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関連審決 不服2004-687
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  名義変更 /  援用権(援用) /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10792号 審決取消請求事件
原告 凸版印刷株式会社
訴訟代理人弁理士 志賀正武
同高橋詔男
同青山正和
同鈴木三義
同増井裕士
同堀内正優
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 青木和夫
同末政清滋
同岡田孝博
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-687号事件について平成17年9月26日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記特許出願に対する特許庁の拒絶査定を不服とする審判請求につき,特許庁が同請求不成立の審決をしたため,審判手続の途中で出願人から特許を受ける権利の譲渡を受けた原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯訴外三菱レイヨン株式会社(以下「訴外会社」という。)は,名称を「背面投写型スクリーン,レンチキュラーレンズシート成形用金型及びレンチキュラーレンズシート成形方法」とする発明につき,平成9年7月15日に特許出願(特願平9-189372号,以下「本願」という。甲2)をし,その後平成15年11月10日に手続補正(甲3)をしたが,特許庁は,平成15年12月5日付けで拒絶査定をした。
そこで訴外会社は,不服の審判請求をし,同請求は不服2004-687号事件として特許庁に係属した。同審判手続きの途中で原告は,訴外会社から本願について権利の譲渡を受け,平成17年2月22日付けで名義変更届を特許庁に提出した。
同事件の中で原告は,平成17年2月22日(甲4),平成17年8月1日(甲5)に,それぞれ手続補正をしたが,特許庁は,審理の上,平成17年9月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」ということがある。)をし,その謄本は平成17年10月11日原告に送達された。
(2) 発明の内容平成17年8月1日付けで補正(甲5)された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」という。)。
記「 光源側に配置されたフレネルレンズシートと観察側に配置されたレンチキュラーレンズシートとを含んで構成された液晶パネル投写用の背面投写型スクリーンにおいて,前記レンチキュラーレンズシートは光入射側にレンチキュラーレンズが形成され且つ光出射側に平坦面またはマット面が形成されており,該レンチキュラーレンズはレンズ単位の配列ピッチが0.05〜0.3mmであり且つ隣接するレンズ単位の境界においてレンズ単位どうしが35 〜60 の角度をなし°°ており,前記レンチキュラーレンズはレンズ単位の配列ピッチ(P)が前記液晶パネルの投写画素のピッチ(P )とP /P≧4の関係にあり,LH LH前記レンチキュラーレンズシートを加熱プレス成形法,押出し成形法,鋳込み成形法,射出成形法または活性エネルギー線硬化型樹脂を用いたフォトポリマー法のいずれかによって成形してなることを特徴とする背面投写型スクリーン。」(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は,下記引用例1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。
記引用例1 特開平5-249564号公報(甲6)引用例2 特開昭63-212925号公報(甲7)引用例3 特開平4-270333号公報(甲8)引用例4 特開平1-158422号公報(甲9)イ 上記判断をするに当たり,審決は,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)を次のとおり認定した上,本願発明との一致点及び相違点について以下のとおり認定した。
(引用発明の内容)「 光源側に配置されたフレネルレンズシートと観察側に配置されたレンチキュラーレンズシートとを含んで構成された液晶パネルを用いたプロジェクションテレビ用の透過型スクリーンにおいて,レンチキュラーレンズシートの光入射側にレンチキュラーレンズが形成され,観察側が平坦に形成され,投影された液晶パネルのパターンのピッチに対するレンチキュラーレンズのピッチの比が3.5以上であり,レンチキュラーレンズのピッチが0.3mm以下であり,レンチキュラーレンズシートを加熱プレス成形法,射出成形法,押出成形法のいずれかで成形する」という発明(一致点)「 光源側に配置されたフレネルレンズシートと観察側に配置されたレンチキュラーレンズシートとを含んで構成された液晶パネル投写用の背面投写型スクリーンにおいて,前記レンチキュラーレンズシートは光入射側にレンチキュラーレンズが形成され且つ光出射側に平坦面が形成されており,前記レンチキュラーレンズシートを加熱プレス成形法,押出し成形法または射出成形法のいずれかによって成形してなることを特徴とする背面投写型スクリーン。」である点。
