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関連審決 不服2003-20967
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10444審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10211審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10718号 審決取消請求事件
原告 株式会社ウェルパインコミュニケーションズ
訴訟代理人弁理士 飯田凡雄
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 佐々木 芳枝
同田良島潔
同 丸山英行
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2003−20967号事件について平成17年8月15日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年8月27日,発明の名称を「適応型自動同調装置」とする発明につき特許出願(請求項の数は5である。以下「本願」という。)をし,その後平成14年10月28日付け手続補正書をもって,特許請求の範囲の補正を含む明細書の補正をした。
特許庁は,本願につき拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,これを不服2003-20967号事件として審理したが,その係属中,原告は,平成15年11月27日付け手続補正書をもって,特許請求の範囲の補正を含む明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした。
そして特許庁は,平成17年8月15日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年9月5日原告に送達された。
2 特許請求の範囲(1) 本件補正前の請求項3平成14年10月28日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲は請求項1ないし5から成り,その請求項3の記載は,次のとおりである(以下,この請求項3に係る発明を「本願発明」という。)。
「電気的共振点を複数有する負荷に供給する電源の周波数を,時分割で順次循環的に,上記各共振点での共振周波数にほぼ等しいものに切替えていく電源周波数切替手段と,上記各共振点の各共振周波数近傍で,それぞれ電源周波数を微小量だけ変化させてみて,この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,上記各共振点の各共振周波数の変動を把握して,上記電源周波数に対して各共振周波数を追尾させる追尾制御手段とを備えることを特徴とする適応型自動同調装置。」(2) 本件補正後の請求項3本件補正後の請求項3の記載は,次のとおりである(下線部は本件補正による補正箇所。以下,この請求項3に係る発明を「本願補正発明」という。)。
「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷に,上記入力端より供給する電源の周波数を,時分割で順次循環的に,上記各共振点での共振周波数にほぼ等しいものに切替えていく電源周波数切替手段と,上記各共振点の各共振周波数近傍で,それぞれ電源周波数を微小量だけ変化させてみて,この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,上記各共振点の各共振周波数の変動を把握して,上記電源周波数に対して各共振周波数を追尾させる追尾制御手段とを備えることを特徴とする適応型自動同調装置。」3 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本願補正発明は,特開昭60-78661号公報(以下「引用例1」という。甲10),特開昭58-36684号公報(以下「引用例2」という。甲11)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は却下すべきであり,そして,本願発明は引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許を受けることができないというものである。
本件審決は,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)を次のとおり認定し,本願補正発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点及び相違点があるとした。
