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関連審決 不服2003-103
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  パリ条約 /  優先権 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10537号 審決取消請求事件
原告 ノキアコーポレイション
訴訟代理人弁理士 川守田光紀
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人植松伸二
同 藤内光武
同 右田勝則
同立川功
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-103号事件について平成17年2月4日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年6月27日,パリ条約による優先権主張日を平成8年(1996年)6月28日(イギリス)とし,名称を「ユーザインターフェイス」とする発明について特許出願(平成9年特許願第170810号)をし,平成14年5月27日付け手続補正書によって特許請求の範囲の記載を補正した(以下「本件補正」という。)が,平成14年9月30日,拒絶査定を受けた。
これに対し,原告は,不服の審判請求をし,特許庁は,これを不服2003-103号事件として審理した上,平成17年2月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決謄本は平成17年2月21日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし10から成り,そのうちの請求項1(以下これに記載された発明を「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】入力手段と制御手段を備えたユーザインタフェースであって,前記制御手段は,前記入力手段の第1の動作から所定の巾の時間周期が経過したかどうかを判断するものであり,また,前記制御手段は,前記入力手段の第2の動作に,前記第2の動作が前記時間周期内に検出された場合には項目を選択可能にするよう応答し,且つ,前記第2の動作が前記時間周期の経過後に検出された場合には項目を確定するよう応答する,ことを特徴とするユーザインタフェース。」(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次のとおりである。
本願発明は,特開平8-83141号公報(以下「引用例」という。甲4)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
イ なお,審決は,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定している。
〈一致点〉「入力手段と制御手段を備えたユーザインタフェースであって,前記制御手段は,前記入力手段の第1の動作から所定の巾の時間周期が経過したかどうかを判断するものであり,また,前記制御手段は,前記入力手段の第2の動作に,前記第2の動作が前記時間周期内に検出された場合には項目を選択可能にするよう応答し,且つ,項目を確定するように応答するユーザインターフェイス。」である点。
〈相違点〉項目の確定が,本願発明は第2の動作(第1の動作に続くソフトキー11の押下)が時間周期経過後に検出された場合には項目を確定するのに対して,引用発明は第1の動作からの所定の巾の時間周期経過によりただちに項目を確定(段落0049)する点(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,本願発明の認定を誤り,本願発明と引用発明との一致点,相違点の認定を誤り,さらには,進歩性の判断を誤ったものであるから,審決は,取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願発明についての認定の誤り)(ア) 審決は,本願発明について,「『第1の動作』は時間周期が監視される入力手段への入力(最初はソフトキー12(段落0015))で次はソフトキー11あるいはソフトキー12のいずれかによる入力であり,また『第2の動作』は第1の動作に続く入力(第2の動作が行われるとこれが第1の動作と同じく時間周期の監視起点となる)である」と認定している(4頁下14行〜10行)。
