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関連審決 不服2003-1558
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  国際出願 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10601号 審決取消請求事件
原告 エルジー電子株式会社
訴訟代理人弁理士 小野達己
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 前川慎喜,末政清滋,立川功,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-1558号事件について平成17年3月22日にした審決を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 本願発明(甲8)出願人:エルジー電子株式会社(原告)発明の名称: 投射レンズ系」「出願番号:特願2000-226720号出願日(国際出願 :平成12年7月27日(パリ条約による優先権主張:平 )成11年7月31日,同年11月17日,韓国)手続補正日:平成14年9月4日(補正の対象は特許請求の範囲のみ。甲6)(2) 本件手続拒絶査定日:平成14年10月1日付け手続補正日:平成15年1月27日 補正の対象は特許請求の範囲のみ 以下 本 (。「願補正」という。甲7)審判請求日:平成15年1月27日(不服2003-1558号)審決日:平成17年3月22日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「。
(。 ) 審決謄本送達日:平成17年4月5日 原告に対し 出訴期間として90日付加2 本願発明の要旨(1) 本願補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という )。
【請求項1】複数の屈折レンズからなる投射レンズ系において,前記複数の屈折レンズのうち,前記投射レンズ系全体の屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面上に,前記第1屈折レンズの屈折力を分担する機能を有するとともに,前記第2屈折レンズとは色に対する分散特性が相反し,かつ光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子を形成したことを特徴とする投射レンズ系。
(2) 平成14年9月4日付け手続補正後で,本願補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という )。
【請求項1】複数の屈折レンズからなる投射レンズ系において,前記屈折レンズの中の少なくとも1つは非球面上に回折光学素子が形成されたことを特徴とする投射レンズ系。
3 審決の要点審決は,本願補正発明は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本願補正を却下した上で,本願発明についても,刊行物1,2に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 本願補正発明について審決は,本願補正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当するが,特,, 許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとして 以下のとおり本願補正を却下した。
ア 引用刊行物(ア) 特開昭55-124114号公報(以下「刊行物1」という。本訴甲2)(イ) 特開平6-331887号公報(以下「刊行物2」という。本訴甲3)(ウ) 特開平6-331898号公報(以下「刊行物3」という。本訴甲4)イ 刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という )。
「像側の端から順に3つの組G1,G2,G3を有するレンズであって,G1は,1つの平面と1つの非球面を有し,開口に依存する収差を修正する素子L1より成り,G2は,レンズ全体の正の光学的パワーのほぼ全部を提供する素子L2よりなる投影レンズ 」。
ウ 刊行物1発明と本願補正発明の対比(ア) 一致点「複数の屈折レンズからなる投射レンズ系において,前記複数の屈折レンズのうち,前記投射レンズ系全体の屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズと,隣接する第2屈折レンズとを有する投射レンズ系 」。
(イ) 相違点「本願補正発明が,第2屈折レンズの非球面上に,I.第1屈折レンズの屈折力を分担する機能を有するとともに,II.第2屈折レンズとは色に対する分散特性が相反し,III.かつ光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子を形成したのに対し,刊行物1発明の第2屈折レンズの非球面上には,回折光学素子が形成されていない点 」。
エ 相違点についての判断「刊行物2には,色収差の補正のために,レンズ面に光軸を中心とする同心円状の輪帯面を階段状に形成して回折作用を持たせる点について記載されており,刊行物2に記載された発明(以下「刊行物2発明」という )における回折素子面が「レンズとは色に対する分散特性が 。
