関連審決 |
訂正2004-39261
無効2004-35098 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 着想 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 侵害 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 釈明 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10407号
審決取消請求事件
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原告 X 訴訟代理人弁理士 福田賢三 同福田伸一 同福田武通 同加藤恭介 訴訟代理人弁護士 橋口尚幸 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 二宮千久 同川嶋陵司 同高木彰 同小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/05/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が訂正2004-39261号事件について平成17年2月28日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,後記特許の特許権者である原告が,特許請求の範囲等につき訂正審判請求をしたところ,特許庁から審判請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。 なお原告は,本件訂正審判請求以前に,第三者が本件特許を侵害したとして民事訴訟(東京地裁平成15年(ワ)第25067号)を提起し,これに対し当該第三者が特許庁に対して本件特許の無効審判請求(無効2004-35098号)をしていたが,それぞれ和解及び取下げによって終了している。 |
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当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,名称を「遊技管理システムおよび遊技管理プログラム」とする発明につき平成6年6月24日付けで特許出願をし,平成8年9月5日,特許第2557029号として設定登録を受けた(請求項は1〜4。以下「本件特許」という。)。 そして原告は,平成16年11月17日付けで,本件特許の請求項1〜4の特許請求の範囲の減縮等を目的として訂正審判を請求し,同請求は訂正2004-39261号事件として特許庁に係属した(以下「本件訂正審判請求」という。)。特許庁は,上記事件を審理した上,平成17年2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成17年3月10日原告に送達された。 (2) 訂正請求の内容ア 本件訂正審判請求は,本件特許明細書(本件特許に係る特許公報〔甲1〕に掲載された明細書をいう。)を,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として,別添審決写しの「第2.審判請求の要旨」のとおりに変更しようとするものである。 イ 訂正後の請求項1〜4に係る発明(以下,審決の用語に従い「本件発明1」〜「本件発明4」という。)の内容は下記のとおりである(下線部は訂正箇所)。 記【請求項1】 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の全発射球数データと毎日の全排出賞球数データと毎日の稼働時間データとを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと前記全発射球数データと前記全排出賞球数データと前記稼働時間データとを受け取り記憶して全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムであって,前記遊技機管理装置は,前記全発射球数データと全排出賞球数データとから全発射球数に対する全排出賞球数に関する毎日の指標値である出玉データを演算し,特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように制御することを特徴とする遊技機管理システム。 【請求項2】 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の全発射球数データと毎日の全排出賞球数データと毎日の稼働時間データとを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと前記全発射球数データと前記全排出賞球数データと前記稼働時間データとを受け取り全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムにおいて前記各装置を制御する遊技機管理プログラムであって,任意の時刻における各遊技機の釘間隔調整後の前記釘間隔データを前記釘間隔測定装置から出力させ前記遊技機管理装置に記憶させる第1ステップと,次いで当該釘間隔調整後の毎日の前記全発射球数データ及び毎日の前記排出賞球数データ及び毎日の稼働時間データとを各遊技機から出力させ前記遊技機管理装置に記憶させる第2ステップと,次いで前記全発射球数データと全排出賞球数データとから全発射球数に対する全排出賞球数に関する毎日の指標値である出玉データを前記遊技機管理装置に演算させ記憶させる第3ステップと,特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように前記遊技機管理装置を制御する第4ステップと,を備えたことを特徴とする遊技機管理プログラム。 