(イ) しかし,入力手段の第2の動作は,単に第1の動作に続いて行われるものではない。第2の動作は,その動作が,第1の動作から所定時間内に起こった場合には,項目を選択可能にするような応答を引き起こし,所定時間の経過後に起こった場合には,項目を確定するよう応答を引き起こす動作である。また,本願発明は,入力手段の第1の動作の後に続けて同じ動作が行われること(第1の動作を繰り返して行うこと)を排除せず,第1の動作と第2の動作とが選択的に行われることを可能にしていると解すべきである。本願発明の入力手段は,このように二つの動作を選択的に行うことが可能でなくてはならないので,最低二つのスイッチを備えているべきものである。さらに,第2の動作は,第1の動作からの経過時間に関係なく行われるものである。審決の上記認定は,入力手段の第2の動作は,単に第1の動作に続いて行われると認定しているのみであって,これらの点を検討していないので,正確でない。
(ウ) また,本願発明は,入力手段の第2の動作が第1の動作と同じく時間周期の監視起点となるというものではない。具体的実施態様において,第2の動作がそのような動作となることを排除するものではないが,第2の動作が時間の監視起点となることは,第2の動作の必須内容ではない。審決が「第2の動作が行われるとこれが第1の動作と同じく時間周期の監視起点となる」と認定しているのは,正確でない。
(エ) さらに,本願明細書(甲2)の「段落0015」に記載されたソフトキー11の押下は,制御手段に経過時間の測定を行わせることのない動作であるから,第1の動作ではない。したがって,「段落0015」に記載されたソフトキー11の押下が第1の動作である旨の審決の認定は,正確でない。
イ 取消事由2(本願発明と引用発明の一致点,相違点の認定の誤り)(ア) 審決は,本願発明と引用発明の一致点,相違点について,前記2(3)イのとおり認定している。
(イ) ところで,引用例(甲4)には,「段落0046〜0049」と「段落0051〜0060」にそれぞれ異なるユーザインタフェースが記載されている。
「段落0046〜0049」に記載されているユーザインタフェースは,「@入力キー3が押されることにより,項目選択モードに移行する。Aすると,表示部14において,1秒ごとに異なるメニュー項目がスクロール表示される。B入力キー3が押されると,そのとき表示されていた項目が選択されたとみなされる。さらに,キーが押されてからの経過時間がブリンクタイマ7及び入力制御回路1によって計測され,所定時間後にその項目の選択が確定する。C所定時間内に入力キー3が再び押下されると,上記のAに戻り,再びメニュー項目のスクロール表示が行われる。」というものである。
一方,「段落0051〜0060」のユーザインタフェースは,「D上記Bの項目確定により,データ入力モードへ入る。E数字・記号が速い速度でスクロール表示される。F入力キー3の押下があると,スクロール速度が遅くなるように変更される。また,スクロールタイマによって,押下からの経過時間が測定される。所定時間が経過すると,スクロール速度が元に戻る。Gスクロール速度が遅くなっている間に入力キー3が押されると,そのとき表示されていた項目が選択されたとみなされる。さらに,キーが押されてからの経過時間がブリンクタイマ7及び入力制御回路1によって計測され,所定時間後にその項目の選択が確定する。H所定時間内に入力キー3が再び押されると,上記Eのスクロール表示が再開される。」というものである。
(ウ) 前記のとおり,本願発明の入力手段は,第1の動作と第2の動作とを有するとともに,これら2つの動作を選択的に行うことが可能な入力手段であって,最低二つのスイッチを備えているべきものである。これに対して,引用発明の入力キー3は,単一のキーであり,二つの動作を選択的に行えるようにすることはできない。したがって,引用発明の入力キー3は,本願発明の入力手段とは異なっている。
また,引用例には,本願発明のような,制御手段が入力手段の第2の動作に応答するような構成は全く記載されていないから,この点で,引用発明の制御手段は本願発明の制御手段とは異なる。
さらに,前記のとおり,本願発明の入力手段の第2の動作は,その動作が所定時間の経過後に起こった場合は,項目を確定するような応答を引き起こす動作であり,第1の動作と選択的に行われることが可能なものであり,第1の動作の後であれば第1の動作からの経過時間に関係なく行うことができるというものであるが,引用例の「段落0046〜0049」に記載されるユーザインタフェースは,本願発明の第2の動作に相当するような動作は備えていない。また,引用例の「段落0051〜0060」に記載されるユーザインタフェースについては,上記Fを本願発明の第1の動作に相当すると考えると,審決が上記のとおり「引用発明では第1の動作からの所定の巾の時間周期経過によりただちに項目を確定する」と認定していることと矛盾する。上記Gを本願発明の第1の動作に相当すると考えると,引用例の「段落0046〜0049」に記載されるユーザインタフェースと同様に,本願発明の第2の動作に相当するような動作は備えていないことになる。
以上のようなことから,引用発明は,入力手段の第1の動作によって項目確定を行うのに対し,本願発明は,入力手段の第2の動作によって項目確定を行うという違いがある。
審決の上記認定は,これらの相違点について認定しておらず,誤っているものである。
ウ 取消事由3(進歩性の判断の誤り)(ア) 審決は,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断している。
(イ) しかし,引用発明では,入力キー3が押されると,その時点で既に「項目が選択されたとみなされる」のであって,入力キー3が押されてから更に数秒後に,改めて選択確認のためのキー入力を求めるように設計することは,ユーザーに不要な操作を強いるものであり,機器の操作性を煩雑にする設計変更であるといえる。したがって,引用発明において,項目選択のために入力キー3を押した後,数秒後に更に選択確認のために入力キー3の再押下を求めるように設計変更することは,当業者であれば通常は行わないことであり,阻害要因がある。
(ウ) 本願発明は,入力手段の第1の動作後の所定時間経過後であっても,再び第1の動作を行うことによって項目を再選択できるという項目の再選択機能がある。本願発明は,このような機能を持たせるため,項目確定を所定時間経過後にキー押下によって行うように構成しなければならなかったものである。したがって,このような項目の再選択機能を持たせることを想到しなければ,本願発明のような構成には至らないのであり,引用発明の設計を単に変更しただけでは本願発明をすることはできない。
(エ) 引用発明では,所定時間が経過して項目が誤って確定されてしまった場合,それをキャンセルするには,キャンセルするためのメニュー項目がスクロールしてくるのを待たなければならず,そのためにかかる時間は,10秒以上にもなる可能性がある。その後,さらに所望の項目を再選択しなければならないので,1度の項目確定の誤りが,数10秒のロスにつながることになる。これに対し,本願発明では,所定時間経過後であってもキー押下までは項目を確定できないのみならず,項目の再選択が可能であるので,項目を誤って確定させて上記のような問題を引き起こす危険性は格段に減る。このように,本願発明の効果も引用発明に比べて顕著なものである。
(オ) したがって,本願発明は,引用発明に比して進歩性があるといえるのであり,それを否定した審決の上記判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論(1) 取消事由1に対し本願発明の入力手段の第2の動作は第1の動作に続く入力であり,その旨の審決の認定に何ら不正確な部分はない。
本件補正後の特許請求の範囲(甲3)請求項1には,本願発明は,入力手段の第1の動作の後に続けて第1の動作と第2の動作とが選択的に行われることを可能にしているものであって,そのために最低二つのスイッチを備えていなければならないというような記載はなく,本願発明がそのようなものであるというべき根拠はない。
(2) 取消事由2に対しア 審決は,引用例(甲4)の「段落0048〜0049」,「段落0059〜0060」の記載から,「引用例には,入力キーが押下された(本願発明の「第1の動作」に対応する)と判断した場合は,ブリンクタイマが起動し,ブリンクタイマがタイムアップする前(本願発明の「時間周期内」に対応する)に入力キーが押下された(本願発明の「第2の動作」に対応する)と判断すると,次の選択項目の表示を行う(本願発明の「項目を選択可能にするよう応答すること」に対応する)ことが記載されている」旨認定し,その上で,「項目の確定が,本願発明では,第2の動作が時間周期経過後に検出された場合には項目を確定するのに対して,引用発明は,第1の動作からの所定の巾の時間周期経過によりただちに項目を確定する点で相違する」旨認定している(3頁下から3行〜5頁5行)のであって,本願発明と引用発明の一致点・相違点の認定に誤りはない。
イ 前記(1)のとおり,本願発明は最低二つのスイッチを備えていなければならないという根拠はないから,本願発明が一つのキーだけを備えたもので達成できることは明らかである。
ウ 上記アのとおり,引用発明には,本願発明の入力手段の第2の動作に対応する動作がある。審決は,上記アのとおり,引用発明には,第2の動作に対応する動作があることを認定した上で,相違点を認定している。原告の「引用発明は本願発明の第2の動作に相当するような動作は備えていない」旨の主張は,本願発明は,入力手段の第1の動作の後に続けて第1の動作と第2の動作とが選択的に行われることを可能にしているものであって,そのために最低二つのスイッチを備えていなければならないとの根拠のない主張を前提としたものにすぎない。
(3) 取消事由3に対しア 原告が主張するように,引用発明において確定待機の状態を付加して確定するようにすると,項目確定のための入力キー操作が加わるが,本願発明や引用発明が対象とするユーザインターフェースにおいて,所定時間経過後,確定待機の状態を付加して入力キー操作により確定するか,確定待機の状態を付加せずただちに確定するかは,操作者の熟練度,好み,選択項目の重要性,確認項目の理解度等に応じて当業者が設計的になし得る事項であり,項目確定のための入力キー操作を付加することが,阻害要因になるとはいえない。
イ 前記(1)のとおり,本願発明には,第1の動作後の所定時間経過後であっても,再び第1の動作を行うことによって項目を再選択できるという項目の再選択機能があるということはできず,そのような機能があることを理由として本願発明の進歩性を認めることはできない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 取消事由1(本願発明の認定の誤り)について(1) 審決は,本願発明について,「『第1の動作』は時間周期が監視される入力手段への入力(最初はソフトキー12(段落0015))で次はソフトキー11あるいはソフトキー12のいずれかによる入力であり,また『第2の動作』は第1の動作に続く入力(第2の動作が行われるとこれが第1の動作と同じく時間周期の監視起点となる)である」と認定している(4頁下14行〜10行)。
(2) 原告は,審決の上記認定は正確でないと主張するので,検討する。
ア 本件補正後の特許請求の範囲(甲3)請求項1の記載は,前記第2の1(2)(発明の内容)のとおりである。
イ この記載から,入力手段の第1の動作及び第2の動作を特定する事項を抽出すると,以下の(ア)から(ウ)のとおりであると認められる。
(ア) 第1の動作は,制御手段に対してその動作からの経過時間を判断させる契機を与える機能を奏すること。
(イ) 第2の動作は,時間的(時系列的)に第1の動作の後に行われる動作であること。
(ウ) 第2の動作が,制御手段からの応答により,第1の動作から所定の巾の時間周期の経過前であれば,項目を選択する機能を奏し,かつ,第1の動作から所定の巾の時間周期の経過後であれば,項目を確定する機能を奏すること。
ウ しかしながら,上記特許請求の範囲請求項1には,上記(ア)から(ウ)以外に,入力手段の第1の動作及び第2の動作それぞれの動作態様を具体的に特定する記載はない。
したがって,例えば,一つのキー操作によって入力手段の第1の動作及び第2の動作を行うもの,すなわち,「あるキーが押下されたときに時間の計測を始め,所定の巾の時間周期の経過前に再びそのキーが押下されたときには,項目を選択する機能を奏し,所定の巾の時間周期の経過後に再びそのキーが押下されたときには,項目を確定する機能を奏するもの」も,本願発明に含まれるということができる。このことは,本願明細書(甲2)に,「電話は,入力手段として1つ以上のキーをもつのではなく,例えば,1つ以上のタッチセンサ,音声センサ(音で作動される)又は運動センサ(運動/加速度で作動される)及び/又は接近センサを有することもできる。」(段落【0021】)と記載されており,「入力手段として1つ以上」としていることからも明らかであるというべきである。
そして,このように,一つのキー操作によって入力手段の第1の動作及び第2の動作を行うものは,第1の動作の後には,第2の動作しかなく,第1の動作の後に第1の動作と第2の動作の選択の余地がないことは明らかである。
エ 原告は,本願発明について,@入力手段の第2の動作は,その動作が,第1の動作から所定時間内に起こった場合には,項目を選択可能にするような応答を引き起こし,所定時間の経過後に起こった場合には,項目を確定するよう応答を引き起こす動作である,A本願発明は,入力手段の第1の動作の後に続けて同じ動作が行われること(第1の動作を繰り返して行うこと)を排除せず,第1の動作と第2の動作とが選択的に行われることを可能にしていると解すべきである,本願発明の入力手段は,このように二つの動作を選択的に行うことが可能でなくてはならないので,最低二つのスイッチを備えているべきものである,B第2の動作は,第1の動作からの経過時間に関係なく行われるものである,と主張する。この主張のうち,@とBについては,そのとおりであるということができるものの,Aについては,上記ウのとおり,一つのキーの操作のみで入力手段の第1の動作及び第2の動作を行い,第1の動作の後に第1の動作と第2の動作の選択の余地がないものが,本願発明に含まれることからすると,採用できない。
オ 上記(1)の審決の認定には,以下の(ア),(イ)に示すとおり正確でない点があるが,審決の結論に影響を与えるものではない。
(ア) 本願明細書(甲2)には,「…ソフトキー12を押すことにより,ユーザは電話を『スクロールして選択する』メニューモード(16で示す)に入れる。」(段落【0015】),「…最初に,項目『最後の通話のリダイヤル』が表示される(16で示す)。最初に,『スクロールして選択する』メニューモードにおいては,ソフトキーがソフトキーゾーンにおいてアップ・ダウン矢印で表示され,これを用いてメニューオプションをスクロールすることができる。キー11を押すと,現在表示されている項目の手前のメニュー項目を表示し,キー12を押すと,その次の項目を表示する(17で示す)。電話のプロセッサは,いずれかのソフトキーが最後に押されて以来の時間周期を監視する。…」(段落【0016】)と記載されていることからすると,「段落0015」に記載のソフトキー12による入力は,時間周期が監視される入力でないことは明らかであるから,この入力は,入力手段の第1の動作に当たるものではなく,それに続く「ソフトキー11あるいはソフトキー12のいずれかによる入力」が入力手段の第1の動作に当たるものである。
審決の「『第1の動作』は時間周期が監視される入力手段への入力(最初はソフトキー12(段落0015))で次はソフトキー11あるいはソフトキー12のいずれかによる入力であり」との認定(4頁下14行〜12行)は,ソフトキー12(段落0015)による入力も入力手段の第1の動作に当たるかのように記載している点で正確ではないが,その後にされる「ソフトキー11あるいはソフトキー12のいずれかによる入力」が入力手段の第1の動作に当たると正確に記載している。そして,審決が,上記の正確でない認定によって,本願発明と引用発明の一致点,相違点の認定や本願発明の進歩性の有無の判断を誤ったとは解されないから,上記の正確でない認定は,審決の結論に影響を与える誤りであるとはいえない。
(イ) 本願明細書(甲2)には,入力手段の第2の動作が時間周期の監視起点となるとの記載はないから,審決の「第2の動作が行われるとこれが第1の動作と同じく時間周期の監視起点となる」との認定(4頁下12行〜11行)は,正確でない。しかし,審決が,上記の正確でない認定によって,本願発明と引用発明の一致点,相違点の認定や本願発明の進歩性の有無の判断を誤ったとは解されないから,上記の不正確な認定は,審決の結論に影響を与える誤りであるとはいえない。
3 取消事由2(本願発明と引用発明の一致点,相違点の認定の誤り)について(1) 原告は,@引用発明の入力キー3は,単一のキーでなければならず,二つの動作を選択的に行えるようにすることはできないから,引用発明の入力キー3は,本願発明の入力手段とは異なっている,A引用例には,本願発明のような,制御手段が入力手段の第2の動作に応答するような構成は全く記載されていない,B引用発明は本願発明の第2の動作に相当するような動作は備えていない,C引用発明は,入力手段の第1の動作によって項目確定を行うのに対し,本願発明は,入力手段の第2の動作によって項目確定を行うという違いがある,と主張する。
(2) そこで,検討する。
ア 上記(1)@の主張につき前記2(2)ウエで検討したとおり,本願発明には,一つのキー操作によって入力手段の第1の動作及び第2の動作を行うものも含まれ,本願発明は,「入力手段が,第1の動作と第2の動作の二つの動作を選択的に行うことが可能な入力手段であって,最低二つのスイッチを備えているべきものである」とはいえないから,引用発明の入力キー3は,単一のキーであるからといって,本願発明の入力手段と異なっているということはできない。
イ 上記(1)Aの主張につき(ア) 引用例(甲4)の「段落0046〜0049」には,次のとおり記載されている。
「携帯電話機31(図1参照)の電源をONすると,携帯電話機31は基地局からの送信を待機している状態,すなわち受信モードになる(S-1)。そして,受信モード中,入力キー3(図2参照)が押下されると,データ入力モードに移行する(S-2)。」(段落【0046】)「データ入力モードに移行すると,まず処理項目の選択を行う。本実施例では,ダイヤル通話,時刻設定,音量設定,アラーム時刻設定の4つの処理項目から選択できる。そのため,データ入力モードに移行すると,図5(A)に示すように,表示部14の右端にまず一番目の選択項目である『ダイヤル』が表示される(S-3)。『ダイヤル』が表示されると,入力キー(以下,『入力キー』と言う場合は図2に示す入力キー3を指す)の押下を監視しながら1秒間待機する(S-12)。入力キーが押下されなかったと判断した場合は(S-4),図5(A)の表示部14の右端に次の選択項目である『時刻設定』を表示し(S-11),ステップS-12に戻る。このように,入力キーが押下されるまで各選択項目のスクロール表示が行われる。」(段落【0047】)「一方,入力キーが押下されたと判断した場合は(S-4),その時表示されている選択項目が選択されたとみなし,図5(B)に示すようにブリンク(点滅)表示を開始する(S-5)。このブリンク表示は操作者に選択した項目の確認を要求するためのものである。すなわち,ブリンク表示が開始されると,ブリンクタイマ7(図2参照)が起動し(S-6),入力キーが押下されるか否か監視し(S-8),ブリンクタイマがタイムアップする前に入力キーが押下されるとブリンク表示を停止し(S-13),ステップ(S-11)に戻って次の選択項目の表示を行うので,一旦選択した項目が取り消されたものとして扱われることになる。」(段落【0048】)「一方,入力キーが押下されないままブリンクタイマがタイムアップした場合(S-8)は,ブリンク表示中の項目が確認されたものとして扱い,図5(C)に示すようにブリンク表示を停止し(S-9),選択された項目を確定する(S-10)。…」(段落【0049】)(イ) 引用例(甲4)の「段落0052〜0060」には,次のとおり記載されている。
「処理項目の選択が完了し,データ入力の段階に移行すると,表示部14の右端には,図7(D)〜(G)に示すように選択された処理項目が表示されている。ここでは『ダイヤル』が表示されており,ダイヤル番号入力の処理,すなわち図6の処理に制御が移行する。」(段落【0052】)「まず最初に,入力制御回路1はスクロールカウンタ9,入力桁数カウンタ15を初期化し,次にクロック切替スイッチ8を図8のパターンaに切り替える。すると図7(D)および(E)に示すように,ダイヤル番号入力に必要とされるデータが,表示部14の最初の桁にスクロール表示を開始する(S-21)。この時,Quickクロック4がスクロールカウンタ9に供給され,スクロールカウンタ9を0.2秒ごとにカウントアップさせる。さらに,スクロールカウンタ9のカウント値はROM11にアドレス情報として与えられ,ROM11は出力する文字コードを次々に変えていく。ROM11から文字コードを受けた表示回路13は表示部14に順次スクロール表示を行う。」(段落【0053】)「ここで,操作者は順次スクロール表示される数字の順番を見て,入力したい番号に近づいた時点で入力キー3を押下する。」(段落【0054】)「キー入力検出回路2は,入力キー3が押下されたか否かを常に検出しており,入力キー3が押下されると(S-22),入力制御回路1に伝達する。入力制御回路1は入力キー押下の情報を受けるとクロック切替スイッチ8を図8のパターンbの状態に切り替えるよう指示し,スクロールタイマ6を起動させる。スクロールカウンタ9へは,Slowクロック5が供給されるので表示部14の表示は1秒毎にスクロールするようになる(S-23)。」(段落【0055】)「このように,操作者が入力したい番号に近づいた時点で入力キー3を押下することによってスクロール表示の速度が遅くなるので,入力したい番号がスクロール表示された時点で再度入力キー3を押下すればよい。」(段落【0056】)「入力制御回路1はスクロール表示中,スクロールタイマ6がタイムアウトするまでに(本実施例においては4秒間)入力キー3が押下されなければクロック切替スイッチ8を再び図8のパターンaの状態へ戻し(S-24),再び速いスクロール表示が開始される(S-21)。」(段落【0057】)「一方,スクロールタイマ6がタイムアウトする前に入力キー3が押下されると(S-25),入力制御回路1はクロック切替スイッチ8を図8のパターンcの状態に切替えるので,スクロールは入力キー3が押下された時点で停止する。また,スクロールタイマ6を停止し,表示回路13へその時表示中の文字をブリンク表示させる指示を送り,ブリンクタイマ7を起動させる(S-26)。これにより,図7(E)に示すように,表示中の文字のブリンク(点滅)が開始する。」(段落【0058】)「このブリンク表示は操作者に選択した文字の確認を要求するためのものである。ブリンク表示中,ブリンクタイマ7がタイムアウトするまでに(本実施例においては2.0秒間)入力キー3が押下されると(S-27),ブリンク表示中のデータの入力はキャンセルされ,クロック切替スイッチ8は図8のパターンaの状態に戻り(S-24),再び速いスクロール表示が開始される(S-21)。」(段落【0059】)「一方,ブリンクタイマ7がタイムアウトする前に入力キー3が押下されなければ,入力制御回路1はその時ブリンクしていた文字が確定されたと判断し,表示回路13へブリンク表示を停止する指示を送り,RAM12へ文字コードを格納する指示を送る(S-32)。入力制御回路1は入力桁数カウンタ15にカウントアップの指示を送り,入力桁数の最終桁まで入力されていなければ(S-33),入力桁数カウンタ15のカウント値を1つ上げ(S-34),表示回路13へカウントアップした入力桁位置の情報を送り,図7(G)に示すように表示部14の次の桁にスクロール表示を開始する(S-35)。」(段落【0060】)(ウ) 引用例(甲4)の「段落0033〜0035」には,次のとおり記載されている。
「ブリンクタイマ7は,入力制御回路1より計測開始の指示を受け時間を計測する。また,ブリンクタイマ7は,入力制御回路1より計測停止の指示を受け時間計測を停止し,タイマ値を0にリセットする。…」(段落【0033】)「入力キー3は,押すとスイッチが入り,放すとスイッチが切れるノンロック型のプッシュスイッチである。」(段落【0034】)「キー入力検出回路2は,入力キー3の押下を常に監視し,押下を検出すると入力制御回路1へそのことを伝達する。」(段落【0035】)(エ) これらの記載からすると,引用発明は,入力キー3が押下されたと判断した場合は(S-4)(S-25),ブリンクタイマ7が起動し(S-6)(S-26),このブリンクタイマ7がタイムアップする前に入力キー3が押下されると(S-13)(S-27),選択項目の表示を行い(S-11)(S-21),入力キー3が押下されないままブリンクタイマ7がタイムアップした場合は,選択された項目を確定する(S-10)(S-32)ように,入力制御回路1によって機能するものであると認められる。
そうすると,引用発明の「入力キー3」が本願発明の「入力手段」に,引用発明の「ブリンクタイマ7,キー入力検出回路2及び入力制御回路1」が本願発明の「制御手段」に,引用発明の「ステップ(S-4)(S-25)に係る入力キー3の押下」が本願発明の「入力手段の第1の動作」に,引用発明の「ステップ(S-13)(S-27)に係る入力キー3の押下」が本願発明の「入力手段の第2の動作」に,それぞれ相当すると認められる。また,引用発明の「ブリンクタイマ7がタイムアップする」ことが,本願発明の「所定の巾の時間周期が経過」することに対応することも明らかである。
してみれば,引用発明は,制御手段が,第2の動作が所定の巾の時間周期内に検出された場合には項目を選択可能にするよう応答するものであるから,「引用例には,本願発明のような,制御手段が入力手段の第2の動作に応答するような構成は全く記載されていない」との原告の主張は採用できない。
もっとも,本願発明は,入力手段の第2の動作が第1の動作から所定の巾の時間周期の経過後に検出された場合に項目を確定するのに対して,引用発明は,第2の動作を必要とせずに,第1の動作から所定の巾の時間周期が経過した場合に項目を確定する点が相違しているが,この点について進歩性が認められないことは,後記4のとおりである。
(オ) なお,審決は,引用発明の「入力キー」,「スクロールタイマと入力制御装置」が,それぞれ本願発明の「入力手段」,「制御手段」に相当するとしている(4頁下から16行〜15行)。引用発明の「入力キー」が,本願発明の「入力手段」に相当するとの点は,そのとおりであるが,スクロールタイマは,前記(イ)の引用例の記載からすると,スクロール表示の速度が遅くなる時間を制御するものであるから,本願発明の「制御手段」に相当するものではない。しかし,上記のとおり,引用発明の「ブリンクタイマ7,キー入力検出回路2及び入力制御回路1」が本願発明の「制御手段」に相当するから,引用発明は本願発明の「制御手段」に相当するものを備えており,この審決の誤りは,審決の結論に影響を与えるものではない。
ウ 上記(1)Bの主張につき原告は,本願発明の入力手段の第2の動作は,その動作が所定時間の経過後に起こった場合は,項目を確定するような応答を引き起こす動作であり,第1の動作と選択的に行われることが可能なものであり,第1の動作の後であれば第1の動作からの経過時間に関係なく行うことができるというものであるところ,引用例のユーザインタフェースは,本願発明の第2の動作に相当するような動作は備えていないと主張する。
本願発明の入力手段の第2の動作は,その動作が所定時間の経過後に起こった場合は,項目を確定するような応答を引き起こす動作であるが,引用発明には,そのような動作がないことは,前記イ(エ)のとおりであり,この点は,審決も相違点として認定している。
次に,本願発明の入力手段の第2の動作が第1の動作と選択的に行われることが可能なものとはいえないことは,前記2(2)ウエで検討したとおりである。
さらに,本願発明の入力手段の第2の動作は,第1の動作の後であれば第1の動作からの経過時間に関係なく行うことができるが,引用発明においては,入力キー3が押下されないままブリンクタイマ7がタイムアップした場合は,選択された項目を確定するので,ブリンクタイマ7がタイムアップした後は,第2の動作を行う余地がなくなるという違いがある。しかし,これは,「本願発明は,入力手段の第2の動作が第1の動作から所定の巾の時間周期の経過後に検出された場合に項目を確定するのに対して,引用発明は,第2の動作を必要とせずに,第1の動作から所定の巾の時間周期が経過した場合に項目を確定する」という相違点に必然的に由来するものであって,この相違点とは別個の相違点とはいえないから,審決がこの点を相違点として特に取り上げて認定しなかったことに誤りがあるということはできない。
エ 上記(1)Cの主張につき原告が主張する趣旨は,項目確定の契機となる入力手段の動作が,本願発明では第2の動作であるのに対し,引用発明では第1の動作である点で相違することにあると認められるが,この点も,「本願発明は,入力手段の第2の動作が第1の動作から所定の巾の時間周期の経過後に検出された場合に項目を確定するのに対して,引用発明は,第2の動作を必要とせずに,第1の動作から所定の巾の時間周期が経過した場合に項目を確定する」という相違点を別の観点から述べたものにすぎす,審決がこの点を相違点として特に取り上げて認定しなかったことに誤りがあるということはできない。
4 取消事由3(進歩性の判断の誤り)について(1) 原告は,引用発明において,項目選択のために入力キー3を押した後,数秒後に更に選択確認のために入力キー3の再押下を求めるように設計変更することは,当業者であれば通常は行わないことであり,阻害要因があると主張する。
しかし, 選択項目の確定に当たり,入力キーの再押下という確認動作を必要とするか,それを必要とせず,所定の巾の時間周期が経過したことによって確定するものとするかは,選択項目の内容や重要性,操作者の熟練度や好みによって決定すべき事項であるということができる。例えば,選択項目の内容が,操作者が理解することが容易でなく迷うようなものであれば,入力キーの再押下という確認動作が必要になるが,選択項目の内容が,操作者が容易に理解して迷うことなく選択できるようなものであれば,入力キーの再押下という確認動作は必要ないといえる。また,選択項目の情報が,重要なものである場合は,入力キーの再押下という確認動作が必要になるが,それほど重要なものでなければ,入力キーの再押下という確認動作は必要でないといえる。さらに,操作者の熟練度や好みによっても,入力キーの再押下という確認動作が必要であるかどうかが左右されることも明らかである。
このように,入力キーの再押下という確認動作を必要とするかどうかは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,上記のような点を考慮して,適宜に採用し得る設計的事項といえるものである。したがって,入力キーの再押下を求めるように設計変更することは当業者であれば通常は行わないということはできず,この点が引用発明に対して阻害要因となるということはできないから,原告の上記主張は採用できない。
(2) 原告は,本願発明は,第1の動作後の所定時間経過後であっても,再び第1の動作を行うことによって項目を再選択できるという項目の再選択機能があるところ,このような項目の再選択機能を持たせることを想到しなければ,本願発明のような構成には至らないのであり,引用発明の設計を単に変更しただけでは本願発明をすることはできないと主張する。
しかし,前記2(2)ウエで検討したとおり,本願発明は,第1の動作後の所定時間経過後であっても,再び第1の動作を行うことによって項目を再選択できるものとはいえないから,原告の上記主張は,その前提を欠き,採用できない。
(3) 原告は,引用発明では,所定時間が経過して項目が誤って確定されてしまった場合,それをキャンセルするには,キャンセルするためのメニュー項目がスクロールしてくるのを待って,所望の項目を再選択しなければならないが,本願発明では,所定時間経過後であってもキー押下までは項目を確定できないのみならず,項目の再選択が可能であるので,項目を誤って確定させて上記のような問題を引き起こす危険性は格段に減ると主張する。
確かに,引用発明では,所定時間が経過して項目が誤って確定されてしまった場合には,項目の再選択に時間と労力を要することがあるが,その反面,キー押下という再度の動作を要することなく迅速かつ簡単に項目を確定することができるという利点がある。これに対し,本願発明では,キー押下という再度の動作を要するため,引用発明ほど迅速かつ簡単に項目を確定することはできないが,その反面,誤って確定することが少なくなるという利点がある。これらのいずれを選択するかは,当業者が,適宜に決定すべきものであって,効果において本願発明の方が優れているということはできない。なお,本願発明について,「所定時間経過後であっても,項目の再選択が可能である」ということができないことは,前記2(2)ウエで検討したとおりである。
(4) したがって,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りがあるということはできない。
5 以上の次第で,原告主張の取消事由は,いずれも認められないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一