関連審決 | 不服2004-17922 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 交換 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10509号
審決取消請求事件
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X 原告原告 同訴訟代理人弁理士 大西正夫 被告 特許庁長官中嶋 誠 同指定代理人 橋祐介 同高木彰 同宮下正之 同安藤勝治 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/03/30 |
権利種別 | 特許権 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-17922号事件について平成17年4月11日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成13年8月7日,発明の名称を「地中埋設用ブロックの接合方法及びこれに用いる接着剤塗布用ノズル」とする特許出願(特願2001-275752号,以下「本願」という )をしたが,特許庁は,平成16年6月 。 25日,本願について拒絶査定をした。 そこで,原告は,平成16年8月3日,拒絶査定不服審判の請求をするとともに(不服2004-17922号 ,本願に係る明細書の補正(甲11,以 )下「本件補正」という )をしたが(以下,本件補正後の明細書〔甲11中の 。 明細書〕を「補正明細書」という ,特許庁は,平成17年4月11日,本 。)件補正を却下した上 「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決(以下 ,。 。。 「本件審決」という )をし,その謄本は,同年5月7日,原告に送達された2 特許請求の範囲( ) 本件補正前の請求項2(甲7) 1「ノズル本体(3b)の外面に,接着剤吐出口縁部(3g)からノズル本体(3b)の長さ方向に沿って延びる突条又は溝条のガイド(3a)が少なくとも1以上設けられ,該突条のガイド(3a)の先端部(3c)が相接する枠状ブロック(1)の嵌合部(1a)の隅角部(1f)をなす入隅部(1g)にほぼ適合すべく,その両外側面を当接面となす断面凸形状となされるか,又は溝条のガイド(3a)の先端部(3c)が上記隅角部(1f)をなす出隅部(1h)にほぼ適合すべく,その相対する内面を当接面となす断面凹形状となされて隅角部(1f)の隅形状に沿う形状となされた接着剤塗布用ノズル 」。 ( ) 本件補正後の請求項2(甲11。以下,この発明を「補正発明」とい 2う)。 「ノズル本体(3b)の外面に,接着剤吐出口縁部(3g)からノズル本体(3b)の長さ方向に沿って延びる溝条のガイド(3a)が少なくとも1以上設けられ,該ガイド(3a)の先端部(3c)が相接する枠状ブロック(1)の嵌合部(1a)の隅角部(1f)をなす出隅部(1h)にほぼ適合すべく,その相対する内面を当接面となす断面凹形状となされて隅角部(1f)の隅形状に沿う形状となされた接着剤塗布用ノズル 」。 3 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,補正発明は,特開昭50-87131号公報(甲5,以下「引用例」という )に記載された発明(以下「引 。 用発明」という )及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすること 。 ができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下した上,本件補正前の請求項2に係る発明についても,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 本件審決が認定した補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点)ノズル本体の外面に,接着剤吐出口縁部からノズル本体の長さ方向に沿って延びるガイド部が少なくとも1以上設けられた,接着剤塗布用ノズル。 (相違点)補正発明では,ガイド部が 「溝状のガイド」であり,該ガイドの先端部が ,相接する枠状ブロックの嵌合部の隅角部をなす出隅部にほぼ適合すべく,その相対する内面を当接面となす断面凹形状となされて隅角部の隅形状に沿う形状となされたのに対して,引用発明では,ガイド部が溝状のガイドではなく,枠状ブロックの嵌合部をなす隅角部に沿う形状とはされていない点。 |
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原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,補正発明と引用発明との一致点を誤認して相違点を看過し(取消事由1 ,また,相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果,補正 )発明の進歩性の判断を誤ったものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである(本件補正前の請求項2に係る発明についての本件審決の認定判断に対しては,原告は取消事由を何ら主張していない 。。)1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過),, 本件審決は,補正発明と引用発明との一致点として 「ノズル本体の外面に接着剤吐出縁部からノズル本体の長さ方向に沿って延びるガイド部が少なくとも1以上設けられた,接着剤塗布用ノズル 」である点を誤って認定し,相違 。 点を看過したものである。 ( ) 引用例記載の接着剤塗布用ノズルは,ノズルの下面がフラットにされて 1いる点,ノズルの下面にガイド片が長さ方向に形成されている点,接着剤が吐出されるノズルの開口の上側形状が円弧状になっている点で,その用途が平板上の段差部分,平板上の溝部分に接着剤を塗布する場合に専ら限定されることから,特殊用途向けタイプである。 ( ) 一方,補正発明は,接着剤塗布用ノズルにおいて最も標準的な,ノズル 2先端部が先細りになった円筒状のもので,その形状から接着対象物の制約を受けることが最も少なく,使い勝手も良く,汎用タイプである。 特許請求の範囲にはノズル本体の先端部の全体形状が明記されていないが,本願明細書(甲11)においては,補正発明でいう「ノズル本体」の語について,特に定義しておらず,普通の意味の語として使用されているところ,一般に 「ノズル」とは「筒状で尖端の細孔より流体を噴出する装置の一般 ,的呼称」を意味するし(甲14 ,また,接着剤に係るノズルといえば,先 )細りになった円筒状の形状を有するものを指すのが一般的である(甲15の図130,図131及び図135 。したがって,補正発明でいう「ノズル )本体」の語は,先細りになった円筒状の形状を有するもの,言い換えると,特殊用途向けタイプではなく汎用タイプのものを指すと解すべきである。 ( ) 特殊用途向けタイプの接着剤塗布用ノズルについては,接着すべき接着 3対象物の種類が多いときには,その都度,接着剤塗布用ノズルを交換することが必要になるが,ノズル本体の先端部の全体形状がその種類に応じて異なり,吐出圧力と吐出流量の特性に大きなバラツキがあるのが一般的であるので,交換した直後は接着作業を失敗することが多いという本質的な欠点がある。 一方,汎用タイプの接着剤塗布用ノズルについては,ノズル本体の先端部の全体形状が基本的にすべて同一であり,吐出圧力と吐出流量の特性にバラツキが少なく,その結果,上記したような特殊用途向けタイプの欠点がない。 ( ) したがって,補正発明は,特殊用途向けタイプである引用例とは基本構 4成が全く異なり,それ故に,上記した特殊用途向けタイプに内在する欠点がない。このような補正発明の特徴は引用例に何ら記載されていないから,前記一致点の認定は誤りである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)本件審決は,補正発明と引用発明との相違点について,実願平3-81627号(実開平5-33866号)のCD-ROM(甲12,以下「周知例1」という ,実願昭62-146867号(実開昭64-52575号)のマイ 。)クロフィルム(甲13,以下「周知例2」という )等に開示された従来周知 。 の事項を,枠状ブロックの嵌合部の隅角部をなす出隅部に適用するのであれば,前記ガイド部を枠状ブロックの嵌合部の隅角部をなす出隅部にほぼ適合する形状に構成することは,当業者であれば当然になしうることである旨判断したが(審決書3頁 ,誤りである。)すなわち,周知例1,2記載のものは,ノズル先端口を被塗布部材の隅部に対応してX字状に切断しており,この切断部分がガイドの役割を果たすようになっているものの,この部分に接着剤が残り易く,拭き取り難いことから清掃が面倒であるという本質的な欠点がある。しかも,引用発明及び周知例1,2に開示された技術は,いずれも,その先端部の全体形状からして特殊用途向けのタイプであるから,これらを組み合わせた接着剤塗布用ノズルも,あくまで特殊用途向けのタイプであり,適用範囲が本来狭いという本質的な欠点がある。 これに対し,補正発明のものは,汎用タイプの接着剤塗布用ノズルでありながら,地中用埋設ブロックの接合にも適しており,しかもガイドに接着剤が通らない構成になっていることから,使用後の清掃も非常に楽である。要するに,補正発明は,引用例及び周知例1,2に内在する欠点をすべて解消できるという顕著な効果を奏するものであるから,これらに基づき容易に想到することができたものではない。 |
