関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 改良発明 / 協議 / 共同研究 / 共同発明 / 共同出願 / 名義変更 / 共有 / 抵触 / 実施 / 交換 / 共同発明者 / 同意 / 共同出願人 / 請求の範囲 / 変更 / 費用負担 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(ワ)
18051号
特許出願取下手続履行請求事件
|
---|---|
原告A 同訴訟代理人弁護士 小野明 被告 国立大学法人東京工業大学 同訴訟代理人弁護士平井昭光 同 原井大介 被告 株式会社ルフトヴァッサープロジェクト 同訴訟代理人弁護士中嶋邦明 同 平尾宏紀 同補佐人弁理士鎌田文二 同 鳥居和久 |
|
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/03/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求の趣旨
被告らは,平成16年10月29日出願の特願2004-316490につき取下手続をせよ。 |
|
事案の概要
本件は,原告が,被告らに対し,被告らを出願人として平成16年10月29日付けでなされた特許出願について,これを取り下げる旨の合意が成立したと主張して,同出願の取下手続をすることを求める事案である。被告らは,かかる合意の成立を否認して,争っている。 (, 。 ) 1 前提となる事実 当事者間に争いがないか 後掲各証拠によって認められる()当事者1原告は,被告国立大学法人東京工業大学(以下「被告大学」という )原。 子炉工学研究所教授として分散エネルギーシステムの研究開発に従事する者である。 B及びCは,被告大学原子炉工学研究所に所属する者である。 (「 」 。) 被告株式会社ルフトヴァッサープロジェクト 以下 被告会社 というは,温水循環システムに関する装置の開発及び販売等を目的とする,平成3年1月11日に設立された株式会社である。 Dは,被告会社の代表取締役を務める者である。 ( ) 被告らによる特許出願(甲5の1,2) 2被告らは,平成16年10月29日,次の特許出願を行った(以下「本件第1出願」といい,同出願に係る発明を「本件発明」という 。。)出 願 番 号 特願2004-316490発 明 者 原告,B,C,D出 願 人 被告大学,被告会社発明の名称 熱交換器特許請求の範囲(請求項1から同12まであるところ,請求項1及び2のみを記載する 。。)【請求項1】エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに複数の伝熱フィンを設け,前記金属薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成するようにした熱交換器において,前記伝熱フィンは,先端から後端に向かって曲線状の断面形状に形成し,前記伝熱フィンの間を流れる流体の流路面積を略一定にしたことを特徴とする熱交換器。 【請求項2】前記伝熱フィンは,略S字状曲線の断面形状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。 ( ) 原告による特許出願(甲6の1,2) 3原告は,平成16年12月17日,次の特許出願を行った(以下「本件第2出願」という 。。)出 願 番 号 特願2004-365459発明者 原告出願人 原告発明の名称 熱交換器特許請求の範囲(請求項1から同12まであるところ,請求項1及び2のみを記載する 。。)【請求項1】エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに複数の伝熱フィンを設け,前記金属薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成するようにした熱交換器において,前記伝熱フィンは,先端から後端に向かって曲線状の断面形状に形成し,前記伝熱フィンの間を流れる流体の流路面積を略一定にしたことを特徴とする熱交換器。 【請求項2】前記伝熱フィンは,略S字状曲線の断面形状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。 2 本件における争点本件第1出願についての出願取下げの合意の成否3 争点に関する当事者の主張(原告の主張)( ) 本件発明に至る経緯 1平成15年5月ころ,熱交換器( )の開発に Printed Circuit Heat Exchangerあたり,被告大学(原告の研究室)が流路設計を,被告会社が試作をそれぞれ担当することになった。そして,被告大学(原告の研究室)が研究開発した流路設計に基づく熱交換器(PCHE)試験体の製作を被告会社に依頼し,( ) , , たものの 製作 完成 の目処が立たないため 平成15年12月6日から被告大学(原告の研究室)が上記試験体を準備することになった。 原告の研究室は,平成15年夏ころから,ヒートリック社製のPCHE試験体の性能試験を開始し,その性能評価も行った。その結果,同試験体の性能は,予想以上に高性能であったものの,圧力損失が高かった。そこで,原告の研究室では,高圧力損失を克服することを開発目標に設定し,この目標達成を計算機シュミレーションで行うこととし,平成16年3月ころ,3次元流体解析ソフトを導入し,同年5月ころからシュミレーション計算が実際に行えるようになった。新型流路を開発した研究経過は次のとおりである。 ア 平成16年5月:ベンチマーク計算(ヒートリック社製試験体モデル)計算をヒートリック社のジグザグ流路で行い,高圧力損失の原因がジグザグ流路の曲がり部周辺で発生する渦の形成と剥離によるエネルギー損失にあると結論づけた。 イ 同年6月から7月中旬:直線モデルの計算(ルーバーフィンモデル)プレートフィン型熱交換器で代表的なフィン形状のルーバーフィンを採用した流路のシュミレーションを行った。