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関連審決 不服2001-6315
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10645号 審決取消請求事件
原告 ジョーベン電機株式会社
訴訟代理人弁護士 藤田邦彦, 弁理士 福田進,藤田典彦
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 青木博文,小池正彦,高橋泰史,樋口宗彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-6315号事件について平成17年7月13日にした審決を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本件は,原告が,名称を「密封包装物の検査方法」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,明細書の記載不備(特許法36条4項1号 ,発明の不明確(同条6項2号 ,発明の容易想到性(同 ))法29条2項)を理由に,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
明細書(甲5,7)の記載によれば,本願発明は 「食品や医療用消耗品等の完 ,全密封包装物のピンホールを検査するための方法に関する」ものである(段落【0001 。従来の検査方法としては 「一対の電極の間に電気絶縁性被膜から 】),なる包装で密封した食品を挟み,各電極と食品間に形成される静電容量に大差をつけて両電極間に電圧をかけて,一方の電極と食品との間の閃落によって生じる電流を検出してピンホールを検出するようにしたもの」などがあるが 「両電極に電圧,をかけるとピンホールの有無にかかわらず漏れ電流や充電電流が必ず流れ,このことは特に高電圧になると大きくなる傾向があり,また,検査時の雰囲気を形成する被検物外周の湿度や温度の影響を受け 「短時間の電流の大きさの大小による判別 」,ではピンホールがないのにあるように判別するなど誤動作の発生は避けられなかった (段落【0002 【0003 。本願発明は 「簡単な手順で検査時の雰囲 」】,】),気による誤動作の発生を完全に防止した効率的な密封包装物の検査方法を提供することを目的とする」ものである(段落【0006 ,とされている。】)1 特許庁における手続の経緯(1) 本件出願(甲5)発明の名称: 密封包装物の検査方法」 「出願番号:特願平11-162937号出願日:平成11年6月9日(2) 本件手続拒絶査定日:平成13年3月16日審判請求日:平成13年4月20日(不服2001-6315号)審決日(1次 :平成15年12月19日 )審決取消訴訟(1次)の判決日:平成16年11月29日(平成16年(行ケ)第53号,請求認容)拒絶理由通知:平成17年2月4日手続補正:平成17年4月8日(甲7)審決日(本件 :平成17年7月13日 )審決(本件)の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「。
審決謄本送達日:平成17年7月25日2 本願発明の要旨(平成17年4月8日付け手続補正書(甲7)による補正後の。, , 「 」 , もの 以下 請求項番号に対応して それぞれの発明を 本願発明1 などといい本願発明1ないし4を総称する場合には 本願発明 という また 当初明細書 甲 「」。, (5)と前記補正書とを合わせて「本願明細書」という )。
【請求項1】導電性を有する流動物ないし粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって,該密封包装物3の側面部 3 に高圧電源6の出力端子からの単一の電極4を接触ないし近接せしめ1て高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ,次いで,該密封包装物3の被検部 3a に密接ないし近接対面せしめた電極5を接地せしめ,被検部 3a にピンホールがあるとき該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ,被検部3a からの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法。
【請求項2】高圧電源6が直流高圧電源であって,高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4は導電子であり,該導電子4により密封包装物3内の内容物1に帯電せしめた後,導電子4の接触ないし近接を解除せしめることを特徴とする請求項1記載の密封包装物の検査方法。
【請求項3】高圧電源6が交流高圧電源であって,高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4である密封包装物3の側面部 3 の支持電極4により密封包装物3を支持して1放電電流を検知することを特徴とする請求項1記載の密封包装物の検査方法。
【請求項4】電極5は,被検部 3a に密接装着可能に形成された導電性ゴム又は導電性プラスチックであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の密閉包装物の検査方法。
3 審決の理由の要点審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,@本願発明は明確ではなく,また,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法36条4項1号及び6項2号に規定する要件を満たしておらず Aさらに 本願発明3は 刊行物 特開平10- ,, ,(300727号公報,本訴甲3)に記載された発明(以下「引用発明」という )。
に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
なお,審決においては,平成17年4月8日付け手続補正書により補正された請求項1ないし3に記載された方法及びこれに対応して発明の詳細な説明に記載された方法を「本件方法1 「本件方法2 「本件方法3」と表記している。 」,」,(1) 特許法36条4項及び6項違反についての審決の判断ア 「請求項1には 『導電性を有する流動物ないし粉体又は食品等の内容物1を電気絶 ,縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって,該密封包装物3の側面部 3 に高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4を接触ないし近接せしめて該1密封包装物3内の内容物1に帯電せしめ』と記載され,発明の詳細な説明にも同様の記載があるが,電気絶縁性被膜で被包した内容物に単一の電極を接触ないし近接せしめて内容物1に帯電するとは,どのようなことか不明である 「強電界により魚肉ソーセージなどの固体や生理 。」(,,) , 食塩水などの液体が単一極性の電荷 マイナスのみ 又は プラスのみ にイオン化するとか単一極性の電荷を蓄えられるとの技術常識はなく ・・・密封包装物(従って内容物)が接地 ,から浮いており,電気絶縁性被膜(塩化ビニリデンフィルム,ナイロンとポリプロピレンの複合フィルム等)を微小の電流(変位電流も含む)が流れることはないとすれば,接地から浮いている密封包装物(従って内容物)に発生するという単一極性の電荷がどこからもたらされたのか不明である (電荷保存則に反する 」 。。 )イ 「絶縁物といえども高電圧がかかると微小の導電電流が流れ,また,高電圧でなくても絶縁物には変位電流も流れるところ,本願の請求項1ないし4にも発明の詳細な説明にも密封包装物(従って内容物)を浮かせるための把持機構や支持機構が記載されておらず,当業者は閉回路を形成することなく,内容物への充電電流を流すことなく,どのように密封包装物() 。」 従って内容物 を浮かせることができるか容易に理解することも実施することもできないウ 「本願明細書には『ピンホールがない場合は,内容物1は帯電するが,静電気と同じく少しずつ放電して帯電はなくなる ( 0009】の最後)と記載されており,帯電時には 。』【微小の電流も流さずに,検査終了後には少しずつ放電して帯電はなくなるような電気絶縁性被膜をどのように設定するのか不明である 」。
エ 「請求項1には 『被検部 3a からの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを ,検出する』とあるが 『単一の電極4』が接触ないし近接している状態で検知する場合と,外 ,した状態で検知する場合とでは,それぞれ原理が異なり,この電流は,どちらの状態で検知した電流か不明である 」。
オ 「段落番号【0008】に 『これにより,密封包装物3の側面部 3 に高圧電源6の ,1電圧出力端子からの電極4を接触ないし近接せしめるとき該密封包装物3内の導電性を有する内容物1は,電極4にかかる高電圧(0.6kV 〜 30kV)のマイナス又はプラスの電位により帯電し)。』, () てマイナス(-)イオン又はプラス(+ イオンが発生する と記載され 図1にはマイナス -イオンのみが内容物全体に発生したように図示されているが,この『マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオン』がどのように発生したのか不明であり,当業者は容易にこのことを実施することができない。
すなわち,閉回路がなく変位電流が流れず,あるいは,密封包装物3の側面部 3 を電荷が移1動しないのであれば,マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンを発生させるための電荷はどこから供給されるのかが不明である。もし内容物の外部から電荷が供給されずに内容物にマ),。 」 イナス(-)イオン又はプラス(+ イオンが発生するというならば 電荷保存則に反しているカ 「刊行物の従来技術(図1)で説明されている(下記【0010】の記載参照 ,ピ)ンホールが存在した場合の小さなインピーダンスによる非常に大きな放電電流が本件方法3においても流れるはずであるから,仮に,請求人の主張する『単一の電極の電界により帯電した密封包装物の内容物の電荷』による放電電流が生じるとしても,それのみを検知することができず,結局,当業者は本件方法3(これを含む本件方法1も)を容易に実施することができない」。
キ 「段落番号【0013】に 『前記高圧電源として交流高圧電源を使用すると,直流 ,高圧電源を使用した場合に比べて検査が繰り返し可能な利点がある。これは,直流を使用して内容物に帯電した電荷がピンホールを通し数回放電する場合,内容物によって何度かすると放電しにくくなるが交流ではそのようなことはない 』と記載されているが,なぜそのようなこ 。
とが起こるのか,不明である 」。
ク 「同段落に 『交流では製品は帯電がプラス(+ ,マイナス(-)交互に繰り返され ,)たため帯電したまま残らないという利点がある 』と記載されているが,例えば最初にプラス 。
(+)の電荷が発生したとして,与える高電圧の極性を変えてもプラス(+)の電荷が消滅するはずはないからプラス(+)の電荷の行方が不明である 」。
(2) 特許法29条2項違反についての審決の判断ア 「本件方法3と引用発明とは 『導電性を有する流動物ないし粉体又は食品等の内容 ,物を電気絶縁性被膜で被包した密封包装物のピンホールを検査するための方法であって,単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極により該密封包装物を支持し,密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極により被検部にピンホールがあるとき該ピンホールを介して電荷を放電せしめ,被検部からの放電電流を検知して密封包装物のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法 』である点で一致し,次の点で相違すると認められ 。
る。
(相違点1)本件方法3では,交流高圧電源の出力端子と単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極とが接続されており,その電極に交流高電圧がかかった後で,密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極を接地せしめ,であるのに対し,引用発明では,電気接続では逆の関係,すなわち,交流高圧電源の出力端子と密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極(第1電極)とが接続されており,単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極が接地されている点。
(相違点2)本件方法3では 『交流高電圧のかかった電極による電界により密封包装物内の内容物に電 ,気絶縁性被膜を介して帯電せしめ 『該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ』との 』,記載がなされているのに対し,刊行物には,そのような『帯電』とか『イオンの電荷』とかの記載がない点 」。
イ 「相違点1について刊行物に記載・図示された,交流高圧電源の出力端子と密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極(第1電極)とが接続されており,単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極が接地されている回路は,交流電気回路的な観点からみて逆の関係(支持電極と交流高圧電源の出力端子とが接続され,被検部に密接ないし近接対面せしめた電極が接地されている回路)と等価であることは当業者にとって明らかであるから,単一の電極である密封包装,, 物の側面部の支持電極と交流高圧電源の出力端子とを接続することに困難はなく その際には密接ないし近接対面せしめた電極(第1電極)は接地されるとともに,ピンホールの検知のために包装材表面の別の箇所に移動されるから,次の検知箇所において 『支持電極に交流高電 ,圧がかかった後で,密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極を接地せしめ』となることは当業者が容易に理解でき,相違点1にかかる本件方法3の構成を得ることは当業者にとって容易なことである。
また,密接ないし近接対面せしめた電極の移動を考えない場合でも,ピンホールを通じた放電電流の検知ができるのは交流高電圧がかかった後であることは明らかであるから,放電電流検知のための密接ないし近接対面せしめた電極の接地を放電電流の検知が可能となる時期(交流高電圧がかかった後)に限定することは当業者が容易になし得ることである 」。
ウ 「相違点2について特許法36条4項及び6項違反での検討のとおり 『交流高電圧のかかった電極による電界 ,により密封包装物内の内容物に電気絶縁性被膜を介して帯電せしめ 『該ピンホールを介して 』,イオンの電荷を放電せしめ』との記載には,技術常識上不明な点があるが,本件方法3でも引用発明においても,一方の電極が接地されている放電電流を検知する段階において,交流高圧電源→一方の電極→電気絶縁性被膜→密封包装物→他方の電極→検知装置→接地→交流高圧電源という閉回路が成立していることで変わりがなく,二つの電極に高電圧がかかれば電極間に強電界を生じて密封包装物に影響を及ぼすことでも変わりはないから,両者に起こっている現, , 象に変わりはなく 相違点1にかかる本件方法3の構成を当業者が容易に得ることができると強電界による『帯電』や『イオン』を当業者が意識する,しないにかかわらず,自ずと相違点2も容易にできてしまうことである 」。
エ 「したがって,本件方法3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる 」。
(3) 審決のむすび「以上のとおり,本願発明は明確ではなく,また,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法36条4項及び6項に規定する要件を満たしていない。
さらに,本願発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 」。
原告の主張(審決取消事由)の要点
本願発明は明確であり,また,本願明細書の発明の詳細な説明も,当業者が容易に実施することができるように明確かつ十分に記載されているから,審決は,特許法36条4項及び6項に規定する要件についての判断を誤ったものである(取消事由1 。)また,本願発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから,審決は,本願発明3に関する容易想到性の判断を誤ったものである(取消事由2 。)1 取消事由1(特許法36条4項及び6項についての判断の誤り)(1) 審決は,本願発明における「帯電」とはどのようなことか不明であるとする(前記第2,3(1)ア参照 )が,本願発明において,密封包装物の内容物に正の 。
強電界がかかったとき,内容物の原子は電子を失って正に帯電したイオンとなるか,, , ら 密封包装物の内容物は 高電圧のかかった電極により形成される強電界により単一極性の電荷にイオン化するものである。このような現象がなぜ生じるのかという理論を解明することは不可能に近く,原告の証明としては,大阪府立産業技術総合研究所長作成の報告書(甲2)を提出するという程度の証明が限度である。確かに,同報告書における実験は,試料にピンホールがある場合の放電電流を測定するものであって,試料内容物の帯電そのものについて直接的に立証するものではないかもしれないが,放電電極をテストピンに接触させていない状態では閉回路は成立していないのであって,試料内容物が帯電していなければ,放電電極を近づけても放電電流を検知できないはずである。このような帯電の現象が生じることは,原告が試作したピンホール検知器を用いた測定結果(甲8)からも明らかである。
そして,上記のような現象が生じる理論を解明することまでは,特許の要件として必要ではなく,当業者が「高電圧のかかった電極4による電界により内容物に帯電せしめ,被検部からの放電電流を検知することにより,被検部のピンホールを検出すること」を繰り返し実施することが可能であることが上記のとおり証明されている以上,本願発明は特許発明として保護されるべきである。
なお,上記現象は,静電誘導作用(絶縁された導体Bを帯電体Aに近づけると,帯電体Aに近い側にAと異種の電荷,遠い側に同種の電荷が現れるという現象。甲4・130 頁 12 〜 15 行参照)と同一であるとみることができるから,何ら電荷保 。
存則に反するものではない。
(2) 審決は,密封包装物を電気的に浮かせるための把持機構や支持機構が不明であるとする(前記第2,3(1)イ参照)が,このような把持機構等は,被検密封 。
包装物に対応して当業者であれば容易に設計し得る事項であり,本願明細書の記載に照らせば,当業者であれば密封包装物をいかに浮かすことができるかを容易に理解し,実施することが可能である。
(3) 審決は,密封包装物にピンホールがない場合の放電の意味が不明であるとする(前記第2,3(1)ウ参照 )が 「放電」には二つの意味があり 「内容物(帯 。, ,電物)から接地側に電荷が流れ出すこと」を意味する場合と 「単に,プラス又は,マイナスの電荷が放電してなくなる(中和する)こと」を意味する場合とがある。
本願明細書の段落【0009】の前段における「放電」は前者の意味であり,同段落の末尾から2行目における「放電」は後者の意味であるから,本願明細書の記載に不明な点や矛盾する点はない。
(4) 審決は,本願発明1は,単一の電極4が接触ないし近接している状態で電,(, 流を検知するのか そうでない状態で検知するのかが不明であるとする 前記第23(1)エ参照 )が,いずれの状態で検知する場合でも「内容物に帯電せしめ,ピン 。
ホールがある場合に被検部からの放電電流を検知して被検部のピンホールを検出する」ことは可能であるから,本願発明1に関する本願明細書の記載に不備はない。
(5) 審決は,従来技術における放電電流が本願発明3においても生じるから本願発明3を容易に実施することができないとする(前記第2,3(1)カ参照 )が,。
本願発明3においては,ピンホールがある場合にのみ,単一の電極の電界により帯電した密封包装物の内容物の電荷による放電電流と,従来技術における放電電流とが検知され,これによりピンホールを検出することができるのであるから,当業者は本願発明3を容易に実施することができるものである。
(6) 審決は,本願発明において交流高圧電源を使用する場合について,直流高圧電源を使用する場合に比べて検査が繰り返し可能であることの根拠が不明である(, 。), , , とする 前記第2 3(1)キ参照 が これは 直流高圧電源を使用した場合には内容物のイオン化した原子が中和するのに時間がかかる場合があるのに対し,交流高圧電源を使用した場合には,プラス,マイナス交互に内容物が帯電し,帯電の極性がその都度変わるため,中和に時間を要しないというものであり,審決のいう不明はない。
(7) 審決は,本願発明において交流高圧電源を使用した場合の電荷の行方が不明であるとする(前記第2,3(1)ク参照)が,例えば,最初にプラスの電荷が発 。
生したとして,与える高電圧の極性がマイナスに変わることにより,プラスの電荷とマイナスの電荷が中和して元のように帯電していない状態に戻るものであり,審決のいう不明はない。
2 取消事由2(本願発明3に関する容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点1に関して 「刊行物に記載・図示された,交流高圧電源の出力 ,端子と密封包装物の被検部に密接ないし近接対面せしめた電極(第1電極)とが接続されており,単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極が接地されている回路は,交流電気回路的な観点からみて逆の関係(支持電極と交流高圧電源の出力端子とが接続され,被検部に密接ないし近接対面せしめた電極が接地されている回路)と等価であることは当業者にとって明らかである」とする。
しかし,刊行物には,ピンホール検出前の密封包装物の内容物に対する帯電については全く記載されておらず,本願発明3が「密封包装物3内の内容物1に・・・帯電せしめ,次いで,該密封包装物3の被検部 3aに密接ないし近接対面せしめた電極5を接地せしめ ・・・」という2段階を経てピンホールを検出するものであ ,るのに対し,引用発明は,帯電の段階を経ない1段階のみで検出するものである。
すなわち,引用発明は,閉回路に電流を流すことにより密封包装物の内容物に充電するものであって,本願発明3とは充電方式が全く異なる。引用発明のように閉回路に電流を流す方式による場合には,非電解液や蒸留水のように高抵抗の内容物には充電できないが,本願発明3においては,引用発明とは異なる方式で内容物に充電するから,上記のような高抵抗の内容物にも充電することができる。
したがって,本願発明3は引用発明とは全く異なるものであって,相違点1に関する審決の判断は誤りであるから,相違点2に関する審決の判断について論ずるまでもなく,本願発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないものである。
被告の反論の要点
審決において,特許法36条4項及び6項に規定する要件についての判断に誤りはなく,また,本願発明3に関する容易想到性の判断にも誤りはない。
(1) 取消事由1(特許法36条4項及び6項についての判断の誤り)に対してア 本願発明は 「密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯 ,電せしめ」というものである(請求項1)が,電気絶縁性被膜2を介して電流が流れることは通常考えられないし,内容物1に充電するためには,高圧電源の一方の極から内容物を通って他方の極に戻る回路が形成される必要があるが,そのような構成は,請求項にも発明の詳細な説明にも記載されておらず,本願発明における内容物に対する帯電時に閉回路が形成されないことは,原告も認めているところである。そうすると,電気絶縁性被膜で被包された密閉領域に,その境界面(電気絶縁性被膜)を電流が流れることなく,単一極性の電荷が発生したり蓄積されることとなってしまい,電荷保存則に反することとなる。このような基本的法則に反する本願発明の「帯電」とはどのようなものであるか不明であり,また,当業者が本願発明を実施することはできないものである。
原告は,強電界による原子のイオン化(甲1参照)や静電誘導作用(甲4・130 。
頁 12 〜 15 行参照 )を持ち出して,審決の判断の誤りを主張する。 。
しかし,そもそも,本願明細書には「・・・導電性を有する内容物1は,電極4にかかる高電圧(0.6kV〜 30kV)のマイナス又はプラスの電位により帯電してマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生する (段落【0008 )と記載 」】されていることから,本願発明における「帯電」とは,単一極性の電荷の蓄積を意味している。これは,物体が摩擦等によって電気を帯びる「帯電 (甲4・130 頁 2」〜 3 行参照 )と同じ意味であり,強電界による原子のイオン化(失われた最外殻 。
電子が消えてなくなることはなく,電子とイオンが対で生じる )や,静電誘導作。
用(プラス電荷とマイナス電荷が対で分離する )とは異なるものである。 。
仮に,高電圧の作る強電界がプラスとマイナスの電荷が分離した状態を生じさせるとしても,本願発明2では,単一電極の接触ないし近接は解除されるので,電荷が分離した状態を維持することができず,直ちに電気的に中性の状態に戻るから,当業者は本願発明2を実施することができない。また,本願発明3では,交流高圧電源による電界は半周期ごとに正負が反転し,蓄積される電荷の極性も反転するから,やはり内容物の電荷の総量は平均的に常にゼロとなるはずであり,当業者は本願発明3を実施することができない。
なお,原告は,その主張を根拠付けるものとして,大阪府立産業技術総合研究所長作成の報告書(甲2)を提出するが,同報告書の記載からは,放電電極をテストピンに近づけた状況において 「交流高電圧発生装置の一極→アルミ板→電気絶縁 ,性被膜→内容物→テストピン→カレントプローブ→接地→交流高電圧発生装置の他極」という閉回路が成立し,電流が流れてカレントプローブで検知されることが理解できるのみである。
イ 原告は,本願発明における密封包装物の内容物は,高電圧のかかった電極により形成される強電界により,単一極性の電荷にイオン化すると主張する(前記第3,1(1)参照 )が,本願明細書の記載(段落【0021 )や図2(A)によ 。】れば,平板状支持電極4と接地(実際は装置の金属部分)とによって形成される平行導体板間に電気力線(電界)が集中し,多少の電気力線が平板状支持電極4の上方に回り込むとしても,前記平行導体板間に集中する電界に比べれば,はるかに小さなものにすぎない。したがって,本願発明における把持機構や支持機構は,強電界といえない場所に密封包装物を置くものであり,密封包装物に強電界を作用させることができないものである。
,「」 ( , 。) ウ 原告は 放電 には二つの意味があると主張する 前記第3 1(3)参照が,同主張には根拠がなく,本願明細書の同一段落における同一文言の意味が異なるとの主張は失当である。また,本願発明における「帯電」は,単一極性の電荷の蓄積を意味するから,これを前提とすれば,密封包装物の内容物内でプラスとマイナスの二つの極性の電荷が中和するという現象は生じ得ないはずである。
エ 本願発明3は,支持電極が交流高圧電源から外されていない状態で放電電流を検知するものであり,しかも,交流高圧電源と支持電極との電気的接続を外すとの限定もないから,交流電気回路的に,刊行物記載の従来技術における回路と等価であるとみることができ,本願発明3においては,従来技術の閉回路(刊行物の図2,図3参照 )と同じ閉回路が形成されているものである。したがって,密封 。
包装物にピンホールがある場合には,そのインピーダンスで決まる非常に大きな放電電流(刊行物の段落【0010】参照 )が流れることになる。 。
これに対し,本願発明2は,直流高圧電源からの単一の電極を密封包装物に接触ないし近接させた後,その接触等を解除するものであるから,本願発明2と本願発明3とでは,それぞれに原理が異なり,これらの双方を含んでいる本願発明1は,どちらの状態で電流を検知するものであるのか不明である。
原告は,密封包装物の内容物に帯電した電荷の放電電流と従来技術における放電(,。), 電流とを検知することでピンホールを検出できると主張し 前記第3 1(5)参照本願発明3が従来技術における放電電流を検知するのか否かを曖昧にしているが,刊行物記載の従来技術と交流電気回路的に等価である本願発明3は,従来技術における放電電流を検知するはずである。本願発明における「帯電」は,前記アに主張したとおり疑わしいものであり,本願発明3は,従来技術を実施することと異ならないものである。
(2) 取消事由2(本願発明3に関する容易想到性の判断の誤り)に対して,(, 原告は 引用発明と本願発明3とは充電方式が全く異なると主張する 前記第32参照 )が,そもそも本願発明における「帯電」が疑わしいことや,本願発明3 。
でも,引用発明と同様に閉回路が形成されており,ピンホールがある場合に,そのインピーダンスで決まる非常に大きな放電電流が流れることは,前記(1)ア及びエに主張したとおりであるから,本願発明3の容易想到性に関する審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法36条4項及び6項についての判断の誤り)について本願明細書の請求項1には 「該密封包装物3の側面部 3 に高圧電源6の出力端 ,1子からの単一の電極4を接触ないし近接せしめて高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ」と記載されており,請求項2ないし4においても同記載が引用されているので,これにより構成される本願発明の明確性及び実施可能性につき,以下検討する。
(1) 一般に 帯電 とは 物体が摩擦などによって電気を帯びることをいい 甲 「」, (4・130 頁 2 〜 3 行参照 ,例えばガラス棒を絹布でこすった場合にガラス棒が正 。)電荷の,絹布が負電荷の電気を帯びることなどが挙げられる。もっとも,静電誘導作用によりプラスとマイナスの分極が生じることをもって「帯電」という場合もあり(甲4・134 頁 24 欄参照「帯電」という用語の意義は一義的ではない。 。),そこで,本願発明における「帯電」の意義を明らかにするため,本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面の簡単な説明の記載,並びに図面1をみると,次のとおりである(甲5 。)「 課題を解決するための手段 ・・・」 【】「 0008】【・・・密封包装物3の側面部 3 に高圧電源6の電圧出力端子からの電極4を接触ないし近接1せしめるとき該密封包装物3内の導電性を有する内容物1は,電極4にかかる高電圧(0.6kV〜 30kV)のマイナス又はプラスの電位により帯電してマイナス (-)イオン又はプラス (+)イオンが発生する 」。
「 0009】次に,該密封包装物3の被検部 3a に密接ないし近接対面せしめた電極5を接 【地せしめると,被検部 3a にピンホールがあるとき,内容物 1 内にマイナス (-)イオンが発生した場合は該マイナス (-)イオンはピンホールに集まり,マイナス(-)イオン内のマイナス(-)電子は集中してピンホールを通して接地(アース)側に流れマイナスの電荷が失われて放電する。また,内容物1内にプラス(+)イオンが発生した場合,該プラス(+)イオンはピンホールに集まりピンホールを通して接地側から流れるマイナス(-)電子により,プラスの電荷が失われ放電する。ピンホールがないとマイナス(-)イオン内マイナス(-)電子は接地側に流れず,また,プラス(+)イオンに対し,接地側からマイナス(-)電子は流れず内容物の電荷は放電しない。
したがって,この放電電流を検知することにより被検部におけるピンホールが検知され,被検部 3a にピンホールがないと放電電流を検知できない。また,ピンホールがない場合は,内容物1は帯電するが,静電気と同じく少しずつ放電して帯電はなくなる 」。
「 図面の簡単な説明 」 【】「図1】【密封包装物が生理食塩水等の輸液瓶の場合の直流高圧電源による本発明の検査方法の構成図である 」。
以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,密封包装物3の内容物1が帯電すると「マイナス (-)イオン又はプラス (+)イオンが発生」すると記載されており,本願発明2の実施例を示す図1にも,密封包装物3に電極4を接触ない,。 し近接させたときの内容物1に マイナスの電荷が発生した様子が図示されているこれらの記載によれば,本願発明における「帯電」とは,電極4にかかる高電位により,密封包装物の内容物にプラス又はマイナスのいずれか一方の極性の電荷が発生することを意味するものというべきである。
これに対して,原告は,本願発明における「帯電」は,強電界によるイオン化や静電誘導作用と同じものであると主張するが,強電界によるイオン化の場合も,静電誘導作用の場合も,電気絶縁性被膜で被包された密閉領域には,プラスの電荷とマイナスの電荷とが等量に存在するものであって,本願発明における「帯電」のようにプラス又はマイナスのいずれか一方の極性の電荷が発生するものではないから,本願発明における「帯電」を,強電界によるイオン化や静電誘導作用と同じものとみることはできない。
(2) 以上を前提として,本願発明の明確性及び実施可能性について検討する。
本願明細書の請求項1に記載されているように,密封包装物3は 「導電性を有,する流動物ないし粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した」ものであり,本願発明は 「該密封包装物3の側面 3 に高圧電源6の出力端子からの単 ,1一の電極4を接触ないし近接せしめて高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ」るものである。しかし,電気絶縁性被膜を電流が流れるのは,高圧電源の一方から密封包装物の内容物を通って他方の極に戻る回路が形成され,変位電流等が流れる場合であって,このような回路が形成される場合を除いて電気絶縁性被膜を電流が流れることはない。本願発明のうち,特に直流高圧電源を用いる本願発明2については,請求項にも,発明の詳細な説明にも,上記のような回路の存在は記載されておらず,むしろ,図1をみると,回路が形成されない構造となっていることが理解される。このように回路が形成されない以上,電気絶縁性被膜2で被包された密封包装物3の側面部 3 に電極4を接触ないし近接させても,密封包装物3の内容物1に電流が1流れることはない。そして,密封包装物3の内容物1に電流が流れない限り,電極4にかかる高電位による作用が生じるとしても,内容物1にプラスの電荷とマイナスの電荷が等量に存在する状態となるにすぎず,本願発明における「帯電 ,すな」わち内容物1にプラス又はマイナスのいずれか一方の極性の電荷が発生する状態とはならないものである。換言すれば,密封包装物3の内容物1に電流が流れないのに,内容物1にプラス又はマイナスのいずれか一方の極性の電荷が発生する状態となるとすれば,電荷保存則に反することとなる。
したがって,本願発明のように 「該密封包装物3の側面部 3 に・・・単一の電 ,1極4を接触ないし近接せしめて・・・該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ」ることは,電荷保存則に反し,何人にも実現することが不可能であるから,このような発明は不明確であるといわざるを得ず,また,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないものである。
(3) 原告は,大阪府立産業技術総合研究所長作成の報告書(甲2)や,原告が試作したピンホール検知器を用いた測定結果(甲8)において,閉回路が成立していないのに放電電流が検知されているのは,試料内容物が帯電しているためであると主張する。
しかし,前記報告書における測定は,交流高電圧発生装置にアルミ板を介してピンホール検出用試料を接続した上で,交流高電圧発生装置でアルミ板に 5kV を印加しながら,前記試料に刺されたテストピンに放電電極を近づけ,放電電流波形をカレントプローブとオシロスコープを用いて測定するという方法により行われたものである(甲2 。したがって,放電電極をテストピンに近づけると 「交流高電圧発 ),生装置の一極→アルミ板→電気絶縁性被膜→内容物→テストピン→カレントプローブ→接地→交流高電圧発生装置の他極」という回路が成立し,電気絶縁性被膜を挟んで内容物とアルミ板とがコンデンサを形成することにより電気絶縁性被膜に変位電流が流れることが理解されるのであって,放電電極をテストピンに近づけると放電電流が検知されることは,本願発明にいう「帯電」とは関係のないものである。
また 原告が試作したピンホール検知器を用いた測定についても 試料にピンホー ,,ルが存在する場合には 「交流高電圧発生器→アルミ板(高電圧電極)→アクリル ,被覆板(電気絶縁体)→プラスチック製包装袋(電気絶縁性被膜)→内容物→ピンホール→検査電極ブラシ→・・・→交流高電圧発生器」という回路が成立し,電気絶縁体及び電気絶縁性被膜を挟んで内容物とアルミ板とがコンデンサを形成することにより,変位電流が流れることが理解されるから,検査電極ブラシをピンホールに近づけると放電電流が検知されることは,本願発明にいう「帯電」とは関係のないものである。
2結論以上のとおり,原告主張の審決取消事由1(特許法36条4項及び6項について), , の判断の誤り は理由がないので その余の取消事由について判断するまでもなく原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 清水知恵子