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事件 平成 17年 (行ケ) 10595号 審決取消請求事件
原告 株式会社リコー
訴訟代理人弁理士 伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 長島孝志,衣鳩文彦,青木博文,小池正彦,羽鳥賢一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2005-39046号事件について平成17年6月21日にした審決を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本件は,原告を特許権者とする「通信装置」の特許につき,原告が特許庁に訂正審判を請求したところ,発明の容易想到性(特許法29条2項)により独立特許要件(平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項)を充足しないことを理由に,特許庁が請求不成立の審決をしたため,原告が,審決の判断の誤り等を主張して,その取消しを求めた事案である。
訂正明細書(甲2)の記載によれば,本件発明は 「電話,ファクシミリ装置等 ,の通信装置に関し,着信側で発信元を識別できる機能を有する通信装置に関する」(段落【0001 )ものである。従来のこの種の通信装置としては 「発信元の電 】,話番号表示に留まらず,発信元の識別情報に対応して着信時のブザー音や鳴動パターンを変えることができる」ものがあるが 「このような従来の通信装置にあっ ,ては,着信時のブザー音や鳴動パターンを変えても同一系統の音色であることに変わりはなく,音色の違いが小さいため,どこからの受信なのか明確に聞き分けられないという問題があった (段落【0003 【0006 。本件発明は 「メロ 」】,】),ディによって,結果的にどこからの送信であるのかを明確に通知できる通信装置を提供すること (段落【0007 )などを目的とする,とされている。 」】1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲1)特許権者:原告発明の名称: 通信装置」「特許出願日:平成3年7月15日(特願平3-172921号の一部を新たな出願とした特願2001-158904号)設定登録日:平成15年6月20日特許番号:第3442750号(2) 本件特許に係る異議手続特許異議事件番号:異議2003-72915号訂正請求日:平成16年7月12日決定日:平成16年10月27日決定の結論: 訂正を認める。特許第3442750号の請求項1ないし5に係 「る特許を取り消す 」。
決定取消訴訟提起日:平成16年12月17日(当庁平成17年(行ケ)第10357号)(3) 本件訂正審判手続訂正審判事件番号:訂正2005-39046号審判請求日:平成17年3月16日審決日:平成17年6月21日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「。
審決謄本送達日:平成17年7月1日2 訂正発明の要旨(平成17年3月16日付け訂正審判請求書(甲2)に添付さ,。 れた訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたもので 下線部分が訂正部分である以下,同明細書を単に「訂正明細書」といい,それぞれの発明を,請求項番号に対応して「訂正発明1」などという )。
「 請求項1】【外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段と,固定メロディと前記入力手段により入力されたメロディとをそれぞれ複数記憶する記憶手段と,送信側識別番号と前記固定メロディ及び前記入力されたメロディから任意に選択されたメロディとを1対1に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと,受信した送信側識別情報に対応するメロディを前記記憶手段から読み出して再生する再生手段とを備え,前記メロディ入力手段により複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し,前記対応テーブルへの記憶の際には,前記送信側識別番号の指定とメロディの選択が終了したら,選択されたメロディを前記再生手段により再生させ,再生されたメロディが所望のメロディでなかった場合には,前記送信側識別番号の再指定がされることなくメロディの選択に移ることを特徴とする通信装置。
【請求項2】前記メロディ入力手段は,メロディを形成する複数の音を1音づつ入力するものであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】前記対応テーブルへの記憶の際には,送信側識別番号を指定させた後,対応するメロディを選択させることを特徴とする請求項1又は2記載の通信装置。
【請求項4】メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3記載の通信装置 」。
3 審決の理由の要点審決の理由は,要するに,訂正発明1ないし4は,刊行物1(特開平2-26440号公報,本訴甲5。以下,これに記載された発明を「引用発明」という ,。)刊行物2(特開平2-126289号公報,本訴甲6 ,刊行物3(特開平1-1 )88148号公報,本訴甲7 ,刊行物4(特開昭64-46361号公報,本訴 )甲12)に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない,というものである。
