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関連審決 異議2003-72470
関連ワード 発明者 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  着想 /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  取消決定 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10538号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社ダイヘン
訴訟代理人弁理士 深見久郎,森田俊雄,野田久登,吉田昌司,佐々木眞人
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 佐々木正章,高木彰,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-72470号事件について平成17年4月20日にした決定を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,発明の名称を「薄板状ワーク搬送用ハンド」とする後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲4)特許権者:株式会社ダイヘン(原告)発明の名称: 薄板状ワーク搬送用ハンド」 「特許出願日:平成7年4月18日設定登録日:平成15年1月31日特許番号:第3393955号(2) 本件手続特許異議事件番号:異議2003-72470号訂正請求日:平成16年6月21日(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書(甲5)を「本件明細書」という )。
決定日:平成17年4月20日決定の結論: 訂正を認める。特許第3393955号の請求項1〜5に係る発 「明についての特許を取り消す 」。
決定謄本送達日:平成17年5月25日(原告に対し)2 本件発明の要旨(本件訂正後のもの。以下,請求項の番号に応じて 「本件,発明1」などという )。
【請求項1】 薄板状ワークを載置する搬送用ハンドを水平方向に移動して前記薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ワーク搬送用ハンドにおいて,薄板状ではあるが主として水平面積が大で重量がある薄板状ワークの搬送に使用する薄板状ハンドであって,前記薄板状ハンドをカーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小にし,次に,前記自重による撓み量を小にしたハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にする薄板状ワーク搬送用ハンド。
【請求項2】 薄板状ワークを載置する搬送用ハンドを水平方向に移動して前記薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ワーク搬送用ハンドにおいて,上下間隔が狭く多数の上下方向に多段に棚を設けた棚状のカセットに対して水平方向に接近及び離間して,薄板状ではあるが主として水平面積が大で重量がある薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ハンドであって,前記薄板状ハンドをカーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小にし,次に,前記自重による撓み量を小にしたハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にする薄板状ワーク搬送用ハンド。
【請求項3】 薄板状ワークを載置する搬送用ハンドを水平方向に移動して前記薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ワーク搬送用ハンドにおいて,薄板状ではあるが主として水平面積が大で重量がある薄板状ワークの搬送に使用する薄板状ハンドであって,前記薄板状ハンドをカーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,前記薄板状ハンド先端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成された薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの前記U字状に形成された薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小にし,次に,前記自重による撓み量を小にしたハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にする薄板状ワーク搬送用ハンド。
【請求項4】 薄板状ワークを載置する搬送用ハンドを水平方向に移動して前記薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ワーク搬送用ハンドにおいて,上下間隔が狭く多数の上下方向に多段に棚を設けた棚状のカセットに対して水平方向に接近及び離間して,薄板状ではあるが主として水平面積が大で重量がある薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ハンドであって,前記薄板状ハンドをカーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,前記薄板状ハンド先端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成された薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの前記U字状に形成された薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小にし,次に,前記自重による撓み量を小にしたハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にする薄板状ワーク搬送用ハンド。
【請求項5】 搬送用ハンドにワーク吸着機構を付設した請求項1から請求項4のいずれかに記載の搬送用ハンド。
3 決定の要旨決定は,本件訂正を認めた上で,本件発明1〜5は,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定に違反し,取り消されるべきであるとした。
