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事件 平成 18年 (ネ) 10005号 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
控訴人 株式会社綾
訴訟代理人弁護士 江口公一
被控訴人 イー・エイチ・シー・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 永島孝明
同安國忠彦
同 明石 幸二郎
補佐人弁理士 中尾俊輔
同伊藤高英
同畑中芳実
同 大倉 奈緒子
同玉利房枝
同鈴木健之
同磯田志郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 原判決主文第4項の引用する別紙謝罪広告目録1のうち,「代表者取締役P1」とあるを「代表取締役P1」と更正する。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
1 本件は,一審原告である被控訴人が,一審被告であった訴外ボイジャー・グローバル・メディア・リミテッド(香港法人・分離前被告・本件特許の特許権者。以下「ボイジャー社」という。)とその日本における総代理店で本件特許の専用実施権者であった控訴人に対し,特許権侵害差止請求不存在確認と,不正競争防止法に基づく差止め・損害賠償・謝罪広告等を請求したところ,原判決が同請求の大部分を認容したことから,控訴人が敗訴部分の取消しを求めて控訴した事案である。
2 すなわち,被控訴人は,エスカレーターのハンドレール用広告フィルム(原判決のいう「原告製品」。以下「被控訴人製品」という。)の輸入販売等をしていたところ,同業者であるボイジャー社及び控訴人から被控訴人の取引先に対し,被控訴人製品は,ボイジャー社が特許権を有し控訴人が専用実施権を有する本件特許権を侵害するおそれがある旨の文書が送付された。そこで,被控訴人が,ボイジャー社及び控訴人に対し,被控訴人製品は本件特許権の技術的範囲に属しないとして,被控訴人による被控訴人製品等の輸入販売についてボイジャー社及び控訴人が本件特許権及びその専用実施権に基づく差止請求権等を有しないことの確認を求めるとともに,ボイジャー社及び控訴人の上記文書送付等の行為は営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たるとして,不正競争防止法3条,4条,14条に基づき,事実告知の差止め,2億2000万円余の損害賠償金の支払及び謝罪広告を求めた。なお,原審において,平成16年7月6日付けで,ボイジャー社に対する事件と控訴人に対する事件との弁論が分離された。
原判決は,被控訴人の控訴人に対する請求につき,損害賠償金は3000万円余と減額したもののその余の請求は全面的に認容したため,控訴人が,敗訴部分の取消しを求めて控訴した。
当事者の主張
当事者双方の主張は,以下のとおり付加するほか,原判決の第2「事案の概要」の1,3及び第3「争点に関する当事者の主張」の記載のとおりであるから,略称も含め,これを引用する。
1 控訴人の当審における主張(1) 争点(1)(本件特許発明4の構成要件の充足性)についてア 構成要件4-Bにつき「本件特許発明4の『手すり』は,カバーを外した状態若しくはカバー原判決は,が存在しない状態では,上表面と両側面が連続した滑らかな表面を構成せず,手すりとしては不完全なものであって,カバーがその一部として載置されてはじめて,手すりとしての連続した滑らかな表面を形成するような構成であり,かつ,カバーの表面が手すとしりの上表面より突出していないことを特徴とすると認められる」(30頁第2段落)た。
原判決のこの判断は,本件明細書(甲2)の【第1図】及び【第2図】に記載された形状に基づくものであると考えられるが,これらの図面は,あくまでその実施例を図示したものにすぎず,これを主たる根拠として,上記のように認定した原判決の判断には誤りがある。
構成要件4-Dにつき構成要件4-Dにいう「バイアス部分」の「バイアス」には,「バイアステープ」の略という意味があり(広辞苑第2版補訂版),バイアステープとは,洋服の裁目や袖ぐりなどを縫い込むのに用いるものであるから,原判決が,「バイアス部分」につき,ばねと同様の機能を持つ部分で,弾性力によって手すりに保持される部分を意味すると限定的に解釈したのは誤りである。そして,被控訴人製品のフィルムは,手すりの両側の曲面部分である側面部の一部を包み込むものであるから,構成要件4-Dに該当するということができる。
(2) 争点(2)(本件特許発明5の構成要件の充足性)についてア 構成要件5-Bにつき上記(1)アに述べたとおりである。
構成要件5-C,5-Dにつき上記(1)イに述べたとおりである。
(3) 争点(3)(本件特許発明9の構成要件の充足性)についてア 構成要件9-Bにつき原判決は,本件明細書(甲2)の第1図〜第5図の記載に基づいて,「『手すりの上の部分が,……受けるのに適しており』とは,少なくとも,手すり自体になんらかの加工を施して,『窓部材』をその上で受け止めるものであると解釈するのとした。しかし,上記(1)アのとおり,図面はが相当である」(34頁第1段落)実施例を例示したものであるから,これらの図面の記載に基づいて構成要件の内容を解釈するのは,十分な評価・検討を怠ったものであるといわざるを得ない。
構成要件9-Cにつき上記(1)イに述べたとおりである。
(4) 争点(4)(不正競争行為の成否)についてア 原判決は,この点について,まず,被控訴人製品は本件特許発明1〜10のいずれの技術範囲にも属しないから,被控訴人製品が本件特許権を侵害するおそれがある旨の控訴人文書(原判決のいう「被告文書」。甲9。以下「控訴人文書」という。)の告知内容は,虚偽のものであると認定した。
しかしながら,控訴人文書の文面は,被控訴人製品が本件特許権を侵害する可能性を指摘し,被控訴人に,特許権侵害がないことを明らかにするよう求めているにとどまる。構造上常識的に明らかに可能性がない場合や,可能性がないことを知りながら「特許権を侵害するおそれがあります」と述べたわけではないから,何ら「虚偽」の告知ではない。
イ 原判決は,控訴人文書の送付行為は,被控訴人に対する特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであるとは認められず,違法性は阻却されないと判断したが,その根拠として原判決が挙げる諸事情は,以下のとおり,いずれも原判決の正当な根拠となるものではない。
(ア) 原判決は,控訴人が,本件特許発明1〜10のうち,1〜3,6〜8,10の技術的範囲に属しないことを自認しているにもかかわらず,控訴人文書では,その点について一切触れずに,漫然と被控訴人製品が本件特許権を侵害しているおそれがある旨告知したことを挙げる。しかし,本件特許発明4,5,9もいずれも本件特許の枢要部分といえるのであり,請求項の項数の多寡のみをもって論じるのは合理的とはいえない。
(イ) 原判決は,ボイジャー文書1に対して,被控訴人が本件特許権侵害を否定する回答をしたにもかかわらず,控訴人が控訴人文書を送付したことを指摘している。しかし,控訴人文書の送付は,ボイジャー社の文書送付行為及びこれに対する被控訴人の回答内容を知ってなされたものではないから,競業者の信用毀損を目的としてなされたことまで推認させるものではない。
(ウ) 原判決は,控訴人が,ボイジャー社及びA弁理士から,被控訴人製品が本件特許を侵害するおそれがあるとの説明を受けていたという事情を指摘するが,このような事情は,むしろ,控訴人が,可能な限りの情報を精査した上で控訴人文書を送付していたことの裏付けといえるのであって,控訴人文書の送付が被控訴人の信用毀損を目的としてなされたことを推認させるものであるとするのは不合理である。
(エ) 原判決は,ボイジャー社によるボイジャー文書1〜3の送付行為が不正競争行為に該当するとの事情も指摘しているが,ボイジャー文書1〜3と控訴人文書とは直接関連するものではないから,控訴人文書の発送が違法であることの根拠とはならない。
(5) 争点(5)(控訴人の故意又は過失)について原判決は,控訴人が控訴人文書の送付に先立って調査・検討を行った形跡がうかがわれないことを,控訴人の過失の認定の根拠としている。しかし,控訴人は,控訴人文書の送付前に,A弁理士から,被控訴人製品が本件特許発明技術的範囲に属する旨の平成15年9月17日付け「口頭鑑定書」(乙3)を受領している。このように,控訴人としては,専門家の意見を確認し,十分調査・検討した上で控訴人文書を送付したのであって,特許権専用実施権者として求められる注意義務を尽くした上で同文書を送付しており,控訴人に過失はない。