この流路では,予想されたとおり,流れ方向に対してフィンの後ろ側で渦が発生し,圧力損失は低減できなかった。 ウ 同年7月中旬から:S字曲線モデル(変形ルーバーフィンモデル)フィンの形状を曲線にすることで渦の形成と剥離をなくし,圧力損失を低減することにした。その解決策として,蛇行する川と新幹線先端部形状が参考になると考えた。かかる方針の下で,フィン形状をS字型の曲線にし,フィン先端形状を鋭角的に尖らせ,形成される流路をS字曲線状にすることによって,同じ伝熱性能で圧力損失を約1/6に低減できることを見出した。 ( ) 本件第1出願の出願の経緯 2ア 原告,B及びC(以下,この3名を総称して「原告ら」という )は,。 平成16年9月28日,特許を受ける権利の譲渡証書を作成した。被告大学の説明によると,発明者としてDを付加し,被告会社との共同出願にするというものであった。かかる前提での出願は同年9月末までになされるということであり,原告においても,その前提を了解した。 , 。,, イ ところが 前記アの前提による出願はなされなかった そこで 原告は同年10月,被告大学に対し,発明者を原告ら3名,出願人を被告大学のみとすることを申し入れた。これに対し,被告大学は,前記アの出願を一応行うが,出願後,特許出願人の名義変更及び願書の発明者欄の補正又は特許出願の取下等を検討すると説明し,同年10月29日,本件第1出願を行った。 ウ 原告は,本件第1出願後の同年11月初旬,被告大学に対し,本件第1出願の取下等の検討を依頼した。 被告大学産学連携推進本部の知的財産・技術移転部門長のEは,同年11月26日,原告の研究室を訪れ,原告が依頼している「出願人及び発明者の変更」はできないので,@共願のままとするか(この場合,被告会社の権利を大幅に制限する特許共同出願契約を締結しているので,実質的には被告大学の単願と異ならないということであった ,あるいは,A単。)願にするか(この場合,原告らが個人の立場で自己の費用負担において出。)。 願するということであった のどちらかを選択して欲しいと申し入れた原告とBは,この協議の場で,Aに決めて,Eに対し,本件第1出願との関係を確認したところ,Eは,被告大学がDと交渉して速やかに本件第1出願を取り下げる,とのことであった。 被告大学は,同年12月2日,本件第1出願を取り下げるとの結論に至り,同日,EとDとの間での電話において,Dは被告会社も取下を了解した旨回答した。そして,翌3日,この結論が原告に連絡され,原告もこれを承諾した。また,Dは,原告らのほか本件第1出願の関係者に対し,本件第1出願の取下げを12月2日に了解したこと,原告に対し何点か問い合わせがある旨のメールを送信した。 エ 前記ウのとおり,原告と被告ら間で,本件第1出願を取り下げる旨の合意が成立したことから,原告は,同年12月17日,本件第2出願を行った。なお,原告は,本件第2出願について,発明者としてB及びCを追加する補正を検討している。 ( ) よって,原告は,被告らに対し,原告及び被告らの間での平成16年12 3月3日に成立した合意に基づき,本件第1出願の取下手続をすることを求める。 (被告大学の主張)( ) 本件発明に至る経緯 1ア Dは,平成14年11月29日,板状熱交換器についての発明を特許出(。。「」, 願した 特開2004-183916 乙2 以下 D出願特許 といい同出願に係る発明を「D出願発明」という 。。)D出願特許に開示された発明は,平成15年4月,新聞に紹介された。 これを見た原告は,被告会社に対し,問い合わせを行った。その内容は,原告は,これまで自らの研究においてヒートリック社の実験装置用の熱交換器を使用していたところ,もっと効率の良い熱交換器の開発を研究テーマにする予定である,そして,もし可能であれば被告会社と共同で開発を進めていきたいというものであった。 Dは,この申出に対し肯定的に対応し,原告に対し,D出願特許を含めて約5件の公開前の特許出願に係る明細書を開示した。また,Dは,同年5月ころ,試作したプレートの現物を原告に提供し,いくつか代表的な実施例をアクリル板で作製して原告に提供した。 イ このように,本件第1出願の請求項1の「先端から後端に向かって曲線状の断面形状に形成し,前記伝熱フィンの間を流れる流体の流路面積を略一定に」するという技術思想,又はその一態様である請求項4の「前記伝熱フィンは,先端及び後端を流線型とし」という技術思想は,Dの発案に係るものである。そして,上記技術思想は,Dが原告に流路形状に関するデータを提供し,これを原告がコンピュータを使用したシュミレーション解析を行うことによってさらに改良するといった共同研究・開発により,本件発明として完成に至ったものである。 本件第1出願の請求項8,同出願の明細書の段落【0022】並びに図4及び5によって開示されている変形正弦曲線は,まず最初に,原告から楕円と直線の組み合わせによる流路形状の提案があり,Dがこのような提案を基礎として,自ら経験と知見を有するカムの動作パターンを活用してこれを変形正弦曲線に改良することによってなされたものである。 ( ) 本件第1出願の出願の経緯 2ア 被告大学は,平成16年8月15日,原告から発明届を受理した。 被告大学における発明等の権利化を支援する財団法人理工学振興会(以下「東工大TLO」という )に所属するコーディネーターであるFは, 。 同年8月20日ころ,原告らと面談した。Fは,発明内容についてヒアリングを行う中で,原告から本件発明に関する被告会社の出願関係資料を示され,その結果,本件発明がD出願発明の改良発明である可能性があり,Dを共同発明者に加えた方が良いのではないかとの助言を行った。Fは,BからDの連絡先を教えてもらい,Dに対し,共同出願を行いたい旨電話で連絡し,Dもこれを承諾した。 Fは,同年8月30日,Dに対し,電子メールにて,共同出願契約書案の検討を依頼した。 被告大学は,同年9月15日,本件発明に係る特許を受ける権利を原告らから承継するか否かについて,発明評価会議を開催した。