(1) 刊行物記載の発明ア 決定は,特開平7-99225号公報(以下「刊行物1」という。甲1)には,以下の発明(以下「刊行物1記載の発明」という )が記載されていると認定 。
した。
「半導体ウエハや液晶用ガラス角型基板などの大型基板を載置し,水平方向に移動して前記基板を積み降ろしするハンドにおいて,収納棚ピッチを大きくしない多段状態の基板カセットに対して水平方向に接近及び離間して,基板を積み降ろしするハンドであって,前記ハンドを超硬合金で構成して,ハンドの厚み及び重量を増大させることなく,ハンドの曲げ剛性を高めること 」。
イ 決定は 「機械エンジニアリング・プロジェクト開発事業報告書 昭和57 ,年度 生産技術高度化に関する調査研究(機械材料軽量化 」社団法人日本機械工 ),,,,, 業連合会 社団法人機械技術協会 昭和58年7月 第1〜3頁 第29〜43頁第127頁(以下「刊行物2」という。甲2)には,以下の事項(以下「刊行物2記載の事項」という )が記載されていると認定した。 。
「CFRPが軽量化,比強度の点で優れていること,及び,住友電工がロボットアームに採用したCFRPは,PAN系炭素繊維とエポキシ樹脂を組合わせたものであること 」。
(2) 周知事項, (「 」。), ア 決定は 特開平4-164592号公報 以下 周知例1 という 甲18実用プラスチック事典 材料編 株式会社産業調査会 初版第1刷1993年5 「」 ,,月1日,初版第3刷1996年4月20日発行,第594〜595頁(以下「周知例2」という。甲19 ,特開昭62-199439号公報(以下「周知例3」と )。), (「 」。) いう 甲20 特開昭52-137304号公報 以下 周知例4 という 甲21には 「CFRPの成形方法として加圧・圧締成形方法を使用すること,及び,そ ,のことによって加工歪みのない平面状態に形成すること (以下「周知事項1」と 」いう )が記載されていると認定した。 。
イ 決定は,特開平7-69445号公報(以下「周知例5」という )には,。
「」 (「 」 。) 基板搬送用ハンドに基板吸着機構を付設すること 以下 周知事項2 というが記載されていると認定した。
(3) 本件発明4についてア 刊行物1との対比(ア) 一致点「薄板状ワークを載置する搬送用ハンドを水平方向に移動して前記薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ワーク搬送用ハンドにおいて,上下間隔が狭く多数の上下方向に多段に棚を設けた棚状のカセットに対して水平方向に接近及び離間して,薄板状ではあるが主として水平面積が大で重量がある薄板状ワークを積み降ろしする薄板状ハンドである点 」。
(イ) 相違点「 相違点1〉前者(本件発明4。以下同様 )は,薄板状ハンドが 「前記薄板状ハンド先 〈。,端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成された ものであるのに対して 後者 刊 」,(行物1記載の発明。以下同様 )は,薄板状ハンドがそのような形状のものであるとは特定し 。
ていない点。
〈相違点2〉前者は,薄板状ハンドが 「カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂と ,からなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの前記薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小に」するものであるのに対して,後者は,薄板状ハンドが超硬合金から構成されるものである点。
〈相違点3〉前者は,薄板状ハンドが 「ハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前記 ,熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にする」ものであるのに対して,後者は,薄板状ハンドが超硬合金から構成されるものである点 」。
(。 )イ 相違点についての判断 判決注:本判決では刊行物の摘記事項の引用は省略した「 相違点1について〉 〈薄板状ワーク搬送技術分野において,薄板状ハンドが前記薄板状ハンド先端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成されたものであることは,刊行物1の摘記事項(ハ)にも示されているように,従来周知の事項である。
したがって,刊行物1記載の発明の薄板状ハンドを,前記薄板状ハンド先端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成されたものとすることは,当業者が容易になし得ることである。
〈相違点2について〉カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成したCFRPが軽量化,比強度の点で優れていることは刊行物2に示されている。
そして,刊行物1には 「ハンドの厚み及び重量を増大させることなく,ハンドの曲げ剛性 ,を高める」との課題が示唆されており(刊行物1の摘記事項(ロ)を参照,そうすると,上記課 )題がある刊行物1記載の発明のハンドに,課題を共通にする上記刊行物2記載の事項を適用して,ハンドの材質をカーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成したCFRPとし,材質の比重を小,すなわち,ハンド先端部の自重による撓み量を小にすることは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,CFRPの成形方法として加圧・圧締成形方法を使用すること,及び,そのことによって表面精度のよいCFRPを得ることは,従来周知の事項である( 周知事項1」を参照 。 「。)してみると,刊行物1記載の発明の相違点2に係る構成を,刊行物2記載の事項及び従来周,。 知の事項を組み合わせて本件発明4のようにすることは 当業者が容易になし得ることである〈相違点3について〉刊行物1記載の発明のハンドのような片持ち構造の部材において,長手方向の強度が幅方向の強度よりもより必要であることは,当業者にとって自明である。
