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関連審決 無効2004-80239
関連ワード 使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10495号 審決取消請求事件
X 原告
訴訟代理人弁護士 柿崎喜世樹
同弁理士 衡田直行
被告 有限会社鉱石ミネラル嵐の湯
訴訟代理人弁護士 川原眞也
同弁理士 旭宏
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-80239号事件について平成17年4月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「石風呂装置」とする特許第3396776号(平成11年9月30日出願,平成15年2月14日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成16年11月26日,本件特許についての無効審判請求をし,特許庁は,この審判請求を無効2004-80239号事件として審理した結果,平成17年4月26日,「特許第3396776号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年5月11日,審決の謄本が原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(甲第1号証。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1には,次の記載がある(以下,この発明を「本件発明」という。)「建物Aの最下部層に断熱材(1)を設け,この上にコンクリート層(2)を設け,更にこの層の上部に温水管(4)を埋設したモルタル層(3)を設け,この上に最上層として砂利及び炭を混合した温浴層(5)を設けて,床を4層構成とし,建物内部に蒸気吹出口を設けてなり,ボイラーBからの温水を上記温水管(4)に循環させて床最上層の温浴層(5)を適温に加温すると共に,蒸気の噴出によって建物A内を適温・適湿度に保ったことを特徴とした石風呂装置。」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開平8-12406号公報(甲第3号証。以下,同号証記載の発明を「甲3発明」という。),実願昭61-5617号(実開昭62-116729号)のマイクロフィルム(甲第4号証。以下,同号証記載の発明を「甲4発明」という。)及び特開平11-19168号公報(甲第5号証)に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,甲3発明の内容並びに本件発明と甲3発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
(1) 甲3発明の内容「断熱材ADを敷き詰め,この上に,中間層に温水供給管S3より温水が供給される管状の発熱体XXを有すると共に,砂利を遠赤外線発生促進剤と共にコンクリートペーストに混入して成型した遠赤外線照射床コンクリート体XBを設け,温水ボイラーBに蓄積されている温水を上記温水供給管S3により管状の発熱体XXに供給して遠赤外線照射床コンクリート体XBが暖められると共に,サウナ室内を40℃〜42℃程に設定した遠赤外線低温サウナ」(2) 一致点「建物の最下部層に断熱材を設け,この上にコンクリート層を設け,更にこの層の上部に温水管を埋設した層を設け,この上に最上層として砂利を混合した温浴層を設けて,床を4層構成とし,ボイラーからの温水を上記温水管に循環させて床最上層の温浴層を適温に加温すると共に,建物内を適温に保った風呂装置」である点(3) 相違点@ 温水管を埋設した層に関し,本件発明が「モルタル」層としたのに対し,甲3発明は,かかる特定がなされていない点(以下,審決と同様に「相違点1」という。)A 温浴層の砂利と混合する対象物に関し,本件発明が「炭」としているのに対し,甲3発明は,「遠赤外線発生促進剤」としている点(以下,審決と同様に「相違点2」という。)B 本件発明が「建物内部に蒸気吹出口を設けてなり」,「蒸気の噴出によって」建物内を適温「・適湿度」に保った構成としたのに対し,甲3発明は建物内を適温に保った風呂装置(遠赤外線低温サウナ)であるものの,「蒸気」にかかる構成が明確にされていない点(以下,審決と同様に「相違点3」という。)C 風呂装置に関し,本件発明が「石風呂装置」であり,効果として,砂利の凹凸による指圧マッサージ的な刺激を生じさせるところから,砂利が直接入浴者を刺激し得る配置構成を備えたものと捉えられるのに対して,甲3発明は,砂利がコンクリートペーストに混入されてはいるものの,かかる配置構成となっているか否か不明である点(以下,審決と同様に「相違点4」という。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,本件発明と甲3発明との一致点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),本件発明と甲3発明との相違点4に関する判断を誤った(取消事由2)ため,本件発明が甲第3ないし第5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かに関する判断を誤ったものであり,この誤りは審決の結論に影響することが明らかであるから,取り消されるべきである。なお,原告は,相違点1ないし3に関する審決の判断については争わない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)審決は,本件発明の温浴層が固められていないものに限定されているわけではないと認定し,「砂利を混合した温浴層を設けて,床を4層構成とし」たことを,本件発明と甲3発明との一致点と認定している。