そこでは,被告会社との共同出願とする前提で議論を行い,被告大学として発明を承継する旨の結論に至った。その後,同年9月28日付けで,原告らから,被告大学学長宛の譲渡証書が提出された。なお,Fは,この会議に先立ち,原告に対し,権利を承継した場合は,被告大学と被告会社との共同出願とする旨及び発明者にDを含める旨を説明し,その同意を得ていた。 イ Bは,同年9月28日,Fに対し「被告会社の怠慢により出願手続が ,遅れている。原告の研究室としては,被告大学単独でも出願を急ぐべきと考えている 」という趣旨の電子メールを送信した(以下の送信ないし返 。 信は,特に断らない限り,電子メールによるものである 。これに対し,。)Fは 「共同出願としないのであれば大学は本件発明の出願人にはなれな ,い。その場合,権利は原告らに返す 」との返信をし,Bは「原告とも相 。 談の結果,それでもよいとの結論になった 」との再返信を行った。 。 Fは,同年9月29日,Bに対し「被告会社との共同出願を断念する ,つもりであれば,原告らから被告会社にその旨伝えてほしい 」旨を送信。 した。 ,, 。 F及び原告らは 同年10月1日本件発明の取扱いについて協議したその結果,共同出願にするか否かは,原告らと被告会社の間で協議して定めることになった。その後,同日のうちに,BはFに対し 「Dと協議し,た結果,本件発明は被告大学と被告会社とで共同出願する旨の合意に至った 」旨を送信した。。 原告は,同年10月12日,被告大学産学連携推進本部の特任助教授であるGに対し 「本件発明における被告会社の寄与はゼロであり,共同出 ,願は疑問であると考えている 」旨の送信をした。。 原告は,同年10月28日,Gに対し「本件発明に対するDの寄与は ,ゼロである。よって,被告大学の単独出願とすべきと重ねて言う。必要な手続があれば自分が行う 」との送信をした。これを受けて,Fは,原告 。 に対し 「Dを発明者に加え,被告会社との共同出願とすることは原告も ,了解したはずである。また,発明評価会議において,被告大学が出願人となるのは共同出願の場合のみと結論されており,これを原告の希望のみで変えることはできない。ついては,出願人及び発明者は,当初の案どおりにさせていただく 」との送信をした。。 原告は,同年10月29日,G及びFに対し「出願人等の調整ができ ,ていないので,今日の出願を見合わせるように特許事務所に連絡した 」。 旨を送信した。これに対し,Gは,原告に対し 「特許法30条の適用を ,避けるためにも,当初の条件にて,本日中に出願する。後の検討の結果,必要であれば出願人若しくは発明者の変更又は出願の取下げ等が可能であるから,本日のところは了解されたい」と返信した。そして,同日,本 。 件第1出願が行われた。 ウ 原告は,同年11月8日及び同月16日,Gに対し,電子メールにて,出願人と発明者の変更をして欲しい旨連絡した。これに対し,Fは,大学の正式なルールに従って手続を進めて欲しい旨返信した。原告は,これに,, ,, 対し F及びGに対し 単願とする手続を進めたいので 必要書類の送付方法を指示して欲しいとの返信を行い,また,被告大学産学連携推進本部の知的財産・技術移転部門長のEに対しても,同旨の送信をした。 原告,B及びEらは,同年11月26日,打合せを行った。その結果,原告は,被告大学が示した選択肢の中から 「被告大学から被告会社に対 ,,,, し 共同出願を取り下げる方向で協議を求め被告会社が取下げに同意し本件第1出願が取り下げられた場合には,被告大学から原告らに発明に係る権利を返還し,後は原告らが自由に処分できる 」との方針を選択し, 。 その方針で進めることにつき合意がなされた。 Eは,同年12月2日,Dに対し,電話にて,本件第1出願を取り下げたいので検討して欲しい旨を伝えた。これに対し,Dは 「取り下げても,。, 。」。 よい その場合 費用がかかるがその負担はどうなるのか と返答したそこで,Eは 「取下費用等は被告大学が負担する 」と答えた。 ,。 Eは,同年12月3日,原告らに対し「本件第1出願の取下げについ ,て,現在,被告会社と連絡を取っているところである。正式な手続に進む前に,皆様の取下げの意思を確認したい」旨を送信し,これに対し,原 。 告らから,取下げに同意する旨の返信がなされた。その後,Eは,Dに対し 「学内での検討の結果,取下げを希望する旨が固まった。取下費用等 ,は被告大学が負担する。ついては,出願取下げへの同意に関し文書を交わしたい 」旨を送信した。。 Dは,同年12月4日,Eに対し「電話で取下げを了解する旨話した ,が,本件発明の基本発明に関し他社と行っている共同出願との関係もあるので慎重に処理したい。ついては,共願取下げについての原告の考え,取下げ後の原告単独出願における請求項を確認したい。また,本件は原告からの話で共同出願としたものであるから,取下げについて原告から直接話があって当然と考えている 」旨を送信した。。 原告は,同年12月5日,Dに対し「本件の共同出願は被告大学知財 ,本部の判断で行われたものであるから,取下げも原告の方からDに了解を取る筋合いのものではない 」旨を送信した。これに対し,Dから原告に 。 対し 「取下げを要望される趣旨は理解したものの,一度は共願したとい ,う事実があり,これを取り下げ,新たに単独出願するということの流れの中で,どのような効果があるのか,ないのか,当方で至急調査し,善処した回答をします 」との記載を含む返信がなされた。 。 Eは,同年12月6日,Dに対し,前記12月4日のDからの電子メー,。 ルへの返答と 取下げについての検討を行って欲しい旨の要請を送信したなお,Eは,その後同年12月24日までの間に,Dに対し,取下げを督促する電子メールを数度にわたり送信した。 DからEへの前記12月4日付け電子メールを見た原告は,Eに対し,「,。 」 当該メールで取下げを了解したとあるので 大至急取下げ手続を願う。,,「 。」 旨を送信した これに対し Eは Dの文中の 慎重に処理させて下さいとの部分を引用の上 「先方から上記のような連絡をもらっていることも ,あるので,取下げは書面によって確認が得られてから行う 」旨の返信を。 した。 Dは,同年12月26日,Eに対し「社内で検討中であり,1月初め ,には回答する 」旨を送信した。なお,Eは,その後,平成17年1月1 。 1日までの間に,Dに対し,検討及び回答を督促する電子メールを数度にわたり送信した。 Eは,平成17年1月17日,Dに電話を架け,検討結果を尋ねたところ 「先週末,原告が非公式な訪問として来訪したので話を聞いた。それ ,を踏まえて検討した結果,当社としては,発明プロセスに関与していること,サンプルの無償提供も行ったこと,今回の出願をもとにユーザーとの。」 交渉も行っていること等から出願取下げには同意できないこととなった旨の回答を得た。 エ 被告大学が,平成16年12月3日に本件第1出願の取下げを合意したとの原告主張は否認する。被告大学は,同年11月26日に本件第1出願の取下げを被告会社に要請する旨決定したのであって,被告会社が取下げに同意しない場合は取下げを行う意思はなかった。 Dは,同年12月2日,Eからの取下げの要請に対し,口頭で承諾を告げている。しかし,被告大学は問題の重大性に鑑み,かかる口頭承諾だけでは合意が成立したとは判断せず,まずは内部的に原告らの意向を再確認した上で,正式に文書による合意を交わす必要があると考え,原告らと意思確認に関するメールをやり取りした上で,Dに改めて取下げを請う電子メールを送信した。これに対して,Dから,同年12月4日の電子メールにて,取下げについては慎重に考えたく,その前に諸点を確認したい旨の返信が届いた。このメールは,原告の示唆するような承諾の意思表示ではなく,口頭承諾の撤回であるから,拘束力ある取下合意は結局成立していない。このように,交渉当事者である被告大学は,Dの口頭承諾をもって取下げ合意が成立したとは判断していなかった。さらには,仮にこの時点で口頭合意が成立していたと考えるとしても,前記12月4日のDからの電子メールは明らかに口頭承諾の撤回であり,かつ,被告大学はその時点で当該撤回を受け入れ,改めて取下げの検討を依頼している。 オ 口頭合意は,被告大学と被告会社の間の二者間の合意であるから,唯一の相手方である被告大学が口頭承諾の撤回を受け入れる以上,撤回は当然に可能である。一方,仮に原告の主張するような三者合意であると考えるとしても,これは原告が何らの履行義務を負わない一方で,被告会社及び被告大学に履行義務を負わせるものであり,被告会社及び被告大学を贈与者,原告を被贈与者とする贈与契約に類似する。そうだとすると,口約束のみの段階に強い拘束力を認めるべきではなく,民法550条の趣旨からして,被告会社が書面化の前にこれを撤回することは自由と考えるべきである。 (被告会社の主張)( ) 被告大学の主張に以下の点を付加する。 1ア 被告会社は,原告を通じて実験装置の機械部品や実施品を被告大学へ納入することによる営業活動を重視していた。そのため,被告大学及び原告との良好な関係を保ち,1億円を超える製品受注をスムーズに受けていく円滑剤として,発明者や共同出願人が事実と相違するという問題をあえて表面化させずに流れに任せていた。 被告会社の真意としては,本件発明はD一人だけに帰属すると考えている。しかし,Dが発想やデータを原告に提供し,原告がこれを解析した事実があるので,被告会社は,Dも発明者の一人であるとの謙虚な主張をしている。 イ Dは,平成16年12月2日,被告大学のEから,突然,取下げ検討依頼の電話を受けた。Dにとっては,予想外の依頼であった。Dは,随分と身勝手なことをいうものだとの気持ちを抑えつつ 「同意できない 」と ,。 直ちに答えるのも大人げないので,申出の真意を測りながら,場合によっ「」,「 。 」 ては 取り下げてもいいが その場合には 費用がかかるがどうなるかとの問を発している。ここでいう「費用」とは「取下げの見返り」としての条件を意味していた。事業を営むものとしては当然の発想である。単純に取下げに同意する気持ちをDは全く持ち合わせていなかった。これに対し,Eは 「費用」を取下手続に要する費用と理解したようである。Dと ,しては,Eとの間でDが考えるような取引めいた話はおよそ通じないと思いつつ,電話を終えた。内心では,被告大学の一方的な取下げ検討の申出に不満を抱き,よほどの納得できる見返りがない限り,取下げには安易に同意できないとの気持ちが固まっていた。この気持ちの継続は,そのまま平成16年12月4日のメール及び同年12月5日のメールに表されている 「慎重に検討したい 」という表現や,その後の督促のメールに対し 。。 て回答しないという非礼にあえて出たのも,取下げ不同意の真意を不作為により表示していたものであった。 ウ Dは,平成17年1月17日,Eとの間の電話で,被告会社の回答を伝。, , , えた すなわち @Dが発明プロセスに関与していること A被告会社はサンプル,各種図面,データ資料等の提供を行い,技術的な交流を十分に行ってきたこと,B被告会社は原告と接触を持つ平成15年5月以前から各企業との間で本件発明に関する製品の交渉や提供を行っていたこと等の理由から,原告の単独出願によることは到底許されず,被告会社は取下げに同意できないとの明確な回答を行った。 ( ) Dによる本件発明の開示 2ア Dは,かねてから板状熱交換器の研究開発を行っていて,平成14年9月19日及び同年11月29日に,特許出願を行った。 イ 平成15年5月9日付けでDの行った特許出願では,請求項8において「前記多数の隔壁が,流線形で,流通路の入口側から出口側に向かってジグザグに杉綾模様を描くように配置している請求項5または6に記載の板状熱交換器」との構成が開示され,斜視図で重ね合わせた図面が開示されている。この技術思想は,本件第1出願の請求項各項の伝熱フィンの形状,「」 における流線型として 請求項7及び同8に見られる流体の流線が 曲線や「正弦曲線ないしはその波形を変形した擬似正弦曲線」として,より具体化されている。 