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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10281審決取消請求事件 判例 特許
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平成18行ケ10444審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10383審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10452審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  当業者に自明な事項 /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10507号 審決取消請求事件
平成 17年 (行ケ) 10652号 審決取消請求事件
第1事件原告 朝日航洋株式会社 第2事件原告 オプテック インコーポレイテッド
原告ら訴訟代理人弁護士 大野聖二,弁理士 田中久子 第1事件・第2事件被告 日本電気株式会社 第1事件・第2事件被告 九州電力株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 新保克芳,弁理士鈴木康夫,臼田保伸,復代理人弁 護士 井上彰
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/04/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2002−35489号事件について平成17年4月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
主文同旨の判決。
事案の概要
本件は,第1事件原告が被告らを特許権者とする後記本件特許について無効審判の請求をし,第2事件原告がこれに参加したものであるところ,特許庁により審判請求は成り立たないとの審決がされたため,原告らが同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲13)特許権者:日本電気株式会社,九州電力株式会社(被告ら)発明の名称: 接近樹木離隔検出装置」 「特許出願日:平成5年8月3日(特願平5-192188号)設定登録日:平成13年4月13日特許番号:第3179254号(2) 本件手続審判請求日:平成14年11月13日(無効2002-35489号。第1事件。, 。 ) 原告が請求 無効審判請求の対象は 請求項1に記載された発明についての特許訂正請求日:平成15年3月24日参加申請日:平成15年6月3日(第2事件原告が参加申請)審決日(1次):平成16年1月7日審決(1次)の結論: 訂正を認める。第3179254号の請求項1に記載され 「た発明についての特許を無効とする 」。
審決取消訴訟(1次)提起:平成16年2月16日(東京高裁平成16年(行ケ)第59号事件)訂正審判請求:平成16年4月30日訂正審決:平成16年7月15日(訂正審判請求認容)審決取消訴訟(1次)判決:平成16年9月28日(訂正審判の確定を理由とする審決取消し)審決日(本件):平成17年4月19日審決(本件)の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「。
審決謄本送達日:平成17年5月2日 原告らに対し ただし 第2事件原告(参 (。,加人)に対し,出訴期間として90日附加)第1事件原告の出訴:平成17年5月30日第2事件原告の出訴:平成17年8月25日2 本件発明の要旨(請求項は2つあるが,本件で無効審判請求の対象とされたのは請求項1に記載された発明についての特許のみである。以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。以下の記載は,平成16年7月15日付け審決で訂正が認められた後の請求項1の記載である )。
【請求項1】 測距光軸を走査する機能を有し,スキャナによるレーザ測距光軸の振れ角をθ,1 フレーム当たりのデータ数をDとしたとき,走査するレーザビームをθ/D以上の広がり角で照射することにより,前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って抜けなく前記レーザビームを照射するレーザ測距装置部と,前記レーザ測距装置部から出力される距離データ,及び走査光学系のスキャン角度データを記録する記録部と,前記レーザ測距装置部及び前記記録部を制御する制御部と,前記記録部によって記録された距離データ,スキャン角度データを処理し,送電線と前記送電線に接近する障害物間の離隔距離データを出力するデータ処理解析部とを有し,前記レーザ測距装置,記録部,制御部をヘリコプターに搭載し,前記ヘリコプターの機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての前記ヘリコプターの平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するためのジャイロ加速度計部を有し,前記レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査しながら,前記振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を前記広がり角に相当する面分解能で前記レーザビームを照射することにより取得され,前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正することにより,前記フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたことを特徴とする接近樹木離隔検出装置。
3 審決の理由の要点(1) 審決は,証拠及び参考文献として次のものを摘示した上,それぞれの記載内容を認定した(なお,下記の審判甲1ないし10は,本訴における証拠としても甲1ないし10であり,証拠番号は同一である 。。)甲1:J.Lindenberger,"AIRBORNE LASER PROFILING FOR COASTAL SURVEYS ‐ theproject zeeland l990", pp.149-158, Nov.12th-15th, 1991 (K.Linkwitz / U. Hangleiter,"HIGH PRECISION NAVIGATION 91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Wor kshop on HighPrecision Navigation, Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l9 91)甲2: ヘリ搭載・レーザによる離隔測定システムの研究 ,中部電力株式会社発行,技 「」術開発ニュース,No.56,pp.5-6,1993.4甲3:特開平5-133723号公報甲4:J.Lindenberger, "METHODS AND RESULTS OF HIGH PRECISION AIRBORNE LASE RPROFILING", PROCEEDINGS OF THE 43rd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UN IVERSITYSeptember 9th to 14th, l991, vol.15, pp.83-92, Stuttgart, 1991甲5:J.Lindenberger, "TEST RESULTS OF LASER PROFILING FOR TOPOGRAPHIC TER RAINSURVEY", PROCEEDINGS OF THE 42nd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UNIVE RSITYSeptember 11th to 16th, l989, vol.13, pp.25-39, Stuttgart, 1989甲6:田島 奏「航空計器概論 ,社団法人日本航空整備協会,航空工学講座第 16 巻, 」昭和 51 年 3 月 10 日発行,254 頁〜 277 頁甲7: 航空用語辞典 増補新版 鳳文書林出版販売株式会社 pp.125-126,1986 年 9 月 30 「」, ,日発行甲8:K.P.Schwarz,"INERTIAL TECHNIQUES IN GEODESY-STATE OF THE ART AND TRE NDS",pp.423-440, Nov.12th-15th, 1991(K.Linkwitz/U.Hangleiter, "HIGH PRECISION NAVIGATION91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Workshop on High Precision Navi gation,Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l991)甲9:Ross Nelson, William Krabill, John Tonelli, "Estimating Forest Bioma ss andVolume Using Airborne Laser Data", Remote Sensing of Environment Vol.24, pp.247-267(1988)甲10:竹内延夫 「レーザレーダの原理と特徴 ,株式会社情報調査会発行 「センサ ,」,技術 ,1984 年 5 月号,pp.18-21 」参考文献1(本訴甲11 :米国特許第4326799号明細書(1982) )参考文献2 本訴甲12 :K.Ove.Steinvall, "Experimental evaluation of an airborne ()depth-sounding lidar", Optical Engineering Vol.32 No.6 June 1993, pp.13 07 〜 1321(2) 審決は,特許法36条違反の主張について,次のとおり判断した。
(a) 審決は,まず 「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データをどう利 ,用するかが不明であるか否かについて,次のとおり説示した。
「特許明細書の詳細な説明を参酌すると,段落【0017】に「以上のように機上搭載装置によって取得された距離データ及び測距時の走査光学系のスキャン角度データによって,ヘリコプターの飛行経路をZ軸とした極座標のかたちで送電線及び接近樹木等の地形情報を得ることができる 」と記載され,また段落【0022】に「これに対し,ジャイ 。
ロ加速度計部5を追加するならば,ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データが得られる。これらヘリコプターの運動データをヘリコプターの運動変化の速さを考慮したレートで測距データ,スキャン角度データと並行して取得すれば,測定点の位置を補正することができる。つまり,図9で言うならば,機体の回転角θrがわかるので,この値をスキャン角度データに加算することによって正確な目標位置がわかるのである 」と記載されている。これらの記載から 「ジャイロ加速度計部」で得られた回転角 。,度データとスキャン角度データを加算すれば測距データは共通の極座標で表現できることが理解できる。そして「ジャイロ加速度計部」からの角速度出力から機体の回転角が得られ,加速度出力から変位が得られること,及び上記のような補正は,機体の回転角θrに限らず,各軸周りの回転角や極座標系自体についてもなされるものと解されることから,「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データにより,ヘリコプターでの測定によって得られた測定点の位置データを,共通の座標系へ変換できることは当業者にとって自明, 。」 であり その具体的内容は一般の座標変換手段から導出可能であることも明らかである(b) 審決は,次の点をも説示した。
「 ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データをどう利用するかは当業者にとっ 「て自明な事項であるから,訂正の審判の請求(訂正2004-39085号)により減縮された本件発明の構成である「距離データ及びスキャン角度データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正する」点も,本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄に実質的に記載された事項であるから,上記訂正が,実質上特許請求の範囲変更するものではなく,また,特許法36条5項1号に違反するものでもない 」。
