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事件 平成 17年 (行ケ) 10275号 審決取消請求事件
原告 株式会社東芝
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同訴訟代理人弁理士 林佳輔
被告 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
同訴訟代理人弁理士 長谷照一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-80167号事件について平成17年2月18日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「車載用ナビゲータ装置」とする特許第1851926号の特許(昭和59年10月17日出願,平成6年6月21日設定登録。以下「本件特許」という )の特許権者である。 。
原告は,平成15年3月25日,本件特許の願書に添付された明細書及び図面の訂正をする訂正審判の請求をした(訂正2003―39056号)ところ,特許庁は,同年8月6日 「特許第1851926号に係る明細書及び図面を ,本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める 」との審決をし,その謄本は,そのころ,原告に送達された。 。
被告は,平成16年9月27日,本件特許について無効審判を請求した(無効2004-80167号)ところ,特許庁は,平成17年2月18日 「特,許第1851926号に係る発明についての特許を無効とする 」との審決。
(以下「本件審決」という )をし,その謄本は,同年3月2日,原告に送達 。
された。
2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(上記訂正審判による訂正後のもの。甲12中の訂正明細書。以下「本件明細書」という )の請求項1の記載は,次のとおりであ 。
る(以下,この発明を「本件発明」という 。。)「走行状態を検出する複数の検出手段と,所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段と,通常は前記地図を表示する表示手段と,前記検出された走行状態に基づき前記地図の所定の曲がり角に接近した場合前記記憶手段より前記所定の曲がり角に対応する風景を読出し,この風景を前記表示手段に表示し,前記検出手段により検出された走行状態に基づき,前記所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合には前記表示手段による前記風景の表示を継続する制御手段と,を具備したことを特徴とする車載用ナビゲータ装置 」。
3 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開昭51-83498号公報(甲1。審決においても甲第1号証)に記載された発明(以下,「甲1発明」という )及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をする 。
ことができたものであるから,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである,というものである。
本件審決が認定した本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)「走行状態を検出する検出手段と,表示部と,検出された走行状態に基づき所定の曲がり角に接近した場合前記所定の曲がり角に対応する風景を前記表示部に表示し,前記検出手段により検出された走行状態に基づいて特定の条件を判断し,当該特定の条件が満たされる場合には,表示部による風景の表示を継続する制御手段とを具備した車載用ナビゲータ装置 」である点。
(相違点1)本件発明が,走行状態を検出する複数の検出手段を有しており,当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別しているのであるから,当該検出手段は,曲がり角を曲がったか否かを判別可能な手段であるのに対して,甲1発明は,走行距離を検出し,当該走行状態のみに基づいて表示機構6の制御を行うものであって,走行状態を検出する複数の検出手段を有しておらず,また,甲1発明の検出手段は曲がり角を曲がったか否かを判別することはできない点(相違点2)本件発明が,通常は表示手段に地図を表示しているのに対して,甲1発明は,「通常」ばかりか,どのような時においても地図を表示してはいない点(相違点3)本件発明が,所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景を画像データとして記憶手段に記憶しており,また,制御手段が当該記憶された画像データを読出して表示手段に表示するように構成しているのに対して,甲1発明は,道順の要注意位置を写真に撮っておいたスライドを設けてはいるものの,当該スライドが,画像データを記憶する記憶手段であるとまでは言えず,また,甲1発明の駆動回路7は,スライドを移送させ,要注意位置の写真を表示機構6に表示するように構成していることから,制御手段が記憶手段より画像データを読出して表示手段に表示しているとも言えない点(相違点4)本件発明の制御手段が,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続するのに対して,甲1発明の制御手段は,要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点
原告主張に係る本件審決の取消事由
), 本件審決は,本件発明と甲1発明との相違点4の認定を誤り(取消事由1また,相違点1,3,4についての判断を誤った(取消事由2〜4)ものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
なお,本件発明と甲1発明との一致点及び相違点1〜3の認定,並びに相違点2についての判断は認める。
1 取消事由1(相違点4の認定の誤り)本件審決は,相違点4を「本件発明の制御手段が,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続するのに対して,甲1発明の制御手段は,要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点」と認定したが,誤りである。
すなわち,甲1発明は 「曲がることを予定した交叉点など,道順に沿った ,複数の要注意位置を順に写真に撮っておいたスライド」を具備することを要件としている 「スライド」は,順に撮って保存しておく必要があり,甲1発明 。
は,距離の積算のみに基づいてスライドを順に移送させていることになる。
また,甲1発明は,スライドを用いている以上,要注意位置までの走行距離に達していない場合は,表示機構6によって表示を継続し,要注意位置までの走行距離に達すると,表示機構6による表示を停止するように構成された一致回路4,設定回路5及び駆動回路7とを具備している。
このように,甲1発明は,走行距離の積算結果のみに基づいて,予め撮っておいたスライドを順に移送し表示を継続することを必須の要件とするものである。
したがって,相違点4は,正しくは 「本件発明の制御手段が,所定の曲が ,り角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続するのに対して,甲1発明の制御手段は,要注意位置までの走行距離に達していないことを表示継続の条件としている点」と認定されるべきである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)( ) 本件審決は 「車載用ナビゲータ装置の技術は,甲1発明がなされた時点 1,から本件出願時まで,めざましく進歩又は進化しており」と認定しているが(審決書9頁 「めざましく進歩又は進化した」という認定を裏付ける具 ),体的な証拠を示していない。
( ) 本件審決は,相違点1に係る構成のうち 「走行状態を検出する複数の検 2 ,出手段を有して」いることは,本件特許の出願当時には周知であったと認定した上 「そうであれば,甲1発明にこの主流又は周知の技術を採用して, ,相違点1に係る本件発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである (審決書9頁)と判断したが,相違点1に係る構成である 。」「当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別している」ことについては判断しておらず,判断の遺脱がある。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)( ) 本件審決は,相違点3に係る構成のうち 「記憶手段に画像データを記憶 1 ,し,制御手段が当該画像データを読み出して表示手段に表示させるような構成」について,甲5,甲2,甲6(審決においても,甲第5,第2,第6号証)を例に挙げて,本件特許の出願前に周知の技術であると認定した上,「当該周知技術と,甲1発明の写真を撮っておいたスライドを駆動回路7によって移送して表示機構6に表示させる構成とは相互に置換が可能なものであるから,甲1発明の構成として,当該周知技術を採用することは,単なる設計変更にすぎない 」と判断したが(審決書10頁 ,相違点3の構成に 。)係る「所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段」については何ら判断しておらず,判断の遺脱がある。上記構成は,本件特許の出願当時の周知技術ではなく,甲5,甲2,甲6にも一切開示されていない。
( ) なお,昭和56年に開発された「ナビコン」においては,表示画面に自車 2を表示する地図すら存在せず,また,昭和58年に開発された「ガスレートジャイロと呼ばれるセンサーを用いたカーナビ」においては,表示画面に地図は存在するものの,その地図の下に埋め込まれたランプを逐次光らせることにより自車の位置を認識する程度であったこと(甲16,17)から明らかなように,本件特許の出願当時,相違点3に係る「所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段」及び相違点4に係る「所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続する制御手段」との構成と程遠い技術が周知技術であった。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)( ) 本件審決は 「甲1発明の『曲がることを予定した交叉点』において要注 1,意位置の写真の表示を行う必要があるのは,交叉点に至る直前から通過するまでであるが,当該交叉点は曲がることを予定したポイントであるから,曲がったかどうかで当該交叉点を通過したかどうかを判断できることは明らかである (審決書10頁)と判断した。 。」しかしながら,本件審決は,相違点4を「…甲1発明の制御手段は,要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点」と認定しているところ 「到達」と「通過」とは意味が異なるから 「到達」と「通過」 ,,を同義に解釈する本件審決の上記説示は誤りである。
また,当該交叉点が曲がることを予定したポイントであるからといって,曲がったかどうかで当該交叉点を通過したかどうかを判断できるとはいえない 「所定の位置を通過したか否か」ということと 「曲がり角を曲がった 。,か否か」ということは全く別の概念だからである。
( ) 本件審決は 「甲第5号証では,……曲がり角で曲がったことが検出され 2,ることをもって,目標となる曲がり角を予定走行コース上の次の曲がり角に更新しているのだから,この甲第5号証記載のものと同様に,進行方向検出手段を用いて,交叉点を曲がったことを検出すると,写真表示を停止し,検出するまでは表示を継続することに,困難性があるということはできない。
すなわち,相違点4に係る本件発明の構成をなすことも,甲第5号証に代表される本件出願当時の,車載用ナビゲータ装置の技術水準・周知技術を考慮すれば当業者にとって想到容易といわざるを得ない (審決書10〜11 。」頁)と認定判断した。
しかしながら,甲5記載の発明は「曲がり角で曲がったことが検出され ,ることをもって,目標となる曲がり角を予定走行コース上の次の曲がり角に更新している」にすぎず 「目標を更新する」ことと「表示を継続,停止す ,る」こととはまったく概念が異なるから,甲5記載の発明から「表示を継続,停止する」という概念を想起することは困難である。
また,甲1発明は 「要注意位置までの走行距離に達すると,表示機構6 ,による表示を停止するように構成され」ており,表示機構6による表示の停止タイミングは,走行距離が「要注意位置」その地点までの距離に達した時であり 「交叉点を曲がった」時点ではない。したがって,例えば 「要注 ,,意位置」を交叉点とすると,甲1発明は,走行距離が交叉点までの距離に達すると,表示機構6による表示を停止するような構成となってしまい,運転者が所用の道路を誤ることなく選択することができない。このように,甲1発明は,本件発明と同じ効果を奏することはないから,当業者であれば,甲1発明に,その技術的妨げとなるような相違点4に係る構成を採用することはない。
被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点4の認定の誤り)について原告は,甲1発明は走行距離の積算結果のみに基づいて,予め撮っておいたスライドを順に移送し表示を継続することを必須の要件とするものであるから,本件審決が相違点4について「…甲1発明の制御手段は,要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点」と認定したのは誤りであり,正しくは 「…甲1発明の制御手段は,要注意位置までの走行距離に達していな ,いことを表示継続の条件としている点」と認定すべきである旨主張する。
甲1発明が,走行距離の積算結果に基づいて表示機構による表示を制御するものであることは,原告の指摘するとおりである(本件審決もそのように認定している〔審決書7頁 。しかしながら,本件審決は,相違点1として 「本 〕),件発明が,走行状態を検出する複数の検出手段を有しており,当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別しているのであるから,当該検出手段は,曲がり角を曲がったか否かを判別可能な手段であるのに対して,甲1発明は,走行距離を検出し,当該走行状態のみに基づいて表示機構6の制御を行うものであって,走行状態を検出する複数の検出手段を有しておらず,また,甲1発明の検出手段は曲がり角を曲がったか否かを判別することはできない点」を認定しているから,本件審決は,原告が指摘する上記の点を相違点1の一部として認定した上,この点についての容易想到性についても判断しているものである。原告の上記主張は審決を正解しないものであって,採用することができない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について( ) 原告は,本件審決が「車載用ナビゲータ装置の技術は,甲1発明がなされ 1た時点から本件出願時まで,めざましく進歩又は進化しており」と認定した点について具体的な証拠を示していない旨主張する。
しかしながら,本件審決の相違点1についての判断の説示内容をみれば,原告の指摘する上記説示部分は,相違点1の容易想到性の具体的判断に先立ち付随的にされたものにすぎず,この部分を除いても判断の内容に影響がないものであることは,明らかである。したがって,原告の上記主張は,本件審決の結論に影響のない説示部分を非難するものにすぎない。
( ) 原告は,本件審決が相違点1について判断するに際して,本件発明の構成 2のうち「当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別している」ことについて判断しておらず,遺脱がある旨主張する。
ア 本件審決が周知技術として例示した各刊行物には,それぞれ次のような記載がある。
(ア) 甲5(特開昭59-106099号公報)「本発明は,自動車のナビゲーションシステムに関する (1頁右。」欄4〜5行)「第1図において,( )( )はそれぞれ走行距離センサと方位センサで, 12何れも車体に取り付けられてそれぞれ車の走行距離及びその車が進行している方位を検出するものである。……()は現在位置ベクトル計算回 3路で,走行距離センサ( ),方位センサ( )の出力信号をもとにして,直 12前に通過したチェックポイントを起点とする車の現在位置ベクトルBを計算する (2頁右上欄10行〜左下欄1行) 。」「第3図では,チェックポイントNO.1〔出発点〕からチェックポイントNO.2に向かって進行中の様子を示している。……チェックポイントNO.2の有効範囲D内にいるときに,方位センサ( )の出力信2号により車が曲がったことが検出されること(判決注・ 検出される「と」の誤記と認められる ,現在位置ベクトルB1の終点の座標C1 。)が次のチェックポイントNO.3に向かう場合の新たな現在位置ベクトルB2の起点として計算が実行されるように構成されている (2頁。」右下欄下から4行〜3頁左上欄15行)以上によれば,甲5には,自動車のナビゲーションシステムにおいて,走行距離センサと方位センサとを備え,方位センサの出力信号により車が曲がったことが検知されたときの制御が記載されている。
(イ) 甲2(特開昭58-75021号公報)「車両の走行距離を検出する距離検出手段と,車両の進行方向を検出する方向検出手段と,前記距離検出手段と方向検出手段からの信号に基づいて車両の走行に対する現在位置を演算し現在位置の座標データを得る演算手段と,この演算手段からの信号に基づいて演算した現在位置を道路地図の表示面上に表示する表示手段とを備えた車載用ナビゲータにおいて,……前記記憶手段から読出した特定地点の座標データと前記現在位置の座標データとにより特定地点への到達判定を行ない…… (特」許請求の範囲)「特定地区における特定地点への到達判定を現在位置の座標データと特定地点の座標データとによって行うことによって,その特定地点にいかなる経路から接近しようともその特定地点への到達判定を行なうことができ,従ってその特定地点の案内を確実に行なうことができるという優れた効果がある (10頁右上欄3〜9行) 。」以上によれば,甲2には,距離検出手段と方向検出手段とを備え,その出力に基づいて演算した車両の走行に対する現在位置を道路地図の表示面上に表示する車載用ナビゲータが記載されている。
(ウ) 甲6(特開昭58-129212号公報)「車両の走行距離を検出する距離検出器と,車両の進行方向を検出する方位検出器と,……上記両検出器の出力に基づいて車両の2次元座標上の位置を求め……その画面上に現在位置表示マーク,走行経路,地図を同時に表示させる表示装置と,……によって構成されたことを特徴とする車両に於ける走行位置表示装置 (特許請求の範囲)。」「走行中の車両の位置の変化を計測し表示し得る装置の表示装置の画面上に併せて道路地図を表示出来るようにしたため,地図と車両の位置との関係から常に車両の現在の走行位置を容易に知り得……る等の諸効果を発揮する (4頁右上欄下から2行〜左下欄6行) 。」以上によれば,甲6には,距離検出器と方位検出器とを備え,その出力に基づいて求められる現在位置表示マークと地図とを同時に表示する,車両に於ける走行位置表示装置が記載されている。
イ 上記のとおり,甲5,甲2,甲6には,車載用ナビゲータ装置において,走行距離検出手段と方位検出手段という走行状態を検出するための複数の検出手段を備え,当該複数の検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うことが記載されており,特に,甲5には,方位検出手段の出力信号により車が曲がったことが検知されたとき(曲がり角を曲がったことが判別されたとき)の制御が記載されているから,これらの技術は,本件特許の出願当時には周知であったものと認められる。
そうすると,甲1発明において上記周知技術を採用して相違点1に係る本件発明の構成,すなわち 「走行状態を検出する複数の検出手段を有し ,ており,当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別しているのであるから,当該検出手段は,曲がり角を曲がったか否かを判別可能な手段である」構成とすることは,当業者であれば容易に想到することができたというべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
ウ なお,本件審決は,相違点1に係る構成のうち「当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別している」点の容易想到性について,具体的に説示していないものの,甲5,甲2,甲6について検討をした上で,結論,, として 「そうであれば,甲1発明にこの主流又は周知の技術を採用して相違点1に係る本件発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである (審決書9頁)と判断しているのであるから,審決が 。」判断を遺脱したということはできない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について( ) 原告は,本件審決が,相違点3に係る構成のうち 「所要の地図およびそ 1 ,の地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段」の容易想到性について何ら判断しておらず,判断の遺脱があり,この構成は,本件特許の出願当時の周知技術でもなく,甲5,甲2,甲6にも一切開示されていないから,本件審決の相違点3についての判断は誤りである旨主張する。
ア 本件審決が周知技術として例示した各刊行物には,それぞれ次のような記載がある。
(ア) 甲5「第1図において走行予定コース上の進行方向の変更を必要とする各チェックポイントの座標は,出発する前に入力キー(4)より予定コースメモリ(5)に書き込まれる (2頁右下欄4〜7行) 。」「走行を予定する道路Mの含まれる地図は,入力キー(4)を操作することによりフロッピーディスク等の外部記憶装置(8)により地図メモリ(9)に入力される。そして,予定コースメモリ(5 ,および地)図メモリ(9)の各出力は,合成表示回路(10)により合成されて,カラーモニタ・テレビ(11)により表示される (3頁左上欄最下。」行〜右上欄6行)以上によれば,甲5には,地図メモリ(9)と,走行予定コース上の進行方向の変更を必要とする各チェックポイントの座標が書き込まれた予定コースメモリ(5)と,これらのメモリの各出力を合成する合成表示回路(10)と,合成画像を表示するカラーモニタ・テレビ(11)とが記載されている。
(イ) 甲2「……前記表示手段に特定地区の道路地図を表示させるための地図データとその特定地区内における特定地点の座標データとその特定地点に対する案内情報とを記憶した記憶手段と,この記憶手段から特定地区の地図データを読出してそれに対する道路地図を前記表示手段に表示させるとともに,前記記憶手段から読出した特定地点の座標データと前記現在位置の座標データとにより特定地点への到達判定を行ない,到達判定時に前記記憶手段にて記憶している案内情報に基づいて特定地点の案内を発生させる手段とを備える車載用ナビゲータ (特許請求の範囲)。」「3は読取装置で,複数の地区の地図データ……とサービス情報(サービスポイントの座標データ,案内図データ,サービス音声発生データ)を記憶している記憶手段としてのカセットテープ3aのセットによりそのうちの特定の地区の地図データとサービス情報を探索して読取るものである (2頁右上欄3〜10行) 。」以上によれば,甲2には,地図データとその特定地区内における特定地点の座標データとその特定地点に対する案内情報(案内図データ等)とを記憶した記憶手段と,記憶手段から特定地区の地図データを読出してそれに対する道路地図を前記表示手段に表示させる等の処理を行なう手段とが記載されている。
(ウ) 甲6「予め地図をディジタル情報で記録したディジタル情報記憶媒体と,該ディジタル情報記憶媒体の情報を読み出すディジタル情報記憶媒体再生装置と,……車両の現在位置表示マーク,走行経路及び地図を作成する信号処理装置と,該信号処理装置の出力によってその画面上に現在位置表示マーク,走行経路,地図を同時に表示させる表示装置と,……によって構成されたことを特徴とする車両に於ける走行位置表示装置 」。
(特許請求の範囲)以上によれば,甲6には,地図をディジタル情報で記録したディジタル情報記憶媒体と,その情報を読み出す再生装置と,信号処理装置の出力により地図等を表示させる表示装置が記載されている。
イ 上記のとおり,甲5,2,6には,地図データ等の画像データが記憶された記憶手段を備え,記憶手段に記憶されたデータを読出して表示手段に表示する手段を備えることが記載され,特に,甲2には,地図データとその中の特定地点に対する案内図データ(画像データ)等の案内情報を記憶した記憶手段を備えることが記載されており,これらの技術は,本件特許の出願当時には周知であったものと認められる。
そうであれば,甲1発明においてかかる周知技術を採用して,甲1発明のスライドを画像データとして記憶手段に記憶し,制御手段が当該画像データを読出して表示手段に表示させるようにすることは,当業者であれば容易に想到し得るということができる。これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,本件審決が,相違点3に係る構成のうち 「所要の地図および ,その地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段」の容易想到性について何ら判断していない旨主張するが,本件審決は 「記憶手段に画像データを記憶し,制御手段が当該画像データを読 ,出して表示手段に表示させるような構成は,甲第5号証,甲第2号証,甲第6号証等にみられるように,本願出願日前に周知の技術であり」とした上で 「甲1発明に周知技術を採用した場合には,当然のことながら,要 ,注意位置の写真を画像データとして記憶手段に記憶させることとなるし,地図の情報を具備させる際には当該地図の情報をも画像データとして記憶手段に記憶させることとなる。なお,地図と風景とを同一の記憶手段に記憶させるのか,別の記憶手段に記憶させるのかは,技術の具体化手段における微差にすぎない 」と説示している(審決書10頁)から,原告が指 。