ウ Dの一連の発明は,平成15年4月11日以降,新聞報道された。 ,,,, a) Dは 原告の意向を受けて 平成15年5月1日 被告大学に出向き原告と面談し,サンプルを持参して発明内容を開示した。 ) 原告は,同年5月19日に電子メールで「ついては,代表的な流路 b ,パスを示す熱交換器概略図を提案書の中で使いたいので,電子データで送信頂きたい 」と資料提供を依頼した。 。 エ Dは,同年5月27日,原告に対し「液・液,気・液,気・気の伝熱 ,面形状のサンプルを送信する。液・液については1枚だけでは流体通路が形成されず2枚を逆に(クロス)することで通路が形成される。通路形成図も参考にされたい 」旨を送信した。。 原告は,これを受けて,伝熱面形状の送信についてのお礼とNEDOの公募提案書に使用する旨を返信している。そして,原告は,返信後にDに架電し,送信してもらった図では1枚の面に2図が図示されている,今後一枚一枚を取り出して使いたいから一つの面に二つの図一組ではなく,一つの面に一つの図として送信するよう依頼してきた。 オ Dは,これを受けて,同年5月28日,原告に対し 「昨日依頼のあっ,た伝熱面形状を送るので,不足の点があったら連絡して欲しい 」旨送信。 した(乙11の1ないし5 。)原告は,同年5月30日,Dに対し,伝熱面形状の送信についてのお礼とNEDOの公募提案書に使用するとともに,6月中旬から被告会社のPCHE熱交換器の計算機シュミレーションを開始する旨を返信した。 |
|
争点に対する判断
1 証拠(甲2の1,3,4の1ないし3,5の1・2,6の1・2,7の1・2,9,乙13の1ないし3,15,丙1ないし15,16の1ないし4,17ないし24)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ( ) 原告は,平成16年(2004年)8月15日付けで,被告大学学長に対 1し,熱交換器に係る発明の発明届出書を提出し(甲2の1 ,また,同じこ)ろ,発明開示書も提出した(甲3 。上記届出書に係る発明については,東 )工大TLOに所属するコーディネーターのFが担当となり,Fは,同年8月20日ころ,原告らと面談した。 原告らと面談したFは,上記届出書に係る本件発明について,Dとの共同発明であると考えたため,BからDの連絡先を教えてもらい,Dに対し,共同出願を行いたい旨電話で連絡し,Dもこれを承諾した。そして,Fは,同年8月30日,Dに対し,電子メールにて,共同出願契約書案の検討を依頼した(丙1 。)被告大学は,同年9月15日,本件発明に係る特許を受ける権利を原告らから承継するか否かについて,発明評価会議を開催した。そこでは,被告会社との共同出願とする前提で議論を行い,被告大学として発明を承継する旨の結論に至った。 その後,原告らは,同年9月28日付けで,本件発明について特許を受ける権利を被告大学に譲渡する旨の被告大学学長宛の譲渡証書を作成し,これを被告大学に提出した(甲4の1ないし3 。)( ) Bは,同年9月28日,Fに対し 「被告会社の対応が悪くて,もう1か 2 ,月以上手続が滞っている。研究室では被告大学単独ででも出願を急ぐべきと考えている 」という趣旨の電子メールを送信した(丙2。以下の送信ない 。 し返信は,特に断らない限り,電子メールによるものである 。これに対。)し,Fは,同日 「本件発明は,過日の面談の際に申し上げたように被告会 ,社のDが先に出願した特許の改良発明と位置づけられると考える。発明評価会議でもこのような認識で一致している。本件は被告会社との共願を前提に被告大学が出願することで承認されたので,共願ができない場合は,被告大学も出願せず,本件発明を原告らに返還することになる。発明評価会議の結論は,本件発明を単独で見た場合,被告大学が出願・維持する経済価値に対する疑問であって,発明のオリジナリティについての議論ではない。Dとはようやく連絡が取れ,共同出願契約書案を検討して,明日までに共同出願の。」() 。 可否を連絡してもらうことになっているという趣旨の返信をした 丙3Bは,この返信を受けて,同日 「原告とも相談の結果,発明届出書を作り ,直して,単独で出願するようにしたいとの意向になった 」旨の再返信を行。 った(丙4 。)Fは,同年9月29日,Bに対し 「被告会社との共同出願を断念するつ ,もりであれば,原告らから被告会社にその旨伝えてほしい 」旨を送信した。 (丙5 。)F及び原告らは,同年10月1日,本件発明の取扱いについて協議した。 その結果,共同出願にするか否かは,原告らと被告会社の間で協議して定めることになった。そして,Bは,同日,Fに対し 「Dと協議した結果,本 ,件発明は被告大学と被告会社とで共同出願する旨の合意に至った。できる限。」()。 り早く出願できるようにすることで意見が一致した 旨を送信した 丙6原告は,同年10月12日,被告大学産学連携推進本部の特任助教授であるGに対し 「本件発明における被告会社の寄与はゼロであり,共同出願に ,は今でも大変疑問に思っている」旨を送信した(丙7 。 。)原告は,同年10月28日,Gに対し「本件発明に対する共願者の寄与 ,はゼロである。被告大学が出願するのであれば,なおさら共願にする必要がない。単独出願のための新たな手続が必要であれば行う。どんなエネルギー関連のプラントでも熱交換器は使われ,応用先が多く,効果も大きい特許をむざむざと第三者にあげることには理解がいきかねる 」旨を送信した(丙。 8 。これを受けて,Fは,原告に対し「最初の面談及びその後の話し合 ),,,, いの結論として 出願は被告会社との共願にすること Dの先願がある以上。, 発明者としてDを加えることを了承したはずである 発明評価会議の結論は共願の場合のみ被告大学の出願を認めるというものであり,これを原告の判断のみで変えることはできない。したがって,出願人及び発明者は,当初の案どおりに進める 」旨の返信をした(丙9 。 