(相違点1)本願発明が「レンチキュラーレンズはレンズ単位の配列ピッチが0.05〜0.3mm」であるのに対して,引用発明は「レンチキュラーレンズのピッチが0.3mm以下」である点。
(相違点2)本願発明が「隣接するレンズ単位の境界においてレンズ単位どうしが35 〜60 の角度」というものであるのに対して,引用発明はそのよ°°うな構成を備えていない点(相違点3)本願発明が「レンチキュラーレンズはレンズ単位の配列ピッチ(P)が前記液晶パネルの投写画素のピッチ(P )と LHP /P≧4」であるのに対して,引用発明は,「投影された液晶パ LHネルのパターンのピッチに対するレンチキュラーレンズのピッチの比が3.5以上」である点(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,以下のとおり,相違点2に係る判断を誤り,その結果,引用例1〜4に基づいて本願発明を当業者が容易に発明することができたと誤って認定判断したものであって,違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(引用例2,3の認定の誤り)審決は,引用例2,3の記載事項について,入光側レンチキュラーレンズの単位レンズの断面が真円の円弧状のものであるという前提に立って,単位レンズ同士の境界における接線の挟角を計算によって求め,これを本願発明の「35 〜60 」と比較している。しかし,単位レンズの断面が真円°°弧状であるとの前提は,技術常識に反するものであって,誤りである。
詳述すると,以下のとおりである。
(ア) レンチキュラーレンズの断面形状に関する技術常識本願発明や引用例1〜4のように,レンチキュラーレンズシートの光入射側にレンチキュラーレンズが形成されて成るものにおいては,レンズ単位の断面形状を真円の円弧状に形成した場合,透過光に球面収差が発生してしまい,鮮明な画像をスクリーン上に投影できないという重大な欠陥があるので,楕円等の非円弧形状に形成するのが技術常識である。
かかる技術常識が本願の当時に存在していたことは,甲10文献(昭和59年8月15日日本放送出版協会発行,NHK技研月報27巻8号338頁,「高品位テレビ用透過型スクリーンの開発」),甲11公報(特開昭58-134627号公報),甲12公報(特開平5-188476号公報),甲13公報(特開平7-84314号公報)から明らかである。
したがって,レンチキュラーレンズの断面形状が真円の円弧状であることを前提として,引用例2,3における入光側のレンチキュラーレンズの谷部の接線のなす角度の計算値を,本願発明における単位レンズ間の角度と比較することは明らかに不適当である。
(イ) 引用例2,3の認定の誤り審決は,引用例2,3の単位レンズ同士の境界における接線の挟角を,単位レンズの断面形状が真円の円弧状であることを前提として計算しているが,上記(ア)のとおりの技術常識からすれば,かかる前提自体「入光側のレン に誤りがある。したがって,審決が,引用例2について,チキュラーレンズの谷部の接線のなす角度は,……実用に適するものについては,0 〜63.58 ,そして製造例1については,45.24 であるものが記載されて°° °「入光側のレンチキ いる」(5頁第2段落) と認定し,引用例3について,ュラーレンズの谷部の接線のなす角度が,………製造例については,53.53 であるも °と認定したことは,いずれも誤りであ のが記載されている」(5頁最終段落)る。
「入光側の単位レンズ断面形状をなす形状に近似また 引用例2(甲7)には,との記載があるが,「同一の半は同一の半円の半径R」(3頁左上欄17〜18行)円の半径R」とは,単に概略の断面形状をいうにすぎず,真円の円弧形状を特定するものではない。同様に,引用例3(甲8)においても,「光を拡散するようなものであれば,どのような形態のものであってもよく,例えば,円,楕円もしくはその他の形状の水平拡散型レンチキュラーレンズ21aを配列したとの記載があるが,これも厳密なもの ものを用いれば」よい(段落【0019】)とはいえず,概略を記載しているのにすぎない。
被告は,引用例2,3記載のものは,いずれも,断面形状が実質的に円の一部であるレンチキュラーレンズである旨主張するが,引用例2「半円または楕円に近似される断面形状を有するレンチキュラー (甲7)におけるレンズ」(2頁左上欄1〜2行) 「入光側の単位レンズの断面形状が半径0.65mmの ,なる記載は,「近似」が円に近似された半円の一部」(4頁右上欄1〜2行)「似かようこと」を意味する以上,同一でないことを前提としており,非円弧の断面形状を明記していることは明らかである。
イ 取消事由2(本願発明の認定誤り)(ア) 本願発明の特許請求の範囲には,レンチキュラーレンズのレンズ単位「レ の形状について特に規定していないが,本願明細書(甲2)には,ンズ単位の断面形状は,円弧形状であってもよいし,楕円などの非円形状の一部をなと記載されている。この記載を, す形状であってもよい。」(段落【0011】)レンズ単位の全体を真円の円弧形状に形成すると,球面収差の発生によって透過型スクリーン上での透過画像の解像度が著しく低下してしまう,という上記の技術常識に照らして解釈すると,レンズ単位の頂部付近のみを「円弧形状」とし,その両側部分は「円弧形状」に滑らかに接続される非円弧形状に形成することを意味すると認識できる。
そうすると,本願発明における「円弧形状」とは,楕円等の非円弧形状における頂点付近に曲率半径を有する円弧形状部分を意味するものであり,その両側の領域では頂点付近の曲率半径と異なる非円弧形状を形成することになる。通常,このような場合には,頂部円弧及び両側部非円弧形状と記載することがより正確ではあるが,一般的には,引用例2〜4と同様に「円弧形状」や「円形」等という簡略的な表現で記載しているのである。
(イ) 被告は,原告の上記主張は明細書の記載に基づかないものであると主張し,特開平9-15730号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)においても,特定の曲率半径を有する「断面半円状」と,「レンズ単位の頂部付近のみが断面半円状でその両側は非円弧状である非球面レンズ」とは明確に区別されている旨指摘する。
しかし,本願明細書(甲2)において,「円弧状」なる表記が概略形状を示すものであることは,「円弧形状」のレンズ単位は球面収差を発生させるため実用上使用できないことから明らかである。また,レンズ単位の頂部付近のみを「円弧形状」とし,その両側部分を「非円弧形状」に滑らかに接続されて全体で非円弧形状であることは上述のとおりである。
「従来の背面投射型スクリーンにおいて また,乙1公報の段落【0003】に,は,レンチキュラーレンズシートとして,断面半円状,断面半楕円状等の断面円弧状旨記載されてお の形状をしたレンチキュラーレンズが,………使用されている。」り,この記載からも,レンチキュラーレンズの断面形状が「円弧状」であるとは,「半円状」と「半楕円状」の両方を含む概念として認識されていることが明らかである。このように,乙1公報においても,特定の曲率半径を有する「断面半円状」と「レンズ単位の頂部付近のみが断面半円状でその両側は非円弧状である非球面レンズ」とは明確に区別されておらず,「断面円弧状」等という表記は楕円形状等の非球面形状のレンズを意味することは明らかである。
(ウ) 被告は,本願明細書(甲2)に記載された,実施例1の曲率半径Rと配列ピッチPの数値例に基づいて,円の一般式及び微分による円の方程式等を用いて演算すると,実施例1のレンズ単位同士のなす角度θは58 になるから,実施例1のレンズ単位の断面形状は,特定の曲率半径°を有する真円の円弧状であると主張している。
しかし,被告の演算は誤っており,正しくは,θ=57.48 であり,四°捨五入すれば57 となる。同じ断面形状を有するレンチキュラーレンズ °であれば,計算上,レンズ同士のなす角度θの数値が一致するはずであるから,これが一致しないということは,被告が,断面形状が真円の円弧状であることを前提に計算したことが誤りであることを示すものである。
ウ 取消事由3(容易想到性の判断誤り)(ア) 本願発明の相違点2に係る構成は,レンチキュラーレンズにおける隣°° 接するレンズ単位の境界においてレンズ単位同士が成す角度を35 〜60の範囲に特定したものであるが,かかる構成の採用によって,良好な配向特性を実現できるとともに,成形品の成形性と金型離型性と十分な金型寿命を良好に確保できるという効果を奏する。
すなわち,レンズ単位同士の角度が60 を超えると,水平視野角が狭°くなり斜め横方向から画面を観察した際に画面が暗くなって見にくくなる欠点を生じる。また,35 未満であると,成形後の離型性が低下した°り,成形を繰り返すうちに金型先端が曲がって成形品離型ができなくなったり,金型取扱い時に金型先端を損傷して金型寿命が短くなる,という欠点が生じる。
したがって,相違点2に係る構成の数値限定は,十分な効果と臨界的意義を有している。審決は,数値限定に臨界的意義を認めることができないと判断したが,誤りである。
(イ) 審決は,レンズ単位同士が成す角度に下限を設けるという技術的思想は引用例4(甲9)に開示されており,かかる技術的思想を引用発明に適用することに阻害要因はないと認定判断したが,以下のとおり誤りである。
a 引用例4には,入射側のレンズの継ぎ部分の角度が小さくなると金型の寿命が短くなる等の記載があるが,角度に下限を設けることが望ましい旨の記載はなく,しかも,成形後の離型性が低下することを防ぐ境界角度については全く記載がない。
