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関連審決 無効2005-80123
関連ワード 発明者 /  組立方法 /  加工方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  寄せ集め /  周知技術 /  技術常識 /  発明が明確 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10729号 審決取消請求事件
原告 ジーエスケー産業株式会社
訴訟代理人弁護士 後藤昌弘
同川岸弘樹
訴訟代理人弁理士 飯田昭夫
同江間路子
被告 株式会社ケイ.ビイ.エム
訴訟代理人弁護士 江尻泰介
同 岡 耕一郎
訴訟代理人弁理士 服部雅紀
同南島昇
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2005−80123号事件について平成17年9月5日にした審決中,「特許第3158269号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成7年4月13日,発明の名称を「キー変換式ピンタンブラー錠」とする発明について特許出願をし,平成13年2月16日,特許庁から特許第3158269号として設定登録を受けた(請求項の数は1である。
以下「本件特許」という。)。
これに対し被告から特許無効審判請求がされ,特許庁はこれを無効2005-80123号事件として審理し,その係属中の平成17年7月7日,原告は,本件特許の願書に添付した明細書の訂正請求をした(以下,この訂正後の明細書を図面と合わせて「本件訂正明細書」という。)。
そして,特許庁は,審理の結果,平成17年9月5日,「訂正を認める。
特許第3158269号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月15日原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
【請求項1】 ケーシング内に固定体が取付けられ,該固定体内に錠軸を有する回転体が回転可能に嵌挿され,該固定体と該回転体の当接する一面に回転面が形成され,該固定体には複数の有底ピン孔が穿設され,各有底ピン孔に各々ドライブピンが付勢されて挿入され,該回転体には回転面を介して各有底ピン孔に連通可能な複数の貫通ピン孔が穿設され,各貫通ピン孔には各々コードピンが挿入され,変換用のキーを錠の挿入口に差込み,該回転体を任意列回転させた状態で,代りに別の変換用のキーを該挿入口に差込み,該回転体を最初の位置まで回転させることにより,前のキーを使用不能とし,別のキーを使用可能とするキー変換式ピンタンブラー錠において,前記ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に設けて形成され,該小径部が変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度に細く短く形成されていることを特徴とするキー変換式ピンタンブラー錠。
3 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである(なお,審決書の当事者欄中,請求人の表示として「株式会社ケイ.ピイ.エム」とあるのは,「株式会社ケイ.ビイ.エム」の誤記と認められる。)。
その理由の要旨は,本件発明は,本件特許出願前に頒布された実公平4-48296号公報(本訴甲3・審判甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができないとしたものである。
本件審決が認定した引用発明の内容,本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(引用発明の内容)ケーシング2内に固定筒体部3が取付けられ,該固定筒体部3内に一端Aを有する回転体4が回転可能に嵌挿され,該固定筒体部3と該回転体4の当接する一面に回転面5が形成され,該固定筒体部3には複数の有底のピン孔14aないし14eが穿設され,各有底のピン孔14aないし14eに各々ドライブピン19a〜19eが付勢されて挿入され,該回転体4には回転面5を介して複数の有底ピン孔14aないし14eに連通可能な複数の貫通ピン孔30a〜30eが穿設され,各貫通ピン孔30a〜30eには各々操作ピン35a〜35eが挿入され,第一変換鍵8を鍵の挿入口10に差込み,該回転体4を任意列回転させた状態で,代りに第二変化鍵9を該挿入口10に差込み,該回転体4を最初の位置まで回転させることにより,第一鍵6を使用不能とし,第二鍵7を使用可能とする鍵変換式のピンタンブラー錠において,前記ドライブピン19a〜19eのうちの少なくとも1本のドライブピン19a(判決注・「ドライブピン19b」)と操作ピン35bとの間に別体のボール29が設けられている鍵変換式のピンタンブラー錠。
(一致点)「ケーシング内に固定体が取付けられ,該固定体内に錠軸を有する回転体が回転可能に嵌挿され,該固定体と該回転体の当接する一面に回転面が形成され,該固定体には複数の有底ピン孔が穿設され,各有底ピン孔に各々ドライブピンが付勢されて挿入され,該回転体には回転面を介して各有底ピン孔に連通可能な複数の貫通ピン孔が穿設され,各貫通ピン孔には各々コードピンが挿入され,変換用のキーを錠の挿入口に差込み,該回転体を任意列回転させた状態で,代りに別の変換用のキーを該挿入口に差込み,該回転体を最初の位置まで回転させることにより,前のキーを使用不能とし,別のキーを使用可能とするキー変換式ピンタンブラー錠」である点。
(相違点)本件発明が,ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に設けて形成され,該小径部が変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度に細く短く形成されているのに対し,ドライブピン19a〜19eのうちの少なくとも1本のドライブピン19bと操作ピン35bとの間に別体のボール29が設けられている点。
当事者の主張
1 原告主張の本件審決の取消事由本件審決が認定した引用発明の内容,本件発明と引用発明との一致点及び相違点は認める。
しかし,本件審決は,相違点の判断を誤り(取消事由1),本件発明の格別の効果を看過した(取消事由2)結果,本件発明について,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,違法として取消しを免れない。
(1) 取消事由1(相違点の判断の誤り)ア 本件審決は,本件発明と引用発明との相違点について,「ところで,キー変換式ピンタンブラー錠(甲第1号証発明。判決注・「引用発明」)において,ボールは最初からドライブピンと分離している必要はなく,一体であれ,別体であれ,変換キーにより容易に分離され,移動されるものであればよいことは明白であるから,本願発明(判決注・「本件発明」)は,ドライブピンのピン本体とピン先端部を分離する時期を特定したことに特徴があるのではなく,ピンタンブラー錠の製造時に容易に組立を行うことができ,部品点数を削減したことに尽きる。しかしながら,製品の製造時に,複数の部品の組み付けを容易にし,部品点数の低減を図るために,二以上の部品を一体に成形することは,広範な技術分野においてきわめて普通に行われていることにすぎない。さらに,ピン本体部及びピン先端部は,いずれもピン孔の内部において移動可能に挿入されるものであって,その材料,及び外径等の寸法等が共通するものであるから,ピン本体部とピン先端部とを含む部材を一体品として製造することは,当業者であれば,製品の製造工程において当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」(審決書11頁3行〜16行)として,引用発明において,本件発明に係る相違点の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであると判断したが,以下に述べるとおり誤りである。
(ア) 基本的に,キー変換式ピンタンブラー錠は,円筒形キーを使用する軸方向ピンタンブラー錠の一つであり,この軸方向ピンタンブラー錠は,特定の形式を示す錠として当業者の間で認識されている(例えば,甲4)。
軸方向ピンタンブラー錠の特色の一つは,本件発明にいうドライブピンとコードピンの組合せを有することであり,キー変換式ピンタンブラー錠の場合は,ドライブピン,コードピン及びボールの組合せを有することである。そして,このボールの表面に凹凸が存在すると滑らかな動きができず,キーの回転をスムーズに行うことができないため,その錠は不良品として扱われる。したがって,このボールは,ボール毎に表面加工して,滑らかに動くようにしておくことが必要であるため,最初からドライブピンとボールが分離されている必要がある。また,キー変換式ピンタンブラー錠の技術分野のみならず,滑らかな動きが要求される部品に関しては,その部品の表面加工を確認できなければ製品に使用しないのが常識である。
したがって,「キー変換式ピンタンブラー錠において,ボールは最初からドライブピンと分離している必要はなく,一体であれ,別体であれ,変換キーにより容易に分離され,移動されるものであればよいことは明白である」との本件審決の前記認定は明らかに誤りである。
(イ) 次に,本件発明の特徴は,特許請求の範囲(請求項1)で規定されているように,小径部の構成を「回転体の回動時に折れて分離可能な程度に細く短く形成されている」と特定したことにあり,このように小径部の形状を特定することにより,分離後も部品の移動がスムーズに行われることを発明者が見いだしたものであるから,本件発明の特徴は「ピンタンブラー錠の製造時に容易に組立を行うことができ,部品点数を削減したことに尽きる。」との本件審決の前記認定は誤りである。
(ウ) さらに,キー変換式ピンタンブラー錠におけるピン本体部とピン先端部(ボール)のように,分離後の部品の表面状況が製品精度に影響を及ぼすような二以上の部品を一体に成形することが,普通に行われているものではないから,「ピン本体部とピン先端部とを含む部材を一体品として製造することは,当業者であれば,製品の製造工程において当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」との本件審決の前記認定は誤りである。
(エ) 本件発明のキー変換式ピンタンブラー錠における当業者とは,単なる錠の技術分野ではなく,少なくともピンタンブラー錠の技術分野に属する者に限定されるべきである。そして,このような当業者の間では,キー変換式ピンタンブラー錠は,円筒形キーを使用する軸方向ピンタンブラー錠の一つであり,軸方向ピンタンブラー錠は,特定の形式の錠として認識されているものである。
本件審決は,ピンタンブラー錠の技術分野における当業者の技術常識を考慮することなく,ピン本体部とピン先端部を一体化することについて何ら記載も示唆もない引用発明において,本件発明に係る相違点の構成とすることは当業者であれば容易になし得ることであると判断した誤りがある。
イ これに対し被告は,乙1ないし8を挙げて,「二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図ること」は,キー変換式ピンタンブラー錠の技術分野に限らず,極めて広範囲の技術分野において広く採用されている周知の技術であるから,当業者であれば,周知のキー変換式ピンタンブラー錠に上記周知技術を適用して相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得る旨主張している。
しかし,上記乙号各証は,本件発明のキー変換式ピンタンブラー錠のように製品完成後の分解検査が不可能であり,かつ,防犯上特に製品としての精度と信頼性を要求される技術分野における周知技術を示すものとはいえないから,被告の主張は,その前提を欠き失当である。
(2) 取消事由2(本件発明の格別の効果の看過)キー変換式ピンタンブラー錠におけるボールは,本件訂正明細書(甲13)に「例えば直径2oの金属球」(段落【0007】)と記載されているように,非常に小さいものであり,このような小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入する作業は,非常に煩雑で困難である。
そして,本件発明は,組立作業のうちでも,「小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組み立て作業」(本件訂正明細書の段落【0010】)を不要とする格別の効果を奏するものであるのに,本件審決には,上記格別の効果を看過した誤りがある。
2 被告の主張(1) 取消事由1及び2に対する反論ア 「ピン本体」と「ボール」又は「スペーサ」とが分離された「キー変換式ピンタンブラー錠」は,本件特許の出願以前から周知の技術である。
また,乙1〜8に開示されているとおり,「二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図ること」は,キー変換式ピンタンブラー錠の技術分野に限らず,極めて広範囲の技術分野において広く採用されている周知の技術である。
(ア) 乙1(実願昭61-168441号(実開昭63-73928号)のマイクロフィルム)には,トランジスタやコンデンサなどのディスクリート部品の分野において,ディスクリート部品を一体に成形した後,必要に応じて分離することにより,工数低減を図る考案が開示されている。
(イ) 乙2(特開平5-38021号公報)には,配管部材の分野において,配管の端末を塞ぐ複数の固定部材を一体に成形した後,必要に応じて分離することにより,複数の部材の取扱いの容易化を図る発明が開示されている。
(ウ) 乙3(特開平5-135652号公報)には,電話機等に利用されるキーボタンの分野において,多数個のキーボタンを一体に成形することにより,個々に取り扱う煩雑さと誤装着の危険性を招くことなく,取扱いが容易で作業性の向上を図る発明が開示されている。
(エ) 乙4(特開平6-164160号公報)には,電子機器等のスイッチの分野において,ノブとカバーとを折損可能な連結部を介して一体成形することにより,ノブの成形及び装着の容易化を図る発明が開示されている。
(オ) 乙5(特開平6-188039号公報)には,電子装置のコネクタの分野において,境界に切込部を設けて必要部分と不要部分とを一体に成形し,切込部から不要部分を除いて必要部分のみを用いることにより,組立てを容易にし,効率の向上を図る発明が開示されている。
(カ) 乙6(特開平5-259358号公報)には,ICチップパッケージ用のマイクロリードピンの分野において,複数のピンを一体に成形して製造工程における処理を行うことにより,単一のピンを扱う場合と比較して加工の容易化を図る技術が開示されている。また,乙7(特開平5-343480号公報),乙8(特開平5-343481号公報)にも,同様の技術が開示されている。
イ 一方,本件訂正明細書には,「発明が解決しようとする課題」として,「通常のピンタンブラー錠と同様に容易に組立を行うことができ,部品点数も削減できるキー変換式ピンタンブラー錠を提供すること」(段落【0008】)のみが記載されており,その「作用効果」として,「このような構成のキー変換式ピンタンブラー錠は,その製造時,ドライブピンが全て一体に形成され,従来必要としていた非常に小径の金属球を必要としないため,手作業の組付工程において,小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組み立て作業が不要となり,この種の錠を簡単に組み立てることができ,また,部品点数も削減することができる。」(段落【0010】)と記載されている。
本件訂正明細書記載の本件発明の効果は,二以上の部品を一体に成形することにより考えられる効果,すなわち「作業の効率化」及び「部品点数の低減」という効果以上の格別の効果を意味するものではない。
また,原告が主張する「小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組み立て作業」を不要とする効果は,「ピン本体」と「ピン先端部」とを一体化することにより当然に奏するものであり,部品を一体化したことによって容易に予想される範囲の効果にすぎないから,格別の効果というほどのものではない。
ウ そうすると,本件発明は,周知のキー変換式ピンタンブラー錠に,極めて周知な部品の一体化という技術を寄せ集めただけにすぎないのであるから,当業者であれば,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得るものである。
エ 以上によれば,本件審決が,「複数の部品の組み付けを容易にし,部品点数の低減を図るために,二以上の部品を一体に成形することは,広範な技術分野においてきわめて普通に行われていることにすぎない。さらに,ピン本体部及びピン先端部は,いずれもピン孔の内部において移動可能に挿入されるものであって,その材料,及び外径等の寸法等が共通するものであるから,ピン本体部とピン先端部とを含む部材を一体品として製造することは,当業者であれば,製品の製造工程において当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」として,引用発明において,本件発明に係る相違点の構成とすることは当業者であれば容易になし得ることであると判断したことに誤りはなく,また,本件審決に,原告主張に係る本件発明の格別の効果の看過もない。
オ これに対し原告は,本件発明のキー変換式ピンタンブラー錠という技術分野においては防犯上特に製品としての精度と信頼性を要求される旨主張する。
しかし,そもそも本件発明が解決しようとする課題及び本件発明の効果は,あくまでも「組立を容易」にし,「部品点数を低減」することにとどまるのであって,製品の精度に影響を及ぼすような部品の表面状況までをも改善するものではないのであって,製品としての「精度」及び「信頼性」は,特許請求の範囲(請求項1)に記載されている本件発明の技術的な構成及びその構成から得られる作用効果とは何ら関係のないものであるから,原告の上記主張は失当である。
(2) 特許法36条の要件違反に基づく特許無効(予備的主張)ア 本件発明の特徴部分である「前記ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に設けて形成され,該小径部が変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度に細く短く形成されている」(請求項1)との記載から,少なくとも1本のドライブピン又は小径部が折れていないこと,すなわち製造工程のある時期に少なくとも1本の折れていないドライブピン又は小径部が存在していることを理解できるものの,この折れていないドライブピン又は小径部はいつの時点のものを示しているのか不明確である。ピン孔への挿入前に折れていないドライブピン又は小径部が存在するという意味であれば,請求項1は,キー変換式ピンタンブラー錠の発明について,その完成前の製造工程における部品の状態を特定する構成要件を含む記載となるから,その記載は奇異である。
また,折れていないドライブピン又は小径部は,「回転体の回動時において常に折れる」と解釈することができる一方,「回転体の特定の回転時にのみ折れる」と解釈することができるため,請求項1の記載からドライブピン又は小径部が折れる時期を一義的に導き出すことができない。
イ さらに,請求項1の「折れる程度」,「細い」及び「短い」との記載は,強度や大きさを相対的かつ抽象的に示すものにすぎないから,請求項1の「小径部が折れる程度に細く短く形成されている」との記載は,発明を明確に特定しているものではない。
ウ したがって,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,特許を受けようとする発明が明確であることの要件(特許法36条6項2号)に適合しないから,本件特許は無効である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について(1) 原告は,本件審決には,ピンタンブラー錠の技術分野における当業者の技術常識を考慮することなく,ピン本体部とピン先端部を一体化することについて何ら記載も示唆もない引用発明において,本件発明に係る相違点の構成とすることは当業者であれば容易になし得ることであると判断した誤りがある旨主張する。
ア 本件訂正明細書(甲13)には,次のとおりの記載がある。
(ア) 「【従来の技術】この種のキー変換式ピンタンブラー錠として,従来,円筒形のケーシング内に固定体を取付けると共に,その固定体の中心孔に錠軸を有する回転体を回転可能に嵌挿して,固定体と回転体の当接する一面に回転面を形成し,固定体には複数の有底ピン孔が穿設され,それらの有底ピン孔に各々ドライブピンが上方に付勢されて挿入され,回転体には回転面を介して各有底ピン孔に連通可能な複数の貫通ピン孔が穿設され,それらの貫通ピン孔にはコードピンが挿入され,上記ドライブピンのうちの1本が短く形成されると共に,その短寸のドライブピンの上,つまりピン孔の回転面側にボールが挿入されてなるピンタンブラー錠が知られている(例えば,実公平4-48296号公報参照)」(段落【0002】)(イ) 「【発明が解決しようとする課題】しかし,この種のキー変換式ピンタンブラー錠は,第一変換キーと第二変換キーを使用して,第一キーから第二キーへ容易にキーを変更することができるものの,その製造時には,非常に小さいボール(例えば直径約2mmの金属球)を用意し,組付工程でその小ボールを所定のピン孔に正確に挿入する必要がある。この種の組付工程は,通常,手作業で行われるが,非常に小さい金属球を手に持って所定の細い孔に正確に挿入する作業は,難しく,非常に煩雑となる問題があった。」(段落【0007】),「本発明は,上記の点に鑑みてなされたもので,通常のピンタンブラー錠と同様に容易に組立を行うことができ,部品点数も削減できるキー変換式ピンタンブラー錠を提供することを目的とする。」(段落【0008】)(ウ) 「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明のキー変換式ピンタンブラー錠は,ケーシング内に固定体が取付けられ,固定体内に錠軸を有する回転体が回転可能に嵌挿され,固定体と回転体の当接する一面に回転面が形成され,固定体には複数の有底ピン孔が穿設され,各有底ピン孔に各々ドライブピンが付勢されて挿入され,回転体には回転面を介して各有底ピン孔に連通可能な複数の貫通ピン孔が穿設され,各貫通ピン孔には各々コードピンが挿入され,変換用のキーを錠の挿入口に差込み,回転体を任意列回転させた状態で,代りに別の変換用のキーを挿入口に差込み,回転体を最初の位置まで回転させることにより,前のキーを使用不能とし,別のキーを使用可能とするキー変換式ピンタンブラー錠において,ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に設けて形成され,小径部が変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度に細く短く形成されていることを特徴とする。」(段落【0009】)(エ) 「【作用・効果】このような構成のキー変換式ピンタンブラー錠は,その製造時,ドライブピンが全て一体に形成され,従来必要としていた非常に小径の金属球を必要としないため,手作業の組付工程において,小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組み立て作業が不要となり,この種の錠を簡単に組み立てることができ,また,部品点数も削減することができる。」(段落【0010】),「このキー変換式ピンタンブラー錠のキーを変換する場合,変換用のキーを錠の挿入口に差込み,それを回して回転体を任意列に回転させた状態で,代りに別の変換用のキーを挿入口に差込み,それを回す。このとき,特定のドライブピンのピン先端部が回転体の貫通ピン孔内に進入し,そのピン本体とピン先端部との間の小径部が回転面に位置するため,回転時に小径部が折れてピン先端部がピン本体から分離する。このため,分離したドライブピンのピン先端部が隣りのピン孔に移動し,残ったピン本体のドライブピンと移動したその隣りのドライブピン(コードピン)の長さが変り,解錠可能なキーが変換される。」(段落【0011】)イ 本件訂正明細書の上記記載及び請求項1によれば,@キー変換式ピンタンブラー錠は,変換用のキーを錠の挿入口に差込み,回転体を任意列回転させた状態で,代りに別の変換用のキーを挿入口に差込み,回転体を最初の位置まで回転させることにより,前のキーを使用不能とし,別のキーを使用可能とする構成を有するものであり,A従来のキー変換式ピンタンブラー錠の製造時には,通常,手作業で非常に小さいボール(例えば直径約2mmの金属球)を所定のピン孔に正確に挿入するという,難しく,非常に煩雑な組付工程を要するという問題があったところ,B本件発明は,ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に形成され,変換用のキーによる回転体の回動時に,ドライブピンの小径部が折れてピン先端部とピン本体部とを分離可能とする程度に当該小径部を細く短く形成するという構成(本件審決認定の相違点の構成)を採ることにより,組立て時には,ドライブピン本体とピン先端部を一体として取り扱えるようにして,小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組立作業を不要とするとともに,部品点数を削減し,組立て後には,ピンタンブラー錠として使用することを可能とし,変換用のキー(上記@の別の変換用のキー)による回転体の回動時に,ドライブピンの小径部が折れてピン先端部とピン本体部を分離しキー変換を可能とする効果を奏することを特徴とするものと認められる。
なお,請求項1の「ドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に設けて形成され,該小径部が変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度に細く短く形成されている」との記載によれば,本件発明の「小径部」が折れてピン本体と先端部が分離する時期は,変換用のキーによる回転体の回動時であることは明らかであり,また,本件発明の「小径部」が「変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度」に細く短く構成されていることも明らかである。
ウ(ア) ところで,本件審決は,キー変換式ピンタンブラー錠(引用発明)において「ボールは最初からドライブピンと分離している必要はなく,一体であれ,別体であれ,変換キーにより容易に分離され,移動されるものであればよいことは明白である」(審決書11頁3行〜6行)と認定判断しているが,引用例(甲3)中には,組立て後のキー変換式ピンタンブラー錠におけるボールとドライブピンが「一体」であってもよいことの記載も示唆もないし,また,このことが技術常識から明らかであることを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 加えて,前記イで認定したとおり,本件発明は,ドライブピンのうちの少なくとも1本のドライブピンが,ピン本体上に小径部を介してピン先端部を一体的に形成され,変換用のキーによる回転体の回動時に,ドライブピンの小径部が折れてピン先端部とピン本体部とを分離可能とする程度に当該小径部を細く短く形成するという相違点に係る構成を採ることにより,組立て時に,小さな金属球を所定の細い孔に手で挿入するような煩雑で難しい組立作業を不要とし,部品点数を削減するのみならず,組立て後には,ピンタンブラー錠として使用することを可能としながら,変換用のキーによる回転体の回動時に,ドライブピンの小径部が折れてピン先端部がピン本体部から分離可能としてキー変換を可能とするものである。
本件審決は,「製品の製造時に,複数の部品の組み付けを容易にし,部品点数の低減を図るために,二以上の部品を一体に成形することは,広範な技術分野においてきわめて普通に行われていることにすぎない。さらに,ピン本体部及びピン先端部は,いずれもピン孔の内部において移動可能に挿入されるものであって,その材料,及び外径等の寸法等が共通するものであるから,ピン本体部とピン先端部とを含む部材を一体品として製造することは,当業者であれば,製品の製造工程において当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」(審決書11頁9行〜16行)と判断しているところ,本件審決がいうように「製品の製造時に,複数の部品の組み付けを容易にし,部品点数の低減を図るために,二以上の部品を一体に成形することは,広範な技術分野においてきわめて普通に行われ」,「ピン本体部及びピン先端部は,いずれもピン孔の内部において移動可能に挿入されるものであって,その材料,及び外径等の寸法等が共通する」としても,このことから直ちに,ボールとドライブピンという特定の部材に着目して,これらを小径部を介して一体化してドライブピンのピン本体部とピン先端部(ボールに相当する部分)とし,かつ,変換用のキーによる回転体の回動時に小径部が折れてピン先端部とピン本体部を分離し,キー変換を可能とする構成とすることが,当業者にとって当然考慮すべき設計的事項であるとすることはできず,他にこれを設計的事項にすぎないと認めるに足りる証拠はない。
エ したがって,本件審決が,引用発明において,相違点に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであると判断したのは誤りであるというべきである。
(2) これに対し被告は,乙1〜8を挙げて,二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図ることは,極めて広範囲の技術分野において広く採用されている周知の技術であり,本件発明の効果は,二以上の部品を一体に成形することにより考えられる効果,すなわち「作業の効率化」及び「部品点数の低減」という効果以上の格別の効果を意味するものではないから,本件発明は,周知のキー変換式ピンタンブラー錠に,極めて周知な部品の一体化という技術を寄せ集めただけにすぎず,当業者であれば,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得る旨主張する。
ア しかしながら,前記(1)ウ(イ)で説示したとおり,二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図るという技術思想から,直ちに相違点に係る本件発明の構成に想到するものと認めることはできない。
また,以下のとおり,乙1〜8のいずれにおいても,相違点に係る本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(ア) 乙1(実願昭61-168441号(実開昭63-73928号)のマイクロフィルム)には,「実用新案登録請求の範囲」として,「リード端子がテーピングされたディスクリート部品において,前記リード端子には切断用の切込みが設けられていることを特徴とするディスクリート部品。」(明細書1頁)との記載がある。しかし,一方で,「このように構成された本考案のディスクリート部品をプリント配線基板の穴に手で押入するには,ディスクリート部品1を手でつかみ,リード端子2に入れてある切込み3の両側の方向に,交互に力を加えてリード端子2を切断し,・・・押入すればよい。」(明細書4頁3行〜9行)との記載があることに照らすと,上記考案に係るディスクリート部品を使用してリード端子を配線基板に組み付ける際には,各リード端子を切断してプリント配線基板の穴に押入することが予定されているものであるから,乙1は,錠の組立て時に,ドライブピンのピン本体とピン先端部を一体として取り扱うことのできる本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(イ) 乙2(特開平5-38021号公報)には,【特許請求の範囲】として,「【請求項1】 配管の端末が接続固定される管継手部と,この管継手部につづいて設けられ配管に通された配線が収容される収容部と,この収容部の一面に設けられ配線が引き出される開口部とを備えた本体,および,この本体の前記開口部を着脱自在に塞ぐコンクリート侵入防止用キャップを備えてなる配管端末固定部材であって,・・・前記コンクリート侵入防止用キャップは,前記並設された本体のそれぞれの開口部に嵌入自在な複数個のキャップ単体が分離可能な連結部を介して一体に連設されていることを特徴とする配管端末固定部材。」との記載がある。しかし,一方で,「任意の個所で連結部を切断あるいは折れば,任意の個数の固定部材を分離することができるので,小分け販売を行ったり,1個所に複数個の固定部材を隣接させて施工するのも容易である。」(段落【0027】)との記載があることに照らすと,請求項1に係る配管端末固定部材を使用して配管端末に接続・組み付けをする際には,任意の個所で連結部を切断又は折ることが予定されているものであるから,乙2は,錠の組立て時に,ドライブピンのピン本体とピン先端部を一体として取り扱うことのできる本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(ウ) 乙3(特開平5-135652号公報)には,【特許請求の範囲】として,「【請求項1】 基材に透明で弾力性のある材料を用いて,多数個のキーボタン部を連結部で連結して一体化を図り,裏面に印刷表示を行ったキースイッチと,キースイッチの押圧を行う押圧凸部を形成した弾力性を有するキーシートとを重ね合わせたことを特徴とするキーボタン装置。」との記載がある。しかし,請求項1に係るキーボタン装置は,そもそも,キーボタン部の各々が分離されることを予定されていないから,乙3は,変換用のキーによる回転体の回動時に,ドライブピンの小径部が折れてピン先端部がピン本体部から分離可能とする本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(エ) 乙4(特開平6-164160号公報)には,【特許請求の範囲】として,「【請求項1】 スライドノブが装着されるフロントカバーにおいて,スライドノブのスライド部が,スライド部係合穴内に位置され,かつその移動方向への押圧力によって折損可能な連結部を介してスライド部係合穴の周縁部と一体成形されていることを特徴とするフロントカバー。」との記載がある。しかし,一方で,「上記構成のフロントカバー1に対してスライドスイッチを搭載したプリント基板を組付けるには,まず,フロントカバー1の凹部9にパネル8を嵌着しておく一方,プリント基板10に搭載したスライドスイッチ11の作動子の適宜に移動する。ついで,プリント基板10とフロントカバー1を組付けてスライドスイッチ11の作動子12をスライドノブ3の背面に設けた嵌合穴(図示せず)に嵌合した後,ノブ部6を介してスライドノブ3に対してその移動方向へ適宜の押圧力を付与して両連結部5を折損させる。」(段落【0007】)との記載があることに照らすと,請求項1に係るフロントカバーは,フロントカバー1と一体のスライドノブ3をスライドスイッチ11の作動子12に嵌合した後,連結部5を折損させるものであるが,上記折損によりスライドノブ3をフロントカバー1から分離しなければ機能しないものであるから,乙4は,変換用のキーによる回転体の回動時に小径部が折れてドライブピンのピン先端部をピン本体部から分離する前においても,ピンタンブラー錠としての使用を可能としつつ,キー変換を可能とする本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(オ) 乙5(特開平6-188039号公報)には,【特許請求の範囲】として,「【請求項2】 ボード側ピン端子(5)と,外部電極端子(31)が装着脱される接触部(2)と,前記接触部(2)の先端に設けられた略尖鋭形状の組立補助部(8)とを有する複数のコンタクトピン組立体(7)を,可動ロック部(11)に設けられた複数のコンタクトピン孔(110)にそれぞれ仮に挿通させるコンタクトピン組立体仮挿通工程と,前記組立補助部(8)および前記接触部(2)を前記複数のコンタクトピン孔(110)にそれぞれ押圧して挿入させるとともに,前記組立補助部(8)を前記接触部(2)から分離させて複数のコンタクトピン(1)を形成させるコンタクトピン挿通形成工程とを有することを特徴とするコネクタの組立方法。」との記載がある。しかし,請求項2に係る発明は,組立て後には不要となるコンタクトピン組立体(7)の組立補助部(8)を,コンタクトピン孔(110)に押圧挿入して分離するものであって,乙5は,変換用のキーによる回転体の回動時に小径部が折れてドライブピンのピン先端部をピン本体部から分離する前においても,ピンタンブラー錠としての使用を可能としつつ,キー変換を可能とする本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(カ) 乙6(特開平5-259358号公報)には,【特許請求の範囲】として,「【請求項1】シート状の封着金属合金母材を用いて電子ビーム,レーザー,スタンパー,エッチング等の加工方法によって並列された多数本のピン本体,この多数本のピン本体の頭部とそれぞれ簡単に切断可能に一体成形された上部フレ―ム,前記多数本のピン本体のティ―ル部とそれぞれ簡単に切断可能に一体成形された位置決め孔を有する下部フレ―ムとからなるICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピン基板を製造するICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピン基板形成工程と,・・・メッキ処理工程と,このメッキ処理工程後に・・・整列固定治具に多数枚のICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピン板を位置決め状態に固定するICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピン板の固定工程と,このICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピン板の固定工程後に整列固定治具より上方に突出している上部フレ―ムを切断して除去する上部フレ―ム除去工程と,この上部フレ―ム除去工程後に・・・ロウ材付着工程と,このロウ材付着工程後にICチップあるいはICセラミックスレイヤ―パッケ―ジ用基板のリ―ドピン取付部と整列固定治具に整列固定されたロウ材が付着されたピン本体とを位置決めしてロウ付け固定するピン本体固定工程と,このピン本体固定工程後に整列固定治具を除去するとともに,下部フレ―ムをピン本体より切断して除去する下部フレ―ム除去工程とを含むことを特徴とするICパッケ―ジ用マイクロリ―ドピンのICチップ等への実装装着方法。」との記載がある。しかし,請求項1に係る発明は,上部フレーム及び下部フレームにより一体化された多数本のピン本体をICチップ等に装着する過程において,装着後は不要となる上部フレーム及び下部フレームを切断,除去して多数本のピン本体を分離するものであって,乙6は,変換用のキーによる回転体の回動時に小径部が折れてドライブピンのピン先端部をピン本体部から分離する前においても,ピンタンブラー錠としての使用を可能としつつ,キー変換を可能とする本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
(キ) 乙7(特開平5-343480号公報),乙8(特開平5-343481号公報)記載の技術も,前記(カ)と同様に,多数本のマイクロピン本体をLSIチップ等に装着する過程において,多数本のマイクロピン本体を分離するものであって,変換用のキーによる回転体の回動時に小径部が折れてドライブピンのピン先端部をピン本体部から分離する前においても,ピンタンブラー錠としての使用を可能としつつ,キー変換を可能とする本件発明の構成を示唆するものと認めることはできない。
イ したがって,被告の前記主張は採用することができない。
(3) 以上によれば,本件審決がした相違点の判断には誤りがあり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。
(4) なお,被告は,予備的に,特許法36条の要件違反による本件特許の無効を主張する。
しかしながら,本件発明に係る特許が特許法29条2項に違反してなされたものであることを理由に,これを無効とすべきものとした本件審決の取消訴訟において,本件審決が判断した上記無効事由とは別個の無効事由である特許法36条違反について審理判断することが許されるかどうかは問題であるが,その点はさておき,被告の上記主張についてみると,既に説示したとおり,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明の「小径部」が折れてピン本体と先端部が分離する時期は,変換用のキーによる回転体の回動時であり,その分離される以前はドライブピン又は小径部が折れていないことは明らかであるし,また,本件発明の「小径部」が「変換用のキーによる回転体の回動時に,折れて分離可能な程度」に細く短く構成されていることも明確に理解できるものであって,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載に,被告主張のような明確を欠く点は認められないから,被告の上記主張は失当である。
2結論以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,本件審決は取消しを免れない。
そうすると,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