。)原告は,同年10月27日,本件発明に係る出願明細書の原稿案を特許事務所から受領した。原告は,この原稿案を一部修正するとともに,発明者D及び出願人被告会社は発明への寄与がゼロなので削除し,被告大学で出願す()。, , ることとするよう特許事務所に伝えた甲7の1 そして 特許事務所は同年10月29日 「本日午後5時にオンラインで出願するので,問題があ ,れば午後3時半ころまでに連絡してほしい 」旨原告にファクスで連絡した 。 (甲7の2 。一方,原告は,同日午後4時18分ころ,G及びFに対し, )「出願人等の調整ができていないので,今日の出願を見合わせるように特許事務所に連絡した 」旨を送信した(丙10。これに対し,Gは,同日午 。)後4時50分ころ,原告に対し 「特許法30条の適用を避けるためにも, ,当初の条件にて,本日中に出願する。後の検討の結果,必要であれば出願人若しくは発明者の変更又は出願の取下げ等が可能であるから,本日のところは了解されたい 」旨を返信した(丙11 。 。)以上のやり取りを経て,被告らは,同年10月29日,本件第1出願を行った(甲5の1,2 。一方,原告は,同年10月31日から11月4日に )かけて開催された国際学会における本件発明の発表を取り止めた。 ( ) 原告は,同年11月8日,G及びFに対し,国際学会における本件発明の 3発表を取り止めた旨を送信した(丙11 。そして,同年11月16日,G )及びFに対し 「同年11月30日には文部科学省の委員会で報告しなけれ ,ばならないので,変更の手続を急いでほしい 」旨を送信した(丙12 。 。)これに対し,Fは,同日 「大学の正式なルールに従って手続を進めて欲し ,い。仮にDを発明者から除くとした場合,Dの同意が得られれば考える余地はある 学会発表の延期と今回の出願は無関係と考える 旨を返信した 丙 。。 」(13 。原告は,これに対し,同日,F及びGに対し 「発明評価会議にお ),いて共同出願とされたのは,Dの出願にある中断フィンは公知例であって特許性を欠くものであるのに,これを本件発明に先行する発明とした誤解によるものである。したがって,単願とする手続を進めたいので,必要書類の送付,方法を指示して欲しい 」との返信を行い(丙14 ,また,被告大学 。)産学連携推進本部の知的財産・技術移転部門長のEに対し 「出願者につい,て協議していたところ,10月29日に出願となった。出願人及び発明者の変更を行いたいので,具体的な方法と手順を指示して欲しい 」旨を送信し。 た(丙15 。)( ) 原告 B及びEらは 同年11月26日 打合せを行った その結果 被 4,, , 。, 「告大学から被告会社に対し,共同出願を取り下げる方向で協議を求め,被告会社が取下げに同意し,本件第1出願が取り下げられた場合には,被告大学から原告らに本件発明に係る特許を受ける権利を返還し,後は原告らが自由に同権利を処分できる 」との方針で進めることにつき合意がなされた。 。 ( ) Eは,同年12月2日,Dに対し,電話にて,本件第1出願を取り下げた 5。,,「, いので検討して欲しい旨を伝えた これに対し Dは 取り下げてもよいその場合,費用がかかるがその負担はどうなるのか 」という趣旨の回答を 。 した。そこで,Eは,取下費用等は被告大学が負担する旨答えた。 ,,,「, Eは 同年12月3日 原告らに対し本件第1出願の取下げについて現在,被告会社と連絡を取っているところである。正式な手続に進む前に,本件第1出願を取り下げた上で,本件発明を原告らに返還することでよいのか,最終的な意思確認したい 」旨を送信し(丙16の1 ,これに対し, 。)原告らから 「取下げに同意する 」旨の返信がなされた(丙16の2ない ,。 し4 。その後,Eは,同日,Dに対し「学内での検討の結果,取下げを ),希望する旨が固まった。出願に要した経費及び取下げに要する経費は被告大学が負担する。ついては,上記取扱い(被告大学が出願費用,取下げ費用を負担することを条件に取り下げること)に同意する旨の書面を頂きたく,別,,, 。 」 送速達で様式を送付するので 日付を記入し 捺印の上 至急返送頂きたい旨を送信した(丙17 。)Dは,同年12月4日,E及び原告ら関係者に対し 「取下げの要請につ,いて昨日電話で了解の旨,お話ししましたが,本件熱交換器の基本特許は既に当方で出願しており,その上に形状パターンとして今回共願をしている。 昨日の電話の話では,原告の申入れで,今回の共願を取り下げ,新たに原告。, , 単独で出願するとの話であった 共同研究 共願という条件でこれまで当方LWP製熱交換器の考えを開示してきたし,また既に共願もした。次の事項を確認したい。@共願取下げの原告の考え,A共願取下げ後の原告単独出願における請求項目,B原告からの話で始まり,同意したのは当方であり,また今回一方的な被告大学側からの取下げ願いがきている。この件については原告から話があって当然と考える。本基本特許は大阪ガスとの共同出願契約との関係もあるので,慎重に処理したい。上記@〜Bの手順で処理を進めたくお願いする 」旨の返信をした(丙18。以下「DからEらに対する12 。 月4日付け電子メール」という 。。)原告は,同年12月5日,Dに対し「共同出願は被告大学知財本部の判 ,断で行われたものであるから,取下げも原告の方からDに了解を取る筋合いのものではない。経過を補足すると,国際学会の原稿期限に間に合わせるように平成16年9月末までの出願を申請したところ,知財本部から,大学の手続をスムースに行うことと費用負担の面から共願の要請があった。本件発明は被告大学独自に考案したものであり,単願を主張したものの,海外出張前で9月末までの期限と被告会社が明細書も作り,出願の費用も負担してもらうとの説明を考慮して,共願もやむを得ずと一度は了承した。9月末の原稿期限に近づき,知財本部に出願の状況を問い合わせたところ,Dに出願書類の作成を依頼したものの,応答がないので,共願の意思があるのか確認して欲しいと言われ,Bが電話で確認した。