関連審決 |
審判1991-6720 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ23981補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ19307特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ9373職務発明対価金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ14399職務発明対価請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 考案者 / 職務発明 / 無償の通常実施権 / 相当の対価(相当な対価) / 協議 / 外国の特許 / 準拠法 / 確実性 / 有用性 / 方法の発明 / 製造方法 / 新規性 / 共同開発 / 共同発明 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 出願公開 / 特許の有効性 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 技術情報 / 択一的 / 補償金請求権 / 分割出願 / 対抗要件 / 警告 / 実施料相当額 / 時効 / クレーム / ライセンス / 登録実用新案 / 抵触 / 援用権(援用) / 存続期間 / 特許出願日 / 対象製品 / 出願経過 / 文言解釈 / 技術的意義 / 均等 / 均等論 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 交換 / 属地主義 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 算定方法 / 実施料 / 共同発明者 / 同意 / 実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / クロスライセンス / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / 合理的な理由 / 異議申立 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
29850号
職務発明等に対する相当対価等請求事件
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原告甲@ 訴訟代理人弁護士 宮國英男 同田島啓己 被告 三菱電機株式会社 訴訟代理人弁護士 大野聖二 同市橋智峰 補佐人弁理士 加藤恒 同山田勇毅 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/06/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
被告は,原告に対し,金2億円及びこれに対する平成15年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,被告の元従業員である原告が,被告在職中にした半導体不揮発性記憶装置等に関する特許発明5件及び考案1件について,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下,同条について「特許法」という場合,特に断らない限り,平成16年法律第79号による改正前の特許法をいう )。 及び実用新案法11条3項に基づき,職務発明及び職務考案の相当対価の一部請求として2億円及び遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定され。,。 ) る事実 証拠により認定した事実については該当箇所末尾に証拠を掲げた()当事者1,,, ア 原告は 昭和50年4月に被告に入社し 同年から平成13年5月まで被告の従業者の地位にあり,半導体メモリ製品の設計開発,事業化等の業務に従事していたものである。 イ 被告は,各種電気機械器具,電子応用機械器具,半導体素子集積回路その他一般機械器具及び部品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。 ( ) 原告がした職務発明等 2原告は 被告の従業者であった間に 以下の各特許発明及び考案をした 一 ,, (部については,ほかに共同発明者がいる 。。)被告は,以下の各特許発明等について,職務発明及び職務考案であるとして,社内規程により原告から特許及び実用新案登録を受ける権利を承継し,それぞれ原告を発明者又は共同発明者,被告を出願人として,次のとおり,特許出願及び実用新案登録出願をし,特許及び登録実用新案を得た(以下,これらの特許権等を総称して 「本件各特許権等」といい,その発明等を総 ,称して「本件各特許発明等」という 。。),(,。(, 。) ア 本件第1 第2特許 乙2 3 以下 原則として枝番は省略する) 特許第1878212号(以下 「本件第1特許」といい,その発明 a ,を「本件第1特許発明」という )。 @ 出願年月日 昭和57年1月12日A 出願番号 57-003584B 出願公告年月日 平成4年12月18日C 登録年月日 平成6年10月7日D 存続期間満了日 平成14年1月12日E 発明者 原告F 発明の名称 半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法G 特許請求の範囲 半導体基板の主面部に互いに所定間隔をおいて形成されたドレイン不純物拡散層及びソース不純物拡散層と,上記半導体基板と上記ドレイン不純物拡散層と上記ソース不純物拡散層の各表面上にわたって形成された第1絶縁膜と,この第1絶縁膜上に配設されたフローティングゲート導電体層と,このフローティングゲート導電体層上に第2絶縁膜を介して対向配設された制御ゲート導電体層とを有した不揮発性メモリセルの書き込み及び消去方法において,上記フローティングゲート導電体層は上記ドレイン不純物拡散層の上方から上記ドレイン不純物拡散層及び上記ソース不純物拡散層間の上記半導体基板の上方を通って上記ソース不純物拡散層の上方に達して設けられ,上記第1絶縁膜における上記フローティングゲート導電体層直下の厚さは10〜300Åの範囲内で同一厚さとし,上記制御ゲート導電体層に正の電位を印加するとともに上記ドレイン不純物拡散層及び上記ソース不純物拡散層の一方の不純物拡散層に上記制御ゲート導電体層に印加する正の電位より低い電位を印加し,かつ,他方の不純物拡散層の電位を上記制御ゲート導電体層に印加される正の電位との間で上記他方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜に電子の移動が生じない電界となす電位として,上記他方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層への電子の注入がなく,上記一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を通り抜けさせて上記フローティングゲート導電体層に電子を蓄積させ,上記制御ゲート導電体層に接地電位を印加するとともに上記ドレイン不純物拡散層及び上記ソース不純物拡散層の上記他方の不純物拡散層に正の電位を印加し,かつ,上記一方の不純物拡散層の電位を上記制御ゲート導電体層に印加される接地電位との間で上記一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜に電子の移動が生じない電界となす電位として,上記一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子の引き抜きがなく,上記他方の不純物拡散層と上記フローティングゲート導電体層との間に介在する上記第1絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子を上記他方の不純物拡散層に引き抜くことを特徴とする半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法。 ) 特許第2047583号(以下 「本件第2特許」といい,その発明 b ,を「本件第2特許発明」という。また,本件第1特許及び同第2特許を総称して 本件第1 第2特許 といい その特許発明を総称して 本 ,「,」, 「件第1,第2特許発明」という )。 @ 出願年月日 昭和57年1月12日A 出願番号 05-238011B 出願公告年月日 平成7年9月6日C 登録年月日 平成8年4月25日D 存続期間満了日 平成14年1月12日E 発明者 原告F 発明の名称 半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法G 特許請求の範囲 半導体基板の主面部に互いに所定間隔をおいて形成されたドレイン不純物拡散層及びソース不純物拡散層と,上記半導体基板と上記ドレイン不純物拡散層と上記ソース不純物拡散層の各表面上にわたって形成された第1絶縁膜と,この第1絶縁膜上に配設されたフローティングゲート導電体層と,このフローティングゲート導電体層上に第2絶縁膜を介して対向配設された制御ゲート導電体層とを有し,上記フローティングゲート導電体層は上記ドレイン不純物拡散層の上方から上記ドレイン不純物拡散層及び上記ソース不純物拡散層間の上記半導体基板の上方を通って上記ソース不純物拡散層の上方に達して設けられ,上記第1絶縁膜における上記フローティングゲート導電体層直下の厚さは10〜300Åの範囲内で同一厚さとされた不揮発性メモリセルの書き込み及び消去方法において,上記制御ゲート導電体層に正の電位を印加するとともに上記ソース不純物拡散層及び半導体基板それぞれに上記制御ゲート導電体層に印加する正の電位より低い電位を印加し,かつ,上記ドレイン不純物拡散層の電位を上記制御ゲート導電体層に印加される正の電位との間で上記ドレイン不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して電子の移動が生じない電界となす電位として,上記ドレイン不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層への電子の注入がなく,上記ソース不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電体層に電子を蓄積させ,上記ドレイン不純物拡散層に正の電位を印加するとともに,上記制御ゲート導電体層に上記ドレイン不純物拡散層に印加する正の電位より低い電位を印加し,かつ,上記ソース不純物拡散層の電位を上記制御ゲート導電体層に印加される電位との間で上記ソース不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して電子の移動が生じない電界となす電位として,上記ソース不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子の引き抜きがなく,上記ドレイン不純物拡散層と上記フローティングゲート導電体層との間に介在する上記第1絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子を上記ドレイン不純物拡散層に引き抜くことを特徴とする半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法。 イ 本件第3,第4特許(乙4,5)) 特許第1956127号(以下 「本件第3特許」といい,その発明 a ,を「本件第3特許発明」という )。 @ 出願年月日 昭和60年2月22日A 出願番号 60-034888B 出願公告年月日 平成4年10月1日C 登録年月日 平成7年7月28日D 存続期間満了日 平成17年2月22日E 発明者 原告ほか2名F 発明の名称 樹脂封止型半導体集積回路装置G 特許請求の範囲 半導体基板に対して形成された回路素子を覆う絶縁膜と,該絶縁膜上に形成された上記回路素子或いは電源電圧の信号を伝搬する金属配線とを有し,上記半導体基板,絶縁膜及び絶縁膜上の金属配線を樹脂で封止してなる樹脂封止型半導体集積回路装置において,上記金属配線は,上記絶縁膜の所定箇所にこの金属配線に沿って複数設けられた開孔を埋め込む複数の釘状金属柱を有し,該釘状金属柱をもって上記絶縁膜下部または内部に設けられた導体層に接合固定され,この導体層は上記釘状金属柱を介して上記金属配線のみに電気的に接続されていることを特徴とする樹脂封止型半導体集積回路装置。 ) 特許第1973820号(以下 「本件第4特許」といい,その発明 b ,を「本件第4特許発明」という。また,本件第3特許及び同第4特許を総称して 本件第3 第4特許 といい その特許発明を総称して 本 ,「,」, 「件第3,第4特許発明」という )。 @ 出願年月日 昭和60年9月20日A 出願番号 60-209505B 出願公告年月日 平成6年11月14日C 登録年月日 平成7年9月27日D 存続期間満了日 平成17年9月20日E 発明者 原告ほか1名F 発明の名称 半導体集積回路装置G 特許請求の範囲 ゲート電極を有するトランジスタが形成される半導体基板上に,フィールド酸化膜,リンシリケート酸化膜,金属配線,及びパッシベーション膜を順次積層した半導体装置において,上記フィールド酸化膜の平坦な表面上であって,金属配線を形成すべき領域の間の下方に,上記トランジスタのゲート電極と同一層にある導電体層を埋設し,上記導電体層によりリンシリケート酸化膜に生じた凹凸の段差における凹部に金属配線を配設したことを特徴とする半導体集積回路装置。 ) 米国特許第4729063号(本件第3特許の対応米国特許である。 c以下 「本件第3対応米国特許」という。甲55 。 ,)@ 特許日 平成元年5月1日A 発明の名称 プラスチック樹脂封止の半導体集積回路装置におけるネイルセクション(くい打ち)B 発明者 原告ほか2名C 概要 プラスチック樹脂封止の半導体集積回路装置において,半導体基板に回路素子が作られ,半導体基板上で提供される内部回路の電源電圧あるいは信号を送信するための金属配線とそれらの配線下にある絶縁フイルムに設けられた開口箇所中に金属配線と共に全体に提供されるネイルセクション(くい打ち)を有して,そのネイルセクション(くい打ち)は,他の回路素子あるいは他の金属配線とも電気的に接続関係がないということ。 D 特許請求の範囲【請求項1】プラスチック樹脂封止の半導体集積回路装置において,半導体基板に回路素子が作られ,半導体基板上で提供される内部回路の電源電圧あるいは信号を送信するための金属配線とそれらの配線下にある絶縁フィルムの部分で直接形成された口径に金属配線と共に提供されるネイルセクション(くい打ち)を有して,そのネイルセクション(くい打ち)は,他の回路素子あるいは他の金属配線のどれからも電気的に独立していること。 【請求項2】プラスチック樹脂封止の半導体集積回路装置において,半導体基板上で提供される内部回路の電源電圧あるいは信号を送信するための金属配線とその金属配線の電圧を受けることができる半導体基板内の不純物拡散層とそれら金属配線下にある絶縁フィルムを有して,前記金属配線は,直接半導体基板にショートされることなく,電気的に金属配線を接続するために前もって定義した間隔で絶縁フィルムを貫通して,半導体基板内の不純物拡散層に接続されること。 【請求項3】プラスチック樹脂封止の半導体集積回路装置において,半導体基板上で提供される内部回路の電源電圧あるいは信号を送信するための金属配線とその金属配線の電圧を受けることができる導電体層とそれら金属配線下にある絶縁フィルムを有して,前記金属配線は,直接半導体基板にショートされることなく,電気的に金属配線を接続するために前もって定義した間隔で絶縁フィルムを貫通して,導電体層に接続されること。 ウ 本件第5,第6特許等(乙6,7)) 特許第2518316号(以下 「本件第5特許」といい,その発明 a ,を 「本件第5特許発明」という ) ,。 @ 出願年月日 昭和62年11月4日A 出願番号 62-278516B 登録年月日 平成8年5月17日C 発明者 原告D 発明の名称 不揮発性半導体記憶装置E 特許請求の範囲 【請求項1】複数のメモリ・トランジスタ群と,該メモリ・トランジスタ群のトランジスタに書き込まれたデータを読み出すため,上記メモリ・トランジスタ群毎に設けられた,ワード線選択用トランスフアゲート・トランジスタ群,ビツト線選択用セレクト・トランジスタ群及び信号を入力する周辺回路と,上記トランジスタから読み出されたデータを出力する周辺回路とを備えた不揮発性半導体記憶装置において,上記メモリ・トランジスタ群毎に設けられ,第1のアドレス入力信号を受けて上記ワード線選択用トランスフアゲート・トランジスタ群のゲート選択信号を出力するトランスフアゲート選択用デコーダ回路と,第2のアドレス入力信号を受けて上記ビツト線選択用セレクト・トランジスタ群のゲート選択信号を出力するアドレスバツフア回路と,該アドレスバツフア回路の出力信号を伝達するコモン・アドレス線と,上記メモリ・トランジスタ群毎に設けられ,上記コモン・アドレス線を介して伝達されてきた信号を,上記トランスフアゲート選択用デコーダ回路からの信号を受けたとき,上記ビツト選択用セレクト・トランジスタ群のゲートへ転送するセレクト・ゲート選択用デコーダ回路とを備えていることを特徴とする不揮発性半導体記憶装置。 【請求項2】上記アドレスバツフア回路は,すべての上記メモリ・トランジスタ群に対して一つ設けられていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の不揮発性半導体記憶装置。 【請求項3】上記トランスフアゲート選択用デコーダ回路は,Nチヤンネル・デイプリーシヨン型電界効果トランジスタから成る負荷トランジスタと,Nチヤンネル・エンハンスメント型電界効果トランジスタから成る駆動トランジスタとを直列に構成したものであることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載の不揮発性半導体記憶装置。 【請求項4】上記セレクトゲート選択用デコーダ回路は,上記トランスフアゲート選択用デコーダ回路の出力信号を共通のゲート入力とし,Pチヤンネル型電界効果トランジスタのソースに上記コモン・アドレス線から各一方の信号を入力する二つのCMOSインバータと,該CMOSインバータの各出力側と接地レベル間に設けられ,そのゲートへの入力が相互の上記CMOSインバータの出力側からなされるNチヤンネル・エンハンスメント型電界効果トランジスタとから成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載の不揮発性半導体記憶装置。 【請求項5】上記メモリ・トランジスタ群,ワード線選択用トランスフアゲート・トランジスタ群,ビツト線選択用セレクト・トランジスタ群及びトランスフアゲート選択用デコーダ回路の少なくともいずれか一つのNチヤンネル・エンハンスメント型電界効果トランジスタのしきい値電圧が,上記周辺回路で用いられているNチヤンネル・エンハンスメント型電界効果トランジスタのものよりも低い値を有することを特徴とする特許請求の範囲第2項乃至第4項のいずれかに記載の不揮発性半導体記憶装置。 (,「」, b) 実用新案登録2106103号 以下本件第6実用新案 といいその考案を「本件第6考案」という。また,本件第5特許及び同第6実用新案を総称して「本件第5,第6特許等」といい,その特許発明等を総称して「本件第5,第6特許発明等」という )。 @ 出願年月日 昭和63年4月7日A 出願番号 63-047481B 出願公告年月日 平成7年6月28日C 登録年月日 平成8年2月21日D 存続期間満了日 平成15年4月7日E 考案者 原告F 考案の名称 半導体集積回路装置G 実用新案登録請求の範囲 第1の情報を記憶するためのNチヤネル型エンハンスメントトランジスタからなるメモリトランジスタと,第2の情報を記憶するためのNチャネル型ディプレッショントランジスタからなるメモリトランジスタとを複数有するメモリ部,電源電位ノードとデコード出力ノードとの間に接続され,上記メモリ部のメモリトランジスタを構成するNチャネル型ディプレツショントランジスタと同じディプレツション型イオン注入がされたNチャネル型ディプレッショントランジスタからなるロードトランジスタと,上記デコード出力ノードと接地電位ノードとの間に直列接続され,それぞれがゲート電極に対応したアドレス入力信号を受けるNチャネル型エンハンスメントトランジスタからなる複数のドライバトランジスタとを有し,上記メモリ部の複数のメモリトランジスタから所定のメモリトランジスタを選択するためのデコード出力信号を上記デコード出力ノードに出力するデコーダ回路を備えた半導体集積回路装置。 ( ) 被告社内規程に基づく補償金の給付 3ア 被告においては,従業員の行った発明・考案等の特許出願等の取扱い及び従業員に対する表彰・報酬支払などに関して,昭和55年ころから「発明に対する補償規程 「譲渡補償細則」及び「実績補償細則」が設けら 」,れていた(乙14,63,78。以下,本件各特許権等に適用される各種規程等を総称して 「本件規程等」という 。本件規程等は,その後,数 ,。)回にわたって改定されているが,従業員が職務発明等を行った場合は,承継に伴い,従業員には譲渡補償として所定の金額が支払われるものとされている。そして,被告の承継した職務発明等につき特許等登録がされ,当該特許発明等が被告において実施された結果として被告が相当の利益を得たと認められるときには,特許権が消滅するまでの期間について,各年度(各年4月1日から翌年3月31日まで)ごとに評価(被告の特許発明の実施については,実施高に基づく評価点及び特許請求の範囲の広さ等に応。)「 」 じて定められる権利の評価点に応じて算出される に応じて 実績補償として所定の金額が支払われるものとされている(登録後の最初の支給については,実績のあった時点から支給当該年の3月31日までの実績につ。, , いて調査を行うものとされている 以下 特許発明の実施に対する補償を「社内実績補償」という 。また,他社からの実施料収入額を得るか, 。)あるいは被告の支払額が軽減された場合には,ライセンス料収入に基づいて換算表を用いるなどにより支給金額を算出し,権利及び発明者の貢献度に応じて配分するものとされている(いわゆるクロスライセンス契約にお,, 。 いて 一定の要件を充足する場合には金額について補正することもある以下,他社とのライセンス契約に基づく補償を 「他社実績補償」という ,ことがある 。。)イ 原告は,本件特許発明等に関して,本件規程等に基づいて,被告から少()() 。 なくとも次の補償金の支払 合計480万5490円 を受けた 乙25) 本件第1特許発明 総計 211万4500円 a@ 出願補償 1500円A 登録補償 3000円B 社内実績補償 合計200万円(等級2〜5)C 他社実績補償 11万円) 本件第2特許発明 総計 145万4500円 b@ 出願補償 4500円A 社内実績補償 合計145万円(等級1,4,5)) 本件第3特許発明(発明者3名) 総計 67万6740円 c@ 出願補償 500円A 登録補償 1000円B 社内実績補償 合計54万9980円(等級1,5)C 他社実績補償 合計12万5260円,() ただし 本件第3対応米国特許についてのライセンス契約 3社分に関する補償である。 ) 本件第4特許発明(発明者2名) 総計5万2250円 d@ 出願補償 750円A 登録補償 1500円B 社内実績補償 5万円(等級6)) 本件第5特許発明 総計30万4500円 e@ 出願補償 1500円A 登録補償 3000円B 社内実績補償 30万円(等級3)) 本件第6考案 総計20万3000円 f@ 出願補償 1000円A 登録補償 2000円B 社内実績補償 20万円(等級3)( ) 被告と他社とのライセンス契約について 4被告は,本件第1特許及び本件第3対応米国特許について,4社との間で以下のとおりのクロスライセンス契約ないしライセンス契約を,6社との間で包括クロスライセンス契約をそれぞれ締結した(******************** 。)ア ライセンス契約について) A社との契約(以下「A社クロスライセンス契約」という ) a 。 @ 対象特許 15件A 対象となった特許権 本件第3対応米国特許B 実施料収入 マイナス2450万米ドルC 他社実績補償の基礎とした金額 525万米ドルD 他社実績補償金額 総額200万円E 原告受領額 3万3330円(平成13年度)) B社との契約(以下「B社ライセンス契約」という ) b 。 @ 対象特許 24件A 対象となった特許権 本件第3対応米国特許B 実施料収入 600万米ドルC 他社実績補償の基礎とした金額 600万米ドルD 他社実績補償金額 総額400万円E 原告受領額 7万7330円(平成14年度)) C社との契約(以下「C社クロスライセンス契約」という ) c 。 @ 対象特許 42件A 対象となった特許権 本件第3対応米国特許B 実施料収入 3300万米ドルC 他社実績補償の基礎とした金額3300万米ドル及び1700万米ドル(C社の保有する特許と被告の特許との相殺分を考慮)D 他社実績補償金額 総額1000万円E 原告受領額 1万4600円(平成10年度)) D社との契約(以下「D社ライセンス契約」という ) d 。 @ 対象特許 12件A 対象となった特許権 本件第1特許B 実施料収入 1億5000万円C 他社実績補償の基礎とした金額 1億5000万円D 他社実績補償金額 総額260万円E 原告受領額 11万円(平成11年度)イ 包括クロスライセンス契約について(乙57)被告は,富士通株式会社(以下「富士通」という ,株式会社東芝(以。)下「東芝」という ,Intel Corporation(以下「イ 。)ンテル」という ,株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という , 。)。 )SAMSUNG ELECTRONICS CO ,Ltd (以下「三 ..星電子」という ,ST Microelectronics,Inc. 。)(以下「ST社」という )との間で,包括クロスライセンス契約をそれ 。 ぞれ締結している(以下,これらの各契約を総称して 「本件各包括クロ,スライセンス契約」といい,個別の契約については 「富士通契約」のよ,うにいう。また,各契約の相手方を総称して 「相手方他社」という 。 ,。)本件各特許権等は,いずれも本件各包括クロスライセンス契約の対象となっていた。 2争点,() ( ) 本件第1 第2特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価 争点1 1ア 相当の対価の算定方式(争点1-1)イ 特許発明の実施により得た利益の額(争点1-2)ウ 包括ライセンス契約により得た利益の額(争点1-3)エ 包括クロスライセンス契約により得た利益の額(争点1-4)オ 相当の対価の額(争点1-5),() ( ) 本件第3 第4特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価 争点2 2ア 本件第3対応米国特許の相当の対価請求は時期に後れた攻撃防御方法の提出に当たるか(争点2-1)イ 外国において特許を受ける権利の承継についての準拠法及び特許法35条の適用の有無(争点2-2)ウ 特許発明の実施により得た利益の額(争点2-3)エ 包括クロスライセンス契約ないし包括ライセンス契約により得た利益の額(争点2-4)オ 相当の対価の額(争点2-5)( ) 本件第5,第6特許発明等の特許を受ける権利の承継の相当の対価(争点 33)ア 特許発明の実施により得た利益の額(争点3-1)イ 相当の対価の額(争点3-2)( ) 消滅時効の成否(争点4) 4 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件第1,第2特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価)について( ) 争点1-1(相当対価の算定方式)について 1(原告の主張)ア総論被告は,本件第1,第2特許発明の実施品を製造販売すると共に,他社,。, に対して実施許諾することにより多額の実施料収入を得ている 被告は本件各特許発明の実施に関しては,被告に独占の利益が存在せず,相当の対価請求の対象とはならない旨主張する。しかし,被告は,特許発明のライセンス契約に限らず,特許発明の実施についても独占的利益を得ているものであり,発明者である原告は,特許発明のライセンス契約のみならず特許発明の実施についても相当の対価の請求権を有しているというべきである。 イ 特許発明の実施及び特許発明の実施許諾に基づく請求の関係について) 特許法35条4項が規定する「発明により使用者等が受けるべき利益 aの額」については,使用者が職務発明について無償の通常実施権を取得すること(特許法35条1項)から,当該発明を実施して得られる利益ではなく,特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益と解される。この「独占的な利益」は 「特許を,出願して登録を受けたり,ノウハウとして秘匿することにより法律上又は事実上取得する,発明の実施を排他的に独占し得る地位による利益」を意味するというべきである。そして,発明の実施を排他的に独占し得る地位とは,特許権者が,第三者に対し,当該特許発明を第三者に実施させないという地位であり,第三者から実施料を得ることにより第三者に実施許諾できる地位である。このうち,前者が特許発明の実施の場合であり,後者が特許発明のライセンス契約の場合である。 特許発明の実施許諾の場合において,第三者との間にライセンス契約を締結して実施料収入を得たりすることは,使用者が法律上取得する発明の実施を排他的に独占し得る地位と解される。特許発明の実施の場合には,第三者に対して特許権侵害訴訟等の提起により差止め請求をすることや,特許権者が特許権を有していることにより,いつにても第三者に差止め請求ができる地位にあることから生じる効果として,第三者が事実上実施をしない,ないしはできない状態をもたらすものであり,これは,使用者が,事実上,発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得するものと解されるのであるから,特許発明の実施の場合にはこの法律上の地位と事実上の地位の双方について,発明の実施を排他的に独占し得る権利を含むものである。 ) 特許発明の実施許諾においては,特許権者が第三者から得る実施料収 b入ないし実施料収入相当額は,端的に特許権者である使用者が得た排他的地位から得られる利益であるから,そのまま「使用者等が受けるべき利益の額 (35条4項)になる。特許発明の実施においては,使用者 」は,第三者に対して当該発明を実施させない場合,すなわち実施許諾をしていない場合には,法律上又は事実上の排他的地位に基づく独占的利益を得ており,使用者の売上げのうち一部がこの独占的利益に基づくものであり,これが「使用者等が受けるべき利益の額」になる。 ) 使用者が特許発明の実施許諾及び特許発明の実施の双方を行っている c場合には,発明者は特許発明の実施許諾分及び特許発明の実施分の双方について相当の対価の請求権を有するものである。そもそも,特許発明の実施分と特許発明の実施許諾分の相当対価請求は択一的ではない。特許発明の実施許諾であっても,特許発明の実施であっても,特許権者である使用者が排他的地位に基づく独占的利益を得ていれば,特許発明の実施許諾分及び特許発明の実施分の双方について相当の対価の請求をなし得るものである。使用者は通常実施権を有しているから,独占的利益は通常実施権以上の超過利益を意味するが,特許発明の実施許諾をしているからといって,特許発明の実施についての売上げによる独占的利益がないということはできない。特許発明の実施許諾・特許発明の実施の双方をしている場合,すなわち競合他社の一部には実施許諾し,同時に特許発明の実施もしている場合であっても,使用者は,特許発明の実施許諾により実施料収入を得る一方で,それ以外の第三者に対しては実施をさせないという排他的地位を有しているのである。このことは,使用者が特許発明の実施をするとともに,1社のみに実施許諾をした場合を想定すると,誰にも許諾していないときは特許発明の実施の売上げの一部が排他的地位に基づく独占的利益であるといえるのに,1社のみに実施許諾をしたとたんに特許発明の実施についての売上げが排他的地位に基づくものではなくなるわけではないことから考えても明らかである。 もっとも,一部に実施許諾しながらそれ以外の第三者に実施をさせて,, いない場合には 特許発明の実施分についての独占的利益の割合の算定すなわち,特許発明の実施分のうちどこまでが通常実施権に基づくもので,どこからが独占的利益かをどのように算定するかが問題となる。しかし,算定が困難であっても,使用者が独占的利益を得ている以上,相当の対価請求が否定されるものではない。 ) 被告は,保有する知的財産権について全面有償開放方針を採用し,第 d三者に対する実施許諾を拒んでいないのであるから,特許発明の実施については独占的利益を得ていないと主張する。 しかし,特許力の弱い企業は,数件の有効特許があったとしても,総合的に特許力が強い企業に対しては,相手側からあらゆる分野の有効特許を持ち出されることをおそれて,権利行使を避ける傾向にある。被告は,半導体については特許力が弱く,競業他社であるインテル,Texas Insturuments,Inc ,Advanced Mi .cro Devices,Inc (以下「AMD」という ,Int .。 )ernational Business Machines Corporation,日立製作所,東芝,富士通,日本電気株式会社(以下「NEC」という )などは特許の総合力が強い企業である。したが 。 って,被告は,これらの企業とむやみに特許紛争を生じさせることにより,様々な分野において逆に権利行使される危険性がある。被告は,総合電機メーカーであるから,他の事業部門においても大きな打撃を受ける可能性もあるため,他社に対するクレームは基本的にできない。この,,, , ような場合 有効特許の誇示 宣伝は 他社からの特許攻撃をけん制し抑止する効果が多大にある。本件第1特許のように,新聞発表(甲2)までした極めてまれなケースでは,その効果は絶大なものである。このような場合,特許権者が特許権侵害訴訟等をいつでも提起できる地位にあることにより,第三者に対して事実上特許発明を実施させていないという事実上の排他的地位を有しているものということができる。もちろん,他社に実施許諾をしていたとしても,実施許諾契約や包括クロスライセンス契約を締結しない第三者に対しては,当該特許発明を実施させないという事実上の排他的地位に基づく効果を有するものである。単に通常実施権を有しているのみではかかる排他的な効果は得られないので,,, , あるから この場合 使用者は 通常実施権に基づく利益を超える利益すなわち相当対価の算定の基礎となる独占的利益を得ているものというべきである。 ウ 日本の企業間,特に大企業では,現実に実施許諾契約を締結して実施料を支払ったり,特許権侵害訴訟を提起することはまれであり,複数の有効特許を持ち合って協議をした上で,対価のやり取りをしない包括クロスライセンス契約を締結することが多い。その場合,本件各特許権等のような有効特許,基本特許は,交渉相手の有効特許の使用許諾を得たり,差額の算定において有効な交渉材料となるなど,自社への貢献度は多大なものとなる。したがって,包括クロスライセンス契約により,使用者は他社への実施料の支払いを免れたり,差額の減額を受けるなどの利益を得るのであるから 「相手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施することがで ,きること,すなわち,相手方に本来支払うべきであった実施料の支払義務を免れること」を使用者が受けるべき利益と評価して,相当の対価を算定すべきである。 (被告の主張)ア 本件各特許権等に関しては,特許発明の実施分には独占の利益が存在せず,相当対価の請求の対象とはならない。被告は,その保有するすべての特許権及び実用新案権について,公告・登録以前から,全面有償開放方針を採用していた(乙1)から,本件各特許権等に関しては,他社から実施,,, 許諾の申入れがあれば 積極的にこれに応じたはずであり 他社に対して,, 本件各特許権等の使用を禁じた事実は一切存在しておらず かかる方針は広く競業他社に知れ渡っていた。