(c) 審決は,本件発明における「各フレームをつなぎ合わせて」との記載の内容が明確ではないか否か,本件発明で「前後のフレームを含めて」と限定すること,「 」 の技術的意義が不明か否か 本件発明における 送電線のある点からの最接近位置の「ある点」及び「最接近位置」が意味不明であるか否かについて,次のとおり説示した。
「本件特許明細書中段落【0021】の記載「このようなヘリコプターの運動がデータに影響を与える状況では,ヘリコプターの運動変化に対してデータの取得時刻差が小さければ影響を無視できるが,データ取得時刻に大きな差があれば影響が大きく,データを同じ機上にプロットすることはできない。つまり,1フレーム内での影響は無視できても,数フレーム間のデータをいっしょに議論することはできないのである。ところが,送電線のある点から最も近い樹木の位置は,同じフレーム内ではなく前後のフレーム内にある場合も考えられるため,フレームをつなぎ合わせできないときは,正確な接近樹木位置を把握することができない場合がある ,及び,段落【0022】の記載「これに対し,ジャ 。」イロ加速度計部5を追加するならば,ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データが得られる。これらヘリコプターの運動データをヘリコプターの運動変化の速さを考慮したレートで測距データ,スキャン角度データと並行して取得すれば,測定点の位置を補正することができる。つまり,図9で言うならば,機体の回転角θrがわかるので,この値をスキャン角度データに加算することによって正確な目標位置がわかるのである。この補正によって,フレームをつなぎ合わせ,3次元画像を作成することも可能となる。したがって,前後のフレームも含めて,送電線のある点からの最接近位置を検出することができる 」を参酌すれば 「各フレームをつなぎ合わせて」は,ヘリコプターの 。,各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正し,各フレームの測距データを共通の座標系で表現することを意味することは明らかである。
,【 】 「 , , また 段落 0021 の記載 ところが 送電線のある点から最も近い樹木の位置は同じフレーム内ではなく前後のフレーム内にある場合も考えられるため 及び 段落 00 」,,【22】の記載「前後のフレームも含めて,送電線のある点からの最接近位置を検出することができる 」から 「前後のフレームを含めて」最接近位置を検出することについての技 。,術的意義が,1フレームでは最も近い樹木の位置が検出できないため,その前後のフレームを含めて正確な接近樹木位置を把握することにあることは明らかである。
さらに,接近樹木離隔検出装置においては,送電線-樹木間の離隔距離を検出することを目的としているのであるから,ヘリコプターは特に異常が認められない限り送電線に沿って飛行するのが通常であり(段落【0025】の記載参照 ,したがって,送電線は )フレーム内で点として表示されることとなり,図7,図11もこのことを裏付けている。
よって 「送電線のある点」とは,フレーム内で送電線が存在する測定点と解するのが自 ,然である。また,段落【0021】の記載「フレームをつなぎ合わせできないときは,正確な接近樹木位置を把握することができない場合がある 」から 「送電線のある点からの 。,最接近位置」とは,接近樹木位置であることは明らかである。
以上のとおり,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたこと」とは,あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出することを意味していることは明らかである 」。
(d) 審決は,上記争点について,次のとおり結論付けた。
「以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には,当業者がその実施をすることができる程度に,本件発明の目的,構成及び効果が記載されており,また,本件発明は,明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから,特許法36条4項及び5項1号に規定する要件を満たしている 」。
(3) 審決は,特許法29条2項違反の主張について,次のとおり判断した。
(a) 審決は,本件発明と甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という )と。
を対比し,一致点を次のとおり認定した。
(a-1)「本件発明は,ヘリコプターに搭載したレーザ測距装置部により送電線と接近樹木の離隔を検出するものであるところ,送電線と接近樹木との離隔をヘリコプターに搭載したレーザ測距装置部により検出することに関して記載があるのは,甲2のみである。そこで,本件発明と甲2発明とを対比する 」。
(a-2)「甲2発明は,…ヘリコプターは,パルス・レーザ測距儀と,スキャニングサブシステムを有するものであり,…同一スキャニング面において,送電線と樹木との離隔を検出しており,このような処理を…離隔計算サブシステムにて行っていることは明らかで。, 「 」,「」 , ある よって 甲2に記載された スキャニングサブシステム パルス・レーザ測距儀離隔計算サブシステム は それぞれ本件発明の スキャナ レーザ測距装置部 デー 「」,「」 ,「」,「タ処理解析部」に相当する。そして,…甲2発明の「スキャニングサブシステム」により走査されるスキャニング面は,本件発明と同様に,ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査されていることは明らかである。また,甲2発明の「離隔計算サブシステム」が,送電線と樹木との離隔を求めるために,距離とスキャニング角度を記録する「記録部」を有すること,及びこの「記録部」と「パルス・レーザ測距儀」を制御する「制御部」が必要であることも明らかである。さらに,…甲2発明は,本件発明と同様に,レーザ測距光軸をヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査するものである 」。
(a-3)「よって,本件発明と甲2発明とは,測距光軸を走査する機能を有し スキャナによりレーザ測距光軸を所定の振れ角でレー 『,ザビームを照射することにより,前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って前記レーザビームを照射するレーザ測距装置部と,前記レーザ測距装置部から出力される距離データ,及び走査光学系のスキャン角度データを記録する記録部と,前記レーザ測距装置部及び前記記録部を制御する制御部と 前記記録部によって記録された距離データ スキャン角度デー ,,タを処理し,送電線と前記送電線に接近する障害物間の離隔距離データを出力するデータ処理解析部とを有し,前記レーザ測距装置,記録部,制御部をヘリコプターに搭載し,前記レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査しながら,前記振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を前記レーザビームを照射することにより取得され,前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度データから,送電線と樹木との離隔を検出できるようにした接近樹木離隔検出装置 』。
である点で一致する」(b) 審決は,本件発明と甲2発明との相違点を次のように認定した。
「本件発明は『フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにした (以』下 「構成A」という)ものであるのに対し,甲2には構成Aについて開示も示唆もされ ,ていない点で相違する 」。
(c) 審決は,上記相違点の認定について,次のように補足して説示した。
(c-1) すなわち 甲2に記載されたように 同一スキャニング面 本件発明の フレー 「, , ( 「ム」に相当)において,送電線までの距離A及び樹木までの距離Bと両者の間のスキャニング角度差αから離隔xを求める計算手法では,前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する必要のないことは明らかであるから,甲2には,前後のスキャニング面(フレーム)を含めて3次元的に送電線と樹木との離隔を検出することについて開示も示唆もされていない 」。
(c-2) また 甲2発明の GPSによる位置表示サブシステム と 本件発明の ジャ 「, 「 」, 「イロ加速度計部」とは,ヘリコプターの平行運動データを取得するためのものである点で共通する。また,甲2発明の「ジャイロ架台」は,パルス・レーザ測距儀を重力に対し一定の方向に支持するものであることは明らかであるから,本件発明の「ジャイロ加速度計部」とは,回転運動を補正するという目的において共通している。しかし 「GPSによ,る位置表示サブシステム」及び「ジャイロ架台」によりヘリコプターの位置が検出でき,またスキャニング角度が補正されることとなるが,この「GPSによる位置表示サブシステム」及び「ジャイロ架台」により,直ちに上記構成Aのごとくスキャニング面(フレーム)をつなぎあわせて送電線下の状況の3次元画像を作成し,前後のスキャニング面も含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できることが導き出されるものでもない 」。
(d) 審決は,相違点(構成A)について,次のとおり判断した。
(d-1)「甲2発明において,上記構成Aを採用することの容易想到性について以下に検討する。
本件明細書を参酌すると,段落【0021】に「送電線のある点から最も近い樹木の位置は,同じフレーム内ではなく前後のフレーム内にある場合も考えられるため,フレームをつなぎ合わせできないときは,正確な接近樹木位置を把握することができない場合がある 」と記載されていることから,本件発明の上記構成Aの技術的意義は,送電線のある 。
点から最も近い樹木の位置が前後のフレーム内にある場合にも正確な接近樹木位置を把握できることにあることは明らかである 」。
(d-2)「これに対し,請求人は,…において,上記構成Aは,甲10に記載されている周知技術を適用することにより容易に想到し得るものであるとして,概ね以下のとおり主張をしている (判決注:以下の主張内容の引用は省略する 」 。。 )(d-3)「そこで,請求人の上記主張に基づいて検討するに,甲10には,プロファイル,, の測定においては レーザ送出方向をスキャンすることによって3次元データを得ること及び3次元データに対しては鳥かん図方式の表示が有効であることが記載されている。しかし,甲第2号証に記載された発明は,同一スキャニング面での相対的な位置関係を求めるものであり,絶対的位置を求めるプロファイルの測定とは異なることから,3次元データを得る必要性はなく,スキャニング面(フレーム)をつなぎ合わせることが自然なことであるとはいえない しかも 上記構成Aは 上記…において検討したとおり あるフレー 。, , ,ムの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出するという特徴を有するものであるところ,甲2発明において,甲10に記載されたプロファイルの測定にあるように,すべての距離データを共通座標で表現した3次元データを得たとしても,同一スキャニング面内での最接近位置を検出することに止まるものであって,上記構成Aの有する特徴が示唆されるものでもなく,また容易に想到されるものでもない。
よって,甲2発明に,甲10に記載された周知技術を適用したとしても本件発明の上記構成Aを容易に想到し得たものであるとはいえず,請求人の上記主張は採用できない 」。
(d-4)「また,参加人は,…にて,上記構成Aは,甲5に記載されている周知技術を適,。 用することにより容易に想到し得るものであるとして 概ね以下のような主張をしている(判決注:以下の主張内容の引用は省略する 」。)(d-5)「そこで,参加人の上記主張に基づいて以下に検討する。なお,甲1及び甲4にも,甲5と同様の技術が開示されているので,ここでまとめて検討する。甲1,甲4及び甲5は,いずれも航空機からのレーザ測距データを,GPS及びINSからの信号に基づいて測地座標系といった共通の座標系に変換し,地上プロフィールを得るシステムが記載されている。特に,甲4には,測定対象として森林や送電線が例示されている。また,甲5には,航空機としてヘリコプターを利用することが記載されている。さらに,甲1及び甲5には,スキャニングシステムの利用について示唆されている。しかし,これらは,地上プロフィールという絶対的位置を測定するものであり,甲2発明のように送電線と接近,, 樹木の離隔という相対的位置関係を測定するものとは異なることから 甲2発明においてすべての測距データを共通の測地座標系に変換する必然性は見いだせない。しかも,本件発明の上記構成Aは,単にすべての測距データを共通の測地座標系に変換した3次元画像,, を作成するだけでなく あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置をその前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出するという特徴を有するものであるところ,甲2発明において,甲1,甲4及び甲5に記載された発明を適用したとしても,共通の測地座標系による3次元画像を作成することに止まるものであって,本件発明の構成Aの有する上記特徴が示唆されるものでも,また容易に想到されるものでもない。よって,甲1,甲4及び甲5に記載された発明と,甲2発明とをいかに組み合わせても,本件発明の上記構成Aを容易に想到し得たとまではいえず,参加人の上記主張は採用できない 」。