(6) 争点(7)(謝罪広告の要否)についてそもそも,控訴人文書の送付が不正競争行為でないことは先に述べたとおりであるが,仮に不正競争行為に該当するとしても,本件の場合,控訴人文書の送付先はビデオプロモーション社のみであるから,信用回復の手段として,原判決のように主要新聞の全国版社会面に謝罪広告の掲載を命じることは,過大な措置といわざるを得ない。
2 被控訴人の反論(1) 争点(1)に係る主張に対しア 構成要件4-Bにつき構成要件4-Bの技術的意義を検討するに当たり,原判決は,本件特許の明細書(甲2)における特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載並びに第1図,第2図及び第5図に示された構成を引用し,これらの記載及び構成を参酌して判断をしており,控訴人が主張するように第1図及び第2図の形状のみを基にして判断したものではない。そして,構成要件4-Bの特許請求の範囲の記載から,カバーが手すりの一部であり,手すりの上の部分として戴置されるとカバーの表面が手すりの上表面より突出しないことは一義的に明らかである。
構成要件4-Dにつき控訴人は,構成要件4-Dにいう「バイアス」は「バイアステープ」の略という意味があるとして,原判決の解釈は限定的に過ぎる旨主張する。
しかし,「バイアステープ」は洋裁に関する分野の専門用語であり,本件各発明と技術分野を異にする上,本件特許の明細書及び図面には「バイアス」が「バイアステープ」の意味であることを示唆する記載もないから,構成要件4-Dの技術的意義を解釈するに当たり,「バイアス」を「バイアステープ」と解することはできない。
(2) 争点(2)に係る主張に対し上記(1)のとおりである。
(3) 争点(3)に係る主張に対しア 構成要件9-Bにつき控訴人は,原判決が構成要件9-Bの技術的意義を本件明細書添付の第1図〜第5図を基に解釈したのは,構成要件の内容について十分な評価・検討を怠ったものである旨主張する。しかし,原判決は,上記第1図〜第5図のみならず,本件特許の明細書の記載を参酌して解釈をしており,控訴人の主張は前提において誤りがあり,理由がない。
構成要件9-Cにつき上記(1)イのとおりである。
(4) 争点(4)に係る主張に対しア 控訴人文書が,文言上は特許権侵害の可能性を指摘しているにとどまるとしても,被控訴人製品は何ら本件特許を侵害しないのであるから,侵害の可能性を指摘することも,客観的な真実に反するものである。また,「虚偽」であるか否かは,受け手が陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決されるところ,現に控訴人文書の受け手であるビデオプロモーション社は,被控訴人製品が本件特許を侵害するおそれがあるものと誤解し,その結果,被控訴人との取引を中止したのである。この点からしても,控訴人文書の記載が「虚偽」に該当することは明らかである。
イ 控訴人は,原判決が,控訴人文書の送付行為は正当な権利行使の範囲を逸脱するものであると判断したのは不当である,と主張するが,以下のとおりいずれも失当である。
(ア) 控訴人の主張によっても,被控訴人製品が本件特許の技術的範囲に属しない部分があるにもかかわらず,控訴人文書は,その点に何ら触れることなく,被控訴人製品が本件特許権を侵害していると漫然と述べているものであり,このような控訴人文書の内容からしても,控訴人の行為が特許権の正当な行使ではないことは明白である。
(イ) 控訴人は,原判決が,ボイジャー社の行為と控訴人の行為との間に関連性が認められることを判断の根拠の一つとしているのは不当であると主張する。しかし,控訴人がボイジャー社と共謀の上控訴人文書を送付したことは控訴人の当審における主張からも明らかであるから,ボイジャー社が被控訴人から被控訴人製品は本件特許権を侵害しない旨の回答を受けていたにもかかわらず,控訴人が控訴人文書の送付をしたことは,被控訴人の信用毀損目的のもとに行った社会通念上不相当な行為というほかない。
( ) 争点( )に係る主張に対し 55控訴人は,原判決が控訴人の故意ないし過失を認定したのは不当であると主張する。しかし,原審においては,控訴人文書をビデオプロモーションに送付するに当たって控訴人が行った調査検討の内容を裏付ける主張立証はなされなかったのであるから,原判決が控訴人の故意ないし過失を認定したのは当然である。
また,控訴人は,当審において,控訴人は控訴人文書の送付に先立ちA弁理士作成にかかる口頭鑑定書(乙3)を参照したと主張するが,同鑑定書は本件訴訟係属の後に,しかも,おそらくは原判決の後に控訴人が事後的に作成し,作成日を遡及させたものであって,証明力はない。
( ) 争点( )に係る主張に対し 67控訴人は,原判決が謝罪広告の掲載を命じたのは過大な措置であると主張するが,控訴人の不正競争行為により被控訴人の信用が著しく毀損されたことは事実であり,その影響力の大きさに鑑みても,謝罪広告による信用の回復が必要不可欠である。したがって,謝罪広告を認容した原判決は正当である。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の本訴請求は原判決主文掲記の限度で認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決の「第4当裁判所の判断」の説示のとおりであるから,これを引用する。
2 争点(1)(本件特許発明4の構成要件の充足性)に関する主張について(1) 構成要件4-Bにつき控訴人は,原判決の構成要件4-Bに関する判断は,本件明細書の図面のみに依拠したものであって不当であると主張する。
しかし,原判決は,構成要件4-Bの技術的意義を検討するに当たり,図面「前記透のみに依拠したものではない。すなわち,原判決は,構成要件4-Bの明なカバーは,該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され」との文言を摘示し,さらに,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載「その手すりカバーは,手すりと一体に形成することができ,そして,枢着手段をから,設けてもよい。或いは,手すりカバーは,手すりの上にカチッと係合する1片の部材であり得る。」(4欄49行〜5欄2行),「2片から成るカバーで,その下半分が手すりにカチッと係合し,一方その上半分が該下半分の露出面におかれた広告または印刷物を覆うように枢動自在であるカバー」(5欄3行〜5行),「印刷物の挿入のための凹部(カットアウト)が設けられた手すりが開示され,それによって,一旦該印刷物が該凹部へ挿入されると,該等の記載を摘印刷物を見える様にするカバーが該凹部へ戴置される」(5欄17行〜20行)示し,これらと図面とを総合して考慮した上で,構成要件4-Bの技術的意義を検討しているのである(原判決29頁〜30頁)。
そして,本件明細書(甲2)の上記各記載からすれば,本件各特許発明の「カバー」は手すりの一部材を成しているものであること,逆にいえば,当該「カバー」を欠いた状態では完成した手すりとしての連続した滑らかな表面を形成しないこと,は明らかである。よって,これと同旨の原判決の認定は相当であり,控訴人の主張は採用することができない。
(2) 構成要件4-Dにつき控訴人は,本件における「バイアス」は,「バイアステープ」(洋服の裁目や袖ぐりなどを縫い込むのに用いるもの)を意味し,原判決の解釈は限定的に過ぎると主張する。
確かに,辞書(広辞苑第5版)には,「バイアス」の語義として「B バイアステープの略」と記載され,「バイアステープ」とは「斜めに裁った細い布テープ。縫代の始末や縁どりなどに用いる。」であるとされている。しかし,「バイアステープ」の上記語義からして,これが洋裁に関する専門用語であることは明らかであって,本件各特許発明の属する技術分野と関連するものではない。また,「バイアス」が「バイアステープ」すなわち「斜めに裁った細い布テープ」を意味するのであるとすれば,それが本件特許発明4の「動く手すり」のカバーのいずれの部分に該当し,どのようにして機能を発揮するのかについて何らかの説明があって然るべきであるが,本件明細書及び図面を精査するも,この点については何らの開示も示唆もなされていない。
したがって,本件特許発明4の「ばねまたはバイアス部分」の「バイアス」が「バイアステープ」と解されることを前提とする控訴人の上記主張も,採用することはできない。
