波形であるか否かを問わず,階調値に応じた駆動波形をランダムに選択することまでは限定されていない。
イ 特開平9-1798号公報(本訴甲6)には,2つの区分に分けた駆動信号(補正発明の駆動波形に相当する。)のうちの1つだけを選択することが記載されているところ,引用発明1は,そもそも複数ある駆動波形のうちの1つだけしか選択しない発明であるから,引用発明1を出発点としてこれに周知技術を併用した場合,もっとも単純かつ自然なのは全駆動波形のうちの1つだけを選択することであり,これは補正発明の実施例とも一致する。
ウ したがって,「一印字周期を分割した場合には,相違点2に係る補正発明の構成を採用しなければならないことは自明の理である。」とした審決の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4(本願発明の進歩性の判断の誤り)に対して取消事由4は,取消事由1ないし3のいずれかに理由があることを前提とするものであるところ,取消事由1ないし3に理由がないことは上記のとおりである。
したがって,「本願発明は,引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」とした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について(1) 原告は,引用発明1の「共通波形発生手段」は,複数設けられたものではなく,単一であると主張する。
引用発明1は,審決が認定したように,「インク吐出量を制御する波形の異なる複数の駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段」を備え,「共通波形発生手段の各々と圧電体とを接続する信号線に設けられた複数のトランスファゲートの1つだけを導通させることにより,前記駆動電圧波形の1つを選択して前記圧電体に供給する」というものであり(このことは,原告も争わない。),引用例1の発明の詳細な説明には,「図4に本発明に適用する駆動回路のブロック構成と,部分的な回路を示す。符号20は所定の複数のドットの大きさに対応した駆動電圧波形を発生する共通波形発生手段で,具体的には図5に示す(a),(b),(c),(d)のような波形信号S3,S2,S1,S0を発生する。」(段落【0018】,【0019】)と記載され,図4(発明を実施する具体的なブロック構成と部分的な回路構成を示す図)には,共通波形発生手段20から波形信号S0ないしS4を,それぞれに対応する4本の信号線により,4個のトランスファゲート32に接続する様子が示されている。これらによれば,引用発明1の「波形の異なる複数の駆動電圧波形」は,それぞれに対応する駆動電圧波形発生手段が発生させるものであるから,これら駆動電圧波形発生手段は,「共通波形発生手段」に内在していると理解するのが相当である。
そうすると,引用発明1の「共通波形発生手段」自体は単一であるが,これには,インク滴の大きさに応じて波形の異なる駆動電圧波形を発生する複数の駆動電圧波形発生手段が内在しているのであって,審決は,このようなインク滴の大きさに応じた複数の駆動電圧波形発生手段を内在する「共通波形発生手段」が,「インク滴の大きさに応じて複数設けられ」た「波形発生手段」に相当」すると認定したのであるから,審決の認定に誤りはない。
(2) また,原告は,引用発明1は,4つの駆動電圧波形を発生する手段を内在するのに対し,補正発明は,波形発生部33が駆動電圧波形の数より少ない数の波形発生回路を有していることになるから,引用発明1において,複数ある個々の駆動電圧波形を発生する手段が「共通波形発生手段」に内在しているということはできないと主張する。
しかしながら,補正発明の実施の態様において,波形発生部33が駆動電圧波形の数より少ない数の波形発生回路を有している,すなわち,3つの波形発生回路が6種類の駆動電圧波形を発生するということは,一印字周期を2つに分割し,分割した各区分ごとに異なる駆動波形を発生させるという,相違点2に係る構成に由来することである。引用発明1は,一印字周期を分割するという構成を有しないから,相違点1についての判断において,駆動電圧波形の数と同じ数だけの駆動電圧波形を発生する手段が「共通波形発生手段」に内在すると理解することに,何の問題もない。
(3) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について(1) 原告は,引用例2記載の技術において,プリントヘッドを駆動する必要がなく印字を完全に停止している状態のときに第4パルスを省略するのは至極当然であるが,補正発明は,一印字周期中の階調値0のときに駆動波形を選択しないようにして,回路構成が複雑になることを回避したのであるから,引用例2記載の技術と補正発明とは前提条件が異なると主張する。
引用例2(甲5)の発明の詳細な説明には,「第4パルスは・・・ノズル穴22Aからインク滴を吐出させずにメニスカス40を微振動させることができる。これにより,インクの粘度増大等を防止することができる。なお,プリントヘッド10がホームポジションにある場合等の限定された状態のときに微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりすること等によってもノズル穴22Aの詰まりを防止することができる。従って,第4パルスは必ずしも必要ではなく,省略することも可能である。」(段落【0053】)との記載がある。これによれば,引用例2には,プリントヘッド10がホームポジションにある場合等の限定された状態のときに微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりすること等によって,ノズル穴22Aの詰まりを防止することができるから,第4パルスを省略することが可能であることが記載されているのであって,原告が主張するように,プリントヘッドを駆動する必要がなく印字を完全に停止している状態のときに第4パルスを省略することが記載されているのではない。
しかも,例えば,引用例2の図4(駆動信号と階調値等との関係を示す説明図)には,印刷周期内に第1ないし第4パルスを発生させる様子が示されているが,省略することが可能な第4パルスとは,一印字周期内に発生させるものであり,これを省略する場合の階調値0の駆動とは,一印字周期内に駆動波形を選択しないこと,すなわち,全てのトランスファゲートを非導通とする(スイッチをOFFとする)ことにほかならない。
そうであれば,引用例2記載の技術と補正発明とは前提条件が異なるということはできない。