すなわち,引用例4は,単位レンズ同士の角度が小さくなることを回避するために,単位レンズ同士の角度の下限を設定しようというものではなく,隣り合う単位レンズの間に平坦部を設けるという手段を開示するものである。このように,引用例4は,引用例1〜引用例3とは異質の発明であり,技術的思想や効果も異質であるから,これらを組み合わせることは困難である。引用例4には,入射側のレンズの継ぎ部分の角度θに下限を設けるという技術的思想はなく,この技術的思想を引用発明に適用する阻害要因はないという審決の説示は,明らかに誤りである。
b また,引用例4は,両面レンチキュラーレンズに関する発明を開示したものであり,引用発明及び本願発明が片面レンチキュラーレンズに関するものであるのと異なる。審決は,金型の寿命について検討する場合,両面であるか片面であるかは本質的な事項ではない旨説示するが,誤っている。
すなわち,引用例4はレンズ単位についての配列ピッチを0.3mmを越えた値に設定して成る,又は0.3mmピッチと0.3mmピッチを超えたものを混在させて成る両面レンチキュラーレンズに関するものである。
このように,引用例4の技術や技術的思想は,レンズ単位の配列ピッチを0.05〜0.3mmに設定した片面レンチキュラーレンズに関する本願発明とは異質のものであるから,引用発明に適用し得ない。
(ウ) 審決は,配向特性の観点からも,本願発明における数値限定は,引用例2,3に開示される技術的思想を引用発明に適用することによって当業者が容易に想到し得たものであると判断したが,以下のとおり誤りである。
a 審決は,引用例2,3の単位レンズの断面形状が真円の円弧状であるとの前提のもとで,単位レンズ同士の成す角度を計算により求めているが,上記ア(取消事由1)のとおり,かかる前提は誤りである。
b また,引用例2及び引用例3には,単にレンチキュラーレンズの製造例として単位レンズの半径やピッチの寸法例等が開示されているにすぎず,レンズ単位同士の角度を35 〜60 とする構成については,開°°示はおろか示唆もされていない。
c さらに,引用例2は両面レンチキュラーレンズに関するものである点において,引用例3はフレネルレンズを備えていない点において,本願発明とは基本的構成を異にしている。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論原告の取消事由に係る主張は,以下のとおりいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し原告は,レンチキュラーレンズの断面形状としては真円の円弧状を採用しないのが技術常識であるから,引用例2,3におけるレンチキュラーレンズの断面形状が真円の円弧状であることを前提にして審決がレンズ単位同士の角度を計算したのは誤りであると主張する。
しかし,引用例2,3には,製造例として,断面形状が実質的に円の一部であるレンチキュラーレンズが記載され,乙1公報にも,断面形状が実質的に円の一部であるレンチキュラーレンズが記載されているから,審決の前提に誤りはない。原告は,球面収差の発生を抑制するために非球面のレンチキュラーレンズを採用している文献(甲10〜13)を提示することにより,断面形状を真円の円弧状にしないことが技術常識であったと主張するが,引用例2,3及び乙1公報の記載に照らし,原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2に対しア 原告は,本願発明におけるレンズ単位の断面形状は真円の円弧状ではな「レンズ単位の断面形状は,円弧形状で いと主張するが,本願明細書(甲2)のあってもよいし,楕円などの非円形状の一部をなす形状であってもよい。」(段落との記載に照らし,失当である。 【0011】)原告は,本願明細書の上記記載において,「円弧形状」とは,厳密な真円の円弧状ではなく,実質的には,レンズ単位の頂部付近のみを真円の円弧状とし,その両側部分はこれに滑らかに接続される非円弧形状としたものを意味すると主張する。しかし,本願明細書の上記段落の記載や図面を参酌しても,そのような形状であると認識することは到底不可能であり,原告の主張は明細書の記載に基づかない主張である。
ちなみに,乙1文献においては,レンズ単位の頂部付近のみの断面を円弧状とし,その両側部分は円弧状部に滑らかに接続する非円弧状とした非球面レンズは,断面を特定の曲率半径を有する円弧状としたレンズとは明確に区別される。
イ また,本願明細書(甲2)には,実施例1においてレンズ単位同士が成す角度θは58 であった旨が記載されているところ,実施例1のレンチキ°ュラーレンズについて,円の一般式によってレンズ単位同士が成す角度θを求めると,θ=58 となる。この点からしても,本願発明のレンズ単位°の断面形状は,特定の曲率半径を有する円弧状であると解される。
(3) 取消事由3に対しア 数値限定の臨界的意義につき原告は,本願発明において,レンズ単位同士が成す角度を35 〜60 に特°°定したことには臨界的意義がある旨主張する。
しかし,本願明細書には,レンズ単位同士が成す角度に係る実施例としては,唯一実施例1が記載されているのみであり,その角度は58 であ°る。このような一点のみの実施例では,数値限定の上限が臨界的意義を有するとされるための十分な根拠とはならない。
