関連ワード | 発明者 / 改良発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 出願公開 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / 合理的な理由 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10628号
審決取消請求事件
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原告 有限会社サンロイヤル 訴訟代理人弁護士 木下洋平 訴訟代理人弁理士 中村政美 被告 株式会社クレストワン 訴訟代理人弁護士 狐塚鉄世 同成田茂 同戸谷博史 同前山暁子 訴訟代理人弁理士 奈良武 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/05/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2004ー80015号事件について平成17年7月4日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告が有する後記特許につき,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告が,その取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成5年2月25日,名称を「スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造に使用するスッポン卵粉砕機」とする発明について特許出願をし(公開特許公報は特開平6ー245738,甲2),平成9年3月24日付け手続補正書による補正(全文と図面の変更。その中で名称を「スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法」に変更。甲14。以下「本件補正」という。)をした上,平成9年7月4日,特許第2668629号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という。)。 ところが,第三者から本件特許について特許異議の申立てがなされ,その審理手続において原告は,平成10年9月22日付けで明細書の訂正請求を行った(その内容は甲20参照)。特許庁は,平成10年10月16日付けの異議決定(甲20)において,「訂正を認める。特許第2668629号の特許を維持する」旨の決定をした。 そして平成16年4月14日付けで被告から本件特許につき無効審判請求がなされたので(乙2),特許庁は,これを無効2004ー80015号事件として審理し,平成17年7月4日,「特許第2668629号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする」旨の審決を行い,その審決謄本は平成17年7月14日原告に送達された。 (2) 発明の内容ア 当初明細書記載のもの本件補正前の明細書(出願時のもの。以下「当初明細書」という。 甲2)に記載された特許請求の範囲は,請求項1ないし2から成り,その内容は,次のとおりである。 「【請求項1】 予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕し,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とするスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法。 【請求項2】 スッポンの卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石による擦り合わせによって粉砕する粉砕部とを有したことを特徴とするスッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機。」(以下,上記請求項1,2の発明を,それぞれ「当初発明1」,「当初発明2」といい,両者を併せて「当初発明」という。)イ 本件補正後のもの平成9年3月24日付けの上記補正後の特許請求の範囲は請求項1のみなら成り,その内容は,次のとおりである(平成9年7月4日の設定登録時も同じ。甲14,19。下線部は補正部分)。 「【請求項1】 予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送し,冷凍スッポンの卵をそのままダイヤモンド砥石による擦り合わせにより,約50メッシュの粒度まで粉砕する第一次粉砕と,約80メッシュの粒度まで粉砕する第二次粉砕とを経て粉砕し,その粉砕されたスッポンの卵を真空冷凍乾燥して粉末化した後に,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とするスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法。」ウ 平成10年10月16日付け特許異議決定により訂正が認められた発明(以下「本件発明」という。下線部は訂正部分)上記訂正後の特許請求の範囲は,請求項1のみから成り,その内容は,次のとおりである「【請求項1】 予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送し,冷凍スッポンの卵を殻ごとダイヤモンド砥石による擦り合わせにより,約50メッシュの粒度まで粉砕する第一次粉砕と,約80メッシュの粒度まで粉砕する第二次粉砕とを経て粉砕し,その粉砕されたスッポンの卵を真空冷凍乾燥して粉末化した後に,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめ,このゲル化製品をカプセル内に収納したことを特徴とするスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法。」(3) 審決の内容審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次のとおりである。 ア 本件補正は,当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の記載を削除したことにより,当初明細書の要旨を変更するものであるから,その出願日は,本件補正のされた日とみなされるところ,本件発明は,本件補正のされた日より前に公開された本件特許の公報(甲2。以下「甲2公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない。 イ 本件発明は,特開平1ー277472号公報(甲1。以下「甲1公報」といい,この公報に記載されている発明を「甲1発明」という。),特開昭60ー105472号公報(甲4。以下「甲4公報」という。),特開平1ー242156号公報(甲6。以下「甲6公報」という。)及び特開平3ー123649号公報(甲7。以下「甲7公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。 (4) 審決の取消事由しかしながら,本件補正は,当初明細書の要旨を変更するものでなく,また,本件発明は,甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,審決は違法として取り消されるべきである。 なお,仮に補正が要旨変更に当たるとされた場合は,審決にいう無効理由(1)についての判断における相違点認定と容易相当性の判断は争わない。 ア 取消事由1(本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであると判断したことの誤り)本件補正は,当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の記載を削除したものであるところ,この補正は,当初明細書に開示されていた技術的事項の範囲内の補正であって,実質的に発明の本質ないし実体を変更するものではないから,明細書の要旨を変更するものではない。その理由は,次のとおりである。 (ア) 当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の効果」には,当初発明1についても当初発明2についても,「サイクロヂニン末」に言及する記載はない。また,当初発明2については,当初明細書の「特許請求の範囲」,「作用」,「課題を解決するための手段」及び「実施例」にも,「サイクロヂニン末」に言及する記載はないから,当初明細書には,当初発明2について,「サイクロヂニン末」に言及する記載はない。本件補正は,当初発明1と当初発明2という二つの発明を一つの発明に補正したもので,その際に,「発明が解決しようとする課題」,「発明の効果」及び当初発明1と当初発明2に共通する実施例に言及されていない「サイクロヂニン末」の記載を削除したものである。 (イ) 本件発明は,甲1発明の改良発明であるから,甲1発明の「サイクロヂニン末」をそのまま転載しているが,当初明細書の全体が示す技術思想は,「サイクロヂニン末」を混合する前のスッポン卵粉砕技術の改良に関するものである。「サイクロヂニン末」は,改良前の栄養食品の1例を示したにすぎない。 (ウ) 「サイクロヂニン末」は,不明な成分であり,これを削除することで明確になるという審査段階の判断に従って,原告は,本件補正により,「サイクロヂニン末」の記載を削除した。審判段階に至って,当初明細書には,「サイクロヂニン末」が必要不可欠な有効成分として記載されていたとされる合理的な理由はない。 イ 取消事由2(本件発明は甲1公報等に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したことの誤り)本件発明は,甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載された発明から容易に発明することができたものではない。その理由は,次のとおりである。 (ア) 従来の技術では,冷凍したスッポン卵を解凍し粉砕する工程で雑菌が混入するという問題点があった。本件発明の発明者は,冷凍したスッポン卵を,解凍することなく,低温のまま粉砕すれば,雑菌が混入するという問題点は解消されると想定した。しかし,スッポン卵は,繊維状の組織が束ねられた特殊な殻構造を有していることから,殻を構成する繊維状の組織を粉砕するまでに長い時間がかかると,温度が上昇して,雑菌が混入するという問題点は解消されない。そこで,本件発明の発明者は,研究の末,冷凍したスッポン卵を,雑菌混入のおそれがない低温を維持しながら粉砕をする方法を発明した。それが本件発明である。 (イ) 本件発明の粉砕工程は,幾多の実験によって初めて実用可能になった独自技術である。 (ウ) 甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載された発明をどのように組み合わせても,本件発明を実現することは不可能である。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。 3 被告の反論(1) 取消事由1に対し当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の記載を削除した本件補正は,当初明細書に開示されていた技術的事項の範囲内の補正ではなく,明細書の要旨を変更するものである。その理由は,次のとおりである。 ア 当初発明1についての当初明細書の「特許請求の範囲」,「発明が解決しようとする課題」,「課題を解決するための手段」,「作用」,「実施例」及び「発明の効果」には,「サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とするスッポンの卵を利用した栄養食品の製造方法」が記載されているのみで,「サイクロヂニン末」と混合せずに,サフラワーオイルのみを配合してゲル化せしめる製造方法については何も記載されていない。しかも,「サイクロヂニン末」は必要に応じて使用する任意成分であることを明示する記載もない。 イ 当初発明2は,当初発明1に使用する「スッポン卵粉砕機」の発明であって,「サイクロジニン末」の混合工程を必須の構成要件とする第1発明とは別異の発明であるから,「サイクロジニン末」を要件としない発明しか当初明細書に記載されていないのは当然である。 ウ 本件補正は,当初発明1についての補正であり,当初発明2は削除され,取り下げられたものである。本件補正は,二つの発明を一つの発明に補正したものではない。 エ 本件発明は,甲1発明の課題を解決したものである。甲1発明が「サイクロヂニン末」を必須の成分とするものである以上,本件発明は,「サイクロジニン末」を必須の成分とするものである。 (2) 取消事由2に対し本件発明は,審決が判断しているとおり,甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載された発明から容易に想到し得るものである。 また,本件発明は,甲1発明に比較して格別の効果を奏するものではない。 |
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当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 取消事由1(本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであると判断したことの誤り)について(1) 当初明細書(甲2)には,「特許請求の範囲」に前記のとおり当初発明1及び2が記載されているほか,次のような記載がある。 ア 産業上の利用分野(段落【0001】)この発明は,主にスッポンの卵中に含まれる各種の栄養分を損なわずに保存し,滋養に富んだ栄養食品として利用すると共に,雑菌の混入をなくしたスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造に使用するスッポン卵粉砕機に関する。 イ 従来の技術(段落【0002】〜【0005】)従来,スッポンが有する滋養分を利用するために,種々の方法が提案されている。 例えば,特開昭53-52695号公報には,生きたままのスッポンを焼酎の中に浸漬し,更にこの焼酎内に朝鮮人参や蜂蜜等を入れたスッポン酒の製造方法が記載されている。 また,特開昭53-32199号公報には,スッポンの肉,皮,甲羅等を截断して,細片化し,これを火気にかけて炒り上げた,すっぽん酒の原料となる,所謂すっぽんの精の造り方が記載されている。 更に,成長したスッポンと同様に養殖され,スッポンの滋養分に勝るとも劣らない滋養を有するスッポンの卵も多くの料理等に使用されている。 ウ 発明が解決しようとする課題(段落【0006】〜【0010】)ところが,これら従来の方法では,スッポンの滋養分を焼酎内に滲出せしめるものであるから,この滲出した滋養分を得るには,焼酎を飲用し得るものに限られる不都合がある。また,いずれも成長したスッポンを丸ごと使用するにも拘らず,得られる滋養分は焼酎内に滲出した僅かな量となる。しかも,その滲出にいたるまでに長期間の時間を費やさなければならない。 一方,スッポンの産卵時期は,およそ半年間に限られるから,成長したスッポンの如く,一年中安定した供給は困難なものであった。しかしながら,スッポンの卵は他の鶏卵等と比較して,特に鉄分やカリウム,あるいはビタミンE等の栄養に富んだものとして知られており,このスッポンの卵の滋養を常時供給し得る食品の提供が望まれていた。 そのため,本願出願人が特願昭63-105271号として特許出願し,特開平1-277472号公報として特許出願公開された栄養食品の製造方法がある。 この栄養食品の製造方法は,スッポンの卵中に含まれる各種の栄養分を損なわずに保存し,滋養に富んだ栄養食品として利用する製造方法として優れたものと好評を博してはいるものの,生産地で殺菌冷凍して搬送した後解凍して粗砕し,その後常温で減圧乾燥させる関係で,解凍した段階で雑菌等の混入が発生してしまうので,生産地では雑菌の混入はなくとも最終の段階での材料には雑菌が存在してしまうことがあるという大きな問題点を持っていた。 そこで,この発明は,上述した問題点等に鑑み,スッポンの産卵時期に影響を受けずに,常に安定した供給が可能になり,しかも,スッポンの卵の滋養を損なわず,各種栄養食品の原料となる外,栄養剤としても利用可能で,更には,製造段階での雑菌の混入をなくすようにしたスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造に使用するスッポン卵粉砕機の提供を目的とする。 エ 課題を解決するための手段(段落【0011】,【0012】)上述の目的を達成すべくこの発明は,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕し,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことにより,上述した課題を解決するものである。 又,スッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機としては,卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石による擦り合わせによって粉砕する粉砕部とを有したことを特徴とするスッポン卵を使用しことにより,上述した課題を解決するものである。 オ 作用(段落【0013】〜【0016】)この発明に係るスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造に使用するスッポン卵粉砕機は,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕する。 そうすると,冷凍のまま搬送されてそのまま粉砕されるので雑菌の発生混入はない。 そして,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめるものである。 又,その際に,冷凍のスッポンの卵は,殻ごと冷凍されているのが一般的であって鶏卵と比較して各段に硬く通常の酸化アルミナや炭化珪素の砥石を使用しても磨耗が激しく確実に粉砕されないが,スッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機を,卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石による擦り合わせによって粉砕する粉砕部とを有すべく形成してあるから,その投入口に投入された冷凍のスッポンの卵は,ダイヤモンド砥石という非常に硬度の高い砥石による擦り合わせで粉砕されるので確実な粉砕を行って微粉末となるものである。 カ 実施例(段落【0017】〜【0033】)図1に示すように,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送してその粉砕機により,第一次粉砕と第二次粉砕とを経て粉砕する。 この場合に,第一次粉砕によって,例えば50メッシュの粒度まで粉砕し,第二次粉砕によって,例えば80メッシュの粒度となるように粉砕する。この場合に,冷凍状態のスッポンの卵をそのまま粉砕すると,全体ではドロ状の粘性液体となる。 そして,その後その粉砕されたスッポンの卵の粉末をトレーに盛付け真空冷凍乾燥させた後に,金属探知によって異物の混入を検査し,更に雑菌の混入を菌検査によって検査する。 その検査が完了したスッポンの卵の粉末サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイル及び乳化剤を配合してゲル化せしめ製品を形成する。 尚,このゲル化製品は,チューブ内に収納しておき,このチューブ内から注出したゲル化製品を種々の栄養食品に使用する。或いは,このゲル化製品をカプセル内に収納することで,そのまま服用して栄養剤とするものである。 ちなみに,このとき,300rのゲル化製品を収納したカプセル1個内の成分配合率を以下に示すと,成分 % r卵1545サイクロヂニン 11 33サフラワーオイル 64 192乳化剤 10 30計 100 300とした配分が適正である。 次に,前記粉砕機は,図2に示される構造となっている。 すなわち,この粉砕機1は,冷凍スッポン卵を投入する投入口としてのホッパー2が最上部に設けてある。 そして,このホッパー2に投入された冷凍スッポン卵は,フレーム18によって囲まれた粉砕機1内部の粉砕部3に投入される。 この粉砕部3は,固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5との2つのダイヤモンド砥石によって形成され,これらの固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5とは,共に断面が略半円形状の環状砥石であり,上に固定ダイヤモンド砥石4を,下に回転ダイヤモンド砥石5を配してほぼ接触する状態で,図示のように,その砥石によって略そろばん球形状の粉砕室12が形成される。 そうすると,回転ダイヤモンド砥石5を回転させれば,粉砕室12に存在する冷凍スッポン卵は,略そろばん球形状の側円周側に移動し,そこで固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5との接触部分で粉砕され,粉砕された冷凍スッポン卵の粉末は粉砕室12から側方へ押し出され,粉砕物排出室13に落下し,そこで,排出翼10によって回転攪拌されながら排出口…から外部に排出されるものである。 このときの,回転ダイヤモンド砥石5の回転は,次のようにして駆動されている。 すなわち,下部に配したモーター6の駆動軸7にジョイント8を介して回転ダイヤモンド砥石5の回転軸9を連結する。そして,この回転軸9には,前記排出翼10と,その上に回転板11とが取付けられ,この回転板11の上に回転ダイヤモンド砥石5を載置して砥石抑え5aによって固定されている。 又,回転軸9及び排出翼10及び回転板11及び回転ダイヤモンド砥石5は,ジョイント8の外側に遊嵌されている昇降調節体14を調節ハンドル15によって回転させることで上下移動できるように形成され,それによって,固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5との接触度合を調節して粉砕される材料の粒度を設定できるようにしてある。そして,この上下動調節が完了したらロックハンドル16を回転させてフレーム18に対して昇降調節体14を固定するようにも形成されている。 このように形成した粉砕機1は,その起動,停止等は全て側面に配した操作盤17によって行われるものである。 尚,ここで使用する冷凍のスッポンの卵は,産出されたスッポンの卵をその生産地で酒類につけてアルコール殺菌しその状態で冷凍したものを用いている。 又,この発明は,前述した実施例の数値等に限定されることがないことはいうまでもない。 キ 発明の効果(段落【0034】〜【0039】)上述の如く構成したこの発明は,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕する。 そうすると,冷凍のまま搬送されてそのまま粉砕されるので雑菌の発生混入はない。しかも,冷凍状態ということは,長時間の保存も可能であるから,スッポンの産卵時期に影響を受けずに,雑菌の混入のない優れたスッポン卵の常に安定した供給が可能になるものである。 そして,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことで,チューブ内やカプセル内への収納が容易になる。従って,各種栄養食品の原料として利用しやすいものになる外,そのまま服用して栄養剤としても利用できる。 その結果,粉砕時にも冷凍の状態であるから,雑菌の入り込む余地はなく,又,その粉砕に際して,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷凍した新鮮なものをそのまま粉砕し冷凍乾燥するので,解凍の手間も省くことができ,雑菌の混入もなく衛生的な面とコスト的な面においても極めて優れているものである。 又,その際に,冷凍のスッポンの卵は,殻ごと冷凍されているのが一般的であって鶏卵と比較して各段に硬く通常の酸化アルミナや炭化珪素の砥石を使用しても磨耗が激しく確実に粉砕されないが,スッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機を,卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石4,5による擦り合わせによって粉砕する粉砕部3とを有すべく形成してあるから,その投入口に投入された冷凍のスッポンの卵は,ダイヤモンド砥石4,5という非常に硬度の高い砥石による擦り合わせで粉砕されるので確実な粉砕を行って微粉末とすることができるものである。 このように本発明によれば,スッポンの産卵時期に影響を受けずに,常に安定した供給が可能になり,しかも,スッポンの卵の滋養を損なわず,各種栄養食品の原料となる外,栄養剤としても利用でき,更には,この種の栄養食品にあって最も大事な衛生面,つまり,製造段階での雑菌の混入をなくすできる等の種々の優れた効果を奏するものである。 (2) 上記(1)の当初明細書の記載から,次のようにいうことができる。 ア 特許請求の範囲は,発明の構成に欠くことができない事項のみが記載される(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項)ところ,当初明細書の当初発明1の「特許請求の範囲」には,「サイクロヂニン末と混合」することが記載されている。 イ 上記(1)イの「従来の技術」及びウの「発明が解決しようとする課題」の記載によれば,当初明細書には,スッポンが有する滋養分の従来の利用法の諸問題を解決するために,甲1発明がされたこと,甲1発明をもってしても,なお回避することができない問題点として,雑菌の混入という問題があること,当初発明は,この雑菌の混入という問題を解決するために発明されたものであることが記載されている。 ところで,甲1公報によると,その特許請求の範囲は,「スッポンの卵を粗砕し,この卵を減圧乾燥した後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とする栄養食品の製造方法。」というものであるから,甲1発明は,「スッポンの卵を粗砕し,この卵を減圧乾燥した」ものを「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む「栄養食品の製造方法」の発明であるということができるところ,上記のとおり,当初明細書には,当初発明は,この甲1発明の問題点を解決するためにされた発明であることが記載されている。 ウ 上記(1)エの「課題を解決するための手段」の記載によれば,当初明細書には,当初発明1は,「粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた」ものを「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む製造方法を採用することによって,従来の技術の課題を解決するものであることが記載されている。 エ 上記(1)オの「作用」及びキの「発明の効果」の記載によれば,当初明細書には,当初発明1の製造工程に「サイクロヂニン末と混合」する工程が含まれることを前提として,製造された物を各種栄養食品の原料や栄養剤として利用することができることが記載されている。 オ 上記(1)カの「実施例」の記載によれば,当初明細書には,実施例として,「粉砕されたスッポンの卵の粉末をトレーに盛付け真空冷凍乾燥させた後に,金属探知によって異物の混入を検査し,更に雑菌の混入を菌検査によって検査」した後,「その検査が完了したスッポンの卵」を「サイクロヂニン末」と混合することや「サイクロヂニン末」を含む成分の配合率が記載されている。 カ 当初明細書には,「サイクロヂニン末」と混合する工程が必須ではない技術であることを示す記載は全くない。 (3) 以上によれば,当初明細書には,スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む技術のみが記載されているというべきである。 (4) 原告は,当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の効果」には「サイクロヂニン末」に言及する記載はないと主張する。 しかし,上記のとおり,当初明細書の「発明が解決しようとする課題」には,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む「栄養食品の製造方法」の発明である甲1発明の問題を解決するべく当初発明がされたことが記載されている。また,上記のとおり,当初明細書の「発明の効果」は,当初発明1の製造工程に「サイクロヂニン末」と混合する工程が含まれることを前提として,その効果が記載されている。したがって,当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の効果」の記載は,当初明細書には,スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む技術のみが記載されているという上記認定を根拠づけるものであって,その認定を妨げるものではない。 また,原告は,当初明細書には,当初発明2について,「サイクロヂニン末」に言及する記載はないと主張するが,当初発明2は,スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法において,「サイクロヂニン末」と混合する工程の前の工程に当たるスッポン卵を粉砕する工程に使用されるスッポン卵粉砕機に関する発明であるから,当初発明2に関する当初明細書の記載に「サイクロヂニン末」と混合する工程に関する記載が含まれていないのは当然であり,当初発明2に関する当初明細書の記載に「サイクロヂニン末」と混合する工程に関する記載がないからといって,当初明細書に,スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含まない技術が記載されていたということができないことは明らかである。 さらに,原告は,当初明細書の全体が示す技術思想は,サイクロヂニン末を混合する前のスッポン卵粉砕技術の改良に関するものであって,サイクロヂニン末は,改良前の栄養食品の1例にすぎないと主張するが,上記のとおり,当初明細書には,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む技術のみが記載されているのであって,「サイクロヂニン末」を栄養食品の1例として示したにすぎないというべき根拠はない。 (5) 甲15,16によれば,特許庁における手続において,原告は,次のような書面の提出をしたことが認められ,これらの事実は,前記(3)の認定を裏付けるものであるということができる。 ア 平成8年6月26日付けで原告が特許庁に提出した「早期審査に関する事情説明書」(甲15)の3頁〜5頁には,「A.スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について」として,当初発明1に関する説明の項があり,「本願発明の製造方法における特徴的な手段は,…乾燥した卵の粉末に,サイクロジニン末,サフラワーオイルを配合してゲル化することにある。」(4頁18〜23行)と記載されている。 イ 平成8年10月15日付けで原告が特許庁に提出した上申書(甲16)には,「(1)本発明の明細書に記載した語句をより明らかにして,本発明の内容を明確にすべく上申するものです。(2)本発明の明細書中に記載された「サイクロヂニン末」とは,次の通りの成分を示すものです。[サイクロヂニン]*ニンニクを無臭にした後に得られる成分をいう(特公平5-49265号公報)。*より詳細には,ニンニクから分解酵素であるアリイナーゼを抜き出した後に残る成分,サチヴァミン複合体の成分である。…*「サイクロヂニン末」とは,このサチヴァミン複合体を粉末状にしたものをいう。(3)以上のとおり上申することで,本発明の内容がより明らかになったものと確信します。」と記載されている(1頁19行〜2頁)。 (6) また,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって,当初明細書記載のスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法において,「サイクロヂニン末と混合」する工程が必須の工程ではないことが自明であるというべき事情も認められない。このことは,当業者が,当初明細書記載のスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について,「サイクロヂニン末と混合」する工程がない場合でも一定の技術的な効果が得られることを認識することができたとしても,変わるものではない。 (7) しかるところ,本件補正後の本件発明は,「サイクロヂニン末と混合」する工程を含まない栄養食品の製造方法の発明であるから,本件補正は,当初明細書に記載した技術的事項の範囲内のものではないというべきである。したがって,本件補正は,要旨の変更に当たる旨の審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。 なお,原告は,審判段階に至って,審査段階の判断と異なって,当初明細書には,「サイクロヂニン末」が必要不可欠な有効成分として記載されていたとされる合理的な理由はないと主張するが,以上述べたとおり,審決の判断には誤りはなく,特許庁の審査段階の判断によって,審決の判断が左右されるべき理由はない。 3(1) 本件補正は,以上のとおり当初明細書の要旨を変更するものであるから,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条により,その出願日は,本件補正のされた日(甲14の手続補正書の受付日たる平成9年3月25日)とみなされる。 (2) 原告は,本件発明が,本件補正のされた日より前に公開された甲2公報(本件特許の公開公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断を争わない(平成17年11月30日の第1回弁論準備手続調書)。 (3) したがって,本件特許は,特許法29条2項により特許を受けることができないものであるから,取消事由2(本件発明は甲1発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したことの誤り)について判断するまでもなく,本件特許を無効とする旨の審決の判断を是認することができる。 4 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 田中孝一 |