関連審決 | 訂正2005-39114 異議2003-70463 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 周知技術 / 下位概念 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10449号
特許取消決定取消請求事件
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原告 花王株式会社代表者代表取締役 訴訟代理人弁理士 羽鳥修 同 松嶋善之 同岩池満 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 溝渕良一 同 粟津憲一 同 岡田孝博 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2003-70463号事件について平成17年3月15日にした決定のうち,「特許第3315993号の請求項1,3ないし7に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告の有する後記特許につき,第三者からの特許異議の申立てに基づき,特許庁が,原告からの訂正請求を認めた上で,特許の一部を維持し残部を取り消す決定をしたことから,原告が上記取消部分の取消しを求めた事案である。 なお原告は,本件訴訟係属中の平成17年7月4日,本件特許の請求項1の訂正等を内容とする訂正審判請求を行った(訂正2005-39114号事件)が,特許庁は平成17年10月25日,請求不成立の審決をなした。 同審決に対する訴訟は提起されていない。 |
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当事者の主張
1 請求の原因A特許庁における手続の経緯原告は,平成3年6月3日,名称を「使い捨てパンツ」とする発明について特許を出願し,平成14年6月7日,特許庁から特許第3315993号として設定登録を受けた(請求項の数7。以下「本件特許」といい,この請求項を「旧請求項」という。甲1)。 その後,全請求項につきAから特許異議の申立てがなされたため,特許庁は,これを異議2003-70463号事件として審理し,その係属中の平成15年9月16日,原告は,旧請求項2,7の訂正等を内容とする訂正請求をした(以下「本件訂正」といい,訂正後の請求項を単に「請求項」という。甲2)。 そして特許庁は,平成17年3月15日,「訂正を認める。特許第3315993号の請求項1,3ないし7に係る特許を取り消す。同請求項2に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は平成17年4月4日原告に送達された。 ・ 発明の内容本件訂正後の発明の内容は,下記のとおりである(下線部は訂正部分。 以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」等という。)。 記【請求項1】 液透過性のトップシートと,液不透過性のバックシートと,これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え,該本体は着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と,背側に位置する背側部とに区分されており,上記腹側部及び上記背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて,上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており,且つ,上記ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており,上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する,上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されており,また,一対のレッグ部のサイドフラップには,一対の上記レッグ開口部それぞれにギャザーを形成するレッグ弾性部材を備えており,該レッグ弾性部材は,少なくとも2本配されており,それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されていることを特徴とする使い捨てパンツ。 【請求項2】 上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し,上記固定部分と上記自由部分との境界点となる固定縁が,上記ウエスト弾性部材と上記吸収体との間に形成されており,上記立体カフスは,上記自由部分に弾性部材が幅方向に張設されることによって弾性伸縮性が付与されていることを特徴とする請求項1記載の使い捨てパンツ。 【請求項3】 上記ウエスト弾性部材は,複数本の線状弾性部材を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の使い捨てパンツ。 【請求項4】 上記立体カフスは,上記バックシートの一部に弾性部材を張設し,該弾性部材を上記ウエスト開口部内側の上記ウエスト弾性部材の下方に位置させることにより形成されていることを特徴とする請求項2または3記載の使い捨てパンツ。 【請求項5】 上記立体カフスは,上記トップシートの一部に弾性部材を張設し,該弾性部材を上記ウエスト開口部内側の上記ウエスト弾性部材の下方に位置させることにより形成されていることを特徴とする請求項2または3記載の使い捨てパンツ。 【請求項6】 上記立体カフスは,全周にわたって連続して形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の使い捨てパンツ。 【請求項7】 上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し,該自由部分は上記吸収体上まで延出されており,上記レッグ弾性部材は,その一本は,一方の上記レッグ部の腹側部側に湾曲して配され且つ上記股下部を上記吸収性本体の幅方向に横切って他方の上記レッグ部の腹側部側に湾曲して配されており,また他の一本は,他方の上記レッグ部の背側部側に湾曲して配され且つ上記股下部を上記吸収性本体の幅方向に横切って他方の上記レッグ部の背側部側に湾曲して配されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の使い捨てパンツ。 ・ 決定の内容ア 本件決定の内容の詳細は,別紙「異議の決定」写しのとおりである。 その要旨は,本件訂正を認めた上,本件発明2についての特許を取り消すべき理由は認められないが,本件発明1,3ないし7は,下記の引用例1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項に違反する等としたものである。 記・引用例1 特開平3-82467号公報(本訴甲4)・引用例2 特開昭64-26701号公報(本訴甲5)・引用例3 米国特許第4,936,840号明細書(本訴甲6)イ なお,本件決定は,引用例1から引用発明1を次のとおり認定した上,本件発明1と対比して次のような一致点と相違点があるとした。 (引用発明1の内容)透水性トップシートと,バックシートと,これら両シート間に配置される吸収性コアとを有する本体を備え,該本体は着用時に着用者の腹側に位置する前区域と,背側に位置する後区域とに区分されており,前区域及び後区域それぞれの両側縁を接合して腰周り開口部と一対の脚周り開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて,腰周り開口部に隣接して腰周り弾性部材が開口部全周にわたって配置されており,一対の脚周り部のサイドフラップには,一対の脚周り開口部それぞれにギャザーを形成する脚周り弾性部材を備えており,該脚周り弾性部材は,第1と第2の2本配されており,それぞれの中央部分が股下区域のほぼ中央部に位置し,第1の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ前半部分に,第2の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ後半部分に位置するように配されている使い捨てパンツ。 (一致点)「液透過性のトップシートと,バックシートと,これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え,該本体は着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と,背側に位置する背側部とに区分されており,上記腹側部及び上記背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて,上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており,また,一対のレッグ部のサイドフラップには,一対の上記レッグ開口部それぞれにギャザーを形成するレッグ弾性部材を備えており,該レッグ弾性部材は,少なくとも2本配されており,それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されている使い捨てパンツ。」である点。 (相違点ア)バックシートが,本件発明1では,液不透過性であるのに対し,引用発明1では,液不透過性と特定されていない点。 (相違点イ)本件発明1では,上記ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されているのに対し,引用発明1では,そのような立体カフスを備えていない点。 (相違点ウ)本件発明1では,上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する,上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されているのに対し,引用発明1では,そのようなサイド弾性部材について言及されていない点。 ・ 決定の取消事由ア 引用発明1ないし3の内容,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点アないしウの内容,上記相違点アについての判断が,いずれも本件決定のとおりであることは争わない。 しかしながら,以下に述べるとおり,本件決定は,本件発明1,3ないし7が引用例1ないし3記載の発明から容易に想到することができたものと誤って判断したから,違法として取消しを免れない。 イ 取消事由1(相違点イに関する判断の誤り)決定は,引用発明1に引用例2記載の技術的事項を適用して,相違点イにおける本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると判断しているが,次に述べるとおり,その根拠とする認定事実に誤りがあるから,特許庁の上記判断は誤りである。 ・ 決定は,引用例2記載の「ウエスト部の内側に伸縮弾性の第2のウエストフラップを設けるという技術的事項」を,ウエストバンド部に弾性部材を有しないものにしか適用できないとする技術的な理由はないから,「引用例2記載の発明において,第1のウエストフラップに弾性部材を設けていない点は,上記技術的事項を腰周り弾性部材を備えた引用例1記載の発明に適用することを妨げる要因とはならない。」(11頁10行〜19行)と認定している。 @ しかし,引用例2(甲5)記載の発明(使い捨ておむつ)における第2のウエストフラップ(8a,8b)の横方向に沿う外縁(13a)は第1のウエストフラップ(7a,7b)の横方向に沿う外縁に沿うように固定されている(引用例2の各図面,請求項3,5,9,15,17,21,引用例2の4頁右上欄18行〜左下欄1行等)。このような第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置は,「ポケット9の起立位置と第2のウエストフラップ(8a,8b)の配置位置との両方を決める位置」を意味し,おむつ長手方向端縁に,すなわち,第1のウエストフラップ(7a,7b)の横方向に沿う外縁にポケット(9)を形成する場合において,第2のウエストフラップ(8a,8b)の起立高さを確保することで防漏性を実現させ,かつ,無用な部分(防漏性に寄与しない部分)を備えないようにするために必要な構成である。 また,引用例2記載の使い捨ておむつは,第2のウエストフラップ(8a,8b)をおむつ長手方向端縁に固定する構成を採用することにより,・「ウエストバンド部(腰周り)の防漏性の向上」,・「ウエストバンド部へのテープファスナーの着用体裁の改善」の目的だけでなく,・「ウエストバンド部における通気性の改善」の目的をも達成しているので,仮に第2のウエストフラップ(8a,8b)がおむつ長手方向端縁よりもおむつ長手方向内側の位置に固定されていると,おむつ長手方向外側において着用者が通気性の悪いバックシート等で被覆されることになり,上記目的・が達成されないので,引用例2記載の使い捨ておむつにおいては,第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置は,おむつ長手方向端縁に限定されていると理解すべきである。 そして,引用例2記載の使い捨ておむつの技術的思想は,上記目的・〜・を併せて達成するために,「腰周り(第1のウエストフラップ7a,7b)に弾性部材を設けない」,「立体カフス(第2のウエストフラップ8a,8b)の先端に弾性部材を設ける」,「立体カフスの外縁を,腰周りにおけるおむつ長手方向端縁に固定して設ける」という各技術を一体不可分に具備するものであり,この技術的思想から,「ウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフス(伸縮弾性の第2のウエストフラップ)を設けるという技術的事項」のみを独立して把握することはできない。 A また,本件発明1(請求項1)の「立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」の「から」とは,立体カフスの延出開始点,すなわち立体カフスの固定部分と自由部分との境界点となる「固定縁」がウエスト弾性部材の下方(股下部側)に位置することを意味し,換言すれば,固定縁がウエスト弾性部材と吸収体との間に又は該吸収体の上に形成されていることを意味するものであり,本件発明1は,固定縁の位置(固定位置)が上記以外のものを含むものではない。 このことは,本件特許の請求項2の表現,本件訂正後の明細書(甲2)の段落【0014】の「吸収体上に固定縁25を設けてもよい」との記載があることや,本件訂正後の明細書及び図面(甲1)において具体的に説明されている固定位置の形態は上記のもののみであり,それ以外の形態のものについての記載も示唆もないことから明らかである。 一方で,引用例1ないし3には,本件発明1に係る固定位置の上記構成(固定縁がウエスト弾性部材と吸収体との間に又は該吸収体の上に形成されていること)についての記載も示唆もない。 B したがって,引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することには阻害要因があるから,決定の前記認定は誤りである。 ・ 決定は,引用発明1に,ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために,引用例2記載の「ウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフスを設けるという技術的事項」を適用することは,当業者であれば容易に思いつくことである(10頁15行〜23行)と認定している。 @ しかし,そもそも引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することに阻害要因があることは前述したとおりであるのみならず,仮に引用例2記載の「第2のウエストフラップ(8a,8b)が第1のウエストフラップ(7a,7b)の外縁に沿うように固定されている技術的事項」を,引用例1記載の「腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)を備えた使い捨ておむつ」に適用しようとすると,「第2のウエストフラップ(8a,8b)」は,「腰周り弾性部材(5)」と平面視で(おむつを展開し,伸長させた状態で,おむつを肌当接面側から非肌当接面側に向けて視たときに)重なる位置に固定されることになり,このような構成では,装着者はウエスト部の装着感に違和感を感じやすいため,本件発明1のように,ウエスト弾性部材をウエスト開口部に隣接して,ウエスト開口部に配置させることは困難である。 また,引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)は,その自由端である内縁(10)が,これに包まれた伸縮弾性部材(11)の弾性伸縮力により収縮するだけでなく,その基端(第1のウエストフラップ(7a,7b)から延出が始まる端部。以下同じ。)である外縁(13a)も,腰周り弾性部材(5)の弾性収縮力により収縮することになるため,第2のウエストフラップ(8a,8b)が起立し難く,その起立高さを確保することが困難となり,ウエスト部の防漏性を確保し難い構造となる。 A 被告提出の乙1,2記載のようなテープ型の使い捨ておむつの脚周りにおける弾性部材とカフスとの位置関係に関する技術は,引用例1記載の使い捨ておむつのようなパンツ型使い捨ておむつにおけるウエスト部には適用できない。すなわち,テープ型の使い捨ておむつにおける脚周りのカフスは,パンツ型の使い捨ておむつにおけるウエスト部のカフスに必要な反り返り防止構造を具備していないものであるから,カフス自体の形態のみに着目すれば似ているかもしれないが,パンツ型の使い捨ておむつにおけるウエスト部のカフスに単純に適用することはできない。 また,乙1,2に記載されたテープ型の使い捨ておむつにおける脚周りのカフスは,装着状態における排尿位置の確認・手直しが必要であるが,パンツ型の使い捨ておむつにおけるウエスト部では,排尿位置がカフスから外れるようなことはないので,このような排尿位置の確認・手直しは不要であり,テープ型の使い捨ておむつにおける脚周りに形成されたカフスとパンツ型の使い捨ておむつにおけるウエスト部に形成されたカフスとは,要求される機能が全く異なるものであり,その転用は容易にできないものである。 B したがって,引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することは,当業者であっても容易に思いつくことではなく,決定の前記認定は誤りである。 ・ 決定は,「弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されているようにすることは,上記技術的事項の適用に際し,体液の漏れを防止できるように,弾性伸縮性の立体カフスにより内方へ開口するポケットが形成されるようにするために,当業者が設計上当然に行う事項にすぎない。」(10頁24行〜28行)と認定している。 しかし,引用例2(甲5)記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)は,その自由端である内縁(10)が,平面視で吸収性コア(3)(=吸収体)と重なる位置に位置せず,おむつ長手方向端部を形成する第1のウエストフラップ(7a,7b)と重なる位置に位置することを前提とした技術である。このことは,引用例2の全ての実施例において,第2のウエストフラップ(8a,8b)の自由端である内縁(10)が平面視で吸収性コア(3)と重なる位置に位置していないこと(平面視で第1のウエストフラップ(7a,7b)に重なる位置にのみ位置している。)及びこのような構成を採用すると大きな効果が奏されること(4頁左下欄17行〜右下欄7行等)等からも理解できる。 このように引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)は,平面視で吸収性コア(3)と重ならない位置に設けられることを前提とした技術であるから,第2のウエストフラップ(8a,8b)の基端である外縁(13a)を,引用例1記載の使い捨ておむつにおける腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)の下方に固定することにより,第2のウエストフラップ(8a,8b)を平面視で吸収性コア(3)と重なる位置に位置させることは,当業者であっても容易に想到し得ることではなく,決定の上記認定は誤りである。 ウ 取消事由2(相違点ウに関する判断の誤り)決定は,引用発明1と引用例3記載の発明(引用発明3)は,体液を外に漏らすことなく吸収保持するために下半身に着用する衣類という同一の技術分野に属するものであるから,引用発明1に引用例3記載の「使い捨てオムツにおいて,吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する腹側部及び背側部の左右一対のサイドフラップの長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材を配置するという技術的事項」を適用し,「相違点ウにおける本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである」旨(11頁24行〜32行)判断している。 しかし,本件発明1におけるサイド弾性部材は,パンツ型の使い捨ておむつにおける幅方向に周状に連続したサイドフラップに設けられたものであるのに対し,引用例3(甲6)記載の腹部サポートバンド65は,テープ型の使い捨ておむつにおける腹側部の幅方向中央部に(腹側部の両側縁部から離間して)設けられたものである(Fig.5,Fig.6等参照)。 また,本件発明1におけるサイド弾性部材によれば,幅方向に周状に連続した,吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を着用者側に向けて締め付けることができるため,高い防漏効果及び高いずれ防止効果が奏されるのに対し,引用例3記載のテープ型の使い捨ておむつにおいては,ファスナー82を止着して装着形態を形成するため,装着状態において幅方向の連続性は弱く,腹部サポートバンド65による幅方向の収縮力は腹部サポートバンド65の配設位置近傍のみに発現するため,腹部サポートバンド65により,実質的に吸収体のみを着用者側に向けて締め付けることになるので,十分な防漏効果及び十分なずれ防止効果が奏されるものではない。 