(引用発明の内容)「共振周波数の異なる複数個の超音波振動子と,これら超音波振動子をそれぞれの共振周波数で駆動する回路と,時間順次に,該駆動する回路を切り替えていく走査手段を備える装置。」(一致点)「電気的共振点を複数有する負荷を,時分割で順次循環的に,各共振点での共振周波数で動作させる手段を備えた同調装置」である点。
(相違点1)本願補正発明においては,「電気的共振点を複数有する負荷」は「入力端を1個だけ有する1の負荷」であり,また,「電気的共振点を複数有する負荷を,時分割で順次循環的に,各共振点での共振周波数で動作させる手段」は「入力端より供給する電源の周波数を,時分割で順次循環的に,上記各共振点での共振周波数にほぼ等しいものに切替えていく電源周波数切替手段」であるのに対して,引用発明においては,それぞれ,独立した入力端を有する「共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」,「超音波振動子をそれぞれの共振周波数で駆動する回路と,時間順次に,該駆動する回路を切り替えていく走査手段」である点。
(相違点2)本願補正発明においては,「各共振点の各共振周波数近傍で,それぞれ電源周波数を微小量だけ変化させてみて,この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,上記各共振点の各共振周波数の変動を把握して,上記電源周波数に対して各共振周波数を追尾させる追尾制御手段」を備えているのに対し,引用発明においては,そのような手段を備えていない点。
当事者の主張
1 原告主張の本件審決の取消事由本件審決が認定した引用発明の内容及び相違点1,2は認める。
しかしながら,本件審決は,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),本願補正発明と引用発明との相違点1,2の判断を誤った結果(取消事由2,3),本願補正発明の進歩性を否定し,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を誤って却下したものであるから,違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)本件審決は,前記のとおり,本願補正発明と引用発明が,「電気的共振点を複数有する負荷を,時分割で順次循環的に,各共振点での共振周波数で動作させる手段を備えた同調装置」である点で一致すると認定しているが,次に述べるとおり誤りである。
ア 引用例1(甲10)の「複数個の超音波振動子」は,それぞれ独立し,互いに接続されておらず,各超音波素子が一体として,常時電源側に接続されるものではないのに対し,本願補正発明の「負荷」は,一体として,常時電源側に接続されるものであるから,引用例1には,本願補正発明のような「電気的共振点を複数有する負荷」という一体をなす負荷の記載はない。
したがって,本件審決が,本願補正発明と引用発明が「電気的共振点を複数有する負荷」を備える点で一致すると認定したことは誤りである。
イ(ア) 「時分割」の技術的意味は,「一つの装置を二つ以上の目的のために時間を細分して使用し,見掛け上同時に動作が行われるようにすること」(甲15。電子情報通信学会編「電子通信用語辞典」311頁)である。「時分割」では,時系列に沿って複数の処理の各処理が順次循環的に短時間ずつ実行されていくので,いずれの処理においても実際は,実行,中断,実行,中断が繰り返されるが,中断の時間が極めて短いので(中断の時間は長くても数百ミリ秒以下である必要がある。),人間の感覚からすると,複数の処理が同時並行的に実行されているように感ずることになる。
引用例1の「特許請求の範囲」には,「・・・この走査手段による走査動作のトータル時間を設定する時間設定手段と,この時間設定手段で設定されるトータル時間を前記各超音波振動子毎に配分する割合を設定する時間配分割合設定手段とを備え,前記超音波振動子を前記割合でトータル時間が配分割当てされる時間間隔で,時間順次に振動させることを特徴とする超音波霧化装置」との記載がある。この記載によれば,引用例1の特許請求の範囲中の「時間順次」は,「時間設定手段」及び「時間配分割合設定手段」の設定内容によりその態様が決まるものである。例えば,鼻,喉,気管支の各患部に適した粒子サイズの霧をそれぞれ発生する3個の超音波振動子(N1,N2,N3)を備える超音波霧化装置では,時間設定手段に5分(間)を設定し,時間配分割合設定手段に5:4:1という割合を設定した場合に,各超音波振動子は,それぞれ順次2分30秒間,2分間,30秒間ずつ駆動されて停止し,それぞれの患部に適した粒子サイズの霧化された薬液を,順次,十分に沈着させていく際の個々の患部用の時間が,順次1回分だけ並んでいるだけである。このように「時間順次」なる用語は,「時分割」なる用語とは異なり,循環的に繰り返すという意味合いを持つものではない。また,「時間順次」を構成する一連の各時間は,特に短時間である必要もない。
(イ) 振動子のパワーアップを図る方法としては,振動子をそのパワーに耐えられる大きな物にする方法と複数の振動子を電気的に接続し同時駆動する方法があるところ,前者の方法は大きい振動子を必要とし不利なので,後者の方法が採用されることが多い。しかし,後者の方法においては,複数の振動子の共振点を一致させなければ,電源供給が不均一になり,一部の振動子にだけ電源の過剰供給がされ,その振動子を破壊することになるため多大な労力を要して各振動子のサイズ調整を行っている。この労力を避けるために考え出されたのが本願補正発明であり,それぞれ共振点が異なる複数の振動子を時分割で順次,その振動子の共振周波数で駆動させるものである。時分割とするのは,一個ずつの駆動によるパワーダウンを避けるため離散的パワーの注入(極めて短時間ずつのパワーの注入で,定常的注入の際のパワーよりも大幅に大きいパワーを注入しても振動子が破壊しない点に着目した方法)の採用を可能にするものである。このように共振点の異なる複数の振動子が擬似的に同時駆動する本願補正発明では,時分割電源供給が根幹の構成要素となっている。
(ウ) したがって,本件審決が,本願補正発明と引用発明が「時分割で順次循環的に」各共振点での共振周波数で動作させる手段を備えている点で一致すると認定したことは誤りである。
ウ 本願補正発明は,相違点2に係る「追尾制御手段」を備えているから「同調装置」であるのに対し,引用発明は,上記「追尾制御手段」を備えていないから,「同調装置」ではなく,振動数自動切替装置の発明にすぎない。したがって,本件審決が,本願補正発明と引用発明が「同調装置」である点で一致すると認定したことは誤りである。
(2) 取消事由2(相違点1の判断の誤り)ア 本件審決は,本願補正発明と引用発明の相違点1について,「本願補正発明は,電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷に,入力端より供給する電源の周波数を,時分割で順次循環的に,各共振点での共振周波数にほぼ等しいものに切替えていくことにより,明細書【0023】,【0024】に記載されているように,実質的には,「電気的共振点を複数有する負荷」を構成する「共振点の異なる複数の負荷」に時分割でパワー供給を行うものであり,該動作は引用例1記載の発明のものと格別な差異があるとは認められない。」(審決書4頁30行〜36行)と判断している。
しかし,上記(1)イ(イ)のとおり,本願補正発明は,共振点の異なる複数の振動子が擬似的に同時駆動するもので,時分割電源供給が根幹の構成要素となっているのに対し,引用発明は,時間順次に各超音波振動子が振動するにすぎず,この点で両者は大きく相違するから,本願補正発明の装置の動作は引用発明のものと格別な差異があるとは認められないとした本件審決の上記判断は誤りである。
イ 本件審決は,「回路的にも,複数の共振周波数を有する負荷に,該複数の共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給し,各共振周波数で負荷を動作させる構成は周知であり(一例として,特開平2-144181号公報(判決注・甲12)参照),各構成負荷の入力端に,それぞれの共振周波数の電源を,切り替えて供給する代わりに,共通の入力端に,各共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給するようにする程度のことは,当業者にとって適宜採用しうる構成にすぎない。」(審決書4頁36行〜5頁3行)と判断している。
(ア) しかし,「複数の共振周波数を有する負荷に,該複数の共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給し,各共振周波数で負荷を動作させる」回路構成は,周知技術ではない。本件審決が周知例として掲げる甲12は,引用例1の場合とは異なり,一個の振動子(非対称ランジュバン型振動子)に係るもので,しかも,本願補正発明と同一技術分野のものではないから,周知例として不適切である。被告は,上記回路構成が周知であることの立証のため,乙1(実願昭63-55320号(実開平1-163478号)のマイクロフィルム),乙2(特開平5-84472号公報),乙3(特開平2-52083号公報)を提出しているが,乙1には,甲12と同様の非対称ランジュバン型振動子を用いる技術が記載されているだけであり,乙2,3には,いずれも共振点の異なる複数の磁歪型の振動子を直列に接続して一つの負荷とし,駆動周波数を一定範囲で掃引するものが記載されているのであるから,乙1ないし3も周知例として不適切である。また,そもそも甲12,乙1ないし3に記載の各技術は周知とはいえない。
したがって,上記回路構成が周知技術であるとした本件審決の上記認定は誤りである。