相反し」ていることは明らかである(上記 II.に対応 。また 「光軸からの高さに比例して非 ),球面位相量が減少する回折光学素子」である点については,明細書の記載を参酌してもその意図するところが明確に把握できないところ,審判請求人代理人が提出した平成17年2月8日付けFAXによると 「光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子」と ,は,回折光学素子の溝(溝1,2,3…)を通過するそれぞれの光波の位相が光軸からの高さyの増加につれて1波長づつ遅れることを意味するものと解することができる。そして,刊行物2発明も,回折素子面を,輪帯毎の光路長差が一波長分となるよう形成しており,結局,刊「」 行物2発明の回折素子面も 光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子であるといえる(上記 III.に対応 。さらに,上記刊行物3に記載された事項も参酌すれば, )刊行物2発明における回折素子面が正のパワーを有することは当業者にとって明らかな事項である。ここで,刊行物2発明は,球面のレンズに,ベースカーブが非球面である回折素子を形成したものであるが,非球面のレンズに回折素子を形成しても光学的には等価であることは,当業者にとっては明らかであり,また,非球面に回折素子を形成することはこの出願の優先権(, ()) , 主張の日前に周知であって 必要であれば 特開平6-242373号公報 本訴甲5 参照刊行物2発明を刊行物1発明に適用することに 格別の阻害要因も認められないから 刊行物1 ,,発明の非球面上に回折素子を適用することは,当業者が容易に想到し得たというほかなく,また,刊行物2発明を刊行物1発明に適用すれば,結果として当然,回折素子面が第1屈折レンズの屈折力を分担することになるといえる(上記I.に対応 。)結局のところ,当業者にとって,刊行物1発明に,刊行物2発明を適用することにより,本願補正発明とすることに格別の困難性があるとはいえない。
そして,本願補正発明の作用効果も,刊行物1,刊行物2から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願補正発明は,刊行物1,刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである 」。
(2) 本願発明について「本願発明は,本願補正発明から「前記投射レンズ系全体の屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面上に,前記第1屈折レンズの屈折力を分担する機能を有するとともに,前記第2屈折レンズとは色に対する分散特性が相反し,かつ光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子を形成した」との構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,刊行物1,刊行物2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1,刊行物2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 …以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明,刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 」。
原告の主張の要点
本願補正発明は,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであるとの審決の判断は誤りであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由(本願補正発明に関する相違点判断の誤り)(1) 審決は 「刊行物2発明は,球面のレンズにベースカーブが非球面である回 ,折素子を形成したものであるが,非球面のレンズに回折光学素子を形成しても光学的には等価である」と認定したが,この認定は誤りである。
ここにいう非球面のレンズとは,本願補正発明の第2屈折レンズに相当するものであるが,以下のとおり,非球面の第2屈折レンズに回折光学素子を形成した構成と,刊行物2に記載された構成とは光学的に等価とはいえない。
刊行物2発明は,光ディスク装置において,レーザ光によって情報を読出し及び/又は書込みするために レーザ光を光ディスク上に集光する光学系 光ピックアッ ,(プ)に関するものであり,色収差を除去することを目的とする。刊行物2発明のように,光学系の屈折率の大部分を担当する対物レンズ上に回折光学素子を形成する,,, と 曲率の大きい対物レンズ上に回折光学素子を形成することになるが その場合周縁部において回折格子のピッチ製造・加工が困難になり,回折効率が低下し,高解像度を維持し難くなる。仮に,回折効率の低下を抑制しつつ回折光学素子に屈折力を分担させるとすると,分担の程度が非常に小さくなるので,光学系全体の屈折力を高めて焦点距離を短くし,小型化,高輝度化,高解像度を実現することはできない。
他方,本願補正発明は,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現するために回折光学素子に第1屈折レンズの屈折力を分担させたものであり,回折光学素子を設けるレンズを特定し,屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズに回折光学素子を設けたことを特徴とする。本願補正発明では,回折光学素子を配置するレンズを第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズにすることにより,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現することができる。