さらに,引用例1,引用例3には,本件発明1のように幅方向に周状に連続したサイドフラップにサイド弾性部材を設けることにより,高い防漏効果及び高いずれ防止効果が奏されることについて何らの記載も示唆もない。 したがって,相違点ウに係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとの決定の上記判断は誤りである。 エ 取消事由3(顕著な効果の看過)決定は,「全体として,本件発明1が奏する効果も,引用例1ないし3記載の発明から当業者が予測し得る範囲のものである。 したがって,本件発明1は,引用例1ないし3記載の発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(11頁33行〜末行)と判断している。 しかし,本件発明1は,ウエスト開口部の全周に亘ってウエスト弾性部材が設けられたパンツ型の使い捨ておむつにおいて,弾性伸縮性の立体カフスをウエスト開口部におけるウエスト弾性部材の下方から延出するように設ける(相違点イに係る構成)とともに,サイドフラップにサイド弾性部材を設けた(相違点ウに係る構成)もので,@「ウェスト開口部の全周に亘って設けられたウエスト弾性部材」,A「ウェスト開口部におけるウエスト弾性部材の下方から延出するように設けられた弾性伸縮性の立体カフス」,B「サイドフラップに設けられたサイド弾性部材」の3構成要素の相乗効果により,装着状態が安定しているときにはウエスト弾性部材の収縮によりウエスト部を締め付け,サイド弾性部材の収縮により吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を締め付けることができ,安定した防漏効果が奏されるとともに,着用者が暴れた場合のように装着状態が突発的に乱れたときには,追従性の高いウエスト部の立体カフスによりウェスト開口部からの漏れ防止効果が奏されるものである。 このように本件発明1における@ないしBの3構成要素が併せて具備されることにより,安定した装着状態のときにも装着状態が突発的に乱れたときにも,優れた漏れ防止効果を奏するという相乗効果を奏するものであるが,この相乗効果については,引用例1ないし3のいずれにも何らの記載も示唆もない。 したがって,このような本件発明1の3構成要素と上記相乗効果との関係について考慮せず,上記相乗効果を看過した決定の上記判断は誤りである。 オ 取消事由4(本件発明3ないし7の容易想到性の判断の誤り)前記イないしエのとおり,本件発明1は当業者が引用例1ないし3記載の発明から容易に想到することができたものではないから,本件発明1の下位概念となる発明である本件発明3ないし7も,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件発明3ないし7は引用例1ないし3記載の発明から容易想到であるとした決定の判断は誤りである。 2 請求原因に対する認否請求原因Aないし・の各事実は認めるが,同・は争う。 3 被告の反論A取消事由1に対しア ・について・ 原告の主張・は,引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置が,おむつ長手方向端縁,すなわち第1のウエストフラップ(7a,7b)の横方向に沿う外縁(13a)であることを前提とするものであるが,この固定位置は,第1のウエストフラップ(7a,7b)の横方向に沿う外縁に限定されるものではないから,上記前提は誤りである。 このことは,引用例2(甲5)に,一実施例として「第7図においては,第2のウエストフラップ8a,8bは,第1のウエストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁12から外方に延出するトップシート2の部分内方に折り返され,その横方向端が第1のウエストフラップに固定されている。」(4頁下右欄16行〜5頁上左欄1行)と記載されていることから明らかである。 そして,引用例2には,「おむつの通気防液性を改善する」目的を達成するために「第1のウエストフラップの上面に伸縮弾性の第2のウエストフラップを備えること」が記載されているから(請求項1,3頁下右欄10行〜16行,6頁上左欄3行〜9行),「第2のウエストフラップ8a,8bは,第1のウエストストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁に限定されないウエスト開口部の内側の任意の位置で固定される」技術的事項が開示されているといえる。 もっとも,引用例2記載の実施例にポケット9の起立位置がおむつ長手方向端縁であるものが示されているが,この構成は,引用例2記載のおむつの通気防液性を改善する目的を達成するための解決手段として必須のものではなく,第2のウエストフラップの固定位置がおむつ長手方向端縁に限定されるとする根拠になるものではない。 また,引用例2において,第2のウエストフラップのポケットの起立位置がおむつ長手方向端縁よりもおむつ長手方向内側の位置であったとしても,第2のウエストフラップがおむつ長手方向端縁よりその起立位置まで連続していれば,着用者が通気性の悪いバックシート等で被覆されることなく,第2のウエストフラップで被覆されることとなり,ウエストバンド部の通気性の改善を達成できるものである。 さらに,本件発明1(請求項1)には「上記ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」としか記載されておらず,弾性伸縮性の立体カフス(伸縮弾性の第2のウエストフラップ)の固定位置に関しては何ら規定されていないから,原告の上記固定位置に関する主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 ・ 次に,引用例2(甲5)には,(従来の技術とその問題点)として「しかし,従来技術においては,前記通気チャンネルから体液が漏れ易い。また,伸縮弾性部材によるウエストバンド部に作られるギャザーが,前背側におけるウエストバンド部を締結するためのテープファスナーの自由端を接着すべき領域にシワが派生し,着用体裁を悪くするうえ,その接着操作および状態に支障を来すといった問題がある。」(3頁上右欄19行〜同頁下左欄6行),(問題を解決するための手段)として「前側および背側における第1のウエストフラップと,背側における横対向側に備えるテープファスナーとを含む使い捨てオムツを対象とする。そして,該オムツにおいては,少なくとも一方の前記第1のウエストフラップはその上面に伸縮弾性で通気防液性の第2のウエストフラップを備え,前記第2のウエストフラップは前記第1のウエストフラップとでこれらの間に内方へ開口するポケットを形成している。」(3頁下右欄7行〜16行)と記載されている。 これらの記載によると,引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップは,ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するための構成要素であるのに対し,第1のウエストフラップに弾性部材を設けていないことは,テープファスナーの接着操作及び状態に支障を来すことを防止するという目的を達成するための構成要素であって,ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するための構成要素ではないものといえる。 