結局,9月末の原稿期限に出願が間に合わなくなったので,原点に立ち戻ることにし,知財本部に単願に戻すよう要請した。しかし,一度決めたことは元に戻せないとのことで,共願を主張された。次の期限として,国際学会の発表と専門委員会の日程から10月末となった。このような平行線の中で,知財本部は,出願後に出願人と発明者は変更できるし,取り下げることもできるとメールで連絡した上で,独自の判断で出願した。原告は,この連絡に基づき,出願人と発明者の変更手続を知財本部に依頼したが,取下げしかできないとのことで,取り下げることになった。本件発明は,屈曲ダクトの流動解析から出てきたものである。 PCHEは,プレートフィン型熱交換器の一種であり,中断フィンはルーバーフィンやクロスリブフィンとして公知例であり,本件発明は,この公知例に抵触しないと判断している。次の論文提出のため,12月10日までに知財本部の取下げが完了するよう,協力を願う 」旨の返信をした(丙19 。 。)これに対し,Dから,同日,原告に対し「PCHE型熱交換器の基本構 ,造は当方にて出願済みである。構造上の基本的特許として共願依頼されたと判断していた。公開前であったが,共願の申入れがあったので,当方の出願明細書コピーと抵触調査(ヒートリック社,特許出願請求項)を手渡している。ついては,至急,特許関係書類の返送を御願いする。できるだけ共願はすべきでないと当方でも認識しているので,趣旨は理解する。一度は共願したという事実があり,これを取り下げ,新たに単独出願するということの流れの中で,どのような効果があるのかないのか,当方で至急調査し,善処した回答をする 」旨の返信がなされた(丙20 。 。)Eは,同年12月6日,Dに対し,DからEらに対する12月4日付け電子メールに対する返答と,取下げについての検討を行って欲しい旨の要請とを送信した(丙21 。なお,Eは,その後同年12月24日までの間に, )Dに対し,検討を督促する電子メールを数度にわたり送信した。 DからEらに対する12月4日付け電子メールを見た原告は,同年12月15日,Eに対し 「メールで取下げを了解したとあるので,大至急取下げ ,手続を願う 」旨の送信をした(丙22。これに対し,Eは,同日,原告 。)に対し,DからEらに対する12月4日付け電子メール中の「本基本特許は大阪ガスとの共同出願契約との関係もあるので,慎重に処理したい 」旨の。 部分を引用の上 「本件は,権利関係の処理を行うものであり,加えて先方 ,から上記のような連絡を頂いていることもあるので,取下げの手続は書面での同意確認が得られた後に行う 」旨の返信をした(丙23。以下「Eから 。 原告に対する12月15日付け電子メール」という 。。)( ) 原告は,同年12月17日,本件第2出願を行った(甲6の1・2 。 6 )( ) Dは,同年12月26日,Eに対し「取下げ依頼については,現在,当 7 ,方特許担当にその旨伝えている。本共願の特許と当方の既に先願特許との関係及び過去2年間の間に当方より提出したサンプル等も含めその対処を検討している。1月初めには当方の回答をする 」旨の送信をした(丙24 。 。)これに対し,Eは,その後平成17年1月11日までの間に,Dに対し,検討及び回答を督促する電子メールを数度にわたり送信した。 Eは,平成17年1月17日,Dに電話を架け,検討結果を尋ね,Dから「先週末,原告が非公式な訪問として来訪したので話を聞いた。それを踏まえて検討した結果,当社としては,発明プロセスに関与していること,サンプルの無償提供も行ったこと,今回の出願をもとにユーザーとの交渉も行っていること等から出願取下げには同意できないこととなった 」との回答を。 得た。 2 前記1の認定事実を前提に,被告らが原告に対し,本件第1出願の取下げを合意したか否かを判断する。 ( ) 特許出願の取下げについての特許法の規律 1特許法は 「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共 ,有者と共同でなければ,特許出願をすることができない 」と規定し(38。 条 ,特許出願人たる地位の譲渡には共同出願人の同意を必要とする旨も規 )定している(73条1項参照 。そして,特許法は,二人以上が共同して手 )続をしたときは,各人が全員を代表するのを原則とする一方で,特許出願の,() 。 取下げは 全員によるものでなければならないと定めている 14条参照また,特許法施行規則によれば,特許出願,請求その他の特許に関する手続は,法令に別段の定めがある場合を除き,書面でしなければならず(同施行規則1条1項 ,特許出願の取下げは,様式第40によりしなければならな )い旨規定されている(同施行規則28条の3 。)以上のとおり,特許法は,特許出願の取下げの効果の重大性に鑑み,その取下行為は所定の書面の提出によってしなければならないとし,共同出願の場合は,出願人各人の意思を改めて確認するため,各人がこれを行わなければならないものと定めている。 ( ) 被告会社の取下同意について 2ア 被告大学のEは,平成16年11月26日に行われた原告らとの打合せ(前記1の( ) )の結果を踏まえて,同年12月2日,Dに対し,電話に 4て本件第1出願の取下げの検討を依頼し,これに対し,Dは 「同出願を,取り下げてもよい,その場合,費用がかかるがその負担はどうなるのか」という趣旨の回答をしたものである(前記1の( ) 。5)Dのこの回答は,本件第1出願の取下げについて肯定的な回答であるものの,その場合,これまでに要した費用をどう清算するかとの留保付きの回答であり,被告大学のEも,Dに対し,本件第1出願の取下げを依頼したのはこのときが初めてであったため,最終的な取下げの合意は,費用清算の問題も含めて書面により確定する必要があると考え,その後,書面による最終合意成立のための作業を進めていったものである。 