以下,本件訴訟において争われている,訂正発明1及び4に関する審決の判断を記載する。
なお,審決中に,周知例として示された文献は,次のとおりである(以下,本訴の書証番号に従って 「甲8文献」などという ) ,。
特開昭57-46294号公報(本訴甲8)特開昭57-160088号公報(本訴甲9)特開平1-179195号公報(本訴甲10)実願昭62-147347号(実開昭64-51992号)のマイクロフィルム(本訴甲11)(1) 訂正発明1に関する審決の判断「訂正発明1と引用発明とを対比すると ・・・両者は,以下の点で一致ないし相違する。 ,[一致点]送信側識別番号と任意に選択された音とを1対1に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと,受信した送信側識別情報に対応する音を再生する再生手段とを備えた通信装置。
[相違点]a)訂正発明1は 『外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段』と 『固 ,,定メロディと前記入力手段により入力されたメロディとをそれぞれ複数記憶する記憶手段』を,,『』 備え 対応テーブルで送信側識別情報と対応付けられ 再生手段で再生される音が メロディであり,前記メロディを『前記記憶手段から読み出して再生する』のに対して,引用発明はそのようなものではない点。
b)訂正発明1は 『前記メロディ入力手段により複数の音からなる一つのメロディの入力 ,が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生』するのに対して,引用発明はそのようなものではない点。
c 訂正発明1は 対応テーブルへの記憶の際には 前記送信側識別番号の指定とメロディ ),『,の選択が終了したら 選択されたメロディを前記再生手段により再生させ 再生されたメロディ ,,が所望のメロディでなかった場合には,前記送信側識別番号の再指定がなされることなくメロディの選択に移る』のに対して,引用発明は,希望する呼出音を選択した後,ダイヤル番号を指定している点。
[判断]ア)相違点a)について刊行物2には 『キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御する周波 ,数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として用いる電話機において,入力されたメロディを前記記憶手段に記憶する際に,該メロディを構成する楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させるようにした電話機』の発明が開示され,通信装置である電話機の技術分野において,外部から任意のメロディを入力する入力手段と,入力されたメロディを記憶する記憶手段とを設けて,呼出音を生成することは公知の技術であると認められること,刊行物4には,電話機において,固定メロディを複数記憶する記憶手段を備え,ダイヤル番号に応じて異なる着信音を生成する技術が開示されていること,また,送信側識別番号に対応してメロディ音を異ならせる際に 『固,定メロディと入力手段により入力されたメロディとをそれぞれ複数とする』ことは適宜実施し得る設計的事項にすぎないと考えられること,加えて, 刊行物4に『更に,メロディICからなる異なるメロディの着信通知信号を発生させる構成を例示したが,異なる周波数や断続周期でブザーを鳴動させるなど他の適宜な構成によって異なる音色の着信通知音を発生させてもよい (3頁右下欄7行ないし11行)の記載があり,異なる着信通知音を発生させるに際し 。』て,メロディとするか,それとも他の適宜な構成による音色とするかは選択的事項にすぎないことが示唆されていることから,引用発明において,刊行物2に開示された発明の技術,及び刊行物4に開示された技術を採用して『外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段』と 『固定メロディと前記入力手段により入力されたメロディとをそれぞれ複数記憶 ,する記憶手段』を備え,対応テーブルで送信側識別情報と対応付けられ,再生手段で再生される音を『メロディ』とし,前記メロディを『前記記憶手段から読み出して再生する』ものとすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
イ)相違点b)について,, , 記憶の可否を 楽音毎に代えて 楽音の集合である一つのメロディの単位で判断することは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないといえること 刊行物2には 記憶させたメロディ ,,をスイッチ40の操作により読み出して,音響として再生することが開示され,このスイッチ40を操作して記憶したメロディを再生した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは操作者における自然の操作といえること,そして,引用発明に刊行物2に記載された発明の技術等を適用することに格別の困難性はないことを考慮すると,引用発明において『メロディ入力手段により複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生』するようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