このように,刊行物2の発明は,色収差除去のみを目的として,対物レンズ(本願補正発明の第1屈折レンズに対応)の球面上に,ベースカーブが非球面の回折光学素子を形成しており,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現することができない構成であるのに対して,本願補正発明は,第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズに回折光学素子を形成することにより,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現し得る構成であるから,両者は光学的に全く異なる。
したがって,本願補正発明のように第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面上に回折光学素子を形成した場合と,刊行物2発明のように第1屈折レンズに相当する対物レンズの球面上にベースカーブが非球面からなる回折光学素子を形成した場合とが,光学的に等価であるとはいえない。
(2) 審決は,甲5を例示しつつ,非球面に回折光学素子を形成することは,本願優先日の前に周知であると認定しているが,この認定は誤りである。
甲5記載の発明は,刊行物2発明と同様,レーザ光を光ディスク上に集光するための光学系(光ピックアップ)に関するものであり,レンズの枚数を増やさずに色収差を補正することを目的とし,対物レンズの非球面上に回折レンズを一体化したものである。
本願補正発明のように第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面上に回折光学素子を形成したものと,甲5のように第1屈折レンズに相当する対物レンズの非球面に回折レンズを形成したものとは,光学的に全く異なる構成であるから,甲5に基づき 非球面に回折光学素子を形成することが 本願優先日前に周知であっ ,,たということはできない。
(3) 審決は,刊行物2発明を刊行物1発明に適用すれば,結果として当然,回折光学素子面が第1屈折レンズの屈折力を分担することになると判断しているが,この判断は誤りである。
刊行物2発明は,屈折率の大部分を担当する対物レンズに回折光学素子を設けたものであるが,曲率の大きい対物レンズに回折光学素子を形成すると,周縁部において回折格子のピッチ製造・加工が困難となり,高解像度を維持することが困難となって,回折光学素子に対物レンズの屈折力を適切に分担させることができない。
したがって,刊行物2発明を刊行物1発明に適用したとしても,当然に回折光学素子面が第1屈折レンズの屈折力を分担することになるものではない。
(4) 審決は,刊行物2発明を刊行物1発明に適用することに格別の阻害要因も認められないから,刊行物1発明の非球面上に回折光学素子を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであると判断しているが,以下の理由から,この判断は誤りである。
ア 一般に屈折レンズからなるレンズ系において色収差を補正するという課題が存在するといっても,そのことから直ちに,刊行物1のような投影レンズ系において同様に色収差の補正の課題があるということはできない。かえって,刊行物1発明は 色収差の補正の必要がない投射レンズ系であり 刊行物1には 三管式カラー ,,「投影テレビジョン方式に用いられるような1つの単色陰極線管のごとき対象物を投影する場合,各陰極線管のバンド幅が限られているので多くの場合色収差を補正する必要はない ((2)欄9〜12行 「素子L4は白黒の陰極線管投影システムに 。」),用いられる放射シールドである ((6)欄13〜14行)と記載され,色収差の補 。」正が不要であることが開示されている。したがって,刊行物1発明を刊行物2発明に適用することについては,格別の阻害要因がある。
イ 刊行物1発明は投影レンズ系に関する発明であり,刊行物2発明は光ディスク装置用の対物レンズに関するものであり,両者は光学的に異なる技術分野に属する。
すなわち,第1に,投射レンズ系は,プロジェクションTV等に使用され,最終的に像を拡大して表示し,人間が直接視認する光を生成するレンズ系であるため,拡大表示した際に視認に耐え得る高い解像度を求められるのに対し,光ディスク装置の光学系での高解像度化は,通常は,レーザ光の波長を短くすることによって行われ,色収差補正を目的に回折光学素子を配置する場合に,高解像度の維持まで考慮することはない。第2に,投射レンズ系は,高い解像度に加えて,人間に視認される明るさも求められるが,光ディスク装置のレンズ系では,筐体内部において光ディスクからの情報の読取りに用いられるものであり,人間に視認させる光を生成することを目的とするものではないため,投射レンズ系のような明るさは要求されない。
このように,刊行物1発明と刊行物2発明とでは,光学系とはいえ,光学的に要求される質が異なり,光学的には異なる技術分野といえるので,刊行物2発明を刊行物1発明に適用する動機付けが存在することが明らかであるとはいえない。
ウ 仮に,刊行物2記載の回折光学素子を刊行物1発明に適用したとしても,色収差を発生する程度が大きい曲率の高いレンズ,すなわち屈折率の高いレンズ上に,, 回折光学素子を設けた方が 色収差を効率的に補正することができるのであるから刊行物2発明の回折光学素子を刊行物1発明の屈折レンズ系に適用する際には,色収差を効率的に補正するために,刊行物1の素子L2(第1屈折レンズ)上に回折光学素子を設けようとするのが自然である(甲9 。)他方,本願補正発明は,色収差を除去し,かつ高解像度及び高輝度を得るとともに,回折光学素子に屈折力を分担させて焦点距離を短くするために,回折光学素子を曲率の大きい第1屈折レンズではなく,第1屈折レンズに近い,すなわち隣接する第2屈折レンズに設けたものであり,このように色収差除去,高解像度,高輝度を同時に実現する課題は,光ディスク装置の光学系において色収差除去を目的に回折光学素子を設ける場合には認識されていない。これらの3つの要求を同時に実現するためには,どのレンズに回折光学素子を設けるかが重要な事項であり,当業者が刊行物1,2に基づき,本願補正発明のような構成を適宜選択し得たとはいえない。
(5) 審決は,本願補正発明の作用効果は,刊行物1,2から当業者が予測できる範囲のものであると判断しているが,この判断は誤りである。
本願補正発明は,回折光学素子に第1屈折レンズの屈折力を分担させて焦点距離を短くするという技術的思想のもとに,回折光学素子を第2屈折レンズに設けることにより,回折光学素子が第1屈折レンズの屈折力を分担して投射レンズ系全体の屈折力を高め,小型化及び高輝度化を実現するとともに,高解像度を実現したものであり,刊行物1,2からは予測困難な顕著な作用効果を奏する。
また 本願補正発明では 屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズではなく第1 ,,屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面に回折光学素子を形成するため,第2屈折レンズの曲率を第1屈折レンズほど大きくする必要がなく,回折光学素子の形成が容易である。このように,回折光学素子の製造の観点からも,本願補正発明は刊行物1,2からは予期し得ない顕著な効果を有している。
したがって,本願補正発明の作用効果は,刊行物1,2から当業者が予測できる範囲のものではない。
(6) 以上のとおり,本願補正発明は,刊行物1,2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下されるべきものとした審決の判断は誤りである。
2結論本願補正発明の進歩性についての審決の判断は誤りであるから,審決は取り消されるべきである。
被告の主張の要点
原告の主張にはいずれも理由がなく,審決に違法な点はない。
1 取消事由(本願補正発明に関する相違点判断の誤り)に対して(1) 刊行物2記載の回折光学素子は,屈折力を分担する機能を有する。
審決は,刊行物2発明における回折光学素子面が正のパワーを有することは当業者にとって明らかな事項であると説示しているが,この説示のとおり,色収差の補正上,回折光学素子は,適用される屈折レンズと同じ符号の屈折力を有する(屈折レンズの屈折力が正なら回折光学素子の屈折力も正)ものであるから,刊行物2記載の回折光学素子は正の屈折力を有し,それが適用されるレンズ系全体の屈折力の一部を担うものである(乙1ないし5 。)(2) 刊行物2記載の回折光学素子を刊行物1記載の屈折レンズ系に適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
屈折レンズからなるレンズ系において,色収差を補正するという課題が存在することは明白であり,刊行物1発明に係るレンズ系にもそのような課題が内在することは当業者には明らかであって,色収差補正機能を有する回折光学素子を刊行物1発明に適用する動機付けが存在する。そして,刊行物2記載の屈折力を分担する機能を有する回折光学素子を適用することにより,刊行物1発明の投射レンズ系の屈折力は回折光学素子によって分担されることとなる。
刊行物2記載の回折光学素子を刊行物1記載の屈折レンズ系(レンズ全体の光学的パワーのほぼ全部を提供する素子L2と,素子L2に隣接する非球面を有し非常に弱い光学的パワーの素子L1などからなるレンズ系)に適用する際に,屈折レンズ系のどのレンズに回折光学素子を設けるかは,回折光学素子が形成される屈折レンズの成形加工上の特性,光学特性等を考慮して,当業者が適宜選択し得るものである。本願優先日の時点において,回折光学素子を平面に近い曲率を有するレンズに形成することが成形加工上好ましいことは周知の事項であるから(乙6,7 ,)本願補正発明のように,回折光学素子を屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズの非球面上に設けることは,当業者が普通に想起し得るものである。
(3) 原告は,本願補正発明は,高解像度の実現と同時に,回折光学素子に第1屈折レンズの屈折力を分担させて焦点距離を短くするという技術的思想に基づくものであると主張する。
しかしながら,屈折レンズが正の屈折力を有するとき,適用する回折光学素子もまた同じ正の屈折力を有するものであるから,回折光学素子を適用した場合,その有する正の屈折力の分,レンズ系全体の焦点距離を短くできることは自明である。
そして,焦点距離を短くできる分,実際にレンズ系全体の焦点距離を短くするかどうかは,必要に応じて当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。
2結論以上のとおり,本願補正発明は,刊行物1及び2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,審決に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由(本願補正発明に関する相違点判断の誤り)について(1) 原告は,本願補正発明は,曲率の大きい対物レンズの面に回折光学素子を形成すると,周縁部において回折格子のピッチ製造・加工が困難になり,回折効率が低下する一方,回折効率の低下を抑制しようとすると,回折光学素子の分担できる屈折率は小さくなるという問題があることから,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現するため,屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズに回折光学素子を設けたことを特徴とするものであると主張する。
ア そこで,まず,本願補正発明の属する技術分野,従来の技術,発明の課題,発明の効果などについて検討する。
(ア) 本願明細書(甲8)によれば,本願補正発明の属する技術分野は 「投射装,置の投射レンズ系に関するもので,特にコンパクトであっても色収差を除去でき,かつ高性能な投射レンズ系に関する (段落【0001 )ものであり,このよう 。」】な「投射レンズ系…は高解像度の高性能とするために球面収差,非点収差,歪曲だけでなく色収差をも除去した性能が要求される (段落【0003 )ところ,こ 。」】,, のような色収差の除去及びその他の収差を除去するために 従来の投射レンズ系は複合レンズと多くの枚数のレンズとで構成されていたが,多数のレンズを備えているため 小型化が困難であるとともにコストの上昇をもたらすという問題点があっ ,,たこと(段落【0007 )が認められる。】(イ) また,本願明細書(甲8)によれば,本願の発明の目的は 「色収差を除去,し,かつ小さなFナンバーとなるように設計して,高解像度を得ると同時に高輝度を実現できる投射レンズ系を提供すること(段落【0008 )であり,発明の効 」】果は 「本発明による投射レンズ系は回折光学素子を採用して色収差及び球面収差 ,を除去したので,CRT表示の分解能が向上し,高解像度を実現できる構成とすることができる。これによって,本発明による投射レンズ系は収差除去用の別のフリント系列のレンズを追加で使用しなくても高解像度を実現することができるので製造費用を節減させることができる。また,本発明の投射レンズ系は回折光学素子に屈折力を分担させることで光学性能の確保が有利で全体的な焦点距離を減らして後面投射装置の小型化及び高輝度の実現が可能になる (段落【0050 )という 。」】ものであると認められる。
(ウ) 本願明細書の図3には,3枚のレンズからなる投射レンズ系が実施例として図示されている。同図のレンズについて,本願明細書には 「図3に示された投,射レンズ系は3枚のレンズからなり,第1レンズ(30)は,光線の光軸からの高さの変化によって発生する収差を除去する回折光学面を含む。この第1レンズに続く第2レンズ(32)は,第1レンズ(30)を通過した光を屈折させる。第3レンズ(34)は第2レンズ(32)を通過した光の像面湾曲及び軸外収差を除去するためのものである。第1レンズ(30)の前面(S1)は非球面に形成されており,後面(S2)は負の分散特性を有し,かつ回折光学素子(30A)を形成させた面として,光学系の球面収差を除去するように構成させている。第1レンズ(30)の回折光学素子を形成させた面(S2)は,同一の分散特性を有する他のレンズに比べて軸上色収差を除去するのに極めて効果的である。また,回折光学面(S2)はプラスチックのモールドによって製造が可能なので量産性を向上させることができて製造原価が安いという利点がある (段落【0012 )との説明がされている。 。」】,, , イ 上記アによれば 本願補正発明は高解像度及び高性能の投射レンズ系には球面収差,非点収差,歪曲だけでなく,色収差をも除去した性能が要求されることを前提とし,小型化が困難で製造コストが高いという従前の技術の問題を克服するため,回折光学素子を採用することにより,色収差及び球面収差を除去するとともに,回折光学素子に屈折力を分担させ,高解像度,高輝度を確保しつつ,製造費用の節減,装置の小型化の実現を可能にしたものと認められる。
これに対し,原告は,曲率の大きい対物レンズの面に回折光学素子を形成する場合の問題点を指摘し,本件補正発明の特徴は,小型化,高輝度化,高解像度を同時に実現するために,屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズに回折光学素子を設けたことにあると主張する。
確かに,本願補正発明の投射レンズ系は,回折光学素子を第2屈折レンズ上に設けたものではあるが,本願明細書には,回折光学素子を第1屈折レンズに設ける場合の問題点や,同素子を第2屈折レンズに設けたことの技術的な意義についての記載はなく,投射系レンズの小型化,高輝度化,高解像度の実現についても,回折光学素子を採用し,色収差及び球面収差を除去するとともに,回折光学素子に屈折力を分担させることにより可能となると記載されているにすぎない。
したがって,本願補正発明の特徴が回折光学素子を第2屈折レンズに設けた点にあるとの原告の主張は,本願明細書の記載に沿うものとは言い難く,かえって,本願明細書によると,本願補正発明の意義は,投射レンズ系に回折光学素子を採用した点にあると認められる。
(2) 本願補正発明と刊行物1発明との一致点については,当事者間に争いがない。また,本件補正発明と刊行物1発明とを比較すれば,審決の認定したとおり,両発明の相違点は,「本願補正発明が,第2屈折レンズの非球面上に,I.第1屈折レンズの屈折力を分担する機能を有するとともに,II.第2屈折レンズとは色に対する分散特性が相反し,III.かつ光軸からの高さに比例して非球面位相量が減少する回折光学素子を形成したのに対し,刊行物1発明の第2屈折レンズの非球面上には,回折光学素子が形成されていない点 」。
であると認められる。
(3) 以上を前提にして,原告の主張について,検討する。
ア 原告は 「刊行物2発明は,球面のレンズにベースカーブが非球面である回 ,折素子を形成したものであるが,非球面のレンズに回折光学素子を形成しても光学的には等価である」との審決の認定は誤りであると主張する。
原告は,その理由として,本願補正発明と刊行物2発明との技術課題や作用効果の差異や,曲率の大きい対物レンズ上に回折光学素子を形成する困難性などを挙げるが,審決が認定しているのは 「球面のレンズに,ベースカーブが非球面である ,回折光学素子を形成したもの」と「非球面のレンズに回折素子を形成し」たものが光学的に等価かどうかという点であり,原告の主張する事情は,審決の認定を左右するものではない。審決は,球面のレンズ上にベースカーブが非球面である回折光学素子を設置することと,非球面のレンズに回折光学素子を設置することで,光学的な特性に違いはないという当然の事理を説示しているにすぎないのであって,その認定に誤りがあるということはできない。
イ 原告は,非球面に回折光学素子を形成することが,本願優先日の前に周知であったとの審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかしながら 本願優先日前に頒布された甲5 特開平6-242373 に 非 ,()「球面に回折格子を形成すること が記載されていることは 原告も争わず 原告第2 」,(回準備書面2頁20〜21行 ,例えば,甲5の図2(a)に,屈折レンズとしての非 )球面に回折レンズ面として作用する輪体が形成した不連続面が図示されていることからも,明らかである。
原告は,甲5記載の発明と本願補正発明の違いなどを縷々主張して,審決の上記認定は誤りであると主張するが,原告が主張する事情は審決の上記認定を左右するものではない。
ウ 原告は 「刊行物2発明を刊行物1発明に適用すれば,結果として当然,回 ,折素子面が第1屈折レンズの屈折力を分担することになる」との審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかしながら,例えば,乙1に「回折レンズは,屈折レンズとは逆の分散特性を示すという性質がある。このため,正のパワーの回折レンズ(正のパワーの回折作用を有する回折レンズ)によって,正の屈折レンズで生じる軸上色収差を補正することができる。リレー式実像ファインダーの軸上色収差を補正するために,リレーレンズ系に正のパワーの回折レンズを配置すれば,負レンズを必要としない上にリレーレンズ系の正の屈折レンズのパワーを弱くすることができ,レンズ枚数を増やしたり高屈折率の硝材を使用しなくても良好な性能を得ることができる (段落。」【0011 )と記載され,乙2に「屈折光学素子と回折光学素子とを組み合わせ 】,, て色収差を補正する場合には 回折光学素子が非常に大きな負の分散値を持つので屈折光学素子と回折光学素子のパワーの符号は同じでよい。したがって,1枚の屈折光学素子の面に回折光学面を形成することで,色収差を補正することが可能となる。また,このため,屈折光学素子のパワーを合成パワーよりも小さくすることができ,収差補正上非常に有利となる (段落【0058 )と記載されているとお 。」】り,回折光学素子を用いて色収差を補正する場合に,正のパワーを持つ回折光学素子を用いて正のパワーを持つ屈折レンズの色収差補正が可能であることや,その場合に,正のパワーの回折光学素子により,光学系の屈折パワーを分担することができるので,屈折レンズの正のパワーを小さなものとすることができることは,本願優先日時において周知の技術事項であったものと認められる。
以上によれば,刊行物1発明に刊行物2記載の回折光学素子を適用すれば,その結果として当然に,回折光学素子面が第1屈折レンズの屈折力を分担することになるということができる。原告は,曲率の大きな曲面に回折光学素子を正確に形成することの困難性などを主張するが,これらの事情は上記認定判断を左右するものではない。
エ 原告は,刊行物2発明を刊行物1発明に適用することについては,格別の阻害要因があるので,刊行物1発明の非球面上に刊行物2記載の回折光学素子を適用することは,当業者が容易に想到し得ることではないと主張する。
(ア) 原告は,刊行物1に「三管式カラー投影テレビジョン方式に用いられるような1つの単色陰極線管のごとき対象物を投影する場合,各陰極線管のバンド幅が限られているので多くの場合色収差を補正する必要はない ((2)欄9〜12行) 。」と記載されているとおり,刊行物1発明には色収差を補正するという課題は存在しないのであるから,刊行物2発明を刊行物1発明に適用するには格別の阻害要因があると主張する。
確かに 刊行物1 昭和54年9月8日出願 優先権主張:1978年 昭和53 ,( 。 (年)9月5日,同月8日,米国)には,上記記載が存在するが,他方 「プロジェ,クター用投影レンズ に関する乙9特開平1-266504号公報 昭和63年4 」( 。