(イ) そして,本件審決が,「各構成負荷の入力端に,それぞれの共振周波数の電源を,切り替えて供給する代わりに,共通の入力端に,各共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給するようにする程度のことは,当業者にとって適宜採用しうる構成にすぎない。」として,相違点1に係る本願補正発明の装置の回路構成を引用発明に適用することは設計変更程度のことであると判断したことも誤りである。
(3) 取消事由3(相違点2の判断の誤り)本件審決は,本願補正発明と引用発明の相違点2について,「共振周波数近傍で,電源周波数を微小量だけ変化させてみて,この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,共振点の共振周波数の変動を把握することは,引用例2に記載されたものにおけるステップVからステップVIIIの手順と格別な差異があるとは認められない。また,引用例1記載の発明も,超音波振動子に共振周波数の電源を供給するものであるので,該追尾動作を採用することが,当業者にとって格別に想到困難なことであるとは認められず,採用するに際し,なんら阻害する要因も認められないので,引用例1記載の発明において,該追尾動作を採用することは,当業者にとって容易になし得ることにすぎない。」(審決書5頁4行〜12行)と判断している。
ア しかし,引用例2(甲11)に記載された周波数追尾方式は,最大アナログ交流高周波電流値(ピーク値)が流れる周波数を探す周知の方式であるのに対し,相違点2に係る本願補正発明の周波数追尾方式は,駆動点での勾配方式(時分割高速切替方式にも用いることができるという特有の効果を持つ方式)であり,両者は大幅に異なるのであるから,本願補正発明の追尾制御手段の動作を引用例2記載のものと格別な差異がないとした本件審決の上記判断は誤りである。
イ そして,引用発明において,相違点2に係る本願補正発明の追尾動作の構成を採用することは,当業者にとって容易になし得ることにすぎないとした本件審決の上記判断も誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア 本件審決は,電気的共振点を複数有するという点で,引用発明の「複数個の超音波素子」が,本願補正発明の「負荷」に相当するものと認定した上で,本願補正発明の「負荷は,一体をなして」いる点については引用発明との相違点1として認定しているのであるから,本件審決の一致点の認定に原告主張の誤りはない。
イ(ア) 引用例1(甲10)には,@「この発明の目的は,上記に鑑み,種々の粒径を持つ霧化粒子が得られ,しかも送出される霧化粒子の粒径の量配分と,時分割間隔を任意に設定し得る超音波霧化装置を提供することである。」(2頁左上欄18行〜右上欄1行),A「この発明の超音波霧化装置は,共振周波数の異なる複数個の超音波振動子を時間順次に振動させ,その時分割走査のトータル時間と,各超音波振動子の振動時間配分を任意に変え得るものであるから,・・・」(2頁右上欄17行〜左下欄1行),B「11はアナログスイッチ10a,10bを個別にオンするための信号Sa,Sbを出力するCPU(マイクロプロセッサ)である。信号Sa,Sbは時分割で,すなわち時間順次に出力される。」(3頁左上欄5行〜8行)との記載があることからすれば,引用例1において,「時間順次」と「時分割」とは同義に用いられていることは明らかである。
(イ) また,原告は,引用例1記載の「時間順次」は,「時分割」とは概念が異なり,循環的に繰り返すという意味合いを持たない旨主張する。
しかし,引用発明は,複数の振動子がそれぞれ一回ずつ駆動されて停止するようなものではなく,むしろ,短いインターバルで,複数の振動子を駆動する回路を時間順次に切り替えるものであり,「時分割」駆動するものであることは,引用例1の記載(3頁右下欄14行〜4頁左上欄1行,4頁左上欄11行〜14行,第4図)等から明らかである。
したがって,引用例1記載の「時分割」なる用語が,一般に広く知られている「時分割」と違った特殊な意味合いを有するものと解すべき合理的な根拠はない。
ウ 一般に「同調」とは,「機械的振動体または電気的振動回路などが,外部から与えられる振動に共振するように,その固有振動数を調節すること。」(広辞苑第五版)を意味する。しかし,「同調装置」なる用語自体,当業者が常に同一の装置を想定し得る程度に一義的かつ明確な定義を持つものではないため,本願補正発明の「同調装置」がどのようなものであるか,特許請求の範囲(本件補正後の請求項3)の記載のみから十分に把握することが困難である。そこで,本願の明細書(甲2)及び平成15年11月27日付け手続補正書(甲7)の記載を考慮すると,「同調装置」とは,「負荷に対してその負荷の共振周波数で振動するような電源を供給する装置」を意味するものと理解することができる。そして,引用発明においても「複数の超音波振動子」のそれぞれを駆動する各駆動回路は,発振回路を含んでおり,発振回路は電源が供給されると超音波振動子を共振させるための共振周波数を超音波振動子に与えるもので,発振回路の周波数を超音波振動子の共振周波数に同調させていることは明らかであるから,本願補正発明と引用発明が「同調装置」である点で一致すると認定した本件審決に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア 本願補正発明においては,各共振点の関係や共振特性曲線がどのようなものであるのか何ら限定されていないが,各共振点が比較的離れており,共振特性曲線が鋭く尖ったものも含まれるということができるから,各共振点はそれぞれの共振点でのみ振動するか,あるいは,仮に一方の共振点が他方の共振点で振動したとしても無視できる程度に小さいものとなるから,引用発明のように負荷が別々に駆動されるものと比べて,動作に実質的な差異はないといえる。
したがって,入力端が1個であり,入力端より供給される電源周波数を切り替える本願補正発明の動作と,超音波振動子のそれぞれに駆動回路があり,駆動回路を切り替える引用発明の動作に格別の差異があるとは認められないとした本件審決に誤りはない。
イ(ア) 本件審決が周知技術として例示した甲12記載の「超音波洗浄装置」と引用発明の「超音波霧化装置」は,いずれも,超音波振動子を駆動する駆動装置に関するものであり,少なくとも,複数の超音波振動子を駆動する構成に関する限り,同一の技術分野に属する発明として,その組合せ又は置換を妨げる理由はない。
また,一般に,負荷にある所定の動作を行わせるための駆動回路は必ずしも一通りであるとは限らず,様々な設計例が存在することが通常であるところ,ある駆動回路を同様の動作を行わせる周知の回路に単に置き換えることが当業者にとって格別困難なことであるとはいえず,複数の超音波振動子を引用発明と同様の動作をさせるための回路として周知の回路を持ち出すことは格別不適切なことではない。
したがって,引用発明の回路構成を,本件審決が認定した周知の回路構成に置き換えることは,当業者にとって適宜採用しうることにすぎない。
(イ) また,そもそも,本件審決において,周知技術として認定しているのは,「複数の共振周波数を有する負荷に,該複数の共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給し,各共振周波数で負荷を動作させる構成」であって,「負荷」に相当する「超音波振動子」が複数であるか,単数であるかを認定の対象にするものではないが,甲12の特許請求の範囲の請求項1には,「少なくとも1つの振動子に少なくとも2つ以上の異なった周波数の出力を微小時間間隔で切り換えて入力することにより,前記振動子から前記異なった周波数及びそれ以外の周波数の超音波を放射して洗浄することを特徴とするマルチ周波数超音波洗浄方法。」と記載されているように,少なくとも一つの振動子に少なくとも二つ以上の異なった周波数の出力を微小時間間隔で切り替えて入力することが示されており,振動子が単数に限定されておらず,複数であることを妨げるものではないことは明らかである。
さらに,甲12と同様な構成は,例えば,乙1ないし3にも記載されており,本件審決において周知であると認定した回路構成が周知であることは明らかである。
(3) 取消事由3に対しア 引用例2(甲11)は,超音波発振器振動子の共振周波数変動に対する自動追尾をマイクロコンピューター制御により行う超音波発振器の技術を開示するものであり,その具体的手法は,振動子に流れるアナログ交流高周波電流値信号S4の指令値に相当するデジタル調整電圧値信号S5を少しずつ変化させ,そのときのアナログ交流高周波電流値信号S4をデジタル変換した値であるデジタル高周波電流値信号S7が,前回まで最大デジタル高周波電流値信号S7と比較して大きいときには,新たな最大デジタル高周波電流値信号S7に書き替えて,高周波電流の最大値を保つようにして,振動子の共振周波数の変化を捉えて常に自動追尾できるようにするものであると理解される(4頁右上欄18行〜5頁右上欄18行)。
イ そして,相違点2に係る本願補正発明の「追尾制御手段」の構成と引用例2に記載された自動追尾の具体的手法を対比すると,@引用例2記載の「振動子に流れるアナログ交流高周波電流値信号S4の指令値に相当するデジタル調整電圧値信号S5を少しずつ変化させ」ることと,本願補正発明の「各共振点の各共振周波数近傍で,それぞれ電源周波数を微小量だけ変化させてみ」ることとは,「共振点の共振周波数近傍で,電源周波数を微小量だけ変化させてみ」るという態様で共通し,A引用例2記載の「そのときのアナログ交流高周波電流値信号S4をデジタル変換した値であるデジタル高周波電流値信号S7が,前回まで最大デジタル高周波電流値信号S7と比較して大きいときには,新たな最大デジタル高周波電流値信号S7に書き替え」ることと,本願補正発明の「この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,上記各共振点の各共振周波数の変動を把握」することとは,「この変化に応じた負荷入出力物理量の増減に基づいて,上記共振点の共振周波数の変動を把握」する態様で共通し,B引用例2記載の「(デジタル調整電圧値信号に対して)共振周波数を自動追尾できるようにする」ことと,本願補正発明の「電源周波数に対して各共振周波数を追尾させる」こととは,「電源周波数に対して共振周波数を追尾させる」態様で共通する。
そうすると,本願補正発明の追尾制御手段と引用例2記載の自動追尾とは,本願補正発明は共振点を複数有することが前提となっているのに対し,引用例2に記載された発明はかかる構成が前提とはなっていない点で相違するものの,一つの共振点における共振周波数の追尾方式に関する限り,両者は文言上一致しているものであるから,相違点2に係る本願補正発明の構成と引用例2記載の発明に格別の差異がないとした本件審決に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について本件事案の内容にかんがみ,まず,原告主張の取消事由2について判断することとする。
(1)ア(ア) 引用例1(甲10)には,次のとおりの記載がある。
@ 「この発明は超音波霧化装置,特に複数個の超音波振動子を備えた超音波霧化装置に関する。」(1頁左欄最終行〜右欄1行)A 「この発明の目的は,上記に鑑み,種々の粒径を持つ霧化粒子が得られ,しかも送出される霧化粒子の粒径の量配分と,時分割間隔を任意に設定し得る超音波霧化装置を提供することである。」(2頁左上欄18行〜右上欄1行)B 「この発明の超音波霧化装置は,共振周波数の異なる複数個の超音波振動子を時間順次に振動させ,その時分割走査のトータル時間と,各超音波振動子の振動時間配分を任意に変え得るものであるから,患者に合わせて,症状に合わせて,粒径毎の霧化時間間隔と粒径毎の量配分を外部から医者等が調整することができ,きめの細かい,効果的な治療を行うことができる。」(2頁右上欄17行〜左下欄4行)C 「10a,10bはアナログスイッチであり,これらアナログスイッチがオンされると,対応する振動回路9a,9bに電源電圧+Vが供給され,その振動回路が作動して対応する超音波振動子4a,4bが振動するようになっている。」(2頁右下欄最終行〜3頁左上欄4行),「11はアナログスイッチ10a,10bを個別にオンするための信号Sa,Sbを出力するCPU(マイクロプロセッサ)である。信号Sa,Sbは時分割で,すなわち時間順次に出力される。」(3頁左上欄5行〜8行),「この状態すなわち超音波振動子4aによる霧化作用は,タイマがタイムアップするまで(時間Taが経過するまで)続く(ST7)。タイマがタイムアップすると,信号Saがオフとなり,アナログスイッチ10aがオフして,超音波振動子4aの振動が停止する(ST8)。と同時にタイマに時間Tbがセットされ,信号Sbが出力され,アナログスイッチ10bがオンされる。・・・この超音波振動子4bによる霧化作用は,タイマがタイムアップするまで,すなわち時間Tbが経過するまで継続される(ST11)。ここでタイマがタイムアップすると,信号Sbがオフとなり,アナログスイッチ10bがオフして,超音波振動子4bの振動が停止する(ST12)。」(3頁左下欄16行〜右下欄14行),「そして電源スイッチオフ等による霧化終了でない限り(ST13),スタートにリターンし,以後もST1〜ST12の処理動作が繰り返される。すなわちトータル時間をTとし,このトータル時間のインターバルTがTaとTbに配分され,超音波振動子4aと4bによる霧化作用が繰り返される。つまり,大径と小径の霧化作用が,TaとTbの時間毎に繰り返し送出される。」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄1行),「上記したように,インターバルTはツマミ12aによって,1から30秒まで変更可能であり,また時間TaとTbの配分比も,ツマミ14aにより0から100%まで変更可能であるから,操作者はツマミ12aとツマミ14aを調整することにより,トータルインターバル30秒以内で,大径と小径の比率を任意に変えて霧化粒子を気道に吸入することでき,非常にきめの細かい治療を行うことができる。」(4頁左上欄2行〜10行)(イ) 以上の記載から,引用発明は,複数個の超音波振動子を備えた超音波霧化装置に関し,一定の時間を複数の時間区分に分け,一つの時間区分では特定の共振周波数の超音波振動子のスイッチをオンにさせるようにし,共振周波数の異なる複数個の超音波振動子を時間順次に振動させることによって,複数の粒径を有する霧化粒子を発生させ,時間区分の比を調節することにより霧化粒子の粒径の量配分が任意に調節でき,電源スイッチのオフ等による霧化を終了しない限り,時間順次の動作を繰り返すことができるようにするため,「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」と「超音波振動子をそれぞれの共振周波数で駆動する回路と,時間順次に,該駆動する回路を切り替えていく走査手段」を備える構成としたことが認められる。
イ(ア) 一方,本願補正発明は,「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」としている点で,「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」を備える引用発明と異なるものである(相違点1)。
(イ) そして,「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」とする構成に関し,本願の明細書(甲2)には,次の記載がある。
@ 「【発明の属する技術分野】電気的な共振点を有する負荷,例えば超音波装置の振動子・・・等に供給する電源の周波数を上記共振点の共振周波数に自動的に同調させる適応型自動同調装置に関する。」(段落【0001】)A 「・・・この超音波洗浄装置をパワーアップしようとする場合には,上記振動子をそのパワーに耐えられるだけの大きなものにする方法と,それほど大きくない複数個の振動子を電気的に接続して同時駆動する方法が考えられる。しかし,前者の方法は,大きな振動子を必要とする点で不利であり実際には,ほとんど利用されておらず,専ら後者の方法が採用されている。・・・これら振動子を接続した負荷10は共振点を複数個有することになるが,このような負荷10を上記従来の自動同調装置で駆動した場合には,電源周波数は上記複数個の共振点のいずれか1個に同調すると,その共振点を追尾するだけで,他の共振点に対する同調或いは追尾は全く行なわれなくなる。従って,同調等の対象とならなかった共振点に係る振動子には電源供給が十分に行なわれず,振動エネルギーの発生も十分なものでなくなり,負荷10全体から出される振動エネルギーも意図したもの以下に低下する。更に,上記のような場合,同調および追尾の対象となっている振動子だけに電源供給が集中することから,当該振動子が破壊する場合もある。」(段落【0006】)B 「以上のように,本実施の形態では,共振点の異なる複数の負荷を,単に接続するだけで,新たな1個の負荷として容易に駆動でき,しかもこの際に上記複数の負荷の共振点が広い範囲に分散していても,それら各負荷に対し均一的にパワーを供給でき,かつ上記駆動は安定かつ高速に行なえる。」(段落【0023】)(ウ) 以上の記載から,本願補正発明は,例えば超音波洗浄装置をパワーアップするために,その方法として,複数の振動子を電気的に接続して同時駆動することにより,発生する超音波のパワーを上げる構成を採用することを前提としたものと認められる。
(2)ア 本件審決は,本願補正発明と引用発明の相違点1について,本願補正発明は,「実質的には,「電気的共振点を複数有する負荷」を構成する「共振点の異なる複数の負荷」に時分割でパワー供給を行うものであり,該動作は引用例1記載の発明のものと格別な差異があるとは認められない。」(審決書4頁34行〜36行)としている。
しかし,前記のとおり,「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」とする構成を採用した本願補正発明においては,一つの入力端から供給されるパワーにより同時に複数の振動子を駆動させることを前提とし,「上記入力端より供給する電源の周波数を上記各振動子の共振点での共振周波数にほぼ等しいものに時分割で順次循環的に切り替えていくこと」(本件補正後の請求項3)によって発生する超音波のパワーアップが図られることになるのに対し,引用発明は,共振周波数の異なる複数の振動子を別々に駆動させて,粒径毎の霧化時間間隔と粒径毎の量配分を調整するというものであって,両者は,複数の振動子を駆動させる動作の点において,具体的な技術的課題,作用を異にし,その技術的思想を異にしているものであり,「共振点の異なる複数の負荷に時分割でパワー供給を行う」という抽象化されたレベルで共通するとしても,そのことをもって,両発明の上記各動作に格別の差異がないとすることはできないというべきである。
被告は,本願補正発明においては,各共振点が比較的離れており,共振特性曲線が鋭く尖ったものも含まれるということができるから,各共振点はそれぞれの共振点でのみ振動するか,あるいは,仮に一方の共振点が他方の共振点で振動したとしても無視できる程度に小さいものであり,引用発明のように負荷が別々に駆動されるものと比べて,動作に実質的な差異はない旨主張する。しかしながら,本願補正発明は,「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」とするものであり,複数の振動子を電気的に接続して同時駆動することを構成内容とするものであるから,その構成上の対比において,負荷が別々に駆動される引用発明と,動作に実質的な差異がないということはできない。
そして,引用発明が,独立した入力端を設けて,共振周波数の異なる複数の振動子を別々に駆動させる構成を採用したのは,複数の粒径を有する霧化粒子を発生させ,時間区分の比を調節することにより霧化粒子の粒径の量配分を任意に調節するためであることは前記のとおりであるところ,引用発明において同時に複数の振動子を駆動するときは,それぞれの振動子を駆動する時間を調整して霧化粒子の粒径の量配分を調節することが困難となるから,複数の振動子を電気的に接続して同時駆動することは,これをうかがわせる事情が認められない限り,引用発明の予定していないところと考えるのが相当であるし,引用例1には,入力端を1個として同時に複数の振動子を駆動するようにするという技術的課題も,また,これを示唆する事項も全く記載されていない。そうすると,引用例1には,これに接した当業者が,引用発明における「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」を,本願補正発明の「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」に変更する契機となるものがなく,その動機付けを見出すことができないといわなければならない。
イ 次に,本件審決は,「回路的にも,複数の共振周波数を有する負荷に,該複数の共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給し,各共振周波数で負荷を動作させる構成は周知であり(一例として,特開平2-144181号公報(判決注・甲12)参照)」として,「各構成負荷の入力端に,それぞれの共振周波数の電源を,切り替えて供給する代わりに,共通の入力端に,各共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給するようにする程度のことは,当業者にとって適宜採用しうる構成にすぎない。」(審決書4頁36行〜5頁3行)と判断している。
しかしながら,本件審決が周知技術の例示として引用する甲12は,一つの振動子に複数の周波数の出力を微小時間毎に切り替えて供給することにより,複数の周波数を含む「連続した周波数」の超音波を出力する技術に関するものであり,本件審決にいう周知技術を裏付けるものとして適切なものといえるかどうかはともかく,仮に本件審決にいう周知技術を前提としても,そのことが,引用発明において「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」を「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」に変更する動機付けとなるものと解することはできず(このことは,被告が提出する乙1ないし3によっても何ら変わるものではない。),かかる動機付けが見出せない以上,引用発明に上記周知技術を用いて,「共通の入力端に,各共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給するようにする程度のことは,当業者にとって適宜採用しうる構成にすぎない」とすることはできない。
なお,引用発明は,振動子を「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」とし,「超音波振動子をそれぞれの共振周波数で駆動する回路と,時間順次に,該駆動する回路を切り替えていく走査手段」を備えることにより,霧化粒子の量配分をきめ細かく調節可能とするものであるから,「複数の共振周波数を有する負荷に,該複数の共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給し,各共振周波数で負荷を動作させる構成」という点においては本件審決にいう周知技術と同じ構成を備えるものであり,本件審決にいう周知技術は引用発明に新たな構成を付け加えるところがないものと認められる。
そうすると,引用発明に本件審決にいう周知技術を組み合わせることによって,当業者が相違点1に係る本願補正発明の構成を適宜採用し得るものと認めることはできないから,本件審決の上記判断は誤りである。
(3) 以上のとおりであるから,引用発明及び周知技術に基づいて,相違点1に係る本願補正発明の構成を当業者が容易に想到できたものということはできず,原告の取消事由2は理由がある。
なお,被告が本件訴訟において提出した乙1には,実施例として,一つの発信回路(1)に接続されたドライバ(2)に複数の振動子(3 〜3 ) 1nが接続され,電源周波数を切り替えることにより,各振動子から一定の周波数の超音波を出力する技術が記載されているが,本件審決は,乙1に係る技術を引用例として本願補正発明の容易想到性について審理判断したものではないから,本件訴訟においては,相違点1に係る本願補正発明の構成の容易想到性を上記技術に基づいて判断することはできない。
2結論以上によれば,本件審決は,相違点1についての判断を誤ったものであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