このことは 『複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら,該メロディをその記 ,憶の可否のために再生 することが作曲装置における周知の技術 甲8ないし11文献 であっ 』()て,この周知の技術を引用発明に適用することを妨げる格別の理由がないことから,引用発明において『前記メロディ入力手段により複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生』することは当業者であれば容易に想到し得るといえる。
ウ)相違点c)について刊行物3には,対応テーブルへの記憶の際には,送信側識別番号を指定させた後,対応する呼出音を選択させると共に,電話番号と呼出音パターンを登録した後,呼出音発生回路33を用いて使用者に確認をうながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出音との対応が記憶される発明が開示されているものと認められ,刊行物3の第2図の,() , フローチャートでは 再生された呼出音が所望のものでなかった場合 ステップ17でNO送信側識別番号の再指定がなされるフローとなっているが,呼出音を選択する際に既に入力されている相手先番号の入力は不要であることを考慮すると,ステップ17でNOであったときにはステップ14の呼出音の選択要求に戻ることがむしろ自然といえるから,引用発明において,刊行物3に記載された発明を適用し 『対応テーブルへの記憶の際には,前記送信側識別 ,番号の指定とメロディの選択が終了したら,選択されたメロディを前記再生手段により再生させ,再生されたメロディが所望のメロディでなかった場合には,前記送信側識別番号の再指定がなされることなくメロディの選択に移る』ようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである 」。
(2) 訂正発明4に関する審決の判断「訂正発明4と引用発明とを対比すると,両者は上記相違点a)〜e)に加えて下記の点で相違し,その余の点では一致する。
[相違点]f)訂正発明4は 『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』 ,ているのに対して,引用発明はそのような手段を備えていない点。
[判断]そこで,検討すると,刊行物2には 『キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御する周波 ,数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として用いる電話機において,入力されたメロディを前記記憶手段に記憶する際に,該メロディを構成する楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させるようにした電話機』の発明が開示され,通信装置の技術分野において,メロディを形成する複数の音を1音づつ入力し,楽音を再生した後に,希望したものでないときには,再度入力し直し,すなわち,入力した楽音を消去して,新たな楽音を入力することは公知の技術と認められ,そして,入力された楽音毎に再生,消去するか,楽音が集まった一つのメロディで再生,消去するかは,当業者が適宜選択しうる事項にすぎないといえるから,引用発明において『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』るようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。
このことは,刊行物3に『・・・電話番号と呼出音パターンを登録した後,表示装置31と呼出音発生回路33を用いて使用者に確認をうながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出音との対応が記憶され,確認の結果,好ましくない場合には,電話番号の入力から再び行う』ようにした発明が開示され,使用者が確認するために,呼出音発生回路33を用いて呼出音パターンを再生し,希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択し,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されているから,刊行物3に開示ないし示唆された発明を考慮すれば,引用発明において『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』るようにすることは当業者が容易に想到し得ることであることからもいえる 」。
原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,訂正発明1と引用発明との相違点を看過し(取消事由1 ,訂正発明1)と引用発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由2),訂正発明4と引用発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由3),また,特許法157条2項4号に違反してなされたものである(取消事由4)から,取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明1と引用発明との相違点の看過)訂正発明1において,対応テーブルに記憶されるのは「固定メロディ及び・・・入力されたメロディから任意に選択されたメロディ」であるのに対して,刊行物1,。,, には この点に関する記載や示唆はないしたがって 訂正発明1と引用発明とは訂正発明1における対応テーブルに記憶されるメロディが,記憶手段に記憶された複数の固定メロディ及び入力されたメロディから任意に選択されたメロディであるという点で相違しているにもかかわらず,審決は,これを相違点として認定していない。