したがって,本件各特許権等により,被告には,独占の利益は一切生じていない。 イ 特許発明の実施分を基礎として職務発明の相当対価を算定する場合には,その前提として,特許発明の実施分について独占の利益が存することが必要である。本件第1,第2特許により,被告が競合他社に対して優位な立場を獲得し超過利益を得たという事実自体はない。加えて,被告は国内外の主要半導体メーカーの多くと,本件各包括クロスライセンス契約を締結しており,本件第1,第2特許もその契約対象として含まれているものであるから,被告の自己実施分について,独占の利益が生じることはない。 一般に,半導体製品の製造に関しては,多岐にわたる範囲で,多数の技術ないし特許が関連する。そこで,半導体メーカー間では,自らの事業を安定的に営むために,それぞれが保有する半導体関連特許を包括的に相互に実施許諾し合う包括クロスライセンス契約を締結することが一般的である。実際,被告は,主要半導体メーカーの多くと半導体製品について本件各包括クロスライセンス契約を締結し,本件第1,第2特許も他の膨大な数の特許と共に,包括クロスライセンス契約の対象に含まれている。本件各包括クロスライセンス契約の相手方他社が国内フラッシュメモリ市場において占めるシェアは大きく,被告の特許発明の実施において独占の利益は生じ得ない。 例えば,日本においてフラッシュメモリの市場規模が拡大し,初めて1000億円規模となった平成11年では,フラッシュメモリのシェアの上位15社中,被告との間で包括クロスライセンス契約を締結していた会社は,6社である(そして,そのうち5社は,上位10社に属する 。被。)告も含めた国内シェアは,77.2%にのぼる。また,平成14年においては,上位15社中,被告との間で包括クロスライセンス契約を締結していた会社は,6社である(そして,それら6社すべてが,上位10社に属する。乙36 。被告も含めた国内シェアは,92%にものぼる。このよ )うに,相手方他社の市場シェア総計が極めて大きいことは明らかである。 したがって,本件第1,第2特許は,市場シェアの大部分を占める他社に広くライセンスされており,被告による特許発明の実施については,特許法35条1項に基づき被告が得ている法定通常実施権を超えた独占の利益は生じていない。 ( ) 争点1-2(特許発明の実施により得た利益の額)について 2(原告の主張)ア 本件第1特許発明の技術上の意義について) 本件第1特許は,いわゆるフラッシュメモリという記憶装置に適用さ aれる基本特許である。フラッシュメモリは,一つのトランジスタで電気的に情報の書き込み及び消去ができ,電源を切断しても,記憶情報を失わないという画期的な不揮発性半導体メモリである。フラッシュメモリは,携帯電話,各種家電製品(フラッシュメモリ内蔵マイコン ,各種)産業用製造機器におけるプログラムメモリ,各種フラッシュメモリカード等の記憶媒体等に幅広く使用されている。本件第1特許発明は,データの再書き込みと電気的に一括消去が行えるフラッシュメモリを実現するメモリ構造と基本動作に関する特許発明である。被告のみならず,各社が製造,販売するほとんどすべてのフラッシュメモリ単品及びフラッシュメモリ内蔵マイコンが,同特許発明により開示された基本構造と動作を充足する。 ) 本件第1特許発明は,半導体記憶装置において,ソース拡散層及びド bレイン拡散層が形成された半導体基板上に,第1の絶縁膜を介してこの二つの拡散層上方にわたってフローティングゲートを形成し,かつその上方に第2の絶縁膜を介してフローティングゲートとほぼ同一幅の制御ゲートを形成し,かつフローティングゲートへの電荷の書き込みをソース側又はドレイン側のいずれか一方から行い,電荷の読み出しをその他方から行うようにしたものであり,これにより,上記ドレイン側トンネル絶縁膜及び上記ソース側トンネル絶縁膜中にそれぞれ残留するキャリア数が書換え回数に比例して増加する割合が,従来例の場合における残留キャリア数の増加割合に比べて2分の1になることから,書換え可能回数が従来に比べて2倍になり,メモリセルの寿命を長くすることができるのみならず,トンネル現象による上記両トンネル絶縁膜中のキャリアの移動方向が一方向になるので,従来と比べて,上記両トンネル絶縁膜の劣化を制御することが可能となり,メモリセルの信頼性を向上させるという大きな作用効果を奏するものである。 ) 被告は,本件第1特許はフラッシュメモリの基本特許ではないと主張 cする。しかし,被告は,本件第1特許の登録時において,国内半導体関連では極めて珍しい新聞発表(日本経済新聞,日経産業新聞,日刊工業新聞,電波新聞,日本工業新聞,電気新聞)を行った(甲2 。例え 。)ば,日経産業新聞においては 「三菱電機は……,フラッシュメモリー ,……の基本特許を日本で取得したと発表した。……同社によると,メモリーの基板になるシリコンを覆う酸化膜を保護するため,情報の消去や書き込み動作に当たる電子の引き抜き・注入を別々の電極でできるようにした点に関して特許を取得したという。フラッシュメモリーは,構成単位となるセル構造により,インテルのNOR型,東芝のNAND型,日立製作所のAND型,三菱のDINOR型がある。今回,三菱の取得したとされる基本特許は,これらのセル構造にかかわりなく,フラッシュメモリーの基本原理に関するものと同社では説明している 」と,日。 本工業新聞では「ごく一部の製品を除き,ほとんどのフラッシュメモリーが同特許の技術を利用していると見られる」と,電波新聞において 。 も 「今回,同社が取得した特許は,フラッシュメモリーを実現するた ,めのメモリセル構造とその基本動作に関するもので,ワントランジスターのフラッシュメモリーセルを可能とする技術 」と,それぞれ報道さ 。 。, , れている さらに 平成6年12月12日付け日経産業新聞においては被告の知的財産渉外部長が 「現在あるフラッシュメモリーの製造方法 ,の大半をカバーする基本特許だけに反響は大きかった 「情報の消去」,や書き込みに当たる電子の出し入れを別々の電極でするという構造だ 「十一年前の八三年に申請を出した 「当時はフラッシュメモリ 。」,」 ,ーという言葉すらなかったので,今考えても先駆的な発明と自負している 「今回の特許成立で,相当の特許収入が見込まれるのは間違いな 」,いだろう」などと,インタビューに対して答えている。このように,被,。 告は 本件第1特許が基本特許であることを自ら発表しているのであるさらに,原告は,本件第1特許について,平成7年2月1日,被告において,半導体部門では初めて知的財産本部長表彰(題目:フラッシュメモリの基本特許の取得)を受けている(甲4 。同表彰は 「半導体 ),メモリ製品の中で今後の市場成長が最も期待される分野の一つである『フラッシュメモリ』の基本特許を獲得した」ことに基づいてされた 。 ものであり,特許の概要としては 「当社の獲得した特許は,メモリト ,ランジスタ構造を含んだフラッシュメモリの基本原理を開示したものであり,電気的にデータの再書き込み及び消去が行えるフラッシュメモリの基本動作に関するもの」であるとして,本件第1特許が基本特許発明であることを認め,特許の有効性として「現在,販売もしくは製造されている各社のフラッシュメモリのほとんどが,当社の特許で開示された基本原理に関係するものと思われます」とされていた。 以上のとおり,被告が対外的に行った新聞発表,対内的に行った社内表彰のいずれにおいても,被告自ら,本件第1特許がフラッシュメモリの基本特許であることを認めていたのであり,本件第1特許がフラッシュメモリに関する基本特許であることは明らかである。 ) 被告は,本件第1特許発明は,公知の構造の動作方法を改良する動作 d方法に関する発明であって,装置の構造自体に新規性はないなどと主張する。しかし,本件第1特許発明は,動作方法についてのみの発明ではなく,構造においても新規性を有するものである。被告は,本件第1特許発明に関する被告の出願に対してされた特許異議の申立てにおける異議申立人と同様の理由により,本件第1特許発明の構造には新規性がな。, , , いと主張する しかし この特許異議の申立てに対しては 被告自身が意見書(乙8の5)において新規な構造であると主張し,特許異議に対する答弁書(乙8の12)においても,異議で提出された証拠とは「目的,動作(構成)及び効果において相違するから,本願発明は甲第1号証(異議証拠)のものとは同一ではなく,また本願発明は甲第1号証か」() ら当業者が容易に発明できたものではありません 乙8の12の9頁と主張し,動作方法についてのみでなく構成においても異議で提出された証拠と異なる旨を主張していた。被告は,異議申立てに対しては反論し,特許庁により同異議が退けられ,本件第1特許発明が特許と認められているにもかかわらず,本件訴訟において,異議申立人の主張に依拠して,本件第1特許が従来技術の改良にすぎないと主張しているのであって,被告自身が自らの行為を否定するものである。 ) 被告は,さらに,本件第1特許発明の技術的範囲が限定されており, e代替技術が存在するとも主張する。被告の主張は 「接地電位」が0V,であることを前提とするものであるが,その前提自体が誤りである。確かに,自然界における一般的な意味としては「接地電位」とは大地の ,電位であり,基本的には0Vを意味する。しかし,半導体部品(エレクトロニクス)においては,大地に接続することはあり得ないから,接地電位とは,回路内部のある基準電位であるとするのが技術常識である。 本件第1特許発明は,電子引き抜きの際に制御ゲートに接地電位を印加するとしているのみで,接地電位は,相対的な基準電位を意味するものとし,一方の不純物拡散層の電位を上記制御ゲート導電体層との間で電子の移動が起こらない電位関係の構成としているものであるから,電位について限定しているものではない。ここにいう接地電位とは,ある電位に接続し,その電位を印加するものであり,相対的な基準電位を意味するのであって,負の電位も相対的電位の関係に含まれるものである。 したがって,電子引き抜き時に制御ゲートを負電位とする方法も本件第1特許発明に該当するのであり,被告の主張は本件第1特許発明の技術的範囲の解釈を誤っている。なお,被告は,日経マイクロデバイス平成6年12月号の記事(乙35)において 「特許では消去の際に制御ゲ ,ートを接地するとしている。5V単一電源のために制御ゲートを負電位にする方法を採用すれば,特許の請求項から外れるとAMD,富士通,NECは指摘する」と記載されていることから,負電位が接地電位と異なることが業界の技術常識であったと主張する。しかし,上記記載は,半導体メーカー各社が開発,販売しているNOR型フラッシュメモリが本件第1特許に抵触する可能性があることを前提に,被告から訴訟提起や特許交渉がされた場合に予定される反論として当時開発中であった制御ゲートに負電位をかける方法を主張したものにすぎず,上記各社のコメントから接地電位が負電位ではないとするのが業界での技術常識とはいえない また 被告自身 本件第1特許の権利化の過程において ま 。, , ,「ず,最初に,率直に言って,フローティングゲート導電体層への電子の蓄積における,他方の不純物拡散層に印加する電位,及びフローティングゲート導電体層に蓄積された電子の引き抜きにおける,一方の不純物拡散層に印加する電位を,本願明細書に記載された実施例に示された電位に限定はしたくない。限定してしまうと,権利としての価値が半分以下に低減してしまう (甲9)としていることから明らかなとおり,技 」術的範囲を広くするために,接地電位を含むすべての電位において,あえて限定を設けないように試みたものである。 なお,仮に,接地電位が負電位を含まないとしても,負電位を印加す。, ることは本件第1特許発明と均等であるというべきである したがって本件第1特許はDINOR型フラッシュメモリを含む,多くのフラッシュメモリに適用されるものである。 ) 被告は,さらに,本件第1特許発明の接地電位には負電位を含まない fことを前提として,大多数のNOR型フラッシュメモリにおいては,消去時に制御ゲート導電体層に負の高電圧を印加するネガティブゲートイレーズが主流であるかのように主張する。 しかし 大多数のNOR型フラッシュメモリにおいては 各種文献 甲 ,,(24,25,28)に記載されているとおり,消去時の制御ゲート導電。(,) 体層の電圧は接地電位である 被告が指摘する各種製品 乙59 60は,本件第1特許の有効期間満了後の製品であるし,いわゆるネガティブゲートイレーズの製品は,平成8年ころに学会において発表されたものにすぎない(甲46〜50 。)イ 本件第2特許発明の技術上の意義について) 本件第2特許発明は,本件第1特許発明を基本として,大容量化に適 aしたトンネル現象により書き込みを行うものである。被告のAND型フラッシュメモリ並びに他社のNAND型大容量型フラッシュメモリ単品及び大容量フラッシュメモリ内蔵マイコンが,本件第2特許発明により開示された基本構造及び動作を充足するものである。本件第2特許発明は,携帯電話,デジタルカメラ,各種メモリカード等の音声,画像記憶装置,音声・画像対応の家電製品(フラッシュメモリ内蔵マイコン ,)大規模情報記憶装置等に幅広く使用されている。 ) 本件第2特許発明は,フローティングゲート導電体層への電子の蓄積 bを,ソース不純物拡散層側に位置する第1絶縁膜のトンネル現象によって行い,フローティングゲート導電体層からの電子の引き抜きを,ドレイン不純物拡散層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象によって行うことにより,フローティングゲート導電体層への電子の蓄積とフローティングゲート導電体層からの電子の引き抜きが,第1絶縁膜の別々の位置で行われるとしたものであり,これにより,ソース不純物拡散層側における第1絶縁膜中に残留するキャリア数とドレイン不純物拡散層側における第1絶縁膜中に残留するキャリア数の書換え回数に対する増,, 加の割合が小さく メモリセルの寿命を長くすることができるとともに一方の不純物拡散層側における第1絶縁膜中の電子の移動方向と他方の不純物拡散層側における第1絶縁膜中の電子の移動方向がそれぞれ一方向であるので,第1絶縁膜の劣化が抑制され,メモリセルの信頼性が向上するという大きな作用効果を奏するものである。 ) 本件第2特許発明は,被告が当時開発中であったDINOR型フラッ cシュメモリのために取得されたものである。すなわち,本件第2特許発明は,被告社内において,原告も関与した上で 「フラッシュメモリ基 ,()」, 本特許の分割出願 DINOR対象との表題において検討がなされ権利化に至ったものである。当時の被告社内文書においては,本件第2特許発明がDINOR型フラッシュメモリのために出願された旨が明示されている(甲9,11 。被告は,本件第1特許発明と同様に,同第 )2特許発明についても,技術的範囲が限定されており,代替技術が存在すると主張する。しかし,被告の主張は,電子注入時の電子の移動位置と電子引き抜き時の電子の移動位置は電子注入時と電子引き抜き時で異なれば(例えばソースから注入してドレインから引き抜けば ,本件第)2特許発明に該当すること及び電子引き抜き時の制御ゲート電圧も,本件第2特許発明は,正電位より低い電位としているのみで,正とも負と,, もされていないから これも接地電位が正電位よりも低い電位であれば本件第2特許発明に該当するものであることを無視した主張である。被告の主張は,被告の従業員である吉田一好の陳述書(乙29)を前提とするものであるが,同人は,本件第2特許発明の出願中の平成6年12月27日に原告に対し送付した「Ap-145804『半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法』の件(フラッシュメモリ基本特許の分割出願(DINOR対象 」と題する書面(甲9)において,本件訴 )訟における被告主張とは異なるDINOR型フラッシュメモリの動作方法を記載している。同文書は,吉田がDINOR型の動作方法等を正しく記載した上で,特許庁審査官からの問い合わせ事項について発明者である原告に意見照会したものである 被告は 被告の従業員に陳述書 乙 。, (29)を作成させ,DINOR型フラッシュメモリの構成について説明しておきながら,原告が甲9を提出するや,自ら提出した陳述書の信用性を否定するかのような主張をしており,明らかに矛盾している。被告の主張は採用できない。 ウ 本件第1,第2特許発明の実施について別紙「フラッシュメモリ実施品に関する主張一覧」記載のとおり,被告の製造販売するフラッシュメモリ製品のほとんどすべては,本件第1,第2特許発明の実施品であるというべきである。被告は,NOR型フラッシュメモリ製品(フラッシュメモリ単品として狭義のNOR型(以下「狭義のNOR型」ともいう ,DINOR型,AND型,HND型,HF型 。)がある )のうち,狭義のNOR型フラッシュメモリのみが本件第1特許 。 発明の実施品であると主張するが,被告の主張は誤りである(なお,AND型フラッシュメモリが本件第1,第2特許発明の実施品ではないことについては争わない 。。)) 狭義のNOR型フラッシュメモリについて a被告が製造販売する狭義のNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の実施品であることは当事者間に争いがない。 ) DINOR型フラッシュメモリについて b本件第2特許発明はDINOR型フラッシュメモリを技術的範囲に含ませるために本件第1特許を改良して出願し,取得されたものであるから,DINOR型フラッシュメモリは,本件第1,第2特許発明の技術的範囲に属するものというべきである。 被告は,DINOR型フラッシュメモリにおいては,制御ゲートを正の電位,ソース不純物拡散層を負の電位に印加し,ドレイン不純物拡散層を電気的に浮いた状態(フローティング)にするとしながら,ドレイン不純物拡散層がソース不純物拡散層と同電位となると主張するが,フローティングとは,電気的に浮いた状態であって,正の電位でも負の電位でもないから,ドレインが負の電位であればそれはフローティングではないというべきである。 さらに,被告の内部文書(甲9)からしても,DINOR型フラッシュメモリにおいて,電子蓄積時にドレイン不純物拡散層をフローティングとし,他方のソース不純物拡散層及び基盤から電子の蓄積を行っていることは明らかであり,DINOR型フラッシュメモリにおいてはソース,チャネル,ドレインから電子の蓄積を行っている旨の被告の主張は誤りである。 本件第1,第2特許発明は,被告が提出する雑誌記事(乙34)に記載されている負電圧方式等よりも格段に酸化膜劣化効果の高い電子の蓄積と引き抜きを別の不純物拡散層で行う動作方法に関する特許発明であるから,被告が,ゲート負電圧方式により酸化膜劣化の効果が得られるとして,DINOR型フラッシュメモリにおいてもゲート負電圧方式しか採用していないのであれば,あえて本件第2特許発明を分割出願してまで権利化する必要はない。 なお,被告が提出したDINOR型フラッシュメモリの電子蓄積時の電位の状態に関するシミュレーション実験(乙40,42)は,DINOR型フラッシュメモリにおける電子の蓄積時の状態を何ら示すものではなく,同シミュレーション自体無意味なものであり,被告の主張の根拠とは全くなり得ないものである。 本件は職務発明に基づく相当対価請求訴訟であり,問題となっている本件第1,第2特許は,被告自らが自社製品であるNOR型及びDINOR型フラッシュメモリに該当させるために取得したものであるから,被告がこれらの特許発明を実施していないなどということはあり得ないことである。現在,主流となっているフラッシュメモリはいずれも電子の蓄積と引き抜きを別の箇所で行っているものであるのに,被告だけが同一の箇所で電子の蓄積と引き抜きを行い絶縁膜が劣化しやすいDINOR型フラッシュメモリ製品を開発・販売し,巨額の売上げを上げているなどということは想定できない。被告は,本件訴訟における相当対価算定の基礎となる特許発明の実施品の中から巨額の売上げを上げているDINOR型フラッシュメモリを除くためにあえて誤った説明をしている可能性が極めて高いのである。 ) NOR型フラッシュ内蔵マイコンについて c被告が製造販売するフラッシュ内蔵マイコンの中には,狭義のNOR型フラッシュメモリ内蔵型も存在する。これは,平成10年4月2日付け「三菱16ビットマイコン M16Cビジネスの拡大」と題する広告(甲6)の中で,製品「M30201F4」の仕様として「フラッシュメモリ内蔵(NOR型32Kバイト 」との記載があることから明らか )である。被告は,狭義のNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の実施品であることを認めているから,同NOR型フラッシュ内蔵マイコンも本件第1特許発明の実施品であることは明らかである。 被告は,自社製の狭義のNOR型フラッシュメモリについて,本件第1特許発明の実施品であることを認めるものの,他社製のNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の構成要件を充足するものか否かは不。, , 明であるなどと主張する しかしNOR型フラッシュメモリであれば動作,構造に変化はないのであるから,被告が製造販売する上記NOR型フラッシュメモリについて本件第1特許発明の実施品であることを認めている以上,他の被告製品以外のNOR型フラッシュメモリも本件第1特許発明の技術的範囲に属することは明らかである。被告は他社の製品について当該製品の動作方法等を知らないとも主張するが,被告が販売している以上その動作方法を知らないということはあり得ず,被告はその動作方法を当然知っているはずである。 ) HND型フラッシュ内蔵マイコンについて dHND型フラッシュメモリの電子の蓄積の動作は,狭義のNOR型フラッシュメモリと同じであって,NOR型フラッシュメモリと異なるのは,@電子の引き抜き時には制御ゲートに負の電位が印加されていることと,Aソース不純物拡散層とチャネル領域とフローティングゲート導電体層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象により引き抜くという点である。しかし,先に述べたとおり,制御ゲートに印加される接地電位は負の電位を含むものであるし,Aについても,このような相違点をもってしても,本件第1特許発明の構成要件を充足することには変わりはない。したがって,HND型フラッシュメモリ内蔵マイコンは,本件第1特許発明の実施品であるというべきである。 ) HF型フラッシュ内蔵マイコンについて eHF型フラッシュメモリの動作は,DINOR型フラッシュメモリと。, ,, 同一である したがって HF型フラッシュ内蔵マイコンは 本件第1第2特許発明の実施品であるというべきである。 ) フラッシュメモリ内蔵MCP(以下「MCP製品」という )につい f 。 て原告は,MCP製品(DRAM又はSRAMとDINOR1型フラッシュメモリ又はDINOR2型フラッシュメモリとを被告独自技術によりワンパッケージ化した製品。 )について,被告在職 Multi Chip Package中,製品企画,開発,量産化を担当していた。原告が関与していた平成12年以前は,MCP製品は,すべてDINOR型フラッシュメモリを内蔵しており,DINOR2型フラッシュメモリは,平成10年ないし同12年ころには開発中であって,少なくともDINOR2型フラッシュメモリの生産は平成10年以前にはなく,その後開発されたものと推定される。したがって,被告が製造販売したMCP製品の大半は,DINOR型フラッシュメモリを内蔵しているというべきである。また,DINOR2型フラッシュメモリの動作は,HND型フラッシュメモリと同一である。そこで,DINOR型フラッシュメモリを内蔵したMCP製品は,本件第1,第2特許発明の,DINOR2型フラッシュメモリを内蔵したMCP製品は,本件第1特許発明の,それぞれ実施品であるというべきである。 ) フラッシュメモリICカードについて gフラッシュメモリICカードには,狭義のNOR型,DINOR型,AND型があるが,狭義のNOR型は本件第1特許発明の,DINOR型は本件第1,第2特許発明の実施品である。 ) 被告は,本件第1,第2特許発明の実施品としては,狭義のNOR型 hフラッシュメモリのみであると主張する。しかし,被告が本件第1,第2特許発明をほとんど実施していないのであれば,各発明について特許出願し,異議申立てに対応してまで特許を取得したことが全く無意味になってしまう。また,被告は,社内実績補償の支払に際し,本件第1特許発明の実施品の売上高として1897億835万8000円,本件第2特許発明の実施品の売上高として6672億7255万8000円,合計8569億8091万6000円もの売上げを前提としている。この実施高は,被告が開示した狭義のNOR型フラッシュメモリ単品の公。, 開日以後の売上高76億7057万円を著しく上回るものである また被告は,本訴において本件第2特許発明の実施品は存在しないとしながら,社内実績補償においては6672億7255万8000円という極めて多額の実施高を認めているのである。 被告は,社内実績補償の前提となる実施額と実際の実施品売上高は異なる旨主張する。しかし,営利を目的とする会社が,従業員に実績補償金を支給する際に,当該特許の実施高を調査することなく支給額を決めるとは通常考えられない。仮に実施額の厳密な調査が不可能であったとしても,少なくとも被告が当該特許の価値を認めて当該特許により利益を得ていることを前提に,発明者である原告への支給額を決定したと推認されるべきものである。被告が本件各特許発明等を実施しているかについては,特許権侵害訴訟のように,技術的範囲に属するか否かを厳密に判断しなければならないものではない。むしろ,被告が,原告への実績補償額の算定に当たって極めて高額の実施高を認めていることは,被告自身が,本件第1,第2特許発明についての独占的利益を得ていることを認めていることを示すものであり,同実施高は,相当対価の算定に当たって考慮されるべきものである。 (被告の主張)ア 本件第1特許発明の技術上の意義について) 本件第1,第2特許発明は,いずれもフラッシュメモリの動作方法に a関連する特許発明であって,既に知られた構造のEEPROMの書き込み及び消去方法の改良が行われているにすぎず,しかもその動作方法は詳細に限定されているため,フラッシュメモリの基本構造を示すような基本特許発明ではない。すなわち,本件第1特許発明が従来技術に対して有する技術的意義(進歩性)は,メモリセルの寿命を長くし,絶縁膜の劣化を抑制するために,フローティングゲートへの電子の注入をソース側又はドレイン側のいずれか一方のみから行い,電子の引き抜きをその他方のみから行う動作方法を採用したことにある。 原告は,本件第1特許発明は,フラッシュメモリの構造についても新規性を有するものであると主張する。しかし,出願審査過程において異議申立人NECが提出した本件特許出願日前公知の証拠(乙8の11参照)には,電子の蓄積を行うフローティングゲート直下のSiO膜がドレイン,ソースとその間の半導体基板すべてに接し,その厚さ200Å未満である半導体不揮発性装置が記載されていたため,被告は,同異議(), , 申立てに対する答弁書 乙8の12において 上記構造を前提としてあくまで,電子の注入と引き抜きの方法の違いに新規性があることを強調し,特許庁による異議申立てに対する決定でも,その動作方法についてのみ新規性が存する旨明示されていたのである。したがって,本件第1特許発明は,その構造の部分ではなく,電圧の印加方法とそれによる電子の注入,引き抜き方法に進歩性が認められて,特許査定されていることが明白である。 ) 本件第1特許発明の技術的範囲は,従来からの構造を前提として,そ bの動作方法が,フローティングゲート下側の絶縁層のうち,一方の不純物拡散層側に位置する絶縁膜のみを介してフローティングゲートへ電子を注入し,同他方の不純物拡散層側に位置する絶縁膜のみを介してフローティングゲートからの電子の引き抜きを行うものであり,その際,制御ゲート及び不純物拡散層への電位のかけ方についても限定されている。特に,電子の引き抜きの際,制御ゲートに接地電位を印加することに限定されているため,本件第1特許発明の技術的範囲は非常に狭い。 例えば,電子の引き抜き時に制御ゲートを負電位にする方法を採用したり,電子の注入又は引き抜きをソース,ドレイン及びチャネルのすべてを使用して行えば,本件第1特許に抵触することはない。実際に,他社のフラッシュメモリ製品においても,制御ゲートを負電位にすることによる電子の引き抜きや,チャネル領域でのトンネル現象による電子の移動を行うものが主流となっている。制御ゲートを負電位とする方法は,制御ゲート電圧を0 (接地電位)とする方法に比べ,リーク電流を抑制 Vする効果を奏することから,フラッシュメモリIC製品の単一電源化を図る上で有効なものと考えられ,現時点においては主流となっているのである。このことは 「日経マイクロデバイス」平成6年12月号(乙 ,35)において 「また特許では消去の際に制御ゲートを接地するとし ,ている。5V単一電源のために制御ゲートを負電圧にする方法を採用す,,。 」 れば 特許の請求範囲から外れるとAMDや富士通 NECは指摘すると記載されており,業界の技術常識からして,負電位は接地電位と明らかに異なることが示されている。これに対し,接地電位で消去する方式は,DL( )問題という極めて重大な技術上の難点があり,実 Data Loss際の市場において,接地電位消去方式の製品が広く一般的に受け入れら。, , れていたとは考え難い このように本件第1特許発明の技術的範囲は不揮発性記憶装置全般の構造ではなく,その動作方法も非常に限定されているため,代替動作方法は多数あり,不揮発性記憶装置の動作方法として不可避なものではない。 ) 接地電位とは,電圧の基準点となる大地の電位であり,基本的には0 c。, , Vを意味すると解釈される ただしエレクトロニクス分野においては大地の代わりとなる導体等を用いて基準電位を表すことも多く,通常,この基準電位が0Vとみなされる(フラッシュメモリIC製品においては,一般に 「GND」などと表記される端子がこれに当たる 。原告 ,。 )は 「ある電位へ接続しその電位を印加するものであり,相対的な基準 ,電位」を意味すると主張するが,それでは具体性に欠けるため,解釈によっては,結局,基準電位としてどのような電位であってもよいことになる。しかし 「接地電位」とされている以上,基準となる大地の電位 ,の代わりとなるものであるから,基準電位として0Vと定められた電位であると解釈すべきである。また,仮に,原告が主張するような通常の技術常識と異なる意味であるとすれば,明細書にその旨記載されていなければならないが,そのような記載はない。本件第1,第2特許発明の各明細書において 「正の電位」との記載は,当然,接地電位,すなわ ,ち装置内にある基準電位であるGNDピンの電位(0V)に対する電位を意味している。したがって,本件第1特許発明において,制御ゲート導電体層を接地電位とするということは,GNDピンの電位が制御ゲート導電体層に印加されることを意味するものである。装置内において,ある部分を「負電位」とするということは,装置内の基準電位であるG() , , NDピンの電位 0V に対して負電位とするということであるから当然,GNDピンと同じ電位が印加されることはない。 被告が,本件第2特許発明を出願したのは,本件第1特許発明が消去時に制御ゲートに印加する電圧が「接地電位」に限定されており,制御ゲートに負電位をかけるDINOR型をカバーすることができないためである。原告が主張するように,DINOR型のために本件第2特許発明を分割出願した経緯からも,原告自身も制御ゲートに負電位をかけるものは「接地電位」に該当しないと認識していたことは明らかである。 被告は 本件第1特許発明における平成3年2月1日付け拒絶査定 乙 ,(8の7)に対する審判事件(平成3年審判第6720号)において,平成4年3月17日付けで特許庁審判官より出された特許法29条2項に基づく拒絶理由通知(乙41の1)に対して意見書(乙41の2)を提出している。被告は,同意見書において,引用例1(特開昭51-77142号公報)と本願との差異に関し 「しかも,この引例1に示され ,たものは,書き込み時にブレークダウンさせて正孔を浮遊ゲート電極に注入するため,例え,絶縁膜を薄くしても,ソース拡散領域9に高い電位を印加する必要があるとともに,制御ゲート電極17に負電位を必要とし,本願発明のように負電位を必要とせず,それ程高電位を必要としないものに比し,電位を与えるための手段が複雑になるものである 」。 と記載し,さらに,上記引用例等との差異を明確にすべく,手続補正書(乙8の9)を提出し,請求項に「制御ゲート導電体層に接地電位を印加する」旨の文言を追記した補正をしたのである。このように,本件第1特許発明は,その出願審査の過程で,制御ゲート導電体層へ印加される電圧には負電位を含まないことを明確に主張した上で特許査定されているのであり,負電位を印加するものが本件第1特許発明の技術的範囲に属しないことは出願経過に照らしても明らかである。 なお,原告は,本件第1特許発明の接地電位との要件について,負電位を印加するものについて均等が成立するとも主張する。しかし,被告は,特許庁審判官による特許法29条2項に基づく平成4年3月17日付け拒絶理由通知(乙41の1)に対し,同年6月1日付け意見書(乙41の2)において,電子の引き抜き時に制御ゲート導電体層に負電位を印加する方法を明確に排除しているのであるから,いわゆる意識的除外に該当し,他の要件を検討するまでもなく,負電位を印加するものについて,均等論を適用することはできない。 ) 被告は,平成3年にフラッシュメモリ製品市場に参入したが,平成9 d年度までは,市場シェアにおいて0〜5%程度であり,フラッシュメモリを含む不揮発性メモリ製品は,恒常的に利益が出ない事業であった。 被告は,平成10年以降,シェアをのばしていったが,これは,被告が平成9年度以降に事業化したMCP製品が売上げを伸ばしたことによる。MCP製品は,本件第1,第2特許発明を実施していないから,被告の売上げ増大に,本件第1,第2特許発明は寄与していない。 ) 原告は,本件第1特許について,平成7年2月1日,被告において, e知的財産本部長表彰を受けたと主張するが,原告が上記表彰を受けた事実はない。表彰の申立てはあったものの,否決され,1ランク下の北伊丹製作所長表彰を受賞したものである(乙27 。)本件第1特許の特許査定当時の新聞発表も,本件第1特許の実際の価値を前提としたものではない。 イ 本件第2特許発明の技術上の意義について) 本件第2特許発明も,本件第1特許発明と同様,データの書き込み時 a及び消去時における電子の移動方法,制御ゲート電圧及び絶縁膜の電子の移動位置について,限定がされているものであり,本件第2特許に抵触する動作方法は,数ある動作方法の一部にすぎない。実際,本件第2特許発明は,DINOR型フラッシュメモリを念頭に分割出願されたものであるが,被告が製造販売しているDINOR型フラッシュメモリでさえ,本件第2特許発明の実施品ではないのである。 ) 原告は,被告従業員の陳述書(乙29)に記載されたDINOR型フ bラッシュメモリの動作方法が,出願過程における同人作成の文書と矛盾するなどと主張する。しかし,同陳述書は本件第1,第2特許発明の出願過程の経緯について述べたものであり,その内容も,原告から説明を受けたDINOR型フラッシュメモリの動作方法は,本件第1特許発明の明細書に記載された動作方法と全く異なるため,本件第2特許発明を分割出願した旨を述べているにすぎず,原告が主張するように,実際に開発していたDINOR型フラッシュメモリの構成について説明したものではない。原告の主張は採用できない。 ウ 本件第1,第2特許発明の実施について被告は,その製造販売する狭義のNOR型フラッシュメモリにおいて,本件第1特許発明を実施しているが,そのほかの製品においては,本件第1,第2特許発明を実施していない。 ) 狭義のNOR型フラッシュメモリについて a被告が製造販売する狭義のNOR型フラッシュメモリにおいては,電子の蓄積は,ホットエレクトロン注入を行っているものの,本件第1特,, 許発明では 電子の蓄積時における移動方法まで限定されていないからNOR型フラッシュメモリにおける蓄積方法は,本件第1特許発明の構成要件を充足する。 