しかし,本件発明における「砂利及び炭を混合した温浴層」の「温浴層」が温浴をするための固めていない層であり,足のみではなく,横臥した人体が直接入り込み,あるいは直接接することができるものであるのに対し,甲3発明の「……砂利を遠赤外線発生促進剤と共にコンクリートペーストに混入して成型した遠赤外線照射床コンクリート体XB」は,硬化した組成物からなる成形体であって,そこに人体が直接接したり入り込むことはなく,その作用,機能は全く異なっている。したがって,「砂利を混合した温浴層を設けて,床を4層構成とし」た点を,本件発明と甲3発明との一致点と認定したことは誤りであり,本件発明において温浴層が固められていないのに対し,甲3発明では固められているという相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点4に関する判断の誤り)審決は,マッサージ効果を得るために砂利が直接入浴者に刺激を与える配置構成としたサウナユニット(本件発明の「石風呂装置」に相当する。)は,甲第4号証に開示されているところ,同じ効果を得るために,甲3発明の風呂装置において,砂利が混入された温浴層をコンクリートペーストで成型する際に,例えば温浴層の表面に砂利の一部が突出するように成型して,砂利が直接入浴者を刺激し得る配置構成の石風呂装置とすることは,当業者が容易に想到し得るところであると認定判断しているが,甲4発明の技術思想を甲3発明に適用するには,次のとおり阻害要因がある。
(1) 甲4発明は,足の底のみを刺激するものであり(砂利は一重の層でもよい。),本件発明の温浴層のように,横臥した体に砂利が接する面積が大きく,高いマッサージ効果及び温浴効果を得られるものではない。一般に,足のマッサージと体全体のマッサージとは,別に取り扱われている。
また,審決が認定したように,コンクリートペーストで成型するときに砂利の一部が突出するようにしたのでは,入浴者が体を傷つけることが予想されるし,熱の分散もなく,到底使えるものではない。
(2) 本件発明と甲4発明との効果の相違は,入浴者の好み・使用方法に係るものではなく,構造を特定した発明の構成と関係するものであって,上記の効果は,温浴層がない甲4発明からは得ることができない格別のものである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について本件発明における温浴層の表面の構造について,「独立した粒体の集合体であって,これをコンクリートで固めたものも本件発明の構成に包含される」という審決の認定が本件発明の表面層の構造を誤認したものであったとしても,粒体である砂利を独立した粒体の集合体の層として温浴層の表面層とした例は本件出願以前から甲4発明に示されているのであるから,この甲4発明の構造の表面層をそのまま甲3発明の表面層に適用することは,当業者が容易に想到し得ることである。審決は,当業者であれば,甲3発明,甲4発明及び甲第5号証記載の発明並びに周知技術から本件発明が容易に想到し得るとするものであり,本件発明の進歩性の判断を誤ったとはいえない。
2 取消事由2(相違点4に関する判断の誤り)について(1) マッサージ効果を得るとの観点からは,審決が認定したように,コンクリートペーストで成型するときに砂利の一部が突出するなどして,砂利が直接入浴者を刺激し得る構成とすることは,当業者が容易に想到し得るところである。
(2) 本件発明と甲4発明との効果の相違点は,入浴者の好みによる石風呂装置,あるいはサウナユニットの使い方の問題であって,構造を特定した発明の構成とは関係がないことである。例えば,着ている衣服の布,あるいは下に敷くタオルの厚さを選べば,原告が甲3発明において生ずると主張する障害(入浴者が熱さを感じたり,砂利で体が切れたりすること)は解消される。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について原告は,本件発明における「温浴層」は,温浴をするための固めていない層であり,足のみではなく,横臥した人体が直接入り込み,あるいは直接接することができるものであるから,審決は,甲3発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したと主張する。
(1) 甲3発明における「遠赤外線照射コンクリート体」は,特許請求の範囲において,明確に「コンクリートペーストによって,成型,構築した」(【請求項1】)と規定され,「遠赤外線発生物の一つである自然石(川石や海石の様な,特に丸くて硬い石)を破砕し砂利とし,遠赤外線発生促進剤(本特許においては用いていないが木炭粉の様な物を云う)と共にコンクリートペーストに混入して,均一に遠赤外線を照射出来る遠赤外線照射コンクリート体を成型,構築した」(甲第3号証段落【0005】)ものである。
これに対し,本件特許の「温浴層」は,特許請求の範囲において,「砂利及び炭を混合した混浴層」(【請求項1】)と規定されている。「混合した」との文言は成分が2種類以上であることを意味するのみであるし,「層」とあるから固められていないということもできず,固められていることが明らかな「コンクリート層(2)」及び「モルタル層(3)」も同一請求項内で「……層」と表現されている。また,「温浴」も入浴者が建物内の「蒸気」及び温浴層の砂利等から熱を受けることを意味するのみで,「温浴層」の構造を規定するものではない。したがって,特許請求の範囲の文言中に,「温浴層」が固められているものであるか,固められていないものであるかを規定する明確な文言を認めることはできない。
(2) また,本件明細書(甲第1号証)には,次の記載がある。
ア 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,砂利を敷き詰めその下に埋設したゴム管で全体を温め一定の温度に維持し同時に,室内も一定の温度及び湿度を維持する。利用者は砂利の上に浴衣,Tシャツ等を身に付け横たわる事により,(段落【0005】)イ 【発明の実施の形態】添付図面により本発明の実施の形態を説明すると,図1は建物A内の床面の断面図を示し,図2は床面のモルタル層に埋設した温水管(4)の配管図であって,ボイラーBからの温水が循環して加熱される。(段落【0006】)ウ 【実施例】図1において床面となる最下層の断熱材(1)は50mm厚のウレタン等であり,その上のコンクリート(2)は150mmの層である。
そしてこの上部に50mmのモルタル層(3)を設けて,この層の中に径16mmのゴム製の温水管(4)を埋設する。温水管(4)の配管について図2に示すようにボイラーBから80℃位の高温水が循環式に通湯される。
(段落【0008】)エ そしてこのモルタル層(3)の上層に最上層として温浴層(5)を設けるもので全体として床は4層で形成されている。この最上層の温浴層(5)は砂利と炭片の混合層であって約100mmの厚さに形成して敷き詰め,下層からの温熱によって加熱され約40〜42℃位の適温に保持するように調整する。(段落【0009】)オ したがって入浴者は浴衣やTシャツを着た状態で温浴層(5)の上に自由に座るなり横になるなりして休むことになる。(段落【0010】)カ 入浴者は,このように浴内でリラックスした状態で温浴ができるため,砂利の凹凸による指圧マッサージ的な刺激と炭からの遠赤外線による照射熱効果と更には炭から発生されるマイナスイオンによる空気清浄による精神安定の効果と,色々な相乗的な作用効果が生じて理想的な温浴ができる。(段落【0011】)(3) 本件明細書の上記記載並びに【図1】及び【図2】によれば,本件発明における「温浴層」は,「モルタル層(3)の上層に最上層として」設けられ,「砂利と炭片の混合層であって約100mmの厚さに形成して敷き詰め」たもの(上記エ)であることが認められる。
「温浴層」の利用方法としては,入浴者が「浴衣やTシャツを着た状態で温浴層(5)の上に自由に座るなり横になるなりして休む」方法が本件明細書に掲げられている(上記オ)ところ,この利用方法では,「温浴層」が固められたものでも,固められていないものでも利用可能であり,差は生じない。
原告は,入浴者が温浴層の砂利を押し分けて入り込む利用方法もあることを「温浴層」が固められていないことの根拠の一つとして主張するが,甲第5号証の【図1】と異なり,本件明細書にはこのような利用方法が明示されてはおらず,原告の上記主張は,採用できない。
(4) 以上のとおり,本件特許の特許請求の範囲からは,固められた「温浴層」を有する構成も含まれるし,固められていない「温浴層」を有する構成も含まれると解され,発明の詳細な説明を検討しても,原告が主張するように,「温浴層」が固められていないものであると認めることもできない。原告の主張は,本件特許の「温浴層」が固められていないものに限定されることを前提にして,甲3発明と対比した場合の一致点認定の誤りをいうものであるから,前提において誤ったものであって採用することはできない。したがって,本件特許の「温浴層」が「固めていないものに限定されているわけではない」とした審決の認定に誤りはなく,一致点認定の誤り,相違点の看過も存しない。
2 取消事由2(相違点4に関する判断の誤り)について原告は,甲4発明の技術思想を甲3発明に適用するには阻害要因があると主張するが,入浴者の体に直接砂利が接触してマッサージする効果を奏するためには,審決が認定したように,コンクリートペーストで成型するときに砂利の一部が突出するなどして,砂利が直接入浴者を刺激し得る構成とすればよく,このことは,当業者が容易に想到し得るところである。
(1) 原告は,甲4発明は足の底のみを刺激するものであり,本件発明の温浴層のように高いマッサージ効果及び温浴効果は得られないと主張する。
しかし,甲4発明におけるマッサージ効果は,入浴者の姿勢や「サウナユニット」の形状によっては,足底だけでなく,全身まで及び得るものであり,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,甲3発明において,砂利の一部が突出するように成型すると,入浴者が体を傷つけることが予想されるし,熱の分散もなく,到底使えるものではないと主張する。
しかし,このような障害は,甲3発明の「遠赤外線照射コンクリート体」を使用した装置の利用方法次第で(例えば,被告の主張するように,入浴者が着ている衣服の布,あるいは下に敷くタオルの厚さを選ぶことにより),克服可能なものであり,上記の結論を左右するものではない。
(2) 原告は,本件発明の効果は,温浴層がない甲4発明からは得ることができない格別のものであると主張する。
しかし,前判示のとおり,本件発明と甲4発明との効果の違いは,入浴者の好みによる石風呂装置あるいはサウナユニットの使い方の問題であって,温浴層の有無という構造の問題ではないから,原告の主張を採用することはできない。
3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