【請求項3】 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の全発射球数データと毎日の全排出賞球数データと毎日の稼働時間データとを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと前記全発射球数データと前記全排出賞球数データと前記稼働時間データとを受け取り記憶して全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムであって,前記遊技機管理装置は,前記全発射球数データと全排出賞球数データとから全発射球数に対する全排出賞球数に関する毎日の指標値である出玉データを演算し,特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値及び釘曲がり方向又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように制御することを特徴とする遊技機管理システム。 【請求項4】 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の全発射球数データと毎日の全排出賞球数データと毎日の稼働時間データとを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと前記全発射球数データと前記全排出賞球数データと前記稼働時間データとを受け取り全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムにおいて前記各装置を制御する遊技機管理プログラムであって,任意の時刻における各遊技機の釘間隔調整後の前記釘間隔データを前記釘間隔測定装置から出力させ前記遊技機管理装置に記憶させる第1ステップと,次いで当該釘間隔調整後の毎日の前記全発射球数データ及び毎日の前記排出賞球数データ及び毎日の稼働時間データとを各遊技機から出力させ前記遊技機管理装置に記憶させる第2ステップと,次いで前記全発射球数データと全排出賞球数データとから全発射球数に対する全排出賞球数に関する毎日の指標値である出玉データを前記遊技機管理装置に演算させ記憶させる第3ステップと,特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値及び釘曲がり方向又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように前記遊技機管理装置を制御する第4ステップと,を備えたことを特徴とする遊技機管理プログラム。 (3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,本件発明1〜4は,その出願前に頒布された下記第1〜第6引用例及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ,特許法29条2項に該当するから,本件訂正は,独立特許要件に係る特許法126条3項の規定(ただし平成6年法律第116号による改正前のもの)の規定により認められない,としたものである。 記第1引用例:特開平6-71034号公報(甲3)第2引用例:特開平3-29680号公報(甲4)第3引用例:特開平5-245266号公報(甲5)第4引用例:特開平5-184724号公報(甲6)第5引用例:特開平4-138185号公報(甲7)第6引用例:特開昭62-133986号公報(甲8)イ 上記判断をするに当たり,審決は,第1引用例には,下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定した。 記「 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の発射玉の累積値であるアウト玉数データと,毎日の補給玉の累積値であるセーフ玉数データと,毎日の稼働状態データとを含む出玉データを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと,前記アウト玉数データと前記セーフ玉数データと前記稼働状態データとを含む前記出玉データを受け取り記憶して全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又は基準出玉データ等を入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムであって,前記遊技機管理装置は,前記アウト玉数データとセーフ玉数データとからアウト玉数に対するセーフ玉数に関する毎日の指標値である,割数,特賞中最大最小,遊び率等からなる各種出玉データと,毎日の稼働状態データから稼動時間及び稼働率とを演算し,特定機種に関する,想定する各種出玉データ又は想定する稼働率のうちから,そのいずれか,あるいは,任意の組み合せが前記外部入力装置から入力された場合には,対応する残りの各種出玉データ,稼動時間データ及び釘間隔データを前記データ出力装置から外部出力させるように制御する遊技機管理システム。」ウ また審決は,本件発明1と,上記イのとおり認定した引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 〔一致点〕遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の全発射球数データと毎日の全排出賞球数データと毎日の稼働時間データとを出力する複数の遊技機と,前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと前記全発射球数データと前記全排出賞球数データと前記稼働時間データとを受け取り記憶して全遊技機を管理する遊技機管理装置と,当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,を備えた遊技機管理システムであって,前記遊技機管理装置は,前記全発射球数データと全排出賞球数データとから全発射球数に対する全排出賞球数に関する毎日の指標値である出玉データを演算し,特定機種に関する想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように制御する遊技機管理システム。 〔相違点〕(以下「相違点A」という。)本件発明1は,特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように制御する構成であるのに対して,引用発明は,特定機種に関する,想定する各種出玉データのうちから,そのいずれか,あるいは,任意の組み合せが前記外部入力装置から入力された場合には,対応する残りの各種出玉データ,稼動時間データ及び釘間隔データを前記データ出力装置から外部出力させるように制御する構成である点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,以下に述べるとおり,第1引用例には前述の「引用発明」など記載されていないので審決の引用発明の認定は誤りであるのみならず,第1引用例と第2引用例から本件発明を問う業者が容易に想到できたとはいえないから,審決は違法なものとして取消しを免れない。 ア 取消事由1(引用発明の認定の誤り)審決が第1引用例に記載されていると認定した「引用発明」は,第1引用例に記載されておらず,また,示唆もされていない。このように,審決は,第1引用例に実際に記載されていない発明を,いわば架空の「引用発明」として認定し,これを進歩性判断の基礎に置いているものであるから,審決の判断は誤りである。 この点について詳述すると,以下のとおりである。 (ア) 第1引用例に開示された技術審決は,第1引用例(甲3)の【特許請求の範囲】から【請求項1】を,【発明の詳細な説明】から【0001】,【0003】,【0006】〜【0019】,【0027】〜【0029】,【0031】〜【0032】,【0042】を,図面から第1図〜第12図を引用し,これらの記載に基づいて「引用発明」を認定している。これらのうち,【発明の詳細な説明】から引用された各段落及び図面は,すべて,【請求項1】に記載された技術内容について詳細に説明したものである。 第1引用例の請求項1は,分節すると下記のとおりである。 記A. 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,所定時間内の排出賞球数に関する指標値を出玉データとして出力する複数の遊技機と,B. 前記複数の遊技機の障害釘のうち所定の1対の障害釘の間隔を測定し釘間隔データとして出力する釘間隔測定装置と,C. 前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における前記釘間隔データと前記出玉データとを受け取り全遊技機を管理する遊技機管理装置と,D. 当該遊技機管理装置に外部から指令入力可能な外部入力装置と,E. 前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,F. を備えた遊技機管理システムであって,G.a 前記遊技機管理装置は,任意の時刻における各遊技機の釘間隔調整後の釘間隔データおよび当該釘間隔調整後の出玉データとを受け取り,各遊技機における前記釘間隔データと前記出玉データとを関係付けて表示するとともに,b 前記複数の遊技機のうちの特定の遊技機に対し許容すべき出玉の上限値と下限値とが前記外部入力装置から入力された場合に,c 当該特定遊技機の前記予測出玉データ値が当該出玉の上限値を上回るかまたは当該出玉の下限値を下回る場合には当該特定遊技機の障害釘の間隔を調整すべき旨の釘調整必要信号を出力し,当該特定遊技機は釘調整候補遊技機である旨の表示を前記データ出力装置に表示させるように制御することを特徴とするd 遊技機管理システム。 上記構成要件Gにおいて説明されている機能は,特定の種類の遊技機について,特定の出玉データの任意の上限値・下限値を入力することで,その範囲を満たさない当該種類の遊技機,すなわち釘調整候補台を容易にピックアップするというものである。そして,かかるピックアップを可能にするシステムこそが,第1引用例に開示されている技術なのである。 (イ) 第1引用例と引用発明上記(ア)のとおり,第1引用例に開示された技術は,パチンコ店内の特定の機種の遊技機を選択した後,出玉データの特定の項目(割数,遊び率など)について所定の数値範囲を入力すれば,当該特定機種の中でも,この数値範囲をはみ出すものだけを,「釘間隔調整候補台」としてピックアップする,というシステムである。この第1引用例のシステムは,引用発明のシステムと比較した場合,「パチンコ店内のパチンコ遊技機から,釘間隔データと出玉データを集計・管理する管理装置」という部分は共通しているが,それ以外の,具体的なデータ処理の手順,方法及び作用効果は全く異なっている。 両者の相違点について,表にまとめると以下のとおりである。 第1引用例に開示された技術 引用発明入力データ 出玉データの任意の項目について,上限 想定する出玉データ,稼働時間等値と下限値を入力出力データ 釘調整候補台の番号 (上記入力した以外の)出玉データ,稼動時間,釘間隔値データ処理の内容 入力された出玉データの数値範囲から, 入力された出玉データ,稼動時間等を示はみ出している出玉データを示す遊技機 した遊技機についての,他の出玉データのみをピックアップして,その台番号等 等の平均値を出力。 を出力。 目的及び作用効果 各営業日ごとに,目的としていた出玉デ 複数の遊技機から蓄積された出玉データータ値からはみ出した遊技機について, と釘間隔データの関係を数値化して検討釘調整候補台として出力し,それらの台 し,釘間隔値の調整方法等について検討について釘調整をやり直すことにより出 する。 玉データを調節する。 上記の表から明らかなように,第1引用例に開示された技術と引用発明とでは,入力データ,出力データの種類,データ処理の内容,そしてその目的及び作用効果がすべて異なっている。 第1引用例に開示された技術は,パチンコ遊技場の各営業日ごとの運営記録から,とりあえずその日に釘調整が必要となっている台をピックアップするための技術である。これに対して,審決の認定した「引用発明」は,特定の種類の台について過去の遊技機データを数値化することで,出玉データと釘間隔データの関係を検討して,その種類の台の「特性」を客観的に検討し,今後の釘間隔調整に役立てるための技術である。 このように,審決の認定した「引用発明」は,第1引用例に開示された技術とは,入出力データの種類及び目的・作用効果において全く異なった技術なのであり,「引用発明」の内容は,第1引用例の明細書を検討しても,どこにも記載がないのである。したがって,第1引用例から「引用発明」が認定されるとした審決の判断は,明らかに誤りである。 (ウ)(引用発明の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすこと)そして,第1引用例に実際に開示された技術と,本件発明1は,目的,構成,効果の点で全く異なっており,両者は,別個の技術的思想のものである。 すなわち,第1引用例に開示された技術は,出玉データの上下限値を入力設定し,個々の遊技機ごとの監視を行い,釘間隔の調整を必要とする台を抽出するとともに,釘間隔の調整後における遊技機の営業実績をも追跡できるものである。これに対し,本件発明1は,釘間隔を調整する前に,例えば想定する釘間隔値を入力し,対応する出玉データを出力させ,今後の営業戦略を立てるための指標とするものである。 このように,第1引用例に開示された技術は,釘間隔の調整の結果としての営業収支の追跡を行うにとどまるものであるのに対して,本件発明1は,釘間隔を調整する前に将来の営業戦略を立てるものであり,両者は全く異なる技術である。 したがって,第1引用例に「引用発明」が記載されているとの誤った認定がなければ,第1引用例に基づき本件発明1が容易に想到可能であるとの判断とはならなかったはずであり,引用発明の認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼしている。 イ 取消事由2(相違点Aについての容易想到性の判断の誤り)(ア) 審決は,「引用発明」と本件発明1との相違点Aにつき,引用発明に第2引用例を組み合わせることにより本件発明1の構成に容易に想到できると判断した。すなわち,審決は,第2引用例には,「釘調整度合NR」の入力に応じて,対象となった特定のパチンコゲーム機に関する出玉データを出力するようにしたパチンコゲーム機の管理技術が記載されていると認定の上,引用発明に,第2引用例に記載されている「釘調整データとしての釘調整度合NRの入力」を組み合わせ,さらに,釘調整度合NRに変えて同じく釘調整データである釘間隔値を入力するように設計変更を行って,本件発明1の構成を得ることは容易である,とした。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。 (イ) 第2引用例の「釘調整度合NR」に関する審決の理解は,本件発明1における「釘間隔データ」との違いを看過するものであって妥当ではない。 第2引用例にいう「釘調整度合NR」とは,「a」〜「e」という5段階のランクにより表現されるものであって,釘師の主観に頼った漠然とした基準によるランク付けである。これに対し,本件発明1における「釘間隔データ」とは,電子的な測定装置等を用いてデジタルデータとして測定された具体的な釘間隔の値を指す。 第2引用例の「釘調整度合NR」のような主観的なデータを使用している限り,釘調整度合と出玉データとの客観的なデータ比較は困難である。本件発明1のパチンコ遊技機管理システムでは,デジタルデータ化した釘間隔データをコンピュータによる管理システムと組み合わせることにより,多数のパチンコ遊技機について釘間隔値データと出玉データの客観的比較を初めて可能にしたものである。 このように,第2引用例の釘調整度合NRと,本件発明1の釘間隔データとは,その性質が全く異なるデータであり,当業者にとっても容易に代替可能なものではなかった。そして,本件発明1の釘間隔データを遊技機管理装置と組み合わせて得られる作用効果は,従来の遊技機管理装置(第2引用例の装置など)の作用効果と大きく異なるものである。 そうすると,結局,引用発明に第2引用例を組み合わせても,本件発明1に容易に想到できるものではないというべきである。 (ウ) また,第1引用例と第2引用例は,開示された発明の技術的思想が根本的に異なっている。 すなわち,まず,第2引用例に記載された技術は,個々の遊技機の釘調整を釘師に任せることにより出玉率を調整するという,従来の技術の延長線上にあるものにすぎない。これに対し,第1引用例に開示された技術は,特定の障害釘の釘間隔という客観的なデータに着目し,遊技店全体として,特定の機種について,釘間隔値と出玉データとの関係を客観的に統計化しようという発想に基づいて考え出された発明である。 したがって,第2引用例に記載された技術事項を,これと全く別異の技術的思想に基づく第1引用例に開示された技術に組み合わせることは,当業者にとって着想すらできないことである。 ウ 本件発明2〜4についての取消事由審決は,本件発明2〜4について,本件発明1についての判断を流用しているので,本件発明1についての審決の判断の誤りが明らかになれば,審決の全体が取り消されるべきである。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。 3 被告の反論原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。 (1) 取消事由1に対しア 第1引用例には,特許請求の範囲に記載された発明以外にも,当業者が第1引用例に係る実施例を含む全体の記載に接したときに,当該技術分野における知見及び技術常識を背景にして,客観的に把握あるいは理解しうる他の発明が開示されている。審決は,このような観点から,第1引用例に係る実施例を含む全体の記載に基づいて,引用発明を認定したものである。 イ 第1引用例(甲3)には,遊技機からの出玉データと,遊技盤上の障害釘の間隔とから両者間の相関関係を把握し,その相関関係により各遊技機を管理可能な遊技機管理システム(段落【0001】)として,出玉データの許容範囲値を超過するパチンコ遊技機を発見した場合は,そのパチンコ遊技機を釘調整候補台として表示すること(段落【0010】),遊技店サイドで,出玉データの許容範囲値を新たに設定したい場合には,該当する数値の変更を行うこと(段落【0031】),営業戦略上の目標値である出玉データの許容範囲値は,遊技店サイドで入力設定可能であること(段落【0042】)が記載されており,営業戦略に基づく目標値である出玉データの許容範囲値に適合するように釘間隔を調整することを目的・効果とする遊技機管理システムが開示されている。 そして,第1引用例には,上記遊技機管理システムの具体的構成として,特定機種に関して,各種出玉データのうちから,そのいずれか,あるいは,そのうちの任意の組み合せを設定入力することによって(図5),それに適合する遊技機に関し,各種出玉データ,稼働時間,釘調整の実態を示す各実態データを一覧して出力表示する(図7),という実施例も記載されている。 また,第1引用例には,各種出玉データを無作為に入力するのではなく,遊技店サイドで営業戦略に応じて可変的に特定の値を設定して入力するものであることが記載されている。このように各種出玉データ又は稼働率を営業戦略に応じて可変的に設定することが,「想定する」という文言の概念に含まれることは明らかである。 ウ そうすると,第1引用例には,特定機種に関して,営業戦略上の目標値である出玉データの許容範囲値を入力設定すると,それに適合する釘調整候補台について,各種出玉データを含む前記各実態データを,設定調整された釘間隔データと関係付けて出力表示する遊技機管理システムが記載されているということができる。そして,一般に,遊技店が目標値とする出玉データは,その営業戦略に応じて可変的に想定されるものである。 したがって,第1引用例に接する当業者は,特定機種に関して想定する目標値としての各種出玉データ又は稼働率を入力することにより,各種出玉データと釘間隔データとの既知の相関関係に基づいて,該各種出玉データを達成するのに適合する遊技機について,対応する残りの各種出玉データ,稼動時間データ及び釘間隔データを含む各実態データを一覧して出力表示するようにした汎用的な遊技機管理システムが開示されていることを,把握あるいは理解するものというべきである。 したがって,審決が,第1引用例の記載から引用発明を認定したことに,原告主張の誤りはない。 エ 原告は,第1引用例に開示された技術と本件発明1とは全く異なる技術であると主張する。 しかしながら,本件発明1は,過去に実際に入力設定された釘間隔値に対応する出玉データ等を遊技店の営業実績として記憶しておき,今回入力設定された釘間隔値又は出玉データが過去に実在することを前提に,その釘間隔値又は出玉データに対応する出玉データ等を出力することで,今後の釘調整による営業戦略を立てるものである。したがって,例えば,実際に入力設定されたことのない任意の釘間隔値や実績のない任意の出玉データを入力してこれに対応した出玉データ等を仮想的に,あるいは,本件発明1でいう「想定」して,出力することは,不可能なものである。要するに,本件発明1は,過去の実績データを前提とした限定された範囲内でしか入出力データを想定できないものである。 一方,第1引用例に基づいて認定した引用発明は,実際の釘間隔データに基づいた対応する各種出玉データを実績データとして収集記憶しておいて,これらの実績データのうちから想定する各種出玉データが入力された場合に,これに対応した残りの各種出玉データ及び釘間隔データを検索して出力することで,今後の営業戦略としての出玉データを踏まえた適切な釘調整を行うことを可能とするものであるから,過去の実績データに基づいて想定する出玉データ等が入力された場合に,これに対応した残りの各種出玉データ及び釘間隔データを出力するものであることにおいて,本件発明1と異なるものではない。 (2) 取消事由2に対しア 第2引用例には,パチンコ機の収支状況及び出玉特性を釘調整により修正しながら営業することを背景に,管理用データを,釘調整がなされ釘調整データNRが入力された時点ごとに区分して,平均して出力する遊技機管理システムが開示されている。 第2引用例記載の発明は,釘調整と出玉データとが密接に関連することを前提にしている。したがって,第2引用例の発明で,釘調整データとして釘調整度合NRを入力して,釘調整度合NRとともに対応する出玉データを出力することは,引用発明において,出玉データと釘間隔の両者間に相関関係があることに基づいて,各種出玉データが入力された場合に,対応する各種出玉データ,稼働時間データ及び釘間隔データ等を出力することと,その技術的前提及び入出力形態を同じくする。 そして,第2引用例の「釘調整度合NR」と,引用発明の「釘間隔データ」ないし「釘間隔値」は,いずれも釘調整データとして共通するものである。 イ 以上のことから,引用発明の構成において,第2引用例に記載の発明に示される,釘調整データとしての釘調整度合NRを入力可能として対応する各種出玉データを出力する構成を採用することは,当業者に容易である。そして,釘調整度合NRに代えて,同じく釘調整データである釘間隔値を採用するよう設計変更を行って,本件発明1の構成に想到することも,当業者にとって容易である。 (3) 本件発明2〜4についての取消事由に対し上記(1)(2)で述べたとおりである。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(訂正の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,以下においては,原告主張の取消事由ごとに審決の適否について判断する。 2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について(1) 審決は,第1引用例の【特許請求の範囲】から【請求項1】を,【発明の詳細な説明】から段落【0001】,【0003】,【0006】〜【0019】,【0027】〜【0029】,【0031】〜【0032】,【0042】を,図面から第1図〜第12図を引用し,これらの記載に基づいて,「引用発明」を認定している。 原告は,第1引用例に開示された技術は,審決の認定した引用発明と比較した場合,「パチンコ店内のパチンコ遊技機から,釘間隔データと出玉データを集計・管理する管理装置」という部分で共通しているが,入力データ,出力データの種類,データ処理の内容,そしてその目的及び作用効果がすべて異なっており,審決の引用発明の認定は誤りである旨主張する。 (2) 審決の認定した引用発明ア 審決が第1引用例の記載から認定した「引用発明」を,構成要件に分節すると下記のとおりである。 記A 遊技盤を有し,遊技者の操作により発射されるとともに当該遊技盤上に植設された障害釘により流下方向を変化させられた遊技球が当該遊技盤上の入賞領域に入賞した場合には所定数の賞球を排出し,毎日の発射玉の累積値であるアウト玉数データと,毎日の補給玉の累積値であるセーフ玉数データと,毎日の稼動状態データとを含む出玉データを出力する複数の遊技機と,B 前記複数の遊技機のうちの各々の遊技機における釘間隔データと,前記アウト玉数データと前記セーフ玉数データと前記稼動状態データとを含む前記出玉データを受け取り記憶して全遊技機を管理する遊技機管理装置と,C 当該遊技機管理装置に外部から指令又はデータ入力可能な外部入力装置と,D 前記遊技機管理装置からの出力を外部出力するデータ出力装置と,E を備えた遊技機管理システムであって,F-a 前記アウト玉数データとセーフ玉数データとからアウト玉数に対するセーフ玉数に関する毎日の指標値である,割数,特賞中最大最小,遊び率等からなる各種出玉データと,毎日の稼動状態データから稼働時間及び稼働率とを演算し,b 特定機種に関する,想定する各種出玉データ又は想定する稼働率のうちから,そのいずれか,あるいは,任意の組み合わせが前記外部入力装置から入力された場合には,c 対応する残りの各種出玉データ,稼動時間データ及び釘間隔データを前記データ出力装置から外部出力させるように制御するd 遊技機管理システム。 イ 上記アによれば,審決は,「引用発明」の遊技機管理システムを,次のような構成を有するものとして認定していると解される。 @ 複数の遊技機の各々の釘間隔データ(α),アウト玉数データ(β1),セーフ玉数データ(β2),稼働時間データ(γ)を受け取り記憶し(構成要件B),A アウト玉数データ(β1)とセーフ玉数データ(β2)から出玉データ(β)を演算するとともに(構成要件F-a),B-1 「想定する出玉データ(β)」が入力されたとき,対応した「想定する釘間隔データ(α)」及び「想定する稼働時間データ(γ)」を出力し(構成要件F-b,F-c),B-2 「想定する稼働時間データ(γ)」が入力されたとき,対応した「想定する釘間隔データ(α)」及び「想定する出玉データ(γ)」を出力する(構成要件F-b,F-c)。 上記B-1,B-2の構成において,一般に,「想定」とは「ある一定の状況や条件を仮に想い描くこと。」(広辞苑第五版)を意味することから,引用発明の遊技機管理システムにおいて入力されるデータは,将来の状況や条件として仮定された出玉データ(β)又は稼働時間データ(γ)である。 そして,想定する出玉データ(β)を入力したとき,遊技機管理システムが出力するのは,当該出玉データ(β)に対応して想定される釘間隔データ(α)及び稼働時間データ(γ)である。 そして,引用発明の上述の構成によれば,条件として想定する出玉データ(β)を入力すれば,これに対応して,想定される釘間隔データ(α)及び稼働時間(γ)が出力されるので,遊技店全体の将来の営業戦略を立てることを可能にするという効果を奏するものと認められる。このように,審決は「引用発明」を,例えば,翌営業日に目標として達成したい割数を条件として入力し,これに最も適した釘間隔値を出力するような処理を可能にする技術として認定している。 (3) 第1引用例に開示された技術ア 第1引用例(甲3)には,下記の記載がある。 記a「次に,図5は,フィーバーA種の釘調整候補台の選択条件が表示されたところが示されている。本システムの特徴は,これらの稼働率,割数,遊び率,打止回数,特賞回数,特賞中最大最小,スタート回数,スタート平均,ドア・オープン回数の各データのうちから,そのいずれか,あるいは,そのうちの任意の組み合せを表示し得る点にある。図から判るように,この台では,稼働率の実績値が表示され,割数および特賞中最大最小の値が既に設定されている。ここに,上記の各データの内容は,図9に示す通りである。」(段落【0015】)b「ここで,遊技店サイドで,割数や特賞中最大最小の値を新たに設定したい場合には,外部入力装置53の操作により,該当する数値の変更を行うことができる。その変更された画面の例が図6である。」(段落【0031】)c「次に,所定の機能キー等を操作することにより,図7に示すような釘調整候補台の一覧を表示させることができる。ここで,第610番台の釘調整データは,Aが+0.35mm(釘間隔を拡大させる方向),Bが+1.05mm,Cが+0.30mmであることを示している。 また,第88番台では,Bが-0.50mm(釘間隔を縮小させる方向)に調整済みであることを示している。また,この図7では,割数の値が基準値を超えたものも色彩を変えることにより表示可能である。」(段落【0032】)d「【発明の効果】以上説明したように,上記構成を有する本発明に係る遊技機管理システムおよび遊技機管理プログラムによれば,営業戦略上の目標値である出玉データの上下限値は,遊技店サイド等で入力設定可能であるため,個々の遊技機毎にきめ細かい監視が可能である。また,設定調整された釘間隔データと出玉データとを関係付けて表示していくため,使用するにつれ精度が向上し,効率の良い釘調整が可能となる。そして,釘間隔測定装置と遊技機管理装置とが接続されているので,上記のようにして釘調整した後の遊技機の営業実績をも追跡できるので,釘調整と出玉との関係がさらに明確に把握できる,という利点をも有している。」(段落【0042】)e 【図7】には,10台の遊技機の台No.ごとに,割数,稼働時間,調整済みの釘間隔の値などが表形式で表示された画面が図示されている。 イ 第1引用例の上記各記載によれば,第1引用例には,特定の遊技機に対し許容すべき出玉データの許容範囲(上限値と下限値)を入力したとき,出玉データの許容範囲に適合しない釘調整候補遊技機が,実績値としての稼働時間データ,調整済みの釘間隔データなどとともに一覧表示されることが記載されている。 しかし,第1引用例の上記記載は,審決が認定した「引用発明」におけるデータの入力・出力の態様のうち,B-1,B-2のように,将来の条件としての「想定する出玉データ」を入力するものではない。また,第1引用例においては,出玉データの許容範囲を入力することによって,これに適合しない遊技機の調整済みの釘間隔データ,すなわち過去に実際に調整した結果としての釘間隔値が出力されるだけであって,出玉データを許容範囲内に収めるために適切な釘間隔値として想定される値を出力するものではない。 そうすると,第1引用例には,審決が認定した「引用発明」の構成要素である,「……特定機種又は特定の遊技機に関する1又は2以上の特定の釘の想定する釘間隔値又は想定する出玉データが前記外部入力装置から入力された場合には,出玉データ,釘間隔値,稼働時間のうちの対応した想定する残りのデータを前記データ出力装置から外部出力させるように制御すること」が直接に記載されているということはできない。 (4)ア ところで,発明の進歩性の判断の前提として,本件発明1と対比すべき引用発明を公知刊行物から認定するに際しては,本件発明1の出願時における技術常識を参酌することにより当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が当該刊行物に記載されている事項から導き出せる事項(「刊行物に記載されているに等しい事項」という。)も,引用発明の認定の基礎とすることができると解される。 「関連性を有する複数 審決は,相違点の検討の項における説示ではあるが,種類のデータ群が存在するときに,任意に選択した1つのデータから関連する残りのデータを抽出し,抽出したデータを参照あるいは利用することは,常套的手法である。」(13頁の ),「出玉データと釘間隔の両者間に相関関係があることに基づいてパチン Bと説示してお コ機の釘調整を行うようにした周知の管理技術を背景に」(同 .)Cり,このような技術が周知慣用のものであって当業者の技術常識となっていることは,審決の引用発明の認定に当たっても当然の前提とされているものと解される。 そこで,進んで,第1引用例の記載事項に接した当業者が,上記技術常識を背景にして,「引用発明」の技術的事項が開示されていることを認識し得るか否かという観点から検討する。 イ 第1引用例(甲3)には,下記の記載がある。 記a「本発明は,………遊技機からの出玉データと,遊技盤上の障害釘の間隔とから両者間の相関関係を把握し,その相関関係により各遊技機を管理可能な遊技機管理システム………に関する。」(段落【0001】)b「【作用】………設定調整された釘間隔と出玉との相関関係については,釘間隔と出玉の実績データによりその相関関係を逐次修正していくため,本システムの使用につれ精度が向上し,効率の良い釘調整が可能となる。」(段落【0005】)c「遊技店サイドで,割数や特賞中最大最小の値を新たに設定したい場合には,外部入力装置53の操作により,該当する数値の変更を行うことができる」(段落【0031】)d「営業戦略上の目標値である出玉データの上下限値は,遊技店サイド等で入力設定可能であるため,個々の遊技機毎にきめ細かい監視が可能である。また,設定調整された釘間隔データと出玉データとを関係付けて表示していくため,使用するにつれ精度が向上し,効率の良い釘調整が可能となる。そして,釘間隔測定装置と遊技機管理装置とが接続されているので,上記のようにして釘調整した後の遊技機の営業実績をも追跡できるので,釘調整と出玉との関係がさらに明確に把握できる,という利点をも有している。」(段落【0042】)ウ 上記記載aによれば,第1引用例記載の技術では過去の出玉データ及び釘間隔データが相当程度蓄積されており,これによって両者間の相関関係の把握が可能にされていると推認することができる。また,上記記載bによれば,第1引用例には,単に出玉データの許容範囲を任意に入力してこれに適合しない遊技機を検出するだけではなく,出玉データと釘間隔データという2種類のデータを蓄積して両者の「相関関係」を把握し,想定する出玉データを達成するためには釘間隔をどのように調整すれば良いかを明らかにするシステムも示唆されているということができる。 また,上記c,dの記載事項は,第1引用例に開示された技術は,単なる異常台の検出手段にとどまらず,毎日の営業戦略の管理手段としての利「使用するにつれ精度が向上し,効率の 用形態を示唆している。特に,上記dのとの記載は,上記a,bのとおり,過去のデータ良い釘調整が可能となる。」から把握された出玉データと釘間隔データの相関関係を,日々の釘間隔の調整や出玉データの予測に当たって用いる,という利用方法も第1引用例の遊技機管理システムにおいて可能であることを,明らかにしているものということができる。 そうすると,上記アの技術常識のもとでは,当業者は,上記a〜dの記載事項から,審決が認定した「引用発明」の技術的思想を容易に把握することができるというべきであり,審決の引用発明の認定には誤りはないことになる。 3 取消事由2について(1) 原告は,取消事由2として,第2引用例にいう「釘調整度合NR」とは,「a」〜「e」という5段階のランクにより表現されるものであって,釘師の主観に頼った漠然とした基準によるランク付けであるのに対し,本件発明1における「釘間隔データ」とは,電子的な測定装置等を用いてデジタルデータとして測定された具体的な釘間隔の値を指し,両者は,その性質が全く異なるデータであり,当業者にとって容易に代替可能なものではなく,審決の認定した「引用発明」に第2引用例の発明を組み合わせても,本件発明1に容易に想到できるものではない旨主張する。 (2) しかしながら,本件発明1は,「釘間隔データ」ないしは「釘間隔値」と表現するのみで,その内容を特定しておらず,電子的な測定装置等を用いてデジタルデータとして測定された具体的な釘間隔の値を指すとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって失当である。 (3) また,第2引用例には,パチンコ機の収支状況及び出玉特性を釘調整により修正しながら営業することを背景に,管理用データを,釘調整がなされ釘調整データNRが入力された時点ごとに区分して,平均して出力する遊技機管理システムが開示されている。 第2引用例記載の発明は,釘調整の結果と出玉データとが密接に関連することを前提にしている。したがって,第2引用例の発明で,釘調整データとして釘調整度合NRを入力して,釘調整度合NRとともに対応する出玉データを出力することは,引用発明において,出玉データと釘間隔の両者間に相関関係があることに基づいて,出玉データが入力された場合に,対応する釘間隔データ等を出力することと,その技術的前提及び入出力形態を同じくする。 そして,第2引用例の「釘調整度合NR」と,引用発明の「釘間隔データ」ないし「釘間隔値」は,いずれも釘調整データとして共通するものである。 (4) 以上のことから,引用発明の構成において,第2引用例に記載の発明に示される,釘調整データとしての釘調整度合NRを入力可能として対応する各種出玉データを出力する構成を採用することは,当業者に容易である。そして,釘調整度合NRに代えて,同じく釘調整データである釘間隔値を採用するよう設計変更を行って,本件発明1の構成に想到することも,当業者にとって容易である。 したがって,原告の取消事由2に係る主張も,採用することができない。 4 本件発明2〜4についての取消事由について審決は,本件発明2〜4について,原告が主張するように本件発明1についての判断を引用しているところ(審決14〜15頁),本件発明1について前記のとおり取消事由1,2を認めることができないのであるから,本件発明2〜4についても取消事由を認めることができないことになる。 5結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |