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関連審決 不服2002-13187
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  出願公開 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  技術的意義 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10597号 審決取消請求事件
原告 ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー
訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同河野哲
同中村誠
同 堀内美保子
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人溝渕良一
同 粟津憲一
同高木彰
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が不服2002-13187号事件について平成17年3月22日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文1項及び2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年3月18日(優先権主張1996年3月22日,米国)に,発明の名称を「改良された獲得性能を有する吸収性コア及びそれらを含む吸収製品」とする国際特許出願(特願平9-533642号,以下「本件出願」という。)をした。その後,原告は,本件出願に関して,平成13年4月3日発送の拒絶理由通知を受けたので,同年7月3日付けで手続補正(以下「本件補正」といい,この補正後の本件出願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をしたが,平成14年4月3日付け(同年4月16日発送)の拒絶査定を受けた。原告は,上記拒絶査定を不服として,同年7月15日に審判を請求し,特許庁は,この請求を不服2002-13187号事件として審理した上,平成17年3月22日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月5日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲(本件補正後の請求項1。以下,この発明を「本願発明1」という。)「排出された水性身体流体を吸収することのできる吸収性コアであり,(1)水性流体を受け取ることのできる上部流体獲得/分配部材であって,吸収性コアの流体排出領域内に配置される上部流体獲得/分配部材,(2)少なくとも部分的に前記上部流体獲得/分配部材の下側にこれと流体連通して配置される少なくとも一つの上部流体貯蔵部材であって,水性身体流体で充分に飽和したときに少なくとも100%z方向に膨張して流体獲得ゾーンを形成することができ,前記少なくとも一つの流体貯蔵部材の前記膨張から形成される前記流体獲得ゾーン内への膨張が実質的に防止される少なくとも一つの流体貯蔵部材,(3)水性身体流体を受け取ることのできる流体獲得ゾーンであって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材により取り囲まれ,少なくとも部分的に吸収性コアの流体排出領域の下側に配置される流体獲得ゾーン,および(4)水性身体流体を獲得し移送することのできる下部流体獲得/分配部材であって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材の下側にこれと流体連通して配置される下部流体獲得/分配部材,を含む吸収性コア。」3 本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明1は,欧州特許出願公開第695541号明細書(以下「引用例」という。甲4)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
本件審決が,上記判断をするに当たり,本願発明1と引用例の第6図に実施例として記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比して認定した一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
(一致点)「排出された水性身体流体を吸収することのできる吸収性コアであり,(1)水性流体を受け取ることのできる上部流体獲得/分配部材であって,吸収性コアの流体排出領域内に配置される上部流体獲得/分配部材,(2)少なくとも部分的に前記上部流体獲得/分配部材の下側にこれと流体連通して配置される少なくとも一つの上部流体貯蔵部材,(3)水性身体流体を受け取ることのできる流体獲得ゾーンであって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材により取り囲まれ,少なくとも部分的に吸収性コアの流体排出領域の下側に配置される流体獲得ゾーン,および(4)水性身体流体を獲得し移送することのできる下部流体獲得/分配部材であって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材の下側にこれと流体連通して配置される下部流体獲得/分配部材,を含む吸収性コア」 である点。