3 争点(2)(本件特許発明5の構成要件の充足性)に関する主張について争点(2)に関する控訴人の主張は,争点(1)に関する主張と同様であるところ,争点(1)に関する控訴人の主張が採用できないことは上記2のとおりであるから,争点(2)に関する控訴人の主張も採用することはできない。
4 争点(3)(本件特許発明9の構成要件の充足性)に関する主張について(1) 構成要件9-Bにつき控訴人は,構成要件9-Bの技術的意義についての原判決の解釈は,本件明細書の図面のみに依拠したものであって不当であると主張する。しかし,構成要件4-Bについて上記2(1)に説示したのと同様に,原判決は,構成要件9-Bについても,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を踏まえて解釈を行っており(33頁〜34頁),その内容に特段の誤りも見当たらない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 構成要件9-Cにつきこの点に関する控訴人の主張は,「バイアス」が「バイアステープ」を意味するとの前提に立つものであるところ,当該主張を採用することができないことは,上記2(2)に述べたとおりである。
5 争点(4)(不正競争行為の成否)について(1) 控訴人は,控訴人文書の文言が本件特許権の侵害の「おそれ」を指摘しているにとどまるから,不正競争防止法2条1項14号にいう「虚偽の事実」の告知には当たらないと主張する。
証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成15年9月17日,代理人弁護士江口公一名義の内容証明郵便で,被控訴人の取引先であるビデオプロモーション社宛に,「 当社は,ボイジャー グローバル メディア リミテッドの日本における総代理店として,同社が保有する特許権(特許番号第2813608号)に基づく「エスカレーターハンドレールアドバタイジング」の独占的販売権を有しています。
貴社は,現在,EHC社の「EHAエスカレーターハンドレールアドバタイジング」の販売を行なっていますが,同商品は,「エスカレーターハンドレールアドバタイジング」と構造を同じくしており,上記特許権を侵害するおそれがあります。
つきましては,本書面到着後7日以内に,文書をもって,貴社商品が,上記特許権を侵害しないことを明らかにされるよう要求します。」旨の通知をしたことが認められるところ,原判決の説示のとおり,被控訴人製品は本件特許権を侵害するものではないのであるから,特許権を侵害する「おそれ」を指摘することも,不正競争防止法2条1項14号にいう「虚偽の事実」の告知に当たるといわざるを得ない。そして,特許権侵害の「おそれ」を指摘する警告文書であっても,これを受領した者が,特許権を侵害したとされる当事者ではなく,その取引先の第三者であるときは,当該商品等の取引を控える場合が多いことは公知の事実であることからして,「おそれ」という文言が付加されているか否かによって,「虚偽の事実」に該当するか否かが左右されるものではない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
(2) 控訴人は,原判決が,控訴人文書の送付行為は特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められない,と判断したのは誤りであると主張するが,以下のとおり採用できない。
ア 原判決が「当事者間に争いのない事実等」として認定したとおり,ビデオプロモーション社に対してボイジャー文書1(平成15年1月9日付け,甲5)が送付されたのを受けて,被控訴人は本件特許権の侵害を否定する被控訴人回答書1(平成15年1月15日付け,甲6。原判決のいう「原告回答書1」)をボイジャー社に送付した。そして,その約8か月後に,ボイジャー社及び控訴人は,それぞれボイジャー文書2(平成15年9月9日付け,甲7)及び控訴人文書(平成15年9月17日付け,甲9)をビデオプロモーション社に送付したものである。
このことに関し,控訴人は,控訴人文書とボイジャー文書2は送付の時期が近接しているが,このことは,控訴人文書の送付が,ボイジャーの一連の文書送付行為及びこれに対する被控訴人の回答内容を知りながら,競業者の信用毀損を目的としてなされたことまで推認させるものではない,と主張する。
イ まず,各文書の内容を検討するに,上記被控訴人回答書1(甲6)は英文であり,その中で,(a) claim 2 requires a pocket in one side of the handrail;「(b) claims 4 and 5 specify that the cover is a window portion secured along one edgeofthehandrailwithaspringorbiasedportion:(c) claim 6 specifies a cutout portion on the handrail, opposing edges of the cutoutportion forming a pair of lips defined in detail;(d) claim 7 specifies a handrail having a pocket in its upper portion, with a pluginserted in the pocket;(e) claim 8 specifies a handrail having a window hinged along one edge andremovably retained along a second edge by a spring or biased portion;(f) claim 9 specifies a handrail which can receive a window member having spring orbiased edges; and(g) claim 10 specifies a handrail having a bendable transparent cover, with a recessbetween the upper surface of the handrail and the upper surface of the cover tominimize scratching of the cover upper surface.As you know, the EHC handrail advertising contains nothing even remotely similar toany of these features.<注> 日本語訳は次のとおり(甲6の訳文)(a) クレーム2は,手すりの一側に1つのポケットを要求します。
(b) クレーム4及び5は,カバーが,手すりの一側にばねまたはバイアス部分を有する窓部分を有することを明記します。
(c) クレーム6は,カットアウト部分の対向した縁が,1対のリップ(詳細は省略)を形成することを明記します。
(d) クレーム7は,手すりの上の部分に1つのポケットが設けられており,プラグが1つのポケットの中に挿入されている手すりであることを明記します。
(e) クレーム8は,第1の縁に沿ってヒンジ結合され,ばね等のバイアス部分により第2の縁に沿って取り外し自在に保持された1つの窓部材が設けられている手すりであることを明記します。
(f) クレーム9は,手すりが,窓部材を受けるのに適しており,該窓部材が,ばねまたはバイアスされた縁を有する手すりであることを明記します。
(g) クレーム10は,曲げ自在の透明カバーを有し,手すりの上面とカバーの上面との間に,カバーの上面のかき傷を最小にするのに十分な凹部が設けられている手すりであることを明記します。
ご存知のように,EHCアドレイルは,これらの特徴のいずれについても全く類似しておりません。」と記載され,被控訴人製品は本件特許権を侵害しないという被控訴人の反論の根拠が本件特許発明1〜9の各構成要件ごとに詳細に説明されている。これに対し,ボイジャー文書2は,被控訴人製品が本件特許権に抵触しないことを確認する書面及び被控訴人製品に関する情報/サンプルの各提供を要求するものであるが,被控訴人回答書1に示された被控訴人の反論に対する実質的な再反論はなされておらず,被控訴人製品が本件特許権を侵害するという結論が述べられているにとどまる。また,被控訴人製品が本件特許発明1〜9のいずれに係る特許権を侵害するのかも特定されていない。
このように,ボイジャー社としては,ボイジャー文書2の送付に先立って,被控訴人回答書1の内容を踏まえて本件特許権の侵害の有無を検討する十分な時間的余裕があったにもかかわらず,ボイジャー文書2においては,そのような検討の結果としての再反論は示されておらず,単に,ボイジャー文書1において行ったのと同旨の要求を繰り返しているにすぎない。このようなボイジャー文書2の内容からみて,ボイジャー文書2の送付は,訴訟前の誠実な交渉等を通じて法的手続による解決を回避しようという趣旨のものとみることはできない。
ウ そして,ボイジャー社と控訴人との関係についてみると,ボイジャー文書2(甲8)には,控訴人が2003年(平成15年)7月16日付けでボイジャー社と日本における独占的代理店契約を締結したこと,被控訴人製品の構成等に関する情報は控訴人からボイジャー社に対してもたらされていること,が記載されている。このことからすれば,控訴人文書の送付に先立って,控訴人とボイジャー社との間には,被控訴人製品が本件特許権を侵害するか否かについての情報及び意見交換がなされていたことを優に推認することができる。そうすると,そのような意見交換の中で,控訴人としては,被控訴人回答書1の内容も現に了知していたものと推認できるし,仮にそうでないとしても,少なくとも,従前のボイジャー社と被控訴人との間の文書のやり取りの経緯についてボイジャー社から知り得る立場にあったことは明らかである。
しかるに,控訴人文書(甲9)も,前記内容のとおり,ボイジャー文書2と同様に,被控訴人回答書1に示された被控訴人の見解について何ら触れることなく,「上記特許権を侵害するおそれがあります」「貴社製品が,上記特許権を侵害しないことを明らかにされるよう要求します」と結論のみを述べているものである。このような控訴人文書の内容からしても,控訴人文書の送付は,ボイジャーと事前に協議した上で,被控訴人の信用を毀損し,被控訴人との競争上優位に立つことを目的として行われたものと解されるのであって,正当な権利行使とはいえないとの評価を受けてもやむを得ないものである。
したがって,控訴人の前記文書送付行為は,不正競争防止法上違法であると解さざるを得ない。
6 争点(5)(控訴人の故意又は過失)に関する主張について控訴人は,A弁理士から,被控訴人製品が本件特許発明技術的範囲に属する旨の平成15年9月17日付け「口頭鑑定書」(乙3)を受領しており,専門家の見解に基づいて控訴人文書を送付したものであるから,過失はないと主張する。
しかし,同鑑定書は,控訴人の故意又は過失の成否に関わる重要な証拠であるにもかかわらず,当審に至って初めて証拠として提出されたものであり,原審においてその提出を妨げる特段の状況があったともうかがわれないことに照らすと,控訴人文書の送付は同鑑定書に基づいてしたとする上記主張の信用性には疑問が残る。
また,仮に同鑑定書の見解に従って控訴人文書を送付したのだとしても,例えば,同鑑定書のうち構成要件4-D等の「バイアス」が「バイアステープ」を意味することを前提とする見解については,妥当性を著しく欠くことは前記2(2)のとおりであり,控訴人において同鑑定書を精査すれば,同見解が誤りであることを十分に認識し得たものである。さらに,控訴人としては,同鑑定書の見解に沿って,被控訴人製品が本件特許権を侵害するという主張をするのであれば,少なくとも,控訴人文書を受領したビデオプロモーション社が控訴人の主張の当否を判断できるように,同鑑定書の見解の要旨を明らかにした上で行うべきであったものである。
そうすると,控訴人文書の送付は同鑑定書に依拠したものであるから控訴人には過失がない,との控訴人の主張も,採用することはできない。
7 争点(7)(謝罪広告の要否)に関する主張について控訴人は,原判決が謝罪広告を命じたのは信用回復措置として過大なものであると主張する。しかし,控訴人の不正競争行為により被控訴人の信用が毀損されたことは事実であり,これによる損害は3000万円を下らないものである。
そうすると,原判決が文書送付行為等の差止め及び損害賠償に加えて,謝罪広告による信用の回復を命じたことは相当である。
8結語以上によれば,当審における控訴人の主張はいずれも採用することができず,原判決は相当である。なお,原判決主文第4項には誤記があるのでこれを前記のとおり更正する。
よって,本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
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