また,数値限定の下限についても,例えば,下限値の前後において金型離型性や金型寿命がどのように変化したのかが,本願明細書中には全く示されていない。
このように,本願発明が,レンズ単位同士が成す角度を35 〜60 の範囲°°に限定したことについて,その臨界的意義を示す根拠は本願明細書に見出せない。
イ 引用例4の適用につき原告は,引用例4(甲9)には,レンズ単位同士の成す角度に下限を設ける技術的思想は開示されていないと主張するが,以下のとおり失当である。
(ア) 引用例4には,レンズ単位同士の成す角度を小さくすると金型の寿命が短くなる等の問題が生ずることが記載されているから,その角度に下限を設けるという技術的思想が記載あるいは示唆されているということができる。
(イ) 原告は,両面レンチキュラーレンズに関する引用例4に示された技術的思想を,片面レンチキュラーレンズに関する引用発明に適用することには阻害要因がある旨主張する。しかし,レンズ単位同士の成す角度に下限を設けることは,上記(ア)のとおり金型の寿命等の観点から行うものであるところ,金型の寿命について検討する場合,両面レンチキュラーレンズであるか又は片面レンチキュラーレンズであるかということは本質的な事項ではないから,引用例4に示される技術的思想を引用発明に適用することは,当業者にとって格別困難なことではない。
ウ 引用例2,3の適用につき(ア) 原告は,引用例2(甲7)は両面レンチキュラーレンズに関するもので,引用発明及び本願発明とは基本的構成を異にすると主張する。
しかし,引用例2の製造例1が両面にレンチキュラーレンズを設けたのは,出光拡散の度合いを大きくするためであるから,製造例1の入光側レンチキュラーレンズに係る構成を,片面レンチキュラーレンズに適用することに特に困難性を要しないことは明らかであり,そして,その適用により,本願発明と同様の配向特性を得るであろうことは容易に推測できる。
(イ) 原告は,引用例3(甲8)の透過型投影スクリーンは,フレネルレンズを備えていない点において,引用発明及び本願発明とは基本的構成を異にすると主張する。
しかし,引用例3の記載及び図面を参照すれば,引用例3がフレネルレンズを備えるものであることは当業者にとって自明であるから,原告の主張は前提において誤りである。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,原告主張の取消事由ごとに審決の適否について判断する。
2 取消事由1(引用例2,3の認定の誤り)について原告は,審決が,引用例2(甲7),引用例3(甲8)記載のレンチキュラーレンズにおける単位レンズ同士の接線の挟角を算出するに当たり,レンズ単位の断面形状が真円であることを前提とする計算によって求めたのは誤りであると主張するので,検討する。
(1) 引用例2,3の記載につきア引用例2(ア) 引用例2(甲7)には,下記の記載がある。
記a「従来,このようなレンチキュラーレンズスクリーンにおける光の出光拡散は,入光側のみに設けられた半円または楕円に近似される断面形状を有するレンチキュラーレンズによって制御されていた。」(1頁右下欄下2行〜2頁左上欄3行)b「(発明が解決しようとする問題点)しかしながら,上述のレンチキュラーレンズスクリーンにおいては,出光拡散の度合いを大きくしようとすると,光の拡散が入光側レンチキュラーレンズのみに依存しているため,レンチキュラーレンズを構成する1単位レンズの断面形状は光軸方向に長く引き伸ばされた形状となり,その結果,@使用する金型の加工が難しくなり,且つ金型の耐久性が悪くなる。
A生産性のよい押出成形法で成形する場合には,設計したレンズ形状が良好に再現されない。等の問題点が生じる。」(2頁左上欄10行〜右上欄1行)c「(問題点を解決するための手段)本発明者は,上記の問題点を解決するために種々研究の結果,入光側のレンチキュラーレンズを構成する単位レンズの断面形状を半円または半円の一部に近似する形状とし,出光側には出光角度,拡散角を大きくするレンチキュラーレンズを設ければ,従来のレンチキュラーレンズスクリーンより出光拡散の度合いを大きくすることができ,且つ製造も容易であることを見出して本発明を完成されたものである。」(2頁右上欄2〜11行)d「(発明の効果)本発明のレンチキュラーレンズスクリーンは,入光側の単位レンズ断面形状を半円または半円の一部に近似する形状とし,出光側には入光側の単位レンズより小さい単位レンズからなるレンチキュラーレンズを設けたので,従来のスクリーンに較べ出光拡散の度合いを大きくすることができる。また,スクリーンに設けられたレンチキュラーレンズの断面形状は半円または半円の一部に近似する形状であるので,金型等を用いたプレス法等で形状を正確に再現することができ,且つ製造も容易となる。」(3頁右下欄下2行〜4頁左上欄11行)(イ) 引用例2の上記各記載によれば,引用例2に記載された発明は,レンチキュラーレンズを入光側のみに設けレンズ単位の断面形状を「半円または楕円に近似される」ものとしていた従来技術(記載a)においては,出向拡散の度合いを大きくしようとして断面形状を「光軸方向に長く引き伸ばされた形状」とすると生産加工上の問題点が生じていたため(記載b),かかる問題点を避けつつ出向拡散の度合いを大きくするため,レンチキュラーレンズを入光側のみならず出光側にも設けることによって(記載c),レンズ単位の断面形状は「半円または半円の一部に近似する形状」とし(記載c,d),上記の生産加工上の問題点(記載b)を回避するようにしたものであると認められる。
そうすると,引用例2の記載c,dにいう「『半円または半円の一部』に近似する形状」とは,断面が「光軸方向に長く引き伸ばされた形状」でないことを意味し,従来技術である「半円または楕円に近似する形状」のうち,「楕円に近似する形状」すなわち「光軸方向に長く引き伸ばされた形状」を除いたものであると解される。したがって,引用例2においては,レンチキュラーレンズのレンズ単位の断面形状を,楕円ではなく,真円の円弧状に近似する形状にしたものが開示されていると認められる。
イ引用例3引用例3(甲8)には,下記の記載がある。
記「図2は,本発明によるプロジェクタの実施例に使用される光源側レンズシートを示した図である。光源側レンズシート21は,前述のように光を拡散するようなものであれば,どのような形態のものであってもよく,例えば,円,楕円もしくはその他の形状の水平拡散型レンチキュラーレンズ21aを配列したものを用いれば,光を水平に±60 程度まで拡散することができ,また,角度による輝度の変化もなだらかで,°自然な感じにすることができる。」(段落【0019】)引用例3の上記記載には,レンチキュラーレンズの単位レンズの断面形状として,「円,楕円もしくはその他の形状」が挙げられており,「円」が「楕円もしくはその他の形状」と区別されているところからすると,ここでいう「円」は真円を意味すると認めるのが相当である。
「次に,具体的な製造例をあげてさらに説明する。光源 そうすると,引用例3の側レンズシート21は,入光側に,レンチの半径R1=0.14mmであって,ピッチP1=との記載に 0.25mmの水平拡散レンチキュラーレンズ21aを形成して」(段落【0027】)おける「半径」は,レンチキュラーレンズの断面形状が真円の円弧状を成す場合に,その真円の半径を意味するものであると解するのが自然である。
ウ 上記ア,イのとおり,引用例2,3のいずれにおいても,入光側のレンズの断面形状として,真円の円弧状又はこれに近似したものが採用されているといえる。したがって,審決が,引用例2,3の各レンズ単位の断面形状が真円の円弧状であることを前提として,各単位レンズ同士の境界における接線の挟角を算出し,上記のとおり認定したことに誤りはない。
(2) 原告は,レンチキュラーレンズの各レンズ単位の断面形状を真円の円弧状とすると球面収差が生ずるから,真円の円弧状を採用しないのが技術常識であると主張し,その根拠として甲10文献及び甲11〜13公報を援用する。
しかし,上記(1)のとおり,引用例2,3においては,レンズ単位の断面形状として真円の円弧状のもの又は真円の円弧状に近似したものが採用されている。そうすると,甲10文献及び甲11〜甲13公報において,真円の円弧状が採用されていないとしても,これらは,レンチキュラーレンズ設計の一態様にすぎないと解すべきであり,これらに基づいて,引用例2,引用例3の記載内容を解釈すべき理由はない。
(3) したがって,引用例2,3に記載のレンズの断面形状が,真円の円弧状であることを前提としてレンズ単位の接線の挟角を計算することは妥当なものというべきであり,審決に原告主張の誤りはない。
3 取消事由2(本願発明の認定の誤り)について原告は,本願発明における各レンズ単位の断面形状が真円であることを前提に,本願発明と引用発明とを対比したことは,誤りである旨主張するので,検討する。
(1)ア 原告は,従来,レンチキュラーレンズのレンズ単位断面形状として真円の円弧状は採用されていないから,本願発明のレンズ単位断面形状も,全体として楕円等の(真円でない)形状であり,その一部が真円の円弧状であるとしても,全体として楕円等の形状のものにおける頂点付近にのみ真円の円弧状の部分を形成したものを意味する,と主張する。
イ しかし,本願発明の特許請求の範囲においては,レンズシートの形状に「前記レンチキュラーレンズシートは光入射側にレンチキ 関して,前記のとおり,ュラーレンズが形成され且つ光出射側に平坦面またはマット面が形成されており,該レンチキュラーレンズはレンズ単位の配列ピッチが0.05〜0.3mmであり且つ隣接するレンズ単位の境界においてレンズ単位どうしが35 〜60 の角度をなしており,前記レンチキュ°°ラーレンズはレンズ単位の配列ピッチ(P)が前記液晶パネルの投写画素のピッチと記載されているものの,レンズの断 (P )とP /P≧4の関係にあり」LH LH面形状については,何ら規定していない。
そうすると,本願発明におけるレンズの断面形状が,楕円等の(真円でない)円弧状であると限定的に解釈することはできない。
ウ しかも,本願明細書(甲2)には,下記の記載がある。