(相違点)本願発明1の上部流体貯蔵部材が,「水性身体流体で充分に飽和したときに少なくとも100%z方向に膨張して流体獲得ゾーンを形成することができ,前記少なくとも一つの流体貯蔵部材の前記膨張から形成される前記流体獲得ゾーン内への膨張が実質的に防止される」とされているのに対し,引用発明の貯蔵ゾーン13,13’について,湿潤したときのz方向への膨張の程度,及び,中央捕捉ゾーン内への膨張の防止について引用例には記載されていない点。
原告主張の取消事由の要点
本件審決は,引用発明の認定を誤った結果,本願発明1と引用発明の相違点を看過し,また,本願発明1の引用発明との相違点に係る構成の進歩性判断を誤ったものであるから,違法として,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過)(1) 本件審決は,引用発明の「下層5」が本願発明1における「下部流体獲得/分配部材」に対応し,引用発明の「下層5」も,貯蔵ゾーンの下側にこれと流体連通して配置され,身体から排出された液体を吸収保持するものであり,本願発明1に例示されたと同様の繊維質のものであれば,水性身体流体を獲得し移送することのできるものであるということができる旨判断したが,誤りである。
引用例(甲4)には,「尿のような液体及び他の特定の身体の滲出物を吸収して保持できる任意の吸収性繊維質の手段を有するのがよい。」(7頁12欄28行〜32行,抄訳(j))と記載されており,下層5(混合層5)に,かかる液体を吸収して保持できる吸収性繊維質手段を付与するために,混合層5に比較的高割合で吸収性ゲル化剤を含有させている(8頁13欄20行〜28行,抄訳(その2)1頁20行〜24行)。このように,引用発明の「下層5」は流体を吸収し保持するためのものであり,本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」のように流体を分配し移送するものではない。
引用発明においては,「下層5」が比較的高割合で吸収性ゲル化剤粒子を含有するから,液体の吸収/保持部材として用いられる場合,「下層5」に吸収された流体はそのまま保持され,「上捕捉層25」はその容量を十分活用され得ない。これに対し,本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」は,流体を獲得し分配する機能を有するものであり,「下部流体獲得/分配部材」は上部流体貯蔵部材と流体連通しているため,この貯蔵部材の容量が十分活用されることとなるとの作用効果を奏する。
本件審決は,本願発明1と引用発明の上記の相違点を看過し,両者が,「(4)水性身体流体を獲得し移送することのできる下部流体獲得/分配部材であって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材の下側にこれと流体連通して配置される下部流体獲得/分配部材」を含むとの点で一致する旨誤って認定したものであり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 本件審決は,引用発明の「貯蔵ゾーン13,13’」が湿潤時に液体を吸収する吸収性ゲル化剤粒子によって膨張することは明らかであるとし,湿潤したときにz方向に膨張することを前提として,引用例にはz方向への膨張の程度が記載されていない旨認定したが,誤りである。
ア 引用例(甲4)の第12図には,基材7で吸収性ゲル化剤粒子9の周囲を空容積なく包みこむことにより形成された二つのチャンバが貯蔵ゾーン13,13’のところに形成された実施例が示されており(9頁15欄18行〜28行,抄訳(l)),湿潤時に吸収性ゲル化剤粒子9が膨張できる空間は粒子間の隙間しかなく,第12図は「貯蔵ゾーン13,13’」が膨張できないことを示していると理解すべきである。
本件審決は,本願発明1の上部流体貯蔵部材が,「水性身体流体で充分に飽和したときに少なくとも100%z方向に膨張して流体獲得ゾーンを形成することができ,前記少なくとも一つの流体貯蔵部材の前記膨張から形成される前記流体獲得ゾーン内への膨張が実質的に防止される」ものであるのに対し,引用発明の貯蔵ゾーン13,13’はz方向に膨張しない,との相違点を看過したものであり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
イ 被告は,引用発明として認定した引用例の第6図に記載の「貯蔵ゾーン13,13’」も吸収性ゲル化剤粒子で形成されているから,体内から排泄された尿等の液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加することは明らかである,と主張する。
原告は,吸収性ゲル化剤粒子が液体を吸収して湿潤した際に膨潤する性質を有するという,吸収性ゲル化剤粒子が有する特性自体を否認するものではないが,引用例には,第6図の実施例に関し,吸収性ゲル化剤粒子9が湿潤により膨張する際における,捕捉ゾーン11を確保するための貯蔵ゾーンの膨張システムについて,記載も示唆もない。本願発明1の進歩性判断においては,湿潤時における吸収性ゲル化剤粒子の捕捉ゾーン11内への膨張を抑制するための構造が開示された第12図に記載の実施例において,貯蔵ゾーンが湿潤時に膨潤し容積を増加することが開示されているか否かが重要となるはずである。
しかるに,前記アにおいて指摘したとおり,引用例には,第12図の実施例の説明として,捕捉ゾーン11内への吸収性ゲル化剤粒子9の膨張を抑制するために,二重区分14,14’のところでそれ自体をシールした基材7により吸収性ゲル化剤粒子9が拘束されていることが記載され,該実施例について厚さ方向(z方向)に貯蔵ゾーンが膨張し得ることについては記載も示唆もないから,湿潤時に吸収性ゲル化剤粒子9が膨張することができる空間は,粒子間のわずかな隙間しかなく,湿潤時に膨潤により自由に容積を増加することができない,すなわち吸収性ゲル化剤粒子の上記特性が阻害されているとみるのが自然である。
そうすると,引用例の第12図に示された実施例において,「貯蔵ゾーン13,13’」は湿潤時においても膨張しないと解するのが合理的な解釈というべきであって,被告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)(1)ア 本件審決は,引用例に,中央捕捉ゾーンを部分的に取り囲むように配置された貯蔵ゾーンが湿潤したとき,その膨張が捕捉ゾーン内に及ぶことのないように拘束すること,及び,その結果,湿潤状態にあっても,捕捉ゾーンが液体に対して透過性のままであることが示されており,引用発明の貯蔵ゾーン13,13’に,上記の技術的事項を適用して,湿潤時の貯蔵ゾーンの膨張が捕捉ゾーン内に及ぶことを防止するようにすることは,当業者が引用例の記載から容易に想到し得るものと認められる旨判断したが,誤りである。
引用例(甲4)には,第12図の説明として,吸収性ゲル化剤粒子9が基材7によって拘束されていることにより,捕捉ゾーン11内に吸収性ゲル化剤粒子9が膨張できず,その結果,吸収構造体が湿潤状態にあるときでも液体に対して透過性のままである点が挙げられているが(9頁15欄18行〜28行,抄訳(l))が,前記1(2)において指摘したとおり,同図に示される実施例は,吸収性ゲル化剤粒子の捕捉ゾーン内への膨張抑制のみならず,本願発明1でいうz方向への膨張をも妨げるものというべきである。そうすると,本件審決が,引用例の第12図に示される実施例の説明として,貯蔵ゾーンの吸収性ゲル化剤が湿潤したときに,捕捉ゾーン内への膨張を防止するように基材によって拘束することが開示されている旨認定し,捕捉ゾーン内のみの膨張抑制を認定したことは,誤りである。
ところで,本願発明1は,上部流体貯蔵部材が水性身体流体で充分に飽和したとき,z方向に少なくとも100%膨張して流体獲得ゾーンを形成する一方,該z方向への膨張により該流体獲得ゾーン内へ膨張することが抑制され,これにより流体捕獲ゾーンの体積が効果的に増加し,水性身体流体の連続して起こる「噴出」をより良く処理することができるという作用効果を奏するものである。
そうすると,引用発明に,引用例の第12図の実施例に開示される技術的事項を適用したとしても,本願発明1の上記作用効果を得ることはできないことが明らかである。
イ 被告は,当然に膨張するものに関して,特定方向に膨張させないと記載されている場合,特に記載のない方向には当然に膨張するとすることが,自然な理解であって,引用例には,吸収性ゲル化剤粒子9の湿潤時に,吸収性ゲル化剤粒子9の捕捉ゾーン内への膨張を防止している技術が開示されているものとみるべきである旨,主張する。
しかし,前記1(2)のとおり,基材の拘束により,湿潤時に膨潤し容積が増加するという吸収性ゲル化剤粒子の特性が制限されることは明らかであるから,引用例の第12図の実施例の解釈の前提として,吸収性ゲル化剤粒子が「当然に膨張するもの」と認定することは,誤りである。
ウ 被告は,引用例の第12図のものも本願明細書の第2図のものと同様のものを図示するのであるから,厚さ方向に膨張して容積を増加することを前提として解釈することに何ら妨げはない旨主張する。
しかし,引用例の第12図のものと本願明細書の第2図のものとは,図示された構成自体に差異がないことは事実であるものの,本願明細書の第2図は,吸収性コアの全体的構造を示すための概略図であり,該図によって吸収性コアの湿潤時における膨張を調節するためのシステムを示すものではないから,本願明細書の第2図と同様の図が引用例の第12図にあることのみを理由として,引用例の第12図に記載のものが湿潤時に本願発明1でいうz方向へ膨張するものといえないことは,明らかである。
引用例には,湿潤状態において液体に対する捕捉ゾーンの透過性を確保するために,貯蔵ゾーンの膨張を抑制する技術が開示されているといえるが,膨張の制限に係る引用例に記載の技術を「引用発明」の貯蔵ゾーン13,13’に適用することによっては,水性身体流体で充分に飽和したときに流体貯蔵部材をz方向に少なくとも100%膨張させることにより流体獲得ゾーンを形成する本願発明1に想到し得ないことは,明らかである。
そして,Z方向に少なくとも100%膨張して流体獲得ゾーンを形成する一方,流体獲得ゾーン内への膨張が抑制されることにより,連続して起こる水性身体流体を効果的に処理できるという本願発明1により奏される作用効果は,貯蔵ゾーンの捕捉ゾーン捕捉への膨張を抑制するためにz方向への膨張も抑制される引用例の第12図に示された技術からは,当業者であっても予測できるものではない。
(2) 本件審決は,引用発明の「吸収構造体1」は湿潤時における外側周囲方向への膨張が規制されるから,中央捕捉ゾーンへの膨張を阻止された貯蔵ゾーンはz方向へ膨張することになり,それによって中央捕捉ゾーンの容積が増加することも当業者が容易に予測しうるところであり,本願発明1においてz方向への膨張を少なくとも100%と規定したことに関しても,通常100%以上のものが慣用される以上の格別な臨界的意義について,本願明細書には何ら明記されておらず,上記数値の限定にも格別の技術的意義を認めることはできない旨判断したが,誤りである。
前記1(2)及び上記(1)のとおり,引用例の第12図に示された実施例においては,貯蔵ゾーン13,13’は,中央捕捉ゾーンへの膨張だけでなく,z方向への膨張をも阻止されるものであり,引用例には,湿潤時において,貯蔵ゾーンの外側周囲方向への膨張が規制され,中央捕捉ゾーンへの膨張が阻止された貯蔵ゾーンが,z方向へ膨張することになることに関し,記載ないし示唆されておらず,z方向へ少なくとも100%膨張することにより流体獲得ゾーンを確保し,それにより水性身体流体の連続して起こる「噴出」をより良く処理する本願発明1を,引用例に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
被告の反論の要点
本件審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について(1) 引用例(甲4)の「混合下層内の吸収性ゲル化剤粒子の重量は,混合下層の重量の70%以下,好ましくは,60%以下であり」(3頁3欄22行〜25行,抄訳(その2)1頁9行〜10行),「繊維と吸収性ゲル化剤粒子との混合層では,粒子を層に亘って均等に分配でき」(3頁4欄44行〜46行,抄訳(その2)1頁13行),「下層5は,吸収性ゲル化剤粒子と繊維との混合物を含有する。繊維は,セルロースフラッフパルプ,合成繊維,又はこれらの組み合わせからなるのがよい。」(5頁7欄53行〜55行,抄訳(その2)1頁16行〜17行),及び「乳児用おむつで典型的に使用された吸収体構造の一態様では,混合下層5は,吸収性ゲル化剤粒子の重量が混合下層5の総重量の31%乃至43%となるように,典型的には,8g乃至12gの吸収性ゲル化剤粒子を16g乃至18gのエアーフェルトと混合した混合物を含有する。」(8頁13欄32行〜39行,抄訳(その2)1頁26行〜29行)との各記載によれば,引用発明の「下層5」は吸収性ゲル化剤粒子と繊維との混合物であって,下層5の層及び厚さに亘って粒子が均等に分配されており,吸収性ゲル化剤粒子を31重量%〜60重量%含むものである。
他方,本願明細書(甲2)の「本発明の流体獲得/分配部材は,繊維質ウエブ又は繊維質マトリクスを形成するさまざまな繊維質材料を含み得る。」(甲2,8頁22行〜23行),「入手性及び費用の理由から,セルロース性繊維,特に木材パルプ繊維が,本発明における使用に好ましい。」(10頁2行〜4行)及び「下部獲得/分配部材は繊維/吸収性ヒドロゲル混合物から構成され,当該部材は好ましくは,下部獲得/分配部材の全重量に対して約10%ないし65%,さらに好ましくは約15%ないし約30%のヒドロゲル濃度を有し得る。」(37頁末行〜38頁2行)との記載によれば,本願発明の「下部流体獲得/分配部材」とは,ヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを約10%ないし65%まで含み得て,繊維質ウエブを含むものといえる。
そして,引用発明の「下層5」と本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」とが含む繊維質のものは,セルロース繊維で代表される同様なものであるから,引用発明の「下層5」と本願発明の「下部流体獲得/分配部材」とは,多少の差異はあるものの同様な割合の吸収性ポリマーを有し,繊維質として同様なセルロース繊維のものから成っているので,本願発明の「下部流体獲得/分配部材」と同様に,引用発明の「下層5」も,流体を分配し移送するものであるといえる。
したがって,引用発明の「下層5」が水性身体流体を獲得し移送することができるものであり,「下層5」が本願発明の「下部流体獲得/分配部材」に対応するとの本件審決の認定に,原告主張の誤りはない。
(2) 使い捨ておむつの吸収体構造として吸収性ポリマーが用いられ,吸収性ポリマーが体内から排泄された尿等の液体を吸収して湿潤した際には膨潤すること,すなわち膨らんで容積が増加することは技術常識(乙1,乙2)である。
上記技術常識に照らせば,引用例記載の「吸収性ゲル化剤粒子」は通常,吸収性ポリマーを含むものであり,引用例(甲4)に「吸収性ゲル化剤粒子は,湿潤時に膨潤すると」(2頁2欄22行〜23行,抄訳(その2)1頁6行)と記載されるように,「吸収性ゲル化剤粒子」は,尿等の液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加することは明らかである。
したがって,引用発明として認定した引用例第6図に記載の「貯蔵ゾーン13,13’」も吸収性ゲル化剤粒子で形成されていることから,尿等の液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加することは,明らかであり,本件審決の「『貯蔵ゾーン13,13’』は,……湿潤時に液体を吸収する吸収性ゲル化剤粒子によって膨張することは明らかであ(る)」(審決書4頁38行〜5頁1行)との認定に誤りはなく,これを前提としてした相違点の認定にも誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について(1) 上記1(2)のとおり,吸収性ゲル化剤粒子は,液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加するものであり,これを前提とした上で,引用例には,「第12図は,基材7で吸収性ゲル化剤粒子9を包み,基材を二重区分14,14’のところで基材それ自体にシールした実施例を示す。吸収性ゲル化剤を包んだ二つのチャンバが貯蔵ゾーン13,13’のところに形成される。
この実施例の利点は,貯蔵ゾーン13,13’の吸収性ゲル化剤粒子の湿潤時に,これらの吸収性ゲル化剤粒子が基材7によって拘束されているため,捕捉ゾーン11内に膨張できないということである。従って,捕捉ゾーン11は,吸収体構造が湿潤状態にあるときでも液体に対して透過性のままである。」(9頁15欄18行〜28行,抄訳(l))と記載され,本願発明1でいうz方向の膨張を妨げる旨の記載を伴わずに,補足ゾーン11内の方向に膨張しないことを明記している。
そして,当然に膨張するものに関して,特定方向に膨張させないと記載されている場合,特に記載のない方向には当然に膨張するとすることが,自然な理解であり,引用例の第12図記載のものにおいても,吸収性ゲル化剤粒子は,尿等の液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加することは明らかであって,本願発明1でいうz方向の膨張を妨げるものではなく,第12図に記載のものは,基材7を吸収性ゲル化剤粒子9を包み,基材を二重区分14,14’でシールすることで,吸収性ゲル化剤粒子9の湿潤時に,吸収性ゲル化剤粒子9の捕捉ゾーン内への膨張を防止している技術が開示されているものとみるべきである。
さらに,本願明細書(甲2)の第2図(.2)には,上部流体貯蔵部材 Fig34及び36が流体透過性ペーパーティシュー35及び37に包まれていることが図示され,これと関連して,本願明細書には,「ヒドロゲル形成性吸収性ポリマー……から構成される矩形の細片の形態である二つの上部流体貯蔵部材34及び36を含む。」(40頁19行〜21行),「水性身体流体への最初の曝露時に,上部貯蔵部材34及び36は膨張し始め,充分に飽和したとき少なくとも2mmまで厚さを増加させる。」(甲2,41頁23行〜24行)と記載されており,本願明細書の第2図のものが,流体吸収時に厚さ方向に膨張し容積を増加するものであれば,引用例の第12図のものも本願明細書の第2図のものと同様のものを図示するのであるから,厚さ方向に膨張し容積を増加することを前提として解釈することに何ら妨げはない。
上記のとおり,引用例の「第12図に示す実施例の説明として,貯蔵ゾーンの吸収性ゲル化剤が湿潤したときに,捕捉ゾーン内への膨張を防止するように基材によって拘束することが開示されている。」(審決書4頁20行〜23行)との本件審決の認定,及び,引用例には「中央捕捉ゾーンを部分的に取り囲むように配置された貯蔵ゾーンが湿潤したとき,その膨張が捕捉ゾーン内に及ぶことのないように拘束すること,及び,その結果,湿潤状態にあっても,捕捉ゾーンが液体に対して透過性のままであることが示されており,引用発明の貯蔵ゾーン13,13’に,上記の技術的事項を適用して,湿潤時の貯蔵ゾーンの膨張が捕捉ゾーン内に及ぶことを防止するようにすることは,当業者が引用例の記載から容易に想到し得るものと認められる。」(審決書5頁31行〜38行)との本件審決の判断に,誤りはない。
そして,本願発明1の「上部流体貯蔵部材が水性身体流体で充分に飽和したとき,z方向に少なくとも100%膨張して流体獲得ゾーンを形成する一方,該z方向への膨張により該流体獲得ゾーン内へ膨張することが抑制され,これにより流体捕獲ゾーンの体積が効果的に増加し,水性身体流体の連続して起こる『噴出』をより良く処理することができる」という作用効果も,引用例記載のものから予測できる範囲内のものであって,格別なものではない。
(2) 上記(1)のとおり,引用例の第12図のものは,「貯蔵ゾーンの吸収性ゲル化剤が湿潤したとき,捕捉ゾーン内への膨張を防止するように基材によって拘束することが開示されている」技術とみるべきであるから,引用発明(引用例第6図記載のもの)に引用例の第12図記載のものを適用すると,引用発明記載の「貯蔵ゾーン13,13’」は,湿潤時における外側周囲方向への膨張が規制され,しかも,中央捕捉ゾーンへの膨張は阻止されるので,z方向へ膨張することになり,それによって中央捕捉ゾーンの容積も増加することは,当業者であれば当然予測し得ることである。
