関連審決 | 不服2003-22141 |
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関連ワード | 発明者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 周知技術 / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10396号
審決取消請求事件
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原告 SMC株式会社 訴訟代理人弁理士 林宏,後藤正彦,林直生樹 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 島愼二,田々井正吾,高木彰,青木博文 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/04/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-22141号事件について平成17年1月31日にした審決を取り消す 」との判決。。 |
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事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。 本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 本願発明(甲6の1)出願人:エスエムシー株式会社(原告の商号変更前の名称)発明の名称: スイングドアーゲートバルブ」 「出願番号:特願平11-346262号出願日:平成11年12月6日手続補正日:平成15年5月16日(2) 本件手続拒絶査定日:平成15年10月7日付け審判請求日:平成15年11月13日(不服2003-22141号)手続補正日:平成16年9月17日(以下「本件補正」という。甲6の2)審決日:平成17年1月31日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「。 審決謄本送達日:平成17年2月21日(原告に対し)2 本願発明の要旨(本件補正後のもの。以下,請求項の番号に応じて「本願発明1」などという )。 【請求項1】チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部を開閉するためのスイングドアーゲートバルブであって,上記チェンバーの開口部を開閉するゲートを,該開口部に対面する位置と側方に待避した位置との間でそれをスイングさせるアームの先端に取り付けると共に,上記アームの基端を,ゲートが上記チェンバーの開口部に正対して接離する方向と平行に駆動されるアクチュエータの出力軸に支持させ,上記アクチュエータを支持する機枠に,上記アームを上記開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御するガイド機構を設け,このガイド機構を,上記アームの基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動によりゲートがチェンバーの開口部に近接した位置にあるときに,ゲートを上記開口部に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,ゲートが開口部から離間した位置にあるときに,ゲートを該開口部の側方に待避させるようにアームをスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成した,ことを特徴とするスイングドアーゲートバルブ。 【請求項2】アクチュエータを流体圧シリンダによって構成した,ことを特徴とする請求項1に記載のスイングドアーゲートバルブ。 【請求項3】上記ガイド溝を機枠におけるアクチュエータの出力軸の周囲の壁面に設けた,ことを特徴とする請求項1または2に記載のスイングドアーゲートバルブ。 3 審決の要点審決は,本願発明1〜3は,引用発明と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (1) 引用発明ア 審決は,特開昭63-106468号公報(以下「引用例」という。甲1)には,以下の点が記載されているとした。 引用例の流体経路遮断弁は チャンバ2を 該チャンバに連通する真空主配管の閉鎖面32 「,,を開閉することによって開閉するゲートバルブであって,アーム29の取り付けられたロッド26を,一端が本体19に固定された回転用エアシリンダ34で回転させることによって,アーム29の先端に取り付けられたシールブロック30を,前記閉鎖面32に対面する位置と側方に待避した位置との間でスイングさせ,これにより該閉鎖面32を開閉するスイング式のゲートバルブであるものと認められ,さらに上記ロッド26は,本体19に固定されたシリンダ21の出力軸である中空シャフト22の内側に支持され,シールブロック30を前記閉鎖面32に対面する位置から側方に待避した位置にスイングさせるのに先立ち,中空シャフト22と一体のピストン23を上下動させることにより,シリンダ21を上記閉鎖面32に正対して接離する方向と平行に駆動してシールブロック30を閉鎖面32から垂直に離脱させ,その後エアシリンダ34によってロッド26を回転させることにより,シールブロック30を側方に待避した位置にスイングさせているものと認める 」。 イ その上で,審決は,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という )。 が記載されていると認定した。 「チャンバ2と連通する真空主配管を開閉するためのスイング式のゲートバルブであって,上記チャンバ2と連通する真空主配管の閉鎖面32を開閉するシールブロック30を,該閉鎖面32に対面する位置と側方に待避した位置との間でそれをスイングさせるアーム29の先端に取り付けると共に,上記アーム29の基端を,シールブロック30が上記チャンバ2と連通する真空主配管の閉鎖面32に正対して接離する方向と平行に駆動されるシリンダ21の出力軸に支持させ,上記シリンダ21を支持する本体19に,上記アームを上記開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御するエアシリンダ34を設けたスイング式のゲートバルブ 」。 (2) 本願発明1についてア 本願発明と引用例の対比(ア) 一致点「チェンバーへの開口部を開閉するためのスイング式ゲートバルブであって,上記チェンバーへの開口部を開閉するゲートを,該開口部に対面する位置と側方に待避した位置との間でそれをスイングさせるアームの先端に取り付けると共に,上記アームの基端を,ゲートが上記チェンバーへの開口部に正対して接離する方向と平行に駆動されるアクチュエータの出力軸に支持させ,上記アクチュエータを支持する部材に,上記アームを上記開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御する移動制御機構を設けたスイング式ゲートバルブ 」。 (イ) 相違点「1 本願発明1のゲートバルブは,チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部を開閉するスイングドアーゲートバルブであるのに対し 上記引用発明のゲートバルブは チェンバー ,,と連通する真空主配管の流路を開閉するスイング式のゲートバルブである点。 2 本願発明1の移動制御機構は,アクチュエータを支持する機枠に設けられた,アームの向きを制御するガイド機構であって,このガイド機構をアームの基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動によりゲートがチェンバーの開口部に近接した位置にあるときにゲートを上記開口部に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,ゲートが開口部から離間した位置にあるときにゲートを該開口部の側方に待避させるようにアームをスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成したものであるのに対し,上記引用発明の移動制御機構は,シリンダ21を支持する本体19に,シリンダ21とは別に設けられたエアシリンダ34で構成されたものであって,シールブロック30(ゲート)の閉鎖面32(開口部)に,, 対する垂直方向からの接離と 閉鎖面32に対面する位置と側方の待避位置との間での移動を単一のシリンダ(アクチュエータ)で行えるようにしたものではない点 」。 イ 相違点についての判断(ア) 相違点1について「チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部をスイングドアーゲートバルブで開閉することは周知技術(例えば特開平2-252687号公報(本訴甲2)参照)である。 してみれば,上記引用発明のゲートバルブを,チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部を開閉するスイングドアーゲートバルブに適用することは,上記周知技術から当業者が容易に行い得たものである 」。 (イ) 相違点2について「直線方向の移動と回転方向の移動を単一のアクチュエータで行えるようにするため,アクチュエータに移動部材の向きを制御するガイド機構を設け,このガイド機構を移動部材の基端に設けたピン又は転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動により移動部材を直線方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,移動部材を回動(スイング)させるための傾斜周方向溝とによって構成することは,駆動源としてアクチュエータを用いる技術分野であれば,技術分野の別を問わず周知技術(例えば,実願昭61-73211号(実開昭62-184203号,本訴甲3)のマイクロフィルム 特開平2-71943号公報 本訴甲4 実願平4-75227号 実開平6-40412 ,() ,(号)のCD-ROM参照,本訴甲5)であり,さらに,ガイド機構をどの部材に設けるかは当業者が適宜選択する設計事項である。 してみれば,上記引用発明で,シールブロック30(ゲートバルブ)を単一のシリンダ(アクチュエータ)で駆動できるようにするため,シリンダ21を支持する機枠にアーム29の向きを制御するガイド機構を設け,このガイド機構をアーム29の基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記シリンダ21の駆動によりシールブロック30が閉鎖面32に近接した位置にあるときにシールブロック30を上記閉鎖面32に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,シールブロック30が閉鎖面32から離間した位置にあるときにシールブロック30を該閉鎖面32の側方に待避させるようにアーム29をスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成することは,上記引用発明に上記周知技術を適用することにより当業者が容易に行い得たものである。 そして,本願発明1が奏する作用効果は,上記引用発明と上記各周知技術に示唆された事項から予測される程度以上のものではない。 したがって,本願発明1は,上記引用発明と上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 」。 (3) 本願発明2及び3について「本願発明2は,本願発明1の発明においてアクチュエータを流体圧シリンダによって構成したものであり 本願発明3は 本願発明1 2においてガイド溝を機枠におけるアクチュエー ,,,タの出力軸の周囲の壁面に設けたものであるが,アクチュエータを流体圧シリンダによって構成することは上記引用発明でも行われており,ガイド溝をどこに設けるかは,上述したように当業者が適宜選択する設計事項であるから,本願発明2,3も,上記引用発明と上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 」。 (4) むすび「以上詳述したとおり,本願発明1〜3は,上記引用発明と上記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 」。 |
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原告の主張の要点
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)(1) 審決は 「直線方向の移動と回転方向の移動を単一のアクチュエータで行え ,,, るようにするため アクチュエータに移動部材の向きを制御するガイド機構を設けこのガイド機構を移動部材の基端に設けたピン又は転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動により移動部材を直線方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,移動部材を回動(スイング)させるための傾斜周方向溝とによって構成すること (以下「構成イ」と」いう )は,駆動源としてアクチュエータを用いる技術分野であれば周知の技術事 。 項であると認定した。しかしながら,この構成は,甲3〜5記載のアクチュエータあるいはシリンダの構成そのものであるとはいえても,本願発明1のような「チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部を開閉するためのスイングドアーゲートバルブ」とは全く無関係のアクチュエータである。 本願発明1のスイングドアーゲートバルブでは,チェンバーの開口部に対するゲートの離間距離は,開口部のシール部材に対するゲートの接触を解消できる微小範囲でよく,アームのスイングは,ゲートが開口部の前面から完全に側方に離れるのに十分な比較的大きい範囲である必要がある。このようなスイングドアーゲートバルブのアクチュエータとしては,引用例にあるように,シールブロック30が閉鎖面32に正対して接離する方向に駆動されるシリンダ21と それとは別に アー,,ムを開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御するロッド回転用エアシリンダ34を設けるのが,極めて常識的な構成である。 甲3〜5記載の直動及び回転を行う複合アクチュエータは,いずれも,ピストンに連結したロッドが軸方向に摺動しながら回動することを必須の動作とするものである。すなわち,直動及び回転を行う複合アクチュエータは,一般的に,そのロッドを軸方向に比較的大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるという動作が必要なときに用いられる。これに対し,本願発明1のようなスイングドアーゲートバルブにおけるゲートは,開口部に対する離間距離が微小でよく,アームのスイング量が比較的大きく,しかも,スイングを行う間にゲートが開口部に接離する方向に移動することがなく,たとえ移動するとしてもそれをできるだけ抑制することが,ゲートの開閉機構のコンパクト化,ゲート開閉のために必要な占有スペースの縮小のために望まれる 甲3〜5に例示されているような ピストンに連結したロッ 。,ドが軸方向に比較的大きなストローク範囲で摺動しながら回動する動作を行う複合アクチュエータを用いることは,ゲートの開閉機構のコンパクト化に反し,また,ゲート開閉のために必要な占有スペースがゲートの軸方向移動により不必要に増大するため,通常は敬遠されることになる。 また,ガイド機構の傾斜周方向溝を大きく傾斜させればさせるほど,転動体を当該溝の傾斜方向に沿って駆動するためのアクチュエータ出力の分力が小さくなり,転動体を傾斜方向溝に沿って移動させるに十分な駆動力を得ることができなくなる。したがって,上記軸方向溝と傾斜方向溝によって直動及び回転を行うアクチュエータを本願発明1のようなスイングドアーゲートバルプにおけるゲートの開閉に用いることは,アクチュエータの常識的な利用ではない。本願発明者は,アームの基端に転動体を設け,当該転動体が嵌入して移動するガイド溝をアクチュエータを支持する機枠に設けるなど,アームのスイングに必要な諸条件を改善した場合に,アームをスイングさせるための傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対して大きく傾斜(本願明細書の図3及び図4参照)させても,アクチュエータの出力軸の軸線方向移動が少ない範囲内で,アームが円滑に所期の回転動作を行うことを確かめ,その結果として本願発明1を完成するに至ったものである。審決は,このような点について配慮することなく 極めて単純に 引用例記載のものに周知技術 甲3 ,, (〜5)を結合することにより容易に発明をすることができたと結論付けているが,この判断は誤りである。 (2) 以下の理由からも,引用発明に甲3〜5記載の周知技術を適用することは容易とはいえない。 引用発明におけるシリンダ21及びエアシリンダ34からなるシールブロックの駆動機構は,シールブロック30をチャンバ2の閉鎖面に正対して接離する方向及びシールブロックを当該閉鎖面と一定の間隔に保持した状態で回動させる方向に駆。, 動するというスイングゲートバルブに適した動作を行うものである これに対して甲3〜5記載のものは,それらのロッドが軸方向に比較的大きなストロークで摺動しながら回転するものである。したがって,両者は,動作あるいは機能が相違し,とりわけ,スイングドアーゲートバルブにおけるゲートの開閉機構として用いる場合に同等あるいは均等な手段といえるものではない そのため 引用例におけるシー 。,ルブロックの開閉機構に代えて甲3〜5の周知技術を適用することは,容易に想到できることではない。 なお,審決は,引用発明の「シリンダ21」は,シールブロック30(ゲート)をチャンバ2の閉鎖面(開口部)に正対して接離する方向と平行に駆動するものであるから本願発明1の「アクチュエータ」に対応していると認定しているが,引用発明の「シリンダ21」は,シールブロック30をチャンバ2の閉鎖面に正対して接離する方向と平行に駆動するだけのものであるのに対し 本願発明1の アクチュ ,「エータ」は,その駆動によりガイド溝との協働でゲートを開口部に垂直に接離する, , 方向と ゲートを当該開口部の側方に待避させる方向に移動させるものであるから両者は対応するものではない。 甲3〜5記載のアクチュエータと本願発明1におけるゲートの開閉機構とを個別的に比較すると,甲3記載のものは,本願発明1のように,アクチュエータを支持する機枠に,アームを開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御するガイド溝を設け,このガイド溝にアームの基端に設けた転動体を嵌入させるようにしたものではない。また,甲4,5記載のものは,小径のピストンロッド自体に係合ピンを設けてそれをガイド溝(カム溝)に係合させたものであるから,係合ピンとガイド溝との間に非常に大きな力が作用し,本願発明におけるゲートの開閉機構に適用できるものではない。これに対し,本願発明1は,スイングドアーゲートバルブに適したゲートの開閉機構を採用しており,上記各周知技術と明白に相違している。 2 取消事由2(本願発明2,3についての判断の誤り)本願発明2,3についての審決の判断は争う。 |
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被告の主張の要点
原告の主張する取消事由は,いずれも理由がなく,審決に違法な点はない。 1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)に対して(1) 甲3〜5にみられるように,さまざまな技術分野に駆動源として用いられるアクチュエータにおいて,直線方向の移動と回転方向の移動を単一のアクチュエータで行うことは周知である。本願発明1のスイングドアーゲートバルブは,移動制御機構として 「アクチュエータを支持する機枠に設けられた,アームの向き ,を制御するガイド機構であって,このガイド機構をアームの基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動によりゲートがチェンバーの開口部に近接した位置にあるときにゲートを上記開口部に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,ゲートが開口部から離間した位置にあるときにゲートを該開口部の側方に待避させるようにアームをスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成したもの (審決書5頁14〜22行)を用いており,これは審決が認 」定した構成イに相当するのであるから,審決の認定した構成イが,本願発明1の「チェンバーのワーク等の出し入れを行う開口部を開閉するためのスイングドアーゲートバルブ」と無関係であるとの原告の主張は失当である。 アクチュエータにおいて,傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対して大きく傾斜させれば,回転方向の移動を行う際の直線方向への移動量が小さくなることは,上記構成イの構造からみて明らかであるから,回転方向の移動を行う際に直線方向への移動量を小さくしたければ,傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対して大きく傾斜させればよいことは当業者において自明な事項といえる。傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対してできるだけ大きく傾斜させて,ゲートが開口部から離間する方向の移動量をできるだけ少なくすることは,当業者が適宜行い得る設計的事項にすぎない。 周知技術として例示された甲3〜5記載の複合アクチュエータは,ピストンに連結したロッドが軸方向に摺動しながら回動するものではあるものの,当該ロッドの軸方向のストローク範囲と回動する範囲とは,その複合アクチュエータが使用される状況に応じて適宜定められるものであって,必ずしもロッドを軸方向に比較的大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるという動作が必要なときにのみ用いられるものではない。 スイングドアーゲートバルブにおいて,ゲートのスイングを上記構成イの傾斜周方向溝と同じような溝を有するガイド機構で行うことは,特公昭48-30179号公報(乙1)にも見られるように周知技術であり,スイングドアーゲートバルブにおいて従来から行われている技術である。 アームの基端に転動体を設けて,当該転動体が嵌入して移動するガイド溝をアクチュエータを支持する機枠に設けるガイド機構の構成は,特公昭50-25707号公報(乙2)にも見られるように周知の構成であり,当業者が適宜採用していたものである。そうすると,アームの直進に対するスイング量の割合を大きくするために,傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対してできるだけ大きく傾斜させたいような場合に,傾斜周方向溝内をアームが円滑に回転動作するように,アームのガイド機構に上記周知技術を適用することは当業者が適宜行い得たものといえる。 しかも,アームをスイングさせるための傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対して大きく傾斜させるような構成を採用することは,本願発明1の構成要件ではないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって失当である。 (2) 原告は,引用例の遮断弁におけるシールブロックの駆動機構に代えて甲3〜5記載の周知技術を適用することは容易ではないと主張する。 しかしながら,引用発明の駆動機構は,シールブロック30をチャンバ2の閉鎖面に正対して接離する方向と回動させる方向に駆動する動作を行うものではあるが,シールブロック30の回動方向の移動を,閉鎖面と一定の間隔を保持した状態,, で行う必要性は特にないので 引用発明におけるシールブロック30の駆動機構に甲3〜5に示されている周知技術(構成イ)を適用することに格別な困難はない。 ,, , また 本願発明1のアクチュエータは ゲートを開口部に垂直に接離する方向と,, 側方に待避させる方向に移動させるものではあるが その出力軸10の移動方向はあくまでもゲートを開口部に垂直に接離する方向と平行であるから,これを引用発明のシリンダ21と対応させることには何ら問題がない。 原告は,本願発明1は,アームの基端をアクチュエータの出力軸に支持させるとともに,アクチュエータを支持する機枠にガイド溝を設けて,このガイド溝にアーム基端の転動体を嵌入させる構成において,甲3〜5記載の周知事項と異なると主張する。しかしながら,この構成は,乙2にも記載されているように,アームをスイングさせるための傾斜周方向溝を有する機構において周知のものであり,当業者が適宜採用し得たものである。 以上のとおり,原告の主張する取消事由1には理由がない。 2 取消事由2(本願発明2,3についての判断の誤り)に対して本願発明1についての審決の判断に誤りはない以上,原告の主張する取消事由2,3は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)について原告は,本願発明1の相違点2に係る構成が,引用発明に甲3〜5記載の周知技術を適用することにより容易に発明することができたとの審決の判断は誤りであると主張する。 (1) 引用発明は,審決の認定するとおり「チャンバ2と連通する真空主配管を ,開閉するためのスイング式のゲートバルブであって,上記チャンバ2と連通する真空主配管の閉鎖面32を開閉するシールブロック30を,該閉鎖面32に対面する位置と側方に待避した位置との間でそれをスイングさせるアーム29の先端に取り付けると共に,上記アーム29の基端を,シールブロック30が上記チャンバ2と連通する真空主配管の閉鎖面32に正対して接離する方向と平行に駆動されるシリンダ21の出力軸に支持させ,上記シリンダ21を支持する本体19に,上記アームを上記開口部に対面する位置及び側方に待避した位置を向くように制御するエアシリンダ34を設けたスイング式のゲートバルブ 」というものである。 。 そして,引用発明のゲートバルブは,審決が認定したとおり 「アーム29の取,り付けられたロッド26を,一端が本体19に固定された回転用エアシリンダ34で回転させることによって,アーム29の先端に取り付けられたシールブロック30を,前記閉鎖面32に対面する位置と側方に待避した位置との間でスイングさせ これにより該閉鎖面32を開閉するもので 上記ロッド26は 本体19 ,」, 「,に固定されたシリンダ21の出力軸である中空シャフト22の内側に支持され,シールブロック30を前記閉鎖面32に対面する位置から側方に待避した位置にスイングさせるのに先立ち,中空シャフト22と一体のピストン23を上下動させることにより,シリンダ21を上記閉鎖面32に正対して接離する方向と平行に駆動してシールブロック30を閉鎖面32から垂直に離脱させ,その後エアシリンダ34によってロッド26を回転させることにより,シールブロック30を側方に待避した位置にスイングさせ」るよう作動するものと認められる(以上の引用発明の認定については,当事者間に争いはない 。。)以上の認定によれば,引用発明において,先端にシールブロック30を取り付けたアーム29の基端は,出力軸(ロッド26)と一体化されており,この出力軸の軸方向の移動と軸の回動とが連続して行われることで,アーム29先端のシールブロック30は,閉鎖面32に正対して接離し,また,側方に待避した位置に回動するように作動されるものと認められる。 他方,甲3〜5に示されている周知技術(構成イ)は 「直線方向の移動と回転 ,方向の移動を単一のアクチュエータで行えるようにするため,アクチュエータに移動部材の向きを制御するガイド機構を設け,このガイド機構を移動部材の基端に設けたピン又は転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動により移動部材を直線方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,移動部材を回動(スイング)させるための傾斜周方向溝とによって構成すること」というものであり,移動部材が軸方向溝とそれに連接する傾斜周方向溝とを移動することにより,移動軸方向の移動と移動軸の回動とを連続的に行うようにしたものである。 (), ,, 上記引用発明の出力軸 ロッド26 と 上記周知技術の移動部材は いずれも軸方向の移動と軸の回動とが連続するよう作動する点で軌を一にするものであるから,いずれを採用しても,同じ作用効果が得られることは明らかである。甲3〜5に示されているとおり,さまざまな技術分野の駆動源として用いられているアクチュエータにおいて,直線方向の移動と回転方向の移動を単一のアクチュエータで行うことは周知であることに照らすと,上記引用発明の出力軸及びその駆動機構に代えて,上記周知技術の移動部材及びその駆動機構を採用することは,当業者であれば,容易に想到し得たことというべきである。 (2) これに対して,原告は,本願発明1のチェンバーの開口部に対するゲートの離間距離は微小範囲で足りるのに対し,アームのスイングは比較的大きい範囲である必要があるところ,そのような構成にするためには,引用発明のようにチェンバーの開口部に正対して接離する方向に駆動するシリンダ21と,アームのスイングを制御するロッド回転用エアシリンダ34を設けるのが常識的な構成であると主張する。 しかしながら,そもそも,本願請求項1には 「上記ガイド溝を,上記アクチュ ,エータの駆動によりゲートがチェンバーの開口部に近接した位置にあるときに,ゲートを上記開口部に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,ゲートが開口部から離間した位置にあるときに,ゲートを該開口部の側方に待避させるようにアームをスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成した」と記載されているにすぎず,ゲートが離間する距離やアームがスイングする距離については何ら規定されていない。したがって,本願発明1のチェンバーの開口部に対するゲートの離間距離は微小範囲であるとの原告主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものということはできない。 , , 仮に 本願発明1の開口部に対するゲートの離間距離が微小範囲であるのに対しアームのスイングは比較的大きい範囲であることを前提としたとしても,そのような構成は,引用発明の出力軸及びその駆動機構に代えて上記周知技術の構成イを適用し 「ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動により移動部材を直線方向にガイ ,ドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,移動部材を回動(スイング)させるための傾斜周方向溝」を設け,軸方向の移動量と回動方向の移動量を適宜設定することにより容易に実現できるのであり,チェンバーの開口部に正対して接離する方向に駆動する駆動機構と,アームを回動させる方向に駆動する駆動機構とを別に設ける構成とすることが常識的であるということはできない。 さらに,原告は,引用発明の駆動機構は,シールブロック30をチャンバ2の閉鎖面に正対して接離する方向及びシールブロックを閉鎖面と一定の間隔に保持した状態で回動させる方向に駆動するというスイングゲートバルブに適した動作を行う,,。, 点で 甲3〜5記載の装置とその動作機能が相違すると主張する しかしながら前記判示のとおり,引用発明の出力軸(ロッド26)と,甲3〜5記載の周知技術の移動部材は,いずれも,軸方向の移動と軸の回動とが連続するよう作動するものであり,同じ作用効果が得られるものであるから,引用発明に甲3〜5を適用することは格別の困難なく当業者が想到し得たものというべきである。 (3) 原告は,構成イは甲3〜5記載のアクチュエータあるいはシリンダの構成そのものであるとはいえても,本願発明1のようなスイングドアーゲートバルブとは無関係であると主張する。 しかしながら,本願発明1の移動制御機構は 「アクチュエータを支持する機枠 ,に設けられた アームの向きを制御するガイド機構であって このガイド機構をアー ,,ムの基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し,上記ガイド溝を,上記アクチュエータの駆動によりゲートがチェンバーの開口部に近接した位置にあるときにゲートを上記開口部に対面する位置に保持して垂直に接離する方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,ゲートが開口部から離間した位置にあるときにゲートを該開口部の側方に待避させるようにアームをスイングさせるための傾斜周方向溝とによって構成したもの」であり,この点は当事者間に争いがない。 上記構成イと本願発明1を対比すると,確かに,甲3〜5のアクチュエータは,スイングドアーゲートバルブのゲートを接離,移動させるためのものではないが,両者は,移動部材の向きを制御するガイド機構を設け,このガイド機構を移動部材,, の基端に設けた転動体が嵌入して移動するガイド溝により構成し 上記ガイド溝を上記アクチュエータの駆動により移動部材を直線方向にガイドする軸方向溝と,それに連接して設けられ,移動部材を回動(スイング)させるための傾斜周方向溝とによって構成している点で共通しているものと認められる。 したがって,本願発明1が,甲3〜5に記載された周知技術である構成イと無関係であるとの原告主張は失当である。 (4) 原告は,甲3〜5記載の直動及び回転を行う複合アクチュエータは,一般的に,そのロッドを軸方向に比較的大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるという動作が必要なときに用いられるものであり,本願発明1のようなスイングドアーゲートバルブにおいてこのようなアクチュエータを用いることは,通常は想到し得ないと主張する。 しかし,周知技術として例示された甲3〜5記載の複合アクチュエータは,確かにピストンに連結したロッドが軸方向に摺動しながら回動するものであるといえるが,ロッドが軸方向に移動する範囲と回動する範囲とは,その複合アクチュエータの用途等に応じて適宜定めることができるものであり,ロッドを軸方向に比較的大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるときに限定して用いられるものとはいえない。 実際のところ 乙1には 11は主真空室Aと予備排気室Bを結ぶ通気路 12 ,,「,は弁座,13は該弁座を閉塞する弁体であって,この弁体13は回転軸14に固定されている。15は弁体操作筒であって,金具16により弁体締付筒2と一体に固定され,且つその一部には,ら旋溝部と平行溝部とよりなるほぼく字状の溝17が,, 。 設けられており この溝には 回転軸14に植立したピン18がはまり込んでいるしたがって,弁体締付筒2を前進せしめると,弁体操作筒15も同時に前進し,このため,溝17の前進によってピン18も溝に沿って回転する。すなわち,第2図において初め実線示の位置にあって弁体13は,弁体操作筒15の前進に従って回転し,最終は2点鎖線示すなわち弁座12に正対する位置まで回ってくることになる (2欄6〜20行)と記載され,ロッド(回転軸14)が,く字状の溝17に 。」はまり込んでいるピン18の作用により,軸方向の短い距離を摺動する間に回動させられていることが開示されている。この回動は,甲3〜5に示されている周知技術において,ピン又は転動体が嵌入する傾斜周方向溝によってもたらされる移動部材の回動(スイング)と同様のものであり,直動及び回転を行う複合アクチュエータが,必ずしも,大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるという動作が必要な場合にのみ用いられるものではないことを示している なお く字状の溝17 (,は,弁体13を回転させるためだけに設けられたものであって,弁体13は,弁体操作筒15が駆動されている間,軸方向に駆動されることはないが,このことは,直動及び回転を行う複合アクチュエータが,大きなストローク範囲で摺動させながら回転させるという動作が必要な場合にのみ用いられるものではないとの上記結論を左右するものではない 。。)(5) 原告は,上記傾斜周方向溝を大きく傾斜させると,転動体を当該溝の傾斜方向に沿って駆動するためのアクチュエータ出力の分力が小さくなるから,上記軸方向溝と傾斜方向溝によって直動及び回転を行うアクチュエータをスイングドアーゲートバルプにおけるゲートの開閉に用いることは常識的な利用とはいえず,アームの基端に転動体を設け,当該転動体が嵌入して移動するガイド溝をアクチュエータを支持する機枠に設けるなど,アームのスイングに必要な諸条件を改善して初めてアームが円滑に所期の回転動作を行うことができるのであるが,審決はこの点を十分に考慮していないと主張する。 しかしながら,前記判示のとおり,直動及び回転を行う複合アクチュエータは,軸方向に大きなストローク範囲で摺動させながら回転させる場合にのみ用いられるものではなく,ロッドが軸方向に移動する範囲と回動する範囲はその複合アクチュエータの用途等に応じて適宜定めることができるものであるというべきであるから,原告の主張するとおり,傾斜周方向溝を大きく傾斜させた場合に転動体を当該溝の傾斜方向に沿って駆動するためのアクチュエータ出力の分力が小さくなるとしても,傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対して大きく傾斜させて,ゲートが開口部から離間する方向の移動量を少なくすることは,当業者が適宜行い得る設計的事項の範囲内に含まれるというべきである。 また,アームの基端に転動体を設けて,当該転動体が嵌入して移動するガイド溝をアクチュエータを支持する機枠に設けるガイド機構の構成は,特公昭50-25707号公報(乙2)にもみられるように,周知の構成である。そうすると,アームの直進に対するスイング量の割合を大きくするために,傾斜周方向溝をアクチュエータの出力軸に対してできるだけ大きく傾斜させる場合に,傾斜周方向溝内をアームが円滑に回転動作するように,ガイド溝をアクチュエータを支持する機枠に設けることは当業者が適宜行い得たことというべきである。 (6) 原告は,甲3〜5記載のアクチュエータと本願発明1におけるゲートの開閉機構とは明白に異なると主張する。しかしながら,審決は,甲3〜5に例示されている周知技術を引用発明に適用しているのであるから,本願発明1と甲3〜5の個々の構成との間に原告が指摘するような相違があるとしても,甲3〜5に記載されている周知事項を引用発明に適用することが妨げられるものではない。 (7) 本願発明1が奏する作用効果は,引用発明と上記各周知技術に示唆された事項から当然予測される範囲内であり,予期し得ない特段の作用効果を奏するものとはいえない。 (8) なお,原告は,引用発明のシリンダ21は,閉鎖面に正対して接離する方向と平行に駆動するだけのものであるから,本願発明1のアクチュエータに対応せず,対応するとする審決の認定は誤りであると主張する。しかし,本願請求項1のアクチュエータも,アームの基端を,ゲートが開口部に正対して接離する方向と平行に駆動するものである以上,引用発明のシリンダ21に対応するとした審決の認定に誤りはない。 (9) 以上によれば,本願発明1の相違点2に係る構成は,引用発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到し得たものであるとの審決の判断に誤りがあるということはできない。 2 取消事由2(本願発明2,3についての判断の誤り)について請求項2,3は請求項1の従属項であるところ,請求項1に係る本願発明1の進歩性についての審決の判断に誤りはないことは上記のとおりであるから,上記発明1についての判断に誤りがあることを前提として本願発明2,3についての判断が誤りであるとの原告の主張は採用できない。 3結論以上によれば,本願発明1〜3が引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 高野輝久 |
裁判官 | 佐藤達文 |