月19日出願)には 「テレビプロジェクターは陰極線管の画面を投影レンズでス ,クリーン上に拡大投影するものであるが,近年業務用のみならず,家庭用としても需要が見込まれるようになってきた。…より高画質への要望も強くなり,さらに赤(R ,緑(G ,青(B)の3つの陰極線管を用い,それぞれの画像を別々の投影 ))レンズで投影することから,単色収差の補正のみでよいとされていたプロジェクターレンズも色収差補正の必要性が生じて来た (1頁右欄2〜15行目) 。」と記載されている。
また,同じく「プロジェクター用投影レンズ」に関する乙8(特開平4-214515号公報。平成2年11月30日出願)には 「プロジェクターは, ,Blue, Green, Red の3色の投射管のそれぞれの前方に投影レンズを配し,投射管上の像を投影レンズによりその前方に配置したスクリーンに投射して3色の像を合成するものである。従来,これらの投影レンズとしては,ガラスレンズあるいはプラスチックレンズが使用されている。これらの投影レンズにおいては,投射管の蛍光体の発光スペクトルの幅が狭く,単色光に近いので,色収差の補正を積極的に行う必要がなかった。しかし,近年,投影レンズに対し高画質化の要望が強くなり,特に大画面用投影レンズや高品位用としての高解像力の投影レンズに対して色収差補。」() 正を十分に行われたレンズが必要となってきた 1頁右欄6行〜2頁左上欄2行と記載されている。
そして,本願明細書(平成12年7月27日出願。優先権主張:平成11年7月31日,同年11月17日,韓国)の【従来の技術】欄にも 「投射レンズ系(4),は高解像度の高性能とするために球面収差,非点収差,歪曲だけではなく色収差をも除去した性能が要求される。もちろん完全には除去できないにしてもできる限り除去できることが望ましい (段落【0003 )と記載されている。 。」】以上の記載によれば,刊行物1発明の出願時点では,1つの単色陰極線管を対象物として投影する場合には,各陰極線管のバンド幅が限られているので,色収差を補正する必要がないと認識されていたとしても,投射レンズ系への技術的要求水準,,, の向上に伴い 色収差を補正する必要性が生じるようになり 本願優先日時点では投射レンズ系に球面収差,非点収差,歪曲だけでなく色収差をも除去した性能が要求されるようになっており,そのことは,当業者にとって周知の技術課題となっていたものと認められる。
そうすると,刊行物1の上記記載があることは,刊行物1発明に刊行物2記載の回折光学素子を適用することを妨げるべき格別の事情であるということはできず,かえって,本願優先日当時,投射レンズ系に色収差をも除去した性能が要求されることは,刊行物1に接した当業者にとって周知の技術課題であったものと認められる。前記判示のとおり,色収差を補正するために非球面に回折光学素子を形成することも周知の技術事項であったのであるから,当業者であれば,色収差を除去するため,刊行物1発明に刊行物2発明の回折光学素子を適用することは,容易に想到し得たことというべきである。
(イ) 原告は,刊行物1発明は投影レンズ系に関する発明であり,刊行物2発明は光ディスク装置用の対物レンズに関するものであるから,両者は光学的に異なる技術分野に属し,刊行物2発明を刊行物1発明に適用する動機付けが存在するとはいえないと主張する。
しかしながら,刊行物1発明と刊行物2発明とは,いずれも屈折レンズを用いた光学系である点で共通しているところ,審決が刊行物2から抽出した技術事項は,色収差の補正のために,レンズ面に光軸を中心とする同心円状の輪帯面を階段状に形成して回折作用を持たせること(審決書6頁25〜27行)であり,このような技術は,刊行物2に望遠レンズへの適用例が記載されていることや,甲4に顕微鏡等の対物レンズへの適用例が記載されていることからみて 乙1ないし6にも ファ (,インダー光学系や接眼レンズ,ズームレンズの色収差補正に回折光学素子を用いた例が記載されている ,屈折レンズを用いた光学系一般に適用可能であると認めら 。)れる。
したがって,刊行物1発明は投影レンズ系に関する発明であり,刊行物2発明は光ディスク装置用の対物レンズに関するものであることは,刊行物2発明の回折光学素子を刊行物1発明に適用することを妨げる事情とはならないというべきである。
(ウ) 原告は,甲9の記載を根拠に,刊行物2発明の回折光学素子を刊行物1発明の屈折レンズ系に適用する際には,色収差を効率的に補正するために,素子L2(第1屈折レンズ)上に回折光学素子を設けようとするのが通常であるが,本願補正発明は,色収差除去ばかりではなく,高解像度及び高輝度を得るために,回折光学素子を設けるレンズを選択し,曲率の大きい第1屈折レンズではなく,第2屈折レンズに設けたことに特徴があり,その構成は当業者が適宜選択し得るものではないと主張する。
(a) しかしながら,前記判示のとおり,本願明細書には,その作用として 「本,発明による投射レンズ系は,回折光学素子を採用して色収差及び球面収差を除去することで…,高解像度を実現することができる。本発明は…製造費用を節減させることができる。また,本発明の投射レンズ系は,回折光学素子に屈折力を分担させることで光学性能を確保することができ,全体的に焦点距離を減らして後面投射装置の小型化及び高輝度の実現が可能になる (段落【0011 )と記載されてい 。」】るにすぎず,回折光学素子を第1屈折レンズに設けることの問題点や,第2屈折レンズに設けることの技術的な意義については,何ら記載されていない。本願明細書の記載によれば,本願補正発明の特徴は,色収差を除去するために回折光学素子を採用した点にあるというべきであり,回折光学素子を第2屈折レンズに設けた点に,。 格段の進歩性がある旨の原告主張は 本願明細書の記載に基づくものとはいえない(b) 仮に,原告の主張するとおり,本願補正発明は,曲率の大きい対物レンズの面に回折光学素子を形成すると,周縁部において回折格子のピッチ製造・加工が困難になり,回折効率が低下するとの点を考慮して,回折光学素子を第2屈折レンズ上に設けたものであるとしても 乙6特開平10-104533号公報 乙7 ,( ),(特開平10-170711号公報)によれば,本願優先日当時において,回折光学素子を平面に近い曲率を有するレンズに形成することが成形加工上好ましいことは,周知の技術事項であったものと認められる。
すなわち,乙6には「回折光学面を有するレンズ(第1,第2の実施の形態では第1レンズG1)をプラスチックモールド成形や射出成形で製造する場合,屈折光学面のパワーを小さくすることが望ましい。屈折光学面のパワーが小さければ,屈折光学面の曲率半径が大きくなるため,その屈折光学面を形成するための金型において,その屈折光学面上に形成される回折格子形状に対するプラスチック樹脂の入り込みが良好になる。したがって,回折格子形状の完成度が増すため,回折効率が理論値付近まで向上し,像に対するフレアが軽減されることになる (段落。」【0045 )と記載され,回折光学面を有するレンズは,製造上は曲率の小さい 】レンズに形成することが望ましいことが開示されている。
また,乙7には 「パッケージを基材として,その表面上に回折面が形成されて ,いる訳であるが,このときパッケージの表面形状は平面あるいは凸面がよい。凸面,。 , の場合 その面は球面でも非球面でもよい投光レンズ全系の収差補正を考えると平面ではない方が有利であるが,製造を考慮すると曲面上に回折面を構成すること,。 」(【 】) は困難が伴うので 望ましくはパッケージ表面は平面がよい 段落 0029と記載されている。
このように,回折光学素子を平面に近い曲率を有するレンズに形成することが成,, , 形加工上好ましいことは 本願優先日当時当業者には周知であったのであるから刊行物2発明の回折光学素子を刊行物1発明の屈折レンズ系に適用する際に,当業者であれば,刊行物1発明の素子L2(第1屈折レンズ)上に回折光学素子を設けるのが当然であるということはできない。むしろ,回折光学素子をいずれの屈折レンズに設置するかは設計事項であり,当業者であれば,当該屈折レンズの曲率の大きさ等に基づき,色収差の補正の程度や製造上の問題点などの諸要因を勘案して,回折光学素子を設置する屈折レンズを適宜選択したと考えるのが合理的である。
したがって,回折光学素子を,屈折力の大部分を担当する第1屈折レンズ上にではなく,これに隣接する第2屈折レンズの非球面上に形成することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。
(c) 原告は,刊行物2には,対物レンズの屈折力を回折光学素子に分担させることにより光学系全体での屈折力を高め,焦点距離を短くして小型化及び高輝度化を図るという本願補正発明の課題が記載されていないと主張する。
しかしながら,球面のレンズ上にベースカーブが非球面である回折光学素子を設置することと,非球面のレンズに回折光学素子を設置することとは,光学的に等価であり,かつ,刊行物2発明を刊行物1発明に適用すれば,結果として当然に,回折光学素子面が屈折レンズ全体の屈折力を分担することになることは,前記判示のとおりである。また,光学系の屈折パワーが大きくなれば,焦点距離が短くなるのであるから,刊行物1発明に正の屈折パワーを持つ回折光学素子を適用すれば,焦点距離を短くできることは,当業者に自明の事項ということができる。
そうすると,刊行物2に原告主張の課題が記載されていないことは,刊行物2記載の回折光学素子を刊行物1発明に適用することを妨げる事情とはならないというべきである。
(エ) 以上によれば,刊行物2発明を刊行物1発明に適用することに格別の阻害要因も認められないから,刊行物1発明の非球面上に刊行物2記載の回折光学素子を適用することが容易に想到し得たことであるとの上記判断を左右する事由は認められない。
オ 原告は,本願補正発明の作用効果は,刊行物1,2から当業者が予測できる範囲のものであるとの審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本願補正発明の効果は,本願明細書に記載されたとおり 「本発,明による投射レンズ系は回折光学素子を採用して色収差及び球面収差を除去したので,…高解像度を実現できる構成とすることができる。これによって,…製造費用を節減させることができる。また,本発明の投射レンズ系は回折光学素子に屈折力を分担させることで光学性能の確保が有利で全体的な焦点距離を減らして後面投射装置の小型化及び高輝度の実現が可能になる (段落【0050 )というもので 。」】あると認められるところ,ここで記載された効果は,刊行物1発明に刊行物2記載の回折光学素子を適用することにより,当然予測される範囲内のものである。
原告は,本願補正発明は,回折光学素子を第1屈折レンズではなく,第1屈折レンズに隣接する第2屈折レンズに設けることによって,球面収差,色収差等を効果的に除去して高解像度を同時に実現するという作用効果を奏すると主張する。原告の主張するかかる作用効果は,刊行物1,2及び前記判示のとおりの周知技術に基づいて容易に予測し得る範囲内にすぎず,予期し得ない格段の作用効果であるということはできない。
2結論以上によれば,本願補正発明は,刊行物1,2発明に基づき,当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張する審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文