審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ 785特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ1223特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ19307特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ10907特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 新規性 / 守秘義務 / 公然実施(29条1項2号) / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 技術的範囲 / 技術常識 / 実質的に同一 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 損害額推定(損害額の推定) / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / 変更 / 審決確定(審決が確定) / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
5058号
特許権侵害差止等請求事件
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原告新光ネームプレート株式会社 同訴訟代理人弁護士笠原俊也 同訴訟代理人弁理士村田幹雄 同 広川浩司 被告株式会社トウ・プラス 同訴訟代理人弁護士湧川清 同 島田寿子 同補佐人弁理士浜田治雄 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/05/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載A及びBの射出成形品を製造し,又は販売してはならない。 2被告は,原告に対し,金6300万円及びこれに対する平成17年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告製品の生産方法が原告の特許発明の技術的範囲に属し,その製造・販売が原告の特許権を侵害するとして,原告が,被告に対し,当該特許権に基づく被告製品の製造・販売の差止め並びに不法行為に基づく損害賠償及び民法所定の遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が,当該特許権の新規性又は進歩性欠如による無効を主張して争った事案である。 1前提事実( )本件特許権1原告は,以下の特許権を有する(以下,この特許権を「本件特許権」といい,その請求項1の発明を「本件特許発明」という。また,本件特許権に係る別紙訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 特許番号特許第3044027号発明の名称射出成形による樹脂成形品の生産方法出願日平成10年12月25日登録日平成12年3月10日訂正審決確定登録日平成16年9月3日訂正後の特許請求の範囲(請求項1)「対向配置した雄金型と雌金型との間の空間部に,溶融した樹脂を注入孔を介して注入し,該樹脂を固化させて成形品を形成する,射出成形による樹脂成形品の生産方法であって,前記空間部を,前記成形品の外形に適合させて複数並設した成形空間部と,該複数の成形空間部及び前記注入孔に連通するもので前記複数の成形空間部の全周を囲むと共に,複数の成形空間部の相互間に配置される補助空間部とから構成し,かつ,前記補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空間部内における前記樹脂の流動を促進する流動促進部を設けてなる第1のステップと,溶融した樹脂を前記補助空間部に前記注入孔を介して注入する第2のステップと,前記樹脂を前記複数の成形空間部各々に前記補助空間部を介して注入する第3のステップとを備えることを特徴とする射出成形による樹脂成形品の生産方法。」(争いのない事実)( )構成要件の分説2本件特許発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件」のように表記する。)。 A対向配置した雄金型と雌金型との間の空間部に,溶融した樹脂を注入孔を介 Aして注入し,該樹脂を固化させて成形品を形成する,射出成形による樹脂成形品の生産方法であって,,B-1 前記空間部を,前記成形品の外形に適合させて複数並設した成形空間部と該複数の成形空間部及び前記注入孔に連通するもので前記複数の成形空間B-2部の全周を囲むと共に,複数の成形空間部の相互間に配置される補助空間部とから構成し,かつ,前記補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空C間部内における前記樹脂の流動を促進する流動促進部を設けてなる第1のステップと,溶融した樹脂を前記補助空間部に前記注入孔を介して注入する第2のステッDプと,前記樹脂を前記複数の成形空間部各々に前記補助空間部を介して注入する第E3のステップとを備えることを特徴とする射出成形による樹脂成形品の生産方法。 F(争いのない事実)( )本件特許発明の作用効果3ア複数並設させた成形空間部の相互間に補助空間部が配置され,該補助空間部にて複数並設させた各成形空間部の全周を囲む構成とし,このような補助空間部を介して複数の成形空間部それぞれに樹脂を注入することにより,薄厚成形においても補助空間部を介して一層効率の良い多面取りが可能となり,生産効率を大幅に向上させることができる。 イ補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空間部内における樹脂の流動を促進する流動促進部を設けたこと等により,樹脂の流動性を任意の方向に関して高めることができるので,空間部全体に樹脂を均一に注入することができる。 (争いのない事実)2争点( )被告による侵害行為1ア被告製品の製造・販売イ被告方法の構成要件充足性( )無効の抗弁(特許法104条の3)の成否2ア新規性の欠如-メイテック製品との関係イ新規性の欠如-カシオ製品との関係ウ新規性の欠如-松下新案との関係エ新規性の欠如-中西特許との関係オ進歩性の欠如( )損害(特許法102条2項)33争点に関する当事者の主張( )被告による侵害行為1ア被告製品の製造・販売(ア)原告の主張, 被告は,業として,別紙物件目録記載の射出成形品を次のとおり販売した(以下それぞれの製品を「被告製品@」のようにいい,これらを併せて「被告製品」という。)。 @型式番号@用(iモードロゴマーク)を平成15年12月ころから平N505iS成16年8月まで,A同A用(iモードロゴマーク)を平成16年7月から現在に至るまで,N506iB同B用(iモードロゴマーク)を平成17年1月から現在に至るまで N506iS(イ)被告の主張原告の主張のうち,被告が日本電気株式会社製携帯電話用iモードロゴマークを構成する素品を製造していることは認め,別紙物件目録記載の射出成形品が被告の製品であるかは不知,その余は否認する。 イ被告方法の構成要件充足性(ア)原告の主張a被告方法の構成被告製品は,別紙物件目録記載の構成からなる射出成形品であって,これを製造する方法(以下「被告方法」という。)の構成は,以下のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件」のように表記する。)。 a1金型に溶融樹脂を注入し該樹脂を固化させることにより射出成形した射出成 a1形品の生産方法であって,雄金型と雌金型との間の空間部を,個別成形品の外形に適合させて複数並b1-1設した成形空間部と,該複数の成形空間部に連通するものでこの複数の成形空間部の全周を囲むb1-2とともに複数の成形空間部の相互間に配置される補助空間部とから構成し,前記補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空間部内c1における前記樹脂の流動を促進する流動促進部を設けてなり,溶融樹脂を前記補助空間部に注入孔を介して注入し,d1前記樹脂を前記複数の成形空間部それぞれに前記補助空間部を介して注入し e1てなる射出成形による射出成形品の生産方法。 f1b被告方法の作用効果被告方法は,以下の作用効果を有する。 ( )複数の成形空間部の相互間に補助空間部が配置され,該補助空間部にてa各成形空間部の全周を囲むことにより,この補助空間部を介して各成形空間部に樹脂を注入して,薄厚成形においても補助空間部を介して一層効率の良い多面取りが可能となり,生産効率を大幅に向上させることができる。 , ( )補助空間部に該補助空間部の厚みを増す流動促進部を設けたことにより b樹脂の流動性を任意の方向に関して高めることができ,空間部全体に樹脂を均一に注入することができる。 c被告方法と本件特許発明との対比( )被告方法は,本件特許発明の構成要件に相当する。 aa1 A( )被告方法は,同構成要件に相当し,被告方法は,同構成 bb1-1B-1b1-2要件に相当する。 B-2( )被告方法は,同構成要件に相当する。 cc1C( )被告方法は,同構成要件に相当する。 dd1D( )被告方法は,同構成要件に相当する。 ee1E( )被告方法は,同構成要件に相当する。 ff1F。 ( )被告方法の作用効果は,本件特許発明の作用効果と実質的に同一である gd小括したがって,被告方法は,本件特許発明の技術的範囲に属する。 (イ)被告の主張a上記原告の主張a(被告方法の構成)のうち,及びは認め,その余はa1f1否認する。 b同b(被告方法の作用効果)はいずれも認める。 , c同c(被告方法と本件特許発明との対比)のうち,( ) ( )及び( )は認めa , fgその余は否認する。 ( )無効の抗弁(特許法104条の3)の成否2ア新規性の欠如-メイテック製品との関係(ア)被告の主張a本件特許発明とメイテック製品の生産方法との同一性( )構成要件及び (射出成形による生産方法)についてaAF本件特許発明とポケベル窓ガラス(品名:。以下「メイテック製品」と 3NQF30233, いう。)の生産方法は,いずれも,対向配置した雄金型と雌金型との間の空間部に溶融した樹脂を注入孔を介して注入し,該樹脂を固化させて成形品を形成する,射出成形による樹脂成形品の生産方法である。 ( )構成要件(成形空間部)及び(補助空間部)についてbB-1B-2@本件特許発明における成形空間部は,231213452223 ・本件明細書の図及びの符号及びと,図及びの符号及びによって画される空間として,・同図においては符号,及びとして,612133・同図においては符号,図においては符号及びとして, 1644174460各表示されている空間部である。 Aこれに対し,メイテック製品の金型における成形空間部は,246 ・別紙金型図面1(以下「金型図面1」という。)の図ないしにおいて符号として,・同図及びにおいて符号として,5616各表示されている空間部である。 B本件特許発明における補助空間部は,・本件明細書の図及びの符号,及びと,同図及びにおいて雌2315161845型の空間の対側に位置する符号ないしによって画される空間として, 21256bd15163118・同図における( )ないし( )断面図において符号,及び並びに及びとして,34・同図における( )ないし( )断面図における符号及び並びに及び 17bd476146として, 62各表示されている。 Cこれに対し,メイテック製品の金型における補助空間部は,金型図面1の図において符号及びとして,図及びにおいて符号として表示され28105618ている。同金型においては,注入口と成形空間部を除く金型の雌雄の間の空間部は,中央の注入口と28個の成形空間部及び金型周囲の基準面を除いた部分であり,28個の各成形空間部を画する長径及び短径のランナ部分,金型の周囲に巡らされている凹部並びに中央注入口の周囲にある四角形の凹部(流動促進部)から成り,雌雄の金型の間で連通している。 Dしたがって,本件特許発明(構成要件及び)とメイテック製品のB-1B-2生産方法とは,雌雄金型の間の空間の構成が同一である。 ( )構成要件 (流動促進部)についてcC@本件特許発明における,補助空間部内における樹脂の流動促進部は,・本件明細書の図における( )断面図において符号及びとして,6c1834・同図における( )断面図における符号及びとして, 17c4662各表示されている。本件明細書の記載によれば,流動促進部の起点は注入孔に限定617 されず 任意位置を起点とすることも可能であるとされているが 上記図及び , ,においては,流動促進部は注入口(図においては符号,図においては)の6141745周りに設けられている。 210 Aこれに対し,メイテック製品では,金型図面1中,図において符号として,図及びにおいて符号として表示される凹部は,中央の注入孔から5620流入する溶融樹脂の流動性を高める目的で,成形品2枚分に相当する成形空間部を削って,雌金型の補助空間部に最も厚みを増すように,金型を改良して設けられた部分であり,補助空間部内における樹脂の流動促進部である。同金型においては,流動促進部は,本件特許発明のものと同様に,注入孔の周りに設けられている。 Bしたがって,メイテック製品において符号として表示される凹部は,20その目的,設置場所,構造及び機能において,本件特許発明における流動促進部と共通するから,本件特許発明(構成要件)とメイテック製品の生産方法とは,流動C促進部に関する構成が同一である。 ( )構成要件(第2のステップ)についてdD@本件特許発明において,構成要件にいう第2のステップは, D・本件明細書の図及びの( )ないし( )断面図並びに図における( )断面 23bd6c図において,樹脂が注入孔()を介して補助空間部(,及び並びに及び 1415163118)に注入されるものとして, 34・同図及びにおける( )ないし( )断面図において,樹脂が注入孔()を 1617bd 45介して補助空間部(及び並びに及び)に注入されるものとして, 46624761各表示されている。 Aこれに対し,メイテック製品では,溶融した樹脂を補助空間部に注入孔を介して注入するステップは,金型図面1中の図 , 及びにおいて,樹脂が注256入孔()を介して補助空間部()に注入されるものとして表示される。1218, Bしたがって,本件特許発明(構成要件)とメイテック製品の生産方法は D溶融樹脂の補助空間部への注入に関する構成が同一である。 ( )構成要件 (第3のステップ)についてeE@本件特許発明において,構成要件にいう第3のステップは, E・本件明細書の図及びにおける( )ないし( )断面図及び図における( ) 23bd6c断面図において,樹脂が,複数の成形空間部それぞれ(及び)に,補助空間部 1213(,及び並びに及び)を介して注入されるものとして, 1516311834・同図及びにおける( )ないし( )断面図において,樹脂が,複数の成形 1617bd空間部それぞれ(及び)に,補助空間部(及び並びに及び)を介して 446046624761注入されるものとして,各表示されている。 Aこれに対し,メイテック製品では,溶融樹脂を各成形空間部に注入するステップは,金型図面1中の図 , 及びにおいて,樹脂が,複数の成形空間部256それぞれ( 及び)に補助空間部()を介して注入されるものとして表示される。 61618, Bしたがって,本件特許発明(構成要件 )とメイテック製品の生産方法は E溶融樹脂の成形空間部への注入に関する構成が同一である。 ( )小括f以上のとおり,本件特許発明とメイテック製品の生産方法とは,その構成が同一である。 b特許出願前の公然実施( )メイテック製品の金型が製作され,同金型によって製造されたメイテッaク製品を組み込んだポケットベルが一般消費者向けに販売されたのは,平成7年から平成9年にかけてである。 ( )したがって,メイテック製品の生産方法は,本件特許発明の特許出願前bに公然実施されたものである。 cまとめよって,本件特許発明は,特許法29条1項2号に違反して特許されたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 (イ)原告の主張a( )被告の主張a( )(構成要件及び )は,明らかに争わない。 aaAF( )@同( )(構成要件及び)のうち,@(本件特許発明における成形 bbB-1B-2空間部)は,明らかに争わない。 A同A(メイテック製品における成形空間部)は,明らかに争わない。 B同B(本件特許発明における補助空間部)は否認する。 本件明細書の図及びにおける雄型の符号ないしで画される空間は成形452224空間部であって,補助空間部ではない。 2 C同C(メイテック製品における補助空間部)のうち,金型図面1中の図の符号で表される部分が本件特許発明における補助空間部に相当する部分である8ことは認め,その余は否認する。 金型図面1中の図において符号で表される部分は,注入孔に隣接するつ210 2の成形部を削って形成したものであり,補助空間部を構成するものではなく,注入孔を拡大したものである。 D同D(まとめ)は否認する。 ( )@同( )(構成要件(流動促進部))のうち,@(本件特許発明における流ccC動促進部)は,明らかに争わない。 A同A(メイテック製品における流動促進部)は否認する。 金型図面1中の図の符号で表される部分は,注入孔を構成する部分であっ 210て,補助空間部を構成するものではない。 B同B(まとめ)は否認する。 ( )同( )(構成要件)は,いずれも明らかに争わない。 ddD( )同( )(構成要件 )は,いずれも明らかに争わない。 eeE( )同( )(小括)は否認する。ffb同b(特許出願前の公然実施)のうち,( )(販売)は明らかに争わず,同( ) a b(公然実施)は否認する。 メイテック製品の製造・販売を行う者や発注者といった関係者は,当該製品の製造方法について守秘義務を負っていたものであり,また,実際の射出成形は,工場において秘密を保った状態で行われたものであるから,公然実施されたことはない。 c同c(まとめ)は争う。 イ新規性の欠如-カシオ製品との関係(ア)被告の主張a本件特許発明とカシオ製品の生産方法との同一性( )構成要件及び (射出成形による樹脂成形品の生産方法)についてaAF本件特許発明(構成要件)と時計用窓ガラスハードコート(品名:。以 A SQ350758下「カシオ製品」という。)の生産方法とは,いずれもプラスチック射出成形品の生産方法であり,この点において同一である。 ( )構成要件(成形空間部)及び(補助空間部)についてbB-1B-2。 @本件特許発明における成形空間部については,前記ア(ア)a( )@に同じ bAカシオ製品の金型における成形空間部は,, ・別紙金型図面2(以下「金型図面2」という。)の図 , 及びの符号と791140図 ,及びの符号によって画される空間として, 8101228・同図において符号として, 1344各表示されている空間部である。 。 B本件特許発明における補助空間部については,前記ア(ア)a( )Bに同じ bCカシオ製品の金型における補助空間部は,・金型図面2の図 , 及びの符号及びと,図 ,及びの符号,791142348101230及びによって画される空間として, 3436・同図及びにおいて符号として, 131447各表示されている。同金型においては,注入口と成形空間部を除く金型の雌雄の間の空間部は,注入孔()と4個の成形空間部及び金型周囲の基準面を除いた部分で32あり,4個の各成形空間部の周囲に巡らされている規制凸部,その外周の促進凹部,注入孔口を取り囲む促進凹部(流動促進部),及び促進凹部の間を連結する流路(同図における断面図の)から成り,雌雄の金型の間で連通している。 13B47Dしたがって,本件特許発明(構成要件及び)とカシオ製品の生産 B-1B-2方法は,雌雄金型の間の空間の構成が同一である。 ( )構成要件 (流動促進部)についてcC@本件特許発明における補助空間部内の流動促進部については,前記ア(ア)a( )@に同じ。 c1314A C D EFAカシオ製品において 金型図面2中 図及びの及び ,,, , ,において符号として表示される凹部は,注入孔から流入する溶融樹脂の流動性46を高める目的で,雌金型の補助空間部に厚みを増した部分であり,補助空間部内における樹脂の流動促進部である。同金型においては,流動促進部は,本件特許発明のものと同様に,注入孔の周りに設けられているものと,成形空間部の外周に設けられたものがあるが,いずれも補助空間部内に存在する。 Bカシオ製品において符号として表示される凹部は,その目的,構造及46び機能において,本件特許発明における流動促進部と共通するから,本件特許発明(構成要件)とカシオ製品の生産方法は,流動促進部に関する構成が同一である。 C( )構成要件(第2のステップ)について dD@本件特許発明において構成要件にいう第2のステップについては,前 D記ア(ア)a( )@に同じ。 dAカシオ製品では,溶融した樹脂を補助空間部に注入孔を介して注入するステップは,金型図面中の図 , , ないしにおいて,樹脂が,注入孔()278914 32を介して補助空間部()に注入されるものとして表示される。 47Bしたがって,本件特許発明(構成要件)とカシオ製品の生産方法は,溶 D融樹脂の補助空間部への注入に関する構成が同一である。 ( )構成要件 (第3のステップ)についてeE@本件特許発明において構成要件にいう第3のステップについては,前 E記ア(ア)( )@に同じ。 eAカシオ製品では,溶融樹脂を各成形空間部に注入するステップは,金型図面2中の図ないしにおいて,樹脂が,複数の成形空間部各々(及び)に,714 4044補助空間部()を介して注入されるものとして表示される。 47Bしたがって,本件特許発明(構成要件)とカシオ製品の生産方法は,溶 E融樹脂の成形空間部への注入に関する構成が同一である。 ( )小括f以上のとおり,本件特許発明とカシオ製品の生産方法は,その構成が同一である。 b特許出願前の公然実施( )カシオ製品の生産方法は,平成10年3月ころ,カシオ計算機株式会社aから受注した時計の窓ガラスを製作するために被告が開発したものである。 その後,被告は,金型によってカシオ製品を生産するとともに,営業担当者が製品見本を見せて被告が薄型プレートに均一に樹脂を回し視認性に優れた製品を製作する技術を有していることを対外的に宣伝し,製品の製作を発注する顧客を獲得するために使用した。また,営業活動の一環として,工場見学を希望する潜在的顧客に対しては,被告の生産技術や製品を見せたほか,製品の廃材等もそのままの形で材料袋に入れて積み置かれていた。その他,当該製品の存在や生産方法を説明するための勉強会なども行った。 ( )したがって,カシオ製品の生産方法は,本件特許発明の特許出願前に公 b然実施されたものである。 cまとめよって,本件特許発明は,特許法29条1項2号に違反して特許されたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使し得ない。 (イ)原告の主張a( )被告の主張a( )(構成要件及び )は,明らかに争わない。 aaAF( )@同( )(構成要件及び)のうち,@(本件特許発明における成形 bbB-1B-2空間部)については,前記ア(イ)a( )@に同じ。 bA同A(カシオ製品における成形空間部)は,明らかに争わない。 B同B(本件特許発明における補助空間部)については,前記ア(イ)a( )Bbに同じ。 C同C(カシオ製品における補助空間部)は否認する。 カシオ製品の金型図面2の図 , 及びの符号及びで示された領域は,79114234成形品を形成する領域と細径のゲート部を介してつながっている細長い空間を形成しており,補助空間部を構成するものではなく,従来技術におけるランナに相当する部分である。本件特許発明は,ランナシステムにおける問題点を解決するために,ランナを用いない射出成形による製造方法を提供するものであり,ランナを介して注入孔と連通した部分は補助空間部とはいえない。したがって,カシオ製品の金型図面2の図及びにおいて符号で示される領域は,補助空間部ではない。 131447C同C(まとめ)は否認する。 ( )@同( )(構成要件)のうち,@(本件特許発明における流動促進部)は,ccC前記ア(イ)a( )@に同じ。 cA同A(カシオ製品における流動促進部)は否認する。 カシオ製品の注入孔付近の領域はランナに相当する部分であって,本件特許発明の補助空間部に相当するものではないから,カシオ製品の注入孔付近の領域には,本件特許発明の流動促進部は存在しない。 また,成形空間部の外周に設けられた空間部も,本件特許発明の補助空間部に相当するものではないから,この領域にも流動促進部は存在しない。さらに,この領域においては,金型図面2の図 ,及びの符号で示される領域がランナ及8101230びゲート部を介して注入孔と連通し,ほぼ長方形状の領域において全周にわたって同じ深さに形成されるとともに,図 ,及びの符号で示される領域が,成8101236形空間部を形成する各凹部の全周を同じ高さで囲むリブ状の部分として形成されている。これは,符号で示される領域に対して,成形空間部の周囲にリブ状部を30設けるという構成を採ることにより,最終製品の周縁部に段差部を形成したものであり,成形空間部の外周に設けられた空間部は,単に最終製品の外形を形成するために設けられたものにすぎない。 ( )同( )(構成要件)は,いずれも明らかに争わない。 ddD( )同( )(構成要件 )は,いずれも明らかに争わない。 eeE( )同( )(小括)は否認する。ffb同b(特許出願前の公然実施)はいずれも否認する。 被告や発注者といった関係者は,カシオ製品の製造方法について,守秘義務を負っているし,また,金型を用いた射出成形は,工場において秘密を保った状態で行われたから,公然実施されたことはない。 c同c(まとめ)は争う。 ウ新規性の欠如-松下新案との関係(ア)被告の主張a松下新案の構成( )実願昭59-170548号(実開昭61-85131号)のマイクロフaィルム(以下,この考案を「松下新案」といい,その明細書(乙41)を図面を含め,「松下新案明細書」という。)は,昭和61年6月4日に公開されたものであるが,松下新案の構成は,以下のとおりである。 対向配置した金型の固定型(松下新案明細書図の符号( )及び( ))と可動型a2 168(同図の( )及び( ))との間の空間部(同図及びの( ))に,溶融したプラスチ178 123ック樹脂を注入孔(同図及びの()の出口部分)を介して注入し,該樹脂を固化 1211(同図の( )及び()から磁化)させて成形品(同図及びの( ))を形成する,射1910 124出成形による樹脂成形品の生産方法であって,前記空間部を,前記成形品の外形に適合させて複数並設した成形空間部b2-1(松下新案明細書図によれば12個の成形品が並設されている。)と, 2該複数の成形空間部及び前記注入孔に連通するもので前記複数の成形空間 b2-2部の全周を囲むとともに,複数の成形空間部の相互間に配置される補助空間部(松下新案明細書図及びの符号( ),実用新案登録請求の範囲1に「そのすき間をゲ123ートとして利用」,考案の詳細な説明に「0.2から2ミリメートル程度のすき間( )があくように金型加工する。」(2頁13行,14行)と記載されている。)とか3ら構成し,かつ,前記補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空c2間部内における前記樹脂の流動を促進する流動促進部を設けてなる第1のステップ(松下新案明細書図の符号( ),実用新案登録請求の範囲2に「すき間( )にランナ25 3ー( )を設けた」,考案の詳細な説明に「シート状のすき間にランナー( )を設ける」 5 5(2頁15行)と記載された部分,及び同図及びのスプルー()の先の底部が厚 1211みを増した部分)と,溶融した樹脂を前記補助空間部(すき間( )の部分)に前記注入孔を介して注d2 3入する第2のステップと,前記樹脂を前記複数の成形空間部( )それぞれに前記補助空間部( )を介してe2 4 3注入する第3のステップとを備えることを特徴とする射出成形による樹脂成形品の生産方法。 f2( )松下新案の構成は,本件特許発明の構成要件をすべて満たす。 bb松下新案の作用効果( )松下新案におけるシート状のすき間( )は,「ランナー」すなわち注入孔かa 3ら成形空間部に至る樹脂の流路であり,成形空間部の周囲を取り囲むことから,「あらゆる方向から該成形空間部に対して樹脂が流入可能となり」(本件明細書【0060】),「複数の成形空間部各々に樹脂を注入することにより,…一層効率の良い多面取りが可能とな(る)」(本件明細書【0061】)。このため,当該すき間( )3は,本件特許発明の補助空間部の作用効果を有している。 ( )松下新案におけるシート状のすき間( )に設けたランナー( )の部分は,b 35当該すき間の中央部に設けた厚みを増した溝であり,また,松下新案明細書図1及び2においてすき間の中央部に底部が厚みを増した部分が図示されている。これらは,いずれも補助空間部に相当するすき間の厚みを増した部分であり,このような部分が設けられたのは,この部分がなければ樹脂が途中で固化し,すき間全体及び成形空間部に充てんするまで行き渡らないからである。中心線の全長にわたって溝を設けることによって,溝によって左右に分かれる領域の双方に,全長にわたって樹脂を流動させることを促し,中央の円い厚み部分は,固化した樹脂を分離し流動性の高い樹脂を空間部全体に行き渡らせるために設けられたものである。 したがって,本件特許発明の流動促進部は,松下新案において具体化されている。 cまとめよって,本件特許発明は,特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明として,特許法29条1項3号に該当する無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものであり(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 (イ)原告の主張a( )被告の主張a(松下新案の構成)は,いずれも否認する。 a( )松下新案明細書図に示された中央部の円い厚み部分及びランナー( )は, b2 5いずれも流動促進部に相当しない。 まず,中央の円い厚み部分は,湯だまりに相当するものであり,本件特許発明の流動促進部とは技術的意義が異なる。 , 次に,ランナー( )について,松下新案明細書には,具体的にどのような形状で5どのような機能を有するものであるかは記載されておらず,これを流動促進部と認める根拠はない。 b同b(松下新案の作用効果)のうち,( )は明らかに争わず,( )は否認する。 abc同c(まとめ)は争う。 エ新規性の欠如-中西特許との関係(ア)被告の主張a中西特許の構成( )特開平9-207163号公報(以下,この発明を「中西特許」といい,そaの明細書(乙38)を別紙を含め,「中西特許明細書」という。)は,平成9年8月12日に公開されたものであるが,中西特許の構成は,以下のとおりである。 対向配置した金型の上型(中西特許明細書図3の符号())と下型(同図のa3 20())との間の空間部(同図の()の出口から()に連なる部分,(),(),() 30 2526264024及び())に,溶融した弾性ゴム材料樹脂を注入孔(同図の()の出口部分)を介し41 25て注入し,該樹脂を固化させて成形品(図の())を形成する,射出成形による樹 140脂成形品の生産方法であって,前記空間部を,前記成形品の外形に適合させて複数並設した成形空間部b3-1(図1の符号()。同図によれば54個)と, 40該複数の成形空間部及び前記注入孔に連通するもので前記複数の成形空間 b3-2部の全周を囲むとともに,複数の成形空間部の相互間に配置される補助空間部(中西特許明細書図3の符号()の出口から()に連なる部分,(),()及び())2526262441とから構成し,かつ,前記補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空c3間部内における前記樹脂の流動を促進する流動促進部(同図の符号()の出口の先 25の底部が厚みを増した部分及び水平方向で()に連なる部分での()より厚みを増 2626した部分並びに図,の()のうち隣り合うもの同士が周方向の一部において重 1224なり合っている部分)を設けてなる第1のステップと,溶融した樹脂を前記補助空間部に前記注入孔を介して注入する第2のステッd3プと,前記樹脂を前記複数の成形空間部それぞれに前記補助空間部を介して注入すe3る第3のステップとを備えることを特徴とする射出成形による樹脂成形品の生産方法。 f3( )中西特許の構成は,本件特許発明の構成要件をすべて満たす。 bb補助空間部について中西特許におけるバリ溝()は,各キャビティ()の外周にゲート()を介して244041設けられた環状の複数の溝であり,それぞれをランナとして各キャビティ内に弾性材料を充てんして成形する(中西特許明細書【0014。このバリ溝を介して 】)「あらゆる方向から該成形空間部に対して樹脂が流入可能となり」(本件明細書【0060】),「複数の成形空間部各々に樹脂を注入することにより,…一層効率の良, い多面取りが可能とな(る)」(本件明細書【0061】)。このため,当該バリ溝は本件特許発明の補助空間部に相当する。 c流動促進部について( )補助空間部に相当するバリ溝()には,隣り合うもの同士が周方向の一a 24部において重なり合っている部分がある(中西特許明細書【0024】)。この部分の流路は,隣り合うバリ溝の間に側壁がないから,流路の厚みを横方向に2倍に広げて樹脂の流動を促進する作用を有している。他方,本件特許発明においては,流動促進部は,厚みの方向に固有な条件が特定されていない。 したがって,横方向に流路の厚みを広げて流動断面積を大きくし流動抵抗を減少させて樹脂の流動を促進する作用効果を有することにおいて,上記バリ溝の隣同士が重なり合う部分は,本件特許発明の流動促進部に相当する。 ( )中西特許において,スプルー()は,スプルーだけでなく注入孔及びラ b 25ンナの一部までを含んでいるところ,これらは金型の構造上及び機能上明確に区別される。このうち,スプルーは,符号()のうち射出成形機のノズルと接合して金25型へ材料を導き入れる部分のみに限られる。注入孔は,中西特許明細書図におい 2て,左端の内心の円い円で穴の範囲が構造上明示されている。同図において,左 2端の注入孔の外周の部分であって,4か所でメインランナ()に連通している部分 26はランナであり,同明細書図( )において,注入孔の対側の下型の底部に厚みを 3 a増した部分と上型に注入孔の周囲に厚みを増した部分が設けられている。これらの厚みを増した部分は,樹脂の流路としてランナ(補助空間部)に相当する部分であり,その目的は,注入孔から注入する樹脂の流動性を高めることにある。 ( )したがって,本件特許発明の流動促進部は,中西特許においても具体化cされている。 dまとめよって,本件特許発明は,特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明として,特許法29条1項3号に該当する無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものであり(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 (イ)原告の主張a被告の主張a(中西特許の構成)は,いずれも否認する。 b同b(補助空間部)は,明らかに争わない。 c同c(流動促進部)は,いずれも否認する。 本件特許発明の流動促進部は,補助空間部の厚みを増すことにより補助空間部内における樹脂の流動を促進するものとして規定されており,補助空間部は薄板状に形成されるものであることからすれば,補助空間部の厚み方向とは,高さ方向(上下方向)であることは明らかである。 また,バリ溝()が重なり合った部分であっても,横幅はさほど大きくなってい24ないし,この部分において樹脂の流動を促進するというほどの作用があるとは考えられない。 注入孔に対向する下型の底部の厚みを増した部分は,樹脂の湯だまりとしての機能を有する部分であり,流動促進部とはいえない。 d同d(まとめ)は争う。 オ進歩性の欠如(ア)被告の主張a構成要件及び (射出成形による生産方法)についてAF構成要件及びは,一般的なプラスチック射出成形の方法であり,例えば以 AF下のものに,これに相当する発明が記載されている。 ( )「実用プラスチック用語辞典」(乙24。昭和54年6月20日第2版第6a刷発行。以下「引用例1」という。)には,射出成形機(インラインスクリュ式)の図が掲載され,構成要件及びに相当する発明が記載されている。 AF( )特開平4-189117号公報(乙1。以下「引用例2」という。)には, b構成要件及びに相当する発明について,「射出成形は,透明な樹脂材料を加熱 AFシリンダーの一端に供給して加熱シリンダー内で可塑化し,供給口と反対に設けた射出ノズルより金型の中に射出する。」と記載されている。 b構成要件(成形空間部)についてB-1引用例2には,「型窩の全周に直接連通する多数個取り射出用金型」(2頁右上欄16行,17行)と記載され,また,その第1図(別紙引用例2(特開平4-189117号公報)第1図)には,それが図示されており,構成要件に相当する発明B-1が記載されている。 c構成要件(補助空間部)についてB-2( )引用例2には,「ランナーが0.5以上…の厚みを有し,型窩の全周 a mmに直接連通する」(2頁右上欄15行〜17行)と記載され,構成要件に相当す B-2る発明が記載されている。 ( )特開平9-48044号公報(乙28。以下「引用例3」という。)の請求 b項1には,「両型部材のパーティング面には,主キャビティ全周に亘り,主キャビティに連通した補助キャビティが有り」と記載されている。 ( )特公平6-61791号公報(乙2。以下「引用例4」という。)に記載さcれた発明においては,樹脂が注入孔から隣接する成形空間部より厚みのある流路内を一方向に流れ,流路からあふれた樹脂は隣接する狭い領域に流出するから,流路内には交差積層樹脂は形成されない。引用例4に記載された発明において,成形品は樹脂が交差積層した部分であることから,流路の部分は,成形品として用いるのではなく,成形品となる交差積層部を作るための部位であり,補助空間部に相当する。 d構成要件 (流動促進部)についてC( )引用例5a「射出成形用金型」(乙6。昭和54年5月10日第3版発行。以下「引用例5」という。)には,「成形上の流れが悪い場合には湯流れをよくするために肉厚を増したり,部分的に厚肉にして流れの悪い個所を補うことがある。」(21頁右欄)と記載されている。 ( )引用例6b「図面による射出金型構造・金型実例の詳細解説と金型設計の基礎,設計上の留意点及び金型設計の実際」(乙7。昭和59年5月23日発行。以下「引用例6」という。)には,バーブノズルの断面図が開示されており,注入孔の周囲の部分の厚みが成形品部より厚くなっている様子の断面が示されている。 ( )引用例7c「射出成形用金型の設計技術」(乙8。昭和59年3月15日初版第1刷発行,平成3年7月20日初版第4刷発行。以下「引用例7」という。)には,成形材料(溶融樹脂)の流動性の方向や位置を予測した金型設計技術が紹介されており,「成形材料の通路の厚さ,幅を変更することによりウェルドラインの位置を変更することもできるので,成形品の要求仕様によりその形状の一部を変更させることも可能となる。」(75頁右欄下から2行〜76頁左欄3行)と記載されている。 ( )引用例8d「やさしい射出成形/圧縮成形」(乙9。平成10年10月5日第6版発行。以下「引用例8」という。)には,ショートショット(溶融樹脂が金型キャビティの隅々まで行き渡らない現象)の原因として「成形材料の流動性不足」,対策として「金型のゲートサイズを大きくする,状況によってはランナーを太くします 」(いずれも。 70頁)と記載されている。 ( )引用例4e引用例4(乙2)には,「第一金型キャビティが第一層限定金型キャビティ部分に隣接して位置する第一キャビティ流路を含み,この流路は金型キャビティの一部分であって,射出プラスチックの流動を方向付ける目的のために隣接金型キャビティの厚みよりも相当に厚くかつ広くなっている金型キャビティの一部分として画設され」(請求項1( ))と記載されている。 fまた,引用例4には,金型の厚みを増して流路断面積を大きくすることによって樹脂の流動を促進することだけでなく,厚みの比率によって樹脂の流動方向を制御する技術も開示されている。 ( )引用例9f「モールダーのための射出成形品の設計」(乙25。平成元年12月20日発行。 以下「引用例9」という。)には,「ランナーはスプルーとキャビティを結ぶ溶融したプラスチックの流路である。…湯溜りを設け,冷えた溶融プラスチックを捕え,スプルー,ランナー内で冷えて,半ば固化した溶融プラスチックがキャビティに流れ込むことを防止するようにする。ランナーの太さは射出成形品の大きさにより変わるが,流動を妨げない範囲で細くすることが望ましい。又,ランナーの長さはなるべく短くする必要があるが,多数個取りの場合には,同時に,各キャビティ迄の距離を同距離とすることが望ましい。しかし,…溶融プラスチックの金型内での流動がコンピューターにより解析できるようになった結果,同距離とすると言う原則に反した形態も取られることもある。又,多点ピンポイントゲートを使用する金型の場合にはコンピューター解析によりランナーの太さを部分的に変化させることも行われている。」(59頁)と記載されている。 ( )引用例10g特開平8-164542号公報(乙27。以下「引用例10」という。)には,次の記載がある。 「金型内のキャビティ部に射出される樹脂の流動を一部阻害あるいは補助することにより,樹脂不流部における樹脂充填を促進する」(請求項1),「金型内の樹脂流動部に設置された樹脂流動制御用金型を駆動することにより,, 射出される樹脂の流動経路の厚みを変化させ,樹脂の流動を制御する」(請求項4)「上記射出成形装置において,キャビティ部5に射出された樹脂は,…キャビティ部5の細く突設したC部分に流動する前に流れやすい方向に流動し,部分DCに樹脂が充填されないまま固化してしまい,所望の成形品形状が得られない問題があった。このため従来は,所望の成形品を形成するためにバランスのとれたゲート位置の設定,可能な限り均一なキャビティ厚みの実現,樹脂温度や射出圧力,金型温度の調整等多くの要素にわたり成形条件を調整しなければならず,こうした樹脂の流動調整手法にともなって樹脂圧力が金型に与える強度の確保等の問題を解決しなければならなかった。」(【0004】)「この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので,成形条件ファクターを数多く調整することなく容易に樹脂の流動を変化させ,無理な射出樹脂圧力による金型破損の防止,フローマークの改善,ウェルドラインの位置移動等を目的とする。」(【0005】)( )引用例11h「プラスチック成形加工原論」(乙40。平成3年6月28日発行。以下「引用例11」という。)には,以下の記載がある。 「これらの研究はつぎのことを示している。すなわち,中程度での流速での充てん様式は一定の深さの長方形キャビティについて,図に模式的に示されてい14.4aるように規則正しい前進流であることである。充てんの初期の間は流れは放射状で融液の 先端 は円…である。」(571頁)""「インサート付きの金型キャビティで厚み分布が不均一の際は流れ模様はさらに複雑となる。…種々な形状と大きさのインサートを金型の異なる場所に置き,この結果,ある時は流れの障害とし,またある時は種々異なった厚みの領域とした。ポリスチレンが射出され前進する先端(メルトフロント)の位置とその形は一連のショートショットによって検証できた。その結果のいくつかが図に出ている。図14.5( )ではメルトフロントの外形(形状)は深い断面では円形で薄い領域に入ると 14.5 1いくらかゆがむ。流れは型インサートで分割されインサートをすぎると再結合 "T"し,ウェルドライン(融合線)を形づくる。ウェルドラインの位置と形はインサートのまわりの流れ分布で定められる。インサートはメルトフロントの方向に強く影響を与え,これは後でわかるように分子配向の方向を決定する。そのため,このような金型では不均一な配向分布がいちじるしくなる。 図( )ではインサートがゲートに近い薄い断面の中に入れられたが,この時14.5 2は前進する融液形状(したがって配向分布も)も,また完全にウェルドラインの位置と形を変えている。図( )は薄いウェブで連結された型の厚肉部断面をもっ14.5 3 Sたものを示している。金型の深い部分と浅い部分に同時に充てんされたその部分に貫通している長さは,例の定性的な予測に従っており,ここでは一定のも14.1 P=のでは( )は流路の断面厚みに比例しており,第1次近似値としては融液のレオZ tロジー特性とは無関係であることが観察されている。また,2本のウェルドラインが形成される。第二のウェルドラインは深い部分に入ると側方に枝分かれする。」(571頁。注は省略)( )引用例12i特開平10-100202号公報(乙35。平成10年4月21日公開。以下「引用例12」という。)には,キャビティ部への延在距離が長い場合にはランナを太くしてその断面積を大きくして流動性を高める技術が開示されている。 ( )引用例13j特開平9-99456号公報(乙36。以下「引用例13」という。)には,「本発明によれば,内部に所望する成形品の形状に応じた樹脂注入空間が設けられた金型を有し,当該金型の樹脂注入空間内に溶融樹脂を射出し,固化させることにより成形品を成形するコールドランナ方式の射出成形装置において,樹脂注入空間に流入する溶融樹脂の流路内に設けられたゲート圧可変入子を当該流路の断面積を徐々に変化するように任意の位置に位置させることにより,樹脂注入空間に流入する溶融樹脂の流量を容易に制御し,かくして成形品を多数個取りする場合の不良品率を低下させ,信頼性を向上し得る簡易な構成の射出成形装置を実現できる。」(【0041】)と記載されている。 ( )引用例14k「射出成形アイデア活用術」(乙39。平成8年8月20日発行。以下「引用例14」という。)には,ランナの流路内に樹脂の流動を阻害する要因がある場合に,金型を修正して流路を広げることによって,流動抵抗を小さくし,樹脂の流動性を高める金型の修正技術が開示されている。 ( )まとめl以上のように,流路断面積を大きくすれば樹脂の流動速度は速まり,流動促進効果をもたらすことは,当業者の技術常識であるから,樹脂の流動促進を目的として金型の厚みを増した部分(流動促進部)を設けることは,周知慣用の技術である。 e構成要件(第2のステップ)についてD引用例2(乙1)には,「射出用ノズルから可塑化された樹脂を射出する工程」(特許請求の範囲1)と,構成要件に相当する発明が記載されている。 Df構成要件 (第3のステップ)について Emm引用例2(乙1)には 「ノズルから射出された溶融樹脂は スプールから0 5 , ,.以上の厚みを有するランナーを通過し,いわゆるゲートを経ずに,型窩の全周からこの型窩内に充填する。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行)と,構成要件に相当Eする発明が記載されている。 g一致点及び相違点以上によれば,本件特許発明と引用例2に記載された発明とは,構成要件 ,,AB-1, , 及びFの点で一致し,構成要件 (流動促進部)の構成が引用例2には記 B-2DE C載がない点で相違する。 h相違点についての判断引用例2に,樹脂の流動促進を目的として金型の厚みを増した部分(流動促進部)を設けることを組み合わせて本件特許発明のように構成することは,金型成形に関する当業者であれば,容易になし得たことである。 iまとめしたがって,本件特許発明は,その特許出願前に,当業者が特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項に該当する無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものであり(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 (イ)原告の主張a被告の主張a(構成要件及びF)は,明らかに争わない。 Ab同b(構成要件)は,明らかに争わない。 B-1c同c(構成要件)のうち,( )は認め,( )及び( )はいずれも明らかに B-2abc争わない。 d( )同d(構成要件 )( )(引用例5)は認める。 aCa引用例5は,最終的に製造される製品の成形についてのものであって,肉厚を増したり肉厚にすることは,製品そのものの形状に影響を与えるとともに,冷却速度が遅くなり,成形サイクルが長くかかる,収縮の違いによる応力の集中,ひずみ,変形の原因になるといった不具合が生じることから,抑制的にすべきことが記載されている。引用例5の技術を引用例2に記載された発明に組み合わせることは,この点において阻害要因があり,当業者にとって容易であったとはいえない。 また,引用例5は,樹脂を成形空間部に直接注入又はゲートを介して注入する生産方法について説明するものであり,補助空間部を介して成形空間部の全周から樹脂を注入する本件特許発明とは,技術的な前提が異なる。 ( )同( )(引用例6)は認める。 bb引用例6は,製品そのものにおいて肉厚を変化させたものであり,これを引用例2の発明に組み合わせることは,当業者にとって容易であったとはいえない。 また,引用例6は,樹脂を成形空間部に直接注入又はゲートを介して注入する生産方法について説明するものであり,補助空間部を介して成形空間部の全周から樹脂を注入する本件特許発明とは,技術的な前提が異なる。 ( )同( )(引用例7)は認める。 cc( )同( )(引用例8)は認める。dd引用例7及び8は,一般的な射出成形において樹脂の流動性を高めるために成形品を肉厚にしたり,ランナを太くすることが公知であったことを示すものにすぎない。 ( )同( )(引用例4)は認める。 ee引用例4は,最終的な製品となる部分において流路の厚みを変化させるとの技術であり,流路を厚くすることで樹脂の流動を変化させることができること以上のことは記載されていない。 ( )同( )(引用例9)は認める。 ff引用例9には,ランナーに湯だまりを設けて半ば固化した溶融プラスチックがキャビティに流れ込むことを防止することが記載されているところ,本件特許発明は,ランナーを用いないで射出成形を行う技術である。本件特許発明の補助空間部は,機能の面において従来技術のランナーと一部共通するところはあるものの,その構成及び形状は従来技術のランナーとは全く異なっており,ランナについてその太さを変えるという技術は,補助空間部における流動促進部として適用することができるものではない。 また,湯だまりにより半ば固化した溶融プラスチックを捕らえることと,本件特許発明の流動促進部において樹脂の流動を促進することとは,技術的な意義が異なる。 ( )同( )(引用例10)は認める。 gg引用例10に記載された発明においては,具体的には,加圧されたエアーを金型内に注入して樹脂の流動経路を阻害し,金型の壁に弾性シール部材を設け,これをエアー圧力により膨張させて樹脂の流動経路を阻害し,又は金型の一部を油圧により起動させて樹脂の流動経路を阻害している。このように,引用例10に記載されているのは,流動する樹脂を金型の壁面から強制的に押圧するなどして流動を変化させようとする技術であり,本件特許発明とは全く異なる技術である。 したがって,これを引用例2に適用しても本件特許発明とはなり得ない。 ( )同( )(引用例11)は認める。 hh引用例11には,樹脂の流路を広げれば樹脂が流れやすくなるということが記載されているものであり,本件特許発明に対して直ちに技術的に適用可能というものではなく,また,技術的な効果も異なる。 ( )同( )(引用例12)は認める。 ii引用例12は一般的な技術や現象を示したものにすぎない。 ( )同( )(引用例13)は認める。 jj引用例13は,金型の一部を駆動して樹脂の流動に影響を与えようとするものであり,このような技術を本件特許発明と同種のものとするのは,そもそも誤りである。 ( )同( )(引用例14)は,明らかに争わない。 kk( )同( )(まとめ)は否認する。lle同e(構成要件)は,明らかに争わない。 Df同f(構成要件 )は,明らかに争わない。 Eg同g(一致点及び相違点)のうち,本件特許発明と引用例2に記載された発明とは,構成要件(流動促進部)の構成が引用例2には記載がない点で相違するこCと,及び構成要件の点で一致することは認め,その余は明らかに争わない。 B-2h同h(相違点についての判断)は否認する。 i同i(まとめ)は否認する。 ( )損害3ア原告の主張(ア)被告が侵害行為により得た利益被告は,平成15年12月以降現在までの間に,以下のとおり被告製品を製造・販売し,合計6300万円の利益を得た。 a被告製品@3500万円50円(製品単価)×200万個(製造販売総個数)×35%(利益率)=3500万円b被告製品A1750万円50円(製品単価)×100万個(製造販売総個数)×35%(利益率)=1750万円c被告製品B1050万円50円(製品単価)×60万個(製造販売総個数)×35%(利益率)=1050万円(イ)損害額の推定よって,原告は,被告の本件特許権侵害行為により,6300万円の損害を受けた(特許法102条2項)。 イ被告の主張原告の主張は否認する。 第3当裁判所の判断1進歩性の欠如について( )引用例2の記載1ア証拠(乙1)によれば,引用例2には,以下の記載があることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。 (ア)「次の工程を含むことを特徴と(「を」は明白な誤記と認める。)するプラスチック成形品の製造法。 ( )ランナーが0.5以上の厚みを有し,型窩の全周に直接連通する多数amm個取り射出用金型に,射出用ノズルから可塑化された樹脂を射出する工程( )射出され,固化した樹脂成形物を金型から取り出す工程b( )取り出された樹脂成形物の型窩相当部分からランナー相当部分を精密に切 c断除去してプラスチック成形品を得る工程」(特許請求の範囲1)(イ)「この発明によるプラスチック成形品の製造において射出成形は,透明な樹脂材料を加熱シリンダーの一端に供給して加熱シリンダー内で可塑化し,供給口と反対に設けた射出用ノズルより金型の中に射出する。この発明で用いられる金型の構造は,スプルーおよびランナーおよび型窩の空間からなり,ゲートを設けない無ゲート金型である。 ノズルから射出された溶融樹脂は,スプルー(「スプール」は明白な誤記と認める。)から0.5以上の厚みを有するランナーを通過し,いわゆるゲートを経mmずに,型窩の全周からこの型窩内に充填する。 厚く広いランナーを通過している途中で,樹脂内の種々の歪や乱れが,解消される。」(2頁左下欄11行ないし右下欄3行)(ウ)「この実施例では,プラスチック成形品であるプラスチックレンズを製造する。この製造において射出成形は,透明な樹脂材料を加熱シリンダーの一端に供給して加熱シリンダー内で可塑化し,供給口と反対に設けた射出用ノズルより金型の中に射出する。この実施例で用いられる金型の構造は,スプルーおよびランナーおよび,レンズ相当の型窩の空間からなり,ゲートを設けない無ゲート金型であり,12個の多数個取りである。」(2頁右下欄18行ないし3ページ左上欄6行)(エ)「ノズルから射出された溶融樹脂は,スプルー(同)から1.5〜2.mm5の厚みを有するランナーを通過し,ゲートを経ずに,型窩の全周からこの mm型窩内に充填する。」(3頁左上欄11行ないし14行)(オ)「スプルー(同)から厚いランナーを通過し,型窩の全周からこの型窩内に充填するので,ランナー途中で,樹脂内の種々の歪や乱れが,解消されている。」(3頁右上欄6行ないし8行)(カ)「[発明の効果]この発明により以下のような効果を得ることができる。 ( )ゲートの無い,ランナー部分の厚い金型を用いるので,ランナー部分で光1学的歪や乱れが解消されて光学的に優れた特性のプラスチック成形物…を得ることができる。 ( )多数個取りで射出成形するので,同時に多数個を成形でき,この成形物か2ら精密に切断加工することにより,容易に目的の成形品を製造することができる。 ( )樹脂成形物が得られた段階で,ハードコートなどの処理をする事により,3多数個を一括して処理することができ,効率よく製造することができる。」(3頁右上欄19行ないし左下欄14行)イ引用例2における上記各記載及び第1図(別紙引用例2(特開平4-189117号公報)第1図)から,引用例2には,対向配置した金型の空間部内に,溶融樹脂をスプルー(注入孔)を介して注入し,該樹脂を固化させて成形品を形成する,射出成形による樹脂成形品の生産方法であって,前記空間部を前記成形品の外形に適合させて複数並設した型窩(成形空間部)と,該複数の成形空間部及び前記注入孔に連通するもので,前記複数の成形空間部の全周を囲むとともに,複数の成形空間部の相互間に配置されるランナー(補助空間部)とから構成してなる第1のステップと,溶融した樹脂を前記補助空間部に前記注入孔を介して注入する第2のステップと,前記樹脂を前記複数の成形空間部それぞれに前記補助空間部を介して注入する第3のステップとを備えることを特徴とする射出成形による樹脂成形品の生産方法が記載されていると認められる。 ( )一致点及び相違点2本件特許発明と引用例2に記載された発明とを対比すると,両者は構成要件, A,, ,及びFの点で一致し,引用例2には構成要件についての記載が B-1B-2DE Cない点で相違する(この一致点及び相違点の認定は,当事者間に争いがないか,原告において明らかに争わない。)。 ( )相違点についての判断3ア本件特許発明(ア)証拠(甲2,3)のよれば,本件明細書には,構成要件に関して,以下Cの記載があることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。 a「また補助空間部31には,…該補助空間部31の厚みを増すことにより該補助空間部31内における樹脂4の流動を促進する流動促進部34が設けられている。この流動促進部34は,…注入孔14に連続するものであって補助凹部15,16よりも深い凹部たる促進凹部18を雌金型1に設けることによって形成される。 この流動促進部34は,補助空間部31内における樹脂4の流動性を高めたい方向に沿って形成されている。…ここで流動促進部34の厚み,幅,及び長さは,樹脂4の流動性…や,注入孔14から最離位置に至る距離,金型の凹凸による樹脂4の流動抵抗の大小等に基づいて,少なくとも成形空間部3の全ての部分に最も均一に樹脂4が流動するように決定される。」(【0033】), b「このような流動促進部34を補助空間部31に適宜配置することにより樹脂4の流動性を任意の方向に関して高めることができるので,空間部全体に樹脂4を均一に注入することができる。また流動促進部34に流れ込んだ樹脂4は,…成形品に比べて肉厚な樹脂33aとなるが,この樹脂33aは補助樹脂33の一部として成形品から分離処理されるので,成形品に影響を与えることがない。」(【0034】)c「しかもまた本発明は,補助空間部には,該補助空間部の厚みを増すことにより該補助空間部内における樹脂の流動を促進する流動促進部を設けたこと等により,樹脂の流動性を任意の方向に関して高めることができるので,空間部全体に樹脂を均一に注入することができる。特に補助空間部に流動促進部を設けているので,流動促進部に流入して固化した樹脂は補助樹脂の一部として成形品から分離処理されるので,成形品に影響を与えることがなく,より精密な薄肉成形を行うことができる。」(【0062】)(イ)これらの本件明細書の記載によれば,本件特許発明における補助空間部内の流動促進部は,少なくとも成形空間部のすべての部分に最も均一に樹脂が流動するようにとの観点からその厚み,幅及び長さを決定することにより,補助空間部内における樹脂の流動性を任意の方向に関して高め,空間部全体に樹脂を均一に注入することにより,成形空間部内に樹脂を均一に流入させ,より精密な薄肉成形を可能とすることを目的とするものということができる。 イ流動促進についての引用例の記載(ア)引用例5(「射出成形用金型」(乙6)。昭和54年5月10日第3版発行)に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (イ)引用例7(「射出成形用金型の設計技術」(乙8)。昭和59年3月15日初版第1刷発行,平成3年7月20日初版第4刷発行)に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (ウ)引用例8(「やさしい射出成形/圧縮成形」(乙9)。平成10年10月5日第6版発行)に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (エ)引用例9(「モールダーのための射出成形品の設計」(乙25)。平成元年12月20日発行)に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (オ)引用例10(特開平8-164542号公報(乙27))に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (カ)引用例11(「プラスチック成形加工原論」(乙40)。平成3年6月28日発行)に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 (キ)引用例13(特開平9-99456号公報(乙36))に,被告主張のとおりの記載があることは,当事者間に争いがない。 ウ検討(ア)前記イに説示の引用例の記載によれば,金型を用いた射出成形による樹脂成形の分野において,その金型の空間部内に複数の成形空間部がある場合に,各成形空間部内に均一に樹脂が注入されるように,成形空間部内に溶融樹脂が流れにくい部分が存在する場合に流れやすくなるように工夫することは,本件特許発明の出願当時,当然の技術的課題であったものである。 (イ)しかも,前記イに説示の引用例の記載によれば,金型を用いた射出成形による樹脂成形の分野において,樹脂の流動性を高めるために流路の肉厚を全体的に又は部分的に増すように金型を設計することは,本件特許発明の出願当時,周知慣用の技術であったことが認められる。 (ウ)したがって,引用例2に,前記イの引用例の記載から認められる樹脂の流動性を高めるために流路の肉厚を全体的に又は部分的に増すように金型を設計するという周知慣用の技術を組み合わせて,本件特許発明のように構成することは,本件特許発明の出願当時,当業者が容易に想到し得たことと認められる。 エ原告の主張に対する判断これに対し,原告は,前記イの引用例に開示されているのは,最終的な製品となる部分において流路の厚みを変化させる技術であったり,従来技術のランナーについてその太さを代えるという技術であり,引用例2に適用することができないか,適用したとしても補助空間部に流動促進部を設けるとの構成要件の構成とはなCり得ない旨主張する。 しかし,前記ウ(イ)のとおり,引用例5,7ないし11及び13には,いずれも樹脂の流動性を高めるために流路の肉厚を全体的に又は部分的に増すように金型を設計することが示されており,この技術を引用例2の「0.5以上…の厚みをmm有し,型窩の全周に直接連通する」ランナーに適用できないとする理由はない。しかも,引用例8及び9には,樹脂の流動性を高めるためにランナーの太さを変化させることが明示的に記載されているから,この技術を,少なくとも機能の面において従来技術のランナーと一部共通する引用例2の「0.5以上…の厚みを有し,mm型窩の全周に直接連通する」ランナーに適用できないとする理由は,なお一層見いだすことができない。 オまとめしたがって,本件特許権は,特許法29条2項に該当する無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3)。 2結論以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 |