ところで,特開平4-345148号公報(以下「刊行物3」という。本訴甲3)には,刊行物1発明のハンドと同様に片持ち構造の部材であるカメラ用遮光羽根において,部材長手方向の繊維方向の炭素繊維成分を有する熱硬化性部材と,その長手方向に直交する部材幅方向の繊維方向の炭素繊維成分を有する熱硬化性部材とを積層し加熱加圧して,部材長手方向の剛性を その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大にすることが示されている 刊行物3 , (の摘記事項(イ),(ロ)を参照 。当該記載事項において,部材長手方向の繊維方向の成分を有する )熱硬化性部材を,部材幅方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多く使用していることは,長手方向及び幅方向の剛性の関係から明らかである。
そうすると,刊行物1記載の発明のハンドの材質を,上述したように,カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成したCFRPとするに際して,併せて上記刊行物3記載の事項を適用し,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明4のようにすることは,当業者が容易になし得ることである。
〈作用効果について〉そして,本件発明4の作用効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない 」。
ウまとめ「したがって,本件発明4は,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 」。
(4) 本件発明1〜3について「, ,, 本件発明1〜3は 本件発明4の構成に欠くことができない事項のうち 薄板状ハンドが「上下間隔が狭く多数の上下方向に多段に棚を設けた棚状のカセットに対して水平方向に接近及び離間して 」薄板状ワークを積み降ろしするものであるとの事項,及び/又は 「薄板状ハ ,,ンド先端から基部側に平面中央部が切欠かれてU字状に形成された」ものであるとの事項を削除したものである。
そうすると,本件発明1〜3も,上記の本件発明4と同様の理由によって,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 」。
(5) 本件発明5について「本件発明5は,本件発明1〜4の構成に欠くことができない事項すべてに加えて,さらに「搬送用ハンドにワーク吸着機構を付設した」との事項を,その発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
ところで,上記の追加された事項は,薄板状ワーク搬送用ハンドの技術分野において,従来周知の事項である(上記の周知事項2を参照 。)そして,本件発明5の作用効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない。
したがって,本件発明5は,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 」。
(6) むすび「以上のとおりであるから,本件発明1〜5は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 」。
原告の主張の要点
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)刊行物2記載の事項及び従来周知の事項を組み合わせることにより,本件発明4の相違点2に係る構成にすることは,当業者が容易になし得ることであるという決定の判断は,誤りである。
決定は,刊行物1記載のハンドと刊行物2記載の事項とは課題が共通であるというが,刊行物1記載の発明のハンドの課題は「ハンドの曲げ剛性を高める」ことであって「ハンドの軽量化」ではなく,刊行物2記載の事項の課題は「アームの軽量化」であるから,両者の課題は異なる。
刊行物2のアームは,ロボットシステムの一部であるマニピュレータを構成するものであるが,ワークを直接支持するものではなく,ハンドとともにワークを移動させるものであるのに対し,刊行物1記載のハンドはワークを直接支持するものである。刊行物1記載のハンドと刊行物2記載のアームとでは,構造,機能,要求特性が全く異なるので,刊行物1記載のハンドの材料を選択するに際し,刊行物2記載のアームの材料を単純に適用できるものではない。
刊行物2には「作業工具は作業内容により変化するので一般的な規定が困難であるため,材料軽量化はマニピュレータについてのみ考慮すればよい (31頁17。」〜18行)と記載されており,材料軽量化は作業工具(ハンドを含む )について。
は考慮しないことが示唆されている この記載は 刊行物1記載のハンドに刊行物2 。,記載の事項を適用することを阻害するものである。
本件発明4は,大型の薄板状ワークが要求されるようになってきたことに起因する特有の問題を解決すべくなされたものであるが,本件発明4の出願前には,本件発明4のようなハンドの材料として金属を用いることが通例であった。ところが,本件発明者は,従来の延長線上にない全く新たな発想をして金属以外の材料に目を向け,ハンドの材料として「カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とから」, 。 なる熱硬化性部材 を採用することを着想し 当該材料を用いてハンドを実現したこれは,本件発明4の属する分野での常識を打ち破るような画期的なものである。
このようなハンドの材料の系譜に鑑み,ハンドの材料として金属以外の材料を採用することを着想すること自体決して容易なことではなく,このことからも刊行物1記載のハンドの材料として刊行物2記載のアームの材料を単純に適用できるものではない。
決定は,ハンド先端部の自重による撓み量を小にすることは当業者が容易に想到し得ることであると判断しているが,ハンド先端部の自重による撓み量を小にすることは,刊行物1,2に記載も示唆もされていないのであるから,この判断は誤りである。
以上によれば,相違点2に関する構成は当業者が容易に想到し得たものであるとの決定の判断は,誤りである。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)決定は,刊行物1記載の発明のハンドの材質として刊行物2に記載されたカーボン繊維強化プラスチック(以下「CFRP」という )を適用する際に,併せて刊 。
行物3記載の事項を適用し,相違点3に係る構成を本件発明4のようにすることは当業者が容易になし得ることであると判断したが,この判断は誤りである。
決定は,刊行物3に「部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大にすることが示されている」と認定しているが,刊行物3記載の発明では,カメラ用遮光羽根の中間層の剛性が表面層よりも低下したため,結果的に遮光羽根の表面層の剛性が中間層の剛性よりも高くなっているだけであり,遮光羽根の表面層の剛性を積極的に中間層の剛性よりも高めるというものではない。