そうすると,引用発明1における腰周り弾性部材を備えた使い捨ておむつに関して,ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するために,引用例2記載のウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフス(伸縮弾性の第2のウエストフラップ)を設けるという技術的事項を適用することは可能であって,引用例2記載の第1のウエストフラップに弾性部材を設けていない点は,その適用を妨げる要因とはならないというべきである。 イ ・について使い捨ておむつにおいて,カフスと本体の間にポケットを保持するために,カフスをサイドフラップの弾性部材と平面視で重ならない位置に固定し,カフスの基端をサイドフラップの弾性部材の弾性収縮力に影響されない位置とすることは周知技術(例えば,乙1,2)である。 乙1,2に記載された脚周りのカフスと引用例2(甲5)又は本件発明1に記載のようなウエスト部のカフスは,使い捨ておむつにおいてカフスと本体の間にポケットを形成して排泄物の漏れを防止するという点で,その機能が共通しているから,上記周知技術を引用例1(甲4)記載の使い捨ておむつのようなパンツ型使い捨ておむつのウエスト弾性部材とカフスに係るものに適用できないとする技術的な理由はない。 したがって,引用例2記載の「第2のウエストフラップ(8a,8b)」を引用例1記載の「腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)を備えた使い捨ておむつ」に適用するに際し,上記周知技術を考慮すると,「第2のウエストフラップ(8a,8b)」を「腰周り弾性部材(5)」と平面視で重ならない位置に固定して,「第2のウエストフラップ(8a,8b)」の基端である外縁を「腰周り弾性部材(5)」の弾性収縮力に影響されない位置とすることは明らかである。 ウ ・について本件特許の請求項1では,「上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており,且つ,上記ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」と記載されているに止まり,弾性伸縮性の立体カフスを吸収体と重なる位置に位置させることは何ら規定されていないから,原告の主張・は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 また,引用例2(甲5)では,第2のウエストフラップ(8a,8b)と第1のウエストフラップ(7a,7b)とでこれらの間に内方へ開口するポケットを形成し,第2のウエストフラップ(7a,7b)は股下部に向かっているものといえるから,「引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)は,平面視で吸収性コア(3)(=吸収体)と重ならない位置に設けられることを前提とした技術である」とする原告の主張・は,その前提において誤りである。 ・ 取消事由2に対し引用例3(甲6)には,「バンド65は,前部ウエストパネルのみに,同様に後部パネル30に,あるいは前部及び後部のみの部分に位置することができる。」と記載されており(訳文甲6の2の1頁18行〜19行),「バンド65」は,腹側部の幅方向中央部にのみ設けられるのではなく,腹側部及び背側部の幅方向中央部に設けられるものである。 また,引用例3には,「使い捨てオムツにおいて,吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する腹側部及び背側部の左右一対のサイドフラップの長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材を配置する」技術的事項が開示されているものとみるべきである。 そして,引用発明1に引用例3記載の技術的事項を適用した結果,相違点ウに係る構成が得られるから,本件発明1の高い防漏効果及び高いずれ防止効果も,引用発明1,引用例3から,当業者が予測し得る範囲のもので格別なものではない。 したがって,決定の相違点ウの判断に原告主張の誤りはない。 ・ 取消事由3に対し原告が主張する,本件発明1の「装着状態が安定しているときにはウエスト弾性部材の収縮によりウエスト部を締め付けてなる効果」は引用例1(甲4)記載のものに基づいて,「サイド弾性部材の収縮により吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を締め付けることができ,安定した防漏効果が奏されてなる効果」は引用例1及び引用例3(甲6)記載のものに基づいて,「着用者が暴れた場合のように装着状態が突発的に乱れたときには,追従性の高いウエスト部の立体カフスによりウエスト開口部からの漏れ防止効果が奏されるなる効果」は引用例1,引用例2(甲5)記載のもの,及び乙1,2で示される周知技術に基づいて,それぞれ予測し得る範囲のもので格別なものではない。 したがって,全体として本件発明1が奏する効果も引用例1ないし3記載の発明から当業者が予測し得る範囲のものであるとした決定の判断に誤りはない。 ・ 取消事由4に対し本件発明1は,引用例1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの決定の判断に原告主張の誤りはなく,本件発明3ないし7に関する決定の認定判断にも誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因A(特許庁における手続の経緯),・(発明の内容),・(決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,原告主張の決定の取消事由(請求原因・)について,順次判断する。 2 取消事由1(相違点イに関する判断の誤り)についてAア 引用例2(甲5)には,次のような記載がある。 ・「(従来の技術とその問題点) 従来,使い捨てオムツにおいて,その内外部の通気をはかって蒸れを防止するため,吸収性コアを被覆し該コアの縦対向縁から外方に延出して相会しウエストバンド部を形成する透液性トップシートと不透液性バックシートの各部分の間の横方向に伸縮弾性部材を介在させることにより,該両シートの内面と外部材の両面との間に通気チャンネルを形成したものが,特開昭59-144601号公報に開示されている。しかし,従来技術においては,前記通気チャンネルから体液が漏れ易い。また,伸縮弾性部材によるウエストバンド部に作られるギャザーが,前背側におけるウエストバンド部を締結するためのテープファスナーの自由端を接着すべき領域にシワが派生し,着用体裁を悪くするうえ。その接着操作および状態に支障を来すといった問題がある。」(3頁右上欄10行〜左下欄6行),「本発明の目的は,前記問題点を解決することができるとともに,ウエストバンド部における通気防液性を改善することができる使い捨てオムツを提供することにある。」(3頁左下欄18行〜右上欄1行)。 ・「(問題を解決するための手段) 本発明は,透液性トップシートと,不透液性バックシートと,該両シートの間に介在する吸収性コアと該コアの縦対向縁から外方へ延出して相会する該両シート部分で形成される,前側および背側における第1のウエストフラップと,背側における横対向側に備えるテープファスナーとを含む使い捨てオムツを対象とする。そして,該オムツにおいては,少なくとも一方の前記第1のウエストフラップはその上面に伸縮弾性で通気防液性の第2のウエストフラップを備え,前記第2のウエストフラップは前記第1のウエストフラップとでこれらの間に内方へ開口するポケットを形成している。」(3頁右下欄3行〜16行),「第1および第2図に示すように,オムツは,透液性トップシート1と,不透液性バックシート2と,該両シートの間に吸収性コア3と,・・・背側における横対向側に備えるテープファスナー6とを含んでいる。・・・本発明の特徴は,コア3の縦対向縁から外方に延出して相会する該両シート1,2の部分で形成される,前側および背側における第1のウエストフラップ7a,7bの上面に伸縮弾性で通気防液性の第2のウエストフラップ8a,8bを備え,各第1のウエストフラップ7a,7bと各第2のウエストフラップ8a,8bとの間に内方へ開口するポケット9が形成されていることにある。」(4頁左上欄9行〜右上欄7行)。 ・「第2のウエストフラップ8a,8bの内縁10は,該第2のウエストフラップの伏倒状態において,コア3の各縦方向端14と各第1のウエストフラップ7a,7bとの段差面の隅部16の近傍に臨んでいることが好ましい。こうした状態であると,前述のように,伸縮弾性部材11が収縮しているときには,第2のウエストフラップ8a,8bは,上向きに傾斜または起立するが,着用状態でそれらが身体に比較的強く圧接する場合でも,隅部16には内縁10が該圧接作用を受けない空隙が生じるので,またかりに受けても,それは比較的弱いので,該傾斜または起立作用によってポケット9の開口状態がその程度の差こそあれ維持され,流出しようとする体液の流入を許容し受止することができるからである。」(4頁左下欄13行〜右下欄7行)。 ・「第3図ないし第5図に示すように,第2のウエストフラップ8a,8bは,第1のウエストフラップ7a,7bとは別の素材から形成され,その横方向に沿う内縁10で包まれるとともにその横方向に間欠的に接着されている伸縮弾性部材11を備え,・・・第2のウエストフラップ8a,8bは,伸縮弾性部材11が収縮しているときには,その収縮程度によって上向きに傾斜ないし起立し,ポケット9の開口が大きくなって充分に機能することができる。第2のウエストフラップ8a,8bの横方向に沿う外縁13aと横対向端13bとが第1のウエストフラップ7a,7bに固定されている。これらの固定,とくに前者の固定は,連続シールによってなされていることが,外縁13aからの体液の漏れを完全に防止するうえで好ましい。」(4頁右上欄8行〜左下欄4行)。 ・「本発明にかかるオムツによれば,・・・着用状態においては,第2のウエストフラップにより,オムツで覆われる内部,とくに吸収性コアと外部とが隔離され,その内部から外部への体液の流出が十分に遮断されるとともに,その内外部の間の通気が有効に行われてその内部における蒸れを抑制することができる。」(5頁右下欄18行〜6頁左上欄9行)。 ・「第2のウエストフラップ8a,8bは,多孔性プラスチックフィルム,撥水処理した高い通気性を有する不織布,好ましくはポリプロピレンのスパンボンド不織布を撥水処理したものが使用される。バックシート2が通気性を有する場合,第2のウエストフラップ8a,8bとしては,該バックシートよりも通気性が優れているものが使用されることが好ましい。」(5頁左下欄16行〜右下欄3行)。 ・「また,伸縮弾性部材を備える第2のウエストフラップが前側における第1のウエストフラップに位置している場合でも,第2のウエストフラップは第1のウエストフラップに対して屈曲して連設されているから,伸縮弾性部材の収縮力は,該連設部で遮断ないし減殺され,テープファスナーの自由端を接着すべき前側におけるバックシートの領域には波及しないか,かりに波及することがあっても,それは一般に比較的弱い。したがって,前側におけるウエストバンド部に伸縮弾性部材を備えているにもかかわらず,前記接着領域にはテープファスナーの自由端を接着するのに支障を来すようなシワが前記収縮力によって派生することがないし,またそのため,前記接着領域にテープを接着すべき目標ないし補強のための手段を設けた場合,その目的を達成することができる。」(6頁左上欄10行〜右上欄5行)。 イ 上記各記載によれば,ウエストバンド部を形成する透液性トップシートと不透液性バックシートの間に伸縮弾性部材を介在させることにより,ウエストバンド部に通気チャンネルを形成した従来の使い捨ておむつにおいては,ウエストバンド部の通気チャンネルから体液が漏れ易く,また,伸縮弾性部材によるギャザーがウエストバンド部に形成されることからウエストバンド部を締結するためのテープファスナーの自由端を接着すべきバックシートの領域にシワが派生し,テープファスナーの接着操作等に支障を来すという問題点があったことから(上記ア・),これらの問題点を解決するため,引用例2においては,ウエストバンド部を形成する第1のウエストフラップには伸縮弾性部材を用いずに,第1のウエストフラップの上面に伸縮弾性を備えた第2のウエストフラップを設けることにより,テープファスナーの自由端を接着するのに支障を来すようなシワがバックシートの接着領域に派生することがないようにするとともに(同・,・),通気性を確保するために,バックシート及び第2のウエストフラップを共に通気性材料で形成し(同・),更に体液の漏れを防止するため,伸縮弾性を備えた第2のウエストフラップ8a,8bの横方向に沿う外縁13aを第1のウエストフラップ7a,7bに固定(連続シール)し,第2のウエストフラップによりおむつの内部と外部とを隔離する(同・ないし・),使い捨ておむつの構成が示されていることが認められる。 ウ また,上記認定事実によれば,引用例2には,ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するため,ウエストバンド部の内側に伸縮弾性を備えた第2のウエストフラップ(弾性伸縮性の立体カフス)を設けるという技術的事項が開示されていることが認められる。 そして,引用発明1に上記技術的事項を適用して「ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されている」との本件発明1に係る相違点イの構成とすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)であれば,容易に想到することができたものと認められるから,これと同旨の決定の判断(10頁15行〜31行)に誤りはない。 ・ これに対し原告は,@引用例2記載の使い捨ておむつにおいては,第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置(「ポケット9の起立位置と第2のウエストフラップ(8a,8b)の配置位置との両方を決める位置」)を,おむつ長手方向端縁とする構成を採用することにより,・「ウエストバンド部(腰周り)の防漏性の向上」,・「ウエストバンド部へのテープファスナーの着用体裁の改善」,・「ウエストバンド部における通気性の改善」の各目的をも達成しているので,仮に第2のウエストフラップ(8a,8b)がおむつ長手方向端縁よりもおむつ長手方向内側の位置に固定されていると,おむつ長手方向外側において着用者が通気性の悪いバックシート等で被覆されることになり,上記目的・が達成されないので,引用例2記載の使い捨ておむつにおいては,第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置は,おむつ長手方向端縁に限定されていると理解すべきであること,A一方,本件発明1(請求項1)の「立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」の「から」とは,立体カフスの延出開始点,すなわち立体カフスの固定部分と自由部分との境界点となる「固定縁」がウエスト弾性部材の下方(股下部側)に位置することを意味し,換言すれば,固定縁がウエスト弾性部材と吸収体との間に又は該吸収体の上にのみ形成されていることを意味するものであり,本件発明1の立体カフスの固定縁の位置(固定位置)は上記以外のものを含むものではないことなどを挙げて,引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することには阻害要因がある旨主張(主張・)する。 しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,原告主張の立体カフスの「固定位置」又は「固定縁」なる文言の記載はなく,また,請求項1の「立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」の「から」の文言から,立体カフスの固定部分と自由部分との境界点となる「固定縁」がウエスト弾性部材と吸収体との間に又は該吸収体の上にのみ形成されていることを意味するとまで読みとることはできないから(請求項2には,「固定縁」の形成位置をウエスト弾性部材と吸収体との間に特定する記載があるが,請求項1には,上記形成位置を特定又は限定する記載はない。),本件発明1の立体カフスの固定位置に関する原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして採用することができない。なお,原告主張の本件訂正後の明細書(甲2)の段落【0014】に「吸収体上に固定縁25を設けてもよい」との記載があることや,本件訂正後の明細書及び図面(甲1)中に,立体カフスの固定位置がウエスト弾性部材と吸収体との間に又は該吸収体の上に形成されているもの以外の形態のものの記載がないことをもって,上記認定を左右することはできない。 また,引用例2(甲5)の第2のウエストフラップ(8a,8b)がおむつ長手方向端縁よりもおむつ長手方向内側の位置に固定されていると,おむつ長手方向外側において着用者が通気性の悪いバックシート等で被覆されることになり,「ウエストバンド部における通気性の改善」の目的(目的・)が達成されないので,第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置は,おむつ長手方向端縁に限定されるとの原告の上記主張については,前記イ認定のとおり,引用例2においては,通気性を確保するために,バックシート及び第2のウエストフラップを共に通気性材料で形成しており,このように通気性材料のバックシートを採用すれば,第2のウエストフラップ(8a,8b)がおむつ長手方向端縁よりもおむつ長手方向内側の位置に固定したからといって,ウエストバンド部における通気性の改善」の目的が達成されないことにはならないことに照らし,理由がない。 したがって,引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することに阻害要因がある旨の原告の上記主張は採用することができない。 ・ 次に,原告は,引用例2記載の「第2のウエストフラップ(8a,8b)が第1のウエストフラップ(7a,7b)の外縁に沿うように固定されている技術的事項」を,引用例1記載の「腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)を備えた使い捨ておむつ」に適用しようとすると,「第2のウエストフラップ(8a,8b)」は,「腰周り弾性部材(5)」と平面視で重なる位置に固定されることになり,このような構成では,装着者はウエスト部の装着感に違和感を感じやすいため,本件発明1のように,ウエスト弾性部材をウエスト開口部に隣接して,ウエスト開口部に配置させることは困難であること,第2のウエストフラップ(8a,8b)の基端(第1のウエストフラップ(7a,7b)から延出が始まる端部)である外縁(13a)も,引用例1の腰周り弾性部材(5)の弾性収縮力により収縮することになるため,第2のウエストフラップ(8a,8b)が起立し難く,その起立高さを確保することが困難となり,ウエスト部の防漏性を確保し難い構造となることなどを挙げて,引用発明1に引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップを適用することは,当業者であっても容易に思いつくことではない旨主張(主張・)する。 しかしながら,引用例2(甲5)の第2のウエストフラップ(8a,8b)の固定位置がおむつ長手方向端縁に限定されないことは先に説示したとおりである。 また,仮に上記固定位置をおむつ長手方向端縁として引用発明1に適用したとしても,第2のウエストフラップ(8a,8b)の素材は多孔性プラスチックフィルム,撥水処理した高い通気性を有する不織布であて(前記Aア・),薄手のものと認められることや,「第2のウエストフラップ8a,8bの内縁10は,該第2のウエストフラップの伏倒状態において,コア3の各縦方向端14と各第1のウエストフラップ7a,7bとの段差面の隅部16の近傍に臨んでいることが好ましい」とされており(同・),弾性部材を備えた内縁10は,ポケットの起立を図るため,コア3の各縦方向端14の近傍まで延長され,ウエスト部弾性部材の位置する腰回りよりも下方に延出するものであるから,引用例1に引用例2を適用しても第2のウエストフラップ8a,8bの弾性部材とウエスト部弾性部材が平面視で重なることもないものと認められることに照らすと,装着時にウエスト部の装着感に違和感が生じるものとは認め難い。 このように第2のウエストフラップの内縁10をウエスト部弾性部材の位置する腰回りよりも下方に延出させた場合には,第2のウエストフラップの外縁13aが収縮したとしても,この部分の収縮は腰部によって制限されることになり,第1のウエストストラップが腰部に当接した状態における,第2のウエストストラップの基端と自由端(内縁10)の位置関係は,第1のウエストストラップに弾性部材を有するか否かによって実質的に変わるところがないといえるから,第2のウエストフラップを,弾性部材を有する第1のウエストストラップに適用したとしても,第2のウエストストラップが起立し難くなるものとは考えられない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ・ さらに,原告は,引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a,8b)は,平面視で吸収性コア(3)(=吸収体)と重ならない位置に設けられることを前提とした技術であるから,第2のウエストフラップ(8a,8b)の基端である外縁(13a)を,引用例1記載の使い捨ておむつにおける腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)の下方に固定することにより,第2のウエストフラップ(8a,8b)を平面視で吸収性コア(3)と重なる位置に位置させることは,当業者であっても容易に想到し得ることではない旨主張(主張・)する。 しかしながら,本件特許の請求項1は,「上記ウエスト開口部内側において,弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」と記載されているだけであって,立体カフスと吸収体とが平面視で重なることは本件発明1の構成要件とされていないのであるから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして採用することができない。 ・ したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(相違点ウに関する判断の誤り)についてA原告は,本件発明1のサイド弾性部材は,パンツ型の使い捨ておむつにおける幅方向に周状に連続したサイドフラップに設けられたものであるのに対し,引用例3記載の腹部サポートバンド65は,テープ型の使い捨ておむつにおける腹側部の幅方向中央部に(腹側部の両側縁部から離間して)設けられたものあること,本件発明1のサイド弾性部材によれば,幅方向に周状に連続した,吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を着用者側に向けて締め付けることができるため,高い防漏効果及び高いずれ防止効果が奏されるのに対し,引用例3においては,ファスナー82を止着して装着形態を形成するため,腹部サポートバンド65により,実質的に吸収体のみを着用者側に向けて締め付けることになるので,十分な防漏効果及び十分なずれ防止効果が奏されるものではないことなどを挙げて,引用発明1に引用例3記載の技術的事項を適用して,相違点ウに係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとの決定の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,本件発明1の請求項1には,「上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する,上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されており,」と記載されており,この記載からすると,サイド弾性部材は,サイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するものであって,幅方向に周状に連続した,吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を着用者側に向けて締め付けるようにしたものではないと認められるから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして採用することができない。 ・ そして,引用例3(甲6)に,「吸収性インサートの長手方向両端縁から幅方向外方に延出する前部及び後部の左右一対のサイドフラップの中央部にギャザーを形成するエラストマー材料からなる腹部サポートバンド65を設けた使い捨てオムツ」の発明(決定8頁29行〜31行認定の引用発明3)が記載されていることは,原告も自認するところであり,引用発明3は,本件発明1(請求項1)の「上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する,上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置」の構成要件を示唆するものであることが認められる。 また,引用例3には,「バンド65は,前部ウエストパネルのみに,同様に後部パネル30に,あるいは前部及び後部のみの部分に位置することができる。」(甲6の2,1頁18〜19行)と記載されており,「バンド65」は,腹側部の幅方向中央部にのみ設けられるのではなく,腹側部及び背側部の幅方向中央部に設けられるものであることは明らかである。 そうすると,引用発明1に引用例3記載の「使い捨てオムツにおいて,吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する腹側部及び背側部の左右一対のサイドフラップの長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材を配置するという技術的事項」を適用して相違点ウに係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとの決定の判断に誤りはないというべきである。 したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。 4 取消事由3(顕著な効果の看過)についてA原告は,本件発明1は,ウエスト開口部の全周に亘ってウエスト弾性部材が設けられたパンツ型の使い捨ておむつにおいて,弾性伸縮性の立体カフスをウエスト開口部におけるウエスト弾性部材の下方から延出するように設ける(相違点イに係る構成)とともに,サイドフラップにサイド弾性部材を設けた(相違点ウに係る構成)もので,@「ウェスト開口部の全周に亘って設けられたウエスト弾性部材」,A「ウェスト開口部におけるウエスト弾性部材の下方から延出するように設けられた弾性伸縮性の立体カフス」,B「サイドフラップに設けられたサイド弾性部材」の3構成要素の相乗効果により,装着状態が安定しているときにはウエスト弾性部材の収縮によりウエスト部を締め付け,サイド弾性部材の収縮により吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を締め付けることができ,安定した防漏効果が奏されるとともに,着用者が暴れた場合のように装着状態が突発的に乱れたときには,追従性の高いウエスト部の立体カフスによりウェスト開口部からの漏れ防止効果が奏されるものであり,上記@ないしBの3構成要素が併せて具備されることにより,安定した装着状態のときにも装着状態が突発的に乱れたときにも,優れた漏れ防止効果を奏するという相乗効果を奏するものであるが,この相乗効果については,引用例1ないし3のいずれにも何らの記載も示唆もないから,本件発明1の上記3構成要素と上記相乗効果との関係について考慮せず,上記相乗効果を看過した決定の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,原告主張の相乗効果とは,「装着状態が安定しているときにはウエスト弾性部材の収縮によりウエスト部を締め付け,サイド弾性部材の収縮により吸収体及びサイドフラップを含む本体全体を締め付けることができ,安定した防漏効果が奏されると共に,着用者が暴れた場合のように装着状態が突発的に乱れたときには,追従性の高いウエスト部の立体カフスによりウエスト開口部からの漏れ防止効果が奏される」というものであり,仮に上記3構成要素により上記作用効果が奏されるとしても,上記作用効果は,上記3構成要素のそれぞれによって奏される作用効果を単に合わせたものにすぎないから,格別の相乗効果が奏されるものとまで認めることはできない。 ・ また,上記3構成要素のそれぞれが,その構成において従来技術(引用例1ないし3)のものと異ならないことは,先に説示したとおりであり,本件発明1の作用効果は,これらの構成要素のそれぞれによって奏されるものから十分に予測できるものというべきである。 ・ そうすると,決定が,本件発明1により奏される相乗効果を看過しているとはいえないから,原告主張の取消事由3は理由がない。 5 取消事由4(本件発明3ないし7の容易想到性の判断の誤り)について本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとした決定に原告主張の誤りがないことは,先に説示したとおりであるから,本件発明3ないし7の容易想到性の判断の誤りに関する原告主張の取消事由4も,その前提を欠くものとして,理由がない。 6結論以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 長谷川浩二 |