2 取消事由2(訂正発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)(1) 相違点a)について刊行物2に記載の技術は 「入力されたメロディ」を一括して記憶するものでは ,なく,メロディを構成する個々の楽音を記憶するものである。
また,訂正発明1における「固定メロディと・・・入力されたメロディとをそれぞれ複数記憶する」という点について,刊行物2及び4には,開示も示唆もされておらず,むしろ,刊行物2に記載の技術は,単数のメロディを作曲して記憶するものであるから,複数のメロディを記憶することは排除されており,また 「入力さ,れたメロディ」のほかに 「固定メロディ」を記憶することも排除されているもの ,である。
さらに,引用発明における呼出音は,番号対応呼出音選択信号記憶部に基づいて受信した相手ダイヤル番号に対応する呼出音を,呼出音信号選択部で選択するもので,呼出音の技術として完結しており 「外部から任意のメロディを入力する入力 ,手段と,入力されたメロディを記憶する記憶手段とを設けて,呼出音を生成する」技術を付加する必要性も契機もないものである。
(2) 相違点b)についてア 審決は,記憶の可否を,楽音ごとに代えて,楽音の集合である一つのメロディの単位で判断することは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない,としている。
しかし,メロディは,複数の楽音から形成され,それらの楽音が連続的に進行することによって,音楽的内容(個々の楽音からは予測し得ない,人間の感性に訴える内容)を持つものであり,楽音とメロディとが代替可能でないことは,明らかである。楽音の適否の判断では,楽音の音階,長さ,音のレベルの適否を判断するの,, , に対し メロディの適否の判断ではその音楽的内容の適否を判断するものであり楽音とメロディとでは,適否の判断の内容,基準が異なる。
また,刊行物2に記載の技術は,電話機のキーボードを用いて楽音を得るというものであり,キーボードの押下を人間が行うことから,その押下時間を確実かつ正確に設定することができないという問題がある。このため,刊行物2に記載の技術では,所望のメロディを得るために,入力された楽音そのものの確認作業が必須であり,楽音の確認に代えて,メロディの確認を行うことは現実的でない。
したがって,刊行物2に記載の技術において,単純に,楽音の記憶の可否に代えて,メロディの記憶の可否を行うことはできないから,審決の前記判断は誤りである。
イ 審決は,刊行物2に記載の技術において,スイッチ40を操作して記憶したメロディを再生した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは,操作者における自然の操作といえる,としている。
しかし,刊行物2に記載の技術は,メロディを構成する個々の楽音について,希望した楽音の記憶を繰り返し,その結果として,希望のメロディが形成された場合に,作曲モードを終了させるものである。したがって,既に作曲モードが終了して通常のダイヤルモードに切り替えられた後の段階では,希望のメロディが形成されているのであるから,この段階におけるスイッチ40の操作による再生において,「希望したメロディでない場合」を想定することは,誤りである。また,このような刊行物2における「再生」は,訂正発明1における,メロディの記憶をするための操作の一環としての「再生」とは,その技術的意義が全く異なるものである。
ウ 審決は,甲8ないし11文献を引用して 「複数の音からなる一つのメロ ,,」, ディの入力が終了したら 該メロディをその記憶の可否のために再生 することが作曲装置における周知の技術である,としている。
,, , しかし 前記各文献には 審決が周知技術であるとして認定する技術については記載も示唆もされておらず,審決の前記認定は,誤りである。また,これらの文献,, に記載された技術は 訂正発明1とは全く異なる技術分野に属するものであるからこれらの技術を訂正発明1に適用することも,誤りである。
(3) 相違点c)についてア 刊行物3には,対応テーブルに関する直接的な記載はなく,審決における刊行物3の認定は誤っており,刊行物3に記載の技術を引用発明に適用しても,訂正発明1に至るものではない。
イ 審決は,刊行物3の第2図のフローについて,再生された呼出音が所望のものでなかった場合(ステップ17で「NO」とされた場合)には,送信側識別番号の再指定よりも,ステップ14の呼出音の選択要求に戻ることがむしろ自然である,としている。
しかし,刊行物3の第2図のフローにおいては,プログラムに沿って制御される一連の処理として,ステップ17で「NO」とされた場合にスタート時の状態に移行するものであるから 「呼出音を選択する際に既に入力されている相手先番号の ,入力は不要である」という観念の入り込む余地のないものである。したがって,審決の前記判断は,誤りである。
3 取消事由3(訂正発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)審決は,刊行物3に,呼出音パターンが希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されている,としている。
しかし,刊行物3の第2図において,使用者による確認の結果 「NO」とされ,,,, た場合には キーの押下を待つ待機状態に移行するものであるから 刊行物3には「前回の呼出音パターンを消去すること」は,記載も示唆もされていない。
また,そもそも,刊行物3の第2図は,メロディの記憶に関するものではなく,電話番号と既に記憶されている呼出音パターンとの対応関係の記憶に関するものであるから,刊行物3を適用して訂正発明4の容易想到性を論じること自体が不当である。刊行物3の第2図のステップ16における相手番号と呼出音との対応が,相手番号に対して現に存在する呼出音を選択して対応させるものである以上,ステップ17において確認の結果「NO」とされたとしても,呼出音パターンを消去する必要はなく,刊行物3には 「前回の呼出音パターンを消去すること」は,示唆さ ,れていない。
したがって,審決の前記認定は,誤りである。
4 取消事由4(特許法157条2項4号違反)審決には,特許法157条2項4号に定められている「審決の理由」が,実質的に示されていない。
すなわち,刊行物1ないし4,甲8ないし11文献を子細に見ても,訂正発明1の構成要件のうち 「固定メロディと前記入力手段により入力されたメロディとを ,それぞれ複数記憶する記憶手段と,送信側識別番号と前記固定メロディ及び前記入力されたメロディから任意に選択されたメロディとを1対1に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと」を備えた点,及び「メロディ入力手段により複数の音か ,らなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し,前記対応テーブルへの記憶の際には,前記送信側識別番号の指定とメロディの選択が終了したら,選択されたメロディを前記再生手段により再生させ,再生されたメロディが所望のメロディでなかった場合には,前記送信側識別番号の再指定がされることなくメロディの選択に移る」点が,記載も示唆もされていない。このように多くの構成要件について,的確な証拠を示すことなく,訂正発明1の容易想到性を肯定した審決には 「審決の理由」が示されていないというべきである。 ,また,訂正発明1と引用発明との相違点a)及びb)に関する審決の判断は,単に,判断の根拠となる理由の断片を羅列したにすぎないものであり,訂正発明1が容易想到である理由を論理的に示していない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(訂正発明1と引用発明との相違点の看過)に対して訂正発明1と引用発明とは,対応テーブルで送信側識別情報と対応付けられるものが「任意に選択された音」である点で一致し,任意に選択される「音」が,訂正発明1においては「固定メロディ及び・・・入力されたメロディから任意に選択されたメロディ」である点で相違するものであるところ,審決はそのように認定しているのであるから,審決には,相違点の看過はない。
2 取消事由2(訂正発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)に対して(1) 相違点a)について原告の主張は争う。訂正発明1と引用発明との相違点a)は,審決の挙げている各技術を引用発明に適用することにより,当業者であれば容易に想到し得るものであり,審決には,その判断について十分に理由が示されている。
(2) 相違点b)についてア 原告は,審決が,記憶の可否を,楽音ごとに代えてメロディの単位で判断することは設計的事項にすぎないと判断したことは誤りである,と主張する。
しかし,刊行物2には,楽音の入力手段により楽音の入力が終了したら該楽音をその記憶の可否のために再生し,記憶可の場合には記憶手段に記憶させる一方,記憶否の場合には楽音の再入力を行わせる技術が開示されている。そして,作曲装置の技術分野においては,メロディ単位で確認することが技術常識であることからも明らかであるように,作曲したメロディ音が希望したものであるか否かはメロディの単位全体として再生してみなければ分からないのであるから,メロディの単位で再生して確認することは,自然なことである。したがって,記憶の可否を,楽音ごとに代えて,楽音の集合であるメロディの単位で判断することは,当業者であれば当然に思い至る事項である。
イ 原告は,審決が,刊行物2に記載の技術において記憶したメロディを再生した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは,操作者における自然の操作であると判断したことは誤りである,と主張する。
確かに,刊行物2には 「希望のメロディが形成された場合」にスイッチ40を ,操作して,記憶させたメロディを操作により読み出して音響として再生することは明記されているものの,希望のメロディが形成されたか否かを確認するための再生については,明示されていない。しかし,希望のメロディが形成されたか否かは,記憶させたメロディを読み出して再生してみなければ分からないのであるから,刊行物2の「再生」は,希望のメロディが形成されたか否かを確認するためにも使用されるとみるのが自然であり,このようにして行われるメロディの確認は,作曲段階での確認といえるから,訂正発明1の「記憶可否のための」再生と技術的に何ら異なるものではない。したがって,審決の前記判断に誤りはない。
,,「, ウ 原告は 審決が 複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶の可否のために再生」することが作曲装置における周知の技術である,と認定したことは誤りである,と主張する。
しかし,甲8文献及び甲10文献には,メロディの作成段階で,メロディの単位で再生し,希望したメロディか否かの確認を行うこと,及び,作成したメロディを保存することが開示されており,作成したメロディを保存するか否かの判断のために再生がなされているといえるから,メロディを記憶可否のために再生することが示唆されているものである。したがって,審決の前記認定に誤りはない。
また,上記の周知技術と訂正発明1は,いずれもメロディの作曲装置において関連する技術分野に属するものであり,この周知技術を適用して訂正発明1の容易想到性を判断したことにも,誤りはない。
(3) 相違点c)について原告は,審決が,呼出音を選択する際に既に入力されている相手先番号の入力は不要であり,ステップ17で「NO」とされたときにはステップ14の呼出音の選択要求に戻ることがむしろ自然といえると判断したのは誤りである,と主張する。
しかし,刊行物3の第2図のフローにおいて,呼出音が所望のものでなかった場合に,登録したい相手先番号について登録処理を続けようとすると,登録を行うべき相手番号は既に入力済みであるのだから,再度相手番号を入力することは重複す,。 る処理であって このような重複する処理を省くことはごく自然なことにすぎないしたがって,審決の前記判断に誤りはない。
3 取消事由3(訂正発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)に対して原告は,審決が,刊行物3に,呼出音パターンが希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されているとしたのは誤りである,と主張する。
確かに,刊行物3の第2図には 「前回の呼出音パターンを消去すること」は記 ,載されていない。しかし,既に蓄積された呼出音パターンを他の呼出音パターンに変更するときには,他の呼出音パターンが選択されることにより,前回選択されたそれまでの呼出音パターンは実質的に消去されていることになるから,審決の前記認定に誤りはない。
4 取消事由4(特許法157条2項4号違反)に対して原告の主張は争う。審決には,訂正発明1が容易想到である理由が十分に記載されている。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明1と引用発明との相違点の看過)について訂正発明1と引用発明とが 「送信側識別番号と任意に選択された音とを1対1 ,に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと,受信した送信側識別情報に対応する」, 音を再生する再生手段とを備えた通信装置である点において一致していることは当事者間に争いがない そうすると 送信側識別番号と1対1に対応付けて対応テー 。,ブルに記憶されるのが「任意に選択された音」である点は,訂正発明1との一致点として刊行物1に記載されているものである。
原告は,訂正発明1において対応テーブルに記憶されるのは「固定メロディ及び・・・入力されたメロディから任意に選択されたメロディ」であるのに対して,刊行物1にはこれに関する記載はないと主張するが,訂正発明1が「固定メロディと・・・入力されたメロディをそれぞれ複数記憶する記憶手段」を備えている点については,審決においても,訂正発明1と引用発明との相違点a)として挙げられているところである。そして,相違点a)について容易想到性が肯定されるのであれば,送信側識別番号と1対1に対応付けて対応テーブルに記憶されるのは 「任意,に選択された音」に代わり 「固定メロディ及び入力されたメロディから任意に選 ,択されたメロディ」となることは自明であるから,原告主張の点を訂正発明1と引用発明との相違点として挙げる必要はなく,審決には,相違点看過の誤りはない。
2 取消事由2(訂正発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)について(1) 相違点a)について刊行物2に 「キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御 ,する周波数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として用いる電話機」が開示されていることは,当事者間に争いがない。そして,引用発明と刊行物2に記載の技術とは,共に,電話機の呼出音に関するものであるから,刊行物2に記載された 「外部から任意のメロディを入力する入力手段と,入力さ ,れたメロディを記憶する記憶手段とを設けて,記憶されたメロディを再生する」という技術を,引用発明に適用することは,容易である。