したがって,刊行物3には「部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大にすること」は示されていない。
刊行物3記載のカメラ用遮光羽根は,その上に物,とりわけ重量物を載置するものではないので,刊行物3には「薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にするように,ハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多くする」という本件発明4の構成は記載されておらず,当該構成を容易に予測できるものでもない。
刊行物1記載の発明の属する技術分野と,刊行物3に記載の発明の属する技術分野とは,関連性に乏しく,刊行物1記載のハンドと刊行物3記載のカメラ用遮光羽根は,全くかけ離れた機能,要求特性,長さ,幅,厚み,移動速度,質量,支持荷重等を有している。また,刊行物1記載のハンドに,刊行物3記載のカメラ用遮光羽根の構成を単純に適用しても基板搬送装置のハンドとしては機能し得ない。したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の発明を適用することについては,阻害要因が存在する。
以上の理由から,刊行物3記載の事項を適用して相違点3に係る構成を本件発明4のようにすることが容易であるとした決定の判断は,誤りである。
3 取消事由3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)本件明細書には「加工歪のない平面状態とすることができ,軽量で機械的強度が大であって重力による撓みが小さい (段落【0075 )という顕著な作用効果が記載 」】されているが,刊行物1記載の発明は,超硬合金でハンドを構成しているので加工歪のない平面状態のハンドは容易には得られず,刊行物2,3にも上記のような作用効果は記載されていない。
本件明細書には「薄板状ハンドに薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にしながら,U字状部が幅方向に離間した位置で薄板状ワークを安定して支持することができる (段落【0077 )という顕著な作用効果が記載 」】されているが,決定はこの効果も看過している。かかる作用効果は,刊行物2,3記載の事項及び周知事項から容易に予測できるものではなく,刊行物1にも記載されていない。
このように,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び周知事項から,本件発明4の効果を容易に予測できるものではなく 「本件発明4の作用効果は, ,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び周知事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない 」との決定の判断は誤っている。 。
4結論以上によれば,本件発明4の進歩性を否定した決定の判断は誤りであり,本件発明1〜3,5についての判断も,本件発明4と同様の理由から誤りである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)に対して刊行物2記載の事項の課題は,単なる軽量化ではなく,あくまで強度,弾性率を同一レベルに維持しつつ,軽量化を図るものである 「ハンドの厚み及び重量を増 。
大させることなく,ハンドの曲げ剛性を高める (段落【0007 )という刊行物1記 」】載の発明の課題と,決定が刊行物2に示されている事項としてあげた「軽量化,比強度の点で優れていること」とは,重量を増大させずに必要な強度を確保しようとする点で共通する。したがって,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項の課題は共通であるとした決定の判断に誤りはない。
刊行物1記載のハンドと刊行物2記載のアームとは課題を共通にする以上,両者を組み合わせることに格別の困難性が存在しない。原告が阻害要因が示されているとする刊行物2の前記記載は,刊行物2記載の材料を刊行物1記載のハンドに適用することを阻害する記載とは理解し得ない。
仮に,原告の主張するように,本件発明4の出願前には,薄板状ワーク搬送用ハンドの材料として金属以外の材料が使用されていなかったという技術背景があったとしても,そのことは,薄板状ワーク搬送用ハンドの材料として金属以外のCFRPを使用する本件発明4が新規性を有することを示すにとどまり,進歩性を有することまでを裏付けるものではない。
したがって,原告の主張する取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)に対して刊行物3記載の遮光羽根1は,30μmの厚さのBステージ状態の「プリプレグシート2」2枚と30μmの厚さのBステージ状態の「プリプレグシート3」1枚とから形成されるものであるから,刊行物3には,部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大とするために,部材長手方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,部材幅方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多く使用することが記載されている。
しかも,部材の一方向の剛性を当該一方向と直交する他方向の剛性に比して大とするために,前記一方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,前記他方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多く使用することは,乙1,2に示されるように従来周知の技術事項である。
刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項とが課題を共通にするものであることは,前記のとおりである。そして,刊行物3の段落【0022】の「十分な剛性を維持しながら,軽量化及びコスト低減が図れる」との記載によれば,刊行物3記載の 。
事項も,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項と課題を共通にする。
そもそもCFRPが軽量かつ高い機械的強度の求められる材料であることは技術常識であり,そうすると,軽量かつ高い機械的強度の求められる刊行物1記載の発明に接した当業者が,CFRPを利用する刊行物2,刊行物3記載の技術を組み合わせようとすることは,むしろ当然というべきである。