しかし,本件第2特許発明の電子の蓄積方法は,トンネル現象によることに限定されているから,チャネルホットエレクトロン注入によるNOR型フラッシュメモリの動作方法は,これに該当しない。したがって,狭義のNOR型フラッシュメモリは,本件第2特許発明の実施品ではない。 本件第1特許発明に該当するためには,狭義のNOR型フラッシュメモリであることが必要ではあるが,NOR型フラッシュメモリであれば常に本件第1特許発明に該当するという関係にはない。被告は,かつて製造していた一定の方式を有する狭義のNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明を実施していたことを認めているにすぎず,他社が製造しているNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の実施品であるか否かは,その構造や動作方法が不明である以上,判断することができない。本件第1特許発明は,いわゆるNOR型フラッシュメモリのうちの特定の方式についてカバーするものであり,いわゆるNOR型フラッシュメモリ一般をカバーするものではない。 ) DINOR型フラッシュメモリについて bDINOR型フラッシュメモリの動作方法は,電子の蓄積では,ドレイン不純物拡散層の電位はソース不純物拡散層の電位と同電位となり,ソース不純物拡散層,チャネル領域,ドレイン不純物拡散層それぞれとフローティングゲート導電体層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象によって第1絶縁膜を通り抜けさせてフローティングゲート導電体層に電子を蓄積させているものであり,また,電子の引き抜きでは,制御ゲート導電体層に負の電位を印加しているものであるから,本件第1特許発明の実施品ではない。同様に,DINOR型フラッシュメモリは,電子の蓄積及び引き抜きの方法において,本件第2特許発明の構成要件を充足しない。したがって,DINOR型フラッシュメモリは,本件第1,第2特許発明の実施品ではない。 原告の主張は,ドレイン電極に対してメモリセルトランジスタ外部から印加される電圧について,ドレイン電極側からドレイン不純物拡散層に特定の電圧が印加されないとする状態についての被告の主張の解釈を誤っているものであり,失当である。 DINOR型フラッシュメモリの開発においては,書き込み及び消去動作でのトンネル現象の利用による低消費電力化及び単一電源化の実現と,従来の狭義のNOR型フラッシュメモリで問題となっていた過剰消去の解決とを意図していた。過剰消去の解決のために,書き込みと消去におけるしきい値(Vth)の関係を,従来の狭義のNOR型フラッシュメモリの場合と逆転させることとしたのである。すなわち,DINOR型フラッシュメモリの場合は,書き込みを低Vth,消去を高Vthとすることで,低Vthの制御をビット毎に行うことが可能となり,過剰消去が起こりにくくしたのである。また,消去の際,すべてのメモリセル(消去ブロック単位)を同時に高Vthにする必要があるので,フローティングゲートへの電子の注入は,トンネル現象を利用して,ドレ,。 イン ソース領域を含むチャネル全面から行われるようにしたのであるこのことは,被告が実施したシミュレーション実験の結果(乙40,42)からも明らかである。 原告は,被告の製造販売するDINOR型フラッシュメモリは,本件第1,第2特許発明の実施品であり,フローティングゲートへの電荷の蓄積と引き抜きを完全に分離して行うことにより,書換え可能回数が従,。 来に比べて2倍になり 絶縁膜劣化防止の効果を奏していると主張するしかし,DINOR型フラッシュメモリにおいては,電荷の蓄積と引き抜きのいずれの動作においても,ドレイン側絶縁膜が使用されるので,上記のような効果を奏することはない。また,メモリセルの書換え可能回数又は絶縁膜の劣化は,同一絶縁膜領域での電荷の蓄積と引き抜き動作のみに起因するものでもない。例えば,日経マイクロデバイス 平成3年7月号(乙34)に開示されていたように,制御ゲート負電位方式においては,本件第1,第2特許発明のようにフローティングゲートへの電荷の蓄積と引き抜きを分離して行うこととは無関係に,酸化膜の劣化を防止することができるのである。また,本件第1,第2特許発明の出願日以後も,酸化膜の品質向上のための様々な技術開発がなされており,酸化膜の劣化を抑制し,書換え回数(寿命)を向上する方法としては,同特許発明以外の多くの技術が採用されている。 ) NOR型フラッシュ内蔵マイコンについて cフラッシュ内蔵マイコンとは,フラッシュメモリとマイコンとを一つのパッケージに載せた製品である。被告が製造した狭義のNOR型フラッシュメモリを内蔵したマイコンは,本件第1特許発明の実施品であるといえる。 ) HND型フラッシュ内蔵マイコンについて dHND型フラッシュ内蔵マイコンは,電子の蓄積においては,トンネル現象ではなく,チャネルホットエレクトロンにより行っており,電子の引き抜きでは,制御ゲート導電体層に負の電位を印加しているとともに,ソース不純物拡散層及びチャネル領域それぞれとフローティングゲート導電体層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象によってフローティングゲート導電体層に蓄積された電子をソース不純物拡散層に引き抜くものであるから,本件第1特許発明の構成要件を充足しない。また,HND型フラッシュ内蔵マイコンが,本件第2特許発明を実施していないことは,当事者間に争いがない。 ) HF型フラッシュ内蔵マイコンについて eHF型フラッシュ内蔵マイコンは,DINOR型フラッシュメモリと同一の動作方法を有している。したがって,DINOR型フラッシュメモリと同様に,本件第1,第2特許発明の実施品ではない。 ) MCP製品について fMCP製品は,DINOR2型フラッシュメモリを使用している。 DINOR2型フラッシュメモリの動作方法は,HND型フラッシュメモリと同様に,電子の引き抜きでは,制御ゲート導電体層に負の電位を印加しているとともに,ソース不純物拡散層及びチャネル領域それぞれとフローティングゲート導電体層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象によってフローティングゲート導電体層に蓄積された電子をソース不純物拡散層に引き抜いているものであるから,本件第1特許発明の構成要件を充足しない。また,DINOR2型は,電子の蓄積をトンネル現象によって行っていないので,本件第2特許発明の実施品ではない。 ) フラッシュメモリICカードについて gフラッシュメモリICカード(フラッシュ搭載ICカード)には,被告製フラッシュメモリを搭載した製品と,他社製のフラッシュメモリを搭載した製品がある。このうち,被告製の狭義のNOR型フラッシュメモリを搭載したフラッシュメモリICカードは,本件第1特許発明の実施品であるといえる。もっとも,先に述べたとおり,他社製のNOR型フラッシュメモリの動作方法は不明であるので,他社製のNOR型フラッシュメモリを搭載したフラッシュメモリICカードが本件第1特許発明の実施品であるか否かは不明である。 ) 以上のとおり,本件第1,第2特許発明を実施している被告製品は, h狭義のNOR型フラッシュメモリのみであり,本件第1特許発明の公告日(平成4年12月18日)以後の売上高総計は,76億3546万4180円である。 なお,上記売上高総額は,社内実績補償の評価時の実施高とは異なる。これは,社内実績補償における実績補償制度は,社員の発明に対するインセンティブ制度であるから,発明に対する実施状況を特許発明の技術的範囲に属するか否かの観点から厳密に調査することはない。 実際,本件各特許権等の社内実績補償に際しても,発明者である原告が申告した実施高が厳密な調査を行われないままに認定されているのである(乙12 。)これに対して,製品が当該特許を実施しているか否かは,各特許の構成要件と製品の構造,動作などを詳細に比較検討しなければ判別できないものである。したがって,社内実績補償における売上高総額は,本件各特許権等の相当の対価の算定の基礎として用いることは相当ではない。 ( ) 争点1-3 包括ライセンス契約により得た利益の額 及び争点1-4 包 3()(括クロスライセンス契約により得た利益の額)について(原告の主張)ア 本件第1特許発明の実施について) 本件第1特許発明は,少なくとも狭義のNOR型フラッシュメモリに aおいて実施されている特許発明である。そして,以下の各事情からすると,被告が本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方他社が本件第1特許発明を実施していること及び本件第1特許発明が本件各包括クロスライセンス契約において契約締結過程における代表特許となるなど,各契約締結に高く貢献した特許であることは明らかである。 @ 被告が平成6年にISSCC(International Solid-State Circuits Conference)に発表した論文(甲41)には,NOR型フラッシュメモリの動作方法,。, として 本件第1特許発明と同一の動作方法が記載されていた また平成8年にISSCCに発表されたAMDの論文(甲26)においても,同様な説明が記載されている。 A 米国大学のUCバークレーにおける平成14年及び平成16年の半導体の講義資料(甲24及び甲25)において,NOR型フラッシュメモリの構造と動作が開示されているが,当該構造及び動作は,本件第1特許発明を充足するするものである。上記資料(甲24)には,NOR型フラッシュメモリを,インテル,AMD,富士通,東芝が生産しており,DINOR型フラッシュメモリは,被告が独占的に生産している旨の記載がある。 B 平成8年9月に発行された雑誌である「デザインウェーブマガジン5」の47〜48頁に,槻舘美弘「完全解説・最新技術と製品動 NO向 フラッシュメモリの動作原理と応用(甲28)が掲載されてい 」る。同記事に記載されているNOR型フラッシュメモリの構造,動作が本件第1特許発明に該当するものであるのみならず 「半導体メー,カが生産しているフラッシュ・メモリの大部分は,NOR型フラッシュ・メモリです 」と記載されている。 。 ,, C 被告は 本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを相手方他社が実施していることを認識している。すなわち,被告が作成した「知的財産権活動M室報告会(第18回 (甲13。以下「甲)」13報告」という )には 「フラッシュメモリ 他社状況調査」と 。,題され,インテル,ST社,日立製作所,東芝,AMDが製造販売し。, ている製品が本件第1特許に抵触する旨が記載されている 同文書は被告が本件第1特許及び本件第3特許について,特許権の行使の可否について検討した書類であり,被告が,本件第1特許発明について,他社が実施していることを認識していることは明らかである。なお,原告は同文書の作成に関与していない。また,先に述べたとおり,被告は,本件第1,第2特許発明は当時のフラッシュメモリの製造方法の大半をカバーする基本特許発明であると新聞発表していたのである。 D 平成6年に発行された日経マイクロデバイス1994年新年号(乙35)においても,NOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明に該当することが記載されており,本件第1特許発明を各社が実施していることを前提にした各社の意見が記載されている。 E 被告は,本件第1特許発明について,D社から1億5000万円の実施料収入を得ている。 ) 以下のとおり,相手方他社は,いずれも本件第1特許発明を実施して bいるものというべきである。 @ 富士通について被告が包括クロスライセンス契約を締結している富士通は,本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを製造・販売し,本件第1特許発明を実施している(甲29 。)被告は,富士通社員の陳述書(乙54)を提出し,富士通は本件第1,第2特許発明を実施していないと主張する。しかし,自ら取得した特許について,競業他社の社員の陳述書を提出してまでその特許の価値が低いと主張することは明らかに不合理である。同陳述書は,記載されている富士通製品がNOR型フラッシュメモリであるか否か自体についても定かではなく,その根拠も明示されていないのであるから,信用性は低いものというほかない。 A 日立製作所について被告が包括クロスライセンス契約を締結している日立製作所は,本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを搭載したSHマイコンを販売しているのであるから,本件第1特許発明を実施している(甲30 。また,日立製作所と被告の半導体部門が合併して設 )立された株式会社ルネサステクノロジ(以下「ルネサス」という )。 においても,NOR型フラッシュメモリが製造販売されている。 B 東芝について,, 被告が包括クロスライセンス契約を締結している東芝は 平成8年10年,12年,14年において,NOR型フラッシュメモリのLSI製品の広告を表示しており,東芝が本件第1特許発明の実施品であるNOR型フラッシュメモリを製造販売したことは明らかである(甲31 。)C インテルについて被告が包括クロスライセンス契約を締結しているインテルは,本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを製造・販売し,本件第1特許発明を実施している。特に,インテルは,平成14年においては 「マイクロプロセッサとNOR型フラッシュ市場を支配」 ,していると紹介されたこともあり,ウェブページにおいて,シャープと共同で,NOR型フラッシュメモリに関する共同開発と協業を行う旨の発表をしている(甲32 。)なお,被告が解析したと主張するインテルの製品は,本件第1,第2特許発明の存続期間満了後の製品にすぎず,上記各製品の解析結果から,本件第1特許発明の実施の有無を判断することはできない。 D 三星電子について被告が包括クロスライセンス契約を締結している三星電子は,本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを製造・販売し,本件第1特許発明を実施している。特に,三星電子は,MCP製品でも,NOR型フラッシュメモリを搭載した製品を販売している(甲33。)E ST社について被告が包括クロスライセンス契約を締結しているST社は,本件第1特許発明に該当するNOR型フラッシュメモリを製造・販売し,本件第1特許発明を実施している(甲34 。)(被告の主張)ア 先に述べたとおり,本件第1特許発明に該当するためには,NOR型フラッシュメモリであることが必要ではあるものの,NOR型フラッシュメモリであれば常に本件第1特許発明に該当するという関係にはない。他社が製造しているNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の実施品であるか否かは不明である。本件第1特許発明は,いわゆるNOR型フラッシュメモリのうちの特定の方式についてカバーするものであり,NOR型フラッシュメモリ一般をカバーするものではない。特に,本件第1特許発明は,電子の引き抜き(消去)の際,制御ゲートに接地電位を印加することに限定されているため,技術的範囲が非常に狭いことは先に述べたとおりである。また,本件第1特許発明においては,電子の引き抜き位置について 「一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して……電 ,子の引き抜きがなく,……上記他方の不純物拡散層に引き抜く」と限定されており,これを満たさない製品も本件第1特許発明に該当しないことは明らかである。さらに,フラッシュメモリ製品には,制御ゲートに接地電位ではなく,負電圧をかけることによって電子の引き抜き(消去)を行う方式のものや,チャネル領域でのトンネル現象によって電子の引き抜きを行う方式のものなどがある。それらの消去方式を採用した製品であってもNOR型フラッシュメモリと呼ばれており,これらが本件第1特許発明に該当しないことは明らかである。このように,他社が製造しているNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明の実施品であるか否かは,当該製品における実際の書き込み,及び消去の際の制御ゲート及び不純物拡散層の電圧のかけ方によるのであって,これは実際の製品を詳細に解析しなければ判断することはできない。被告は,他社製品について,このような解析を行ったことはない。本件各包括クロスライセンス契約を締結している以上,他社製品を解析する必要はないのである。 イ 原告が指摘する各種論文も,NOR型フラッシュメモリであれば必ず本。, , 件第1特許発明を充足する根拠となるものではない また 甲13報告は当時,フラッシュメモリの設計開発を担当していた部署が,競業他社の技術動向を整理するために,また,知的財産活動をアピールするための社内プレゼンテーション資料として作成したものにすぎず,その性質上,綿密な調査や判断を行った上で作成されたものではない。また,当該資料に関して,被告において特許問題を所管する部門である知財部門は関与していないし,被告の見解を示すものでもない。特許非抵触が直ちに判明しなかったという程度のことを意味するにすぎない資料によって,特許発明の実施許諾の有無が明らかになるものでもない(乙64参照 。被告が行った)新聞発表は,具体的に権利行使を想定した他社製品の解析や検討結果を背景とした内容ではなく,本件第1特許発明を,相手方他社が実施している。, ( ) ことを帰結するはずもない また日経マイクロデバイスの記事 乙35は 「三菱電機のフラッシュ・メモリー特許 『事業へ影響なし』と国内 ,,外は静観」という記事のタイトルから明らかなとおり,むしろ相手方他社が本件第1特許発明を重要な特許であると認識していないことを報じているものである。 ウ そのほか,相手方他社が,本件第1,第2特許発明を実施していたことに関する具体的な立証は存しない。なお,被告は,インテル製のNOR型フラッシュメモリにおける電子の引き抜きについて,半導体集積回路の解析会社よりインテル製NOR型フラッシュメモリ2機種についての解析資(,) , , 料 乙59 60 を入手し 各製品について消去時の動作を調べた結果2機種とも本件第1,第2特許発明を実施していないことが確認された。 これらの製品のうち,最も古い製品は,本件第1特許の存続期間満了が近い平成11年に製造されたものであったが,富士通が他社と共同設計したFASl製品において,平成6年より負電圧消去方式が採用されていたにもかかわらず,半導体分野において最先端技術を標榜しているインテルが当該技術を平成11年以前に採用していないとは容易に想定できない。原告が指摘する各書証(甲24,25,28,45)は,実際のNOR型フラッシュメモリ製品の構造についての文献であるとはいえないし,また,富士通のNOR型フラッシュメモリも,本件第1特許発明の実施品ではない(乙54 。)( ) 争点1-4(相当対価の額)について 4(原告の主張)ア 特許発明の実施) 本件第1,第2特許発明の実施により得た利益は,次の計算式により a算出される。 (計算式)社内実施により得た利益=実施品売上額×独占権寄与率×実施料率×発明相互の分配率) 実施品売上額などについて b@ 実施品売上額被告のNOR型フラッシュメモリの売上げは,少なくとも94億7129万7711円であり,フラッシュメモリの市場シェアに関する資料(乙36)に基づいて推測すると,1765億1250万円となる。もっとも,この売上げには,DINOR型フラッシュメモリの売上げが含まれている可能性があるものの,DINOR型フラッシュメモリも本件第1,第2特許発明の技術的範囲に属するものである。 A 独占寄与率 2分の1被告は,本件第1特許発明について,特許発明の実施すると共に,他社に実施許諾(特許発明の実施許諾)をしている。そして,特許発明の実施については,D社及び本件各包括クロスライセンス契約を締結している相手方他社以外については,同特許を誇示,宣伝することで,他社からの特許攻撃をけん制し,抑止する効果を有し,それによ,, り第三者に対して事実上 本件第1特許発明を実施させていないから同特許についての事実上の排他的な地位を行使しているというべきである。かかる効果により得られる利益は,単なる通常実施権を超える利益,すなわち独占的利益である。そして,特許発明の実施品の売上げの2分の1は,このような独占的利益に基づくものである。 また,被告は,本件第2特許発明の実施品であるDINOR型フラッシュメモリを独占的に製造,販売しているのであるから,特許発明の実施分についての売上げの少なくとも2分の1は,独占的利益に基づくものである。 B 実施料率 3%C 発明相互の分配率(製品に対する寄与率) 100%) 具体的計算c以上より,被告が本件第1,第2特許発明の実施により得た利益は,少なくとも26億4768万7500円を下らない。 (計算式)1765億1250万円×50%×3%×100%=26億4768万7500円,, ( ) なお 被告が 本件第1特許発明の実施NOR型フラッシュメモリにより得た利益は,少なくとも1億4206万9465円を下らない。 (計算式)94億7129万7711円×50%×3%×100%=1億4206万9465円イ ライセンス契約) 本件第1特許のライセンス契約により得た利益について a@ 被告は,本件第1特許を含む12件の特許を対象として,D社との間で,D社ライセンス契約を締結し,1億5000万円のライセンス料収入を得た。被告は,実績補償金の算定において,本件第1特許の貢献度について,562分の25と評価したが,その算定根拠は不明である。本件第1特許発明は,相手方他社が実施していること,被告も,本件第1特許に関する実績補償について「他社が実施している,可能性がきわめておおきい 」と評価していることからすると,D社 。 ライセンス契約における本件第1特許の貢献度は1割を下らないし,少なくとも対象特許数を等分した12分の1を下らない。 A 算定方式使用者が相手方企業との間でライセンス契約を締結し,同契約に基づいて実施料を取得した場合,その実施料は,使用者が発明の実施を排他的に独占することによって得た利益に属するということができる。また,複数の特許発明がライセンス(実施許諾)の対象となっている場合には,当該発明により,使用者が受けるべき利益の額を算定するに当たっては,本件第1特許が当該ライセンス契約締結に当たって寄与した程度を考慮することになる。 なお,被告は,使用者が受けた利益を評価するに当たっては,実施料収入からライセンスに要した費用として4分の1を考慮すべきであると主張する。しかし,ライセンスに要した費用が4分の1にのぼることについての立証はされておらず,使用者の貢献度において考慮する程度であればともかくとして,ライセンスに要した費用を控除することは相当ではない。 B 具体的計算本件第1特許のD社ライセンス契約により得た利益は,同契約における本件第1特許の貢献度が1割の場合には,1500万円であり,12分の1の場合には,1250万円となる。 (計算式)1億5000万円×0.1=1500万円1億5000万円×1÷12=1250万円) 本件各包括クロスライセンス契約に基づく相当対価について b@ 包括クロスライセンス契約に基づく相当対価は,使用者が受けるべき利益の額に,発明者の貢献度及び共同発明者間における発明者の貢献度を乗じて算定すべきである。使用者が受けるべき利益の額については,使用者が相手方の複数の特許発明を実施することにより本来支払うべき実施料の額に,相手方に実施を許諾した複数の特許発明等における当該発明の寄与率を乗じたものか,相手方が自己の特許発明を実施することにより,本来,相手方から支払を受けるべきであった実施料に当該特許発明の寄与率を乗じたものかのいずれかに基づいて算定すべきである。 なお,包括クロスライセンス契約に基づく相当対価の算定については,包括クロスライセンス契約の両当事者は,契約締結時点に既に存在するものばかりでなく,後に開発される特許発明についても事前に取引しておくのが利益になると考えるからこそ包括クロスライセンス契約を締結するのであるから,契約締結後になされた職務発明も包括クロスライセンス契約にかかる企業の利益に貢献していると評価する必要がある。また,使用者自身が,当該特許発明の実施により直接得た利益は,包括クロスライセンス契約とは無関係の事情であり,包括クロスライセンス契約における特許発明の貢献度を算定する際に斟酌すべきではない。したがって,先に述べたとおり,被告が特許発明の実施をしていることが,包括クロスライセンス契約に基づく相当対価請求を否定する理由となるものではない。 A 相手方他社のフラッシュメモリの売上額は 以下のとおりである 1 ,(米ドル=125円で換算した。以下同様とする 。。)富士通 3853億7500万円日立製作所 691億2500万円東芝 2342億5000万円インテル 1538億7500万円三星電子 918億7500万円ST社 555億円被告 1961億2500万円B 相手方他社のNOR型フラッシュメモリの売上額は,WSTS(世界半導体市場統計。甲38)によると,現状の市場の90%がNOR型フラッシュメモリであるとされていることから,フラッシュメモリの上記売上高に0.9を乗じて算出することができる。 富士通 3468億3750万円日立製作所 622億1250万円東芝 2108億2500万円インテル 1384億8750万円三星電子 826億8750万円ST社 499億5000万円被告 1765億1250万円C 被告が本来取得すべき実施料について被告は,本件各包括クロスライセンス契約を締結していなければ,本件第1特許について,各社の売上高に応じて,実施料収入を得ることができた。本件第1特許についての実施料率は少なくとも3%である。よって,上記NOR型フラッシュメモリの売上高に0.03を乗じた金額が,被告が各社から本来支払われるべきであった実施料額となる。 富士通 104億0512万5000円日立製作所 18億6637万5000円東芝 63億2475万円インテル 41億5462万5000円三星電子 24億8062万5000円ST社 14億9850万円合 計 267億3000万円ウ 発明者貢献度 60%本件第1,第2特許発明は,原告の独力によりされたものであるから,原告の発明者貢献度は少なくとも60%は下らない。この点について,被告は,原告の貢献度は1%程度にすぎないなどと主張するものの,その根拠として原告の職務,発明環境,出願経緯,特許ライセンス交渉,処遇等についていずれも抽象的な事情を指摘するにとどまるにすぎない。 原告は,発明業務を行っていたものではなく,被告における職務を行いながら主に休日を利用して,原告の独力で本件各特許発明等をしたものである。そして,本件第1特許発明は,原告の職務と全く無関係のものである。原告は,被告の技術情報,同僚研究者の知見,協力,被告の設備,被告所有の文献を利用できる人材育成環境・教育制度を利用したわけではない。原告は,自ら必要な文献,サンプルを集め,独自に研究を行い,特許公報等の作成は休日に行っていたものであるし,本件第1特許発明につい,, , 。 ては 上司 同僚らから具体的な指示や協力 教育があったものではない,, 。 原告は 被告の関与なくして 独自に本件各特許発明等に至ったのである出願過程においても,出願のための特許願はすべて原告が作成したもので,, ,, あり その後の拒絶理由通知や 異議申立書に対する答弁書 補正書等も原告が主に作成したものである。本件第1特許発明は,出願公開後,被告により放置されていたが,偶然原告がインテルが発表したNOR型フラッシュメモリが本件第1特許発明と全く同じであることを発見し,強く要請したことから権利化に至ったものである。なお,被告は,ライセンス交渉における被告の貢献が大きいとも主張するが,職務発明の相当対価における貢献度は,主に発明に至る過程の範囲で考慮すべきものであり,特許登録された後にそれをいかに事業化するかは使用者の選択によるものであるから,事業化について使用者側の貢献度を過度に高く評価すべきものではない。また,被告は,原告を社内において相応の評価をし,適切な処遇をしていたとも主張するものの,社内での処遇が直接発明に対する貢献に結びつくものではないし,原告は,本件各特許発明等をしたことによって社内において相当の評価を得ていたものではなく,本件各特許発明等とは別,, に 被告のいわゆるMCP製品の開発事業に対する貢献があったからこそ社内評価も高かったものである。 エ 共同発明者間の貢献度 100%本件第1,第2特許発明は原告が単独で発明したものである。 オ 本件第1特許発明にかかる特許を受ける権利の承継の相当の対価先に述べたとおり,被告が本件第1,第2特許発明により得た利益は,前記ア及びイの合計293億9018万7500円か293億9268万7500円であり,本件第1,第2特許発明の原告の発明者貢献度は60%であるから,本件第1,第2特許発明にかかる特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は,少なくとも176億3411万2500円か176億3561万2500円である。 計算式 被告が受けるべき利益:293億9018万7500円 × 原 ()()(告の貢献度:60%)×(共同発明者間の原告の貢献度:100%)=176億3411万2500円(計算式)293億9268万7500円×60%×100%=176億3561万2500円(被告の主張)ア 特許発明の実施争点1-1において述べたとおり,被告は,相手方他社との間で本件各包括クロスライセンス契約を締結している以上,特許発明の実施については被告に独占による利益を認めることはできない。 イ ライセンス契約) ライセンス契約に基づく相当対価について a@ 被告の本件規程等によると,他社とのライセンス契約交渉過程において使用された特許は,他社実績補償の対象となる。補償金額の算定においては,他社からの実施料収入あるいは実施料収入に相当する金額から補償金算定の基礎とする金額を算定し,当該金額を実績補償細則の定める別表4に従って換算金額を算定し,更に,一定の乗数を乗ずることにより,補償金として支給する総額を決定する(クロスライセンス契約の場合には補正がされることもある 。そして,その支。)給総額を,被告の知的財産部門により定められた各特許の貢献度に応じて配分されることになる。 A 本件第1,第2特許においては,D社ライセンス契約が他社実績補償の対象となった。実施料収入及び補償金算定の基礎とした金額は1億5000万円であり,支給総額は260万円であった。そして,D社ライセンス契約における本件第1特許の貢献度は562分の25(約4.4%)と評価されたため,受領額は,11万円(平成11年度)であった。 ) 包括クロスライセンス契約に基づく相当対価について b@ 複数の特許発明がライセンス(実施許諾)の対象となっている場合には,ある特許発明により「使用者が受けるべき利益の額」を算定するに当たっては,当該特許発明が当該ライセンス契約に寄与した程度を考慮すべきである そして 包括クロスライセンス契約における 使 。, 「用者等が受けるべき利益の額」への当該特許発明の寄与は,当該契約において当該特許が実際に果たした役割に応じて判断されるべきものである。当該特許の寄与が認められるためには,当該特許が当該契約において何らかの役割を有し,当該契約に影響を与えたことが必要である。逆に,実際には何らの役割をも果たさず,当該特許の存否が当該契約に対して一切の影響を与え得なかった場合,換言すれば,当該特許の存否にかかわらず同一の契約が締結及び維持されたと考えられる場合には,現存する特許であるか,あるいは将来発生し得る特許であるかにかかわらず,当該特許の当該契約への寄与があったとは認められない。 例えば,当該契約において,当該特許が検討ないし評価の対象とされることがなかった場合には,当該特許のライセンス契約への影響はなく,当該特許の寄与はないというべきである。 A 半導体分野における包括クロスライセンス契約は,相互に許諾される特許数は極めて膨大なものとなることが通常である。被告の半導体部門は,年度によって異なるものの,平成8年度では国内特許約3千件,外国特許等約5千件という,また平成11年度では国内特許約3,,, 千件 外国特許約8千件という膨大な数の特許を保有しており 通例半導体分野における包括クロスライセンス契約においては,これら特許のすべてが契約対象とされる(乙58 。)もっとも,包括クロスライセンス契約において,これら個々の特許のすべてが契約に影響するものではなく,実際に寄与するものでもない。実際の寄与が認められる特許は,契約交渉において議論の俎上に載り,実際に検討ないし評価の対象とされて契約締結やその条件に影響を与えたような一部の特許にすぎない。たとえ一方から他方に対する数件の特許の侵害警告が発端となって開始された交渉であっても,最終的には,両社がそれぞれある一定期間中に保有・取得する半導体関連特許全件を相互に許諾し合う包括クロスライセンス契約を締結することにより,当該契約期間中は,当該相手方との間では特許係争の発生しない状態を作り,事業の安定化を図ることが一般的である。こ,, の場合 一方から他方へ許諾するライセンスの価値を評価するために数千件の特許権一つ一つが,相手方の製品にどの程度実際に実施されているかを契約期間中にその都度(例えば年1回)調べることは非現実的である。そのため,実際の交渉では,双方は自社の保有する数千件の特許の中から,売上高を考慮し,相手方の主要製品に実施されていると判断される特許(以下「代表特許」という )を選び出し,そ。 の上で,それら代表特許の各構成要件が相手方製品のどの部分と対応して備わっているかを示す対照表(一般に「クレームチャート」といわれる)を作成し,それを相手方に提示する。そして当該代表特許を侵害している相手方製品の売上げ規模ないし将来の売上げ予想規模を示すなどして,当該代表特許のライセンスにより相手方が得る利益を主張する。相手方からは,それら代表特許の抵触性,有効性,及びカバーする相手方製品の売上げ規模について反論がなされる。協議の結果,双方のライセンスの価値が均衡しているのか,それとも一方のライセンスの価値が他方のライセンスの価値よりも勝っており後者が前者に対価を支払うべきなのか,さらに一方から他方への対価の支払いが必要な場合にはその額は幾らが適当かを各々の社内で判断し,それを元に相手方と交渉し,決定するものである。 包括クロスライセンス契約においては,使用者は,実施料収入あるいは実施料支払軽減という形で利益を受ける。代表特許として相手方との交渉の俎上に載り,検討ないし評価の対象とされ,相手方から一定の評価を得た特許は,利益獲得に貢献しているものであり,当該特許発明の当該ライセンス契約への寄与が認められる。しかし,そもそも代表特許として契約交渉の俎上に載らなかった特許や,相手方による実施が確認されなかった特許など,契約に影響を与えなかった特許などは,たとえそれが相手方に許諾される数千件の特許のうちの1件であったとしても,相当対価算定の基礎となるべき利益を会社にもたらしているものではなく,それ故,当該特許発明の当該ライセンス契約への寄与は認められない。 すなわち,包括クロスライセンス契約における特許の寄与度において,目安となるべきは特許権の件数での頭割り(平均値)であって,その平均値を大きく超える(例えば10倍以上)場合は,よほど特別な事情,例えば,当該職務発明ほか数件を主眼としてなされた包括クロスライセンス契約であり,他の特許権については予防的にライセンスしただけであるなどの場合にすぎない。そして,数千件以上の特許が対象となる契約においては,各特許の寄与は実質的にはゼロとみなされるものである。 B 本件第1,第2特許の寄与について本件各包括クロスライセンス契約において,本件第1,第2特許はいずれもその対象とされていたが,相手方他社との交渉において,被告が本件第1,第2特許を代表特許として提示して交渉したことはないか,少なくとも相手方他社に提示されるなどして,検討ないし評価の対象となったことをうかがわせる記録は一切存在しない。 本件第1,第2特許は,業界においてフラッシュメモリについて回避不可能な特許の一つとして広く認識されていたり,半導体について包括クロスライセンス契約を締結する際に,常に被告の主要特許の一つとして掲げられていたものでもないし,ライセンス契約締結の際に重要な役割を果たした特許の一つであったわけでもない,なお,被告は,D社ライセンス契約交渉において本件第1特許を相手方に提示し,原告に対して実績補償金を支払ったが,同契約においても,本件第1特許は当該契約に実際には寄与していない。