(d-6)「その他の甲号各証及び参考文献に記載された発明から,上記構成Aの容易想到性について以下に検討する。
甲3には,地上から対象点を照準し,架空送電線と電線直下の物体との距離をレーザ光を利用して測定するものであり,まず樹木の頂点の位置Wを測定し,その頂点の位置Wから架空線のどの点が最近接位置となるかを求めものであり,またスキャニングシステムを使用するものでもないことから,甲3には,本件発明の構成Aについて開示も示唆もされていない。
甲6ないし甲8には,いずれも慣性航法装置(INS)について記載され,特に,甲8には,INSにより位置及び姿勢を決定し,GPSとの統合システムにより速度と位置の更新を行うことが記載されている。そして,このINSからの出力と本件発明の「機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するためのジャイロ加速度計部」とは同等のものと認められる。しかし,INSと上記構成Aとは直接関連するものではないから,甲6ないし甲8には,本件発明の構成Aについて開示も示唆もされていない。
甲9は,航空機によるレーザ測距技術の変遷が記載されており,水深探査に用いられる技術が林冠高度測定に適用可能であることを示すに過ぎず,甲9には,本件発明の構成Aについて開示も示唆もされていない。
参考文献1は,走査軌跡に沿ってレーザを抜けなく照射することが設計事項であることを開示するにとどまり,本件発明の上記構成Aについて開示も示唆もされていない。
参考文献2は 甲1 甲4及び甲5と同様であって ヘリコプターからのレーザ測距デー ,, ,タにより水深プロファイルの測定を行うことが記載されているが,本件発明の上記構成Aについては開示も示唆もされていない 」。
(d-7)「よって,甲1ないし10並びに参考文献1及び2に記載された発明は,本件発明の構成Aについて開示も示唆もしておらず,またこれらの発明をいかに組み合わせても上記構成Aを容易に想到し得たとすることはできない 」。
(e) 審決は,上記争点について,次のとおり結論付けた。
「本件発明は,甲1ないし甲10,参考資料1及び参考資料2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない 」。
(4) 審決は,無効審判請求について,次のとおり結論を示した。
「請求人及び参加人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明に係る特許を無効とすることはできない 」。
原告らの主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(特許法36条違反についての判断の誤り)(1)「各フレームをつなぎ合わせて」について(a) 審決は 「 各フレームをつなぎ合わせて』は,ヘリコプターの各軸につい ,『ての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正し,各フレームの測拒データを共通の座標系で表現することを意味することは明らかである 審」(決24頁最終行〜25頁3行)と認定し,本件発明に36条違反がない(審決25頁28〜32行)と判断したが,誤りである。
(b) 「ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」すれば自動的に「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのか,それとも,単に「ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」するだけではなく「フレーム」に関して付加的な処理を行ってはじめて「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのかが不明である(不明点1 。)この点に関し,本件明細書の詳細な説明には,前者の意味に理解できる記載(段落【0022 )と,後者の意味に理解できる記載(段落【0021 。もっとも,必要とさ 】】れる「フレーム」に関する付加的な処理の内容は,本件明細書には,全く記載されていない )が存在するため,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて」の意味内 。
容は,明らかにならない。仮に,後者の意味と理解すると,本件明細書の詳細な説明には,当業者がその実施をすることができる程度に,本件発明の構成が記載されていないことになる。
(2) 「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」について(a) 審決は 「 前後のフレームを含めて』最接近位置を検出することについて ,『の技術的意義が,1フレームでは最も近い樹木の位置が検出できないため,その前後のフレームを含めて正確な接近樹木位置を把握することにあることは明らかである (審決25頁7〜10行)と認定したが,誤りである。 」,, 「 , 審決は さらに 本件発明の フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成し」( ), 前後のフレームを含めて…最接近位置を検出できるようにした 構成 構成A が「あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出す」( ), ることを意味していることは明らかであると認定し 審決25頁21〜26行本件発明に36条違反がないと判断しているが(審決25頁28〜32行 ,審決)が認定する上記の意味内容自体が不明瞭であって,その認定判断は,誤りである。
(b) 本件特許請求の範囲の記載によれば,本件発明は「 フレームをつなぎ合わ 『せて送電線下の状況の3次元画像を作成 (P)し 『前後のフレームも含めて送電 』,』()」。 線のある点からの最接近位置を検出できるようにした Q という構成を有する上記(Q)の構成は 「最接近位置を検出する」構成ではなく 「最接近位置を検 ,,出できるようにした」構成であるので (P)の処理を行う構成であれば,それだ ,けで自動的に(Q)の構成も備えていることになるのか,それとも (P)の処理,をした上に「前後のフレームも含め」るための特別な処理を行うようにしてはじめて(Q)の構成を備えていることになるのか,不明である(不明点2 。)また,上記特許請求の範囲の記載からは 「3次元画像を作成」しなければ「前 ,」,, 後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように ならないのか それとも「3次元画像」に依存せずに「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように」なるのかも,不明である(不明点3 。この点からも 「前後のフレームを ),含めて」最接近位置を検出できるようにしたという(Q)の構成は,どのような構成なのか明らかでない。
さらに付言すると 「したがって」という接続語により上記(Q)の構成の前提と ,なっている上記(P)の構成自体が不明であることも,上記(Q)の構成の意味内容が理解できない一因となっている。すなわち「フレームをつなぎ合わせ」ることに ,より作成される本件発明の「3次元画像」が 「平行運動データ及び回転運動デー ,」( ) タで補正 することにより共通の座標系例えば地上に固定された3次元の座標系で表現されたデータを単に3次元座標系でプロットしただけのものであるのか,それとも 「フレーム」に関して特別な処理をすることによりそれとは異なる3次元 ,画像が作成されているのか,不明である(不明点4 。),() , (c) 本件明細書の詳細な説明を参酌しても上記 Q の構成に係る不明点2不明点3は,明らかにならない。
上記不明点2に関し,審決の認定は 「前後のフレームを含む測拒データを共通 ,」。, の座標系にて表現した3次元画像内において検出する というだけである よって不明点2は,審決においては,不明なままである。
上記不明点3に関し,審決の認定は 「データを共通の座標系にて表現した3次 ,元画像内において検出する」というだけであるので,これが,作成された「3次元画像」を利用して検出することを意味する(この場合,3次元画像を作成しないと検出できない)のか,あるいは,3次元画像の作成のために「共通の座標系にて表現した」データを利用して検出することを意味する(この場合,3次元画像自体には依存しない)のか,不明点3に関して,審決は,不明なままである。
(3) 以上のとおり,本件発明の構成Aの意味内容が明らかであると認定し,こ,。 れをもって本件特許に36条違反の無効理由がないと判断した審決は 誤りである2 取消事由2(進歩性についての認定判断の誤り)審決は,甲2発明の認定・評価を誤り,本件発明内容の認定を誤った結果,本件発明の進歩性を肯定するという誤りを犯したものであるから,取り消されるべきである。
(1) 甲2発明の認定・評価の誤り(1-1) 甲2発明の認定の誤り(a) 甲2発明の認定は,本件特許出願当時の当業者の技術常識を前提とし,甲2の記載から自明に読み取れる事項を含めてなされるべきである。
(b) 以下の点は,本件特許出願当時の当業者の技術常識である。
(b-1) 甲1,4及び5に示されるように,レーザ測距装置により得られる各測定点の位置データを,ヘリコプターの運動データで補正することにより,全ての測距データを共通の座標系(例えば地上に固定された座標系)で表現して,森林や送電線を含む地上プロフィールを得ること,及び,この技術がスキャニングシステムにも応用できること。
(b-2) 甲3に示されるように,レーザによる測拒データから3次元座標系での物体の位置を求め,2つの物体のそれぞれの位置を個別に測定することにより,こ() ,, ( ) れらの間の距離 離隔 を計算できること及び ある物体 甲3では架空送電線の他の物体(甲3では樹木の頂点)に対する最接近位置を求めるには,当該ある物体について多くの点の位置測定を行い,距離をそれぞれに求めてそのうちの最小のものを捜すという方法があること。
(b-3) 参考文献2に示されるように,レーザ測距装置を所定の振れ角でスキャンすることを繰り返しながらヘリコプターが飛行すると,スキャナの振れ角とヘリコプターの飛行経路によって定まるエリアをカバーするように測定が行われるので,その結果求められる水深(水面及び海底の位置)を3次元画像として表示できること,及び,このような海底プロフィールを測定する技術は,地上プロフィールを測定する技術にも応用できること。
(c) 上記技術常識をふまえれば,甲2発明は,次のように認定される。
,「() 」 (c-1) 甲2には ヘリコプターからレーザ光を連続的に走査 スキャニングすることにより「送電線路周辺の樹木も含めた地形断面情報を連続的かつ瞬時に得ることにより離隔の測定を行う」と記載されている。上記(b-1)の知識を持つ当業者は,甲2の技術を 「送電線路周辺の樹木も含めた地形断面情報」すなわち「地 ,上プロフィール」を測定するものであり,甲1及び5に言及されている「スキャニングシステム」と同等の技術であると理解する。
(c-2) 甲2における 送電線路周辺の樹木も含めた地形断面情報 すなわち 地 「」「」, , 上プロフィール は 送電線や樹木の各測定点の絶対的位置を表すものであるから上記(b-2)の知識を持つ当業者は,甲2で「地形断面情報」を得ることにより行う「」, 。 離隔の測定 は 二点の絶対的位置の間の離隔を計算することであると理解する(c-3) 甲2の第1図には,送電線を横断するようにレーザ光を走査(スキャニング)しながら,送電線に沿ってヘリコプターを飛行させることが開示されているから,上記(b-3)の知識を持つ当業者は,このスキャニングは飛行しながら繰り返し行われるものであり,その結果,送電線に沿ってスキャナの振れ角に対応する幅を持つエリアをカバーするように,測定が行われること,すなわち,送電線を横断するスキャニング面が多数形成されて 「地形断面情報」が3次元的に得られるこ ,とを理解する。