もっとも,訂正発明1は 「固定メロディと・・・入力されたメロディとをそれ ,ぞれ複数記憶する記憶手段」を備えるものであり,刊行物2には,このような複数記憶についての記載はない。しかし,刊行物1には 「それぞれ相違する音色から ,なる複数の呼出音を生成することができる呼出音信号器91〜9Nと ・・・相手,ダイヤル番号と任意に選択された呼出音とを1対1に対応付けて複数記憶可能な番号対応呼出音選択信号記憶部3」が記載されており(この点については当事者間に。),, 争いがない 上記のように刊行物2に記載の技術を引用発明に適用する場合には入力,記憶,再生の対象はいずれも「メロディ」となるのであるから,刊行物1における「複数の呼出音」を「複数のメロディ」に代え 「相手ダイヤル番号と任意 ,に選択されたメロディとを1対1に対応付けて複数記憶可能な」記憶手段を設けることは,ごく自然になし得ることである。
,, 「」, なお 訂正発明1における複数記憶の対象には 入力されたメロディ のほか「固定メロディ」も含まれるが,刊行物4には,電話機において,固定メロディを複数記憶する記憶手段を備え,ダイヤル番号に応じて異なる着信音を生成する技術が開示されており(2頁左下欄12行ないし右下欄6行参照 「入力されたメロ。),ディを複数記憶する記憶手段」を備えることとするか 「固定メロディと・・・入 ,力されたメロディとをそれぞれ複数記憶する記憶手段」を備えることとするかは,当業者が適宜実施し得る設計的事項にすぎない。
したがって,訂正発明1と引用発明との相違点 a)について容易想到であるとした審決の判断は,是認し得るものである。
これに対して,原告は,刊行物2に記載の技術は,入力されたメロディを一括して記憶するものではなく,個々の楽音を記憶手段に記憶するものにすぎないと主張する。しかし,メロディは,個々の楽音の連なりによって形成されるものであり,メロディを構成する個々の楽音を記憶することは,記憶された楽音の連なりによって形成されるメロディを記憶することにほかならないから,メロディを構成する個々の楽音を記憶手段に順次記憶することにより,結果として,一つのメロディが記憶されることとなる場合にも,入力されたメロディを記憶するものということができる。すなわち,メロディを構成する個々の楽音ごとに記憶していくか,メロディの形成が完了するのを待って一括して記憶するかは,メロディを記憶手段に記憶するための方法として適宜選択し得るものにすぎず,前者の方法によりメロディが記載される刊行物2に記載の技術も 「入力されたメロディを記憶する記憶手段」を ,備えているということができる。したがって,原告の前記主張は,訂正発明1と引用発明との相違点 a)に関する容易想到性の判断を左右するものではない。
(2) 相違点b)について刊行物2に 「楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判 ,断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させる」ことが記載されていることは,当事者間に争いがない。そして,引用発明と刊行物2に記載の技術とは,共に,電話機の呼出音に関するものであるから,刊行物2に記載の技術を引用発明に適用することは,容易である。
もっとも,刊行物2に記載の前記技術における再生,記憶,再入力の対象は,いずれも「楽音」であるのに対して,訂正発明1における再生,記憶,再入力の対象は「メロディ」である点が異なっている。しかし,メロディを構成する個々の楽音ごとに再生し,その音階や持続時間を逐一確認しながら記憶の可否を決定することは,煩雑である上に,個々の楽音が所望のものであるか否かの判断も一般人には困難であって,メロディ全体を再生して所望のメロディが形成されているか否かを確認する方が,確認の手法として容易である。また,甲8文献,甲10文献にも示されているように 複数の音からなる一つのメロディの入力が終了したら該メロディ ,「をその記憶可否のために再生」することは,作曲装置における周知の技術である。
したがって,訂正発明1と引用発明との相違点 b)について容易想到であるとした審決の判断は,是認し得るものである。
これに対して,原告は,記憶の可否を楽音ごとに判断する場合とメロディで判断する場合との技術的意義の相違について主張するが,メロディが,個々の楽音の連なりによって形成されるものである以上,個々の楽音が正しく記憶されればメロディとしても正しく記憶され,また,メロディとして誤ったものである場合には,それを構成する楽音のいずれかが誤っていることになるから,記憶の可否を楽音ごとに判断するか,メロディで判断するかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎないというべきである。
また,原告は,刊行物2における「再生」はメロディの記憶可否を決定するためのものではなく,訂正発明1における「再生」とは技術的意義が異なると主張するが その論拠は 刊行物2における再生操作は 作曲モードから通常のダイヤルモー ,, ,ドに切り替えられた後に行われる操作である,という点に帰する。メロディを再生した結果,所望のメロディでないことが判明すれば,通常のダイヤルモードに切り替えられた後であっても,再び作曲モードに切り替えて再入力することは,操作者において自然に行う操作であり,メロディの再生は,最終的な記憶可否を決定するための操作の一環として位置づけることが可能である。したがって,原告の前記主張は,訂正発明1と引用発明との相違点 b)に関する容易想到性の判断を左右するものではない。
さらに,原告は,審決における周知技術の認定についても縷々主張するが,甲8文献,甲10文献に示された技術は,メロディの作曲に関する技術であって,訂正,, 発明1と技術分野の親近性が高いものであり 前記各文献に記載されている内容も前記のような周知技術を認定するに十分なものである。したがって,周知技術の認定に関する原告の主張は,採用することができない。
(3) 相違点c)についてア 刊行物3に記載の技術の認定に関して,原告は,刊行物3には,対応テーブルに関する直接的な記載はない,と主張する。
しかし,刊行物3には 「電話番号と呼出音の対応関係を登録する」こと(2頁 ,左上欄6行〜7行 ,電話番号と呼出音との対応関係の登録は 「相手番号の入力・ ),・・が終了すると・・・呼出音の選択を要求 し 使用者が・・・呼出音のパター 」,「ンを登録すると・・・ステップ16で表示装置31と呼出音発生回路33を用いて使用者に確認をうながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出音との対応が記憶される」こと(2頁右上欄12行〜左下欄8行 ,)そして 「着信があれば・・・発信者番号を読み出し ・・・蓄積回路35内に登録 ,,済みの番号と比較」して「呼出音を発生する」こと(2頁左下欄9行〜18行)が記載されている。そうすると,刊行物3に記載の技術においては,蓄積回路に登録された電話番号と呼出音との対応関係に基づいて発信者番号に対応する呼出音を発生させるのであるから,訂正発明1における対応テーブルに相当するものを蓄積回路に備えているものである。
したがって,審決が,刊行物3には 「対応テーブルへの記憶の際には,送信側 ,識別番号を指定させた後,対応する呼出音を選択させると共に,電話番号と呼出音パターンを登録した後,呼出音発生回路33を用いて使用者に確認をうながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出し音との対応が記憶される」という技術が開示されていると認定したことに,誤りはなく,訂正発明1と引用発明との相違点c)について容易想到であるとした審決の判断は,是認し得るものである。
イ 原告は 審決が 刊行物3の第2図のフローにおいて ステップ17で N ,, , 「O」とされたときにはステップ14の呼出音の選択要求に戻ることがむしろ自然といえると判断したのは誤りである,と主張する。
刊行物3の第2図のフローは,電話番号と呼出音との対応関係の登録に関するものであり 「ステップ11で・・・登録キーを押下すると ・・・相手番号の入力を ,,ステップ12で要求」し 「入力が終了すると・・・ステップ14で表示装置31 ,を用いて呼出音の選択を要求する ・・・ステップ16で・・・使用者に確認をう 。
ながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出音との対応が記憶される」というものである(2頁右上欄12行〜左下欄8行 。そし)て,第2図には,ステップ17において「YES」とされた場合には,相手番号と呼出音との対応関係が登録され 「NO」とされた場合には,ステップ11に戻る ,ことが記載されている ここで ステップ11に戻ることとなった場合には ステッ 。, ,プ12(相手番号の入力の要求)以降の動作が再度行われることとなるが,相手番号が既に所望のものとなっている場合には,相手番号の再入力を要求する必要はな,,, く 直ちに呼出音の選択に移れば足りるのであるから このような場合を想定して相手番号の再入力の過程を省略し,呼出音の選択へ直ちに移行することは,当業者。, , が適宜に採用し得る設計事項である したがって 審決の前記判断には誤りはなく原告の主張は,採用することができない。
3 取消事由3(訂正発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)について刊行物2に 「再生される楽音が操作者の希望したもの・・・でないときには再 ,度,楽音を形成」することが記載されていることは,当事者間に争いがない。ここで 「再度,楽音を形成」することは,入力した楽音を消去して新たな楽音を入力 ,することにほかならないから,刊行物2においては 「メロディの再生後に,入力 ,されたメロディを消去させる手段を備え」ることも示唆されているというべきである。
そして,入力されたメロディを消去する場合に,その消去を楽音ごとに行うか,メロディで行うかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。
したがって,訂正発明4と引用発明との相違点について容易想到であるとした審決の判断は,是認し得るものである。
原告は,刊行物3の適用に関して主張するが,審決は,訂正発明4の容易想到性について,刊行物2の適用を理由としているものであり,刊行物3については付加的に言及するものにすぎないから,上記のとおり刊行物2の適用により訂正発明4の容易想到性が肯定される以上,刊行物3の適用について判断するまでもなく,審決の判断は是認し得るものである。
4 取消事由4(特許法157条2項4号違反)について原告は,訂正発明1の容易想到性の判断に関して,審決の理由が実質的に示されていないと主張するが,訂正発明1の容易想到性が刊行物1ないし3及び周知の技術により肯定されることは前記のとおりであって,その理由については審決中にも十分に示されているということができるから,原告の主張は,採用することができない。
5結論以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 清水知恵子