(2) また,原告は,引用例2記載の技術が,インクの粘度増大等を防止するために,印刷中の波形から第4パルスを省略するするというものであれば,補正発明において,「切換手段」が「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える」のは,階調値0専用の微振動を与える波形発生回路を不要にして,回路構成が複雑になることを回避するという課題を解決するためであるから,引用例2の第4パルスを省略することと補正発明の「切換手段」が「いずれの前記駆動波形も選択しないように前記スイッチのON/OFFを切り換える」こととは,課題が全く異なると主張する。
しかしながら,上記(1)の引用例2の記載によれば,引用例2には,プリントヘッド10がホームポジションにある場合等の限定された状態のときに微振動を与えたり,ノズル穴22Aをキャップで覆ったりすること等によって,ノズル穴22Aの詰まりを防止できると記載されているのであって,インクの粘度増大等を防止するという課題を解決するために,印刷中の波形から第4パルスを省略すると記載されているのではない。そして,引用例2には,第4パルスを省略することがどのような課題を解決するためであるのかについては明記されていないが,第4パルスを省略すれば,その分だけ駆動信号発生回路の構成を簡略にできることは明らかであるから,引用例2記載の技術と補正発明とは課題が全く異なるということはできない。
(3) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について(1) 原告は,引用発明1を出発点としてこれに周知技術を併用した技術(併用技術)は,「全ての駆動波形」の中から階調値に応じた駆動波形を選択することができないのに対し,補正発明は,階調値に応じた駆動波形をランダムに選択することができ,これにより,併用技術では表現できない高階調を表現することができるから,併用技術において,一印字周期を分割した場合に,相違点2に係る補正発明の構成を採用しなければならないわけではないと主張する。
ア 確かに,補正明細書(甲2,3)には,「さらに,印字周期Tを2分割した前半,後半のいずれか一方に,複数の駆動電圧波形の中の一つを供給するものとして説明しているが,前半,後半の両方に駆動電圧波形を選択して供給することも可能である。すなわち,前記前半と後半で異なる階調のインク滴を吐出させるように駆動電圧波形を供給することで,さらに多くの階調の実現が可能になる。」(段落【0076】)として,一印字周期を分割した各区分に異なる駆動電圧波形を供給することができると記載され,また,図1(第1の実施形態にかかるインクジェット記録ヘッドの駆動装置の構成を説明するブロック図)には,波形発生回路35aないし35cから各々異なる信号線によりスイッチ371aないし374cを介してアクチュエータ71ないし74に接続される様子が示されている。これらによれば,各々同一又は異なる信号線上に発生された全ての駆動波形の中から,階調値に応じて,同一又は異なる信号線から駆動波形を選択できることが示唆されているということができる。
イ しかし,補正明細書の上記記載は,そのようなことも可能であるというにとどまるのであって,特許請求の範囲の請求項3は,駆動波形の選択について,単に,「一印字周期に供給される全ての前記駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じ」て選択すると記載しているだけであって,それ以上に具体的な選択の仕方を特定していない。しかも,補正明細書の実施の形態は,例えば,上記アの補正明細書の記載にあるように,印字周期Tを2分割した前半,後半のいずれか一方に,複数の駆動電圧波形の中の一つを供給するものとして説明されているところ,請求項3の上記記載には,このような形態をも含むと解されるから,補正発明を,原告の主張するような,「一印字周期中の全ての駆動波形の中から,階調値に応じて,ある信号線上の駆動波形を選択したり,他の信号線上の駆動波形を選択したりする」ものに限定して理解することはできないのであって,そうであれば,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるといわざるを得ない。
ウ 審決は,第2の3(1)ウ(イ)のとおり,出願当時の周知技術として,すべての圧電振動子への駆動波形を共通の信号線により供給することを前提として,一印字周期を複数の区分に分割し,各分割区分における駆動波形を同一としないことを認定したものであるが,これによれば,引用発明1においても,一印字周期を複数の区分に分割し,各信号線に接続される複数の駆動電圧波形発生手段が各区分ごとに異なる駆動波形を発生するようにすることは,当業者が容易に想到することができる程度のものである。また,引用発明1は,駆動電圧波形の一つを選択するものであるから,少なくとも区分ごとに発生させた全ての駆動波形の中から一つを選択して圧電体に供給するように,複数のトランスファゲートの一つだけを導通させる(スイッチをON/OFFを切り換える)ことに格別の困難もない。
このように,上記周知技術に基づけば,引用発明1において,「一印字周期を複数の区分に分割する分割手段」を設け,「波形発生手段」が「分割された各区分ごとに前記駆動波形を発生させる」ものとして「一印字周期に供給される全ての駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた駆動波形の一つを選択して圧電振動子に供給するようスイッチのON/OFFを切り換える」ことは,当業者が容易になし得る程度のことである。そして,上記イのとおり,補正発明は,駆動波形の選択について具体的な選択の仕方を特定しているわけではなく,駆動波形の一つを選択すること(これは,印字周期Tを2分割した前半,後半のいずれか一方に,複数の駆動電圧波形の中の一つを供給するとする補正明細書の実施の形態と異ならない。)も,「一印字周期に供給される全ての駆動波形の中から印字データに基づく階調値に応じた駆動波形を選択して圧電振動子に供給するようスイッチのON/OFFを切り換える」ことに該当するから,結局のところ,引用発明1において,相違点2に係る補正発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得る程度のことであるというべきである。
(2) したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(本願発明の進歩性の判断の誤り)について取消事由4は,取消事由1ないし3のいずれかに理由があることを前提とするものであるが,取消事由1ないし3に理由がないことは上記1ないし3のとおりである。
したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文