(c-4) 甲2における上記送電線とスキャニング面の関係は,ヘリコプターの機軸に垂直な面内でレーザ測距光軸を走査することも含めて,本件発明におけるそれと同じであり,本件発明において起きる「送電線のある点から最も近い樹木の位置,」 (【 】) は 同じフレームではなく前後のフレーム内にある場合も考えられる 段落 0021という状況が 甲2においても起きることは上記(b-2)の知識を持つ当業者にとっ ,,て自明である。
よって,甲2においても,最接近位置を検出するには,第2図の例のように簡易的に同一スキャニング面で離隔を計算するだけでなく,送電線に沿って得られた複数のスキャニング面の「地形断面情報」の送電線の位置と樹木の位置とを用いて,,。 最小の距離を探索する必要があることは当業者には自明に読み取れる事項である(c-5) このように,複数のスキャニング面の「地形断面情報」を利用する際,上記(b-1)の知識を持つ当業者は,ヘリコプターからレーザ測拒装置により地上プロフィールを得るシステムにおいては,全ての測定点の位置をヘリコプターの運動データで補正することにより共通の座標系で求めることが,当然に行われる処理であると理解しているから,甲2においても,全ての測定点の位置を共通の座標系で求めるべきであることは,当業者にとって自明である。
(d) 審決における具体的な甲2の認定の誤り(d-1) 審決は,甲2発明は 「同一スキャニング面での相対的な位置関係」を求 ,めるものであり 「地上プロフィールという絶対的位置」を測定するものとは異な ,ると認定したが(28頁18〜20行,29頁36〜38行 ,前記(c-1)(c-2)で)主張したとおり,甲2発明も 「地形断面情報」すなわち「地上プロフィールとい ,う絶対的位置」を測定するものであるので,審決の認定は,誤りである。
(d-2) 審決は 甲2では 3次元データを得る必要性 がないと認定したが 2 ,「 」 (8頁20〜21行 ,前記(c-3)で主張したとおり,甲2発明は,現に3次元データ )を得られるものであるから,明らかに誤りである。
審決は 「スキャニング面(フレーム)をつなぎ合わせることが自然」なことと ,(),, はいえないとも認定するが 28頁21〜22行 (c-4)(c-5)で主張したとおり誤りである。
(d-3) 審決は,甲2では「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する必要」のないことは明らかと認定するが(27頁1〜5行(c-4)で主張し),たとおり,甲2発明も,複数のスキャニング面のデータが利用されるべきものであるから,誤りである。
(d-4) 審決は,甲2では「すべての測拒データを共通の測地座標系に変換する必然性」は見いだせないと認定するが(29頁38行〜30頁1行 ,(c-5)で主張)したとおり,甲2発明も,全ての測定点の位置を共通の座標系で求めるべきものであるから,誤りである。
(e) 以上のように,審決は,甲2発明の認定を誤ったものである。
(1-2) 甲2発明の評価の誤り審決は,甲2には構成Aに関して示唆もないとしたが(26頁37〜38行,27頁5〜7行 ,前記(1-1)のとおり,甲2発明の認定を誤った結果,甲2発明の評 )価判断を誤ったものである。
審決は,甲2の「 GPS…」及び「ジャイロ架台」により,直ちに上記構成A 「…が導き出されるものでもない」としたが(27頁16〜20行 ,誤りである。)甲2発明において 「ジャイロ架台」を介さずにレーザ測拒装置を搭載する形態を ,採用し 「GPS」の代わりにINS(慣性航法装置)で取得したヘリコプターの ,運動データで,測定点の位置データを「補正」することは,容易に想到される事項である この容易に想到される事項と本件発明の構成Aのうち少なくとも フレー 。, 「ムをつなぎ合わせ の部分とは 前記1(1)に主張したとおり 補正 に加えて フ 」, ,「」 「レーム」に関する特別な処理を行うことが全く開示されていない以上,同等のものである。よって,構成Aのうち少なくとも「フレームをつなぎ合わせ」の部分は,甲2から直ちに導き出されるものであり,審決の上記評価は誤りである。
(2) 本件発明内容の認定の誤り(a) 審決は,構成Aの容易想到性を判断するに当たり,不明な点を曖昧なままに認定している(27頁28〜30行,28頁22〜26行 。その上,審決は,)「本件発明の上記構成Aは,単にすべての測距データを共通の測地座標系に変換した3次元画像を作成するだけでなく,あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出するという特徴を有するものである (30頁2」〜6行 「INSと上記構成Aとは直接関連するものではない (30頁28行) ),」と,本件明細書の開示を超えた内容を構成Aに読み込んで認定している。
上記のいずれの認定にも誤りがある。
(b) 構成Aの意味内容本件発明の構成Aに関しては,特許法36条違反があるが,仮に,容易想到性の判断のために構成Aの意味内容を定めるならば,本件明細書に全く記載されていない「フレーム」についての付加的な処理や「前後のフレームを含め」るための特 ,別な処理等はなされないものとして,認定すべきである。
前記のとおり,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて」は,単に,各測定点の位置データをヘリコプターの「平行運動データ及び回転運動データで補正」するこ。, , とを意味する この補正さえ行えば全ての測距データが共通の座標系で表現されフレームがつなぎ合わされたことになる。
そして,前記のとおり,本件発明において「フレームをつなぎ合わせて」作成される「3次元画像」は,フレームに関して特別な処理をすることではじめて得られるようなものではなく,単に 「平行運動データ及び回転運動データで補正」され ,て共通の座標系で表現されるようになったデータを,プロットすれば得られる3次元画像を意味する。
さらに,前記のとおり,本件発明の「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という構成は 「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を ,作成」しさえすれば,他に何も特別な構成を付加しなくても 「前後のフレームも,含めて…最接近位置を検出できるように」なるものを意味する。すなわち,実質的,「 」 には 本件発明の 前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにしたという文言は,単に 「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」する構成 ,により,当然に奏される効果を述べたものにすぎない。
また,前記のとおり,本件発明の「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という構成は,作成された「3次元画像」を利用して検出することではなく,3次元画像の作成のために共通の座標系で表現されたデータを利用して検出することを,予定した構成であることになる。なお,本件発明では 「フ,レームをつなぎ合わせ」できさえすれば「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出」でき 「正確な接近樹木位置を把捉」できるようになるという理解もできる ,(段落【0021 。】)このように共通の座標系で表現されたデータが複数の測定点について得られているとき,ある点からの距離が最短になる最接近位置を検出することは,当然に可能なことであるので,全ての測拒データを共通の座標系で表現する構成がありさえすれば,当然に「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できる」という効果が奏されることになる。このことからも,本件発明の「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という構成は,単に 「フレームをつなぎ合わ ,せて…3次元画像を作成」する構成を,効果の面から記述し直しただけのものにすぎないということが理解できる。
(c) 審決の認定における具体的な誤り前記のとおり,審決は,本件発明の構成Aが 「単にすべてのデータの測距デー ,タを共通の測地座標系に変換した3次元画像を作成するだけでなく,…その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出する」と認定したが(30頁2〜6行 ,誤りである。)本件発明の構成Aは,前記(b)のように認定すべきところ,審決は,構成Aで作成される「3次元画像」が 「前後のフレームを含む測距データを共通の座標系に ,て表現した3次元画像」であるとし,これが「すべてのデータの測距データを共通の測地座標系に変換した3次元画像」とは異なるかのように認定していること,構成Aが 「3次元画像を作成するだけでなく」と述べて,前後のフレームを含んで ,検出するための特別な処理が付加的になされる構成であるかのように認定していること,構成Aが 「3次元画像内において検出する」と述べているため,最接近樹 ,木位置の検出が「3次元画像」を利用して行われるものと認定している可能性もあることの点において,その技術的意味付けを誤り,その結果,誤った進歩性の判断をしたものである。
なお,審決は 「INSと上記構成Aとは直接関連するものではない」と認定す ,るが(30頁28行 ,構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」が,単なる「平行 )運動データ及び回転運動データで補正」を意味するものではないと認定していることになるから,誤りである。INSは 「補正」に用いるための平行運動データ及 ,び回転運動データを取得するものであるから,構成Aと直接関連するものである。
(3) 進歩性の判断の誤り審決が相違点として認定した構成Aは,甲2発明及び周知技術に基づいて想到容易であり,審決の判断は誤りである。
(a) 審決が認定した本件発明と甲2発明との相違点は,構成Aのみである。
(b) 主引用例となる文献自体に本件発明のように構成する必要性や必然性が開示されていなければ進歩性が認められるという判断手法は,誤りである。
甲2発明は,離隔距離を計算する前に「地形断面情報」を得るものである。さらに,甲2では,ジャイロ架台が設けられているから,ヘリコプターの姿勢について計算により補正する必要はないとしても,同一技術分野置換可能な技術手段として,直接搭載して計算により補正するものが知られているのであるから,動機付けは存在する。
(c) 審決は,甲2に甲10を適用しても「同一スキャニング面での最接近位置」,。 を検出するに止まる から構成Aは想到容易でないと判断したもので 誤りである,「」。 甲2は 同一スキャニング面での最接近位置を検出するに止まる ものではないまた,審決は,甲2に甲1,4及び5の技術を適用したとしても「共通の測地座標系による3次元画像を作成するに止まる」から,構成Aは想到容易でないと判断したが,誤りである。
その他,審決には,甲1,4及び5,3,6ないし8,参考文献2に基づいた相違点の判断にも誤りがある。
このように,審決の本件発明の容易想到性についての判断は,誤りである。
以下,構成Aの容易想到性について具体的に説明する。
(d) 構成Aのうち 「フレームをつなぎ合わせて」の容易想到性 ,前記(2)に記載のとおり,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて」は,フレームに関して特別な処理をするわけではなく,単に,各測定点の位置データをヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データで補正することを意味する。このような意味における補正をすることは,甲2発明及び周知技術(甲1,4ないし8)に基づき,当業者が容易に想到し得たものである。
この点を詳述すると以下のとおりである。
(d-1) 甲2には,レーザ測距装置を「ジャイロ架台」に組み込んだものをヘリコプターに搭載すること 「GPSによる位置表示サブシステム」によりヘリコプ ,ターの位置を検出することが記載されている。一方,本件発明では,レーザ測拒装置をヘリコプターに搭載し,レーザ測距装置が取得した位置データを 「ジャイロ,加速度計部」が取得したヘリコプターの平行運動データ(位置)及び回転運動データ(姿勢)で補正する構成(以下「構成B」という )を採っている。。
レーザ測距装置をヘリコプターに直接搭載するとともに,INSを備え,これにより取得したヘリコプターの位置及び姿勢を用いて,レーザ測拒装置が取得した測定点の位置データを共通の座標系で計算する(補正する)ことは,よく知られた技術的事項である(甲1,4及び5 。また,INSがジャイロ加速度計部を有する )ことも,周知の事項である(甲6,7 。そうすると,レーザ測拒装置を,甲2発 )明のようにジャイロ架台に組み込んで搭載するか,甲1,4及び5に示されるように直接搭載して,INS(ジャイロ加速度計部)を備えるようにするかは,当業者が適宜選択する設計的事項である。しかも,甲2発明においては,レーザ測距装置をジャイロ架台に組み込んで一定の姿勢になるように搭載しようが,直接搭載して機体姿勢の変化分をINSからの出力を用いた計算により補正しようが,発明の本質には何ら関わりがない。
また,甲8の423頁の「要約」3段落には,レーザ測拒装置を,ジャイロ架台のような安定化プラットフォームに組み込んで搭載することに代えて,機体に直接搭載する形態を採用するとともに,INSを使用して測定点の位置を計算することが記載されている。
よって,甲2発明において,レーザ測距装置をヘリコプターに搭載する形態として 「ジャイロ架台」に組み込むのではなく,直接搭載する形態を採用し,それに ,伴い 「ジャイロ加速度計部」を備えるようにすることは,当業者にとって極めて ,容易であり,その場合に 「ジャイロ加速度計部」により取得されたヘリコプター ,の平行運動データ(位置)及び回転運動データ(姿勢)により,レーザ測拒装置が取得した位置データを補正することも,例えば甲5に示され,当業者によく知られていた技術である。
さらに,甲2発明において「GPS」により取得される平行運動データ(位置)を ジャイロ加速度計部 INS に取得させるようにすることも 当業者にとっ ,「」() ,(, て単なる設計的事項にすぎない甲5の31頁 6.2Rotterdam の第2段落2〜3行甲8の要約及び 430 頁第2段落9〜16行 。)以上のとおり,本件発明の構成Bは全て,甲2号証の発明から当業者が自明に導き出せる事項にすぎない。
(d-2) 本件発明の構成Aにおける「フレームをつなぎ合わせて」も,構成Bの「補正」と実質的に同じ意味しか有しないのであるから,当業者が容易に想到し得たものである。
すなわち,送電線を横断するようにレーザ光を走査(スキャニング)することを繰り返しながら,送電線に沿ってヘリコプターを飛行させることにより,複数のスキャニング面で測拒データを得る甲2発明に,得られた全ての測拒データを共通の座標系で表現する甲1,4及び5の技術を単純に適用するだけで,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて」という構成になるのである。
そして,甲2発明に,甲1,4及び5の技術を適用することは,両者がレーザ測距装置を用いて地上プロフィールを得るという同じ技術分野に属することから,当,,, 業者が当然に試みることであり 甲2により示唆されていることであるし さらに甲8等によっても示唆され,かつ,何の阻害要因も認められないのであるから,そこには,何の技術的困難性もない。
以上のとおり,本件発明の構成Aにおける「フレームをつなぎ合わせて」は,甲2発明と周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(e) 構成Aのうち 「送電線下の状況の3次元画像を作成し」の容易想到性 ,前記(2)のとおり,本件発明の「3次元画像」は,単に,ヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データで補正されて共通の座標系で表現されるようになったデータを,3次元座標系にプロットするだけで作成されるものである。
一方,前記(1)のとおり,甲2発明では,送電線を横断するスキャニング面が多数形成されて 「地形断面情報」が3次元的に得られるところ,この「地形断面情 ,報」を構成する全ての測定点の位置データを,ヘリコプターの運動データで補正して共通の座標系で表現することは,前記のとおり,甲1,4及び5の技術を単純に適用するだけで実現される。
さらに,甲2で得られるような3次元データを,3次元画像として表示することは,自明な事項である(甲12 Fig.21(b)。なお,甲10にも鳥かん図方式として明記されている 。。)したがって,甲2で3次元的に得られる「送電線路周辺の樹木も含めた地形断面情報」を構成する多数の測定点の位置データを,甲1,4及び5の技術を単純に適用することにより共通の座標系で表現し,上記のように3次元画像として表示すれば,本件発明の「送電線下の状況の3次元画像を作成」する構成になる。このように本件発明の「送電線下の状況の3次元画像を作成」する構成に想到するに当たっては,何の技術的困難性もない。
(f) 構成Aのうち 「前後のフレームも含めて…検出できるようにし」の容易想 ,到性前記(2)のように,本件発明の「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出で」,「」 きるようにした という構成は フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成する構成に,何か特別な構成を付加するようなものではなく,同構成を,単に効果の面から記述し直しただけのものを意味する すなわち 本件発明の 前後のフレー 。, 「ムも含めて…最接近位置を検出できるようにした」構成は,上記の「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」する構成と,実質的に同じ構成を意味する。
そうすると,前記のとおり,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」する構成は,甲2発明及び周知技術(甲1,4,5,10,12)に基づき,当業者が容易に想到し得たものであるから 「前後のフレームも含めて…最 ,」, 。 接近位置を検出できるようにした 構成も当業者が容易に想到し得たものである(g) 構成Aのうち 「前後のフレームも含めて…検出できる」効果の自明性 ,前記のように,本件発明の「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」する構成に容易に想到すると,この構成が「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できる」という効果を奏することは,当業者に自明である。
なぜなら,ヘリコプターの運動データで補正した後の測定点の位置データは,同じスキャニング面で得られた測定点であっても,もはや同一平面上には存在しないから,その測定点をプロットした3次元画像において 「前後の」スキャニング面 ,の区別は意味をなさず,単に二点の絶対的位置の間の距離から,最接近位置を検出することになるからである。
なお,甲2発明において 「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できる ,ように」するという目的が存在することも,自明である。これは,甲2発明に基づいて容易に想到できる「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」する構成を,この目的のために採用することも,自明であることを意味する。
なぜなら,甲2で「地形断面情報」を得ることにより行う「離隔の測定」は,二点の絶対的位置の間の離隔を計算することを意味し,甲2においても,最接近位置を検出するには,簡易的に同一スキャニング面で離隔を計算するだけでなく,送電線に沿って得られた複数のスキャニング面の送電線と樹木の絶対的位置から,最小の距離を探索する必要があることは,自明であるからである。
被告らの主張の要点
1 取消事由1(特許法36条違反についての判断の誤り)に対して(1) 原告ら主張の不明点1及び2は,自動的にできるように構成する場合も,付加的な処理をする場合も含まれる。そもそも 「自動的に」行われるという場合 ,も,それは一見したところ「自動的に」なされるだけで,それが可能となるように例えばソフト的な仕組みは別に存在しているのであるから,かかる点を不明点などというのは理由がない。
原告ら主張の不明点3は 「3次元画像に依存せずに」と言う意味がよくわから ,ないが,本件発明において樹木と電線との最接近樹木位置を知るには,いずれにせよ,3次元画像内において検出することが必要であり,3次元画像を不要とする構成は考えられないから,かかる不明点も意味がない。
原告ら主張の不明点4については,本件発明において,得られたデータを3次元で把握する方法に特段の限定はない。
(2) 本件発明は,審決が理解した意味内容を有する発明として当業者には明確である。原告らが不明であるとして主張する不明点1〜4は,そもそも何が不明であると主張したいのか理解できないものであり,原告らは意図的に不明点としているにすぎない。
2 取消事由2(進歩性についての認定判断の誤り)に対して(1) 甲2発明の認定・評価の誤りをいう主張に対して(a) 技術分野に関して指摘しておくと,地図の作成を目的としてデータを収集するプロファイラー装置は,地球座標系における絶対位置を測定するがその測定データはある間隔ごとに測定されたもので足りる。これに対し,本件発明は,地球座標系における絶対位置を測定する必要がない一方,測定データは抜けのないものであることが要求される(本件発明は,ヘリコプター,送電線あるいは接近樹木の絶対位置(地球座標系における位置情報としての絶対位置)を測定することを必須の構成要件とはしておらず,相対的位置関係を把握できれば足りる 。両者は,明。)らかに別異の技術である。それが同一のものであるという誤った前提に立つ原告らの主張は,失当である。
(b) 甲2には,ヘリコプターがスキャニングによる地形断面情報の「取得を行いながら,送電線に沿って飛行している」という記載は全くない。むしろ,甲2には 「パルス・レーザーを地上に向けてジャイロ架台から照射しながら約 10km/h の ,速度で送電線を横断測定する基礎試験を実施した と記載されており ヘリコプター 」,は,送電線に沿いながらではなく,送電線を横断する方向で飛行することが示されている。そして,実際にヘリコプターから地上までの垂直距離を連続的に測定した写真及び地表断面図(第5図)が示されているが,ここでも,送電線を横断する方向で測定していることが示されている。
甲2では,実際の離隔測定についての具体的な解決手段は示されていない。
甲2には 「送電線と樹木」の絶対位置を測定していることは記載がなく,第5 ,図に示されているように実際にも測定をしていない。甲2の第5図の地表断面図で,。 は縦横軸はいずれも相対距離が目盛られており 絶対位置を示す表示は見られない甲2は,相対的離隔距離の測定についての基礎実験を開示するのみで,測定結果に基づいて,具体的に樹木を伐採等する方法については今後研究するとしているにすぎない 「甲2の発明は,当然に「送電線と樹木」の絶対位置も測定している 」 。。
といえないことは,明らかである。
(c) 原告らがいう審決の具体的な誤りの主張に対して(c-1) 甲2発明は,絶対的位置は測定しておらず,相対的位置を測定していることは前記のとおりである。したがって,甲2は 「同一スキャニング面での相対 ,的な位置関係」を求めるものである,とする審決に誤りはない。
また,審決は,レーザ計測データを取得すれば,絶対的位置の測定を意味すると認定しているわけではない 甲2に記載されたレーザ計測方法には レーザ計測デー 。,タを,GPS及びINSからの信号に基づいて測地座標系といった共通の座標系に変換することについての記載は全くないのであり,甲2発明は,絶対的位置を測定するものとは異なり 「同一スキャニング面での相対的な位置関係」を求めるもの ,であるとする審決の認定に誤りはない。
(c-2) 甲2の第1図に記載のシステムの原理を表した第2図は同一スキャニング面の測定原理を示すものにすぎず,3次元データを得ることを示す記載は全くない。実際にも送電線の横断面を測定しているにすぎず,第5図には1つのスキャニング面だけが記載され,スキャニング面が「多数」であることを示す記載はない。
このように,甲2には同一スキャニング面の2次元のデータを取得することしか記載されておらず,3次元データを得ることを示す記載は全くない。したがって,甲2について「3次元データを得る必要性」がないとする審決に誤りはない。
(c-3) 甲2は,単に同一スキャニング面内の離隔距離データを取得する測定を行っているにすぎない。したがって,甲2では「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する必要」はないとする審決に誤りはない。
(c-4) 前記のとおり,甲2には,絶対的位置を測定する記載は見られず,相対的位置を測定する記載があるだけである。また,3次元データも得ていない。したがって,甲2では「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する必然性」がないとする審決に誤りはない。
(2) 本件発明内容の認定の誤りをいう主張に対して(a) 本件発明では,構成Aを実現するために,@「測距光軸を走査する機能を有し,スキャナによるレーザ測距光軸の振れ角をθ,1フレーム当たりのデータ数をDとしたとき,走査するレーザビームをθ/D以上の広がり角で照射することにより,前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って抜けなく前記レーザビームを照射するレーザ測距装置部 (以下「構成@」という ) 」。
と,A「ヘリコプターの機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての前記ヘリコプターの平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するジャイロ加速度計部 (以下「構成A」という )と, 」。
「 , B 前記レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査しながら前記振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を前記広がり角に相当する面分解能で前記レーザビームを照射することにより取得された目標からの距離データ及びスキャン角度データを記録する記録部 (以下「構成B」という ) 」。
と,C 距離データ及びスキャン角度データを処理する際に 該距離データ及びスキャ 「,ン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正することにより,前記フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるように処理するデータ処理解析部(以下「構成C」という )とを備えてい 」。
るのである。
すなわち,構成@によって,走査軌跡に沿う測距データに抜けが生じて送電線のある点からの最接近位置が検出できない場合が生ずることをなくし,また,構成A〜構成Cによって,フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の正確な3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたものである。本件発明は,送電線に沿ってヘリコプターを飛行させながら,上記構成@〜Cを備えることで,前記レーザビームを照射することにより取得される各走査フレームのデータを,並行して取得される前記ヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データで補正することにより,フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の正確な3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたものである。
甲2には,本件発明の技術課題についての開示も示唆すらも全く見られない。
なお,甲2では,GPSによる位置表示サブシステムがヘリコプタ一に搭載され,,, ているが このGPSによる位置表示サブシステムは 本件発明の実施例において飛行位置計測用に搭載しているGPS部8に相当するものであり,距離データ及び走査光学系のスキャン角度データを補正するために搭載した本件発明のジャイロ加速度計部とは,全く異なるものである。
(b) 甲2には,本件発明の特徴とする上記の構成@〜Cについて全く記載されていないのであるから,被告らが構成Aを実現するための手段としてのこれらの構成@〜Cを挙げて本件発明の優位性を主張するのは当然のことである。
(3) 進歩性の判断の誤りをいう主張に対して(a) 原告らは,審決が上記構成@〜Cのうち構成Aを除いた部分については相違点であるとの認定は一切していないというが,審決は,上記構成@〜Cが一致点であるとは一言も認定しておらず,むしろ「構成Aについては開示も示唆もされ ,ていない」という認定は,甲2には,上記の構成@〜Cを示唆する記載がないことを示していることは明らかである。実際に甲2には,上記の構成@〜Cは記載も示唆もない。
(b) 甲2発明は,同一スキャニング面内における離隔距離]を直接計算して瞬時に求めているにすぎないものであって,測定された距離データ及びスキャン角度データをヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データで補正する必要がない構成であるから,甲2発明に甲1,4及び5などの技術を適用する動機付けが生ずる余地はない。
甲2は,同一スキャニング面内における離隔距離]を直接計算して瞬時に求めるというものであり,そもそも複数のフレームをつなぎ合わせて送電線下の状況の3次元画像を作成するという発想が全く存在しないのであるから,ヘリコプターの姿勢について計算により補正するという動機付けが生ずる余地は全くない。
(c) 甲2には 「複数のスキャニング面の「地形断面情報」を得る」という記載 ,はなく,送電線と樹木との離隔測定は,第2図の原理図からみて同一スキャニング面内でのみ行われることは明白である。
甲2には,送電線を横断するようにレーザ光をスキャニングすることについて記載されているにすぎず,送電線に沿ってヘリコプターを飛行させることについては全く記載されていない。第2図に示されている原理図からみて,レーザ光をスキャニングすることにより,同一スキャニング面での最接近位置を検出しているにすぎない。
甲12(参考資料2)は,ヘリコプターに搭載したレーザシステムによる水深探査装置について記載しているが,甲2は 「同一スキャニング面での最接近位置を ,検出するに止まる」ものであって,3次元画像化することは全くの想定外であるから,甲2と甲12を組み合わせる動機が生ずる余地はない。
(d) 構成Aのうち 「フレームをつなぎ合わせて」の容易想到性をいう主張に対 ,して甲2は,レーザ光をスキャンして接近樹木の離隔測定を行う際には,第2図に示すようにレーザビームをスキャンすることにより同一スキャニング面内での距離データ及びスキャン角度データを連続的かつ瞬時に取得し,同一スキャニング面内における離隔距離]を瞬時に求める技術を開示しているにすぎず 「送電線を横断,するようにレーザ光を走査(スキャニング)することを繰り返しながら,送電線に沿ってヘリコプターを飛行させることにより,複数のスキャニング面で測距データを得る」という記載は,甲2には全くなく,フレームをつなぎ合わせる必然性も全くない。
(e) 構成Aのうち 「送電線下の状況の3次元画像を作成し」の容易想到性をい ,う主張に対して甲2は,レーザ光をスキャンして接近樹木の離隔測定を行う際には,第2図に示すようにレーザビームをスキャンすることにより同一スキャニング面内での距離データ及びスキャン角度データを連続的かつ瞬時に取得し,同一スキャニング面内における離隔距離]を瞬時に求める技術を開示しているにすぎないものであり 送,「電線を横断するスキャニング面を多数形成して 「地形断面情報」を3次元的に得 ,る」という記載は,甲2には全くない。
(f) 構成Aのうち 「前後のフレームも含めて…検出できるようにし」の容易想 ,到性をいう主張に対して原告らの主張が失当であることは,前記のとおりである。
(g) 構成Aのうち 「前後のフレームも含めて…検出できる」効果の自明性をい ,う主張に対して甲2発明及び周知技術(甲1,4及び5,10,参考文献2等)には,本件発明の特徴とする 「フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作 ,成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにした」構成Aについては開示も示唆もされておらず,それらから容易に想到することもできない。本件発明の効果も自明ではない。
甲2において,目標までの距離A,B及び角度αは,レーザ測距装置部による同一スキャニング面内でのスキャンによって直接得られる距離データ及び走査光学系のスキャン角度データであり 甲2はこの測定データをそのまま用いて同一スキャ ,,ニング面内における離隔距離]を瞬時に求める方法を示しているにすぎない。したがって,甲2においては,この測定データを3次元データに変換する必要性あるいは必然性は全くなく,よって,離隔距離xを√{ x -x ) +(y -y ) + (122122(z -z ) }により求めることが,甲2の記載から当業者に自明な事項である122とは到底考えられない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法36条違反についての判断の誤り)について(1) 原告らは,要するに,次の4つの不明点を挙げて,特許法36条違反をいうものである(前記第3,1 。)不明点1:構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」という要素について 「ヘリ,コプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」すれば自動的に「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのか,それとも,単に「ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」するだけではなく「フレーム」に関して付加的な処理を行ってはじめて「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのかが不明である点。
不明点2:構成Aの「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という要素について 「前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接 ,近位置を検出できるようにした」(Q)という構成は 「フレームをつなぎ合わせて ,送電線下の状況の3次元画像を作成」(P)という処理を行う構成であれば,それだけで自動的に(Q)の構成も備えていることになるのか,それとも (P)の処理,をした上に「前後のフレームも含め」るための特別な処理を行うようにしてはじめて(Q)の構成を備えていることになるのか不明である点。
不明点3:不明点2と同じ構成Aの要素について 「3次元画像を作成」しなけ ,れば「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように」ならないのか,それとも 「3次元画像」に依存せずに「前後のフレームも含めて…最接近位置を ,検出できるように」なるのか不明である点。
不明点4:不明点2と同じ構成Aの要素について 「フレームをつなぎ合わせ」 ,ることにより作成される本件発明の「3次元画像」が 「平行運動データ及び回転 ,運動データで補正」することにより共通の座標系(例えば地上に固定された3次元の座標系)で表現されたデータを単に3次元座標系でプロットしただけのものであるのか,それとも 「フレーム」に関して特別な処理をすることによりそれとは異 ,なる3次元画像が作成されているのか,不明である点。
(2) まず,本件発明の構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」という要素の意味内容について検討する。
(a) 前記第2,2に記載した本件発明の請求項1の記載によれば,1フレームとは 振れ角θで行うレーザ測距光軸の一回のスキャン走査のことで 一回のスキャ ,,ン走査によって 「レーザ測距装置部から出力される距離データ及びスキャン角度 ,データ」を取得できること,また,各フレームにおいて取得されるデータは,振れ角θとヘリコプターの飛行経路によって作られる,ヘリコプターの機軸に垂直な面内に位置する送電線と送電線に接近する障害物についてのデータであること,さらに 「前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度 ,データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正すること」によって得られるのは,送電線と送電線に接近する障害物についての補正後の位置データであることが認められる。
一方 「つなぎ合わせる」とは 「いくつかの物事をつないで一つにする (広辞 ,, 」苑5版)ことを意味するところ,上記認定によれば,フレームとは,スキャン走査面のことであり,補正によって得られるのは,補正後の位置データであると解されるのであるから,上記「フレーム」は,そもそも,つなぎ合わせるような性質のものであるかは疑問であって,請求項1の「補正することにより,前記フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し」との記載をはじめとする,「」 本件発明の特許請求の範囲の記載に基づくのみでは フレームをつなぎ合わせての技術的意義を一義的に明確に理解することが困難であるというほかない。
(b) そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,技術常識を加味しつつ本件発明の要旨を検討してみると,次のとおりである。
上記のとおり,本件発明における「補正」は 「フレームをつなぎ合わせ」る前 ,段階で行われるものであるところ,ヘリコプターの回転運動データによる補正がなされると,理論的にみて,各フレームにおいて,データ取得時のヘリコプターの姿勢が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターに対する相対位置として定められることになる。換言すれば,距離データ及びスキャン角度データからなる2次元データが,ヘリコプターに対する測定点の相対位置である3次元データに補正されることになる。また,ヘリコプターの平行運動データによる補正がなされると,理論的にみて,データ取得時のヘリコプターの飛行位置が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置として特定されることになる。
また,上記のとおり 「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」するの ,であるから 「フレームをつなぎ合わせ」る処理は,上記補正の後,3次元画像を ,作成するための処理であることは明らかである。
そして,本件明細書(甲16)の発明の詳細な説明欄には 「フレームをつなぎ,合わせて」に関係する記載としては 「この補正によって,フレームをつなぎ合わ ,せ,3次元画像を作成することも可能となる。したがって,前後のフレームも含め,。 」(【 】), て 送電線のある点からの最接近位置を検出することができる 段落 0022「更に,ジャイロ加速度計部を加えることによって,ヘリコプター等航空機の運動による誤差の補正ができ 送電線下の状況を3次元画像化可能なので 前後のフレー ,,ムデータを含めて離隔距離を算出できる (段落【0029 )などと記載されて 。」】いるだけである。これらの記載のほか,本件明細書の記載全体を精査しても,上記の「補正」と 「3次元画像の作成」との間の段階で格別の処理が行われているも ,のと解することはできない。したがって 「フレームをつなぎ合わせ」る処理は, ,上記補正後の3次元データを,3次元画像へと加工する一般的な処理のことであると解するほかない。
以上によれば,構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」ということは 「前記距,離データ及びスキャン角度データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正すること」により,各フレームにおける実際の測定点の位置を,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置(3次元)として定め,3次元画像へと加工することを意味するものと認められる。そして,このような作業の結果として,前後フレームにおける実際の測定点の間の位置関係が特定されて,前後フレームにはつながりが生じるといえるのであって,これをもって「フレームをつなぎ合わせて」と表現 ,したものと理解される。なお,前認定のとおり,本件発明における「フレームをつなぎ合わせ」る処理は,上記補正後の3次元データを,3次元画像へと加工する一般的な処理のことであり 「補正」と「3次元画像の作成」との間の段階で格別の ,,処理が行われるものであるとは解されないものである。
(c) そうすると,原告らが不明点1として主張する点は,不明であるとはいえない。
(3) 次に,本件発明の構成Aの「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という要素の意味内容について検討する。
(a) 上記の補正と,3次元画像の作成との間の段階で格別の処理が行われるものであると解することはできないことは,前判示のとおりである。
また,各フレームにおける実際の測定点の位置が,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置(3次元)として定まれば,これら測定点の位置を3次元画像に形成できること,そして,3次元画像が作成できるのなら,測定点間の距離が3次元的に算出可能であり,樹木の最接近位置を検出できることは,いずれも当業者にとっては明らかなことと解される。
もっとも,前記の特許請求の範囲の記載においては,本件発明における3次元画像の構造や3次元画像の作成手段が特定されているわけではなく,また,送電線のある点及び樹木の位置を特定する手段として,上記補正以外の手段が示されているわけでもないし,両者の距離を算出する具体的手段が示されているわけでもない。
,,【】 , また 本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても 上記段落 0022【0029】の記載などによっても,3次元画像を作成し,最接近位置を検出するための具体的な態様が示されているわけではない。そうすると,本件発明における「3次元画像を作成し 「最接近位置を検出できるように」するための手段として 」,は,周知のものが採用されているものと解するのが相当である。
(b) 以上によれば 「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように ,した」ということは,上記補正により得られる各測定点の3次元データを,周知の手法により,フレームをつなぎ合わせて3次元画像を作成し,周知の方法により,画像データないし3次元位置データに基づいて送電線のある点と樹木との最接近位置を検出できるようにしたということを意味するものと解するのが相当である。
(c) そうすると,原告らが不明点2ないし4として主張する点は,不明であるとまではいえない。
(4) なお,被告らは,前記第4,1(1)のとおり,測定点の位置データを補正して,フレームをつなぎ合わせる場合において,これが自動的にできるように構成する場合も,付加的な処理をする場合も含まれると主張しており,本件発明には,フレームをつなぎ合わせるために,特別の処理は要せず,測定点の位置データを補正すれば足りるような構成が含まれることを認めている。
被告らは,また,前記第4,1(1)のとおり,いずれにせよ3次元画像内において検出することが必要であって,得られたデータを3次元で把握する方法に特段の限定はないと主張しており,3次元画像を作成できれば最接近位置を検出できることを認めていると解されるとともに,本件発明における得られたデータを3次元で把握する方法には,限定がなく,周知の方法による構成も含まれることを認めている趣旨と解される。
(5) 以上の点に関し,審決は,前記第2,3,(2)のとおり説示するが,既に判示したところと同旨と解し得る限りにおいて,違法はない。
よって,原告ら主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(進歩性についての認定判断の誤り)について(1) 甲2発明についての審決の認定・評価について(a) 原告らは,要するに,次の(A)〜(D)の4点において審決の誤りを主張し,これらに基づいて,審決が,甲2発明では構成Aが示唆もされていないと認定判断したことを非難するものである(前記第3,2(1) 。)(A) 甲2発明が「同一スキャニング面での相対的な位置関係」を求めるもので,「」。 あり 地上プロフィールという絶対的位置を測定するものとは異なるとした点(B) 甲2号証では「3次元データを得る必要性」がないとした点。
(C) 甲2号証では「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する必要」がないとした点。
(D) 甲2では「すべての測拒データを共通の測地座標系に変換する必然性」は見いだせないとした点。
(b) 検討するに,甲2には,次の記載がある。
(b-1)「送電線への接近樹木調査を効果的に実施するために,ヘリコプターからレーザ光を連続的に走査(スキャニング)しながら,瞬時に送電線と樹木の離隔を測定するシステム (5頁左上欄の本文1〜4行) 」(b-2)「2 パルス・レーザ測距儀を使ってヘリから測距本システムは,従来の写真やビデオによる画像方式に対して,パルス・レーザ測距儀を用いた非画像方式で測定を行うことにその特徴を持ち,送電線路周辺の樹木を含めた地形断面情報を連続的かつ瞬時に得ることにより離隔の測定を行うものである。その概念図を第1図に示す。パルス・レーザ測距儀と,スキャニングサブシステム,映像撮影部,GPSによる位置表示サブシステム,離隔計算サブシステム等を有するシステムである。第2図に離隔測定するときのシステム原理を示す (5頁左下欄9行〜右下欄6行) 。」(b-3)「4 ヘリによる基礎試験地上からパルス・レーザにより送電線までの離隔測定を繰り返し行い,架空送電線を図形化することができたので,ヘリによる基礎試験を実施した。パルス・レーザを地上に向,。, けてジャイロ架台から照射しながら 約 10km/h の速度で送電線を横断測定した 第3図第4図にその写真を,第5図にその試験の結果得られた地表断面図の一例を示す。測定精度は数 10cm の誤差で計測でき,レーザパルス発射回数を増加する方向でシステム化にむけて将来に明るい見通しを得た (6頁左欄1〜11行) 。」(b-4)「5 今後の展開今回の結果より,ヘリコプターから連続的に地上までの垂直距離を実測し,架空送電線の高さはもとより,地上樹木等の高低差を精度良く計測できる可能性を示せた。今後は本実験で得られた知見による問題点について検討を行い,また面的な情報を得るためのスキャニングシステム等の研究を進める予定である (6頁左欄12〜18行) 。」(b-5) 5頁の第1図には,ヘリ搭載レーザ測距システムにより,送電線を横断するようにスキャニングする様子が記載されている。
(b-6) 5頁の第2図には パルス・レーザ測距儀により 送電線と直交する面をスキャ ,,ニングし,測定された送電線までの距離A及び樹木までの距離Bと両者の間のスキャニング角度差αを用いて離隔xを求めることが示されている。
(c) 上記の各記載によれば 甲2発明において ヘリコプターは パルス・レー ,,,ザ測距儀と,スキャニングサブシステムを有し,パルス・レーザを地上に向けて照射しながら,送電線を横断測定し,送電線路周辺の樹木を含めた地形断面情報を連続的かつ瞬時に得て,その結果を地表断面図に表し,第2図に概要が示された離隔,。 計算サブシステムにより 送電線と樹木との離隔を検出していることが認められるなお,ヘリコプターの飛行方向について,被告らは,甲2においては,送電線を横断する方向で飛行している旨主張する。しかし,甲2には,上記のとおり 「送,電線を横断測定し」と明記され,また,前記第1図には,送電線を横断する方向にスキャンすることが図示されているところ,ヘリコプターが送電線を横断する方向に飛行しながらスキャンを行うと,スキャン方向が送電線の架線方向となって,第5図の断面図が得られないことは明らかであるから,上記被告らの主張は採用することができない。
もっとも,上記記載によれば,甲2の地表断面図は,同一スキャニング面におけるものであると解されるから,上記離隔計算サブシステムによる送電線と樹木との離隔検出は 「同一スキャニング面での相対的な位置関係」に基づいて行われてい ,ると解するのが相当である。
,,「」, そうすると 甲2には 地上プロフィールという絶対的位置 を測定すること「3次元データを得る」こと 「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに ,議論する」こと 「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する」ことが記 ,載されているということはできない。
(d) しかしながら,甲2のヘリコプターは,飛行しながら計測を行うのであるから(上記(b-3) ,技術常識に照らしても,1回のスキャンで送電線に最も近接す )る樹木の特定ができるとは考えられない。また,甲2には 「今回の結果より,ヘ ,リコプターから連続的に地上までの垂直距離を実測し,架空送電線の高さはもとより,地上樹木等の高低差を精度良く計測できる可能性を示せた (上記(b-4))と記」載され,送電線と樹木との離隔の他にも,架空送電線の高さや地上樹木等の高低差をも計測できることが示されているのであって,これらを含めて計測しようとするなら,一つのスキャニング面でのデータを取得するだけでは足りず,複数のスキャニング面でのデータを3次元的に比較する必要があることは明らかである。
また,甲10には,プロファイルの測定においては,レーザ送出方向をスキャンすることによって,2次元,3次元データを得ること,及び3次元データに対しては鳥かん図方式の表示が有効であることが説明されているから(20頁左欄37行〜21頁左欄6行 ,上記の場合において,複数のスキャニング面のそれぞれから )3次元データを得て,それを3次元画像とすることも,当業者ならば普通に考慮することといえる。
そうであれば,甲2においても,飛行しながら複数回のスキャンを行い,複数のスキャニング面から必要なデータを得る必要のあること,また,これらのデータを3次元データないし3次元画像に加工した上で計測する必要のあることは,当業者が容易に理解し得ることというべきであり,甲2発明では 「3次元データを得る ,必要性」がない(上記(B))とか 「前後のスキャニング面の距離データをいっしょ ,に議論する必要」がない(上記(C))ということはできない。
(e) また,上記甲2における地表断面図に基づいて,送電線と樹木との離隔を検出したとしても,スキャニング面の位置が特定できなければ,地上における樹木の位置が特定できないことは明らかである。甲2において,パルス・レーザ測距儀をジャイロ架台に組み込み GPSによる位置表示システムを採用するのは スキャ ,,ニング面の位置を特定するためであると解される(上記(b-2)(b-3),甲2の6頁第3図 。)そして,甲1,4及び5には,航空機からのレーザ測距データを,GPS及びINSからの信号に基づいて測地座標系といった共通の座標系に変換し,地上プロフィールを得るシステムが記載されているところ,共通の座標系に変換する理由として 地上のレーザ点の座標は 地上座標系で計算されるが そのためには レー ,「, ,,ザビームの完全な定位(即ち,位置と姿勢)が知られなければならない 」とし,。
これに引き続いて説明がされており(甲1の151頁1〜8行,抄訳1頁下から4行〜2頁12行 ,レーザビームの完全な定位(これにより,スキャニング面の位 )置も特定される )を知らないと,レーザ点を特定できないことは明らかである。 。
そうであれば,甲2において,データを測地座標系といった共通の座標系に変換する必要のあることは,当業者が普通に理解できることであるから,甲2発明は,「」(), 地上プロフィールという絶対的位置 を測定するものではない 上記(A) とか「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する必然性」がない(上記(D))ということもできない。
この点に関し,被告らは,地図の作成を目的とするプロファイラー装置は,本件発明とは,明らかに別異の技術である旨を主張する。しかし,本件発明において,相対的位置関係を把握するだけでは,樹木を特定するに至らないことは上記のとおりであるし,測定間隔は,測定の目的に応じて,適宜設定されるべきものであるから,本件発明がプロファイラー装置と別異の技術であるということはできない。
(f) 以上のように,周知技術を勘案しつつ甲2発明を理解すれば 「地上プロ,フィールという絶対的位置」を測定すること 「3次元データを得る」こと 「前後 ,,のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する」こと 「すべての測距デー,タを共通の測地座標系に変換する」ことが,甲2発明にも本来的に予定されているものと解すべきであって,甲2に構成Aが明文で記載されていないとしても,構成Aが示唆されていないとまでいう審決の認定判断は,是認することができない。
被告らの主張で上記認定判断に反する部分は,採用の限りではない。
(2) 本件発明内容の認定の誤りについて原告らの主張は,要するに,審決の本件発明の要旨認定を争うものである(前記第3,2(2) 。)本件発明の要旨のうち,問題となる点については,取消事由1についての検討の中で既に判示したとおりである。
被告らの本件発明の要旨認定についての主張の一部は,上記判示中で触れたとおりである。被告らは,そのほかに構成@〜Cを挙げて反論するところであるが,この点は,次の(3)で一括して検討することとする。
(3) 進歩性の判断の誤りについて(a) 前記1で前判示したとおり,本件発明における構成Aは,ヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データにより測定データを補正して得られる各測定点の3次元データを,周知の手法により,フレームをつなぎ合わせて3次元画像を作成し,周知の方法により,画像データないし3次元位置データに基づいて送電線のある点と樹木との最接近位置を検出できるようにしたということを意味するものと解される。本件発明においては,最接近位置の検出のための特別の処理がされるものとは解されないことも,前判示のとおりである。
(b) そして,既に判示したとおり,甲2発明において,複数のスキャニング面のそれぞれから3次元データを得ること,得られたデータを測地座標系といった共,,, 通の座標系に変換すること 変換したデータを3次元画像とすることは いずれも当業者が普通に考慮することであるというべきである。
また,3次元データを共通の座標系に変換すると,測定点の位置が上記座標系において特定されることになり,また,測定点間の距離は,測定点の位置から計算によって容易に求めることができるのであるから,送電線に対する最接近樹木の位置も容易に定まるといえる。
そうであれば,本件発明の構成Aは,容易に想到し得たものというべきである。
(c) ところが,審決は 「本件発明の上記構成Aは,単にすべての測距データを ,共通の測地座標系に変換した3次元画像を作成するだけでなく,あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出するという特徴を有するものであるところ,甲2発明において,甲1,甲4及び甲5に記載された発明を適用したとしても,共通の測地座標系による3次元画像を作成することに止まるものであって,本件発明の構成Aの有する上記特徴が示唆されるものでも,また容易に想到されるものでもない 」と判断した(30頁2〜10行 。 。)既に判示したとおり,本件発明においては,3次元画像ないし3次元画像を作成する手法に特徴があるわけでも,送電線のある点と樹木の位置との距離を算出する手法に特徴があるわけでもなく,最接近樹木の位置の検出は,3次元画像を形成することによって可能となると解されるのであるから,本件発明における最接近樹木位置の検出を含む構成Aは,甲2発明及び前記周知技術から容易に想到し得たものというべきである。
審決は,上記のとおり,本件発明については 「本件発明の上記構成Aは,単に ,すべての測距データを共通の測地座標系に変換した3次元画像を作成するだけでなく,あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出するという特徴を有するものである」とした上,これと対比する形で 「甲2発明,において,甲1,甲4及び甲5に記載された発明を適用したとしても,共通の測地座標系による3次元画像を作成することに止まる」と説示しているのであり,明示的には説示していないが,本件発明が,あたかも検出のための特別の処理がなされるかのように認定判断しているというほかない。この認定判断が誤りであることは既に判示したところから明らかである。
(d) ちなみに,審決は,特許法36条違反についての判断においては,本件発明につき 「 各フレームをつなぎ合わせて」は,ヘリコプターの各軸についての平 ,「行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正し,各フレームの測距データを共通の座標系で表現することを意味することは明らかである (24頁。」最下行〜25頁3行 「本件発明の「フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状 ),況の3次元画像を作成し,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたこと」とは,あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を,その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて。」 表現した3次元画像内において検出することを意味していることは明らかである(25頁21〜26行)と認定している。
審決は,上記認定においては,構成Aにつき,測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において,最接近樹木位置を検出することであるとするに止まり,3次元画像を形成することのほかに,検出のための特別の処理がなされていることは前提としていないのであって,3次元画像を得るだけで最接近位置を検出す。, ることができることを示唆しているものと解される そのように解されることから審決の特許法36条違反に関する判断は,是認し得るものであった。
しかし,審決の特許法36条違反に関する上記判断と進歩性に関する上記(c)の判断は,矛盾するものと解されるのであって,後者の判断は,本件発明の要旨として認定される範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
(e) 被告らは,甲2には,前記のような本件発明の構成@〜Cについて記載も示唆もない旨主張する(被告らは,審決は構成@〜Cが甲2発明との一致点であるとは認定していないという 。。)確かに,審決が一致点として認定したのは,前判示の限度であり(前記第2,3(3)(a) ,上記構成@〜Cについて細部にわたって一致すると認定しているわけで )はない。そして,本件請求項1の記載によれば,上記構成Aは,上記構成@〜Cを前提とするものであり,上記構成@〜Cと関連するものであることが認められる。
,, , ( , ) 。 一方 審決は 相違点としては 構成Aのみを認定している 前記第2 3(3)(b),, , , 結局 審決は 本件発明を構成する要件のすべてについて 甲2発明との一致点相違点の認定をしたものではないと認められる(審決は,構成Aを相違点として認定し,この点で容易不想到としたのであるから,結論を導くに必要な限度での対比・判断はしており,直ちに違法とされるわけではない。しかし,前判示のように,相違点である構成Aについての審決の判断に誤りがある場合には,他に相違点はないのか,その相違点は想到容易かという点が問われるところ,審決は,この点を明確にしていない そのため 原告らと被告らは 本訴において 構成@〜Cをめぐっ 。, , ,て主張し合った。適正迅速な紛争解決という観点からすれば,不完全な対比・判断をした審決は,不相当との誹りを免れない 。。)このような状況下において,当事者が主張し合った構成@〜Cの問題を本判決の判断対象とすべきか否かについては,異論の余地はあり得るが,いずれにしても,前判示の構成Aと構成@〜Cとの関係に照らせば,前判示の理由により構成Aが想到容易である以上,構成@〜Cに想到することについても,当業者にとって容易であるとみられる。
(f) 被告らの主張中には,甲2のGPSによる位置表示サブシステムは,本件発明の実施例において,飛行位置計測用に搭載しているGPS部8に相当するものであり,距離データ及び走査光学系のスキャン角度データを補正するために搭載した本件発明のジャイロ加速度計部とは,全く異なるものであるとする部分がある。
しかし,上記主張を根拠付ける事実を認めるに足りる証拠はない。また,前判示のとおり,甲2において,パルス・レーザ測距儀をジャイロ架台に組み込み,GPSによる位置表示システムを採用するのは,スキャニング面の位置を特定するためと解される。そうすると,審決も正しく認定するとおり 「甲2発明の「GPSに ,よる位置表示サブシステム」と,本件発明の「ジャイロ加速度計部」とは,ヘリコプターの平行運動データを取得するためのものである点で共通する。また,甲2発明の「ジャイロ架台」は,パルス・レーザ測距儀を重力に対し一定の方向に支持するものであることは明らかであるから,本件発明の「ジャイロ加速度計部」とは,回転運動を補正するという目的において共通している (27頁8〜14行)とい 。」うのが相当である。
なお,本件発明におけるジャイロ加速度計部は,飛行体の平行運動データ,回転運動データを取得するための周知の手段と認められるし(甲1,4及び5 ,甲2)において,測定データを測地座標系といった共通の座標系に変換する必要があることは明らかであるから,甲2発明において,GPS,ジャイロ架台に代え,上記周知の手段を採用することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
(g) 被告らは,前記第4,2(3)(b)〜(g)のようにも主張するが,甲2の内容の理解に関する点など,既に判示したところに照らせば,いずれも採用の限りではない。その他,被告第3準備書面を含め,被告らが主張するところをすべて再精査しても,前判示の認定判断を変更すべきものとはいえない。
(h) 以上によれば,審決は,本件発明の進歩性についての認定判断を誤ったものといわざるを得ない。
3結論以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由2は理由があるので,審決は,取消しを免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 清水知恵子
裁判官 田中昌利