摘する構成の容易想到性について判断しているものである。原告の上記主張は,審決を正解しないものであって失当である。
( ) 原告は,甲16,17によれば,本件特許の出願当時には,本件発明の車 2載用ナビゲータ装置の構成とは程遠い技術が周知技術であったことが明らかである旨主張する。
しかしながら,現に,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5,甲2,甲6に上記のような技術が記載されている以上,それが本件特許の出願時において周知のものであったことは明らかである。甲16,17は,実際に商品化が試みられた車載用ナビゲータ装置について述べるものにすぎず,そこに記載されたような技術が本件特許の出願時において現に実施され周知のものであったとしても,そのことは上記認定と何ら相反するものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について( ) 原告は,@甲5記載の発明から「表示を継続,停止する」という概念を想 1起することは困難であるし,A甲1発明は,走行距離が「要注意位置」までの距離に達した時に表示を停止するものであるから,運転者が所用の道路を誤ることなく選択することができるという本件発明と同じ効果を奏することはなく,当業者であれば,甲1発明に,その技術的妨げとなるような相違点4に係る構成を採用することはない,Bしたがって,本件審決の「相違点4に係る本件発明の構成をなすことも,甲第5号証に代表される本件出願当時の,車載用ナビゲータ装置の技術水準・周知技術を考慮すれば当業者にとって想到容易といわざるを得ない 」との判断は誤りである旨主張する。 。
そこで検討すると,前記2のとおり,甲1発明において周知技術を採用することにより 「走行状態を検出する複数の検出手段を有しており,当該検 ,出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり,また,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別しているのであるから,当該検出手段は,曲がり角を曲がったか否かを判別可能な手段である」という相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到することができたことである。
そして,上記相違点1に係る本件発明の構成を採用した場合に,曲がり角を曲がる前に表示が消えると,曲がり角を誤認するなどの不都合が生じ得ることは,いうまでもなく,明らかなことである。そうであれば,その場合に,「制御手段が,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続する」という相違点4に係る本件発明の構成とする程度のことは,当業者が必要に応じて行い得る設計事項にすぎない。
現に,甲5には,前記2(2)のとおりの記載があり,これによれば,甲5には,自動車のナビゲーションシステムにおいて,方位センサの出力信号により車が曲がったことが検出されたとき,目標となる曲がり角を予定走行コース上の次の曲がり角に更新することが記載されている。そして,このことは,曲がり角を曲がったことが検出されるまでは,当該曲がり角の表示を継続し,検出された後は,当該曲がり角の表示を停止することにほかならない(したがって,甲5記載の発明から「表示を継続,停止する」という概念を想起することが困難である旨をいう原告の上記主張は,失当である 。。)この甲5に示された本件特許の出願当時の技術水準を考慮すれば,上記判断が正当であることは一層明らかである。
なお,甲1発明が,走行距離が「要注意位置」までの距離に達した時に表示を停止するものであり,その意味で本件発明と同じ効果を奏することはないとしても,そのこと自体は,甲1発明において相違点4に係る本件発明の構成を採用することを何ら阻害するものではない。
以上のとおり,原告の上記主張は採用することができない。
( ) なお,本件審決は,相違点4についての判断の前提として 「甲1発明の 2 ,『曲がることを予定した交叉点』において要注意位置の写真の表示を行う必要があるのは,交叉点に至る直前から通過するまでであるが,当該交叉点は曲がることを予定したポイントであるから,曲がったかどうかで当該交叉点を通過したかどうかを判断できることは明らかである (審決書10頁)。」と説示するが,本件審決が認定した相違点4は 「本件発明の制御手段が, ,所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し,曲がっていない場合に風景の表示を継続するのに対して,甲1発明の制御手段は,要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点」というものであって,曲がり角を通過したか否かというような問題設定は相違点4とは整合していないから,上記説示は不適切なものといわざるを得ない。しかしながら,甲1発明において相違点4に係る本件発明の構成とすることが設計事項にすぎないことは,前記( )のとおりであるから,本件審決の上記説示の誤りをいう原告の主張 1は,審決の結論に何ら影響を与えるものではない。
5結論以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 嶋末和秀
裁判官 沖中康人