本件第1特許は(他の2件の特許とともに)第9回交渉当日に相手方に提示されてはいるものの,それら特許について議論はなされず,同日の面談で対価が合意されている。双方の会社が事前に合意可能条件等を検討した上で交渉に臨んでいることは当然であり,また,特許の評価には時間を要することからも,交渉当日に(本件第1特許を含む)追加特許を提示したことが合意された対価条件に影響を与えていないことは明白である。被告は,社内における他社実績補償について,他社に対して侵害を主張した特許については原則として補償の対象とする運用をしていたため,本件第1特許も補償の対象に挙げられたにすぎず,実際にはD社ライセンス契約への寄与はゼロに等しいものである。 そのほか,例えば,被告は,平成8年8月30日,日立製作所との間で包括クロスライセンス契約を締結した(乙76)が,契約締結交渉において,被告と日立製作所の双方は,代表特許を提示して特許交渉を行った。しかし,本件第1特許及び本件第3特許のいずれも,当該契約交渉には用いられていない。一般に,企業は利潤を最大化するよう行動するのであり,他社が実施している,ないし以後実施する蓋然性がある特許を特許交渉に用いないという選択を行なうことはない。そして,特許交渉に臨む会社は,相手方の現在及び将来の実施可能性を十分に検討した上で,特許を選択して交渉に臨むと考えられる。被告が日立製作所との契約交渉において,本件第1特許及び本件第3特許を用いていないという事実は,被告が,少なくとも,主観的には,日立製作所による本件第1特許発明及び本件第3特許発明の実施の蓋然性,ないしその影響を無視し得るものと判断していたことを意味する。自己の特許交渉に最も切実な利害を有する特許権者自らが,十分な検討を経た上で,特許の有用性について否定的に下した判断は,客観的にも正確であるというべきである。したがって,客観的にも,日立製作所による本件第1特許発明及び本件第3特許発明の実施の蓋然性,ないしその影響は,実質的に無視し得るものであり,日立製作所がこれら特許を実施しているとは判断できないというべきである。 また,従前から存在する包括クロスライセンス契約の更新に際し,。, 本件第1特許及び本件第3特許の成立が議論されたことはない 仮に両特許が,原告が主張するような重要な特許であるならば,契約更新時点で当該特許の存在を理由に再交渉を提案するなど,少なくとも従前よりも有利な条件の獲得を試みていたはずであるが,そのような事。, , 情は一切存在しない このように本件第1特許又は本件第3特許が従前より存在していた契約に何らの影響も与えたこともない。また,日立製作所,富士通,東芝,インテル,ST社は,日本,米国,欧州の先端的な有力半導体メーカであり,これら各社はその技術水準の高さの点でも拮抗している。そうすると,客観的に日立製作所が本件第1特許発明及び本件第3特許発明を実施しているとは判断できないのであれば,他の4社についても,日立製作所の場合と同様であると考えられるのであり,それと異なる判断をすべき理由はない。 なお,原告は,社内実績補償に関する評価を前提として,本件第1,第2特許の重要性について主張する。確かに,被告はMリストと称する特許のリスト(権利行使に使用できる可能性のある候補特許のリスト)を有しており,本件第1特許及び本件第3特許のように,特許がこのMリストに登録されると自動的に「B.権利の重要度」の項目で15点が付される。しかし,Mリストへの登録は,当該特許が他社への権利行使に使用される可能性があると判断されたことを意味するものではあっても,他社が当該特許発明を実施していることを意味するものではない。なお,一度Mリストに登録された特許は,以後リストから削除しないという運用がなされている。 したがって,実際よりも「B.権利の重要度」が高めに評価されることがまま生じるのである。 ウ 具体的算定において考慮すべき事情@ 特許ライセンス交渉においては,直接的・間接的に多大な費用を要するのであり,実施料収入のすべてがそのまま被告の受けた利益になるものではない。事案によっては,直接的な費用が実施料収入を上回ることさえある。したがって,ライセンス契約に基づいて使用者が受けた利益を算定する場合,ライセンス交渉において必要とされた費用を控除する必要がある。原告も,実施料収入の4分の1がライセンス契約に要する費用であることを認めている。 A 被告の貢献度特許発明についての使用者の貢献度については,個々の具体的考慮要素を斟酌して割合を決すべきであるが,職務発明の中でも例外的に使用者の貢献度が低い発明であっても,95%を下ることはない。本件においては,被告の貢献度が高いことを示す具体的事情は認められるが,原告の貢献度が高いことを認めるに足りる特殊な事情は一切認められず,原告の貢献度はせいぜい1%程度である。 具体的考慮要素は以下のとおりである。 ) 原告の職務a原告は,本件各特許発明等の当時,被告の半導体事業部門に所属し,半導体メモリの設計に従事しており,本件各特許発明等を行なうことが期待される地位にあった。 ) 発明環境b半導体技術は,広範な分野の先端技術の集積であり,日々の開発・改良は,企業の研究開発投資と別個のものではあり得ず,原告による発明も,被告が世界的にも有数の半導体事業会社であり,それに応じた莫大な研究・開発投資を行ってきたことに基づくものである。すなわち,原告が本件各特許発明等をなすに当たっては,その当時に被告が有していた秘密情報も含めた被告の技術情報・製品情報や同僚研究者の知見・協力,及び被告の設備や被告所有の文献を利用できるという極めて恵まれた発明環境にあったものであり,さらには,原告は被告社内における人材育成環境や教育制度を有効に利用してきたものである。 )出願経緯c本件各特許発明等の出願から権利化に至る経緯においては,被告の特許部門の貢献が極めて大きかった。被告においては,特許の出願・権利化を職責とする特許部門が特許の権利化業務を専門に担当している。そして,被告の特許部門は,本件各特許発明等について,最大限広範な権利範囲を志向しつつ権利を獲得すべく,専門的知識と多大な労力を注ぎ,これら特許を成立させたものである。特に,本件第1特許及び同第3特許の審査経緯からすると,被告の特許部門の貢献度が高いことは明らかである。 ) 特許ライセンス交渉 d本件各特許権等について被告が受けるべき利益は,専らA社クロスライセンス契約ないしD社ライセンス契約の実施料収入に基づくものである。被告は,各ライセンス契約における交渉に要する直接的な費用にとどまらず,知的財産に関連して,特許実施料収入獲得に資する費用ないし労力(特許・製品・法制度の調査・情報収集,人材の育成・確保など)を恒常的に投入している。また,個別の交渉における交渉技術,交渉力を基礎付ける保有特許数,技術力,過去の特許訴訟・ライセンス実績といった被告の総合力は,契約交渉で被告側に有利な影響を与える重要な要素である。 )処遇e原告は,被告社内において相応の評価を受け,昇進も早かったなど,十分に適切な処遇を受けていた。 ) 包括的ライセンス契約に基づく特殊性 f包括的ライセンス契約が締結されるのは,大別して,@非常に強い中核的な特許があり,このような中核的な特許単独でも,相手方はライセンス取得を希望するものの,結果的に,周辺特許を含めて包括的ライセンス契約を締結する場合,A中核的特許は存在せず,多数の特許があり,これら単独ではライセンスの対象とならないものの,これらを包括すれば,ライセンスの対象となる場合の二つの場合がある。広範かつ多種多様な技術の集積である半導体分野においては,Aの事情に基づく契約類型が多用される。 上記@の類型の場合には,中核的特許の発明者貢献度は非常に高いが,周辺特許や上記Aの特許は,それら単独では実施料収入が得られるものではなく,使用者側が他の特許を有するために,実施料収入に結びついたのであり,発明者貢献度は極めて低いといえる。これらの特許は,包括的ライセンス契約という枠組みがあって初めて意味があるのであり,包括的ライセンスという枠組みを構築したのはまさに使用者である。 ) 事業における損益等の事情 g被告において,特許権に基づく実施料収支は,被告全体,半導体事業のいずれについても,恒常的に大幅な支出超過であって,特許ライセンス活動から従業者に配分するための原資は存在しない。被告は,このように特許ライセンス収支が大幅な赤字であるにもかかわらず,年間数億円規模の補償金を職務発明に対して支払っている。被告は,厳しい経済情勢及び国際競争の中で,大幅な支出超過という環境下において,最大限,発明者に手厚い基準で,職務発明に対する補償金を支払っているものであるといえるから,この点は,被告の貢献度として重視されなければならない。 被告の補償制度が産業界において最高水準のものであったことは,報道資料や刊行物からも裏付けられる(乙80,81 。)エ 具体的算定本件第1特許に関する相当対価は,D社ライセンス契約の実施料収入に基づくもののみであり,次の計算式で算定される。 (計算式 (実施料総額-ライセンス費用)×特許間分配率×(1-被告 )貢献度)本件における具体的数値を当てはめると,5万円となる。 (1億5000万円×3/4)×(25/562)×(1-0.99)=5万円(1万円未満四捨五入)2 争点2(本件第3,第4特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価)について( ) 争点2-1(本件第3対応米国特許の相当の対価請求は時期に後れた攻撃 1防御方法の提出に当たるか)について(被告の主張)ア 原告は,平成17年11月15日の本件第14回弁論準備手続期日において,本件第3対応米国特許についての相当の対価の請求を追加した。しかし,この請求は,時機に後れた攻撃防御方法の提出であるから,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである。 イ 攻撃防御方法の提出が時機に後れたかどうかは,より早く,かつ,適切な時機にその提出が期待できたか否かを基準として判断すべきである。本件においては,被告は,平成16年4月14日の本件第1回弁論準備期日,, において 本件第3対応米国特許に関するライセンス契約について主張し同年5月28日の本件第2回弁論準備期日において,関係書証(乙13,24)を提出した。したがって,原告は,本件第3対応米国特許の相当対価の請求については,より早く,かつ,適切な時機に提出することが期待できたのである。また,被告が,後れてこれを提出したことについて何らの合理的な理由は認められず,少なくとも重過失が推定される。 ウ 攻撃防御方法の提出により訴訟の完結を遅延させるかどうかは,当該攻撃防御方法を却下した場合に予想される訴訟完結の時点と,それについて審理を行った場合の訴訟完結の時点とを比較して判断すべきである。本件においては,本件第3対応米国特許に関する請求についての審理を行うならば,外国特許についても特許法35条に基づく相当対価請求が認められるかどうかという点が審理の対象となるにとどまらず,本件第3対応米国,,, 特許に関して その技術的範囲がどのようなものであるか 他社によって同特許発明が実施されているかどうかなどに関して,新たに種々の証拠調べを要することとなる。 したがって,本件においては,本件第3対応米国特許に関する請求についての審理を行なうことによって,訴訟の完結が遅延するものというべきである。 以上のとおり,原告による本件第3対応米国特許についての相当対価の請求の追加は,時機に後れた攻撃防御方法の提出であるというべきであるから,許されないというべきである。 なお,原告は,本件第3特許と本件第3対応米国特許は技術的範囲が同一であるなどと主張する。しかし,本件第3特許と本件第3対応米国特許,, は別個の権利であり 技術的範囲や権利が及ぶ地域の点で差異があるから本件第3対応米国特許についての請求の追加を許すべき理由となるものではない。 (原告の主張)ア 被告は,平成16年4月14日の本件第1回弁論準備期日において,本件第3対応米国特許が存在し,同特許により実施料収入を得ていることを認めており,被告は,その後,本件第3対応米国特許が本件訴訟における審理の対象とはならない旨の主張はしていない。本件第3対応米国特許と発明の内容が全く同一である本件第3特許についても,当然審理の対象とされていたものである。 また,本件訴訟においては,裁判所の訴訟指揮により,本件第1,第2特許に関する審理が先行して進められたため,本件第3,第4特許に関する審理は一時中断していた。原告が,本件第3対応米国特許に基づく相当対価について主張したのは,平成17年11月15日の本件第14回弁論準備期日であるが,その時点において,訴訟の完結が予定されていたわけではなく,被告も,同期日において,新たに消滅時効の主張をしている。 イ 本件第3対応米国特許が特許法35条の相当対価の対象になるか否かは専ら法的判断の対象であり,事実調べ等を要するものではなく,何ら訴訟の完結を遅延させるものではない。本件第3対応米国特許と本件第3特許は同一内容であるから,技術上の争点についても,被告は特許権者としてその内容を十分把握しているものであるし,本件第3特許についての主張がそのまま当てはまるものである。 ,, したがって 原告の本件第3対応米国特許についての相当対価の請求が民訴法157条1項の「故意又は重大な過失により,時期に遅れて提出し」,「」 た攻撃又は防御の方法 でもなく訴訟の完結を遅延させることとなるものでもない。 ( ) 争点2-2(外国において特許を受ける権利の承継についての準拠法及び 2特許法35条の適用の有無)について(原告の主張)被告が,本件第3対応米国特許について,A社ないしC社との間でライセンス契約を締結したことは,当事者間に争いがない。 原告と被告の間の,本件第3特許発明についての特許を受ける権利(外国特許も含む)の譲渡契約は,日本法人である被告と,日本国に在住してその従業員として勤務していた日本人である原告とが,日本国内において締結した譲渡契約であるから,法例7条1項又は同2項により,その準拠法は日本法と解すべきである。そして,特許法35条が定める職務発明の譲渡についての「相当の対価」は,外国の特許を受ける権利等に関するものも含めて,。, 「 」, 決定されるべきことである すなわち職務発明の承継の 相当の対価 は使用者と従業者が属する国の産業政策に基づき決定された法律により一元的に決定されるべき事柄であり,当該特許が登録される各国の特許法に基づいて決定されるべき事柄ではない。また,属地主義を根拠として,外国特許について,35条の適用を否定することは相当ではない。 (被告の主張)争う。 ( ) 争点2-3(特許発明の実施により得た利益の額)について 3(原告の主張)ア 本件第3特許発明の技術上の意義) 本件第3特許発明は,樹脂封止型半導体集積回路装置の金属配線とそ aの下に存在する導体層を所定箇所に複数個のコンタクト抗で接続固定する技術に関する特許発明である。同特許発明は,半導体集積回路装置の微細化過程において,金属層のスライドによる金属線間のショートを防止し信頼性を格段に向上させ,拡散層・導電帯層の電位を安定化し,安定動作を可能にさせるほか,導電帯層がトランジスタのゲートである場合は,その抵抗値を金属層接続により低下させることにより,高速動作を可能とするという効果を奏する。各社の半導体製品のほぼ大半が同特許発明を実施しており,被告も,半導体メモリ製品,システムLSI,マイコン等の各種製品の大半において実施している。 ) 本件第3特許発明は,樹脂封止型半導体集積回路装置において,金属 b配線直下の半導体基板にフローティングな不純物拡散層を,又は絶縁膜に埋設してフローティングな導電体層を設け,上記金属配線と上記拡散層又は導電体層間の絶縁膜を所望の間隔で除去し,両者を金属配線の金,「」 , 属で接続するようにしたので その接続部が くぎ のような働きをし樹脂封止工程中及び製品完成後の温度環境の変化による樹脂の歪みによって引き起こされる金属配線の変形を大幅に低減しうるという効果を奏する。 ) すべてのLSI製品は,半導体基板の電位以外で,電流の許容範囲を c増やすために電源線幅を広くとる必要のある基準電源電圧(VCCやVDD等)や他の書き込み電源配線(VPP等)にもアルミスライドを防止するために複数の釘状金属柱が導体層(拡散層)と接続固定されてお,。, り 本件第3特許発明を実施しているというべきである これらの場合半導体基板と直接接続すると電源同士がショートし正常動作ができなくなるので,CMOSプロセスのLSI製品では,PまたはN拡散層を囲むようにして逆導電型のWell層が設けられている。金属配線をそのままN型基盤へ接合することは信頼性が失われるので行われない。金属配線で主に用いられるアルミニウム( )はP型金属であり,P型若 ALしくはN型の不純物を多くした導電体層に接合される。また,N型基板への直接接合は,金属配線が基板に一部スパイク状に吸収される現象が生じるため,釘状金属柱や金属配線部に亀裂や断線を生じさせるため行わない。また金属配線は,基盤にスパイク状に吸収された場合,基盤内で他の金属配線に接続された導電体層とショートする可能性があり,コンタクト開口部には,P型又はN型の導電体層(拡散層)とN―well又はP-wellにより構成するのが,常識的な半導体プロセスである。被告が主張する半導体基板に直接接合固定する方法や同一の拡散層のみのプロセスは,CMOSプロセスのLSIの常識的な半導体プロセスを逸脱しており,また,不純物拡散(導電体層)やWellの注入を行わないために別工程が必要となるものであり,かかる別工程を,限界までコスト削減のためにプロセス工程を削減することを求める常識的な半導体メーカーが行うことはあり得ない。 ) 被告は,本件第3特許発明の技術的範囲は,特許異議の申立てを受け dて,公告後の補正により限定されたものとなり,代替技術も存在するなどと主張する。しかし,被告の主張は,本件第1,第2特許と同様,特許異議の申立てにおける異議申立人と同様の主張に基づくものであり,特許異議の申立てが退けられ,特許査定されたことからも明らかなとお,。, り 本件第3特許発明は新規性を有するものである 被告による補正も本来の本件第3特許発明の趣旨を明確にしたものにすぎず,何ら特許請求の範囲を限定するものではない。 被告は,本件第3特許発明は,金属配線を半導体基板と電気的接続のないフローティングな導体層に接続するものであるかのように主張する。しかし,同特許の特許請求の範囲にはそのような記載はない。P基板にP拡散層を形成して両者が電気的に接続されている場合であって,。。 も 本件第3特許発明に該当するものである 被告の主張は誤りであるなお,被告が代替技術であると主張する,上層の金属配線と下層の金属配線を結ぶコンタクトホールでは,必ず2層の金続配線を構成する必,。 要があり 配線のレイアウト上に大きな制限を受けるという欠点があるまた,上層の金属配線と下層の金属配線を結ぶコンタクトホールを設けても,金属パターンの変形による配線間ショートは,下層の金属配線が導体層に接続固定される本件第3特許発明を用いないと,上部だけでは応力に対して十分に回避できない。また,被告は,他社が,製品によっては,ショートの起きやすい周辺回路の金属配線パターンの間隔を広げる対策を講じているとも主張する。しかし,半導体製品は,チップサイズが製造コストに直結するため,限りなく小さなチップサイズにする設,。 計がなされているから そのような方法は代替技術となるものではない) 被告は,本件第3特許について権利行使上の問題点があるとも主張す eる。しかし,相当対価の算定と権利行使上の問題は直接関連しないものである。また,被告は,権利行使の際に,半導体装置の縦断面の微細構造を解析する必要があり,それは非常に困難であるとも主張する。しかし,半導体メーカーは,通常半導体製品の各種解析装置(各材料の除去装置,電子顕微鏡,断面構造解析装置,配線や断面加工装置など)を保有しており,上記のような解析は,容易に行えるものである。 イ 本件第4特許発明の技術上の意義について) 本件第4特許発明は,樹脂封止型半導体集積回路装置の金属配線間と aその下に存在する導体層の配置に関する特許発明であり,信号線,電源線の金属層と半導体基板間の金属層間下に導電体層を配置することにより,半導体集積回路の微細化を図る過程において,金属配線間のショー,。 トを防止し 信頼性を格段に向上させるという効果を奏するものである同業他社の一部は,半導体メモリ製品,システム ,マイコン等におLSIいて,同特許発明を実施している。 ) 本件第4特許発明は,ゲート電極を有するトランジスタが形成される b半導体基板上にフィールド酸化膜,リンシリケート酸化膜,金属配線及びパッシベーション膜を順次積層した半導体装置において,上記フィールド酸化膜の平坦な表面上であって,金属配線を形成すべき領域の間の下方に,上記トランジスタのゲート電極と同一層にある導電体層を埋設し,上記電動体層によりリンシリケート酸化膜に生じた凹凸の段差における凹部に金属配線を配設するようにしたので,金属配線のだれによる金属配線間のショートは発生しにくく,また横方向からの応力に対しても変形しにくくなるので,樹脂封止工程中及び製品完成後の温度環境の変化による樹脂の歪みによって引き起こされる金属配線の変形を大幅に低減し得るという効果を奏する。 ウ 本件第3特許の特許発明の実施について被告が本件第3特許の実施品であると認めている256K高速SRAM,1MビットマスクROMのみならず,その余の被告の全メモリ製品及,。 びマイコン製品等 大半のLSI製品が本件第3特許発明の実施品である本件第3特許発明は,その構造からすべてのメモリ製品やLSI製品に実施し得るものであり,また,N及びP基盤の双方に用いることができ,その効果も多大であることから,原告が被告在職時から,被告は大半のLSI製品(フラッシュメモリやマイコン製品やシステムLSI,カスタムLSI)において採用していた。 被告は,被告の製品が本件第3特許発明を実施していない理由として,@チップ端に,その周囲を囲うように絶縁膜上に正又は負の電位が印加される金属配線(AL配線)が形成されている構造を有している,A複数の釘状金属柱は半導体基板に直接接合固定されている,B金属配線及び複数の釘状金属柱は半導体基板の電位を固定し,複数の釘状金属柱は,基盤電位を伝達する役割を果たしていることを理由とする。 しかし,@SRAMその他の製品において,チップ端の周辺を囲むよう,(,, に配置されている金属線には 各電源電位の線 正の電位 GNDの電位その他の電位)と外部との接続信号を内部に送る信号線やデコード信号線など各種信号線が存在するから 「その周囲を囲うように絶縁膜上に正又 ,は負の電位が印加される金属配線(AL配線)が形成されている 」のみ。 ではない。A金属配線で主に用いられるアルミニウム(AL)はP型金属であり,金属配線の開口部には,P型又はN型の導電体層を構成させ,接合するためにP型若しくはN型の不純物を多くした導電体層に,金属柱を接合するのが通常の半導体製造プロセスである。金属配線を直接N型基盤へ接合することは,信頼性の点で,不安定であるので行わない。B被告が指摘する金属配線も,導電体層を形成するというべきであるから,被告の各製品は,いずれも釘状金属柱を基盤の導電体層に固定しているものというべきである。したがって,被告の256K高速SRAM以外のN基盤に形成されたSRAM,256K高速SRAM以外のP基盤に形成されたSRAM,4Mビット(以上)マスクROM,DRAMのいずれもが,本件第3特許発明の実施品に該当するものというべきである。 原告は,被告製造の1MビットSRAM及び64MビットDRAMを解析調査したが,いずれも明らかにLSIチップのコーナーのアルミ配線等(金属配線)を所定の間隔で下部の導電体層に接続していることが認められたのであるから,被告が,本件第3特許発明を実施していることは明らかである(甲42,43参照 。)エ 本件第4特許発明の実施について本件第1,第2特許に関して述べたとおり,相当対価の算定に当たり,使用者の実施方法が職務発明の技術的範囲に属するか否かが結論に影響を与えるものではない。したがって,本件第4特許発明についても,被告が認める1MマスクROM以外の多くの製品においても,同特許発明の実施品が存在する。なお,4MマスクROMが本件第4特許発明の実施品ではないことについては,争わない。 オ 社内実績補償について被告は,本件第1,第2特許発明と同様,本件第3,第4特許発明に関しても,本件第3特許発明の実施品の売上高として1兆3645億8348万2000円,本件第4特許発明の実施品の売上高として320億900万円,合計1兆3677億9248万2000円もの売上げを前提として社内実績補償をしており,この合計額は,被告が開示した256K高速SRAM,1MビットマスクROMの売上高を著しく上回る。これからしても,本件第3特許発明の技術的範囲が非常に限定されているとする被告の主張が誤りであることは明らかである。 (被告の主張)ア 本件第3特許発明の技術上の意義について,, , a) 本件第3 第4特許発明は 樹脂封止型半導体集積回路装置において封止樹脂の応力などの影響による金属配線の変形を防止し,同配線間でショートが生じることを防止するための構造上の改良を行う発明である。もっとも,本件第3,第4特許発明は,出願審査過程で示された公知技術との関係で,その技術的範囲は非常に限定されたものとなっており,代替技術もあることから,LSI製品について不可避な特許ではな。, , い すなわち 本件第3特許発明における半導体集積回路の金属配線は釘状金属柱によって絶縁膜下部又は内部に設けられた導体層に接合固定されており,かつ,この導体層は上記釘状金属柱を介して上記金属配線のみに電気的に接続されているものである。したがって,本件第3特許の代替技術として,出願審査過程で提示された公知文献に記載されるような上層の金属配線と下層の金属配線を結ぶコンタクトホールによって,電気的接続と共に,樹脂応力による変形を防ぐくぎのような働きを持たせることができるし,製品によっては,ショートの起きやすい周辺回路部の金属配線パターンの間隔を広げる対策を講じているものもある。 ) 本件第3特許発明は,半導体装置の縦断面の構造に関するものである bから,このような特許を用いて権利行使する際,他社製品の断面の微細構造を解析しなければならないなど,その権利行使は困難性を伴うものである。また,本件第3対応米国特許を含む各種特許のライセンス交渉の際,相手方から提示された の解析写真によ Intel 8088 Microprocessorり,同特許は無効である可能性が極めて高いと判断され,当該交渉における同特許に基づく主張を断念したこともある。 イ 本件第4特許発明の技術上の意義について近時,半導体集積回路の線幅のさらなる微細化に伴い,金属配線は平坦なシリケート酸化膜上に形成しなければならない状況になっており,本件第4特許発明は実施される状況にない。 ウ 本件第3特許発明の実施について) 原告は,被告の全メモリ製品及びマイコン製品のほか,大半のLSI a製品が本件第3特許発明の実施品であるなどと主張する。しかし,本件第3特許発明の構造は非常に限定されたものであるから,256K高速SRAM(型名・M5M5257BP/J,M5M5258BP/J)及び1MビットマスクROM(型名・M5M231000P,M5M231001P,M5M23C100P)のみが本件第3特許発明の実施品であるにすぎない。原告は,本件第3,第4特許発明がおよそ半導体製品全般において不可避な代替技術のない特許発明であると主張するが,これらの技術はいわゆる設計選択事項にすぎず,大半の被告製品では実施していないし,実施品は,いずれも原告が設計したものである。 特に,原告が指摘する各種MOS型半導体製品は,いずれもCMOSでP基板を採用しており,DRAM製品の構造と共通の構造となっているものである。 ) 本件第3特許発明は,金属パターン配線直下にフローティングな導体 b層を設け,これと金属パターン配線とを金属配線で接続することによって当該金属配線に「くぎ」のような働きをさせるというものである。同特許発明は,公告決定後の特許異議申立て(乙10の11の1)を受けた際の補正(乙10の13)により,その構成要件において「この導体層は上記釘状金属柱を介して上記金属配線のみに電気的に接続されている」という限定がなされており 「くぎ」の働きをする金属配線を固定 ,する導体層がフローティングになっていることが要求されている。本件第3,第4特許発明は,このような限定がなければ,公知技術(乙10の11の2及び3)が存在することにより,特許性が認められなかったのである。被告は,SRAM製品の設計においては,本件第3特許発明が出願される以前から,金属配線変形問題については,樹脂封止に使用する樹脂の粒径を管理すること,及び,ICの最外周辺に半導体基板と同電位の金属配線を結ぶコンタクトに「くぎ」の働きをさせることで対応していた(乙68 。したがって,被告のSRAM製品は,本件第3 )特許発明の出願以前から 「この導体層は上記釘状金属柱を介して上記 ,金属配線のみに電気的に接続されている」構造を有していなかったのである。なぜなら,もともとICの最外周辺に設けられた半導体基板と同電位の金属配線は,半導体基板電位の安定的供給の目的を有するが,それは同時に「くぎ」として金属配線変形防止手段にもなるからである。 仮に,本件第3特許発明のように,当該金属配線を半導体基板と電気的接続のないフローティングな導体層に接続したのでは,当該金属配線の本来の目的である半導体基板電位の安定的供給が果たせなくなるので,このような構造を採用することはない。 ) 256K高速SRAM以外のN基板に形成されたSRAMにおいて cは,金属配線及び複数の釘状金属柱は,半導体基板の基板電位を固定する役割を果たすものであり,複数の釘状金属柱は半導体基板に直接接合固定されており,本件第3特許発明における導体層に相当するものに接続固定されていないし,そのような導体層も存在しない。256K高速,, SRAM以外のP基板に形成されたSRAM 4MビットマスクROMDRAMにおいても,同様である。 エ 本件第4特許発明の実施について1MビットマスクROM(型名・M5M23100P,M5M231001P,M5M231000P)は,本件第4特許発明の実施品である。 もっとも,本件第4特許の公告日である平成8年11月14日以降の出荷は存在しない。 オ 以上のとおり,本件第3,第4特許発明を実施している被告製品は,256K高速SRAM及び1MビットマスクROMのみであり,これらの製品の本件第3特許の公告日(平成4年10月1日)以後の売上高総計は,1億8804万2000円である。もっとも,本件第1,第2特許について先に述べたとおり,被告の特許発明の実施分については,被告は独占の利益を得ていないというべきであるから,職務発明の相当の対価は認められない。 ( ) 争点2-4(包括クロスライセンス契約ないし包括ライセンス契約により 4得た利益の額)について(原告の主張)ア 本件第3特許の重要性について本件第3特許発明は,以下の各事情からすると,相手方他社により実施されていたこと及び同特許が本件各包括クロスライセンス契約において契約締結過程における代表特許となるなど,各契約締結に高く貢献した特許であることは明らかである。 ) 本件第3特許発明は,本件第1特許発明と同様に,被告及び他社の大 a半の半導体製品において実施されている極めて重要な基本特許発明である。原告は,被告在職時,高速SRAM各機種,マスクROM,フラッシュなどのメモリ製品開発,設計の責任者であり,各種製品の設計及び半導体製品の共通する設計方法や手法は十分に把握している。本件第3特許発明は 「金属くい打ち」の通称の通り,すべてのLSI製品に用 ,いられる金属配線を固定するいう技術的要素の強い特許発明であり,本件第1特許発明のように特定のフラッシュメモリ製品を対象とするものではない。 ) 本件第3特許発明については,国内特許のみならず,本件第3対応米 b国特許も成立している。被告は,他社との特許交渉において本件第3特許を活用しており,本件第3対応米国特許においては,A社から525万ドル,B社から600万ドル,C社から21億2500万円の実施料収入を得ている。被告は,本件第3特許発明の技術的範囲は非常に限定されており,被告においてもほとんど実施していないなどと主張する。 しかし,そのような限定された特許であれば他社との特許交渉において提示するはずもなく,また,他社から実施料収入を得ることも不可能である。 イ 本件第3特許発明ないし本件第3対応米国特許の実施について) 被告が本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方他社はすべ aてLSI製品を製造販売しており,本件第3特許発明を実施しているものである。また,先に述べたとおり,被告は,本件第3対応米国特許のライセンス契約により実施料収入を得ているのであるから,本件第3特許発明が実施されている可能性は極めて高いものである。 ) 他社製品の写真においては,本件第3特許発明を実施した痕跡が見ら bれる。例えば,平成10年3月に発行された「MPEG2システムLSI 「FUJITSU 2 ( , ) (甲51)に掲 」,」 VOL.49 No. 03 1998載された写真には,4辺の外側の周辺にある水平と垂直に配置された金属配線は,規則的な模様を有しており,富士通が本件第3特許発明の金属くい打ちを実施している可能性がある。また,平成8年に発行された「マルチカラーテレビ用BiCMOS信号処理IC 「東芝レビュー」7( ) (甲52)にも,4辺の外側の周辺にある水平 VOL.51 No. 1996」と垂直に配置された金属配線は,規則的な模様を有しており,本件第3。() 特許発明を実施している可能性がある インテルの製品の写真 乙60にも,金属配線を釘状にして下部と接続している無数のコンタクトホールが存在していることが確認できる。また,三星電子の製品写真(乙69添付資料)にも,本件第3対応米国特許である金属くい打ち技術が使用されている形跡が認められる。 ) 被告が作成した内部文書である甲13報告には 「@当社の基本特許 c ,は,モールド樹脂パッケージのすべての半導体装置に係る 「三星の。」製品がこの特許に抵触していることが判明し,三星と交渉中である 」。 などと記載されている。被告は,本件第3特許が基本特許であり,他社が実施していることを認識しており,実際に,三星電子とは包括クロスライセンス契約を締結している。したがって,三星電子以外の他の相手方についても本件第3特許発明を実施していることが推認されるのである。 そのほか 「IC Works社SRAM特許使用情報連絡」と題す ,る書面(甲35)には,相手方他社以外のICWorks社が本件第3特許発明を実施している旨の記載があるし「当社特許の他社使用例送 ,付の件」と題する書面(甲36)にも,同様に,モトローラ,サイプレス,ウイルボンドが本件第3特許発明を実施している旨の記載がある。 以上のとおり,本件第3特許発明については,相手方他社のみならず多数の実施の事実があり,相手方他社のいずれもが本件第3特許発明を実施していると推認される。 (被告の主張)ア 先に述べたとおり,本件第3特許発明の技術的範囲は極めて限定されたものであるが,この点をおくとしても,相手方他社は本件第3特許発明と。, は全く異なる手段を用いて金属配線変形問題の対策を講じている 例えば日立製作所は,金属配線変形対策として,@応力による配線のゆがみに起因する配線ショートに対しては配線上部の保護膜(ファイナルパシベーション膜)にP-SiNを適用し,機械的強度を上げること,Aファイナルパシベーション膜と,配線下の絶縁膜の接着強度を確保することで配線のゆがみを抑制すること,Bチップ周辺の金属配線の太さを限定する(幅広配線に対してはスリットで分断することで実質的な配線太さを制限する)ことで保護膜の変形,破壊を防止していたものであり,本件第3特許発明を実施していたわけではない(乙69。これらの技術は,業界の標準的 )技術として多くの半導体メーカーで採用されていた。日立製作所は,Bの技術について特許権を取得したが,当該特許は他社(インテル,三星電子他)の製品でも広く採用されていたのである。 イ 本件第3特許発明は,先に述べたとおり,技術的範囲が狭く,代替技術。, と比較して技術的に劣るものであると同業他社にも評価されていた また本件第3特許発明には,以下のデメリットが存在するため,他社が実施していた可能性は乏しいというべきである(乙70 。)) 半導体基板中のフローティングな不純物拡散層又は金属パターンと, a金属パターン配線とを接続するための穴(コンタクトホール)と,金属配線パターンとの間には,マスク合わせ時に生ずるずれを考慮した余裕をとる必要があるため,金属配線パターンを最小ピッチにできず,半導体素子の面積が大きくなり,経済的に不利である。 ,,, b) 金属配線パターンの下には MOSトランジスタのゲート ドレインソースといった電極や,多層配線製品では,下層の配線パターンが配置される。本件第3特許発明では,半導体基板中のフローティングな不純物拡散層又は金属パターンを配置しなければならず,パターン設計の自由度を大きく制限する。そのため,半導体素子の面積の増大につながり,経済的に不利である。 ) 半導体素子は,試作時点で,その論理の修正や特性の改善を金属配線 cパターンの修正で行うことが多いが,その際,修正するマスク層が,金属配線パターン層以外に接続穴(コンタクトホール)層及び半導体基板中のフローティングな不純物拡散層又は金属パターンの層の2層分多く必要になる。これは,試作期間の増大及び試作費用の増大をまねく。 ) 半導体基板中のフローティングな不純物拡散層又は金属パターンは, dそれぞれ物理的に容量を持つため,それらを接続した金属配線パターンの容量が増加し,半導体素子に応答速度の遅れや消費電力の増加をもたらす。 ウ 本件第3特許発明は,半導体装置の縦断面の構造に関するものであるから,同特許発明が実施されているか否かを確認するためには,半導体製品の断面の微細構造を解析し 「くぎ」に相当する金属配線があるか,それ ,を固定する導体層がフローティングになっているかを確認しなければならない。しかし,原告は,相手方他社の半導体製品が本件第3特許発明を実施しているか否かについて,的確な立証を行っていない。原告は,水平断面図等(甲35,36,42,51,52)を書証として提出するだけである。本件第3特許発明は,縦断面の構造に関するものであるから,コンタクトホールが接続している導電体層がフローティングになっているか否かについて,当該半導体製品の縦断面の詳細構造等に基づいて解析する必要があり,水平断面図によって本件第3特許発明の実施の有無を判断することはできない。 エ 原告は,本件第3対応米国特許が成立していること,A社ないしC社契約において現実に実施料収入を得ていることから,相手方他社が本件第3特許発明を実施しているものと推認されると主張する。しかし,本件第3対応米国特許が成立したことと,相手方他社が実施しているか否かは本来無関係である。本件第3対応米国特許が,ライセンス契約に基づく実績補償金の支払の対象になったからといって,直ちに相手方他社が実施している特許発明と即断することもできない。前記のとおり,被告は原則として特許交渉において用いられた特許を実績補償金支払の対象としていたものであって,実績補償金支払の事実をもって直ちに「他社が実施している特許」であることが帰結されるものでもない。また,本件第1,第2特許について述べたとおり,社内向けに知的財産活動をアピールする資料にすぎない甲13報告に基づいて,特許抵触性を判断することはできないことは当然である。実際に,甲13報告において侵害の疑いを指摘されたC社からは,C社クロスライセンス契約の交渉過程において本件第3対応米国特許は無効の可能性が高い旨指摘されたため,被告は,本件第3対応米国特許はC社に対する訴訟には使用できないと判断し,現に訴訟には用いられておらず,また,実績補償支払については,対象特許全42件中のうち,特許間分配率(頭割りであれば約2.4%)が0.44%としか評価されていないのである(乙24 。)オ 原告は,被告社内文書(甲35,甲36)を根拠に,本件第3特許発明については,多数の特許発明の実施許諾が認められるとも主張する。しかし,これらはいずれも社内的な権利帰属元部門が事業部門内の知財部門に対して自己の権利を売り込んでいる文書にすぎず,他社が実施している旨が記載されていたとしても,特許侵害の判断材料という意味においては,信頼性に乏しい。しかも,上記社内文書の実際の作成者は原告自身であると推測されるところ,記載内容も,当時の原告自身の一方的な主張にすぎないものである。なお,半導体メーカー毎に,また同じメーカーの製品であっても製品毎に製品の構造は異なるものであるから,全く異なる会社の,, 異なる製品について 原告の主張するような推認は成り立たないのでありそもそも原告の主張は失当である。 ( ) 争点2-5(相当の対価の額)について 5(原告の主張)ア 特許発明の実施について) 実施品売上額a@ 実施品売上額被告製品のうち,本件第3特許発明の実施品は,MOSロジック,MOSマイクロ,MOSメモリ(以下「MOS製品」という )であ。 。, () る MOS製品の売上げは 半導体の市場規模に関する資料 甲39に基づいて推測すると,1291億7535万8000円となる(なお,当該推計額は,本件第3特許の発明相互の分配率を20%であることを考慮して算出している 。。)A 独占寄与率 50%B 実施料率 3%C 発明者貢献度 60%D 共同発明者間の貢献度 70%本件第3,第4特許発明の発明者は,本件第3特許発明は,原告ほか2名,本件第4特許発明は,原告ほか1名とされている。しかし,いずれも原告が単独で発明し,出願関係書類も単独で作成したものである。共同発明とされたのは,被告における慣例により,同一業務者や上司が連名として記載されたからにすぎない。したがって,本件第3,第4特許発明の共同発明者間の貢献度は,原告が70%であるというべきである。 ) 具体的計算b以上より,被告の本件第3特許発明の実施に基づく相当対価の額は,少なくとも8億1380万4755円を下らない。 (計算式)1291億7535万8000円×50%×3%×60%×70%×100%=8億1380万4755円イ ライセンス契約について) ライセンス契約に基づく相当対価について a@ 算定方式,, ライセンス契約に基づく相当対価の算定においては 前記のとおり以下の計算式に基づいて算出されるべきである。 (計算式)相当対価=使用者が受けるべき利益の額×当該発明の貢献度×発明者の貢献度×共同発明者間における発明者の貢献度( ) A社クロスライセンス契約について i同契約においては,本件第3対応米国特許を含めて15件が対象特許であり,他社実績補償の基礎となる実施料相当額は,525万米ドルである。 同契約においては,本件第3対応米国特許は交渉の過程において代表特許としてプレゼンテーションに使用されており,これについてA社から特段の反論もなく契約の締結に至っていることからすれば,同契約において,本件第3対応米国特許の貢献は大きかったと推認される。また,同特許は,B社について侵害の疑いを指摘できたとされていること(乙13)からすると,A社についても侵害の可能性があり,貢献度が大きいというべきである。社内実績補償においても 「他社が実施している可能性がきわめておおきい (カ ,。 タログ,文献,新聞発表の傍証がある 」と評価されているもの 。)である。 したがって,本件第3対応米国特許の貢献度は,1割と評価すべきであるし,少なくとも対象特許数を等分した15分の1の貢献があったことは明らかである。 よって,A社クロスライセンス契約における本件第3対応米国特許の相当の対価は,6562万5000円であり,少なくとも4375万円は下らない。 被告による貢献度の評価は,各特許について,それぞれ100%を上限として評価しているため,いかに重要な特許であっても対象となった特許数によりその貢献度が少なく評価される結果となり,不当である。 (計算式 (525万米ドル×125円)×0.1=6562万5 )000円(計算式 (525万米ドル×125円)÷15=4375万円 )( ) B社ライセンス契約について ii同契約においては,本件第3対応米国特許を含めて24件が対象特許であり,他社実績補償の基礎となる実施料相当額は,600万米ドルである。 被告は,本件第3対応米国特許を,B社が侵害している疑いがある11件の特許の1つであるとしており,B社ライセンス契約における本件第3対応米国特許の貢献度は1割と評価すべきであるし,少なくとも被告が認めた1725分100の貢献度があったことは明らかである。よって,B社ライセンス契約における本件第3対応米国特許の相当の対価は,7500万円であり,少なくとも4347万8260円を下らない。 (計算式 (600万米ドル×125円)×0.1=7500万円 )(計算式 (600万米ドル×125円)×100÷1725=4 )347万8260円( ) C社クロスライセンス契約について iii同契約においては,本件第3対応米国特許を含めて42件が対象特許であり,他社実績補償の基礎となる実施料相当額は,3300万米ドル及び1700万米ドルである。 先に述べたとおり,本件第3対応米国特許は,B社では実際に侵害の疑いを指摘でき,被告社内でも「他社が実施している可能性がきわめておおきい 」と評価されていたものである。そして,C社 。 ,,,, は 三星電子であると推測されるが甲13報告において 同社は本件第3対応米国特許を侵害しているとして,被告において交渉中であると記載されている。以上からすると,C社に対する訴訟において本件第3対応米国特許が使用されなかったとは通常は考えられず,またライセンス契約の締結に当たり本件第3対応米国特許が被告が評価する程著しく低く評価されたとは通常は考えられない。したがって,C社クロスライセンス契約における本件第3対応米国特許の貢献度は1割と評価すべきであるし,少なくとも対象特許数で等分した42分の1の貢献度を有する。よって,C社クロスライセンス契約における本件第3対応米国特許の相当の対価は,6億25,。 00万円であり 少なくとも1億4880万9523円を下らない(計算式 (5000万米ドル×125円)×0.1=6億250 )0万円(計算式 (5000万米ドル×125円)÷42=1億4880 )万9523円( ) 発明者貢献度と共同発明者間の貢献度について iv前記のとおり,発明者貢献度は60%,共同発明者間の貢献度は70%というべきである。 したがって,これらを考慮すると,本件第3対応米国特許の相当対価は,3億2156万2500円であり,少なくとも9913万5869円を下らない。 (計算式 (被告が得た利益:A社6562万5000円+B社7 )500万円+C社6億2500万円=7億6562万5000円)×(原告の貢献度:60%)×(共同発明者間の原告の貢献度:70%)=3億2156万2500円(計算式 (被告が得た利益:A社4375万円+B社4347万 )8260円+C社1億4880万9523円=2億3603万7783円)×(原告の貢献度:60%)×(共同発明者間の原告の貢献度:70%)=9913万5869円) 包括クロスライセンス契約に基づく相当対価について b@ 相手方の売上高平成4年度ないし平成13年度の日本国内市場におけるMOS製品の総売上高は,合計2兆8414億円である(甲39参照 。本件)第3特許のMOS製品に対する寄与率は,少なくとも20%を下らない。そこで,MOS製品の総売上高に,20%を乗じた上で,相手方他社のシェア率を乗じて算出した売上高は,以下のとおりである。 富士通 1242億0707万5000円日立製作所 1242億0707万5000円東芝 1987億3132万円インテル 7750億5214万8000円三星電子 1738億8990万5000円ST社 2086億6788万6000円被告 1291億7535万8000円A 被告に本来支払われるべき実施料額被告は,本件第3特許について,本件各包括クロスライセンス契約がなければ,本来,各社の上記売上げについて,実施料を得られるはずであった。本件第3特許発明についての実施料率は,少なくとも3%を下らない。したがって,被告が各社から本来支払われるべきであった実施料額は次の通りである。 富士通 37億2621万2250円日立製作所 37億2621万2250円東芝 59億6193万9600円インテル 232億5156万4440円三星電子 52億1669万7150円ST社 62億6003万6580円合 計 481億4266万2270円B 本件第3特許についての包括クロスライセンス契約に基づく相当対価額前記のとおり,本件第3特許発明についての発明者である原告の貢献度は,少なくとも60%であり,共同発明者間における原告の貢献度は,少なくとも70%である。 したがって,本件第3特許についての本件各包括クロスライセンス契約に基づく相当対価は,少なくとも202億1991万8153円である。 ()() 計算式 被告が受けるべき利益:481億4266万2270円(原告の貢献度:60%)×(共同発明者間の原告の貢献度:70%)=202億1991万8153円(被告の主張)ア 本件第3特許発明の実施について前記のとおり,被告は,本件第3特許発明の実施に関しては独占の利益を得ていない。したがって,同特許発明の実施分については,職務発明の相当対価を算定する余地はない。 イ 本件第3特許発明の実施許諾について) ライセンス契約に基づく相当対価について a被告は,本件第3対応米国特許について,A社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約について他社実績補償の対象とした。 具体的補償金額は以下のとおりである。 @ A社クロスライセンス契約についてA社クロスライセンス契約においては,被告が実施料を支払う内容の契約であったが,各特許の存在により被告の支払額が軽減したものとして,525万米ドルが補償金算定の基礎となる金額とされた。その上で,支給総額は200万円とされ,全15件の特許における本件第3対応米国特許の貢献度は5%とされ,共同発明者である原告には3万3330円(平成13年度)が支払われた。 A B社ライセンス契約についてB社ライセンス契約においては,600万米ドルが補償金算定の基礎となる金額とされた。その上で,支給総額は400万円とされ,全24件の特許における本件第3対応米国特許の貢献度は1725分の100(約5.8%)とされ,共同発明者である原告には7万7330円(平成14年度)が支払われた。 B C社クロスライセンス契約についてC社クロスライセンス契約においては,3300万米ドル(41億2500万円)及び1700万米ドル(21億2500万円)が補償金算定の基礎となる金額とされた。その上で,支給総額は1000万円とされ,全42件の特許における本件第3対応米国特許の貢献度は0.44%とされ,共同発明者である原告には1万4600円(平成10年度)が支払われた。 原告は,C社が本件第3対応米国特許に抵触している旨被告において指摘されていた(甲13報告)し,被告がC社に対して提起した訴訟において同特許が用いられなかったはずがないとも主張する。しかし,甲13報告の記載は,十分な根拠に基づいて作成されたものではなく(乙64 ,本件第3対応米国特許は無効の可能性が高いと指摘 )されたことからC社との訴訟には使用していないことについては,先に述べたとおりである(乙13,67 。本件第3対応米国特許の価 )値が低いことは,このことからも明らかである。 C 発明者貢献度は,前記のとおり,1%程度にすぎない。また,原告は,本件第3特許発明は原告が一人で発明したものであり,発明者が連名となっているのは被告の慣例によるものにすぎないとも主張する。しかし,被告には発明者でないものを発明者として出願するという慣例などは存在しない。実際,本件第1,第2特許発明は原告のみを発明者として出願されているのである。さらに,他社とのライセンス契約においては,使用者の利益を算出する際に,ライセンスに要した諸費用として,ライセンス収入の少なくとも4分の1は控除されなければならないことは,本件第1,第2特許と同様である。 なお,原告は,被告による貢献度の評価は,上限を設定した上で評価しているため,いかに重要な特許であっても対象となった特許数によりその貢献度が少なく評価される結果となると主張するが,特許間における貢献度の差異は,他の特許との相対比較によるものであるから,対象となった特許数に応じて貢献度が少なく評価されることはむしろ当然である。また,原告は,B社について侵害の疑いを指摘できたとされていたことから,A社及びC社についても侵害の可能性が高く,本件第3特許の貢献度は大きいとも主張する。しかし,各社製品の構造も交渉過程も異なるのであるから,B社とのライセンス交渉における事情が他社との事案における貢献度を定める基準となるものではない。実際,日立製作所など,相手方他社において,本件第3特許発明及び本件第3対応米国特許を実施していないことが判明しているのである。 ) 包括クロスライセンス契約に基づく相当対価について b@ 本件各包括クロスライセンス契約においては,本件第1,第2特許と同様,本件第3,第4特許もいずれもその対象とされていたが,相手方他社との交渉において,本件第3特許を代表特許として提示して交渉したことはないか,少なくとも相手方に提示されるなどして,検討ないし評価の対象となったことをうかがわせる記録は一切存在しない。本件第3,第4特許発明は,業界において回避不可能な特許発明の一つとして広く認識されていたり,半導体について包括クロスライセンス契約を締結する際に,常に被告の主要特許の一つとして掲げられていたものでもないし,ライセンス契約締結の際に重要な役割を果たした特許の一つであったわけでもないことも同様である。 A 被告はA社クロスライセンス契約,B社ライセンス契約,C社クロスライセンス契約において,本件第3対応米国特許を交渉時に相手方,。 に提示し そのことを理由に原告に対して実績補償金を支払っているもっとも,A社クロスライセンス契約においては,本件第3対応米国特許を含めて被告が相手方に提示した15件の特許については,単にプレゼンテーションがなされたものの,実質的には特許交渉は行われていない。C社クロスライセンス契約においては,交渉過程で本件第3対応米国特許を提示して,相手方製品の抵触を主張してはいるが,対象製品がSRAMであり,C社のSRAMの売上げは少なかったため,現実には,本件第3対応米国特許が当該契約締結や対価条件に影響を与えてはいない。これらの契約においては,組織改編を控えて契約締結を急いでいたこと(A社)や,C社に対するその他の特許に基づく米国訴訟の存在などの事情が極めて重要な役割を有していたものである(乙13 。)ウ 具体的算定本件第3特許及び本件第3対応米国特許に関する相当対価は,A社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約の実施料収入に基づくもののみであり,次の計算式で算定される。 (計算式 (実施料総額-ライセンス費用)×特許間分配率×(1-被告 )貢献度)×発明者間の原告貢献度A社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約について,これら三つの契約を併せて,先に述べた各数値を当てはめると,相当の対価は合計26万円となる。 { 525万米ドル×3÷4)×50÷1000 (+(600万米ドル×3÷4)×100÷1725+(5000万米ドル×3÷4)×0.44÷100}×(1-0.99)×1÷3×125円=26万円(1万円未満四捨五入)(, ) 3 争点3 本件第5 第6特許発明等の特許を受ける権利の承継の相当の対価について( ) 争点3-1(特許発明の実施により得た利益の額)について 1(原告の主張)ア 本件第5特許発明の技術上の意義について) 本件第5特許発明は,マスクROM(NAND型)フラッシュメモリ aに関する基本特許である。マスクROMとは,シリコンの製造工程中に情報を記憶させることのできる半導体メモリ製品であるが,同特許発明は,大容量に適したNAND型マスクROMにおいて,メモリ構成・メモリ選択のためのビット線及びワード線のデコーダ方式とその回路に関する特許発明であって,NAND型マスクROMの微細化を図る過程において,メモリセル間隔の狭ピッチにおいても,メモリの選択デコーダの構成を可能としたものである。各社の4Mbit以上の大容量マスクROMは,NAND型メモリ構成を採用しているため,同特許発明のメモリ構成・デコーダ方式を実施している。被告も,同様に,4Mbit以上のマスクROM製品において,同特許発明を実施している。なお,NAND型マスクROMは,主として家庭用ゲームソフト,パチンコゲーム機,携帯電話及びパソコンの辞書機能等に用いられている。 ) 本件第5特許発明は,半導体メモリにおいて,共用のアドレスバッフ bァ回路からコモン・アドレス線及びセレクトゲート選択用デコーダ回路を介してビット線選択用セレクト・トランジスタのゲートを選択する信号を送るという簡素化した構成を実現したため,アドレスバッファ回路及びアドレス線が激減し,高集積化された不揮発性半導体記憶装置を得られるという作用効果を奏する。 イ 本件第6実用新案の技術上の意義について) 本件第6実用新案は,大容量に適したNAND型マスクROMの微細 a化を図る過程において,メモリセル間隔の狭ピッチにおいても,メモリの選択デコーダの構成を採用することを可能とするという効果を奏する。同実用新案の実施状況は,本件第5特許発明と同様である。 ) 本件第6実用新案は,いずれも,占有面積の低減化,製造の容易化, b高速化を可能とするという作用効果を奏する。 ウ 本件第5特許発明の特許発明の実施について本件第5特許発明は,大容量マスクROMの基本的メモリ構成となるNAND型マスクROMについて,そのメモリの選択方式(デコード方式)。, , や回路構成に関する基本的な特許であるしたがって 4MマスクROM8MマスクROM,16MマスクROMの3機種が本件第5特許発明の実施品である。被告が,製品売上高について,4MマスクROM,8Mマス,, クROM 16M マスクROMの売上高を開示していることからすれば同3機種が,本件第5特許発明の実施品であることを認める趣旨と解される。なお,被告が,本件第5特許発明の関連製品の生産を中止していることは争わない。 エ 本件第6実用新案の実施について本件第6実用新案の実施品は,4MマスクROMであり,8M以上のROMが実施品ではないとの被告主張は争わない。 オ 社内実績補償について本件第5,第6特許等については,被告による実施品の範囲には,当事者間に争いはない。被告が開示した売上高は,本件第5特許発明の実施品について75億9943万1000円,本件第6実用新案の実施品について21億3107万円にすぎない。しかし,被告が社内実績補償において算定の基礎とした実施高は,いずれも320億900万円となっているものであり,本件第5,第6特許等の相当対価は,明らかに既払いの実績補償額を上回るものである。 (被告の主張)ア 本件第5,第6特許等の技術上の意義について本件第5,第6特許等は,マスクROM(NAND型)の回路配置に関する発明及び考案である。これらは,マスクROMの回路配置の基本構造を示すものではなく,回路の簡素化を図って高集積化しようとするものに。, 。, すぎない したがって 原告が主張するような基本特許ではない しかも被告はマスクROM事業から既に撤退しているものである。 イ 本件第5特許発明の実施について本件第5特許発明は,マスクROMがその対象となるが,被告は平成7年度においてマスクROM事業から撤退しており,本件第5特許発明の登録日である平成8年5月17日以降はマスクROMを製造販売していない。したがって,本件第5特許発明の実施品は存在しない。 ウ 本件第6実用新案の特許発明の実施について原告は,本件第6実用新案は,4MマスクROM以上の製品に実施されていると主張する。確かに,4MマスクROMの構造は,本件第6実用新案の構成要件を充足する。しかし,被告は,本件実用新案の公告日である平成7年6月28日以後,同実用新案の実施品である4MビットマスクROMを製造,販売していない。また,8M(以上)マスクROMは,デコーダ回路のロードトランジスタをPチャネル型トランジスタで構成しており,本件第6実用新案の構成要件を充足しない。 ( ) 争点3-2(相当の対価の額)について 2(原告の主張)ア 実施品売上額などについて) 実施品売上額a被告製品のうち,本件第5,第6特許等の実施品の売上額は,少なくとも300億円である。 ) 独占寄与率 50% b) 実施料率 3%c) 発明相互の分配率 75% d) 発明者貢献度 40% e) 共同発明者間の貢献度 25% fイ 具体的計算,, , 以上より 被告の本件第5 第6特許等の実施に基づく相当対価の額は少なくとも3375万円を下らない。 (計算式)300億円×50%×3%×75%×40%×25%=3375万円(被告の主張)前記のとおり,被告は本件第5,第6特許等の公告日以前に,MASKロム製品の製造販売を中止しており,本件第5,第6特許等の実施品は存在しない。 4 争点4(消滅時効の成否)について(被告の主張)( ) 消滅時効の起算点について 1ア 職務発明の相当対価請求権についての消滅時効の起算点は,特段の事情のない限り,その原因たる権利の承継がなされた時点である。また,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。 イ 被告の社内規定(本件規程等)は,他社とのライセンス契約に関する実績補償について実績補償細則において定めているが,クロスライセンス契約については,被告の保有する特許権等と他社の権利とを交換して相互に無償実施許諾した場合には,相手方会社が被告の権利を実施した場合における権利存続期間中の実施料相当額(相互無償実施契約の交渉時に算出する被告による推定額)に一定割合を乗じた実施料収入額が一時にあったものとする旨が規定されている。もっとも,契約締結時点において存在しない権利(特許)が契約締結後に出願されて結果的に契約に含まれることになったとしても,これは当該権利が交換されて契約がなされたものではないので,そのような後日の出願を実績補償の対象とするものではない。 このように,本件規程等においては,契約締結後に特許出願されて結果として契約に含まれることになったとしても,当該契約について当該特許(出願)が実績補償の対象となることを規定していないのであるから,これについての相当対価請求権の消滅時効の起算点は,原則どおり権利承継時であり,遅くとも当該特許発明の出願時点が消滅時効の起算点になるというべきである。 また,本件規程等においては,他社実績補償算定に際して,みなし実施料収入ともいうべき金額について,相互無償実施契約の交渉時に算出された額に応じて,実施料収入額が一時にあったものとすると定めており,ある特許が実績補償の対象となるか否か,実績補償金として幾らの支払を受けるかは,契約締結時において定まり,以後改めて算定を行なうことについては規定も想定もされていない。したがって,クロスライセンス契約については,契約締結時点において実績補償の対象となるか否か,仮に対象となるとすれば支払を受ける金額が幾らであるかが定まるのであるから,計算期間が4月1日から翌年3月31日までの1年度で定められていることを考慮するとしても,遅くとも契約締結の直後の年度末(3月31日)が消滅時効の起算点となる。 なお,相当対価の支払いを受ける権利は,支払時期毎に消滅時効が進行するものであるから,契約毎に契約締結時期に応じて相当対価の支払時期が定まる本件においては,契約に応じて,それぞれ該当の支払時期毎に消滅時効が進行するものというべきである。 ( )ア インテル契約(本件第1特許及び本件第3特許)について 2本件第1特許及び同第3特許は,出願と同時にインテル契約の対象特許となったが,同契約締結は上記各特許の出願以前のことであり,本件規程等は,このような場合に上記各特許に対して実績補償を行うことについて一切規定していない。したがって,遅くとも各特許の出願時点が消滅時効の起算点となり,原告のインテル契約に関する本件第1特許及び本件第3特許に基づく対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。 イ 東芝契約(本件第1特許及び本件第3特許)についてインテル契約と同様,本件第1特許及び同第3特許は,その出願と同時に東芝契約の対象特許となったが,同契約締結は上記各特許の出願以前のことであり,本件規程等は,このような場合に上記各特許に対して実績補償を行うことについて一切規定していない。したがって,遅くとも各特許の出願時点が消滅時効の起算点となり,原告の東芝契約に関する本件第1特許及び本件第3特許に基づく対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。 ウ 富士通契約(本件第1特許及び本件第3特許)について本件第1特許は,契約発効と同時に契約対象特許となったが,本件規程等によると,遅くとも当該契約の発効日の直後の年度末である昭和59年3月31日の翌日が消滅時効の起算点となる。 また,本件第3特許は,出願と同時に契約対象特許となったが,当該契約締結は上記特許の出願以前のことであり,遅くとも当該特許の出願時点が消滅時効の起算点となる。 したがって,原告の富士通契約に関する本件第1特許及び本件第3特許に基づく対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。 エ ST社契約(本件第1特許及び本件第3特許)について本件第1特許及び本件第3特許は,契約発効と同時に契約対象特許となったが,遅くとも当該契約の発効日の直後の年度末である昭和63年3月31日の翌日が消滅時効の起算点となる。 したがって,原告のST社契約に関する本件第1特許及び本件第3特許に基づく対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。 オ 三星電子契約(平成3年2月26日付けの初回契約。本件第1特許及び本件第3特許)について本件第1特許及び本件第3特許は,初回契約の契約発効と同時に契約対象特許となったが,当該契約の発効日の直後の年度末である平成3年3月31日の翌日が消滅時効の起算点となる。したがって,原告の三星電子初回契約に関する本件第1特許及び本件第3特許に基づく対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。 ( ) 被告は,平成17年11月15日の本件第14回弁論準備期日において, 3上記消滅時効を援用した。 ( ) 時効の中断ないし援用権の喪失について 4原告は,被告が原告に対して相当対価の一部を支払っており,最終の支払が平成15年3月25日であるから,遅くとも同日には時効は中断し,ないしは被告は信義則上時効援用権を喪失したと主張する。しかし,相当対価の支払請求に関する消滅時効は,支払期限に応じて区々に進行するものであるところ,A社クロスライセンス契約ないしD社ライセンス契約に関する支払及び社内実績補償に関する支払のいずれも,被告が消滅時効を主張している各契約(インテル,東芝,富士通,ST社,及び三星電子〔初回契約 )に〕ついての相当対価ではないのであるから,これらの支払を理由として消滅時効が中断し,ないしは被告が信義則上時効援用権を喪失することはない。 (原告の主張)( ) 消滅時効の起算点について 1ア 職務発明の相当対価の支払時期については,特許法は何ら定めるところがないので,使用者会社も従業員発明者も,勤務規則等に定められた支払時期に従うことになり,このような定めは相当対価請求権を行使する上での法律上の障害となり,定められた支払時期が来るまで消滅時効は進行しない。 また,職務発明に基づく相当対価請求権は,実体法上1つの請求権である。したがって,消滅時効については,出願補償,登録補償及び実績補償ごとにそれぞれ時効が進行するのではなく,最後に支払時期が到来したものの支払時期から,一括して消滅時効が進行する。 イ 原告は,平成15年3月25日,被告から,本件規程等に基づき,本件第1,第2特許及び本件第3対応米国特許の相当対価の一部として,合計42万7330円の支払いを受けた。したがって,消滅時効は完成していない。 ウ 被告は,本訴請求のうち,本件各包括クロスライセンス契約に基づく相当対価請求権についてのみ,各社毎に個別に消滅時効が進行すると主張する。しかし,先に述べたとおり,特許法35条に基づく職務発明に基づく相当対価請求権は,実体法上1つの請求権であるから,実体法上1個の請求権の一部についてのみ個別に時効消滅しているとの主張は主張自体失当である。また,被告は,包括クロスライセンス契約締結後に出願された特許については,実績補償の対象にはならないとして,契約締結時に存在しない権利については規程がないから,権利承継時に消滅時効が進行するとも主張する。しかし,本件規程等においては,契約締結後に出願された特許発明も実績補償の対象になるものである。被告の主張を前提とすると,たまたま契約締結時に存在しないが,後に有効な特許として無償実施許諾契約に多大な貢献をしたとしても,契約締結時期いかんによって全く実績補償の対象にならなくなってしまうという,極めて不合理な結果が生じてしまうのである。本件規程等においては,契約延長の場合に関する定めがされており,契約延長により当該特許が契約対象になった以上,その権利の存続期間中は,本件規程等による実績補償の対象となり,支払時期の定めがあるものというべきである。被告の主張は,本件規程等を明らかに不当に解釈するもので,事実に反し,理由がない。 ( ) 時効の中断ないし時効援用権の喪失 2仮に,本件において,相当の対価の請求権について消滅時効が完成していたとしても,先に述べたとおり,被告は,平成15年3月25日,原告に対して合計42万7330円を支払っており,これは債務の承認に当たる。 よって,遅くとも平成15年3月25日には消滅時効は中断し,あるいは被告は信義則上時効援用権を喪失しているから,本件で消滅時効が完成していないことは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(本件第1,第2特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価)について( ) 争点1-1(相当の対価の算定)について 1原告は,本件第1,第2特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価について,特許発明の実施分及び特許発明の実施許諾分の双方に基づいて,「その発明により使用者が受けるべき利益の額」を算定し,相当の対価の請求をしている。当裁判所は,本件のような場合における特許法35条3項の「相当の対価」については,次のとおり算定すべきものと考える。 ア 特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益あるいは第三者からの実施料収入額による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難である(特許権の承継の場合においても,将来の利益の算定の困難さについて,程度の差こそあれ,同様の問題が生じ得る )ことからすると,当該発明の独占的実施による利益 。 を得た後,あるいは,第三者に当該発明の実施許諾をし,実施料収入を得た後の時点において,相当の対価を判断する場合に,これらの独占的実施による利益あるいは実施料収入額(いずれも経済情勢,市場の動向,競業者の存在等により,大きく変動する額である )をみて,その法的独占権 。 に由来する利益を認定することは,同条項の文言解釈としても許容し得る合理的な解釈である。上記「利益」を「その発明又は特許発明により使用者等が実際に受けた利益」から算定することは,これまでの多くの裁判例が採用している方法であって,合理的な算定方法の一つであるということができる。 イ 使用者等は職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくとも,当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により……受けるべき利益の」, , , 額 は 単なる通常実施権を超えたものの承継により得た利益 すなわち特許権による法的独占権又は特許を受ける権利については補償金請求権ないしはその登録後に生じる法的独占権に由来する独占的実施の利益あるいは第三者に対する実施許諾による実施料収入等の利益であると解すべきである。 ウ ここでいう独占の利益とは,@特許権者が自らは実施せず,当該特許発明の実施を他社に許諾し,これにより実施料収入を得ている場合における当該実施料収入がこれに該当し(なお,実施許諾契約のうち,包括クロス,) , ライセンス契約については 後記( )において詳しく論じるとおりである 4また,A特許権者が他社に実施許諾をせずに,当該特許発明を独占的に実施している場合における,他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基,, , づいて使用者があげた利益 すなわち 他社に対する禁止権の効果として他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して,これを上回る売上高(以下,売上げの差額を「超過売上げ」という )を得たことに。 基づく利益(以下「超過利益」という)が,これに該当するものである 。 ことは明らかである。 もっとも,特許権者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もしている場合については,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては,事案により異なるものということができる。すなわち,@特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,A当該特許の実施許諾を得ていない競業会社が一定割合で存在する場合でも,当該競業会社が当該特許に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,B包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が当該特許発明を実施しているか,あるいはこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,C特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施しているか等の事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである。 ( ) 争点1-2(特許発明の実施により得た利益の額) 2ア 被告の開放的ライセンスポリシーについて被告は,本件各包括許諾契約以外にも,希望する企業があれば,本件第1,第2特許を有償で実施許諾する開放的ライセンスポリシーを採用しており(甲2,乙1 ,D社ライセンス契約においても,本件第1特許発明 )を有償で実施許諾している(乙13 。)イ NOR型フラッシュメモリについてフラッシュメモリは,メモリセルの配列の仕方により,大別してNOR型とNAND型の2種類に分けることができ,2001年ころはまだNOR型が約90%のシェアを占めており,その後はNAND型が増加することが予想されていた(甲28,38 。被告は,このうちNOR型フラッ )シュメモリを製造販売しており,このNOR型フラッシュメモリを,さらに,フローティングゲート導電体層への電子の蓄積及び引き抜きの方法の差異により,狭義のNOR型,DINOR型,AND型,HND型,HF型などに分類している(乙37,44,弁論の全趣旨 。)ウ 本件第1特許発明について本件第1特許の出願過程は以下のとおりである(乙8,29 。)昭和57年1月12日 出願昭和63年11月26日 審査請求平成2年8月15日 拒絶理由通知平成2年11月1日 意見書及び手続補正書提出平成3年2月1日 拒絶査定平成3年4月3日 審判請求平成3年4月25日 審判請求理由補充書及び手続補正書提出平成4年3月17日 審判官より拒絶理由通知平成4年6月1日 意見書及び手続補正書提出平成4年12月18日 出願公告平成5年3月17日 NECより特許異議の申立て平成5年9月24日 特許異議答弁書及び手続補正書提出平成6年3月23日 審判官より特許法36条に基づく拒絶理由通知手続補正書提出平成6年5月26日 審決及び特許異議の決定本件第1特許発明は,当初,原告から被告に対し,書き込みと消去を別々のトンネル酸化膜で行う半導体不揮発性記憶装置に関する発明として提案された(原告が被告に提出した発明・考案の届け書(乙45)には,発明の考案の目的と要旨には 「トンネル注入現象を利用したEEPROM ,の書換え回数向上,信頼性向上のため『書き込み』と『消去』を別々の 。 トンネル酸化膜にて行うようにした。適用機種名『EEPROM/EPROM』と記載されており,出願当初の明細書においても,同様に記載された(乙8の1,乙45 。しかし,出願過程において,特許庁審判官よ )。)り拒絶理由通知が出され(乙41の1,進歩性を欠く旨の指摘がされた )ことから,被告においては,原告も参加した権利化検討会が平成4年5月22日に開催され(乙46 ,フローティングゲート導電体層直下の第1 )絶縁膜をすべて10〜300Åの厚さとした上で,さらに,書き込み時及び消去時における制御ゲート導電体層,ドレイン不純物拡散層の電位関係を規定した書き込み,消去方法の発明として権利化する方針が決定され,その旨の手続補正書及び意見書が提出されたため(乙41の2 ,出願公)告に至っている。また,出願公告後,NECからの特許異議の申立てに対応するために,再び原告も参加した権利化検討会が平成5年9月6日に開催され(乙47 ,特許異議の申立てにより指摘された公知技術に対する )本件第1特許発明との相違点を見い出すために,書き込み時にフローティングゲートの片側のみを使用することを明確化するため 「他方の不純物,拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層への電子の注入がなく」との補正を行った結果として,特許査定すべき旨の審決及び特許異議申立ては理由がない旨の決定がされたものである。 本件第1特許発明は,上記認定のとおり多数回の補正を経て,特許請求の範囲の記載が,特定の構造のNOR型フラッシュメモリにおける特定の電子の書き込み及び消去方法を対象とする特許発明として登録されたものであることが,その出願経過と特許請求の範囲(請求項1)自体から明らかである。 すなわち,本件第1特許発明は,電子の書き込み時においては,ソース不純物拡散層とドレイン不純物拡散層のうち 「他方の不純物拡散層側に ,位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電層への電子の注入がなく,上記一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を通り抜けさせて上記フローティングゲート導電層に電子を蓄積させ (請」求項1)るものであり(その実施例としていわゆるトンネル現象を生じさせるものが開示されている ,その消去時においては 「上記制御ゲート 。),導電体層に接地電位を印加するとともに上記ドレイン不純物拡散層及び上記ソース不純物拡散層の他方の不純物拡散層に正の電位を印加し,かつ,上記一方の不純物拡散層の電位を……電子の移動が生じない電界となす電位として,上記一方の不純物拡散層側に……電子の引き抜きがなく,上記他方の不純物拡散層と上記フローティングゲート導電体層の間に介在する上記第1の絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電」() 体層に蓄積された電子を上記他方の不純物拡散層に引き抜く 請求項1との方式に限定されているのであるから,不揮発性記憶装置におけるフローティングゲート導電体層への電位の印加の方法,これにより異なってくる電子の書き込み又は消去の方法を上記のとおり特定したものであることは明らかである。 したがって,本件第1特許発明は,主として広義のNOR型フラッシュメモリに利用されるものであるが,広義のNOR型フラッシュメモリについても,次に述べるとおり,本件第1特許発明の技術的範囲に属しないものが多い。すなわち,NOR型フラッシュメモリといっても,フローティングゲート導電体層並びにソース及びドレイン不純物拡散層のそれぞれにどのような電圧を印加するかにより,フローティングゲート導電体層への電子の蓄積及び同導電体層からの電子の引き抜きの方法が様々に異なるものとなるのであり,本件第1特許発明は,このうちその特許請求の範囲に記載された特定の方法のみについて特許を受けたものである。例えば,@電子引き抜き時に,制御ゲート導電体層に負電位を印加するNOR型フラッシュメモリは,本件第1特許発明の「制御ゲート導電体層に接地電位を印加し」との構成を具備せず,A電子の蓄積をソース及びドレイン不純物拡散層並びにその間のチャネルからその上方の絶縁膜を通り抜けさせてフローティングゲート導電体層に電子を蓄積させる方式のNOR型フラッシュメモリは,本件第1特許発明の「上記他方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電層への電子の注入がなく,上記一方の不純物拡散層側に位置する上記絶縁膜を通り抜けさせて上記フローティングゲート導電体層に電子を蓄積させ」との構成を具備せず,また,Bフローティングゲート導電体層からソース不純物拡散層及びチャネルの上方の絶縁膜層を通り抜けさせて電子引き抜きを行う方式のNOR型フラッシュメモリは,本件第1特許発明の「上記一方の不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子の引き抜きがなく,上記他方の不純物拡散層と上記フローティングゲート導電体層との間に介在する上記第1絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電体層に蓄積された電子を上記他方の不純物拡散層に引き抜くこととの構成を具備しないのである 乙 」(2。)エ 被告の本件第1特許発明の実施について) 被告が製造販売している狭義のNOR型,及び被告が分類するところ a,,, , のDINOR型 AND型 HND型HF型フラッシュメモリのうち本件第1特許発明の技術的範囲に含まれるものは,狭義のNOR型フラッシュメモリだけであり,その余のNOR型フラッシュメモリ(DINOR型,AND型,HND型,HF型フラッシュメモリ)は,本件第1特許発明の技術的範囲に含まれないものと解すべきである。すなわち,被告が製造販売しているNOR型フラッシュメモリのうち,DINOR型,AND型,HND型及びHF型は,いずれも,電子引き抜き時に,制御ゲート導電体層に負電位を印加するものであり,本件第1特許発明の「制御ゲート導電体層に接地電位を印加する (請求項1)との構成 」を具備しないものであることは明らかである(乙37,39,40,42,44,弁論の全趣旨 。)なお,原告は,本件第1特許発明における「接地電位」とは,基準電位であり,負電位も含むものであると主張する。しかし 「接地電位」,とは,基本的には大地の電位であり,0Vを意味する(培風館「物理学辞典 (乙30 ,オーム社「応用物理用語大事典 (乙31 ,岩波書 」) 」)店「理化学辞典第4版 (乙32 ,オーム社「OHM電気電子用語事 」)典(乙33 。また,被告は,本件第1特許の出願過程において,特 )許庁審判官からされた拒絶理由通知書(乙41の1)において 「半導,体基板,ソース領域及びドレイン領域にトンネル絶縁膜を備え,フローティングゲート電極及び制御電極を有し,トンネル効果を利用する半導体不揮発性記憶装置において,書き込みをドレイン領域,又はソース領域で行い,消去をソース領域,又はドレイン領域で行うことは,上記第。」 1〜4引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到しうることであるとされたことに対して,意見書(乙41の2)において,本件第1特許発明は,接地電位を印加することにより,負電位を必要とせず,それ程高電位を必要としない旨主張すると共に,手続補正書(乙8の9)を提出し,請求項に「制御ゲート導電体層に接地電位を印加する」との文言を追加した補正をしている。したがって 「接地電位」が負電位を含む ,ことを前提とする原告の主張は,上記文献の記載に反するだけでなく,上記出願の経緯に照らしても,採用することはできない。なお,接地電位は,基準の電位にある導体,あるいは容量の大きい導体に接続することを意味することもある(乙32,33)ものの,前記のような出願の経緯及び本件第1特許の明細書には,基準電位が負電位も含む趣旨の記載がないことからすれば,本件第1特許発明における「接地電位」については,少なくとも前記に認定したNOR型各フラッシュメモリにおいて,制御ゲートに負電位を印加する構成のものを含むものと解することはできない。 ) 原告は,NOR型フラッシュメモリにおいて制御ゲート導電体層に負 b電位を印加するものは,本件第1特許発明の「制御ゲート導電体層に接地電位を印加する (請求項1)との構成と均等である,と主張する。 」しかし,本件第1特許発明における「接地電位」との構成は,前記ウ認定の経緯により,拒絶理由通知を受けた後,補正により本件第1特許発明の構成として追加された構成であるから,この構成に関する原告の均等の上記主張は,その出願の経緯に照らし,認めることができないものであることは明らかである。 ) 被告のフラッシュメモリ事業は,1997年(平成9年)までは事業 cシェアも低く,連続して赤字であったものの,1997年(平成9年)に事業化したMCP製品(DRAM若しくはSRAMとDINOR型フラッシュメモリをワンパッケージにした商品)がワンパッケージにより大幅に省スペースを実現した点が顧客に評価され,1998年(平成10年 度以降 大きく売上げを伸ばし始め市場シェアが1996年 平 ), , (). , ( ). 成8年 には0 6%であったものが 1997年 平成9年 には36%,1998年(平成10年)には6.7%,1999年(平成11年)には15.5%,2000年(平成12年)には18.0%,2001年(平成13年)には15.8%と3年連続して業界2位となり,2002年(平成14年)には11.1%(業界5位)となっていったこと(乙36,37 ,及び,このMCP製品は,被告が製造販売する )NOR型フラッシュメモリのうち,その売上げに占める割合が,1998年(平成10年)で75.9%,1999年(平成11年)で90.5%,2000年(平成12年)で93.8%,2001年(平成13年)で98.1%であったこと(乙36,37 ,並びに,このMCP )製品は,DINOR型フラッシュメモリであるから,前記のとおり本件,, 第1特許発明の実施品とはいえないものであることからすれば 被告は狭義のNOR型フラッシュメモリについてのみ本件第1特許発明を実施しているだけであり,かつ,被告が製造販売した狭義のNOR型フラッシュメモリの売上額は,被告が製造販売した,その余の広義のNOR型フラッシュメモリの売上額に比べ僅かであるものと認められる。なお,被告が製造販売した,制御ゲートに電子引き抜き時に「接地電位」を印加するタイプのNOR型フラッシュメモリには,電子引き抜き時に,ソースに印加された高電圧により,ホットホールが発生しやすく,それが( )問題を引き起こしたり,また,単一電源化あるいは DL Data Loss低電圧化できないなどの技術的問題があったため,このような制御ゲートに「接地電位」を印加するタイプの狭義のNOR型フラッシュメモリは,被告において量産されなかったものである(乙44,50ないし53,64 。)オ 被告の本件第2特許発明の実施について,, 本件第2特許発明は DINOR型をその技術的範囲に包含させるため本件第1特許発明から分割出願されたものである。しかし,被告が製造販売しているNOR型フラッシュメモリについては,このDINOR型も含め,狭義のNOR型,AND型,HND型及びHF型フラッシュメモリのいずれも,本件第2特許発明の技術的範囲に含まれるものと解することはできない。すなわち,被告が製造販売するDINOR型及びHF型は,電子注入時に,ソース及びドレイン不純物拡散層が同電位となるため,ソース不純物拡散層,チャネル領域及びドレイン不純物拡散層とフローティングゲート導電体層との間に介在する第1絶縁膜のトンネル現象により電子が蓄積されるものであり 乙39 40 42 この点が 同発明の 上 ( ,,),,「記ドレイン不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜を介して上記フローティングゲート導電体層への電子の注入がなく,上記ソース不純物拡散層側に位置する上記第1絶縁膜のトンネル現象によって上記フローティングゲート導電体層に電子を蓄積させ」との構成要件を充足せず,同じくDINOR2型も,フローティングゲートへの電子の蓄積方法が「チャネルホットエレクトロン方式」であるため,同発明の「トンネル現象」による電子蓄積方法との構成を具備しないものである。また,その余のフラッシュメモリが本件第2特許発明の技術的範囲に属しないことは原告も認めるところである。したがって,本件第2特許発明については,その特許権者である被告自身が,同発明を実施していないのであるから,被告が本件第2特許発明により,何らかの超過売上げを得たものとみることができないことは明らかである。 カ 本件各包括クロスライセンス契約と相手方他社の実施状況について) 本件においては,前提となる事実において認定したとおり,被告は, a,, , , , ( ) 富士通 東芝 インテル 日立製作所 三星電子 ST社 相手方他社との間で本件各包括クロスライセンス契約を締結しており,本件第1,第2特許も各契約の対象に含め,これを相手方他社に実施許諾をしてきた。これらの相手方他社は,いずれもフラッシュメモリの分野における有力企業であり,相手方他社と被告のフラッシュメモリの市場における市場占有率も高い(本件第1特許が登録された平成6年における相手方他社及び被告のフラッシュメモリの日本市場における市場占有率は合計58 3% 被告分5% 平成7年の市場占有率合計は64 8% 日 .( ),.(立製作所を除く。被告分0.8% ,本件第2特許が登録された平成8 ).( 。 . ), 年の市場占有率合計は48 4% 日立製作所を除く 被告分0 6%平成9年の市場占有率は合計65.6%(被告分3.6% ,平成10)年の市場占有率合計は78.1%(被告分6.7% ,平成11年の市)場占有率合計は77.2%(被告分15.5% ,平成12年の市場占 )有率合計は75.9%(被告分18% ,平成13年の市場占有率合計 )は76.8%(被告分15.8% ,平成14年の市場占有率合計は9 )2%(被告分11.1%)にものぼるものである(乙36,37 。)。)) 相手方他社の実施状況 b本件各包括クロスライセンス契約の相手方である富士通あるいはその系列のFASLは,フラッシュメモリの市場において,1995年(平成7年)から2002年(平成14年)まで,常に業界トップのシェア(30%前後)を占めてきたものである。しかし,その製造販売するNOR型フラッシュメモリは,フローティングゲート導電体層から電子を引き抜く時に制御ゲート導電体層に負電位を印加するものであるため(乙54 ,同製品は本件第1特許発明の「制御ゲート導電体層に接地 )」() 。, 電位を印加し との構成を具備しないものである 乙2 したがって富士通ないしFASLは,被告と包括クロスライセンス契約を締結しているものの,本件第1特許発明を実施していないものである。 NOR型フラッシュメモリにおいて,電子引き抜き時に,制御ゲート導電体層に負電位を印加するものが主流となっていったこと,及び,被告と本件包括クロスライセンス契約を締結しているその余の相手方他社が,本件第1特許発明を実施していると認めるに足りる十分な証拠がないことは後記( )認定のとおりである。 4キ 以上によれば,被告は,NOR型フラッシュメモリを製造販売していたものの,自らも,本件第1特許発明を狭義のNOR型フラッシュメモリにおいてのみ実施し,その余の主力のNOR型フラッシュメモリであるDINOR型,AND型,HND型及びHF型については,本件第1,第2特許発明のいずれも実施していなかったものであり,また,有力なフラッシュメモリの製造販売業者6社と包括クロスライセンス契約を締結し,同発明も含め包括的に実施許諾していただけでなく,希望する企業には有償で実施許諾をする開放的ライセンスポリシーを採用しており,現にD社とは包括的ライセンス契約を締結していたものであること,さらに,本件第1特許発明の電子の蓄積及び引き抜きの方法は,NOR型フラッシュメモリにおける,複数ある代替技術の一つにすぎず,本件第1特許発明に代わる有力な代替技術が存在しており,本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方他社も,本件第1特許発明の代替技術を実施していたことからすれば,フラッシュメモリ業界の企業のうち,一部の企業において被告から本件第1特許発明の実施許諾を受けていない企業が存在していたとしても,その企業は,本件第1特許発明に代わる有力な代替技術を用いてNOR型フラッシュメモリを製造販売することができたのであるから,これらの企業が,被告から本件第1特許発明の実施許諾を得られなかったため,NOR型フラッシュメモリを製造販売することができなかったとか,被告が本件第1特許の禁止権の行使により超過売上げを得ていたと認めることはできない。 また,本件第2特許発明については,被告はそもそも本件第2特許発明を実施していなかったのであるから,これについて自己実施により得た利益を認めることもできない。 ク ) 原告は,特許発明の実施許諾・特許発明の実施の双方をしている場 a合,すなわち競合他社の一部には実施許諾し,同時に特許発明の実施もしている場合であっても,特許権者は,特許発明の実施許諾により実施料収入を得る一方で,それ以外の第三者に対しては実施をさせないという排他的地位を有しているから,独占による利益の算定が困難であったとしても,使用者が独占的利益を得ている以上,相当の対価が算定されるべきものである,特許発明の実施許諾をしているからといって,特許発明の実施についての売上げがすべて通常実施権に基づく利益であるとはいえない,と主張する。 確かに,特許権者が競業他社の一部に実施許諾をし,他には実施許諾をしない方針をとっている場合には,他社に対しては特許権の禁止権を行使しているとみることができる。しかし,すべての競業他社が実施許諾を求めるような特許発明であるならば,一部の企業のみに実施許諾をし,他社には禁止権を行使しているとみることができるとしても,特許権者がすべての会社に実施許諾をする方針を採用しているにもかかわらず,代替技術があるため実施許諾を必要としない競業他社が複数社存在することはしばしばあることであり,すべての競業他社に実施許諾をしなければ,直ちに特許による禁止権を行使しているとか,特許発明の実施の一部において独占的利益を享受しているとかみることは相当ではない。本件のように,被告が開放的実施許諾の方針を採用しており,複数,, , の有力企業に実施許諾をしていて なおかつ 有力な代替技術も存在し特許権者自らも特許発明に代わる代替技術を実施しているような場合には,競業他社の一部が本件第1特許発明の実施許諾を受けていないとしても,これをもって,これらの企業に対し本件第1,第2特許の禁止権を行使し,これにより被告がその特許発明の実施について独占的利益を享受しているとみることはできない。原告の主張は採用することができない。 ) 被告は,本件第1特許の登録時,複数の新聞発表(甲2)を行ってお bり,それらには,原告が指摘するとおり,被告自ら本件第1特許がフラッシュメモリに関する基本特許であると発表しており,中には,知的財産渉外部長が取材に応じ 「現在あるフラッシュメモリーの製造方法の ,大半をカバーする基本特許だけに反響は大きかった……当時はフラッシュメモリーという言葉すらなかったので,今考えても先駆的な発明だったと自負している……今回の特許成立で,相当の特許収入が見込めるのは間違いないだろう」と発言しているのもある。また,被告は,平成6年12月19日付けの知的財産センター月報(甲12)において,本件,「()」, 第1特許を フラッシュメモリー基本特許 甲 特許 取得 として A。, , 社内においても発表している しかし本件第1特許を取得した当時は被告が同特許を基本特許と考えていたとしても,本件第1特許発明がNOR型フラッシュメモリのうち,特定の構造,特定の電子の蓄積及び消去方法により限定された特許発明であり,有力な代替技術が存在していたこと,並びに,被告が,本件第1特許を取得したころには既に,本件第1特許発明を実施した狭義のNOR型フラッシュメモリには,DL( )問題などが生じていたため,その改良としてDINOR Data Loss型フラッシュメモリを開発し,これを主力商品のMCP製品として製造販売していったことは前記認定のとおりであり,被告が上記のような新聞発表を行ったことをもって,本件第1特許を基本特許であるということはできない。 また,原告は,被告が,本件第1特許について,社内実績補償した際に基礎としたNOR型フラッシュメモリの売上高を根拠として,本件第1特許発明は,被告が製造販売した多数のフラッシュメモリ製品に実施されていると主張する。しかし,当該売上高は,被告が,従業員の発明に対するインセンティブを確保するため,あるいは,多数の権利(年間約1万5000件)を効率的に調査するため,被告の知的財産センターに対し毎年6月ころに各製作所・研究所の知的財産部門に前年度の特許発明の実施分に関するデータ調査を依頼し,各製作所・研究所の技術部門(発明者)による回答につき,特許部門が厳密に調査しないまま,明確な誤りがない限り技術部門の判断を尊重して売上高が認定される取扱いがされていたのであり 乙12 64 実際に 原告が作成した 国 (,),, 「内権利の実施状況調査表 (乙15〜18)における売上高を前提とし 」。, て特許発明の実施分の売上高が認定されているものである したがって被告が十分な調査を経ないで,社内実績補償に用いた,NOR型フラッシュメモリの売上げ高に関する資料を根拠として,本件第1特許発明の実施の状況を認定することはできない(乙12 。)( ) 争点1-3(包括ライセンス契約により得た利益の額)について 3特許権者が単数又は複数の特許について競業他社とライセンス契約を締結した場合,当該契約により得られる実施料収入は,当該特許に基づいて使用者が得る独占の利益であるというべきであるから,これを特許法35条4項の「その発明により使用者が得ることができる利益の額」とみることができる。 もっとも,複数の特許発明がライセンス(実施許諾)の対象となっている場合には,当該発明により「使用者が受けるべき利益の額」を算定するに当たっては,当該発明が当該ライセンス契約締結に寄与した程度を考慮すべきである。 被告は,D社との間で,本件第1特許を含む12件の特許についてライセンス契約を締結しており,これによりD社から1億5000万円の実施料収入を得ている(乙13 。したがって,被告が同ライセンス契約にお )いて,本件第1特許発明により得た利益の額は,同発明がライセンス契約締結に寄与した程度を考慮して決定すべきである。 ( ) 争点1-4(包括クロスライセンス契約により得た利益の額)について 4ア 包括クロスライセンス契約により得た利益の額について包括クロスライセンス契約は,当事者双方が多数の特許発明等の実施を相互に許諾し合う契約であるから,当該契約において,一方当事者が自己の保有する特許発明等の実施を相手方に許諾することによって得るべき利益とは,相手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施することができること,すなわち,相手方に本来支払うべきであった実施料の支払義務を免れることであると解することができる。もっとも,包括クロスライセンス契約は,相互に実施を許諾し合う合意のほかに,相手方に本来支払うべき実施料債務と,相手方から本来受け取るべき実施料債権とを,事前の包括的な相殺の合意により相殺する契約であると解することもできるものである(したがって,両者が有している特許等の間でバランスが取れないことが,契約締結時に明らかである場合には,一方から他方にいわゆるバランス調整金が支払われることになる 。そして,合理的な取引を行うこ 。)とが期待されている営利企業同士の契約である以上,特段の事情が認められない限り,相互に実施料の支払を生じさせない包括クロスライセンス契約においては,相互に支払うべき実施料の総額が均衡すると考えて契約を締結したと考えるのが合理的であるから,包括クロスライセンス契約においては 「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については, ,相手方が自己の特許発明を実施することにより,本来,相手方から支払を受けるべきであった実施料を基準として算定することも,合理的である。 もっとも,両者が有している特許間で均衡が成立していない場合には,一方から他方に調整金が支払われることがあるため,その場合には,当該調整金額を相当対価の算定においても考慮することになる。 そうすると,包括クロスライセンス契約については,相手方が当該発明の実施に対するものとして支払うべきであった実施料の額を算定することも,使用者等が相手方の複数の特許を実施することにより本来支払うべき実施料の額に,相手方に実施を許諾した複数の特許発明等における当該発明の寄与率を乗じて算定することも,いずれも「使用者が受けるべき利益の額」を算定する方法として採用することが可能である。そして,多数の特許発明等の実施が包括的に相互に許諾されている契約における「その発」, 明により使用者等が受けるべき利益の額 の主張立証の困難性を考えると当該事案において,実際に行うことが可能な主張立証方法を選択することが認められるべきである。 ただし,その場合でも,包括クロスライセンス契約においては,契約期間内に相手方がどの特許発明等をどの程度実施するかは,互いに不確定であり,契約締結時においては,あくまでもお互いの将来の実施予測に基づ,,, いて 互いの特許等を評価し合うことにより契約を締結するものであるということからすれば,相手方が本件各特許発明を実施することにより被告に対し本来支払うべき実施料の金額と,被告が相手方の複数の特許を実施することにより本来支払うべき実施料の額に,被告が相手方に実施許諾した複数の特許発明等全体における本件各特許発明の寄与率を乗じた金額とが同じになるとは限らない,との不確実性が常に生じ得るのである。包括クロスライセンス契約における「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,厳密には,後者の方法により算定した金額であり,前者の方法により算定した金額ではないこと(合理的な営利企業同士は,相互に支払うべき実施料の総額の均衡を考えるはずであるものの,結果として,相互に支払うべき実施料の総額が同じになるとは限らないこと)からすれば,前者の方法により算定する場合には,上記の不確実性を考慮して,前者の方法により算定される金額を事案に応じて減額調整して 「その発明,により使用者等が受けるべき利益の額」を算定すべきである(民訴法248条参照 (東京高判平成16年1月29日参照) )。 イ 半導体業界における包括クロスライセンス契約において半導体製品に関しては,複数の有力メーカーが,材料,製造方法(プロセス ,構造,回路,アセンブリ等,多岐にわたる特許を多数保有してい )るため,各メーカーは,他社の保有する特許権を実施することなく製品を製造・販売することは困難であり,そのため,自らの事業を安定的に営むことを目的として,ある一定期間中に保有・取得する半導体関連特許全体(その数が数千件ないし1万件を超える場合もある )を相互に許諾し合。 う包括クロスライセンス契約を締結することが多い(乙55,56 。)現に,被告が有していた半導体部門の特許権及び登録実用新案は,本件第1特許が登録された平成6年においては日本特許等1554件,外国特許3657件,合計5211件,本件第2特許が登録された平成8年においては日本特許等3284件,外国特許5461件,合計8745件,平成11年においては日本特許等3311件,外国特許7965件,合計1万1276件であった(乙56,58 。)このような包括クロスライセンス契約を締結する場合,その交渉において,多数の特許のすべてについて,逐一,その技術的価値,実施の有無などを相互に評価し合うことは不可能であるから,相互に一定件数の相手方が実施している可能性が高い特許や技術的意義が高い基本特許を相手方に提示し,それら特許に相手方の製品が抵触するかどうか,当該特許の有効性及び実施品の売上高等について協議することにより,相手方製品との抵触性及び有効性が確認された代表特許と対象製品の売上高を比較考慮することにより,包括クロスライセンス契約におけるバランス調整金の有無などの条件が決定されるものである。したがって,包括クロスライセンス契約は,同業他社の特許権を侵害する危険性を回避し,安定的に製品を製造販売する目的のみならず,相手方が保有する多数の特許に関する調査や評価を経ることなく,継続的なライセンス契約を実現するという目的をも有するものである。 そうすると,半導体の業界のように,数千件ないし1万件を超える特許が対象となる包括クロスライセンス契約においては,相手方に提示され代表特許として認められた特許以外の特許については,数千件ないし1万件を超える特許のうちの一つとして,その他の多数の特許と共に厳密な検討を経ることなく実施許諾に至ったものというべきであるから,このような特許については,当該包括クロスライセンス契約に含まれている特許の一つであるというだけでは,相手方が特許発明を実施していたと推定することはできないことは明らかである。これらの特許発明は,包括クロスライセンス契約の締結に貢献のあった代表特許でもなく,また,相手方が実施していることが立証された特許(このような特許は,その後のライセンス契約の更新時において代表特許として協議される可能性がある )でもな。 いのであるから,包括クロスライセンス契約において,何らかの貢献があったものということはできない。すなわち,これらの特許については,包括クロスライセンス契約の対象特許である以上,同契約締結における何らかの貢献度を認める余地があるとしても,それは,代表特許による貢献度あるいは相手方実施特許による貢献度を除いた残余の貢献度にすぎないものであり,そして,この残余の貢献度については,代表特許及び相手方実施特許の貢献度が契約対象特許の貢献度のほとんどを占めるものと評価すべきことが多いこと,並びに,代表特許及び相手方実施特許を除いたライセンス対象特許の数が上記のとおり極めて多いことからすれば,個々の代表特許でも相手方実施特許でもないライセンス対象特許の貢献度は,半導体関連特許の包括クロスライセンス契約においては,無視し得る程度に小さいものであるということができる。したがって,半導体業界における包括クロスライセンス契約においては,代表特許及び相手方実施特許を除いたライセンス対象特許については,実質的には,包括クロスライセンス契約締結に寄与したものということはできず,特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が存するものとは認めることは事実上困難である。 ウ 本件各包括クロスライセンス契約において,本件第1,第2特許発明により「使用者等が受けるべき利益の額」について) 被告と相手方他社との本件各包括クロスライセンス契約は,次のとお aりであり,各契約締結時において,本件第1,第2特許が相手方に提示され,代表特許として認められたことはない。 @ *****契約(乙57の1,乙76)( ) *****契約の有効期間は,1996年(平成8年)4月1 i日から2001年(平成13年)3月31日までであり,書面による申し出がない限り,5年毎に自動更新される旨の規定があり,現在まで自動更新されてきている。 ( ) 対象特許は,電力用半導体デバイスを除くすべての半導体デバ iiイスに関する,契約の有効期間前及び有効期間中に出願され,両者の半導体事業にかかわる部門が取得する若しくは将来取得するすべての特許・実用新案である。 ( ) 被告と*****は,上記契約締結交渉の過程において,本件 iii,,。 第1 第2特許を代表特許として提示し 協議したことはなかったA **契約(乙57の2)( ) **契約の有効期間は,1977年(昭和52年)6月13日 iから1982年(昭和57年)6月12日までであり,書面による申し出がない限り,1年毎に自動更新される旨の規定があり,現在まで自動更新されてきている。 ( ) 対象特許は,すべての半導体製品に関する,契約締結日前並び iiに有効期間中に出願された両社所有のすべての特許・登録実用新案又は出願中の特許・実用新案である。 ( ) 被告と**は,本件第1,第2特許の出願日以降,同特許を含 iii,,, め 個別特許に関する協議を行ったこともないし **が本件第1第2特許の価値を認めたこともなかった。 B ***契約(乙57の3)( ) ***契約の有効期間は,1983年(昭和58年)12月2 i6日から1988年(昭和63年)12月25日までであり,書面,, による申し出がない限り 1年毎に自動更新される旨の規定があり現在まで自動更新されてきている。 ( ) 対象特許は,半導体素子製品,集積回路製品及びこれらを主体 iiとして含む半導体製品並びに半導体製造装置・部品・部材に関する,契約締結日前並びに有効期間中に出願された両社所有のすべての特許・登録実用新案である。 ( ) ***及び被告は,同契約締結交渉の過程において,出願中の iii本件第1,第2特許について協議したことはなく,また,1年毎の契約の自動更新に際し,本件第1,第2特許を含め,個別の特許について協議したことはなかった。 C ****契約(乙57の4)( ) ****契約の有効期間は,1979年(昭和54年)10月 i19日から1989年(平成元年)10月19日までであり,その後,1999年(平成11年)12月31日まで延長され,1999年12月31日までに発効した特許についてのライセンスは,各特許の存続期間において,ライセンス契約終了後も存続する。 ( ) 対象特許は,半導体材料,半導体デバイス,集積回路及び半導 ii体回路に関するあらゆる種類の世界のすべての特許,実用新案及び意匠で,契約の満了又は終了の日より前にいずれかの国において第1有効出願日を有し,当事者により所有されるもの及びそれらの出願である。 ( ) 本件第1,第2特許が****契約の締結に影響を与えた形跡 iiiはない。 D ****契約(乙57の5)( ) ****契約の有効期間は,1991年(平成3年)2月26 i日から1994年(平成6年)12月31日まで,及び,1998年(平成10年)1月12日から2004年(平成16年)12月31日までである。 ( ) 対象特許は,被告及び****が半導体事業部門で所有又は管 ii理するすべての特許である。 ( ) 被告と****は,上記契約締結において,本件第1,第2特 iii許について特に協議したり,考慮したことはなかった。 E ***契約(乙57の6)( ) ***契約の有効期間は,1987年(昭和62年)11月2 i4日から10年間であり,その間に許諾された特許についてのライセンスは,各特許の存続期間において,ライセンス契約終了後も存続する。 ( ) 対象特許は,集積回路構造,半導体要素,製造及び試験装置, ii機能的組立て品であり,世界のすべての国における意匠,実用新案を含むが,それに限られないすべての種類の特許及びその出願で,発行日より前又は同契約期間中に登録,公開,出願あるいは取得されたものである。 ( ) ***契約に関連する***と被告の協議に関する記録には, iii本件第1,第2特許に関する記録はなく,***契約において考慮された形跡もなかった。 ) 本件各包括クロスライセンス契約の相手方他社が本件第1特許発明を b実施していたか否かについては,次に述べるとおり,これを認めるに足りる十分な証拠はない。 @ 本件第1特許発明は,前記のとおり,出願後,5回の補正を経て,,, 特許査定に至っているものであり平成4年6月1日付け補正により特許請求の範囲の記載が 「半導体不揮発性記憶装置」から「半導体 ,不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法」に補正されるとともに,電子引き抜き時の「制御ゲート導電体層に,接地電位を印加する」との補正がなされ,平成5年9月24日付けの補正により,特許請求の範囲の記載が,電子蓄積時及び電子引き抜き時の方法が特定のものに限定されたことにより,特定の構造のNOR型フラッシュメモリにおける特定の電子の書き込み及び消去方法を対象とする特許発明として登録されたものであることが,その出願経過と特許請求の範囲自体から明らかであり,広義のNOR型フラッシュメモリについても,本件第1特許発明の技術的範囲に属しないものが多いことは,前記認定のとおりである。 A AMDは,平成4年ころから,富士通は平成5年ころから,いずれも,電子の消去時において,制御ゲート導電体層に接地電位を印加する方法に替え,負電位を印加する方法によるNOR型フラッシュメモリ製品を開発し,その製造販売を開始しており,それ以降,相手方他社を含むフラッシュメモリメーカーは,NOR型フラッシュメモリにおいて,制御ゲートから電子を引き抜く時に,制御ゲートに負電位を印加する方法のものが主流となっていった(乙34,35,72〜75。)すなわち,日経マイクロデバイス1991年(平成3年)7月号73頁(乙34)には 「16Mフラッシュのセル技術は収束へ ゲー ,ト負電圧印加方式をVLSIシンポジウムで3社が発表……セル面積が小さく高集積化しやすいスタック型を使って三つの要求を同時に満たす解として,大方が消去時にゲートに負電圧を印加する方向である(表1 。……三菱電機は,今回このセルを使って低電圧動作可能な )回路を発表,新たに日立製作所中央研究所と日本電気超LSI開発本部も発表した。いずれも事業部側が「本命視している技術」と太鼓判を押す。インテル,東芝もこの方式を検討中」との記載があり,7。 4頁の表1には 「各社が有望とみている16Mフラッシュメモリー ,のセル技術」との見出しのもとに,NEC,日立製作所,被告,東芝などが消去時に,ゲートに負電圧を印加する予定であること,及び,同75頁図2には,ゲートを0Vとする従来方式とゲートを-10Vとする負電圧消去方式が図示されている。また,NIKKEI MI()(), CRODEVICES1992年 平成4年 6月号 乙73 にはAMDが「ゲート負電圧印加方式を使い外部5V単一電源を実現した1Mフラッシュ」を製品化したとの記事が掲載され,さらに,NIKKEI MICRODEVICES1993年(平成5年)12月号(乙74)では,インテル,サンディスク社及び被告が平成5年10月に早くも16Mビットフラッシュメモリを相次いで発表したことが記載されている。日経マイクロデバイス1994年(平成6年)2月号109頁 乙35 には 被告の本件第1特許の取得について 三 (), ,「,「」」, 菱電機のフラッシュメモリ特許事業へ影響なし と国内外は静観「, 5V単一電源のために制御ゲートを負電圧にする方法を採用すれば特許請求の範囲から外れるとAMDや富士通,NECは指摘する。東芝や日立製作所,沖電気工業などは,今後注力するチップではチャネル部分で電子を出し入れするため,やはり請求範囲から外れるとする 」との記載がある。そして,さらに,富士通とAMDの合弁会社 。 である富士通エイ・エム・ディ・セミコンダクタ社(FASL)は,平成5年から今日までNOR型フラッシュメモリの製造販売を行っており,少なくとも1995年(平成7年)から2002年(平成14年)まで国内フラッシュメモリ市場においてシェア1位のトップメーカーであったものの(乙36 ,そのNOR型フラッシュメモリはい )ずれも電子引き抜き時に制御ゲート導電体層に負電位を印加するものであった(乙54,75 。)なお,インテルについては,本件の全証拠によっても,平成4年,5年以降に製造販売したNOR型フラッシュメモリの構造及び方式についてはこれがどのようなものであったかを認めるに足りる証拠はないものの,少なくとも平成12年,13年ころ以降の製品と思われる(E28F128J3A 128M Strata Flash及びGE28F320C3TD Advanced Boot Block Flash)が,いずれも制御ゲートに負電位を印加し,トンネル現象で電子をソース不純物拡散層やチャネル領域全体で引き抜くものであり(甲48,49,乙59,60 ,本件第1特許発明の「制 )御ゲート導電体層の接地電位を印加し」電子の引き抜きを行うとの構成を具備しないものであることが明らかとなっている程度である。 ,, そもそも 特許権者である被告が製造販売している狭義のNOR型DINOR型,AND型,HND型及びHF型フラッシュメモリについてみても,このうち,本件第1特許発明の技術的範囲に含まれるものは,狭義のNOR型フラッシュメモリだけであり,その余のNOR型フラッシュメモリであるDINOR型,AND型,HND型及びHF型は,本件第1特許発明の技術的範囲に含まれないものと解すべきこと,並びに,被告自身が,本件第1特許発明の実施品であった狭義のNOR型フラッシュメモリの製造販売では極めて低調であり,1997年(平成9年)に事業化したMCP製品(DRAM等とDINOR型フラッシュメモリとを組合せた商品であり,本件第1特許発明の。), 実施品とはいえないことは前記のとおりである の製造販売により1997年(平成9年)以降,広義のNOR型フラッシュメモリの製造販売のシェアを伸ばしていったことは前記のとおりであり,それ以降は,本件第1特許を有する被告自らも,本件第1特許発明をほとんど実施していなかったこと(なお,被告の社員が,平成6年4月にDINOR型をISSCC(甲41)に発表していることからすれば,DINOR型は,被告においてそのころ既に開発されていたものである ,並びに,被告が製造販売したDINOR型フラッシュメモリ 。)は,本件第2特許発明の実施品ということはできないことも前記認定のとおりであり,被告は,本件第2特許発明も実施していなかったことからすれば,被告以外の本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方各社においては,特許権者である被告よりも以前から,本件第1,第2特許発明を実施していない製品をその製造販売するNOR型フラッシュメモリにおける主力製品としていたとしても不思議ではない。 以上の雑誌記事等によれば,本件第1特許発明が出願公告された平成4年12月18日あるいは登録された平成6年5月26日ころ以降は,NOR型フラッシュメモリにおいては,電子引き抜き時に制御ゲート導電体層に負電位を印加するものが主流となっていったことが窺えるのであり,電子引き抜き時に制御ゲート導電体層に接地電位を印加するものが主流であったことを認めるに足りる証拠はない。 ,, B 原告は 相手方他社が本件第1特許発明を実施している根拠として次の論文その他の文献を挙げ,次のとおり主張している。 ( ) NOR型フラッシュメモリ製品は,いずれも本件第1特許発明 iの実施品であり,被告が平成6年にISSCCに発表した論文(甲41)には,NOR型フラッシュメモリの動作方法として,本件第1特許発明と同一の動作方法が記載されていたし,平成8年にISSCCに発表されたAMDの論文においても,同様な説明が記載されている。 ( ) 米国大学の半導体の講義資料(甲24及び甲25)において, iiNOR型フラッシュメモリの構造と動作が開示されているが,当該構造及び動作は,本件第1特許発明を充足するするものである。上記資料には,NOR型フラッシュメモリを,インテル,AMD,富士通,東芝が生産しており,DINOR型フラッシュメモリは,被告が独占的に生産している旨の記載がある。 ( ) 雑誌記事(甲28)に記載されているNOR型フラッシュメモ iiiリの構造,動作が本件第1特許発明に該当するものであるのみなら,「, ず 半導体メーカが生産しているフラッシュ・メモリの大部分はNOR型フラッシュ・メモリです」と記載されている。。 ( ) 甲13報告には,インテル,ST社,日立製作所,東芝,AM ivDが製造販売している製品が本件第1特許に抵触する旨が記載されているし,被告は,本件第1,第2特許は当時のフラッシュメモリの製造方法の大半をカバーする基本特許であると新聞発表している(甲2 。)( ) 平成6年に発行された雑誌記事(乙35)においても,本件第 v1特許が,NOR型フラッシュメモリに該当すること及び本件第1特許発明を各社が実施していることを前提にした各社の意見が記載されている。 ( ) 被告は,本件第1特許について,D社から1億5000万円の vi実施料収入を得ている。 ( ) 相手方他社は,いずれもNOR型フラッシュメモリを製造販 vii売している(甲29〜34等)などと主張する。 しかし,原告の上記主張( )は,被告が平成6年4月にISSCC iに発表した論文(甲41)においては,NOR型フラッシュメモリについて,従来型のNOR型フラッシュメモリを説明した上で,被告が新たに開発したDINOR型フラッシュメモリについて説明しているものである。すなわち,DINOR型フラッシュメモリは,フローティングゲート導電体層に電子を蓄積するときに,チャネルからトンネル現象により電子を蓄積させるものであり,また,同導電体層から電子を引き抜くときに,制御ゲートに負電圧を印加するとの方法によるものであり,このDINOR型が本件第1特許発明に属しないことは明らかである。したがって,被告が平成6年4月に発表した論文にはDINOR型が発表されているのであり,本件第1特許発明と同一の動作方法が記載されているわけではない。 原告の上記主張( )及び( )については,確かに,原告が主張する ii iii米国大学の半導体の講義資料(甲24,25)及び雑誌(甲28)には,ホットエレクトロンによる電子書き込み方式,及び,電子引き抜き時に制御ゲートに接地電位を印加する方式のNOR型フラッシュメモリが開示されている。しかし,NOR型フラッシュメモリがこのような方式のものに限定されるわけではないことは,これまでに述べてきたとおりであり,本件第1特許発明の方式のNOR型フラッシュメモリが存在していたことは事実であるから,このようなNOR型フラッシュメモリが半導体の講義資料や雑誌に掲載されていたとしても,このことから直ちに,被告や相手方他社が本件第1特許発明のNOR型フラッシュメモリを主力商品として製造販売していたものと認めることはできない。 原告の上記主張( )についても,次のとおり,原告の主張する甲1 iv3報告もこれを直ちには採用することができない。すなわち,甲13報告は 「知的財産家活動M室報告会(第18回) 技術料収支の目 ,標値と目標達成の為の具体的方策」と題する文書であって,当時原告が所属していた被告のメモリー統括IC第二部が作成した文書であり,同文書には,同部の知的財産権活動の基本方針として,@有効特許取得活動とA保有特許の行使及び他社特許の回避が指摘されている。そして,フラッシュメモリに関する重要特許と今後の展開計画においては,被告が保有する合計10件の特許が記載され,その中に,フラッシュメモリに関する基本特許として,本件第1,第2特許が紹介されており,今後の展開計画として,平成6年より他社品侵害摘出・他社特許調査を開始し,平成7年より特許交渉を開始するという計画が記載されている。そして,本件第1特許発明に抵触する,あるいは,抵触の可能性があるものとして,インテルについては256K,512K,1M,2M,4M,8M,16Mの各製品が,AMDについては,256K,512K,1M,2Mの各製品が,カタリスト社については,512K,1M,2M,4Mの各製品が,ST社については,256K,512K,1M,2M,4M,8M,16M,32Mの各製品が,日立製作所については,1M,4Mの各製品が,東芝については,1M,4Mの各製品が,NECについては,1M,2Mの各製品が記載されているものである(甲13。しかし,甲13報)告は,その標題,文書の体裁,作成主体,内容からすると,平成6年11月に,被告の各技術部門が,それぞれ担当部門において取得した特許などについて,競合他社の技術動向を把握し,今後の活動方針を決定するために被告社内において統括責任者である北伊丹製作所所長に対して発表するための内部資料にすぎないものであって,本件第1特許発明の実施状況に関する上記記載についても,いかなる調査に基づく結果であるのかについては何ら記載されていない。同報告は,被告の技術部門において,他社の技術状況を把握するために開催された技術報告会に用いるために,知的財産権部門が関与しないまま作成されたものであって,技術部門の知的財産権活動の一環として,他社の動向の概要を示すために,当時の学会発表,新聞報道,雑誌などの入手容易な資料のみに基づいて,技術動向の大雑把に把握する目的において,他社製品の解析などによる厳密な検討を経ないまま作成されたものである。そのため,同報告書では,本件第1特許に抵触する可能性がある製品が実際に量産されたか否かを確認しておらず,同報告書中において 被告が本件第1特許発明を実施しているとされている 4 ,「M」と「16M」は,結局,量産されていない。すなわち,本件第1特許の実施といえるためには,電子の引き抜き時に制御ゲートに「接地電位」を印加するタイプのNOR型フラッシュメモリである必要があり 「負電位」を印加するタイプのNOR型フラッシュメモリは, ,これに含まれないことは前記のとおりであるところ 「接地電位」を,,, 印加するタイプのNOR型フラッシュメモリには 電子引き抜き時にソースに印加された高電圧により,ホットホールが発生しやすく,それが ( )問題を引き起こしたり,また,単一電源化あ DL Data Lossるいは低電圧化できないなどの問題があったため,被告においても,「接地電位」を印加するタイプの狭義のNOR型フラッシュメモリに当たる「4M」と「16M」は量産されなかったものである (乙4。 4,50ないし53,64)このように,電子引き抜き時に,制御ゲートを「接地電位」とする本件第1特許発明のものよりも,負電圧を印加するゲート負電圧型に,,, 移行していったメーカーが多かったものであり 同報告書は まさに本件第1特許に抵触する可能性があるものを含めて記載したものにすぎず,同報告書によっては,同報告書に記載されている各社が本件第1特許発明を上記各製品について実施していたと認めるに足りない。 原告の上記主張( )については,前記認定のとおり,原告主張の雑 v誌(日経MICRO DEVICES1994年12月号)には,制御ゲートを負電圧にする方法や,電子の書き込みをチャネル部分から行うとの方法によれば,本件第1特許発明に抵触しないことが述べられているだけであり,それまでの各社の製品が本件第1特許発明に抵触するものであるかどうかについては,明確に記載しているものではなく,これをもって富士通,東芝,日立製作所などが,平成6年以前に 本件第1特許発明を実施していたものと認めることもできない 乙 ,(35 。)原告の上記主張( )については,D社とのライセンス契約において viは,本件第1特許も含め,合計12件の特許がライセンス対象の特許となっていることは前記認定のとおりであるものの,このことはD社がNOR型フラッシュメモリを製造販売した際に,本件第1特許発明を実施した可能性があることを示すだけであり,本件第1特許発明がNOR型フラッシュメモリにおいて相手方他社等において広く実施されていたことを意味するものではない。 原告の上記主張( )については,次のとおりであり,相手方他社 viiがその製造販売するNOR型フラッシュメモリにおいて,本件第1特許発明を実施していたことの証拠とならないことは明らかである。 SPANSION社及び富士通のウェブページ 甲29 には フ (),「ローティングゲートNOR型フラッシュメモリ製品 単一電源のフローティングゲートフラッシュメモリは,Spanisionの親会社であるAMDが初めて開発に成功しました 「大容量128Mビッ 。」,トNOR型フラッシュメモリ新発売 「世界最大メモリ容量の4チ 」,ップスタック型MCPを発売〜フラッシュメモリ2チップとモバイルFCRAM,およびSRAMをワンパッケージ化〜 「0.32ミ」,クロンプロセス採用のNOR型4Mビット・フラッシュメモリ新発売〜フラッシュメモリの大容量化要求に対応〜 「当社では,すでに 」,3V単一電源品として,2M/4M/8M/16Mビット品を提供しておりますが,今回,新たに0.23ミクロンCMOS微細加工技術を採用した3V単一電源64Mビット・フラッシュメモリを開発いたしました。また,データの読出/消去/書込みがすべて2.7V(最小)で動作するため,大容量,小型化,低電圧化が要求されるPDAやネットワーク製品のアプリケーション格納に最適です 」との記載。 があるだけであり,SPANSION社あるいは富士通が製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造が本件第1特許発明の方法を実施していることを示すものではない。 日立製作所及びルネサスのウェブページ(甲30)には,日立製作所が製造販売する次世代携帯電話向けのアプリケーション・プロセッサにおいて,NOR型フラッシュROM4Mバイトが使用されていること,ルネサスが製造販売するNOR型フラッシュメモリの特徴として,大容量ランダムアクセスフラッシュメモリであること,高速アクセス及び低スタンバイ電流の構造を有することなどが挙げられているものの,日立製作所及びルネサスが製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造が開示されているものではなく,これが本件第1特許発明の実施品であることを示す証拠とはいえない。 東芝のウェブページ(甲31)にも,東芝が,平成8年4月25日ころ,4メガビットNOR型フラッシュEEPROMを製造販売したこと,平成9年3月14日ころ,3V単一電源で動作が可能な8メガビットNOR型フラッシュメモリなどを製造販売したこと,平成10年3月25日ころ,低電圧動作が可能な16メガビットNOR型フラッシュメモリを製造販売したこと,平成12年3月9日ころ,携帯電話などの各種携帯情報機器の小形化を図ることができるスタック型MCPの新製品として,64メガビットのNOR型フラッシュメモリを搭載した商品を製造販売したことなどが記載されているものの,東芝が製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造が開示されているものではなく,これらが本件第1特許発明の実施品であることを示す証拠とはいえない。 インテルのウェブページ(甲32)には,平成8年4月23日,インテルが業界初の0.4ミクロンNOR型フラッシュメモリを発表したこと,同日,インテルとシャープ株式会社がNOR型フラッシュメモリに対応した0.4ミクロン・プロセス技術を共同開発し,同技術を採用した新しい8Mビット・フラッシュメモリの生産を開始したこと,NOR型フラッシュメモリは,低コスト・高信頼性(10万回書き換え ・高速ランダムアクセス可能なセル構造で,プログラムを書 )き込み,実行する用途に適していること,インテルの製品は,情報の読み出しと書き込み,消去時の電源電圧が同じである単一電源を採用していることが挙げられているが,同社が製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造等が開示されているものではなく,これらが本件第1特許発明の実施品であることを示す証拠とはいえない。 三星電子のウェブページ(甲33)には,平成15年3月31日,三星電子がNOR型フラッシュメモリ等を組み合わせて4個のチップを1個のパッケージに装着したMCP製品の本格的な製造を開始したことが記載されているものの,三星電子が製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造を開示するものでもなく,これらが本件第1特許発明の実施品であることを示す証拠とはいえない。 ST社のウェブページ(甲34)も,同社がNOR型フラッシュメモリを製造販売していることを開示しているにすぎないものであり,ST社が製造販売するNOR型フラッシュメモリの構造を開示するものではなく,これらが本件第1特許発明の実施品であることを示す証拠とはいえない。 そのほか,原告が提出する平成14年10月16日のインテル副社長のインタビュー記事(甲45)には 「フラッシュメモリに書き込 ,みを行う際には,ソース電極を接地して,ゲート電極及びドレイン電極に高電圧をかける。すると,ソース電極からドレイン電極に向けて電子が流れるが,十分に高い電圧をかけた場合には,チャネル部を流れる電子が運動量の大きな熱電子(ホットエレクトロン)となって,一部がトンネル絶縁酸化膜を通過してフローティングゲートに蓄積されていく。その後,フローティングゲートに十分に電子が蓄積された後でゲートを閉じても,フローティングゲートの電子はトンネル絶縁酸化膜に遮られて保持される。この状態は,フローティングゲートに蓄えられた電子によってトランジスタのスレッショルド電圧が引き上げられた状態となっており,低電圧でトランジスタを操作してもそのスイッチは閉じたままとなる。従って情報が記憶された状態になる。 逆に情報を消去する場合は,ゲート電極を接地して,ソース電極を高電位に保つと,フローティングゲートから電子が徐々に抜けていき,記憶が消去される 」と記載されている。しかし,この記事は,ほか 。 に「NOR型とNAND型」についての説明などもあることや,記事の見出しや体裁からして,インタビューの内容とフラッシュメモリの技術の一般的な説明とが区別されずに執筆担当者により記載されたにすぎないものであり,これらの記載が,被告や相手方他社が主流として製造販売したNOR型フラッシュメモリの構造及び動作を正確に記載したものと認めることはできない。 また,Spansion社のウェブページ(甲47)には,Spansion社以外の会社の製品においては,コントロールゲートに接() , , 地電位 0V が印加されている図が記載されているものの これはSpansion社の宣伝広告のためのウェブページであり,これらの他社の製品がいずれの会社のいつごろの製品であるか,その詳細は不明であるから,これにより,相手方他社による本件第1特許発明の実施の有無を判断することは相当ではない。 以上のとおり,上記の各種文献の記載によっては,相手方他社が,いつころどのような構造及び方式のNOR型フラッシュメモリを製造販売していたか,その中に,本件第1特許発明を実施している特定の構造及び方式のNOR型フラッシュメモリが含まれていたかどうかが明らかになるものではない。 ( ) 争点1-5(相当の対価の額)について 5ア 被告による特許発明の実施について前記( )において認定したとおり,被告による本件第1特許発明の実施 2については,被告が本件第1特許の禁止権の行使により超過売上げを得ていたと認めることはできない。また,本件第2特許発明については,被告がそもそも本件第2特許発明を実施していたと認めることはできない。よって,被告による本件第1,第2特許発明の実施については 「使用者が,受けるべき利益の額」を認めることができない。 イ 本件各包括クロスライセンス契約について前記( )において認定したとおり,被告は,相手方他社との間で本件各 4,,, 包括クロスライセンス契約を締結しており 各契約においては 本件第1第2特許もその対象となっていたものである。しかし,本件各包括クロスライセンス契約の締結において,本件第1,第2特許がいわゆる代表特許として提示されたり,相手方他社が本件第1,第2特許発明を実施していること,及び,その売上額等を認めるに足りる証拠はない。よって,本件各包括クロスライセンス契約に基づいて,相当の対価を算定することはできない。 ウ したがって,本件第1,第2特許については,被告がD社ライセンス契約により得た実施料を基にして,次の計算式に基づき,相当の対価を算定すべきである。 (計算式)相当の対価=実施料額×当該特許の貢献度×発明者貢献度エ 具体的算定について) 実施料額 1億5000万円 a前提となる事実に認定したとおり,被告は,D社ライセンス契約において,1億5000万円を実施料として受領した。 ) 本件第1特許の貢献度について bD社ラインセンス契約においては,本件第1特許を含む12件の特許が対象特許とされている。本件第1特許発明の技術的範囲が特定の構成,, , 及び方法のものに限定されていること 及び D社との交渉においては実施料について合意が成立した第9回交渉において初めて本件第1特許が提示されたにすぎないものであること,並びに,被告がD社の製品を入手して本件第1特許に抵触するものと判断したわけではないこと(乙13)からすれば,同特許がD社ライセンス契約の締結に高く貢献したものということはできない。そして,被告においては,当該ライセンス契約について交渉を担当した知的財産部門担当者が,各対象特許の貢献度をそれぞれ判定した上で,他社実績補償の金額を算定しているのであること,及び,被告は,D社ライセンス契約における本件第1特許の貢献度を,上記各事情を考慮して,562分の25であると評価していること,並びに,上記各評価は,原告と被告間で本件各特許等の相当の対(,, 価について争いが生じる以前になされたものであること 乙13 1424,25,63)からすれば,被告によるこの評価は,特段の事情がない限り,被告の知的財産部門担当者が,すべての代表特許を総合的な事情を考慮して客観的に判定して算出したものであり,相当なものであ。, , るということができる したがって本件第1特許の貢献度については被告による評価である562分の25の貢献度を有するものとして,相当の対価を算定することとする。 ,,, 原告は @本件第1特許は相手方他社が実施していること A被告も本件第1特許の社内実績補償において,他社が本件第1特許発明を実施している可能性を認めていることなどから,D社ライセンス契約における本件第1特許の貢献度は1割を下らないと主張する。しかし,@相手方他社が本件第1特許発明を実施していることを認めるに足りる具体的な証拠が存しないことは前記のとおりであり,また,D社が本件第1特許発明を実施していることが具体的に確認されたわけでもないことは上記のとおりであることからすれば,原告の上記主張は採用し得ない。 また,被告は,ライセンス交渉において必要とされた費用(実施料の4分の1)については控除すべきであるとも主張する。しかし,ライセンス契約締結交渉に必要な費用が実施料の4分の1であることを認めるに足りる証拠はない。ただし,ライセンス契約締結交渉において一定の範囲で必要な費用が生じることは否定できないことであるから,これについては,当該特許発明における「使用者等が貢献した程度 (35条」4項)を算定する際の一事情として斟酌することにする。 ) 発明者貢献度について c@ 職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は 「発明を奨励,し 「産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的に沿ったもの 」,であるべきで,従業者への発明へのインセンティブになるのに十分なものであると同時に,企業等が厳しい経済情勢及び国際的な競争の中,, で これに打ち勝ち発展していくことを可能とすべきものであるから様々なリスクを負担する企業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とはおのずから性質の異なるものと考えるのが相当である(このことは,職務発明の実施により事業損失が生じた場合においても,職務発明をなした従業者が損失を負担することがないことからも明らかである 「相当の対価」がこのようなものであるとすれば,特許法35 。)。 条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」が極めて高額になる場合と,それほど高額にはならない場合とで,同項の「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」の考慮の仕方が自ずから異なるものとなると考えるべきである。すなわち 「相当の対,価」についての上記考え方からすれば 「利益の額」が極めて高額に ,なる場合は,特段の事情がない限り 「使用者が貢献した程度」は通 ,常よりも高いものとなり得るのであり 「利益の額」が低額になる場 ,合には,特段の事情がない限り 「使用者が貢献した程度」は,通常 ,よりもやや低くなり得るのである。また,特許法35条4項がこのように使用者等と従業者等との利害関係を調整する規定であることからすれば,この「使用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」貢献した事情のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した事情及びその他特許発明に関係する一切の事情も含まれるものと解するのが相当である。 A 被告が貢献した程度について(甲1,15,17〜23,27,乙8,28,29,43〜49)(i) 被告は,総合家電メーカーとして日本国内のみならず海外においても著名な企業である。原告は,工業高校電子科卒業後,被告に入社当時から,被告の半導体事業部門に所属して,不揮発性半導体メモリの設計などにも従事していた。被告は,原告に対し,若手技術者を対象とする技術講座に出席させると共に,所属課の上司が,半導体設計技術の基礎から,実験なども通じて,設計・開発に必要な技能について実地訓練・教育を行った。原告は,本件第1,第2特許発明を発明した当時,不揮発性半導体メモリの設計・開発を担当する被告の北伊丹製作所集積回路第三製造部設計第二課に所属しており,職務上,不揮発性半導体に関する特許発明を行うことが期待されていた。原告は,当初,いわゆるEPROM(書き込みは電気的に行うが,消去は紫外線照射により行うメモリ )の開発を担当していたが,同課において,EPROM 。 及びEEPROM(消去についても電気的に行うメモリ)の特許出願増強を図るプロジェクトに参加した際に,本件第1特許発明をした。また,同課においては,様々な不揮発性記憶装置に関する研究が行われていた。 ( ) 本件第1特許発明の出願過程は,前記( )イ認定のとおりであ ii 2り,被告は,5回にわたり手続補正書を提出している。被告においては,特許の出願・権利化を職責とする特許部門が特許の権利化業務を専門に担当しているところ,本件第1特許は,上記のとおり,出願過程において,拒絶理由通知や拒絶査定などを受け,種々の補正を経て登録に至っており,これらの各手続において,権利化検討会への出席,提出書類の下書き作成などにおいて,原告が相当程度関与していたとしても,被告の特許部門の果たした役割は大きく,これを被告の貢献として考慮するのが相当である。 ()小括iii本件における上記諸事情及びその他一切の事情を考慮すると,本件第1特許発明に関する被告の貢献度は95%と認めるのが相当である。 原告は,本件第1特許に関する被告の貢献度は40%であると主張し,被告は99%であると主張するが,いずれの見解も当裁判所は採用しない。 ) 相当の対価の額d以上のとおり,D社ライセンス契約による実施料収入額を1億5000万円,同契約における本件第1特許の貢献度を562分の25,被告の使用者としての貢献度を95%として算定すると,本件第1特許発明に係る特許を受ける権利の承継の相当の対価は33万3629円となる。 (計算式)1億5000万円×(25÷562)×5%=33万3629円(1円未満切り捨て。以下同じ )。 2 争点2(本件第3,第4特許発明の特許を受ける権利の承継の相当の対価)について( ) 争点2-1(本件第3対応米国特許の相当の対価請求は時期に後れた攻撃 1防御方法の提出に当たるか)についてア 原告は,平成17年11月15日の本件第14回弁論準備手続期日において,本件第3対応米国特許についての相当の対価の請求を追加した。本件訴訟は,その後,平成18年3月20日の本件第17回弁論準備期日において弁論準備手続を終結し,同日の第3回口頭弁論期日において弁論を終結したものである。 イ 確かに,被告が,平成16年4月14日の本件第1回弁論準備期日において,本件第3対応米国特許に関するライセンス契約について主張し,同年5月28日の本件第2回弁論準備期日において,関係書証(乙13,24)を提出していることからすれば,原告としては,より早い時期において,本件第3対応米国特許に関する相当の対価の主張を提出することが可能であったものということができる。 しかし,本件訴訟においては,裁判所の訴訟指揮に基づき,平成16年10月8日の第5回弁論準備手続期日から平成17年7月19日の第12,, , 回弁論準備手続期日までの間においては 専ら本件第1 第2特許の価値技術内容,被告及び相手方他社の実施の有無に関する主張・立証が行われてきたのであり,本件第3,第4特許に関する審理は事実上停止していたものである(本件記録上明らかである 。そして,原告が,本件第3対 。),, 応米国特許に基づく相当対価について主張したのは これらの審理を経て相当対価の算定に関する主張を整理する趣旨で追加されたものである。また,原告が,本件第3対応米国特許の相当の対価請求を追加した平成17年11月15日の本件第14回弁論準備期日においては,訴訟の完結が予定されていたわけではなく,被告も,同期日において,新たに消滅時効の主張をしたものである。以上のような審理経緯からすれば,原告の本件第3対応米国特許に関する追加的主張は「時期に遅れて提出した攻撃又は ,防御の方法」とまでいうことはできない。 ウ また,外国特許についても特許法35条に基づく相当対価請求が認められるか否かの争点に限っていえば,特許法35条に関する法的解釈の問題であって,新たに証拠調べなどが必要となるわけではなく,実際にこの点について証拠調べを行ったわけではない。原告の当該主張に対して,予定していた弁論終結期日を変更し,新たに期日を指定したこともない。 したがって,本件訴訟において,本件第3対応米国特許に関する請求についての審理を行なうことによって,訴訟の完結が遅延するものということもできず,原告が,本件第3対応米国特許についての相当対価の請求を追加したことは,時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとまでいうことはできない。 ( ) 争点2-2(外国において特許を受ける権利の承継についての準拠法及び 2特許法35条の適用の有無)ア 職務発明に係る外国の特許を受ける権利等の承継の準拠法について原告が本件規程等により本件第3特許発明に係る特許を受ける権利を外国において特許を受ける権利も含めて被告に承継したことは前提となる事実に認定したとおりであり,この承継については,その対象となる権利が職務発明についての日本国及び外国の特許を受ける権利である点におい,,。 て 渉外的要素を含むものであるからその準拠法を決定する必要がある上記承継について,外国の特許を受ける権利の承継の効力発生要件や対抗要件等の法律関係については,これと最も密接な関係を有する各国特許法により規制されるべき事柄であるとしても,承継契約の成立及び効力発生要件等の法律関係については,これと最も密接な関係を有する使用者と従業者との契約の準拠法によるものと解すべきである。本件で問題となるのは,日本法人である被告と,日本国に在住してその従業員として勤務していた日本人である原告とが,原告がなした職務発明について,日本国においてなされた承継契約であるから,その承継契約の成立及び効力についての準拠法をどの国の法律とするかについての当事者の明示の意思がないとしても,その黙示の意思を推認すれば,それが日本法であることは明らかである。したがって,本件第3特許発明の特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利も含む )の承継契約の準拠法は,法例7条1項により, 。 日本法であると解すべきである。また,当事者の意思が明確ではないとするとしても,法例7条2項により,その準拠法は日本法となることが明らかである。 イ 外国特許を受ける権利の承継に対する特許法35条の適用について特許法35条1項は,使用者等は,従業者等が職務発明について特許を受けたときは,その特許権について通常実施権を有することを規定し,同条2項は,使用者等が,勤務規則等により,職務発明についてあらかじめ特許を受ける権利等を承継することを定めることができることを規定し,同条3項は,従業者等が職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を承継した場合に 「相当の対価の支払を受ける権利を有する」と規定し ,ている。この規定は,職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業者等に原始的に帰属することを前提に(同法29条1項参照 ,職)務発明について特許を受ける権利等の帰属及びその利用に関して,使用者と従業者等のそれぞれの利益を保護するとともに,両者間の利害を調整することを図るための規定であり(最三小判平成15年4月4日民集57巻),「 , 4号477頁参照 これにより 発明の保護及び利用を図ることにより発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする (特許。」法1条)との特許法の目的を達成しようとするものである。このように,特許法35条は,我が国における従業者と使用者との間の雇用契約上生じた職務発明の帰属及び利用に関する利害関係の調整を図る規定であることからすると,日本国においてなされた職務発明により従業者等に原始的に生じた特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利も含む )の帰属,利。 用及び承継については,使用者と従業者が属する我が国の産業政策に基づき決定された法律により一元的に決定されるべき事項であると解すべきである。なお,いわゆる属地主義の原則は,特許の成立,移転,効力等,特許権が付与される手続的,実体的要件,特許権が有効に移転されるための手続的,実体的要件,及び特許権の効力がそれぞれの国の特許法により定められることを意味するものであるから(最三小判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁参照 ,特許を受ける権利等の移転の前提となる, )それらを対象とする承継契約の成立及びその効力,あるいは,同契約における,それらの権利の移転の対価についてまで,これを各国の特許毎に各国の特許法等の法律にゆだねることを意味するものではないことは明らかである。日本国においてなされた職務発明により従業者に原始的に発生する日本国及び外国の特許を受ける権利等の承継契約の効力については,上記のとおり,従業者等と使用者間の雇用契約上の利害関係の調整を図り,発明を奨励するとの要素も考慮した上で,その国の産業政策に基づいて定められた法律により一元的に律せられるべき事柄である(なお,職務発明により生じた国内及び国外の特許を受ける権利の帰属及び利用関係を法律により一元的に処理することは世界の主要国(米国を除く )の大勢とも合。 致するものである 。。)外国における特許を受ける権利に対し,特許法35条が適用されるとし,。, ても 特許法の文言解釈に反するものではないと解すべきである 確かに特許法33条,34条,38条,49条7号,123条1項6号等に定める「特許を受ける権利」は,日本国の特許を受ける権利について規定したものであるが,これは,特許の成立,移転,効力は,属地主義の原則により,各国の特許法により律せられるべきものであることからも当然の規定である。しかし,特許法35条は,前記のとおり,使用者と従業者との間の雇用関係において生じる職務発明の帰属,利用及び承継に関する法律関係,すなわち,職務発明の承継契約における「相当の対価」について定めた強行規定であり,我が国の産業政策に基づき,使用者と従業者発明者との間の利害関係を調整しながら,特許法1条が定めた目的を達成するために設けられたものであるから,この点において属地主義の原則の適用はなく,特許法における他の規定とは異質なものであると解すべきである。特許法35条中の「特許を受ける権利」との用語を特許法の他の規定と同じ意味に解さなければならない合理的理由がない以上,同条における「特許を受ける権利」は,その規定の趣旨を合理的に解釈し,我が国の職務発明について,日本国のみならず外国の特許を受ける権利等も含む意味であると解すべきである。 ウ 以上によると,我が国の従業者等が,使用者に対し,職務発明について特許を受ける権利等を譲渡したときは,相当の対価を受ける権利を有することを定める特許法35条3項の規定中の「特許を受ける権利」等には,当該職務発明により生じる我が国における特許を受ける権利等のみならず,当該職務発明により生じる外国の特許を受ける権利等を含むものと解すべきである。 ( ) 争点2-3(特許発明の実施により得た利益の額)について 3,, , ア 前記1( )で説示したとおり 特許権者が 当該特許発明を実施しつつ 1,, 他社に実施許諾もしている場合については 当該特許発明の実施について実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては,@特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,A当該特許の実施許諾を得ていない競業会社が一定割合で存在する場合でも,当該競業会社が当該特許に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,B包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が当該特許発明を実施しているか,あるいはこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,C特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施しているか等の事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである。 イ 本件第3特許発明の実施について) 被告が有力な半導体企業6社である相手方各社本件各包括クロスライ aセンス契約を締結し,その保有するすべての特許発明をライセンスしていること,及び,有償実施許諾を希望するすべての企業にその保有する特許をライセンスする開放的ライセンスポリシーを採用していることは,前記1( )認定のとおりである。 2) 本件第3特許発明の技術的範囲について b本件第3特許発明は,樹脂封止型半導体集積回路装置において,封止樹脂の応力などの影響による金属配線の変形を防止し,同配線間でショートが生じることを防止するための構造上の改良を行う発明である。本件第3特許発明は,その出願過程において,特許庁審査官より平成3年8月6日付けで特許法36条3項ないし5項に基づく拒絶理由通知がされ,その際,開孔に流し込まれた金属配線金属と半導体基板又は他の導電体層との結合状態,形成手段が明らかにされる必要がある等の指摘を受けた(乙10の4。被告は,これに対し,平成3年 )(), 11月8日付けで手続補正書と意見書を提出したが 乙10の5・6同年12月24日,特許法36条3項ないし5項に基づく拒絶理由通知を受け,平成4年2月27日,特許請求の範囲を補正する手続補正書と意見書を提出し,同年5月27日,出願公告の決定がなされた(乙10の7〜10 。本件第3特許発明については,平成5年1月4日に )特許異議の申し立てがなされ,同年12月9日に,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を補正する手続補正書と特許意義答弁書が提出され,現在の特許請求の範囲のものに補正された後,平成6年12月2日,異議の申し立てが理由がないとの決定がなされ,特許査定がされた(乙10の11〜15 。このような補正の経緯を経て,本件第3特許発明 )は,樹脂封止型半導体集積回路装置内の「上記金属配線は,……金属配線に沿って複数設けられた開孔を埋め込む複数の釘状金属柱を有し,該釘状金属柱をもって上記絶縁膜下部または内部に設けられた導体層に接合固定され,この導体層は上記釘状金属柱を介して上記金属配線のみに電気的に接続されている」との構造とされた。したがって,本件第3特許発明は,金属配線が複数の釘状金属柱を介して導体層と電気的に接続されるとの構成のものであり,金属配線が複数の釘状金属柱を介して直接半導体基板に接続される構成のものはこれに含まれないと解すべきである(乙4 。したがって,本件第3特許発明は,すべ )てのLSI製品を権利範囲に含むほど,広範な技術的範囲を有する基本特許であるということはできず,特定の構造のLSI製品を対象とする特許発明にすぎないものというべきである。 ) 被告は,SRAM製品の設計においては,本件第3特許発明が出願さ cれる以前から,金属配線変形問題については,樹脂封止に使用する樹脂の粒径を管理すること,及び,ICの最外周辺に半導体基板と同電位の金属配線を結ぶコンタクトに「くぎ」の働きをさせることで対応していた。半導体基板と同電位の金属配線を結ぶコンタクトを設けるということは,もともと,基板電位を安定供給し,ラッチアップにより大電流が流れることを防止するために考えられたものであるが,これは封止樹脂応力による金属パターン変形問題の解決にもなっていたのである(乙68 。このように,被告は,そのSRAM製品において,本件第3特許 )発明の出願以前から,樹脂封止型半導体集積回路装置内の「上記金属配線は,……金属配線に沿って複数設けられた開孔を埋め込む複数の釘状金属柱を有し,該釘状金属柱をもって上記絶縁膜下部または内部に設けられた導体層に接合固定され,この導体層は上記釘状金属柱を介して上記金属配線のみに電気的に接続されている」との構成を具備しないSRAM製品を製造販売していたのであり,本件第3特許発明のような構成を採用することは,半導体基板と電気的に接続させないコンタクトを設けることになり,金属配線の本来の目的である半導体基板電位の安定的供給が果たせなくなり,基板電位の強化の目的に反するだけでなく,チップ面積の増加や設計の自由度を制限化すること及びコストの上昇など,。, を招くことになって 設計上のデメリットも生じ得るのである そしてこのようなデメリットは,SRAMだけでなく,DRAMやシステムLSIでも生じる問題であるため,本件第3特許発明は,被告の製品の中でも,極めて限定された機種(原告が設計した256Kの高速SRAM及び1MマスクROM)にのみ採用されていただけである(乙68,69。)256K高速SRAM以外のN基板に形成されたSRAMにおいては,金属配線及び複数の釘状金属柱は,半導体基板の基板電位を固定する役割を果たすものであり,複数の釘状金属柱は半導体基板に直接接合固定されており,本件第3特許発明における導体層に相当するものに接続固定されていないし,そのような導体層も存在しない。256K高速,, SRAM以外のP基板に形成されたSRAM 4MビットマスクROMDRAMにおいても,同様である(乙68 。)) 本件第3特許発明については,有力な代替技術が存在している。例え dば,日立製作所は,金属配線変形対策として,@応力による配線のゆがみに起因する配線ショートに対しては配線上部の保護膜(ファイナルパシベーション膜)にP-SiNを適用し,機械的強度を上げること,Aファイナルパシベーション膜と,配線下の絶縁膜の接着強度を確保することで配線のゆがみを抑制すること,Bチップ周辺の金属配線の太さを限定する(幅広配線に対してはスリットで分断することで実質的な配線), , 太さを制限する ことで保護膜の変形破壊を防止していたものであり本件第3特許発明を実施していたわけではない(乙69,70 。日立),, 製作所は Bの技術について複数の日本国特許と対応外国特許を取得しこれをすべてのMOS-LSI製品に実施している。これらの特許は,@の技術との組み合わせで,他社(インテル,三星電子他)の製品でも,() 。 広く採用されており 業界における有力な技術となっている 乙69) 原告は,本件第3対応米国特許が成立していること,A社ないしC社 e契約において現実に実施料収入を得ていることから,相手方他社が実施しているものと推認されると主張する。しかし,被告は,単にクロスライセンス契約の交渉において用いられた複数の特許を実績補償金支払の対象としていたにすぎないものであって,本件第3対応米国特許が,包括クロスライセンス契約に基づく実績補償金の支払の対象になったからといって,直ちにA社ないしC社が実施している特許発明であると即断することはできないし,また,その証拠がないだけでなく,上記に認定した事情からすれば,A社ないしC社以外の相手方他社が本件第3特許発明を実施している可能性は少ないものとみざるを得ない。 ) また,本件第1,第2特許発明について述べたとおり,社内向けに知 f的財産活動をアピールする資料にすぎない甲13報告に基づいて,特許抵触性を判断することはできない。 ) 原告は,被告社内文書(甲35,甲36)を根拠に,本件第3特許発 g明については,多数の企業による実施が認められるとも主張する。しかし,これらはいずれも社内的な権利帰属元部門が事業部門内の知財部門に対して自己の権利を売り込んでいる文書にすぎず,他社が実施している旨が記載されていたとしても,後記( )イ )のとおり,特許侵害の判 4b断材料という意味においては,信頼性に乏しいものである。 ) 被告は,原告に対し,本件第3特許発明の社内実施分の実績補償金を c合計54万9980円支払っており,その際に,本件第3特許発明の社内実施高として,例えば,1995年について6075億6760万円と算定している。しかし,被告の知的財産部門は,当時,1万5000件の特許を保有し,実績補償金の申請があるものだけでも4000件以上の特許があったため,実績補償金を算定する際に,その社内実施高については,これを厳密にチェックすることはできない状況であったのみならず,社内の不満や対立の原因となったりすることから,そのような審査には消極的であったため,発明者及び発明者の属する技術部門の申請の内容に基づいてその実施高を算定していたにすぎないものであった(乙12 。実際に,原告についても,原告の申請どおりの製品型番に )(),, 基づく実施高を認定していたのであり 乙15〜23 本訴において被告が当時支払った実績補償金の前提となった実施高をそのまま採用することは到底できない。 ) 以上によれば,被告は,本件第3特許発明をごく一部の製品にしか実 d施しなかったものであり,また,有力なフラッシュメモリの製造販売業者6社と包括クロスライセンス契約を締結し,同発明も含め包括的に実施許諾していただけでなく,希望する企業には有償で実施許諾をする開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,さらに,本件第3特許発明は,樹脂封止型半導体回路装置における金属配線変形問題を解決するための,複数ある代替技術の一つにすぎず,本件第3特許発明に代わる有力な代替技術が存在しており,本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方他社のうち,少なくとも一部の会社は本件第3特許発明の代替技術を実施し,これが業界では有力な技術と評価されていたことからすれば,フラッシュメモリ業界の企業のうち,一部の企業において被告から本件第3特許発明の実施許諾を受けていない企業が存在していたとしても,その企業は,本件第3特許発明に代わる有力な代替技術を用いて金属配線変形問題を解決した樹脂封止型半導体回路装置を製造販売することができたのであるから,これらの企業が,被告から本件第3特許発明の実施許諾を得られなかったため,同半導体回路装置を製造販売することができなかったとか,被告が本件第3特許の禁止権の行使により超過売上げを得ていたと認めることは到底できない。 ウ 本件第4特許発明の実施について本件第4特許発明の出願後は,半導体集積回路の線幅のさらなる微細化に伴い,金属配線は平坦なシリケート酸化膜上に形成しなければならない状況になっており,本件第4特許発明が実施される状況になく,被告が本件第4特許発明の実施品である1MビットマスクROMを出荷したのは,本件第4特許発明の公告日である平成8年11月14日以前であり,同日以降の出荷はない(弁論の全趣旨 。)上記認定の事情を総合すれば,本件第4特許発明については,被告が同特許の禁止権を行使したことにより,超過売上げを得たものと認めることはできない。 ( ) 争点2-4(包括クロスライセンス契約ないし包括ライセンス契約によ 4り得た利益の額)についてア 被告は,A社クロスライセンス契約において,本件第3対応米国特許を含む15件の特許を呈示して,包括クロスライセンス契約を締結し,同契約においては,被告がバランス調整金を支払ったものの,525万米ドルを被告が自社特許のライセンスにより得られた実施料とみなして,実績補償金を支払っている。 被告は,C社クロスライセンス契約において,本件第3対応米国特許を含む42件の特許を呈示して,包括クロスライセンス契約を締結し,実施料として支払いを受けた3300万米ドルの他に1700万米ドルを加味,, 。 した金額を実施料収入とみなし これにより実績補償金を支払っているまた,被告は,B社ライセンス契約においては,本件第3対応米国特許を含む24件の特許を呈示して,600万米ドルを実施料収入として得ており,これをそのまま実施料収入として実績補償金を支払っている。 したがって,これらの該実施料は,みなし実施料も含め,本件第3対応米国特許の相当の対価を算定する基礎とすることができる(なお,これらの包括クロスライセンス契約が本件各包括クロスライセンス契約と全部又は一部重複するものかどうかは証拠上不明である。以下,一部重なっているものとして論じる 。。)イ 次に,上記各契約に含まれないその余の本件各包括クロスライセンス契約において,本件第3,第4特許発明の相当の対価を算定することができるかについて検討する。 ) 被告がAライセンス契約ないしCライセンス契約以外の本件各包括ク aロスライセンス契約ないし包括ライセンス契約を締結していった過程に,, ,, おいて 本件第3 第4特許が代表特許として呈示したとか あるいは相手方が本件第3,第4特許を実施していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,また,上記( )に認定した事情からすれば,本件第3,第 34特許発明は限定的なものであり,被告自らも積極的に自己実施していったものとは認められないのであり,他に有力な代替技術が存在することからすれば,上記のような事実を認めることは困難である。 ) 原告は,本件第3特許発明が本件各包括クロスライセンス契約の相手 b方他社において実施されている根拠として,@本件第3特許発明は,本件第1特許発明と同様に,被告及び他社の大半の半導体製品が使用している極めて重要な基本特許である。A本件第3特許発明は,本件第3対応米国特許も成立しており,被告は,本件第3対応米国特許について,3社(A社ないしC社)から多額の実施料収入を得ている。B相手方他社はいずれも本件第3特許発明の実施品であるLSI製品を製造販売しており,本件第3特許を実施しているものである。C他社製品の写真に,(,, おいては 本件第3特許発明を実施した痕跡が見られる 甲51 52,)。(,,), 乙60 69 D被告の内部文書 甲13報告 甲35 36 には本件第3特許発明が基本特許であり,三星電子が実施していることを前提とする記載があること等を指摘する。 しかし,上記( )に認定した事情からすれば,本件第3,第4特許発 3明は,その特許請求の範囲の記載及び補正の経緯からして,特許請求の範囲に記載されたとおりの限定的な特許発明であり,被告自らも積極的に自己実施していったものとは認められないのであり,他に有力な代替技術が存在するものであるから,被告及び他社の大半の半導体製品が使用している極めて重要な基本特許であるとか,相手方他社がいずれも本件第3特許発明を実施しているとか解することは到底できない。 また,本件第3特許は 「金属くい打ち」の略称のとおり,半導体基 ,板における垂直方向の構造に関する特許発明であるから,原告が書証として提出する各種水平断面図(甲51,52,乙60,69)においては,半導体基板上に何らかの孔が開けられた痕跡を確認することができる程度で,同特許発明の実施の有無を判断することはできない。原告が指摘する内部文書の中には,例えば,甲13報告には 「ALくい打ち,の基本特許(平4-61495 ・当社の基本特許は,モード樹脂パッ )ケージの全ての半導体装置に係わる ・米国登録が先行してなされてお 。 り,韓国を対象とした『サンライズプロジェクト』で三星の製品がこの特許に抵触していることが判明し,三星と交渉中である 」と記載され。 ているが,これらの記載が,本件第3特許の権利範囲を厳密に検討したことを前提とするものではないこと,無効の可能性が高いためにC社に対する米国における訴訟には使用されなかったことは,先に述べたとおりである(乙13 。そのほか,IC Works社SRAM特許使用 )情報連絡(甲35)には 「IC Works社のSRAMが,当社特 ,許に抵触しているのを見つけましたので,資料を送付します。特許交渉推進をよろしくお願いします 「なお,すでにお願いしている,Wi 。」,nbond,ISSI,Mosel社の交渉進捗状況と今後の計画につ。」, ( ), いて連絡下さい と 当社特許の他社品使用例送付の件 甲36 は「,『 』『 ,, 首記の件 公告NO 平4-61495 米国 USP-4 729063』について,乙 KSより依頼されていました,他社使用例を送 @付いたします。高速SRAMでは,下記のものが使用しています (写,真添付)@モトローラ 32K×810us SRAM Aサイプレス 32K×8 25us Bウイルドボンド 32K×8 25usなお,日立製は,どうも未使用です。中速SRAM/DRAMは,未調査です。ROMについては,R推丙 Tより別送送ります 」と,そ @。 れぞれ記載されているが,いずれも水平断面図が添付資料とされているのみで,添付写真によっては,何らかの孔が開けられていることを確認することができる程度にすぎないのであるから,両文書ともに,縦断面構造に関する発明である本件第3特許発明についての厳密な実施調査を前提とするものではない。 ( ) 争点2-5(相当の対価の額)について 5ア 被告による特許発明の実施前記( )において認定したとおり,被告による本件第3,第4特許発明 3の実施については,被告が本件第3,第4特許による禁止権の行使により超過売上げを得ていたと認めることはできない。 イ 本件各包括クロスライセンス契約について前記( )において認定したとおり,被告は,相手方他社との間で本件各 4,,, 包括クロスライセンス契約を締結しており 各契約においては 本件第3第4特許もその対象となっていたものである。しかし,上記認定のA社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約における本件第3特許を除いては,本件各包括クロスライセンス契約の締結において,本件第3,第4特許がいわゆる代表特許として提示されたり,相手方他社が本件第3,第4特許発明を実施していること,あるいは,その売上額等を認めるに足りる証拠はない。よって,上記認定のA社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約を除いては,本件各包括クロスライセンス契約に基づいて,相当の対価を算定することはできない。 ウ したがって,本件第3特許については,被告がA社クロスライセンス契約ないしC社クロスライセンス契約についてのみ,相当の対価を算定するべきであり,また,本件第2特許については 「使用者等が受けるべき利 ,益の額」はないから,特許法35条3項の相当の対価も生じない。 (計算式)相当の対価=実施料額×当該特許の貢献度×発明者貢献度×共同発明者間の貢献度エ 具体的算定について) A社クロスライセンス契約について a@ 基礎となる実施料 525万米ドルA 本件第3対応米国特許の貢献度同契約においては,本件第3対応米国特許は交渉の過程において,代表特許としてプレゼンテーションに使用されていること,同契約の,, 締結交渉においては A社が分社を計画していたという特殊事情から実質的な技術論争は行われておらず,交渉過程において,本件第3対応米国特許が格別な貢献をしたとも認められなかったこと,及び,被告の知的財産部門担当者は,A社との契約交渉を担当した者であり,この交渉に用いられたすべての代表特許の貢献度を総合的にみてこれを客観的に評価した上で,その他社実績補償において,本件第3対応米国特許の貢献度を5%と評価したものであること,並びに,被告の知的財産部門の担当者の貢献度の評価は,原告と被告との間で相当の対価の額について争いが生じる以前になされたものであること(乙13)からすれば,被告によるこの評価は,特段の事情がない限り,被告の知的財産部門の担当者がライセンス契約交渉において提示されたすべての代表特許を考慮して客観的に判定して算出したものであり,相当なものであるということができる。したがって,本件第3対応米国特許の貢献度については,被告の知的財産部門による評価である5%が相当であるとして,相当の対価を算定することとする。なお,原告は,B社に対する侵害の疑いを指摘できたことを根拠として,同特許の貢献度は1割を下らないと主張するが,他社との関係において侵害の疑いを指摘できたことをもって,A社との関係において侵害の可能性を推認することはできない。原告の同主張は採用することができない。 B 使用者の貢献度本件第1特許発明において認定したとおり,原告の職務内容,職務履歴,被告における技術,ノウハウなどの蓄積,本件第3対応米国特,, 許の権利化までの被告特許部門の貢献など 一切の事情を考慮すると本件第3対応米国特許についての被告の貢献度は,95%であると認めるのが相当である。 C 共同発明者間の貢献度原告は,被告においては発明に関与していない上司などを,共同発明者として出願するという慣習が存在し,本件第3特許発明は,実際には原告が単独で発明したものであるから,本件第3対応米国特許における原告の共同発明者間の貢献度は少なくとも70%であると主張し,原告の陳述書にはその旨の記載がある(甲54 。)被告は,上記慣習の存在を否認し,共同発明者間の貢献度は,発明者数で除した3分の1と解するのが相当であると主張する。しかし,被告は,原告以外の共同発明者が,本件第3特許発明において,いかなる役割を果たしたかについて,具体的な主張立証をしない。したがって,本件第3特許発明における原告の共同発明者間の貢献度は,70%と認めるのが相当である。 D 相当の対価の額以上のとおり,実施料収入額を525万米ドル,本件第3対応米国特許の貢献度を5%,被告の貢献度を95パーセント,共同発明者間の貢献度を70%として,A社クロスライセンス契約に基づく相当の対価を算定すると,114万8437円となる。 (計算式)525万米ドル×125×5%×5%×70%=114万8437円) B社ライセンス契約について b@ 基礎となる実施料 600万米ドルA 本件第3対応米国特許の貢献度同契約においては,本件第3対応米国特許は交渉の過程において,B社による侵害の疑いを指摘できた11件の特許のうちの1件であったこと,及び,被告の知的財産部門担当者は,B社との契約交渉を担当した者であり,この交渉に用いられたすべての代表特許の貢献度を総合的にみてこれを客観的に評価した上で,その他社実績補償において,本件第3対応米国特許の貢献度を1725分の100と評価したものであること,並びに,被告の知的財産部門の担当者の貢献度の評価は,原告と被告との間で相当の対価の額について争いが生じる以前になされたものであること(乙13)からすれば,被告によるこの評価は,特段の事情がない限り,被告の知的財産部門の担当者がライセンス契約交渉において提示されたすべての代表特許を考慮して客観的に判定して算出したものであり,相当なものであるということができる。したがって,本件第3対応米国特許の貢献度については,被告の知的財産部門による評価である1725分の100が相当であるとして,相当の対価を算定することとする。原告は,本件第3対応米国特,, 許の貢献度は1割を下らないと主張するが 他の対象特許と比較して本件第3対応米国特許が格別の貢献をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。原告の主張は採用できない。 B 使用者の貢献度 95%C 共同発明者間の貢献度 70%D 相当の対価の額以上のとおり,実施料収入額を600万米ドル,本件第3対応米国特許の貢献度を1725分の100,被告の貢献度を95パーセント,共同発明者間の貢献度を70%として,B社ライセンス契約に基づく相当の対価を算定すると,152万1739円となる。 (計算式)600万米ドル×125×(100÷1725)×5%×70%=152万1739円) C社クロスライセンス契約について c@ 基礎となる実施料 3300万米ドル及び1700万米ドルA 本件第3対応米国特許の貢献度同契約においては,本件第3対応米国特許は交渉の過程において,C社のSRAM製品による侵害の疑いを指摘できたが,同社のSRAM製品の売上げは少なく,その後の米国における訴訟では,C社から指摘された公知資料によって本件第3対応米国特許は無効の蓋然性が,,, あるとして 使用されなかったことから被告の実績補償においては.( ,. 同特許の貢献度は0 44% 対象特許数42で頭割りにすると 238%となる )にすぎないとされたこと,及び,被告の知的財産部 。 門担当者は,C社との契約交渉を担当した者であり,この交渉に用いられたすべての代表特許の貢献度を総合的にみてこれを客観的に評価した上で,その他社実績補償において,本件第3対応米国特許の貢献度を0.44%と評価したものであること,並びに,被告の知的財産部門の担当者の貢献度の評価は,原告と被告との間で相当の対価の額について争いが生じる以前になされたものであること(乙13)からすれば,被告によるこの評価は,特段の事情がない限り,被告の知的財産部門の担当者がライセンス契約交渉において提示されたすべての代表特許を考慮して客観的に判定して算出したものであり,相当なものであるということができる。したがって,C社クロスライセンス契約における本件第3対応米国特許の貢献度については,被告の知的財産部門による評価である0.44%が相当であるとして,相当の対価を算定することとする。 B 使用者の貢献度 95%C 共同発明者間の貢献度 70%D 相当の対価の額以上のとおり,実施料収入額を3300万米ドル及び1700万米ドル,本件第3対応米国特許の貢献度を0.44%,被告の貢献度を95パーセント,共同発明者間の貢献度を70%として,C社クロスライセンス契約の相当の対価を算定すると,96万2500円となる。 (計算式 (3300万米ドル+1700万米ドル)×125×0.44 )%×5%×70%=96万2500円) 小計 363万2676円 d3 争点3(本件第5,第6特許等の特許を受ける権利等の承継の相当の対価)について,。, 原告は 被告による特許発明の実施に基づく相当の対価を主張する しかし本件第4,第6特許等について,被告は,本件第5特許及び本件第6実用新案の各公告後に,同特許発明ないし同実用新案を実施したことを認めるに足りる証拠はなく,また,被告が本件第5特許及び本件第6実用新案の禁止権を行使したことにより,超過売上げを得たことを認めるに足りる証拠はない。また,本件第5,第6特許等は,いずれも本件各包括クロスライセンス契約の対象とされているものの,これらが代表特許とされたり,相手方各社がこれらの特許,, 発明あるいは実用新案を実施していることを認めるに足りる証拠はなく また被告が本件第5,第6特許等により,他とライセンス契約を締結し,これにより実施料収入を得たことを認めるに足りる証拠もない。 4総括以上のとおり,本件各特許発明等に関する相当の対価は,本件第1特許について,D社ライセンス契約に基づく33万3629円,本件第3対応米国特許について,A社クロスライセンス契約に基づく114万8437円,B社ライセンス契約に基づく152万1739円,C社クロスライセンス契約に基づく96万2500円の,合計396万6305円であると認められる。前提となる事実において認定したとおり,原告は,本件各特許発明等に関する職務発明等の相当の対価として,既に合計480万5490円を受領している。したがって,原告が本件各特許発明等に関する相当の対価として受領した額が,特許法35条に定める相当の対価の額に不足するものと認めることはできない。 |
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結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担については,民訴法61条を適用し,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)フラッシュメモリ実施品に関する主張一覧本件第1特許該本件第2特許備考製品名当性の主張該当性の主張原告被告原告被告フラッシュ単品NOR型○○××DINOR型○×○×AND型××××フラッシュ内蔵NOR型○○××マイコンHND型○×××HF型○×○×DINOR型と同一MCPDINOR型○×○×DINOR2型○×××HND型と同一フラッシュメモリINOR型○○××CカードDINOR型○-○-AND型×××× |
裁判長裁判官 | 設樂隆一 |
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裁判官 | 荒井章光 |
裁判官 | 鈴木千帆 |