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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成16ワ10584職務発明の対価請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  業務発明 /  無償の通常実施権 /  相当の対価(相当な対価) /  方法の発明 /  新規性 /  共同発明 /  公然実施(29条1項2号) /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  先行技術 /  着想 /  実施料相当額 /  ライセンス /  存続期間 /  均等 /  業として実施 /  実施 /  構成要件 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  算定方法 /  実施料 /  共同発明者 /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  対価 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  追完 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 9373号 職務発明対価金請求事件
原告P 1
訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同 辻村和彦
同 井崎康孝
訴訟復代理人弁護士森本純
被告キャノンマシナリー株式会社 (旧商号:NECマシナリー株式会社)
訴訟代理人弁護士鈴木秀彦
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2006/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,745万5000円及びこれに対する平成16年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを14分し,その13を原告の,その余を被告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求の趣旨1被告は,原告に対して,1億円及びこれに対する平成16年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言第2事案の概要1本件は,被告の従業員であった原告が,その在職中にした別紙職務発明目録記載の職務発明4件につき,特許法35条3項(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ )に基づいて,特許を受ける権利を使用者である 。
被告に承継したことに対する相当な対価の未払分の一部である1億円及びこれに対する平成16年9月10日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
2前提事実(争いがないか後掲証拠又は弁論の全趣旨により明らかに認められる )。
(1)被告は,ダイボンダを中心とする半導体製造装置や電子デバイス製造装置の製造販売を主力業務とする会社である。被告の商号は,従前は「ニチデン機械株式会社」であったが,その後に「NECマシナリー株式会社」に商号を変更(, , 。)。 した なお 被告は本件の口頭弁論終結後に さらに現商号に商号を変更した原告は,昭和58年4月に当時の新日本電気株式会社に入社し,同年8月に子会社である被告に出向して正式配属となり,以後,平成14年12月までの間,被告に勤務し,少なくとも昭和60年ころから平成3年ころまでは開発部に所属して,ダイボンダの開発に携わっていた。
(2)原告は,被告への在職中,その職務として,別紙職務発明目録記載の発明をし,その特許を受ける権利を被告に譲渡した(以下,これらの職務発明を「本件発明A」ないし「本件発明D」といい,これらを併せて「本件各発明」という。。)本件各発明については,別紙職務発明目録記載のとおり特許権の設定登録(,「」「」 がされた 以下 これらの特許権を 本件特許権A ないし 本件特許権Dといい,これらを併せて「本件各特許権」という。。)(3)被告は,その製造販売に係るダイボンダにおいて,本件発明A,B及びDを実施してきた。なお,被告が本件発明Cを実施してきたか否かについては争いがある。
また被告は,本件各発明のいずれについても,他に実施許諾をしたことはない。
(4)ダイボンダについてア半導体素子の製造工程では,@「ウエーハ」と呼ばれるシリコンの薄板に半導体素子を一括して格子状に形成し,Aそれをダイヤモンド刃のカッターで個片の「チップ ( ペレット「ダイ」ともいう )に切り分けた 」「」,。
後,B良品チップを1個1個「リードフレーム」上の「ランド」と呼ばれる金属製の基板上に搭載し,Cチップの電極とリードフレーム上の「リード」とを金の細線で接続した後,Dそのように接続されたリードフレームのチップの周囲を樹脂ケース状に封入し,Eそうして封入したチップやリードの有端部を含む主要部を,リードフレームから個片に切断し,F検査の上,G特別な包装をするということが行われる(乙2 。)このうちBの工程を「ダイボンディング (又は「ペレットマウント ) 」 」と呼び,ダイボンダとは,このダイボンディング工程において,個片に分割されたチップをリードフレーム上のランドに位置決めして装着する装置である。
イダイボンダの基本的構成と動作は次のとおりである(乙3 。)短冊状のリードフレームは ダイボンダの ローダ部 から供給されてフ ,「」,「ィーダ部」において,レール上を搬送され,搬送中に「接着剤塗布部」でランドに接着剤が塗布される レール上を搬送されてきたリードフレームはボ 。 ,「ンディングヘッド」の下まで来ると,各ランドが順次ボンディングヘッドの下で停止するようにピッチ送りされる。
他方,個片に切断されたチップとなったウェーハは,粘着シートに貼られた状態で「XYθテーブル部」にあるXYテーブル上に置かれているが,このとき 「エキスパンダー部」は,XYテーブル上でウェーハを引っ張って各 ,チップ間の隙間を広げてピックアップしやすくしている。
ボンディングヘッドは,XYテーブルの所定の位置(ピックアップ位置)で下降し,チップを吸着する。この際,吸着だけでは完全にピックアップできないので 「突き上げ部」のニードルがウェーハの下からチップを突き上げ ,て,粘着シートより剥離している。ボンディングヘッドは,チップを吸着してピックアップすると,所定の位置まで上昇して,水平移動に移行し,所定の位置(マウント位置)にあるリードフレームのランド上まで移動してくると,下降に転じ,既に接着剤が塗布されているランド上にチップをマウントする。マウントが完了すると,再び上昇して,水平移動し,ピックアップ位。, ,, 置に戻る この時 XYテーブルがピッチ移動して ピックアップ位置には次のチップが移動してきている。この後再び吸着,上昇,水平移動によりマウント位置に移動するが,マウント位置にはフィーダ部がピッチ移動することで,次のランドが移動して来ている。
ボンディングヘッドによるチップのピックアップ時においては,チップが所定の位置に正しく置かれていないと,正しくランドにマウントできないことになるので,チップの位置を確認し,ズレを補正するために,ピックアップ位置の上方に配置された「チップ認識カメラ部」を含む画像処理装置によって画像処理して,パターン認識している。またパターン認識することによって,半導体チップの良否の判定も可能になる。パターン認識した半導体チップの位置がピックアップ位置からずれていれば,チップが配置されたウェーハを載置しているXYテーブルが移動してチップの位置をピックアップ位置に合わせる。そして,再度画像処理装置により位置確認して位置があっていれば,良品のチップであればボンディングヘッドが吸着してマウント位置まで搬送してボンディングを行なう。不良品であれば残す。
(5)被告は,原告に対し,業務発明取扱規程(乙20)に基づき,本件各発明について,次のとおり補償金を支払った。
ア本件発明Aについて合計51万5000円イ本件発明Bについて合計16万2000円ウ本件発明Cについて合計26万2000円エ本件発明Dについて合計4万2000円3争点被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額(1)本件各特許権により被告が受けるべき利益の額(2)被告が貢献した程度(3)本件各発明の発明者(原告の単独発明か否か)第3争点に関する当事者の主張【原告の主張】1本件各特許権により被告が受けるべき利益の額について(1)基本的主張ア本件各発明の意義(ア)本件発明A本件発明Aの着想は,カメラ視野内に複数の半導体チップを設定して,一つの半導体チップをピックアップしている最中に,既に取り込んだ画像データに基づいて次の半導体チップを先行認識させることによって,従来の定ピッチ移動(その後位置補正という2度の動作を要する )による時間。
ロスを省略するというものである。そして,被告の社史(甲5)では 「先,行認識により機械インデックスを20数%向上させることができた」とされている。
これは設備の高速化に必要不可欠な基幹的要素であることから被告の全種類のダイボンダ及びペレット配列機に搭載されている。ダイボンダのような生産設備においては生産性の向上が市場から不断に望まれており,本件発明Aは,今後も更なる高速化が望まれるダイボンダ等の設備にあっては欠くことのできない高速化技術であり,それゆえ現在販売している被告のダイボンダ及びペレット配列機の全機種に搭載されている。
なお,本件発明Aは,社団法人発明協会より平成11年度近畿地方発明表彰発明奨励賞を受賞した。
(イ)本件発明B本件発明Bの着想は,カメラ視野に隣接する複数の認識対象を所定の撮像状態に収め,一つの半導体チップをピックアップしている最中に,センシング方向に沿って隣接する次の半導体チップを先行認識させる。先行認識においては半導体チップの撮像状態によりピックアップ動作中に可能な認識処理を実行することにより工程の短縮化を図りロスを省くことにより高速化を図るものである。
本件発明Bも,今後更なる高速化が望まれるダイボンダ等の設備にあっては欠くことのできない高速化技術であり,それゆえ現在販売している被告のダイボンダ及びペレット配列機の全機種に搭載されている。
(ウ)本件発明C本件発明Cの着想は,半導体チップをピックアップするボンディングヘッド部を駆動するサーボモータのエンコーダからのフィードバックパルスをタイミング発生の基本パルスに利用するに当たり,ボンディングヘッド部の動作に合わせて必要となる各種動作のタイミング毎にタイミングの基準となるモータ軸の正転・逆転駆動を区別し,必要な上記フィードバックパルスだけをカウントすることで,ボンディングヘッド部の1サイクル動作で1回必要となる信号を発生するというものである。本件発明Cは,ボンディングヘッド部が半導体チップをピックアップし所定のパッケージに搭載するまでの一連の動作に必要となる各種の動作タイミングの発生制御を行う基本発明である。
被告にとって,デジタルボンディングヘッドの採用は重要な意義を有するものであったが,本件発明Cは,デジタルボンディングヘッドの各種動作タイミングをコントロールする発明であり,高速かつフレキシブルなデジタルボンディングヘッドの実用化にとって欠くことのできない基幹技術であることから,現在に至るまで被告のダイボンダ及びペレット配列機の全機種に搭載されている。ボンディングヘッドの高速化とフレキシブル化を両立させたデジタル制御は今後も,ダイボンダ等の設備にあっては欠くことのできない技術である。
なお,本件発明Cは,社団法人発明協会より平成12年度近畿地方発明表彰発明奨励賞を受賞した。
(エ)本件発明D本件発明Dの着想は,カメラ視野内の半導体チップのエッジの座標上の位置を検出する起点を所定位置に複数設定し,そこよりX方向及びY方向にチップのエッジを検出し,以後予め定められた順番に検出された対向す, るエッジ間の間隔が二辺のエッジのものとして妥当なものとなるまで行いこれに基づいて,チップのX方向,Y方向の中心及び回転方向のずれを算出し,チップの位置を検出するというものである。
ダイボンダ等の設備は良品の半導体チップの有無を判別し,ウエハー上の良品半導体チップのみを所定のパッケージに搭載するものである。よって,半導体チップの良否判別と良品半導体チップの精密な位置決めによるピックアップはダイボンダ等にとって必須の機能である。半導体チップを精密に位置決めしボンディングヘッドでピックアップしなければ,ピックアップという接触動作により半導体チップが欠けたりピックアップできなかったりし,半導体チップを所定のパッケージに搭載するという設備の目的が果たせない。半導体チップの正確な位置検出はダイボンダ等の設備には大変重要な機能である。
本件発明Dは,かかる半導体チップの正確な位置検出に必要な基幹的要素であることから被告のダイボンダ等の当初は全機種,現在でも大半の機種(2値化タイプ画像認識装置の全機種,平成13年で7割)に搭載されている。
イ本件各発明の成果,, , 本件各発明により 被告は 高速かつチップの良否判定をも行う認識装置チップを正確に位置決めする位置決めユニット及び高速化に対応しうるデジタルボンディングヘッドをすべて自社でまかなえるようになり,昭和61年に,これらをすべて備えた自前のダイボンダCPS-100の開発に成功した。
CPS-100は,インデックスが当時の業界最速であったが,このインデックスが速いことは,設備の生産性の高さを表す最も大きな指標であり,半導体メーカが機種を選定するにあたり,コストパフォーマンスを比較する上で,最も重要視する点である。これによりCPS-100を初めとするCPSシリーズは,後発であるにもかかわらず瞬く間に市場に受け入れられ,他社の追随を許さず,被告のダイボンダ売上の増大・シェア拡大をもたらした。
そして,本件発明A及びBは,これらなくしてインデックスの飛躍的向上・高速化は実現できなかったものであり,また,本件発明Dによる正確かつ高速なチップの位置検出,本件発明Cによるデジタルボンディングヘッドの高速駆動状態での正確な制御も,被告のダイボンダの売上げの増大・シェア拡大に寄与したものである。
ウ被告が本件各発明を実施したダイボンダの売上額(ア)本件発明Aについて昭和62年1月から平成13年3月までの171か月における売上実績額は,791億4300万円である。
平成13年4月から平成18年10月15日までの66.5か月における売上金額の予測額は,307億7700万円である。
よって,合計1099億2000万円である。
(イ)本件発明Bについて, 平成7年6月から平成13年3月までの70か月における売上実績額は551億0800万円である。
平成13年4月から平成27年5月31日までの170か月における売上金額の予測額は,1338億3300万円である。
よって,合計1889億4100万円である。
(ウ)本件発明Cについて平成2年7月から平成13年3月までの129か月における売上実績額は,703億6800万円である。
平成13年4月から平成22年6月29日までの111か月における売上金額の予測額は,605億4900万円である。
よって,合計1309億1700万円である。
(エ)本件発明Dについて, 平成8年8月から平成13年3月までの56か月における売上実績額は337億4900万円である。
平成13年4月から平成28年7月17日の183.5か月における売上金額の予測額は,1105億8800万円である。
よって,合計1443億3700万円である。
エ売上高のうち独占的地位に起因する割合被告は,本件各発明の実施品を製造販売に移すまでにも,他社から購入した認識装置を搭載したダイボンダの製造販売を行っていたが,特別な営業力も販売実績に裏付けされた信用も有しておらず,業界において特に著名な存在というわけでもなかった。すなわち,被告がダイボンダのシェアを国内1位にまで引き上げたのは,ひとえに本件各発明によるところが大きかったわけであるから,第三者が実施許諾を受け,本件各発明を自由に使用できる状態であれば,少なくとも被告と同等の売上金額を記録することは容易であったものと考えられる。
したがって,前記売上額のうち独占的地位に起因する割合が1/2を下らないことは明らかである。
実施料率「実施料率〔第4版 」によると,半導体製造装置は特殊産業用機械に分類 〕され,昭和63年から平成3年までのイニシャルなしの実施料率のばらつきは1%から15%で,最頻値が3%,中央値が3%,平均値が4.67%である。また 「実施料率〔第5版 」によれば,平成4年から平成10年まで ,〕のイニシャルなしの実施料率の平均値は6.5%である。
そして,本件各発明は,ダイボンダのインデックス向上及びデジタルボンディングヘッドの適正な動作確保に今後も不可欠な基幹特許である。
以上のような本件各発明の重要性に鑑みれば,その後の応用技術開発,本件各発明及びその他の部分の寄与等を考慮したとしても,本件各発明の実施料率は,それぞれ5%を下らないというべきである。
カ被告が本件各発明により受けるべき利益の額以上より,被告が本件各発明より受けるべき利益の額は以下のとおりである。
(ア)本件発明Aについて1099億2000万円×0.5×0.05=27億4800万円(イ)本件発明Bについて1889億4100万円×0.5×0.05=47億2352万5000円(ウ)本件発明Cについて1309億1700万円×0.5×0.05=32億7292万5000円(エ)本件発明Dについて1443億3700万円×0.5×0.05=36億0842万5000円(2)被告の主張に対する反論ア特許法35条3項にいう「発明により使用者が受けるべき利益」には,特許法等により法律上他者に対してその発明・考案の実施を禁止し,又は許諾し得ることによる利益のほか,その技術を秘匿して事実上その技術を独占し得る利益も含まれるから,職務発明について特許を受ける権利の譲渡を受けた使用者等は,出願の有無を問わず,権利承継時から独占の利益を享受する。そして,出願した場合であっても公開前はノウハウとしての事実上の独占の利益があり,公開後も特許法65条の補償金請求に基づく独占の利益があり,登録後は特許権の排他的効力に基づく独占の利益がある。
したがって,本件各特許権についても,被告は遅くとも出願時点で独占の利益を享受している。
イアからすると,本件各特許権の公告時又は登録時における競業他社のダイボンダの高速化の状況に基づいて本件各特許権の独占の利益を云々する被告の主張は,全く意味がない。そして,本件各特許権の出願日を基準に別紙1(乙1)を見れば,むしろ,本件各特許権が競業他社を凌駕するインデックスの向上に寄与したことが看取される。
ウ被告は,ダイボンダの各部において高速化を実現するのでなければ全体としての高速化は実現できないと主張するが,原告も,本件各発明がいずれもダイボンダの全体構成の一部であることは当然に認めている。ただ,被告のダイボンダのインデックス向上に本件各発明は不可欠であり,大きく寄与したと主張しているのである。
エ本件特許権Aについて(ア)被告は,本件発明Aの代替技術として種々のものに言及するが,いずれも代替技術たり得ない。
aまず乙第8号証に係る発明は,直前に処理した複数の半導体チップの認識データから,次に認識対象とする半導体チップまでのチップ間距離等を予測し,この予測データに基づいてXYテーブルをピッチ移動させる方法であるが,このような予測が必要なのは,主として本件発明Aによる先行認識が利用できない場合である。なぜなら,本件発明Aによる先行認識が利用できれば,次に認識対象とする半導体チップまでのチップ間距離も先行認識され,この認識データに基づいてXYテーブルを移動させて位置決めできるからである。
また,乙第8号証に係る発明は,あくまでチップ間距離にばらつきがある場合に「定ピッチ移動↑位置認識↑位置補正」との過程を経ることによる時間的ロスを可能な限り短縮しようとしたXYテーブルの移動方法に過ぎず,本件発明Aのように,先行認識から位置決め,ピックアップまでをオーバーラップ処理することによって積極的にインデックス向上を図ろうとしたものではない。
さらに,乙第8号証に係る発明は,あくまで従前データからの予測に過ぎないから,チップがずれなくピックアップ位置に位置決めされることもあるが,常態的にずれが発生することが避けられないことは常識的にみても明らかである。
乙第33号証の実験結果では,本件発明Aと乙第8号証に係る発明との間に有意な差が生じない結果となっている。しかし,両発明の対比については,ウェーハ上のチップの配列状況や乙第8号証に係る発明による予測方法等が条件として極めて重要になってくるのであるが,この点については乙第33号証では全く明らかにされていない。また,同実験は,チップを下からピンで突き上げる工程を省略しており,同工程による粘着シートの延び及び粘着シートの延びからくるチップ配列の乱れが全く生じない条件下に行われている点で実際のダイボンディング工程とは全く異なる。かかる実験は到底信用できるものではなく,またその実験結果を一般化することもできない。
なお,乙第8号証に係る発明の特許出願は平成7年6月27日になされたものであるから,それ以前の時期には代替技術たりえない。
b乙第9号証の 0004 に記載された発明も これはあくまで 精 【】,「密な位置決め」のための構成を明らかにしたものに過ぎず,乙第8号証の発明について上述したところが同様に妥当する。
c乙第26号証には,先行認識から位置決め,ピックアップまでをオーバーラップ処理することでインデックス向上を図るという,本件発明Aの最大の眼目については何ら示唆すらされていない。
d乙第29号証に係る発明は,半導体ペレット外観検査装置における不良チップ除去工程に関するものであり,良品チップをピックアップしてマウントするダイボンディングに係る技術ではない点に,本件発明Aとの根本的な相違点がある。乙第29号証には,専ら不良チップの除去についての記載があるのみであり,残った良品チップのピックアップについては何らの言及もない。
(イ)被告は,本件特許権Aには公然実施による無効理由があると主張する。
しかし,本件発明Aの特許出願前に出荷されたCPS-100の出荷先は全て同一の香港の会社であるところ,平成11年改正前の特許法29条において新規性阻却事由として規定されていたのは,@国内公知,A国内公用及びB国内・国外刊行物公知であり,国外における公知・公用は,新規性阻却事由としては規定されていなかった。したがって,平成11年改正前の出願に係る発明については,国外における公然実施は,何らの無効理由も構成するものではない。
オ本件特許権Bについて(ア)本件発明Bが,本件発明Aの利用発明であることは確かであるが,半導体チップの良否判定の部分に着目し,そのより具体的な構成を明らかにすることによって,少なくとも本件発明Aの周辺部分を固める意味を有していることは明らかである。
(イ)本件発明Bが公然実施されていたこと自体は争わないが,職務発明に基づく特許に無効理由がある場合においても,競業他社等によって当該無効理由が明らかにされるまでは,使用者等が当該職務発明が特許権として登録されていることによって独占による利益を享受することに何ら変わりはない。したがって,職務発明に基づく特許に無効理由がある場合においても,使用者等が既に独占による利益を享受した部分については,相当対価算定の対象とされなければならず,無効理由は,せいぜい将来の独占の利益算定についての減額要素となる可能性があるに過ぎないというべきである。
被告が本件特許Bについて主張する無効理由は,被告による公然実施であるが,公然実施の主張立証には,現時点において,過去の製品の出荷時期の特定や当該製品に各特許が実施されていたか否かを調査する必要があり,これを被告以外の第三者が行おうとすれば困難を伴うのが通常である。
カ本件特許権Cについて(ア)被告は,本件発明Cを実施していないと主張する。
被告主張の別紙2の下段の方式(以下「ダウンカウンタ方式」という )。
は,確かに形式上本件特許権Cの構成要件に該当しない。とすると,被告は本件特許権Cを実施していないことになる。
しかしながら,一般に,任意の数値カウント後に信号を出力する方法としては,加算カウントする方法と減算カウントする方法があるところ,本件特許権Cの請求項は加算カウントする方法で記載されており,被告主張の方式は減算カウントする方法である。本件特許権Cと被告主張の方式はまさにこの点のみにおいて相違するのであるが,これは,例えば単に「1↑2↑3↑4」でタイミング信号を出力するか(加算カウント「3↑2),↑1↑0」でタミング信号を出力するか(減算カウント)の違いに過ぎない。したがって,本件特許権Cと被告主張の方式は実質的には同一の技術であり,均等が成立する。
とすれば,被告主張のダウンカウンタ方式は,まさに本件特許権Cを基にした代替技術というべきものである。そして,被告は,この代替技術を用いることにより,高速性とフレキシブル性を両立したダイボンダを実現し,ダイボンダ市場をリードしているのであるから,これは本件特許権Cの独占の利益というべきものである。
(イ)被告が,ダウンカウンタ方式を公然実施していたことは認めるが,本件特許権Aについての主張と同様,被告が,本件特許Cが特許権として設定登録されていることによる独占の利益を享受してきたものであることには変わりないから,同特許もやはり相当対価の算定の対象とされなければならない。
キ本件特許権Dについて(ア)被告は,本件発明Dの代替技術として乙第24号証に係るものを挙げるが,被告がそこに記載の「パターンマッチング方式 「外形認識方」式」を採用していると主張してするのであれば,本件発明Dとの使用比率等を明らかにされたい。
(イ)本件発明Dが公然実施されていたこと自体は争わないが,そうであっても,被告が本件発明Dにより独占の利益を享受してきたことに変わりはないことは,本件特許権Bの場合と同じである。
2被告の貢献の程度について被告には,ダイボンダの製造についての技術・ノウハウはあったものの,その1ユニットである認識装置については,従来より外部から購入していたに過ぎない。被告には,認識装置そのものの開発とりわけ認識装置の電気回路・認識アルゴリズムについての技術・ノウハウは全くなく,したがって,原告は,認識装置の着想・開発について,被告の他の技術者から一切教示を受けていない。
被告の設備の利用といっても,被告には特に認識装置開発のために用意された設備などなく,本件発明A,B及びDについては,その性質上,着想と認識アル, ゴリズムの作成という原告の知的労力のみで開発の根幹部分は終了するのであり特に被告設備を用いた実験やデータ収集は必要がない。本件発明Dにおいては,わずかに試作の手配線基板3枚,鏡筒付きウエハー認識用XYテーブルとそれらの制御ボックスを製作したが,特別な設備を要するものではなかった。本件発明A,Bにおいては,本件発明Cを開発したときの試作機(後にCPS-100試作機)を用いたが,認識ソフト開発のために特別に用意されたものではなく,本件発明とは異なる機械系・本体制御系の開発・動作確認に利用される比重の方が大きかった。
開発費用の面から見ても,原告の人件費と上記試作費に尽きるのであり,被告が特別高額な費用をかけたということはない。
本件発明Cについては,ボンディングヘッドの制御はダイボンダ装置本体を制御するメイン制御のソフト担当者が行い,不具合の修正も同担当者等が行っていたが,基幹となる信号発生のタイミングの基本的構成や設定方法については,原告が理解しているところであり,上記担当者等にも技術資料を渡すとともに逐一説明していた。
以上のとおり,本件発明の着想及び完成について,被告の助力は極めて乏しかったものであるから,被告の貢献度は25%を超えるものではないと考えるのが相当である。
3本件各発明の発明者について(1)本件各発明は,いずれも原告による単独発明である。
(2)被告の主張に対する反論原告は,乙第17号証の発明考案届出書を提出した昭和60年4月18日,甲第16号証の発明考案届出書を提出している(なお,提案明細書は同年5月16日に追完している。甲第16号証は,本件発明A及びBのアイデアに係 。)るものであるのに対し,乙第17号証は,本件発明Bのアイデアの一部に係るものである。このうち,本件発明A及びBのアイデアに係る甲第16号証の発明考案届出書の発明者欄には原告1名の名前しかない。したがって,乙第17号証をもって,本件発明A及びBについて,原告とP2の共同発明とすることはできない。
そもそも乙第17号証の発明考案届出書は,被告自身が先行技術との差異が明確でなかったために不適格と判断して,出願を見合わせたものである。すなわち,乙第17号証はあくまで本件発明Bの一部の基となったアイデア段階のものであり,本件発明Bとはその完成度において,相当の差異がある。
とするならば,そもそもかかるアイデア段階の記載に過ぎない乙第17号証のみをもって,発明者が誰かを論ずることは明らかに相当でない。
なお,アイデア段階のものとはいえ,乙第17号証の発明考案届出書にP2の名前が載っているのは以下の理由による。当時,原告がボンディングヘッドの駆動回路とタイミング制御回路を設計するにあたり,何をどのように動作させたいのかについては,動作仕様を決めていた機械系設計担当のP2氏から詳しく聞き出さなければ回路設計が進まなかった。原告は,この点について,P2氏に逐一質問するなどしており,P2氏にはお世話になっていたため,同日付の3件の発明考案届出書のうち,本件発明Aの周辺発明である本件発明Bの一部に係るアイデアについてのみ,形式上共同で発明考案届出書を提出したに過ぎない。
4相当な対価の額について以上より,原告の本件各発明の譲渡の相当対価は以下のとおりである。
(1)本件発明Aについて27億4800万円×0.75=20億6100万円(2) 本件発明Bについて47億2352万5000円×0.75=35億4264万3750円(3)本件発明Cについて32億7292万5000円×0.75=24億5469万3750円(4) 本件発明Dについて36億0842万5000円×0.75=27億0631万8750円(5) 合計107億6465万6250円(6) 既払分98万1000円(7) 未払分107億6367万5250円本件では,この一部請求として1億円を請求する。
【被告の主張】1本件各特許権により被告が受けるべき利益の額について特許法35条3項にいう「使用者が受けるべき利益」とは,発明の実施を排他的に独占することによって得られる,いわゆる「独占の利益」であるが,被告が本件各特許権を有することによって得る利益は,同条1項によって使用者に認められる無償の通常実施権によるもの以上にはなく,本件各特許権に「独占の利益」は存しない。
(1)本件特許権Aについてア上記のような意味での「独占の利益」が認められるためには,@競合他社のダイボンダの高速化が,被告が本件特許権Aを有することによって妨げられ,被告が高速ダイボンダ市場を独占しているという事実,あるいは,A他社が本件特許権Aのライセンスを申し入れ,被告に対してライセンス料を「」。 払っているという事実が存在して初めて 独占の利益 が生ずることになるしかしながら,被告は競合他社から本件特許権Aのライセンスの申込みを受けたことはない。
また,特許権に排他的効力が生ずるのは設定登録の日(出願公告がなされている場合は出願公告の日)からと解されるが,乙第1号証(別紙1)のダイボンダの高速化の変遷及びダイボンダのシェアを競合他社と比較したグラフに示すとおり,競合他社は,本件発明Aの出願公開後の平成3年の時点でインデックス0.4秒,公告後の平成9年の時点でインデックス0.25秒という高速化を実現している。これに対し,被告がインデックス0.25秒を実現したのは平成12年である。
したがって,競合他社のダイボンダの高速化は,本件特許権Aによって何ら妨げられていない。
イ本件発明Aは,ピックアップ位置に置かれた半導体チップの位置補正を高速化するための技術の一つではある。しかし,ダイボンダの処理速度の高速化に必要な技術は,乙第5号証のとおり,多数存在する。また,複雑な機構を有するダイボンダにおいては,各部について高速化を実現しなければ,1か所だけ高速化を図っても意味はない。例えば,ダイボンディングに直接関係する稼動部分だけを見ても,リードフレームをピッチ送りするフィーダ部の搬送テーブル,接着剤塗布部の塗布ノズル,XYθテーブル部のXYテー,,,。 ブル 突き上げ部のニードル ボンディングヘッド CPUなどが関係するまた,ピックアップ位置における半導体チップの位置補正が不可欠であるから,その位置補正も素早く正確に行わなくてはならないが,これに必要なの, ,, は 何よりもまずXYθテーブル部のXYテーブル自体の高剛性化 軽量化高速・低振動化制御である。
このように,本件発明Aの先行認識技術のみでは,ダイボンダの高速化は実現できないのであり,逆に言えば,先行認識技術を使わずとも,他の部分の改良で高速化できる余地が極めて大きいのである。したがって,被告が本件発明Aについて特許権を取得したからといって,競合他社の高速化に何らの支障とならなかったことは当然である。このように被告は,本件発明Aを実施した製品を販売するという以上の利益は一切得ておらず 被告が得た 独,「占の利益」は存しない。
ウ公知の半導体チップ認識方法では,一個の半導体チップをカメラ視野内に設定して画像処理し,この画像処理に基づいて半導体チップを位置補正した, , 後 ボンディングヘッドによりその半導体チップをピックアップしているがこのピックアップ時,カメラ視野内をボンディングヘッドが遮り,かつ,XYテーブルを駆動させることも不可能であるため,次の半導体チップ認識動作は停止している。そこで,半導体チップのピックアップが完了した後,XYテーブルを定ピッチ移動させて次の認識すべき半導体チップをカメラ視野内に設定し,さらに上記半導体チップを位置補正してピックアップすることになる。このように次の半導体チップがピックアップ位置に移動してきてから位置補正を行うのでは時間にロスが生ずることになるので,ピックアップ時にカメラ視野内をボンディングヘッドが遮ることから生ずるロスをなくすための技術が,高速化のための一つの方法として必要とされた。
本件発明Aはそのための技術であり,チップ認識カメラ部によって画像処理してパターン認識する際に,複数個の半導体チップをパターン認識しておき( 先行認識」と呼んでいる ,先の半導体チップをピックアップ位置で 「 )ピックアップしている間に,次の半導体チップを正しいピックアップ位置に置くために必要なXYテーブルの移動量・方向をXY軸上で予め計算し,その移動量及び方向にXYテーブルを動かす方法である。
しかし,他にも特開平9-17841(乙8)記載の技術も存する。それは,直前に処理した複数の半導体チップの認識データから半導体チップ間の距離及び配列方向を算出し,その算出結果に基づいて次に認識対象とする半導体チップまでのチップ間距離及び配列方向を予測し,その予測データに基づいてXYテーブルをピッチ移動させる方法であり,被告はこの技術も採用している。実際,被告は,CPS100の後継機種であるBESTEM-D01という最新のダイボンダを使用して,本件発明Aを実施した場合と,乙8の技術を実施した場合と,それらのいずれも実施しない場合との処理時間を比較した(乙33)が,それによれば,いずれも実施しない場合の平均処理時間が0.323秒ないしは0.303秒であったのに対し,本件発明Aのみを実施した場合の平均処理時間は0.253秒ないしは0.251秒,乙8の技術のみを実施した場合の平均処理時間は0.248秒ないしは0.254秒であった。このように,乙8の技術によっても,平均処理時間は本件発明Aの場合と同程度であった。
また,この他にも,ピックアップ時にカメラ視野内をボンディングヘッドが遮ることから生ずるロスをなくすための技術としては,ボンディングヘッドに吸着された半導体チップを下方からテレビカメラで撮像し,撮像された半導体チップの外形画像パターンとボンディングヘッドに正確に吸着されたときの基準パターンと比較しそのずれ量を演算し,コレットの元位置と被搭載部材との相対距離にずれ量を補正してボンディングヘッドを移動させるという技術,さらには,ボンディングヘッドを光を透過する材質で作り,吸着された半導体チップの表面のパターンを上方のテレビカメラにより撮像し,予め記憶された半導体 チップの基準パターンと比較しずれ量を算出し移動距離を補正するという技術も知られている(特開平8-45970(乙9)の【従来の技術 【0004。】】)さらに,先行認識技術という面から見ても 「複数でかつ適宜の数にブロッ ,ク化された微小ワーク片を認識光学系の視野内に設定して画像処理し,一つの微小ワーク片のピックアップ動作中,最も近い位置にある次の微小ワーク片を認識光学系からの画像データに基づいてパターン認識することにより,次にピックアップすべき微小ワーク片を決定する」という「先行認識」自体は,特開昭57-68042号(乙26)に開示された公知技術である。そ,,, のため本件特許権Aについては 拒絶査定を受けた後 不服審判を提起して特許請求の範囲について,実施例の記載に即した大幅な補正を行い,辛うじて特許権を得ることができたのであり,競合他社がこれを回避することにさしたる困難もないことは容易に想像されることである。
また,乙第26号証の技術との関係では 「先行認識」自体は公知技術であ ,り,先のチップをピックアップ位置でピックアップしている間に,次のチップを正しいピックアップ位置に置くために必要なXYテーブルの移動量・方向を計算するという「オーバーラップ処理」のみが本件発明Aの本質的な部分である。そして,乙第33号証の実験のとおり,本件発明Aを使用した場合には,約20%の処理速度の向上が見られたという結果は 「先行認識」に,よる不良チップの飛ばし技術という公知技術と 「オーバーラップ処理」とい ,う本件発明Aとの組合せによって実現されたものに過ぎず,そのうちでも前者の寄与が大きい。
また,実公昭63-11724(乙29)に係る考案は,昭和59年8月11日に公開されたものであるが,そこでは「画像処理動作と不良ペレット除去動作を併行させて行うことにより,時間無駄が省けてより高速検査が実現される」考案が開示されている。本件発明Aとの相違点は,本件発明Aが前のチップの「ピックアップ動作中」に「隣接する」次のチップの認識・判定・位置決めを行うのに対して,乙第29号証では「単位ブロック内での複」 , 数のペレット外観を画像処理で順次に判別 して不良チップを除去するため先行認識と前のチップのピックアップ動作とが関連付けられていないということにある。したがって,仮に,乙第29号証のように,処理中のチップの次の列にあるチップまで先行認識して,判定や位置決め等を行っている装置があったならば,それに本件特許権Aの排他的効力を及ぼすことは無理であろう。
このように本件発明Aには,代替技術が存在するから,本件特許権Aの存在は競合他社の高速化に何らの支障とならなかったのであり 被告が得た 独,「占の利益」は存しない。
エダイボンダ高速化の変遷及びダイボンダのシェアを競合他社と比較したグラフである別紙1(乙1)によれば,必ずしもインデックスの高速化とシェアとの対応関係は見受けられない。すなわち,被告のダイボンダがシェアを確保しているのは,高速化のみが理由ではないことが明らかである。被告がシェアを確保しているのは,NECブランドによる信頼性,さらにはNECが半導体市場で業界2位ないし3位という地位を占めているという事実に負うところが大きい。また,ダイボンダの高速化は,大量生産の極小チップ向けに要請されている技術に過ぎず,必ずしもすべてのダイボンダが高速化する必要はなく,高速ダイボンダは,被告製品の一部を占めるに過ぎない。
オ原告は,昭和61年6月6日に 「発明考案届出書」を被告に提出すること ,によって本件発明Aの特許を受ける権利を被告に譲渡したが,本件発明Aを実施した認識装置が搭載されたダイボンダであるCPS-100が最初に出荷されたのは同年5月23日であるから,本件発明Aは,その特許を受ける権利が被告に譲渡された時点で,既に公然実施されていた。したがって,本件特許権Aには無効理由があり,かつそのことについて被告には一切帰責事由はない。
「」。 このような無効理由を有する本件特許権Aに 独占の利益 は生じない(2)本件特許権Bについてア第三者の実施を排除する排他的効力が生ずるのは登録の日からであるが,別紙1(乙1)のとおり,競合他社は,本件特許権Bが登録された平成11年の時点ではインデックス0.2秒という高速化を既に実現している。被告がインデックス0.25秒を実現したのは平成12年であるから,被告は,本件特許権Bを有していることによって,競合他社に対して何ら優位に立つことができなかったことは明らかである。すなわち「独占の利益」は存在しない。
イ本件発明Bは,本件発明Aの利用発明に過ぎない。
ダイボンディング工程では,半導体ウェーハから格子状に分割されて整列配置された多数の半導体チップを画像認識した上で良品のチップをピックアップしている。具体的には,整列配置された多数のチップを一つずつカメラで撮像し,その撮像されたカメラ視野内にあるチップを画像処理する。この画像処理は,カメラによる撮像信号に基づいて得られたチップの画像データをフレームメモリに記憶し,その画像データに基づく画像認識によりチップの良否を判定する。チップの良否判定は,チップ自体の有無,欠け等の外観不良の有無,そして,前工程での特性検査によりチップ表面に付される不良マークの有無に基づいて実行される。この画像認識後,良品と判定されたチップをボンディングヘッドで真空吸着してピックアップし,リードフレームのランドにボンディングしている。
本件発明Bは,このチップの良否判定を,本件発明Aによるチップの先行認識時に行うことで,チップがピックアップ位置に来てから良否判定を行うことによる時間のロスをなくすという発想を基本とする発明である。
しかし,この本件発明Bの基本発想自体は,本件特許権Aの公告公報(甲1)において開示されており,チップの先行認識と前のチップのピックアップ動作中の次のチップの良否判定とは不可分なのであり,本件発明Aを実施せずして,本件発明Bを実施することは不可能である。
したがって,本件特許権Bには,本件特許権Aから独立して,競合他社のダイボンダ高速化を妨げるような効果は一切ない。
ウ原告は,平成7年4月12日に 「発明考案届出書 (乙40)を被告に提 ,」出することによって本件発明Bの特許を受ける権利を被告に譲渡したが,本件発明Bを実施した認識装置が搭載されたダイボンダであるCPS-100は,昭和61年5月23日から販売されており,本件発明Bは,その特許を受ける権利が被告に譲渡された時点で,既に公然実施されていた。したがって、本件特許権Bには無効理由があり,かつそのことについて被告には一切帰責事由はない。
「」。 このような無効理由を有する本件特許権Bに 独占の利益 は生じない(3)本件特許権Cについてア第三者の実施を排除する排他的効力が生ずるのは登録の日からであるが,別紙1(乙1)のとおり,競合他社は,本件特許権Cが登録された平成11年の時点ではインデックス0.2秒という高速化を既に実現している。被告がインデックス0.25秒を実現したのは平成12年であるから,被告は,本件特許権Cを有していることによって,競合他社に対して何ら優位に立つことができなかったことは明らかである。すなわち「独占の利益」は存在しない。
イ被告は,本件発明Cを実施していない。
ボンディングヘッドは XYθテーブル部のXYテーブルの所定の位置 ピ , (ックアップ位置)で下降し,半導体チップを吸着する。ボンディングヘッドは,チップを吸着してピックアップすると,所定の位置まで上昇して,水平移動に移行し,吸着ミスの検出を経て,マウント位置にあるリードフレームのランド上まで移動してくると,下降に転じ,ランドに半導体チップをマウントする位置でボンディングヘッドの吸着をオフにしてマウントを行う。マ,,,。 ウントが完了すると 再び上昇して 水平移動し ピックアップ位置に戻るこの時,XYθテーブル部のXYテーブルがピッチ移動して,ピックアップ位置には,次の半導体チップが移動してきている。この後再び吸着,上昇,水平移動によりマウント位置に移動するが,マウント位置には,フィーダ部, 。 がリードフレームをピッチ移動することで 次のランドが移動して来ているこのように,ボンディングヘッドは,ただ単に吸着のオン・オフと上下移動・, , 水平移動を繰り返すだけではなく XYテーブルの移動によるチップの移動フィーダ部によるリードフレームのランドの移動と同期させる必要があり,さらには,チップの位置補正,ランドへの接着剤塗布など周辺機構の動作とも同期していなければならない。
この同期をCPU(中央演算処理回路)のみで処理しようとすると,CPUに負荷が掛かり過ぎることになるので,CPUとは別のハードウェアにその仕事を一部負担させて,CPUの負荷を軽減しようとするのが,本件発明Cの基本的な発想である。ただし,本件発明Cは,ダイボンディング工程で必要な同期のすべてを実行できるような発明ではない。これで同期がとれるのは,ボンディングヘッドの吸着のオン・オフ,上下移動・水平移動の切り替えと,吸着ミスの検出機構のみである。
ボンディングヘッドのように正確な位置で停止することが必要な部品を動かすために通常用いられているのが「サーボモーター」と呼ばれるモーターである 「サーボモーター」とは,ローター(回転軸)の動きを「エンコーダ 。
ー と呼ばれる部品で読み取り そのデータを コントローラー へ送り フ 」 ,「」(),「」() , ィードバックというコントローラー でローターの現在位置 角度 とそのあるべき位置(角度)との偏差を計算し,その偏差をゼロにする角度分だけローターを動かす電流を送り,正確な位置を保つ機構を備えたモーターである。
本件発明Cの装置においては,CPUの仕事を一部肩代わりする機構として,このようなサーボモーターのエンコーダからフィードバックされてくるパルスを「カウンタ」で数え,そのカウント値と事前にカウント値を設定した同期タイミングデータとを比較し(この装置を「コンパレータ」という ,)所定の期間に所定の状態になった時にタイミング信号を発する機構が備わっている。すなわち,別紙2の上段のような構成である。
ところが,実際に被告がダイボンダで使用している装置は,別紙2の下段のような構成であり 「カウンタ」と「コンパレータ」は使用していない。使 ,用しているのは「ダウンカウンタ」であり,エンコーダからフィードバックされてくるパルスによってカウントダウンを行い,カウントゼロでタイミング信号を発するようになっている すなわち 本件発明Cの請求項所定の 該 。, 「タイミング発生用データラッチ毎に対応して設けられ,前記エンコーダからのフィードバックパルスの積算値と前記タイミングデータとを比較し所定状態でタイミング信号を発するデジタルコンパレータ」を欠き,本件発明Cの技術的範囲に属さない装置である。
このように被告においてすら使用していない本件特許権Cが,競合他社のダイボンダの高速化を阻害するような効果があるはずもない。
ウ原告は,平成2年6月22日に 「発明考案届出書 (乙44)を被告に提 ,」出することによって本件発明Cの特許を受ける権利を被告に譲渡したが,前記本件発明Cの代替技術を実施したダイボンダであるCPS-100は,昭和61年5月23日から販売されていた。本件発明Cの代替技術は,本件発明Cの出願前である,本件発明Cの特許を受ける権利が被告に譲渡された時点で,既に公然実施されていたのである。
この点からしても,本件発明Cの代替技術は,本件発明Cの技術的範囲には属さない。そして,このような代替技術のある本件特許権Cに「独占の利益」は生じない。
(4)本件特許権Dについてア第三者の実施を排除する排他的効力が生ずるのは登録の日からであるが,別紙1(乙1)のとおり,競合他社は,本件特許権Dが登録された平成13年の時点ではインデックス0.18秒という高速化を既に実現している。被告がインデックスを0.18秒を実現したのは平成13年であるから,被告は,本件特許権Dを有していることによって,競合他社に対して何ら優位に立つことができなかったことは明らかである。すなわち「独占の利益」は存在しない。
イ本件発明Dは,ダイボンディング工程において,チップをピックアップする際の,チップ認識カメラ部を含む画像処理装置によるチップの位置検出に関するものであり,画面に写し出されたチップの中心点の座標を求める方法の一つに過ぎない。そして被告でも,乙第24号証に示すような全く別の技術も採用している。
したがって,本件発明Dには,代替技術が存在するから,本件特許権Dの存在は競合他社の高速化に何らの支障とならなかったのであり,被告が得た「独占の利益」は存しない。
ウ原告は,平成8年7月5日に 「発明考案届出書 (乙46)を被告に提出 ,」することによって本件発明Dの特許を受ける権利を被告に譲渡したが,本件発明Dを実施した認識装置が搭載されたダイボンダであるCPS-400Fは,平成4年から販売されており,本件発明Dは,その特許を受ける権利が被告に譲渡された時点で,既に公然実施されていた。したがって,本件特許権Dには無効理由があり,かつそのことについて被告には一切帰責事由はない。
「」。 このような無効理由を有する本件特許権Dに 独占の利益 は生じない(5)本件各発明(本件発明Cについてはダウンカウンタ方式)を実施した被告のダイボンダの売上高は,別紙3のとおりであり,本件発明A,B及びDについては,出荷時に各発明の機能がON設定になっているものを抽出したものである。
2被告の貢献の程度について被告では,原告が出向してくる以前である昭和55年から半導体ペレットの認,, 。 識装置の技術移管を受け 技術ノウハウを蓄積し 認識装置の開発を進めていた原告は,認識装置の開発に途中から加わったにすぎない。被告の多数の技術者とのチームワークがあって初めて,本件各発明が完成したものである。
本件各発明に対する被告の貢献度を算定するならば,99%を超えるといっても過言ではなく,どんなに低くとも95%を下回ることはあり得ない。
3本件各発明の発明者について本件発明Aの特許出願に先立って,昭和60年4月に原告とP2の連名で提出された「発明考案届出書 (乙17)は,チップを先行認識することによって,前 」のチップのピックアップ動作中に次のチップの存否を予め判定するという発明に係るものであり,これは本件発明A及びBの基本ともいえるものである。この時点では,同届出書には,先行技術(乙29)との差異が判然と記載されていなかったため,被告は特許出願を見送っているが,本件発明Aは,チップの存否だけでなく,良否判定・位置決めをも先行認識時に行うというもので,同届出書に係る発明を発展させたものにすぎない。すなわち,本件発明Aの届出は原告が単独でしてはいるものの,その基本となっている発明の届出自体は,原告と「P2」という従業員との連名でされている。本件発明A及びBにおいて,原告のみが発明者とされていることは,単に便宜上のことにすぎず,少なくとも「P2」氏が共同発明者である。
第4当裁判所の判断1本件特許権Aについて(1)認定事実後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア被告におけるダイボンダ開発について(甲5の2ないし10頁,33ないし44頁)(ア)被告は,新日本電気株式会社(以下「新日本電気」という )大津。
工場の機械部門を設立母体とし,昭和47年2月1日に分離独立したものであったが,その当初から,ダイボンダは日本電気の図面を基に製作され,品種変更,改良を中心に設計製作されていた。昭和50年ころからは,自動機の開発が進められ,昭和53年に入ると,福井日本電気株式会社の設立をにらんで,フルオートダイボンダ(FAM-Vタイプ)に生産を移行し,延べ150台を出荷するなど,当時としては数少ないヒット商品となったが,山形日本電気や九州日本電気など他の日本電気, , グループへの売込みは 懸命な努力にもかかわらず標準採用とはならず少ない台数にとどまっていた。また,日本電気グループ以外への外販にもほど遠い状況であった。
(イ)昭和59年ころ,福井日本電気において,工場の自動化ライン構想が具体化され,その中で,高速化,マッピング対応,インライン対応,自動搬送システムといった,最新の考えを導入したダイボンダの要求が出てきたことから,被告では,後継機としてFAM-Yの開発を進めたが,途中で頓挫した。また,日本電気では,第二LSI事業部がFAM, ,, -Vと呼ばれる デジタル式のインラインダイボンダを開発 完成させ被告に技術移管をしたが,この中に,サーボ技術,位置決め技術,デジタル化技術,認識技術等があった。
(ウ)昭和60年ころ,半導体設備事業に対する新日本電気グループの投資が全面的にカットされ,それを機に被告ではダイボンダの外販に踏み切ったが,既存タイプのダイボンダでは他社に劣り,全く受け入れられなかった。
そこで被告では,社内において事業基盤の強化のためにも自社商品の開発が必要との機運が高まり,被告にとって初めての開発部門として開発課を設置し,独自で高性能ダイボンダの開発に着手したが,開発に当たって最も重視されたのは,世界最高速の0.48秒/1サイクルというインデックスを実現することであった。
その実現に当たっては,まずボンディングヘッドについて,実績のあるカム駆動方式ではなく,サーボモータとボールネジを使った直動型のデジタルボンディングヘッドを採用することが重要な選択となった。
また,フレキシブルグリッパフィーダ,強制分離ローダ及びマルチマガジンスタッカ,アンローダ等の仕様が確定し,それらの機能ユニットを高度かつ高速に制御する手段として,マルチCPUによる分散制御方式を採用した。
さらに,チップの認識位置決め方式については,従前のFAM-Vではチップの良否判定を自動で行うことができなかったことから,ウエハ上のチップを認識位置決めする本格的な認識装置の開発を昭和58年8月から開始し,二値化外形認識方式のSPARとして開発され,昭和60年1月にペレット配列機♯2に1号機が搭載されたが,その認識処理に問題があったことから,さらに先行認識等の高速化対応を施した。この先行認識により,機械インデックスを約20数%向上させることができた。
こうして,昭和61年5月23日,世界最高速の0.48秒/1サイクルを実現したCPS-100の1号機が香港の会社に納品された。
(エ)被告がCPS-100について作成したパンフレット(乙39)では,認識部,ローダー部,フレームフィーダー部,ボンディング部,アンローダー部及びウエハ収納/搬送部(オプション)について,それぞれ製品の特徴がアピールされている。
(オ)その後,このCPS-100をベースに,種々のダイボンダが誕生していった。
イCPS-100投入後のダイボンダ市場の状況(乙1)被告は,昭和61年にCPS-100を投入した後,昭和63年において,ダイボンダの国内シェアが,新川製作所の39%に次いで,2位の38%に達したが 次いで平成元年には シェア42%とトップとなった 甲 ,, (5の99ないし100頁 。)その後の被告製及び他社製のダイボンダのインデックス及び各社のシェアの推移は,別紙1のとおりである。
ウ本件特許権Aの効果(ア)本件特許権Aの明細書(甲1)によれば,本件発明Aは,従来の微小ワーク片(注:チップのこと)の認識方法では,1個の微小ワーク片をカメラ視野内に設定して画像処理し,この画像処理に基づいて上記微小ワーク片を位置補正した後,ダイボンダによりその微小ワーク片をピックアップしているが,このピックアップ時,カメラ視野内をダイボンダが遮り,かつ,XYテーブルを駆動させることも不可能であるため,この微小ワーク片のピックアップが完了するまで次の微小ワーク片を認識することが実現困難でインデックスの高速化を難しいものにしていたという問題点を解決しようとするものである(甲1の3欄26行目ないし40行目 。)そして,本件発明Aは,このために,別紙職務発明目録A記載の構成を採用したものであり,これにより 「一つの微小ワーク片のピックア ,ップ動作中に,カメラ視野からの画像データを基づいて,次の認識すべき微小ワーク片をパターン認識するため,上記微小ワーク片のピックアップ完了後,次の微小ワーク片を定ピッチ移動させることなく,直接的に位置補正してピックアップポジションに配置し,上記微小ワーク片の位置補正完了までの駆動によるタイムロスを最小限に設定することができる」という作用効果を奏するものである(甲1の4欄1行目ないし8行目 。)このような本件発明Aの作用を端的にいえば,先のチップのピックアップ動作中に次のチップのパターン認識をオーバーラップして行うことにより,@チップがピックアップポジションにピッチ移動する前にパターン認識を行い,それにより,(a)チップの位置決めに関する情報を得ておくことにより,直接位置決めを可能とし,ピッチ移動後の再位置決めを不要とする,(b)チップの良否判定をすることにより,チップが不良品である場合に直ちに次のチップのパターン認識を行って,不良品チップのためのピッチ送りを省略する,Aそのようなチップのパターン認識を先のチップのピックアップ動作中に行うことで,チップの認識に要する時間を先のチップのピックアップ時間とオーバーラップさせる,という点で,処理速度を向上させるものであるといえる。
(イ)そして,証拠(乙33)によれば,被告がCPS-100の後継機種であるBESTEM-D01を使って,通常の稼働モードで処理速度を実験したところ,@第1回目の実験では,本件発明Aを実施しない場合の平均処理時間が0.323秒であるのに対し,本件発明Aを実施した場合の平均処理時間が0.253秒であり,A第2回目の実験では,本件発明Aを実施しない場合の平均処理時間が0.303秒であるのに対し,本件発明Aを実施した場合の平均処理時間が0.251秒であったことが認められ,平均して約20%の処理速度の向上が見られたことが認められる。
そしてこの点は,被告の社史(甲5)において 「先行認識により機,械インデックスを20数%向上させることができた (40頁)と記載」されていることとも整合する。
したがって,本件発明Aは,ダイボンダの処理速度を約20%向上させる優れた効果を有するものと認めるのが相当である。
(ウ)この点について被告は,乙第33号証の実験において,本件発明Aを使用した場合に約20%の処理速度の向上が見られたという結果は 「先,行認識」による不良チップの飛ばし技術という公知技術と 「オーバーラッ,プ処理」という本件発明Aとの組合せによって実現されたものに過ぎず,そのうちでも前者の寄与が大きいと主張する。
この主張の趣旨は,本件発明Aによる処理速度の向上には,各チップがピックアップ位置にピッチ移動された後にチップの良否と位置確認・再位置決めを行う場合に比べると,@先のチップのピックアップ動作中にチップの良否を認識し,不良チップを飛ばすということ(被告のいう「先行認識による不良チップ飛ばし技術 )によるものと,A先のチッ 」プのピックアップ動作中に次のチップを正しいピックアップ位置におくために必要なXYテーブルの移動量・方向をXY軸上で予め計算し,再位置決めの確率を低減するということ(被告のいう「オーバーラップ処理 )によるものがあるが,@は公知技術(乙26)によって達成され 」, , ている効果であり 本件発明Aの本質的効果はAの点にのみあるところ@のほうがインデックス向上に対する寄与度が高いというものであると解される。
乙第26号証(特開昭57-68042号)に示された技術は,特許請求の範囲を 「ウエハ上に桝目状に形成した複数個のペレット中から ,所望の特性を持つペレットのみを1個ずつ順次ピックアップする方法において,前記桝目状のペレットをXY方向に区分した複数個毎に1つのブロックとし,各ブロック内のペレットを同時に認識して良品と不良品を判断し,最も近い所望ペレットを順次選択的にピックアップすることを特徴とするペレットピックアップ方法」というものであり 「各列の,各ペレットP毎にインク標識の有無を検出して良品と不良品とを判断し,良品ペレットのみをピックアップ」するという従来方法では 「全,ペレットPを認識走査してインク標識を検出しなければならない」ところから 「たとえば不良品の次に良品があるような場合,ピックアップ ,の1サイクルよりもX,Yテーブルの移動時間のほうが長くなり「そ,」のためペレットのピックアップが一時的に中断されることにな り時」 ,「間のロスを招いてペレットボンディングの作業効率を低下させてしまう 」という問題点(以上,乙26の1頁右下欄9行目ないし2頁左上 。
欄13行目)を解決することを企図したものである。
このような乙第26号証の技術においては,整列配置された多数のペレットを認識光学系での画像処理によりパターン認識して順次ピックアップする方法において,複数個のペレットを1つのブロックとし,各ブロックの複数個のペレットを認識光学系により同時に認識すること」が行われている点は,本件発明Aと共通しているといえる。
しかし,乙第26号証の技術においては,各ブロックの複数個のペレットの良品・不良品を判断するタイミングについて,本件発明Aのように,先のペレットのピックアップ動作中に後のペレットの判断を行うものか否かは明らかでなく むしろ前記のような特許請求の範囲の記載 手 , (順を時系列的に記す方法の発明として記載されている)からすると,本件特許権Aの拒絶査定に対する審判事件の審決(乙28)が述べるとおり 「複数個のペレットの良品と不良品の判断は,所望ペレットを順次 ,選択的にピックアップする前に同時に行われる」ものと解する方が自然である。
, , , そうすると 乙第26号証の技術によって 本件発明Aの効果のうち先のチップのピックアップ動作中にチップの良否を認識し,不良チップを飛ばすということが実現されているとは認められないから,被告の上記主張は採用できず,本件発明Aの効果は前記のとおり認定するのが相当である。
エ本件発明Aを実施した被告のダイボンダの売上高証拠(甲21,乙36)及び弁論の全趣旨によれば,昭和61年度から平成15年度までの間に被告が製造販売したダイボンダのうち,本件発明Aの機能が搭載されたものの台数及び売上額は,別紙4の該当年度の「総売上」欄記載のとおりであり,このうち出荷時において本件発明Aの機能を使用する設定になっていたものは同別紙の「ON設定」欄,同設定になっていなかったものは同別紙の「OFF設定」欄記載のとおりであると認められる。
なお,前提事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は本件特許権Aについて他社に実施許諾をしたことはなく,また他社からその申し入れがなされたこともないと認められる。
(2)本件発明Aにより被告が受けるべき利益の額についてアいわゆる独占の利益の算定方法について,「 」 特許法35条4項にいうその発明により使用者等が受けるべき利益とは,使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について無償の通常実施権を有すること(同条1項)からして,単に当該発明を実施することにより得るべき利益をいうものではなく,これを超えて,使用者等が従業者等から特許を受ける権利承継して特許を受けた結果,発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益(いわゆる「独占の利益 )を」いうものと解される。
そして,この独占の利益は,本件のように使用者等が当該発明を自社で独占して実施し,他社に実施を許諾していない場合には,特許権の効力として他社に当該発明の実施を禁止したことに基づいて使用者等があげた利益がこれに該当するが,その算定としては,使用者等が当該発明を他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と,実施許諾せずに自ら独占して実施している場合に上げている売上高とを比較することにより得られる超過売上高に基づき,それによる利益の額を算定することによって行うことができる。また,超過売上高に基づく利益の額は,当該発明を第三者に実施許諾することによって第三者が超過売上高の売上げを得たと仮定した場合に得られる実施料相当額をもって算定することができる。
そして 「使用者等が受けるべき利益」は,権利承継時に客観的に見込 ,まれる利益の額を指すものではあるが,具体的には,特許権の存続期間が終了するまでの間に使用者が上げる超過売上高に基づく利益を指すものであるから,当該利益の認定に当たって,事実審口頭弁論終結時までに生じた被告の実際の売上高等の一切の事情をしん酌することができる。
イ対象となる時期について職務発明について,特許を受ける権利を使用者等が承継し,特許出願をした場合,これにより使用者等がいわゆる独占の利益を受けることができる期間は,特許の出願公開時から,特許権の権利存続期間満了時までであると解するべきである。
なぜならば,特許を受ける権利承継し,特許を出願しても,使用者等は,他者による当該発明又は考案の実施を禁ずることも,当該発明又は考案を実施している他者に金銭を請求することもできないから,出願公開前の期間は,使用者等がいわゆる独占の利益を受けているということはできない。
これに対し,特許の出願公開がされたときは,使用者等は,未だ他者による当該発明の実施を禁ずることはできないが,一定の条件の下ではあるものの,当該発明を実施している他者に対し補償金を請求することができるようになるのであるから,この時点以降は,使用者等に,特許を受ける権利承継を受けたことによる利益を観念することができる。
したがって,本件においても,本件発明Aについては,特許出願公開日である昭和63年4月30日から本件特許権の権利存続期間満了日である平成18年10月15日までの間において被告が特許を受ける権利承継を受けたことによる利益の額を算定すべきものである。
ウ本件発明Aを実施した製品の売上高について(ア)別紙4の本件発明Aの機能を有する被告のダイボンダの売上げのうち,出荷時に本件発明AがON設定されていたものについては,当該ダイボンダの売上げに本件発明Aの機能が寄与していることが明らかであるから,本件発明Aにより被告が受けるべき利益を算定するに当たって基礎とすべきものである。
(イ)他方,別紙4の本件発明Aの機能を有する被告のダイボンダの売上, , げのうち 出荷時に本件発明AがOFF設定されていたものについては次のように考えられる。
弁論の全趣旨によれば,被告のダイボンダにおいては,本件発明Aの機能についてはON設定とOFF設定を切り替えることが可能であるが,顧客がダイボンダを使用して製造するチップのサイズ,種類や,照明の当たる範囲等,種々の条件次第では,ON設定にしても本件発明Aが有効に機能しないこともあると認められ,また,出荷時にON設定されていた割合は,別紙4のとおり,当初は60%以上で,その後次第に低下し,平成6年には30%になり,その後回復したものの,概ね40%台にとどまっていることが認められる。そうすると,OFF設定で購入した顧客は,当面,本件発明Aの機能を使用する予定がなくとも当該ダイボンダを購入したわけであるから,被告のダイボンダは,たとえ本件発明Aの機能を使用しなくとも,顧客にとって魅力のある製品であっ。, , たと窺うことができる したがって 当該ダイボンダの売上げにとって本件発明Aの機能が付属していることが寄与したのか否かは,必ずしも明らかでない。
他方,弁論の全趣旨によれば,半導体製造メーカーにおいては,納品先の求めに応じて製造する半導体の種類を変更することが認められ,出荷時にOFF設定で納品を受けた顧客であっても,将来的にON設定にすることにより,本件発明Aの機能を使用する可能性があり,その点が被告のダイボンダの魅力となった可能性があるから,出荷時にOFF設定とされているからといって,当該ダイボンダの売上げに本件発明Aの機能がおよそ寄与していないとはいえない。
以上の点を勘案すると,出荷時にOFF設定されているダイボンダの売上げについては,控えめに見て,その4分の1は本件発明Aの機能が寄与したものとして,本件特許権Aにより被告が受けるべき利益の算定に当たって基礎とするのが相当である。
(ウ)なお被告は,本件発明Aは「微小ワーク片の認識方法」という方法の発明であり,単に本件発明Aの機能を搭載したダイボンダを製造販売するだけでは「実施品」とはいえないから,OFF設定分は独占の利益の算定の基礎とすべきではないと主張する。
独占の利益は,前記のとおり,使用者等が当該発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であるところ,確かに方法の発明においては 「実施」とは「その方法の使用をする行為」であるから,本 ,件発明Aの場合には,ダイボンダを購入して本件発明Aの機能を使用する顧客(電子部品メーカー)が「業として実施する」主体ということになる。しかしその場合には,それら顧客が本件特許権Aの侵害行為を行うことになるが,およそダイボンダメーカーが,顧客に特許権侵害行為を行わせることになるような製品を販売するはずがないことは明らかである。そうすると,被告は,顧客が本件発明Aを実施することになるようなダイボンダの販売を独占することができるようになるが,このような独占的地位も,本件特許権Aの独占力に基づくものであるといえる。
このように考えると,被告が出荷時にOFF設定したもののうち,先に認定したように本件発明Aの機能が寄与したと考えられる分について, 。 は 独占の利益を算定するための基礎となり得るものというべきである被告の上記主張は採用できない。
エ本件特許権Aによる超過売上高について(ア)前記前提事実,とりわけ別紙1によれば,本件発明Aの機能を搭載したCPS-100の登場以後のダイボンダの高速化と競合各社のシェアの変化について,次の点を指摘することができる。
aダイボンダの主要なメーカーは,被告のほか,新川製作所,日本電産トーソク,日立東京エレクトロニクス 「その他」である。,b従前は,新川製作所がトップシェアを占めており,他方被告はほとんどシェアを有していなかったが,被告が昭和61年にCPS-100を市場に投入すると,その2年後の昭和63年には,被告のシェアは38%となり,トップの新川製作所の39%とほぼ肩を並べた。そして,被告は,その後ほぼ50%程度のシェアを確保している。
cその後の高速化競争は,平成元年に日本電産トーソクがインデックス0.5秒のダイボンダを投入し,平成3年には被告と日本電産トーソクが共にインデックスを0.4秒にまで縮め,この2社によるトップ争いが行われた。平成8年に被告がインデックスを0.28秒としたが,翌平成9年には新川製作所がインデックス0.3秒とほぼ被告に追いつくとともに,日本電産トーソクが被告を上回るインデックス0.25秒を達成し,この3社による高速化競争となった。そして,, . 平成11年には 日本電産トーソクがインデックスをさらに縮めて02秒とし,翌平成12年には,被告と新川製作所が共にインデックスを0 25秒としたものの 従来からの日本電産トーソクのほかそ ., ,「の他」もインデックスを0.2秒として何社かの競争状態となった。
そして,その後もインデックスの短縮をしつつ,同様の競争状態が継続している。
dこの間のシェアの動向を見ると,日立東京エレクトロニクスは,昭和63年以降,インデックスにおいて時には他社の約2倍になるなどの大きな遅れがあるが,それにもかかわらず一定のシェアを確保している。また,同社は,平成9年以降にインデックスを改善しているがそれによってシェアが拡大したようにも見られない。このことからすると,日立東京エレクトロニクスは,高速処理とは別の点において市場競争力があるものと推認される。
e次に 「その他」を見ると,これはCPS-100が登場した当時 ,から,インデックス0.5秒を達成しており,その後に被告や日本電産トーソクとの差が50%以上開いた時期や,再び処理速度の差がほとんどなくなった時期があるが,このような処理速度の差の変化とシェアとの間に格別の関係を見出すことはできない。
f日本電産トーソクは,平成元年以降,常に被告との間でインデックスのトップ争いをしており,自社技術でトップレベルを維持しているものであるが,それにもかかわらず,シェアは小さなものにとどまっており,製品の高速化がシェア拡大には結びついていないということができる。
g新川製作所は,従前はシェアが首位で,インデックスは0.58秒であったが,被告がインデックス0.48秒のCPS-100を投入し,さらに他社も加わってインデックス0.4秒前後の競争の時期になっても,処理速度の向上がなされなかった。そして,そのような状況下で,平成2年には約40%のシェアを有していたのが平成9年には約5%まで急速にシェアを落とした。しかし同社は,平成9年にインデックスを当時の最高水準に近い0.3秒にまで向上させ,その後も向上を続けてトップレベルを維持しているところ,それに呼応するように平成10年以降は急速にシェアを回復し,平成15年には20%弱まで回復した。
(イ)以上のとおり,ダイボンダにおいて,前記(ア)g認定に係る新川製作所のように,処理速度とシェアの関係が対応していると思われる例もあるものの,前記(ア)dないしfの日立東京エレクトロニクス,日本電産トーソク 「その他」の例のように他社と処理速度の差が多少あって ,も,そのこととシェアの増減の関係が明確に認定できない例も多い。このことからすると,ダイボンダにおいては,処理速度のほか,正確性,信頼性,操作・取扱いの容易性,製造チップの切替えの容易性,価格,グループ企業など販路の有無等,種々の事柄が相まって,製品の競争力が決まっており,処理速度は,各メーカーや製品の内容によって,多少の速度の差がシェアの増減に結びつく場合もあれば,あまり結びつかない場合もあるものと認められる。
そこで次に,本件発明Aが競合各社に実施許諾された場合に,被告の売上げがどの程度減少したかを検討する。
a本件発明Aが出願公開された昭和63年から平成2年まで 以下 第(「1期」という )についてみる。前記(ア)dないしf認定に係る新川 。
製作所以外の競合他社の処理速度とシェアの関係からすれば,これら競合他社が,ライセンス料を支払ってまで(ライセンス料は,本件発明Aを実施したことによって増加した売上分に限らず,本件発明Aの実施品全部について支払うことになる )本件発明Aの実施を希望し 。
たかどうか(逆にいえば,支払ライセンス料に見合うシェア拡大が図れたかどうか)は疑問があるところである。しかし,新川製作所については,同社の製品はインデックス0.58秒であるのに対して被告の製品は0.48秒であり,仮に新川製作所のインデックスが20%向上すると0.464秒となって,被告と新川製作所はほぼ拮抗することになる。そして,この当時,被告と新川製作所のシェアはほぼ互角であり,営業力等においてさしたる差異はないと考えられる。これらの点を考慮すれば,本件発明Aが新川製作所を始めとする競合他社の希望に応じて実施許諾される状況であったとすれば,被告の売上げの2分の1が競合他社に奪われたものと考えられる。
b被告のインデックスが0.4秒に向上した平成3年から,その水準が維持される平成7年まで(以下「第2期」という )についてみる。
と,例えば,新川製作所は,被告とのインデックスの差が第1期よりも開き,仮に新川製作所のインデックスが20%向上して0.464秒となっても,なお被告より10%以上遅いこと,したがって,新川製作所が本件発明Aの実施許諾を受けたとしても,被告の売上げを奪う程度は第1期に比べて小さいことが認められる。このことを始めとして前記認定に係る他の競合他社の状況を考慮すれば,本件発明Aが新川製作所を始めとする競合他社の希望に応じて実施許諾される状況であったとすれば,被告の売上げの3分の1が競合他社に奪われたものと考えられる。
. (「」 c被告のインデックスが0 3秒に向上した平成8年 以下 第3期という )についてみる。この時期には,例えば新川製作所は,被告 。
とのインデックスの差が第2期よりも更に開き,仮に新川製作所のインデックスが20%向上して0.464秒となっても,なお被告より約50%遅いこと,新川製作所のシェアが更に低下していっており,その営業力の低下が窺われること,後記(エ)のとおり,平成9年以降(以下「第4期」という )には,新川製作所はインデックス0.3 。
秒に到達し,その後も高速化を続け,被告と大差ない状況になってい, ,, るのに そのシェアは十数%に増加したにすぎないこと したがってこの時期において新川製作所が本件発明Aの実施許諾を受けたとしても,被告の売上げを奪う程度は第2期よりもさらに小さいことが認められる。このことを始めとして前記認定に係る他の競合他社の状況を考慮すれば,本件発明Aが新川製作所を始めとする競合他社の希望に応じて実施許諾される状況であったとすれば,被告の売上げの5分の1が競合他社に奪われたものと考えられる。
d第4期については,新川製作所も自社技術でトップレベルに近いインデックス(0.3秒)に到達し,日本電産トーソクは被告を抜いて最高速製品を販売するなど,その市場競争力は高速処理とは別の点にあると推認される日立東京エレクトロニクス以外は,大差のない高速化を実現している。また,後記(エ)a(a)及び(c)認定のとおり,被告の特許権や特許出願中の技術が数十件から100件以上に達して被告の製品における本件発明Aの比重が相対的に低下し,乙第8号証に係る発明も開発されている。このような状況を始めとして前記認定に係る他の競合他社の状況を考慮すれば,競合他社において,ライセンス料を支払ってまで本件発明Aの実施許諾を求める(すなわち,本件発明Aの実施によって高速化できたとして,これにより支払ライセンス料に見合うシェア拡大が図れると考える)かどうか疑問のあるところである。もっとも,ライセンス料が非常に低額である場合を想定すれば,競合他社による実施の可能性がないとはいえない。以上の点を考慮すると,実施料が非常に低額であることを前提として,本件発明Aについて競合他社が実施した場合を想定すれば,被告の売上げの5分の1が競合他社に奪われたものとするのが相当である。
ちなみに,被告は,平成17年6月23日付け被告準備書面4にお, , いて 本件特許権Aが公然実施により無効であると主張するとともに「被告としては,仮に本件特許権について無効事由があることが本件の判決文に記載されて公開されたとしても,何ら被告製品の製造販売に支障を来すものではないと確信している ・・・実際に被告に対し 。
て何ら「独占の利益」をもたらしていないからである 」と述べてい。
るが,平成17年段階における被告のこの訴訟態度も,第4期においては本件特許権Aの独占の利益がごく少なくなっているとの上記認定と符合するもののように思われるところである。
(ウ)なお,上記第1期から第3期の間には,本件発明Aが出願公開されていたに留まる時期が含まれており,この時期は,発明を実施した第三者に対し一定の要件の下に補償金を請求することができるにとどまるから,その排他的独占力は事実上のものに過ぎず,法的に差止請求権や損害賠償権が認められる出願公告以後の時期に比べると弱いとはいえる。
そして,このように排他的独占力が弱いということは,競合他社が本件発明Aを実施することに対する抑止力が弱いということを意味し,抑止力が弱ければ,それだけ競合他社が被告による特許出願を無視して本件発明Aを実施する可能性が高まり,被告の超過売上高が減少することになるという形で,被告の独占の利益に影響を及ぼすことになると解される。
しかし,別紙1(乙1)によれば,本件発明Aが出願公開された昭和63年4月30日以降で,CPS-100を初めとする被告のダイボンダのシェアを脅かすに足りるほどの高性能のダイボンダを製造販売し得るダイボンダメーカーは数社程度に限られていると認められるところ,それら数社が本件発明Aの出願公開中に同技術を実施したことを窺わせる証拠はない。本件発明Aは,複数のチップをカメラ視野内に設定して画像処理するというものであるから,仮に競業他社が本件発明Aを実施しているのであれば,その事実は容易に判明するはずである。そうすると本件発明Aでは,出願公開中の弱い排他的独占力によっても,競合他社に対する抑止力を果たしていたというべきである。
したがって,超過売上高の認定を,出願公開中の時期と出願公告後の時期で別異に考えることは,本件では相当でないというべきである。
(エ)被告が,本件発明Aに関して被告が受けるべき独占の利益はないとする理由についてa被告は,本件発明Aは,複雑な機構を有するダイボンダの一部である,認識装置にのみ関連する技術であり,他の部分の高速化によって全体の高速化を図ることも可能であるし,認識装置自体についても,本件発明Aの代替技術があるから,競合他社のダイボンダの高速化が本件特許権Aによって妨げられたということはなく,現に競合他社は,本件特許権Aの存在にもかかわらず,インデックスを向上させているとの趣旨の主張をする。
(a)まず,代替技術の点については,代替手段となる技術が存在するからといって,それだけで,当該職務発明がその経済的価値を失うというものではなく,代替技術の存在に加え,代替技術の方が,技術的な側面や経費的な側面等において優れているか,少なくとも同等であるなどといった事情があるときにはじめて,その職務発明の経済的価値が損なわれるものというべきである。
この点に関して本件では,代替技術として乙第8号証に係る技術が指摘されており,証拠(乙33)によれば,被告が行った実験では,本件発明Aを使用した場合と乙第8号証に係る技術を使用した場合との間には,処理速度の上で有意な差がなく,乙第8号証に係る技術を使用した場合には,これに加えて本件発明Aを使用してもしなくても,処理速度に特段の差がなかったという結果であったことが認められる。しかし,証拠(乙8)によれば,乙第8号証に係る技術の場合には,従前データに基づく予測によって位置決めをするという,本件発明Aとは異なる方法を用いていることが認められるから,一般論としては互いに一長一短である可能性も否定できないところ,上記実験(乙33)では,チップの配列状況が判然とせず,かつ,実際のダイボンディング工程とは異なり,チップをピンで突上げる工程が省略されているという問題があるから,上記実験のみからは,あらゆる面で本件発明Aと同等以上とまでは認めがたいところがある。しかも,乙第8号証に係る技術は,被告自身が平成7年6月27日に特許出願し,平成9年1月17日に出願公開された技術であって自由技術ではないから,同技術の開発によって本件特許権Aの独占力が低下することがあることはともかく,独占力が全くなくなるということはできない。
(b)また,競合他社が本件発明Aによらないでダイボンダの高速化を実現していることや,先に認定したとおり,ダイボンダは複雑な機構を有する装置であって,認識装置以外にも高速化のための技術開発を行う余地が十分にあることからすると,被告が主張するとおり,競合他社は,本件発明Aとは別の技術によってダイボンダの高速化を実現しているものと考えられる。
, , しかし 競合他社がダイボンダの高速化を実現しているとしても本件発明Aの実施により,更に高速化が図れ,ライセンス料の支払義務を負担しても見合うほどの売上の拡大と利益の増大があったと認められるのであれば,競合他社にとって,本件発明Aが無意味であるということはできず,本件特許権Aの独占の利益も否定することはできない。
そして 前記のとおり 新川製作所は 第1期から第3期まで 平 ,,,(成8年まで ,被告や日本電産トーソクとのインデックスの格差が )拡大し,それに連れてシェアが急速に低下していったことから,少なくとも,同社に関しては,前記のように処理速度の向上に優れた効果を有する本件発明Aの実施は有益であったと認めることができ,少なくともこの時期における本件特許権の独占の利益を否定することはできない。
(c)なお被告の上記主張は,被告のダイボンダには本件発明A以外にも,高速化技術も含めて多数の技術が寄与しているから,本件発明A自体の排他力によって競合他社のダイボンダの競争力を妨げているわけではないとの趣旨のようにも解される。
証拠(乙22)によれば,被告は,ダイボンダに関する特許出願を,昭和55年ころから昭和62年ころまでには26件(うち特許査定されたのは17件昭和63年ころから平成8年ころまで 第 ), (1期から第3期)にはこれに加えて数十件(うち特許査定されたのは約40件 ,平成9年ころ以降平成16年ころまで(第4期)に )は更に数十件(うち特許査定されたのは18件)し,同年ころに被告が保有していた特許権は四十数件で,なお出願手続継続中のものも相当数あることが認められる。これらのことからみると,競合他社に対しては,被告が有する多数の特許権や技術(特許出願中の発明やノウハウ)のすべてが一群となって,ダイボンダの競争力の向上を阻んでいたということができる。しかし,本件発明Aの前記認, , 定のような効果からすると そのような一群の特許権や技術の中で本件発明Aが少なからぬ寄与をしていたものと認められるから,被告がダイボンダに関する多数の特許権や技術を有することは,本件発明Aの実施料率を認定する際の重要な考慮要素ではあるものの,本件特許権Aの独占の利益を否定するに至るものではないというべきである。
bまた被告は,本件特許権Aには公然実施による無効理由(特許法29条1項2号)が存するから,独占の利益はないと主張する。
しかし,原告が主張するとおり,本件発明Aの特許出願当時の特許法29条1項2号は 「特許出願前に日本国内において公然実施をさ ,れた発明」を特許を受けることができないものとしているところ,証拠(甲5,乙36)及び弁論の全趣旨によれば,被告が本件特許権Aの出願日までに本件発明Aの機能を搭載したCPS-100を販売・出荷した先はすべて海外の企業であると認められるから,実販売による公然実施があったとは認められない。
なお,CPS-100に関する被告のパンフレット(乙39)は,欄外に「860607」とあり,これからすると,同パンフレットは() 。, 1986 昭和61 年6月7日に発行されたと認められる そして同パンフレットには,本件発明Aに関する記載としては 「認識装置,SPAR30により位置決め及び良否判定されたペレットを高速デジタルヘッドにてマウントし」とか 「ウエアリング上のチップの良, ,不良を判別し,X-Y-θテーブルを位置決めするSPAR-30を搭載しております。…認識方法もピックアップ動作中に次のチップに対し先行認識を行い高速処理を実現しています 」との記載がある。。
しかし,そこには,先行認識の内容・対象が具体的に記載されているものではないから,同パンフレットの頒布によって本件発明Aが公知のものとなったともいえない。
オ超過売上高に乗じるべき相当な実施料率について社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版 」によると,半導体製造装 〕置は特殊産業用機械に分類され,昭和63年から平成3年までのイニシャルなしの実施料率の,最頻値及び中央値は3%,平均値は4.7%,平成4年から平成10年までのイニシャルなしの実施料率の最頻値は2%,中央値は4%,平均値は6.5%とされている。
ところで,先に述べたとおり,ダイボンダは複雑な機構を有する装置であって,被告のダイボンダには認識装置以外にも数多くの高速化のための。, , 技術が用いられている そして CPS-100の処理速度だけを見てもそこではそれまでのインデックスである1秒が0.48秒にまで高速化されているが,本件発明Aが約20%の高速化を実現したのであれば,被告は他の技術によって残る約40%の高速化を実現したということになる(0.48/(1-0.2)=0.6,1-0.6=0.4 。)また,ダイボンダの性能は,処理速度のみによって評価されるものではなく,正確性や操作容易性,製造チップの切替えの容易性等,種々の性能が相まって,製品全体としての競争力を形成するものであり,CPS-100のパンフレット(乙39)においても,ダイボンダを構成する各部について,その特徴がアピールされている。また,先に述べたとおり,被告のダイボンダにおいては,出荷時に本件発明Aの機能がOFF設定されている割合が相当程度に上っているから,被告のダイボンダは,本件発明Aの機能を抜きにしても,顧客にとって魅力のあるものだったと窺うことができる。
これらの点からすると,先に認定した被告の超過売上高は,前記のような多数の特許権や技術が寄与して達成された被告のダイボンダ全体の売上高をベースとするものであること,及び一般に製品競争力を基礎付ける多数の発明を一括して実施許諾する場合でも,その実施料率には自ずと限度があるものであることからして,超過売上高達成に果たした本件発明Aの寄与度を考慮すると,前記「実施料率」に示されたような実施料率をそのまま採用するのは相当ではない。他方,本件発明Aは前記のような優れた効果を奏するものであること,証拠(甲7,8)によれば,被告の評価では,本件発明Aは平成11年には3級,平成12年,13年には4級とされているのに対し,被告の保有する他の特許権では,これより低い5級,6級,級外とされているものが多いことが認められること,上記特許権の中には,後記本件特許権BないしDのように独占の利益に乏しいものも含まれていることからすれば,前記「実施料率」に示された実施料率を上記の特許権及び技術の数で均等に配分することも相当ではない。これらの事情を考慮して,本件では,本件発明Aに関する相当実施料率は,被告の製品が最も高速であり,新川製作所と被告との間で速度に差があった時期である第1期から第3期までは2%,競合他社の多くも自社技術でダイボンダの高速化を実現し,被告の特許権や特許出願中の技術が数十件ないし百, , . 件に達し 乙第8号証に係る発明も開発されている第4期については 02%とするのが相当である。
カ本件発明Aによって被告が受けるべき利益の額についてそこで,これまで述べてきたところに従い,本件発明Aによる被告の超過売上高を算定する。
前記第1期ないし第4期のうち平成15年度までの,本件発明Aが寄与したダイボンダの売上額の各合計額は,出荷時にON設定であった分については別紙4の「ON設定」の「金額」欄記載のとおりであり,出荷時にOFF設定であった分については別紙4の「OFF設定」の「×1/4」欄記載のとおりである。
そして,第4期のうち,平成16年度から平成18年度(平成16年4月1日から本件特許権Aの存続期間が終了する平成18年10月15日までの約31.5か月)は,販売額についてはいまだ不確定な部分があること,被告が現実に利益を得るのは,本訴で請求されている遅延損害金の起算日(平成16年9月10日)より後になる部分が多いことを考慮して,控え目に見積り,その直前2年分の販売と同じと推定すべきである。
そうだとすると,本件発明Aが寄与したダイボンダの売上額の各合計額は,別紙4の「合計/金額」欄記載のとおりである。
そして,それら各期の売上高のうち,本件発明Aによる超過売上高は,第1期については上記「合計/金額」に2分の1を乗じ,第2期については上記「合計/金額」に3分の1を乗じ,第3期及び第4期については上記「合計/金額」に5分の1を乗じて,別紙4の「超過売上高/金額」欄記載のとおりとなる。
そして,それらの各期の超過売上高に対する相当実施料額は,第1期ないし第3期については,上記「超過売上高/金額」に2%を乗じ,第4期については 上記 超過売上高/金額 に0 2%を乗じて 別紙4の 実 ,「」.,「施料/金額」欄のとおり,合計1億5934万円(万円未満四捨五入)となる。
(3)被告が貢献した程度及び本件各発明の発明者(原告の単独発明か否か)についてア前記前提事実及び後掲各証拠によれば,次の事実が認められる。
(ア)被告におけるCPS-100ダイボンダの開発は,被告にとっての初めての開発部門である開発課において進められたが,昭和60年当時の開発チームは,技術経験年数23年のP3を含めて10人から構成され,原告は,同チームの中で技術経験年数の最も浅い2年であった(乙30 。)(イ)原告は,昭和60年4月23日,被告に対し,3通の発明考案届出書を提出した(甲16及び17,乙17 ,このうち本件発明Aに関連 )するのは乙第17号証及び甲第16号証のものである。
そのうち乙第17号証のものは,原告とP2(技術経験年数4年)の連名に係るものであり,名称を「半導体チップのセンシング方法」とするもので,提案の要約を 「1つのチップのピックアップが完了してか ,ら,次のチップへの移動に於いて,チップ間ピッチ移動以前に取り込んだ画像にて次のチップの有無を判断して,有りの場合1ピッチの高速送り,無しの場合2ピッチの高速送りすることにより稼働効率のアップをはかる 」とするものであった。 。
これについては,被告では 「不適格」との総合評価の下,特許出願 ,をしなかった。
次に甲第16号証のものは,名称を「半導体チップの認識方法」とするもので,提案の要約を 「(a)従来の技術では,カーソルセンターに ,チップを位置決め,ピックアップ後,次のチップへ移動し,カーソルセンター上にある検査チップを外観検査・位置決めを行っていた。(b)本案による方法は,チップを位置決めピックアップ中に次の検査チップ等, , を外観検査し 位置決めセンターとのずれ量によりその移動量を計算し位置決めをする。(c)優位性ピックアップ駆動部とのオーバーラップ時間が増すことにより装置のインデックスアップが可能」とするものであった。
これについては,被告では 「低い」との総合評価の下,特許出願を ,しなかった。
(ウ)その後,原告は,昭和61年5月30日,被告に対し,発明考案届出書を提出した(乙37 。)これは,名称を「半導体チップ認識方法」とするもので,提案の要約を 「TVカメラを用いた半導体チップのパターン認識に於いて,カメ ,ラ視野内に複数個のチップを取らえ,認識を完了し,位置補正してピックアップしている最中に隣のチップを認識し,作業効率を向上する 」。
とするものであった。
これについては,被告は 「水準上」との総合評価の下,特許出願を ,することとし,同年10月15日,本件発明Aとして特許出願した。そ, , ()。 して この特許出願に係る願書では 発明者は原告のみとされた 甲1イ以上に基づいてまず,本件発明Aの発明者について検討すると,@原告がP2との連名で提出した乙第17号証に係る発明は,チップ間ピッチ移動以前に取り込んだ画像にて次のチップに関する情報を判断するという点では,本件発明Aの着想の萌芽が見られるものの,判断する情報としては次のチップの有無のみであり,本件発明Aのように,次のチップの良否や位置ずれを認識判断するというものではなく,そのような認識判断と先のチップのピックアップ動作をオーバーラップさせることも明確でないこと,Aオーバーラップ処理に着目した甲第16号証の発明考案届出書は,乙第17号証と同日に原告単独名義で提出されており,また,本件発明Aの発明考案届出書である乙第37号証も原告単独名義であること,B本件発明Aは先に認定したような優れた効果を有しており,弁論の全趣旨によれば平成11年度近畿地方発明表彰発明奨励賞を受賞しているのに,原告が単独発明者であると取り扱われることについてP2から異議が出された形跡も何ら窺えないことからして,本件発明Aは原告による単独発明であると認めるのが相当である。
ウ次に,本件発明Aについて被告が貢献した程度を検討するに,職務発明特許を受ける権利の譲渡の相当の対価を算定するに当たっては,使用者等が,事業(本件ではダイボンダの製造販売事業)を計画してから,発明の完成を経てさらにそれが事業として採算が取れるようにするまでに様々なリスクを負担していること,及び,従業者等も,発明を譲渡せずに利益を得ようとすると,ライセンス先の発見やライセンス先の事業化の失敗などのリスクがあることを考慮すべきである。すなわち,前記(2)の方式の, , ように 職務発明についての特許を受ける権利を使用者等が承継した後の実際の被告における事業化の結果を,権利の譲渡の対価を算定する事情と, , して斟酌する場合には それによって算定された被告が受けるべき利益は当該職務発明が無事に完成され,これが関係する事業計画全体が成功し,魅力的な独占の利益が発生しているという結果を前提として算定したものであって,上記リスクは考慮されていないけれども,権利の譲渡の対価を算定するに当たって,リスクの大小を考慮することは不可欠であるから,前記(2)の方式により被告が受けるべき利益を算定した場合には,使用者等が貢献した程度を考慮して前記権利の譲渡の相当の対価の額を定める際には,上記リスクがあることを前提とすべきである。
, , このことを前提として 先に(1)で認定した諸事情及び上記イの各事情とりわけ,本件発明Aは,被告がダイボンダ開発のために設置した開発チームにおける開発の一環として行われたこと(乙30 ,そのチームリー)ダーは被告従業員P3,ダイボンダの認識装置の基板は同P4,ソフトは外注先のP5が担当していたこと(乙18 ,本件発明Aは原告の単独発 )明であること,発明の完成のために特殊な装置や設備は必要ではないこと等,本件に現れた諸事情を総合勘案して,本件発明がされるに当たって,被告と原告らとの関係で,被告が貢献した程度を考慮すると,本件発明について,相当の対価の額を定めるに当たり,被告が本件特許権により受けるべき利益に乗ずべき割合(原告への配分割合)は,5パーセントと認めるのが相当である。
(4)まとめ以上によれば,本件発明Aについて,原告らが受けるべき相当の対価の額は,前記(2)で認定した,被告が本件発明Aの特許を受ける権利承継したことによって受けるべき利益の額(1億5934万円)に,前記ウで認定した,原告への配分割合(5パーセント)を乗じると,797万円(1万円未満四捨五入)となるところ,被告は原告に対し本件発明Aに関する補償金として51万5000円を支払っているから,これを控除した残額は,745万5000円となる。
2本件特許権Bについて(1)本件発明Bは,原告自身も,本件発明Aの利用発明であると認めるところであり,本件発明Bを実施すれば,本件発明Aを実施することになってしまうものである。そうだすると,被告が本件特許権Aを保有している以上,本件特許権Bについて,本件特許権Aを超えて被告が得るべき独占の利益は極めて小さいものといわざるを得ない。
(2)また,本件発明Bがその特許出願(平成7年5月31日)の前から公然実施されていたことは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,本件発明Bの機能は,既にCPS-100に搭載され,昭和62年から平成6年までの間に1万台以上が製造販売されていたものと認められる。
そして,被告のCPS-100は,当時世界最速の装置として発売され,被告のシェアを急速に拡大させる原動力となった装置なのであるから,競合他社の分析に晒されていたものと推認される。そうすると,本件発明Bが公開された平成8年12月13日の時点では,競合他社にとっては,本件発明Bはその出願前から公然実施された技術であることが知られていたものと推認するのが相当である。
また,原告から被告に本件発明Bの出願届出・譲渡書が提出されたのは平成7年4月12日であり(乙40 ,同発明が国内で公然実施されたよりも )8年も後のことであるから,本件特許権Bの特許出願前に同発明が公然実施されたことについて被告に責任があるとはいえないし,譲渡時点では公然実施の事実について原告も被告も認識していたと推認される。
(3)以上の点からすると,原告から被告に本件発明Bの特許を受ける権利が譲渡された時点では,既に本件発明Bは公然実施による無効原因があることとなる。このように無効原因があることを知りながら,特許庁を欺いて特許権を詐取して不法な独占の利益を得る目的で,特許を受ける権利が譲渡された場合に,その譲渡対価の請求権が,法の保護に値するものかどうかは疑問があるところである。また,そのことはさておくとしても,上記のとおり,本件発明Bは本件発明Aの利用発明であることや,本件発明Bの無効原因は競合他社から知られていたと推認されるところからすれば,原告が本件発明Bについて特許を受ける権利を被告に承継させたことに対する相当な対価は,既に被告が原告に支払った16万2000円を超えるものとは認められない。
3本件特許権Cについて(1)弁論の全趣旨によれば,被告が実施しているのは,別紙2の下段の構成のダウンカウンタ方式であり,本件発明Cの構成要件のうち「該タイミング発生用データラッチ毎に対応して設けられ,前記エンコーダからのフィードバックパルスの積算値と前記タイミングデータとを比較し所定状態でタイミング信号を発するデジタルコンパレータ」を備えないものであり,本件発明Cの構成要件を充足するものは実施していないと認められる。
(2)これに対し原告は,被告が実施しているダウンカウンタ方式も,本件発明Cの均等範囲に属するものであり,本件特許権Cの排他力の範囲内にあるから,それを備えたダイボンダの売上げも被告の独占の利益を算定するに当たって基礎とすべきであると主張する。
しかし,被告がダウンカウンタ方式を,本件発明Cの特許出願(平成2年6月29日)前に公然実施していたことは当事者間に争いがないから,ダウンカウンタ方式は,客観的に見て均等要件を欠き,本件発明Cの技術的範囲には属しない。
また,競合他社の立場から見ても,弁論の全趣旨によれば,ダウンカウンタ方式はCPS-100(国内向けの初販売・出荷は昭和62年ころ)において既に実施されており,先に本件発明Bについて述べたのと同様に,本件発明Cはその出願前から公然実施された技術であることが知られていたものと推認される。
そして,原告から被告への本件発明Cの発明考案届出書が提出されたのは平成2年6月6日である(乙44)から,本件特許権Cの特許出願前にダウンカウンタ方式が公然実施されたことについて被告に責任があるとはいえない。
したがって,均等を理由に,ダウンカウンタ方式を装備したダイボンダの売上げを被告が受けるべき利益を算定する基礎とすべきであるとの原告の主張は採用できない。
(3)そうすると,被告は,本件特許権Cの排他力の範囲内にある技術を実施したダイボンダを製造販売したことがない一方,ダウンカウンタ方式は競業他社も自由に使用し得る技術なのであるから,被告が本件発明Cの特許を受ける権利承継したことにより受けるべき利益は,存するとしても極めて小さいものであるというべきであり,その相当な対価は,既に被告が原告に支払った26万2000円を超えるものとは認められない。
4本件特許権Dについて(1)本件発明Dは,ダイボンディング工程におけるチップの位置検出方法に関する発明であり,従来はチップを白,バックを黒として映像信号を2値化処理し,白の部分の重心をもってチップの重心として検出していたが,これ, , では @チップに欠けがある場合や不良チップマークが施してある場合にはそこが黒くなるために誤差が生じ,次のチップの位置検出の障害となる,A画面(ないし設定したエリア)全体をサーチして重心を算出するので時間がかかるという問題点を解決することを目的とするものである(甲4 。)ところで,従前の技術によっても,また他社の製品によっても,既にチップの位置検出自体は行われており,本件発明Dは上記@のような場合のチップの位置検出の正確性を向上させるものであるが,その向上の程度は明らかでない。そうすると,競業他社にとって,本件発明Dが,ライセンス料を支払ってまで実施許諾を受けるほど魅力があることの立証が不足しているというべきである。
(2)また,本件発明Dがその特許出願(平成8年7月17日)の前から公然実施されていたことは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,本件発明Dの機能は,平成4年の時点で既にCPS-400Fに搭載され,平成5年から平成7年までの間でも7500台以上が製造販売されていたものと認められる。
そして,被告では,CPS-100の発売以降,ダイボンダの機種を増やし,平成4年の時点では50%に迫るトップシェアを獲得するに至っていた, 。 のであるから その製品は競合他社の分析に晒されていたものと認められるそうだすると,本件発明Dが公開された平成10年2月3日の時点では,競合他社にとっては,本件発明Dはその出願前から公然実施された技術であることが知られていたものと推認するのが相当である。
また,原告から被告に本件発明Dの出願届出・譲渡書が提出されたのは平成8年5月27日であり(乙46 ,同発明が公然実施された時点より4年 )も後のことであるから,本件特許権Dの特許出願前に同発明が公然実施されたことについて被告に責任があるとはいえないし,譲渡時点では公然実施の事実について原告も被告も認識していたと推認される。
(3)以上の点からすると,原告から被告に本件発明Dの特許を受ける権利が譲渡された時点では,既に本件発明Dは公然実施による無効原因があることとなる。無効原因を知りつつ譲渡された対価の請求権が法の保護に値するものかをさておくとしても,本件発明Dによってチップの位置検出の正確性が向上する程度が明らかでないことや,本件発明Dの無効原因は競合他社から知られていたと推認されるところからすれば,被告が本件発明Dの特許を受ける権利承継したことにより受けるべき利益は,存するとしても極めて小さいものであるというべきであり,その相当な対価は,既に被告が原告に支払った4万2000円を超えるものとは認められない。
5結語以上によれば,原告の本件請求は,本件発明Aの特許を受ける権利を被告に承継させた対価の残額として745万5000円の支払及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年9月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)職務発明目録A特許番号第2137842号出願番号特願昭61-245900出願日昭和61年(1986)10月15日公開番号特開昭63-98782公開日昭和63年(1988)4月30日公告番号特公平8-10711公告日平成8年(1996)1月31日出願人ニチデン機械株式会社発明者原告発明の名称微小ワーク片の認識方法特許請求の範囲整列配置された多数の微小ワーク片をカメラ視野内での画像処理によりパターン認識して順次ピックアップする方法であって,複数の微小ワーク片をカメラ視野内に設定して画像処理して画像データを記憶し,第1の微小ワーク片のピックアップ動作中,隣接する第2の微小ワーク片を前記画像データに基づいてパターン認識し,このパターン認識の結果がピックアップすべきものの場合は第1の微小ワーク片のピックアップ動作の完了と共にこの第2の微小ワーク片を前記パターン認識の結果による位置座標に基づいてピックアップ位置に位置補正し,この第2の微小ワーク片のパターン認識の結果がピックアップすべきでないものの場合は引き続きこの第2の微小ワーク片と隣接する第3の微小ワーク片を同様にパターン認識する動作を前記視野内にピックアップすべきものがでるまで繰り返し,前記視野内の微小ワーク片が無く成ったら次の複数個の微小ワーク片をカメラ視野内に設定して以後の動作を繰り返すことを特徴とする微小ワーク片の認識方法B特許番号第2993398号出願番号特願平7-133606出願日平成7年(1995)5月31日公開番号特開平8-330391公開日平成8年(1996)12月13日審査請求日平成9年(1997)4月24日登録日平成11年(1999)10月22日出願人ニチデン機械株式会社発明者原告発明の名称ピックアップ装置及びピックアップ方法特許請求の範囲【請求項1】整列配置された多数のチップを撮像し,その撮像されたカメラ視野内での画像認識により得られた認識データに基づいてチップの良否をセンシングしながら良品のチップをカメラ視野のセンタに配置して順次ピックアップする方法であって,前記チップのセンシング方向に沿って隣接する三つのチップをカメラ視野内に設定して画像認識し,カメラ視野のセンタに位置する一つのチップのピックアップ動作中に,そのチップと隣接してセンシング方向に沿って先行するチップを前記カメラ視野内で画像認識してそのカメラ視野からの先行認識データに基づいて先行チップの良否を判定した上で待機状態とすることを特徴とするピックアップ方法。
【請求項2】前記カメラ視野は,隣接する三つのチップの少なくとも外形全体を収めた撮像状態,その少なくとも不良マーク検出エリアを収めた撮像状態,或いは,その少なくともチップセンタを収めた撮像状態のうちのいずれかに設定されることを特徴とする請求項1記載のピックアップ方法。
【請求項3】整列配置された多数のチップを撮像し,その撮像されたカメラ視野内での画像認識により得られた認識データに基づいてチップの良否をセンシングしながら良品のチップをカメラ視野のセンタに配置して順次ピックアップする装置において,前記チップのセンシング方向に沿って隣接する三つのチップをカメラ視野内に設定して画像認識する画像処理部と,カメラ視野のセンタに位置する一つのチップをピックアップ動作するピックアップ機構部と,前記ピックアップ機構部によりカメラ視野のセンタに位置する一つのチップのピックアップ動作中に,そのチップと隣接してセンシング方向に沿って先行するチップを前記画像処理部によりカメラ視野内で画像認識してそのカメラ視野からの先行認識データに基づいて先行チップの良否を判定した上で待機状態とし,先行チップが良品の場合には先行認識データによる前記先行チップを位置決めする制御部を具備したことを特徴とするピックアップ装置。
C特許番号第2961824号出願番号特願平2-174149出願日平成2年(1990)6月29日公開番号特開平4-69086公開日平成4年(1992)3月4日審査請求日平成5年(1993)11月30日登録日平成11年(1999)8月6日出願人ニチデン機械株式会社発明者原告発明の名称同期制御装置特許請求の範囲エンコーダを有するサーボモータを1台もしくは複数台含み,前記サーボモータは1サイクル当たり1回の往復動作もしくは複数回の往復動作を行うような繰り返し動作を行う動作系の同期制御装置であって,マイクロコンピュータと,同期信号を必要とする事象毎に設けられ,同期タイミングデータが設定されるタイミング発生用データラッチと,該タイミング発生用データラッチ毎に対応して設けられ,前記エンコーダからのフィードバックパルスの積算値と前記タイミングデータとを比較し所定状態でタイミング信号を発するデジタルコンパレータと,該デジタルコンパレータ毎に対応して設けられ,前記タイミング信号を保持し,前記マイクロコンピュータへ又は前記動作系に直接もしくはそれら双方へタイミング伝達信号を送るタイミング伝達用データラッチとを備え,前記マイクロコンピュータは前記タイミングデータを前記タイミング発生用データラッチに設定すると共に,前記サーボモータを含む動作系に動作指令を行ない,前記デジタルコンパレータに対しては,前記サーボモータの内の1サイクル当たり1往復動作する特定のサーボモータに対する正転か逆転かの信号,又は1サイクル動作で複数回の往復動作する特定のサーボモータの正転か逆転かの信号と前記複数回の動作を区別しどの往復動作の動作中であるかを示す為に設けられたカウント対象の往復動作期間を示す信号とを論理積したカウントの有効期間を示す信号を,出力することで比較処理を行なわせ,前記タイミング伝達用データラッチに対して,前記サーボモータの内の1サイクル当たり1往復動作する特定のサーボモータに対する正転か逆転かの信号,又は1サイクル動作で複数回の往復動作する特定のサーボモータの正転か逆転かの信号と前記複数回の往復動作を区別しどの往復動作の動作中であるかを示すために設けられたカウント対象の往復動作期間を示す信号とを論理積した信号を,出力することでクリアし,前記各タイミング伝達信号を前記動作系の動作1サイクルで1回だけ発生させることを特徴とする同期制御装置D特許番号第3158351号出願番号特願平8-187065出願日平成8年(1996)7月17日公開番号特開平10-30911公開日平成10年(1998)2月3日審査請求日平成10年(1998)8月26日登録日平成13年(2001)2月16日出願人エヌイーシーマシナリー株式会社発明者原告発明の名称微小ワーク片の位置検出方法特許請求の範囲【請求項1】画像処理装置の視野内に配置された矩形な微小ワーク片の位置検出方法であって,前記視野内の所定位置にそこよりX方向及びY方向に前記ワーク片のエッヂをサーチする第一の起点を設定し,第一の起点を通りY方向に伸びる直線上の所定位置にそこよりX方向にワーク片のエッヂをサーチする起点を複数設定し,第一の起点を通りX方向に伸びる直線上の所定位置にそこよりY方向にワーク片のエッヂをサーチする起点を複数設定し,X方向,Y方向のサーチ共に前記第一の起点を最初とし,以後予め定められた順番に,検出された対向するエッヂ間の間隔がワーク片の対向する二辺のエッヂ間のものとして妥当なものとなるまで行い,X方向のサーチにより検出したそのエッヂ間の中点のX座標値及びY方向のサーチにより検出したそのエッヂ間の中点のY座標値を前記ワーク片の仮中心の座標値として算出し,その仮中心をワーク片の中心とみなすことを特徴とする微小ワーク片の位置検出方法。
【請求項2】前記仮中心からY方向(またはX方向)のプラス側マイナス側双方に所定の間隔をもって新たな起点を設定し,それらの起点よりX方向(Y方向)にあらためてワーク片のエッヂをサーチし同じ側の2つのエッヂのX座標値(Y座標値)の差と2つの起点のY座標値(X座標値)の差とからワーク片の回転方向のズレを算出することを特徴とする請求項1に記載の微小ワーク片の位置検出方法。
【請求項3】請求項1に記載した方法で算出した前記仮中心からY方向のプラス側マイナス側双方に所定の間隔をもって新たな起点を設定し,それらの起点よりX方向にあらためてワーク片のエッヂをサーチし同じ起点による2つのエッヂの中点間を結ぶ第一の直線を規定し,前記仮中心からX方向のプラス側マイナス側双方に所定の間隔をもって新たな起点を設定し,それらの起点よりY方向にあらためてワーク片のエッヂをサーチし同じ起点による2つのエッヂの中点間を結ぶ第二の直線を規定し,これら第一,第二の直線の交点をワーク片の中心として算出することを特徴とする微小ワーク片の位置検出方法。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 守山修生