,「 」 刊行物1記載の発明に組み合わせるものは 刊行物3記載の カメラ用遮光羽根そのものではなく,刊行物3記載の「部材長手方向の繊維方向の炭素繊維成分を有する熱硬化性部材と,その長手方向に直交する部材幅方向の繊維方向の炭素繊維成分を有する熱硬化性部材とを積層し加熱加圧して,部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大にする」との事項である。したがって,原告の主張は,その前提において誤っている。
以上によれば,刊行物1記載の発明のハンドの材質を,刊行物2記載の事項に適用し,カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成したCFRPとするに際し,併せて上記刊行物3記載の事項を適用し,薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。
3 取消事由3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)に対して原告が本件発明4の作用効果と称するもののうち「加工歪みのない平面状態と ,することができる」点については,周知例3(甲20,2頁右上欄2〜5行 ,周)知例4(甲21,2頁左上欄19行〜右上欄2行)に示されている。
「軽量で機械的強度が大であって重力による撓みが少ない」との作用効果につい,(【】),( , ) ては 刊行物1 段落 0007 刊行物2 32頁15〜19行 33頁1〜5行に示されており,また,軽量で機械的強度が大であれば重力すなわち自重による撓みが少ないことは,技術常識である。
「薄板状ハンドに薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にしながら,U字状部が幅方向に離間した位置で薄板状ワークを安定して支」,(【】 ,【】, 持することができる との作用効果については 刊行物1 段落 0004 0007【0009 )に示されている。】したがって,本件発明4の作用効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2,3記載の事項及び従来周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではないとした決定の判断に誤りはない。
4結論以上のとおりであるから,決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の決定取消事由は,いずれも理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)について(1) 決定は,本件発明4においては 「薄板状ハンドが,カーボンを含む可撓性 ,繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの前記薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小にするものである」のに対して,刊行物1記載の発明においては 「薄板状ハンドが,超硬合金から構成されるものである」点を相違点2として認定した上で,相違点2に係る構成は,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載の事項及び周知事項を組み合わせることにより,当業者が容易になし得ることであると判断した。
(2) これに対し,原告は,刊行物1記載のハンドと刊行物2記載のアームとでは,課題が全く異なるので,刊行物1記載のハンドに刊行物2記載の事項を適用することは,当業者が容易に想到し得ることではないと主張する。
ア そこで,まず,刊行物1記載の発明について,検討する。
(ア) 刊行物1には,以下の記載がある。
(a) 「 産業上の利用分野】 【この発明は、半導体製造装置や液晶基板製造装置などの基板処理装置において、半導体ウエハや液晶用ガラス角型基板などの基板(以下、単に「基板」という)を複数の単位処理部の間で搬送する基板搬送装置に関する (段落【0001 ) 。」】(b) 「 発明が解決しようとする課題】 【ところで、近年、基板の大型化に伴って、基板重量の増大によるハンドの撓みが問題となっている。すなわち、大型基板の重力により片持ち状態にあるハンドが下方に撓み、基板を水平状態に保つことができなくなる。そのため、例えば基板を多段状態の収納棚に収納する基板カセットでは、その収納棚ピッチを大きくしなければならず、その結果基板処理装置の大型化を招くといった問題が生じる。
撓みの解消という観点から考えれば、例えばハンドの厚みを厚くしてハンドを曲げ剛性の大きくするという方法が考えられるが、撓み量は少なくなるが、ハンドの厚みの増大に伴って収納棚ピッチなどを大きくする必要があり、基板処理装置の大型化を防止することができず、しかもハンド自体の重量も増大してしまう。 …さらに、ハンドを横弾性係数の大きな材料(例えば超硬合金)で構成することにより、ハンドの厚み及び重量を増大させることなく、ハンドの曲げ剛性を高めることが可能であるが、この種の構造材は一般に高価であり、基板搬送装置のコスト増大という問題を引きおこす (段。」落【0004】〜【0007 )】(イ) 以上の記載によれば,刊行物1には,基板の大型化に伴い,基板重量の増大によりハンドが撓むという問題点に対して,ハンドの厚み及び重量を増大させることなくハンドの剛性を高めることが課題として記載され,そのためにハンドを構成する材料を工夫することが示唆されているということができる 原告は 刊行物1。,記載の発明のハンドの課題は,ハンドの曲げ剛性を高めることであり,ハンドの軽量化を行うことではないと主張するが,刊行物1には「ハンドの厚み及び重量を増大させることなく,ハンドの曲げ剛性を高める」と記載されているのであるから,ハンドの剛性とともにその軽量化や薄型化が技術課題とされていることは明らかである。
イ 次に,刊行物2記載の事項について,検討する。
(ア) 刊行物2には,以下の記載がある。
(a) 「機械工業のほとんどの分野で,軽量化へのニーズは強いが,業種によりそのアプローチの手法は当然異なる。また各業種とも,軽量化の意欲は十分あるが,Al,プラスチック,FRPなどの軽量材料の取扱いに必ずしも習熟していないため実施をためらっている例が少なくない。…もっとも軽量化ニーズが強いのが,産業用ロボットである (1頁2〜7行) 。」(b) 「産業用ロボット界では,アームの軽量化にFRPを利用することが,一二のメーカーで試みられているが,その効用については賛否半ばしている。
ここでは塗装ロボットの水平アーム(Al合金で作られている)を対象とし,FRP…による軽量化を検討してみた。FRPとしてはCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)がすぐれていることは自明である… (1頁22行〜28行) 」(c) 「ロボットアームの軽量化の事例産業用ロボットは,マニピュレータ,作業工具,制御装置により構成されているが,作業工具は作業内容により変化するので一般的な規定が困難なため,材料軽量化はマニピュレータについてのみ考慮すればよい。…マニピュレータの構成要素は,アーム,アーム用アクチュエータ(モータ,あるいは油圧駆動装置 ,手首,手首用アクチュエータ…などであるが,材料軽量化に対してはアームを中心 )に検討が進められているので,以降はロボットアームの軽量化について述べることとする。…現在ではさらにFRP,とくにCFRPを採用する動きが1982年あたりから徐々に盛り上がりを見せている。CFRPが軽量化に抜群の威力を発揮することは,既に航空機やゴルフクラブのブラックシャフトで実証済みである。…CFRP化の最大の狙いはアーム軽量化とそれに伴なう駆動用モータの小型化にあり,住友電気工業が試作した6関節のアームを持つ知能ロボットへの採用例を図2.3.3に示す。この事例では,アームの部材のほとんどにアルミ合金の代わりにCFRPを採用しており,アームの…可搬重量は約1Kgである。
CFRPとしてはPAN系炭素繊維とエボキシ樹脂を組合わせたものを用いている…。同材料は比強度,比弾性率ともアルミや鋼を大きくしのぐ(図2.3.4 。)その結果,同一の曲げ弾性モーメントを持つアームをCFRPとアルミでそれぞれ作った場合CFRPは平均で47%の軽量化が達成されている (31頁15行〜33頁5行) 。」(d) 「軽量化の検討…図3.2.6に示す断面形状のアルミ合金製アームを対象事例とし,曲げ剛性(EI)及び引張強さを同等程度に保ちながら,重量の50%近くの軽減を目標にFRP及びFRMを用いた軽量化の検討を行う (35頁下から5行〜36頁1行) 。」(e) 「考察産業用ロボットのアームの軽量化を目的に,現状はアルミ合金板の板曲げプラス溶接で製造しているアーム材料の,FRPあるいはFRMへの代替を検討した結果のまとめを表2.3.7に示す。
…CFRPを代替材とすれば最も軽量化が図れ,60%近い軽量化率が達成可能であるが,価格は最も高く現状の約10倍となる (41頁18〜23行) 。」(イ) 上記記載によれば,刊行物2には,産業ロボットのアームについて,その曲げ剛性及び引張強さを同等程度に保ちながら,材質による軽量化を検討したところ,本件発明4が薄板状ハンドを構成する材料として採用した「カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材」により形成したCFRPが軽量化の点で優れているとの結果を得たことが開示されているということができる。
ウ 上記ア,イによれば,刊行物1においては,ハンドの剛性を高めるとともにその軽量化や薄型化を図ることが技術課題として記載され,ハンドを構成する材料を工夫することにより解決することが示唆されているのに対し,刊行物2には,ロボットのアームについて,CFRPを採用することにより,剛性を確保しつつ軽量化を達成することができることが開示されているということができる。すなわち,刊行物1と刊行物2には,剛性の確保と軽量化の両立という共通の課題が記載されており,刊行物2には,CFRPを採用することにより,この課題を解決できることが示されているということができる。
(2) 原告は,刊行物1記載の基板搬送装置のハンドと刊行物2記載のロボットのアームとでは,構造,機能,要求特性が全く異なるので,刊行物1記載のハンドの材料を選択するに際し,刊行物2記載のアームの材料を単純に適用できるものではないと主張する。
,()「 , しかしながら 周知例1 甲18 に 一端の固定端を作動体に連結すると共に他端の自由端に被搬送物把持用のロボットハンド…を連結するロボットアーム 1」(頁左欄下から7〜4行)が開示されているように,ロボットアームはその先端においてハンドと連結され,ハンドが被搬送物を把持した状態(その重量がアームに加わった状態)で移動等をするものであることから,前記のとおり,軽量化,剛性といった特性が求められるのに対し,刊行物1記載のハンドも,基板の重量がハンドに加わった状態で移動しつつ基板を搬送するものであり,刊行物2記載のロボットアームと同様に,剛性や軽量化といった特性が要求されるものであるということができる。
そうすると,刊行物1記載の基板搬送装置のハンドと刊行物2記載のロボットのアームとは,機能や要求特性において共通した点を有するのであり,両者の構造,機能,要求特性が全く異なるとする原告の主張は採用し得ない。
(3) 原告は,本件発明4の出願前には,ハンドの材料として金属を用いることが通例であり,ハンドの材料として金属以外の材料を採用することを着想することは容易なことではないと主張する。
しかしながら,プラスチックが金属の代替品として広く利用されていることは周知であり,とりわけCFRPがその強度,弾性等に照らし金属材料に代替し得るものであることは,刊行物2の「住友電気工業が試作した6関節のアームを持つ知能ロボットへの採用例を図2.3.3に示す。この事例では,アームの部材のほとんどにアルミ合金の代わりにCFRPを採用しており,…同材料(判決注:CFRP)は比強度,比弾性率ともアルミや銅を大きくしのぐ (32頁7〜19行)との記載 」からも明らかである。
また,CFRPの適用分野が産業ロボット分野に限らず,運動する装置や構造物で広く利用されていることは,周知例3(甲20)に「CFRPは高い比強度,比,, ,, 弾性率 耐疲労性 減殺振動性等の優れた特性を有するため宇宙航空関係 自動車スポーツ,レジャー関係分野等で使用されてきた (1頁右欄1〜4行)と記載さ 。」れているとおりであり,刊行物1記載の基板搬送装置や本件発明4のような薄板状ワーク搬送用ハンドの分野に産業ロボット分野の技術を応用し得ることも,甲18に被搬送物把持用のロボットアームが開示され,甲6〜13の製品カタログ等に基板搬送用ロボットが掲載されていることが示すとおりである。
以上のとおり,刊行物1記載の搬送用ハンドと刊行物2記載のロボットアームの課題,機能,要求特性の共通性,技術分野の近接性等に照らすと,本件発明4のような薄板状ワーク搬送用ハンドの分野において,これまで金属以外の材料を採用した例がなく,カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化性樹脂とからなる熱硬化性部材が全く新たな材料であったとの原告主張を考慮に入れても,なお,刊行物1記載の発明に接した当業者は,刊行物2記載のCFRPを適用し,相違点2に係る構成を容易に想起し得たものというべきである。
(4) 原告は,刊行物2の「作業工具は作業内容により変化するので一般的な規,。 」 定が困難であるため 材料軽量化はマニピュレータについてのみ考慮すればよい(31頁17〜18行)との記載は,ハンドを含む作業工具について材料の軽量化を考慮する必要がないことを意味するのであるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することを阻害すると主張する。
しかしながら,決定は,刊行物2記載の事項として「CFRPが軽量化,比強度の点で優れていること,及び,住友電工がロボットアームに採用したCFRPは,PAN系炭素繊維とエポキシ樹脂を組合わせたものであること 」と認定している。
のであって,刊行物2記載のロボットのハンド(作業工具)の軽量化が必要であることを前提として上記事項を認定しているものではない。
したがって,原告の上記主張は決定を正解しないものであり,失当である。
(5) 原告は ハンド先端部の自重による撓み量を小にすることは 刊行物1 2 ,,,には記載も示唆もされていないのであるから,当業者が容易に想到し得ることではないと主張する。しかしながら,刊行物1記載の発明に刊行物2記載のCFRPを適用すれば,ハンドの材質の比重を小さくしつつ,ハンドの曲げ剛性を確保することができるのであるから,ハンド先端部の自重による撓み量を小にすることができることは当然である。
(6) 以上のとおり,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項の課題,要求特性,機能等における共通性に照らすと 「カーボンを含む可撓性繊維質材と熱硬化 ,性樹脂とからなる熱硬化性部材により形成して前記薄板状ハンドの材質の比重を小にすると共に,前記熱硬化性部材を加圧・圧締成形方法を使用して加工歪みのない平面状態に形成することによって,薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置しないときの前記薄板状ハンドの両先端部の自重による撓み量を小に」することは,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項及び周知事項を適用することにより,当業者であれば,容易に想到し得たものというべきである。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について(1) 決定は,薄板状ハンドが 「ハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する前 ,記熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する前記熱硬化性部材よりも多く使用して,薄板状ハンドの長手方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の前記熱硬化性部材の縦弾性係数よりも大にして,前記長手方向の機械的強度を大にすることによって,前記薄板状ハンドに前記薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にするもの」であるのに対して,刊行物1記載の発明は「薄板状ハンドが超硬合金から構成されるもの である点を相違点3と認定した上で 刊行物1 」,記載の発明に刊行物2記載の事項を適用する際に刊行物3記載の事項を適用し,本件発明4のようにすることは,当業者が容易になし得ることであると判断した。
(2) これに対し,原告は,刊行物3記載の発明は,遮光羽根の表面層の剛性を積極的に中間層の剛性よりも高めるというものではないので,刊行物3には「部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部材幅方向の剛性に比して大にすること」は示されていないと主張する。
ア そこで,検討するに,刊行物3には,以下のとおりの記載がある。
(ア) 「 実施例】…図3に1枚の遮光羽根1が示されており,図1のように表面層となるプ 【リプレグシート2を二枚と中間層となるプリプレグシート3とによって構成されている。表面層となるプリプレグシート2は,高価であるが高弾性を有するピッチ系の炭素繊維5を一方向に揃えて薄板状に並べ,これに例えばエポキシ,不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂等からなるマトリックス樹脂6を含浸することにより,例えば30μmの厚さのBステージ状態(半硬化状態)のシートとして形成する。
中間層となるプリプレグシート3は,弾性に劣るが比重が小さくて安価なPAN系の炭素繊維7を一方向に揃えて薄板状に並べ,これに表面層の場合と同様に,例えばエポキシ,不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂等からなるマトリックス樹脂8を含浸して,例えば30μmの厚さのBステージ状態のシートとして形成する。中間層の炭素繊維7は羽根の幅方向に配向されて同方向の剛性を強化するものであり,同方向の剛性は同長手方向の剛性に比して,小さくて済むため,PAN系の炭素繊維でも十分である。
次に中間層となるプリプレグシート3の炭素繊維7の方向と,二枚の表面層となるプリプレ,()。」 グシート2の炭素繊維5の方向とが直角となるように向きを定め これらを積層する 図1(段落【0009】〜【0011 )】(イ) 「プリプレグシート積層体の表面層をピッチ系炭素繊維,中間層をPAN系炭素繊維からそれぞれ構成し,この表面層の炭素繊維が遮光羽根の長手方向,中間層の炭素繊維が幅方向となるように配置することにより,十分な剛性を維持しながら,軽量化及びコスト低減が図れる (段落【0022 ) 。」】イ 以上の記載によれば,刊行物3には,@遮光羽根1は表面層を形成するプリプレグシート2を2枚と中間層となるプリプレグシート3とによって構成されること,Aプリプレグシート2の炭素繊維5は,高価だが高弾性を有するピッチ系のものであるのに対し,プリプレグシート3の炭素繊維7は,弾性に劣るが比重が小さくて安価なPAN系のものであること,B炭素繊維5は,大きな剛性が必要な羽根の長手方向に配向されるのに対し,炭素繊維7は,羽根の幅方向の剛性を強化するものであるが,この方向の剛性は長手方向に比べて小さな剛性で足りることが記載されているものと認められる。
そうすると,刊行物3には,部材長手方向の剛性を,その長手方向に直交する部。, 材幅方向の剛性に比して大にすることが示されているということができる 原告は刊行物3記載の発明は,表面層の剛性を積極的に中間層の剛性よりも高めたものではないというが,本件発明4は長手方向の剛性を「積極的に」高めることを要件とするものではなく,原告の主張は失当というほかない。
(2) 原告は,刊行物3記載のカメラ用遮光羽根は,その上に重量物を載置するものではないので,刊行物3には「薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にするように,ハンドの長手方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,その長手方向に直交するハンドの幅方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多くする」という本件発明4の構成は記載されていないと主張する。
しかしながら 「薄板状ワークを載置する搬送用ハンド」は,刊行物1に記載さ ,れている事項であり,一致点として認定されているのであるから,かかる記載が刊行物3にないからといって,刊行物3記載の事項を刊行物1記載の発明に適用することが妨げられるものではない。
(3) 原告は,刊行物1記載の発明の属する技術分野と,刊行物3に記載の発明の属する技術分野とは関連性に乏しく,刊行物1記載のハンドと刊行物3記載のカメラ用遮光羽根は,全くかけ離れた機能,要求特性,長さ,幅,厚み,移動速度,質量,支持荷重等を有しているのであるから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の発明を適用することについては,阻害要因が存在すると主張する。
確かに,刊行物1記載の基板搬送装置と刊行物3記載のカメラ用遮光羽根とは,技術分野における関連性が薄く,その構造,機能,形状も異なるものと認められ,被告が主張するように,刊行物1記載の発明に接した当業者が,刊行物2,3記載の技術を組み合わせようとすることが当然とまではいえない。
しかしながら,部材の一方向の剛性を当該一方向と直交する他方向の剛性に比して大とするために,前記一方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,前記他方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多く使用することは,乙1(特開昭53-101080号公報 ,乙2(特開昭57-2750号公報)に示され )るように従来周知の技術事項である。
すなわち 「プラスチック強化板」に関する発明である乙1には「タイプバー本 ,体は印字時の衝撃力に耐える耐衝撃性,印字を瞬間的に行うための高い弾性率及び振動減衰性が要求される (1頁右欄5〜8行 「本発明の上記目的は,カーボ 。」),ン化又はグラファイト化した繊維を主体とする繊維状物質を一方向に配列して補強したプラスチックシートを,繊維の配列方向を異ならせて複数枚積層したことを特徴とするプラスチック強化板を提供することによって達成することができる (2。」頁左上欄7〜12行)と記載され,プラスチック強化板について繊維状物質の配列方向を調整することにより一方向の剛性を他方向の剛性より大きくするとともに,当該他方向の剛性も補強できることが示されている。
また 「多方向多層積層パイプ」に関する発明である乙2には 「炭素繊維が1方 ,,向に並んでいる,いわゆる1方向強化CFRP…は繊維方向には非常に強い強度,弾性率を有するが,捩り弾性率は低く,また繊維と直角方向には強度・弾性率が低く,大きな異方性を有する。このため,目的に応じて繊維の配列が異なる層を2層以上積層した多層構造とする場合が多い(1頁右欄7〜13行)と記載され,C 。」FRPパイプについて,炭素繊維の配列方向を調整することにより一方向の剛性を他方向の剛性より大きくするとともに,当該他方向の剛性も補強できることが示されている。
このように,部材の一方向の剛性を当該一方向と直交する他方向の剛性に比して大とするために,前記一方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材を,前記他方向の繊維方向の成分を有する熱硬化性部材よりも多く使用することは,刊行物3の,, 。 , みならず 乙1 2にも示されている周知技術であるということができる 決定はかかる周知事項を刊行物3から抽出し,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用する際に,併せて適用したものと理解できるのであり,刊行物1記載の基板搬送装置と刊行物3記載のカメラ用遮光羽根とが技術分野における関連性が薄いとしても,そのことは,刊行物3記載の事項を刊行物1記載の発明に適用するに当たり阻害要因となるものではない。
(4) 以上によれば,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用して相違点3に係る構成を本件発明4のようにすることが容易であるとした決定の判断に誤りがあるということはできない。
3 取消事由3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)について原告は,本件発明4は「加工歪のない平面状態とすることができ,軽量で機械的強度が大であって重力による撓みが小さい (甲4の段落【0075 「薄板状ハン 」】),ドに薄板状ワークを載置したときの薄板状ハンド先端の撓み量を十分に小にしながら,U字状部が幅方向に離間した位置で薄板状ワークを安定して支持することができる (同段落【0077 )などの顕著な効果を奏するが,決定はこれらの効果を看過 」】していると主張する。
しかしながら 原告が指摘する上記作用効果は刊行物1記載の発明 刊行物2 3 ,,,,記載の事項及び従来周知の事項を組み合わせた構成自体から得られる自明な作用効果にすぎないのであって,これらの刊行物等から予期し得ない顕著な効果を奏するものということはできない。
したがって,本件発明4の作用効果は,甲1記載の発明,甲2,3記載の事項及び従来周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであるとの決定の判断に誤りはない。
4結論以上のとおり,本件発明1〜5は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした決定の判断は是認でき,原告主張の決定取消事由は,いずれも理由がない。よって,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文