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被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について本件補正後の請求項2の記載を参照すると,ノズル本体の先端部の形状は何ら特定されていない(原告もこのことを自認している )から,ノズル本体の 。 先端部の形状の違いをいう原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,本件審決の一致点の認定に何ら誤りはない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について補正発明が汎用タイプのものであり,引用例や周知例1,2の特殊用途向けのタイプとは異なる旨の原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。また,使用後の清掃が楽であるという補正発明の有する作用効果は,ガイドがノズル本体の外面に設けられたことに基づく作用効果であり,引用発明も,同様の構成を有していることから,引用発明に基づき,当業者であれば容易に予測しうる程度のものである。よって,本件審決の相違点についての判断に何ら誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について原告は,補正発明の接着剤塗布用ノズルは,先細りになった円筒状の汎用タイプであるのに対して,引用発明の接着剤塗布用ノズルは特殊用途向けタイプであり,両者はその基本的構成やそれに伴う吐出圧力・吐出流量のバラツキの有無において大きく相違するため,本件審決が,両発明の一致点として「ノズル本体の外面に,接着剤吐出縁部からノズル本体の長さ方向に沿って延びるガイド部が少なくとも1以上設けられた,接着剤塗布用ノズル 」である点を認。 定したのは誤りであり,相違点を看過したものである旨主張する。 ( ) しかしながら,補正発明に係る請求項の記載は 「ノズル本体(3b) 1 ,の外面に,接着剤吐出口縁部(3g)からノズル本体(3b)の長さ方向に沿って延びる溝条のガイド(3a)が少なくとも1以上設けられ,該ガイド(3a)の先端部(3c)が相接する枠状ブロック(1)の嵌合部(1a)の隅角部(1f)をなす出隅部(1h)にほぼ適合すべく,その相対する内面を当接面となす断面凹形状となされて隅角部(1f)の隅形状に沿う形状となされた接着剤塗布用ノズル 」というものであり,ここには,ノズル本 。 体の先端部の全体形状については,原告の主張する「先細りになった円筒状」のものとすることを含め,形状を特定する記載は一切ない。 してみれば,補正発明においては,ノズル本体の先端部の全体形状について,格別の限定がないものと解さざるを得ない。原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,採用することができない。本件審決がした補正発明と引用発明との一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。 ( ) この点に関し,原告は,一般に 「ノズル」とは「筒状で尖端の細孔よ 2 ,り流体を噴出する装置の一般的呼称」を意味し(甲14 ,また,接着剤に)係るノズルといえば,先細りになった円筒状の形状を有するものを指すのが一般的である(甲15)から,補正発明でいう「ノズル本体」の語は,先細りになった円筒状の形状を有するものを指すと解すべきである旨主張する。 「ノズル」の語が,一般に 「筒状で尖端の細孔より流体を噴出する装置 ,の一般的呼称 (広辞苑第2版補訂版,甲14)を意味することは,原告の 」指摘するとおりであるが,そもそも「筒状」とは円筒状に限定されるものではないから,上記の「ノズル」の語の意義は原告の主張を裏付けるものではない。 また,原告の指摘する図面の記載(甲15の図130,図131及び図135)において,接着剤に係るノズルが先細りになった円筒状の形状であるかどうかは,必ずしも明白ではないが,仮に,接着剤に係るノズルとして先細りになった円筒状の形状を有するものが一般に見受けられるとしても,現に,引用例及び周知例2記載のノズルのように,円筒状の形状でないノズルも存在したのであるから,前記( )のとおり,補正発明に係る請求項におい 1て,ノズル本体の先端部の全体形状を特定する記載が一切ない以上,補正発明のノズルを,先細りになった円筒状の形状のものに限定して解することはできない。 したがって,原告の上記主張も採用することができない。 ( ) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。 32 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について原告は,周知例1,2記載のものは,ノズル先端口をX字状に切断した部分に接着剤が残り易く,拭き取り難いという欠点があり,しかも,引用発明及び周知例1,2に開示された技術を組み合わせた接着剤塗布用ノズルが,特殊用途向けのタイプで適用範囲が本来狭いという欠点があるのに対して,補正発明は,汎用タイプの接着剤塗布用ノズルでありながら,地中用埋設ブロックの接合にも適しており,しかもガイドに接着剤が通らない構成になっていることから,使用後の清掃も非常に楽であり,引用例,周知例1,2に内在する欠点をすべて解消できるという顕著な効果を奏するものであるため,相違点に係る補正発明の構成を容易に想到することができる旨の本件審決の判断は誤りである旨主張する。 ( ) 本願出願前に頒布された周知例1(実願平3-81627号〔実開平5 1-33866号〕のCD-ROM,甲12)には 「中空ノズルの先端部を ,略直交する2平面によって 字形状に切り欠いてな…ることを特徴とする V接着剤用アプリケータ(請求項1 「アプリケータ先端のV字形状の切 。」),り欠きの周縁が部材の面に均等に接触するように部材の縁部に当接させる」(段落0008)との記載があり,また,同じく本願出願前に頒布された周知例2(実願昭62-146867号〔実開昭64-52575号〕のマイクロフィルム,甲13)には 「エヤーコーキングガン,電気コーキングガ ,ン,或は塗料圧送式ホースなどの先端ノズルに対し,……ゴム本体中央内部に塗料導入用透孔を穿設すると共に,該ゴム本体における上記導入用透孔の出口側一定長さ範囲を両翼が凡そ直角の傾斜面となるよう開放した三角断面溝に形成し,且つ両翼傾斜面交叉部に塗料導入用透孔と連通する小溝を穿設して着脱可能となさしめることを特徴とした塗装機用塗布器具 (実用新。」案登録請求の範囲 「先端ノズルに対し特殊構成の塗布器具を装着させ, ),被塗装板材のシャープエッヂに対し三角断面溝の両翼傾斜面s,s が当接1される状態で塗料を該傾斜面に沿わせながら押し出させるようになさしめる (考案の効果)との記載がある。 」これらの記載及び上記各周知例の図面によれば,本願出願前において,接着剤塗布用ノズルにおいて,ガイドを溝状とし,その先端部を,被塗布部材の隅部,角部等に沿う断面凹形状とすることは,周知の技術事項であったと認められる。そうであれば,枠状ブロックの嵌合部の隅角部をなす出隅部の接着に用いるために 「ノズル本体の外面に,接着剤吐出口縁部からノズル ,本体の長さ方向に沿って延びるガイド部が少なくとも1以上設けられた,接着剤塗布用ノズル」である引用発明に,上記周知の技術事項を適用して,溝状のガイド先端部を出隅部にほぼ適合する断面凹形状とし,相違点に係る補正発明の構成を得る程度のことは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 ( ) なお,原告は,補正発明が,汎用タイプの接着剤塗布用ノズルでありな 2がら,地中用埋設ブロックの接合にも適しており,しかもガイドに接着剤が通らない構成になっていることから,使用後の清掃も楽であるとして,補正発明と引用例ないし周知例1,2との作用効果の差異を主張する。 しかしながら,補正発明が汎用タイプのものであるという点が特許請求の範囲の記載に基づかない主張であることは,前記1のとおりである。また,ガイドに接着剤が通らない構成になっている点は,引用発明においても同様であるから,この点に基づいて格別の効果が生じるものとは認められない。 そして,前記( )のとおり,相違点に係る補正発明の構成を想到すること 1が当業者の容易になし得る程度のことである以上,この構成によって地中用埋設ブロックの接合に適しているとの効果が奏されるとしても,これをもって,補正発明の格別の効果ということはできない。 したがって,補正発明の奏する効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものにすぎないというべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 ( ) 以上のとおり,原告の取消事由2の主張も理由がない。 33結論以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 沖中康人 |