そして,前記1(2)のとおり,吸収性ポリマーが排泄された尿等の液体を吸収して湿潤した際に膨らんで容積が増加することは技術常識(乙1,2)であるから,湿潤時における吸収体のz方向への膨張が100%以上であることは,通常の吸収性ポリマーの膨潤以上のものをいうのではなく,また,z方向への膨張を少なくとも100%と規定したことに関しての臨界的意義についても,本願明細書には何ら明記されていない。
したがって,本件審決の「引用発明の『吸収構造体1』は,……湿潤時における外側周囲方向への膨張は規制されることから,中央捕捉ゾーンへの膨張を阻止された貯蔵ゾーンは,z方向へ膨張することになり,それによって中央捕捉ゾーンの容積が増加することも当業者が容易に予測しうるところである。……z方向への膨張を少なくとも100%と規定したことに関しても,……格別の技術的意義を認めることはできない。」(審決書5頁末行〜6頁11行)との判断,及び「以上の通りであるから,本願発明1は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書6頁12行〜13行)との判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について(1) 原告は,引用発明の「下層5」は流体を吸収し保持するためのものであって,本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」のように流体を分配し移送するものではない旨主張するので,まず,この点について検討する。
ア 引用例(甲4)には,次の各記載がある。
「混合層5は,……尿のような液体及び他の特定の身体の滲出物を吸収して保持できる任意の吸収性繊維質の手段を有するのがよい。下層5は,……一般にエアーフェルトと呼ばれる微粉砕した木材パルプのような,使い捨ておむつ及び他の吸収性物品で一般的に使用されている種々の液体吸収性材料から製造できる。」(7頁12欄28行〜32行,抄訳(j))「混合下層内の吸収性ゲル化剤粒子の重量は,混合下層の重量の70%以下,好ましくは,60%以下であり」(3頁3欄22行〜25行,抄訳(その2)1頁9行〜10行)「下層5は,吸収性ゲル化剤粒子と繊維との混合物を含有する。繊維は,セルロースフラッフパルプ,合成繊維,又はこれらの組み合わせからなるのがよい。」(5頁7欄53行〜55行,抄訳(その2)1頁16行〜17行)「乳児用おむつで典型的に使用された吸収体構造の一態様では,混合下層5は,吸収性ゲル化剤粒子の重量が混合下層5の総重量の31%乃至43%となるように,典型的には,8g乃至12gの吸収性ゲル化剤粒子を16g乃至18gのエアーフェルトと混合した混合物を含有する。」(8頁13欄32行〜39行,抄訳(その2)1頁26行〜29行)引用例の上記各記載によれば,引用発明の「下層5」は,具体的には,吸収性ゲル化剤粒子と,セルロースフラッフパルプ,合成繊維,又はこれらの組み合わせからなる繊維との混合物であって,吸収性ゲル化剤粒子の重量は,下層5の重量の70%以下であり,吸収性ゲル化剤粒子の重量が下層5の総重量の31%ないし43%となるように,吸収性ゲル化剤粒子をエアーフェルトと混合した混合物からなるものが,実施例として記載されていると認められる(なお,引用例の上記各記載においては,「混合層」,「下層」,「混合下層」の表現が混在するが,いずれも「下層5」について説明するものと認められる。)。
イ 本願明細書(甲2,3)には,次の各記載がある。
「水性身体流体を獲得し移送することのできる下部流体獲得/分配部材であって,少なくとも部分的に前記少なくとも一つの上部流体貯蔵部材の下側にこれと流体連通して配置される下部流体獲得/分配部材」(特許請求の範囲)「本発明のコアは,上部及び下部流体獲得/分配部材を含む。……いくつかの場合には,本発明による流体獲得/分配部材は,少なくとも何らかのヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを含み,これにより吸収性コアにいくらかの流体貯蔵能を提供し得る。」(8頁11行〜17行)「本発明の吸収性コアは,さらに,排出された身体流体を吸収性コア内の他の部材に移送することのできる下部流体獲得/分配部材を含む。……ai この部材は,化学的硬化性繊維,セルロース性繊維(エアーフェルト()ともいわれる),あるいは繊維/吸収性ヒドロゲル形成性混合物の rfeltいずれであっても良い。……下部獲得/分配部材は繊維/吸収性ヒドロゲル混合物から構成され,当該部材は好ましくは,下部獲得/分配部材の全重量に対して約10%ないし65%……のヒドロゲル濃度を有し得る。」(37頁17行〜38頁2行)本願明細書の上記各記載によれば,本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」は,特許請求の範囲の記載において,その材質や量的関係が特定されていないが,発明の詳細な説明において,ヒドロゲル形成性吸収性ポリai マーと,化学的硬化性繊維ないしセルロース性繊維(エアーフェルト()ともいわれる)との混合物であって,ヒドロゲル形成性吸収性ポリ rfeltマーを下部獲得/分配部材の全重量に対して約10%ないし65%まで含むものが開示されており,本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」が少なくとも上記具体的に開示されているものを含むことは,明らかである。
ウ ここで,引用発明の「下層5」(以下「前者」という。)と本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」として具体的に開示されているもの(以下「後者」という。)とを対比すると,前者の吸収性ゲル化剤粒子は後者のヒドロゲル形成性吸収性ポリマーに相当するものであり,両者に用いられる繊維について,格別の差異は認められない(少なくとも,前者の一実施例として示されるエアーフェルトが使用できることは,後者にも例示される。)。そして,前者の吸収性ゲル化剤粒子は下層5の重量の70%以下とされているのに対し,後者のヒドロゲル形成性吸収性ポリマーは,下部獲得/分配部材の全重量に対して約10%ないし65%まで含み得るものであり,両者は,吸収性ゲル化剤の割合の範囲において重複し,上限として示される数値において多少の差異があるものの,これを格別の差異とすることはできない。してみると,両者は,その具体的な構成において格別の差異はないものであるから,その機能においても,格別の差異はないとみるべきである。
したがって,本願発明1の下部流体獲得/分配部材が,流体を分配し移送するものであるならば,引用発明の「下層5」も同様の機能を有するものと解するのが相当であり,本件審決が,「引用発明の『下層5』も,……水性身体流体を獲得し移送することのできるものである」(審決書5頁4行〜7行)として,引用発明の「下層5」が本願発明1の「下部流体獲得/分配部材」に対応すると判断したことに誤りがあるということはできず,また,本件審決が上記認定に基づいてした一致点の認定にも,誤りがあるということはできない。
(2) 原告は,引用発明の「貯蔵ゾーン13,13’」が,z方向には膨張できない旨主張するので,次に,この点を検討する。
ア 引用例(甲4)には,次の各記載がある。
「本発明は,また,吸収性ゲル化剤粒子を各々含む上層及び下層を有し,上層が捕捉ゾーン及び貯蔵ゾーンを有し,……下層が吸収性ゲル化剤粒子及び繊維の混合物からなる,吸収体構造に関する。」(2頁1欄8〜17行,抄訳(a))「吸収性ゲル化剤粒子は,湿潤時に膨張すると」(2頁2欄22行〜23行,抄訳(その2)1頁6行)「本発明の吸収体物品の好ましい実施例は,第7図に示す一体の使い捨て吸収体物品,即ちおむつ20である。……本発明は,……衛生ナプキンのような女性用衛生衣料,等の他の吸収体物品にも適用できるということは理解されるべきである。」(5頁7欄18〜28行,抄訳(c))引用例の上記各記載によれば,引用例記載の吸収構造体は,湿潤時に膨張する吸収性ゲル化剤粒子でできた層9が,貯蔵ゾーン13,13’を形成しており,おむつ,女性用衛生衣料等の吸収体物品に適用できるものであることが認められる。
イ 乙1(「新増補水溶性高分子」株式会社化学工業社,昭和59年4月1日発行)には,「高吸水性樹脂は,自身の重量の数百倍から千倍の水を吸収し,保持することができる高分子であり,水に膨潤してヒドロゲルを形成する。……高吸水性樹脂は構造的にはイオン性基を有する電解質ポリマーをわずかに架橋したものである。」(376頁3行〜10行)との記載がある。
乙2(「高分子新素材One Point 4 高吸水性ポリマー」共立出版株式会社,1987年11月15日発行)には,「特に1978年に高吸水性ポリマーが生理用品用途に応用され,さらに1982年子供用紙おむつにも応用されるとポリマーの開発が一段と活発になり,高吸水性ポリマーのメーカー(パイロット生産も含む)の数は……それまでの数社から10社を越える状況となった。」(6頁末行〜7頁5行)との記載がある。
乙1,2の上記各記載によれば,高吸水性ポリマーは,液体を吸収して湿潤した際には膨潤する性質のものであり,生理用品,紙おむつに応用されるものであることは技術常識であると認められる。
ウ してみると,本件審決が引用発明とした,引用例の第6図に実施例として記載された発明において,貯蔵ゾーン13,13’を形成する,吸収性ゲル化剤粒子でできた層9も,液体を吸収して湿潤した際に膨潤する高吸水性ポリマーの性質を利用して液体吸収性をもたせたものと解するのが相当であり,かかる性質を利用するものである以上,液体を吸収して湿潤した際には,厚み方向(本願発明1でいうz方向)にも膨潤することは明らかというべきである。(なお,後記2において検討する引用例の第12図記載のものにおいて,吸収性ゲル化剤粒子9が基材7に包まれているのと異なり,引用例の第6図記載のものにおいては,膨潤を制約する可能性があるものは存在しない。)。
したがって,本件審決が「引用発明の『貯蔵ゾーン13,13’』は,……湿潤時に液体を吸収する吸収性ゲル化剤粒子によって膨張することは明らかであ(る)」(審決書4頁37行〜5頁1行)とした認定に誤りがあるとはいえず,また,これを前提とした相違点の認定にも誤りがあるとはいえない。
エ 原告は,引用例の第12図に示された実施例において,「貯蔵ゾーン13,13’」は,湿潤時においても膨張しないと解すべき旨を主張する。
しかし,本件審決は,引用例1の第6図に実施例として示された発明を引用発明としたものであり(この点は原告も争わないところである。審決書4頁17行〜20行),引用例の第12図に示されるものにおける貯蔵ゾーンの膨潤の有無は,引用発明の上記認定を左右するものではない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について(1) 原告は,引用例の第12図に示される実施例は,吸収性ゲル化剤粒子の捕捉ゾーン内への膨張抑制のみならず,本願発明1でいうz方向への膨張をも妨げるものであるから,引用発明に,引用例の第12図の実施例に開示される技術的事項を適用したとしても,本願発明1には想到しない旨主張する。
ア 引用例(甲4)には,次の各記載がある。
「第12図は,基材7で吸収性ゲル化剤粒子9を包み,基材を二重区分14,14’のところで基材それ自体にシールした実施例を示す。吸収性ゲル化剤を包んだ二つのチャンバが貯蔵ゾーン13,13’のところに形成される。この実施例の利点は,貯蔵ゾーン13,13’の吸収性ゲル化剤粒子の湿潤時に,これらの吸収性ゲル化剤粒子が基材によって拘束されているため,捕捉ゾーン11内に膨張できないということである。従って,捕捉ゾーン11は,吸収体構造が湿潤状態にあるときでも液体に対して透過性のままである。」(9頁15欄18行〜28行,抄訳(l))引用例の上記記載によれば,引用例の第12図に示されたものは,基材7は吸収性ゲル化剤粒子9を包み,二重区分14,14’のところ(同図をみると,貯蔵ゾーン13,13’と中央捕捉ゾーン11の境界付近の位置であることが認められる。)でシールされており,湿潤時に,吸収性ゲル化剤粒子9は基材7によって拘束されるため,捕捉ゾーン11内に膨張できないものと認められる。
そして,上記1(2)で検討したとおり,引用例記載の吸収構造体は,吸収性ゲル化剤粒子の,液体を吸収して湿潤した際には膨潤する性質を利用したものと解されることに鑑みると,同図に示されたものにおいては,吸収性ゲル化剤粒子9は基材7に包まれることから,膨潤の限度に制約が生じる可能性はあるにせよ,液体を吸収して湿潤した際には膨潤することは明らかというべきである。また,膨潤するものであるからこそ,引用例の前記記載においては,特に捕捉ゾーン11内には膨張できないと明記されたのであり,捕捉ゾーン11内には膨張できないが,それ以外の方向には膨張可能なものと認めるのが相当である。
イ 本願明細書(甲2)には,次の各記載がある。
「流体貯蔵部材34及び36は,図2に具体的に示されるように,それぞれ流体透過性ペーパーティシュー35及び37に包まれている。」(40頁22行〜23行)「水性身体流体への最初の曝露時に,上部貯蔵部材34及び36は膨張し始め,充分に飽和したとき少なくとも2mmまで厚さを増加させる。……好ましくは,上部貯蔵部材はz方向に少なくとも100%まで膨張し得る。」(41頁23行〜27行)本願明細書の上記各記載によれば,本願明細書の図2に示されるものは,吸収性ゲル化剤粒子が基材に包まれる点において,引用例の第12図に示されたものと同様の構造を有するものであるところ(図示された構成自体に差異がないことは,原告も認めるところである。),水性身体流体への曝露時に,充分に飽和したとき少なくとも2mm,好ましくは,少なくとも100%まで厚さを増加させる,とされているのである。
この点に照らせば,引用例の第12図に示されたものが,吸収性ゲル化剤粒子9が基材7に包まれているものであっても,液体を吸収して湿潤した際にz方向に膨潤しないということはできない。
ウ 原告は,本願明細書の第2図は,本願明細書開示の吸収性コアの全体的構造を示すための概略図であり,同図によって吸収性コアの湿潤時における膨張を調節するためのシステムを示すものではないから,本願明細書の第2図と同様の図が引用例の第12図にあることのみを理由としては,引用例の第12図に記載の実施例が,湿潤時に本願発明1でいうz方向へ膨張するものということはできない旨主張する。
しかし,吸収体構造の概略を示すものであることは,引用例の第12図も同様であると認められるから,原告の主張するところは,同図記載のものが湿潤時にz方向に膨張しないとはならず,前記の技術常識を考慮すれば,z方向に膨張することは明らかというべきである。原告の主張は失当である。
(2) 原告は,本件審決が,引用発明の「吸収構造体1」は湿潤時における外側周囲方向への膨張が規制されるから,中央捕捉ゾーンへの膨張を阻止された貯蔵ゾーンはz方向へ膨張することになり,それによって中央捕捉ゾーンの容積が増加することも当業者が容易に予測し得るところであるとし,本願発明1においてz方向への膨張を少なくとも100%と規定したことに関しても,通常100%以上のものが慣用される以上の格別な臨界的意義について本願明細書には何ら明記されていないから,上記数値の限定にも格別の技術的意義を認めることはできない旨判断したことを,誤りである旨主張する。
原告がその理由として主張するところは,要するに,引用例の第12図に示されたものにおいて,貯蔵ゾーン13,13’がz方向への膨張を阻止されるということに帰するが,引用例の第12図に示されたものにおいて,貯蔵ゾーン13,13’がz方向への膨張を阻止されるとの原告の主張が失当であることは,上記(1)において説示したとおりであり,原告の主張は採用することができない。
3結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,本件審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。