記a「図2は,レンチキュラーレンズシート2の部分断面形状を示す模式図である。図2に示されているように,レンチキュラーレンズ21は,多数のレンズ単位24がピッチPで配列されてなるものである。各レンズ単位24は上下方向に延びている。配列ピッチPは,0.05〜0.3mmの範囲内である。レンズ単位の断面形状は,円弧形状であってもよいし,楕円などの非円形状の一部をなす形状であってもよい。また,隣接するレンズ単位24どうしが境界において,レンズ単位24どうしが角度θをなしている。該角度θは,35〜60 の範囲内である。」(段落【0011】)°b「次に,水平視野角(配向特性)を広げるためには,円弧形状断面のレンチキュラーレンズ21の曲率半径を小さくするか,あるいは断面形状を楕円に近づければ良いのであるが,隣接するレンズ単位24の境界においてレンズ単位24どうしが60 以下の角度θ°をなすように設定することにより良好な配向特性を実現することができる。角度θが60 を越える場合には,水平視野角が狭くなり,斜め横方向から画面を観察した時に画°面が暗くなり見にくくなってしまう。」(段落【0021】)c「(実施例1)厚さ1.5mmのアクリル-スチレン系樹脂板を用いて,ピッチ0.24mmのサーキュラーフレネルレンズシート1を加熱プレス成形法により作製した。一方,厚さ2mmのアクリル樹脂板を用いて,一方の面に曲率半径(R)0.057mmの断面円弧形状の単位レンズ24を配列ピッチ(P)0.1mmで配列[P/R=1.75]してなるレンチキュラーレンズ21を有し,他方の面に鏡面22を有するレンチキュラーレンズシート2を加熱プレス成形法により作製した。このレンチキュラーレンズシート2において,レンチキュラーレンズ21の隣接するレンズ単位24の境界においてレンズ単位24どうしがなす角度θは58 であった。」(段落【0030】)°「円弧形状であ エ 本願明細書の上記記載aでは,レンズ単位の断面形状は,とされているってもよいし,楕円などの非円形状の一部をなす形状であってもよい」のであり,「円弧形状」は「楕円などの非円形状」と区別されている。ま「円弧形状断面のレンチキュラーレンズ21の曲率半径 た,上記記載bにおいても,との記載においても,を小さくするか,あるいは断面形状を楕円に近づければ良い」「円弧形状」は楕円とは区別されている。そして,上記記載cでは,上記a,bの記載を受けて,断面を「円弧形状」とした実施例について説明されているのであるから,実施例のレンチキュラーレンズのレンズ単位の断面は真円の円弧状であると解するのが自然である。
「従来の背面投射型スクリーンにおいて オ この点につき,原告は,乙1公報には,レンチキュラーレンズシートとして,断面半円状,断面半楕円状等の断面円弧状のと記 形状をしたレンチキュラーレンズが,………使用されている」(段落【0003】)〕載されていることから,「円弧状」とは真円と楕円等の両方を含む概念として認識されていることが明らかである旨主張する。しかし,上記ウのとおり,本願明細書においては,「円弧形状」と楕円等の「非円形状」とが使い分けられているのであり,本願明細書にいう「円弧形状」の意義を,乙1公報の上記記載と同様に,真円と楕円等の両方を含むものとして解釈すべきものであるとは認められない。
(2) 原告は,被告が演算に基づき,本願発明の実施例1におけるレンズ単位は特定の曲率半径を有する「断面半円状」であると主張したのに対して,原告は,被告の演算は誤っており,本願発明におけるレンズ断面の形状は真円の円弧状でない旨を主張する。
しかし,仮に,被告の演算が誤っており,本願発明の実施例1のレンズ断面が真円の円弧状ではないとしても,上記のとおり,本願の特許請求の範囲には,レンズ断面形状について規定されておらず,本願発明は,真円でない円弧状のものに限定されるわけではないから,本願発明のレンズ形状が,真円でない円弧状のものであるということはできない。
4 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について(1) 引用発明と引用例4との組合せにつきア 原告は,引用例4(甲9)には,「角度θに下限を設けることが望ましい」旨の記載はなく,成形後の離型性が低下したり金型損傷を生じたりして金型寿命を短くすることを防ぐ境界角度については全く記載がないから,審決が,本願発明がレンズ単位同士の成す角度に下限値(35 )を設°けたことは引用例4に示された技術的思想を引用発明に適用することによって容易に得られる構成であると判断したのは誤りであると主張する。
「(1) 両面レンチの問題点………B視野角度の しかし,引用例4(甲9)には,拡がりに限界がある。視野角度を広げようとすると,第8図において入射側のレンズ40の継ぎ部分の角度θが小さくなり金型の寿命が短くなる。また,上記角度θが小さいことにより,スクリーン製造自体が難しく,製品の歩留まりが低下する。」(2頁左上欄17と記載されており,これらの記載から,角度θには下限が 行〜左下欄2行)存在することが明らかである。そして,この角度θは,金型の寿命,製品の歩留まりに影響を及ぼすとされているのであるから,その下限は,上記影響と製品に求められる性能とを比較勘案して当業者が適宜定め得る事項であるというべきである。
イ また,原告は,引用例4に記載されたものは,隣接する単位レンズ間に平坦部を設ける構成であり,単位レンズ同士の成す角度θに下限を設けるという技術的思想はない旨,また,引用例4に記載のものは,配列ピッチを0.3mmを超えた値に設定して成る両面レンチキュラーレンズであるから,入光側の片面のみにレンチキュラーレンズを設け,配列ピッチが0.05〜0.3mmである本願発明には適用できない旨を主張する。
しかし,上記アに引用した引用例4の記載は,単位レンズ同士の成す角度θが小さくなるとレンズ製造上の問題が生じることを明らかにするものであるから,その解決方法として,上記角度θの値に下限を設けるという構成を採ることも示唆するものであるといえる。そして,上記のレンズ製造上の問題は,レンチキュラーレンズの形状にかかわらず発生するものであるといえるから,引用例4が両面レンチキュラーレンズシートに係るものであるとしても,単位レンズ同士の成す角度に下限を設けるという技術的思想を,片面レンチキュラーレンズシートに係る引用発明に適用することは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得るものである。
(2) 引用発明と引用例2,3との組合せにつき原告は,引用例2,3には,単にレンチキュラーレンズの製造例として単位レンズの半径やピッチの寸法例等が開示されているにすぎず,本願発明のように,入射側レンチキュラーレンズの隣接するレンズ単位の境界におけるレンズ単位同士の角度を35 〜60 とする構成については,開示も示唆もされ°°ていない旨,また,引用例2,3のものは,本願発明とはレンズの構成等を異にするから,引用発明に適用することは困難である旨を主張する。
しかし,審決が,引用例2,3において,レンズ単位同士が成す角度を,レンズ単位の断面形状が真円の円弧状であることを前提に計算したことに誤りがないことは前記2のとおりであり,その結果,引用例2,3には,レンズ単位同士が成す角度が本願発明における「35 〜60 」の範囲内にあるもの°°の製造例が開示されているということができる。このように,引用例2,3に具体的な製造例が記載されているのであれば,それらにおいて採用されている角度が,レンズ単位同士が成す角度の数値範囲を設定するに当たり参考となる値であることは明らかである。
また,レンズ製造上の問題は,レンチキュラーレンズの断面形状が真円の円弧状であるか,楕円等の(真円でない)円弧状であるかにかかわらず発生するものであり,また,両面レンチキュラーレンズシートであるか片面レンチキュラーレンズシートであるかにかかわらず発生するものであるから,引用例2,3に開示されたレンズ単位同士の成す角度の例を,引用発明に適用することは,引用発明と引用例2,3とがレンズの形状等の構成を異にしているからといって,阻害されるわけではない。
(3) 数値限定の臨界的意義につき原告は,本願発明はレンズ単位同士の成す角度を35 〜60 の範囲に限定す°°ることによって,各引用例では得られない格別な効果を奏するものであり,当該数値限定は格別な技術的意義を有している旨を主張する。
しかし,本願明細書(甲2)には,数値限定の上限及び下限それぞれの技「次に,水平視野角(配向特性)を広げるためには,円弧形状断面 術的意義について,のレンチキュラーレンズ21の曲率半径を小さくするか,あるいは断面形状を楕円に近づければ良いのであるが,隣接するレンズ単位24の境界においてレンズ単位24どうしが60 以下の°角度θをなすように設定することにより良好な配向特性を実現することができる。角度θが60 を越える場合には,水平視野角が狭くなり,斜め横方向から画面を観察した時に画面が °暗くなり見にくくなってしまう。(段落【0021】) 「隣接するレンズ単位24の境界にお ,いてレンズ単位24どうしがなす角度θが35 未満であると,成形後の離型性が低下したり, °あるいは,図4に示すように,成形を繰り返すうちに金型先端55が曲がってしまい成形品離型ができなくなったり,金型取扱時に金型先端55を損傷したりして,金型寿命が短くなりがと記載されているにとどまる。このように,本願 ちである。」(段落【0024】)明細書には,数値限定の上限及び下限のいずれについても,限定の理由が定性的に述べられているにすぎない。
また,本願明細書には,実施例として,レンズ単位同士の角度が58 を成°すものが1例だけ開示されているにすぎず(段落【0030】),上記数値範囲を外れた比較例との対照は何らなされていない。
そうすると,本願発明のレンズ単位同士の成す角度についての数値限定は,それによる格別の効果等について明細書の記載の裏付けを欠くものであるから,所望の水平視野角や金型寿命等を勘案して当業者が適宜定め得るものにすぎないというべきである。
5結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