また,Dは,D出願発明と関連する発明である本件発明の出願を取り下げることが,被告会社の事業の遂行にどのような影響を与えるかを慎重に検討せざるを得ず,さらに,本件発明については,被告大学がDと原告らの共同発明であると判断した経緯からも明らかなように,D自身が,本件発明が原告の単独発明であるとは考えていないため,本件第1出願の取下げに応じるためには,費用負担その他の経済的条件を考慮してもらう必要があると考えていたことは,その後の原告と被告ら間の次の電子メールのやりとりからも明らかである。 イ Eは,同年12月3日,原告らに対し,本件第1出願の取下げについて最終的な意思確認をしたい旨連絡している。しかし,この時点での意思確認は,被告会社も取下げの方向で検討に入ったことから,原告らもその方向で話を進めることで構わないかどうかを最終的に確認するためのものであり,Eの原告らに対する前記連絡を基に,被告会社と被告大学がその前日に本件第1出願の取下げの合意をしたとまで推認することはできない。 また,DからEらに対する12月4日付け電子メールの冒頭には,本件第1出願の取下げの要請について電話で了解した旨の記載がある一方で,基本特許(D出願発明)は被告会社が既に出願し,また,大阪ガスとの共同出願契約との関係があることなどから,慎重に処理したい旨の記載もあり,この電子メールは,その全体の内容をみると,Dが本件第1出願の取下げを確定的に同意したことを前提とするものではなく,依然としてその取下げを考慮中であることを前提とするものであることが明らかである。 さらに,DからEらに対する12月4日付け電子メールに対する原告の回答を受けて,Dは,同年12月5日「できるだけ共願はすべきでない ,と当方でも認識しているので,趣旨は理解する。一度は共願したという事,, , 実があり これを取り下げ 新たに単独出願するということの流れの中でどのような効果があるのかないのか,当方で至急調査し,善処した回答をする 」旨の返信をしている。このように,Dは,この電子メールにおい 。 ても,被告会社が本件第1出願の取下げを確定的に同意したとは記載しておらず,依然としてこれを考慮中であると回答していることは明らかである。 Eは,本件第1出願の取下げを急ぐように催促をしてきた原告に対し,Eから原告に対する12月15日付け電子メールにおいて,DからEらに対する12月4日付け電子メールの内容を引用し,本件第1出願の取下げの手続は,被告会社から書面による同意確認が得られた後に行うことを明記しており,被告会社と被告大学との間では,この時点においても本件第1出願取下げの合意が成立していないという理解であったことが明らかである。 Dは,上記のような経緯を経て,平成17年1月17日,Eとの電話において,本件発明には,被告会社が関与しており,サンプルの無償提供も行っていること等から,本件第1出願の取下げには同意しないことを最終回答として明確に返答した。 ウ 以上によれば,被告大学のEと被告会社のDとの間の,平成16年12月2日の電話におけるDの返答の趣旨は,費用負担その他の経済的な条件が合意できれば,本件第1出願を取り下げる方向で協議することは了解する趣旨の,合意成立に向けた中間的な返答であったと解するのが相当であり,両者間で,この電話において,本件第1出願を取り下げるとの合意を成立させたとみることはできない。 ( ) 被告大学の取下同意について 3ア 原告,B及びEらの間での同年11月26日の打合せの結果によれば,被告会社が本件第1出願の取下げに同意すれば,被告大学も同出願を取り下げ,原告らに本件発明に係る特許を受ける権利を返還するとの結論に至っている(前記1の( ) 。Eは,同年12月2日,Dに対し,電話にて 4)(),, 本件第1出願の取下げの検討を依頼し前記1の( ) 同年12月3日 5Dに対し 「学内での検討の結果,取下げを希望する旨が固まった。出願 ,に要した経費及び取下げに要する経費は被告大学が負担する。ついては,上記取扱い(被告大学が出願費用,取下げ費用を負担することを条件に取り下げること)に同意する旨の書面を頂きたく,別送速達で様式を送付するので,日付を記入し,捺印の上,至急返送頂きたい 」旨の電子メール。 を送信した。 前記やり取りをみると,被告大学は,本件第1出願を取り下げる方向で被告会社と交渉をしていたことは確かである。しかし,被告大学は,学内の発明評価会議において,本件発明については,被告会社との共同出願を前提として出願することを決定し,これに基づいて本件第1出願をなしたのであり,その共同出願の取下げについては,被告会社もこれを取り下げることが前提条件として必要であると考えていたことは明らかである。すなわち,特許法が,共同出願の取下げは出願者全員によって書面でなされなければならないと定めていること,及び,被告大学も特許法のそのような規定を当然認識しながら本件第1出願の取下げの交渉を関係者と行ってきたこと(このことは前記1認定事実から明らかである )からすれば,。 被告会社の本件第1出願の取下げの意思が明らかでないにもかかわらず,被告大学として単独で本件第1出願の取下げを確定的に決定することがないことは当然である。現にEから原告に対する12月15日付け電子メールの記載に照らせば,被告大学は,取下げの効果の重大性に鑑み,被告会社から本件第1出願の取下げの意思を確認できる書面を取得することが必要であると考えていたことは明らかであり,被告大学の本件第1出願の取下げの意思も,被告会社から取下げの意思を明示した書面を取得した段階で確定するものであり,それまでは被告会社の取下げがあることを条件として,本件第1出願を取下げるとの意思があったにすぎないものである。 イ 以上によれば,被告大学は,被告会社が本件第1出願の取下げに書面により同意することを条件として,本件第1出願の取下げを同意していたものであり,被告会社が本件第1出願の取下げに同意しない以上,被告大学もまたこれに同意することはないのである。 3結論よって,原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |